商標異議申立
2023-900130
クラブモエ、クラブ、モエ、モエット、エムイイテイ
- 審判番号
- 2023-900130
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 商願2021-079930
- 登録番号
- 6687666
- 請求日
- 2023年05月31日
- 審決日
- 2024年02月29日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】向井 隆広
- 【権利者代理人】本田 史樹
- 【異議申立人】エムアッシュセーエス
- 【異議申立人代理人】田中 克郎
- 【異議申立人代理人】稲葉 良幸
- 【異議申立人代理人】中村 勝彦
- 【異議申立人代理人】佐藤 俊司
- 【異議申立人代理人】尼口 寛美
- 【異議申立人代理人】池田 万美
- 【異議申立人代理人】笹川 大智
- 審判長/審判官
- 審判長 大橋 良成
- 審判官 小林 裕子
- 審判官 阿曾 裕樹
- 分類
- T1651.271-Z (W43) / T1651.222-Z (W43)
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- 商標法4条1項15号商標法4条1項19号商標法43条の3第2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第4条第1項第15号、商標法第4条第1項第19号、商標法第4条
- データ出所
- 審決公報(XML)
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登録第6687666号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。
結論
結 論
登録第6687666号商標の商標登録を取り消す。
理由
理 由
第1 本件商標
本件登録第6687666号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1に示すとおりの構成よりなり、令和3年6月27日に登録出願、同5年3月16日に登録審決され、第43類「飲食物の提供」を指定役務として、同年4月7日に設定登録されたものである。
第2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が登録異議の申立ての理由において引用する商標は、別掲2に掲げる引用商標1から引用商標12であり、その要部である「MOET」(「E」にはトレマがある。)、「MOET」及び「モエ」の文字からなる商標(以下これらを「申立人商標」という場合がある。)が、申立人の業務に係る高級シャンパンの略称として広く知られていると主張されている。
第3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は、商標法第4条第1項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであると申立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証から甲第18号証(枝番号を含む。以下「甲○」と表記する。)を提出した。
1 本件商標
本件商標は、上段に「CLUB」の欧文字を横書きで小さく表し、その下段に左から「M」の欧文字、薔薇と思しき図形(以下「本件図形部分」という。)及び「ET」の欧文字を横に並べて顕著に表した構成からなる。
本件図形部分は、その前後に、欧文字の大文字「M」、「ET」が配されていること、本件図形部分が欧文字の大文字「O」の字形の特徴を備えていることからすると、本件図形部分は欧文字の大文字「O」を図案化して表したものと容易に理解される。そうすると、本件商標の下段部分は、「MOET」の文字を一部図案化して表したものと容易に理解される。
この点については、別件の令和元年(ワ)第2259号不正競争行為差止請求事件における令和4年2月17日付判決において、本件図形部分と同一又は類似する薔薇と思しき図形を有した被告標章につき、裁判所は「「MOET」のうち「O」の部分をバラのような花の図形に置き換えたものである」とし、「花のような図形についても、その左右が概ね同じ大きさによるアルファベット(「M」及び「E」)であることからすれば、アルファベットの「O」を意味するものとして認識することは十分に可能であると解される」と判断している(甲16)ことからも妥当なものと思料する。
次に、本件商標の上段の「CLUB」部分は、日本語を母国語とする日本国においても広く知られた英語であり、当該「CLUB」の片仮名表記である「クラブ」は、広辞苑第6版(甲11の1)によると、日本国では「(会員制の)バー・娯楽場」といった意味合いを有するものとされているから、本件商標の第43類の指定役務との関係において、本件商標を構成する「CLUB」は役務の提供場所等を表す形容詞的文字にあたり、自他役務識別標識として機能を有さない部分といえる。
この点については、申立人により2018年に異議を申立てた第43類「飲食物の提供」で登録された別件商標「CLUB MOET KYOTO」(登録第6030384号、異議2018-900152)に対する異議決定において、既に審判官合議体により、「構成中の「CLUB」の文字は、その指定役務「飲食物の提供」との関係からして、「バー・娯楽場」(広辞苑第六版)を表したものとして、「KYOTO」の文字は、「京都」を表したものとして、容易に理解されるものといえ、いずれの文字も、自他役務識別標識として機能を有さないか、極めて弱いものというのが相当である」と認定されている(甲17)。
したがって、本件商標は、上段の「CLUB」部分はその指定役務との関係において自他役務識別力を有さず、さらに「CLUB」が極めて一般的な語として把握されているのに対して、下段の「MOET」部分は、下記に詳述するとおり、申立人の高級シャンパンを表す周知著名な商標であるから、本件商標の要部は下段の「MOET」部分となり、「モエ」の称呼が生じるとともに、観念上、「MOET」の部分から申立人及びそのグループ会社の業務に係るシャンパンとしての観念が明確に生じる。
2 引用商標
