商標異議申立
2022-900511
ハキハナ、ハチハナ
- 審判番号
- 2022-900511
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 商願2022-085811
- 登録番号
- 6622434
- 請求日
- 2022年12月06日
- 審決日
- 2023年09月01日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】株式会社IBSTrading
- 【権利者代理人】石原 幸典
- 【異議申立人】ハキハナ・ソチエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ
- 【異議申立人代理人】山尾 憲人
- 【異議申立人代理人】勝見 元博
- 審判長/審判官
- 審判長 矢澤 一幸
- 審判官 小田 昌子
- 審判官 阿曾 裕樹
- 分類
- T1651.22 -Z (W18) / T1651.222-Z (W18)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 商標法4条1項7号商標法4条1項19号商標法43条の3第2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第4条第1項第7号、商標法第4条第1項第19号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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登録第6622434号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。
結論
結 論
登録第6622434号商標の商標登録を取り消す。
理由
理 由
1 本件商標
本件登録第6622434号商標(以下「本件商標」という。)は、「Haqihana」の文字を標準文字で表してなり、令和4年7月25日に登録出願、同年9月21日に登録査定され、第18類「愛玩動物用引きひも,愛玩動物用のハーネス」を指定商品として、同月30日に設定登録されたものである。
2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が登録異議の申立ての理由において引用する商標は、申立人が商品「犬用引きひも、犬用のハーネス」について使用し、イタリア及び欧州において広く認識されるに至っていると主張する「Haqihana」の文字からなる標章及び別掲のとおりの構成からなる標章(これらをまとめて「引用商標」という。)である。
3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同項第19号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであると申立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証から甲第16号証(枝番号あり。以下「甲○」と表記する。)を提出した。
(1)本件商標について
本件商標は、「Haqihana」の欧文字を標準文字で書してなるものであって、第18類「愛玩動物用引きひも,愛玩動物用のハーネス」を指定するものである(甲1)。
(2)引用商標について
引用商標は、申立人が2003年に独自に採択し、同社のハウスマーク(代表的出所標識)として、イタリア、欧州を中心として世界各国において長年にわたり使用してきたものである。
申立人は、主に、犬用のハーネスやリーシュコード(引きひも)を扱う業者である。
甲2は、申立人の発行しているリーフレットの写しである。
甲3は、申立人のウェブサイトのプリントアウトである。「OUR STORES」のページにあるように、我が国を含む全世界において、直営店、代理店、ペットショップを合わせて300を超える店舗を通じて製品が販売されており、そのうち230以上がイタリア国内に所在する。
甲4は、申立人代表者(CEO)であるAによる宣誓書であり、過去5年間(2019年から2023年に至るまで)の売上高を供述するものである。
