商標無効審判
2022-890068
アメフリ、ウコー、アフリ
- 審判番号
- 2022-890068
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 商願2021-009325
- 登録番号
- 6409633
- 請求日
- 2022年08月22日
- 審決日
- 2023年09月21日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】AFURI 株式会社
- 【請求人代理人】佐藤 大輔
- 【請求人代理人】藤本 正紀
- 【請求人代理人】橘 哲男
- 【被請求人】吉川醸造 株式会社
- 【被請求人代理人】浅野 響
- 【被請求人代理人】高瀬 亜富
- 審判長/審判官
- 審判長 大森 友子
- 審判官 小俣 克巳
- 審判官 飯田 亜紀
- 分類
- T111 .22 -Y (W33) / T111 .222-Y (W33) / T111 .25 -Y (W33) / T111 .261-Y (W33) / T111 .262-Y (W33) / T111 .263-Y (W33) / T111 .271-Y (W33)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 商標法4条1項7号商標法4条1項10号商標法4条1項11号商標法4条1項15号商標法4条1項19号商標法46条1項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第4条第1項第10号、商標法第4条第1項第11号、商標法第4条第1項第7号、商標法第4条第1項第15号、商標法第4条第1項第19号、商標法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の登録第6409633号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 本件商標
本件登録第6409633号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成よりなり、令和3年1月27日に登録出願、第33類「清酒,日本酒,焼酎,合成清酒,白酒,直し,みりん,洋酒,果実酒,酎ハイ,中国酒,薬味酒」を指定商品として、同年6月24日に登録査定、同月30日に設定登録されたものである。
第2 引用商標等
1 請求人が、本件商標の登録の無効の理由において、商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するとして引用する登録第6245408号商標(以下「引用商標」という。)は、「AFURI」の欧文字を横書きしてなり、平成31年4月24日に登録出願、第33類「清酒,焼酎,合成清酒,白酒,直し,みりん,洋酒,果実酒,酎ハイ,中国酒,薬味酒」並びに第21類及び第25類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、令和2年4月14日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。
2 請求人が、本件商標の登録の無効の理由において、商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当するとして引用する商標は、請求人の業務に係る「ラーメンの提供」に使用して、我が国及び外国において周知と主張する「AFURI」の欧文字からなる商標(以下「使用商標」という。)である。
第3 請求人の主張
請求人は、本件商標についての登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を審判請求書及び弁駁書において要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第31号証(枝番号を含む。以下、枝番号のすべてを示すときは、枝番号を省略する。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第10号、同項第15号、同項第19号及び同項第7号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。
2 商標法第4条第1項第11号該当性
(1)両商標は称呼上相紛らわしいこと
引用商標は、「AFURI」の構成文字に相応する「アフリ」の称呼が生ずるのに対して、本件商標は、別掲の構成態様よりなるところ、「アメフリ」や「ウコー」の称呼が生ずる他「アフリ」の称呼が生ずる(甲6)から、両商標は「アフリ」の称呼において共通するものであり、称呼上相紛らわしいものといわなければならない。
(2)被請求人並びに取引者、需要者は本件商標を「アフリ」と称呼している取引の実情があること
