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特許拒絶査定不服審判

2023-018541

細胞培養用基材

審判番号
2023-018541
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2021-539208
請求日
2023年11月01日
審決日
2025年10月09日
公報発行日
2025年12月26日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】株式会社日本触媒
  • 【請求人代理人】勝又 政徳
  • 【請求人代理人】酒井 善典
  • 【請求人代理人】上田 ▲茂▼
  • 【請求人代理人】小川 有佳子
  • 【請求人代理人】岩谷 龍
審判長/審判官
  • 審判長 波多江 進
  • 審判官 加々美 一恵
  • 審判官 野村 伸雄
分類
P18 .121-WZ (C12M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条
データ出所
審決公報(XML)

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特願2021-539208「細胞培養用基材」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 2月18日国際公開、WO2021/029241〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯の概要 本願は、令和2年7月31日(優先権主張 令和元年8月9日(以下「優先日」という。))を国際出願日とする日本語特許出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。 令和4年12月19日付け:拒絶理由通知書 令和5年 5月 2日 :意見書・手続補正書の提出 同年 7月25日付け:拒絶査定 (同年 8月 8日 :原査定の謄本の送達) 同年11月 1日 :審判請求書・手続補正書の提出 令和7年 6月 5日付け:拒絶理由通知書(以下、同書で通知された 拒絶理由を「当審拒絶理由」という。) 同年 8月 7日 :意見書・手続補正書(以下、同書による補正 を「本件補正」という。)の提出 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1の記載は次のとおりのものである。 <本願発明> 「含フッ素ポリイミド樹脂を含む細胞接着性表面を有する層と、該層の表面に設けられた細胞非接着性物質の微細パターンを有し、前記細胞接着性表面が細胞培養面である、ES細胞及びiPS細胞を除く細胞培養用基材であって、微細パターンが、隣り合う単位形状間の間隙で構成され、間隙の最短距離が1μm以上、厚みが10μm以下の微細パターンであり、三次元の組織体を製造するための基材(ただし、下記(1)及び(2)の場合を除く。 (1)基材が、水溶性光硬化性ポリマーの硬化物を備える場合 (2)基材が、水/1-オクタノール分配係数(LogP)の平均値が0以上、2以下であるアクリル系モノマーから形成されるアクリル系ポリマー部分(A1)と、ポリエチレンオキサイド部分(A2)とが、下記式(I)で結合してなるブロック重合体(A)を含む場合 【化1】 [図:0001429371000001.jpg] )。」 第3 当審拒絶理由の概要 本願発明は、本件補正前(令和5年11月1日に提出された手続補正書による補正後のもの)の請求項3に係る発明を補正したものであるところ、当審拒絶理由は、本件補正前の請求項3に係る発明に対する次の理由を含むものである。 (進歩性欠如)この出願の請求項3に係る発明は、その優先日前に発行された下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2、3に例示される周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献一覧> 1.国際公開第2010/134606号 2.特開2017-77241号公報(周知技術を示す文献) 3.国際公開第2018/101481号(周知技術を示す文献) 第4 引用文献の記載事項及び引用発明等の認定 1 引用文献1の記載事項 当審拒絶理由で引用され、本願の優先日前に発行された引用文献1(国際公開第2010/134606号)には、次の事項が記載されている。下線は当合議体が付したものである。 (1) [0013]-[0025] 発明を実施するための形態 「発明を実施するための形態 [0013] 本発明は、細胞付着性領域の周囲に細胞非付着性領域を有する基材表面を利用した胚性幹細胞或いは人工多能性幹細胞の分化誘導方法に関するものである。その際、被覆を施される細胞培養基材の材質は、通常細胞培養に用いられるガラス、改質ガラス、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等の物質のみならず、一般に形態付与が可能である物質、例えば、上記以外の高分子化合物、セラミックス、金属類など全て用いることができる。その形状は、ペトリ皿等の細胞培養皿に限定されることはなく、プレート、ファイバー、(多孔質)粒子であってもよい。また、一般に細胞培養等に用いられる容器の形状(フラスコ等)を有したものであっても差し支えない。 [0014] 本発明で示すところの細胞付着性領域、並びに細胞非付着性領域とはこの細胞培養基材表面に形成されたものである。その際、細胞付着性領域とは、細胞が付着する基材表面であれば特に限定されるものでなく、上述したような一般的な培養基材に使われるガラス、改質ガラス、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等の物質のみならず、一般に形態付与が可能である物質、例えば、上記以外の高分子化合物、セラミックス、金属類でも良く、それらにグロー放電、コロナ放電などで表面処理を施したものでも良く、さらにこれらの表面へフィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン等の細胞接着性蛋白質の1種、あるいはこれらの2種以上の混合物を被覆したものでも良い。一方、本発明に使用される細胞非付着性領域とは細胞を付着させない領域であり、上記培養基材上に細胞の付着を妨げる物質を被覆することによって得られる。この目的を達成するために好適な物質としてポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、澱粉のいずれか1種、もしくは2種以上が混合されたものが挙げられるが、その種類は、何ら制約されるものではない。 [0015] 細胞付着性領域、並びにその周囲の細胞非付着性領域の形態は、上部から観察して、例えば、(1)ラインとスペースからなるパターン、(2)水玉模様のパターン、(3)格子状のパターン、その他特殊な形のパターン、或いはこれらが混ざっている状態のパターンが挙げられるが、何ら限定されるものではない。