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商標無効審判

2023-890052

ミョーホーレンゲキョームラマサ、ミョーホーレンゲキョー、ムラマサ

審判番号
2023-890052
法域
商標
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
商願2022-073725
登録番号
6663888
請求日
2023年06月29日
審決日
2024年07月08日
公報発行日
2024年09月27日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】日蓮宗
  • 【請求人代理人】布施 行夫
  • 【請求人代理人】大渕 美千栄
  • 【請求人代理人】丸山 弥生
  • 【請求人】宗教法人法華宗(本門流)
  • 【請求人代理人】布施 行夫
  • 【請求人代理人】大渕 美千栄
  • 【請求人代理人】丸山 弥生
  • 【請求人】顕本法華宗
  • 【請求人代理人】布施 行夫
  • 【請求人代理人】大渕 美千栄
  • 【請求人代理人】丸山 弥生
  • 【請求人】法華宗(陣門流)
  • 【請求人代理人】布施 行夫
  • 【請求人代理人】大渕 美千栄
  • 【請求人代理人】丸山 弥生
  • 【請求人】本門佛立宗
  • 【請求人代理人】布施 行夫
  • 【請求人代理人】大渕 美千栄
  • 【請求人代理人】丸山 弥生
  • 【請求人】日蓮本宗
  • 【請求人代理人】布施 行夫
  • 【請求人代理人】大渕 美千栄
  • 【請求人代理人】丸山 弥生
  • 【請求人】法華宗(真門流)
  • 【請求人代理人】布施 行夫
  • 【請求人代理人】大渕 美千栄
  • 【請求人代理人】丸山 弥生
  • 【請求人】本門法華宗
  • 【請求人代理人】布施 行夫
  • 【請求人代理人】大渕 美千栄
  • 【請求人代理人】丸山 弥生
  • 【請求人】宗教法人 日本山妙法寺大僧伽
  • 【請求人代理人】布施 行夫
  • 【請求人代理人】大渕 美千栄
  • 【請求人代理人】丸山 弥生
  • 【被請求人】エイアンドエム貿易 有限会社
  • 【被請求人代理人】坂岡 範穗
  • 【被請求人代理人】山口 めぐみ
審判長/審判官
  • 審判長 大橋 良成
  • 審判官 山田 啓之
  • 審判官 渡邉 あおい
分類
T111 .13 -Y (W08) / T111 .16 -Y (W08) / T111 .22 -Y (W08)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
商標法3条1項3号商標法3条1項6号商標法4条1項7号商標法46条1項
条文(本文から自動抽出・参考)
商標法第4条第1項第7号、商標法第3条第1項第3号、商標法第3条第1項第6号、商標法第4条、商標法第46条第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

上記当事者間の登録第6663888号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。

理由

理 由 第1 本件商標 本件登録第6663888号商標(以下「本件商標」という。)は、「妙法蓮華経村正」の文字を標準文字で表してなり、令和4年6月27日に登録出願、第8類「手動利器(「刀剣」を除く。),刀剣,手動工具,エッグスライサー(電気式のものを除く。),かつお節削り器,缶切,スプーン,チーズスライサー(電気式のものを除く。),ピザカッター(電気式のものを除く。),フォーク,護身棒,水中ナイフ,水中ナイフ保持具」を指定商品として、同5年1月16日に登録査定、同月19日に設定登録されたものである。 第2 請求人の主張 1 請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次の2のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第14号証を提出した。 2 本件商標は、商標法第3条第1項第3号、同項第6号及び同法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効とすべきものである。 (1)商標法第4条第1項第7号該当性について ア 「他人に不快な印象を与えるような文字」であること 本件商標は、全体としては特段の意味を有しない造語であるかもしれないが、先頭の5文字が「妙法蓮華経」であることは、誰の目にも明らかである。 「妙法蓮華経」は、「1.大乗経典の一つ。2.題目「南無妙法蓮華経」の略。」と説明されている(甲2)。つまり「妙法蓮華経」は、日蓮系・天台系の宗派の根幹をなす最も重要な経典を意味する文字である。 また、日蓮系の宗派では、「妙法蓮華経」は単なる経典の名前にとどまるものではなく、この「妙法蓮華経」という5文字の中にこそ釈迦の功徳の全てが含まれるとされる(甲3)。そして、「妙法蓮華経」の教えを心から信じて、「帰依する」という意味の「南無」を頭に加えた「南無妙法蓮華経」の題目を口に唱え、その教えを実践することにより、自然と釈迦の功徳(すなわち「妙法蓮華経」)を全て譲り受けることができるとされている(甲3、甲4)。それゆえ、日蓮系の宗派の僧侶・信徒は、「妙法蓮華経」を全て譲り受けるべく、日々の勤行の中で題目「南無妙法蓮華経」を一心不乱に口に出して唱えている(甲5)。このように、日蓮系の宗派にとって「妙法蓮華経」の5文字は、その文字自体が信仰の中核をなす極めて神聖かつ重要なものであり、信仰上極めて重要な題目「南無妙法蓮華経」とほぼ同様の意味を持つものである。 「妙法蓮華経」で始まる本件商標が日蓮系・天台系の宗派の僧侶・信徒に「妙法蓮華経」又は「南無妙法蓮華経」を直感的に認識させ、想起させるであろうことは疑いようがない。信仰の核をなすともいえる「妙法蓮華経」の5文字が、妙法蓮華経を信奉する宗派の宗教活動とは無関係の一私人の登録商標の一部に含まれて個人の営利目的のために独占使用されることは、これらの宗派の僧侶・信徒にとってこの上なく不快で苦痛極まりない行為である(甲5)。特に、本件商標の指定商品をみると、ほぼ全ての指定商品が刃物を備えるものである。そうでなくても、物を突き刺す道具であったり、護身用とはいえ人や物を殴るための道具であったりする(甲1)。「妙法蓮華経」の文字が宗教活動に関係ない者のビジネスのために独占使用されるのみならず、「人や物を切り裂いたり、突き刺したり、殴ったりするための道具」の商標として独占使用されることは、「妙法蓮華経」を根本経典とする日蓮系・天台系の宗派の尊厳を損なうものであると同時に、衆生を救うために釈迦が残した「妙法蓮華経」を心のよりどころとする僧侶・信徒の感情を著しく害するものである(甲5)。 「宗教年鑑 令和4年」(文化庁編)によれば、天台系の宗派の信者数は2,749,918人、そのうち天台宗の信者数は1,533,745人である。また、日蓮系の宗派の信者数は10,562,786人、そのうち日蓮宗の信者数は3,224,154人である(甲6)。日蓮系、天台系の両宗派の信者数を合わせると1,300万人を超え、これは2023年3月1日時点における日本の総人口1億2,449万人(甲7)のほぼ1割強となる。つまり本件商標は、日本の総人口の1割強の人々に不快な印象を与える商標であり、商標法第4条第1項第7号に該当する。 イ 「社会の一般的道徳観念に反する」こと 「妙法蓮華経」の文字には、天台宗・日蓮宗と何らかの関係があるかのように感じさせる効果があり、これを含む商標を商品に使用する場合には、天台宗・日蓮宗の商品又は天台宗・日蓮宗から許諾を受けた者が商品に使用する商標と需要者に誤信させるおそれがある。そのような事態は社会公共の利益に反するものである。 また、魂の救いや心の平穏を得るためのものである宗教において特に重要とされている象徴的な文字を、主に人や物体を切り裂くための商品の商標に使用することは、社会一般の道徳観念に反するものといわざるを得ない。 そして、そのような社会一般の道徳観念に反する行為を行っているのが天台宗・日蓮宗であると一般需要者に誤信された場合には、天台宗・日蓮宗の仏教宗派としての尊厳が汚され、宗派に対する一般需要者の不信感を招くおそれがある。 よって、天台宗・日蓮宗と何らの関係もない者が自己の業務のために指定商品について「妙法蓮華経」の文字を独占使用することは、天台宗・日蓮宗の尊厳を損ね、国民一般の不快感や反発を招くものであり、相当ではない。 