商標無効審判
2022-890076
マークゴンザレス、マーク、ゴンザレス
- 審判番号
- 2022-890076
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 商願2021-087890
- 登録番号
- 6527915
- 請求日
- 2022年09月15日
- 審決日
- 2023年09月25日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 請求成立(無効)
- 当事者
- 【請求人】マーク・ゴンザレス
- 【請求人代理人】成川 弘樹
- 【請求人代理人】金子 禄昌
- 【請求人代理人】葛谷 滋基
- 【被請求人】サクラインターナショナル 株式会社
- 審判長/審判官
- 審判長 矢澤 一幸
- 審判官 小田 昌子
- 審判官 阿曾 裕樹
- 分類
- T111 .22 -Z (W1825) / T111 .23 -Z (W1825) / T111 .222-Z (W1825)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第4条第1項第7号、商標法第4条第1項第8号、商標法第4条第1項第19号、商標法第4条、特許法第74条、商標法第4条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の登録第6527915号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
登録第6527915号の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 本件商標
本件登録第6527915号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、令和3年6月30日に登録出願、第18類「愛玩動物用被服類,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,傘,ステッキ,つえ,皮革」及び第25類「被服,エプロン,靴下,手袋,ネクタイ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,帽子,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として、同4年2月15日に登録査定、同年3月15日に設定登録されたものである。
第2 請求人標章
請求人が、本件商標の登録の無効の理由において、本件商標が商標法第4条第1項第7号、同項第8号及び同項第19号に該当するとして引用する、別掲2のとおりの標章(以下「請求人標章」という。)は、請求人が、請求人の略称及び請求人又は請求人が選んだライセンシーの製品を表示するものとして需要者の間に広く知られていると主張するものである。
第3 請求人の主張
1 請求の趣旨
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を、審判請求書及び弁駁書において、要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第114号証(枝番号を含む。以下、枝番号の全てを示すときは、枝番号を省略する。)を提出した。
以下、証拠の記載にあたっては、「甲第○号証」を「甲○」のように記載する。
2 請求の理由
(1)はじめに
被請求人は、サクラグループ有限会社(以下、「サクラグループ」といい、被請求人と総称して「被請求人ら」という。)と一体となって、請求人が創作し権利を有する画像、デッサン、詩、ストーリー及びデザイン、並びに「Mark Gonzales」という請求人の氏名及び「Gonzo Cuntry」という名称(以下、総称して「請求人知的財産」という。)に係る商標(本件商標(甲1) を含む。)を用いて請求人(又は請求人が選んだマスターライセンシー)が行う日本国内でのライセンスビジネスを妨げてはならない信義則上の義務を負っている。
かかる事情にもかかわらず、被請求人は、請求人がサクラグループに一定の条件付きで請求人知的財産に係る商標を権利保護の目的で出願することを許諾したことや請求人自身が本件商標の出願をしていないこと等を奇貨として、請求人が本件商標を始めとする請求人知的財産に係る商標を用いて日本国内でライセンスビジネスを行うことを妨げ、他方で請求人の名声や顧客誘引力に便乗して不当な利益を得る目的で本件商標の出願を行っている。
かかる商標出願の経緯と目的を踏まえると、被請求人による本件商標の出願行為は、請求人との間の信義則上の義務違反になるだけでなく、健全な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠く行為といえるため、このような出願行為にかかる本件商標は、公正な取引秩序を害し公序良俗に反することから、本件商標は無効である (商標法第4条第1項第7号)。
また、本件商標は、その登録出願時から現在に至るまで、請求人又は請求人が選んだライセンシーの製品を表示するものとして日本国内及び米国で需要者の間に広く認識されている請求人標章(甲6) と類似する。前記出願の経緯と目的を踏まえると、被請求人が不正の目的でかかる本件商標を出願したことは明らかであるから、本件商標は無効である(商標法第4条第1項第19号)。
さらに、本件商標は、請求人の著名な略称を請求人の承諾なく登録したものであるから、無効である(商標法第4条第1項第8号)。
(2)商標法第4条第1項第7号に該当すること
ア 被請求人による信義則上の義務違反
(ア)請求人について
請求人は、現在、世界で最も著名なスケートボーダーの一人であり、そのことは、最も著名なスケートボード専門誌である「THRASHER MAGAZINE」の表紙に取り上げられ(甲7) 、上記専門誌と並んで著名な専門誌である「Transworld Skateboarding」において、2006年に「2006 Legend Award」を授与され、2011年に「The 30 Most Infulential Skaters Of All Time」の1位に選出されたこと(甲8、甲9) 等からも明らかである。
そして、世界的に著名なスポーツ用品ブランドであるアディダスと20年以上にわたり、パートナーシップを結んでいる事実(甲11、甲12) や日本国内で非常に知名度の高い鞄ブランドである吉田カバンが請求人を「史上最も影響力のあるスケートボーダー」と紹介し(甲13) 、プロサッカーチームであるFC東京が請求人を「スケートボード界で伝説な地位を確立し歴史上最も有名なプロのスケートボーダーの一人」と紹介している事実(甲14) もこれを裏付けている。
