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商標無効審判

2022-890071

審判番号
2022-890071
法域
商標
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
商願2003-020694
登録番号
4721595
請求日
2022年09月01日
審決日
2023年09月25日
公報発行日
2025年08月29日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】マーク・ゴンザレス
  • 【請求人代理人】成川 弘樹
  • 【請求人代理人】金子 禄昌
  • 【請求人代理人】葛谷 滋基
  • 【被請求人】サクラインターナショナル 株式会社
審判長/審判官
  • 審判長 矢澤 一幸
  • 審判官 小田 昌子
  • 審判官 阿曾 裕樹
分類
T111 .22 -Y (Y25) / T111 .222-Y (Y25)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
商標法4条1項7号商標法4条1項19号商標法46条1項
条文(本文から自動抽出・参考)
商標法第4条第1項第7号、商標法第4条第1項第19号、商標法第4条第1項第8号、特許法第74条、商標法第29条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

上記当事者間の登録第4721595号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。

理由

理 由 第1 本件商標 本件登録第4721595号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成よりなり、平成15年3月17日に登録出願、第25類「洋服,コート,Tシャツ,スポーツシャツ,ポロシャツ,靴下,手袋,帽子,その他の被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として、同年9月30日に登録査定、同年10月24日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 請求人が、本件商標の登録の無効の理由において、本件商標が商標法第4条第1項第7号、同項第19号に該当するとして引用する、別掲2のとおりの標章(以下「請求人標章」という。)は、請求人が、自らの作品やデザインに使用し、請求人又は請求人が選んだライセンシーの製品を表示するものとして需要者の間に広く知られていると主張するものである。 第3 請求人の主張 1 請求の趣旨 請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を、審判請求書及び弁駁書において、要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証から甲第84号証(枝番号を含む。以下、枝番号の全てを示すときは、枝番号を省略する。)を提出した。 以下、証拠の記載にあたっては、「甲第○号証」を「甲○」のように記載する。 2 請求の理由 (1)はじめに 被請求人は、サクラグループ有限会社(以下、「サクラグループ」といい、被請求人と総称して「被請求人ら」という。)と一体となって、請求人が創作し権利を有する画像、デッサン、詩、ストーリー及びデザイン、並びに「Mark Gonzales」という請求人の略称及び「Gonzo Cuntry」という名称(以下、総称して「請求人知的財産」という。)に係る商標(本件商標(甲1)を含む。)を用いて請求人(又は請求人が選んだマスターライセンシー)が行う日本国内でのライセンスビジネスを妨げてはならない信義則上の義務を負っている。 かかる事情にもかかわらず、被請求人は、請求人がサクラグループに一定の条件付きで請求人知的財産に係る商標を権利保護の目的で出願することを許諾したことやそのためサクラグループが本件商標の権利者となっていたこと等を奇貨として、請求人が本件商標を始めとする請求人知的財産に係る商標を用いて日本国内でライセンスビジネスを行うことを妨げ、他方で請求人の名声や顧客誘引力に便乗して不当な利益を得る目的の下、サクラグループから本件商標の譲渡を受け、これを使用している。 このような、被請求人が本件商標の譲渡を受けた経緯と目的を踏まえると、被請求人による本件商標の保有及び使用は、請求人との間の信義則上の義務違反になるだけでなく、健全な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠く行為といえるため、このような行為に係る本件商標は、被請求人がサクラグループから譲渡による移転登録を受けたときに公正な取引秩序を害し公序良俗に反するに至ったといえ、本件商標は無効である(商標法第4条第1項第7号)。 また、本件商標は、その登録出願時から現在に至るまで、請求人又は請求人が選んだライセンシーの製品を表示するものとして日本国内及び米国で需要者の間に広く認識されている請求人標章(甲6) と同一又は類似する。 前記の譲渡に至るまでの経緯や目的等を踏まえると、被請求人が不正の目的でかかる本件商標を出願したことは明らかであるから、本件商標は無効である(商標法第4条第1項第19号)。 (2)商標法第4条第1項第7号に該当すること ア 被請求人による信義則上の義務違反 (ア)請求人について 請求人は、現在、世界で最も著名なスケートボーダーの一人であり、そのことは、最も著名なスケートボード専門誌である「THRASHER MAGAZINE」の表紙に取り上げられ(甲7)、上記専門誌と並んで著名な専門誌である「Transworld Skateboarding」において、2006年に「2006 Legend Award」を授与され、2011年に「The 30 Most Infulential Skaters Of All Time」の1位に選出されたこと(甲8、甲9) 等からも明らかである。 そして、世界的に著名なスポーツ用品ブランドであるアディダスと20年以上にわたり、パートナーシップを結んでいる事実(甲11、甲12) や日本国内で非常に知名度の高い鞄ブランドである吉田カバンが請求人を「史上最も影響力のあるスケートボーダー」と紹介し(甲13) 、プロサッカーチームであるFC東京が請求人を「スケートボード界で伝説な地位を確立し歴史上最も有名なプロのスケートボーダーの一人」と紹介している事実(甲14) もこれを裏付けている。 また、請求人は、スケートボーダーとしてだけでなく、アーティストとしても著名であり、これまでアメリカ、イギリス、ブラジル、フランス、オランダ、ドイツ、スイス、オーストリア、メキシコ、スペイン、スウェーデン、イタリア、ノルウェー等多くの国で請求人の詩やアート作品のグループ展や個展が開かれている(甲15) 。 