さらに、社会一般の道徳観念からしても、何らかの宗教において信仰上重要なものを非信者が軽く扱ってはならないと考えるのが自然であり、天台宗・日蓮宗及びその系列の諸宗にとって重要な「妙法蓮華経」をそれらの宗派の宗教活動とは無関係な者が自己の商品の商標に独占使用することは、社会一般の道徳観念に反するものである。 したがって、この観点からも本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当する。 ウ 文化的所産であること (ア)「経典」であること 「妙法蓮華経」は、インドで釈迦が説いた教えを後世の人間が大切に受け継いできた中の1つであり、長い歴史と伝統を持つ。日本にあっても、西暦406年に鳩摩羅什がインド原典から漢文に訳した「妙法蓮華経」が聖徳太子の時代に伝わり、それ以降日本仏教の根幹に位置する重要な経典として扱われてきたものである(甲3)。 そして、古い「妙法蓮華経」経典の中には、歴史的・文化的価値が認められて美術館や博物館に収蔵されているものも多く、国宝や国の重要文化財に指定されているものも少なくない(甲8~甲10)。つまり「妙法蓮華経」は歴史的・文化的所産を示す標章であり、そのような標章を含む商標は、一私人が商標として独占使用すべきものではない。この観点からも、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当する。 (イ)国の重要美術品「妙法村正」との関係 日本刀の代名詞とも称される「村正」の日本刀の中に、1振りだけ、刀身に「妙法蓮華経」の銘が刻まれた日本刀、通称「妙法村正」というものが存在する(甲5)。この「妙法村正」は、数ある「村正」の中でも唯一国の重要美術品認定を受けた刀剣として一般に知られている。「妙法蓮華経」の銘があるからこそ「妙法村正」と名付けられている(甲5)ことを考えれば「妙法」が「妙法蓮華経」を意味することは自明の理であり、本件商標「妙法蓮華経村正」は、「妙法村正」の「妙法」部分を正式名称に置き換えただけであって「妙法村正」と同一の観念を有するといわざるを得ない。国の重要美術品「妙法村正」の知名度・由来を考慮すれば、「妙法蓮華経村正」に接した需要者は直感的に「妙法村正」を連想すると思料する。したがって、「妙法蓮華経村正」は「妙法村正」に類似する商標であり、国の重要美術品という文化的所産の名称と類似する商標を一私人に独占させることは公益的な観点から不適切であり、公序良俗に反し、商標法第4条1項第7号に該当する。 特に、本件商標の実際の使用形態を見ると、「妙法蓮華経「村正」」として柳刃包丁に使用されており、その商品説明に「日本刀で有名な「妙法村正」のイメージで柳刃包丁を再現しました」と記載されている(甲5)。このことから、本件商標の商標権者は、「村正の作品中最も有名な一振り」(甲5)とされる日本刀「妙法村正」の存在と知名度に便乗して自己の商品を売るために本件商標について商標登録を受けたことが明らかである。つまり本件商標は、商標権者が国の重要美術品である日本刀「妙法村正」を剽窃する意図をもって出願されたものである。それは国の重要美術品という国家にとって重要な文化的所産を私物化しようとするに等しい行為であり、公益的観点からみて許されるべきではない。また、社会一般の道徳観念にも反し適切ではないので、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当する。 (2)商標法第3条第1項第3号該当性について 本件商標は日本刀「妙法村正」の「妙法」部分を正式名称に置き換えたにすぎず、実質的に「妙法村正」と同義の商標であり、需要者に日本刀「妙法村正」を想起させるものである。よって、本件商標は、指定商品「刀剣」との関係においては、需要者に有名な日本刀の名称を表したものと認識されることから、自他商品識別力に欠け、商標法第3条第1項第3号に該当する。 (3)商標法第3条第1項第6号該当性について 本件商標から「妙法蓮華経」部分を除外した「村正」部分については、日本刀の代名詞とも呼ばれるものである(甲12)。特に本件商標は標準文字で表記されていることから、指定商品中「手動利器」に含まれる「包丁類,かみそり」及び「刀剣」に本件商標を使用した場合、標準文字の「村正」部分は、日本刀のような切れ味を有する商品を需要者に連想させるにすぎない。