商標無効審判
2023-890067
フルトラ
- 審判番号
- 2023-890067
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 商願2021-135645
- 登録番号
- 6586026
- 請求日
- 2023年08月21日
- 審決日
- 2025年01月15日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 請求成立(無効)
- 当事者
- 【請求人】株式会社 アオミネクスト
- 【請求人代理人】弁理士法人大島・西村・宮永商標特許事務所
- 【被請求人】株式会社 Shiftall
- 【被請求人代理人】小西 良往
- 審判長/審判官
- 審判長 大橋 良成
- 審判官 山田 啓之
- 審判官 渡邉 あおい
- 分類
- T111 .13 -Z (W09) / T111 .16 -Z (W09) / T111 .272-Z (W09)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 商標法3条1項3号商標法3条1項6号商標法4条1項7号商標法4条1項16号商標法46条1項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第3条第1項第3号、商標法第4条第1項第7号、商標法第4条第1項第16号、商標法第3条第1項第6号、商標法第46条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の商標登録第6586026号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
商標登録第6586026号の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 本件商標
本件登録第6586026号商標(以下「本件商標」という。)は、「フルトラ」の文字を標準文字で表してなり、令和3年10月30日に登録出願、第9類「写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,電気通信機械器具,携帯情報端末,電子応用機械器具及びその部品,バーチャルリアリティ用ヘッドセット,業務用テレビゲーム機用プログラム,家庭用テレビゲーム機用プログラム,仮想現実用ゴーグル,3D眼鏡,ビデオゲーム遊戯用仮想現実用ヘッドセット,身体装着式携帯情報端末,身体に装着可能なビデオディスプレイモニター,着用可能なアクティビティトラッカー」を指定商品として、同4年6月28日に登録査定、同年7月12日に設定登録されたものである。
第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証から甲第39号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 無効事由
本件商標は、商標法第3条第1項第3号又は同項第6号、及び同法第4条第1項第16号又は同項第7号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号の規定により、その登録を無効にすべきものである。
2 無効原因
(1)請求人について
請求人は、神奈川県に本社を有し、仮想現実、情報通信技術を活用した新事業、イベント、その他の施策の企画・運営及び受託、伴走を主な事業とする企業である(甲2)。
(2)請求人の本件審判における利害関係について
請求人は、「Uni-motion」(登録第6565058号、第9類「モーションキャプチャ用コンピュータソフトウェア」ほか)の納入を受け、販売代理店として販売を開始する予定である。「Uni-motion」とは、VRヘッドセットと組み合わせることで、バーチャル空間でのアバターの動きを現実の自分の身体と同期できるフルボディトラッキングモーションキャプチャシステムである。同システムの納入会社より、技術顧問として「Uni-motion」の開発を受託している個人事業主が、被請求人の代表取締役より、SNSのダイレクトメッセージを受け、「フルトラ」の語の使用停止、「フルトラ」の語を含む投稿の取下げを要請された(甲3)。請求人は、販売代理店として「Uni-motion」を販売するに当たり、「フルトラ」の語を使用する必要がある。
被請求人は、「Uni-motion」に類似の機器を開発、販売する企業であり、被請求人の販売機器は「Uni-motion」と機能、性能、価格のいずれもが近似するため、請求人の販売機器と直接競合関係にある。
よって、被請求人の要請により、請求人は「Uni-motion」及び関連ハードウェア・ソフトウエアの販促に大きな制約を受ける不利益に直面している。
