商標無効審判
2022-890089
ナノソリューションエイジイプラス、ナノソリューションエイジイ、ナノソリューション
- 審判番号
- 2022-890089
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 商願2020-158181
- 登録番号
- 6402375
- 請求日
- 2022年11月24日
- 審決日
- 2024年01月11日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ナノソリューション 株式会社
- 【請求人代理人】本田 史樹
- 【被請求人】テックメディカルnano 株式会社
- 審判長/審判官
- 審判長 高野 和行
- 審判官 豊瀬 京太郎
- 審判官 板谷 玲子
- 分類
- T111 .22 -Y (W0137) / T111 .271-Y (W0137) / T111 .272-Y (W0137)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 商標法4条1項7号商標法4条1項15号商標法4条1項16号商標法46条1項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第4条第1項第7号、商標法第4条第1項第16号、商標法第4条第1項第15号、商標法第4条第1項第19号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の登録第6402375号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 本件商標
本件登録第6402375号商標(以下「本件商標」という。)は、「ナノソリューションAg+」の文字及び記号を標準文字で表してなり、令和2年12月9日に登録出願、第1類「化学品」及び第37類「建設工事」を指定商品及び指定役務として、同3年4月19日に登録査定がされ、同年6月15日に設定登録されたものである。
第2 引用商標
請求人が、本件商標の登録の無効の理由において引用する商標(以下「請求人商標」という。)は、「ナノソリューションAg+」(末尾の「+」の記号は、「Ag」の右肩部に小さく表されている。以下、請求人商標について同じ。)の文字及び記号からなるものである。
第3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第23号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第15号及び同項第16号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。
2 商標法第4条第1項第16号について
(1)本件商標について
本件商標の構成中、「ナノ」は単位の「nano」を表し10億分の1を意味し、「ソリューション」は英文字の「solution」を表し「溶液、溶体、液体」を表し、「Ag」は「銀」を表し、「+」は英文字の「plus」を表し「1.プラス(アルファ)の、さらにその上の、2.《電気》正の、陽(性)の、3.~以上の、~強の」という意味や「1.プラス、プラス記号、正数、2.付け加えること[もの]、付加物、追加物、3.さらに良いこと[もの]」という意味を有する。
(2)品質誤認について
本件商標は「ナノソリューションAg+」であり、「Ag+」は銀イオンを表し、少なくとも「Ag」は「銀」を表している。
しかしながら、その指定商品は第1類「化学品」、指定役務は第37類「建設工事」であり、銀又は銀イオンが使用されていない化学品・建設工事に使用された場合、銀又は銀イオンが使用されているものとして、取引者・需要者は商品の品質又は役務の質を誤認して購入等するおそれがあり、品質・質の誤認が生じる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当する。
(3)被請求人の商標登録異議申立てでの主張及びその異議の決定に関して
ア 被請求人は、商標登録異議申立て(異議2021-900264)(以下「本件に係る異議申立て」という。)における上申書で、ほかの多数において、指定商品に銀イオンの限定がない状態での商標登録が認められている旨、登録後の業務上の信用が化体した商標に対して、指定商品に銀イオンが含まれていないことを理由に無効を認めてしまうと、後に第三者が銀イオンを含む指定商品とした同一の商標出願を行うことで、当該第三者は何の苦労もなく業務上の信用が化体した貴重な商標を奪取することができることになり、明らかに不合理である旨を主張している(甲4)が、仮に無効になった登録商標に業務上の信用が化体しているのであれば、他の拒絶理由に該当するため権利化することはできないし、そもそも他に登録が認められているか否かは、品質誤認に該当しないことの根拠にはならない。
イ 本件に係る異議申立ての異議決定(以下「本件決定」という。)では、商品の品質及び役務の質等を具体的に表示するものとして直ちに認識されるとはいい難い旨判断しているが、本件商標に係る指定商品は、第1類「化学品」等であり、また、実際に本件商標を使用している商品は、光触媒コーティングであり、抗菌等を行うものであるため(甲3)、抗菌作用を有するAg又はAgイオンが含まれているか否かは、商品の関係上重要な要素である。
本件商標に係る、酸化チタンを含む光触媒だけでなく銀イオンも混在させて、光が弱い又は光がない状態であっても除菌・殺菌等することができる商品(以下「本件商品」という。)でいえば、従来の光触媒では光が必要であったが、銀イオンが含まれることにより暗闇の中でも効果を発揮することができるため、商品名に「Ag」が表示されている(甲7の2~4)。
そのため、商品の品質や役務の質等を具体的に表示するものであり、品質誤認が生じることは明白である。
3 商標法第4条第1項第7号について
(1)本件商標は、後述する経緯のとおり、請求人が被請求人に卸していた商品名「ナノソリューションAg+(末尾の「+」の記号は、「Ag」の右肩部に小さく表されている。以下、これをいうときは「ナノソリューションAg(+)」と表記する。)」(以下「請求人商標」ともいう。)と同一又は類似する商標であり、請求人は、本件商標に関して被請求人よりも密接な関係を有する者であり、その経緯から被請求人の行為は社会の一般道徳観念に反する行為であり、公正な取引秩序を害する行為である。
そして、後述するとおり、被請求人は、請求人と本件商標に関して共同出願する旨を合意しておきながら、請求人の許諾を得ることなく勝手に被請求人単独で出願したものであり、被請求人の行為は、著しく社会的妥当性を欠く行為であり、ひょう窃的行為である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(2)本件に係る異議申立てでの被請求人の主張及び本件決定に関して
