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商標無効審判

2023-890005

エアーリキッド、エアー、エイアイアアル

審判番号
2023-890005
法域
商標
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
商願2022-012125
登録番号
6603048
請求日
2023年01月27日
審決日
2023年09月22日
公報発行日
2025年07月25日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】レール・リキード-ソシエテ・アノニム・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロード
  • 【請求人代理人】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
  • 【被請求人】株式会社 エアー
  • 【被請求人代理人】弁理士法人Toreru
審判長/審判官
  • 審判長 矢澤 一幸
  • 審判官 小田 昌子
  • 審判官 阿曾 裕樹
分類
T111 .22 -Y (W34) / T111 .23 -Y (W34) / T111 .251-Y (W34) / T111 .252-Y (W34) / T111 .253-Y (W34) / T111 .254-Y (W34) / T111 .271-Y (W34)
条文(本文から自動抽出・参考)
商標法第4条第1項第7号、商標法第4条第1項第15号、商標法第4条第1項第8号、商標法第4条、商標法第4条第1項第10号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

上記当事者間の登録第6603048号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。

理由

理 由 第1 本件商標 本件登録第6603048号商標(以下「本件商標」という。)は、「Air liquid」の文字を標準文字で表してなり、令和4年2月3日に登録出願、同年8月15日に登録査定され、第34類「喫煙用薬草,喫煙用ライター,喫煙用具,喫煙パイプ用吸収紙,電子たばこ,水パイプ,電子たばこ用リキッド,喫煙者用の経口吸入器,たばこ,喫煙パイプ,代用たばこを含む紙巻きたばこ(医療用のものを除く。),シガーライター用ガス容器,シガリロ」を指定商品として、同月19日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 請求人が、本件審判の請求の理由において引用する商標は、請求人の名称(社名)として世界及び日本において広く知られた名称(社名)及び商標と主張する、「Air Liquide」の文字からなる標章(以下「引用商標」という。)である。 第3 請求人の主張 1 請求の趣旨 請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由(商標法第4条第1項第7号、同項第8号、同項第10号及び同項第15号)を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証から甲第46号証(以下、証拠の記載にあたっては、「甲○」又は「乙○」と記載する。)を提出した。 2 請求の理由(要旨) (1)当事者について ア 請求人 請求人の現在の仏語による表記は「L’Air Liquide」であるが、「L’Air」はフランス語の表記であって、英語表記の「Air」と同義であり、日本では「Air Liquide」と表記されている。また、商標の表記においても英語表記による「Air Liquide」が使用されている。 以上のことから、本件審判において請求人の社名を指すときは日本で用いられている英文表記による「Air Liquide S.A.」を用いる。なお、「ソシエテ・アノニム」以下の部分は、法人の種類(株式会社、有限会社等)を表す部分である。 請求人は、フランス国の法人で、設立されたのは1902年であり、「Air Liquide S.A.」を社名としたのは、フランスの化学者、ジョルジュ・クロードが空気を液化して成分を分離する工程の事業化に成功したことにちなんで名付けられたものである(甲3)。なお、フランス国では法人の正式名称をいう場合には「S.A.」等の法人を表す部分を除いた部分が正式な名称を表すことになっているので「Air Liquide」は請求人の「名称」であるとともに、その業務に係る多様な商品、サービスを指標する周知、著名な代表的出所標識でもある。 Air Liquideは産業ガスメーカーであり、この分野での世界的大手であり、そのグループの世界シェアは第2位となっている。さらに最近の燃料電池自動車の普及にちなみ、世界100ヵ所を超える水素ステーションを展開している(甲3、甲4)。 日本では明治40年(1907年)に日本に進出し、以後1930年に「帝国酸素株式会社」を設立、そして1998年に「日本エア・リキード株式会社」へと社名変更した。 2007年に他社を吸収合併し、現在の「日本エア・リキード株式会社」となり、この年に日本でガス事業を始めて100年となった歴史を有する。なお、2020年からは「日本エア・リキード合同会社」に改組している(甲4)。 日本では日本エア・リキード合同会社が事業展開をしているが、2019年3月には研究開発拠点として「イノベーションキャンパス東京」を横須賀リサーチパーク(YRP、神奈川県横須賀市)に開設している(甲4)。また、日本における水素ステーションを展開している(甲5~甲8)。 