以上のとおり、請求人は「フルトラ」の語を記述的に使用する必要があるので、請求人が本件審判の請求に関し、利害関係を有することは明らかである。
(3)商標法第3条第1項第3号又は同項第6号該当性
ア 本件商標の識別力について
本件商標は、普通に用いられる方法たる標準文字の標章「フルトラ」のみからなる商標である。「フルトラ」は「フルトラッキング」(Full Tracking)の略語で、通常4点以上の追従点を用い、ユーザーの身体とアバターの動作をシンクロさせる行為(動詞としての使用)、また、当該行為を行っている者及び当該行為を可能とする機材(名詞としての使用)を意味する語として、2018年頃から当該業界で一般的に使用されている(甲4~甲6)。
本件商標の指定商品のうち、フルトラッキングに用いるソフトウエア及び機材に使用した場合には、商品の品質、効能、用途等を意味するものとして識別力を有しない。
イ 「フルトラ」の語の定義
「フルトラ」の語の定義は明確に定まっていないが、複数のウェブサイトを参照するに、VRchat(ソーシャルVRアプリ)内で身体全体を使って操作する技術をフルボディトラッキングといい、この技術の通称として説明されている(甲7~甲12)。
ここで、「フルトラ」は、現実の身体の動きをバーチャルリアリティ上のアバターに再現するものであるから、身体の動きをトラッキングするデバイスが必要である。一般的な「フルトラ」のデバイスの種類は主に2種類ないし3種類に分けられ、光学系(赤外線式、ベースステーションとトラッカーを利用したもの)、カメラ系(カメラを使ってモーションキャプチャーしたもの)、IMU方式(慣性式、外部センサ不要で、センサを身体に取り付けるもの)があり、いずれもが何らかのソフトウエアや機材を使用するものである。
甲第7号証及び甲第10号証が示すとおり、フルトラッキングに用いるソフトウエア及び機材を表示するものとして、「フルトラ」の語が使用されていることが分かる。
ウ 「フルトラ」の一般名称としての使用
「フルトラ」の語は、多数のウェブサイトにおいて、フルトラッキングに用いるソフトウエア及び機材を表示するものとして、一般的に使用されていることが分かる(甲13~甲20)。
また、X(旧、ツィッター)においても、フルトラッキングに用いるソフトウエア及び機材を表示するものとして、「フルトラ」の語が使用されている投稿が確認できる(甲21~甲27)。
さらに、被請求人のウェブサイトには、「無線での全身モーショントラッキング(フル・トラッキング、略してフルトラ)ができます」との記載があるが(甲28)、これは前記イで示した「フルトラ」の語の定義と近しいものであり、被請求人自身も「フルトラ」の語を、身体をフルトラッキングするために使用するソフトウエア及び機材を表示する記述的用語として使用していることが分かる。
加えて、「フルトラ」の語が身体をフルトラッキングするために使用するソフトウエア及び機材を表示する一般的な語であることを、被請求人自ら認めていると思われる記載が、被請求人の運営するX(旧ツィッター)アカウントの複数の投稿から確認できる(甲29~甲35)。
以上によれば、被請求人は「フルトラ」の語を記述的に使用しているといえ、「フルトラ」の語が、フルトラッキングに用いるソフトウエア及び機材を表示するものであることを自認しているといえる。
エ 4文字略語の独占不適応性
一般的に、片仮名用語の略語としては、4文字に略されることが多い(甲39)。これは日本語として発音しやすいという特性による。「サントラ」、「アフレコ」、「ドラレコ」、「サブスク」、「スペアナ」(スペクトラムアナライザ)など、枚挙にいとまがない。よって、「フルトラッキング」や「フルボディトラッキング」が一般的に使用されている用語であれば、「フルトラ」もその略語として使用され定着するのは自然なことである。
本件商標の場合は、略語の元の語である「フルトラッキング」や「フルボディトラッキング」は、商標ではないので、その略語に独占適応性が生じるわけがない。
オ 以上のとおり、「フルトラ」の語は、フルトラッキングに用いるソフトウエア及び機材を表示するものとして、一般的に使用されている。
よって、本件商標は、その記述的意味が一般需要者に理解される略語として商標法第3条第1項第3号に該当する。
あるいは、「フルトラ」は「フルトラッキング」の略語として当該業界において一般的に使用されているので、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標として、商標法第3条第1項第6号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第16号該当性
前記のとおり、本件商標「フルトラ」は、フルトラッキングに用いるソフトウエア及び機材の品質等を表示すると需要者に理解されるので、それ以外の商品に使用するときは商品の品質の誤認を生じさせるおそれがある。
