特許拒絶査定不服審判
2023-017783
冷蔵庫
- 審判番号
- 2023-017783
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-504596
- 請求日
- 2023年10月19日
- 審決日
- 2025年10月20日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】青島海爾電氷箱有限公司
- 【請求人代理人】弁理士法人ATEN
- 【請求人】海爾智家股分有限公司
- 【請求人代理人】弁理士法人ATEN
- 審判長/審判官
- 審判長 水野 治彦
- 審判官 正木 裕也
- 審判官 平瀬 知明
- 分類
- P18 .537-WZ (F25D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-504596「冷蔵庫」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 1月28日国際公開、WO2021/012653、令和 4年 9月29日国内公表、特表2022-542111〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2020年(令和2年)1月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2019年7月23日(CN)中華人民共和国)を国際出願日とする出願であって、以降の手続は次のとおりである。
令和5年 1月19日付け :拒絶理由通知書
令和5年 4月12日 :意見書及び手続補正書の提出
令和5年 6月13日付け :拒絶査定
令和5年10月19日 :審判請求書及び手続補正書の提出
令和6年 8月29日 :面接記録
令和6年 9月27日付け :拒絶理由通知書
令和6年12月24日 :意見書及び手続補正書の提出
令和7年 5月14日付け :拒絶理由通知書
令和7年 8月 7日 :意見書及び手続補正書の提出
第2 令和7年5月14日付けで通知した拒絶理由通知書の概要
令和7年5月14日付けで通知した拒絶理由通知の理由は、次のとおりのものである。
1.(明確性)この出願(以下、「本願」という。)は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
記
理由1(明確性)について
・請求項1-9
請求項1には「前記扉が開く過程において、前記ヒンジ部品は、前記扉の重心を前記庫本体に対して前記第2の方向に移動させる」との発明特定事項が記載されている。
しかしながら、発明の詳細な説明の他の記載を考慮しても、「扉が開く過程において」、「扉の重心が、前記庫本体に対して、前記第2方向に移動する」ことにより特定される扉の動きが技術的に不明であるといわざるを得ない。
そうすると、上記請求項1の発明特定事項は、「扉が開く過程において」、「扉の重心」が「庫本体」のいずれの部位との関係でどのように移動することを意味しているのか、明確に理解できない。
第3 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、令和7年8月7日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって、特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
庫本体と、前記庫本体を開閉するための扉と、前記庫本体と前記扉とを接続するためのヒンジ部品とを含み、
前記庫本体は、収容室、および、前記収容室を画定する外側面であって、閉状態の前記扉と交差しかつ前記ヒンジ部品に隣接した外側面を含み、
前記収容室から前記外側面に向かう方向が第1の方向であり、閉状態の前記扉から前記庫本体に向かう方向が第2の方向であり、
前記扉が開く過程において、前記ヒンジ部品は、前記扉の重心を前記庫本体に対して前記第2の方向に移動させる一方で、前記扉を前記庫本体に対して前記第1の方向に移動させるように構成されたことを特徴とする冷蔵庫。」
第4 当審の判断
1 規範
特許法36条6項2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。その趣旨は、仮に、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので、そのような不都合な結果を防止することにある。
そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきとされる。
以下、この規範に沿って判断する。
2 特許請求の範囲の記載について
本願発明は、前記第3に示したとおり、庫本体、庫本体を開閉するための扉、及び庫本体と扉とを接続するためのヒンジ部品を含む冷蔵庫であって、該ヒンジ部品は、次の発明特定事項を含むものである。
「前記扉が開く過程において、前記ヒンジ部品は、前記扉の重心を前記庫本体に対して前記第2の方向に移動させる一方で、前記扉を前記庫本体に対して前記第1の方向に移動させるように構成された」こと
ここで、「扉の重心」については、請求項1及び本願明細書において、具体的な位置が特定されていないものの、本願明細書の段落【0025】に、「扉重心は、扉20の各部分に重力が作用する合力の作用点として定義される。」と記載されている。
そこで、扉の各部分に作用する重力が作用する合力の作用点の位置について検討する。