また、請求人は、スケートボーダーとしてだけでなく、アーティストとしても著名であり、これまでアメリカ、イギリス、ブラジル、フランス、オランダ、ドイツ、スイス、オーストリア、メキシコ、スペイン、スウェーデン、イタリア、ノルウェー等多くの国で請求人の詩やアート作品のグループ展や個展が開かれている(甲15) 。日本国内においても、グループ展として2001年「Untitled2001」等、個展として2010年「INVITATION」、2014年「BABY DON’T MIND」、2016年「MARK GONZALES-TOKYO SILK SCREEN」、2021年「No Rain in Today」が開催されており、請求人及びその作品は日本国内外で名声を得ている(甲16~甲18) 。
(イ)本件商標について
本件商標は、「Mark Gonzales」という請求人の略称を独特の筆致により筆記体で横書きしてなる、請求人知的財産に係る商標である(甲1) 。
(ウ)被請求人らによるライセンスビジネスについて
被請求人らは、2011年1月1日から2020年12月31日まで、請求人とサクラグループとの間で締結した「LICENSING AGREEMENT」(以下「本件契約」という。)契約に基づき、日本を含むアジア地域において、請求人知的財産を使用した衣料品、アクセサリー等の製造販売のライセンスビジネス(以下「本件ライセンスビジネス」という。)を行っていた(甲19)。
請求人自身の名声や請求人知的財産の顧客誘引力に依拠して被請求人らが本件ライセンスビジネスを行い、サブライセンシーが製品を製造販売することにより、請求人の略称に由来した「Mark Gonzales」というブランドの製品が、日本国内で広く流通するに至っている (以下、ブランドとしての「Mark Gonzales」を「本件ブランド」、本件ブランドを冠する製品を「本件ブランド製品」という。)。
なお、本件契約の当事者は、請求人とサクラグループであって、被請求人は形式的には本件契約の当事者ではなかったが、被請求人は、サクラグループと一体となって本件ライセンスビジネスを行っていた。
(エ)被請求人らが、請求人知的財産に係る商標を用いて請求人が行うライセンスビジネスを妨げてはならない信義則上の義務を負うこと
a サクラグループが請求人知的財産に係る商標を用いて請求人が行うライセンスビジネスを妨げてはならない信義則上の義務を負うこと
被請求人らによる本件ライセンスビジネスは、本件契約を根拠に行われており、かかる本件契約では、本件契約11条において、請求人知的財産に関して、サクラグループは、請求人の請求があれば請求人へ返還することを条件として、請求人の権利を保護する目的である場合に限り、商標登録等を行うことができる旨定められていた(甲19) 。
同条の趣旨は、請求人が米国に居住していることもあり、アジア地域における請求人知的財産に係る商標権等の権利を保護する必要が生じた際は、一次的にサクラグループを通じた権利保護を図ることにより、請求人の権利を迅速かつ確実に保護する点にあるから、かかる趣旨からして、請求人知的財産に係る商標の権利については、最終的に請求人が返還を受けて権利者となることが予定されていると同時に、本件契約の終了後にサクラグループが請求人知的財産に係る商標を出願登録することは全く予定されていなかったといえる。
また、本件契約は最長10年間(2020年12月31日まで)有効であるが、その後の契約期間の延長の規定が存在していないから(甲19)、請求人と被請求人との間では、被請求人らによる本件ライセンスビジネスや請求人知的財産に係る商標の使用が許諾されるのは最長10年間であること、本件契約の有効期間満了後は、請求人によりサクラグループが新たなマスターライセンシーに選ばれない限り、サクラグループが行っていた本件ライセンスビジネスを請求人(又は請求人が選んだ新たなマスターライセンシー)が引き継ぐことが予定されており、その結果として、サクラグループは、請求人知的財産に係る商標を用いて請求人(又は請求人が選んだマスターライセンシー)が行うライセンスビジネスを妨げてはならない信義則上の義務を負っていた。
b 被請求人とサクラグループが実質的に一体であること
本件契約締結以前に、被請求人や被請求人の代表取締役であるB氏は、請求人と書籍「SOCIAL PROBLEM」の出版やCDアルバム「What it isNt」の制作等を行っていた。かかる取引関係の存在を契機に、請求人はサクラグループと本件契約を締結するに至ったが、かかる契約締結の交渉は実際にはサクラグループではなく、B氏が行っていた。
また、2020年3月頃、請求人はサクラグループに対し、2014年分以降のロイヤリティーの支払いと本件契約11条に基づく日本国内外の登録商標の返還等を求めており(甲32、甲33)。このとき、サクラグループ側で実際に交渉やロイヤリティーの支払を行ったのはB氏であった(甲33、甲34)。
さらに、サブライセンシーが新たな本件ブランド製品の製造販売を企画する際、本件契約3条により、サブライセンシーはデザイン等について請求人の承認を得る必要があるが、その窓口になっていたのはB氏であった。
以上のように、サクラグループやサクラグループ代表者であるA氏ではなく、被請求人の代表者であるB氏が、請求人やサブライセンシーと交渉を行う窓口になっていたから、被請求人とサクラグループが、実質的に一体になって本件ライセンスビジネスを行っていた。
また、ファッションビジネスの業界紙である繊研新聞の本件契約期間中(2011年頃から2020年)の記事では、被請求人が請求人の知的財産に係るライセンスを有しているとの記述や被請求人がマスターライセンシーであるとの記述、さらには被請求人自身が請求人とライセンス契約を締結しているとの記述が存在する一方、請求人との関係でサクラグループを取り上げた記事が見当たらない(甲35~甲41) から、本件契約締結後、被請求人は、マスターライセンシーとして本件ライセンスビジネスを行っていたのであって、サクラグループと一体であった。
さらに、本件契約に係る契約書(甲19)や本件ライセンスビジネスに係る商標の登録原簿(甲42~甲45) に記載されたサクラグループの所在地は、被請求人の本店所在地(甲46)となっている。
また、サクラグループの代表者はA氏であるところ(甲47)、同氏はB氏と配偶者の関係にあり、これらの所在地の同一性や代表者の婚姻姻関係は、被請求人とサクラグループは本件ライセンスビジネスに係る商標や契約の管理を一体となって行っていたことの証左である。
以上から、被請求人はサクラグループと一体的に本件ライセンスビジネスを行うとともに、本件契約を含むライセンスの管理を行っていることは明らかであるから、被請求人とサクラグループは実質的に一体である。