よって、本件商標は、「包丁類,かみそり,刀剣」との関係では全体として自他商品識別力がなく、商標法第3条第1項第6号に該当する。 第3 被請求人の答弁 被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第25号証を提出した。 1 商標法第4条第1項第7号について (1)「他人に不快な印象を与えるような文字」であること、「社会の一般的道徳観念に反すること」について ア 請求人は、あたかも「妙法蓮華経」と「天台宗・日蓮宗」が一体になっており、「妙法蓮華経」が「天台宗・日蓮宗」の独占物であるかのように述べている。 しかしながら、法華経(妙法蓮華経)は約2000年前に何者かによって作られたものであり、著作権等もなく誰のものでもない。法華経が天台宗と日蓮宗を表わすものではない。例えば、何人もが自由に「妙法蓮華経」の文字を使用して何らかの教えを説くことができる。 イ 請求人は、日蓮宗の宗派では「妙法蓮華経」という5文字の中に釈迦の功徳の全てが含まれるとされ、「南無妙法蓮華経」と同様の意味を持つと述べるとともに、日蓮宗では「妙法蓮華経」の5文字は、その文字自体が信仰の中核をなす極めて神聖かつ重要なものであると述べている。 しかしながら、その主張自体が自らの考えを述べるのみであり、客観的なものではない。 また、請求人は、僧侶・信徒に本件商標が「妙法蓮華経」又は「南無妙法蓮華経」を直観的に認識させると主張している。 しかしながら、「妙法蓮華経」と「南無妙法蓮華経」は別物である。「妙法蓮華経」は、経典の名称であり特定の宗教団体等を表すものではない。 「妙法蓮華経」は経典の名称であり、「南無妙法蓮華経」は唱題と呼ばれる信仰方法に用いられる題目であり、明確に区別できる。請求人による「妙法蓮華経」という経典の名称を本件商標が含むことについて不快であるとの主張は、到底認めることができない。 また、「妙法蓮華経」は通常「法華経」と呼ばれており、「妙法蓮華経」という言葉自体が一般的ではない(乙1~乙6)。 さらに、「南無妙法蓮華経」についても一般には唱題のための題目としての認識しかなく、一般の信徒は「ナムミョーホーレンゲキョー」と連続的に読むことが多いと考える。 これらのことから、「妙法蓮華経」と「南無妙法蓮華経」は明確に区別されるものである。また、「法華経」と「妙法蓮華経」が同じであり「妙法蓮華経」もが日蓮宗の信仰対象であると知っているのは、日蓮宗の僧侶や一部の信者に限られると考えられる。 ウ 請求人は、本件商標の指定商品に刃物が含まれ、「人や物を切り裂いたり・・・の道具」の商標として使用されることは日蓮宗等の尊厳を損ねると主張する。 しかしながら、本来、刃物は「災いを断ち切り幸運を切り開く」ものであり、縁起が良いもの神聖なるものとされてきた(乙8~乙11) 剣(三鈷剣(宝剣))を持物とする仏は複数おり、棒(宝棒)を持物とする仏も複数いる。このような仏は、魔や邪念を払うという意図で宝剣や宝棒を持っており、日蓮宗の寺においても祭られている。請求人は、刃物や棒について極一部の犯罪者が行う悪業をもってそれが全てのように主張しており、そのような考えは失当である。 さらに、日蓮宗の僧侶も法具として木剣と呼ばれるものを所持使用している(乙14、乙15)。 請求人は、刃物等について「僧侶・信徒の感情を著しく害するものである。」「人の命を奪う目的で作られた日本刀の刀身に「妙法蓮華経」の文字が刻まれているだけでも心が痛む。」等と述べている。 しかし、これらの主張は上述した事実と矛盾するものである。 エ 請求人は、日蓮系と天台系の信者数が約1,300万人おり、日本の総人口の約1割が不快な思いをしていると主張している。 しかしながら、寺における信仰は、檀家と呼ばれる家単位となり、信仰心のある者が1人であっても家単位で数えるため、信者の配偶者、信者の子、信者の子の配偶者はもちろんのこと、孫までも信者数に含まれてしまう。信者の中でも毎日のように読経して勤めをする者は一部である。してみると、請求人が主張する1,300万人という数字は、かなり誇張されており、実質的な信者は僅かであると考えるのが自然なことである。 オ 請求人は、「「妙法蓮華経」が日蓮宗にとって重要な文言であり、題目「南無妙法蓮華経」の略である」と主張している。