特許拒絶査定不服審判
2023-006140
測量方法
- 審判番号
- 2023-006140
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-184230
- 請求日
- 2023年04月14日
- 審決日
- 2024年10月16日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】基幹構造株式会社
- 【請求人代理人】小川 護晃
- 【請求人代理人】奥山 尚一
- 【請求人代理人】関谷 充司
- 【請求人代理人】田中 祐
- 【請求人代理人】宅間 邦俊
- 【請求人代理人】池本 理絵
- 審判長/審判官
- 審判長 濱野 隆
- 審判官 小島 寛史
- 審判官 佐々木 祐
- 分類
- P18 .537-WZ (G01B) / P18 .536-WZ (G01B) / P18 .121-WZ (G01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-184230「測量方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 5月18日出願公開、特開2022- 74298〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年11月4日の特許出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和3年12月28日付け:拒絶理由通知書
令和4年 3月11日 :意見書及び手続補正書の提出
同年 7月28日付け:拒絶理由通知書
同年 9月30日 :意見書及び手続補正書の提出
同年12月27日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(令和5年 1月17日 :原査定の謄本の送達)
同年 4月14日 :審判請求書及び手続補正書の提出
令和6年 5月15日付け:拒絶理由通知書
同年 7月19日 :意見書及び手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~2に係る発明(このうち請求項1に係る発明を以下「本願発明」という。)は、令和6年7月19日に提出された手続補正書(この手続補正書による補正を以下「本件補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1~2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
SLAM技術を利用したモバイル3Dスキャナを用いて直線状に延びる通路及びその周辺の3D点群データを取得する測量方法であって、
前記通路に沿って3つの標定ターゲットを等間隔に設置することであって、隣り合う2つの標定ターゲットの間隔が28~30mであること、及び、
前記モバイル3Dスキャナの向き及び姿勢を一定に保持した測量作業者が各標定ターゲットの側方1~1.5mの範囲を通過するように前記通路を測量開始位置から歩行で直線状に移動しながら前記3D点群データを取得することであって、前記測量作業者の移動距離が60m以下であること、
を含み、
前記3つの標定ターゲットのそれぞれは、前記測量開始位置の方向を向いており、
前記測量作業者は、測量中、前記モバイル3Dスキャナを前記通路の路面に対して垂直な姿勢であり且つ前面が移動方向を向いた状態に保持し、
前記測量作業者は、1歩進むごとに3秒間止まることを繰り返すことによって前記通路を直線状に且つ断続的に移動して前記3D点群データを取得する、
測量方法。」
第3 当審において通知した拒絶の理由の概要
当審において令和6年5月15日付けで通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)のうち、本件補正前の請求項1~3に係る発明についての理由の概要は、次のとおりである。
理由1(サポート要件違反)
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
記
(1) 標定ターゲットの設置態様について
本願の請求項1には、「前記通路に沿って3つ以上の標定ターゲットを等間隔に設置すること」、「前記3つ以上の標定ターゲットのそれぞれは、測量開始位置の方向を向いており」と記載されている。
しかし、発明の詳細な説明の記載をみても、3つ以上の標定ターゲットを等間隔に設置すること、及び、3つ以上の標定ターゲットのそれぞれが測量開始位置の方向を向いていることにより、なぜ測量に必要な精度が得られるのか理解することができず、また、標定ターゲットの数が2つ以下の場合、3つ以上の標定ターゲットが等間隔でない場合、3つ以上の標定ターゲットが測量開始位置の方向を向いていない場合と比較した実験結果も示されていないから、当該構成により発明の課題を解決できるとは当業者が認識できないし、出願時の技術常識に照らしても同様である。
したがって、請求項1~3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
(2) 標定ターゲットと測量作業者の位置関係について
請求項1には、「測量作業者が各標定ターゲットの側方1~1.5mの範囲を通過するように前記通路を歩行で移動しながら前記3D点群データを取得すること」と記載されている。
しかし、発明の詳細な説明の記載をみても、3D点群データを取得する際に、各標定ターゲットの側方1~1.5mの範囲を通過することにより、なぜ測量に必要な精度が得られるのか理解することができない。また、具体的な実験条件や実験結果は示されていない。
そうすると、発明の詳細な説明の記載をみても、前記構成により発明の課題を解決できるとは当業者が認識できないし、出願時の技術常識に照らしても同様である。
したがって、請求項1~3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
(3) 測量作業者の移動態様と測定タイミングの関係について
請求項1には、「前記測量作業者は、1歩進むごとに1歩に要する時間よりも長い一定時間止まることを繰り返すことによって前記通路を直線状に且つ断続的に移動して前記3D点群データを取得する」と記載されている。
しかし、発明の詳細な説明の記載をみても、1歩進むごとに1歩に要する時間よりも長い一定時間止まることを繰り返すことにより、なぜ測量に必要な精度が得られるのか理解することができない。
また、【図6】に示された実験結果以外に具体的な実験結果は示されていない。そして、【図6】に示された比較例2-1は、「1歩ごとに停止」という条件の有無のみを実施例2と異ならせて実験したものではないから、実施例2の比較対象として適切とはいえない。さらに、【図6】に示された実験結果を、前記構成にまで一般化することはできない。
そうすると、発明の詳細な説明の記載をみても、前記構成により発明の課題を解決できるとは当業者が認識できないし、出願時の技術常識に照らしても同様である。
したがって、請求項1~3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
理由2(実施可能要件違反)
本願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
記
前記理由1において指摘した事項に関し、本願の明細書及び図面には、当業者が請求項1~3に係る発明をいかに実施することにより発明の課題を解決できるかが説明されているとはいえないから、本願の発明の詳細な説明は、請求項1~3に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
理由3(進歩性欠如)
本願の請求項1~3に係る発明は、下記の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献4:渡邉義則、外3名、「SLAM技術を利用したモバイル3Dスキャナ活用による調査・計測の効率化」、令和元年9月12日(令和元年度建設コンサルタント業務研究発表会で発表された論文(https://www.jcca.or.jp/files/jccanews/seminar/190820.pdf参照))、一般社団法人建設コンサルタンツ協会
引用文献5:特開2017-9546号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6:楠本博、「ハンディ型レーザースキャナの活用 -非GNSS環境下で取得可能な3次元データの最新の精度検証と施工への活用について-」、平成30年11月20日、一般社団法人日本建設機械施工協会中部支部、「平成30年度技術発表会」7-12頁(周知技術を示す文献)
第4 当合議体の判断
1 サポート要件について
(1) サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かについては、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高判平成17年11月11日(平成17年(行ケ)10042号)「偏光フィルムの製造法」大合議判決参照)。
(2) サポート要件違反についての判断の概要
上記(1)のサポート要件の判断基準に基づいて検討したところ、以下に詳述するとおり、本願発明の規定する測定条件(条件A~C)により本願発明の課題を解決できるとは当業者が認識できないから、本願発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、また、出願時の技術常識に照らしてもその点では同様である。
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
