商標拒絶査定不服審判
2023-018474
- 審判番号
- 2023-018474
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 商願2021-140192
- 請求日
- 2023年11月01日
- 審決日
- 2024年11月07日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社キトー
- 【請求人代理人】弁理士法人MM&A
- 審判長/審判官
- 審判長 大森 友子
- 審判官 小俣 克巳
- 審判官 田中 瑠美
- 分類
- T18 .13 -Z (W07)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第3条第1項第3号、商標法第3条第2項、商標法第2条第1項、商標法第4条第1項第18号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
商願2021-140192拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
1 手続の経緯
本願は、令和3年11月10日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和4年 6月14日付け:拒絶理由通知書
令和5年 1月31日 :意見書、手続補正書の提出
令和5年 6月21日 :上申書の提出
令和5年 7月19日付け:拒絶査定
令和5年11月 1日 :審判請求書の提出
2 本願商標
本願商標は、別掲1のとおりの構成よりなり、第7類に属する願書に記載のとおりの商品を指定商品として、立体商標として登録出願され、その後、本願の指定商品は、原審における上記1の手続補正書により、第7類「レバーホイスト」に補正されたものである。
3 原査定の拒絶の理由(要旨)
本願商標は、別掲1のとおり、「レバーホイスト」を異なる3方向から表した図からなる立体商標として出願されたものであるところ、その中央部分には、全体的にY字に見える形(以下、「Y字形」という。)をした切替ツマミを有している。
そして、本願の指定商品を取り扱う業界においては、本願商標に類似した立体的形状のレバーホイストが製造・販売されていることがうかがえるところ、Y字形の切替ツマミが、機能又は美観上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであるか否かを検討するため、市場に流通するレバーホイストの形状をみると、レバーホイストの切替ツマミがY字形でもI字形でもない形状のものが取引されていることがうかがえる上、切替ツマミがI字形に分類されるものであっても、突起のある箇所が異なっていたり、I字形の上部が丸いものとそうでないものがあったりと、さまざまな形状のものが存在するものといえる。
そうすると、Y字形の切替ツマミは、到底想定し得ない形状であるとはいえず、商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状の一つにすぎないと判断するのが相当である。
さらに、出願人が提出した証拠からは、レバーホイストの切替ツマミがY字形であることによって、当該レバーホイストが出願人の商品であると取引者・需要者が認識しているような事情を見出すことができない。
してみれば、本願商標は、指定商品「レバーホイスト」との関係において、同種の商品の形状として採用し得る立体的形状の範囲を超えているとはいえないものであるから、本願商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は、単に商品の形状を普通に用いられる方法で表示したものと理解するにとどまるとみるのが相当である。
したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。
なお、出願人は、令和5年1月31日提出の意見書及び同年6月21日提出の上申書において、本願商標は、50年以上の長年にわたる使用により相応の周知性を獲得している旨主張するが、提出された証拠から確認できる本願商標の使用例は、いずれも「キトーレバーブロック」「KITO」等の文字と共に用いられているものであり、通常、需要者はこれらを目印に商品を識別しているものと推認され、本願商標である立体的形状のみによって、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至っていると認めることはできない。
4 当審の判断
(1)立体商標における商品の形状について
商標法は、商標登録を受けようとする商標が、立体的形状(文字、図形、記号若しくは色彩又はこれらの結合との結合を含む。)からなる場合についても、所定の要件を満たす限り、登録を受けることができる旨規定する(商標法第2条第1項、同法第5条第2項参照)。