同宣誓書によれば、申立人の販売対象国は、我が国を含めて49カ国に及び、全世界及び日本における2019年から2022年の各年売上高を日本円(1ユーロ=145円)に換算すると、およそ全世界ベースで合計約4億5千万円、日本で約4千7百万円である。
申立人は、「HAQIHANA」なる商標について、欧州連合知的財産庁(EUIPO)にて、商標登録を所有しており、同商標は、2012年10月31日に出願され、2013年5月10日に登録されている(甲5の1、2)。
申立人の製造販売する犬用のハーネス、リーシュコードは、本国イタリア、欧州を中心に人気を博しており、高い名声を獲得している。
甲6の1から8は、主に日本国外向けに発信されたドッグトレーナーや愛犬家のブログ、申立人の商品のレビュー、ランキングを記したウェブサイト、フェイスブックのアカウントページである。
甲6の7は、2022年度の犬用ハーネスのランキングサイトであり、22あるブランドの中から、2位を獲得している。
甲6の8及び9は、それぞれフェイスブックのアカウントのページであって、前者は、300人ものメンバーからなる申立人商品を愛用する愛犬家による公開グループのアカウントを示し、後者は、台湾における申立人商品を愛用する愛犬家の個人アカウントで、千人を超えるフォロワーを獲得していることを示している。
甲7の1及び2は、イタリアで発行されている新聞の記事であり、引用商標「Haqihana」について言及されている。
その名声は我が国にも広がりつつあり、多くの関連需要者、取引者の間で話題になっている。
甲8の1から4は、申立人の商品について言及した我が国におけるインターネットブログ、記事である。
甲8の1は、獣医師の視点から申立人の商品を紹介、推薦するものであり、SNSでの掲載例や、インターネット上のロコミなどを紹介している。8頁目には「世界27カ国で愛用されています。」と題して、欧州だけでなく、米国、中国、ロシア、韓国などの世界各国の需要者に愛用されていることが紹介されている。
甲8の2は、愛犬家のブログであり、申立人の商品の長所、短所を紹介するものである。「今まで沢山の種類のハーネスを使ってきましたが、ハキハナが今までの中で一番いいなぁと思っています。」と高く評価されている。
甲8の3は、愛犬家によって購読されているフレンチブルドッグの専門雑誌「BUHI」2022年夏号(株式会社オークラ出版発行)に、申立人の商品が掲載されたことを紹介するものである。
甲8の4は、獣医師監修の犬用ハーネスのおすすめ人気ランキングを紹介したウェブサイトを示し、申立人の犬用ハーネスが、小型犬用の部門で1位を獲得している。
以上のように、申立人の商品が世界で人気を博し、愛犬家、獣医、ドッグトレーナーによって推奨されている評価の高い商品であることが分かる。引用商標は、申立人によって独自に採択され、長年にわたって使用された結果、その名声を高めてきたものであり、申立人が、引用商標の真の所有者であることは、疑いない事実である。
よって、引用商標は、遅くとも本件商標の登録出願日には、イタリア、欧州を中心として、関連する需要者及び取引者、特に愛犬家やドッグトレーナーの間で高い名声を獲得し、少なくともイタリア及び欧州において広く認識されるに至っており、その周知著名性は相当程度のものである。そして、その周知著名性は、現在に至るまで維持されている。
(3)申立人と本件商標権者との関係
本件商標権者は、「Alice’s Dog&Cat」なる屋号で、インターネットや小売店舗を通じて、ペット関連商品を輸入、販売する業者である。
申立人は、本件商標権者との間で、2018年より販売基本取引契約を締結し、本件商標権者を、日本におけるディストリビューターとして、申立人製品を販売してきた。
甲9は、申立人と本件商標権者との間で締結された契約書の写しである。
甲10の1から3は、申立人から本件商標権者に対して発行されたインボイスの写しである。
甲11は、本件商標権者の運営するウェブサイトのプリントアウトである。
甲9、甲10に示すように、本件商標権者は、申立人と直接の取引関係にあり、2018年から申立人製品を申立人から継続的に輸入してきた。また、本件商標権者は、申立人製品を、甲11に示すウェブサイトを通じて、我が国において販売してきた。これらのことは、甲3の申立人ウェブサイトに、申立人製品が申立人の日本におけるディストリビューターとして掲載されていることからも明らかである。