以上のことから、「Air Liquide」は請求人の名称(社名)として世界及び日本において広く知られた名称(社名)であり、商標でもある。 請求人は、引用商標「Air Liquide」などについて、商標登録を得ている(甲9~甲22)。 イ 被請求人 被請求人は、2021年1月に設立された会社であり、「電子タバコ」の製造販売を中心とした会社である。そして、2021年2月よりシーシャ(水タバコ)として「Air mini」を販売し、2022年3月より「Air shisha」を販売している(甲23)。 (2)引用商標と本件商標の比較 ア 外観上の比較 引用商標「Air Liquide」と本件商標「Air liquid」との構成を見てみると、一見した場合、両者の相違は明確ではなく、両者を仔細に検討した場合、引用商標にあっては「Liquide」の語尾に「e」の文字があるのに対し、本件商標にあっては「liquid」として語尾に「e」がない点の相違に気づく程度であり、両者の外観上の相違は容易に判別できるほど顕著なものではない。よって、本件商標は引用商標と外観においてほぼ同一といえる程度に酷似する。 イ 称呼上の比較 一般的な日本人が引用商標「Air Liquide」と本件商標「Air liquid」を見た場合に「Liquide」及び「liquid」をどのように発音するかについては、どちらからも「リキィッド」、「リキィード」のように発音するのが自然であると考えられる。なお、請求人の日本の子会社「Air Liquide Japan GK」の日本語表記では「日本エア・リキード合同会社」として「Liquide」の部分を「リキード」と表記しているが、これによって上記商標に接した一般人の称呼が固定されるものでもない。よって、引用商標及び本件商標の「Liquide」及び「liquid」の部分からは「リキィッド」、「リキィード」のような共通した称呼が生じ、互いに極めて類似した称呼である。 したがって、本件商標と引用商標から生じる自然的称呼においては互いに共通するものであり、紛らわしい。 ウ 指定商品の比較 請求人は、引用商標「Air Liquide」について、日本では第1類、第3類、第5類、第6類、第9類、第10類、第11類、第39類、第42類及び第44類に登録している(甲9~甲22)。 請求人は「産業ガス」関係を主要なビジネスとしているが、これは工業上のものに限らず、医療分野、自動車分野、飛行機、船舶分野、さらには日常的な、冷凍食品、ビール、ワイン、ジュース、コーヒー、ポテトチップス等の冷凍.冷却、品質管理、酸化防止などにも及ぶ極めて広い分野で使用されている(甲24)。 本件商標の指定商品には「喫煙用ライター、シガーライター用ガス容器」などガス関連商品も含まれており、ガス関係等について高度の専門的知識を有する者から見れば、これら商品で使用されるガスと請求人が製造販売する「各種の工業用ガス、農業用及び林業用のガス及び高純度のガス混合物、液状及び気体状のガスの混合物その他」等とは性質が違うことを理解できるかもしれない。しかし、そうでない一般大衆から見た場合、これら商品に「Air liquid」が商標として使用された場合は引用商標「Air Liquide」の周知、著名性の故に本件商標「Air liquid」が請求人以外の者によって使用された場合には、それら商品が請求人、あるいは請求人と関連ある企業からの商品であるかのごとく、その出所について誤認、混同を生じるおそれが極めて大である。 以上のように、請求人の「産業ガス」に関連するビジネスは狭い工業上のものに限らず、医療分野、自動車分野、飛行機、船舶分野、さらには日常的な、冷凍食品、ビール、ジュース、コーヒー、ポテトチップスなどの品質管理等においても使用されている(甲24)。 したがって、これら事情に加え、引用商標の高い周知・著名性からすれば混同が生じるおそれは、本件商標の全ての指定商品について出所混同のおそれ、又は営業主体の混同のおそれがある。 (3)引用商標の周知・著名性 請求人「Air Liquide」は、産業ガスに関する世界的大手でありそのグループの世界シェアは第2位となっている(甲4)。日本では「日本エア・リキード合同会社」の株式を間接的な形ではあるが100%保有している。 「日本エア・リキード合同会社」は、太陽日産、エア・ウォータと並び日本の3大産業ガスメーカーの一つである。「日本エア・リキード合同会社」の売上高は、2016年で約978億円、2017年で約994億円、2018年で約1036億円、2019年で約1044億円、2020年で約1096億円、2021年で約1109億円である(甲25~甲30)。 「日本エア・リキード合同会社」は、最近では日本における水素ステーションを展開しているが、これに関連する記事は、日本経済新聞や朝日新聞等においても掲載されてきているから、「エア・リキード」の名称は、一般にも広く知られている(甲5~甲8)。また、日経産業新聞及び日本経済新聞においても2021年から2022年にかけて、引用商標を表示した広告を掲載している(甲31~甲35)。さらに、「日本エア・リキード合同会社」が使用している車両には引用商標が表示されており、広く人の目に触れるところとなっている(甲36)。 よって、本件商標「Air liquid」は請求人の周知著名な名称と外観及び称呼においてほぼ同一であって、かかる他人の名称とほぼ同一の構成からなるから、周知・著名商標を保護する商標法第4条1項第10号、同第15号の規定に違反して登録されたことは勿論として他人の氏名、名称を保護する商標法第4条1項第8号の規定に違反して登録された。 なお、商標法第4条1項8号は人格権の保護規定と解されているため、当号の適用にあってはその名称が著名であるか否かは問わないし、指定商品相互が類似関係にあるか否かも関係がない。