商標拒絶査定不服審判
2023-002164
- 審判番号
- 2023-002164
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 商願2020-027238
- 請求日
- 2023年02月08日
- 審決日
- 2025年04月14日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】楽天モバイル株式会社
- 【請求人代理人】奥山 尚一
- 【請求人代理人】小川 護晃
- 【請求人代理人】高橋 菜穂恵
- 審判長/審判官
- 審判長 大島 康浩
- 審判官 小林 裕子
- 審判官 大塚 正俊
- 分類
- T18 .16 -Z (W38)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 商標法3条1項6号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第3条第1項第6号、特許法第150条第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
商願2020-27238拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年3月12日の登録出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年2月25日付け:拒絶理由通知書
令和3年7月12日:意見書、手続補正書の提出
令和4年8月19日:手続補正書の提出
令和4年11月1日付け:拒絶査定
令和5年2月8日:審判請求書の提出
令和5年4月17日 手続補正書の提出
令和6年7月10日付け:証拠調べ通知書
令和6年8月21日:意見書の提出
令和6年9月30日:上申書の提出
第2 本願商標
本願商標は、別掲1のとおり、ピンク色(RGBの組合せ:R255、G0、B140)の色彩のみからなる商標であって、第9類、第35類、第37類、第38類及び第42類に属する願書記載のとおりの役務を指定役務として登録出願され、その後、本願の指定役務については、上記1の手続補正書により、最終的に、第38類「移動体電話による通信を利用したメッセージ・音声・音楽・映像・画像・文書・データ・文字情報の通信,移動体電話による通信を利用した通信ネットワークへの接続の提供,SIMカードの貸与」に補正されたものである。
第3 原査定の拒絶の理由(要点)
原査定は、「本願の指定役務を取り扱う業界において、本願商標のようなピンク色と同系色の色彩が、役務の提供の用に供する物又は役務の広告の装飾等として使用されている実情があり、本願商標をその役務の提供の用に供する物や広告に使用しても、これに接する取引者、需要者は、役務の提供の用に供する物又は役務の広告に通常使用される又は使用され得る色彩を表したものと認識するにとどまり、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができないものと認める。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第6号に該当する。また、出願人が提出した証拠からは、本願商標が使用をされた結果、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができるに至っているものと認めることはできない。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。
第4 当審における証拠調べ通知
当審において、本願商標が商標法第3条第1項第6号に該当するか否かについて、職権に基づく証拠調べをした結果、別掲2(2)に示すとおりの事実を発見したので、同法第56条第1項で準用する特許法第150条第5項の規定に基づき、その結果を請求人に対し、令和6年7月10日付け証拠調べ通知書をもって通知し、期間を指定してこれに対する意見を求めた。
第5 職権証拠調べ通知に対する請求人の意見
請求人は、前記第4の通知に対して、令和6年8月21日付けで提出された意見書及び同年9月30日付けで提出された上申書において、要旨以下のとおり意見を述べた。
1 証拠調べ通知書に提示されている本願商標と同一又は類似の色彩が使用されている証拠は、色彩の組み合わせやグラデーションの一部として使用されていることから、本願商標は容易に区別可能であり、非類似の色彩として、本願商標を拒絶する根拠として適切ではない。
2 仮想移動体通信事業者(MVNO)と移動体通信事業者(MVO)は、移動体電話による通信という点では共通するが、請求人を含むMVOは通信設備、無線基地局やアンテナといった無線区間の設備を自社で保有しているのに対し、MVNOは、これらの設備をMVOから借用(領域借用)して需要者へ提供しており、その事業形態を異にするものであり、両者にはサービス提供料金の大きな差異があることをもって、需要者は、これらを明確に区別できるから、本願指定役務に関して需要者が識別しなければならないのは、MVOの他の3社であって、MVNOではない。