甲12は、本件商標権者の代理人弁護士から、2022年10月27日付けで、申立人製品の我が国における別の販売業者であるC社に対して送付された通告書の写しである。
甲12の通告書において、本件商標権者は、本件商標に係る登録が設定されるや否や、C社に対して、同社による申立人製品の販売が商標権侵害であることを警告し、同社ウェブサイトにおける本件商標の使用の中止を求めるとともに、同社「ウェブサイトを通じて販売された本件商標権侵害品全ての販売数量及び販売単価」の開示に加え、金150万円の支払いを求めたものである。
なお、上記のとおり、本件商標権者は、C社による申立人製品の販売数量及び販売単価について不知にもかかわらず、150万円の損害賠償額の根拠として、「本日までに販売した本件商標権侵害品全ての販売数量に乗じたものが300万円を下らず、また、貴社が販売する本件商標権侵害品の利益率が50%を下らないと判断しています」と述べている。甲10の通告書の文脈から、本件商標権者は、C社に対して、申立人製品を販売していた時期があり、それが2021年7月1日付けの請求書の3個の商品であって、遅くとも2022年1月までに販売済みであると述べている。これが正しいと仮定すれば、半年間で3個という売り上げペースにもかかわらず、発送時点で、登録設定日からたった1か月弱の期間に300万円もの売上高が達成できているとは考え難く、また、50%の利益率は、驚異的な数字であって、これを下らないとする根拠にも乏しい。仮に、上記本件商標権者の主張が、仮に設定登録日以前の売上高も対象としているならば、商標法について知識の乏しい相手方に対してより強い圧力をかけるために、本件商標の設定登録日前の使用行為に基づく法律上根拠のない損害賠償額を、さぞや正当な根拠のある金額であるかのように誇張して主張している可能性も否めない。かかる警告行為は、申立人製品の我が国における販売が違法であるとの事実を別の販売業者に流言するものであって、かつ、同販売業者による警告受領後の販売行為を合理的な根拠なしに萎縮させ得るものであって、商標権者としての地位を利用した不正かつ違法な競争行為というべきである。
なお、申立人が、本件商標権者に、これまで「Haqihana」の標章について我が国において独占的な使用を許諾した事実も、商標登録出願を行うことを認めた事実も存在しない。
甲13は、2022年11月12日付けで、申立人のCEOであるAが、本件商標権者の代表者Bに送付した電子メールとそれに添付されたレターの写しとその翻訳である。
甲13のレターは、甲12の通告書を受けて、本件商標の登録を認識したAが、Bに宛てたものである。申立人の事前の承諾なしに本件商標を登録し、かつ別の販売業者に侵害警告を発して申立人商品の市場流通の独占を図ろうとする行為は、申立人との信頼関係を破壊するのに十分な行為であった。そこで、申立人は、本件商標権者との取引を中止することを通告した上で、申立人の引用商標の使用中止を求めるとともに、取引関係の再開の条件として、本件商標の申立人に対する有償の譲渡等を打診したものである。
甲14は、甲13のレターを受けて、2022年11月22日付けで、Bが、Aに対して返信した電子メールとそれに添付されたレターとその英訳の写しである。
甲14にあるように、本件商標権者は、全く自らの非を認めることなく、申立人の日本市場進出への自身の貢献を根拠に、自らの本件商標の登録出願の正当性を一方的に主張しつつ、申立人側の要求を「そもそも前提を誤るものであって、当社としては、到底受け入れることができないものです。」と述べ、本件商標の譲渡を拒絶している。
甲15は、甲14のレターを受けて、2022年11月23日付けで、Aが、Bに送付した電子メールとそれに添付されたレターの写しとその翻訳であり、申立人が、甲14に示すBの応答を受けて、甲13で通告した取引関係の終了を再度確認したものである。
甲16は、甲15のレターを受けて、2022年12月1日付けで、Bが、Aに宛てた電子メールとその翻訳である。
甲16によれば、本件商標権者は、申立人製品の注文をキャンセルする一方で、本来、使用を中止する理由はない旨述べ、本件商標権者との取引関係の終了により、「ハキハナが日本市場に出なくなるのは残念」と、申立人製品が、本件商標権者の承諾なくして今後日本市場に流通しないことを示唆している。これは、本件商標権者が、申立人に対して、不当に得た本件商標を濫用して、真の所有者である申立人の商品を我が国市場から排除する意思があることを明示するものである。