引用商標の要部たる申立人使用商標は、後述するとおり、申立人が製造販売する世界的に著名な高級シャンパンの略称として広く知られている。
3 商標法第4条第1項第15号該当性
(1)引用商標の周知著名性
ア 「MOET&CHANDON」(「E」にはトレマがある。以下同じ。)の歴史及びその周知著名性
申立人は、LVMH(モエへネシー・ルイヴィトン)グループのシャンパーニュ事業会社として、2009年9月に、CHAMPAGNE MOET&CHANDON(シャンパーニュ モエ エ シャンドン)、VEUVE CLICQUOT PONSARDIN(ヴーヴクリコ ポンサルダン)等を合併して設立された会社であり、引用商標の商標権者である。
申立人の一員であるMOET&CHANDONは、1743年にクロード・モエによってシャンパーニュ地方に創業されたMOET(「E」にはトレマがある。以下省略する場合がある。)社が始まりであり、創業者の孫のジャン・レミー・モエによって事業が拡大され、現在のMOET&CHANDON(モエ・エ・シャンドン)社が誕生したのは、1833年にジャン・レミー・モエが、娘婿のピエール・ガブリエル・シャンドンと息子のヴィクトール・モエに家督を譲ったことによる。そして、現在は、LVMHグループの中核をなすシャンパーニュ最大のメゾンとなっている(甲6の19~25)。
1743年に創業後、MOET&CHANDONの前身であるMOET社の創業者であるクロード・モエは、シャンパンをごく少数の人々にのみ親しまれるワインから、ヨーロッパの政治家、宮廷人のお気に入りへ昇華させることに尽力した。彼の尽力により、MOETの名は瞬く間に広まり、1748年にはフランス王室の公式シャンパンに認定され、当時のフランス王ルイ15世の舌をも虜にし、ルイ15世の愛妾だったポンパドゥール夫人も、MOETをこよなく愛した一人となった。MOETがフランス王室御用達となって間もなく、ドイツ、スペイン、ロシアの王室でも人気を博し、華やかな社交界にふさわしいシャンパンという評価を得ていった。このMOETをセレブレーションのシンボルにするというクロード・モエの志は、孫のジャン・レミー・モエに引き継がれ、時のロシア皇帝をして「ジャン・レミー・モエが部屋に入った途端、退屈な空気が吹き飛んでしまう」とまで言わしめた。このようなジャン・レミー・モエの「シャンパンの魔法を世界中へ」という信念は、今もなおメゾンに引き継がれている。例えば、2005年末から「Be Fabulous」という世界統一キャンペーンを行っているが、「さあ、あなたもモエ・エ・シャンドンと一緒に、素晴らしい時をさらに素晴らしくしませんか?」と誘うものであり、当該キャンペーンは世界中で大成功を収めている(甲5の1)。
1800年代に入ると、ジャン・レミー・モエから娘婿と息子に家督が譲られたことにより、MOET&CHANDONの誕生となったが、引き続きナポレオンI世やビクトリア女王など、その時代に最も影響力を持つ人々からMOET&CHANDONは愛され続け、祝杯に欠かせないシャンパンとなっていた。例えば、1869年MOET家と旧知の仲だったナポレオンI世は、ジャン・レミー・モエのもとを幾度となく訪れ、シャンパンで戦勝を祝うほどの熱心な愛好家であり、その親交の証として、誕生以来人気を博していたメゾンの旗艦シャンパンに、「アンペリアル=皇帝」の名がつけられた。さらに、19世紀末までには、MOET&CHANDONの輸出は世界中に広まり、1903年には日本にも初上陸を果たした。加えて、MOET&CHANDONは、社交界のみならず、世界トップレベルのスポーツシーンでも輝きを放つようになり、MOET&CHANDONはF1でも栄光の舞台に欠かせないシャンパンになった。プロスト、セナ、シューマッハがゴールを駆け抜けるたびに、表彰台ではMOET&CHANDONのコルクが勢い良く抜かれた。このスポーツの表彰式や祝勝会でおなじみのよく振ったシャンパンボトルから吹き出す泡で勝利を祝うセレモニーの起源は、1960年代半ばに、ル・マン24時間耐久レースの表彰式で、優勝者がMOET&CHANDONを観衆に浴びせたのがきっかけである。他にもウェディングの風景で巧みに積み重ねたシャンパングラスのピラミッドの頂点のグラスからシャンパンを一気に注ぎ込むシャンパンタワーもMOET&CHANDONが始めたのがはじまりである。このような祝いの場面に欠かせない存在となったMOET&CHANDONは、「チャンピオンのシャンパン」として揺るぎない地位を確立し現在に至っている(甲4)。
申立人の商品のこのような人気の高さは、販売数にも表れており、世界で最も信頼されているアルコール飲料の情報提供会社であるIWSRの調査結果によれば、シャンパンのカテゴリー部門において、第1位の売り上げを誇っている(甲4)。このIWSRは、40年以上にわたり、ワイン、スピリッツ、ビールなどのアルコール飲料市場に特化した情報とサービスを全世界の飲料メーカーに提供をしている(甲5の2)。
1903年に日本に初上陸を果たしたMOET&CHANDONであるが、日本においては、MHDモエヘネシーディアジオ株式会社が輸入販売しており(甲4)、MOET&CHANDONは最高級クラスのシャンパンとして大変な人気商品となっている。例えば、MOET&CHANDONは、毎年のように「世界名酒辞典」(甲6の1~25)に掲載され、人気ランキングにおいて、発砲系・シャンパン分野において第1位を獲得し(甲7の1)、数々のシャンパン関係のウェブサイトにおいて、「世界で最も愛されているシャンパーニュ」、「世界150か国に輸出されるベストセラー・シャンパーニュとして君臨」、「常に“シャンパンの盟主”であり続けてきた最高級メゾン」、「業界で世界シェアNo.1を誇るシャンパンのトップ・ブランド」、「プレゼント用シャンパンの王道」、「1秒に1本、世界中のどこかでボトル開けられているシャンパーニュ」、「世界でいちばん飲まれているシャンパーニュ」として紹介されている(甲7の2~7)。
イ 申立人使用商標の周知著名性について
「MOET&CHANDON」の商品は、しばしば「MOET」(「E」にはトレマがある。)あるいは「MOET」(フランス語文法上「E」の上部のトレマは大文字で使用される場合しばしば省略される)と称され、フランス語の読みで「モエ」と称呼されている。「世界酒大辞典」においても、「モエ Moet シャンパンの商標・・・正式には、モエ・エ・シャンドン(Moet et Chandon)という、わが国にも古くから輸入されている」(甲8の1)と記載されている。