しかしながら、以下の理由により、立体商標における商品等の形状は、通常、自他商品の識別機能を果たし得ず、商標法第3条第1項第3号に該当するものと解される。
ア 商品の形状は、多くの場合、商品に期待される機能をより効果的に発揮させたり、商品の美感をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって、商品の出所を表示し、自他商品を識別する標識として用いられるものは少ないといえる。このように、商品の製造者、供給者の観点からすれば、商品の形状は、多くの場合、それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの、すなわち、商標としての機能を有するものとして採用するものではないといえる。また、商品の形状を見る需要者の観点からしても、商品の形状は、文字、図形、記号等により平面的に表示される標章とは異なり、商品の機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識し、出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。
そうすると、商品の形状は、多くの場合に、商品の機能又は美感に資することを目的として採用されるものであり、客観的に見て、そのような目的のために採用されたと認められる形状は、特段の事情のない限り、商品の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法第3条第1項第3号に該当すると解するのが相当である。
イ また、商品の具体的形状は、商品の機能又は美感に資することを目的として採用されるが、一方で、当該商品の用途、性質等に基づく制約の下で、通常は、ある程度の選択の幅があるといえる。しかし、同種の商品について、機能又は美感上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば、当該形状が特徴を有していたとしても、商品の機能又は美感に資することを目的とする形状として、商標法第3条第1項第3号に該当するものというべきである。その理由は、商品の機能又は美感に資することを目的とする形状は、同種の商品に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから、先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは、公益上の観点から必ずしも適切でないことにある。
ウ さらに、商品に、需要者において予測し得ないような斬新な形状が用いられた場合であっても、当該形状が専ら商品の機能向上の観点から選択されたものであるときには、商標法第4条第1項第18号の趣旨を勘案すれば、商標法第3条第1項第3号に該当するというべきである。その理由として、商品が同種の商品に見られない独特の形状を有する場合に、商品の機能の観点からは発明ないし考案として、商品の美感の観点からは意匠として、それぞれ特許法・実用新案法ないし意匠法の定める要件を備えれば、その限りにおいて独占権が付与されることがあり得るが、これらの法の保護の対象になり得る形状について、商標権によって保護を与えることは、商標権は存続期間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有することができる点を踏まえると、特許法、意匠法等による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じさせることになり、自由競争の不当な制限に当たり公益に反することが挙げられる。
以上、知的財産高等裁判所、平成18年(行ケ)第10555号 同19年6月27日判決、平成19年(行ケ)第10215号 同20年5月29日判決及び平成22年(行ケ)第10253号 同23年6月29日判決参照のこと。
(2)本願商標の商標法第3条第1項第3号該当性について
本願商標は、別掲1のとおりの構成よりなり、原審説示のとおり、「Y字形」の切替ツマミを有する「レバーホイスト」を異なる3方向から表した図からなる立体商標であるところ、本願の指定商品の「レバーホイスト」は、一般に、重量物の巻き上げ、降し、牽引のほか、荷物輸送時の緊縛具(荷締め)としても使用されるものであり、定格荷重に合わせて本体長さ、質量等の規格が異なるものである。そして、請求人が第27号証(別掲2)において挙げる国内の主要なレバーホイストメーカー6社の商品を比較するに、これらの6社の取扱いに係る商品は、「レバーホイスト」の商品としての性質や機能を確保するために、本体フレーム、フック、レバー、グリップ、巻上下操作及び遊転操作に必要な切替ツマミ等の基本構造を共通にするものである(別掲3)。