以上のように、甲12に示すように、本件商標権者は、自身以外の我が国における申立人製品の販路を断つべく、別の販売業者に対して本件商標の登録直後に侵害警告を送付している。また、甲13に示すように、申立人は、本件商標権者に対して、本件商標の譲渡を求めているものの、甲14、甲16に示すように、自らの正当性を合理的な根拠なしに主張して、これを拒絶し、それどころか、独占排他権たる商標権を行使して、申立人を我が国市場から排除する意思を示している。
すなわち、本件商標権者は、申立人製品の我が国における販路の独占を実現するために、本件商標の独占排他権を得ることを企図して、申立人の事前の承諾を得ることなく、本件商標を出願し、登録を得たものであることは明らかである。
(4)商標法第4条第1項第7号及び同項第19号該当性について
上記のとおり、遅くとも本件商標の登録出願日には、引用商標は、イタリア、欧州を中心として、関連する需要者及び取引者、特に愛犬家やドッグトレーナーの間で高い名声を獲得し、少なくともイタリア及び欧州において広く認識されるに至っており、その周知著名性は相当程度のものである。そして、その周知著名性は、現在に至るまで維持されている。
「Haqihana」の標章が特定の意味を持たない造語であることからして、これと実質的に同一の本件商標の本件商標権者による同標章の採択、商標登録出願は、偶然の一致によるものとは到底いえない。
上記のとおり、本件商標権者は、申立人と取引関係にあったことから、本件商標の登録出願時点において、「Haqihana」の標章の存在を知っていたことは疑いようのない事実である。
そして、自身以外の我が国における申立人製品の販売業者に対して、侵害警告を行うとともに、申立人による本件商標の譲渡の打診に、本件商標権者が一切応じないことからして、本件商標権者は、我が国において同標章が登録されていないことを奇貨として、自らが同標章に関する独占的な地位を得るべく、不正の目的をもって、引用商標と同一又は類似する本件商標を、第18類「愛玩動物用引きひも,愛玩動物用のハーネス」を指定して、登録出願しようとしたものというべきである。
以上のことから、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
また、仮に、引用商標が、国内外において相当程度の周知著名性を備えていることが明らかではないとしても、引用商標を申立人が採択使用していたことを知りながら、本件商標の登録出願を申立人の事前の承諾なしに行ったことは、申立人との信頼関係を破壊、失墜させる行為であって、本件商標権者による、その登録出願の経緯は、信義誠実の原則に反し、社会的相当性を欠くものである。かかる出願は、公正な取引秩序を乱すおそれがあり、本件商標権者に本件商標の独占使用を認めることは、取引秩序の維持という商標法の目的に反する。
以上から、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
4 当審における取消理由の通知
当審において、本件商標権者に対し、本件商標は商標法第4条第1項第7号の規定に違反して登録されたものであるから、同法第43条の3第2項の規定に基づいて、その登録を取り消すべき旨の取消理由を、令和4年7月3日付けの取消理由通知書で通知し、相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えた。
5 上記通知に対する本件商標権者の意見
本件商標権者は、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号の規定に違反してされたものではないと主張し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証から乙第6号証(枝番号あり。以下「乙○」と表記する。)を提出した。
(1)取引開始当時における申立人の説明について
乙1の1及び乙1の2は、申立人の幹部と本件商標権者との間で、2018年に交わされたメールである。
乙1の1及び乙1の2に示すように、申立人は2018年の取引開始当時、日本において本件商標権者の他に販売代理店が存在していないこと、本件商標権者の他に販売代理店を探す意向がないこと、を本件商標権者に対して明確に説明している。