実際、申立人の商品には、そのネックラベルに、「MOET」(「E」にはトレマがある。)が顕著な大きさで目立つ態様で表示されており(甲4)、申立人は、「MOET NEWS」としてMOET&CHANDONに関するニュースをホームページにおいて紹介し(甲4)、「MOET」を冠したイベントを長年続けている。例えば、近年においては、2016年6月に「MOET PARTY DAY TOKYO」というパーティが26か国で行われ、日本では六本木を中心に、パリの老舗カフェ「カフェ・ド・フロール」のギャルソンがサービスを行うディナー等が開催された。この告知のために、人々が多く集まる六本木・表参道・原宿・渋谷・新宿エリアを「MOET」の文字が大きく付された「MOET BUS」が走行した(甲8の2)。同年11月に、「お家deモエ ディナーキャンペーン」というMOET&CHANDONのシャンパンと本格的料理を自宅で楽しめるという企画を行った(甲8の3)。同年11月には、クリスマスまでのカウントダウンを楽しめるデジタルキャンペーン「MOET ADVENT CALENDAR」がスタートし、スマートフォン上でギフトボックスを毎日一つずつ開けていくことで、クリスマスまでのカウントダウンの高揚感を味わうことができるイベントとなっており、同時期に東京の丸の内で開催された「MOET CHRISTMAS MARCHE」で使用できるチケットなどのプレゼントもされた(甲8の4)。この「MOET CHRISTMAS MARCHE」では、MOET&CHANDONのシャンパンを味わえる「MOET CHRISTMAS KITCHEN」やゴールドの花火のプロジェクトマッピンク「MOET CHRISTMAS HANABI」のコンテンツも開催された(甲8の5)。同時期には、大阪でも「MOET CHRISTMAS MOMENT」が開催され、MOET&CHANDONのシャンパン用の特製のグラスやボトルが販売された(甲8の6)。2017年には、2月にさっぽろ雪まつりにて「MOET ICE LOUNGE」という、北海道を中心にカフェレストランを全国展開するYOSHIMIの料理とMOET&CHANDONのシャンパンが楽しめるラウンジをオープンした(甲8の7)。同年5月には、MOET&CHANDONがオフィシャルシャンパンを務める体感型エンターテインメントのフエルサ ブルータ最新作「WA!」において、特別席には「MINI MOET」が提供された(甲8の8)。同じく5月に、東京の三越銀座において開催されたGINZAスパークリングスタイル会場内において、「MOET SUMMER LOUNGE」がオープンし、MOET&CHANDONのシャンパンが楽しめた(甲8の9)。同年6月には、表参道にて「MOET PARTY DAY 2017」が開催され(甲8の10)、同年11月には、東京ミッドタウンにおいて、オリジナルクリスマスツリーが登場し、その装飾には「MOET」の文字が大きく記載されていた(甲8の11)。2018年2月には、2017年に引き続き、札幌で開催のさっぽろ雪まつりで「MOET ICE LOUNGE 2018」がオープンし、MOET&CHANDONのシャンパンと北海道の食材を使用した料理を堪能できる空間となった(甲8の12)。同年6月には、2016年から行われている「MOET GRAND DAY TOKYO 2018」が東京渋谷のホテルで行われ、5千人以上の来場者にMOET&CHANDON一色に包まれたきらびやかな一日を楽しめる演出がなされた。これは世界80か国以上で同日開催された(甲8の13)。2022年8月には「Hotel Rich & Garden Sakata」とのタイアップにより「MOET PARTY 2022 with Special Performance」と銘打ったイベントが開催され(甲8の14)、好評により2023年8月にも「MOET PARTY」が行われることになっており、既に予約は完売した(甲8の15)。別のホテルである「6th by ORIENTAL HOTEL」でも、6日・16日・26日を「”Moet”day」として申立人のシャンパンを提供している(甲8の16)。
このように申立人は自ら長年「MOET」(「E」にはトレマがある。)をMOET&CHANDONの略称として使用してきており、その努力の結果、MOET&CHANDONの略称としての申立人使用商標もまた、申立人の製造販売するシャンパンを意味するものとして、需要者・取引者らの間で広く知られるに至っているものであり、このことは、例えば、申立人がインターネットのYAHOOの検索ページにおいて「MOET」と「シャンパン」をキーワードに検索すると多数のウェプサイトがヒットし、その中のほんの一例だが、「シャンパンはモエ!ギフト・プレゼントに選ばれるMOET」、「モエとお花のギフト」、「金モエ!?光り輝くシャンパン“ゴールデンスパークル”登場」、「夏限定・氷を浮かべたシャンパン〈モエ アイス〉を楽しむ」、「モエといえばシャンパンの代名詞!」、「“シャンパンと言えば”と名前が挙がる、伝統あるモエ社の銘柄」(甲7の6、甲9の1~5)等と需要者、取引者により紹介されている事実に鑑みても明らかである。すなわち申立人使用商標は、申立人が製造販売する高級シャンパンの「MOET&CHANDON」ブランドを表わす略称として需要者・取引者により積極的に使用されているというべきであり、そのことによっても、需要者・取引者間において申立人使用商標はMOET&CHANDONを意味するものとして広く一般に認識されていたというべきである。
以上より、高級シャンパンの「MOET&CHANDON」は、申立人の長年の使用により広く知られるに至っているが、それに伴い、その略称としての申立人使用商標もまた、申立人の製造販売するシャンパンを意味するものとして、取引者・需要者において本件商標の出願日前より申立人の出所表示として広く認識されていたというべきであり、現在もなお出所表示機能を有するものである。
