商標異議申立
2023-900121
ノートルダム
- 審判番号
- 2023-900121
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 商願2022-008582
- 登録番号
- 6680716
- 請求日
- 2023年05月24日
- 審決日
- 2025年06月25日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】合同会社Mayuranoir
- 【異議申立人】ユニバーシティ オブ ノートル ダム デュ ラック
- 【異議申立人代理人】田中 伸一郎
- 【異議申立人代理人】中村 稔
- 【異議申立人代理人】井滝 裕敬
- 【異議申立人代理人】▲吉▼田 和彦
- 【異議申立人代理人】藤倉 大作
- 【異議申立人代理人】相良 由里子
- 【異議申立人代理人】石戸 孝
- 【異議申立人代理人】竹下 薫
- 審判長/審判官
- 審判長 大橋 良成
- 審判官 小田 昌子
- 審判官 馬場 秀敏
- 分類
- T1651.13 -Z (W14)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 商標法3条1項3号商標法43条の3第2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第3条第1項第3号、商標法第4条第1項第15号、商標法第4条第1項第7号、商標法第4条第1項第8号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
登録第6680716号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。
結論
結 論
登録第6680716号商標の商標登録を取り消す。
理由
理 由
第1 本件商標
本件登録第6680716号商標(以下「本件商標」という。)は、「Notre-Dame」の欧文字を横書きしてなり、令和4年1月13日に登録出願、第14類「貴金属,宝玉及びその模造品,宝玉の原石,ネックレス,チェーン(宝飾品),貴金属製のブローチ,イヤークリップ,スタッドイヤリング,指輪,ペンダント,アンクルブレスレット,ブレスレット,ピアス,時計用の貴金属製バックル,その他の身飾品(カフスボタンを除く),カフスボタン,時計,時計バンド,その他の時計の部品及び付属品,貴金属製のくるみ割り器・こしょう入れ・砂糖入れ・塩振出し容器・卵立て・ナプキンホルダー・ナプキンリング・盆及びようじ入れ,キーホルダー,記念カップ,記念たて」を指定商品として、同年10月5日に登録査定され、同5年3月15日に設定登録されたものである。
第2 登録異議の申立ての理由
登録異議申立人(以下「申立人」という。)は、本件商標は、商標法第3条第1項第3号、同法第4条第1項第7号、同項第8号及び同項第15号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第55号証を提出した。
以下、「甲第○号証」を単に「甲○」と表す場合がある。
1 商標法第3条第1項第3号該当性について
本件商標は「Notre-Dame」の文字から構成されるが、これは、セーヌ川沿いの街並みや周辺施設「エッフェル塔」、「ルーブル美術館」、「サント・シャペル」等とともに「パリのセーヌ河岸」としてユネスコの世界遺産登録がなされている著名なる「ノートルダム大聖堂」を表す語であると一見にして理解される。
大聖堂の名称「ノートルダム」は、「ノートルダム(Notre Dame)」の語がフランス語で「我らの貴婦人」すなわち「聖母マリア」を意味することから、聖母マリアに捧げられた大聖堂であることを表している(甲3、甲4)。
元々はフランス語ではあるものの、わが国の国語辞典や英和辞典、和英辞典においても、「ノートルダム大聖堂:パリにある初期ゴシック様式の大寺院」、「聖母マリア;聖母堂」を意味する語として収録されており、その意味合いはわが国の需要者の間でも良く知られている(甲5~甲7)。
世界各地の著名な地名が収録された「外国地名辞典」においても、「Nortre Dame de Paris(ノートル-ダム-ド-パリ)」及び「Parvis Nortre Dame,Place du(ノートルーダム前広場)」の地名が掲載されている(甲8)。
このように、ノートルダム大聖堂及びその周辺地域は、世界的に最も著名なる観光名所の一つである。
そうであるところ、観光名所においては、その名称やその地理的な名称を付した商品が土産物などとして多数販売されている実情があり、本願指定商品中、とりわけ「ネックレス」、「ペンダント」、「アンクルブレスレット」、「ブレスレット」、「キーホルダー」、「記念カップ」、「記念たて」といった商品は土産物の定番であるといえる。例えば、インターネットの検索エンジン「Google」で「ノートルダム ネックレス」、「ノートルダム ペンダント」、「ノートルダム キーホルダー」といったキーワード検索を行うと多くの商品販売ページがヒットする(甲9~甲11)。