(3) 本願発明の課題
ア 発明の詳細な説明には、本願発明の課題について、次のとおり記載されている。なお、下線は当合議体が付したものであり、以下同様である。
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SLAM技術を利用したモバイル3Dスキャナは、自己位置を推定しながら周辺の地形や地物の3次元形状を測定すること可能であり、各移動位置におけるモバイル3Dスキャナのスキャンデータを合成し、及び、座標変換を行うことで周辺の地形や地物の3D点群データを取得することができる。しかし、SLAM技術の特性上、自己位置の推定誤差が蓄積するなどして自己位置の推定値が真の位置から大きくずれることがある。このようなずれが発生すると、得られる3D点群データの精度も大きく低下してしまう。このため、モバイル3Dスキャナを測量機材として利用した場合、測量に必要な精度を有した3D点群データを得られないおそれがあるという課題があった。」
イ 前記アの記載によると、本願発明の課題は、次のとおりのものであると認められる。
<本願発明の課題>
SLAM技術を利用したモバイル3Dスキャナは、自己位置の推定誤差が蓄積するなどして自己位置の推定値が真の位置から大きくずれることがあり、得られる3D点群データの精度も大きく低下してしまうため、モバイル3Dスキャナを測量機材として利用した場合、測量に必要な精度を有した3D点群データを得られないおそれがあること。
(4) 本願発明の規定する測定条件について
ア 本願発明の課題解決手段について、発明の詳細な説明には次の記載がある。
「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の条件下でモバイル3Dスキャナを用いて3次元測定を行うことにより、測量に必要な精度を有した3D点群データが得られることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。」
イ 前記アに摘記した事項を踏まえると、本願発明の要点は、モバイル3Dスキャナを用いた3次元測定において、測量に必要な精度を有した3D点群データが得られるための「特定の条件」を見出したことにあると認められるところ、当該「特定の条件」として本件補正後の請求項1に規定されたものは、次の条件A~Cである。
<条件A:標定ターゲットの設置態様に係る条件>
「直線状に延びる通路に沿って3つの標定ターゲットを等間隔に設置し、隣り合う2つの標定ターゲットの間隔が28~30mであり、
前記3つの標定ターゲットのそれぞれは、測量開始位置の方向を向いていること」
<条件B:標定ターゲットと測量作業者の位置関係に係る条件>
「SLAM技術を利用したモバイル3Dスキャナの向き及び姿勢を一定に保持した測量作業者が各標定ターゲットの側方1~1.5mの範囲を通過するように直線状に延びる通路を測量開始位置から歩行で直線状に移動しながら直線状に延びる通路及びその周辺の3D点群データを取得することであって、前記測量作業者の移動距離が60m以下であること」
<条件C:測量作業者の移動態様と測定タイミングの関係に係る条件>
「SLAM技術を利用したモバイル3Dスキャナの向き及び姿勢を一定に保持した測量作業者は、測量中、前記モバイル3Dスキャナを直線状に延びる通路の路面に対して垂直な姿勢であり且つ前面が移動方向を向いた状態に保持し、
前記測量作業者は、1歩進むごとに3秒間止まることを繰り返すことによって前記通路を直線状に且つ断続的に移動して直線状に延びる通路及びその周辺の3D点群データを取得すること」
(5) 発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、以下の記載がある(参照される図面も示す)。
ア 【0011】~【0016】
「【0011】
まず、本発明の概要を説明する。本発明は、SLAM技術を利用したモバイル3Dスキャナを用いて周辺の地形や地物などの3D点群データを取得する測量方法を提供する。本発明による測量方法で用いられるモバイル3Dスキャナは、3D-LiDARセンサ、IMU(慣性計測装置)及びカメラなどを備えており、SLAM技術によって自己位置を推定しつつ自己の周辺の3次元形状を測定(スキャン)することが可能に構成されている。また、前記モバイル3Dスキャナは、測量作業者が携帯して(主に手に持って)歩行することが可能に構成されているのが好ましい。
【0012】
本発明による測量方法において、前記モバイル3Dスキャナの測定結果、すなわち、前記モバイル3Dスキャナによるスキャンデータ(点群データ)、より具体的には、前記モバイル3Dスキャナの各移動位置でのスキャンデータ(点群データ)は、前記モバイル3Dスキャナの内部ストレージや前記モバイル3Dスキャナに取り付けられた外部ストレージなどに保存される。また、前記モバイル3Dスキャナによるスキャンデータは、例えば近距離無線通信によって、表示部を備えた処理装置に順次送信される。
【0013】
前記処理装置は、前記モバイル3Dスキャナによるスキャンデータを処理する装置である。特に制限されないが、前記処理装置は、所定のソフトウェアがインストールされたタブレットPCやタブレット端末であり得る。前記処理装置は、前記モバイル3Dスキャナから順次送信されるスキャンデータをこれらの共通部分などを利用して合成すること(1つの三次元空間にまとめること)、合成後のスキャンデータを測定エリアに設置された基準点(標定点)に基づき測量座標系に変換すること、及び、変換結果を前記表示部に表示することが可能に構成されている。このため、前記モバイル3Dスキャナによって地形や地物などの3次元形状を測定(スキャン)することで、これらの3D点群データ(測量座標系の点群データ)を取得することが可能である。なお、前記スキャンデータの合成において、前記基準点(標定点)に設置されるターゲット(以下「標定ターゲット」という)が前記共通部分として利用されることが好ましいが、これに限られるものではない。
【0014】
本発明による測量方法は、一例として、測量作業者が前記モバイル3Dスキャナを携帯して道路などの人が移動可能な通路を歩行で移動することにより、当該通路及びその周辺(の地形や地物)の3D点群データを取得することを可能とする。
【0015】
但し、測量作業者が単に前記モバイル3Dスキャナを携帯して前記通路を歩行で移動するだけでは、既述のように、測量に必要な精度を有した3D点群データを取得できないおそれがある。本発明者らは、鋭意実験を行った結果、前記モバイル3Dスキャナを用いて測量に必要な精度を有した3D点群データを取得することのできる方法を見出した。以下に具体的に説明する。
【0016】
なお、以下では測量作業者が前記モバイル3Dスキャナを携帯して前記通路を歩行で移動する場合について説明する。しかし、これに限られるものではない。測量作業者が前記モバイル3Dスキャナを携帯することに代えて、前記モバイル3Dスキャナが小型移動体や台車などに搭載され、これら小型移動体や台車などが前記通路を移動することにより、当該通路及びその周辺(の地形や地物)の3D点群データを取得するようにしてもよい。」
イ 【0017】~【0028】、【図1】、【図2】
「【0017】
図1は、本発明による測量方法の一実施形態を示す図であり、図2は、実施形態に係る測量方法における測量作業者の一例を示す図である。実施形態に係る測量方法では、測量作業者10がモバイル3Dスキャナ11を携帯して直線状に延びる通路1を歩行で移動することにより、当該通路1及びその周辺の3D点群データを取得する。
【0018】
図1に示されるように、実施形態に係る測量方法において、測量作業者10(及び/又は図示省略の測量補助者)は、まず、通路1に沿って複数(好ましくは3つ以上)の標定ターゲット3を等間隔(厳密に等間隔である必要はなく、概ね等間隔であればよい。以下同じ。)に設置する。具体的には、測量作業者10は、通路1上に又は通路1の側方近傍にあらかじめ設置された3つ以上の基準点(標定点)のそれぞれの上に三脚5を配置し、配置された各三脚5に標定ターゲット3を装着する。各標定ターゲット3は、測量開始位置の方向を向いた状態(測量開始位置の方向に正対させた状態)で対応する三脚5に装着される。また、隣り合う2つの標定ターゲット3の間隔(=隣り合う2つの基準点(標定点)の間隔)Lは、35m以下、好ましくは30m以下である。」
「【図1】
[図:0001417991000001.jpg]
」
「【0019】
測量作業者10は、測定中(測量中)、すなわち、通路1を移動する間、モバイル3Dスキャナ11の向き及び姿勢を一定に保持する。具体的には、測量作業者10は、モバイル3Dスキャナ11を前面が移動方向(厳密に移動方向である必要はなく、概ね移動方向であればよい。以下同じ。)を向いた状態に保持するとともに、モバイル3Dスキャナ11を通路1の路面(又は地面)に対して垂直(厳密に垂直である必要はなく、概ね垂直であればよい。以下同じ。)な姿勢(以下「垂直姿勢」という)に保持する。また、高さ方向に関して、測量作業者10は、モバイル3Dスキャナ11を通路1の路面(又は地面)から1m以上、好ましくは1.5m以上の高さ位置に保持する。
【0020】
例えば、図2に示されるように、モバイル3Dスキャナ11がポール(棒)状の支持部材13の上端部に取り付けられている場合、測量作業者10は、支持部材13の下端部側を手で持ち、モバイル3Dスキャナ11の前面を移動方向に向かせた状態で支持部材13を通路1の路面に対して垂直に保持し、モバイル3Dスキャナ11の向き及び姿勢を変えないようにして通路1を歩行で移動する。なお、図2中の符号15は、モバイル3Dスキャナ11によるスキャンデータの処理などを行う前記処理装置を示している。本実施形態においては、処理装置15が支持部材13に取り付けられているが、これに限られるものではなく、図示省略の測量補助者などが処理装置15を携帯してもよい。」