ア 本件決定で挙げた判決に係る事案は、商標法第4条第1項第19号が検討されるべき事案であって、また、本件のようにひょう窃的行為に該当するものではなく、本件にそのまま当てはめることはできない。
イ 本件決定では「・・・申立人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして、・・・需要者の間に広く認識されていたものとは認めることができないから、本件商標は、これをその指定商品及び指定役務に使用することが、申立人商標の周知性による信用及び顧客吸引力に便乗するものということはできないし、ひょう窃的な行為ということはできない。」と判断しているが、ひょう窃的行為に該当するか否かは、請求人商標(申立人商標)の周知性による信用及び顧客吸引力に便乗に限られるものではない。
請求人の登録商標「ナノディフェンダー」及び「ナノディフェンダーAg+」(末尾の「+」の記号は、「Ag」の右肩部に小さく表されている。以下同じ。)があり(甲6、甲7)、「ナノディフェンダー」に係る商品は、請求人が、被請求人とは関係なく開発した商品であり、新型コロナウイルスにも効力がある実証実験のエビデンスも取得している商品である(甲7の2~4)。
「ナノソリューションAg(+)」は、請求人が被請求人に卸していたという事実はあるが、「ナノディフェンダー」に関してはそのような事実はなく、被請求人には一切関係のない商品である。それにも関わらず、被請求人は、標章「ナノディフェンダー」を請求人が商標登録出願していない第2類、第37類、第40類でひょう窃的に商標登録出願及び登録を行っている(甲8)。
また、被請求人の加盟店のA社は「ナノディフェンダーAg+」という商品を有していないにも関わらず、それを用いて施工しているかのような広告をラジオで行っており、請求人の商標権を侵害している(甲9)。
さらに、被請求人の加盟店であるB社は、Webサイトにおいて、請求人の商標権侵害を行っている(甲9の2)。
加えて、被請求人は、本件商標を使用せずに、請求人商標を使用している(甲3)。
このような経緯からして、被請求人は、さも請求人の商品を使用しているように装っており、本件商標においても被請求人がひょう窃的に本件商標を登録したことは明白である。
このような行為は、社会の一般道徳観念に反する行為であり、また、公正な取引秩序を害する行為であり、本件商標は第4条第1項第7号の公序良俗違反に該当するものである。
ウ 本件決定では「申立人は、・・・申立人商標について、自ら速やかに登録出願し、商標権の権利を取得する機会は十分にあったにも関わらず、出願を怠っていたといわざるを得ない・・・」等と判断している。
しかしながら、本件商標の出願日は法人設立から半年も経過しておらず、請求人は過去に商標登録出願等を行ったことがなく、また、日々の業務が忙しい中、すぐに商標登録出願しなければという意識にはなかなかならないのが一般的であると思われる。
また、そのような状況の中、請求人の代表取締役であるM(以下「M氏」という。)は、被請求人の代表取締役社長であるT(以下「T氏」という。)から商標登録出願をすると聞いて共同出願になるとして安心していたところ、T氏の行動によりM氏が被請求人の代表取締役専務からの退任を余儀なくされ、かつ、T氏(被請求人)に剰窃的に単独出願をされたという状況である。
そのため、上記本件決定の判断は妥当ではない。
エ 本件決定では「・・・このような申請人と商標権者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから・・・」と判断している。
しかしながら、本件決定で挙げた判決は、「商標法の制度趣旨や同法第4条第1項第19号の趣旨から離れて第4条第1項第7号を私的領域まで拡大解釈する」ということが適切でないというものであって、すべての商標権の帰属等をめぐる問題が同号の対象とならないというものではないし、本事件は、この判例に当てはまるものではなく、この射程範囲外である。
商標権の権利の帰属をめぐる問題であるが、第4条第1項第7号が適用されている判決がある(甲10、甲11)。当該判決と同様に、本件商標においても、被請求人の本件商標の出願及び登録行為は、請求人との共同出願契約違反で信義則に反する行為であり、健全な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠く行為というべきであるし、また、被請求人がこれまでと同様の名称を使用することにより請求人の顧客吸収力に便乗しようとするものであり、本件商標の登録出願の目的や経緯等に鑑みれば、本件商標の出願登録は、商標制度における先願主義を悪用するものであり、社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠く事情があるというべきであって、こうした商標の登録出願及び設定登録を許せば、商標法の目的に反することになりかねないから、本件商標は、公の秩序に反するものであるというべきであるため、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(3)経緯
ア 請求人と被請求人との関係
(ア)請求人は、令和2年7月3日に代表取締役をM氏として設立された「1.光触媒酸化チタンコーティング剤とそれを利用した製品の販売及び施工、2.空気触媒剤とそれを利用した製品の販売及び施工、3.消毒・殺菌・消臭剤とそれを利用した製品の販売及び施工、4.光触媒製品の開発及び開発支援事業、5、光触媒コーティング工事請負業」などを目的とする企業である(甲12)。
一方、被請求人は、令和2年7月7日に代表取締役社長をT氏とし、代表取締役専務をM氏として設立された「1.光触媒、空気触媒に関する製品の販売、施工及びメンテナンス、2.建物の外装、内装、車両等に対する光触媒溶液の塗布業務」などを目的とする企業である(甲13)。なお、M氏は令和3年2月5日に退任している(甲13)。
そして、本件商品は、酸化チタンを含む光触媒だけでなく、銀イオンも混在させて、光が弱い又は光がない状態であっても除菌・殺菌等することができる商品であり、光触媒メーカーTが請求人に対して納品し、請求人が自身の会社名からとった「ナノソリューションAg(+)」という商品名(OEM商品)で、被請求人に安価な価格で卸していた。被請求人が受注した依頼は、請求人によって光触媒のコーティング施工をしていた。
請求人から被請求人への請求書の項目には「ナノソリューションAg(+)」と記載されており、当該商品(以下「請求人商品」という。)は、遅くとも令和2年8月31日時点において、請求人の商品として被請求人に卸されていたことがわかる(甲14)。