日本国内においても、グループ展として2001年「Untitled2001」等、個展として2010年「INVITATION」、2014年「BABY DON’T MIND」、2016年「MARK GONZALES - TOKYO SILK SCREEN」、2021年「No Rain Today」が開催されており、請求人及びその作品は日本国内外で名声を得ている(甲16~甲18) 。 (イ)本件商標について a 本件商標に係る権利者の変遷 本件商標は、被請求人によって2003年3月17日に出願され、同年10月24日に登録されたものである(甲1) 。その後、2009年6月29日に被請求人からサクラグループヘ譲渡されたが、2020年10月19日には再度被請求人へ譲渡され、現在に至っている(甲19) 。 b 本件商標の構成等 本件商標は、請求人標章と同一の図形から構成される商標である(甲1、甲6) 。 本件商標は、請求人が創作した「エンジェル」又は「シュムー」(shmoo)等と称されるキャラクター(以下「エンジェル」という。)を表したものである。請求人は、遅くとも1998年頃から、エンジェルを自らの作品やデザインに用いている(甲20)。図形部分の著作権も請求人が有しており、大韓民国では請求人の略称のロゴと併せて請求人の創作物として著作権登録を受けている(甲21) 。 また、エンジェルは、請求人が適法にライセンスを付与しているアディダスブランドの製品においてデザインに使用されており(甲22) 、請求人を象徴するキャラクターという位置づけにあるから、本件商標は、請求人を強く連想、想起させるものである。 (ウ)被請求人らによるライセンスビジネスについて 被請求人らは、2011年1月1日から2020年12月31日まで、請求人とサクラグループとの間で締結した「LICENSING AGREEMENT」(以下「本件契約」という。)に基づき、日本を含むアジア地域において、請求人知的財産を使用した衣料品、アクセサリー等の製造販売のライセンスビジネス(以下「本件ライセンスビジネス」という。)を行っていた(甲23)。 請求人自身の名声や請求人知的財産の顧客誘引力に依拠して被請求人らが本件ライセンスビジネスを行い、サブライセンシーが製品を製造販売することにより、請求人の略称に由来した「Mark Gonzales」というブランドの製品が、日本国内で広く流通するに至っている (以下、ブランドとしての「Mark Gonzales」を「本件ブランド」、本件ブランドを冠する製品を「本件ブランド製品」という。)。 なお、本件契約の当事者は、請求人とサクラグループであって、被請求人は形式的には本件契約の当事者ではなかったが、被請求人は、サクラグループと一体となって本件ライセンスビジネスを行っていた。 (エ)本件契約の本件商標への適用について 本件商標をはじめ、本件ライセンスビジネスで使用された請求人知的財産に関する登録商標には、被請求人が本件契約の締結以前に出願登録したものも含まれるが、本件契約はこれら本件契約締結以前に登録された商標も適用対象としている。 かかる前提が当事者間で共有されていたことは、被請求人とサクラグループが一体となって本件ライセンスビジネスを行っていることや、被請求人が、本件契約の締結までに本件商標を含むこれらの商標をサクラグループヘ譲渡し、サクラグループがこれらの商標の権利者となった上で本件契約が締結されていることからも明らかである(甲19、甲23、甲35、甲37、甲39) 。 (オ)被請求人らが、請求人知的財産に係る商標を用いて請求人が行うライセンスビジネスを妨げてはならない信義則上の義務を負うこと a サクラグループが請求人知的財産に係る商標を用いて請求人が行うライセンスビジネスを妨げてはならない信義則上の義務を負うこと 被請求人らによる本件ライセンスビジネスは、本件契約を根拠に行われており、かかる本件契約では、本件契約11条において、請求人知的財産に関して、サクラグループは、請求人の請求があれば請求人へ返還することを条件として、請求人の権利を保護する目的である場合に限り、商標登録等を行うことができる旨定められていた(甲23) 。 なお、本件契約は被請求人が本件契約以前に登録していた請求人知的財産に関する商標についても適用対象としているから、本件商標を含むこれらの商標も本件契約11条が定める条件及び目的の下でのみ商標登録を維持することが認められていたものである。 本件契約第11条の趣旨は、請求人が米国に居住していることもあり、アジア地域における請求人知的財産に係る商標権等の権利を保護する必要が生じた際は、一次的にサクラグループを通じた権利保護を図ることにより、請求人の権利を迅速かつ確実に保護する点にあるから、かかる趣旨からして、請求人知的財産に係る商標の権利については、最終的に請求人が返還を受けて権利者となることが予定されていたといえる。 また、本件契約は最長10年間(2020年12月31日まで)有効であるが、その後の契約期間の延長の規定が存在していないから(甲23)、請求人と被請求人らとの間では、被請求人らによる本件ライセンスビジネスや請求人知的財産に係る商標の使用が許諾されるのは最長10年間であること、本件契約の有効期間満了後は、請求人によりサクラグループが新たなマスターライセンシーに選ばれない限り、サクラグループが行っていた本件ライセンスビジネスを請求人(又は請求人が選んだ新たなマスターライセンシー)が引き継ぐことが予定されており、その結果として、サクラグループは、請求人知的財産に係る商標を用いて請求人(又は請求人が選んだマスターライセンシー)が行うライセンスビジネスを妨げてはならない信義則上の義務を負っていた。 b 被請求人とサクラグループが実質的に一体であること 本件契約締結以前に、被請求人や被請求人の代表取締役であるB氏は、請求人と書籍「SOCIAL PROBLEM」の出版やCDアルバム「What it isNt」の制作等を行っていた。かかる取引関係の存在を契機に、請求人はサクラグループと本件契約を締結するに至ったが、かかる契約締結の交渉は実際にはサクラグループではなく、B氏が行っていた。 また、2020年3月頃、請求人はサクラグループに対し、2014年分以降のロイヤリティーの支払いと本件契約11条に基づく日本国内外の登録商標の返還等を求めており(甲41、甲42)。このとき、サクラグループ側で実際に交渉やロイヤリティーの支払を行ったのはB氏であった(甲42、甲43)。 さらに、サブライセンシーが新たな本件ブランド製品の製造販売を企画する際、本件契約3条により、サブライセンシーはデザイン等について請求人の承認を得る必要があるが、その窓口になっていたのはB氏であった。 