しかし、請求人の引用商標は著名であるためその略称も本号によって保護される。 なお、フランスにおいて会社の正式名称をいう場合は、法人の種類を表す「S.A.」等は除くため(甲37)、「Air Liquide」は、請求人の正式名称である。また、商標法第4条1項第8号(他人の名称の保護)においても何を法人名称というかについては判例上においても、その他人が外国会社の場合は、その国の法令において、「株式会社、有限会社」等の法人の種類を表す部分を除いた部分をもって法令上の正式名称とされているときは、これを含まないものを「他人の名称」として取り扱っているのが通常である。 なお、過去の無効審判においても、著名な法人の名称(略称)と類似する商標の登録が出所混同のおそれ(商標法第4条1項第15号)があるとして無効とされた例がある(甲38~甲40)。 (4)営業主体誤認のおそれ 引用商標「Air Liquide」と本件商標「Air liquid」とは、語尾の「e」の文字の有無に相違はあるが、一見したところその相違は明確に判別できるものではなく、外観及び称呼においてほぼ同一である。また、請求人の名称「Air Liquide」は、ビジネス界に関わる者であれば誰でもその名称を広く認識していることから、本件商標に接した者は、まず、第一に請求人「Air Liquide」を想起するといっても過言ではない。 また、請求人のビジネスである「産業ガス」は、工業上のものに限らず、医療分野、自動車分野、飛行機、船舶分野、さらには日常的な、冷凍食品、ジュース、コーヒー、ポテトチップス等などにも及ぶ極めて広い分野の商品に及んでいる(甲24)。 これに対し、本件商標は、つい最近の2022年2月3日に登録出願されたものであるが、引用商標はその登録出願時点よりもずっと前から日本においても周知、著名性が浸透しているから、本件商標が「喫煙用ライター、シガーライター用ガス容器、電子たばこ」等を始めとするその指定商品に使用されるとすれば、日本の取引者、需要者はそれら商品があたかも「Air Liquide」社、若しくはそれから授権された者によって提供される商品であるかの如く出所、あるいは営業主体について誤認、混同を生じる。 以上のように、既に請求人の名称及び商標として極めて著名となっている商標につき、たまたま請求人が登録をしていない商品区分(第34類)に出願されたからといって登録が許され、実際に使用されるとすれば、健全な流通秩序の維持を目的とする商標法の理念に反し、その点で商標法第4条1項第7号「公序良俗」違反も考えられるところである。 (5)不正競争防止法上の周知著名な「商品等表示」の保護 なお、本件は直接的には商標法に関するものではあるが、商標のみならず商品表示として周知、著名となっているものを保護する不正競争防止法では、他人の周知著名は「商品等表示」(不正競争防止法第2条第1項第1号及び同項第2号)と同一、類似の表示の使用を禁止している(同法第3条)。 請求人は、被請求人が本件商標を不正目的で出願したものと断定するわけではないが、日本でも「Air Liquide」と言えば、広くビジネス界において請求人を指すものとして知られていることは確かなことである。したがって、このような一般人に広く知られた他人の「商品等表示」と同一、類似のものを使用する場合は、不正競争防止法の使用禁止規定(第3条)によりその使用が禁止される可能性もあることに注意すべきである。 3 被請求人の答弁に対する弁駁 (1)引用商標の周知、著名性について ア 乙1から乙3 これらは特許庁の審査基準であって周知性及び混同を生じるおそれのある商標、そして使用による周知性獲得に関するものである。 しかしながら、これら基準を既に世界的に著名性を確立している引用商標を当てはめて論じるのは妥当ではない。なぜならば、引用商標は本件商標の登録出願日前より日本及び世界において周知性、著名性が確立されている商標であり、それ故に日本国内においても主要な業界紙や大手メディアによって企業動向が注目され報道されている。 このように自ら報道するまでもなく主要な業界紙、大手メディア等によって企業動向が取り上げられること自体が既に客観的な著名性が確立されている証拠に他ならないのであって、一地方を市場とするスタート間もないような企業等が周知性を立証する場合とは本質的に異なるものである。この後者のような企業にあっては第三者による客観的な営業実績(事業規模、営業実績、広報活動等)の証明が必要であり、乙1から乙3の審査基準はこのような場合の立証手続を具体的に例示したものであって、本件のように既に世界的規模で業界の注目を集めているような企業に当てはまるものではない。 なお、乙6「産業ガスマーケットシェア順位」においても請求人はグローバル市場規模において世界第2位(2016年)であり、国内の産業ガス販売実績においても第3位(2018年)であることが示されている。よって、引用商標は本件商標が登録出願される前から少なくとも関係業界においては誰もが知る著名な存在であったことは客観的事実から明らかである。 また、市場シェアの分析を行っている会社が発表している報告書(甲41)によっても、本件商標の登録出願日の前年の2021年において、請求人は、産業ガスの世界市場シェアで、第2位である。 2021年度10-12月の四半期売上高をベースとしたランキングにおいても、請求人は世界第2位である(甲41)。 請求人は、長年にわたり産業ガスの分野において世界市場のシェアの首位争いをしており、1990年には、請求人が世界第1位であり、2015年に請求人がアメリカのエアガスを買収した際にも、請求人が世界第1位になっていた(甲41)。 報告書(甲41)によれば、産業ガスの分野においては、請求人は他社と2強時代に突入したと分析され、請求人は、産業ガスの分野において、世界で首位を争う位置にいる企業である。 