「【図2】
[図:0001417991000002.jpg]
」
「【0021】
モバイル3Dスキャナはいわゆる自動整順機能やこれに準ずる機能を有している場合が多いこと、及び、測定物がないエリアをスキャンすることを抑制した方がよいと考えられることから、測定中(測量中)のモバイル3Dスキャナの姿勢として前記垂直姿勢よりもそこから少し下向きに傾けた姿勢が推奨されることがある。しかし、本発明者らによる実験によれば、道路のように表面が比較的滑らかな通路を移動しながらの測定(スキャン)においては、モバイル3Dスキャナを前記垂直姿勢に保持した場合の方が、モバイル3Dスキャナを前記垂直姿勢から少し下向きに傾けた姿勢に保持した場合に比べて、得られる3D点群データの精度がよいことが確認されている。これは、モバイル3Dスキャナを傾けた姿勢に保持すると、モバイル3Dスキャナの姿勢のずれが生じ易くなったり、SLAM技術におけるマッチングのずれが生じ易くなったりするためであると考えられる。そのため、本実施形態において、測量作業者10は、測定中(測量中)、モバイル3Dスキャナ11を前面が移動方向を向いた状態に保持するとともに、モバイル3Dスキャナ11を前記垂直姿勢に保持するようにしている。
【0022】
測量作業者10は、7分間を超える測定(測量)、好ましくは6分間を超える測定(測量)を行わない。また、測量作業者10は、移動距離が70mを超える測定(測量)、好ましくは移動距離が60mを超える測定(測量)を行わない。このようにするのは、本発明者らによる実験によれば、モバイル3Dスキャナを用いて移動しながら3D点群データを取得する場合、測定(測量)時間が概ね7分間を超えると、及び/又は、測量作業者10(モバイル3Dスキャナ11)の移動距離が概ね70mを超えると、得られる3D点群データの精度が低下してしまい、ほとんどの場合、測量データとして利用できなくなることが確認されているからである。
【0023】
測量作業者10は、通路1を直線状(厳密に直線状である必要はなく、概ね直線状であればよい。以下同じ。)に移動し、途中で曲がるという行動はとらない。このようにするのは、主にSLAM技術における自己位置の推定精度の低下、ひいては3D点群データの精度の低下を抑制するためである。また、測量作業者10は、標定ターゲット3の横(側方)を通過するときには当該標定ターゲット3から1.0~1.5mの範囲を通過する。このようにするのは、本発明者らによる実験によれば、測量作業者10が標定ターゲット3に近い位置(例えば標定ターゲット3から0.5m以下の位置)を通過し及び/又は測量作業者10が標定ターゲット3から比較的離れた位置(例えば標定ターゲット3から2mを超える位置)を通過した場合に、得られる3D点群データの精度が低下することが確認されているからである。つまり、測量作業者10は、各標定ターゲット3の側方の所定範囲、好ましくは各標定ターゲット3の側方1.0~1.5mの範囲を通過するように通路1を直線状に移動する。換言すれば、測量作業者10は、モバイル3Dスキャナ11が各標定ターゲット3の側方の前記所定範囲(すなわち、各標定ターゲット3の側方1.0~1.5mの範囲)を通過するようにモバイル3Dスキャナ11を直線状に移動させる。
【0024】
測量作業者10は、通路1を断続的に移動する。換言すれば、測量作業者10は、モバイル3Dスキャナ11を断続的に移動させる。具体的には、測量作業者10は、1歩進むごとに一定時間(ここでは3秒間)止まることによって、通路1を断続的に移動する。ここで、測量作業者10が1歩に要する時間は、通常、約1秒である。また、測量作業者10の1歩の長さは、通常、0.7~0.9mであり、1.5mを超えることはほとんどない。そうすると、測量作業者10が通路1を断続的に移動することは、測量作業者10がモバイル3Dスキャナ11を1度に(又は1秒間に)1.5m以下の所定距離移動させること及び移動後の位置に一定時間(ここでは3秒間)停止させることを繰り返す、ということもできる。
【0025】
なお、測量作業者10が通路1を断続的に移動する(モバイル3Dスキャナ11を断続的に移動させる)ようにしたのは、次のような理由による。すなわち、本発明者らによる実験によれば、測量作業者10が単に歩行で移動した場合、すなわち、測量作業者10が連続的に移動した場合には測量に必要な精度を有する3D点群データが得られないこと、及び、測量作業者10が1歩ごとに止まりながら移動する場合の方が、測量作業者10が連続的に移動する場合に比べて、得られる3D点群データの精度がよいこと、が確認されているからである。
【0026】
また、測量作業者10が歩行を停止する時間(モバイル3Dスキャナ11の移動を停止させる時間)を3秒間としたのは、次のような理由による。第1に、本発明者らによる実験の結果によれば、3D点群データの精度に関し、測量作業者10が歩行を停止する時間を1秒間や2秒間とした場合には測量作業者10が連続的に移動する場合に対して明らかな優位性が認められなかった。第2に、既述のように、得られる3D点群データの精度を確保するためには測定時間を制限する(7分間未満にする)必要があるところ、測量作業者10が歩行を停止する時間を長くすると結果的に測量作業者10が通路1を移動できる距離が短く(すなわち、測量可能な範囲が狭く)なってしまい、好ましくない。そこで、本発明者は、測量作業者10が連続的に移動する場合に対して3D点群データの精度の優位性が認められた最小時間である3秒間を測量作業者10が歩行を停止する時間とした。したがって、測量作業者10が移動する距離が比較的短い場合(測量可能な範囲が比較的狭い場合)には、測量作業者10が歩行を停止する時間を、3秒間を超える時間とすることも可能である。但し、測量作業者10が歩行を停止する時間が5秒間を超えると測量作業者10の移動距離がかなり短くなる(測量可能な範囲がかなり狭くなる)おそれがあるので避けた方が好ましい。
【0027】
測量作業者10は、自分の周囲に自分とほぼ同じ速度で同じ方向に移動する移動体がある場合、換言すれば、モバイル3Dスキャナ11とほぼ同じ速度で同じ方向に移動する移動体がある場合には、測定(測量)を行わない。このようにするのは、主にSLAM技術における自己位置の推定精度の低下、ひいては3D点群データの精度の低下を抑制するためである。
【0028】
以上のような条件を満たすことで、モバイル3Dスキャナを用いて測量に必要な精度を有した3D点群データを取得することが可能である。」
ウ 【0029】~【0040】、【図3】、【図4】
「【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は下記の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0030】
[実施例1及び比較例1-1~1-5]
測量作業者10がモバイル3Dスキャナ11を持って図3に示される直線状に延びる通路1A(ここでは一般道路)を歩行で移動することにより、通路1A及びその周辺の3D点群データを取得した。その手順は、以下のとおりである。
【0031】
まず、測量作業者10は、3つの標定ターゲット3A~3Cを通路1Aに沿って等間隔(間隔L)に設置する。各標定ターゲット3A~3Cは、既述のように、測量開始位置SP1の方向を向いた状態で、あらかじめ設置された基準点(標定点)の上に配置された三脚5に装着される(図1参照)。なお、隣り合う2つの標定ターゲット3の間隔Lは、約30m(28~30m)である。
【0032】
そして、標定ターゲット3A~3Cの設置後、測量作業者10は、上端部にモバイル3Dスキャナ11が取り付けられた支持部材13の下端部側を手で持ち(図2参照)、測量開始位置SP1から矢印X方向に通路1Aを歩行で移動することにより、通路1A及びその周辺の3D点群データを取得する。
【0033】
ここで、図3中のVP1~VP14は、取得された3D点群データの精度を確認するための検証点を示している。各検証点VP1~VP14は、特に制限されないが、例えば通路1Aにおける車道と歩道との境界(歩車道境界ブロック上)に設置される。各検証点VP1~VP14の位置(座標値)は、多角測量などによってあらかじめ求められている。
【0034】
以下、実施例1及び比較例1-1~1-5について説明するが、実施例1及び比較例1-1~1-5のそれぞれにおいては、Paracosm社製のPX-80がモバイル3Dスキャナ11として用いられ、6インチ径の白黒ターゲットが標定ターゲット3A~3Cとして用いられている。」
「【図3】
[図:0001417991000003.jpg]
」
「【0035】
[実施例1]
測量作業者10は、モバイル3Dスキャナ11を通路1Aの路面に対して垂直な姿勢であり且つ前面が移動方向(矢印X方向)を向いた状態に保持する。そして、測量作業者10は、1歩進むごとに3秒間止まりながら、各標定ターゲット3A~3Cの側方約1.3mの位置を通過するように測量開始位置SP1から矢印X方向に直線状に移動し、これによって、通路1A及びその周辺の3D点群データを取得した。測定(測量)時間は、約6分間であり、測量作業者10の移動距離は、約60mである。
【0036】
[比較例1-1]
測量作業者10は、実施例1に対してモバイル3Dスキャナ11を下向きに約10°傾けた状態に保持する。そして、測量作業者10は、1歩ごとに止まることなく、各標定ターゲット3A~3Cの側方約1.3mの位置を通過するように測量開始位置SP1から矢印X方向に直線状に且つ連続的に移動し、これによって、通路1A及びその周辺の3D点群データを取得した。測量作業者10の移動距離は、約60mである。
【0037】
[比較例1-2]