その上で、本願商標の「レバーホイスト」の立体的形状について見るに、当該立体的形状は、本体フレーム、フック、レバー、グリップ、巻上下操作及び遊転操作に必要な切替ツマミを有しており、「レバーホイスト」について、商品の機能に資することを目的として採用されたものと認められ、また、切替ツマミについて、独自に「Y字形」の立体的形状を採用しているとしても、本願商標全体から見れば、指定商品である「レバーホイスト」そのものの形状として、取引者、需要者において、商品の機能若しくは美感に資することを目的とする形状と予測し得る範囲のものであるから、それを超えて、本願商標の特徴をもって、商品の出所を識別する標識として認識させるものとはいえない。
そうすると、本願商標を、その指定商品「レバーホイスト」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、該商品の機能又は美感に資する目的のために採用し得る形状の一形態を表したものとして理解するにとどまり、本願商標は、商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であって、自他商品を識別するための標識としては認識し得ないものと判断するのが相当である。
したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。
(3)本願商標が商標法第3条第2項の要件を具備するか否かについて
請求人は、意見書、上申書及び請求書において、本願商標はその指定商品についての出所識別標識として機能している旨主張し、本願商標の使用状況として、第1号証ないし第27号証を提出しているところ、この主張は、本願商標が使用された結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものに至っている(商標法第3条第2項)旨の主張として解釈されるものであり、その前提として、本願商標が商標法第3条第1項第3号に該当するものであることは、上記(2)のとおりである。
そこで、請求人の主張及び同人が提出した第1号証ないし第27号証を参照し、本願商標が商標法第3条第2項の要件を具備するかについて検討する。
ア 商標法第3条第2項について
商標法第3条第1項第3号から同項第5号に該当する商標について、同条第2項所定の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」に至ったか否かを判断するに当たっては、当該商標と外観において同一と見られる標章が指定商品又は指定役務とされる商品又は役務に使用されたことを前提として、その使用開始時期、使用期間、使用地域、使用態様、当該商品又は役務の販売数量又は売上高等及び当該商品又は役務やこれに類似した商品又は役務における当該商標又は標章に類似した他の標章の存否などの事情を総合的に考慮すべきものといえる(知的財産高等裁判所 平成27年(行ケ)10019号 同年10月29日判決言渡参照)。
イ 事実認定
上記アの観点に照らし、本願商標が商標法第3条第2項の要件を具備するかについて判断する。請求人の主張の全趣旨及び同人が提出した各証拠によれば、次のとおりである。
(ア)本願商標の使用態様
請求人は、主にマテリアルハンドリング機器の製造販売を行っている機械メーカーであり、中でもホイスト機器のマーケットシェアは日本では60%以上、米国では40%以上を占める国内最大メーカーである(請求人の主張、第3号証)。1932年に東京都大田区で「鬼頭製作所」として設立し、当時は、ウインチ、プレートコンベア、ポンプなどを中心に生産していたが、1947年に万能けん引機である「レバーブロック」(請求人が「レバーホイスト」商品に使用する登録商標)を開発し、その後も主力商品であるレバーホイストやチェーンブロックの改良を続け、1970年に社名を「株式会社キトー」に改称し、現在に至る(請求人の主張、第1号証の1ないし2、第4号証、第9号証)。
また、請求人は、同人の取扱いに係る1971年10月に発売された「レバーブロック(L3形)」と呼ばれるレバーホイストにおいて、初めて切替ツマミの形状にY字形を採用したが、本願の立体的形状は、2002年に発売された「レバーブロック(L5形)」と呼ばれるレバーホイスト(以下「請求人商品」という。)において採用されたものであることから、本願商標と同一の立体的形状は、2002年から継続して20年以上使用されているものである(請求人の主張、第9号証及び第15号証)。
しかしながら、請求人の取扱いに係るレバーホイスト中、少なくともL3形及びL4形と呼ばれるレバーホイストは、その形状(本体レバー部分の長さ等)が、本願商標に係る立体的形状とは異なるものであって(第15号証)、2002年以降の請求人の製造に係るレバーホイストの全てが本願商標に係る立体的形状と同視できるものとはいえない。
さらに、請求人商品には、本体フレーム部分に「KITO」の文字が表示されているほか、構成部品の一部に「KITO」の文字が刻印されている(第15号証)。
(イ)本願商標の販売数量、金額及び市場シェア