これは、実質的に日本における独占代理店と同等であることを意味するものであり、本件商標権者は当然に、日本において「Haqihana」ブランドの知名度を高めて販路を開拓する上で独占代理店と同等の使命、責任を負ったと認識し、また、日本において同ブランドの信用を維持するとともに、同ブランドが第三者によって毀損、ただ乗りされないよう最善の努力を尽くす義務を負ったと認識し、事業に着手した。
しかしながら、2018年の取引開始当時の申立人による説明は、事実と異なるものであった。
乙2の1は、申立人のウェブサイト、乙2の2は申立人の声明文、乙2の3及び4は申立人の声明文に記載の輸入代理店であるD社のウェブサイトである。
D社は、「Sabine’s Dog Vacation」との名称でペット用品の輸入販売等を行う企業である。
上述のとおり、申立人は2018年の取引開始当時、日本において本件商標権者の他に販売代理店が存在していないこと、また、本件商標権者の他に販売代理店を探す意向がないことを明確に説明していたにもかかわらず、乙2の4には「2017/8 イタリアHAQIHANA s.r.l社の正規輸入代理店契約-日本第1号店」との記載がある。
これは、2018年の取引開始当時の申立人の説明に反するものである。
そして、申立人は、2021年6月28日付けのメール(乙3)において、2018年の取引開始当時の説明が事実と異なるものであったことを自ら認めている。
このことから、2018年の取引開始当時の上述の説明は、営業活動に要するコストとそれによるリターンが独占代理店と同等であると誤信させ、ひいては、本件商標権者に独占代理店の地位に見合う重要な働きをさせる目的があったと理解せざるをえない。
(2)需要者に広がる混乱、不利益について
本件商標権者は、「Haqihana」とうたう商品を手にした需要者から受けるクレームを通じて、需要者に混乱、不利益が広がっていることを把握した。
乙4の1は、本件商標権者が需要者から受けたクレームの管理表である。
乙4の2及び3は、管理表のクレームに関するやりとりである。
乙4の1から3に示すように、本件商標権者のもとには、「Haqihana」とうたう商品を楽天市場で購入した需要者から、本件商標権者が販売していないにもかかわらず、正規品かどうか問い合わせるクレームが寄せられる状況が深刻化していた。
そこで、本件商標権者は申立人に対して、「Haqihana」とうたう商品を楽天市場で販売しているC社へ申立人が同商品を卸しているのかについて、2022年6月7日付けのメール(乙4の4)で問い合わせたところ、2022年6月17日付けのメール(乙4の5)のとおり、申立人がC社へ下ろしている事実はないとのことであった。
そのため、本件商標権者は、真正品であるかが定かでない商品によって需要者に混乱、不利益が広がっていること、また、そのような商品によって自己の、また、「Haqihana」ブランドの信用が低下することの懸念が日々高まっていた。
(3)C社に対する通知書送付について
申立人は、本件商標権者によるC社に対する通知書の送付について、商標権者としての地位を利用した不正かつ違法な競争行為というべきであると主張している。
しかしながら、上述したとおり需要者に広がる混乱、不利益が日々深刻化する状況を鑑みれば、また、2022年6月17日付けのメール(乙4の6)において、日本における「Haqihana」商品の流通状況につき何ら管理、監督する意思がないことを示している以上、粗悪品、模倣品等によって需要者の利益が害されている可能性を考慮してやむを得ず商標権を行使することは、商標法が予定する権利行使の概念から何ら逸脱するものではない。
なお、上述のクレームが本件商標権者に寄せられたことからみて、我が国では、「Haqihana」といえば本件商標権者のものであるという理解が一般的であったといえるし、このことは、申立人が我が国でのクレームの存在にもかかわらず、これに対応する意思も能力も有していないかったことからみても明らかである。
(4)申立人の怠慢について
申立人は標章「Haqihana」をハウスマークとして20年前(2003年)に独自に採択し、日本を含む全世界において300を超える店舗を通じて製品を販売していた。