測量作業者10は、実施例1と同様、モバイル3Dスキャナ11を通路1Aの路面に対して垂直な姿勢であり且つ前面が移動方向を向いた状態に保持する。そして、測量作業者10は、1歩進むごとに3秒間止まりながら、測量開始位置SP1から矢印X方向にジグザグに移動し、これによって、通路1A及びその周辺の3D点群データを取得した。測定(測量)時間は、実施例1と同様、約6分間である。なお、測量作業者10は、各標定ターゲット3A~3Cの側方1.2~2.5mの範囲を通過した。
【0038】
[比較例1-3]
測量作業者10は、実施例1と同様、モバイル3Dスキャナ11を通路1Aの路面に対して垂直な姿勢であり且つ前面が移動方向を向いた状態に保持する。そして、測量作業者10は、1歩進むごとに4秒間止まりながら、各標定ターゲット3A~3Cの側方約1.3mの位置を通過するように測量開始位置SP1から矢印X方向に直線状に移動し、これによって、通路1及びその周辺の3D点群データを取得した。なお、測量作業者10は、実施例1と同じ距離を移動したため、測定(測量)時間は、7分間を超えていた。
【0039】
[比較例1-4]
測量作業者10は、実施例1と同様にして通路1A及びその周辺の3D点群データを取得した。但し、測定中(測量中)、測量作業者10の近くには測量作業者10と同じ速度で同じ方向に移動する移動体(ここでは追尾者)が存在した。
【0040】
[実施例1と比較例1-1~1-4との比較]
取得された3D点群データにおける検証点VP1~VP14の位置と、多角測量などによってあらかじめ求められている検証点VP1~VP14の位置とに基づき、実施例1及び比較例1-1~1-4における検証点VP1~VP14の位置の測量誤差(mm)を算出した。結果を図4に示す。図4に示されるように、実施例1では全ての検証点VP1~VP13における測量誤差が30mm未満であり、実施例1で取得された3D点群データが測量データとして利用可能であることが確認された。他方、比較例1-1~1-4では測量誤差が50mmを超える検証点が複数ある。このため、比較例1-1~1-4で取得された3D点群データは測量データとして利用できない。」
「【図4】
[図:0001417991000004.jpg]
」
エ 【0041】~【0048】、【図5】、【図6】
「【0041】
[実施例2及び比較例2-1~2-3]
測量作業者10がモバイル3Dスキャナ11を持って図5に示される直線状に延びる通路1B(ここでは一般道路である)を歩行で移動することにより、通路1B及びその周辺の3D点群データを取得した。その手順は、次のとおりである。
【0042】
まず、測量作業者10は、実施例1と同様、3つの標定ターゲット3D~3Fを通路1Bに沿って等間隔(間隔L)に設置する。標定ターゲット3D~3Fの設置後、測量作業者10は、モバイル3Dスキャナ11が取り付けられた支持部材13を手で持ち、測量開始位置SP2から矢印Y方向に通路1Bを歩行で移動することにより、通路1B及びその周辺の3D点群データを取得する。なお、図5中のVP21~VP25は、検証点を示している。
【0043】
以下、実施例2及び比較例2-1~2-3について説明するが、実施例2及び比較例2-1~2-3のそれぞれにおいては、GeoSLAM社製のZEB-HORIZONがモバイル3Dスキャナ11として用いられ、6インチ径の白黒ターゲットが標定ターゲット3として用いられている。」
「【図5】
[図:0001417991000005.jpg]
」
「【0044】
[実施例2]
測量作業者10は、モバイル3Dスキャナ11を通路1Bの路面に対して垂直な姿勢であり且つ前面が移動方向(矢印Y方向)を向いた状態に保持する。そして、測量作業者10は、1歩進むごとに3秒間止まりながら、各標定ターゲット3D~3Fの側方約1.3mの位置を通過するように測量開始位置SP2から矢印Y方向に直線状に移動し、これによって、通路1B及びその周辺の3D点群データを取得した。測定(測量)時間は、約6分間であり、測量作業者10の移動距離は、約60mである。
【0045】
[比較例2-1]
測量作業者10は、モバイル3Dスキャナ11の姿勢及び各標定ターゲット3D~3Fの側方における通過位置などを意識することなく、また、1歩ごとに停止することなく、単に測量開始位置SP2から矢印Y方向に歩行で移動し、これによって、通路1B及びその周辺の3D点群データを取得した。測量作業者10の移動距離は、実施例2と同様、約60mである。
【0046】
[比較例2-2]
測量作業者10は、実施例2と同様、モバイル3Dスキャナ11を通路1Bの路面に対して垂直な姿勢であり且つ前面が移動方向(矢印Y方向)を向いた状態に保持する。そして、測量作業者10は、2歩進むごとに3秒間止まりながら、各標定ターゲット3D~3Fの側方約1.3mの位置を通過するように測量開始位置SP2から矢印Y方向に直線状に移動し、これによって、通路1B及びその周辺の3D点群データを取得した。測量作業者10の移動距離は、実施例2と同様、約60mである。
【0047】
[比較例2-3]
測量作業者10は、実施例2と同様、モバイル3Dスキャナ11を通路1Bの路面に対して垂直な姿勢であり且つ前面が移動方向(矢印Y方向)を向いた状態に保持する。そして、測量作業者10は、3歩進むごとに3秒間止まりながら、各標定ターゲット3D~3Fの側方約1.3mの位置を通過するように測量開始位置SP2から矢印Y方向に直線状に移動し、これによって、通路1B及びその周辺の3D点群データを取得した。測量作業者10の移動距離は、実施例2と同様、約60mである。
【0048】
[実施例2と比較例2-1~2-3との比較]
取得された3D点群データにおける検証点VP21~VP25の位置と、多角測量などによってあらかじめ求められている検証点VP21~VP25の位置とに基づき、実施例2及び比較例2-1~2-3のそれぞれにおける検証点VP21~VP25の位置の測量誤差(mm)を算出した。結果を図6に示す。図6に示されるように、実施例2では全ての検証点VP21~VP25における測量誤差が30mm未満であり、実施例2で取得された3D点群データが測量データとして利用可能であることが確認された。他方、比較例2-1~2-3では、全ての検証点VP21~VP25における測量誤差が大きく(ほとんどが50mmを超えている)。このため、比較例2-1~2-3で取得された3D点群データは測量データとして利用できない。」 「【図6】
[図:0001417991000006.jpg]
」
(6) 条件A~Cの検討
前記(4)イにおいて示した条件A~Cが、発明の詳細な説明の記載により本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを以下検討する。
ア 条件A(標定ターゲットの設置態様に係る条件)について
(ア) 本願発明は、測定条件として、
<条件A>
「直線状に延びる通路に沿って3つの標定ターゲットを等間隔に設置し、
隣り合う2つの標定ターゲットの間隔が28~30mであり、
前記3つの標定ターゲットのそれぞれは、測量開始位置の方向を向いていること」
を規定している。
(イ) しかし、発明の詳細な説明の記載をみても、3つの標定ターゲットを等間隔に設置し、隣り合う2つの標定ターゲットの間隔を28~30mとすること、及び、3つの標定ターゲットのそれぞれが測量開始位置の方向を向いていることにより、なぜ測量に必要な精度が得られるのか理解することができない。
(ウ) 条件Aを満たさない場合として、例えば、標定ターゲットの数が3つでない場合、3つの標定ターゲットが等間隔でない場合、隣り合う2つの標定ターゲットの間隔が28~30mでない場合、又は、3つの標定ターゲットが測量開始位置の方向を向いていない場合が考えられるところ、これらの場合のように条件Aの内容の一部を変更した態様で標定ターゲットを設置すると、たとえ条件B及び条件Cが満たされていても、自己位置の推定誤差が蓄積するなどして自己位置の推定値が真の位置から大きくずれて、得られる3D点群データの精度も大きく低下してしまうことが発明の詳細な説明に開示されていないため、条件Aにより本願発明の課題を解決できることを発明の詳細な説明の記載から当業者は認識できない。
(エ) この点に関し、本願明細書の【0018】の「通路1に沿って複数(好ましくは3つ以上)の標定ターゲット3を等間隔(厳密に等間隔である必要はなく、概ね等間隔であればよい。以下同じ。)に設置する。」という記載を踏まえると、条件Aの「等間隔」の厳密性は不要になるところ、その許容範囲がどれ程であるか示されていないことも考慮すると、条件Aにおいて「等間隔」を要求していることの意味が不明なものとなるから、条件Aにより本願発明の課題を解決できることを認識することがますます困難なものになってしまう。
(オ) また、条件Aの「隣り合う2つの標定ターゲットの間隔が28~30m」については、本願明細書の【0031】の「なお、隣り合う2つの標定ターゲット3の間隔Lは、約30m(28~30m)である。」という記載に基づくものであると認められるから、「28~30m」は「約30m」を意味することになり、条件Aの「28~30m」もやはり厳密性は要求されていないと解される。そして、この範囲外の例えば27mの場合と比較した実験結果も示されていないから、条件Aにおいて「28~30m」を要求していることの意味が不明であって、この点からみても、条件Aにより本願発明の課題を解決できることを認識することが困難なものになってしまう。
(カ) そうすると、条件Aにより、本願発明の課題を解決できるとは当業者が認識できないし、出願時の技術常識に照らしてもその点は同様である。
イ 条件B(標定ターゲットと測量作業者の位置関係に係る条件)について
(ア) 本願発明は、測定条件として、
<条件B>