請求人は、レバーホイストに係る販売数量及び金額について、コロナ禍にあった2020年度及び2021年度を除けば、多少の増減はあるも、2011年度の65,319台と2018年度の123,445台を比較すると約2倍となっている上、記録のある1995年度以降2022年度までの総計は、販売数量2,458,268台、販売金額525億6千万円となる旨主張するが、請求人商品の使用は2002年からであることからも、これらのうち、本願商標(請求人商品)に係るものがどれくらいであるかは確認することができない。
また、請求人は、日本産業機械工業会のレバーホイストに関するデータによれば、当該工業会会員の4社の中で2017年度から2023年度までの7年間における、請求人の取扱いに係るレバーホイストの台数ベースの販売シェアは、約48%から56%、金額ベースの販売シェアは、約59%から72%であることが見て取れる(第17号証)と主張するが、これらの商品がすべて、請求人商品に係るものであるかは確認することができない。
さらに、市場占有率についても同様に、請求人商品に関するデータであるのか確認することができない上、日本産業機械工業会の会員企業の詳細が表示されておらず、レバーホイストの業界全体に係るデータであるのか把握することができない。
(ウ)本願商標の使用期間
上記(ア)で述べたとおり、本体フレーム部分に「KITO」の文字が表示された請求人商品は、2002年から現在に至るまで継続して取り扱われており、その販売期間は20年以上である(請求人の主張、第9号証及び第15号証)。
(エ)本願商標の使用地域
請求人は、東京に本社、山梨に本社工場、その他、北海道から九州まで14か所の営業所やカスタマーセンターを有し(第5号証)、これら以外にも、流通販売制度として、特約代理店(現在15社)及び認定販売代理店(現在122社、北海道から沖縄まで全国に分布)を通して製品を販売している(請求人の主張、第6号証)。さらに修理請負店(サービスネットワーク:現在113社)は北海道から九州まで全国にあり(第7号証)、外国には、1990年から米国、カナダ、中国、フィリピン、タイ、ドイツ、韓国、インド、ブラジル、インドネシア、台湾、イタリア、フィンランド、オランダ、オーストリアの世界15か国に事業子会社を設立し、現在は50か国以上に製品及びサービスを提供している(請求人の主張、第8号証)。
(オ)本願商標の広告宣伝の方法・期間・地域及び規模
請求人は、レバーホイストの需要者は、運輸・建設・土木・橋梁・造船・林業等の作業現場の業者や職人、トラック運転手等であると述べ、これらの業界の需要者を対象として、1971年の販売開始から現在に至るまで、展示会、新聞広告、雑誌広告、カタログ配布、自社ウェブサイト掲載等の方法で全国的かつ継続的に行っている旨主張し、展示会については、展示会一覧(第10号証)及び2012年以降の一部の展示会において撮影した写真、ブースレイアウト図、展示会案内、出展報告(第11号証の1ないし4)を、新聞広告については、業界紙である「物流ウィークリー」、「電気新聞」、「橋梁新聞」、「日刊建設工業新聞」、「商経機械新聞」、「フジサンケイビジネスアイ」、「広報とらっく」等への掲載に係る資料(第12号証及び第13号証)及び実際の掲載広告の一部(第13号証の1)を、雑誌広告については、「日経コンストラクション」、「建設機械」等への掲載に係る資料(第12号証及び第14号証)及び実際の掲載広告の一部(第14号証)を、カタログ配布については、これまでに発行されたカタログの一部(第15号証)及び最新カタログ一式(第25号証)を、自社ウェブサイト掲載については、2017年7月から2022年7月の5年間のアクセス状況の分析結果(第16号証)をそれぞれ提出している。
上記によれば、展示会は、直近では、2023年(17回)、2022年(14回)、2021年(10回)、2020年(2回)、2019年(31回)、2018年(43回)、2014年から遡って2004年までは約40から60回程度、開催地域は、北海道、東北、北陸、関東、中部、近畿、中国、九州と、全国的に開催されており(請求人の主張、第10号証)、ブースレイアウト図には、「LB」(レバーブロックの略)の文字が確認できるものの、展示風景の写真からは、請求人商品の「レバーブロック(L5形)」であるかまでは確認できない(第11号証の1ないし4)。
新聞広告は、2012年から2019年にかけて、「物流ウィークリー」、「電気新聞」、「橋梁新聞」、「日刊建設工業新聞」、「商経機械新聞」、「フジサンケイビジネスアイ」、「広報とらっく」等において、請求人商品に関する広告が掲載されていることが一部確認できる(第13号証の1)。
雑誌広告は、2012年から2021年にかけて、「日経コンストラクション」、2019年に「建設機械」において、請求人商品に関する広告が掲載されていることが一部確認できる(第14号証)。