3 近年、ブランディングの方法として、コーポレートカラーを規定する企業が増加し、取引者・需要者において色彩が出所を識別するための標識として重要な要素であることが認識されてきており、実際に機能していることは、色彩商標について登録されている事実によっても証明されており、長年にわたって、商品やサービスについて特定の色彩を使用し、需要者の間に広く認識されている場合にまで、当該色彩の登録を拒絶することは、事実上、ただ乗り行為を助長し、色彩商標の使用者の信用を傷つけ、商標法の根本を揺るがすことになりかねない、また、請求人の役務の業界は、請求人を含めた4社のみで構成されていることを考慮すれば、色彩の枯渇が問題となることもなく、色彩商標について極端に厳しい基準で登録を拒絶すべき理由はない。
4 請求人が提供するサービス契約者数は、サービス開始以来継続的に増加しており、2024年6月16日には700万回線を突破し、請求人が継続的に広告宣伝活動を行っていることの証左であり、当該事実は、本願商標にかかる色彩に接する需要者・取引者が増加しているということに他ならない。
5 本願商標にかかる色彩は、請求人がその役務の提供にあたって使用することにより、需要者の間で広く認識され、請求人を指称する識別標識として機能していることは明らかである。
第6 当審の判断
1 商標法第3条第1項第6号該当性について
(1)商標法第3条第1項第6号の趣旨
商標法は、「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」ものであるところ(同法第1条)、商標の本質は、自己の業務に係る商品又は役務と識別するための標識として機能することにあり、この自他商品又は役務の識別標識としての機能から、出所表示機能、品質保証機能及び広告宣伝機能等が生じるものである。同法第3条第1項第6号が、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」を商標登録の要件を欠くと規定するのは、同項第1号ないし第5号に例示されるような、識別力のない商標は、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、自他商品・役務の識別力を欠くために、商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解される(平成21年(行ケ)第10270号参照)。
(2)本願商標について
本願商標は、前記第2のとおりピンク色(RGBの組合せ:R255、G0、B140)の色彩のみからなる商標であり、第38類「移動体電話による通信を利用したメッセージ・音声・音楽・映像・画像・文書・データ・文字情報の通信,移動体電話による通信を利用した通信ネットワークへの接続の提供,SIMカードの貸与」を指定役務とするものである。
(3)取引の実情について
役務の広告の装飾等や提供の用に供する物に使用される色彩は、多くの場合、役務の魅力向上等のために採択されるものであって、その取扱いに係る商品の色彩として、一般に広く使用されているものであるから、例えば、文字や図形等と組み合わせるなど、具体的な形態を伴う場合はともかく、そのような形態を伴わない場合には、これに接する者は、通常、その色彩について、役務の出所を表示するものとして又は自他役務を識別するための標識として認識することはないとみるのが相当である。
(4)本願商標の商標法第3条第1項第6号該当性について
本願商標は、上記(2)のとおり、ピンク色の色彩のみからなるところ、役務の広告の装飾等や提供の用に供する物に使用される色彩は、一般的に、役務の魅力向上等に資する装飾等と認識されるものであることを考慮すると、本願商標のピンク色(以下「本願ピンク色」という。)は、役務の魅力向上等に資する目的で使用される色彩の一類型であると判断するのが相当である。
また、原審において示された事実(別掲2(1))及び当審における職権による調査(別掲2(2))によれば、本願の指定役務である「移動体電話による通信を利用したメッセージ・音声・音楽・映像・画像・文書・データ・文字情報の通信,移動体電話による通信を利用した通信ネットワークへの接続の提供,SIMカードの貸与」の分野において、本願ピンク色と似たピンク色系統の色彩が広告宣伝に資するウェブサイト等に使用されていることからすると、本願ピンク色が、その色彩自体に他の同種色彩とは異なる顕著な特徴があるとはいえないことも相まって、本願商標は、本願の指定役務を取り扱う分野において、格別特殊な色彩とはいえず、誰もがその使用を欲する色彩であるとみるべきである。