また、被覆領域の大きさについても何ら限定されるものではないが、本発明では後述するように基材に付着し増殖した胚性幹細胞或いは人工多能性幹細胞が細胞付着性領域内でコンフルエントとなり、そのまま培養を継続することでオーバーコンフルエントの状態となり、細胞付着性領域と細胞非付着性領域の境界部付近から細胞が重層化し始めるものである。そのメカニズムは、細胞付着性領域内で細胞がコンフルエントになった後も、細胞付着性領域と細胞非付着性領域の境界部における細胞においてはコンタクトインヒビションがかからず、細胞増殖が抑制されないことに帰する。本発明では、目的とする細胞への高い分化効率を得るために、細胞付着性領域内で形成された複数の重層化した部分が速やかに結合することが必須である。従って細胞付着性領域、並びにその周囲の細胞非付着性領域の形態は、細胞付着性領域内の少なくとも一部でその結合が実現されることが必須であり、従って、細胞付着性領域において、周囲の細胞非付着性領域との境界部から形成した少なくとも2つの重層化部分が結合するまでの距離が300μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは250μmであり、もっとも好ましくは200μm以下である。ここで2つの重層化部分が結合するまでの距離が300μmより長いと所定の培養時間内に重層化部分の結合が起こらず好ましくない。その際、重層化部分の重なりとは特に限定されないが、細胞付着性領域内で隣接して形成された重層化部分が重なったものでも良く、或いは細胞付着性領域の形態が円形の場合直径方向の両端に形成された重層化部分が重なったもの、さらには細胞付着性領域の形態がライン状の場合、ラインの幅方向の両端に形成された重層化部分が重なったものでも良い。 [0016] 本発明の細胞付着性領域、並びにその周囲の細胞非付着性領域の製造法としては、最終的に上記の構造を有するものであれば何ら制約されるものではないが、例えば、(1)細胞付着性基材表面上に細胞付着性領域をマスクして細胞非付着性領域になる部分だけに上述したポリマーを被覆する方法、(2)細胞付着性基材表面上に細胞非付着性ポリマーをオフセット印刷する方法、(3)あらかじめ細胞付着性ポリマー、並びに細胞非付着性ポリマーの2層を被覆しておき、超音波或いは走査型機器によりどちらかの層を削り取る方法(この場合、培養基材上に細胞付着性ポリマー及び細胞非付着性ポリマーの順に被覆しても、培養基材上に細胞非付着性ポリマー及び細胞付着性ポリマーの順に被覆してもよい)、(4)基材表面上全体にまず細胞非付着性領域を作製し、その後、最終的に細胞付着性領域を構成するものを噴霧して上乗せする方法、或いはそれを逆にした方法、等を単独または併用する方法が挙げられる。 ・・・(中略)・・・ [0020] 本発明は、上述のような基材表面へ胚性幹細胞或いは人工多能性幹細胞を付着させることで分化誘導する方法である。その際、使用される細胞は胚性幹細胞或いは人工多能性幹細胞であれば良く、その入手先、作製方法は特に限定されるものではない。本発明の細胞は、例えば、動物、昆虫、植物等の細胞、細菌類が挙げられる。特に、動物細胞の由来として、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、ヌードマウス、マウス、モルモット、ブタ、ヒツジ、チャイニーズハムスター、ウシ、マーモセット、アフリカミドリザル等が挙げられるが特に限定されるものではない。 [0021] 本発明における胚性幹細胞或いは人工多能性幹細胞の分化誘導方法とは以下の通りである。まず、播種前の胚性幹細胞或いは人工多能性幹細胞は非分化誘導化培地を用いて未分化性を維持したものとする。上述の基材表面へ播種する前後において分化誘導化培地に切り換え、本発明の基材表面へ播種させ、そのまま細胞を細胞付着性領域内でコンフルエントになるまで増殖させる。コンフルエントになった後も分化誘導化培地の状態で培養を継続し、細胞を細胞付着性領域周囲の細胞非付着性領域との境界部から3次元に重層化させる。そして、最終的にその細胞付着性領域内に形成された複数の重層化部分が結合し、細胞付着性領域全体を厚みのある細胞集合体となるまで培養を行うものである。得られた細胞集合体に対し酵素処理を行うことで目的とする分化誘導細胞を得ることができる。 ・・・(後略)・・・」 (2) [0027]-[0034] 実施例1 「実施例1 ・・・(中略)・・・ [0028] (細胞パターン化培養基材の作製) 文献(Itoga K,Kobayashi J,Yamato M,Kikuchi A,Okano T.Maskless liquid-crystal-display projection photolithography for improved design flexibility of cellular micropatterns.Biomaterials 2006;27(15):3005-9)に基づき、細胞培養面に細胞付着性領域と細胞非付着性領域のパターンを有する培養基材の作製をおこなった。カバーガラス(24mm×50mm、厚さ0.12~0.17mm、松浪硝子工業株式会社)にMPTMSを用いて蒸発法によりシラン処理を施した。シラン処理カバーガラス上にg線ポジ型フォトレジストをスピンコート(5000rpm、30秒)し、80℃で1時間プレベイクした。マスクレス露光装置を用いたフォトリソグラフィーにより、直径が100、200、300、または400μmの円形フォトレジストパターンが表面に300μmの間隔で正方配列した基材を作製した。これを80℃で1時間ポストベイクした。0.7mMのアクリルアミド、65μMのN,N‘-メチレンビスアクリルアミドにより構成される水溶液に窒素ガスを室温にて20分間バブリングして溶存酸素を取り除き、これを4℃に冷却し、過硫酸アンモニウムとTEMEDをそれぞれ2.2mM、11mMとなるように加え、その後すぐさまフォトレジストパターン基材をこの水溶液中に浸した。水溶液を静かに攪拌しつつ4℃で3時間静置し、基材上にてフォトレジストにコートされていないシラン化ガラス表面上にポリアクリルアミドを固定した。基材を約40℃の温水を用いて十分に洗浄してシラン化ガラス表面上に固定されていないポリアクリルアミドを除去し、引き続きアセトンで洗浄して基材表面の円形フォトレジストパターンを除去した。このようにして作製された基材表面は、シラン化ガラス表面からなる細胞付着性の円形領域と、ポリアクリルアミド表面からなる細胞非付着性領域により構成される。基材を脱イオン水で十分に洗浄して乾燥させ、24mm×20mmの大きさに切断し、これを直径35mmのペトリディッシュに入れ、エチレンオキサイドガスにより滅菌した。円形領域への細胞付着性を向上させるため、細胞を播種する前に30μg/mLのフィブロネクチンを含む2mLのD-PBS中に37℃で一晩基材を浸し、基材表面にフィブロネクチンをコートした。 ・・・(中略)・・・ [0030] (細胞パターン化培養基材上におけるES細胞凝集体の形成と心筋細胞分化誘導) 直径200μmの細胞付着性領域を有する基材上にて分化誘導培養したES細胞の時系列顕微鏡観察を行った。図1にその顕微鏡画像を示す。基材上に播種されたES細胞は円形の細胞付着性領域中にて増殖し、培養3日目にはコンフルエントに達して円形の細胞コロニーを形成した(図1b、e)。拡大された顕微鏡画像(図1e)に示されるように、円形の細胞コロニーの縁は非常にくっきりとしており、細胞のパターニングが精細に実現されていることが確認された。コンフルエントに達した後も細胞付着性領域と細胞非付着性領域の境界におけるES細胞はさらに増殖し続け、これらの増殖細胞が細胞付着性領域上に重層化することにより次第に立体的なES細胞凝集体が形成された(図1c、d)。また最終的に形成されたES細胞凝集体の多くは細胞密度の高い最外層部分と細胞密度の低い内部からなる立体構造を有するものであった。培養7日目前後において心筋細胞への分化を示す明確なEGFP蛍光が観察され始め、EGFP蛍光を呈する細胞凝集体の内のいくつかは拍動を呈し始めた。図2に直径100、200、300、または400μmの細胞付着性領域を有する基材上にて分化誘導培養したES細胞の培養10日目における顕微鏡画像を示す。すべての基材において円形の細胞付着性領域上にてES細胞凝集体が形成され、心筋細胞への分化を示すEGFP蛍光と拍動が確認された。しかしながら細胞付着性領域の直径が100μmの場合においては、形成された細胞凝集体の半数以上は培地交換の際に基材上から解離して失われてしまった(図2a)。また対照実験としてポリアクリルアミドの固定されていないシラン化カバーガラス表面上にて同様の条件で分化誘導培養したES細胞は、基材上にて立体的な凝集体を形成せず(図2e)、EGFP蛍光と拍動はほとんど観察されなかった。顕微鏡観察により、分化誘導培養10日目において基材上にて形成されたすべての細胞凝集体のうち、EGFP蛍光を呈する細胞凝集体の割合、及び拍動を呈する細胞凝集体の割合を解析した(図3)。いずれの割合も細胞付着性領域の直径が大きくなるにつれて高くなり、直径300μmと直径400μmで最大に達した。EGFP蛍光を呈する細胞凝集体の割合は最大約70%に達し、拍動を呈する細胞凝集体の割合は最大約45%に達した。 ・・・(後略)・・・」 (3) 図1-図3 「 [図:0001429371000002.jpg] 」 2 引用発明の認定 引用文献1には、細胞付着性領域の周囲に細胞非付着性領域を有する細胞培養基材表面に関して、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(引用発明の認定の根拠とした箇所等を参考までに括弧内に付してある。以下同じ。)。 <引用発明> 「細胞付着性領域の周囲に細胞非付着性領域を有する基材表面であって、([0013]) 細胞付着性領域、並びに細胞非付着性領域とは細胞培養基材表面に形成されたものであり、細胞付着性領域とは、細胞が付着する基材表面であれば特に限定されるものでなく、一般的な培養基材に使われるガラス、改質ガラス、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等の物質のみならず、一般に形態付与が可能である物質、例えば、上記以外の高分子化合物、セラミックス、金属類でも良く、細胞非付着性領域とは細胞を付着させない領域であり、上記培養基材上に細胞の付着を妨げる物質を被覆することによって得られ、好適な物質としてポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、澱粉のいずれか1種、もしくは2種以上が混合されたものが挙げられ、([0014]) 細胞付着性領域、並びにその周囲の細胞非付着性領域の形態は、上部から観察して、例えば、(1)ラインとスペースからなるパターン、(2)水玉模様のパターン、(3)格子状のパターン、その他特殊な形のパターン、或いはこれらが混ざっている状態のパターンが挙げられ、基材に付着し増殖した胚性幹細胞或いは人工多能性幹細胞が細胞付着性領域内でコンフルエントとなり、そのまま培養を継続することでオーバーコンフルエントの状態となり、細胞付着性領域と細胞非付着性領域の境界部付近から細胞が重層化し始めるものであり、細胞付着性領域において、周囲の細胞非付着性領域との境界部から形成した少なくとも2つの重層化部分が結合するまでの距離が300μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは250μmであり、もっとも好ましくは200μm以下であり、([0015]) 細胞付着性領域、並びにその周囲の細胞非付着性領域の製造法としては、例えば、(1)細胞付着性基材表面上に細胞付着性領域をマスクして細胞非付着性領域になる部分だけに上述したポリマーを被覆する方法、(2)細胞付着性基材表面上に細胞非付着性ポリマーをオフセット印刷する方法、(3)あらかじめ細胞付着性ポリマー、並びに細胞非付着性ポリマーの2層を被覆しておき、超音波或いは走査型機器によりどちらかの層を削り取る方法(この場合、培養基材上に細胞付着性ポリマー及び細胞非付着性ポリマーの順に被覆しても、培養基材上に細胞非付着性ポリマー及び細胞付着性ポリマーの順に被覆してもよい)、(4)基材表面上全体にまず細胞非付着性領域を作製し、その後、最終的に細胞付着性領域を構成するものを噴霧して上乗せする方法、或いはそれを逆にした方法、等を単独または併用する方法が挙げられ、([0016]) 基材表面へ胚性幹細胞或いは人工多能性幹細胞を付着させることで分化誘導させるものであり、([0020]) 細胞を細胞付着性領域周囲の細胞非付着性領域との境界部から3次元に重層化させ、最終的にその細胞付着性領域内に形成された複数の重層化部分が結合し、細胞付着性領域全体を厚みのある細胞集合体となるまで培養を行うものである、([0021]) 細胞培養基材表面。([0014])」 3 引用文献1に記載された技術事項の認定 引用文献1には、実施例1に係る細胞培養面に細胞付着性領域と細胞非付着性領域のパターンを有する培養基材に関して、次の技術事項(以下「引用文献1に記載された技術事項」という。)が記載されていると認められる。 <引用文献1に記載された技術事項> 「細胞培養面に細胞付着性領域と細胞非付着性領域のパターンを有する培養基材の作製に際し、カバーガラスにシラン処理を施し、シラン処理カバーガラス上にg線ポジ型フォトレジストをスピンコートし、マスクレス露光装置を用いたフォトリソグラフィーにより、直径が100、200、300、または400μmの円形フォトレジストパターンが表面に300μmの間隔で正方配列した基材を作製し、基材上にてフォトレジストにコートされていないシラン化ガラス表面上にポリアクリルアミドを固定し、基材を洗浄してシラン化ガラス表面上に固定されていないポリアクリルアミドを除去し、引き続きアセトンで洗浄して基材表面の円形フォトレジストパターンを除去し、このようにして作製された基材表面は、シラン化ガラス表面からなる細胞付着性の円形領域と、ポリアクリルアミド表面からなる細胞非付着性領域により構成されること。」 