以上のように、サクラグループやサクラグループ代表者であるA氏ではなく、被請求人の代表者であるB氏が、請求人やサブライセンシーと交渉を行う窓口になっていたから、被請求人とサクラグループが、実質的に一体になって本件ライセンスビジネスを行っていた。 また、ファッションビジネスの業界紙である繊研新聞の本件契約期間中(2011年頃から2020年)の記事では、被請求人が請求人の知的財産に係るライセンスを有しているとの記述や被請求人がマスターライセンシーであるとの記述、さらには被請求人自身が請求人とライセンス契約を締結しているとの記述が存在する一方、請求人との関係でサクラグループを取り上げた記事が見当たらない(甲44~甲50) から、本件契約締結後、被請求人は、マスターライセンシーとして本件ライセンスビジネスを行っていたのであって、サクラグループと一体であった。 さらに、本件契約に係る契約書(甲23)や本件ライセンスビジネスに係る商標の登録原簿(甲19、甲35、甲37、甲39) に記載されたサクラグループの所在地は、被請求人の本店所在地(甲51)となっている。 また、サクラグループの代表者はA氏であるところ(甲52)、同氏はB氏と配偶者の関係にあり、これらの所在地の同一性や代表者の婚姻姻関係は、被請求人とサクラグループは本件ライセンスビジネスに係る商標や契約の管理を一体となって行っていたことの証左である。 以上から、被請求人はサクラグループと一体的に本件ライセンスビジネスを行うとともに、本件契約を含むライセンスの管理を行っていることは明らかであるから、被請求人とサクラグループは実質的に一体である。 なお、本件とは直接関連しない事案であるが、被請求人が保有する商標に係る審決取消請求事件である知財高判令和2年1月29日(Westlaw Japan文献番号2020WLJPCA01299004) 事件では、被請求人とサクラグループが「関連会社」の関係にあり、共にライセンスビジネスを行っていることを前提に裁判所の判断がなされている(甲53) 。かかる裁判所の判断からも、被請求人とサクラグループが一体であることがうかがえる。 (カ)被請求人らによる義務違反 a 請求人知的財産に係る商標を返還しないこと 本件契約6条により、サクラグループは請求人に対し、毎年一定額のロイヤリティーの支払義務を負っており、また、本件契約3条により、サクラグループは、請求人知的財産を使用した製品の製造販売の際、事前に、サクラグループが請求人に承認対象となる製品のデザイン又はサンプルを送付して承認を得る義務を負っていた(甲23) 。 しかし、サクラグループは、2014年分以降、請求人へのロイヤリティーの支払いを怠るようになり、サブライセンシーが企画する本件ブランド製品の製造販売に関して、被請求人らは、請求人の承認を都度得ることなく、サブライセンシーに本件ブランド製品の製造販売を承認するようになった(甲44~甲50) 。 そのため、2020年3月頃、請求人はサクラグループに対し、2014年分以降のロイヤリティーの支払いと本件契約11条に基づく日本国内外の登録商標の返還を求めた。また、併せて、請求人に更新の意思はないこと、本件契約10条による契約期間の更新の上限(10年間)を迎える2020年12月31日に本件契約が終了すること、本件契約の終了に伴う混乱を避ける措置として、請求人がサブライセンシーに直接ライセンスを許諾する用意があり、円滑な権利関係の移行に協力するよう求める旨をサクラグループに伝えた(甲41) 。 その後、請求人とサクラグループとの間で交渉が行われたが、サクラグループ側で実際に交渉を行ったのは被請求人の代表者であるB氏であった。交渉の結果、請求人とB氏は、2020年12月31日に本件契約が終了することを前提に、請求人が契約終了までに製造された本件ブランド製品の販売に限り、2021年1月1日から同年12月31日まではセルオフ期間として許諾すること、サクラグループが2014年分から2020年分のロイヤリティーとセルオフ期間設定の対価を支払うことで合意し、2020年7月頃、被請求人から請求人に上記金員が支払われた(甲42、甲43) 。 しかし、被請求人らは、本件契約が終了し、セルオフ期間に入ったにもかかわらず、マスターライセンシーの立場からサブライセンシーに対して請求人知的財産を使用した新製品の製造販売を許諾し続ける一方、請求人からの請求人知的財産に係る商標の返還請求に何ら対応しなかったので、2021年4月12日頃、請求人はサクラグループに対し、本件契約の終了を確認するとともに、あらためて請求人知的財産に係る商標の返還を請求する書面を送付した(甲54) 。 これに対し、2021年4月27日頃、被請求人らは、代理人を介して、請求人に対し、本件契約は2021年12月31日まで延長されており、そのため商標を返還する理由がない旨の回答を行った(甲55) 。 この点、請求人は2021年12月31日までをセルオフ期間と定めたにすぎず、本件契約が2021年12月31日まで延長されたとの事実はない。また、本件契約11条は、請求人の要求に応じて登録した商標を返還するとのみ定められているから、仮に契約期間中であっても、請求人が請求すれば商標を返還する義務を負っていた。そのため、被請求人らの主張は明らかに合理的な根拠を欠くものであった。 そのため、請求人は、2021年8月6日頃及び同年9月6日頃にも商標の返還を求める書面の送付を行ったが、いずれの書面に対しても被請求人らからの回答はなかった(甲56、甲57)。 その後、2021年11月頃には、請求人からハワード株式会社(以下「ハワード社」という。)や有限会社シアーズ(以下「シアーズ社」という。)等の被請求人らの国内のサブライセンシーに対しセルオフ期間の終了が迫っていることを伝える文書を送付した(甲58、甲59) 。 これに対して、被請求人らは請求人に向けて、請求人との被請求人らの契約上、商標権を請求人に引き渡すことを定めた条項は存在しないといった内容の通知を行った(甲60) 。 しかし、本件契約11条は明示的に商標権を返還する義務を定めている(甲23)から、2022年3月頃、請求人はこの点を指摘しつつ再度請求人知的財産に関する商標権の返還を求めたが、被請求人らは何ら回答しなかった(甲61) 。 以降、請求人に請求人知的財産に関する商標の一切が返還されないまま現在に至っている。 b 被請求人らが本件商標を用いたライセンスビジネスを開始していること 2021年12月頃、ハワード社が、ブランドロゴに、本件商標、登録第6447374号商標及び登録第6447375号商標等、請求人知的財産を使用して、「(What it isNt)ART BY MARK GONZALES」というブランド(以下「新ブランド」という。)の展開を始め(甲1、甲63~甲65)、シアーズ社も遅くとも2022年2月頃から、同様に新ブランドの取扱いを開始した(甲66) 。 