そうすると、本願商標をその指定役務について使用しても、これに接する需要者は、その役務の広告の装飾等や提供の用に供する物に通常使用される色彩又は使用され得る色彩を表したものと認識するにとどまり、役務の出所識別標識としては認識しないというのが相当である。
したがって、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標というべきであるから、本願商標は、商標法第3条第1項第6号に該当する。
2 本願ピンク色の使用による識別力の獲得について
請求人は、本願ピンク色が単に、役務の広告の装飾等や提供の用に供する物に使用され、それらの魅力向上等のために選択されたものではなく、寡占状態にある移動体電話通信業界においては、各社がコーポレートカラーを採択し、積極的に使用していることから、本願ピンク色は本願指定役務との関係においても使用による識別力を獲得している旨主張し、証拠方法として、原審において甲第1号証ないし甲第32号証(枝番号を含む。)を、また、当審において甲第33号証ないし甲第86号証(枝番号を含む。)を提出している。
(1)これらの証拠及び請求人の主張によれば、以下の事実が認められる。
ア 請求人の業務内容及び本願指定役務に関する分野について
請求人(楽天モバイル株式会社)は、楽天グループ株式会社の100%子会社である(甲4)。
楽天グループ株式会社(当時は楽天株式会社)は、2014年10月に携帯電話サービスに本格参入し、「楽天モバイル」の名称で仮想移動体通信事業者(MVNO)サービスにより、格安通話サービスの提供を開始していた(甲5)。他方、移動体通信事業(MVO)を営むためには、国から周波数の割り当てを受けることが必要であり、そのハードルが非常に高いことから、事業者は限定され、それまで株式会社NTTドコモ、KDDI株式会社及びソフトバンク株式会社の3社のみにより行われていたが、2018年4月に、楽天グループ株式会社が請求人を通じ、移動体通信事業(携帯キャリア事業、MVO)に参入することが認められ(甲9)、2019年10月より、請求人が、移動体通信事業者としてサービスの提供を開始した。
イ 本願商標の使用態様及び使用期間
請求人は、遅くとも2020年7月頃から現在に至るまで、本願商標の色彩を移動体電話による通信等の役務(以下「本願役務」という場合がある。)の提供やその広告宣伝の際に使用している(甲14~16、甲19~23、甲40~56)。しかしながら、提出される証拠によれば、広告宣伝において、本願ピンク色は、「楽天」、「Rakuten」又は「Rakuten Mobile」の文字とともに使用されているものが大半を占める。
ウ 本願商標のピンク色の色彩が使用された役務の提供状況
請求人の店舗数は、2021年4月時点において612店舗だったが、約1年後である2022年3月8日に、全国で1000店舗を突破し、その分布は、全都道府県にわたる(甲24、甲45)。そして、請求人が提供するサービス契約者数は、2023年8月28日に携帯キャリアサービスの契約数が500万回線を突破して以降、2024年4月8日には650万回線、同年6月16日に700万回線を突破し、約10カ月で40%の増加率となった(甲85)。また、請求人の提供に係るデータ無制限で使える回線エリアは、2022年3月現在で、人口カバー率97%超とされている(甲29)。
エ 使用役務の広告宣伝
(ア)テレビCM
請求人は、本願役務の提供を開始して以来、継続的にテレビCMを全国的に行っている(甲18、甲40)。2021年8月から2023年1月までの18カ月間の全国のテレビCMの回数の推移については、1カ月の平均CM回数は、8825回である(甲40の1)。また、CMの手法として、背景全面に本願ピンク色を用い、出演女優の衣装も全身マゼンタピンク色を使用した構成となっている(甲16)。しかしながら、これらのテレビCMにおいては、CM中に、数度にわたり、本願ピンク色とともに「楽天」、「Rakuten」又は「Rakuten Mobile」の文字が配信されている。
(イ)バナー広告
請求人は、バナー広告も行っており、その掲載先は、月間利用者数が8500万人の「Yahoo!JAPAN」や、9400万人の「LINE」も含まれており、ここ2年間(2022年7月2日~2023年2月24日)の広告掲載ウェブサイトの一例を提出している(甲41)。しかしながら、これらのバナー広告の際において、本願ピンク色は、「楽天」、「Rakuten」又は「Rakuten Mobile」等の文字とともに使用されている。
(ウ)新聞広告
請求人は、全国紙を含む各社新聞記事における一面において、本願商標を用いた広告を実施し、2021年2月から2022年3月の期間で、合計で約4000万部に掲載し、新聞広告を行った(甲42)。しかしながら、これらの新聞広告の際において、本願ピンク色は、「楽天」、「Rakuten」又は「Rakuten Mobile」の文字とともに使用されている。
(エ)店頭広告