(5)商標法第4条第1項第7号該当性
前記の「フルトラ」の語の使用例からも分かるように、本件商標が出願されたときには、同語は既にフルトラッキングが関係する業界で一般名称として使用されている状況にあった。被請求人は当該取引実情を認識していたはずであるところ、あえて本件商標を登録したことには、フルトラッキングを用いたビジネスにおいて、それを端的に表現する語の独占を図ることにより、業界内で優位に立とうとの不正の目的が疑われるおそれがある。そのような事態は被請求人にとっても不利益と考えられる。
フルトラッキングの技術を用いている業界内においては、本件商標の登録により、当該技術内容及び関連ビジネスを端的に表示する用語が使用できないことによる不利益が想定され、実際、請求人は不利益を被っていることから、同業界内での競業秩序が乱されるおそれがある。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第7号の公序良俗違反の商標として登録を認められるべきではない。
第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証を提出した。
1 請求人の適格性
請求人は、請求人の製品の納入会社の技術顧問としてその開発を受託している個人事業主に対して、被請求人の代表取締役からツイート(甲3)による警告があり、これに対して、請求人は販売代理店としてその商品を販売するに当たり、「フルトラ」の語を使用する必要があるので、請求人の適格性がある旨主張する。
しかし、請求人は、本件商標の付与された商品と類似する商品を製造する者ではなく販売代理店にすぎず、また、請求人は「フルトラ」の語を商標的使用に当たらない限り自由に使用できるのであるから、請求人は法律上の利益や、その権利に対する法律的地位に直接の影響を受ける又は受ける可能性のある者ではない。よって、請求人は請求人としての適格性に欠ける。
2 商標法第3条第1項第3号又は第6号の該当性
(1)本件商標の登録出願の意図
被請求人は、VR等の用途で使うモーショントラッキング装置に「フルトラ」を商標として使用することを計画し、商標登録出願をしたものである。
(2)本件商標の識別性
請求人は、商標「フルトラ」は「フルトラッキング(Full Tracking)」又は「フルボディトラッキング(FullBodyTracking)」の略称であって、その指定商品について、descriptiveであるので識別力を有しない旨主張し、出願当時、日本のVRChatの一部相当マニアックなコミュニティ(界隈)で「フルトラ」が使用されていた投稿をその証拠として挙げている。また、被請求人が自ら「フルトラ」なる語を使用しているとして、甲第28号証から甲第38号証を挙げているが、甲第37号証を除き、これらは本件商標の出願後の投稿であり、甲第37号証は「SteamVR用フルトラシステム」として「フルトラ」を使用し、「フルトラ」単独で使用しているものではない。
仮に「フルトラ」の語がVRChatの一部相当マニアックなコミュニティで使用されていたとしても、果たして、一般需要者が本件商標を使用する計画の商品「モーショントラッキング装置」について、その品質等を明確にdescriptiveであると認識できるのであろうか。
一般にネット等で使用されている新しい技術用語、特に略称はそれを用いる者によって相違し、使用している文脈を解釈しないと意味の取れないこと、正しくその技術を表現していないことが多く、また一部のネットのコミュニティの用いる技術的言語は方言も多い。
そこで、主観的な判断を避けるため、ChatGPTに「トラッキング」、「モーショントラッキング」、「フルトラ」、「フルトラッキング」及び「フルボディトラッキング」について、質問をしてみた(乙1)。
ChatGPTによると、本件商標を使用しようとする商品の「モーショントラッキング装置」の「モーショントラッキング」の語は、動きを追跡する技術やプロセスを示し、主に映像や仮想オブジェクトの実世界への統合などに応用され、適用分野は映画製作、アニメーション、ビデオゲーム開発、仮想現実(VR)と拡張現実(AR)、医療分野、ロボティクスなど広範囲にわたるとしている。
また、「フルボディトラッキング」は、個々の人間の全身の動きをリアルタイムで検出、記録及び分析する技術又はプロセスを指し、主にコンピュータビジョン、モーショントラッキング、3Dモデリング及び人工知能(AI)の分野で使用されるとしている。
「フルトラッキング」は、特定の文脈において、音楽制作や録音技術に関連する用語の一つで、音楽制作や録音スタジオでの活動に関連するとしている。