本願明細書の段落【0025】によれば、扉には、ボルトホルダ、ディスペンサー、製氷機などの部材が装備される場合も想定されていることから、扉の各部分に作用する重力は、扉自体に作用する重力に加えて、当該部材に作用する重力も存在すると考えられる。しかしながら、当該部材は、扉に装備されるものであるため、扉自体に作用する重力及び当該部材に作用する重力の作用点は、いずれも扉の内部に位置することが理解できる。そうすると、扉の各部分に作用する重力の合力の作用点は、扉の形状や各部材が配置される場所によって具体的な位置が異なるとしても、扉の内部に存在する一点であることは理解できる。
また、「第2の方向」は、請求項1に「閉状態の前記扉から前記庫本体に向かう方向」であることが特定されており、扉から庫本体に向かう方向である。
以上によれば、請求項1に記載された「前記扉が開く過程において」、「前記扉の重心が前記庫本体に対して前記第2の方向に移動する」ことは、扉が開く過程において、扉の内部に存在する一点である扉の重心が、扉から庫本体に向かう方向に移動することと一応、解釈できる。
しかしながら、請求項1における「前記扉が開く過程において、前記ヒンジ部品は、前記扉の重心を前記庫本体に対して前記第2の方向に移動させる一方で、前記扉を前記庫本体に対して前記第1の方向に移動させる」という記載は、扉の重心が庫本体に対して第2の方向に移動することと、扉が庫本体に対して第1の方向へ移動することをともに満たすことであるから、「前記扉を前記庫本体に対して前記第1の方向に移動させる」時に、「前記扉の重心を前記庫本体に対して前記第2の方向に移動させる」という扉の重心の動きがどのようなものであるか、その技術的な意味内容が明確に理解できない。
3 本願の発明の詳細な説明の記載
願書に最初に添付した明細書(以下「本願明細書」という。)及び図面には、以下の記載がある(なお、下線は当審が付与した。)。
(1) 「【0023】
冷蔵庫100は、庫本体10と、庫本体10を開閉するための扉20と、庫本体10と扉20とを接続するためのヒンジ部品30とを含む。
【0024】
扉20は扉重心を含み、扉20が開く過程において、ヒンジ部品30が扉重心を庫本体10に近い方向に移動させるように駆動する。
【0025】
ここで、扉重心は、扉20の各部分に重力が作用する合力の作用点として定義される。扉20自体は比較的重く、扉20には、ボルトホルダ、ディスペンサー、製氷機などの部材が装備されている場合があるため、扉20の重量がさらに重くなり、冷蔵庫100全体の転倒リスクが増加する。しかしながら、本実施形態では、ヒンジ部品30が扉重心を庫本体10に近い方向に移動させるように駆動することにより、冷蔵庫100の転倒を効果的に回避することができる。
【0026】
具体的に、扉20の庫本体10に向かう方向は第2の方向Yである。扉20が開く過程において、扉重心は、第2の方向Yに庫本体10に近接して移動する。このとき、扉重心が庫本体10に近接し、冷蔵庫100全体の安定性を向上させることができる。」
(2) 「【0030】
なお、本実施形態では、扉20が開く過程において、ヒンジ部品30は、同時に扉20を第1の方向Xに移動させ、扉重心を庫本体10に近い方向に移動させるように駆動する。つまり、扉20の開閉度の増加と、冷蔵庫100の転倒防止とを、同時に実現する。」
(3) 「【0032】
ここで、前端面14は庫本体10の扉20に近い端面である。
【0033】
扉20は、接続された扉本体21およびドアシール22を含み、ドアシール22は外側面13に近いサイドドアシール221を含む。
【0034】
ここで、ドアシール22は扉本体21の庫本体10に近い側面に環状に設けられ、サイドドアシール221はヒンジ部品30に最も近く垂直方向に沿って設けられたドアシールである。
【0035】
扉20が閉状態である場合、ドアシール22が前端面14に接触する。」
(4) 「【0042】
具体的に、ヒンジ部品30は、互いに嵌合された第1のヒンジ金具32および第2のヒンジ金具31を含む。第1のヒンジ金具32は扉20に配置され、第2のヒンジ金具31は庫本体10に配置される。」
(5) 「【0045】
<第1の具体例>
第1の具体例では、図6~図11を参照すると、第1の溝本体321は、初期位置A1および枢動位置A2を有する。第2の溝本体322は、対向して配置された第1の端3221および第2の端3222と、第1の端3221と第2の端3222との間に配置されて接続された第1のセクションL1および第2のセクションL2とを含む。」
【0046】
図6および図7を参照すると、扉20が閉状態である場合、第1の軸本体311が初期位置A1にあり、第2の軸本体312が第1の端3221にある。
【0047】
図8および図9を参照すると、扉20が閉状態から第1の開角度α1まで開く過程において、第2の軸本体312は第1のセクションL1内を移動して第1の軸本体311を初期位置A1から枢動位置A2まで移動させるように駆動し、扉20が第1の方向Xに沿って庫本体10から離れて移動すると同時に、扉重心が庫本体10に近い方向に移動する。」
【0048】
従来技術では、単軸のヒンジ部品であるため、扉が庫本体に対して常にその場で回転し、庫本体の開閉度が制限される。これに対し、本具体例では、二軸(第1の軸本体311および第2の軸本体312)および二溝(第1の溝本体321および第2の溝本体322)により、扉20を収容室Sから離れた方向に移動させて、庫本体10の開閉度の問題を効果的に解決する。
【0049】
なお、扉20が開かれる瞬間、ヒンジ部品30が扉20を収容室Sから離れた方向に移動させるように駆動し、庫本体10の開閉度を効果的に増加させると同時に、ヒンジ部品30が扉重心を庫本体10に近い方向に移動させるように駆動することにより、冷蔵庫100の転倒を回避することができる。
【0050】