また、令和2年10月22日の請求人のSNSでの投稿には、請求人の商品が掲載されており、その商品名は「ナノソリューションAg(+)」である(甲14の2)。このことからも「ナノソリューションAg(+)」が請求人の商品であることがわかる。
(イ)本件に係る異議申立てでの主張に関して
T氏がM氏を事業に誘ったことは事実だが、M氏がT氏から事業に関して教えられていた事実はない。また、被請求人が特約店契約をしていたヤサカ商事株式会社とは、現在は請求人がその親会社と特約店契約をしているが、被請求人が展示会等でヤサカグループの名前を出すことにより、請求人との混同が生じている。
イ T氏の問題行動及び職務放棄
(ア)令和2年10月にタクシー業界の大手ヤサカグループや、都タクシー株式会社、西都交通株式会社の光触媒コーティングを行うなど事業は順調に伸びていたが、このあたりからT氏が問題行動を起こすようになってきた。
T氏は被請求人において、代表取締役社長という立場であると共に、経理関係を任されていたが、同年11月以降から共同経営者のM氏に経理情報を見せないようになった。
同年12月、M氏の反対があったにも関わらず、T氏は大規模な展示会に出展することを強行し、M氏の同意なく勝手に契約をしてきた。展示会場では、T氏は代表取締役としてはふさわしくない行動をし、一部の加盟店はT氏の行動に激怒し、複数の加盟店からM氏に対し「代表取締役をT氏からM氏に交代してほしい。」と言われるほどであった。
加盟店からのクレームに対して、M氏は、自分が代表取締役になれば、今自分が行っている業務の遂行ができないと考え、T氏にその内容を伝え、T氏に改善を要求した。
令和3年1月20日、T氏は、M氏に覚書(甲15)を送り、当該覚書に同意しないと仕事をしない旨を言い、その後、音信不通となった。
上記覚書の内容は、一切正当性もなく、T氏及び被請求人にしか利のない内容であり、真の狙いとしては、M氏を被請求人から追い出し、被請求人が、商品元である光触媒メーカーTと直接取引を行い、請求人を下請企業として利用したいという思惑が読み取れるものであり、M氏が到底同意できるような内容の覚書ではなかった。
(イ)本件に係る異議申立てでの主張に関して
被請求人は、展示会、被請求人の代表取締役、請求人の位置づけ、光触媒の施工業務、業務の遅延、在庫管理などに関して種々の主張をするが、いずれも事実ではない。
ウ M氏の被請求人からの退任
前述のように、T氏はM氏との連絡を遮断し、M氏はT氏と連絡が取れない状態であったため、被請求人の顧問弁護士がT氏に対してM氏と協議するように促したが、T氏は一向にM氏と協議しようとしなかった。
M氏はT氏との協議は不可能と考え、これ以上T氏の業務の妨害が続くと、加盟店からの陳述書(甲16~甲18)のとおり、加盟店が営業できなくなるなど、加盟店への影響が取り返しのつかないことになってしまうため、M氏は、「加盟店第一」という信念のもと、T氏とのトラブルを終了させるため、自ら被請求人を辞意することにした。
エ T氏と加盟店とのトラブル
T氏は、加盟店からの連絡にも応じなかったため、加盟店ともトラブルになっていた(甲16~甲18)。
また、請求人と契約が終了した後も、被請求人のみしか使用していないブランド名の商品や新たなブランド名を使用すればよいところを、請求人商品や、被請求人とはまったく関係がない「ナノディフェンダー」に関して、被請求人の商品であるかのように加盟店を募集している。
オ 本件商標の商標登録出願に関して
(ア)被請求人のT氏による共同出願違反及び警告
a M氏とT氏との令和2年12月8日のメッセージアプリでのやり取りでは(甲19)、M氏から「商標ですが、僕の名前も入れておいて 商標権の保有者を複数名の連名で登録することは可能です。があります。1.の場合、その出願に係る商標権は、その出願人全員の共有という形態で登録され、その全員が商標権を行使できることとなります。それぞれの持分を他人に譲渡する場合には、他の商標権者の同意が必要となります。」とT氏にメッセージを送り、T氏はこれに対して、「了解」と送っている。
ここで、「僕の名前も入れておいて」の「僕の名前」とは請求人のことであり、文章の意味としては、「商標ですが、僕の名前(請求人)も入れておいて 商標権の保有者を複数名の連名(被請求人と請求人)で登録することは可能です。があります。1.の場合、その出願に係る商標権は、その出願人全員(被請求人と請求人)の共有という形態で登録され、その全員(被請求人と請求人)が商標権を行使できることとなります。・・・」ということになる。
これは、T氏からの「了解」という返事の後に、M氏の「ナノソリューション(請求人)でもつかえるかね!」という文章からも理解できる。
つまり、「請求人でも使用できるようにしておきたいので、請求人でも本件商標を所有しておく。」という意味になる。
しかしながら、T氏は、請求人と被請求人との共同出願をすることに関して了承しておきながら、被請求人単独で本件商標に関して商標登録出願をした。
また、T氏は、本件商標に関して単独出願をしたことに関して、M氏に報告や確認もなかった。
本件商標の名称は、M氏が請求人の会社名からとって「ナノソリューションAg(+)」としたため、被請求人が単独で商標登録出願をするということであれば、M氏は商標登録出願を認めることはなく、T氏がひょう窃的に商標登録出願をしたものである。
そして、M氏が、本件商標の商標登録出願が被請求人単独で行われていることを知ったのは、M氏が被請求人を退任した後であった。
さらに、被請求人は請求人に対して、通知書(甲20、甲21)を送付している。
被請求人は、「貴社(請求人)は、通知会社(被請求人)出願にかかる商標と同一の表記・称呼である「ナノソリューションAg+」の商品名で、光触媒製品の販売を行っています。貴社の上記販売行為は、通知会社出願中の商標である「ナノソリューションAg+」を通知会社の許可なく使用するもので、需要者等に対して混同を生じさせる行為であり、通知会社に対し業務上の損失を与えうる行為です。よって、通知会社は、貴社に対し、「ナノソリューションAg+」ないしこれに類似する商標の使用を直ちにやめるよう本書をもって警告します。」と主張し(甲20)、また、被請求人は「通知会社(被請求人)は、貴社(請求人)に対し、令和3年5月10日付け「通知書」をもって、「ナノソリューションAg+」ないしこれに類似する商標の使用を直ちにやめるように警告済みです。にもかかわらず、現時点(同年6月11日)においてもなお、貴社ホームページにおいて、「このナノソリューションAg+は、相手を選ばず養成も不要で施工、耐久性に優れ、(略)」などと掲載されています。・・・そして、当該ページには、下鴨神社様において、写真撮影当時通知会社に所属していた貴社代表取締役M氏が、通知会社の業務として、通知会社の商品である「ナノソリューションAg+」を施工している状況の写真が掲載されています。これらは、通知会社の製品である「ナノソリューションAg+」の出所混同を生じさせ得る行為といえ、通知会社に損害を生じさせ得るものです。通知会社は、貴社に対し、上記ウェブサイト上から直ちにこれら記載を削除するとともに、通知会社の商品の施工状況の写真や通知会社の取引先の写真を削除するよう本書をもって警告します。」と主張し(甲21)、前記アで述べた経緯があるにも関わらず、被請求人は請求人に対して警告してきている。