(オ)被請求人らによる義務違反
a 請求人知的財産に係る商標を返還しないこと
本件契約6条により、サクラグループは請求人に対し、毎年一定額のロイヤリティーの支払義務を負っており、本件契約3条により、サクラグループは、請求人知的財産を使用した製品の製造販売の際、事前に、サクラグループが請求人に承認対象となる製品のデザイン又はサンプルを送付して承認を得る義務を負っていた(甲19) 。
しかし、サクラグループは、2014年分以降、請求人へのロイヤリティーの支払いを怠るようになり、サブライセンシーが企画する本件ブランド製品の製造販売に関して、被請求人らは、請求人の承認を都度得ることなく、サブライセンシーに本件ブランド製品の製造販売を承認するようになった(甲35~甲41) 。
そのため、2020年3月頃、請求人はサクラグループに対し、2014年分以降のロイヤリティーの支払いと本件契約11条に基づく日本国内外の登録商標の返還を求めた。また、併せて、請求人に更新の意思はないこと、本件契約10条による契約期間の更新の上限(10年間)を迎える2020年12月31日に本件契約が終了すること、本件契約の終了に伴う混乱を避ける措置として、請求人がサブライセンシーに直接ライセンスを許諾する用意があり、円滑な権利関係の移行に協力するよう求める旨をサクラグループに伝えた(甲32) 。
その後、請求人とサクラグループとの間で交渉が行われたが、サクラグループ側で実際に交渉を行ったのは被請求人の代表者であるB氏であった。交渉の結果、請求人とB氏は、2020年12月31日に本件契約が終了することを前提に、請求人が契約終了までに製造された本件ブランド製品の販売に限り、2021年1月1日から同年12月31日まではセルオフ期間として許諾すること、サクラグループが2014年分から2020年分のロイヤリティーとセルオフ期間設定の対価を支払うことで合意し、2020年7月頃、被請求人から請求人に上記金員金額が支払われた(甲33、甲34) 。
しかし、被請求人らは、本件契約が終了し、セルオフ期間に入ったにもかかわらず、マスターライセンシーの立場からサブライセンシーに対して請求人知的財産を使用した新製品の製造販売を許諾し続ける一方、請求人からの請求人知的財産に係る商標の返還請求に何ら対応しなかったので、2021年4月12日頃、請求人はサクラグループに対し、本件契約の終了を確認するとともに、あらためて請求人知的財産に係る商標の返還を請求する書面を送付した(甲49) 。
これに対し、2021年4月27日頃、被請求人らは、代理人を介して、請求人に対し、本件契約は2021年12月31日まで延長されており、そのため商標を返還する理由がない旨の回答を行った(甲50) 。
この点、請求人は2021年12月31日までをセルオフ期間と定めたにすぎず、本件契約が2021年12月31日まで延長されたとの事実はない。また、本件契約11条は、請求人の要求に応じて登録した商標を返還するとのみ定められているから、仮に契約期間中であっても、請求人が請求すれば商標を返還する義務を負っていた。そのため、被請求人らの主張は明らかに合理的な根拠を欠くものであった。
これに加えて、被請求人が、2021年6月30日に請求人に無断で請求人知的財産に係る本件商標及び登録第6527914号商標の出願に及ぶなどしたため(甲1、甲51)、請求人は、2021年8月6日頃及び同年9月6日頃にも商標の返還を求める書面の送付を行った(甲52、甲53)。しかし、いずれの書面に対しても、被請求人らからの回答はなかった。
その後、2021年11月頃には、被請求人からハワード株式会社(以下「ハワード社」という。)や有限会社シアーズ(以下「シアーズ社」とい
う。)等の被請求人らの国内のサブライセンシーに対しセルオフ期間の終了が迫っていることを伝える文書を送付した(甲54、甲55)。
これに対して、被請求人らは請求人に向けて、請求人との被請求人らの契約上商標権を請求人に引き渡すことを定めた条項は存在しないといった内容の通知を行った(甲56)。
しかしながら、本件契約は明示的に商標権を返還する義務を定めている(甲19)。そのため、2022年3月頃、請求人はこの点を指摘しつつ再度請求人知的財産に関する商標権の返還を求めたが、被請求人らは何ら回答しなかった(甲57)。
以降、請求人に請求人知的財産に関する商標の一切が返還されないまま現在に至っている。
b 被請求人らが本件商標を用いたライセンスビジネスを開始していること
2021年12月頃、ハワード社が、「(What it isNt)ART BY MARK GONZALES」というブランド(以下「新ブランド」という。)を展開し(甲1、甲59~甲62)、登録第6447374号商標、登録第6447375号商標及び本件商標をブランドロゴに使用した製品の取扱いを開始し(甲1、甲52、甲53) 、シアーズ社も遅くとも2022年2月頃から、同様に新ブランドの取扱いを開始した(甲63) 。
本件商標、登録第6447374号商標及び登録第6447375号商標の現在の権利者は被請求人であるから、ハワード社及びシアーズ社に対しては、被請求人が本件商標のライセンスを付与しているものと推察される(甲1、甲59、甲60)。
そして、この新ブランドに係るウェブページには、「『(What it isNt)』のプロモーションのため、マーク・ゴンザレスのアートワークを中心にデザインされた商品です。」、「その名もアルバム名から取られた『(What it isNt) 』CD制作過程でゴンズ自身が描き下ろしたポエムやグラフィックを中心にウェアやグッズに反映させた販売促進プロジェクトです。」等といった請求人との関連性を強調する記述がなされている(甲61、甲63-1)。
このような本件商標を使用した新ブランドの製品やウェブページを見た一般消費者は、新ブランドが請求人の許諾の下で展開されていると誤認して製品を購入することは明らかであり、一般消費者がかかる誤認をすることにより、請求人が本件商標を用いたブランドビジネスを展開することが困難となっていくことは明らかである。
c 小括
以上より、被請求人は、請求人知的財産に係る商標を請求人に返還せず、自ら保有し続けており、この状態が継続し、さらには本件商標の登録が認められると、請求人は、本件商標を用いたライセンスビジネスを展開していくことが困難となり、重大な営業上の不利益を受けるおそれが生じる。
そのため、被請求人は、請求人知的財産に係る商標を用いて請求人が行う日本国内でのライセンスビジネスを妨げてはならない信義則上の義務に明らかに違反している。
なお、被請求人らは、本件商標以外にも請求人知的財産に係る商標を保有し、関連商標の出願を行っている(以下、総称して「関連商標」という。)から、被請求人らによる義務違反の程度は極めて大きいといえる(甲42~45、甲51、甲59、甲60、甲64~甲74)。