被請求人は、本件商標を積極的に「アフリ」と称呼し、取引者、需要者に対して「アフリ」と称呼させている取引の実情が存在する。
被請求人は、令和3年5月頃より、本件商標をラベル部分に付した日本酒(甲7。以下「被請求人商品」という。)を製造販売するものである。このラベル部分の「雨」の文字の直下に「AFURI」の欧文字が表記されているのが確認できるから、被請求人が被請求人商品のラベル部分に表記されている「雨降」の文字部分より「アフリ」の称呼が生ずることを自ら認めており、顧客に対しても「アフリ」と称呼させる意図があることの証左にほかならず、当該ラベル部分の「AFURI」部分の表記の存在によって、これに接する取引者、需要者は、被請求人商品を「アフリ」の称呼とともに認識し、被請求人商品は「アフリ」の称呼をもって取引に資されるとの実情が存在する。
(3)両商標は観念上相紛らわしいこと
引用商標である「AFURI」については、神奈川県丹沢山系の東端に位置する大山が、通称として「阿夫利山」と呼ばれているところ、請求人が店舗で提供するラーメンは、この阿夫利山の麓から湧き出る清らかな天然水を用いたスープを仕込んでいることに由来する。これにより、請求人は、請求人が管理・運営する店舗(以下「請求人店舗」という。)の屋号として「AFURI」と名付けたものである。
これに対して、本件商標についても、被請求人商品が丹沢山系大山の水を原料とするものであるところ、この丹沢山系大山が古来より「雨降山」と呼ばれたことに由来する。
そうすると、両商標の観念は、「丹沢山系大山の通称「阿夫利山(雨降山)」」の意味合いにおいて共通する。そのため、これに接する取引者、需要者は、観念上相紛れるものといわなければならない。
(4)本件商標に係る指定商品と引用商標に係る指定商品とは互いに類似するものであること
本件商標に係る指定商品は、前記第1のとおり、第33類「清酒,日本酒,焼酎,合成清酒,白酒,直し,みりん,洋酒,果実酒,酎ハイ,中国酒,薬味酒」(以下「本件指定商品」という場合がある。)である。
他方、引用商標に係る指定商品は、前記第2のとおり、第33類「清酒,焼酎,合成清酒,白酒,直し,みりん,洋酒,果実酒,酎ハイ,中国酒,薬味酒」(以下「引用指定商品」という。)を含む商品であり、本件指定商品と引用指定商品とが互いに類似する関係にあることは明らかである。
(5)まとめ
以上より、本件商標と引用商標とは、称呼、特に本件商標が付されている被請求人商品が、被請求人自身、取引者、及び、需要者によって「アフリ」と称呼され、現に取引されているといった具体的な取引の実情の存在、及び、観念の両観点を総合的に考察すると、両商標は互いに類似するものであり、また、本件指定商品と引用指定商品とが互いに類似することは明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
3 商標法第4条第1項第10号該当性
(1)引用商標の周知・著名性
引用商標は、請求人及び請求人店舗の屋号を表示するものとして、我が国において既に周知・著名性を獲得し、その周知・著名性は現在においても継続するものである。
ア 請求人及び請求人が運営するラーメン店について
請求人は、請求人店舗を運営することを主な目的として、1995年11月に設立されたものである。
請求人店舗は、国内外で合計28店舗もの店舗数を数え、我が国におけるラーメン愛好家や老若男女を問わずあらゆる世代で請求人が提供するラーメン(以下「請求人ラーメン」という。)が受け入れられている。特に近時は、請求人が積極的な海外出店を展開したことも相まって、請求人に対する外国人観光客(インバウンド)の認知度が飛躍的に高まったことで外国人観光客からの絶大な支持を得るに至っている。
イ 請求人店舗について
請求人店舗は、2001年に請求人店舗の総本店となる「ZUND-BAR」を神奈川県厚木市に出店したことを皮切りに、2022年まで、国内外で積極的な店舗展開を図っている。
このように、請求人は、我が国における店舗展開のみならず、請求人店舗及び請求人ラーメンを海外においても広めるべく、積極的な海外進出を繰り返すものである。その結果、国内においては首都圏の繁華街を中心に16店舗、海外においては欧米やアジアに12店舗を運営するに至っており、国内市場のみならずグローバルな市場を見据えた店舗展開を実現するものである。この点、我が国の市場のみならず海外市場においても一定の成功を収めているラーメンチェーンは極めて少数であり、このような事実から請求人及び請求人店舗は、日本を代表する有数のラーメンチェーンの一角を担っているものといわなければならない。
ウ 売上高及び宣伝広告費
国内外の請求人店舗における直近5年の売上高は11億円ないし18億円であり、広告宣伝費は、680万円ないし2300万円である。
