特許拒絶査定不服審判
2023-013140
高い加工耐性を有するアルファ化澱粉、ならびにその製造及び使用方法
- 審判番号
- 2023-013140
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-571577
- 請求日
- 2023年08月04日
- 審決日
- 2025年07月15日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】テイト アンド ライル ソリューションズ ユー・エス・エー エル・エル・シー
- 【請求人代理人】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
- 【請求人代理人】森田 拓
- 【請求人代理人】前川 純一
- 【請求人代理人】永島 秀郎
- 【請求人代理人】上島 類
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 典之
- 審判官 阪野 誠司
- 審判官 宮田 透
- 分類
- P18 .536-WZ (C08B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第2条第3項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-571577「高い加工耐性を有するアルファ化澱粉、ならびにその製造及び使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 1月 3日国際公開、WO2019/005861、令和 2年11月26日国内公表、特表2020-534378〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)6月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2017年6月26日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、出願後の主な手続の経緯は次のとおりである。
令和3年 6月23日 :手続補正書の提出
令和4年 7月 5日付け:拒絶理由通知
同年12月13日 :意見書及び手続補正書の提出
令和5年 3月28日付け:拒絶査定
同年 8月 4日 :審判請求書の提出
令和6年11月22日付け:拒絶理由通知(当審)
令和7年 5月26日 :意見書及び手続補正書の提出
第2 本願発明について
本願の特許請求の範囲の請求項1~12に係る発明は、令和7年5月26日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち請求項11に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである(下線は、本件補正による記載の変更箇所を示す。)。
「 【請求項11】
ドラム乾燥アルファ化澱粉を製造する方法であって、
澱粉原料の水性スラリーを3~7の範囲のpHに調整し、乾燥および加熱することで非ゼラチン化澱粉を提供する段階;
前記非ゼラチン化デンプンを湿らせる段階;
前記湿らせた非ゼラチン化澱粉をドラム乾燥して、ドラム乾燥アルファ化澱粉を得る段階
を含み、
前記ドラム乾燥アルファ化澱粉は、15重量%以下の可溶分(室温)、10以下の黄色度指数、及び20mL/g~45mL/gの範囲の沈降体積を有し、
前記アルファ化澱粉は、澱粉粒子を含む凝集体の形態であり、
前記アルファ化澱粉の澱粉粒子は実質的に平面の形態であり、
前記アルファ化澱粉は、ヒドロキシプロピル化されず、アセチル化されず、カルボキシメチル化されず、ヒドロキシエチル化されず、リン酸化されず、コハク化されず、陽イオン性または両性イオン性でなく、リン酸塩と架橋結合されず、アジペートと架橋結合されず、エピクロロヒドリンと架橋結合されず、アクロレインと架橋結合されず、過酸化水素または次亜塩素酸塩によって漂白または酸化されず、またはデキストリン化されない、
前記方法。」
第3 当審合議体が通知した拒絶理由
令和6年11月22日付け拒絶理由通知書において当審合議体が通知した拒絶理由のうち、「理由2」の概要は、次のとおりである(「・・・」は、摘記の省略を表す。)。
「2(実施可能要件)
この出願は、発明の詳細な説明の記載が、下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
記
・・・
●理由2(実施可能要件)
・請求項 1~12 」
上記「理由2」の対象とされた請求項1~12に係る発明のうち、請求項11に係る発明は、本件補正前の令和4年12月13日に提出された手続補正書による補正により補正された特許請求の範囲の請求項11に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(下線は、本件補正によって記載が変更された箇所を示す。)。
「 【請求項11】
抑制されたドラム乾燥アルファ化澱粉を製造する方法であって、
澱粉原料の水性スラリーを3~7の範囲のpHに調整し、乾燥および加熱することで抑制された非ゼラチン化澱粉を提供する段階;
前記抑制非ゼラチン化デンプンを湿らせる段階;
前記湿らせた抑制非ゼラチン化澱粉をドラム乾燥して、抑制されたドラム乾燥アルファ化澱粉を得る段階
を含み、
前記抑制されたドラム乾燥アルファ化澱粉は、15重量%以下の可溶分、10以下の黄色度指数、及び20mL/g~45mL/gの範囲の沈降体積を有し、
前記アルファ化澱粉は、澱粉粒子を含む凝集体の形態であり、
前記アルファ化澱粉は実質的に平面の形態であり、