第5 引用文献2及び3の記載事項及び技術常識の認定 1 引用文献2に記載された事項 当審拒絶理由で引用され、本願の優先日前に発行された引用文献2(特開2017-77241号公報)には、次の事項が記載されている。 「【請求項1】 細胞培養面のプロテオグリカン吸着量が75ng/cm2以上である、接着性細胞培養用基材。 【請求項2】 細胞培養面の静的水接触角が75°以上かつ転落角が15°以上である、請求項1に記載の接着性細胞培養用基材。 【請求項3】 ポリイミド樹脂を含む、請求項1または2に記載の接着性細胞培養用基材。 【請求項4】 前記ポリイミド樹脂が、含フッ素ポリイミド樹脂である、請求項3に記載の接着性細胞培養用基材。」 「【0023】 接着性細胞培養用基材の材質は、樹脂等が例示できるが、プロテオグリカン吸着量の制御のしやすさの観点から、好ましくは樹脂を含む。かような樹脂としては、接着性細胞培養用基材として利用可能な生体適合性の高いものであり、細胞培養面のプロテオグリカン吸着量が75ng/cm2以上であるものであれば特に制限されない。特に限定されないが、例えば、接着性細胞培養用基材が含む樹脂は、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂(例えば、含フッ素ポリイミド樹脂)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリジメチルシロキサン等や、これらのブレンドが例示でき、焼成温度によるプロテオグリカン吸着量の制御が容易であるという観点から、ポリイミド樹脂が好ましく用いられる。すなわち、本発明の好ましい一実施形態では、接着性細胞培養用基材が、ポリイミド樹脂を含む。ポリイミド樹脂としては、以下の式(I)で示される構成単位を含むポリイミド樹脂が例示できる。また、スフェロイド形成が良好であり、耐熱性が向上して焼成温度の制御がより容易になるという観点から、分子内にフッ素原子を有する樹脂が好ましく、含フッ素ポリイミド(含フッ素ポリイミド樹脂)がより好ましい。本発明で用いられるポリイミド樹脂は、典型的には、酸二無水物とジアミンとを各々1種以上重合させて得られるポリアミド酸をイミド化することにより得られる。ポリイミド樹脂は、ポリアミド酸を化学構造の一部に含んでいてもよい。ポリイミド樹脂を製造する方法としては、例えば二段合成法が使用できる。ポリイミド樹脂の二段合成法は前駆体としてポリアミド酸を合成し、ポリアミド酸をポリイミド酸に変換する方法である。前駆体としてのポリアミド酸はポリアミド酸誘導体であってもよい。ポリアミド酸誘導体としては、例えばポリアミド酸塩、ポリアミド酸アルキルエステル、ポリアミド酸アミド、ビスメチリデンピロメリチドからのポリアミド酸誘導体、ポリアミド酸シリルエステル、ポリアミド酸イソイミドなどが挙げられる。ポリイミドとしてはピロメリット酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物等の酸無水物と、オキシジアミン、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン等のジアミンとからなるポリイミドが例示できる。フッ素原子を有する樹脂としては、例えば、4,4’-ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物(6FDA)/1,4-ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン(TPEQ)共重合体、6FDA/4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)/TPEQ共重合体、4,4‘-(4-4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸(BPADA)/2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン(HFBAPP)等の以下の式(I)で示される構成単位を含む含フッ素ポリイミド樹脂;エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等が例示できる。」 「【0059】 本発明の細胞培養方法で培養される細胞の種類は特に限定されず、正常細胞、がん細胞、およびハイブリドーマ等の融合細胞等が使用でき、遺伝子導入等の人工的処理がされた細胞であってもよい。特に限定されないが、例えば、人工多能性幹細胞(Induced pluripotent stem cells:iPS細胞)、胚性幹細胞(Embryonic stem cells:ES細胞)、間葉系幹細胞等の一般的に三次元培養を行うことが求められている細胞や、各種前駆細胞及び幹細胞を含む、脂肪細胞、肝細胞、腎細胞、膵臓細胞、乳腺細胞、内皮細胞、上皮細胞、平滑筋細胞、筋芽細胞、心筋細胞、神経細胞、グリア細胞、樹状細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、骨細胞、線維芽細胞、各種血液系細胞、網膜細胞、角膜由来細胞、生殖腺由来細胞、各種線細胞、その他間葉系前駆細胞、各種癌細胞等の細胞が挙げられる。これらの細胞が由来する生物種も特に制限されず、ヒトおよび非ヒト動物由来の各種細胞を用いることができる。細胞が由来する生物種としては、例えば、ヒト、アカゲザル、ミドリザル、カニクイザル、チンパンジー、タマリンおよびマーモセット等の霊長類、マウス、ラット、ハムスターおよびモルモット等の齧歯類、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ニワトリ、ウズラ、ミンク、ツパイ、ならびにゼブラフィッシュ等が例示できる。」 2 引用文献3に記載された事項 当審拒絶理由で引用され、本願の優先日前に発行された引用文献3(国際公開第2018/101481号)には、次の事項が記載されている。 「[請求項1] 培養された間葉系幹細胞を含むスフェロイドを有効成分として含有する、軟骨組織関連疾患の予防または治療剤。 [請求項2] 細胞培養用基材上で接着培養された間葉系幹細胞を含むスフェロイドを有効成分として含有する、請求項1に記載の予防または治療剤。 [請求項3] 前記軟骨組織関連疾患が、変形性膝関節症、外傷性軟骨損傷、肩関節周囲炎、顎関節症、関節リウマチ、離断性骨軟骨症、無腐性骨壊死、および半月板損傷からなる群より選択される、請求項1または2に記載の予防または治療剤。 [請求項4] 前記間葉系幹細胞が、ヒト脂肪組織由来の細胞である、請求項1~3のいずれか1項に記載の予防または治療剤。 [請求項5] 前記細胞培養用基材が、ポリイミド樹脂を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の予防または治療剤。 [請求項6] 前記ポリイミド樹脂が、含フッ素ポリイミド樹脂である、請求項5に記載の予防または治療剤。」 「[0013] <有効成分(スフェロイド)> 本形態に係る軟骨組織関連疾患の予防または治療剤は、有効成分として間葉系幹細胞を含むスフェロイドを含有するものである。本明細書において「スフェロイド」とは、細胞の凝集体(細胞塊)を意味し、三次元細胞集合体をもその概念に含むものとする。なお、スフェロイドのサイズについて特に制限はないが、一例として、スフェロイドの直径は、好ましくは1~500μmであり、好ましくは10~300μmである。ここで、スフェロイドの直径は、常法(粒子径分布測定)により測定されうる [0014] (間葉系幹細胞(MSC)) 本形態に係る有効成分としてのスフェロイドは、培養された間葉系幹細胞を含む点に特徴がある。培養に供される間葉系幹細胞(MSC)としては、未分化の間葉系細胞である限り特に制限はされず、哺乳動物の骨髄、骨膜、脂肪組織、末梢血等から常法に従い採取したものを用いることができる。また、採取後、未分化のMSCをプラスチック付着性の有無等により選択することもできる。ここで、MSCとしては、調達の容易さおよび高い増殖性という観点から、脂肪組織由来の間葉系幹細胞を用いることが好ましい。また、MSCとしては、本発明の予防・治療剤の投与対象と同種の哺乳動物由来のMSCを用いることが好ましく、投与対象以外の同種の哺乳動物由来のMSCや、投与対象自身のMSC(自家細胞)を用いることができる。これらの細胞が由来する生物種も特に制限されず、ヒトおよび非ヒト哺乳動物由来の各種細胞を用いることができる。細胞が由来する生物種としては、例えば、ヒト、アカゲザル、ミドリザル、カニクイザル、チンパンジー、タマリンおよびマーモセット等の霊長類、マウス、ラット、ハムスターおよびモルモット等の齧歯類、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ等が例示できる。なお、培養に供されるMSCとしては、MSCを70~90%コンフルエント(好ましくは80%コンフルエント)まで増殖させて得られた細胞をゼロ継代とし、それをさらに増殖させて1~10継代のMSCを用いることができる。」 「[0020] (細胞培養用基材) 細胞培養用基材の材質としては、樹脂等が例示できるが、生物由来の材料ではないという観点から、細胞培養用基材は樹脂を含むことが好ましい。このような樹脂としては、細胞培養用基材として利用可能な生体適合性の高いものであれば特に制限されない。一例として、細胞培養用基材が含む樹脂は、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂(例えば、含フッ素ポリイミド樹脂)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリジメチルシロキサン等や、これらのブレンドが例示されうる。また、材料の強度が高いという観点から、ポリイミド樹脂が好ましく用いられる。すなわち、本発明の好ましい一実施形態では、細胞培養用基材が、ポリイミド樹脂を含む。ポリイミド樹脂としては、以下の式(I)で示される構成単位を含むポリイミド樹脂が例示できる。また、スフェロイド形成が良好であるという観点から、分子内にフッ素原子を有する樹脂が好ましく、含フッ素ポリイミド(含フッ素ポリイミド樹脂)がより好ましい。本発明で用いられるポリイミド樹脂は、典型的には、酸二無水物とジアミンとを各々1種以上重合させて得られるポリアミド酸をイミド化することにより得られる。ポリイミド樹脂は、ポリアミド酸を化学構造の一部に含んでいてもよい。ポリイミド樹脂を製造する方法としては、公知の手法で製造すればよい。一例として二段合成法が使用できる。ポリイミド樹脂の二段合成法は前駆体としてポリアミド酸を合成し、ポリアミド酸をポリイミド酸に変換する方法である。前駆体としてのポリアミド酸はポリアミド酸誘導体であってもよい。ポリアミド酸誘導体としては、例えばポリアミド酸塩、ポリアミド酸アルキルエステル、ポリアミド酸アミド、ビスメチリデンピロメリチドからのポリアミド酸誘導体、ポリアミド酸シリルエステル、ポリアミド酸イソイミドなどが挙げられる。ポリイミドとしてはピロメリット酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物等の酸無水物と、オキシジアミン、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン等のジアミンとからなるポリイミドが例示できる。フッ素原子を有する樹脂としては、例えば、4,4’-ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物(6FDA)/1,4-ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン(TPEQ)共重合体、6FDA/4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)/TPEQ共重合体、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸(BPADA)/2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン(HFBAPP)、6FDA/2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン(BAPP)共重合体等の以下の式(I)で示される構成単位を含む含フッ素ポリイミド樹脂;エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等が例示できる。 [0021][化1] [図:0001429371000003.jpg] [0022] 上記式(I)中、X0は酸素原子、硫黄原子、または2価の有機基のいずれかを示し; Yは2価の有機基を示し;Z1、Z2、Z3、Z4、Z5、及びZ6は互いに独立して水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子のいずれかを示し、pは0または1である。なお、ポリイミド樹脂において、式(I)で示される化学構造は、樹脂の構成単位ごとに異なってもよく、同一であってもよい。X0、Y、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5、およびZ6の少なくとも1つはフッ素原子を1個以上含むことが好ましい。」 3 周知技術1の認定 前記1及び2に摘記した引用文献2及び3の記載事項に例示されているように、次の技術事項は、当業者にとって本願の優先日前の周知技術(以下「周知技術1」という。)であったと認められる。 <周知技術1> 「細胞培養用基材として、スフェロイドを良好に形成するために含フッ素ポリイミド樹脂を用いること。」 