本件商標権者は2018年当時、申立人との間で甲9のとおり販売代理店契約を締結したが、当該販売代理店契約はおろかその他の一切の契約においても、申立人が日本において標章「Haqihana」を適切に商標登録することにつき何らの保証がなかった(乙5)。
そして、申立人は、日本を含む全世界において300を超える店舗を通じて製品を販売しているにもかかわらず、標章「Haqihana」を採択してから20年もの期間にわたり商品供給元として当然に行うべき商標登録を怠っていた。
なお、本件商標登録がなされた後の2022年11月になってから申立人が複数国を指定した国際登録出願(乙6)を慌てて行った事実は、日本を含む全世界において300を超える店舗を通じて製品を販売しているにもかかわらず、標章「Haqihana」を採択してからの20年もの期間にわたり商品供給元として当然に行うべき商標登録を世界的に怠っていたことの証左である。
(5)商標法第4条第1項第7号について
申立人が自ら商標登録する機会は20年もの期間にわたって十分にあり、むしろ販売代理店契約の締結に際しては商品供給元として商標登録を行うのが当然の責務であるから、自ら商標登録を行わなかった責めを本件商標権者に求めるのは失当である。
その上で、商品供給元でありながら商標登録を長年怠って販売代理店に商標紛争リスクを負わせ、万一の際の紛争対応責任の所在も明確にせず、販売代理店による商標登録を制限する契約もない中、需要者に広がる混乱、不利益の深刻化や、真正品であるかが定かでない商品の氾濫によって、自己の、又は「Haqihana」ブランドの信用の低下のおそれが高まっていた実情に鑑みれば、商標の使用をする者として、需要者の利益及び自己の正当な事業活動を通して獲得してきた社会的信用を守るために商標登録することは、私的自治の原則、商標法の立法趣旨、立法意義に何ら反するものではない。
また、商標法第4条第1項第7号は、同項の総括規定ではないから、あくまでも商標法の立法趣旨、立法意義に沿って行われた商標登録に対して、私的な領域にいたずらに踏み込んで公序良俗違反と断じることは、行政統一の観点からも許されるものではなく、ともすれば法の秩序を乱すものである。
そして、当事者間の個々のやりとりについても、当然ながらそこに至るまでの長年にわたる経緯、背景が存在するから、仮に当事者間のやりとりを参酌する場合、より一層の慎重かつ高度な客観性をもって参酌しなければ、合議体による判断はおろか、その前提である事実認定において重大な誤りを招来する。
6 当審の判断
(1)本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性
ア 申立人と本件商標権者の関係及び本件商標の登録出願の経緯について
申立人及び本件商標権者の主張及び提出証拠によれば、以下のとおりである。
(ア)申立人は、犬用のハーネスやリーシュコードを扱うイタリア法人であり、2003年に引用商標を採択し、ハウスマークとして、イタリア及び欧州を中心として使用してきた。
(イ)申立人と本件商標権者は、2018年8月29日付けで「日本」を対象地域とする「海外販売契約書」に署名し、契約締結をしている(甲9、乙5)。
(ウ)本件商標権者は、「Alice’s Dog&Cat」のウェブサイトにおいて、引用商標を表示しつつ、イタリア製の犬のハーネス&リーシュの販売サイトを提供している(甲11)。
(エ)本件商標権者は、2018年10月22日付けのメールにより、日本における他の販売代理店の有無及び本件商標権者を総代理店にできるかについて質問したところ、申立人の従業員から、他に代理店はないことなどの回答を得た(乙1の1、2)。
なお、総代理店に関する質問についての直接の回答は確認できないが、本件商標権者を独占販売代理店にすることは、申立人の世界的な商業方針に反していると本件商標権者に常に説明されているとされる(甲13)。
(オ)本件商標権者は、2021年6月28日付けのメールにより、申立人とD社との契約内容について質問したところ、申立人の従業員から、同社は日本における最初の正規代理店である旨の回答を得た(乙3)。
なお、D社のウェブサイトには、2017年8月に申立人の正規輸入代理店契約をした日本第1号店である旨の記載がある(乙2の4)。