前記アルファ化澱粉は、ヒドロキシプロピル化されず、アセチル化されず、カルボキシメチル化されず、ヒドロキシエチル化されず、リン酸化されず、コハク化されず、陽イオン性または両性イオン性でなく、リン酸塩と架橋結合されず、アジペートと架橋結合されず、エピクロロヒドリンと架橋結合されず、アクロレインと架橋結合されず、過酸化水素または次亜塩素酸塩によって漂白または酸化されず、または化学的に改質されていない、
前記方法。」
本願発明は、本件補正前の請求項11に係る発明と比較すると、「ドラム乾燥アルファ化澱粉」及び「非ゼラチン化澱粉」を形容する「抑制された」又は「抑制」との事項が削除され、「ドラム乾燥アルファ化澱粉」が有する「15重量%以下の可溶分」が「(室温)」のものであることが特定され、アルファ化澱粉において実質的に平面の形態であるのが「澱粉粒子」であることが特定され、アルファ化澱粉が「化学的に改質されていない」ことについて「デキストリン化されない」ことに特定されている。しかし、「ドラム乾燥アルファ化澱粉を製造する方法」を特定する各段階(特に、「澱粉原料の水性スラリーを3~7の範囲のpHに調整し、乾燥および加熱することで抑制された非ゼラチン化澱粉を提供する段階」を含むこと。)、及び、当該方法で得られる「ドラム乾燥アルファ化澱粉」が、「15重量%以下の可溶分、10以下の黄色度指数、及び20mL/g~45mL/gの範囲の沈降体積」を有すること、「澱粉粒子を含む凝集体の形態」であること、「実質的に平面の形態」であること、「ヒドロキシプロピル化」等がされていないことは、本件補正の前後で変更はないから、上記「理由2」の対象とされた請求項11に係る発明は、本願発明に対応するものである。
そして、上記拒絶理由通知書では、上記「理由2」について、概略、以下の(1)~(6)の点を指摘している(ここでいう「請求項1」~「請求項12」及び「本願発明1」~「本願発明12」とは、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1~12及びそれら各請求項に係る発明のことである。)。
(1)請求項1の記載によれば、本願発明1の「抑制非ゼラチン化澱粉」は、「澱粉原料の水性スラリーを3~7の範囲のpHに調整し、乾燥および加熱する」ことにより得られるものとされているが、本願明細書の発明の詳細な説明の記載をみても、「抑制」され、かつ「非ゼラチン化」された澱粉を得るために、pH以外の処理条件(温度、時間、媒体など)を具体的にどのようにすればよいのか明らかでない。
(2)本願明細書には、上記の「澱粉原料の水性スラリーを3~7の範囲のpHに調整し、乾燥および加熱する」処理(以下「処理A」という。)について、【0070】~【0074】の記載がある。
(3)上記【0070】~【0074】の記載のうち、審判請求人が審判請求書において、処理Aが本願明細書に記載されている内容であると主張した際に指摘した箇所を含む本願明細書の発明の詳細な説明の記載からは、以下のア~ウの理由により、処理Aによって、「抑制」され、かつ「非ゼラチン化」された澱粉を得るための具体的な条件が明らかであるとはいえない。
ア 本願明細書の実施例には、処理Aで「抑制非ゼラチン化澱粉」が製造されたことが示されていない
イ 処理Aの「澱粉原料の水性スラリーを3~7の範囲のpHに調整」することは、条件の特定にならない
ウ 処理Aにおいて、温度、時間、媒体などをどのように設定すればよいか、上記記載からはわからない
(4)実施例3を含めた実施例において製造された抑制非ゼラチン化澱粉が、処理Aで製造されたものであったとしても、上述のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、処理Aを実施するための具体的な条件が明らかでなく、また、本願発明の「抑制非ゼラチン化澱粉」が処理Aよって製造されることが明らかであるとの本願出願時の技術常識もないから、処理Aを実施するための具体的な条件を見いだすために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要するといえる。
(5)したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
(6)また、本願発明11の製造方法、並びに、本願発明1又は11を引用する本願発明2~10及び12についても、同様の理由により、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
第4 当審合議体の判断
当審合議体は、上記第3に示した拒絶理由の「理由2」のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。
1 判断の前提
特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなければならないと定めるところ(いわゆる「実施可能要件」)、この規定にいう「実施」とは、物を生産する方法の発明においては、その方法の使用をする行為を含むものであるから(特許法第2条第3項第3号)、物を生産する方法の発明についての実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、出願時の技術常識に照らし、その記載に基づいて、当業者が、その物を生産することができることができる程度のものでなければならない。
以上のことを前提として、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、本願発明について実施可能要件を満たすか否か、以下、検討する。
2 発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている(摘記中の下線は、当審合議体が付したものであり、「・・・」は、摘記の省略を表す。)。