したがって、「フルトラッキング」の語は、「モーショントラッキング」や「フルボディトラッキング」の語のようにその規定する技術を理解するには文脈を解釈してしか具体的な技術内容が特定できず、その使用範囲は音楽制作や録音技術に関連するものと解される。
さらに、「フルトラ」は、一般的に広く認識された用語ではなく、特定の文脈に依存する可能性が高いため、具体的な意味や用途を確認できないとしている。
これらから判断するに、「モーショントラッキング」や「フルボディトラッキング」の語は、略その意味する内容が特定されるが、「フルトラッキング」はある特定の文脈において、音楽制作や録音技術に関連する用語として理解できる程度の語であり、「フルトラ」に至っては、一般的に広く認識された用語ではなく、特定の文脈に依存する可能性が高く、具体的な意味や用途を確認できない語であることが分かる。
以上のように「フルトラ」は、その商品「モーショントラッキング装置」について使用する場合、識別性の判断基準のdescriptiveではなくfanciful、arbitrary、suggestiveに相当し、識別力を有すると解される。
よって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号及び同項第6号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第16号の該当性
以上のとおり、本件商標は、「フルトラッキングに用いるソフトウエア及び機材の品質等を表示する」とは一般需要者には解されないので、それ以外の商品に使用しても商品の品質の誤認を生じさせない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第7号の該当性
本件商標は、出願当時、極一部のコミュニティで使用されていたものであり、「フルトラ」の意味する技術的内容が特定されていない状況にあった。
また、たとえ、被請求人が、本件商標の出願当時、極一部のコミュニティで使用されていた事実を知っていたとしても、将来販売する計画の商品「フルモーショントラッキング装置」に関係する商品を指定商品として商標「フルトラ」を出願することは、被請求人のブランドを確立し、他者の類似商標の侵害を避ける当然の行為であり、これが業界内を乱す不正な行為、公序良俗に反するのであれば、そもそも商標制度は成立しない。
商標権の侵害となるのはその商標を商標的に使用する場合であり、商標的使用をしない限り「フルトラ」は文章等で使用できるのであるから、本件商標の登録により、当該技術内容及び関連ビジネスを端的に表示する用語が使用できないことによる不利益は想定され得ないのであって、請求人に不利益は発生しないし、同業界内での競業秩序が乱されるおそれは考えられない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
第4 当審の判断
1 利害関係について
請求人の提出に係る証拠及び同人の主張によれば、請求人は、仮想現実等に関する事業を行う企業であり、「Uni-motion」というシステムを納入し、販売代理店として販売を開始する予定であったが、当該システムの納入会社より、技術顧問としてシステム開発を受託している個人事業主が、被請求人の代表取締役より、「フルトラ」の後の使用停止を要請されたことが認められる(甲2、甲3、請求人の主張)。
そして、請求人は、当該システムを販売するに当たり、「フルトラ」の語を使用する必要があると主張しているところ、その可能性は否定できない。
そうすると、請求人は、「フルトラ」の文字からなる本件商標の登録を無効とすることについて利害関係を有するというべきである。
被請求人は、商標的使用に当たらない限り自由に使用できるのであるから、請求人が法律上の利益やその権利に対する法律的地位に直接の影響を受ける又は受ける可能性のある者ではなく、請求人としての適格性に欠けると主張している。
しかしながら、商標的使用は、商標権侵害訴訟における抗弁であり、訴えを提起される不利益がないとはいえず、また、当該抗弁が認められるか否かについては最終的には裁判所の判断により決せられるものである。
したがって、被請求人の主張は採用できず、請求人は、本件審判を請求することについて利害関係人に該当するというべきである。
2 「フルトラ」の語について
(1)請求人の提出に係る証拠及び職権による調査によれば、次の事実が認められる。
ア 仮想空間に関するウェブサイトにおける「フルトラ」の語の説明について(下線は合議体が付した。)
(ア)「VRChatフルトラ猫研究所」と称するウェブサイトにおいて、「VRchatでフルトラになるための16種類のツールを全く知らない人向けに一挙紹介!」の見出しの下、「2022.08.03」の日付の記載とともに「VRchatで体全身を使って操作する技術をフルボディトラッキング(以下フルトラ 英語:FullBodyTracking)といいます。フルトラは【体全体をトラッキングする】という意味で【フルボディ】【トラッキング】の略称で、体全体にトラッカー(緑色)等をつけて体全体を認識させます。」との記載がある(甲7)。