直近3年は新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けているものの、それにもかかわらず依然として常時10億円以上の売上を計上するものである。さらに、広告宣伝費についても、常時数百万円から昨年度は2000万円をゆうに超える宣伝広告費を計上しており、国内外における請求人店舗の飛躍的な認知度拡大に多大な貢献をするものである。
エ テレビ番組における紹介
請求人及び請求人店舗は、メディアとしての影響力が多大であるテレビ番組において特集が組まれる程(甲8)に名声が広く知れ渡っている。そうすると、請求人及び請求人店舗の屋号を表す引用商標は、我が国におけるラーメン愛好家や老若男女を問わないあらゆる年齢層の需要者や取引者の間で常に高い評価を得ており、その結果周知・著名性を獲得するものであることは、もはや動かしようのない事実である。
オ 他業種とのコラボレーション等事業の多角化
引用商標は我が国におけるあらゆる層の取引者、需要者に周知・著名性を獲得するものであるところ、その周知・著名性を形成する業務上の信用やグッドウィル、ブランド資産を他の事業分野に展開すべく、2015年3月より日清食品株式会社との間でカップラーメンの共同開発を行い、現在に至るまで定期的に販売されている(甲9)。
さらに、請求人自身が運営するECサイト上や他の事業者が運営するECサイト内に出店し、請求人ラーメンの販売を行っている。
力 小括
以上に述べたように、請求人の長年の営業努力によって、引用商標は、多くの取引者、需要者から高い評価、絶大な支持を得るに至ったものである。 そのため、引用商標は、我が国のみならず世界各国の取引者、需要者の間に広く認識されているから、周知・著名性をゆうに獲得するものであることはもはや明白であり、この周知・著名性は現在もなお継続しているものといわなければならない。
(2)商標及び商品が互いに類似すること
前記2においても述べたように、本件商標と引用商標とは、互いに類似するものであり、また、指定商品についても互いに類似することは明らかである。
(3)まとめ
以上より、引用商標は、前記(1)のとおり、請求人の業務に係る役務の分野においては、周知・著名性を獲得しており、さらに、本件商標と引用商標とは、互いに類似するものであり、また、指定商品についても互いに類似することは明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。
4 商標法第4条第1項第15号該当性
(1)引用商標が周知・著名性を獲得していること
前記3において述べたとおり、引用商標は、請求人の業務に係る役務を表示するものとして、我が国において周知・著名性を獲得し、その周知・著名性は現在においても継続するものである。
(2)本件商標と引用商標が同一又は互いに類似すること
前記2で述べたとおり、本件商標と引用商標とは同一であるか、又は、少なくとも互いに類似することは明らかである。
(3)請求人が展開する事業は更に多角化する可能性があること
前記3(1)オで述べたとおり、請求人は積極的に他業種、他事業へ多角的に業務展開を行っており、継続して事業の多角化を行っている。
(4)現に被請求人商品が請求人の業務に係る商品であると誤認混同する事実があること
インターネット上において、被請求人商品に接した取引者、需要者が請求人の業務に係る商品であると誤認混同する事態が生じており、請求人商標に化体する業務上の信用が著しく毀損する事実が多数見られる(甲10~甲14)。
このように、被請求人商品は周知・著名性を獲得した引用商標にフリーライドするものであり、現に多くの取引者、需要者は、被請求人商品を請求人の業務に係る商品であると誤認混同している。そのため、請求人は、引用商標の業務上の信用の維持を図れず、著しい不利益を被っている。
(5)取引者、需要者が共通すること
被請求人商品は、前記2(2)のとおり「日本酒」である。これに対して、請求人の業務に係る主たる役務は「ラーメンの提供」である。
この点、飲食店において、顧客が食事をとる際に併せて酒類を飲むことは極々一般的であり、近時はラーメン店において日本酒等の酒類を提供する店舗も増加しつつある(甲15、甲16)。そのため、取引者、需要者は共通するものといわなければならない。
そうすると、本件商標を冠した被請求人商品に接する取引者、需要者が、恰も請求人の業務に係る商品と誤認混同することは想像に難くない。
(6)まとめ
以上において述べたとおり、本件商標を被請求人商品に使用したときに、被請求人商品が請求人の業務に係る商品であると誤信されるおそれがある商標のみならず、被請求人商品が請求人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれがあることはもはや明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
5 商標法第4条第1項第19号該当性
(1)引用商標が周知・著名性を獲得していること