摘記ア
「【背景技術】
【0002】
本開示の分野
本開示は、一般的に澱粉に関する。より詳細に、本開示は、高度の加工耐性を有するアルファ化澱粉、ならびにその製造及び使用方法に関する。
【0003】
背景技術
・・・「加工耐性」・・・という用語は、調理時に澱粉の個々の顆粒が水中でおおむねは壊れるが、その物質は膨潤するところ、加工全体にわたって顆粒状性のかなりの部分を保持し得ることを意味する。したがって、加工耐性澱粉は、小さい破片への分解に抵抗し得、加工時の溶解に抵抗し得る。このような挙動により、澱粉が望ましくないゲル化、凝集性または曳糸性・・・を生じることなく、食品をわずか濃厚にすることができるようにする。・・・、そのような加工耐性澱粉は、澱粉の化学的改質の利用が求められる。しかし、化学的改質は、追加の工程段階とコストを必要とし、おそらくさらに重要なことは、消費者にとって望ましくないと考えられる。天然澱粉は、「化学的に改質」されないが、必要な加工耐性が欠如されており、そのため、望ましくない高度の可用分を生成させる。・・・
【0004】
多くの用途において、所定の食品に所望のテクスチャ挙動を提供するために、しばしば100℃に近接する比較的高温で澱粉を調理する必要がある。しかし、澱粉を予め調理するか、または「アルファ化」すると知られている様々な技術があり;このようなアルファ化澱粉を使用して、食品をこのような高温で加熱することを必要とせず、食品に所望の粘度を提供することができる。いくつかのこのようなアルファ化方法には、スプレー調理、ドラム乾燥及び水性アルコールでの予備膨潤が含まれる。ドラム乾燥は、湿った澱粉材料を熱い回転ドラム上に通過させ、これをドラムと別の表面(例えば、別の回転ドラム)の間に形成された狭い開口部を通して圧搾させることを含む。この加工は、澱粉をアルファ化するだけでなく、それから水分の大部分を乾燥するのに十分な温度で行われ、所望のフレークまたは粒径に加工され得る乾燥したシートまたはフレーク形で澱粉を提供する。ドラム乾燥はこれらの技術の中で最も安価であるが、本発明者らが決定したように(及び以下により詳細に説明するように)ドラム乾燥は、澱粉顆粒の完全性に悪影響を及ぼし、凝集性及び曳糸性のような望ましくないテクスチャを食品に提供する澱粉材料を提供することができる。ドラム乾燥澱粉は、一般に、同等の加工耐性で製造するとき、スプレー調理及びアルコール加工澱粉よりも粘度が低い分散液を提供する。そして、これらは高度の可溶分を有することができ、これは凝集性をもたらすことができるので望ましくない。ドラム乾燥は、加工耐性を大幅に減少させることができる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様において、本開示は、15重量%以下の可溶分及び20mL/g~45mL/gの範囲の沈降体積を有するアルファ化澱粉であって、前記アルファ化澱粉は澱粉粒子を含む凝集体の形態であり、前記アルファ化澱粉は、実質的に平面の形態であるアルファ化澱粉を提供する。特定の実施形態において、澱粉は、ドラム乾燥される。・・・
・・・
【0007】
別の態様において、本開示は、本明細書に記載のようなアルファ化澱粉を製造する方法であって、水性媒体で湿らせた非ゼラチン化澱粉を提供する段階;及び上記澱粉をアルファ化するのに十分な条件下で湿った非ゼラチン化澱粉をドラム乾燥させる段階を含む方法を提供する。
・・・
【発明を実施するための形態】
【0010】
ドラム乾燥は、上記のように、アルファ化のためのコスト効率的な方法であるが、澱粉性能に望ましくない影響を及ぼすことができる。例えば、図1は、後述のRVA条件下で水に分散された従来の非アルファ化ヒドロキシプロピル化改質澱粉の顕微鏡写真である。明らかなように、澱粉の個々の粒子は、実質的に損傷されない状態で維持される。この澱粉をスプレー調理によりアルファ化した後、後述するRVA条件下で水に分散させる場合には、図2に示したように、膨潤するが実質的に断片化または崩壊しない粒子をもたらす。対照的に、図1の澱粉がドラム乾燥によりアルファ化される場合、生成された平面シート状またはフレーク状凝集体は、水に再導入されると分解され、図3に示したように、断片であることで明らかに見える粒子がほとんど生成される。これらの断片は、図1及び図2の無傷の断片化されていない粒子と視覚的に区別されるよって、澱粉のこのようなドラム乾燥は、加工耐性の損失及び可溶性澱粉の量の増加をもたらすことができ、これは澱粉に望ましくないテクスチャ品質を提供し得る。
【0011】
驚くべきことに、本発明者らは、ドラム乾燥を使用して、加工耐性及び非常に望ましいテクスチャ化特性の両方を提供できるアルファ化澱粉材料を提供することができた。したがって、本開示の一態様は、15重量%未満の可溶分及び20mL/g~45mL/gの範囲の沈降体積(及び特定の実施形態において、10以下の黄色度指数)を有するアルファ化澱粉である。アルファ化澱粉は、澱粉粒子を含む凝集体の形態であり得;特定の好ましい実施形態において、澱粉粒子の少なくとも50%が膨潤するが、水で処理するとき、実質的に断片化されない。本開示のこの態様のアルファ化澱粉は、例えば、ドラム乾燥澱粉であり得る。
【0012】