(イ)「Vtuberが6点&10点フルトラで踊ってみた結果わかったこと伝えたいこと」と題するウェブサイトの記事において、「上半身だけでなく下半身の動きも反映される6点以上のトラッキングのことをフルボディトラッキング、略してフルトラと呼んでるわけですね!」との記載がある(甲8)。
(ウ)「VIVE AMBASSADOR」と題するウェブサイトにおいて、「2021年1月10日」の日付の記載とともに、「フルトラ=フルトラッキングって?」の見出しの下、「アバターと肉体の「全身」(フルボディ)の動きを連動させる技術のことを「全身トラッキング」=「フルボディトラッキング」=「フルトラッキング」、略して「フルトラ」と言います。」との記載がある(甲9)。
(エ)「PANORA」と題するウェブサイトについて、「2021年9月25日」の日付の記載とともに、「VRChatで急増する「フルトラ」人口」の見出しの下、「みなさん、「フルトラ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。「フルボディートラッキング」の略称で、アバターをリアルの全身の動きに対応させる技術のことを指す。VRChatは通常、VRモードでプレイする場合は、VRゴーグルと両手コントローラーの3点で身体の動きを測定し、アバターの身体表現を行う。これに加え、腰と両足の3点にトラッカーを付け、下半身の動きまでを表現することを「フルボディートラッキング」略して「フルトラ」と呼ぶ。」との記載がある(甲10)。
(オ)「大好きVRChat」と題するウェブサイトにおいて、「2021年7月6日」の日付の記載とともに、「【VRChat初心者向け】VRChatでしか使われない用語集」の見出しの下、「フルトラ」の項に「フルボディトラッキングの略。頭・手に加え、腰と足を動かすことができるVR。全身動くから没入感がすごい!」との記載がある(甲11)。
(カ)「VRChat用語集」と題するウェブサイトにおいて、「VR機器関連(VRChat向け)」の見出しの下、「フルボディトラッキング 通称「フルトラ」」の項に、「トラッカーを3個追加した状態。腰+両足で全身のトラッキングが可能になる。」との記載がある(甲12)。
イ 「フルトラ」の語の使用について
(ア)各種のウェブサイトにおける本件商標の登録査定時よりも前の記事において、「フルトラ」の語が多数使用されている(甲6、甲13、甲14、甲16~甲18、甲20~甲27)。
(イ)なお、被請求人も、前記アで説明されているものと同様の意味合いで「フルトラ」の語を使用している(甲28、甲29、甲32、甲34~甲38)。
ウ 「VRChat」について
(ア)「VRChat」とは、「多岐にわたる体験が可能な広範囲なバーチャル空間にアクセスするためのソーシャルVRアプリ」である(職権調査、https://localsquare.co.jp/beyondworklabo/vrchatとは?はじめ方や必要な機器、人気ワールド/)。
(イ)「ソーシャルVR」とは、「3DCGで構成された空間(VR空間)上で、アバターを介してコミュニケーションをとることができるソーシャル・ネットワーキングサービス・メタバースを表す総称」である(職権調査、https://ja.wikipedia.org/wiki/ソーシャルVR)。
(2)前記(1)で認定した事実によれば、「フルトラ」の語は、明確な定義が定まってはいないものの、「VRChat」などのソーシャルVRアプリ内で、身体全体を使って操作する技術を「フルボディ(-)トラッキング」又は「フルトラッキング」といい、その略称を表す語をいうと判断するのが相当である。
そして、「フルトラ」の語は、当該略称として、本件商標の登録査定時よりも前において多数使用されていることが認められる。
そうすると、「フルトラ」の語は、明確な定義は定まっていないものの、仮想現実(バーチャルリアリティ)の分野において、「VRChat」などのソーシャルVRアプリ内で、身体全体を使って操作する技術を表す「フルボディ(-)トラッキング」又は「フルトラッキング」の語の略称として、当該分野の取引者及び需要者に認識され、かつ、使用されていると判断するのが相当である。
3 商標法第3条第1項第3号、同項第6号及び同法第4条第1項第16号該当性について
(1)本件商標は、前記第1のとおり、「フルトラ」の文字を標準文字で表してなるものである。
そして、前記2(2)のとおり、「フルトラ」の語は、仮想現実(バーチャルリアリティ)の分野において、「VRChat」などのソーシャルVRアプリ内で、身体全体を使って操作する技術を表す語の略称として、当該分野の取引者及び需要者に認識され、かつ、使用されているものである。