しかしながら、既に述べたように「妙法蓮華経」と「南無妙法蓮華経」とは別物である。 また、請求人は、本件商標を使用した商品について出所混同が起き、商標権者が負うべき責任が日蓮宗等に転嫁されると主張している。これも既に述べたように、「妙法蓮華経」が日蓮宗等を表すものではないことから理由にならない。 さらに、請求人は「妙法蓮華経」を刃物等に用いることが社会の一般的道徳観念に反すると主張している。しかしながら、既に述べたように、刃物自体は縁起が良く神聖なものであり、日蓮宗も法を修するときに刃物又は刃物を模した法具を使用している。 (2)文化的所産であることについて ア 「経典」であることについて 請求人は、商標法第4条第1項第7号の関する審査便覧に、例として「経典」が挙げられていると主張している。 しかしながら、本件商標「妙法蓮華経村正」は、一体として表される新しい造語からなる商標であって、経典「妙法蓮華経」そのものを表す商標ではない。また、経典「妙法蓮華経」をその商標中に含んではいるが、仏の教説を書きとどめた書物である経典と指定商品である刀等について密接な関連性を有するとはいえない。 また、請求人は、「妙法蓮華経」は歴史的、文化的所産を示す標章であり、そのような標章を含む商標は、一私人が商標として独占使用すべきものではないと主張している。 しかしながら、「妙法蓮華経」の略である「法華経」を含む商標は、複数登録されている(乙19~乙21)。 イ 「妙法村正」との関係について 請求人は、「「妙法村正」は、数ある「村正」の中でも唯一国の重要美術品認定を受けた刀剣として・・・これに接した需要者は直感的に「妙法村正」を連想すると思料する。」と主張している。 「妙法村正」は昭和初期に重要美術品認定を受けたが、その後「文化財保護法」が公布されてから73年経過した現在も、重要文化財に格上げ指定されていない。これらのことから、「妙法村正」は重要美術品には認定されたが重要文化財に指定するまでもないものであり、「妙法村正」は一般に知られているとはいえないと思料する。 また、請求人は「「妙法」が「妙法蓮華経」を意味することは自明の理」と主張しているが、妙法には「すばらしい教え」という意味もあり(甲2)、一義的に「妙法」が「妙法蓮華経」を意味するとはいえない。さらに、一般の人が「妙法」と聞いて「妙法蓮華経」を直ちに認識するはずもなく、日蓮宗の信者においても熱心な者しか認識しないと考えられる。これらのことから、本件商標が社会公共の利益に反するとは考えられない。 さらに、請求人は、被請求人が「その商品説明に「日本刀で有名な「妙法村正」のイメージで柳刃包丁を再現しました」と記載していることを公益的観点からみて許されるべきでないと主張している。しかし、被請求人が「村正」と何らかの関係があるような記載をしているのならともかく、「「妙法村正」のイメージで柳刃包丁を再現」と記載することで、「村正」とは無関係であることを説明しているにすぎない。つまり、この説明は「村正」の名声や名誉を傷つけるものではなく、逆に「村正」と無関係であることを説明していることから、公正な取引秩序を乱すものでもない。 2 商標法第3条第1項第3号該当性について 請求人は、本件商標が商標法第3条第1項第3号に該当すると主張している。 しかしながら、「妙法」から「妙法蓮華経」を直ちに想起することは困難であり、「妙法村正」から「妙法蓮華経村正」を想起させることもない。また、指定商品との関係において、「妙法蓮華経村正」が商品の産地、販売地、品質、原材料等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標でないことは明らかである。 よって、本件商標は商標法第3条第1項第3号に該当するものではない。 3 商標法第3条第1項第6号該当性について 請求人は、本件商標が商標法第3条第1項第6号に該当すると主張しており、その証拠として商願2006-87582を挙げている。 しかし、当該出願においては、日蓮宗が当該出願に情報提供をしたのに対し、出願人は何ら反論せず拒絶理由通知においても応答していない。このため、日蓮宗の主張が一方的に認められたと思料する。 第4 当審の判断 1 両当事者の提出に係る証拠によれば、次の事実が認められる。 (1)「妙法蓮華経」とは、「大乗経典の一つ。天台宗・日蓮宗で所依とする。法華経。」