さらに、本開示のアルファ化澱粉は、実質的に平面の形態で提供され得る。したがって、本開示の別の態様は、15重量%未満の可溶分及び20mL/g~45mL/gの範囲の沈降体積(及び特定の実施形態において、10以下の黄色度指数)を有するアルファ化澱粉である。アルファ化澱粉は、澱粉粒子を含む凝集体の形態であり得;特定の好ましい実施形態において、澱粉粒子の少なくとも50%が膨潤するが、95℃の水で処理するとき、実質的に断片化されない。本開示のこのような態様によれば、アルファ化澱粉は、実質的に平面の形態である。本明細書で使用される「実質的に平面」形態は、重量基準で材料の少なくとも50%、少なくとも75%、さらには少なくとも90%は、それぞれ粒子の長さ及び幅のそれぞれの1/2以下(例えば、本明細書に別途記載された特定の実施形態では、1/3以下または1/4以下)の厚さを有する個々のシート状またはフレーク状材料粒子の形態である。・・・
【0013】
・・・、沈降体積は、加工耐性の尺度として使用され得る。本明細書で使用される、沈降体積は、加塩緩衝溶液100g(すなわち、澱粉を含む、総量)中1gの調理された澱粉(乾燥基準)によって占められる体積である。この値は、当業者では、「膨潤体積」としても知られている。・・・
・・・
【0016】
澱粉が食品加工時にその顆粒から高度の材料を放出すると、食品にある程度の凝集性または曳糸性を提供することができる。これは、一部の食品では望ましいが、他の食品では非常に望ましくない。したがって、ドレッシング、ソース及びグレービー及び特定のフルーツフィリング及び乳製品のような特定の用途の場合、少量の可溶物を有するアルファ化澱粉が望ましい。従来のドラム乾燥澱粉は、可溶分が高い傾向がある。対照的に、本発明のアルファ化澱粉は、15%以下の可溶分を有する。したがって、本発明のアルファ化澱粉は、望ましくない量の凝集性または曳糸性なしに、所望のテクスチャ化特性を提供することができる。・・・
【0017】
本開示のアルファ化澱粉は、多数の別個澱粉粒子、すなわち液体への澱粉の分散時に生成される個々の粒子を含む。乾燥した澱粉の個々の凝集体は、当業者に明らかなように、このような多くの粒子を含むだろう。粒子は、たとえば、無傷顆粒または顆粒の断片であり得る。粒子大きさは、澱粉の植物供給源だけでなく、加工途中に天然澱粉顆粒が物理的に断片化される程度に左右され得るであろう。
【0018】
特に、本開示のアルファ化澱粉において、澱粉粒子は膨潤するが、95℃の水で処理するとき、実質的に断片化されない。本明細書で使用される「95℃の水で処理」とは、RVA(Rapid Visco Analyzer)実験の条件を意味し:粘度は、1%NaClのpH6.5リン酸塩緩衝液中の5%固形分でRVAによって測定される。・・・」
摘記イ
「【0040】
特定の実施形態において、本発明のアルファ化澱粉は、デキストリン化せずに製造することができ、このようにデキストリンの典型的な相当な量の再重合された分岐鎖を含有しない。したがって、このような実施形態において、本明細書に特に記載されるアルファ化澱粉は、実質的に1,2-および1,3-分岐化(例えば、それぞれ1%未満)がない。・・・
・・・
【0044】
本発明の別の態様は、本明細書に記載のアルファ化澱粉の製造方法である。方法は、水性媒体で湿らせた抑制非ゼラチン化澱粉を提供する段階;及び、例えば、本開示のアルファ化澱粉に対して上述した程度まで、上記澱粉をアルファ化するのに十分な条件下で、上記湿った抑制非ゼラチン化澱粉をドラム乾燥させる段階を含む。このような特定の実施形態において、抑制非ゼラチン化澱粉は、例えば、本開示のアルファ化澱粉に対して上記記載されたように、例えば、アセチル化またはヒドロキシプロピル化により安定化されない。そして、このような特定の実施形態において、抑制非ゼラチン化澱粉は、本開示のアルファ化澱粉に対して上記記載されたように、例えば、リン酸塩またはアジペートによって架橋結合されない。抑制非ゼラチン化澱粉は、上記のような任意の澱粉タイプであり得る。当業者であれば、本明細書に記載の澱粉に提供するために従来のドラム乾燥技術を使用することができる。
【0045】
本開示のアルファ化澱粉が製造される抑制された非ゼラチン化澱粉は、様々な方法論を使用して提供され得る。様々な澱粉供給原料(例えば、コーン澱粉、小麦澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉、または本明細書に記載される他の任意の澱粉)を使用することができる。澱粉供給原料は、例えば、当業界において通常的であるように、澱粉中に存在する脂質および/またはタンパク質の量を減少させるために前処理することができる。
【0046】
特定の実施形態において、抑制非ゼラチン化澱粉は、その全文が本明細書で参照に引用される国際特許出願公開第2013/173161号に記載の方法を使用して製造する。したがって、本明細書に記載の澱粉の製造方法は、
【0047】
a)非-アルファ化澱粉供給原料をアルコール媒体中で塩基の存在下で少なくとも35℃の温度で加熱するステップ;
【0048】
b)上記塩基を酸を用いて中和するステップ;
【0049】
c)抑制非ゼラチン化澱粉をアルコール媒体から分離するステップ;および
【0050】
d)例えば、加熱または蒸気によって、非ゼラチン化澱粉からアルコール溶媒を除去するステップを含む。
・・・
【0052】
特定の方法において、非ゼラチン化澱粉供給原料がアルコール媒体中で加熱されるときに、少なくともある程度の量の処理剤(塩基および/または塩)が存在する。・・・
【0053】
一般に、澱粉、アルコール媒体および処理剤の混合物は、スラリーの形態である。特定の実施形態において、スラリーのpHを特定の値に調整することが望まれ得る。このようなスラリーのpHを測定することは、アルコールの存在のため、困難であり得る。塩基を添加してスラリーを塩基性にする一実施形態において、スラリーが単独の脱イオン水中の澱粉スラリーであるかのように適切な量の塩基を決定し、次いで塩基と澱粉の同一の比率を維持しながら実際量でスケールアップ(scale up)することができる。
【0054】