本件商標、登録第6447374号商標及び登録第6447375号商標の現在の権利者は被請求人であるから、ハワード社及びシアーズ社に対しては、被請求人が本件商標のライセンスを付与しているものと推察される(甲1、甲63、甲64)。 そして、この新ブランドに係るウェブページには、「『(What it isNt)』のプロモーションのため、マーク・ゴンザレスのアートワークを中心にデザインされた商品です。」、「その名もアルバム名から取られた『(What it isNt) 』CD制作過程でゴンズ自身が描き下ろしたポエムやグラフィックを中心にウェアやグッズに反映させた販売促進プロジェクトです。」等といった請求人との関連性を強調する記述がなされている(甲65、甲66-1)。 このような本件商標を使用した新ブランドの製品やウェブページを見た一般消費者は、新ブランドが請求人の許諾の下で展開されていると誤認して製品を購入することは明らかであり、一般消費者がかかる誤認をすることにより、請求人が本件商標を用いたブランドビジネスを展開することが困難となっていくことは明らかである。 c 小括 以上より、被請求人は、本件商標を含め請求人知的財産に係る商標を請求人に返還せず、自ら保有し続けており、この状態が継続すれば、請求人は、本件商標を用いたライセンスビジネスを展開していくことが困難となり、重大な営業上の不利益を受けるおそれが生じる。 そのため、被請求人は、請求人知的財産に係る商標を用いて請求人が行う日本国内でのライセンスビジネスを妨げてはならない信義則上の義務に明らかに違反している。 なお、被請求人らは、本件商標以外にも請求人知的財産に係る商標を保有し、または出願を行っている(以下、総称して「関連商標」という。)から、被請求人らによる義務違反の程度は極めて大きいといえる(甲34~甲39、甲63、甲64、甲67~甲75)。 イ 本件商標の譲渡の経緯及び目的について (ア)本件商標の譲渡の経緯 被請求人は、本件契約の当事者であるサクラグループと一体であることから、本件商標については、請求人の請求があれば請求人へ返還することを条件として、請求人の権利保護のためにする場合に限り、商標登録の維持が認められていることを当然認識していた。 また、被請求人らは、請求人から繰り返し請求人知的財産に係る商標の返還請求を受けており(甲41、甲42、甲54、甲56、甲57、甲61) 、本件商標に係る権利を請求人に返還する必要があることを十分認識しているにもかかわらず、返還しないばかりか、本件商標をサクラグループから被請求人に該渡した上、本来被請求人に帰属すべき権利と主張し、使用し続けている(甲60) 。 (イ)被請求人らによる関連商標の譲渡 サクラグループは、2020年10月19日、本件商標及び登録第4721594号商標を被請求人へ譲渡し(甲1、甲19、甲38、甲39)、その後、2021年11月24日にも、登録第4765359号商標及び登録第4769801号商標を被請求人へ譲渡している(甲34~甲37)。 被請求人らがこのような関連商標の譲渡を行ったのは、本来、サクラグループは、請求人から本件契約11条に基づく返還請求を受けた場合、これに応じなければならないことから、被請求人に商標を譲渡することで、請求人からの請求を回避することを意図したためと推測され、このような意図で関連商標の譲渡を行っている以上、被請求人らが請求人のライセンスビジネスを妨げる意図をも有していたことは明らかである。 (ウ)被請求人による新ブランドのライセンス付与 ハワード社やシアーズ社が被請求人からライセンスの付与を受け、新ブランドを展開し、被請求人が、本件契約終了後にも本件商標をブランドロゴ等に使用して、新ブランドに係るライセンスビジネスを開始していること、かかる使用が新ブランドと請求人の関連性を強調していること等からすれば、本件商標が、請求人の名声やこれに基づく顧客誘引力に便乗して、ライセンスビジネスを行う目的で使用していることが明らかである(甲65、甲66)。 (エ)小括 以上より、被請求人は、請求人の権利保護のための商標登録が許諾されていたこと等を奇貨として、請求人のライセンスビジネスを行うことを妨げ、他方で請求人の名声やこれに基づく顧客誘引力に便乗する目的の下、サクラグループから本件商標の譲渡を受けて保有し、これを使用していることが明らかである。 ウ 結論 被請求人による本件商標の保有及び使用は、その経緯と目的において健全な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠くといえ、このような行為に係る本件商標は、被請求人がサクラグループから移転登録を受けた時に公正な取引秩序を害し公序良俗に反するに至ったというべきである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。 (3)商標法第4条第1項第19号に該当すること ア 請求人標章の周知性 請求人標章は、本件商標の登録出願時、日本国内及び請求人の出身地でありプロスケートボーダーやアーティストとしての活動の多くを行っていた米国において、請求人(又は請求人が選んだマスターライセンシー) の製品を示す商標として広く知られていた。 (ア)国内における周知性があること 本件商標の登録出願時、請求人は既に国内のスケートボード関連製品の市場やアパレル関係の市場で広く知られていた。このことは、1998年頃の繊研新聞上「世界トップクラスのスケートボードの名手」かつ「イラストレーターとしても活躍するマルチアーティスト」等と紹介されていることや(甲76) 、2002年11月25日に出願された請求人の略称に係る商標が商標法第4条第1項第8号に該当するとの理由で登録を拒絶されていることからも裏付けられる(甲77、甲78) 。 加えて、1998年発行の書籍「SOCIAL PROBLEM」や2001年発売のCDアルバム「What it isNt」等、2002年頃にはエンジェルを用いた請求人の作品・製品が流通するようになっていたことも踏まえれば(甲20、甲40) 、請求人自身の著名性と相まって、本件商標の出願までに、エンジェルは請求人を象徴するキャラクターとして認識されるに至っていたといえる。 このように、エンジェル、そしてこれを表した請求人標章は、遅くとも本件商標の登録出願時には、国内のスケートボード関連製品及びアパレル製品の取引者及び需要者に、請求人(又は請求人が選んだマスターライセンシー)の製品を示す商標として広く知られていた。 (イ)米国における周知性があること 請求人は、1998年頃にはプロスケートボーダーやアーティストとして米国内で著名な人物となっており、当時、日本国内においても「世界トップクラス」等と評されていることはこれを裏付けている(甲76) 。 