4 技術常識1の認定 前記1及び2に摘記した引用文献2及び3の記載事項に例示されているように、次の技術事項は、当業者にとって本願の優先日前の技術常識(以下「技術常識1」という。)であったと認められる。 <技術常識1> 「ES細胞及びiPS細胞以外の細胞のスフェロイドを培養すること。」 第6 本願発明と引用発明の対比 1 対比分析 本願発明と引用発明を対比する。 (1) 基本的な構成について 引用発明の「細胞培養基材表面」は、本願発明の「細胞培養用基材」に、 引用発明の「細胞付着性基材表面に形成された」「細胞付着性領域」は、本願発明の「細胞接着性表面を有する層」に、 引用発明の「細胞の付着を妨げる物質」は、本願発明の「細胞非接着性物質」に、それぞれ相当する。 (2) 本願発明の「含フッ素ポリイミド樹脂を含む細胞接着性表面を有する層と、該層の表面に設けられた細胞非接着性物質の微細パターンを有し、前記細胞接着性表面が細胞培養面である、ES細胞及びiPS細胞を除く細胞培養用基材であって、」の発明特定事項について 引用発明の「基材表面」は、「細胞付着性領域の周囲に細胞非付着性領域を有する」ものであるから、前記(1)も踏まえると、本願発明でいう「細胞接着性表面を有する層」を有するものである。 また、引用発明は、「細胞非付着性領域とは細胞を付着させない領域であり、上記培養基材上に細胞の付着を妨げる物質を被覆することによって得られ[る]」ものであるところ、「細胞付着性領域、並びにその周囲の細胞非付着性領域の形態は、上部から観察して、例えば、(1)ラインとスペースからなるパターン、(2)水玉模様のパターン、(3)格子状のパターン、その他特殊な形のパターン、或いはこれらが混ざっている状態のパターンが挙げられ[る]」ものであるから、引用発明の「細胞培養基材表面」は、本願発明でいう「細胞非接着性物質のパターンを有[する]」ものといえる。 また、引用発明は、「細胞付着性領域、並びにその周囲の細胞非付着性領域の製造法として」、「(1)細胞付着性基材表面上に細胞付着性領域をマスクして細胞非付着性領域になる部分だけに上述したポリマーを被覆する方法、(2)細胞付着性基材表面上に細胞非付着性ポリマーをオフセット印刷する方法」が挙げられているから、前記(1)を踏まえると、引用発明の細胞の付着を妨げる物質のパターンは、本願発明でいう「該層の表面に設けられた」ものである。 したがって、本願発明と引用発明は、「細胞接着性表面を有する層と、該層の表面に設けられた細胞非接着性物質の」「パターンを有し、前記細胞接着性表面が細胞培養面である、」「細胞培養用基材」の点で共通する。 一方で、細胞接着性表面を有する層について、本願発明は、「含フッ素ポリイミド樹脂を含む」のに対し、引用発明は、「細胞が付着する基材表面であれば特に限定されるものでなく、一般的な培養基材に使われるガラス、改質ガラス、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等の物質のみならず、一般に形態付与が可能である物質、例えば、上記以外の高分子化合物、セラミックス、金属類でも良[い]」ものの、含フッ素ポリイミド樹脂を含むかどうかは不明である点、細胞非接着性物質のパターンについて、本願発明は、「微細」であるのに対し、引用発明は、「細胞付着性領域において、周囲の細胞非付着性領域との境界部から形成した少なくとも2つの重層化部分が結合するまでの距離が300μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは250μmであり、もっとも好ましくは200μm以下であ[る]」ものの、細胞の付着を妨げる物質のパターンの大きさは不明である点、及び、本願発明は、「ES細胞及びiPS細胞を除く」ものであるのに対し、引用発明は、「基材表面へ胚性幹細胞或いは人工多能性幹細胞を付着させることで分化誘導させるものであ[る]」点で相違する。 (3) 本願発明の「微細パターンが、隣り合う単位形状間の間隙で構成され、間隙の最短距離が1μm以上、厚みが10μm以下の微細パターンであり、三次元の組織体を製造するための基材」の発明特定事項について 引用発明の「細胞付着性領域、並びにその周囲の細胞非付着性領域の形態」が、「(1)ラインとスペースからなるパターン」、「細胞付着性領域」の「形態」が「(2)水玉模様のパターン」又は「細胞非付着性領域の形態」が「(3)格子状のパターン」の場合に、引用発明の「細胞付着性領域」の「形態」は、本願発明の「単位形状」に相当する。そして、引用発明は、「細胞付着性領域、並びにその周囲の細胞非付着性領域の形態は、上部から観察して、例えば、(1)ラインとスペースからなるパターン、(2)水玉模様のパターン、(3)格子状のパターン、その他特殊な形のパターン、或いはこれらが混ざっている状態のパターンが挙げられ」ているから、引用発明の細胞の付着を妨げる物質のパターンは、本願発明でいう「隣り合う単位形状間の間隙で構成され[る]」ものといえる。 また、引用発明は、「細胞を細胞付着性領域周囲の細胞非付着性領域との境界部から3次元に重層化させ、最終的にその細胞付着性領域内に形成された複数の重層化部分が結合し、細胞付着性領域全体を厚みのある細胞集合体となるまで培養を行うものである」から、引用発明の「細胞培養基材表面」は、本願発明でいう「三次元の組織体を製造するための」ものであるといえる。 したがって、本願発明と引用発明は、「(細胞非接着性物質の)パターンが、隣り合う単位形状間の間隙で構成され、」「三次元の組織体を製造するための基材」である点で共通する。 一方で、細胞非接着性物質のパターンについて、本願発明は、「微細」であり、「間隙の最短距離が1μm以上、厚みが10μm以下」であるのに対し、引用発明は、「細胞付着性領域において、周囲の細胞非付着性領域との境界部から形成した少なくとも2つの重層化部分が結合するまでの距離が300μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは250μmであり、もっとも好ましくは200μm以下であ[る]」ものの、細胞の付着を妨げる物質のパターンの大きさや厚みは不明である点で相違する。 (4) 本願発明の「(ただし、下記(1)及び(2)の場合を除く。 (1)基材が、水溶性光硬化性ポリマーの硬化物を備える場合 (2)基材が、水/1-オクタノール分配係数(LogP)の平均値が0以上、2以下であるアクリル系モノマーから形成されるアクリル系ポリマー部分(A1)と、ポリエチレンオキサイド部分(A2)とが、下記式(I)で結合してなるブロック重合体(A)を含む場合 【化1】 [図:0001429371000004.jpg] )。」の発明特定事項について 基材について、本願発明は、「(ただし、下記(1)及び(2)の場合を除く。