スラリーは、例えば、中性(pH6~8)または塩基性(pH8超過)であり得る。一実施形態において、スラリーのpHは、少なくとも6である。別の実施形態において、スラリーのpHは、少なくとも7である。別の実施形態において、スラリーのpHは、12以下である。他の実施形態において、スラリーのpHは、6~10、7.5~10.5または8~10である。さらに他の実施形態において、スラリーのpHは、5~8または6~7である。
・・・
【0056】
上記工程で使用するのに適した塩基は、これらに限定されないが、水酸化カリウム、水酸化カルシウムおよび水酸化ナトリウムのようなアルカリ金属およびアルカリ土類金属水酸化物を含む。
【0057】
これらの方法で使用するのに適した塩は、水溶液でイオン化し、実質的に中性溶液(すなわち、pHが6~8である溶液)を提供する水溶性物質を含む。有機酸、例えば、イタコン酸、マロン酸、乳酸、酒石酸、クエン酸、シュウ酸、フマル酸、アコニット酸、コハク酸、オキサロコハク酸、グルタル酸、ケトグルタル酸、リンゴ酸、脂肪酸およびこれらの組み合わせの塩(例えば、ナトリウム塩またはカリウム塩)と同様にアルカリ金属含有塩が特に有用である。
【0058】
異なる処理剤の混合物を使用することができる。例えば、澱粉は、少なくとも1つの塩基と少なくとも1つの塩の両方の存在下でアルコール媒体中で加熱することができる。
【0059】
澱粉、アルコール媒体および処理剤は、澱粉を所望の程度まで抑制するのに效果的な時間および温度で加熱される。一般に、室温以上の温度(すなわち、35℃以上)が必要であろう。同時に、極めて高い温度は、避けるべきである。加熱温度は、例えば、35℃~200℃であり得る。一般に、100℃~190℃、120℃~180℃、または130℃~160℃、または140℃~150℃の温度が十分であろう。加熱時間は、一般に少なくとも5分であるが、20時間以下であり、通常40分~2時間である。一般に所望のレベルの澱粉抑制は、加熱温度が上昇すると、より迅速に達成することができる。
【0060】
処理時間、処理温度、および澱粉、アルコール媒体と処理剤の混合物の成分比率の具体的条件は、一般に澱粉が相当な程度までゼラチン化しないように選択される。すなわち、澱粉は、上で説明したように、非-アルファ化された状態を維持する。」
摘記ウ
「【0070】
当然、当業者であれば、抑制非アルファ化澱粉に到達するために他の方法論を使うことができる。澱粉供給原料は、例えば、pH調整されて加熱され得る。pH調整は、pH調整剤を澱粉と接触させて行うことができる;pH調整制の例には、ギ酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、フマル酸、コハク酸、グルタル酸、マロン酸、酒石酸、イタコン酸、アコニット酸、オキサロコハク酸、ケトグルタル酸、脂肪酸および炭酸のみならず、これらの塩(例えば、酸性の中和により元の位置で生成され得るカリウムおよび/ナトリウム塩)が含まれる。pH調整剤は、任意の便利な方式で、例えば、液体(例えば、水、水性エタノールなどの水性アルコールを含むアルコール(例えば、エタノールまたはイソプロパノールを含む上で説明したような)または別の溶媒)中のスラリーであって;乾燥形態;湿った形態(例えば、溶媒(例えば、水、水性エタノールまたは別の溶媒)の中のミスト);または澱粉の湿ったドウ形態(例えば、水、水性エタノールまたは別の溶媒によって)の澱粉供給原料と接触することができる。また、酸のアルカリ金属塩を使用する場合、例えば、酸およびアルカリ金属水酸化物または炭酸塩を別途の段階で添加し、それを元の位置で形成させることができる。
【0071】
pH調整を実施し、様々なpH値を算出することができる。例えば、特定の実施形態において、そして国際公開第2013/173161号に記載されているように、pH調整を実施し、7~10範囲のpHを算出することができる。他の代替的な実施形態において、pH調整を実施し、3~7範囲、例えば、3~6、または3~5、または3~4、または4~7、または4~6、または4.5~7、または4.5~6、または5~7、または5~6、または約3、または約3.5、または約4、または約4.5、または約5、または約5.5、または約6、または約6.5、または約7の範囲のpHを算出することができる。pH調整がスラリーで行われる場合、スラリーのpHは、関連pHである。pH調整が実質的に非-液体形態(例えば、ドウまたは湿った固体)で行われる場合、水中の38%の固体物質のpHは、関連pHである。澱粉に相対的なpH調整剤の量は、例えば、乾燥固体を基準で0.05~30重量、例えば、0.05~20重量%、0.05~10重量%、0.05~5重量%、0.05~2重量%、0.05~1重量%、0.05~0.5重量%、0.2~30重量%、0.2~20重量%、0.2~10重量%、0.2~5重量%、0.2~2重量%、0.2~1重量%、1~30重量%、1~20重量%、1~10重量%、1~5重量%、5~30重量%、または5~20重量%に変えることができる。望ましくは、pH調整剤は、澱粉供給原料と完全に混合される。これは、pH調整が行われる形態に応じて異なる工程条件を必要とするであろう。pH調整がスラリーで行われる場合、単にスラリーを数分間攪拌するだけで十分である。pH調整がより乾燥した形態(例えば、湿った固体またはドウ)で行われる場合、より実質的な接触手順が望まれ得る。例えば、pH調整剤溶液を乾燥澱粉供給原料に噴霧する場合、約30分間混合した後、少なくとも数時間貯蔵することが望まれ得る。均一な抑制を提供するために、澱粉全体にわたって、すなわち顆粒レベルで、均一なpH調
整剤分布を提供することが望ましい。
【0072】