このことは、「第33類:洋酒、果実酒」を指定商品とする別件商標の欧文字「Moyet」(登録第404518号)に対する申立人による無効審判の審決取消訴訟事件の判決(平成14年(行ケ)第504号)からも明らかである(甲10)。
したがって、少なくとも本件商標の登録出願前より、MOET&CHANDONの略称として申立人使用商標は、申立人の製造・販売に係る「シャンパン」を表すものとして広く知られている商標である。
ウ 小括
以上のとおり、古くから申立人が製造販売してきた高級シャンパンは、「MOET」(「E」にはトレマがある。)、「MOET」又は「モエ」と略称され、日本国を含む世界中で愛飲されている。このように、MOET(「E」にはトレマがある。)を指標する引用商標は、本件商標の登録出願時及び審決時において、世界的に広く知られた周知著名商標であった。
(2)本件商標と引用商標の類似性の程度
本件商標は、上段の小さく表記された「CLUB」部分は、日本語を母国語とする日本国においても広く知られた英語であり、当該「CLUB」の片仮名表記である「クラブ」は、広辞苑第6版(甲11の1)によると、日本国では「(会員制の)バー・娯楽場」といった意味合いを有するものとされているから、本件商標の第43類の指定役務との関係において、本件商標を構成する「CLUB」は役務の提供場所等を表す形容詞的文字にあたり、識別力を有さない部分といえる。また、「CLUB」が極めて一般的な語として把握されているのに対して、下段の「MOET」(「O」部分が薔薇と思しき図形であるが、「MOET」の文字を一部図案化して表したものと容易に理解される。)は、既述のとおり、高級シャンパンMOET&CHANDONの略称として、「MOET」とともに周知著名な商標であるから、本件商標は、観念上、「MOET」の部分から申立人及びそのグループ会社の業務に係るシャンパンとしての観念が明確に生じる。
したがって、本件商標は、「MOET」の部分を要部とする商標として、引用商標との類似性は極めて高い。
なお、「MOET」部分がトレマの記載がない点については、上述のとおり、フランス語の文法上、大文字で使用される場合にはしばしば省略されるものであり、これを単に省略したものにすぎず、一般消費者によるウェブサイトにおいて「MOET」(「E」にはトレマがある。)と「MOET」とが特に区別されることなく用いられていることからも、需要者においてトレマの有無で異なるものとして認識していない。さらに申立人による別件商標「CLUB MOET KYOTO」(登録第6030384号、異議2018-900152)に対する異議決定の判断もある(甲17)。
(3)引用商標の独創性の程度
引用商標の独創性の程度について、引用商標を構成する「MOET」(「E」にはトレマがある。)及び「モエ」は、既述のとおり、申立人の創業者「クロード・モエ」の姓に由来するものであり、これがアルコール飲料の品質を表示するものでないから、造語の一種であることは明らかである。また、当該「MOET」の姓は我が国においで慣用的に用いられたり馴染みのある用語ではなく、本来の意味で認知されておらず、その識別力は極めて高い表示である。
したがって、引用商標の独創性は、相当程度高い。
(4)本件商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との関連性の程度、取引者・需要者の共通性等
引用商標が周知著名性を獲得した商品は、シャンパンであるのに対し、本件商標の第43類の指定役務は、「飲食物の提供」である。シャンパン等のアルコール飲料は、「飲食物の提供」それ自体とは、一般には、商品及び役務として互いに類似しないものとされているが、アルコール飲料は、多くのレストランやナイトクラブ・カクテルラウンジ、バーなどにおいて普通に提供されており、こうした店舗において、飲食業者(取引者)や利用客(需要者)が、アルコール飲料に多く接する機会があることは顕著な事実である。実際、「MOET&CHANDON(モエ・エ・シャンドン)」は、日本全国の多数のレストランやクラブやバーなどで取り扱われている(甲11の2、3)。
さらに、申立人自身においても、2014年、「MOET&CHANDON」は、シャンパンの製造販売のみに限らず、Grand Vintge(グラン ヴィンテージ)2006のリリースとともに、かつてナポレオンをももてなしたオランジェリーにて、その華やかなスタイルを体現した、まったく新しいコンセプトの期間限定の体験型レストラン「LE&(ル・アンド)」を発表した。「MOET&CHANDON」醸造最高責任者のブノワ・ゴエズと、ミシュランで3年連続3つ星を獲得したフレンチ シェフ、ヤニック・アレノが創り出す、革新的かつ独創的な食体験は、世界中のセレブやゲストの五感を魅了した(甲11の4、5)。
商標を使用する指定役務としての「飲食物の提供」が、アルコール飲料をはじめとする飲食料品一般との関係において、密接な関連性を有するものである点は、審決においても明確に認定されている(甲12の1~3)。
(5)判決及び審決
平成12年7月11日最高裁第三小法廷判決(甲3の1)以降、他人の周知著名な商標を一部に含む商標について、当該他人の業務に係る商品等と混同を生じるおそれがあるとして、登録拒絶又は登録無効若しくは取消しの判断をした判決や審決は多数存在する(甲13の1~18)。
(6)小括
以上のとおり、申立人使用商標が申立人の業務に係る高級シャンパン「MOET&CHANDON」を表すものとして周知著名な商標になっていること、本件商標は、申立人使用商標とは「MOET」(モエ)の部分を要部とする商標として高い類似性を有すること、申立人使用商標が独創性の高い商標であること、本件商標の指定役務が、引用商標が周知著名性を獲得したシャンパンとの関連性が高いものであり、需要者の範囲も一致するものであること、過去の裁判例や審決にみられる判断等を総合して考慮すると、本件商標をその指定役務に使用するときは、これに接する取引者・需要者は、申立人のグループ会社の業務に係る高級シャンパン「MOET&CHANDON」を想起・連想し、あたかも申立人又はグループ会社が取り扱う業務に係る役務であるかの如く認識して取引にあたると考えられるため、その役務の出所について混同を生ずるおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
2 商標法第4条第1項第19号該当性について