(1)基材が、水溶性光硬化性ポリマーの硬化物を備える場合(2)基材が、水/1-オクタノール分配係数(LogP)の平均値が0以上、2以下であるアクリル系モノマーから形成されるアクリル系ポリマー部分(A1)と、ポリエチレンオキサイド部分(A2)とが、下記式(I)で結合してなるブロック重合体(A)を含む場合 【化1】 [図:0001429371000005.jpg] )。」であるのに対し、引用発明は、「細胞付着性領域とは、細胞が付着する基材表面であれば特に限定されるものでなく、一般的な培養基材に使われるガラス、改質ガラス、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等の物質のみならず、一般に形態付与が可能である物質、例えば、上記以外の高分子化合物、セラミックス、金属類でも良く、細胞非付着性領域が、細胞を付着させない領域であり、上記培養基材上に細胞の付着を妨げる物質を被覆することによって得られ、好適な物質としてポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、澱粉のいずれか1種、もしくは2種以上が混合されたものが挙げられ[る]」ものであるが、前記(1)及び(2)の場合を除くものか明らかでない点で相違する。 2 一致点及び相違点 前記1の対比分析の結果をまとめると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「細胞接着性表面を有する層と、該層の表面に設けられた細胞非接着性物質のパターンを有し、前記細胞接着性表面が細胞培養面である、細胞培養用基材であって、パターンが、隣り合う単位形状間の間隙で構成され、三次元の組織体を製造するための基材」である点。 <相違点1> 細胞接着性表面を有する層について、本願発明は、「含フッ素ポリイミド樹脂を含む」のに対し、引用発明は、「細胞が付着する基材表面であれば特に限定されるものでなく、一般的な培養基材に使われるガラス、改質ガラス、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等の物質のみならず、一般に形態付与が可能である物質、例えば、上記以外の高分子化合物、セラミックス、金属類でも良[い]」ものの、含フッ素ポリイミド樹脂を含むかどうかは不明である点。 <相違点2> 細胞非接着性物質のパターンについて、本願発明は、「微細」であり、「間隙の最短距離が1μm以上、厚みが10μm以下」であるのに対し、引用発明は、「細胞付着性領域において、周囲の細胞非付着性領域との境界部から形成した少なくとも2つの重層化部分が結合するまでの距離が300μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは250μmであり、もっとも好ましくは200μm以下であ[る]」ものの、細胞の付着を妨げる物質のパターンの大きさや厚みは不明である点。 <相違点3> 本願発明は、「ES細胞及びiPS細胞を除く」ものであるのに対し、引用発明は、「胚性幹細胞或いは人工多能性幹細胞を付着させることで分化誘導させるものであ[る]」点。 <相違点4> 基材について、本願発明は、「(ただし、下記(1)及び(2)の場合を除く。(1)基材が、水溶性光硬化性ポリマーの硬化物を備える場合(2)基材が、水/1-オクタノール分配係数(LogP)の平均値が0以上、2以下であるアクリル系モノマーから形成されるアクリル系ポリマー部分(A1)と、ポリエチレンオキサイド部分(A2)とが、下記式(I)で結合してなるブロック重合体(A)を含む場合 【化1】 [図:0001429371000006.jpg] )。」であるのに対し、引用発明は、「細胞付着性領域とは、細胞が付着する基材表面であれば特に限定されるものでなく、一般的な培養基材に使われるガラス、改質ガラス、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等の物質のみならず、一般に形態付与が可能である物質、例えば、上記以外の高分子化合物、セラミックス、金属類でも良く、細胞非付着性領域が、細胞を付着させない領域であり、上記培養基材上に細胞の付着を妨げる物質を被覆することによって得られ、好適な物質としてポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、澱粉のいずれか1種、もしくは2種以上が混合されたものが挙げられ[る]」ものであるが、前記(1)及び(2)の場合を除くものか明らかでない点。 第7 判断 1 相違点についての検討 (1) 相違点1について 引用発明は、「細胞を細胞付着性領域周囲の細胞非付着性領域との境界部から3次元に重層化させ、最終的にその細胞付着性領域内に形成された複数の重層化部分が結合し、細胞付着性領域全体を厚みのある細胞集合体となるまで培養を行うものである」ものであるから、細胞付着性領域は、厚みのある細胞集合体を良好に形成できるものが好ましいことを、当業者は認識するといえる。 そして、前記第5の3で周知技術1として認定したとおり、「細胞培養用基材として、スフェロイドを良好に形成するために含フッ素ポリイミド樹脂を用いること。」は、周知技術である。 そして、引用発明の「細胞付着性領域」は、「細胞が付着する基材表面であれば特に限定されるものでな[い]」から、細胞付着性領域は、厚みのある細胞集合体を良好に形成できるものが好ましいことを認識している当業者は、引用発明において、前記周知技術1を採用し、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 (2) 相違点2について 引用発明は、「細胞付着性領域において、周囲の細胞非付着性領域との境界部から形成した少なくとも2つの重層化部分が結合するまでの距離が300μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは250μmであり、もっとも好ましくは200μm以下であ[る]」ところ、当業者は、引用発明の細胞非付着性領域を構成する細胞の付着を妨げる物質のパターンの大きさも決定する必要がある。そして、前記第4の3で認定した引用文献1に記載された技術事項は、「400μmの円形フォトレジストパターンが表面に300μmの間隔で正方配列した400μmの円形フォトレジストパターンが表面に300μmの間隔で正方配列した基材を作製[する]」ものであり、「このようにして作製された基材表面は、シラン化ガラス表面からなる細胞付着性の円形領域と、ポリアクリルアミド表面からなる細胞非付着性領域により構成される」ものであるから、細胞付着性の円形領域の間隔が300μmであることが理解でき、当該引用文献1に記載された技術事項も考慮すれば、引用発明において、隣り合う細胞付着性領域の隙間にある細胞非付着性領域を構成する細胞の付着を妨げる物質のパターンの大きさを、前記300μm程度の微細なものとすることは、当業者が容易に想到し得たことにすぎない。 また、当業者は、引用発明の細胞非付着性領域を構成する細胞の付着を妨げる物質のパターンの厚みを決定する必要があるところ、引用発明において細胞非付着性領域を構成する細胞の付着を妨げる物質のパターンの厚みを、対象とする細胞の種類や得ようとする重層化部分が結合した細胞集合体の大きさなどを考慮して10μm以下とすることは、当業者が適宜なし得た設計事項にすぎない。