そして、請求人は遅くとも1998年頃から自らの作品やデザインにエンジェルを用いていることに加え(甲20) 、同年、当時からスケートボード業界に大きな影響力を有する雑誌「THRASHER MAGAZINE」上に自身の記事を掲載する際にもエンジェルを描くなどしている(甲79) 。このような事情から、請求人自身の著名性と相まって、本件商標の出願時には、少なくとも米国のスケートボード関係者の間で、エンジェルは請求人の象徴として広く認識されるに至っていた。 このように、エンジェル、そしてこれを表した請求人標章は、遅くとも本件商標の登録出願時には、米国のスケートボード関連製品の取引者及び需要者に、請求人(又は請求人が選んだマスターライセンシー)の製品を示す商標として広く知られていた。 イ 本件商標と請求人標章が同一であること 本件商標と請求人標章が同一の商標であることは明らかである(甲1、甲6) 。 ウ 不正の目的について 商標法第4条第1項第19号の「不正の目的」とは図利・加害目的をはじめとして取引上の信義則に反するような目的をいう。 この点、繊研新聞によれば、被請求人は、本件商標の登録出願前、2003年2月頃には既に請求人のマスターライセンシーを名乗り、請求人の名声やこれに基づく顧客誘引力を利用したライセンスビジネスを行っていたことがうかがわれる(甲80) 。 その後、本件契約が2010年に締結されているが、被請求人は、契約期間中には請求人から必要な承認の取得を怠り、本件契約の終了前後には、締結時にサクラグループヘ移転した本件商標に係る権利を再度自らに移転した上、何ら合理的な根拠なく被請求人への権利帰属を主張し始めるなど、実質的な当事者であるにもかかわらず、明らかに本件契約を軽視する態度をとっている。 そして現在、被請求人は、請求人の権利保護のための出願が許諾されていたことや、そのため請求人自身が本件商標の出願をしていなかったこと等を奇貨として、請求人のライセンスビジネスを行うことを妨げ、他方で請求人の名声やこれに基づく顧客誘引力に便乗して不当な利益を得る目的で、信義則上の義務に違反することも省みず、サクラグループから本件商標の譲渡を受け、これを使用し続けている。 かかる目的が取引上の信義則に反し、不正の目的に該当することは明らかであるが、以上の経緯は、被請求人が現在のみならず、本件商標の登録出願の時点で請求人の名声やこれに基づく顧客誘引力に便乗して不当な利益を得るという不正の目的を有していたことを示している。 すなわち、被請求人は、不正の目的をもって本件商標を登録出願及び登録し、請求人知的財産に係るライセンスビジネスを行っていたところ、2010年にサクラグループを名義人として本件契約を締結する機会を得たため、従前のビジネスを適法な本件ライセンスビジネスとして行うこととしたが、請求人との間で本件契約の更新ができず、2021年以降は本件ライセンスビジネスを継続できなくなったものである。そして、被請求人が本件契約を軽視していたことを踏まえれば、現在も不正の目的をもって本件商標の使用や新たな関連商標の出願を続けていることは、被請求人において本件商標の登録出願時から前記の不正の目的を有していたことの証左というべきである。 したがって、被請求人は不正の目的をもって本件商標を登録出願し、登録を受けたといえる。 エ 結論 以上より、本件商標は、請求人の業務に係る商品を表示するものとして我が国又は外国において周知の請求人標章と同一又は類似の商標であって、不正の目的をもって使用する商標である。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。 3 答弁に対する弁駁 (1)被請求人が本件契約に基づく本件商標の返還義務に違反している事実が商標法第4条第1項第7号該当性を基礎づけること ア 被請求人が本件契約の当事者に含まれること 本件契約の契約書の形式上、被請求人は当事者とされていないが(甲23) 、被請求人はサクラグループと一体的な存在として、実質的な契約当事者である。 この点、被請求人ら自身も、現在東京地方裁判所に係属中の被請求人及びサクラグループを原告、請求人を被告とする訴訟(令和3年(ワ)第32244号損害賠償等請求事件)において、被請求人が本件契約の当事者に含まれることを認めている(甲81) 。 イ 被請求人が本件契約上の商標返還義務に違反していること 本件契約11条が、請求人知的財産に関して、請求人の請求があれば請求人へ返還することを条件として、請求人の権利を保護する目的である場合に限り、商標登録等を行うことができる旨を定めていること(甲23)、及び本件契約が被請求人らにおいて本件契約の締結以前に出願登録していた請求人知的財産に関する商標も適用対象としているから、本件契約の締結前に出願登録された本件商標も、本件契約11条に基づく返還義務の対象であり、被請求人は、請求人の請求があれば、本件商標を請求人へ返還する義務を負うが、被請求人は、請求人からの返還請求に一切応ぜず、現在に至るまで本件商標の商標権者として使用を続けている。 ウ 被請求人が本件契約上の商標返還義務へ違反している事実が商標法第4条第1項第7号該当性を基礎づけること 本件契約11条は、被請求人らに対し、最終的に請求人へ返還することを条件として、請求人知的財産に関する商標を出願登録することを認めるものであるから、被請求人が契約上の義務に違反して本件商標を返還しない場合、請求人は、被請求人に対し、本件契約に基づいて移転登録手続を請求することが可能である。 もっとも、移転登録の申請手続は、確定判決によらない限り、譲渡人と譲受人が共同で手続を行うことが必要であり、被請求人の協力が必須となる(商標登録令10条、特許登録令18条)。また、確定判決を得て移転登録を受ける場合も含め、移転登録の時までは、被請求人らが本件商標の商標権者であったことは否定されない。加えて、請求人のようなライセンサーにとって、ライセンスビジネス上、一時的にでも、自己の統制下にない者が商標権者であるとの法律的地位が生じることは、事業上の信用を損なう重大事である。 本件において、被請求人は、本件契約上の返還義務に違反しているだけでなく、本件商標が本来被請求人に帰属するものであるとまで主張している。そのため、請求人としては、無効事由が生じて以降の被請求人らによる商標の使用が商標権に基づくものではなかったという実体法上の関係を、第三者との間でも明確にする必要がある。そのため、実質的には本件商標を無効とした上で、信用の回復を図るほかない状況にある。 以上より、被請求人が本件契約上の商標返還義務に違反している事実が、請求人が請求人知的財産を用いてライセンスビジネスを行うことを妨げてはならない信義則上の義務に違反していることを基礎づけることは明らかである。 