なお、下鴨神社への光触媒の施工は、令和2年12月10日に行われ、この受注は、請求人と被請求人が共同で請け負ったものであるが、M氏が被請求人の知名度を上げるために、あえて共同請負としただけであり、下鴨神社との契約は請求人のみで、下鴨神社からの支払いが、請求人にのみ直接支払われ、被請求人には支払われていないことからも明らかである(甲22)。請求人は、下鴨神社への施工を令和3年12月8日にも行っており、令和4年12月にも行う予定であることからも、被請求人は、下鴨神社と契約はしていないことがわかる。
また、本件商品である「ナノソリューションAg(+)」は、前記アの経緯で述べているように、請求人の商品であって、被請求人の商品ではない。
そして、被請求人の代表者であるT氏は、M氏を被請求人から退任に追い込んだ上、請求人と共同出願するという約束を無視し、ひょう窃的に被請求人単独で本件商標の商標登録出願をしている。
したがって、被請求人の本件商標の取得行為は、社会の一般道徳観念に反する行為である。
b 本件決定に関して
本件決定では、メッセージアプリの相手先が明確でないし、メッセージ中の「商標」がいかなるものを指すのかの記載もないとして、本件商標を共同で登録出願する等、本件商標の登録出願に関する契約があったとは認めることができない旨判断された。
しかしながら、メッセージの相手先は、甲第19号証の2に示す名前や掲載写真から、T氏のアカウントであることがわかる。また、このアカウントがT氏であることは、被請求人が上申書において否定していないことからも明らかであり、加盟店(又は加盟店であったところ)も業務上においてT氏とメッセージアプリでやり取りしており、このアカウントがT氏のものであることの証人は多数いる。
そして、このやり取りが行われた直後の令和2年12月9日に被請求人が出願した商標が4件あるところ、このうち、2件の商標に関しては、被請求人の名称であるため、請求人には関係がないが、本件商標ほか1件は、請求人が被請求人に卸していた商品の名称であるため、T氏とのメッセージ中の商標とは、これらの商標のことを指している。
そして、本件商標は、請求人の名称を用いた商標であるため、被請求人単独の商標登録出願を認めることはできず、契約は口約束でも成立するところ、本件商標ではメッセージアプリでの証拠もあり、被請求人との契約があったものと判断すべきであり、本件決定の判断は妥当ではない。
(イ)請求人が「ナノソリューション」及び請求人商標に関して密接な関係を有する者であること
本件商標は、標準文字から構成されるものであり、本件商品である「ナノソリューションAg(+)」を表している。
前記アで述べたように、本件商品は、光触媒メーカーTから、請求人が納品してもらい、請求人商標を商品名とした商品(OEM商品)を、被請求人に卸していた。
請求人から被請求人への請求書(甲14)や、SNSへの投稿(甲14の2)、及びその名称(商品名)からも本件商標が請求人と密接な関係を有することは明らかであり、本件商標を登録し、これを権利行使等の排他的に使用することは、当該商標をなす用語である「ナノソリューション」及び「ナノソリューションAg(+)」に関して、被請求人よりもより密接な関係を有する者である請求人の利益を害する行為であり、被請求人の行為はひょう窃的行為である。
(4)まとめ
以上のことから、被請求人が本件商標を取得する行為は、社会の一般道徳観念に反する行為であり、本件商標や「ナノソリューション」及び「ナノソリューションAg(+)」に関して、被請求人よりもより密接な関係を有する者である請求人の利益を害する行為であり、被請求人の行為は、ひょう窃的行為である。
そして、上述した経緯から被請求人が本件商標を取得する行為は、著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものである。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当する。
4 商標法第4条第1項第15号について
(1)商標について
ア 本件商標の指定商品及び指定役務と請求人の業務に係る商品について
本件商標の指定商品及び指定役務は、第1類「化学品」及び第37類「建設工事」である。
一方、請求人商品は、光触媒である薬剤であり、また、請求人の会社名は「ナノソリューション株式会社」であり、請求人は、本件商標の出願前から請求人商標及び「ナノソリューション」を使用している。
そして、請求人は、請求人商品を使用して光触媒コーティングの施工を行っている。
また、前記3の経緯のとおり、被請求人と請求人の関係は、請求人が被請求人に、請求人商品である「ナノソリューションAg(+)」を卸していたという関係である(現在は被請求人へは卸していない。)。
したがって、本件商標の指定商品及び指定役務と、請求人商品又は請求人の業務内容(役務の内容)との間の性質、用途又は目的における関連性の程度は高いといえる。
イ 標章について
本件商標と請求人商標とは実質的に同一といえる程度に類似し、類似性は高いといえる。
そして、請求人は、光触媒メーカーTから仕入れた商品に、請求人の社名からとって請求人商標を商品名にした。「ナノソリューション」という文字は造語であって、請求人商標も造語であり、独創性は高いといえる。
(2)取引者及び需要者の共通性並びに取引の実情について
前述のとおり、本件商品は、光触媒メーカーTから、請求人が納品してもらい、請求人商標を商品名とした商品を、被請求人に卸していた。
請求人が本件商品に請求人商標を名称としてつけ、被請求人に卸していたことは、請求人から被請求人への請求書(甲14)から明らかである。
また、被請求人は、ホームページにおいて、本件商標ではなく、請求人商標を使用している。
そして、請求人は、第1類及び第5類に属する商品について、標章「ナノディフェンダー」及び「ナノディフェンダーAg+」の登録商標を有しており(甲6、甲7)、「ナノディフェンダー」に係る商品は、請求人が、被請求人とは関係なく開発した商品であり、請求人が被請求人に卸していたという事実はなく、被請求人には一切関係のない商品である。それにも関わらず、被請求人は、標章「ナノディフェンダー」を請求人が商標登録出願していない第2類、第37類、第40類で商標登録出願及び登録を行っている(甲8)。