(カ)本件商標権者は、2022年6月7日付けのメールにより、申立人はC社に商品を卸しているか質問したところ、申立人の従業員から、C社を知らないこと、また、申立人の取引先による再販先などを確認するつもりはない旨の回答を得た(乙4の4~6)。
(キ)本件商標権者は、本件商標を、第18類「愛玩動物用引きひも,愛玩動物用のハーネス」を指定商品として、令和4年(2022年)7月25日付けで登録出願し、同年9月30日付けで設定登録された。
(ク)本件商標権者は、令和4年(2022年)10月27日付けの通知書により、「Haqihana」の商標を付した商品を販売する事業者C社に対して、本件商標の商標権を侵害するものとして、商標権侵害商品の販売中止及び金150万円の支払いを求めた(甲12)。
(ケ)申立人は、上記(キ)及び(ク)の事実を認識した後、本件商標権者に対し、2022年11月12日付けのレターにより、本件商標の登録を許可していないこと、本件商標権者が日本での独占販売代理店になることは申立人の商業方針に反していること、本件商標権者との商業関係を直ちに停止することを通知し、加えて、商業関係を再生する条件として、本件商標を名目上の費用をもって申立人に譲渡すること、本件商標権者による申立人商品の日本の販売代理店に対する申立てを取り下げることを求めた(甲13)。
(コ)本件商標権者は、申立人に対し、2022年11月22日付けのレターにより、本件商標の取得は、申立人から独占販売権を得ることを目的とするものではなく、本件商標権者のビジネスを守ることを目的としていること、本件商標権者は申立人に代わって日本で多大な広告宣伝費を投じたもので、申立人の商品が広まったのは本件商標権者の貢献によること、申立人の要求は前提を誤るもので到底受け入れられないことを伝えた(甲14)。
(サ)申立人は、本件商標権者に対し、2022年11月23日付けのレターにより、申立人と本件商標権者の商業関係は完全に終了し、本件商標権者からの注文を今後は受け付けないことを通知し、商業活動において申立人又はそのブランドへの言及を使用しないことを求めた(甲15)。
(シ)本件商標権者は、申立人に対し、申立人商品の注文をキャンセルすること、「ハキハナが日本市場に出なくなるのは残念」である旨を伝えた(甲16)。
イ 検討
以上によれば、本件商標権者は、引用商標を商品「犬のハーネス及びリーシュ」に使用する申立人との間で我が国における販売契約及び取引関係がある状況下において、本件商標権者以外にも代理店があることや日本における申立人商品の販売を独占できないこと(独占販売代理店になれないこと)に不満を持ち、本件商標権者が申立人に代わって支出した広告宣伝費などに裏付けられたビジネスを守るとの名目で、本件商標(引用商標と構成文字を共通にする。)をその指定商品「愛玩動物用引きひも,愛玩動物用のハーネス」(引用商標の使用に係る商品と一致する。)について登録出願及び設定登録をしたものである。
その後、本件商標権者は、本件商標に係る商標権に基づき、引用商標を付した商品を販売する第三者に対して、当該商品の販売停止及び金銭的な対価を求めており、申立人及びその商品の販売事業者の我が国における事業活動が阻害されている。
また、そのような事態を受けた本件商標権者と申立人の間における本件商標の譲渡交渉は成立せず、結局は両者の取引関係は終了されるに至ったもので、その後も、本件商標権者は申立人の商品が日本市場では流通しなくなることを示唆しているから、今後も申立人商品に係る日本での事業活動は、本件商標により阻害される可能性が極めて高い。
そうすると、本件商標権者は、申立人との間に契約関係及び取引関係がある状況下において、申立人が引用商標を我が国において商標登録していないことを奇貨として、申立人及びその関係者(販売代理店及び再販事業者などを含む。)の我が国における事業活動を阻害し、我が国における引用商標に係る商品販売及びそれより生じる利益を独占するという不正の利益を得る目的で、本件商標を登録出願したものといわざるを得ない。
そのため、このような出願目的及び経緯に鑑みれば、本件商標権者による本件商標の登録出願は、適正な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠く行為であり、これに基づいて本件商標権者を権利者とする本件商標の登録を認めることは、公正な取引秩序の維持の観点からみても妥当ではない。
ウ 本件商標権者の主張について