(1)申立人の「不正の目的」
商標法第4条第1項第19号に定める「不正の目的」については、「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説 第20版」(甲14)によると、「ここで「不正競争の目的」とせず、「不正の目的」としたのは、取引上の競争関係を有しない者による出願であっても、信義則に反するような不正の目的による出願については商標登録すべきではないからである」とされている。すなわち、同項同号にいう「不正の目的」とは、競争関係とは無関係に、公正な取引秩序に違反するような目的をいい、必ずしも取引を巡る対立構造を前提とするものではない。
この点、本件商標の指定役務は、第43類「飲食物の提供」であるところ、これらの役務が(高級)シャンパンとの関連性が強い役務であることは、既述したとおりであり、かつ、顕著な事実である。
また、申立人の創業者の名前に由来する「MOET」(モエ)が、日本国において一般的な語として理解されているものでなく、むしろ、特定の観念を生じない造語として把握されることからすれば、上記指定役務について使用するものとして本件商標を登録出願した商標権者が、「MOET」と理解される語を含む本件商標を、申立人の業務に係る「MOET&CHANDON」と無関係に偶然採用したとは到底考えられない。むしろ、その周知著名性に便乗する意思をもって採択したであろうことは、被申立人が本件商標を出願・登録に至るまでの経過を見れば、明らかである。
すなわち、申立人は、R社に対して、2019年(令和元年)7月18日付で、「MOET」(「E」にはトレマがある。)、「MOET」又は「モエ」を含む使用する商標及びドメイン名の使用に対する差止請求訴訟(以下「別件差止訴訟」という。)を京都地方裁判所に提起した。その後、申立人は、別件差止訴訟の係属中に、本件商標が、R社が運営する飲食店店舗及び、仙台店において使用されていることが判明したため、2021年(令和3年)10月29日付けで、別件差止訴訟における差止請求の対象として追加した。
本件商標は、別件差止訴訟の係属中に、別件差止訴訟の当事者であるR社とは別の第三者を出願人として登録出願されたものである。申立人とR社との関係は、商業登記簿等からは明らかではないが、被申立人の住所は、別件差止訴訟におけるR社の運営する飲食店店舗の京都店(以下「京都店」という。)と同一である。また、被申立人が提出した「早期審査に関する事情説明書」(甲18)によれば、「本件商標の使用場所」は京都店と同一である。さらに、当該説明書では、「出願に係る商標の使用書類」として「出願に係る商標の使用を示す資料として(中略)、出願人の店舗のHPの画像及び営業許可書を提出する」としており、かかるHPの店舗は京都店である。これらの事実からすれば、被申立人はR社と同一又は実質的に同視できる者であることは明らかであり、本件商標は、別件差止訴訟の係属中に、京都店で使用する意図で、申立人に秘密裡に登録出願された商標といえる。
その後別件差止訴訟は、2022年(令和4年)2月16日付け判決において、本件商標を含む申立てに係る商標及びドメイン名の使用差止請求が認容され、判決は確定した(甲16)。したがって、R社が、その飲食店店舗において本件商標を使用する行為が不正競争防止法違反に該当することは、確定した司法判断である。
被申立人は、判決確定後の2022年(令和4年)4月19日に拒絶査定に対する審判請求書を提出し、本件商標は登録されるに至っている。しかしながら、上述のように、京都店において本件商標を使用する行為が申立人に対する不正競争防止法違反行為であることは確定判決により認められており、かつ、被申立人がR社と同一又は実質的に同視される人物であることからすれば、被申立人は、京都店で本件商標が使用されることは不正競争防止法違反であることを認識しつつ、京都店で使用することを意図して出願するものであって、公正な取引秩序に違反する目的である。
したがって、本件商標は、被申立人の不正の目的によって登録出願されたものである。本件商標の商標登録が認められることは、別件差止訴訟の確定判決を不当に回避・潜脱するものといえ、断じて許容されてはならない。
(2)審決
他人の業務に係る商品を表示するものとして、需要者の間に広く認識されていた商標と同一又は類似性の高い商標を、当該広く知られていることを十分に知りながら出願し登録を受けた商標は、自己の利益を得るために出願した商標は不正の目的に基づくものであると多くの審決が認定している(甲15の1~9)。
審決(異議決定)のうち、平成25年4月9日異議決定(異議2012-900129、甲15の5)は、理由中において、「(発泡性)ワイン」が「食料品」及び「飲食物の提供」と極めて関連性が高い商品であることを明確に述べている。これらの審決(異議決定)はあくまでも一例であるが、こうした先例にみられる判断は、本審判事件において、最大限考慮されるべきである。
(3)小括
以上のとおり、申立人使用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る高級シャンパン「MOET&CHANDON」として世界的に周知著名な商標となっており、本件商標は、申立人使用商標に類似するものであって、申立人が、「MOET」(「E」にはトレマがある。)の周知著名性に便乗し、「MOET」の文字を含む本件商標の独占排他的使用を得ようとする不正の目的に基づいて出願し登録されたものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
第4 当審による取消理由通知
当審において、本件商標権者に対し、本件商標は商標法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものであるから、同法第43条の3第2項の規定に基づいて、その登録を取り消すべき旨の取消理由を、令和5年12月14日付けの取消理由通知書で通知し、相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えた。
第5 上記通知に対する本件商標権者の意見
1 本件商標と申立人商標の類似性について
(1)申立人商標の一部である「MOET」(「トレマ」がついていない)について