請求人は、現在では、産業ガスの世界的企業として、鉄鋼、化学、金属加工、食品、エレクトロニクス、ヘルスケアといった多様な分野において、世界75カ国で事業を展開しているものであり、約6万6千人の従業員を擁し、380万以上の顧客にサービスを提供している(甲42)。 イ 乙4から乙7 被請求人は乙4及び乙5のランキングに請求人が上位5社に入っていないことをもって周知性を否定する意図のようであるが、乙4には「注意、免責事項」の欄があり、そこには「掲載企業に関しましてはできる限り多くの企業を反映させるように努めていますが、全ての企業を反映したものではありません」との断りが記載されている。したがって、ここで上位5社に請求人の企業名が入っていないからといって、周知、著名を否定する根拠とはならない。 なお、乙6においても、請求人はその市場規模に関しては「グローバル」で世界第2位(2016年)、「国内」の産業ガス販売実績において第3位(2018年)であることが示されており、請求人の規模、実績は日本国内でも十分に知られていることが示されている。 同じく乙7を見てみると、その「海外で産業ガスの買収を進める太陽日酸」の記載の項において、太陽日酸は「産業ガスの世界最大手、仏エア・リキード社から、米国における産業ガス事業の一部を買収すると発表した。」との記載があり、請求人は「産業ガスの世界最大手」であることが記載されている。 以上のことから、乙1から乙7によって、引用商標の著名性を否定する根拠とはなり得ない。 ウ 乙8 被請求人は判例により引用商標の周知性、著名性を否定したい意向のようであるが、本判決は未登録商標について周知性を主張し、後願を排除し、自ら商標法上の保護を受ける場合の条件について述べたものであり、これを本件のように30年以上も前から登録商標として存在する商標に当てはめようとしても無理である。 エ 乙9 商標の登録において、独創性は登録要件ではなく、また、独創性がなければ商標としての顕著性を発揮しないものでもない。よって、被請求人の主張は、引用商標の周知、著名性を否定する根拠とはならない。 請求人の社名の由来は、フランスの化学者が空気を液化して成分を分離する工程の事業化に成功したことにちなんで名付けられた(甲3)。 このように「空気(Air)」と「液体(Liquide)」という全く異質なものを組み合わせた「Air Liquide」を社名として採用し、これを会社の代表的出所標識(ハウスマーク)として採用したことは極めてユニークで独創性に富むものといえる。 (2)最高裁判例 商標法第4条第1項第15号の趣旨は、著名商標に関するフリーライドの禁止、希釈化防止等にあるのであって、その表示の近似性等により需要者が特定の企業との関連性、すなわち何らかの系列関係にあるのか、資本関係にあるのか等を想起する場合において混同のおそれを認定するものである。 「類似性の程度」に関しては、「L’Air Liquide」は仏語による表記であるが、「L’Air」は英語表記の「Air」と同義である。したがって、日本では「Air Liquide S.A.」と表記されている。よって、称呼においては本件商標「Air liquid」と「L’Air Liquide」とはほぼ同一の称呼「エアーリキッド」又は「エアーリキード」の称呼が生じる。 「商標の周知著名性及び独創性の程度」に関しては、既に述べたとおりである。 「商品の性質、用途又は目的における関連性の程度」に関しては、請求人の「ガス」は工業上のものに限らず、医療分野、自動車分野、飛行機、船舶分野、さらには日常的な、冷凍食品、ジュース、コーヒー、ポテトチップスなどにも及ぶ極めて広い分野の商品に及んでいる(甲24)。ガス関係に深い専門知識を有する者は別として請求人の製造する「ガス及び関連商品」と「喫煙用ライター、喫煙用具、電子たばこ用リキッド、シガーライター用ガス容器」等に用いる「ガス」との正確な相違は理解できないものであって、一般人にとっては関連性を想起することは十分にあり得る。 「取引者及び需要者の共通性」に関しては、請求人の製造する「ガス及び関係製品」と本件商標の指定商品であるタバコのライター等に用いる「ガス関係」とは取引者、需要者が必ずしも一致するとはいえないとしても、近年におけるガスの用途は極めて広範囲に及んでいるので、一般人にとっては両者の関連性を想起することは否定できない。商標法第4条第1項第15号に規定する混同のおそれは周知、著名な商標と同一又は類似する名称を非類似商品に使用した場合においても、その商品が資本関係や系列関係にある者によるかのごとく想起させる場合も含んで判断されるものであるから、本件においても混同のおそれは肯定できる。 「普通に払われる注意力を基準」に関しては、「ガス」に関し深い専門知識を有する者にとってはガスの違いや、製造者等の区別が可能としても、一般人にとっては大規模で周知、著名で広範囲な「ガス」の製造者等からの商品ではないかと認識する。 以上のように、本件商標は請求人の名称の主要部と共通し、商標としても「Air Liquid」と「Air Liquide」とはその外観、称呼、観念のいずれにおいても類似する。引用商標の周知、著名性に照らし、本件商標がその指定商品に使用されるときは、需要者はその商品がガス関係で世界的に知られている請求人と何らかの資本関係、系列関係にある者による商品であるかのごとく想起することは容易に想定できるのであって、本件商標は商標法第4条第1項第15号の「他人の業務と混同のおそれのある商標」に該当する。 (3)商標法第4条第1項第8号 本件商標は、請求人の名称の主要部においてほぼ同一であり、商標としても周知、著名な「Air Liquide」にその外観、称呼、観念のいずれにおいても類似し、商標法第4条第1項第8号に該当し、少なくとも著名な名称の略称には該当する。