また、前記3(2)イのとおり、被請求人の加盟店は、請求人の商標権を侵害している(甲9、甲9の2)。
さらに、請求人は下鴨神社での光触媒コーティングの施工を令和3年12月8日にも行っており、また、令和4年12月にも施工を行う予定である。被請求人は、下鴨神社で光触媒コーティングの施工を実質的に行っていないにも関わらず、展示会において施工事例に表示して宣伝しており(甲23)、請求人との混同が生じている。
したがって、当該商品又は役務が請求人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがあり、いわゆる狭義の混同が生じるおそれがある。
また、M氏は、請求人で代表取締役をしており、現在は退任しているが以前は被請求人の代表取締役専務をしていたということ、請求人が、請求人商品を被請求人に卸していたということから考慮すると、指定商品又は指定役務に係る商品又は役務が、請求人との間に系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがあり、いわゆる広義の混同が生じるおそれがある。
(3)本件決定に関して
本件決定では「申立人商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品及び役務であることを表示するものとして需要者の間に広く認識されていると認めることはできないものであるから、(略)その商品又は役務の出所について混同を生ずるおそれはないと判断するのが相当である。」と判断している。
しかしながら、「混同を生じるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断されるものであるため、需要者の間に広く認識されているかどうかは重要な要因であることには変わりないが、必須ではない。
また、被請求人は、ヤサカ商事株式会社と特約店契約をしていたが、現在は請求人がその親会社と特約店契約をしており、被請求人が展示会等や宣伝広告においてヤサカグループの名前を出すことにより、より一層、請求人との混同が生じている。
特に本件商標は、前述したような経緯があるため、被請求人の本件商標及びこれに類似する商標の使用は、被請求人と請求人との混同を生じさせるおそれが非常に高い。
(4)まとめ
以上のことから、本件商標と請求人商標とは類似し、その類似性の程度が高いこと、請求人商標の識別力及び独創性が高いこと、指定商品及び指定役務は、請求人商標の使用商品と同一又は類似の商品及び役務であり、需要者も共通することに照らすと、本件商標を上記指定商品又は指定役務に使用したときは、その商品が請求人又は請求人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であると誤信されるおそれがある。
そうすると、本件商標は、請求人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標であるといえるから、商標法第4条第1項第15号に該当する。
第4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べた。
1 商標法第4条第1項第16号該当性について
本件商標は、「ナノソリューションAg+」の文字及び記号を横書きしてなるところ、その構成各文字は、同じ書体、同じ大きさで、等間隔に外観上まとまりよく一体的に表されているものであり、また、その構成全体から生ずる「ナノソリューションエージープラス」の称呼はやや冗長であるものの、無理なく一連に称呼し得るものである。
そして、本件商標の構成中、「ナノ」の文字は「10億分の1を表す単位の接頭辞。」を、「ソリューション」の文字は「問題などの解決。解法。」の意味を有する語であり、また、「Ag」の文字は「金属元素の一種。」である「銀」の元素記号と同一の文字であって、「+」の記号が「加号又は正の数の符号。すなわち「+」」の意味を有する記号である(いずれも「広辞苑第七版」株式会社岩波書店)が、これらを結合した「ナノソリューションAg+」の文字及び記号全体として、特定の意味合いを想起させるものではないから、本件商標は、一種の造語として理解されるものとみるのが相当である。
また、本件商標の構成中の「Ag」の文字部分が「銀」の意味を有するとしても、本件商標は、その外観、称呼、観念は上記のとおりであるから、需要者をして、「Ag」及び「Ag+」の文字及び記号が商品の品質及び役務の質等を具体的に表示するものとして直ちに認識されるとはいい難い。
してみれば、本件商標は、その構成全体をもって、特定の意味合いを想起することのない一体不可分の造語として認識されるというのが相当であるから、その構成文字全体に相応して、「ナノソリューションエージープラス」の称呼のみを生じ、特定の観念を生じないものである。
そうすると、本件商標は、その構成全体をもって、特定の意味合いを想起させることのない一体不可分の一種の造語として認識し把握されるものであり、商品の品質及び役務の質等を表示するものとして認識し把握されるとはいえないから、本件商標は、その指定商品及び指定役務について使用しても商品の品質及び役務の質の誤認を生ずるおそれはない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような構成態様でもなく、本件商標をその指定商品及び指定役務について使用することが、公正な取引秩序を乱し、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するということもできないし、特定の国、若しくはその国民を侮辱し、又は、国際信義に反するということもできず、他の法律によってその使用が禁止されているものでもない。
また、請求人商標は、請求人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、需要者の間に広く認識されていたものではないから、本件商標は、これをその指定商品及び指定役務に使用することが、請求人商標の周知性による信用及び顧客吸引力に便乗するものということはできないし、ひょう窃的な行為ということもできない。
そして、本件商標に関して、請求人と被請求人の間に何らかの契約は存在しない。
また、請求人は商標について、自ら速やかに登録出願し、商標権の権利を取得する機会は十分にあったにも関わらず、出願を怠っていたといわざるを得ないものであって、請求人自ら登録出願しなかった責めを被請求人に求める具体的な事情も存在しない。さらに、請求人が速やかに商標を登録出願することが不可能であったものでもない。