「SLAM技術を利用したモバイル3Dスキャナの向き及び姿勢を一定に保持した測量作業者が各標定ターゲットの側方1~1.5mの範囲を通過するように直線状に延びる通路を測量開始位置から歩行で直線状に移動しながら直線状に延びる通路及びその周辺の3D点群データを取得することであって、前記測量作業者の移動距離が60m以下であること」
を規定している。
(イ) しかし、発明の詳細な説明の記載をみても、3D点群データを取得する際に、各標定ターゲットの側方1~1.5mの範囲を通過することにより、なぜ測量に必要な精度が得られるのか理解することができない。
(ウ) この点に関し、本願明細書の【0023】には、「測量作業者10は、標定ターゲット3の横(側方)を通過するときには当該標定ターゲット3から1.0~1.5mの範囲を通過する。このようにするのは、本発明者らによる実験によれば、測量作業者10が標定ターゲット3に近い位置(例えば標定ターゲット3から0.5m以下の位置)を通過し及び/又は測量作業者10が標定ターゲット3から比較的離れた位置(例えば標定ターゲット3から2mを超える位置)を通過した場合に、得られる3D点群データの精度が低下することが確認されているからである。」と記載されているが、具体的な実験条件や実験結果は示されていない。仮に、標定ターゲット3から0.5m以下の位置と2mを越える位置では精度の低下が確認されたという実験結果が提示されたとしても、そのことから「1~1.5mの範囲」の位置において精度の低下がないことが当然導かれるわけではない。
(エ) そうすると、発明の詳細な説明の記載をみても、条件Bにより、本願発明の課題を解決できるとは当業者が認識できないし、出願時の技術常識に照らしてもその点は同様である。
ウ 条件C(測量作業者の移動態様と測定タイミングの関係に係る条件)について
(ア) 本願発明は、測定条件として
<条件C>
「SLAM技術を利用したモバイル3Dスキャナの向き及び姿勢を一定に保持した測量作業者は、測量中、前記モバイル3Dスキャナを直線状に延びる通路の路面に対して垂直な姿勢であり且つ前面が移動方向を向いた状態に保持し、
前記測量作業者は、1歩進むごとに3秒間止まることを繰り返すことによって前記通路を直線状に且つ断続的に移動して直線状に延びる通路及びその周辺の3D点群データを取得すること」
を規定している。
(イ) しかし、発明の詳細な説明の記載をみても、1歩進むごとに3秒間止まることを繰り返すことにより、なぜ測量に必要な精度が得られるのか理解することができない。
(ウ)a この点に関し、本願明細書の【0025】には、「本発明者らによる実験によれば、測量作業者10が単に歩行で移動した場合、すなわち、測量作業者10が連続的に移動した場合には測量に必要な精度を有する3D点群データが得られないこと、及び、測量作業者10が1歩ごとに止まりながら移動する場合の方が、測量作業者10が連続的に移動する場合に比べて、得られる3D点群データの精度がよいこと、が確認されているからである。」と記載されているが、【図4】及び【図6】に示された実験結果以外に具体的な実験結果は示されていない。
b そして、【図4】に示された実験結果をみても、比較例1-1は、本願明細書の【0036】の記載によれば、「1歩ごとに止まることなく」という条件だけでなく、「モバイル3Dスキャナ11を下向きに約10°傾けた状態に保持する」という条件も加えて、3D点群データを取得したものであり、「1歩ごとに止まる」という条件の有無のみを実施例1と異ならせて実験したものではないから、実施例1の比較対象として適切とはいえない。
「【図4】
[図:0001417991000007.jpg]
」
c 同様に、【図6】に示された実験結果をみても、比較例2-1は、本願明細書の【0045】の記載によれば、「1歩ごとに停止」しないという条件だけでなく、「モバイル3Dスキャナ11の姿勢及び各標定ターゲット3D~3Fの側方における通過位置などを意識することなく」という条件も加えて、3D点群データを取得したものであり、「1歩ごとに停止」という条件の有無のみを実施例2と異ならせて実験したものではないから、実施例2の比較対象として適切とはいえない。
「【図6】
[図:0001417991000008.jpg]
」
d さらに、実施例1及び実施例2は、【0035】や【0044】の記載をみても、例えば、移動中にのみ3D点群データを取得するのか、停止中にのみ同データを取得するのか、移動中と停止中のいずれにも同データを取得するのかなどの具体的な実験条件が明らかでないから、比較対象が不適切であることも考慮すると、【図4】及び【図6】に示された実験結果から、条件Cが当然導かれるわけではない。
e また、そもそも【図4】及び【図6】に示された実験結果は、数値データが欠落している箇所(斜線の箇所)があるほか、測定開始位置に近い検証点ほど測量誤差が小さいという傾向を読み取ることもできないから(特に測定時間が7分超となった比較例1-3においては、本願明細書の【0022】の「本発明者らによる実験によれば、モバイル3Dスキャナを用いて移動しながら3D点群データを取得する場合、測定(測量)時間が概ね7分間を超えると、…(中略)…得られる3D点群データの精度が低下してしまい、ほとんどの場合、測量データとして利用できなくなることが確認されているからである。」との記載内容が正しいとすれば、そのような傾向が現れるはずである。)、実験結果自体の信憑性についても疑問がある。
f そうすると、発明の詳細な説明の記載をみても、条件Cにより、本願発明の課題を解決できるとは当業者が認識できないし、出願時の技術常識に照らしてもその点は同様である。
(7) 請求人の主張について
ア 意見書における主張内容
請求人は、令和6年7月19日に提出した意見書(以下、単に「意見書」という。)において、概略次の主張をしている。
当業者であれば、本願明細書の記載、特に、段落【0021】-【0026】、並びに実施例に関する記載である段落【0030】-【0035】、【0040】-【0044】及び【0048】の記載を参照することにより、本件補正後の請求項1-2に係る発明を実施することで「モバイル3Dスキャナを用いて測量に必要な精度を有した3D点群データを取得することができる」ことを理解できる。
イ 請求人の主張についての検討
前記アの請求人の主張について検討する。
請求人は、本願明細書の各記載を参照すると、なぜ本願発明の課題を解決できるのかについて具体的な説明をしていない。そして、前記(2)~(6)において説示したとおり、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求人の主張は採用できない。
(8) 小括
以上のとおり、本願発明の規定する測定条件(条件A~C)により本願発明の課題を解決できるとは当業者が認識できないから、本願発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、また、出願時の技術常識に照らしてもその点では同様である。
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本願は、特許請求の範囲の請求項1の記載が、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
2 実施可能要件について
(1) 前記1(6)アにおいて指摘したとおり、条件Aについて、発明の詳細な説明の記載をみても、3つの標定ターゲットを等間隔に設置し、隣り合う2つの標定ターゲットの間隔を28~30mとすること、及び、3つの標定ターゲットのそれぞれが測量開始位置の方向を向いていることにより、なぜ測量に必要な精度が得られるのか理解することができない。
また、前記1(6)イにおいて指摘したとおり、条件Bについて、発明の詳細な説明の記載をみても、3D点群データを取得する際に、各標定ターゲットの側方1~1.5mの範囲を通過することにより、なぜ測量に必要な精度が得られるのか理解することができない。
さらに、前記1(6)ウにおいて指摘したとおり、条件Cについて、発明の詳細な説明の記載をみても、1歩進むごとに3秒間止まることを繰り返すことにより、なぜ測量に必要な精度が得られるのか理解することができない。
(2) そうすると、本願発明の規定する測定条件(条件A~C)に関し、本願明細書及び図面には、当業者が本願発明をいかに実施することにより本願発明の課題を解決できるかが説明されているとはいえないから、本願の発明の詳細な説明は、本願発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
したがって、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
3 進歩性について
(1) 各引用文献に記載された事項及び引用発明等の認定
ア 引用文献4に記載された事項及び引用発明の認定
(ア) 引用文献4に記載された事項
当審拒絶理由において引用され、本願の出願前に発行された文献である引用文献4(SLAM技術を利用したモバイル3Dスキャナ活用による調査・計測の効率化)には、次のa~dに示す事項が記載されている(以下、それぞれ「摘記事項a」~「摘記事項d」という。)。
a 69頁左欄1行~18行
「1.はじめに
狭隘な箇所での構造物や屋外施設、並びに屋内施設等において、3D計測を実施する手法の一つとしてSLAM(自己位置推定と空間地図作成を自動で同時に実行する機能)がある.このアルゴリズムを応用したモバイル3DスキャナZEB-HORIZON(GeoSLAM社製)は、GNSS(Global Navigation Satellite System)が受信できない環境下でも歩行経路沿いに簡便な公称精度3cmの3次元計測を可能とし、GNSS+IMU搭載のシステムでは計測不能な建物内や構造物裏面の計測も可能となる.