現に、ノートルダム大聖堂内にある売店「ブティック・ア・ラ・カテドラル(Boutique a la Cathedrale)」にてロザリオ、ペンダント、ブレスレット、ブローチといった装飾品が土産物として販売されている(甲12、甲13)。
「ノートルダム大聖堂」の見所の一つであるヨーロッパ最大級のステンドグラスがはめ込まれた円形の窓をモチーフとしてデザインした装飾品が多く販売されている(甲9~甲13)。
以上より、本件商標は、これをその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は、該商品がノートルダム大聖堂及びその周辺地域において製造、販売されたものであること、又は、当該観光地の土産物として販売されたものであること、すなわち、商品の産地、販売地を表示したものと理解、認識するにとどまるものであり、自他商品の識別標識としての機能を有しないものというべきである。
本件商標と同じようにユネスコの世界遺産として登録されている「シャンボールの城と領地(Chateau and Estate of Chambord)」を指称する「CHAMBORD」の欧文字からなる商標の登録可否が争われた拒絶査定不服審判(不服2009-7280)においては、「一般に観光地においては、観光名所等の名称やその地理的な名称を付した土産物の商品が多数販売されている実情にあることはよく知られている」ことが認定された上で、「本願商標は、これをその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は、該商品が「[CHAMBORD]の地において製造、販売されたもの」であること、すなわち、商品の産地、販売地を表示したものと理解、認識するにとどまるものであり、自他商品の識別標識としての機能を有しないものというべきである」として、識別力欠如を理由として拒絶査定を維持する判断がなされている(甲14)。
その他、実在する地理的名称「Le Puy」(フランスのオート・ロアール県の県庁所在地「Le Puy-en-Velay/ル・ピュイ=アン=ヴレ」の略称)を表す文字からなる商標の登録可否が争われた異議申立事件(平成11年異議第90563号)においても、「Le Puy」はフランスのオート・ロアール県の県庁所在地の名称である旨が認定され、「指定商品である「菓子及びパン」の産地・販売地であると容易に認識するものとみるのが相当である」との判断がなされ、識別力欠如を理由とする取消決定がなされている(甲15)。
よって、本件商標は、その指定商品の産地、販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるといえ、商標法第3条第1項第3号に該当する。
2 商標法第4条第1項第7号該当性
上述1のとおり、本件商標を構成する「Notre-Dame」の語は、フランス語で「我らの貴婦人」を意味し、その意味合いから、イエス・キリストの母である「聖母マリア」を指す。
聖母マリアとは、イエス・キリストの母であり、キリスト教において非常に重要な意味をもち、聖なる存在である。とりわけカトリック教会においては、聖母マリアに向けて祈ったり聖母讃歌が歌われたりと、非常に特別な存在である。そのため、聖母マリアに因んだ祝日が設けられ、また、芸術作品のモチーフとしても頻繁に描かれる(甲18~甲21)。
このようなキリスト教、キリスト教徒にとって聖なる名を商標登録し、一私人の商品、役務を示すものとして専有させることが、許されるべきでないことは明白である。
この点で、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)を参照すると、宗教上大きな意味を持つ人物等を表す商標の多くがその登録を拒絶されてきたことがうかがえるが、代表的なものとして、例えば「Buddha」「仏陀」の文字を上下二段に普通に用いられる方法で書してなる商標の登録が拒絶された拒絶査定不服審判事件(不服2004-24437)が挙げられる。当該事件においては、「「Buddha」、「仏陀」」は、我が国では仏教の開祖、釈迦ともみられるものであって、仏教信者にとってはかけがいのない信仰のよりどころとなるものでもあるから、該文字よりなる本願商標を、その指定商品に使用するときには、「仏陀」の尊厳を損ない、信者の信仰上の感情を害し、ひいては、公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがあるものというべきである」として、商標法第4条第1項第7号該当性が認められている(甲22)。