「トレマ」とは、「フランス語などで母音が連続したときに青との母音を独立して発音することを示す記号」である(デジタル大辞泉)。
したがって、「MOET」であれば、「OE」は合字になり、カタカナ発音であれば「OE」は、「エ」や「ウ」に近い発音になる(乙1)。
この場合、「MOET」は「メ」や「ム」に近い発音となる。
つまり、「モエ」と発音するためにはトレマが必須になる。
したがって、申立人が、トレマが記載されていない「MOET」を使用することは、発音が変わってしまうため、あり得ない。
申立人が提出した証拠においても、第三者の記載では、トレマの記載のない「MOET」と表示されているものはあるが、申立人自身は、トレマの記載のない「MOET」を使用していない。
異議申立書においても、具体的に「MOET」が著名な略称であることの立証はしていない。
また、検索サイトで「MOET」というキーワードで検索した結果、「モエ・エ・シャンドン」の表示は多数表示されるが、「MOET」だけが使用されているWebサイトは、ほとんど発見できず、少なくとも検索上位には挙がっていなかった(乙2)。
したがって、トレマが記載されている「MOET」は需要者・取引者の間で広く一般に認識されている略称といえる場合があるとしても、トレマの記載のない「MOET」は需要者・取引者の間で広く一般に認識されている略称とはいえない。
したがって、本件商標と比較する申立人商標は、申立人商標の略称と比較する場合、トレマが付いている申立人商標の一部と比較すべきである。
(2)本件商標と申立人商標の一部(MOET)とが類似するか否かについて
本件商標と申立人商標1「MOET」(「E」の上部にトレマが付されている。)とは、下記の点で相違する。
ア 本件商標には「CLUB」と表示されているのに対し、申立人商標1には表示されていない。
イ 本件商標は薔薇の図形であるのに対し、申立人商標1は「O」の文字である。
これにより、本件商標は「モエ」という称呼が生じず、申立人商標1とは称呼が相違し、また、外観上も明らかに申立人商標1とは相違する。
ウ 本件商標は「トレマ」が表示されていないのに対し、申立人商標1はEの文字の上に「トレマ」が表示されている。
エ 本件商標は、薔薇の図形が表示されていることにより、薔薇の観念が生じるのに対し、申立人商標1はその文字から特定の観念が生じないか、又はシャンパンの観念が生じる。
したがって、本件商標と申立人商標1とは、外観、称呼、観念が明らかに相違する非類似の関係にあるものであり、また、申立人商標1は、シャンパンの名称であるため、「CLUB」と表示されることはなく、本件商標と申立人商標1とが出所混同生じることはない。
そして、上記薔薇の表示は略円状輪郭でもなく(むしろ五角形に近い)、薔薇を「O」と見たり読んだりすることもない。
また、取消理由通知に記載されているように「本件商標をその指定役務に使用するときは、その役務があたかも前記会社の業務に係る役務であるかのように、あるいは前記会社と、組織的、経済的に何らかの関係がある者の業務に係る役務であるかのように、役務の出所について混同を生ずるおそれがある。」ということは、明らかに非類似の本件商標においてはあり得なく、本件商標は、申立人商標と広義の混同も生じることはない。
確かに申立人商標はシャンパンとして著名な商標であるが、明らかに非類似で出所混同が生じるおそれのない本件商標に対して、出所混同が生じるとして取消することは、申立人に係る商標を過剰に保護することになり、妥当ではない。
(3)小括
以上のことから、申立人商標(MOET&CHANDON)の一部である「MOET」(トレマなし)は需要者・取引者の間で広く一般に認識されている略称とはいえないため、本件商標と申立人商標の略称と比較する場合はトレマありの申立人商標1と比較すべきであり、また、本件商標と申立人商標(MOET&CHANDON)の略称である申立人商標1(MOET)と比較した場合であっても、外観上区別できる商標であり、称呼も全くことなり、観念も異なるため非類似の商標である。
2 申立人商標の独創性の程度について
「MOET」は姓であるため、外国人の姓が「造語の一種である」とか、「独創性の程度が高い」というのはない。むしろ、「MOET」が外国人の姓であるならば、造語でもなく、独創性の程度も低い。
3 出所の混同のおそれについて
(1)甲3の1でも示されている平成12年7月11日判決(最高裁 平成10年(行ヒ)第85号)では、「商標法四条一項一五号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品又は指定役務(以下「指定商品等」という。)に使用したときに、当該商品等が他人の商品又は役務(以下「商品等」という。)に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品等が右他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(以下「広義の混同を生ずるおそれ」という。)がある商標を含むものと解するのが相当である。」と記載されている。
商標権者は、いわゆるキャバクラを経営しているが、利用者から「申立人と何等かの関係がある店と間違って入店した」といった苦情は一切ない。
また、申立人も実際に「シャンパンの購入者から苦情があった。」といった主張はしておらず、申立人に対してもそのような苦情はなかったものと思われる。
したがって、事実関係からみても出所混同は生じておらず、また、本件商標を見た需要者や取引者が申立人の系列会社と認識することはあり得ず、いわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る品等であると誤信されるおそれもなく、狭義の混同だけでなく広義の混同も生じていない、又は生じるおそれがないというべきである。
(2)乙3は、平成28年4月12日判決(知財高裁 平成27年(行ケ)第10219号)の無効審決に対する審決取消訴訟事件であり、「フランク三浦」と「フランク ミュラー」及び「FRANCK MULLER」との類似性が争われた事件である。
その記載によれば、本件商標においても、仮に需要者・取引者が申立人の商標を連想した場合であっても、本件商標が、申立人が行っている役務と認識するとはいえない。