請求人は、請求人店舗の外観の看板及び内装に、本願ピンク色を使用している(甲43)。また、請求人は、上記の店舗以外に、2021年6月から郵便局に期間限定の店舗を設け、その店舗数は、2022年2月10日には、全国で285か所に及んだところ、当該店舗も本願商標にかかる色彩を用いて店頭広告がなされた(甲46)。しかしながら、これらの店頭広告及び郵便局等での店舗広告の際において、本願ピンク色は、「楽天」、「Rakuten」又は「Rakuten Mobile」の文字とともに使用されている。
(オ)街頭広告
請求人は、2022年以降、東京都内のみならず全国的に駅前の看板、デジタルサイネージ、バスの車内、駅の構内などでの広告や、ポスティング広告、地域限定のフリーペーパーへの広告掲載も行った(甲50)。例えば、名古屋駅でのデジタルサイネージは1週間で50~200万円の費用が発生するところ(甲51)、宣伝効果としては、名古屋駅の1日あたりの平均乗降客数は、新幹線も含めて約111万人であると主張している(甲52)。しかしながら、これらの広告において、本願ピンク色は、「楽天」、「Rakuten」又は「Rakuten Mobile」の文字とともに使用されている。
(カ)契約イベント
請求人は、2021年ないし2023年に、ショッピングモールや空港のエスカレーター横や吹抜の隣、中庭等のスペースを利用し、キャラバンカーや特設ブースを用いて、携帯の契約や乗り換えを促す契約イベントを行い、当該イベントにおいても本願商標にかかる色彩を使用した(甲54)。しかしながら、これらの契約イベントにおける宣伝において、本願ピンク色は、「楽天」、「Rakuten」又は「Rakuten Mobile」の文字とともに使用されている。
(キ)公式ブログ
請求人は、2020年以降、請求人公式ブログにおいて、本願商標にかかるマゼンタピンク色が使用された写真を使用している(甲55)。しかしながら、これらの公式ブログのウェブサイトにおいても、本願ピンク色が、「Rakuten Mobile」の文字とともに使用されている。
(ク)イベント開催
請求人は、2023年及び2024年に「楽天エコシステム(経済圏)」の概念とサービスへの理解促進を図るとともに、多くの需要者に新たな発見のきっかけとなる場を提供することを目的としたRakuten Optimismという楽天グループ最大級の体験イベントを開催し、2024年は6万6千人が来場した(甲80)。そして、当該イベントが開催された会場において、本願ピンク色を使用することで、広告されているサービスと色彩とが密接に結びついて記憶される態様で使用したとされる(甲81)。また、2024年8月1日に行われたプロ野球の試合で、請求人の役務を紹介する広告が掲示され、本願ピンク色の色彩が大画面に映し出され、当該試合には、4万648人の観衆が訪れ、試合の様子はBS・CSやビデオ・オン・デマンド・サービスで放映されたとされる(甲82、甲83)。しかしながら、これらのイベントにおける広告宣伝において、本願ピンク色は、「楽天」、「Rakuten」又は「Rakuten Mobile」の文字とともに使用されている。
オ アンケート調査の結果
請求人は、本願ピンク色が、請求人の役務の出所識別標識として認識されているかどうかを明らかにするために、2023年1月25日から2023年1月30日の期間で実施したアンケート調査の結果を提出している(甲60)。当該アンケートの調査エリアは全国であり、対象者は15歳ないし65歳の男女10,822人である。6問からなる質問中、質問1及び質問2は性別、年齢に関するものであり、質問3が写真を提示した上で、既存の携帯電話会社のイメージカラーであることを説明した上で、「あなたはこの色を見たことがありますか。」に対して「はい」又は「いいえ」で答えさせ、質問4として「あなたは、この色をイメージカラーとして使用している携帯電話会社をご存じですか。」に対して、その会社名を回答させるというものである。加えて、質問6-1として、MVOの4社のイメージカラーを提示した上で、「あなたがご存じの楽天モバイルのイメージカラーを一つだけお選びください」、質問6-2としてMVNO4社に請求人を加えた5社のイメージカラーを提示した上で、同質問がなされた。そして、質問7は、請求人のイメージカラーを提示した上で、「あなたは、この画像の色彩を何色だと思いますか。」、質問8は、MVO3社のイメージカラーを提示した上で、同質問がなされた。
本願商標を見て想起する企業を問う質問4で、「楽天」または「楽天モバイル」と回答した数は947名中733名で、77.4%であった。他方、株式会社NTTドコモは、933名中789名(84.6%)、KDDI株式会社は、1031名中962名(93.3%)という集計結果となった。
カ 請求人以外の者による指定役務における色彩の使用状況等
原審において示された事実(別掲2(1))及び当審における職権による調査(別掲2(2))によれば、本願の指定役務である「移動体電話による通信を利用したメッセージ・音声・音楽・映像・画像・文書・データ・文字情報の通信,移動体電話による通信を利用した通信ネットワークへの接続の提供,SIMカードの貸与」の分野において、本願ピンク色と似たピンク色系統の色彩が、広告宣伝に資するカタログやウェブサイト等に使用されている事実を確認できる。