なお、裁判例には、商標権の帰属と関連して商標法第4条第1項第7号該当性が問題となった事案において、外国法人が「ライセンシーが商標登録出願して登録を得た場合にその登録された商標の商標権の譲渡を受けることを約するなどの措置を採ることができたにもかかわらず、そのような措置を怠っていた」といった事情を「公の秩序又は善良の風俗を害する」商標への該当性を否定する事情として挙げるものがある(甲82) 。 このような指摘からは、裁判例上、ライセンサーとライセンシーの間でライセンス対象の商標が最終的にライセンサーに譲渡されるべきことを契約上定めたが、ライセンシーが契約に違反したために当該商標の商標権者となっているとの事情が、当該商標が公正な取引秩序に反し、著しく社会的妥当性を欠くことを基礎づける事情と解されていることがうかがわれる。 また、特許法に関する議論であるが、移転請求制度(特許法第74条)の創設に併せて、冒認又は共同出願違反の出願であることを無効事由から除くべきか議論された際も、真の権利者が特許権の消滅を望む場合がある等の意見が重視され、冒認等による出願であることは無効事由として維持されたという経緯があり(甲83)、この考え方は、特許権と同じく登録制度を基盤とする商標権においても当てはまる。そのため本件において、請求人が被請求人に対して本件契約上の商標返還請求権を有するとの事情が、本件商標に係る無効事由の存在を否定する事情とはならない。 以上より、被請求人が、本件契約上の商標返還義務に違反し、商標権者として振舞っている事実は、請求人が請求人知的財産を用いてライセンスビジネスを行うことを妨げてはならない信義則上の義務に違反していることを基礎づけるだけでなく、かかる事実自体、被請求人がサクラグループから移転登録を受けたときに、本件商標が公正な取引秩序を害し公序良俗に反することを基礎づける事情といえる。 (2)被請求人の主張について 被請求人は、本件商標に用いられた図形の著作権を自身が有しているとし、その根拠として、当該図形は、Cujo Arts and Literature, Inc. (以下「Cujo」という。)及びトミー・ゲレロ(Tommy Guerrero)氏の共同著作物であり、この両者から譲渡を受けて、被請求人が著作権者となった旨主張する。 しかしながら、本件商標の図形は請求人が単独で創作したものであり、その著作権は請求人に原始的に帰属するものであり、請求人は、被請求人はもとより、Cujo及びトミー・ゲレロ氏に対しても、著作権を譲渡したことはない。 被請求人は、両者から本件商標の図形の著作権の譲渡を受けたことを3件の書類で確認したと主張するが、そもそもCujo及びトミー・ゲレロ氏は著作権を譲渡する権限を持たないから、かかる書類が被請求人の主張の根拠とはならない。 なお、被請求人は、本件商標の図形は職務著作物に該当し、著作権がCujoに原始的に帰属すると主張しているが、請求人がCujoの従業員であったことはない。 また、被請求人は、米国において著作権登録を行ったことが、本件商標の図形が被請求人に帰属することを証明していると主張する。 しかしながら、本件商標の図形の著作権を被請求人が取得する余地はないから、米国における著作権登録は無効となるべきものであるから、現在請求人は、被請求人を被告として米国ニューヨーグ州南部地区連邦地方裁判所において訴訟提起し、著作権登録を無効とすることを求めている(甲84)。 なお、被睛求人はサクラグループと共に、ライセンシーとして本件商標の登録を維持し、使用することについて請求人の許諾を受けていたこと(甲23) 、商標法上、著作権の帰属は主として商標の使用に関する問題であることからすれば(商標法第29条)、仮に被請求人が著作権を有していたとしても、かかる事情によって商標法第4第第1項第7号該当性が否定されることはない。 よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同項第19号に該当する。 第4 被請求人の答弁 1 答弁の趣旨 被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を、審判事件答弁書において、要旨次のように述べた。 2 答弁の理由 (1)本件商標の著作権も被請求人が有すること 請求人は、虚偽の証拠及び虚偽の陳述を通して、本件商標の著作権を自らが有するかのように主張しているが、間違いである。 本件商標の図形は、Cujo及びTommy Guerrero氏の共同著作物であり、両者より、被請求人に対して著作権が譲渡されたことは、下記3書類をもって確認されている。 ア 2000年10月20日付「Music Production Service Agreement between Sakura International and Cujo Arts and Literature, Inc./Tommy Guerrero イ 2022年6月24日付「AFFIDAVIT」by Tommy Guerrero ウ 2022年8月7日付「Cujo's Right Transfer Agreement」between Sakura International and Cujo Arts and Literature, Inc. さらには、本件商標の図形は、共同著作権者[Cujo(職務著作物)と Tommy Guerrero(著作物)]より、被請求人に正当に著作権が譲渡され、現在の著作権者は、Sakura Internationalである旨、米国の著作権局(United States Copyright Office) が著作権登録にて証明している。 (2)請求人の不法行為 請求人は、Cujoの雇用人として、本件商標の図形の制作にあたったのは事実であるが、その権利はあくまで、職務著作物としてCujoに原始的に発生し、帰属していた。 請求人は、上記事実を歪曲し、自らが著作権者として韓国において虚偽の著作権登録をし、さらに、それを証拠に、他人の登録商標を蝙取しようと企んでいる。 (3)請求人の信義則違反 本件商標は、被請求人が2003年に自らを出所とする商標として商標登録し、その後約20年にわたり多大な投資を重ね、顧客吸引力のある商標へと育て上げてきた。その間一度も無効審判請求を提起することもなく、今頃になって、有名登録商標を騎取しようとする行為は、信義則上も許されるべき行為ではない。 (4)係争中であること 被請求人(原告)は、請求人(被告)を相手どり、[請求人等の共同不法行為に対する損害賠償請求の正当性の根拠として]本審判請求対象の本件商標(「登録第4721595号商標」)、及び、その根拠となる本件商標の図形の著作権を被請求人が正当に有していることの地位確認訴訟を、2021年12月13日付で東京地裁に提訴している[令和3年(ワ)第32244号]から、同確定判決と矛盾がなきよう本件審理を進めることが妥当である。 第5 当審の判断 請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係を有する者であることについて、当事者間に争いがないので、本案に入って審理し、判断する。 