イ 本件商標の出願の経緯及び目的について
(ア)本件商標の出願の経緯
被請求人は、本件契約の当事者であるサクラグループと一体であることから、請求人知的財産に関して、請求人の請求があれば請求人へ返還することが条件とはなっているものの商標出願を行うことが可能であること、他方で、請求人知的財産に係る商標について請求人が出願していないことや本件契約の終了後に被請求人らが請求人知的財産に係る商標を出願することは予定されていなかったことを、当然認識しており、被請求人による本件商標の出願は、このような状況を利用してなされた。
また、被請求人らは、本件商標を出願する以前より、請求人から本件契約の終了を確認するとともに、請求人知的財産に係る商標の返還請求を求める通知を受けていることから(甲32、甲33、甲49)、出願登録済みの請求人知的財産権に係る商標を出願してはならない立場にあることを十分認識しておきながら、本件商標の出願を行った。
(イ) 被請求人らによる関連商標の譲渡
サクラグループは、本件商標の出願に先立つ2020年10月19日、関連商標のうち登録第4721594号商標及び登録第4721595号商標を被請求人へ譲渡している(甲44、甲45、甲66、甲67) 。
さらに、本件商標の出願後、2021年11月24日にも、サクラグループは、登録第4765359号商標及び登録第4769801号商標を被請求人へ譲渡している(甲42、甲43、甲64、甲65)。
被請求人らがこのような関連商標の譲渡を行ったのは、本来、サクラグループは、請求人から本件契約11条に基づく返還請求を受けた場合、これに応じなければならないことから、被請求人に商標を譲渡することで、請求人からの請求を回避することを意図したためと推測され、このような意図を有している以上、被請求人らは請求人のライセンスビジネスを妨げる意図を有していたことは明らかである。
(ウ)被請求人による新ブランドのライセンス付与
ハワード社やシアーズ社が被請求人からライセンスの付与を受け、新ブランドを展開し、被請求人が、本件契約終了後に請求人知的財産からなる本件商標を使用して、新ブランドに係るライセンスビジネスを開始していること、本件商標の使用が新ブランドと請求人の関連性を強調していること等からすれば、本件商標の出願が、請求人の名声やこれに基づく顧客誘引力に便乗する目的でライセンスビジネスを行う目的でなされたことは明らかである(甲61、甲63-2)。
(エ)小括
以上より、被請求人は、請求人の権利保護のための出願が許諾されていたことや請求人自身が本件商標の出願をしていないこと等を奇貨として、請求人のライセンスビジネスを行うことを妨げ、他方で請求人の名声やこれに基づく顧客誘引力に便乗する目的の下、本件商標の出願を行っていることは明らかである。
ウ 結論
以上より、本件商標の出願は、その経緯と目的において健全な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠く行為といえ、このような出願行為に係る本件商標は公正な取引秩序を害し公序良俗に反するものであるから、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第19号に該当すること
ア 請求人標章について
請求人標章は、「Mark Gonzales」という請求人の略称を独特の筆致により筆記体で横書きしてなる標章であり(甲6)、請求人は、遅くとも1998年頃から、請求人標章と類似する署名を使用している(甲30)。
また、請求人は、大韓民国において、請求人が創作した「エンジェル」又は「シュムー」(shmoo)等と称されるキャラクターの図形と併せ、請求人の創作物として著作権登録を受けている(甲6)。
イ 請求人標章の周知性
請求人標章は、本件商標の登録出願時、日本国内及び請求人の出身地でありプロスケートボーダーやアーティストとしての活動の多くを行っていた米国において、請求人(又は請求人が選んだマスターライセンシー) の製品を示す商標として広く知られていた。
(ア) 国内における周知性があること
a 2000年代前半には「Mark Gonzales」が請求人を指すという認識が広まっていたこと
請求人は、1998年頃の繊研新聞上で「世界トップクラスのスケートボードの名手」かつ「イラストレーターとしても活躍するマルチアーティスト」等と紹介され(甲75)、2003年頃にも「マーク・ゴンザレス」という名称のブランドが展開予定であることが報道されている(甲76)。また、2002年11月25日に出願された請求人の略称に係る登録第4765359号及び第4769801号商標は、商標法第4条第1項第8号に該当するとの理由で登録を拒絶されている(甲77、甲78)。
これらの事情から、2000年代前半には既に、「Mark Gonzales」といえば世界的に名声を得ているスケートボーダーかつアーティストである請求人を指すことは日本国内において広く認識されていた。
b 本件ブランド製品が全国の需要者に供給されていたこと
請求人標章は、2010年頃から、請求人(又は請求人が選んだマスターライセンシー)の製品を示す商標として、本件ブランド製品に使用されている(甲19) 。
本件ブランド製品を販売したことがあり又は現在販売している企業には、株式会社ライトオン(2021年8月31日時点で全国の店舗数412)、株式会社マックハウス(2021年8月31日時点で全国の店舗数323) 、株式会社ヴィレッジヴァンガードコーポレーション(2021年11月30日時点で全国の店舗数286) 等の全国に実店舗を展開する大手小売企業が含まれ、本件ブランド製品が実店舗において全国の需要者に供給されていたことを示している(甲22~甲27) 。
また、居住地を問わず購入可能である通信販売サイト大手であるAmazon、ZOZOTOWNのいずれにおいても、2000点以上という相当な種類及び数の本件ブランド製品が販売され(甲28、甲29) 、さらに、株式会社ライトオン、株式会社マックハウス、及び株式会社ヴィレッジヴァンガードコーポレーションの通信販売サイトにおいても本件ブランド製品が販売されていた。
このように本件ブランド製品は実店舗や通信販売サイトを通じて相当の数及び種類が全国に供給されており、請求人標章は、請求人(又は請求人が選んだマスターライセンシー)の製品を示すものとして全国の需要者から認識される十分な機会があった。
c 各種媒体で継続的に情報が発信されていたこと
本件ブランド製品や請求人は、2010年頃から繰り返し各種媒体で取り上げられている(甲79) 。雑誌では2010年から2013年にかけて「WOOFIN’」(月刊、発行部数約12万部)に6回、2014年には「Ollie」に2回掲載されている(甲80~甲88)。