また、本件商標の指定商品は、第9類に属する前記第1のとおりの商品であり、仮想現実(バーチャルリアリティ)に関係する商品が含まれているといえる。
そうすると、本件商標は、その指定商品中、仮想現実(バーチャルリアリティ)に関係する商品に使用するときには、「VRChat」などのソーシャルVRアプリ内で、身体全体を使って操作する技術を表す語の略称を表したものと認識され、当該技術に関する商品といった商品の品質を表したものと認識されるといわなければならない。
また、本件商標は、標準文字で表してなるものであるから、普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であることが明らかである。
したがって、本件商標は、その指定商品中、仮想現実(バーチャルリアリティ)に関係する商品に使用するときには、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標といわなければならないから、商標法第3条第1項第3号に該当する。
(2)また、前記2(2)のとおり、「フルトラ」の語は、仮想現実(バーチャルリアリティ)の分野において、「VRChat」などのソーシャルVRアプリ内で、身体全体を使って操作する技術を表す語の略称として使用されていることからすると、本件商標がその指定商品中、仮想現実(バーチャルリアリティ)に関係する商品に使用されたときには、当該技術を表したものと認識されるにすぎないものであるから、本件商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標というべきである。
したがって、本件商標は、その指定商品中、仮想現実(バーチャルリアリティ)に関係する商品に使用するときには、仮に商標法第3条第1項第3号に該当しないとしても、同項第6号に該当する。
(3)さらに、本件商標は、その指定商品中、仮想現実(バーチャルリアリティ)に関係する商品以外の商品に使用するときには、当該商品があたかも「「VRChat」などのソーシャルVRアプリ内で、身体全体を使って操作する技術」に関する商品であるかのように、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるから、商標法第4条第1項第16号に該当する。
4 商標法第4条第1項第7号該当性について
請求人は、フルトラッキングの技術を用いている業界内での競業秩序が乱されるおそれがあると主張する。
しかしながら、請求人は、当該主張を裏付ける証拠を何ら提出していない。
そうすると、本件商標を登録することがフルトラッキングの技術を用いている業界内での競業秩序が乱されるおそれがあるということはできない。
他に、本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標であるというべき事情は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
5 被請求人の主張について
被請求人は、ChatGPTに対して質問して得た回答(乙1)を示した上で、「フルトラ」は、一般的に広く認識された用語ではなく、特定の文脈に依存する可能性が高いため、具体的な意味や用途を確認できないと主張する。
しかしながら、たとえ、ChatGPTにおいて、乙第1号証のとおりの回答が得られたとしても、前記2(1)アにおける仮想空間に関する各種のウェブサイトにおける「フルトラ」の語の説明、及び前記2(1)イにおける「フルトラ」の語の使用によれば、「フルトラ」の語は、明確な定義は定まっていないものの、仮想現実(バーチャルリアリティ)の分野において、「VRChat」などのソーシャルVRアプリ内で、身体全体を使って操作する技術を表す「フルボディ(-)トラッキング」又は「フルトラッキング」の語の略称として、当該分野の取引者及び需要者に認識され、かつ、使用されていると判断するのが相当である。
したがって、被請求人の主張は採用することができない。
6 まとめ
以上により、本件商標は、商標法第4条第1項第7号には該当しないものの、同法第3条第1項第3号に該当し、仮に同号に該当しないとしても同項第6号に該当し、また、同法第4条第1項第16号に該当するものであるから、その登録は、同法第3条及び同法第4条第1項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件商標の登録は、商標法第46条第1項により、無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
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