商標無効審判
2023-890033
シフクノギリシャ、シフクノ、シフク
- 審判番号
- 2023-890033
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 商願2019-016617
- 登録番号
- 6375329
- 請求日
- 2023年03月31日
- 審決日
- 2024年02月09日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ギリシャ共和国
- 【請求人代理人】松下 外
- 【請求人代理人】横井 知理
- 【被請求人】日本酪農協同 株式会社
- 【被請求人代理人】小谷 昌崇
- 【被請求人代理人】川瀬 幹夫
- 【被請求人代理人】並川 鉄也
- 審判長/審判官
- 審判長 高野 和行
- 審判官 豊瀬 京太郎
- 審判官 板谷 玲子
- 分類
- T111 .13 -Y (W29) / T111 .18 -Y (W29) / T111 .22 -Y (W29) / T111 .272-Y (W29)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 商標法3条1項3号商標法4条1項7号商標法4条1項16号商標法46条1項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第3条第1項、商標法第4条第1項第7号、商標法第3条第1項第3号、商標法第4条第1項第16号、商標法第3条第1項第1号、商標法第3条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の登録第6375329号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 本件商標
本件登録第6375329号商標(以下「本件商標」という。)は、「至福のギリシャ」の文字を標準文字で表してなり、平成31年1月25日に登録出願、第29類「ギリシャ国の伝統製法によるヨーグルト」を指定商品として、令和3年3月29日に登録査定がされ、同年4月9日に設定登録されたものである。
第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第23号証(枝番号を含む。なお、枝番号を有する証拠において、枝番号のすべてを引用する場合は、枝番号の記載を省略する。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、商標法第3条第1項柱書に違反し、同項第3号、第4条第1項第7号及び同項第16号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効にすべきものである。
2 アンケートについて
請求人が調査会社を通じて実施したウェブアンケート(甲2)(以下「本件アンケート」という。)の内容は、一般消費者の認識を示す事実として、商標法第3条第1項柱書、同項第3号、第4条第1項第7号及び同項第16号違反を基礎づける重要な事実といえるため、本件アンケートの結果を概説する。
(1)「至福のギリシャ」に対する認識
ア 調査対象である月に1度以上ヨーグルトを食する一般需要者の男女計2000名のうち、「至福のギリシャ」のヨーグルトを喫食したことがある者は79名であり、このうち、19名(24.1%)が、「至福のギリシャ」という名称を、「ギリシャで製造された又はギリシャ産の乳原料を用いている」と理解しており、ギリシャを産地に関連づけて理解している。
他方で、「水切りヨーグルト」と関連づけて理解している者は、79名中、8名に留まり、いわゆる「ギリシャヨーグルト」がいかなるヨーグルトかの理解が進んでおらず、「至福のギリシャ」の喫食経験があるにもかかわらず、ギリシャを製法とは必ずしも結びつけて理解していないといえる。
イ 調査対象のなかで、ヨーグルト「至福のギリシャ」の喫食経験がない1921名のうち、「至福のギリシャ」の名称からヨーグルトを想起できた者は607名で、3分の1を下回っている。そして、このうち111名(18.5%)が「ギリシャで製造又はギリシャ産の乳原料を使用」しているとギリシャ産と関連づけて回答している。
他方で、「至福のギリシャ」が水切りタイプのヨーグルトを意味すると回答した者は607名中62名であり、「至福のギリシャ」をヨーグルトと考えた者のうち1割しか、ヨーグルトが水切り製法であると製法に結び付けて理解していない。
また、「至福のギリシャ」を喫食した経験のない者1921人に対して、「至福のギリシャ」の産地について問いかけたところ、「ギリシャ」と答えた需要者は731人(38.1%)、「日本」と答えた需要者は544人(28.3%)、「わからない」と答えた需要者は666人(34.7%)である。
(2)「ギリシャヨーグルト」についての認識
ア 調査対象のうち586名(29.3%)が、ギリシャヨーグルトがどのようなヨーグルトであるか「わからない」と回答した。つまり、「ギリシャヨーグルト」がいかなる特性のヨーグルトを示すのかを具体的に結び付けて理解しておらず、3割近くの者は、「ギリシャヨーグルト」が、特定のタイプのヨーグルトとして認知していないという実態が明らかとなった。
イ 「ギリシャヨーグルト」と称される商品が「水切りタイプ」の製法にかかわる特徴を意味しているヨーグルトを指すと回答した者は、調査対象のうち164名(8.2%)であり、製法と結びつけて理解する者は10%を大きく下回っている実態が明らかになった。
一般需要者にとっては、「ギリシャヨーグルト」という文言はヨーグルトのタイプを見分ける品質表示としては、いまだ十分には機能していないことが確認された。
ウ 調査対象のうち216名(10.9%)が、「ギリシャヨーグルト」について、「ギリシャで製造」又は「ギリシャ国産の乳原材料を使用している」と認識しており、「ギリシャヨーグルト」を、ギリシャを産地とする意味合いに関連づけて認識している者が1割余存在している。
(3)ギリシャからのヨーグルトの輸入状況に関する需要者の認識
ギリシャからどのような乳製品が輸入されていると思うか、との質問に対して、「ヨーグルト」と回答した需要者は調査対象のうち508人(25.4%)であった(甲2)。
実際に、新型コロナ以前には、ギリシャから日本へは、毎年5~10t程度ヨーグルトが輸入され(甲14)、ギリシャという遠国からであっても輸入されることが現実にある(甲14、甲15)。