1 請求人標章の周知性について (1)請求人の主張及び同人の提出した証拠によれば、以下の事実が認められる。 ア 請求人は、アメリカ合衆国出身のプロスケートボーダー及びアーティストであって、外国のスケートボードの専門誌(甲7~甲9)や我が国のインターネット記事(甲13、甲14)及び新聞(甲76)において取り上げられ、例えば「史上最も影響力のあるスケーター30」(甲9)、「史上最も影響力のあるスケートボーダー」(甲13)、「マーク・ゴンザレスは世界トップクラスのスケートボードの名手。一方でイラストレーターとしても活躍するマルチアーティストだ。」(甲76)のように紹介されている。 また、国内外で、1994年から2021年にかけて、請求人のアート作品の個展などが開催されている(甲15~甲18)。 イ 請求人標章は、1998年に発行された書籍に使用され(甲20)、また、2001年にリリースされたCDアルバムに使用されたこと(甲40、甲65、甲66-1)がうかがえる。 ウ 我が国においては、請求人標章を使用した被服、帽子、かばん類などの商品(以下、靴を含めて「請求人商品」という。)が、複数の通信販売サイト(甲31~甲33)を通じて販売されたことはうかがえるが、請求人商品の我が国における具体的な使用時期及び販売実績等は確認できない。 (2)判断 ア 上記(1)において認定した事実によれば、請求人は、アメリカ合衆国出身のプロスケートボーダー及びアーティストであって、外国のスケートボードの専門誌や我が国のインターネット記事及び新聞において紹介され、国内外で請求人に係るアート作品の個展などが開催されていることがうかがえる。 また、請求人標章は、1998年に発行された請求人に係る書籍、2001年にリリースされたCDアルバムに使用されたこと、我が国において、請求人標章を使用した請求人商品が、複数の通信販売サイトを通じて販売されたことがうかがえる。 しかしながら、請求人標章を使用した請求人商品の具体的な販売時期や請求人商品の我が国及び外国における売上高、市場シェアなどの具体的な販売実績を客観的に把握できない。 そして、請求人商品の広告宣伝について、我が国及び外国における請求人商品の広告宣伝規模を具体的に示す証拠は提出されていない。 また、国内外で請求人のアート作品の個展などが開催されているとしても、請求人標章の使用については明らかでないから、これをもって、請求人標章が、需要者にどの程度認識されるに至ったかを判断することができない。 よって、請求人提出の証拠からは、請求人標章を使用した請求人商品が、我が国及び外国の需要者の間にどの程度認識されているのか把握、評価することができない。 その他、本件商標の登録出願時において、請求人標章が我が国及び外国の需要者の間に広く知られていたことを認めるに足りる証拠の提出はなく、請求人標章の周知性を認め得る事情は見いだせない。 イ 以上のとおり、提出証拠によっては、請求人標章が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の作品、デザイン及び請求人商品を表示するものとして、我が国及び外国の需要者の間で広く認識されていたものと認めることはできない。 2 商標法第4条第1項第19号該当性について 本件商標と請求人標章が、同一又は類似の商標であるとしても、上記1のとおり、請求人標章は、本件商標の登録出願時及び登録審決時において、請求人の作品、デザイン及び請求人商品を表示するものとして、我が国及び外国の需要者の間に広く認識されていたものと認められないものである。 また、被請求人が不正の目的をもって、本件商標の登録出願を行ったことを客観的に証明し得る証拠の提出はない。 そうすると、本件商標は、請求人標章の知名度や名声にただ乗りするなど不正の目的をもって使用するものと認めることはできない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。 3 商標法第4条第1項第7号該当性について (1)請求人の主張及び同人の提出した証拠によれば、以下の事実が認められる。 ア 請求人は、アメリカ合衆国出身のプロスケートボーダー及びアーティストであって(甲7~甲9)、請求人標章は、1998年に発行された請求人に係る書籍に使用されているところ、プロデューサーとしてB氏の氏名がある(甲20)。 イ 被請求人は、上記第1のとおり、平成15年(2003年)3月17日に、本件商標を登録出願し、本件商標は、同年9月30日に登録査定された。 ウ 平成21年(2009年)6月29日に被請求人からサクラグループへ本件商標が譲渡された。 エ 請求人とサクラグループ(A氏が署名)との間において2010年12月8日付けで締結されたライセンス契約書(甲23。以下「本件契約」という。)には、以下のような条項がある。 (ア)請求人は、サクラグループに対し、2011年1月1日から1年間、請求人知的財産権を使用した衣料品、アクセサリー、プロモーション等に独占的に使用する権利を許諾する。 (イ)サクラグループは、その選択により、最大10年間、同一の条件で契約を更新できる。 (ウ)サクラグループは、請求人の要求があれば、返還することを条件として、請求人のデザインを保護するために登録することができる(第11条)。 オ 2020年3月から2022年3月にかけて、請求人と被請求人の間で、本件契約の終了、本件契約11条に基づく登録商標の返還、ロイヤリティーの支払いなどについて、書面や電子メールが交わされている(甲41~甲43、甲54~甲61)。 カ 2020年10月19日に、サクラグループから被請求人へ本件商標が譲渡された。 (2)検討 上記(1)の各事実によれば、被請求人の代表取締役であるB氏は、請求人が1998年に発行した書籍のプロデューサーであり、その後、請求人とサクラグループは、本件契約に基づき、2011年から2020年12月31日までの10年間、請求人知的財産権の使用に関する独占使用権に係る契約関係があったことから、請求人及び被請求人らは、比較的良好な事業関係にあったと考えられる。 そして、本件商標は、上記の良好な事業関係にあったと考えられる期間(少なくとも何らかのトラブルは確認できない。)である平成15年(2003年)3月17日に、サクラグループの関係者である本件商標権者が、請求人標章と同一又は類似する本件商標を登録出願し、同年9月30日に登録査定されるに至ったものである。 なお、本件契約の満了前(2020年3月頃)には、請求人と被請求人との事業関係は悪化していると考えられるものの、本件商標の登録出願は、それよりも17年前のことであるから、当該事業関係の悪化という事実関係をもって、本件商標の登録出願当時における出願目的を推し量ることはできない。