そうすると、被請求人が本件商標を登録することが、社会の一般的道徳観念に反する行為であるということはできないし、また、このような請求人と商標権者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから、「「公の秩序や善良の風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合」には該当しない。
なお、請求人は、被請求人と請求人との間でやりとりが行われたメッセージアプリのスクリーンショットとされるもの(甲19)を示すが、メッセージ中の「商標」がいかなるものを指すのかについての記載もなく、ほか甲第19号証によって、本件商標の登録出願に関する契約が成立するものではない。
以上のとおり、請求人商標が請求人に係る商品について周知性を獲得していたことはなく、かつ、本件商標はその商標登録に至る出願の経緯において著しく社会的妥当性を欠くものではない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第15号該当性について
本件商標の登録出願時及び登録査定時において請求人商標は周知性を獲得していない。また、請求人商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の取引者、需要者の間で、請求人の業務に係る商品を表示するものとして広く認識されていたものでもない。
したがって、商標権者が本件商標をその指定商品又は指定役務について使用しても、取引者、需要者をして請求人商標を連想又は想起させることはなく、その商品又は役務が請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品又は役務の出所について混同を生ずるおそれはない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
第5 当審の判断
1 本件審判の請求の利益
請求人が本件審判を請求することについて、被請求人は利害関係について争っておらず、また、当審は請求人が本件審判を請求する利害関係を有するものと認める。
よって、本案に入って審理し、判断する。
2 商標法第4条第1項第16号について
(1)商標法第4条第1項第16号該当性について
ア 商標法第4条第1項第16号でいう、「商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」とは、指定商品又は役務に係る取引の実情の下で、公益性を担保するという観点から、取引者又は需要者において、当該商標が表示していると通常理解される品質又は質と、指定商品が有する品質又は役務が有する質とが異なるため、商標を付した商品の品質又は役務の質の誤認を生じさせるおそれがある商標を指すものというべきである。(参考:知的財産高等裁判所 平成20年(行ケ)第10086号 平成20年11月27日判決)
そして、同号でいう、商品の品質又は役務の質とは、抽象的な内容のものを指すのではなく、取引者、需要者が当該商標から看取する直接的、具体的な商品の品質又は役務の質をいうものとみるのが相当である。
イ 本件商標は、前記第1のとおり、「ナノソリューションAg+」の文字及び記号を標準文字で表してなり、「ナノ」、「ソリューション」及び「Ag」の文字並びに「+」の記号から構成される結合商標であって、スペースを介さず一体的に表されてなるものである。
そして、「ナノ」の文字は「10億分の1を表す単位の接頭辞。」であり(「広辞苑第七版」株式会社岩波書店)、「ソリューション」の文字は「問題などの解決。解法。」(上掲書)や「溶体」(「コンサイスカタカナ語辞典第4版」株式会社三省堂)の意味を有する語である。また、「Ag」の文字は「「銀」の元素記号」であり、「+」の記号は「加号または正の数の符号。」である(いずれも「広辞苑第七版」株式会社岩波書店)。
他方、「ナノソリューションAg+」、「ナノソリューション」又は「Ag+」の文字(語)が、一般の辞書類に掲載されていることを認めるに足りる証拠は見いだせない。なお、請求人は、「Ag+」は「銀イオン」を表すと主張するが、これを認めるに足りる証拠を提出していない。
また、「Ag」ないしは「Ag+」が、本件商標の指定商品又は指定役務を取り扱う業界において、商品の品質又は役務の質を表示するものとして一般に使用されていることを示す証拠や、本件商標に接する取引者、需要者が、その構成中の「Ag」ないしは「Ag+」の部分を商品の品質又は役務の質を表示したものと認識するというべき事情を示す証拠は見いだせない。
以上からすると、本件商標に接する取引者、需要者が、その構成から直接的、具体的な商品の品質又は役務の質を看取するとはいい難く、それらの誤認を生じるおそれがあるともいえない。
なお、「Ag」の文字が「「銀」の元素記号」であることをもって当該意味が漠然と想起される場合があったとしても、本件商標の指定商品及び指定役務との関係において、具体的な商品及び役務が一般に認識されると認めるに足りる証拠はないから、本件商標の構成中「Ag」ないしは「Ag+」の部分が直接的に特定の商品及び役務を表示するものと認めることはできない。
そうすると、本件商標は、その指定商品及び指定役務のいずれに使用しても、商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標ということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当しない。
(2)請求人の主張について
請求人は、実際に本件商標を使用している商品は光触媒コーティングであり、抗菌等を行うものであるため、Ag又はAgイオンが含まれているか否かは、商品の関係上重要な要素である旨主張する。
しかしながら、前記(1)イのとおり、本件商標の指定商品及び指定役務との関係において、直ちに本件商標の構成中「Ag」ないし「Ag+」の部分が商品の品質又は役務の質を表すものとして認識されるとまではいい難く、それらの誤認を生じるおそれがあるともいえない。その他、指定商品又は指定役務に係る一般的な取引の実情は何ら立証されておらず、本件商標が商品の品質又は役務の質の誤認を生じさせるおそれがある商標であるというべき事情は見いだせない。
したがって、請求人の上記主張は採用することができない。
3 商標法第4条第1項第7号について
(1)商標法第4条第1項第7号の解釈について
商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、<1>その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、<2>当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、<3>他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、<4>特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、<5>当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきである。(参考:知的財産高等裁判所 平成17年(行ケ)第10349号 平成18年9月20日判決)