インターネット上では、2013年頃から現在まで、ファッション情報サイト「FASHIONSNAP.COM」や「FASHION PRESS」の記事で請求人や本件ブランドが度々取り上げられている(甲89~甲92) 。両サイトはいずれもSNSサービス「twitter」の公式アカウントを運営しているところ、「FASHIONSNAP.COM」が191万、「FASHION PRESS」が369万のフォロワーを有している。フォロワーの数は両サイトが発信した情報の受け手が多いことを意味するから、両サイトが取引者及び需要者の認識に対し大きな影響力を有している(甲93、甲94) 。
このように、本件ブランド製品や請求人が、雑誌や影響力の大きいファッション情報サイトで継続的に取り上げられたことにより、請求人標章は、請求人(又は請求人が選んだマスターライセンシー)の製品を示す商標として全国の取引者及び需要者から広く認識されていた。
(イ) 米国における周知性があること
a 著名なアディダスブランドから、請求人標章と同一又は類似の商標を使用したスケートボード関連製品が継続的に販売されてきたこと
(a)請求人標章と同一又は類似する標章を使用した製品の販売
アディダスブランドは、遅くとも2008年頃から、請求人とのコラボレーション製品として、エンジェルの標章を使用したスケートボード関連製品を販売している(甲95~甲105) 。そのうち、少なくとも、2008年、2009年 、2013年 、2015年には、請求人の略称「Mark Gonzales」の欧文字を独特の筆致により筆記体で表した標章を使用したスケートボード関連製品を販売している(甲95、甲97、甲98、甲100)。
かかる標章は、請求人とのコラボレーションを表現する目的で用いられているところ、いずれも請求人の略称を表したもので、かつ、請求人標章と外観的特徴が共通するから、請求人標章と同一又は類似する。
(b)米国のスケートボード関連製品市場
スケートボード関連製品の主な需要者はスケートボード参加者であるところ、2010年から2017年の米国のスケートボード人口は、2012年頃から2017年にかけて630万人前後で安定しており、2020年頃も同等の水準と推測できるから、2012年頃から2020年頃までの間、米国内には少なくとも約630万人という相当な数のスケートボード関連製品の需要者が存在したといえる(甲106) 。
(c)アディダスブランドが米国のスケートボード関連製品市場における宣伝広告に注力してきたこと
アディダスブランドは、2020年には全世界で約180億ユーロ、北米では約43億ユーロの売上高を記録するなど、スケートボード関連製品を含むスポーツ用品に関して巨額の売上高を誇るブランドである(甲107、甲108) 。
同ブランドのスケートボード関連製品は、主にアディダススケートボーディングというサブブランドから発売されている。アディダススケートボーディングのブランドサイトでは、パートナーシップを結んでいるスケートボーダーのうち、コラボレーション製品が販売されている等知名度の高い者が大きく紹介されているが、その約7割が米国を中心に活動している(甲109)。一般に、ブランドと競技者がパートナーシップを結ぶ目的の一つは商品の宣伝広告であるから、アディダスブランドがパートナーシップを結んだプロスケートボーダーの多くが米国を中心に活動している事実は、米国市場が同ブランドにとって重要な市場であり、宣伝広告に注力してきたことを示している。
このように、従前からのスポーツ用品ブランドとしての著名性に加え、スケートボード関連製品市場に向けた宣伝広告によって、アディダスブランド製品は米国のスケートボード関連製品市場の取引者及び需要者の多くに知られていた。
(d)小括
スポーツ用品ブランドとしての従前からの著名性と宣伝広告により米国スケートボード関連製品市場の関係者に広く知られているアディダスブランドが、請求人の略称を独特の筆致により筆記体で表した標章を用いた製品を含む請求人とのコラボレーション製品を継続的に販売しており、かつ、かかる標章が請求人標章と同一又は類似しているという事情から、請求人標章は、請求人(又は請求人が選んだマスターライセンシー)の製品を表示する商標として、取引者及び需要者から広く認識されていた。
b 請求人のスケートボード業界における著名性
請求人は活動の多くを米国で行ってきたことから、米国において取り分け高い知名度を有している。一流の出版社とも評されるRizzoli New Yorkからモノグラフが出版されていることはこれを裏付けている(甲110、甲111)) 。
そして、スケートボード業界における請求人の評価は2011年の時点で米国の専門誌上「最も影響力のあるスケーター」と称されるまでに至っており(甲9) 、請求人は、本件商標の登録出願時、米国のスケートボード関係者の間で著名な存在であった。
このような請求人自身の著名性によって、請求人標章は請求人を示すものとして、遅くとも本件商標の登録出願時までに米国のスケートボード関連製品の取引者及び需要者に広く知られていた。
c 小括
従前から有するスポーツ用品ブランドとしての著名性と、米国市場向けの宣伝広告によりスケートボード関連製品市場で広く知られているアディダスブランドが、請求人とのコラボレーション製品や請求人標章と同一又は類似の請求人の略称に係る商標を使用した製品を2008年頃から継続的に販売しており、かつ2011年頃には請求人がスケートボード関係者の間で著名な人物となっていたことから、遅くとも本件商標の登録出願時、請求人(又は請求人が選んだマスターライセンシー)の製品を表す商標として広く認識されていた。
(ウ)本件商標と請求人標章が類似すること
本件商標は、別掲1のとおりの構成からなり(甲1)、請求人標章は、別掲2のとおりの構成よりなるところ(甲6)、本件商標と請求人標章とを比較すると、いずれも「Mark Gonzales」という欧文字を、筆記体を用いて同様の筆致でまとまりよく一体的に表記するもので、姓名ごとに頭文字のみ大文字にするという構成がともに共通しているから、これらの標章は外観上酷似した印象を与える。また、両商標は、いずれも構成文字に相応して「マークゴンザレス」という称呼を生じる(甲1)。
そして、「Mark Gonzales」という語が一般的に人の氏名に用いられることや、請求人の国内及び米国における知名度の高さを考慮すれば、いずれも「マークゴンレスという人物」の観念を生じる。
したがって、本件商標と請求人標章は外観上の印象、称呼及び観念を共通にする商標であり、両商標が本件商標の指定商品に使用された場合は、その商品の出所について誤認混同を生じるおそれがあるから、両者は類似する。
(エ)不正の目的について