(3)乙3に記載のとおり、商標法第4条第1項第15号は、ただ乗りと評価されるような商標の登録を一般的に禁止する根拠となるものではない。
また、本件商標の一部である「M(薔薇の図形)ET」は、「M」と「ET」が申立人の著名な商標(又は略称)に該当するものでないため、「他人の著名な商標と他の文字又は図形等と結合した商標」に該当するものではない。
そして、本件商標と申立人商標を取引の実情を考慮して外観、称呼、観念を総合的に比較しても類似するとはいえず、本件商標と申立人商標は、出所混同が生じず、また生じるおそれもない。
4 まとめ
以上のことから、申立人商標「MOET&CHANDON」の一部である申立人商標1「MOET」は、需要者・取引者の間で広く一般に認識されている略称といえる場合があるとしても、トレマの記載のない「MOET」は、需要者・取引者の間で広く一般に認識されている略称とまではいえず、ましてや「O」に該当する部分のない本件商標と、申立人商標とを外観、称呼、観念を総合的に比較した場合、本件商標と申立人商標及び申立人商標1とは、類似しない。
そして、申立人商標に関して独創性があるとはいえず、また、本件商標と申立人商標とは出所混同が生じることはあり得ない。
したがって、本件商標は、商標法4条1項15号には該当しない。
第6 当審の判断
1 申立人商標の周知性
(1)申立人提出の証拠及び主張によれば、以下の事実が認められる。
ア 申立人は、LVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)グループのシャンパーニュ事業会社であり、その一員であるモエ・エ・シャンドンは、1743年に創立された、フランス国シャンパーニュ地方のメゾンとして、発泡性ワイン(シャンパン)を製造、販売している(甲4)。
イ モエ・エ・シャンドンの発泡性ワイン(以下「申立人商品」という。)には、「MOET&CHANDON」の文字のほか、ボトルネック部近辺や包装箱に顕著に「MOET」(「E」にはトレマがある。)の文字を表示するものがある(甲4、甲7の4)。
ウ 申立人商品は、「世界の名酒辞典」に1990年版から2017年版にかけて継続して掲載されており(甲6の1~25)、モエ・エ・シャンドンを「シャンパーニュ最大のメゾン」と評する記載もある(甲6の25)。
エ 申立人商品は、新聞やインターネット上の記事情報において紹介されている(甲5の1、甲7の2~7)。
それら記事の中には、申立人商品などについて、「世界で最も愛されているシャンパーニュ」(甲7の2)、「生産量、品質ともに卓越したトップメーカーとして知られ、世界150カ国に輸出される、ベストセラー・シャンパーニュとして君臨しています。」(甲7の3)、「私たちにとっても親しみ深く、業界で世界シェアNo.1を誇るシャンパンのトップ・ブランドだ。」(甲7の5)、「シャンパンはモエ!ギフト・プレゼントに選ばれるMOET」(甲7の6)などと記載するものがある。
オ 「世界酒大辞典」(柴田書店)の「モエ Moet」(「e」にはトレマがある。)の項には、「シャンパンの商標。フランスのエペルネーで1743年からつくられており、正式には、モエ・エ・シャンドン(略)という。」の記載がある(甲8の1)。
カ 申立人商品の販売促進のため、「MOET」(「E」にはトレマがある。以下のイベント名も同様。)や「モエ」を名称に含むイベント(飲食物が提供されるものを含む。)、例えば、「MOET PARTY DAY TOKYO」、「おうち de モエ ディナーキャンペーン」、「MOET ADVENT CALENDAR」、「MOET CHRISTMAS MARCHE」、「MOET CHRISTMAS MOMENT」、「MOET ICE LOUNGE」、「MOET SUMMER LOUNGE」、「MOET PARTY DAY 2017」、「MOET ICE LOUNGE」、「MOET GRAND DAY TOKYO 2018」、「MOET PARTY 2022」、「MOET PARTY 2023」、「6th “Moet” day」が開催されている(甲8の2~7、甲8の9~15)。
(2)検討
上記の認定事実によれば、申立人商品であるモエ・エ・シャンドンのワインは、フランス国シャンパーニュ地方のワインの中ではトップブランドであるから、そのブランド名である「MOET&CHANDON」は、我が国の需要者の間において周知、著名であるといえるところ、その語頭の構成文字に相当する略称である「MOET」(「E」にはトレマがある。)の商標も、申立人商品のボトルや包装に顕著に表示されていること、当該略称を名称中に含む販売促進イベントなども開催されていることを踏まえると、本件商標の登録出願時において、我が国のワインに係る需要者の間において、申立人商品やそのブランドを連想させるような略称として、相当程度知られていたといえる。
2 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性
(1)「MOET」の周知著名性及び独創性
申立人の使用する「MOET」(「E」にはトレマがある。)の商標は、上記1のとおり、我が国のワインに係る需要者の間において、申立人商品やそのブランドである「MOET&CHANDON」を連想させるような略称として、相当程度知られていた。
また、「MOET」の文字は、一般的な辞書等に掲載された成語ではなく、「シャンパンの商標」である「Moet」(「e」にはトレマがある。)(甲8の1)に通じ得るものであるから、独創性の程度が高い。
(2)本件商標と引用商標の類似性
本件商標は、別掲1のとおり、上段に「CLUB」の欧文字を小さく、下段に「M」の欧文字、花と思しき図形、「ET」の欧文字を横一列に配置して大きく表してなるところ、下段の構成部分は、前後に欧文字を配置し、図形部分を含めて何らかの欧文字からなる語を表してなるとの印象を与える構成であり、当該図形部分は、おおむね円状輪郭となる外形を有し、「O」の欧文字に代替できるような形状であるから、全体として「MOET」の語を表示してなると理解できる。