また、本願の明細書を参酌しても厚みが10μm以下であることに格別の技術上の意義も認められない。 したがって、引用発明において、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 (3) 相違点3について ア 本願発明は、「細胞培養基材」の発明であり、培養対象物であるES細胞及びiPS細胞を除いたとしても、そのことにより細胞培養基材としての構成を特定するものとは解されない。このことは、本願の明細書の【0089】において、「多能性幹細胞(ES細胞、iPS細胞)、体性幹細胞(神経幹細胞、間葉系幹細胞、造血系幹細胞、癌幹細胞その他の未分化な幹細胞)又はその前駆細胞を用いることができる。」と記載されているものの、多能性幹細胞(ES細胞、iPS細胞)と他の細胞における細胞培養基材の構成の相違について何らの説明もされていないことからも首肯できる。 したがって、相違点3は、実質的な相違点ではない。 イ 仮に、相違点3が実質的な相違点であったとしても、前記第5の4で技術常識1として認定したとおり、「ES細胞及びiPS細胞以外の細胞のスフェロイドを培養すること。」は、技術常識である。そして、引用文献1の全記載を考慮しても、引用発明の細胞培養基材表面がES細胞やiPS細胞の培養に特化したものであり、他の細胞を3次元に重層化させる培養には用いることができないと解すべき事情は見当たらないことも勘案すれば、引用発明において、前記技術常識1を踏まえて、細胞培養基材表面をES細胞及びiPS細胞以外の他の細胞を3次元に重層化させる培養に用いるためのものとすることは、当業者が適宜なし得る設計変更にすぎない。 したがって、引用発明において、相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 (4) 相違点4について 前記第4の3で認定した引用文献1に記載された技術事項の培養基材は、相違点4に係る本願発明で特定事項で除かれている基材ではない。 したがって、引用発明には、引用文献1に記載された技術事項の基材表面を含む、相違点4に係る本願発明の特定事項で除かれている基材以外の各種基材が含まれているといえる。 したがって、相違点4は実質的な相違点ではないか、引用発明において、相違点4に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 (5) 総合検討 前記(1)~(4)において検討したとおり、引用発明において、前記相違点1~4に係る本願発明の構成を備えるようにすることは、引用発明、引用文献1に記載された技術事項及び周知技術1に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。 そして、相違点1~4を総合的に勘案しても、本願発明の奏する効果は、本願発明の構成が奏するものとして、引用発明、引用文献1に記載された技術事項及び周知技術1に基づいて当業者にとって予測可能なものであり、格別顕著な効果であるともいえない。 2 請求人の主張について (1) 請求人は、引用発明は、胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞を使用することを大前提とし、本願発明における細胞培養用基材は、ES細胞及びiPS細胞を除く細胞用のものであるから、本願発明における細胞培養用基材は引用発明からは想定しない旨主張している。 しかしながら、前記1(3)で説示したとおりである。 (2) また、請求人は、引用文献1の実施例では、細胞付着性領域としてガラス表面が使用されたことにより効果が得られたことが記載されているから、引用文献1において、細胞付着性領域を、含フッ素ポリイミド樹脂を含むものに変更する必要性はない旨、引用文献2では凹凸構造を有しない細胞培養用基材の提供を目的としており、引用発明において引用文献2の記載を参酌することは想定し得ない旨、及び、引用文献3では間葉系幹細胞を含むスフェロイドを大前提としており、胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞の使用を大前提する引用発明において引用文献3の記載を参酌することは想定し得ない旨主張している。 しかしながら、前記1(1)で説示したとおり、引用発明の「細胞付着性領域」は、「細胞が付着する基材表面であれば特に限定されるものでな[い]」から、引用発明の細胞付着性領域がガラス表面のみに限定されるとの請求人の主張は失当である。また、引用文献2の「スフェロイド形成が良好であり、耐熱性が向上して焼成温度の制御がより容易になるという観点から、分子内にフッ素原子を有する樹脂が好ましく、含フッ素ポリイミド(含フッ素ポリイミド樹脂)がより好ましい」(【0023】)ことが、凹凸構造を有しない細胞培養用基材に特有の技術事項であると解すべき事情は存在しないから、引用発明において引用文献2の記載を参酌することは想定し得ない旨の請求人の主張は失当である。さらに、前記1(3)イで説示したように、引用文献1の全記載を考慮しても、引用発明の細胞培養基材表面がES細胞やiPS細胞の培養に特化したものであり、他の細胞を3次元に重層化させる培養には用いることができないと解すべき事情は見当たらないことも勘案すれば、引用発明において、引用文献3の記載を参酌することは想定し得ない旨の請求人の主張も失当である。 (3) さらに、請求人は、本願発明の細胞培養用基材によれば、サイズの均一性の高いスフェロイドを得ることができるとの効果を有するが、引用文献1~3からは当該効果を予想できない旨主張している。 しかしながら、本願の明細書【0013】には「本発明の細胞培養用基材は、微細パターンにより細胞培養部位が区画分けされているため、この区画に応じた所望のサイズの細胞を効率よく得やすい。特に、パターンの形状(規則)を適宜選択することで、所望のサイズで、均一な(サイズないし粒径の揃った)細胞を効率よく得ることもできる。」と記載されていることから、前記効果は、パターンの形状(規則)を適宜選択することによるものである。そうすると、本願発明は、パターンの形状(規則)を特定するものではないことから、当該主張は、請求項1の記載に基づく主張ではない。 (4) したがって、請求人の主張はいずれも採用できない。 3 小括 以上検討のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献1に記載された技術事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第8 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2023-018541

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