してみると、「ギリシャがヨーグルト」という文言に触れたとき、ギリシャが産地に関わっている、と観念される可能性があることは自然な発想であり、現実の輸入実体どおりに、ギリシャがヨーグルトの産地として日本において理解されることがあること自体は合理性があり、何ら不自然ではないことが本件アンケートからも確認された。
3 商標法第3条第1項第3号について
(1)「ギリシャ」との国家名に接した需要者は本件商標が付された商品がギリシャ産であると誤解すること
本件商標には、国家名の「ギリシャ」が含まれている。
ギリシャは日本人によく知られた国家名であるところ(甲17)、商標審査便覧41.103.01に記載されているとおり(甲19)、国家名は原則として産地等として扱われることから、産地等に無関係な指定商品についての登録はそもそも許されるべきではない。
また、ギリシャは農業・酪農が盛んな国であることから、教科書にも「農耕や牧畜に適した気候」と紹介されており(甲17)、ヨーグルトが一定量ギリシャから日本に輸入されてきた実績もある(甲14)。
そこで、ヨーグルトなどの乳製品について「ギリシャ」を商標中に用いれば、需要者は、当該乳製品が産地の「ギリシャ」と関わりがあるであろうと理解するのが極めて自然といえる。
事実、本件アンケートにおいて、回答者の中には「至福のギリシャ」の名称の商品をギリシャが産地に関わると誤解している者が38.1%もあり、極めて多数で無視しがたい割合である(甲2)。「至福のギリシャ」の喫食経験がある者ですら、その24.1%がギリシャを産地に関連づけて誤解していることが判明している(甲2)。
そもそも需要者が商品名を目にしたとき、それが国家名であれば、容易に場所に関わることを理解するものであり、国家名たる「ギリシャ」を手掛かりに「至福のギリシャ」を解釈するのは当然のことである。
仮にヨーグルトそのものがギリシャで生産されてはいないと考える場合でも、ギリシャ産の乳原材料を用いて製品化していると想定している者もいるのであって、産地に関わるとの認識があることは否定しがたい(甲2)。
さらに、指定商品を「ギリシャ国の伝統製法によるヨーグルト」とした場合、その具体的な製法がいかなるタイプのヨーグルトに関わるのかがそもそも理解されていないので(甲2)、需要者は伝統製法をギリシャで実施していると考えてしまう場合もありうる。かかる補正後の指定商品の限定は、産地のギリシャから離れる要素ではないため、製法として意味が不明なままであり、産地を誤解する点を解消する観点では何ら機能していない。
このように、「至福のギリシャ」には、産地の手がかりとなるギリシャが含まれていると需要者に認識されることとなっている以上、「ギリシャ国の伝統製法によるヨーグルト」は、それ以外の産地を含むものであって、不適切といえる。これらの事実を捨象することは不自然であり、本件アンケートにも裏付けられている事実であるから、これを無視することは到底許されるものではない。
以上のことから、本件商標をギリシャ産以外の商品に用いれば、需要者を誤認させるおそれが合理的に認められるものであって、需要者が産地に結びつけて理解している現状からすれば、本件商標は、商標法第3条第1項第1号(審決注:同項「第3号」の誤記と思料する。)に違反している。
(2)ギリシャが日本人に歴史的に馴染みある国家名・地名であること
ギリシャは、日本人にとって馴染みある国家名であり(甲17、甲18)、海外からの観光客が多いから(甲23)、知名度が高いことは明らかである。
(3)ギリシャ産のヨーグルトが現に日本国内で流通していること
ギリシャは、実際に日本において流通しているヨーグルトの産地の1つでもあるから、標章中に「ギリシャ」という国家名を含むときには、原則どおりに、これを目にした需要者が産地として認識することは自然な発想、理解といえるものであって、これを否定するべき理由もない。
4 商標法第4条第1項第16号について
(1)「至福のギリシャ」がギリシャ産以外の商品に用いられる場合に商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標であること
「ギリシャ国の伝統製法によるヨーグルト」とは、出願過程で、商標権者が自らの選択により補正した指定商品の表記である。
もっとも、「ギリシャ国の伝統製法」自体は抽象的な用語であり、いかなる内容が「伝統製法」であるのかをそもそも需要者が理解することができない。抽象的かつ曖昧で、具体的な製法の適示を含まないことから、権利範囲を適切に理解することができない。およそ意味が不明な限定であるから、伝統製法が意味する品質が需要者において誤解されるおそれがある。
また、ギリシャという文言を含むことで招来される産地にかかわる誤認混同を回避することには何ら寄与しておらず、ギリシャ国の伝統製法だから、ギリシャが含まれていてもいい、という都合のよい解釈は成り立つ余地がない。
「至福のギリシャ」について、ギリシャを産地と関わると回答した者が38.1%も存在している本件アンケート結果(甲2)に鑑みると、本件商標はギリシャを足掛かりに産地と結びつけて需要者が理解することが避けられず、一定数の割合で誤解されることが否定しがたいところである。
仮に、意味の不明なギリシャ国の伝統製法なるものが観念できるのだとしても、それらの製造方法を用いて日本国内で生産したものであってもなお、産地に対する需要者の認識と齟齬を来たしたままであり、産地に対する誤認を生じさせたままとなるおそれが高い。
また、公正競争規約における原産地の誤認に関する規定(甲7)に鑑みると、地名よりも上位の国名「ギリシャ」の表記は、原産地国を想起させるため、産地に関して誤認するおそれが極めて高いといえる。ヨーグルトに関しては、業界団体の自主基準として、「発酵乳・乳酸菌飲料の表示に関する公正競争規約及び同施行規則」が規定されている(甲7)。
同規約第4条第2項には、原産地に関して不当な表示とならないよう、「その原産国について誤認されるおそれがあるものにあっては、施行規則に定める基準により、原産国を明瞭に表示しなければならない。」と規定し、同施行規則第14条第1項第(1)号において、国産の製品が原産国を誤認させるおそれがある表示として、3つの態様をあげており、本件商標は、「ギリシャ」が含まれる点で、当該態様のうち、外国の地名またはこれらに類するものの表示に該当するものであって、本件商標の態様であれば、原産地を誤認させるおそれがある表示にあたることを示唆する資料といえる。