今回は、屋外施設として道路の拡幅事業により横断歩道橋の付替えが計画されている地点において、現横断歩道橋を計測し、併せて道路沿いに歩行して現況地形も計測を行った.
屋内施設としては当社ビル階段部を計測した.
そして、得られた3D点群から、点群可視化技術により平面図や断面図を作成し、計測精度も照査した.」
b 69頁左欄19行~70頁左欄9行、図-1、図-2
「2.計測方法
(1) 使用機材
3D計測に用いたモバイル3DスキャナZEB-HORIZONを図-1に、仕様を表-1に示す.バッテリーと本体は肩から掛けれるため、手に持つスキャナ部は重量1.3kgであるが、長時間の計測には体力を要する.」
「
[図:0001417991000009.jpg]
」
(表-1は省略)
「この他、点群に位置情報を付与するための基準点測量にはVRS機(Virtual Reference Station)を用いた.
(2) 計測方法
図-2にZEB-HORIZONの計測方法を示す.モバイル3Dスキャナを持ち、歩行して移動することにより、周囲100mまでの地物の3次元計測が可能である.また、計測経路は、閉ループである(開始点に戻る).なお、計測と同時に動画も撮影しているため、点群に色情報を持たせることで視覚的にわかりやすい3Dモデルとして活用できる.また、動画から現地状況の連続写真を生成することもできる.」
「
[図:0001417991000010.jpg]
」
c 70頁左欄24行~71頁左欄65行、図-8
「3.計測事例
…(中略)…
また、周辺道路を上り線歩道沿い、下り線歩道沿いに片道220mを2km/hで歩行して往復1ループ(13分)で計測した(図-8).」
「
[図:0001417991000011.jpg]
」
「この範囲を地上型レーザスキャナで計測すると5か所程度切回す必要があり、時間も1時間程度は必要となるため、現地調査等の現状把握においてはロスの少なく、同時に動画を取得するZEB-HORIZONは威力を発揮した.(後略)」
d 72頁左欄20行~右欄17行
「4.まとめと今後の課題
SLAMを用いた簡便な計測手法を用いるモバイル3Dスキャナは、現在公共測量作業規程に明確な手法精度等は明示されていないが、今回の検証により現況地形及び施設・構造物を迅速かつ効率的に計測可能であることが分かった。また、機器の操作も容易に行うことができるため、汎用性が高いことも確認できた。
…(中略)…
なお、点群に座標を付与させる際に、基準点をGNSS測量(VRS:仮想基準点方式)することで、従来のTS(Total Station)測量より計測の効率化を図ることもできる.(後略)」
(イ) 引用文献4から認定した事項
a 認定事項1
引用文献4の図-1に示されたモバイル3Dスキャナ一式からみて、モバイル3Dスキャナは、把持部とLaser Scannerを含むことが読み取れる。
また、図-2に示された計測方法からみて、モバイル3Dスキャナによる計測は、把持部が延びる方向が地面に対して概ね垂直になるように作業者が手で持った状態において行われるものであり、Laser Scannerの前面は概ね作業者が歩行して移動する方向に向けられることが読み取れる。
そうすると、引用文献4には、次の事項が開示されていると認められる(以下「認定事項1という。)。
<認定事項1>
「モバイル3Dスキャナは、把持部とLaser Scannerを含み、モバイル3Dスキャナによる計測は、把持部が延びる方向が地面に対して概ね垂直になるように作業者が手で持った状態において行われるものであり、Laser Scannerの前面は概ね作業者が歩行して移動する方向に向けられること。」
b 認定事項2
引用文献4の図-8に示された周辺道路の点群を可視化した図からみて、引用文献4には、次の事項が記載されていると認められる(以下「認定事項2」という。)。
<認定事項2>
「計測対象の周辺道路は、概ね直線状であること。」
(ウ) 引用発明の認定
前記(ア)において摘記した事項及び前記(イ)において認定した事項を総合すると、引用文献4には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、括弧内に認定の根拠となった事項を示した。
<引用発明>
「SLAMのアルゴリズムを応用したモバイル3Dスキャナを用いて、道路沿いに歩行して現況地形の計測を行い、得られた3D点群から、点群可視化技術により平面図や断面図を作成する方法であって、(摘記事項a)
モバイル3Dスキャナを持ち、概ね直線状の周辺道路を上り線歩道沿い、下り線歩道沿いに片道220mを2km/hで歩行して往復1ループ(13分)で計測し、(摘記事項b、摘記事項c、認定事項2)
モバイル3Dスキャナは、把持部とLaser Scannerを含み、(認定事項1)
モバイル3Dスキャナによる計測は、把持部が延びる方向が地面に対して概ね垂直になるように作業者が手で持った状態において行われるものであり、
Laser Scannerの前面は概ね作業者が歩行して移動する方向に向けられるものであり、(認定事項1)
点群に位置情報を付与するための基準点測量にはVRS機(Virtual Reference Station)を用い、点群に座標を付与させる際に、基準点をGNSS測量(VRS:仮想基準点方式)することで、従来のTS(Total Station)測量より計測の効率化を図ることもできる、(摘記事項b、摘記事項d)
方法。」
イ 引用文献5、6に記載された事項及び周知技術1の認定
(ア) 引用文献5に記載された事項
当審拒絶理由において引用され、本願の出願前に発行された文献である引用文献5(特開2017-9546号公報)には、次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は移動式3次元レーザスキャナを用いた配筋検査方法に関する。詳しくは、建設工事における移動式3次元レーザスキャナを用いた配筋検査方法に関する。」
「【0033】
移動式3次元レーザスキャナによる3次元点群データの取得は、例えば、図3(a)及び図3(b)に示すように、移動式3次元レーザスキャナ10を片手で把持する計測者20を足場30上で歩行させながら鉄筋構造物50を含む計測対象領域にレーザービーム11を照射してスキャニングするような方法で行われる。…(中略)…このとき、3次元点群データの中に、絶対座標系の座標を特定可能な既知部位の座標データを併せて取得することが好ましい。絶対座標系の座標を特定可能な既知部位とは、計測対象である鉄筋構造物の周囲に存在する既設の構造物の部分等、絶対座標上で特定できる部位を意味する。」
「【0047】
ステップS105においては、計測対象領域の全領域の形状データの3次元点群データDALLを、絶対座標系の座標を特定可能な既知部位の相対座標系の座標を用いて変換する。具体的には、例えば、図5(a)に示したように、鉄筋構造物52の周囲の既設の構造物42の角C1,C2,C3を3点の既知部位とした場合、3点の相対座標C1(C1x,C1y,C1Z),C2(C2x,C2y,C2Z)C3(C3x,C3y,C3Z)のそれぞれを、図5(b)に示したように、予め既設の構造物42の既知の角C1,C2,C3に対応する絶対座標系の座標A1(A1x,A1y,A1Z),A2(A2x,A2y,A2Z)A3(A3x,A3y,A3Z)のそれぞれに変換して変換式を求める。そして、その変換式を用いて、3次元画像全体の相対座標系の3次元点群データの座標を絶対座標系の3次元点群データの座標に変換することにより、図5(c)に示したように、移動式3次元レーザスキャナにより取得された相対座標系の3次元点群データDALLの座標が、位置情報を含んだ絶対座標系の3次元点群データDfinalの座標に変換される。なお、既知の絶対座標系の座標は、データーベース化された地図データ等から容易に入手できる。また、予め、GPSにより実測することにより入手してもよい。周囲に構造物等がない平坦な建設工事現場の場合においては、少なくとも3点の目印を設置し、この3点の絶対座標をGPSにより特定してもよい。」
「【図5】
[図:0001417991000012.jpg]
」
(イ) 引用文献6に記載された事項
当審拒絶理由において引用され、本願の出願前に発行された文献である引用文献6(ハンディ型レーザースキャナの活用 -非GNSS環境下で取得可能な3次元データの最新の精度検証と施工への活用について-)には、次の事項が記載されている。