加えて、キリスト教における「聖母マリア(Notre Dame)」の持つ意味の大きさから、聖母マリアに捧げられ、名称に「Notre Dame(ノートルダム)」の名を冠する教会や寺院が各地に存在するが、その代表的なものが上記で言及したフランス国パリにあり、ユネスコの世界遺産としても登録されている「ノートルダム大聖堂(Cathedrale Notre-Dame de Paris)」である(甲23)。
ノートルダム大聖堂は、フランス・パリから各地への距離を表すときの起点(ポワン・ゼロ/“Point Zero des Routes de France”)とされており、文字通りパリの街の中心部に位置する(甲24)。
当該大聖堂は、1163年に国王、国民、そして教会の賛成を得て建設工事が開始されて以来、1804年にナポレオンがフランス皇帝に即位した際の戴冠式が行われたり、1944年にパリ解放を祝ってノートルダム大聖堂前の広場で聖歌が歌われたりと、様々な行事や式典などが開かれてきた場所である(甲23)。
また、1831年にヴィクトル・ユーゴが出版し、のちにオペラやバレエ、映画の原作にもなった小説「ノートルダム・ド・パリ(邦題:ノートルダムのせむし男)」の舞台となったことでも良く知られているが、ノートルダム大聖堂は小説や映画、美術や音楽の題材としても度々取り上げられ、多方面から高い関心を寄せられる文化遺産である(甲25)。
ノートルダム大聖堂には、数々の重要な聖遺物が保管されていたことでも知られており、その中には、イエス・キリストが処刑されるときに身につけていたとされる「いばらの冠」や1789年のフランス革命で宝物庫が略奪された後に教会へ寄贈された「黄金の聖杯」等も含まれていたが、2019年に発生した大規模火災の際にも、炎が広がる前に奇跡的に運び出されたことはわが国でも多くのニュース番組や新聞記事で取り上げられた(甲26)。
このような世界遺産の名称を含む商標については、ユネスコによって認定された世界遺産を直ちに認識させるものであり、一私人の商品、役務を示すものとして専有させることが、許されるべきでないことは明白である。
例えば、「Pantanal」の文字を含む商標が、「パンタナル自然保護地域(Pantanal Conservation Area)」としてユネスコの世界遺産に登録されているブラジル中西部に位置する地域を直ちに認識させるものとして拒絶した拒絶査定不服審判事件(不服2009-10702)のように、商標法第4条第1項第7号該当性が認められている(甲27)。
また、「九寨溝」の文字を顕著に表してなる商標に係る拒絶査定不服審判事件(不服2009-25896)においても、同号該当性が認められているが、その判断に当たっては、「「九寨溝」の文字(語)は、中国四川省北部に位置し、1992年にユネスコの世界遺産(自然遺産)として登録された地域「九寨溝の渓谷の景観と歴史地域」を表す略称として一般的に採択・使用されているものであって、他に特定の意味は見いだせないものであるから、当該文字は、「九寨溝の渓谷の景観と歴史地域」を表したものと認識させるとみるのが自然である」旨認定されている(甲28)。
以上のとおり、本件商標は、「聖母マリア」を指す言葉として、特にキリスト教徒にとって、特別な意味合いを有し、かけがいのない信仰のよりどころとなるものでもあり、一私人に対して登録を認め、その指定商品について使用をする権利を専有させることは、信者の信仰上の感情を害するおそれがあり、商標として社会的妥当性を欠くと言わざるを得ない。加えて、本件商標はユネスコの認定する世界遺産の名称をも表すものであるから、一法人である出願人が自己の営利を目的として、商標として登録使用することは国際信義の観点に照らしても、登録を認めるべきではない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
3 商標法第4条第1項第8号該当性
(1)申立人の歴史及び申立人商標の著名性
申立人であるユニバーシティ オブ ノートル ダム デュ ラック(University of Notre Dame du Lac)は米国インディアナ州ノートルダムにあるキリスト教カトリック系の私立大学である(甲29。以下、申立人を指して「ノートルダム大」という。)。
ノートルダム大の歴史は、大学を設立しようと7人の仲間とともにアメリカ合衆国インディアナ州にあるヴァンセンヌ司教区に派遣された1840年に遡る。その後1842年、「この国の善のための最も強力な手段のひとつになる」と宣言し、大学の建設に取り掛かった(甲30)。
設立当初は、大学というよりは寄宿学校のようであり、大学敷地内で自給自足できるようにと、農業用建物とパン工場が建設された。そのうち当初の建物では不十分になり、1848年に、オルガンと鐘楼を備えた聖堂が新たに建設された。この建物は、次に新たな教会が建設された1870年まで使用され続けた。