また、請求人は、2018年度から2023年度までの広告費は、展示会、新聞、雑誌等を合わせて約9,960万円で、平均すると年間約1,660万円である(第10号証、第11号証の2、第12号証、第13号証の2)旨主張しており、広告宣伝としては、一定程度の規模での実績がうかがえるものの、これらがすべて、本願商標の立体的形状に係る商品(請求人商品)であるかまでは確認することができない。
(カ)請求人以外の者による本願商標と同一又は類似する標章の使用の有無
請求人を含む国内の主要なレバーホイストメーカー6社の商品は、「レバーホイスト」の商品としての性質や機能を確保するために、本体フレーム、フック、レバー、グリップ、巻上下操作及び遊転操作に必要な切替ツマミ等の基本構造を共通にするものである(第27号証、別掲3)。
また、請求人は、国内に入ってくる模倣品に対しては、水際対策として、本願商標とは異なる登録第405181号商標に基づく通知及び税関差止申立を行っている(第22号証ないし第24号証)。
(キ)受賞歴、その他需要者の本願商標の認識度を示す資料
請求人は、請求人商品である「レバーブロック(L5形)」について、2008年度日本機械学会「優秀製品賞」を受賞したこと(第20号証)、また、社団法人発明協会主催の平成9年度(1997年度)関東地方発明表彰で「関東通商産業局長賞」を受賞したこと(第21号証)を挙げ、これらは製品全体の機能・性能に対しての賞ではあるものの、当該業界において請求人商品の周知著名性を高める一助となっていると主張する。
その他、本願商標の立体的形状が請求人に係る出所識別標識として広く認識されていることを客観的かつ具体的に示す証拠の提出はなく、需要者の本願商標(請求人商品)についての認識度を示すアンケート調査等の提出もない。
ウ 判断
請求人は、上記イ(ア)のとおり、請求人商品を2002年頃より継続的に販売し、使用期間としては20年以上にわたり使用していたとしても、請求人の取扱いに係る商品の販売実績として提示した資料がすべて請求人商品の立体的形状である本願商標の使用に係るもののみであるかは確認することができず、市場占有率についても、請求人商品(本願商標の使用)に関するデータのみであるのか確認することができない上、レバーホイストの業界全体に係るデータについて把握することができないから、本願商標に係る商品(請求人商品)の販売数量、売上高、市場占有率について、客観的な評価をすることができない。
また、請求人による広告宣伝としては、一定程度の規模での実績がうかがえるものの、これらがすべて、請求人商品(本願商標に係るもの)のみであるかまでは確認することができず、請求人商品がどの程度、需要者、取引者の目に触れ、それにより本願商標が記憶されたかについては具体的に評価することができない。
さらに、本願商標と共通する、本体フレーム、フック、レバー、グリップ、巻上下操作及び遊転操作に必要な切替ツマミを有する基本構造からなる「レバーホイスト」が、請求人以外の者により取り扱われている実情にあり、かつ、請求人商品には、「KITO」の文字が表示又は刻印されていることよりすれば、本願商標は、その立体的形状のみをもって使用されてきたということができず、需要者は、本願商標の立体的形状のみならず、「KITO」の文字(刻印)を含めて、同業他社の商品とを区別しているともいえるものである。
このような場合、本願商標と併用されている文字商標等の影響を排除し、本願商標のみに着目して、その識別性の有無や程度を明らかにするための資料として、例えば、認識度アンケート調査が有用なことが少なくないが、そのような資料の提出もない。
加えて、上記請求人商品が製品全体の機能・性能に係る賞を受賞したことがあるとしても、当該賞の選考方法や内容等の詳細は不明である上、請求人商品の立体的形状に関するものというより発明技術に関する賞であると推測され、本願の指定商品に係る需要者の間において、本願商標の立体的形状が格別に注目されるようなものとはいい難く、その他、当該立体的形状が請求人に係る出所識別標識として広く認識されていることを客観的かつ具体的に示す証拠は見いだせない。
その上さらに、請求人からは、レバーホイストの切替ツマミが「Y字形」であることによって、当該レバーホイストが請求人の商品であると取引者、需要者が認識していることを示す資料の提出はなく、かつ、そのような事情を見いだすこともできない。
そうすると、請求人の主張及び同人が提出した各号証を参照しても、請求人が本願商標を商品「レバーホイスト」に使用した結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至っていると認めることはできない。
したがって、本願商標は、商標法第3条第2項の要件を具備するものではない。
(4)請求人の主張について