また、同項同号の適用に、周知、著名性は保護要件とはなっていない。 (4)商標法第4条第1項第7号 被請求人は、主要なメディアや業界紙等での報道により、少なくとも「Air Liquide」、「エアーリキッド」、「エアーリキード」の名称の企業が日本に存在し、その名前で事業展開がされていることは認識していたはずである。このような場合において、ある企業等が使用している商標であることを知りながら、その商標と同一の商標を出願することは、商標法第4条第1項第7号の公序良俗に違反するとする審決例がある。 よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録された可能性も否定できない。 (5)不正競争防止法第2条第1項第1号及び同項第2号 不正競争防止法の規定は商標と無関係なものではない。すなわち、仮に登録商標の使用であっても要件に合致するときは、同法第3条の差止めの対象となるのであって、登録商標の使用であるから同法から免れるものではない。 第4 被請求人の答弁 1 答弁の趣旨 被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証から乙第10号証を提出した。 2 答弁の理由 (1)引用商標の周知性について 請求人提出の証拠は、単に事実が述べられている記事がわずか数回掲載されていることを示すのみで、広告物の実績も不明であって、引用商標の周知度の向上にどのように寄与したかは判然とせず、商標審査基準で例示されている考慮事由を立証するに足りる証拠が圧倒的に不足している。 請求人は、自らがフランス国の法人であって、世界的に展開される事業体であることを根拠として、我が国における周知度の高さを主張しているが、提出された証拠のみから立証するのというのは論理の飛躍がある。 なぜならば、インフラ企業における1,000億円規模の売上高や、世界全体で100基超という水素ステーションの数の多寡は、我が国の需要者が、請求人の商標「Air Liquide」を出所識別標識として認識した上でこれに接しているかどうかという前提が欠けており、周知性を測るための直接の説明たり得ないからである。 現に、例えば、請求人提出の甲7及び甲8では、新聞記事の見出しでは「仏大手」と表記されているのであり、これはすなわち、「Air Liquide」の名称が、日本経済新聞の読者であるような経済に関する知識や関心を有する読者にとってさえ周知性のない分かりにくい企業名称であると考えられたがゆえに「仏大手」と表記されていることは、「伊藤忠」が具体的な名称で表記されていることからも容易に推察できる。 また、例えば、請求人提出の甲5、甲6、甲31から甲35では、「日本エア・リキード」という漢字と片仮名からなる標章が主として使用されていると理解できるものであり、引用商標「Air Liquide」が需要者の間で広く認識されていることの説明に何らなっていない。 そこで、取引の実情の観点から、引用商標の周知性を確認したところ、我が国における産業ガスの業界大手企業の一覧や閲覧回数等による順位付けの一覧として、請求人の名称が掲載されていないような記事が散見され、周知な商標と認定するには疑義が生じる(乙4、乙5)。また、甲30において、2021年の売上高は約1,109億円と示されているが、乙4の「産業ガス業界売上高&シェアランキング(2021年-2022年)」にある10社の売上高合計約15,224億円と請求人自身の売上高1,109億円の総計約16,333億円に占める請求人の売上高の割合を計算すると、約6.8%程度であり、純粋に売上高で比較しても、実質的に業界中位かそれ以下であることをうかがい知ることができる。さらに、請求人の市場占有率は15%程度と見積もる資料等が、請求人と同一業界他社によって作成されている(乙6)。また、産業ガスの業界の大手2社の国内シェアは合計で7割に及ぶとの記事もあり、その他企業が市場に参加しているという事実は当然無視できないものであるから、明らかに30%に満たないものとみるべきである(乙7)。 なお、東京高等裁判所判決(乙8)によれば、取引占有率が30%を超えないようなものは周知とはいい難いとして、原告の商標の周知性を否定した特許庁の判断を維持している。 ここで、請求人の市場占有率は、上述のとおり、約6.8%程度から15%程度と考えるのが相当であり、過大に見積もっても30%未満であることが明らかである。そうすると、上述の裁判例で示された取引占有率30%を超えるものとは到底いえない。 してみれば、引用商標の周知性は高いものとはいえない。 さらに、引用商標の周知性を判断するに際して、請求人の商品・役務の需要者層に限定する理由は乏しい。そのため、被請求人の商品の需要者層であって、かつ、ガス関係等について高度の専門的知識を有する者ではない一般大衆から見た場合についても立証すべきであり、そのような被請求人の商品の需要者が、引用商標が請求人の業務に係る商品・役務を表示するものと十分に認識できるという説明、立証は尽くされていない。仮に、請求人の商品・役務の需要者層に限定して引用商標の周知性を判断するのが妥当であるとしても、むしろ請求人の商品・役務の需要者は、請求人について十分な知識があると考えられるため、本件商標と引用商標に接して、その商品・役務の出所についての誤認、混同を生じるおそれがあるとは考えにくい。 また、請求人は産業ガスメーカーであるから、請求人が取り扱う商品は、空気から分離された酸素、窒素、アルゴン等の気体や、炭酸ガス等であり、一般的には高圧ガスの状態で流通するものである。そして、高圧ガスは、爆発性、可燃性、毒性、窒息性等の危険性があることから、高圧ガス保安法及び関係政省令等にてその取扱いは厳しく規制されている。