また、本件商標が被請求人らの間で移転されているとしても、その移転の目的は不明であるから、そのことから本件商標の登録出願当時における出願目的を推し量ることはできない。 その他、被請求人が不正の目的をもって、本件商標の登録出願を行ったことを客観的に証明し得る証拠の提出がないから、被請求人が不正の目的で本件商標を登録出願したとはいえず、本件商標が不正の利益を得る目的、他人に損害を与える目的その他の不正の目的をもって使用をするものと認めるに足りる事実は見いだせない。 そうすると、本件商標について、商標法の先願登録主義を上回るような、その登録出願の経緯及び目的に著しく社会的相当性を欠くものがあるということはできないし、そのような場合には、あくまでも、当事者間の私的な問題として解決すべきであるから、公の秩序又は善良の風俗を害するというような事情があるということはできない。 さらに、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、被請求人らが請求人標章にフリーライドし、被請求人らが請求人に対して、本件商標の商標権を持ち出して請求人との交渉を優位に進めようとしたり、ライセンスビジネスに基づくライセンス料の請求や請求人標章の使用の差止請求などを行うなどの具体的な問題や損害は確認できないから、請求人の主張する本件商標の譲渡の経緯や本件契約に基づく被請求人らとの複数回にわたる本件商標の返還を巡る交渉の経緯等の事実によって、本件商標の登録自体が、適正な商道徳に反し、著しく社会的相当性を欠くとまでは認めるに足りない。 そうすると、本件商標は、その登録出願の経緯及び目的に著しく社会相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような事情があったとまでは認めることはできず、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標」ということはできない。 その他、本件商標は、その構成自体が非道得的、卑わい、差別的、きょう激又は他人に不快な印象を与えるものではなく、また、他の法律によってその使用が禁止されているものとも認められない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。 4 請求人の主張について (1)請求人は、不正の目的について、被請求人は、不正の目的をもって本件商標を登録出願及び登録し、請求人知的財産に係るライセンスビジネスを行っていたところ、サクラグループを名義人として本件契約を締結する機会を得たため、従前のビジネスを適法な本件ライセンスビジネスとして行うこととしたが、請求人との間で本件契約の更新ができず、本件ラインセンスビジネスを継続できなくなり、被請求人が本件契約を軽視していたことを踏まえると、現在も不正の目的をもって本件商標の使用や新たな関連商標の出願を続けていることから、被請求人は不正の目的をもって本件商標を出願し、登録を受けたといえる旨を主張する。 しかしながら、上記3(2)のとおり、被請求人が不正の目的をもって、本件商標の登録出願を行ったことを客観的に証明し得る証拠の提出はないから、被請求人が不正の目的で本件商標を登録出願したとはいえず、本件商標が不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用をするものと認めるに足りる事実は見いだせない。 (2)請求人は、本件契約は、本件商標をはじめ、本件ライセンスビジネスで使用された請求人知的財産に関する登録商標には、被請求人が本件契約の締結以前に登録出願、登録したものも含まれ、かかる前提が当事者間で共有されていたことは、被請求人サクラグループが一体となって本件ライセンスビジネスを行っていることや、被請求人が、本件契約の締結までに本件商標を含む商標をサクラグループへ譲渡し、サクラグループが商標権者となった上で本件契約が締結されていることからも明らかである旨主張する。 しかしながら、請求人の主張する上記事実を客観的に裏付ける証拠は確認できず、仮に、請求人の上記主張が事実であったとしても、そのことをもって直ちに、その登録出願の経緯が、適正な商道徳に反し、著しく社会的相当性を欠くとはいえない。 (3)請求人は、被請求人らの本件商標の譲渡の経緯や本件契約に基づく被請求人らとの複数回にわたる本件商標の返還を巡る交渉の経緯などを詳細に説明し、本件契約に基づき、被請求人らは、本件商標を用いて請求人が行う日本国内でのライセンスビジネスを妨げてはならない信義則上の義務を負っていたにも関わらず、本件商標を返還しないまま現在も本件商標を保有し、実際にライセンスビジネスを開始しており、被請求人らは、本件商標を用いて請求人が行う日本国内でのライセンスビジネスを妨げてはならない信義則上の義務に違反しているから、被請求人による本件商標の保有及び使用は、その経緯と目的において健全な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠くといえ、本件商標の登録は、被請求人がサクラグループから移転登録を受けた時に公正な取引秩序を害し公序良俗に反するに至った旨主張する。 しかしながら、上記3(2)のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、本件商標の商標権により何らかの具体的な問題や損害が確認できないものであり、請求人の主張する被請求人らの本件商標の譲渡の経緯や本件契約に基づく被請求人らとの複数回にわたる本件商標の返還を巡る交渉の経緯等の事実によって、本件商標の登録自体が、適正な商道徳に反し、著しく社会的相当性を欠くとまでは認められないものであり、上記の被請求人らの本件商標の譲渡の経緯や本件契約に基づく被請求人らとの複数回にわたる本件商標の返還を巡る交渉などの事実が、請求人や被請求人らなどのいさかいの具体例や背景事情であるとしても、それらの事実関係は、本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性の判断に直接影響を与えないものである。 (3)したがって、請求人の上記主張はいずれも採用することができない。 5 まとめ 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同項第19号のいずれにも該当するものではなく、その登録は、同条1項の規定に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。

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2022-890071

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