特許拒絶査定不服審判
2023-001741
フィルム巻回体およびカートン
- 審判番号
- 2023-001741
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-162985
- 請求日
- 2023年02月01日
- 審決日
- 2025年01月30日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】信越ポリマー株式会社
- 【請求人代理人】三好 秀和
- 審判長/審判官
- 審判長 田口 傑
- 審判官 藤井 眞吾
- 審判官 稲葉 大紀
- 分類
- P18 .537-WZ (B65D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-162985号「フィルム巻回体およびカートン」拒絶査定不服審判事件〔令和2年3月5日出願公開、特開2020-33080号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年8月31日の出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和4年 6月10日付け:拒絶理由通知書
令和4年 8月10日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年11月 4日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(令和4年11月 8日 :原査定の謄本の送達)
令和5年 2月 1日 :審判請求書の提出
令和5年 2月10日 :手続補正書(方式)の提出
令和6年10月22日付け:拒絶理由通知書
令和6年12月17日 :意見書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~11に係る発明は、それぞれ令和4年8月10日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1~11に記載されたものであるところ、請求項1の記載は次のとおりである。
【請求項1】
塩化ビニル製のラップフィルムを巻回してなるフィルム巻回体であって、 前記フィルム巻回体から引き出した前記ラップフィルムは、ラップフィルム厚の最大値と最小値との差が1.65μm未満であり、におい識別装置の基準モードで測定した炭化水素系の臭気寄与を示す数値が2.71以下であることを特徴とするフィルム巻回体。
第3 当審拒絶理由の概要
令和6年10月22日付けで、当審において通知した拒絶理由の概要は、次のとおりのものである。
1 拒絶理由1(サポート要件)
請求項1~11に係る発明(以下「本願発明」という。)が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。
したがって、請求項1~11に記載された発明が発明の詳細な説明に記載されたものではないため、この出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
2 拒絶理由2(明確性)
この出願は、請求項1~11に記載された発明が次の点で明確ではないため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
請求項1における「におい識別装置の基準モードで測定した炭化水素系の臭気寄与を示す数値」の記載において、「におい識別装置」がいかなる装置であるのか、また、「基準モード」は「におい識別装置」が通常有するものなのかが不明である。
また、請求項1における「臭気寄与を示す数値」の記載について、当該数値がどのようなものであって、単位が何であって、どのような技術的意義を有するのかが不明である(請求項中に示された数値自体はどのような意味を有しているのか。)。
第4 当審の判断
以下に示すとおり、令和6年12月17日提出の意見書の内容を考慮しても、上記第3の2に記載した拒絶理由2(明確性)が解消していないと判断する。
ここで、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲だけでなく、願書に添付した明細書の記載又は図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
以下、この観点に立って、本願発明が明確であるか否かについて検討する。
1 請求人が提出した参考資料等について
参考資料等には以下の記載がある。なお下線及び枠線は当審において付した。
(1)喜多純一、“半導体によるにおい識別センサ”、応用物理、公益社団法人応用物理学会、2014年、第83巻、第1号、48~51ページ(令和6年12月17日提出の意見書における参考文献1。以下「参考文献1」という。)
ア 「1.まえがき」(48ページ)
「
[図:0001420686000001.jpg]
[図:0001420686000002.jpg]
・・・」
「
[図:0001420686000003.jpg]
」
イ 「2.におい識別装置としての工夫」(48~49ページ)
「
[図:0001420686000004.jpg]
[図:0001420686000005.jpg]
」
「
[図:0001420686000006.jpg]
[図:0001420686000007.jpg]
」
ウ 「3.解析方法の工夫と測定例」(49~50ページ)
「
[図:0001420686000008.jpg]
[図:0001420686000009.jpg]
[図:0001420686000010.jpg]
[図:0001420686000011.jpg]
・・・」
「
[図:0001420686000012.jpg]
[図:0001420686000013.jpg]
」
(2)喜多純一、“〔講座〕におい分析におけるにおい識別装置の位置づけと食品評価への応用例”、日本調理科学会誌、一般社団法人日本調理科学会、2015年、Vol.48、No.5、35~41ページ(令和6年12月17日提出の意見書における参考文献2。以下「参考文献2」という。)
ア 「2.におい識別装置のしくみ」(35~36ページ)
「
[図:0001420686000014.jpg]
・・・
[図:0001420686000015.jpg]
」
「
[図:0001420686000016.jpg]
[図:0001420686000017.jpg]
[図:0001420686000018.jpg]
」
イ 「4.におい識別装置で用いている単位」(37ページ)
「
[図:0001420686000019.jpg]