(2)判断
以上認定した事実を総合すれば、当合議体は、単一の色彩のみからなる本願商標が、使用により自他役務識別力を獲得したものとは認められないと判断する。その理由は、以下に述べるとおりである。
ア 本願商標の指定役務の需要者について
本願の指定役務である「移動体電話による通信を利用したメッセージ・音声・音楽・映像・画像・文書・データ・文字情報の通信,移動体電話による通信を利用した通信ネットワークへの接続の提供,SIMカードの貸与」の分野において、取引者自体は、移動体通信事業を営むためには、国から周波数の割り当てを受けることが必要であり、そのハードルが非常に高いことから、事業者は限定されていること、請求人が本願役務の市場に参入する前は、株式会社NTTドコモ、KDDI株式会社及びソフトバンク株式会社の3社のみが行っており、三大キャリアと呼ばれ、同3社の寡占状態が13年継続していたということ等、市場の特殊性は認められるところ、需要者に関しては、携帯電話を利用する広く一般の需要者層であると認められる。
なお、請求人は、MVOとMVNOの事業形態が異なること、両者にはサービス提供料金の大きな差異があることをもって、需要者は、これらを明確に区別することは可能であり、本願指定役務に関して、需要者が識別しなければならないのは、MVOの他の3社であって、MVNOではない旨を述べている旨を主張している。
しかしながら、一般の需要者がMVOとMVNOの事業形態が異なることを必ずしも理解しているとはいい難いものであるため、本願商標が、指定役務における分野において、役務の出所識別標識として認識しうるか否かは、一般の需要者の認識をもとに判断すべきである。
イ 請求人による本願商標の使用態様、使用商品の販売実績及び広告宣伝
請求人は、2019年9月6日に、本願ピンク色をコーポレートカラーとして採用したことを公表して以降、当該色彩を、マスコミュニケーション媒体やウェブサイト、バナー広告、ソーシャルメディア、契約イベント、街頭広告、大規模イベントなどに使用していること、移動体電話通信業界は、全契約者数のおよそ9割を請求人を含む3大キャリア及び請求人が各々のコーポレートカラーを用いているということがうかがえる。
しかしながら、マスコミュニケーション媒体やウェブサイト、バナー広告、ソーシャルメディア、契約イベント、街頭広告、大規模イベントにおける本願ピンク色の使用にあたっては、請求人を表す「楽天」、「Rakuten」又は「Rakuten Mobile」の文字と同時に使用されている例が大半であることに加え、上記1のとおり、色彩のみで識別されるのが本願指定役務に係る分野における取引実情とはいい難いことも併せて考慮すれば、請求人の業務に係る役務に接する取引者、需要者は、役務を識別する上で重要な「役務を提供する者の名称」として、顕著に表された「楽天」、「Rakuten」又は「Rakuten Mobile」の文字に着目するといえるものであり、請求人役務で使用されているピンク色の色彩のみが当該文字等と分離して観察され、需要者に強く印象付けられるとはいえず、文字等を伴わないピンク色のみをもって自他役務識別力を獲得したものと認めることはできない。
また、請求人が役務の提供に当たり用いたとされる、直営店及び代理店のディスプレイ(甲43)、郵便局に設置した申込み等カウンター(甲46)、交通広告や街頭広告(甲50の3、甲53)、契約イベント(甲54の2~15)等の写真を確認しても同様に、本願ピンク色が請求人を表す「楽天」や「Rakuten」等の文字が同時に使用されていることから、これらの資料から本願ピンク色が使用により識別力を獲得していると認めることはできない。
ウ 請求人以外の者による指定商品における色彩の使用状況等
原審において示された事実(別掲2(1))及び当審における職権による調査(別掲2(2))のとおり、本願の指定役務の分野において、請求人以外の者により本願ピンク色と似た色彩が広告宣伝に資するカタログやウェブサイト等に使用されている実情があることからすると、請求人が指定役務についてピンク色の色彩を独占的に使用していたものと認めることはできない。
エ アンケートの調査結果について
請求人は、本願ピンク色が、請求人の役務の出所識別標識として認識されているかどうかを明らかにするために、アンケート調査を実施しているが、移動体通信事業者(MVO)の提供する事業が請求人を含む4社のみしかないという実情にもかかわらず、また、質問3において、既存の携帯電話会社のイメージカラーであることを説明した上で、3枚の色彩画像を順に提示し、「あなたはこの色を見たことがありますか。」と質問し、その上で質問4として「あなたは、この色をイメージカラーとして使用している携帯電話会社をご存じですか。」と質問しているにもかかわらず、本願商標を見て請求人を想起した者が77.4%という結果は、決して高い数字とはいい難く、また、同業他社である株式会社NTTドコモは、933名中789名(84.6%)、KDDI株式会社は、1031名中962名(93.3%)であり、当該2社に比して低い集計結果からしても、当該アンケート調査の結果をもって、これらの事業者が色彩のみで区別、認識されていると判断することはできない。