「2 3次元計測の種類と活用シーン
現在、利用されている3次元計測の技術を建設分野に限定して、主にセンサー別に簡単にまとめたものが表-1である。手法としては大きくセンサー別に一次取得できるデータの種類で分けることができ、代表的なものとしてはレーザースキャナによる点群とカメラによる写真である。」
「
[図:0001417991000013.jpg]
」
(当審注:表-1において、「一般的な呼称」が「ハンディ型レーザースキャナ」の欄については、当審において枠囲いを付与した。)
(ウ) 周知技術1の認定
前記(ア)~(イ)に摘記した事項に例示されるように、次の技術事項は、本願の出願前に当業者にとって周知技術であったと認められる(以下「周知技術1」という)。
<周知技術1>
「モバイル3Dスキャナで取得した3D点群データに絶対座標を付与する場合に、計測対象領域に既知点となる基準点を設置して計測を実施すること。」
(2) 対比、判断
ア 本願発明と引用発明の対比
(ア)a 引用発明の「SLAMのアルゴリズムを応用したモバイル3Dスキャナ」は、本願発明の「SLAM技術を利用したモバイル3Dスキャナ」に相当する。
b また、本願発明の「直線状に延びる通路」は、「通路」自体の形状が「直線状」であることを規定したものであるところ、同じく本願発明の特定事項である「前記通路を測量開始位置から歩行で直線状に移動[する]」ことを踏まえると、「通路」自体の形状としての「直線状」は、「測量作業者」の「移動」の方向が「直線状」であることと関連すると考えられる。
この点に関し、本願明細書の【0023】には、「測量作業者10は、通路1を直線状(厳密に直線状である必要はなく、概ね直線状であればよい。以下同じ。)に移動し、途中で曲がるという行動はとらない。」と記載されているから、測量作業者の移動は、途中で曲がるという行動はとらないという程度の直線移動を想定しているといえる。
そうすると、「直線状に延びる通路」における「直線状」についても、幾何学的な意味での厳密な直線状を意味するものではなく、測量作業者が途中で曲がるという行動をとらずに済む程度の直線性を備えていれば足りるから、概ね直線状であればよいものと解するのが相当である。
したがって、引用発明の「概ね直線状の周辺道路」は、本願発明の「直線状に延びる通路」に相当する。
c また、引用発明は、「道路沿いに歩行して現況地形の計測を行い、得られた3D点群から、点群可視化技術により平面図や断面図を作成する」ものであるところ、道路沿いに歩行して現況地形の計測を行う場合に、計測対象の現況地形には道路とその周辺の地形が含まれることは明らかであるから、本願発明と同様に「通路及びその周辺の3D点群データを取得する」ものであるといえる。
d そうすると、本願発明と引用発明は、次の点で一致する。
「SLAM技術を利用したモバイル3Dスキャナを用いて直線状に延びる通路及びその周辺の3D点群データを取得する測量方法」の発明である点。
(イ) 引用発明の「周辺道路を上り線歩道沿い、下り線歩道沿いに片道220mを2km/hで歩行」することは、本願発明の「前記通路」を「歩行」で「移動」することに相当する。
そして、引用発明は、「道路沿いに歩行して現況地形の計測を行[う]」ものであるところ、「歩行して」「計測を行[う]」主体が測量作業者であることは明らかであり、測量開始位置から歩行することも明らかであるから、引用発明の「モバイル3Dスキャナを持ち、周辺道路を上り線歩道沿い、下り線歩道沿いに片道220mを2km/hで歩行して往復1ループ(13分)で計測」することと、本願発明の「前記モバイル3Dスキャナの向き及び姿勢を一定に保持した測量作業者が各標定ターゲットの側方1~1.5mの範囲を通過するように前記通路を測量開始位置から歩行で直線状に移動しながら前記3D点群データを取得すること」とは、「測量作業者が前記通路を測量開始位置から歩行で移動しながら前記3D点群データを取得すること」で共通する。
そうすると、本願発明と引用発明は、「測量作業者が前記通路を測量開始位置から歩行で移動しながら前記3D点群データを取得すること」を含む限りにおいて一致する。
(ウ) 引用発明は、「モバイル3Dスキャナは、把持部とLaser Scannerを含み、モバイル3Dスキャナによる計測は、把持部が延びる方向が地面に対して概ね垂直になるように作業者が手で持った状態において行われるものであ[る]」ところ、引用発明の「把持部が延びる方向が地面に対して概ね垂直になるように作業者が手で持った状態」で「計測」が「行われる」ことは、本願発明の「測量作業者は、測量中、前記モバイル3Dスキャナを前記通路の路面に対して垂直な姿勢」にすることに相当する。
また、引用発明の「Laser Scannerの前面は概ね作業者が歩行して移動する方向に向けられるものであ[る]」状態で「計測」が「行われる」ことは、本願発明の「測量作業者は、測量中、前記モバイル3Dスキャナ」を「前面が移動方向を向いた状態」にすることに相当する。
なお、本願明細書の【0019】には、「移動方向」が概ね移動方向であればよく、「垂直」が概ね垂直であればよいことが説明されており、厳密な意味での姿勢や状態であることは要求されていない。
そうすると、本願発明と引用発明は、「前記測量作業者は、測量中、前記モバイル3Dスキャナを前記通路の路面に対して垂直な姿勢であり且つ前面が移動方向を向いた状態にする」限りにおいて一致する。
(エ) 前記(イ)の検討を踏まえると、引用発明の「モバイル3Dスキャナを持ち、周辺道路を上り線歩道沿い、下り線歩道沿いに片道220mを2km/hで歩行して往復1ループ(13分)で計測」することと、本願発明の「前記測量作業者は、1歩進むごとに3秒間止まることを繰り返すことによって前記通路を直線状に且つ断続的に移動して前記3D点群データを取得する」こととは、「前記測量作業者は、前記通路を移動して前記3D点群データを取得する」点で共通する。
そうすると、本願発明と引用発明は、「前記測量作業者は、前記通路を移動して前記3D点群データを取得する」ものである限りにおいて一致する。
イ 一致点及び相違点の認定
前記アの対比結果をまとめると、本願発明と引用発明は、次の(ア)に示す一致点において一致し、以下の(イ)に示す相違点1~4において相違する。
(ア) 一致点
「SLAM技術を利用したモバイル3Dスキャナを用いて直線状に延びる通路及びその周辺の3D点群データを取得する測量方法であって、
測量作業者が前記通路を測量開始位置から歩行で移動しながら前記3D点群データを取得すること、
を含み、
前記測量作業者は、測量中、前記モバイル3Dスキャナを前記通路の路面に対して垂直な姿勢であり且つ前面が移動方向を向いた状態にし、
前記測量作業者は、前記通路を移動して前記3D点群データを取得する、
測量方法。」
(イ) 相違点
a 相違点1
本願発明では、「前記通路に沿って3つの標定ターゲットを等間隔に設置」し、「隣り合う2つの標定ターゲットの間隔が28~30m」であり、「前記3つの標定ターゲットのそれぞれは、前記測量開始位置の方向を向いて」おり、測量作業者が通路を測量開始位置から歩行で移動しながら3D点群データを取得する際に、「各標定ターゲットの側方1~1.5mの範囲を通過するように」するのに対して、引用発明では、標定ターゲットの設置の有無が明らかでない点。
b 相違点2
本願発明では、測量作業者が通路を測量開始位置から歩行で移動しながら3D点群データを取得する際に、測量作業者は「前記モバイル3Dスキャナの向き及び姿勢を一定に保持」し、
前記測量作業者は、測量中、モバイル3Dスキャナを通路の路面に対して垂直な姿勢であり且つ前面が移動方向を向いた状態を「保持」するのに対して、
引用発明では、モバイル3Dスキャナの向き及び姿勢を一定に保持するか明らかでない点。
c 相違点3
本願発明では、測量作業者が通路を測量開始位置から歩行で移動しながら3D点群データを取得する際に、「直線状に」移動し、
測量作業者が通路を移動して3D点群データを取得する際に、測量作業者は「1歩進むごとに3秒間止まることを繰り返すことによって前記通路を直線状に且つ断続的に移動」するのに対して、
引用発明では、周辺道路を上り線歩道沿い、下り線歩道沿いに片道220mを2km/hで歩行する点。
d 相違点4