pH調節剤を澱粉と接触させた後、澱粉を加熱させることができる(すなわち、依然としてpH調整剤と接触させた状態で)。澱粉は、様々な形態で加熱することができる。例えば、澱粉は、アルコールまたは非水性溶媒スラリー中で(例えば、溶媒の沸騰点が加熱温度より十分に高くない場合には加圧下で);(例えば、国際公開第2013/173161号に開示されているように)顆粒膨潤を抑制するための澱粉、水および非水溶媒のドウとして,または乾燥状態で(溶媒は、例えば、WO2013/173161に対して上で説明したような濾過、遠心分離および/または熱-乾燥などの従来の技術を用いて除去することができる)加熱することができる。澱粉は、例えば、さらなる加熱前に5%未満の水分レベルまで乾燥することができる。このような乾燥のために、相対的に低温、例えば、40~80℃、または40~60℃、または約50℃が使用され得る。真空が、また乾燥工程において使用され得る。澱粉は、加熱工程(下記参照)の結果として乾燥され得る;別途の乾燥段階は必要ではない。
【0073】
乾燥澱粉は、100~200℃の範囲の温度で加熱され得る。例えば、特定の方法において、加熱温度は120~160℃である。他の様々な方法において、加熱温度は120~180℃、または120~160℃、または120~140℃、または140~200℃、または140~180℃、または140~160℃、または160~200℃、または160~180℃、または180~200℃である。澱粉は、数回加熱することができる。澱粉は、例えば、20秒~20時間の範囲で所定時間加熱され得る。一般的な加熱時間は、10分~2時間の範囲である。より長い加熱時間および/またはより高い熱処理温度を使用してより多い抑制を提供することができる。材料は、望ましくは均一に加熱される。澱粉は、所望の水分含量を維持するために、加圧下で加熱され得るか、マスフロービン(mass flow bin)または同様の装置で加熱され得る。
【0074】
本明細書に記載された特定の方法は、例えば、pH調整との上記接触のために液体媒体中にアルコールを使用しないで実施され得る。特に望ましい特定の方法において、水がpH調整のための媒体として使用される。したがって、特定の望ましい実施形態において、トウモロコシ、小麦、またはタピオカをもとにした抑制されたワキシー澱粉は、500ppm未満のアルコール溶媒、例えば、500ppm未満のエタノールを含む。例えば、様々な実施形態において、トウモロコシ、小麦、またはタピオカをもとにした抑制されたワキシー澱粉は、100ppm未満、50ppm未満、10ppm未満、5ppm未満、または1ppm未満のアルコール溶媒、例えば、100ppm未満、50ppm未満、10ppm未満、5ppm未満、または1ppm未満のエタノールを含む。」
摘記エ
「【0086】
実施例1
【0087】
製造例において、本明細書に記載のように製造された26mL/gの沈降体積および600~700cPのRVA粘度を有する抑制された澱粉は、3回の異なる実行で125psig蒸気圧および8rpmのドラム速度でGoudaシングルドラム乾燥機(モデルE5/5)(500mmX500mm)上で37%固形物でドラム乾燥された(11ヵ月にわたって実施され、サンプル2および3は、サンプル1より、それぞれ9ヵ月および10ヵ月後に製造された)。サンプル2は、出発物質として614cPのRVA粘度および26mL/gの沈降体積を有する澱粉を使用した。サンプル3は、出発物質として704cPのRVA粘度および26mL/gの沈降体積を有する澱粉を使用した。サンプル1は、上記材料のブレンドを使用した。フィッツ(Fitz)ナイフで材料をミリング製粉した。そのように生産されたアルファ化澱粉に対して測定したデータは、以下の表に提供されており、図12と13は、それぞれ3つのサンプルに対するRVAプロットおよび水和RVAプロットを提供する。
【表1】
・・・
【0088】
サンプル1および2を提出してこれらの分散およびテクスチャの特性に対して官能評価した。図14は、これら2つの材料に対する分散挙動を示す。先に製造されたバッチ(1)は、より新しく製造されたバッチよりもわずかに沈殿されて浮遊物がよりわずかに多いが、その違いは有意ではない。
【0089】
実施例2
【0090】
別の製造例において、それぞれ、243および405cPのRVA粘度そして24および23mLの沈降体積を有し、本明細書に記述されているように製造された抑制澱粉は、3回の異なる実行で125psig蒸気圧および8rpmのドラム速度でGoudaシングルドラム乾燥機(モデルE5/5)(500mm×500mm)上で37%固形物でドラム乾燥された(11ヵ月にわたって実施され、サンプル5および6は、サンプル4より、それぞれ9ヵ月および10ヵ月後に製造された)。サンプル5は、出発物質として243cPのRVA粘度および24mL/gの沈降体積を有する澱粉を使用した。サンプル3は、出発物質として405cPのRVA粘度および23mL/gの沈降体積を有する澱粉を使用した。サンプル4は、上記材料のブレンドを使用した。フィッツナイフで材料を製粉した。そのように製造されたアルファ化澱粉に対する測定データは、以下の表に提供され、図15および16は、それぞれ3つのサンプルに対するRVAプロットおよび水和RVAプロットを提供する。
【表2】
・・・
【0091】
サンプル4および5を提出してこれらの分散およびテクスチャの特性に対して官能評価した。図17は、これら2つの材料に対する分散挙動を示す。先に製造されたバッチ(4)は、新しく製造されたバッチよりもわずかに沈殿されて浮遊物がよりわずか多いが、その違いは有意ではない。」
3 検討