オ 小括
以上のことからすると、請求人は、遅くとも2020年7月頃から現在に至るまで、本願商標の色彩を移動体電話による通信等の役務の提供やその広告宣伝の際に使用しているといえるものの、宣伝広告の期間及び規模等は明確ではなく、その使用の態様に照らすと、本願ピンク色が、需要者において独立した出所識別標識として認識されているとまではいえない。また、広告等において、本願ピンク色は、「楽天」、「Rakuten」又は「Rakuten Mobile」の文字とともに使用されており、請求人役務に接する需要者は、役務を識別する上で重要な「役務の提供者の名称」として、「楽天」、「Rakuten」又は「Rakuten Mobile」の文字に着目するといえるから、役務を識別し選択する際に、本願ピンク色が果たす役割は決して大きいものとはいえないこと、及び、アンケート調査において、本願商標を見て請求人を想起した割合が決して高くないことを総合すれば、本願指定役務の分野における取引者、需要者は、本願ピンク色のみによって、役務の出所の識別を行っているということはできず、他に、本願ピンク色のみが独立して、請求人の業務に係る役務を表すものとして、本願指定役務の分野における取引者、需要者に広く認識されているというべき事情も見当たらない。
加えて、色彩が元々自由に使用できるものである以上、色彩の自由な使用を阻害するような単一の色彩の商品表示としての保護は、公益的見地からみて容易に認容できるものではなく、単一の色彩が出所表示機能(自他識別機能)を取得したといえるかどうかを判断するに当たっては、その色彩を商標として保護することが、色彩使用の自由を阻害することにならないかどうかの点も含めて慎重に検討されなければならないと判示されているところである(平成7年(ネ)第1518号、平成9年3月27日大阪高裁判決参照)。
そうすると、単一の色彩からなる商標の保護については、公益的見地からの慎重な検討が必要であるところ、本願の指定役務を取り扱う業界においては、別掲2のとおり、本願ピンク色と似たピンク色を使用する請求人以外の者が存在している実情からすると、当該分野における誰もがその使用を欲する色彩であるとみるべきであって、単一のピンク色のみからなる本願商標については自由な色彩の使用を妨げることのないように慎重に検討すべきであり、その観点からも本願商標は、役務の出所を表示するものとして又は自他役務を識別するための標識として認識されることはないと判断するのが相当である。
以上を総合的に判断すると、本願商標は、使用された結果、請求人の業務に係る役務の出所を表示するものとして、又は自他役務の識別標識として認識されるに至っているということはできない。
3 請求人の主張について
請求人は、審査便覧54.06の記載に基づけば、提出した商標の使用の証拠が、他の文字とともに色彩が使用されている場合であっても、以下の証拠が提出された場合には、直ちに商標の全体的な構成が同一ではないことを理由として、使用による識別力の獲得の主張を退けるのではなく、提出された証拠から、使用に係る色彩部分のみが独立して、自他商品又は役務を識別するための出所表示としての機能を有するに至っていると認められるか否かについて判断すべきであり、移動体電話通信業界は、その全契約者数の約9割が3大キャリアで占められている寡占状態にあるという特殊な業界であることが考慮されるべきであると主張している。
しかしながら、当該便覧においても、「当該業界における色彩の使用状況(多種多様な色彩が一般的に使用される商品・役務であるか否か、等)等の事実を考慮する。」と記載されているところ、本願指定役務の分野において、多種多様な色彩が使用されているものであって、別掲2のとおり、実際に3大キャリア以外の事業者が役務の提供の用に供する物や役務の広告の装飾等にピンク色を使用している状況を考慮すると、ピンク色は当該分野における誰もがその使用を欲する色彩であるとみるべきである。そして、請求人による本願ピンク色の使用状況を踏まえれば、請求人を含む3大キャリアのシェアが9割であるとしても、本願ピンク色が請求人の業務に係る役務の出所識別標識としての機能を果たしているということはできない。
したがって、請求人の上記主張は、採用することができない。
4 まとめ
以上のとおり、本願商標は、商標法第3条第1項第6号に該当するから、これを登録することはできない。
よって、結論のとおり審決する。
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