しかしながら、先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨などからすれば、商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは、商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので、特段の事情のある例外的な場合を除くほか、許されないというべきである。
そして、特段の事情があるか否かの判断に当たっても、出願人と、本来商標登録を受けるべきと主張する者との関係を検討して、例えば、本来商標登録を受けるべきであると主張する者が、自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず、出願を怠っていたような場合や、契約等によって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず、適切な措置を怠っていたような場合は、出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから、そのような場合にまで「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない。(参考:知的財産高等裁判所 平成19年(行ケ)第10391号 平成20年6月26日判決)
(2)商標法第4条第1項第7号該当性について
ア 請求人提出の甲各号証及び同人の主張によれば、次のとおりである。
(ア)請求人は、令和2年7月3日に設立されたM氏を代表取締役とする法人であり、その事業内容は「光触媒酸化チタンコーティング剤とそれを利用した製品の販売及び施工。光触媒製品の開発及び開発支援事業。光触媒コーティング工事請負事業」等であること(甲12)、被請求人(本件商標権者)は、令和2年7月7日に設立されたT氏及びM氏を代表取締役(T氏が代表取締役社長、M氏が代表取締役専務(請求人の主張))とする法人であり、その事業内容は「光触媒、空気触媒に関する製品の販売、施工及びメンテナンス。建物の外装、内装、車両等に対する光触媒溶液の塗布業務。著作権、商標権、意匠権等の知的財産権の取得、管理、使用許諾及び売買。」等であること(甲13)が認められる。
(イ)請求人から「テックメディカル株式会社」宛て(被請求人宛て(請求人の主張))で、令和2年8月31日を請求日とする「請求書No.1」(「件名:光触媒販売・仕入れ」)、同年11月30日を請求日とする「請求書No.2」(「件名:原材料仕入・諸経費等」)及び同年12月31日を請求日とする「請求書No.表紙」(「件名:業務委託費用」)についての請求書が作成され、上記請求書No.1及びNo.2の摘要欄には「ナノソリューションAg(+)」を含む記載があり、上記請求書No.表紙の摘要欄には「請求書NO.1」、「請求書NO.2」等の記載がある(甲14)ことから、M氏とT氏は商品「ナノソリューションAg(+)」に関連する業務を共同して行っていたことがうかがえる。
(ウ)令和2年12月8日に、M氏の姓名のローマ字表記と同一の表記で表された者とT氏と同名の者との間で(審決注:この項でのみ、前者を「A」、後者を「B」という。)、A「商標ですが、僕の名前も入れといて 商標権の保有者を複数名の連名で登録することは可能です。があります。1.の場合、(略)その全員が商標権を行使できることとなります。(略)」、B「了解」、A「ナノソリューションでもつかえるかね!」、B「○○(審決注:「○○」は愛称と解されるものが記載されている。)の名前が入ってたらナノソリューションも大丈夫なのじゃないかなぁ」、などのやりとりがなされている(甲19)。
(エ)被請求人によって、本件商標が令和2年12月9日に登録出願され、同3年6月15日に設定登録された(甲1、甲2、請求人の主張)。
(オ)M氏とT氏は、互いの業務に対して不満を募らせたことがうかがえ、被請求人の業務運営に関し両氏並びに請求人と被請求人が取り交わすための覚書がT氏から令和3年1月に提案されたが、合意に至らず(甲15、請求人の主張)、M氏が同年2月5日に被請求人の代表取締役(専務)を退任したことが認められる(甲13)。なお、被請求人の元加盟店3社もT氏ないしは被請求人に不満があることがうかがえる(甲16~甲18)。
(カ)被請求人は請求人に対し、被請求人は商標「ナノソリューションAg+」の使用を継続すること、請求人は商標「ナノソリューションAg+」ないしこれに類似する商標の使用を直ちにやめること等を主張して、令和3年5月10日付け及び同年6月14日付け通知書を送付したこと(甲20、甲21)が認められる。
イ 前記アからすれば、本件商標の登録出願は、商品「ナノソリューションAg(+)」に関連する業務を共同して行うT氏及びM氏の両者を代表取締役として設立された法人によって、令和2年12月9日にされたものであって(公開日は令和3年1月12日)、M氏が被請求人の代表取締役(専務)を退任する令和3年2月5日以前になされたものと認められる。
また、請求人商標の登録出願について、特段の契約等があったとは認められず、請求人自らすみやかに出願を行うことを妨げる事実も認められない。
そうすると、本件商標については、その出願は被請求人を出願人として、T氏及びM氏が共に被請求人の代表取締役であった時期にされたものであり、共同して業務を行う関係にあった者の間における商標権の帰属等をめぐる問題であり、あくまでも当事者同士の私的な問題として解決すべきであって、「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合には該当しないものと判断するのが相当である。
そして、他に本件商標が「指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合」や「当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合」など、商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するというべき事情は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
(3)請求人の主張について
ア 請求人は、T氏は、請求人と被請求人との共同出願をすることに関して了承しておきながら、被請求人単独で本件商標に関して商標登録出願をした旨主張する。