なお、公正規約施行規則においては、具体的な使用の際に、原産地であることの誤認がないように打ち消す表示がある場合の取扱いについて、同施行規則第14条第1項第(2)号に規定している。この点、商標権者の製造販売する「至福のギリシャ」には北海道の材料を使用している旨の記載があるが、同商品を喫食した経験がある者のうち、一定数の者がギリシャを産地と関連づけて理解している(甲2)のであるから、上記程度の記載では、打消し表示としては十分ではないことが明らかとなるに留まらず、むしろ、「ギリシャ」という文字のインパクトが非常に強い状況であることを端的に示しており、依然として需要者が誤認する状況といえるものといえる。このように、産地として、国名「ギリシャ」は誰にもわかりやすく、インパクトが強いのである。
そこで、「至福のギリシャ」をギリシャ産以外の商品に用いた場合には、商品の品質を誤認させる。
(2)「水切りタイプのヨーグルト」は「ギリシャ国の伝統製法によるヨーグルト」ではないこと
ア 従来流通していたヨーグルト市場(甲5、甲6、甲20)において、近時、従前とは異なる濃厚なタイプのヨーグルトが国内市場に出回り始めている。それらの具体的な製法は1つではないものの、以下では「水切りタイプ」と称するが、水切りタイプのシェアは、ヨーグルト市場において僅か数%程度にすぎず、市場占有率は極めて低い(甲3)。
ギリシャで流通するヨーグルトには、水切りタイプがあるが、それ以外にも、プレーンヨーグルトやフローズンヨーグルトが製造販売されており、態様に応じて製法も様々であるから、水切りタイプの製法が伝統として特定できるものではない。
また原材料も、もともとは乳牛ではなくヤギの生乳が利用されていたのであるから、なにが伝統製法であるかとなれば、牛乳である時点で伝統的かが疑問となりかねず、非常に明確ではない。こうした指定商品は審査官の誘導に従わずに、商標権者自らが積極的に補正したものである(甲12)。
さて、日本における水切りタイプの製法のヨーグルトとは、工業的な製法であり(甲21)、自重での自然な水切り製品とは異なる風味となるのであるから、伝統的な水切りタイプとは品質的な違いがあることは自明である。また、製法が異なるのであるから、これらの工業的な製品は伝統製法で製造されていることはない。あくまで似て非なるものであって、伝統製法ではない。
イ 本件は商標登録にかかる商標中に「ギリシャ」を用いているだけであって、商標中に「ギリシャヨーグルト」といった語句を組み合わせて用いているわけではないため、「至福のギリシャ」の「ギリシャ」がヨーグルトという商品に用いられている場合に、短絡的に「ギリシャヨーグルト」のことだ、といった水切りタイプのヨーグルトと関係づける認定をすることは不適切である。
「至福のギリシャ」というヨーグルトについて「ギリシャ産」であるとの回答が38.1%と多数存在していることが確認された本件アンケートの結果(甲2)からは、「至福のギリシャ」というヨーグルトが「ギリシャ産」であると認識している需要者が一定数存在しているであろうことは明らかである。「至福のギリシャ」のギリシャは、産地としても理解されている実情からすれば、短絡的にギリシャヨーグルトに結びつけてはならないことは明白である。また、「至福のギリシャ」がヨーグルトだと認識した者のなかで、「水切りタイプ」のヨーグルトであると認識していた者は、10%にすぎなかった(甲2)。
さらに、そもそも「ギリシャヨーグルト」自体が、一体どのようなヨーグルトであるのかについて、業者が宣伝しているようには理解が進んでおらず、少なからず「ギリシャヨーグルト」自体もギリシャ産であると誤解している者がいることは否定しがたい事実である。
実際、29.3%の回答者がそもそも「ギリシャヨーグルト」という語句の意味合いが選択肢を呈示したにもかかわらず「わからない」と回答している(甲2)。そして、ギリシャヨーグルトを食したことがある者が35%も回答にあるにもかかわらず、ギリシャヨーグルトが水切りタイプであると回答できた者は、わずか8.2%にすぎない(甲2)。
日本国内の製造販売業者の中には、その宣伝活動において、水切りタイプのヨーグルトのことを「ギリシャヨーグルト」と称すると喧伝しているものがいることは事実であるが、重要なことは、製造業者の宣伝文句上の言い分そのものではなく、需要者である一般消費者の認識である。本件アンケート(甲2)の結果、日本において「ギリシャヨーグルト」が用語として浸透がまだまだ図られていないことは明らかである。
加えて、水切りタイプのヨーグルトの日本国内でのマーケットシェアはいまだに低く、わずかに数%であるから(甲3)、商品そのものが日本国内では需要者に大きくは浸透しているとはいえない。日本ではドリンクタイプなどの売れ行きが好調であり(甲4)、マーケットシェアに鑑みても、水切りタイプのヨーグルトが日本では少数派である。
欧州において、ギリシャヨーグルト(Greek Yoghourt)とは、文字どおり、ギリシャ産のヨーグルトを指すものであると理解が進みつつある現状を無視してはならない(甲16及び後述6参照)。
(3)小括
以上のことから、単に伝統製法という抽象的な記載では、いかなる手法であるのかを需要者は具合的に区別して理解することができないこととなるので、製法とは関係がない品質の商品であっても、本件商標が付されれば、あたかも伝統製法による品質であると誤認するおそれが高い。
5 商標法第3条第1項柱書について
本件商標の商標権者は、乳製品を日本国内で製造し、販売している会社である。本件商標の出願過程において、「「ギリシャ産の商品」以外の商品について使用するときは、商品の品質について誤認を生じさせる」と指摘を受け、「ギリシャ産」とするよう補正の示唆された(甲11)にもかかわらず、意図的に示唆とは異なる「ギリシャの伝統製法による」との補正をしたものであって(甲12)、日本国内で製造する製品に付すことを前提に都合よく補正しようとした意図であると指摘せざるを得ない。
ギリシャとは産地が関係なく、水切りタイプと称しつつも実際には、蛋白質を添加するなどしており(甲13)、自社の製品がギリシャの伝統製法そのものではないことも認識しているはずといえる。
加えて、蛋白質を添加する製法が伝統製法ではないことは、商標権者が出願人となって新たなヨーグルトの製法を特許出願に及んでいた事実からも明らかである(甲21)。既に伝統製法であるならば、そもそも特許性がないこととなるだけであり、出願することはないはずである。つまり伝統製法でないことは商標権者の出願行動からも明らかである。
商標権者は自身が使用する予定がない指定商品であると承知しているにもかかわらず、産地に限定する補正示唆にしたがわず、あえて伝統製法といった記載に補正したものの、そもそも伝統製法とは全く異なる商品に用いる意図で商標出願をしたものにすぎない。
本件商標は、自己の業務にかかる商品に使用する意思がなかったことが合理的に明らかであるから、商標法第3条第1項柱書に違反して登録されたものである。