・・・
」
ウ 「5.解析方法とそのアプリケーション」(37~38ページ)
「
[図:0001420686000020.jpg]
[図:0001420686000021.jpg]
・・・
[図:0001420686000022.jpg]
・・・
[図:0001420686000023.jpg]
・・・
」
「
[図:0001420686000024.jpg]
[図:0001420686000025.jpg]
」
(3)特開2024-48229号公報(令和6年12月17日提出の意見書において参照している文献。以下「参考文献3」という。)
「【0107】
<臭気寄与、類似度、25℃における貯蔵弾性率、再測された25℃における貯蔵弾性率の測定条件について>
臭気寄与、類似度、25℃における貯蔵弾性率、再測された25℃における貯蔵弾性率の測定条件は、以下に示す機器や測定条件により測定を行った。
【0108】
(臭気寄与、類似度について)
臭気寄与、類似度の測定には、島津製作所製のにおい識別装置「FF-2020Sシステム」を使用した。測定条件は基準モードとし、香気収集の条件はサンプルバッグ容量が2L、サンプル量が各5g、収集時保管温度を25℃、収集時保管時間を3時間とした。
また、測定に用いた基準ガスは以下の通りである。
・硫化水素:硫化水素
・硫黄系:ジメチルジスルフィド
・アンモニア:アンモニア
・アミン系:トリメチルアミン
・有機酸系:プロピオン酸
・アルデヒド系:ブチルアルデヒド
・エステル系:酢酸ブチル
・芳香族系:トルエン
・炭化水素系:ヘプタン」
(4)参考文献1~3から理解できる事項
参考文献1~3の記載から、本願明細書の実施例及び比較例で用いられているにおい識別装置(FF-2020 Sシステム。島津製作所製)で用いられているパラメータやサンプリングについて以下のことが理解できる。
ア 「臭気寄与」
参考文献1の記載(上記1(1)ウ)、参考文献2の記載(上記1(2)ウ)によると、「臭気寄与」は、サンプルの臭気を9種の基準ガスベクトル方向に分解したときの寄与濃度から寄与している臭気濃度を求め、その臭気濃度を臭気指数に変換したものである。
イ 「臭気指数」
参考文献2の記載(上記1(2)イ)によると、「臭気指数」とは、においを無臭空気で希釈して、無臭になるまでの希釈倍率が臭気濃度と呼ばれ、その臭気濃度の対数を取り10倍したものである。
ウ においのサンプリング
参考文献2の記載(上記(2)ア)によると、測定対象とするにおいのサンプリングは、PET製のサンプルバッグを用いて行われ、気体のサンプルについては、バッグに収集するハンディーなポンプ等を用いたり、間接捕集キットを用いてバッグに集めて測定され、固体のサンプルについては、バッグを少し切り、そこから固体のサンプルを挿入し、切り口をフロン系テープで塞ぐか熱シールを行い、無臭の窒素もしくは空気を入れて、一定時間後に別のバッグにヘッドスペースガスのみ移し替えて測定が行われる。
2 請求項1の「におい識別装置の基準モードで測定した炭化水素系の臭気寄与を示す数値」について
「臭気寄与」は、上記1(4)アに示したとおり、サンプルの臭気を9種の基準ガスベクトル方向に分解したときの寄与濃度から寄与している臭気濃度を求め、その臭気濃度を臭気指数に変換したものを意味し、また、上記「臭気指数」は、上記1(4)イに示したとおり、においを無臭空気で希釈して、無臭になるまでの希釈倍率が臭気濃度と呼ばれ、その臭気濃度の対数を取り10倍したものが臭気指数を意味する。
そうすると、請求項1に記載された「におい識別装置の基準モードで測定した炭化水素系の臭気寄与を示す数値」は、におい識別装置の基準モードで測定した場合に、サンプルの臭気を9種の基準ガスベクトル方向に分解したときの、炭化水素系の臭気濃度を臭気指数に変換したものであると解される。すなわち、「におい識別装置の基準モード」により、サンプルとなるガスを測定することで数値化可能なものであると解することができる。
3 サンプリングについて
においのサンプリングについては、上記1(4)ウに示したとおりであり、請求項1においてはその方法が定められてはいない。
ここで、サンプルが固体であれば、サンプルバッグ容量、サンプル量、収集時保管温度、収集時保管時間によって、測定される臭気濃度が変わり、これら条件が臭気濃度に大きく影響することは自明である。
また、サンプルが気体であっても同様に、どのような条件で捕集されるかなどにより、測定される臭気濃度が変わり、これら条件が臭気濃度に大きく影響することは自明である。
この点、においのサンプリングに関して、例えば、参考文献3の記載(上記1(3)の【0108】)によると、固体のサンプルのサンプリング条件として、サンプルバッグ容量、サンプル量、収集時保管温度、収集時保管時間を定める必要があることが理解できる。
また、サンプリングの条件によらず「におい識別装置の基準モードで測定した炭化水素系の臭気寄与を示す数値」が変わらないという技術常識もない。
4 判断
上記1~3のとおりであるから、本願発明における「におい識別装置の基準モードで測定した炭化水素系の臭気寄与を示す数値」はサンプルが得られれば一応測定可能ではあるものの、においのサンプリングについては、上記3で示したとおり、サンプリング条件が臭気濃度に大きく影響するところ、本願発明では、「前記フィルム巻回体から引き出した前記ラップフィルム」から、「におい識別装置の基準モード」で測定するサンプルを得る条件が特定されておらず、また、その本願明細書にもそのような条件は記載されていない。
そうすると、本願発明における「におい識別装置の基準モードで測定した炭化水素系の臭気寄与を示す数値」は、同じ「ラップフィルム」について測定したとしても、何をサンプルとするか(固体と気体のいずれとするか)も含めて、サンプリング条件により変化するものであって、一意に定まるものではないため、当該数値がどのような技術的意味を有するのか不明であり、本願出願時の技術常識を参酌すると発明特定事項(サンプリング条件)が不足していることは明らかである。
そして、本願発明における発明特定事項としてサンプリング条件が特定されていなければ、製造されたラップフィルムが本願発明であるか否かを第三者が理解することができないため、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるといえる。
したがって、本願発明は明確ではない。
第5 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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