そうすると、ガス関係等について高度の専門的知識を有する者ではない一般大衆の手に、請求人が取り扱う商品である産業ガスが知らずに届くことはおよそ考えられず、本件商標の指定商品である「喫煙用ライター」「シガーライター用ガス容器」といった日用品との関係において、出所混同が生じるという蓋然性は極めて低い。 類似商品・役務審査基準において、産業ガスは「化学品」、ライターやライター用ガス容器は「喫煙用具」と明確に分類されていることも、請求人の取り扱う商品・役務と本件商標権者の取り扱う商品・役務とが非類似であることを推定している。なお、請求人の扱うガスは、工業用の化学品であり、日用品といえる被請求人の喫煙用具とは非類似であるため、この推定どおり本件の商品も非類似である。そして、この商品・役務非類似を超えてまで出所混同が生じるためには、請求人の商標の周知性は相当程度に高いことが求められるから、本件のように周知性に争いが生じる程度の周知度では、商標法第4条第1項第15号の規定に該当するとはいえない。 つまり、請求人が選定する需要者層と周知性に関する主張は、請求人の多角経営の可能性を最大限考慮したとしても、論拠に乏しい。 補足的に、引用商標については、構成上の顕著な特徴がないことも考慮すべきである。 本件商標と引用商標とが、外観、称呼及び観念において近似し、商標全体としての類似性の程度は低いとはいいきれないが、一方で、その文字構成の独創性の程度は高いものではない。 なぜならば、フランス語表記における「Air」と「Liquide」という辞書に掲載されて既成語を結合しただけの商標だからである(乙9)。 そうすると、我が国の需要者は「空気の液体」、「歌の液体」等のように、辞書に掲載されるそれぞれの単語の意味を単純に結合した意味合いにおいて理解するにとどまると考えるのが相当である。請求人の業務に係る商品・役務を表示する出所識別標識として認識できるか否かについては、請求人によっては何らの説明がなされていない。 そして、本件商標権者は自らの社名「株式会社エアー」の略称「Air」(乙10)と既成語である「liquid」を組み合わせた語を、電子タバコ用リキッド等を暗示させるための標識として考案し、商標として選択しているものである。仮に、請求人の商標が辞書に掲載されていない造語のみで構成されている場合は、取引占有率が低くとも出所混同を生ずるほどの周知性を有する余地も考えられる。しかし、本件のような既製語の組み合わせであれば、過去例のとおり(乙8)、少なくとも30%を超える市場占有率がないと出所混同を生じるほどの周知性は獲得していないと考えるのが相当である。 以上のことから、引用商標は格別の顕著性を有するものではなく、請求人は格別高い国内市場占有率を有するでもなく、需要者の共通性の乏しさやその他取引の実情を勘案すれば、引用商標は周知商標とはいえないと解すべきである。 (2)商標法第4条第1項第10号について 引用商標「Air Liquide」は、我が国においての周知商標というだけの根拠に乏しく、需要者の間に広く認識されているものとはいえない。 よって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。 (3)商標法第4条第1項第15号について 引用商標「Air Liquide」に我が国においての周知性はなく、非類似商品にまで、出所混同が生じるおそれはない。 仮に、請求人の名称が自他商品等識別力が格別高い造語、かつ、本件商標が引用商標「Air Liquide」と同一であれば、出所混同の余地も考えられる。しかし、本件商標は既成語である「Air」と「liquid」と組み合わせた語であるため、本件商標の指定商品に接する需要者、取引者が本件商標を視認、聴取したとしても、請求人の商品と出所混同するとは考えにくい。むしろ、本件商標の指定商品においては、本件商標権者の社名「株式会社エアー」の略称「Air」が語頭についた商品名として、「株式会社エアー」の出所を示す商標として認識されると考えるのが自然である。 よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。 (4)商標法第4条第1項第8号について 請求人であるフランス法人においては、請求人の同号の趣旨を鑑みても名称は「L’Air Liquide」であり、「レールリキード」の称呼が生じる。 また、仮に請求人の主張のように請求人の名称を「Air Liquide」と表記した場合であっても、末尾に「e」があり、本件商標に含まれるものではない。 さらに、請求人の日本法人の名称については「日本エア・リキード株式会社」又は略称「日本エア・リキード」である。 してみれば、本件商標は、上記のいずれの名称を含むものではない。また、本件においては、同項同号の原理原則のとおり、請求人の法人名は恣意的に選択されたものと認識すべきであり、著名性を無視してまで本号の規定に違反しているという主張は行き過ぎである。 なお、仮に、請求人の名称及び商標が自他商品等識別力が格別高い造語であり、それと同一の商標を商標登録した場合は請求人の人格権を侵害するおそれも考えられる。しかし、本件商標は既成語である「Air」と「liquid」を組み合わせた語であるため、本件商標の指定商品に接する需要者、取引者が本件商標を視認、聴取したとしても、請求人の名称を想起することは考えにくく、本件商標権者の商標と認識すると解するのが相当である。 してみれば、同項同号の趣旨を鑑みたとしても、本件商標権者がこの指定商品において本件商標を使用したとしても、何ら請求人の人格権を侵害するものではない。 よって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当しない。 (5)商標法第4条第1項第7号について 請求人の名称及び商標が極めて著名となっているという事実は見当たらない。 また、本件商標権者は既成語である「Air」と「liquid」を組み合わせた語を考案し、商標として選択しており、その過程において、請求人の名称及び商標とは一切関係はない。 してみれば、出所混同が生じるおそれのない商品に対し、本件商標権者が本件商標を使用したとしても何ら健全な流通秩序の維持を害することはない。また、同項同号を解釈するにあたっては、むやみに解釈の幅を広げるべきではない。 よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。 (6)不正競争防止法第2条第1項第1号及び同第2号について 本件商標の指定商品において、請求人の商標は出所混同のおそれがあるほど周知となっている事実はない。 してみれば、出所混同のおそれのない商品に対し、本件商標権者が本件商標を使用したとしても何ら請求人の営業と混同が生じることはない。 さらに、請求人の商標は出所混同のおそれがあるほど著名となっている事実もない。 よって、不正競争防止法の使用禁止規定(同法第3条)により、本件商標の使用が禁止されることはない。 第5 当審の判断 1 利害関係について 請求人が本件審判を請求することの利害関係の有無については、当事者間に争いがなく、当審は請求人が本件審判の請求について利害関係を有すると認める。 2 引用商標の周知著名性について (1)請求人の提出証拠及び主張によれば、以下の事実が認められる。 ア 請求人は、フランスの法人であり、1907年に日本進出、我が国ではその子会社である「日本エア・リキード合同会社」を通じて、産業・医療ガスの製造販売を行っている(甲4)。 イ 請求人及びその関連会社は、水素製造プラントの設置や、水素供給所の運営に関与しており、佐賀県の水素ステーションの看板には引用商標「Air Liquide」を表示している(甲5~甲8)。 また、請求人の関連会社の施設(液体酸素のタンク)及び車両(液化窒素のトラック)には、引用商標「Air Liquide」を表示していることが確認できる(甲36)。 ウ 日本エア・リキード合同会社(日本エア・リキード株式会社)の売上高は、約979億円(2016年)、約994億円(2017年)、約1,036億円(2018年)、約1,044億円(2019年)、約1,097億円(2020年)、約1,110億円(2021年)である(甲25~甲30)。 同社の産業ガス販売市場における市場シェア(2018年)は、我が国において15%、3位に位置づけられている(乙6)。 エ 請求人と関連する「日本エア・リキード」又はその関連事業の新聞広告(2021年~2022年)において、引用商標「Air Liquide」を表示しつつ、掲載されている(甲31~甲35)。 (2)上記の認定事実によれば、請求人及びその関連会社は、我が国において、産業・医療ガスの製造販売を長期にわたり行っており、その売上高も相当程度の規模があり、取引市場の中での市場シェアも上位であるから、同社がロゴにも使用する引用商標「Air Liquide」は、「産業ガス」の取引分野においては、ある程度認知されていると考えられる。 他方、当該使用に係る商品「産業ガス」は、事業者に向けて産業用途で販売されるもので、流通経路は限定的かつ専門的なものであり、また、請求人に係る「水素ステーション」が我が国の一般需要者の間で広く親しまれているといえるほどの規模で事業展開されている事実は確認できないことを踏まえると、引用商標が、本件商標の指定商品である喫煙用具やライターなどに係る需要者である一般需要者の間において、広く認識されている商標と認めることはできない。 3 商標法第4条第1項第10号該当性 (1)本件商標と引用商標の類否 ア 本件商標は、「Air liquid」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中「Air」の文字は「空気」の意味を、「liquid」の文字は「液体」の意味を有する英語(参照:「ジーニアス英和辞典 第5版」大修館書店)であるが、両語を結合して具体的な意味を有する成語となるものではなく、各語の語義を結合した意味合いも漠然としている。 そうすると、本件商標は、その構成文字に相応して、「エアリキッド」の称呼を生じるが、特定の観念は生じない。 イ 引用商標は、「Air Liquide」の文字からなるところ、その構成中「Air」の文字は「空気」の意味を有する英語(前掲書参照)であり、「Liquide」の文字は「液体」の意味を有するフランス語(参照:「ディコ仏和辞典」白水社)であるが、両語を結合して具体的な意味を有する成語となるものではなく、各語の語義を結合した意味合いも漠然としている。 そして、引用商標は、その構成文字から生じる称呼を直ちに特定しがたいものの、「エアリキード」と発音することが可能である。 そうすると、引用商標は、その構成文字に相応して、「エアリキード」などの称呼を生じるが、特定の観念は生じない。 ウ 本件商標と引用商標を比較すると、外観においては、語頭の文字「Air Liquid」のつづりを共通にするものの、語尾の「e」の文字の有無により、構成文字全体としては異なる語を表してなることから、判別は可能である。また、称呼においては、語頭の「エア」の音を共通にする場合があるとしても、語尾の「リキッド」と「リキード」の音の差異により、全体の語調、語感は異なるものとなるから、聴別は容易である。さらに、観念においては、いずれも特定の観念は生じないから、比較できない。 そうすると、本件商標と引用商標は、観念において比較できないとしても、外観及び称呼において判別は可能だから、同一又は類似の商品について使用されるときでも、相紛れるおそれはなく、非類似の商標と認められる。 (2)商品の類否 本件商標の指定商品は、上記1のとおり、たばこや喫煙用具などの喫煙と関連する商品であって、たばこ製造業者やライター製造業者を含む喫煙用具製造業者などにより製造され、たばこ・喫煙用具専門小売業者などにより販売されるもので、主に喫煙者を需要者とするものである。 他方、引用商標の使用に係る商品は、水素ガスや産業用ガスなどの産業用又は業務用の商品であって、ガス製造業者などにより製造され、ガス供給事業者などにより販売されるもので、主にガスを利用する事業者を需要者とするものである。 そうすると、本件商標の指定商品と引用商標の使用に係る商品(産業用ガス)は、商品の目的及び用途を異にするもので、製造業者や販売業者などの共通性の程度は極めて低く、その需要者層もほぼ共通しないから、これら商品に同一又は類似の商標を使用するときでも、同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれはなく、非類似の商品と認められる。 (3)小括 以上によれば、本件商標は、引用商標とは類似する商標ではなく、その指定商品及び引用商標の使用に係る商品とは類似する商品ではないから、引用商標の周知性の程度にかかわらず、商標法第4条第1項第10号に該当しない。 4 商標法第4条第1項第15号該当性 引用商標「Air Liquide」は、上記2(2)のとおり、「産業ガス」の取引分野においては、ある程度認知されているといえるが、本件商標の指定商品に係る需要者である一般需要者の間において、広く認識されている商標と認めることはできない。 そして、本件商標と引用商標は、上記3(1)ウのとおり、異なる語を表してなる非類似の商標であり、また、本件商標の指定商品と引用商標の使用に係る商品は、上記3(2)のとおり、商品の目的及び用途を異にするもので、製造業者や販売業者などの共通性の程度は極めて低く、その需要者層もほぼ共通しない。 そうすると、本件商標は、その指定商品に係る需要者及び取引者をして、引用商標又は請求人らの業務に係る商品との関連性を想起させるものとはいえず、他人(請求人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれはない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。 5 商標法第4条第1項第8号該当性 (1)本願商標は、「Air liquid」の文字を標準文字で表してなる一方で、請求人の名称(社名)として援用されている引用商標「Air Liquide」の文字とは、一部の構成文字を共通にするものの、語尾の「e」の文字の有無により異なる語を表してなるから、他人(請求人)の名称を含む商標ではない。 したがって、本件商標は、その他の要件について検討するまでもなく、他人の名称(引用商標)を含む商標ではないから、商標法第4条第1項第8号に該当しない。 (2)請求人は、フランス国の法人であり、フランス語表記は「L‘Air Liquide」、英語表記は「Air Liquides S.A.」であるところ、フランス国では法人の正式名称は「S.A.」等の法人を示す部分を除いた部分が正式な名称を表すことになっているから、引用商標「Air Liquide」が請求人の名称であり、商標法第4条第1項第8号の適用にあたり著名性は必要ない旨を主張する。 しかしながら、請求人の正式名称が引用商標であることを具体的に示す証拠の提出はなく、また、引用商標は審判請求書に記載された請求人の名称とも一致しないため、引用商標が他人(請求人)の名称といえるのかは、明らかではない。 なお、仮に引用商標が他人(請求人)の名称といえるとしても、上記(1)のとおり、本件商標は引用商標を含む商標ではない。 6 商標法第4条第1項第7号該当性 請求人は、請求人の名称及び商標として極めて著名となっている引用商標について、請求人が商標登録をしていない商品区分に登録をし、実際に使用されると、健全な流通秩序の維持を目的とする商標法の理念に反し、公序良俗違反となる旨を主張する。 しかしながら、当該主張に対して被請求人は、本件商標は本件商標権者が既成語を組み合わせた語として考案したもので、請求人の名称とは一切関係はないと主張するところ、特にその主張内容に不自然な点はなく、請求人からも当該主張を覆すような具体的な証拠は提出されていない。 さらに、請求人提出の証拠によっては、本件商標の登録出願及び登録が、不正の利益を得る目的又は他人に損害を与える目的など不正の目的をもってなされたかは明らかではない。 その他、本件商標は、その構成自体がきょう激、卑わい、差別的又は他人に不快な印象を与えるような文字からなるものではない。 そうすると、本件商標は、その登録を維持することが商標法の予定する秩序に反し、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標とはいえない。 したがって、本件商標は、商標法4条第1項第7号に該当しない。 7 結論 以上によれば、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号、同項第8号、同項第10号及び同項第15号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項第1号の規定により、無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。

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2023-890005

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