1875年には初めてのミサが捧げられ、1888年には聖心聖堂(Sacred Heart Church)が聖別(物質を神に仕えるために用いるために、聖なるものとする行為)された。この聖堂は1992年にバシリカとしての特権を与えられ、今日では会衆教会「コングレゲーション・オブ・ホーリー・クロス(Congregation of Holy Cross)」のアメリカ合衆国における母教会として知られている。
1883年には、カトリック教会と社会への卓越した奉仕をした者に対して「ラエターレ・メダル(Laetare Medal)」の授与を開始した(甲30)。以来、同大学は今日まで毎年「ラエタール・メダル」を授与してきており、今日では当該メダルを与えられることはアメリカのカトリック教徒にとって最大の名誉であるともいわれている(甲31、甲32)。
1910年には、ノートルダム大の生徒は退役軍人大尉の指導の下で兵法訓練を行うようになったが、第一次世界大戦が勃発すると、訓練の人気は高まり兵隊層も厚くなっていった。学生たちは、オールド・カレッジやコービー・ホール(いずれも、ノートルダム大キャンパス内の建物の名称)の近くに掘られた塹壕で、ライフル銃を持って訓練を受けるなど、キャンパスのいたるところで戦いへの準備が行われていたという(甲27)。
1939年に第二次世界大戦が勃発すると、ノートルダム大は徴兵制と志願兵制度による深刻な入学者の減少に直面した。当時の大学学長であったヒュー・オドネル司祭は、解決策として、海軍がキャンパス内にて訓練プログラムを実施することを許可することにした。この措置により、海軍により戦争期間中に約12,000人もの学生と資金が集まり、ノートルダム大は閉校の危機から救われた。終戦後には、1944年復員兵援護法(通称「G.I.ビル」)に沿って、多くの退役軍人が大学に迎え入れられた(甲30)。
2017年には、大学設立から175周年を迎え、大学の長い歴史を祝う行事が大々的に行われた。大学設立者が辿ったヴァンセンヌからサウスベンドまでを歩く巡礼「ノートルダム・トレイル(Notre Dame Trail)」を開催したり、カトリック教徒の青少年に向けたデジタルメディアプラットフォーム「Grotto Network(グロット・ネットワーク)」をリリースしたりと様々な催し物が企画され、インディアナ州議会では、創立175周年を迎えたノートルダム大学を称える決議が採択された。(甲33~甲35)。
今日のノートルダム大は、スクール・オブ・アーキテクチャー(建築学)、カレッジ・オブ・アーツ・アンド・レターズ(美術学・人文学・社会科学)、メンドーザ・カレッジ・オブ・ビジネス(経営学)、カレッジ・オブ・エンジニアリング(工学)、キーオ・スークル・オブ・グローバル・アフェアーズ、グラディエート・スクール(大学院)、ロー・スクール(法科大学院)、カレッジ・オブ・サイエンス(自然科学)、という8つのカレッジ及びスクールを置き(甲36)、とりわけ神学・宗教学の分野においては、世界的な大学評価機関の英クアクアレリ・シモンズ(Quacquarelli Symonds)が実施する「世界大学ランキング(科目別)」において、2020年、2021年と世界一位にランク付けされるなど、カトリック教育において世界的権威を有し続けている(甲37)。
同大学では、普段の学生生活においても、各寄宿舎や大学キャンパス単位で様々な機会にミサが行われ、キャンパスミニストリーによって奉仕活動が行われたり、在校生のための様々なサポートが提供されたりと、大学設立時の理念や文化が根付いている(甲38~甲42)。
ノートルダム大は課外活動に力を入れていることでも良く知られ、とりわけアメリカンフットボールでは、2022年には「カレッジ・フットボール史上最多勝利の9校」に入るなど、強豪としての伝統を持ち、我が国においても「カレッジフットボール界の伝説の名門校」、「全米でファンが多いチーム」として評価されている(甲43、甲44)。同大学は、カレッジフットボールにおいてその年に一番輝かしいプレーをした選手に贈られる「ハイズマン賞」受賞者を多数輩出してきているほか、例えばプロフットボール殿堂入りを果たした選手を始めとして、同大学を経てプロアメリカンフットボールリーグである「ナショナル・フットボール・リーグ(National Football League、通称NFL)」で活躍する選手も多い(甲45~甲47)。
また、同大学アメフトチームで自らもプレーし、その後13年間同大学のヘッドコーチを務めたニュート・ケネス・ロックニィ氏(Knute Kenneth Rockne)は、大学スポーツチームにチーム名をつける文化を定着させたことやテキサス州の地域「ロックニィ(Rockne)」の地名の由来となったことでも知られる「伝説のコーチ」として著名な人物である(甲48)。また、1994年に上映された映画「Rudy(邦題:ルディ/涙のウイニング・ラン)」のモデルにもなっている(甲49)。このように、ノートルダム大のアメフトチームは米国では知らない人がいない程有名なチームである。