6 商標法第4条第1項第7号について
(1)商標権者は既に「至福のギリシャ」を商品に用いて展開しているが(甲10、甲13)、ギリシャ産ではなく日本国産のヨーグルトに用いられており、出願当初から国内の原料で製造したヨーグルトに用いる意図であったことは明白である。しかし、ギリシャを含む本件商標に接した一般需要者のうち一定数の者が、産地に結び付けて商品の品質を想起する蓋然性があることは否定しがたい(甲2)。
加えて商標権者が販売する「至福のギリシャ」を付したヨーグルトは、乳たんぱくを添加している点で、伝統製法でないことは明らかであるから(甲13)、伝統製法での製造事実がなく、その意思もないことは明らかである。
こうした商標権者の本件商標の使用は、産地や製法と関係がない製品に用いられているものであるから、およそ需要者の信頼を裏切るものである。そこで、本件商標を取得することは、社会公共の福祉に反し、一般的な道徳観念にも反するものであるといえる。
(2)本件商標にかかる指定商品には、ギリシャ産ではないヨーグルトが許容されてしまっている。「ギリシャ」という国家名が含まれている本件商標の登録が認められていることは、産地との一般需要者の信頼を裏切るばかりか、ギリシャ国並びにギリシャ国民を侮辱するものであって、一般的な国際信義にも反するものである。
ギリシャ国は本件登録に対して従前から異議を申し立てており、ギリシャ国が国際信義に反すると懸念していることは明白に表明している(甲16)。そこで、かかる懸念は真摯に受け止められるべきである。
(3)ア「ギリシャ」は国家名であり、ヨーグルトという一般商品名と組み合わせる場合には、こうした名称は産地を意味するのが自然であるから、こうした理解を前提にすることは、地理的表示などが保護されつつある国際的趨勢とも合致するものといえる。
地理的表示の保護は、TRIPs協定第22条にも保護が規定されているものである。「ギリシャ」は国家名であり、国家の一地域の地名とは知名度が次元を異にするほど知られている。TRIPs協定第22条第3項の趣旨に鑑みると、利害関係人であるギリシャ国の申し立てにより、「ギリシャ」を含む本件商標について、ギリシャを産地としない商品について無効を申し立てているのであるから、本件商標がギリシャを産地としない場合を含んでいる点において、国際信義に反することは明白である。
イ 現に、このような「ギリシャ」を産地を示すものとして保護する動きは、英国、EU諸国において広く見られる。
(ア)英国ではギリシャヨーグルトはギリシャ産にのみ用いること
第1に英国では、裁判によって、ギリシャヨーグルトという表記についてギリシャ産以外のヨーグルトに対して用いることは適切ではないことが判示されている(甲9、甲8)。英国は判例法主義であることから、この判決以後、「ギリシャヨーグルト」の使用は、ギリシャ産に限られている。
英国での訴訟は、英国産のヨーグルトにGREEK YOGURUTと記載することが顧客をミスリードさせるとして、不正盗取(passing off)を理由とした損害賠償請求訴訟であり、英国ではギリシャヨーグルトの相当部分の購入者は、ギリシャ産だと考えていると結論づけた。
たしかにこの裁判は英国での事件に留まるが、英国では、「ギリシャヨーグルト」が濃厚でクリーミーな質感を備えたヨーグルトであるという品質に関する理解が人々に備わった状況であったことは明らかであるにもかかわらず、こうした濃厚でクリーミーな質感のヨーグルトを「ギリシャヨーグルト」と呼ぶ場合には、依然として、これがギリシャで製造されているもの、と考える人が多い事実を示すものである。
日本では、「ギリシャヨーグルト」が水切り製法による濃厚でクリーミーな質感であることについての理解が深まっているとはいい難いが(甲2)、仮にそうした理解が深まった場合でさえ、なお依然として「ギリシャ産だからギリシャヨーグルトなのだ」と発想、理解することが不自然でないことを強く推認させる判断として示唆に富んでいる。原産地としての認識がそう簡単には覆らないことを示すものである。
(イ)EU諸国でも欧州規則によりギリシャヨーグルトはギリシャ産と解されていること
欧州(EU)においても、欧州議員が、欧州委員会における質疑をしており(甲22の1)、2018年の欧州委員会からの答弁(甲22の2)が示すとおり、EUでは、「ギリシャヨーグルト」とは「ギリシャ」で生産されたヨーグルトを意味する、との理解が確立しつつある状況である。
そして、ギリシャ国政府は、「欧州連合諸国における「ギリシャ」ヨーグルトまたは「ギリシャ風」ヨーグルトの流通」と題する日本語で作成された書面を作成している(甲16)。この書面は、EUにおいてはチェコでギリシャ産以外にも使用する動きがあったため、ギリシャ政府が2019年2月に自国の立場を表明するために作成されたものである。
たしかにEUでは、ギリシャヨーグルトは地理的名称(GI)として保護されてはいない。しかし、相互協定に規定されていないからといって、ギリシャヨーグルトの扱いが日本において軽視されるべき理由はない。なぜなら、欧州各国は既に消費者保護と食品の安全に関わる種々の欧州規則によって、原産国の表示として扱わっているからである。欧州規則は、欧州各国の国内法にとって代わる規定でもあるから、規則に欧州各国は遵うこととなる。そのため、各条約や規則により、ギリシャヨーグルトは、EUでは原産地として消費者に誤解されることがないように扱われる状態にある。
実際、「ギリシャヨーグルト」とはギリシャ産のヨーグルトであるとみなされている状況であることは欧州議会における答弁で明確に欧州委員会が回答しているとおりである(甲22の2)。
そして、チェコにおいて、「ギリシャ」を使っていた国内業者を適法化する動きがあったが、欧州委員会の介入により、解決に進んでおり、チェコ国内法についても撤回に向けて進みつつある(甲16)。
ウ 以上のような、欧州各国の動向を踏まえるならば、日本におけるギリシャヨーグルトの扱いが国際信義に反する結果は望ましくないところである。「ギリシャヨーグルト」という用語ですら、ギリシャを産地と結びつけて理解される事情があるのであって、「至福のギリシャ」のように、「ギリシャ」という国家名が含まれている表記である場合には、「ギリシャヨーグルト」といった製法的な用語ではないから、なおさら、端的に「産地」であるとの考慮がなされるべきである。
(4)以上の理由から、商標法第4条第1項第7号にも該当するので、登録は無効とされるべきである。
第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第9号証を提出した。