(1)本願発明は、「高度の加工耐性を有するアルファ化澱粉」の製造方法に関するものであり、通常、澱粉のドラム乾燥によるアルファ化は「加工耐性を大幅に減少させる」ところ、ドラム乾燥を使用しても、加工耐性の優れたアルファ化澱粉の製造する方法を提供するものである(摘記ア)。
本願発明は、「ドラム乾燥して」、上記「高度の加工耐性を有するアルファ化澱粉」、すなわち、「15重量%以下の可溶分(室温)、10以下の黄色度指数、及び20mL/g~45mL/gの範囲の沈降体積を有し、
前記アルファ化澱粉は、澱粉粒子を含む凝集体の形態であり、
前記アルファ化澱粉の澱粉粒子は実質的に平面の形態であり、
前記アルファ化澱粉は、ヒドロキシプロピル化されず、アセチル化されず、カルボキシメチル化されず、ヒドロキシエチル化されず、リン酸化されず、コハク化されず、陽イオン性または両性イオン性でなく、リン酸塩と架橋結合されず、アジペートと架橋結合されず、エピクロロヒドリンと架橋結合されず、アクロレインと架橋結合されず、過酸化水素または次亜塩素酸塩によって漂白または酸化されず、またはデキストリン化されない」アルファ化澱粉である「ドラム乾燥アルファ化澱粉」を製造する方法であるところ、本件補正後の請求項11の記載によれば、本願発明において、湿らせた後にドラム乾燥に供する「非ゼラチン化澱粉」は、「澱粉原料の水性スラリーを3~7の範囲のpHに調整し、乾燥および加熱する」ことにより提供されるものとされている。
しかしながら、以下に詳述するように、本願明細書の発明の詳細な説明の記載をみても、当該「非ゼラチン化澱粉」を得るために、pH以外の処理条件(温度、時間、媒体など)を具体的にどのようにすればよいのか明らかでない。
(2)ここで、本件補正により、請求項11において、「抑制非ゼラチン化澱粉」との記載は、「抑制」との事項が削除され、「非ゼラチン化澱粉」と補正されたが、「高度の加工耐性を有するアルファ化澱粉」を得るために、ドラム乾燥に供される「非ゼラチン化澱粉」は、非ゼラチン化されたものであればどのような澱粉でもよいというわけではなく、本願明細書の実施例で示されるように(例えば、摘記エの実施例1におけるサンプル2を参照。)、特定のRVA粘度及び沈降体積を有する「抑制」されたものである必要があると認められる。
また、本願明細書における、「処理時間、処理温度、および澱粉、アルコール媒体と処理剤の混合物の成分比率の具体的条件は、一般に澱粉が相当な程度までゼラチン化しないように選択される。すなわち、澱粉は、上で説明したように、非-アルファ化された状態を維持する」との記載(摘記イの【0060】)からみて、本願発明における「非ゼラチン化澱粉」は、本願明細書(摘記ウ【0070】)に記載の「抑制非アルファ化澱粉」と同じものと解される。
(3)そして、本願明細書には、本願発明における「澱粉原料の水性スラリーを3~7の範囲のpHに調整し、乾燥および加熱する」処理(以下「処理A」という。)について、摘記ウの記載がある(摘記ウの下線の箇所は、審判請求人が審判請求書において、処理Aが本願明細書に記載されている内容であると主張した際に指摘した箇所である。)。
しかしながら、上記記載を含めた本願明細書の発明の詳細な説明の記載からは、以下のア~ウの理由により、処理Aによって、「(抑制)非ゼラチン化澱粉」を得るための具体的な条件が明らかであるとはいえない。
ア 本願明細書の実施例には、処理Aにより「(抑制)非ゼラチン化澱粉」が製造されたことが示されていない
本願明細書の実施例には、実施例1において、「サンプル2は、出発物質として614cPのRVA粘度および26mL/gの沈降体積を有する澱粉を使用した。サンプル3は、出発物質として704cPのRVA粘度および26mL/gの沈降体積を有する澱粉を使用した」と記載され(摘記エの【0087】)、「抑制」された澱粉を出発物質として、ドラム乾燥に供しているが(実施例2も同様である。)、これらの実施例では、当該出発物質である「抑制」された澱粉をどのように得たのか何ら示されていない。
イ 処理Aにおける「澱粉原料の水性スラリーを3~7の範囲のpHに調整」することは、条件の特定にならない
摘記イの【0071】には、「国際公開第2013/173161号に記載されているように、pH調整を実施し、7~10範囲のpHを算出することができる」と記載される一方で、「他の代替的な実施形態において、pH調整を実施し、3~7・・・のpHを算出することができる」と記載されている。当該記載によれば、pHの値は、3~10の範囲、すなわち、酸性領域から塩基性領域まで、中性領域(pH7)を含めて、どのような範囲であっても、原料澱粉を「加熱および乾燥」すれば、「(抑制)非ゼラチン化澱粉」が得られることとなる。
「(抑制)非ゼラチン化澱粉」が「抑制」された(すなわち、特定のRVA粘度及び沈降体積を有する)澱粉であり、かつ「非ゼラチン化」(すなわち、「加熱および乾燥」してもゼラチン化(アルファ化)されていない)の状態であることを考えれば、単に原料澱粉を「加熱および乾燥」するだけではなく、そのほかの処理条件を特定する必要があるといえる。
なお、上記「国際公開第2013/173161号」には、「抑制非ゼラチン化澱粉」を製造できることが実施例によって示されているものの、その製造方法は、処理Aではなく、本願明細書(摘記イの【0047】~【0050】)に記載のとおり、
「a)非-アルファ化澱粉供給原料をアルコール媒体中で塩基の存在下で少なくとも35℃の温度で加熱するステップ;
b)上記塩基を酸を用いて中和するステップ;
c)抑制非ゼラチン化澱粉をアルコール媒体から分離するステップ;
および
d)例えば、加熱または蒸気によって、非ゼラチン化澱粉からアルコール溶媒を除去するステップ
を含む」