又は「「南無妙法蓮華経」の略」を意味するものである(甲2)。 (2)「妙法蓮華経」は、日蓮宗にとっては宗派の根幹を成す重要な経典である(甲5)。 (3)令和3年12月31日現在の天台系の宗派の信者は2,749,918人であり、日蓮系の宗派の信者は10,562,786人である(甲6)。 (4)「妙法蓮華経」の経典には、文化遺産に指定されているものもある(甲8~甲10)。 (5)「妙法蓮華経」の文字からなる商標についての登録出願において、大乗経典の一「法華経」を看取させるものであるため、自他商品の識別標識としては認識されず、商標法第3条第1項第6号に該当する旨の拒絶理由が通知された(甲11)。 (6)「村正」とは、史上最も有名な刀工名の一つであり、武器としての日本刀の代名詞である(甲12)。 (7)「妙法村正」とは、戦国時代、伊勢国桑名の刀工・千子村正作の日本刀であり、村正唯一の重要美術品であって、「妙法村正」と通称され、村正の作品中最も有名な一振りであり、「妙法蓮華経」の銘が刻まれている(甲5)。 (8)被請求人は、自社の取扱いに係る「包丁」について、「妙法蓮華経村正」の銘を刻み、その商品説明に「銘 妙法蓮華経「村正」」及び「日本刀で有名な「妙法村正」のイメージで柳刃包丁を再現しました。」と記載している(甲5)。 (9)「ビエント工芸・包丁ストア」のウェブサイトには、「日本では古くから刃物の贈り物は縁起が良いとされており、・・・門出を祝福する場では常に刃物が使用されてきました。それは「災いを断ち切る」「未来を切り開く」ものとして考えられているからです。」の記載がある(乙8)。 2 本件商標の商標法第3条第1項第3号該当性について 本件商標は、前記第1のとおり、「妙法蓮華経村正」の文字を標準文字で表してなるものである。 そして、前記1(6)及び(7)のとおり、「村正」が史上最も有名な刀工名の一つであること、また、「妙法村正」が村正作の日本刀であって、村正の作品中最も有名な一振りであり、「妙法蓮華経」の銘が刻まれていることが認められる。 しかしながら、「妙法村正」が「妙法蓮華経村正」と称されている事情は見いだせず、また、たとえ「妙法」の文字を「妙法蓮華経」の文字に置き換えたとしても、「妙法蓮華経村正」の文字が「妙法村正」を表したものと認識されるというべき事情も見いだせない。 そうすると、「妙法蓮華経村正」の文字からなる本件商標が、その指定商品中「刀剣」との関係において、需要者に日本刀「妙法村正」の名称を表したものと認識されるということはできない。 他に、本件商標が、商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産又は使用の方法又は時期その他の特徴を表示するものと認識されるというべき事情は見いだせない。 したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当しない。 3 本件商標の商標法第3条第1項第6号該当性について 本件商標は、「妙法蓮華経村正」の文字からなるものであり、たとえ、その構成中「妙法蓮華経」の文字(語)が「大乗経典の一つ」又は「「南無妙法蓮華経」の略」の意味を表し、当該文字からなる商標が自他商品の識別標識としては認識されないとの拒絶理由が通知されたとしても、また、「村正」の文字(語)が「日本刀の代名詞」であるとしても、両文字(語)を結合させた本件商標が、「包丁類,かみそり,刀剣」との関係において、全体として自他商品の識別力がないと直ちにいうことはできない。 また、「妙法蓮華経村正」の文字からなる本件商標が、その指定商品との関係において、自他商品の識別力がないというべき事情は見いだせない。 したがって、本件商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標ということはできず、商標法第3条第1項第6号に該当しない。 