1 本件商標について
本件商標は、「至福のギリシャ」7文字を横書きしてなる標準文字であり、その外観はまとまりよく表され、そこから生じる「シフクノギリシャ」の称呼は7音と格別冗長というべきものでもなく、淀みなく簡潔に称呼し得る。
また、本件商標を構成する「ギリシャ」の語が、「ギリシャ共和国」の通称を表す国名であるとしても、「この上もない幸せ」の意味を有する「至福」(乙1)の語と助詞「の」を介して一体に表されていることから、全体で「この上もない幸せの国ギリシャ」程の意味合いを漠然と想起し得る。そして、そのような意味合いに捉えられるとしても、指定商品との関係において内容や品質を直感させるものでもなく、全体として特定の観念を生じない一種の造語として認識されるものである。
2 商標法第3条第1項柱書違反についての反論
そもそも商標法第3条第1項柱書にいう「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」とは、指定商品又は指定役務について、出願人又は出願人の支配下にあると実質的に認められる者が、出願商標を現に使用している場合のみならず、将来において出願商標を使用する意思を有している場合を含むと解される。
被請求人は、日本国内にて牛乳およびヨーグルト等を含む乳製品の製造販売を行っている(乙2)。
また、被請求人がヨーグルトの製法に関する特許出願を行っていることに相違ない(甲21)。
このような被請求人の業種における取扱商品や特許出願状況を踏まえると、本件商標の指定商品について「ギリシャ国の伝統製法によるヨーグルト」と補正することについて、「現に使用している」あるいは「将来において使用する意思を有している」状況が全く想定できないものではない。
したがって、「ギリシャ産」との補正示唆に従わず「ギリシャの伝統製法による」との補正を行った事実や、蛋白質を添加した製法で特許出願していることを理由に、商標法第3条第1項柱書違反に該当するとの請求人の主張は当を得ない。
3 商標法第3条第1項第3号該当性についての反論
(1)本件商標に「ギリシャ」の語が含まれていることを理由に、ギリシャ産と誤解されるものではなく、商標法第3条第1項第3号に該当するものではない。
確かに、商標審査便覧には、「国家名、国家名の略称、現存する国の旧国家名は、原則として商品の産地、販売地(取引地)又は役務の提供の場所(取引地)を表すものとして拒絶する。」との記述がある。
しかしながら、商標法第3条第1項第3号は、「その商品の産地、販売地~略~を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」と明記されており、本件商標「至福のギリシャ」に照らすと、普通に用いられる方法で表示する「ギリシャ」という国家名を表す標章のみからなる商標でないのは明らかである。
前記1で述べたとおり、本件商標は、全体で「この上もない幸せの国ギリシャ」程の意味合いを漠然と想起し得るが、内容や品質を直感させるものでもなく、全体として特定の観念を生じない一種の造語として認識されるものである。したがって、構成中の「ギリシャ」の語のみを抽出し、産地表示として認識、把握されるものではない。
(2)請求人は、本件アンケートの結果をもとに「至福のギリシャ」が、ギリシャに関わると誤解している、または、ギリシャを産地に関連づけて誤解していることが判明したと主張する。
しかし、本件アンケートにおいて、調査対象者の選出方法や、設問に関する調査対象者への質問方法等、具体的な点が明らかではない。そもそも、「ヨーグルトを月1回以上食べている」という調査対象者に対しても、あらかじめ「ギリシャヨーグルト」「至福のギリシャ」に関するアンケートであるとの事前情報の有無によっても調査結果が変わる可能性は否定できない。また、設問に関する回答も、あらかじめ用意された選択肢から複数選ばせるといった調査方法の場合、恣意的に「ギリシャ産」「ギリシャ発祥」といった「ギリシャ」に関連付けた回答に誘導することも可能であるため、アンケート調査の信憑性に欠ける。
よって、本件アンケートの調査結果が、本件商標が付された商品がギリシャ産であると誤解することの直接的な裏付けとなるものではない。
ちなみに、ギリシャの知名度の高さが、本件商標がギリシャ産であると誤解することへの理由付けとなるものではない。
さらに、請求人提出の資料(甲4)によると、ヨーグルトの国内市場規模について、2017年度のギリシャから日本へのヨーグルトの輸入額は、同年のヨーグルト国内市場における約10万分の1という極めて少ない金額に過ぎず、その流通量は微量でしかなく、「ギリシャは、実際に日本において流通しているヨーグルトの産地の1つでもある。」、「標章中に「ギリシャ」という国家名を含むときには、原則どおりに、これを目にした需要者が産地として認識することは自然な発想、理解といえる」との主張は到底認められない。
(3)以上の点からも、本件商標中に「ギリシャ」の語を含むことのみをもって、商標法第3条第1項第3号に該当するとの請求人の主張は失当である。
4 商標法第4条第1項第7号該当性についての反論
(1)被請求人(本件商標権者)が販売するヨーグルト製品「至福のギリシャ」のウェブサイトの製品紹介頁(甲10)には、「北海道産の水切り乳原料を使用し、コクのある味わいと贅沢な食べごこちが特徴のギリシャスタイルヨーグルトです。」の記載があり、製品のパッケージ(甲13)にも「北海道産水切り乳原料を使用した/なめらかな口当たりの/ギリシャスタイルヨーグルトです。」の表示が認められるとおり、当該製品がギリシャの伝統製法である水切り製法を利用した原料を使用したヨーグルト製品であることは明らかである。
よって、被請求人の商品について、そもそも乳たんぱくの添加の有無が、本件商標の指定商品とは全く異なる商品であるか否かの焦点となるものではなく、仮に乳たんぱくを添加した商品であっても、伝統製法を用いて製造していると需要者に誤認させることを想定して商標登録を受けたという請求人の主張は失当である。
(2)請求人は、地理的表示の保護の観点から、英国の判例やEU諸国の動向を例に挙げて、「ギリシャヨーグルト」が「ギリシャで生産されたヨーグルトを意味する」との理解が確立しつつある状況を述べている。
しかし、本件商標が「ギリシャ国の伝統製法によるヨーグルト」を指定商品として登録に至った事実と、上記主張との関連性は見当たらないばかりか、当該製品のウェブサイトや製品のパッケージデザインにおいても、「ギリシャヨーグルト」との表記は無く、その点についても全く関連性がない。