商標法第4条第1項第19号の「不正の目的」とは図利・加害目的をはじめとして取引上の信義則に反するような目的をいう。
被請求人が本件契約終了後に本件商標を出願登録し、保有し続けること自体、信義則上の義務に違反することに加え、被請求人は、請求人の権利保護のための出願が許諾されていたことや請求人自身が本件商標の出願をしていないこと等を奇貨として、請求人のライセンスビジネスを行うことを妨げ、他方で請求人の名声やこれに基づく顧客誘引力に便乗して不当な利益を得る目的で本件商標の出願を行っている。
かかる目的が取引上の信義則に反することは明らかであり、被請求人は不正の目的をもって本件商標を出願し、登録を受けたといえる。
(オ)結論
以上より、本件商標は請求人の業務に係る商品を表示するものとして我が国又は外国において周知の請求人標章と同一又は類似の商標であって、不正の目的をもって使用する商標であるから、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第8号に該当すること
本件商標は、請求人の略称「Mark Gonzales」を筆記体により独特の筆致で表したもので、請求人の略称を含む商標であり(甲1)、請求人の略称が本件商標の出願時に著名であったにもかかわらず、請求人の承諾なく出願登録された。
ア 請求人の略称の著名性
人の略称が商標法第4条1項8号にいう「著名な略称」に該当するか否かを判断するにあたっては、その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準として判断すべきである(最二小判平成17年7月22日裁判集民事217号595頁)。
(ア)本件商標の指定商品の分野における認知
本件商標の指定商品は、かばん類、被服、履物等であり、アパレル製品を主な指定商品としている。
先述のとおり、1998年頃の繊研新聞では請求人が「世界トップクラスのスケートボードの名手」等として紹介されるとともに、請求人のアート作品を用いたTシャツが販売される旨報道され(甲75)、2003年頃にも、「マーク・ゴンザレス」という名称のブランドが展開予定であり、このブランドの製品に請求人の作品が使用される旨報道されている(甲76) 。これらの事実は、2000年代前半には既に請求人の略称が請求人を示すものとしてアパレル製品の取引者及び需要者から認識されていたことを裏付けるものである。
加えて、2010年頃からは、請求人の略称が本件ブランドの名称として使用され、大手小売企業の実店舗や大手通信販売サイトを通じて、相当の数及び種類の本件ブランド製品が全国の需要者に供給されるとともに(甲22~甲29) 、本件ブランドと請求人がアパレル業界への影響力の大きい各種情報媒体で継続的に取り上げられてきたという事実から(甲79~甲94) 、本件商標の登録出願時までに、「Mark Gonzales」が請求人を指すことはアパレル製品の取引者及び需要者から広く知られるに至っていた。
(イ)スケートボード及びアートの分野における認知
これまで述べたとおり、請求人は1990年代からプロスケートボーダーやアーティストとして長年活動し、遅くとも本件商標の登録出願時には、両分野で世界的な名声を得るに至っている(甲7~甲18) 。
請求人は、これらの活動において一貫して略称を用いているから、請求人の略称が、本件商標の登録出願時には、広くスケートボードやアートに関心のある人々の間で請求人を指し示すものとして認識されていた。2002年出願の請求人の略称に係る商標登録が商標法第4条第1項第8号への該当を理由に拒絶された例があることも、かなり早い時期から「Mark Gonzales」が請求人を指すとの認識が広まっていたことの裏付けといえる(甲77、甲78) 。
(ウ)小括
このように、本件商標の登録出願時、請求人の略称は本件商標の指定商品の取引者及び需要者はもとより、広くスケートボードやアートに関心のある人々から請求人を指し示すものとして認識されていたことから、請求人の略称は請求人を指し示すものとして一般に受け入れられていたといえる。
したがって、「Mark Gonzales」という請求人の略称は商標法第4条第1項第8号の「著名な略称」に該当する。
イ 請求人の承諾がないこと
商標法第4条l項第1項第8号本文に該当する人の著名な略称について商標登録を受けるためには、査定時において同項8号括弧書の承諾を得ている必要がある(最三小判平成16年6月8日裁判集民事214号373号)。
この点、請求人は、本件商標の登録出願以前から、被請求人らに対し、繰り返し、本件契約の終了を確認するとともに請求人知的財産に関する商標の返還を求めている(甲32、甲33、甲49、甲52、甲53、甲57)。
このことからも明らかなように、本件商標の登録出願時はもとより、登録査定時においても、請求人は本件商標の登録を承諾していなかった。
ウ 結論
本件商標は、請求人の著名な略称を含む商標であるにもかかわらず、その登録査定時に請求人の承諾を得ていなかったことは明らかである。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第8号に該当する。
3 答弁に対する弁駁
(1)被請求人が本件契約に基づく本件商標の返還義務に違反している事実が商標法第4条第1項第7号該当性を基礎づけること
ア 被請求人が本件契約の当事者に含まれること
本件契約の契約書の形式上、被請求人は当事者とされていないが(甲19) 、被請求人はサクラグループと一体的な存在として、実質的な契約当事者である。
この点、被請求人ら自身も、現在東京地方裁判所に係属中の被請求人及びサクラグループを原告、請求人を被告とする訴訟(令和3年(ワ)第32244号損害賠償等請求事件)において、被請求人が本件契約の当事者に含まれることを認めている(甲112) 。
イ 被請求人が本件契約上の商標返還義務に違反していること
本件契約11条が、請求人知的財産に関して、請求人の請求があれば請求人へ返還することを条件として、請求人の権利を保護する目的である場合に限り、商標登録等を行うことができる旨を定めている(甲19)から、被請求人は、請求人の請求があれば、本件商標を請求人へ返還する義務を負うが、被請求人は、請求人からの返還請求に一切応ぜず、現在に至るまで本件商標の商標権者として使用を続けている。
ウ 被請求人が本件契約上の商標返還義務へ違反している事実が商標法第4条第1項第7号該当性を基礎づけること
本件契約11条は、被請求人らに対し、最終的に請求人へ返還することを条件として、請求人知的財産に関する商標を出願登録することを認めるものであるから、被請求人が契約上の義務に違反して本件商標を返還しない場合、請求人は、被請求人に対し、本件契約に基づいて移転登録手続を請求することが可能である。