4 本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について (1)商標法第4条第1項第7号でいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、「その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合」、「当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合」、「他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合」、「特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合」、「当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合」などが含まれるというべきである(平成17年(行ケ)第10349号同18年9月20日判決)。 そして、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」の一例であることからすれば、商標が「他人に不快な印象を与えるような文字からなる商標」であるか否かについては、商標を構成する文字に係る歴史的背景、社会的影響等、多面的な視野から判断する必要があるというべきである。 (2)「他人に不快な印象を与えるようなもの」であるかについて 請求人は、「妙法蓮華経」は日蓮系・天台系の宗派の根幹をなす最も重要な経典を意味する文字であり、日蓮系の宗派にとって「妙法蓮華経」の5文字は、その文字自体が信仰の中核をなす極めて神聖かつ重要なものであり、信仰上極めて重要な題目「南無妙法蓮華経」とほぼ同様の意味を持つものであること、妙法蓮華経を信奉する宗派の宗教活動とは無関係の一私人の登録商標の一部に含まれて個人の営利目的のために独占使用されることは、これらの宗派の僧侶・信徒にとってこの上なく不快で苦痛極まりない行為であること、「人や物を切り裂いたり、突き刺したり、殴ったりするための道具」の商標として独占使用されることは、「妙法蓮華経」を根本経典とする日蓮系・天台系の宗派の尊厳を損なうものであると同時に、衆生を救うために釈迦が残した「妙法蓮華経」を心のよりどころとする僧侶・信徒の感情を著しく害することを主張している。 前記1(1)及び(2)のとおり、「妙法蓮華経」は、天台宗及び日蓮宗のよりどころであり、日蓮宗にとっては宗派の根幹を成す重要な経典であることが認められる。 そうすると、「妙法蓮華経」の文字を含む本件商標の登録について、天台宗及び日蓮宗の僧侶及び信徒には、快く思わないであろう者がいるかもしれないことは、想像に難くない。 しかしながら、前記(1)のとおり、商標が「他人に不快な印象を与えるような文字からなる商標」であるか否かについては、多面的な視野から判断する必要がある。 そして、本件商標が「妙法蓮華経」の文字のみからなるものではないこと、そのため、「妙法蓮華経」の文字それ自体が独占されるものではないこと、前記1(9)のとおり、刃物は縁起が良いとされることもあることからすると、前記1(3)のとおり、天台系及び日蓮系の宗派の信者が相当数存在することを踏まえても、本件商標は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」の一例としての「他人に不快な印象を与えるような文字からなる商標」には当たらないと判断するのが相当である。 (3)「社会の一般道徳観念に反するもの」であるかについて ア 請求人は、「妙法蓮華経」の文字には、天台宗・日蓮宗と何らかの関係があるかのように感じさせる効果があり、これを含む商標を商品に使用する場合には、天台宗・日蓮宗の商品又は天台宗・日蓮宗から許諾を受けた者が商品に使用する商標と需要者に誤信させるおそれがあり、そのような事態は社会公共の利益に反する旨主張している。 前記1によれば、「妙法蓮華経」は、大乗経典の一つであり、天台宗及び日蓮宗のよりどころであることが認められ、また、日蓮宗にとっては、宗派の根幹を成す重要な経典であることが認められる。 しかしながら、「妙法蓮華経」の文字それ自体が天台宗又は日蓮宗を表すものとは認められず、また、当該文字を使用した商品が天台宗若しくは日蓮宗の商品又は同宗派から許諾を受けた者の商品であると誤信させるおそれがあるというべき事情は見いだせない。 したがって、誤信させるおそれがあることを前提とした社会公共の利益に反する旨の主張は、理由がない。 イ 請求人は、魂の救いや心の平穏を得るためのものである宗教において特に重要とされている象徴的な文字を、主に人や物体を切り裂くための商品の商標に使用することは、社会一般の道徳観念に反する旨主張している。 