以上の点からも、本件商標の構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような構成態様ではないことは明白である。
また、本件商標をその指定商品について使用することが、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものでもなく、他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されているものでもない。
さらに、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反するものでもなく、上述のとおり、当該商品自体が本件商標の指定商品とは全く異なる商品というものではない。
加えて、被請求人が、需要者に誤認させることを想定して商標登録を受けたものではないことから、当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠く等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような事情も存在しないことは明らかである。
(3)したがって、本件商標が、商標法第4条第1項第7号に該当するとの主張は失当である。
5 商標法第4条第1項第16号該当性についての反論
(1)本件商標からは、「この上もない幸せの国ギリシャ」程の意味合いを漠然と想起し得るが、指定商品との関係において内容や品質を直感させるものでもなく、全体として特定の観念を生じない一種の造語として認識されるべきであるという点については前述のとおりである。よって、「ギリシャ」の文字が、産地表示として認識され、把握されるものではない。
(2)なお、本件アンケートの結果から、「至福のギリシャ」について、ギリシャを足掛かりに産地と結びつけて需要者が理解することが避けられず、一定数の割合で誤解されることが否定しがたい旨述べているが、前述のとおり、本件アンケートの調査結果については、恣意的に「ギリシャ」に関連付けた回答に誘導し得ることも否定できない。
よって、調査結果自体が、本件商標が付された商品がギリシャ産であると誤解することの裏付けとなるものではない。
また、請求人は、公正競争規約における原産地の誤認に関する規定(甲7)を示し、本件商標が、原産地を誤認させるおそれがある表示にあたると主張する。
なお、公正規約施行規則における、原産地の誤認がないように打ち消す表示がある場合の取扱いについても言及し、北海道の材料を使用している旨の記載があることを認めつつも、「ギリシャ」の文字のインパクトが非常に強く、打消し表示としては十分でないと主張する。
しかしながら、請求人の商品パッケージ(甲13)には、「原材料名:乳製品(国内製造)、乳、乳たんぱく/製造者:日本酪農協同株式会社/滋賀工場大津市あかね町3番1号」と明記されており、同施行規則第14条第1項第(2)号に則った記載方法で対応していることは明らかである。
したがって、仮に、「ギリシャ」が商標中に含まれていたとしても、請求人の商品における記載は、打消し表示として何ら問題はなく、原産地を誤認させるおそれがある表示とはいえない。
さらに、請求人は、ギリシャで流通するヨーグルトには、水切りタイプ以外の製法もあり、水切りタイプの製法が伝統として特定できるものではないと述べ、また、国内市場においても、「水切りタイプ」の製法によるヨーグルトが出回り始めているものの、現在の工場生産を効率化した方法が伝統的な水切りタイプとは異なるのは明らかとし、それらは似て非なるものであって、伝統製法ではないと主張する。
そして、本件アンケートの調査結果から、ギリシャヨーグルトが水切りタイプであると回答できたものが8.2%であったことを一般消費者の認識としてとらえ、ギリシャヨーグルトという用語自体、水切りタイプの濃厚なヨーグルトを意味するといった理解が一般的に定着していないとの判断に至っている。
しかしながら、国内市場において「ギリシャヨーグルト」として流通する製品が、「水切り製法」というギリシャヨーグルトの基本製法を踏襲していることは事実であり、そのうえで、牛乳の使用、圧力をかけて脱水する製法、蛋白質の添加といった製法が加わるとしても、それは、工場での大量生産という現在の事情を考慮するならば、ある程度致し方ないものであり、仮に製造の全行程が伝統製法に沿ったものでないとしても、それは許容される範囲での変化として認識されるべきものである。
また、本件アンケート調査の具体的な方法については、前記3(2)で述べたとおり詳細が不明であり、ギリシャヨーグルトとは水切りタイプであるとの回答の割合が少ない結果をもって、そこから「ギリシャ産」であると認識している需要者が一定数存在しているであろうことが明らかである、との結論にはなり得ない。
ちなみに、本件商標の指定商品については、出願時の拒絶理由通知を受けて補正に至ったものであるが、本件以外にも、同様の指定商品が認められて登録に至った事案(乙3、乙4)や、「ギリシャ風ヨーグルト又はギリシャ国の伝統製法によるヨーグルト」といった指定商品が認められて登録に至った事案も複数存在する(乙5~乙9)。
したがって、本件商標についても、商標中に「ギリシャ」の語を含んでいることを理由に「ギリシャ産」であるとの誤認を生じさせるものではない。また、実際の商品内容においてもギリシャの伝統製法である「水切り製法」によるヨーグルトに使用していることからも、誤認は生じ得ない。
(3)したがって、本件商標が、商標法第4条第1項第16号に該当するとの主張は当を失する。
6 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項柱書違反、同法第3条第1項第3号、同法第4条第1項第7号または同項第16号に該当するものではない。
第4 当審の判断
1 本件審判の請求の利益
請求人が本件審判を請求することについて、被請求人は利害関係について争っておらず、また、当審は請求人が本件審判を請求する利害関係を有するものと認める。
よって、本案に入って審理し、判断する。
2 本件商標について
本件商標は、前記第1のとおり「至福のギリシャ」の文字を標準文字で表してなり、「この上もない幸福」の意味を有する「至福」の文字(「三省堂国語辞典 第八版」株式会社三省堂)と「バルカン半島の南端部とクレタ島などを領土とする共和国。」を意味する「ギリシャ」の文字(前掲書)とを、助詞「の」を介して一体的に構成される結合商標であって、構成全体として「この上もない幸せの(バルカン半島の南端部の)国ギリシャ」程の一つのまとまりのある意味を理解させるものである。