2009年には、ノートルダム大のアメフトチーム卒業生から構成される「ノートルダム・ファイティング・アイリッシュ“レジェンズ”」と日本代表チームとの対決試合が東京ドームで行われ、その様子はわが国でもテレビ番組や新聞記事に取り上げられ、ノートルダム大の伝統あるアメフトチームが日本でも広く知られるきっかけとなった(甲50、甲51)。
このように、申立人が運営するノートルダム大は、1842年の設立以来長い歴史を経て、文事と武事の両面において、世界的に知名度を有する教育機関となった。そして、同大学を表す略称として継続的に使用してきた「Notre Dame」の文字からなる申立人商標も、同大学とともにわが国を含めた世界各国において頻繁に目に触れられてきた。
以上より、申立人商標「Notre Dame」は本件商標の出願時及び査定時において、わが国の需要者の間で非常に広く知られた商標であったというべきである。
(2)商標法第4条第1項第8号該当性
申立人ノートルダム大が世界的な知名度を有する大学であり、その略称である「Notre Dame(ノートルダム)」も、本件商標の出願時及び査定時において、同大学の略称として我が国においても頻繁に目にするものであったことは上述(1)のとおりである。
本件商標は「Notre-Dame」の欧文字から構成されるところ、大文字小文字における差異や「Notre」と「Dame」の間のハイフンの有無といった僅かな差異はあるものの、申立人の名称の著名な略称である「Notre Dame(ノートルダム)」と実質的に同一の文字列からなるものであり、かかる登録はノートルダム大の人格的利益を毀損するものである。しかして、本件商標は他人である申立人の著名な略称を含む商標であって、その出願・登録において申立人の承諾を得ていない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する。
4 商標法第4条第1項第15号該当性
(1)「混同のおそれ」の判断基準
商標法第4条第1項第15号は、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」は、商標登録を受けることができないと規定する。同号の「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著・名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきだと判示されている(甲52、最高裁平成10年(行ヒ)第85号)。
以下、かかる判断基準に沿って、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当することについて詳述する。
(2)商標法第4条第1項第15号該当性
まず、申立人商標の周知・著名性は上述「3(1)」のとおりである。
本件商標と申立人商標との類似性を検討するに、本件商標は、前記のとおり、「Notre-Dame」の欧文字を標準文字で表した商標であるところ、申立人の略称は「Notre Dame」の欧文字から構成されるものであるから、「Notre」と「Dame」との間のハイフンにおいて差異があるものの、これらの商標は同一の文字列からなり、外観、称呼、観念の全てが共通するため、その類似性は極めて高いといえる。
商品・役務の類似性については、申立人の核となる事業内容は大学における教育研究活動であるところ、当該事業に伴い、同大学ロゴの入った文房具、被服、履物等の各種グッズを販売している(甲53~甲55)。これらの商品は、いずれも需要者が自ら使用したり、身に着けるために使用するものであり、本件商標の指定商品と申立人の商品の関連性の程度は非常に高いというべきである。
また、当該グッズの需要者には、在校生や卒業生及びその家族はもちろんのこと、同大学への入学を目指す者や同大学のスポーツチームを応援する者も含み、性別や年齢を問わず非常に幅広い範囲の需要者が含まれる。本件商標の指定商品である装飾品等も、一般需要者を主な需要者層とした商品であるから、対象需要者において共通することは明らかである。
以上の事情を考慮すれば、本件商標に接する取引者、需要者は、申立人の名称の周知・著名な略称である「Notre Dame(ノートルダム)」を連想、想起する可能性が極めて高い。したがって、本件商標がその指定商品に使用された場合、需要者は、その商品・役務の出所につき、これがあたかも申立人の業務に係る商品であるかのごとく、又は、申立人と経済的若しくは組織的に関係性を有する者が販売する商品であるかのごとく、その出所につき混同するおそれがあることは自明である。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する。