本願発明では、「前記測量作業者の移動距離が60m以下である」のに対して、引用発明では、測量作業者の移動距離が片道220mを往復した440mである点。
ウ 相違点の判断
(ア) 相違点1の判断
前記相違点1について検討する。
a 引用発明は、「点群に位置情報を付与するための基準点測量にはVRS機(Virtual Reference Station)を用い、点群に座標を付与させる際に、基準点をGNSS測量(VRS:仮想基準点方式)することで、従来のTS(Total Station)測量より計測の効率化を図ることもできる」ものである。
b この点に関し、「仮想基準点方式」は、「利用者から遠く離れた複数の実基準点の観測データをもとにして、利用者のごく近傍に基準点があったときと同様のデータをソフトウェア的に作り出す技術」であるから(土屋淳・辻宏道著「新・GPS測量の基礎」(社団法人日本測量協会)198頁を参照)、引用発明においては、計測対象領域に実基準点を設置することを想定していないとも考えることができる。
c しかしながら、引用発明において、「仮想基準点方式」を採用する趣旨は「計測の効率化を図る」ためであって、計測対象領域に実基準点を設置して計測を行う「従来のTS(Total Station)測量」を採用することが技術的にみて不可能であると考えるのは適当ではない(計測の効率化を優先せずに、計測精度の向上の方に重点をおくという選択も可能である)。
d すなわち、引用発明において、「仮想基準点方式」を採用することは必須ではなく、「従来のTS(Total Station)測量」のように計測対象領域に実基準点を設置して計測を行うことにより、実基準点を用いて3D点群に絶対座標を付与するように構成することは妨げられないというべきである。
e ここで、前記(1)イ(ウ)に周知技術1として示したように、「モバイル3Dスキャナで取得した3D点群データに絶対座標を付与する場合に、計測対象領域に既知点となる基準点を設置して計測を実施すること。」は、本願の出願前に周知の技術である。
f そうすると、引用発明において、前記周知技術1を適用して、計測対象領域に既知点となる実基準点、すなわち、標定ターゲットを設置することは、当業者が容易に想到できたことである。
g そして、その際に、標定ターゲットの数を「3つ」とすることは、三次元空間における相対座標から絶対座標への変換が3×3の行列(9個のパラメータからなる)を含む形式により表されることを考慮すれば、当業者にとって当然の事項である(引用文献5の段落【0047】の記載も参照)。
また、標定ターゲットの配置や間隔をどのようにし、標定ターゲットの向きをどのようにするかは、計測対象領域の広さや形状、計測対象領域内の障害物の配置等に応じて、当業者が適宜決定できる設計事項にすぎないものである。
さらに、測量作業者が通路を歩行で移動しながら3D点群データを取得する際に、標定ターゲットからどれくらい離れた位置を移動するかについても、それによって測量精度に特段の影響があると認めるに足りる証拠は示されていないから、当業者が適宜決定できる設計事項にすぎない。
h したがって、引用発明に周知技術1を適用して適宜設計変更することにより、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(イ) 相違点2の判断
前記相違点2について検討する。
測量作業者が通路を歩行で移動しながら3D点群データを取得する際に、モバイル3Dスキャナの向きや姿勢が一定でなければ、モバイル3Dスキャナにぶれが生じて正確な測定がしにくくなることは明らかであるから、特段の事情がないかぎり、モバイル3Dスキャナの向きや姿勢をできるだけ一定にしようとすることは、当業者であれば当然考慮すべきことである。そして、引用発明において、モバイル3Dスキャナの向きや姿勢を変更すべき事情があるとは認められないから、測量作業者が通路を測量開始位置から歩行で移動しながら3D点群データを取得する際に、モバイル3Dスキャナの向きや姿勢が一定になるようにして、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
(ウ) 相違点3の判断
前記相違点3について検討する。
測量作業者が通路を歩行で移動しながら3D点群データを取得する際に、例えばジグザグ状に移動するなどして直線状に移動しなければ、測量作業者の変則的な移動に由来するモバイル3Dスキャナのぶれや、予期せぬ方向への移動に対するモバイル3Dスキャナの応答遅れ等が生じて正確な測定がしにくくなることは明らかであるから、できるだけ直線状に移動しようとすることは、当業者であれば当然考慮すべきことである。そうすると、引用発明において、測量作業者が3D点群データを取得する際の通路における移動を直線状にすることは、通路や計測対象領域の形状などに応じて、当業者が適宜なし得ることにすぎない。
また、引用発明において、測量作業者が通路を移動して3D点群データを取得する際の移動形態(1歩進むごとに3秒間止まることを繰り返すことによって断続的に移動するかどうか)については、それによって測量精度に特段の影響があると認めるに足りる証拠は示されていないから、当業者が適宜決定できる設計事項にすぎない。
したがって、引用発明を適宜設計変更することにより、相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(エ) 相違点4の判断
前記相違点4について検討する。
モバイル3Dスキャナを用いる測量作業者の移動距離が長くなれば、誤差が累積して測量に必要な精度が得られなくなることは、当業者にとって自明の事項であるから、移動距離に一定の上限を設けるのは当然のことであり、移動距離を60m以下とすることは、モバイル3Dスキャナの性能等に応じて、当業者が適宜決定し得る程度の事項にすぎない。
したがって、引用発明を適宜設計変更することにより、相違点4に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得たことである。
(オ) 総合評価
前記相違点1~4を総合的に勘案しても、本願発明の奏する効果としては、引用発明及び周知技術1から当業者が予測困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
よって、本願発明は、引用発明及び周知技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3) 請求人の主張について
ア 意見書における主張内容
請求人は、意見書において、概略次の主張をしている。
本願発明は、「前記測量作業者は、1歩進むごとに3秒間止まることを繰り返すことによって前記通路を直線状に且つ断続的に移動して前記3D点群データを取得する」との発明特定事項を有しており、これら本願発明の発明特定事項は、本願明細書の段落【0024】-【0026】などに記載されているように、測量範囲の確保と得られる3D点群データの精度とを両立させるとの観点から実験によって求められたものであって、モバイル3Dスキャナを利用して3D点群データを取得する際に「(モバイル3Dスキャナを保持した)測量作業者が1歩進むごとに3秒間止まることを繰り返すこと」は従来技術にはない新規な技術思想であるから、単なる設計事項ではない。
イ 請求人の主張についての検討
請求人の前記アの主張について検討する。
前記(2)ウ(ウ)において説示したとおり、引用発明において、測量作業者が通路を移動して3D点群データを取得する際の移動形態(1歩進むごとに3秒間止まることを繰り返すことによって断続的に移動するかどうか)については、それによって測量精度に特段の影響があると認めるに足りる証拠は示されていないから、当業者が適宜決定できる設計事項にすぎない。
したがって、請求人の前記アの主張は採用することができない。
(4) 小括
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
第5 むすび
以上検討のとおり、本願は、特許請求の範囲の請求項1の記載が、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載が、同条4項1号に規定する要件を満たしていない。
また、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-006140