しかし、当該証拠(甲19、甲19の2)がT氏とM氏のやりとりであるかや本件商標の出願に係るやりとりであるかが必ずしも明らかでないところ、仮に商標の登録出願に係るT氏とM氏のやりとりであると推定して検討したとしても、その内容をもってしては、「僕の名前」が「請求人」を示し、「複数名の連名」が「請求人と被請求人の連名」を示すものと特定することは困難といわざるを得ず、請求人と被請求人とで本件商標を共同出願することを約したものと認めるには足りない。
また、上記のやりとりがなされた令和2年12月8日時点では、T氏とM氏はいずれも被請求人の代表取締役であったのであるから、本件商標について被請求人を出願人として商標登録出願することそれ自体が、不合理であるとまではいえない。
イ 請求人は、本件商標の出願日は法人設立から半年も経過しておらず、請求人は過去に商標登録出願等を行ったことがなく、また、日々の業務が忙しい中、すぐに商標登録出願しなければという意識にはなかなかならないのが一般的であると思われるなどと述べ、「自ら速やかに登録出願し、商標権の権利を取得する機会は十分にあったにも関わらず、出願を怠っていたといわざるを得ない」と判断するのは妥当でない旨主張する。
しかし、そのような事情があるとしても、M氏が本件商品の効果に惚れ込んで請求人の社名から名付けたとの請求人の主張を前提とすれば、その名称を商標権として保護することについて関心を寄せるべきであったといわざるを得ない。そして、上記主張にいう事情を勘案しても、自ら速やかに登録出願し、商標権の権利を取得する機会は十分にあったというべきである。
ウ 請求人は、被請求人から通知書(甲20、甲21)が送付され、本件商標ないしこれに類似する商標の使用や、出所の混同を生じさせ得る行為等をやめるように警告を受けたことも挙げ、被請求人の本件商標の取得行為は、社会の一般道徳観念に反する旨主張する。
しかし、本件商標の登録出願に係る前記経緯からすれば、商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合とまではいえない。そうである以上、令和3年4月19日付け通知書(証拠の提出はないものの、令和3年5月10日付け通知書(甲20)の記載内容からすれば、請求人から被請求人に対する警告等を内容とする書面と解される)への応答として、本件商標の出願人(本件商標権者)が、通知書を送付し警告等する行為を理由として、本件商標が公序良俗に反するものとはいえない。
エ 請求人は、判決例を挙げ、商標権の帰属をめぐる問題であっても商標法第4条第1項第7号が適用されている事例があるとして、本件商標においてもそれらと同様に同号に該当する旨主張する。
しかし、前記(2)イのとおり、本件においては、その商標登録出願はT氏及びM氏が共に被請求人の代表取締役であった時期に被請求人によってなされたものであって、共同して業務を行う関係にあった者の間における商標権の帰属等をめぐる問題であり、このような関係にある者においては、あくまでも当事者同士の私的な問題として解決すべきであるというのが相当である。請求人の主張に係る各判決例があるとしても、上記判断を妨げるものではない。
オ 請求人は、標章「ナノディフェンダー」について縷々述べるが、前記判断を左右するものではない。
カ したがって、請求人の上記アないしオの主張は、いずれも採用することができない。
4 商標法第4条第1項第15号について
(1)商標法第4条第1項第15号該当性について
請求人の提出に係る証拠及び同人の主張から、請求人及び被請求人が、商品「ナノソリューションAg(+)」に関連する業務を行っていたことは認められるものの、当該商品又はこれを使用した役務に係る商標の使用態様、使用数量及び使用地域並びに広告宣伝の方法、期間、地域及び規模などが明らかでないから、請求人商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、需要者の間に広く認識されているとは認められないものである。
そうすると、請求人商標は周知性を備えていないものであるから、本件商標に接する取引者、需要者が、一般的に請求人の業務に係る請求人商標を連想又は想起するものということはできない。
してみれば、本件商標は、商標権者がこれをその指定商品又は指定役務について使用しても、取引者、需要者が、その商品が他人(請求人)又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品又は役務の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
その他、本件商標について、出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情も見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(2)請求人の主張について
請求人は、最高裁平成10年(行ヒ)第85号平成12年7月11日第三小法廷判決を示し、「混同を生じるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度・・・などに照らし、・・・総合的に判断されるものであるため、需要者の間に広く認識されているかどうかは重要な要因であることには変わりないが、必須ではない旨主張する。
しかし、商標法第4条第1項第15号の規定は、周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し、商標の自他識別機能を保護することにより、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的とするものであると解される。また、請求人商標が周知でなければ、それが需要者に一般的に認識されることはなく、したがって、請求人の業務に係る商品又は役務との混同(狭義の混同、広義の混同のいずれも含む。)のおそれが生じることもないと考えられるのであって、これらのことを併せ考えれば、請求人商標が周知性さえも備えていないと認められる場合に、同号が適用される余地はないというべきであるし、「周知著名性の程度」(したがって、最低限の周知著名性は備えていることが前提になると解される。)を問題とする上記最高裁判決も、以上のことを前提にしているものと解される。(参考:知的財産高等裁判所 平成30年(行ケ)第10119号 平成31年2月6日判決)
したがって、請求人の上記主張は採用することができない。
5 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号、同項第15号及び同項第16号のいずれにも違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-890089