そして、本件商標の構成中「CLUB」の文字部分は「(会員制の)バー・娯楽場。」の意味を有する外来語(甲11の1)であり、「MOET」の文字部分は、一般的な辞書等に掲載されている成語ではないが、「シャンパンの商標」である「Moet」(「e」にはトレマがある。)(甲8の1)に通じ得るから、構成全体として「MOET」なるバーや娯楽場の名称を表してなることを連想させる。
そうすると、本件商標は、申立人の使用に係る「MOET」(「E」にはトレマがある。)の商標とは、トレマの有無に差異はあるものの、我が国において申立人商品の略称として相当程度知られ、独創性の程度が高い「MOET」の構成文字を含む(顕著に表示する。)点において共通するから、類似性の程度は高い。
(3)本件商標の指定役務と申立人の使用に係る商品の関連性
本件商標の指定役務である「飲食物の提供」は、客の注文に応じ調理した飲食料品やアルコールを含む飲料をその場で飲食させるサービスであり、レストランやバー、ナイトクラブなどを含む飲食店において提供されるものであり、他方、申立人商品に係る「発泡性ワイン」(シャンパン)は、酒小売業者などを通じて販売されるほか、バーやナイトクラブなどを含む飲食店において消費されている。
そうすると、本件商標の指定役務と申立人商品は、その需要者(飲酒する成人)や取扱物品(発泡性ワイン)を共通にするものであって、一定程度の関連性はある。
(4)出所の混同のおそれについて
以上のとおり、申立人の使用に係る「MOET」(「E」にはトレマがある。)の商標は、申立人商品の略称として相当程度知られており、独創性の程度は高く、本件商標とは類似性の程度は高く、また、その指定役務と申立人商品は需要者を共通にし、一定程度の関連性もあるから、本件商標をその指定役務に使用した場合、これに接する需要者は、申立人商品との関連を連想又は想起し、その役務が他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その役務の出所について混同を生ずるおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(5)本件商標権者の主張について
本件商標権者は、「MOET&CHANDON」の一部である申立人商標「MOET」(「E」にはトレマがある。)は、需要者、取引者の間で広く一般に認識されている略称といえる場合があるとしても、トレマの記載のない「MOET」は、需要者、取引者の間で広く認識されている略称とまではいえず、ましてや「O」に該当する部分のない本件商標と申立人商標とは類似せず、また、申立人商標に独創性はなく、本件商標と申立人商標とは出所混同が生じることはあり得ないから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない旨を主張する。
しかしながら、本件商標と、申立人の使用に係る「MOET」(「E」にはトレマがある。)の商標を比較しても、上記2(2)のとおり、トレマの有無に差異はあるものの、我が国において申立人商品の略称として相当程度知られ、独創性の程度が高い「MOET」の構成文字を含む(顕著に表示する。)点において共通するから、類似性の程度は高い。
また、「MOET」の文字は、申立人の関係者の姓であるかにかかわらず、我が国で親しまれた語や姓ではなく、上記2(1)のとおり、「シャンパンの商標」である「Moet」(「e」にはトレマがある。)に通じ得るものであるから、独創性の程度が高い。
そうすると、上記(4)のとおり、申立人の使用に係る「MOET」(「E」にはトレマがある。)の商標は、申立人商品の略称として相当程度知られており、独創性の程度は高く、本件商標とは類似性の程度は高く、また、その指定役務と申立人商品は需要者を共通にし、一定程度の関連性もあるから、本件商標をその指定役務に使用した場合、これに接する需要者は、申立人商品との関連を連想又は想起し、その役務が他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その役務の出所について混同を生ずるおそれがある。
したがって、本件商標権者の主張は採用できない。
3 本件商標の商標法第4条第1項第19号該当性
(1)不正の目的について
申立人は、本件商標は、別件差止訴訟の継続中に、当該訴訟の当事者の京都店の関係者により、そこで使用する意図で登録出願されたものであること、当該訴訟では本件商標を使用する行為が不正競争防止法に違反する旨が判断されていることを指摘し、本件商標は不正の目的により登録出願されたものである旨を主張するため、以下判断する。
ア(ア)本件商標は、上記第1のとおり、令和3年(2021年)6月27日に登録出願されたものである。
(イ)「MOET」(トレマがある。)、「MOET」及び「モエ」の標章に基づき、本件商標と構成を共通にするものを含む標章の使用差止を認めた別件訴訟(令和元年(ワ)第2259号、令和4年2月16日京都地裁判決)は、令和3年11月26日に口頭弁論が終結し、同4年2月16日に判決されている(甲16)。
(ウ)本件商標権者の住所は、上記別件訴訟の被告が経営する京都店と同一住所である。
イ 以上を踏まえると、本件商標権者は、上記訴訟の関係者であるとしても、本件商標の登録出願は、当該訴訟の判決前にされているから、当該訴訟提起に何らかの対抗をする意図で本件商標が登録出願されたことは漠然と理解できるものの、申立人提出の証拠によっては、本件商標権者が本件商標を利用して何ら具体的な行為に及んだことを示す事実関係は明らかではない。
そのため、申立人提出の証拠によっては、本件商標について、その登録出願時において、不正の利益を得たり、申立人に損害を与えるなど、不正の目的があったとまでは、認めることはできない。
(2)以上のとおり、本件商標は、その登録出願時に、不正の目的をもって使用をするものとはいえないから、その他の要件について言及するまでもなく、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
4 結論
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号の規定に違反してされたものであるから、同項第19号の規定に違反しないとしても、同法第43条の3第2項の規定により、取り消すべきである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-900130