もっとも、移転登録の申請手続は、確定判決によらない限り、譲渡人と譲受人が共同で手続を行うことが必要であり、被請求人の協力が必須となる(商標登録令10条、特許登録令18条)。また、確定判決を得て移転登録を受ける場合も含め、移転登録の時までは、被請求人らが本件商標の商標権者であったことは否定されない。加えて、請求人のようなライセンサーにとって、ライセンスビジネス上、一時的にでも、自己の統制下にない者が商標権者であるとの法律的地位が生じることは、事業上の信用を損なう重大事である。
本件において、被請求人は、本件契約上の返還義務に違反しているだけでなく、本件商標が本来被請求人に帰属するものであるとまで主張している。そのため、請求人としては、無効事由が生じて以降の被請求人らによる商標の使用が商標権に基づくものではなかったという実体法上の関係を、第三者との間でも明確にする必要がある。そのため、実質的には本件商標を無効とした上で、信用の回復を図るほかない状況にある。
以上より、被請求人が本件契約上の商標返還義務に違反している事実が、請求人が請求人知的財産を用いてライセンスビジネスを行うことを妨げてはならない信義則上の義務に違反していることを基礎づけることは明らかである。
なお、裁判例には、商標権の帰属と関連して商標法第4条第1項第7号該当性が問題となった事案において、外国法人が「ライセンシーが商標登録出願して登録を得た場合にその登録された商標の商標権の譲渡を受けることを約するなどの措置を採ることができたにもかかわらず、そのような措置を怠っていた」といった事情を「公の秩序又は善良の風俗を害する」商標への該当性を否定する事情として挙げるものがある(甲113) 。
このような指摘からは、裁判例上、ライセンサーとライセンシーの間でライセンス対象の商標が最終的にライセンサーに譲渡されるべきことを契約上定めたが、ライセンシーが契約に違反したために当該商標の商標権者となっているとの事情が、当該商標が公正な取引秩序に反し、著しく社会的妥当性を欠くことを基礎づける事情と解されていることがうかがわれる。
また、特許法に関する議論であるが、移転請求制度(特許法第74条)の創設に併せて、冒認又は共同出願違反の出願であることを無効事由から除くべきか議論された際も、真の権利者が特許権の消滅を望む場合がある等の意見が重視され、冒認等による出願であることは無効事由として維持されたという経緯があり(甲114)、この考え方は、特許権と同じく登録制度を基盤とする商標権においても当てはまる。
以上より、被請求人が、本件契約上の商標返還義務に違反し、商標権者として振舞っている事実は、請求人が請求人知的財産を用いてライセンスビジネスを行うことを妨げてはならない信義則上の義務に違反していることを基礎づけるだけでなく、かかる事実自体、本件商標の出願が、経緯と目的において健全な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠くものであり、本件商標が公正な取引秩序を害し公序良俗に反することを基礎づける事情といえる。
(2)被請求人の主張について
被請求人は、本件商標について、本件契約の適用対象ではなく、かつ、自らが著作権を有するから、商標法第4条第1項第7号及び同項第19号に該当しないと主張するが、本件商標はは、本件契約の適用対象であり、請求人が、Cujo Arts and Literatrure,Inc(以下、「Cujo」という。)の従業員であったことはなく、トミー・ゲレロ氏と本件商標に用いられた文字列を共同制作したこともないから、本件商標に係る文字列が著作物に該当するとしても、この両者が原始的に著作権を取得することはない。さらに、請求人は、被請求人はもとより、Cujo及びトミー・ゲレロ氏に対して、本件商標に関する著作権を譲渡したことはないから、いずれにしても被請求人が著作権を取得する余地はない。
このように、被請求人の反論は前提からして誤っている。
なお、本件商標は、「Mark Gonzales」という請求人の著名な略称を表したものであるが、請求人は被請求人による出願登録に同意しておらず、本件商標が商標法第4条第1項第8号に該当することは明らかであり、本件商標については、著作権の帰属にかかわらず、同号に該当し、被請求人もこの点について何ら反論していない。。
第4 被請求人の答弁
1 答弁の趣旨
被請求人は、本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を、審判事件答弁書において、要旨次のように述べた。
2 答弁の理由
(1) 本件商標の著作権も被請求人が有すること
請求人は、虚偽の証拠及び虚偽の陳述を通して、本件商標の著作権を自らが有するかのように主張しているが、間違いである。
本件商標の図形は、Cujoとトミー・ゲレロ氏共同著作物であり、両者より被請求人に対して著作権譲渡された。
(2)被請求人は類似登録商標を有すること
被請求人は、本件商標と称呼完全一致・アルファベットスペル完全一致の類似登録商標「登録第4765359号商標(25類)・「登録第4769801号商標」(18類)を2004年以来、被請求人の出所を示す商標として使用し続けている。
(3)請求人の不法行為
請求人は、Cujoの雇用人として、本件商標の図形の制作にあたったのは事実であるが、その権利はあくまで、職務著作物としてCujoに原始的に発生し、帰属していた。請求人は、上記事実を歪曲し、自らが著作権者であるかのように虚偽の事実を主張し、他人の登録商標を蝙取しようと企んでいるが、このような事実の歪曲・虚偽の主張は受け入れられない。
(4)係争中であること
被請求人(原告)は、請求人(被告)を相手どり、[請求人等の共同不法行為に対する損害賠償請求の正当性の根拠として]本審判請求の本件商標の正当性判断の根拠となるア 本件商標図形の著作権を被請求人が正当に有していること イ 請求人との関連において、被請求人が所有する類似の「登録第4765359号商標」(25類)、「登録第4769801号商標」(18類)の正当性があることの地位確認訴訟を、2021年12月13日付けで東京地裁に提訴している[令和3年(ワ)第32244号]から、同確定判決と矛盾がなきよう本件審理を進めるのが妥当である。
第5 当審の判断
請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係を有する者であることについて、当事者間に争いがないので、本案に入って審理し、判断する。
1 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1) 請求人の主張及び同人の提出した証拠によれば、以下の事実が認められる。