本件商標権者は、申立人は商品供給元でありながら商標登録を長年怠って販売代理店に商標紛争リスクを負わせ、万一の際の紛争対応責任の所在も明確にせず、販売代理店による商標登録を制限する契約もない中、需要者に広がる混乱、不利益の深刻化や、真正品であるかが定かでない商品の氾濫によって、自己の、又は「Haqihana」ブランドの信用の低下のおそれが高まっていた実情に鑑みれば、商標の使用をする者として、需要者の利益及び自己の正当な事業活動を通して獲得してきた社会的信用を守るために商標登録することは、私的自治の原則、商標法の立法趣旨、立法意義に何ら反するものではない旨を主張する。
しかしながら、上記イのとおり、本件商標権者は、販売代理店の1つとして、申立人と契約関係及び取引関係がある状況下において、本件商標権者以外にも代理店があることや日本における申立人商品の販売を独占できないこと(独占販売代理店になれないこと)に不満を持ち、本件商標の登録出願及び設定登録をしたもので、登録後間もなく、本件商標に係る商標権に基づき、引用商標を付した商品を販売する第三者に対して、当該商品の販売停止及び金銭的な対価を求めており、申立人及びその商品の販売事業者の我が国における事業活動が阻害されている。
このような状況を踏まえると、仮に本件商標の登録出願に自己のビジネスを守るなどの名目があるとしても、本件商標権者は、申立人及びその関係者(販売代理店及び再販事業者などを含む。)の我が国における事業活動を阻害し、我が国における引用商標に係る商品販売及びそれより生じる利益を独占するという不正の利益を得る目的で、本件商標を登録出願したものといわざるを得ない。
また、申立人による我が国での事業展開は、上記ア(オ)のとおり、2017年8月以降のことであり、引用商標に係る商標登録出願を長年怠っているものとまでは断言し難く、申立人が引用商標を本件商標の登録出願前までに登録出願していなかったことが、本件商標権者による本件商標の登録出願に係る不正の利益を得る目的及び経緯を正当化するものでもない。
エ 小括
したがって、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標であるから、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(2)本件商標の商標法第4条第1項第19号該当性
ア 引用商標の著名性について
申立人の主張及び提出証拠によれば、「犬用のハーネスやリーシュコード」を扱うイタリア法人である申立人は、2003年に引用商標をハウスマークとして採択(甲2)、イタリアを中心に、直営店、代理店、ペットショップなどの店舗を通じて製品を販売(甲3)しているが、その販売額は全世界ベース(イタリア、欧州を含む。)で約9千万円(2019年)、約9千5百万円(2020年)、約1億2千5百万円(2021年)、約1億2千7百万円(2022年)程度(申立人の主張)にすぎないから、販売実績は必ずしも多いとは評価し難い。
また、申立人商品の日本市場における売上高も、2019年はゼロ、それ以降も約1千3百万円(2020年)、約2千2百万円(2021年)、約9百万円(2022年)程度(申立人の主張)にすぎないから、我が国における販売実績も短く、多いとはいえない。
そうすると、申立人提出の証拠によっては、引用商標は、日本国内又は外国(イタリア、欧州)における需要者の間において広く認識されている商標とは認められない。
イ 以上のとおり、引用商標は、日本国内又は外国(イタリア、欧州)における需要者の間において広く認識されている商標ではないから、本件商標と引用商標は構成文字を共通にする同一又は類似の商標であるとしても、また、上記(1)のとおり、不正の利益を得る目的で使用をするものであるとしても、本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当しない。
(3)まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号の規定に違反してされたものであるから、同項第19号の規定に違反しないとしても、同法第43条の3第2項の規定により、取り消すべきである。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-900511