ものであり、「中性(pH6~8)または塩基性(pH8超過)」で、「アルコール媒体」中で行う方法であり、本願発明で特定するような、澱粉原料の「水性スラリー」を「3~7の範囲のpHに調整」する方法ではない。
ウ 処理Aにおいて、温度、時間、媒体などをどのように設定すればよいのか、摘記ウの記載からはわからない
本願明細書(摘記ウ)には、処理温度は「100~200℃の範囲」であり、時間は「20秒~20時間の範囲」であることが記載されており(【0073】)、また、形態は、液体中のスラリーでも、乾燥形態でも、湿った形態でもよいこと(【0070】)、液体媒体は、「アルコールまたは非水性溶媒」でもよいこと(【0072】)、アルコールを使用しないでもよいこと、が記載されている(【0074】)。
これらの記載は、広範囲で多様な選択肢を含むものであるから、当該記載からは、処理Aで「3~7の範囲のpHに調整」した場合、それに適したpH以外の処理条件が具体的にどのようなものであるかわからず、「抑制非ゼラチン化澱粉」をどのようにすれば製造できるかを見いだすために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤をする必要があるといえる。
4 請求人の主張について
(1)審判請求人は、審判請求書において、提出された参考資料の実施例3についての記載から、「本願実施例において製造された抑制非ゼラチン化澱粉は、酸によりpH3~7に調製し、乾燥及び加熱(熱処理)することにより得られることは明らかである」と主張する。
しかしながら、実施例3を含めた実施例において製造された抑制非ゼラチン化澱粉が、処理Aで製造されたものであったとしても、上記3で述べたとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、処理Aを実施するための具体的な条件が明らかでなく、また、本願明細書の発明の詳細な説明にそのような記載がなくとも、本願発明の「(抑制)非ゼラチン化澱粉」が処理Aよって製造されることが明らかであるとの本願出願時の技術常識もないから、処理Aを実施するための具体的な条件を見いだすために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要するといえる。
したがって、請求人の上記主張は、受け入れられない。
(2)審判請求人は、令和7年5月26日提出の意見書において、
「上述の2.補正の説明(i)に記載したとおり、請求項1における「澱粉原料の水性スラリーを3~7の範囲のpHに調整し、乾燥および加熱することで抑制非ゼラチン化澱粉を得て」なる記載を「澱粉原料の水性スラリーを4.0~6.0の範囲のpHに調整し、続いて水性スラリーから溶媒を除去し、乾燥し、pH調製した澱粉を5重量%未満の水分レベルにして、120~180℃の範囲の温度で加熱することで非ゼラチン化澱粉を得て」に補正しました。補正後の請求項1では「抑制」という記載は削除されています。
本願実施例において使用されているアルファ化澱粉は、本願明細書、特に段落0070~0075に記載されている方法、特に、澱粉原料の水性澱粉スラリーをクエン酸と接触させてpHを約5~6に調整し、濾過によりスラリーから溶媒を除去し、澱粉の糊化温度未満の低水分レベルまで乾燥させ、乾燥澱粉を120~180℃の温度で加熱することにより非ゼラチン化澱粉を得て、これをドラム乾燥により乾燥させることにより得られています。得られたドラム乾燥アルファ化澱粉は、20mL/g~45mL/gの範囲の沈降体積を有しています。当業者であれば、pH値が低く、加熱温度が高く、加熱時間が長い条件で作成されたアルファ化澱粉は、pH値が高く、加熱温度が低く、加熱時間が短い条件で作成されたアルファ化澱粉と比較して沈降堆積が比較的低くなる(すなわち抑制されている)ことを理解でき、また、これらのパラメータを調整することで、所望の低い沈降堆積(抑制効果)を有する澱粉を得ることができます。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、補正後請求項1及び補正後請求項1を引用する補正後請求項2~12に記載された発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとなったものと思料いたします。」
と主張する。
しかしながら、本件補正後の請求項11においては、同補正後の請求項1と異なり、「澱粉原料の水性スラリーを4.0~6.0の範囲のpHに調整し、続いて水性スラリーから溶媒を除去し、乾燥し、pH調製した澱粉を5重量%未満の水分レベルにして、120~180℃の範囲の温度で加熱することで非ゼラチン化澱粉を得て」という処理を特定するような補正はされていない。
また、上記3で述べたように、本願明細書の記載をみても、本願明細書の実施例に使用されているアルファ化澱粉の製造のために供される「(抑制)非ゼラチン化澱粉」が、「澱粉原料の水性澱粉スラリーをクエン酸と接触させてpHを約5~6に調整し、濾過によりスラリーから溶媒を除去し、澱粉の糊化温度未満の低水分レベルまで乾燥させ、乾燥澱粉を120~180℃の温度で加熱することにより」得られたものであることは、当業者が理解できるとはいえない。
したがって、請求人の上記主張は、受け入れられない。
5 小括
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、本願は、明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者が請求項11に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、その余について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-013140