図10および図11を参照すると、扉20が第1の開角度α1から継続的に最大開角度α2まで開く過程において、第1の軸本体311は枢動位置A2に保持され、第2の軸本体312は第1の軸本体311を中心として第2のセクションL2内を移動する。」
(6) 「【図6】
[図:0001432380000001.jpg]
」
(7) 「【図7】
[図:0001432380000002.jpg]
」
(8) 「【図8】
[図:0001432380000003.jpg]
」
(9) 「【図9】
[図:0001432380000004.jpg]
」
(10) 「【図10】
[図:0001432380000005.jpg]
」
(11) 「【図11】
[図:0001432380000006.jpg]
」
4 本願明細書等から理解できる「扉20の重心」の移動
扉20の移動に関して、前記3(5)のとおり、本願明細書には、二軸(第1の軸本体311及び第2の軸本体312)及び二溝(第1の溝本体321及び第2の溝本体322)により、扉20を収容室Sから離れた方向に移動させる第1の具体例として、扉20が、閉状態から第1の開角度α1まで開く過程を経て、最終的に最大開角度α2まで開くことが記載されている。そして、当該第1の具体例における冷蔵庫を示す図6には、扉20がドアシール22を介して庫本体10の前端面14と接触している閉状態が示されている。また、図8及び図10には、それぞれ扉20が、第1開角度α1、第2の開角度α2まで開いた状態が示されており、扉20が、閉状態と比較して図面上の反時計回りの方向に移動していることが看取できる。ここで、図6及び8からは、閉状態から、扉20がどのような軌道で第1の開角度α1まで移動するか具体的に特定できないものの、図6及び8に図示される扉20と庫本体10との位置関係からみると、扉20は、第1ヒンジ金具32及び第2ヒンジ金具31を枢軸として、第1の開角度α1まで開角度が増加するように反時計回り、換言すると第2の方向Yとは逆方向に回転するものと理解できる。
そして、扉20の内部の一点である重心も、本願明細書の段落【0025】に記載された重心の定義からみて、扉の移動と同じ移動となることは明らかであるから、扉20が反時計回りに回転することに伴って、閉状態の位置から反時計回りの方向、すなわち、扉から庫本体に向かう方向とは逆方向に移動すると理解できる。
そうすると、本願明細書の記載をみても、「前記扉の重心を前記庫本体に対して前記第2の方向に移動させる」という扉の重心の動きがどのような動きであるか、明確に理解できない。
5 小括
前記3及び4のとおり、本願明細書を参酌しても、「前記扉の重心を前記庫本体に対して前記第2の方向に移動させる」とは、どのような移動であるか明確に理解できないから、請求項1の「前記扉が開く過程において、前記ヒンジ部品は、前記扉の重心を前記庫本体に対して前記第2の方向に移動させる一方で、前記扉を前記庫本体に対して前記第1の方向に移動させる」という記載における、「前記扉の重心を前記庫本体に対して前記第2の方向に移動させる」に係る扉の重心の動きがどのような動きであるか、明確に理解することはできない。
したがって、特許請求の範囲の請求項1の記載は、前記1の判断基準に照らして、願書に最初に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確といえる。
第6 請求人の主張について
1 請求人の主張
請求人は、令和7年8月7日に提出した意見書において、以下のとおり主張する。
「(3)特許法第36条第6項第2号(理由1:明確性)について
(3-1)請求項1-9
請求項1に係る発明は、「前記扉が開く過程において、前記ヒンジ部品は、前記扉の重心を前記庫本体に対して前記第2の方向に移動させる」という特定事項を有しています。
当該特定事項は、扉が開く過程において、図9に示すように第1の軸本体(311)が溝本体(321)のA1からA2に移動すること(相対的に、第1の溝本体(321)(=扉の一部)が第1の軸本体(311)に対してA2からA1に(即ち、第2の方向(Y)を含む方向に)移動すること)に伴い、扉(20)の重心が庫本体に対して第2の方向(Y)に移動することを意味します。
したがって、請求項1の解釈と整合します。(なお、本願明細書に記載の実施例において、上記特定事項に整合するのは図6から図8までの過程であり、図8から図10までの過程は上記特定事項に整合しません。)
よって、請求項1に係る発明、及び、請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2-9に係る発明は、明確であると思量致します。」
2 請求人の主張に対する検討
請求人が主張するように、第1の軸本体(311)が溝本体(321)のA1からA2に移動することは、第1の溝本体(321)が第1の軸本体(311)に対してA2からA1に移動することと同義であったとしても、前記第5で説示したとおり、扉20の動きが明確に理解できないから、第1の溝本体(321)が第1の軸本体(311)に対してA2からA1に移動することで、扉(20)の重心が庫本体に対して第2の方向(Y)に移動するものとはいえない。
したがって、請求人の上記主張は採用できないといわざるをえない。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は明確でなく、本願の特許請求の範囲の記載は特許法第36条6項2号の規定を満たしていないから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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