ア 請求人は、アメリカ合衆国出身のプロスケートボーダー及びアーティストであり(甲7~甲9)、1998年に発行された請求人に係る書籍の表紙に請求人標章と類似の特徴を有する筆記体風に表された標章が使用され、当該書籍にプロデューサーとしてB氏の氏名がある(甲30)。
イ 請求人とサクラグループ(A氏が署名)との間において2010年12月8日付けで締結された、ライセンス契約書(甲19。以下「本件契約」という。)には、以下のような条項がある。
(ア)請求人は、サクラグループに対し、2011年1月1日から1年間、請求人知的財産権(請求人の氏名、画像、デザインを含む。)を使用した衣料品、アクセサリー、プロモーション等に独占的に使用する権利を許諾する。
(イ)サクラグループは、その選択により、最大10年間、同一の条件で契約を更新できる。
(ウ)サクラグループは、請求人の要求があれば、返還することを条件として、Gonzo Cuntry、Mark Gonzales及び請求人のデザインを保護するために商標登録することができる(第11条)。
ウ 2020年3月2日付けの書面で、請求人代理人は、サクラグループに対し、本件契約が2020年12月31日に終了する旨、本件契約11条に基づき登録商標の返還を求める旨、請求人に契約更新の意思はない旨、2014年から2019年までのロイヤリティーの支払いを求める旨を通知した(甲32)。
エ 2020年3月6日付けの書面で、請求人代理人は、サクラグループに対し、被請求人の代表者であるB氏から、2014年から2019年までのロイヤリティーを支払う意思がある旨の電話があったことを受けて、当該ロイヤリティーの支払いを改めて求める旨、本件契約11条に基づく登録商標の返還を求める旨を通知した(甲33)
オ 2020年4月6日付けで、請求人に対して、米ドル建ての送金が行われている(甲34)。
カ 2021年4月12日付けの書面及びEメールで、請求人は、サクラグループのA氏及び被請求人の代表者であるB氏に対し、本件契約は、2020年12月31日をもって終了している旨、登録商標の返還を求める旨をEメール及び書面を通知した(甲49)。
キ 2021年4月27日付けの電子メールで、請求人に宛てて、上記書面及びEメールの返信として、本件契約は2021年12月31日まで存続することを説明した旨、登録商標の返還や放棄を行う理由はない旨が返信された(甲50)。
ク 被請求人は、上記第1のとおり、令和3年(2021年)6月30日に、本件商標を登録出願し、本件商標は、同4年(2022年)2月15日に登録査定された。
ケ 2021年8月6日付けで請求人からサクラグループのA氏及び被請求人の代表者であるB氏に対し、本件契約終了に関する最後通告及び本件契約11条に基づく登録商標の返還を求める旨を内容とするEメール及び書面を通知した(甲52)
コ 2021年9月6日付けの書面及びEメールで、請求人は、サクラグループのA氏及びB氏に対し、本件契約11条に基づく登録商標の返還を求める旨を通知した(甲53)。
(2) 検討
上記(1)の各事実によれば、請求人とサクラグループとは、本件契約に基づき、2011年1月1日から2020年12月31日までの10年間、請求人知的財産権の使用に関する独占使用権に係る契約関係があったところ、1998年に発行された請求人に係る書籍の表紙に、請求人標章及び本件商標と類似の特徴を有する筆記体風に表された標章(請求人によれば、請求人の略称である「Mark Gonzales」の文字を表してなる。)が使用されているから、請求人標章は、当該契約が適用される請求人知的財産権の範囲内にあったと理解できる。
そして、2020年3月以降、請求人からサクラグループに対し、本件契約は同年12月31日に終了する旨の意思表示(本件契約は元々最大10年の更新が明記されていた。)が数度にわたりなされていたところ、その契約終了後である令和3年(2021年)6月30日に、サクラグループの関係者でもある本件商標権者が、請求人標章と類似する本件商標を登録出願し、同4年(2022年)2月15日に登録査定されるに至ったものである。
そうすると、本件商標の登録出願は、請求人知的財産権に係るライセンシーとして請求人の我が国におけるライセンス事業活動を補助すべき取引関係や契約関係にあるサクラグループの関係者(B氏)が、当該契約や取引関係が終了することを十分認識しながら、その契約満了の後になされたものであるから、その登録出願の経緯は、適正な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠くというべきで、また、その登録出願は、請求人の事業を阻害する若しくは損害を与える目的又は不正の利益を得る目的などの不正の目的でなされたものと推認できる。
なお、本件契約には、サクラグループは請求人の要求があれば返還することを条件として請求人標章を含む商標について商標登録することができる旨の条項があったものの、同契約下で取得した登録商標の返還請求を重ねて拒否していることなどを鑑みれば、本件商標の登録出願は、本件契約の下で使用が許されてきた本件商標を、その契約満了後に独占するべく、不正の目的でなされたものと理解できる。
そうすると、本件商標は、その登録出願の経緯及び目的に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合に当たるものとして、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
2 被請求人の主張について
被請求人は、本件審判請求の諾否の根拠となる商標権及び著作権を被請求人が正当に有していることの地位確認訴訟を、2021年12月13日付で東京地裁に提訴しているから、同確定判決と矛盾がないように本件審理を進めるのが妥当である旨主張する。
しかしながら、本件商標は、上記1(2)のとおり、取引関係や契約関係、登録出願の時期などを鑑みれば、その登録出願の経緯は、適正な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠くというべきで、また、その登録出願は、請求人の事業を阻害する若しくは損害を与える目的又は不正の利益を得る目的などの不正の目的でなされたものといえる。
そして、上記認定判断の内容は、著作権の帰属と直接関連するものではないから、被請求人が主張する別件訴訟の結論は、本件審判における審理判断の内容に何ら影響しない。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第第7号に該当するものであり、その登録は、同条第1項の規定に違反してされたものであるから、その余の無効理由について判断するまでもなく、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-890076