3 商標法第3条第1項第3号について
(1)商標法第3条第1項第3号該当性について
ア 商標法第3条は、商標登録の要件についての規定であり、同条第1項各号に掲げられているような商標でないことを登録の要件としているところ、同項第3号には、「その商品の産地、販売地、品質・・・を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」とある。
イ 本件商標は、前記2のとおり、「至福のギリシャ」の文字よりなる結合商標であって、構成全体として「この上もない幸せの(バルカン半島の南端部の)国ギリシャ」程の意味を理解させるものである。
そして、本件商標から上記意味を理解させるとしても、それは漠然とした意味合いであって、その指定商品の産地、品質等を表示するものとはいえない。また、本件商標の指定商品を取り扱う業界において、本件商標を構成する文字が、商品の産地、品質等を表示するものとして一般に使用されている事実はもとより、本件商標に接する取引者、需要者をして商品の産地、品質等を表示するものと認識するというべき事情も見いだせない。
そうすると、本件商標をその指定商品に使用しても、商品の産地、品質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とはいえない。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当しない。
(2)請求人の主張について
請求人は、商標審査便覧を引用し、「国家名は原則として産地等として扱われることから、産地等に無関係な指定商品についての登録はそもそも許されるべきではない。」旨主張する。
しかしながら、本件商標は、「ギリシャ」の文字のみからなる標章ではなく、国家名ないしは国家名の略称それ自体ではないから、前記(1)イのとおり判断するのが相当であって、上記請求人の主張は当を得ない。
4 商標法第4条第1項第16号について
(1)商標法第4条第1項第16号該当性について
ア 商標法第4条第1項第16号でいう、「商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」とは、指定商品又は役務に係る取引の実情の下で、公益性を担保するという観点から、取引者又は需要者において、当該商標が表示していると通常理解される品質又は質と、指定商品が有する品質又は役務が有する質とが異なるため、商標を付した商品の品質又は役務の質の誤認を生じさせるおそれがある商標を指すものというべきである。(参考:知的財産高等裁判所 平成20年(行ケ)第10086号 平成20年11月27日判決)
そして、同号でいう、商品の品質又は役務の質とは、抽象的な内容のものを指すのではなく、取引者、需要者が当該商標から看取する直接的、具体的な商品の品質又は役務の質をいうものとみるのが相当である。
イ 本件商標は、前記2のとおり、「至福のギリシャ」の文字よりなる結合商標であって、構成全体として「この上もない幸せの(バルカン半島の南端部の)国ギリシャ」程の意味を理解させるものである。
そうすると、本件商標に接する需要者は、一義的には本件商標を上記の意味を有する一体的な商標として把握するというのが相当であって、本件商標の構成中の「ギリシャ」の文字のみを捉えて、当該文字部分を産地表示として認識、把握するとはいい難いものである。
また、商品「ヨーグルト」を取り扱う業界の実情を踏まえ、本件商標に接する需要者が、その構成中の「ギリシャ」の文字に着目した場合を検討しても、本件商標を使用する商品が「ギリシャ国産」の商品であると限定、特定して認識するというべき事実は見いだせず、当該商品とギリシャ国との何らかのつながりを想起ないしは理解するにとどまるものといえる。そして、本件商標の指定商品である「ギリシャ国の伝統製法によるヨーグルト」については、文字どおりギリシャ国と関係するものであるから、需要者が想起ないしは理解する商品と異なるものとはいえない。
なお、本件アンケートの結果についてみても、「ギリシャ国産」の商品等のように産地表示と理解する者が2割前後にとどまるほか、製法と関連付けて理解する者が1割程度存することは、上記認定に沿うものといえる。
以上からすると、本件商標に接する取引者、需要者が、その構成から直接的、具体的な商品の品質を看取するとはいい難く、その誤認を生ずるおそれがあるともいえない。
そうすると、本件商標は、その指定商品に使用しても、商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標ということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当しない。
(2)請求人の主張について
ア 請求人は、「ギリシャ国の伝統製法」自体が抽象的な用語であり、いかなる内容が「伝統製法」であるのかをそもそも需要者が理解することができず、伝統製法が意味する品質が需要者において誤解されるおそれがあること、日本における水切りタイプのヨーグルトの工業的な製法は伝統製法ではないことなどを述べ、「製法とは関係がない品質の商品であっても、本件商標が付されれば、あたかも伝統製法による品質であると誤認するおそれが高い」旨主張する。
しかしながら、前記(1)イのとおり、本件商標は、構成全体として「この上もない幸せの(バルカン半島の南端部の)国ギリシャ」程の意味を理解させる一体的な商標として把握するというのが相当である。また、たとえ本件商標構成中の「ギリシャ」の文字に着目した場合を検討しても、当該商品とギリシャ国との何らかのつながりを想起ないしは理解させるにとどまるものといえ、その指定商品である「ギリシャ国の伝統製法によるヨーグルト」については、文字どおりギリシャ国と関係するものであるから、本件商標から需要者が想起ないしは理解する商品と異なるものとはいえないものである。そうである以上、本件商標が表示していると通常理解される品質と、指定商品が有する品質とが異なるとはいえないのであって、本件商標は、その指定商品に使用しても、商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標ということはできない。
イ 請求人は、「「至福のギリシャ」について、ギリシャを産地と関わると回答した者が38.1%も存在している本件アンケート結果(甲2)に鑑みると、本件商標はギリシャを足掛かりに産地と結びつけて需要者が理解することが避けられない」旨主張する。