ア 請求人は、本願商標の切替ツマミに係る「Y字形」の形状は、Y字の上半分は正面視略逆三角形で、下半分は逆三角形の下の頂点から下方に棒状に伸びた形状で、側面視では凸形状となっており、全体として丸みがあり、略逆三角形の上辺は緩やかにカーブした形状で、切替ツマミのすぐ上に位置する遊転握りのフランジ部と略逆三角形の上辺の曲率がほぼ同じであることにより、正面視で切替ツマミが遊転握りを支えるように見える独特のデザインになっていると述べ、この独自性のある形状に加え、製品全体に対して比較的大きな形状の切替ツマミが、ほぼ中央の目立つ位置にあることによって、非常に存在感のある切替ツマミになっていると主張する。また、この切替ツマミの形状は、請求人の取扱いに係る1971年10月発売の「レバーブロック(L3形)」、「レバーブロック(L4形)」及び「レバーブロック(L5形)」に採用されているところ、一般的なレバーホイストの切替ツマミの形状は、請求人以外の製品はI字形のみであり、種々の形状の切替ツマミが存在するといった取引の実情もないことから、本願商標の独自性のある切替ツマミの立体的形状は、取引者、需要者において、「機能又は美観上の理由による形状の変更又は装飾等と予測し得る範囲」のものとは考えられず、同種の商品の形状として採用し得る立体的形状の範囲を超えている旨主張する。
しかしながら、本願商標は、請求人商品である「レバーブロック(L5形)」に係る指定商品「レバーホイスト」の立体的形状そのものを出願したものであるところ、「レバーホイスト」は、一般に、重量物の巻き上げ、降し、牽引のほか、荷物輸送時の緊縛具(荷締め)としても使用されるものであり、定格荷重に合わせて本体長さ、質量等の規格が異なるものの、その商品としての性質や機能を確保するために、本体フレーム、フック、レバー、グリップ、巻上下操作及び遊転操作に必要な切替ツマミといった基本構造を有するものである。
そして、本願商標の立体的形状は、上記の基本構造を有しており、「レバーホイスト」について、商品の機能に資することを目的として採用されたものと認められ、また、切替ツマミについて、独自に「Y字形」の立体的形状を採用しているとしても、本願商標全体から見れば、「レバーホイスト」の形状として、取引者、需要者において、商品の機能若しくは美感に資することを目的とする形状と予測し得る範囲のものであるから、それを超えて、本願商標の特徴をもって、商品の出所を識別する標識として認識させるものとはいえず、そうすると、本願商標を、その指定商品「レバーホイスト」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、該商品の機能又は美感に資する目的のために採用し得る形状の一形態を表したものとして理解するにとどまり、本願商標は、商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であって、自他商品を識別するための標識としては認識し得ないものといわざるを得ない。
また、上記(3)イ(ア)のとおり、「レバーブロック(L3形)」及び「レバーブロック(L4形)」は本願商標とその形状が異なるものである。
さらに、請求人からは、レバーホイストの切替ツマミが「Y字形」であることによって、当該レバーホイストが請求人の商品であると取引者、需要者が認識していることを示す資料の提出はなく、かつ、そのような事情を見いだすことができない。
イ 請求人は、同人の取扱いに係るレバーホイストの「Y字形」切替ツマミと遊転握りの立体的形状について、立体商標の登録(登録第6035820号商標)を有していると述べ、その審査の過程においては、識別力に関する拒絶理由は通知されなかったことから、「Y字形」切替ツマミの立体的形状又は「Y字形」切替ツマミと遊転握りの立体的形状について本来的な自他商品識別機能が認められて登録されたものである旨主張する。
しかしながら、登録出願に係る商標が商標法第3条第1項第3号に該当するものであるか否かの判断は、当該商標登録出願の査定時又は審決時において、当該商標の構成態様と指定商品又は指定役務との関係や、その商品又は役務の分野における取引の実情をも踏まえて、個別具体的に判断されるべきものであるところ、本願商標は、その指定商品である「レバーホイスト」そのものと捉えられる立体的形状である一方、請求人の登録第6035820号商標は、請求人の取扱いに係る商品の一部の立体的形状を表したにすぎないものであり、両者は構成態様が異なる点において、事案を異にするものというべきである。また、過去の登録例が存在することをもって、上記判断が左右されるものではない。
ウ したがって、請求人の上記ア及びイの主張は、いずれも採用することができない。
(5)まとめ
以上のとおり、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、かつ、同条第2項の要件を具備するものではないから、登録することができない。
よって、結論のとおり審決する。
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