5 小括
以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項第3号、同法第4条第1項第7号、同項第8号及び同項第15号に該当するものであり、同法第43条の2第1号により取り消されるべきである。
第3 当審における取消理由の通知
当審において、本件商標権者に対し、別掲に係る証拠を示した上で、「本件商標は商標法第3条第1項第3号に該当する」旨の取消理由通知を通知し、相当の期間を指定して意見を求めた。
第4 本件商標権者からの意見
本件商標権者は、上記通知に対して意見書を提出していない。
第5 当審の判断
1 商標法第3条第1項第3号について
(1)商標法第3条第1項第3号に掲げる商標が、商標登録の要件を欠くとされているのは、このような商標は、指定商品との関係で、その商品の品質、用途等その他の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品の識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解される。
そうすると、本件商標が商標法第3条第1項第3号に該当するというためには、登録査定時において、本件商標がその指定商品との関係で、商品の品質、用途等その他の特性を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、本件商標がその指定商品に使用された場合に、将来を含め、指定商品の取引者、需要者によって商品の上記特性を表示したものと一般に認識されるものであれば足りると解される(最高裁昭和53年(行ツ)第129号判決、平成27年(行ケ)第10107号判決参照)。
(2) 商標法第3条第1項第3号該当性について
本件商標は、上記第1のとおり、「Notre-Dame」の文字を横書きしてなるところ、以下のアないしウのとおり、「Notre Dame」の欧文字及びその同意語並びにこれらを片仮名で表した「ノートル・ダム」が一般の辞書に掲載されている事実がある。
ア 「Notre Dame」の見出しの下、「ノートルダム大聖堂:パリにある初期ゴシック様式の大寺院.(またNo-tre-Dame de Paris)」及び「聖母マリア:聖母堂」」(小学館発行 ランダムハウス英和大辞典 第2版)の記載がある(甲5)。
イ 「ノートル・ダム」の見出しの下、「(「我らの貴婦人」の意、聖母マリアを指す)12世紀に聖母マリア崇敬の気運が高まり、各地に建立されたカトリック聖堂。パリのシテ島にあるものが名高く、1163年起工、1245年頃完成。ゴシック建築の代表作。世界遺産。」(岩波書店発行 広辞苑 第7版)の記載(甲6)、「(我らの貴婦人の意)(1)聖母マリアのこと(2)聖母マリアに捧げられたフランスのカトリック聖堂。各地にあるが、パリにあるものが最もよく知られている。」(三省堂発行 大辞林 第3版)との記載(甲7)がある。
ウ 「ノートル-ダム-ド-パリ Nortre Dame de Paris」の見出しの下、「フランスの首都パリ4区のセーヌ川のシテ島にあるノートル-ダム大聖堂とその周辺地。」の記載(三省堂発行 コンサイス外国地名事典 第3版)(甲8)がある。
また、別掲のとおり、ノートルダム大聖堂は、世界遺産として知られているものであって、観光地として人々が訪れている事実がある。
そうすると、「Notre-Dame」の語は、世界遺産である「ノートルダム大聖堂及びその周辺地域」を表し、観光地の一つを表すものとして知られているというべきである。
そして、観光地においては、その名称やその地理的な名称を付した商品が土産物などとして多数販売されている実情があり、また、お土産店には、ミニチュア模型、置物、ブレスレットやキーホルダーが扱われているのが一般的といえる。
以上からすると、「Notre-Dame」の文字からなる本件商標は、これをその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は、該商品が「ノートルダム大聖堂及びその周辺地域」において製造、販売されたものであること、又は、当該観光地の土産物として販売されたものであること、すなわち、商品の産地、販売地を表示したものと理解、認識するにとどまるものであり、自他商品の識別標識としての機能を有しないものというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に違反して登録されたものであるといわざるを得ないから、その他の登録異議の申立て理由について言及するまでもなく、本件商標の登録は、同法第43条の3第2項の規定により、その登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-900121