しかしながら、たとえ、本件商標の構成中に、天台宗及び日蓮宗でのよりどころであり、日蓮宗にとっては宗派の根幹を成す重要な経典である「妙法蓮華経」の文字が含まれているとしても、前記1(9)のとおり、刃物は縁起が良いとされることもあることからすると、本件商標をその指定商品中、例えば「手動利器(「刀剣」を除く。),刀剣」に使用することが、直ちに、社会一般の道徳観念に反するということはできない。 ウ 請求人は、天台宗・日蓮宗及びその系列の諸宗にとって重要な「妙法蓮華経」をそれらの宗派の宗教活動とは無関係な者が自己の商品の商標に独占使用することは、社会一般の道徳観念に反する旨主張している。 しかしながら、本件商標は、「妙法蓮華経村正」の文字からなるものであり、「妙法蓮華経」の文字それ自体が独占使用されるものではないから、請求人の主張は理由がない。 エ その他、本件商標が社会の一般道徳観念に反するというべき事情は見いだせない。 (4)文化的所産であることについて ア 請求人は、「妙法蓮華経」は歴史的・文化的所産を示す標章であり、そのような標章を含む商標は、一私人が商標として独占使用すべきものではない旨主張している。 前記1(4)のとおり、「妙法蓮華経」の経典には、文化遺産に指定されているものもあることが認められる。 しかしながら、たとえ、「妙法蓮華経」の経典が文化遺産に指定されているとしても、本件商標は、「妙法蓮華経村正」の文字からなるものであり、経典それ自体を表すものではないから、歴史的・文化的所産を独占使用するものとはいえない。 イ 請求人は、「妙法蓮華経村正」は「妙法村正」に類似する商標であり、国の重要美術品という文化的所産の名称と類似する商標を一私人に独占させることは公益的な観点から不適切であり、公序良俗に反する旨主張している。 前記1(7)のとおり、「妙法村正」は村正作の日本刀であり、国の重要美術品であることが認められる。 しかしながら、前記2のとおり、「妙法村正」が「妙法蓮華経村正」と称されている事情は見いだせず、また、たとえ「妙法」の文字を「妙法蓮華経」の文字に置き換えたとしても、「妙法蓮華経村正」の文字が「妙法村正」を表したものと認識されるというべき事情も見いだせない。 そうすると、本件商標の登録は、国の重要美術品を独占するものとはいえず、公益的な観点から不適切ともいえない。 ウ 請求人は、本件商標の実際の使用形態からすると、本件商標は、商標権者が国の重要美術品である日本刀「妙法村正」を剽窃する意図をもって出願されたものであり、国の重要美術品という文化的所産を私物化しようとするに等しい行為であり、社会一般の道徳観念にも反し適切ではない旨主張している。 前記1(8)のとおり、商標権者は、自社の取扱いに係る「包丁」について、「妙法蓮華経村正」の銘を刻み、その商品説明に「銘 妙法蓮華経「村正」」及び「日本刀で有名な「妙法村正」のイメージで柳刃包丁を再現しました。」と記載していることが認められる。 しかしながら、たとえ、「妙法村正」のイメージで柳刃包丁を再現したとしても、当該行為が国の重要美術品である日本刀「妙法村正」を剽窃する行為ということはできず、文化的所産を私物化するものということもできない。 (5)他に、本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標というべき事情は見いだせない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。 5 まとめ 以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項第3号、同項第6号及び同法第4条第1項第7号に該当するものではなく、その登録は、同法第3条及び同法第4条第1項の規定に違反してされたものとはいえない。 したがって、本件商標の登録は、商標法第46条第1項により、無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。

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2023-890052

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