しかしながら、本件アンケート全般の調査手法が適切か否かは措くとしても、上記回答は、「「至福のギリシャ」の産地はどこだと思いますか。」という設問、すなわち、「至福のギリシャ」の文字から何を理解するかを問うものではなく、産地としては何処と思うのかを問うものに対する回答である点において、本件商標がギリシャ国産を表示するものと理解されることの証左としては、評価することができない。また、上記設問にあっても、「日本」と回答した者が28.3%、「わからない」と回答した者が34.7%存在していることからしても、本件商標がギリシャ国産の商品を表示するものと一般に理解されるということはできない。
ウ したがって、請求人の上記主張は、いずれも採用することができない。
5 商標法第3条第1項柱書について
商標法第3条第1項柱書にいう「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする」とは、現に行っている業務に係る商品又は役務について、現に使用している場合に限らず、将来行う意思がある業務に係る商品又は役務について将来使用する意思を有する場合も含むと解するのが相当である。
そこで検討するに、本件商標権者は、ヨーグルト製品の製造者であり(甲10、甲13)、「濃厚ヨーグルト、及び濃厚ヨーグルトの製造方法」に関する特許の出願人でもある(甲21)ことからすれば、本件商標をその指定商品である「ギリシャ国の伝統製法によるヨーグルト」について、現に使用している、あるいは、将来使用する意思を有するとみるのが相当であって、現に行っている業務に係る商標あるいは将来自己の業務に係る商標として使用する意思が全くないとみることはできない。
したがって、本件商標が商標法第3条第1項柱書の要件を具備しないということはできない。
6 商標法第4条第1項第7号について
(1)商標法第4条第1項第7号該当性について
ア 商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、<1>その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、<2>当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、<3>他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、<4>特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、<5>当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきである。(参考:知的財産高等裁判所 平成17年(行ケ)第10349号 平成18年9月20日判決)
イ 請求人は、「商標権者の本件商標の使用は、産地や製法と関係がない製品(乳たんぱくを添加している点で、伝統製法でないことは明らかな製品)に用いられているものであるから、需要者の信頼を裏切るものであり、本件商標の取得は、社会公共の福祉に反し、一般的な道徳観念にも反する。」旨、及び、「ギリシャ産ではないヨーグルトが指定商品に許容されている本件商標に、「ギリシャ」という国家名が含まれていることは、ギリシャ国並びにギリシャ国民を侮辱するものであって、一般的な国際信義にも反する。」旨を主張するので、以下検討する。
まず、前記4(1)からすれば、本件商標を使用する商品がギリシャ国産の商品であると需要者が限定、特定して認識するとはいえず、また、本件商標に接する需要者が想起ないしは理解し得る範ちゅうの商品である「ギリシャ国の伝統製法によるヨーグルト」に使用するものであるから、本件商標は、たとえギリシャ国産ではない商品に使用されたとしても、需要者の信頼を裏切るものとはいえない。
さらに、そもそも本件商標は、「この上もない幸せの(バルカン半島の南端部の)国ギリシャ」程の一つのまとまりのある意味を理解させるものであって、ギリシャ国に対する肯定的なイメージを表現するものであるとはいえるとしても、上記のとおり、我が国の需要者において、本件商標をギリシャ国産の商品をいうものであると認識し得ないことからすれば、本件商標がギリシャ国産でない商品に使用されたとしても、ギリシャ国及びギリシャ国民を侮辱するものとはいえない。加えて、本件商標に「ギリシャ」という国家名が含まれていることをもって国際信義に反すると認定できる具体的な事情は見いだせない。
そうすると、本件商標は、その指定商品について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的な道徳観念にも反するものとも、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般的な国際信義に反するものともいうことはできない。
そして、「至福のギリシャ」の文字よりなる本件商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような構成態様でないことは明らかであり、他に本件商標が、「他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合」や「当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合」など、商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するというべき事情は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
(2)請求人の主張について
請求人は、「欧州各国の動向を踏まえ、日本におけるギリシャヨーグルトの扱いが国際信義に反する結果は望ましくない。「ギリシャヨーグルト」という用語ですら、ギリシャを産地と結びつけて理解される事情があるのであって、本件商標のように「ギリシャ」という国家名が含まれている表記である場合には、なおさら、端的に「産地」であるとの考慮がなされるべきである」旨主張する。
しかしながら、前記(1)イのとおり、本件商標は、「ギリシャ」という国家名が含まれていることをもって、ギリシャ国産の商品であると需要者が限定して認識するとはいえないものであって、「ギリシャヨーグルト」という用語についての事情は、本件に係る判断を左右するものではない。
7 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第3条第1項柱書、同項第3号、同法第4条第1項第7号及び同項第16号のいずれにも違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-890033