前記3で述べたとおり、引用商標は、請求人の業務に係る役務(請求人店舗)を表示するものとして、我が国において周知・著名性を獲得し、その周知・著名性は現在においても継続するものである。
(2)本件商標と引用商標が同一又は互いに類似すること
前記2で述べたとおり、本件商標と引用商標とは互いに類似する関係にあることはすでに明らかとなっている。
(3)被請求人が不正の目的を有していること
引用商標が周知・著名性を獲得している点、引用商標と本件商標とが互いに類似する点、及び、請求人が積極的に事業の多角化を推進している点を考慮すれば、被請求人が、請求人及び請求人店舗が築き上げた高い評価、名声、さらには、グッドウィルにフリーライドする意思があることは明らかである。
すなわち、請求人が展開する請求人店舗がはじめに出店して以来ゆうに20年以上もの月日が経過するものである。その間、請求人が所在する地と近隣の地域に位置する被請求人が、請求人や請求人店舗に関する高い評価、名声、さらには、グッドウィルを一度も聞いたことがなく、また、目の当たりにしたこともないなどということは、現実の商取引においては到底想定し難い。
むしろ被請求人が、前記の高い評価、名声、グッドウィルを、被請求人自身が製造販売する商品に利用する意思、すなわち、引用商標の周知・著名性にフリーライドする意思をもっており、不当な利益を得る目的で本件商標を登録出願したものと理解するのが自然である。そのため、被請求人は、本件商標の登録出願時に「不正の目的」があったものといわなければならない。
(4)まとめ
以上より、本件商標は、既に周知・著名性を獲得した引用商標と同一又は少なくとも互いに類似する商標であって、不正の目的をもって使用するものであることは明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
6 商標法第4条第1項第7号該当性
(1)被請求人が登録出願時に悪意であったこと
請求人店舗は、前記3のように、20年以上も前から運営された結果、引用商標は、本件商標の登録出願時である令和3年当時には、すでに周知・著名性を獲得したものといえ、その周知・著名性は現在まで継続している。そのため、引用商標は、我が国の一般的な取引者、需要者の間で広く認知され、深く浸透しているものといえる。それゆえ、被請求人においても、我が国において周知・著名性を獲得した引用商標を十分に認識し得たものである。被請求人のみが引用商標を知り得ないとする特別な事情は存在しない。
このように、被請求人が、引用商標の存在を十分に認識し得る状況下において、被請求人は、引用商標と互いに類似する「雨降」の文字について登録出願を行っている。そうすると、被請求人は、少なくとも本件登録出願時には請求人店舗「AFURI」の存在については悪意であったものと容易に推認し得る。
(2)本件商標が剰窃的な出願であること
さらに、前記2のように、本件商標と引用商標とは互いに類似するものであるところ、被請求人が本件商標を採択する必然的、かつ、合理的な理由が見出だせないことからすれば、被請求人が本件商標の採択において偶然に一致したとするのは、極めて不自然であるものといわなければならない。
そのため、被請求人は、前記意思を持って剰窃的に本件商標を登録出願し、請求人に無断で登録を得たものと考えざるを得ない。
(3)まとめ
以上より、本件商標は、登録に至る出願の経緯において著しく社会的妥当性を欠くものであり、この登録を認めることは、商標法の予定する秩序を害するおそれがあることは明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
7 答弁に対する弁駁
(1)商標法第4条第1項第11号該当性についての再反論
ア 「本件商標より「ウコー」の称呼のみが生じ、「アフリ」の称呼が生ずる余地はない。」について
(ア)被請求人は、令和3年5月頃より、「雨」の文字の直下に「AFURI」の欧文字が表記されているラベル(以下「本件ラベル」とする。)を貼付した日本酒を製造販売するが(甲7)、これのみならず、本件ラベルとほぼ同一構成のラベルを貼付した被請求人商品を新たに展開している(甲19~甲26)。
(イ)被請求人商品に接する取引者、需要者は本件ラベル中の「雨降」部分については、当該「AFURI」の文字部分に相応する「アフリ」の称呼が生ずることを認識、理解するのが取引上自然である。
(ウ)甲第21号証より、被請求人は、本件商標に係る文字を「アフリ」と称呼することを前提に被請求人商品を製造販売し、日本酒「AFURI」のブランド展開をおこなっていることが容易に理解できる。
(エ)被請求人商品に接する取引者、需要者は、日本酒「AFURI」のブランド展開の意図から本件商標に係る文字を「アフリ」と称呼する他なく、むしろこれが取引上自然である。
(オ)被請求人は、本無効審判外で行った請求人との書面上のやり取りにおいて「雨降」の文字を「アフリ」と称呼することを自ら認めている(甲27)。
イ 「日本酒の需要者は、その日本酒がどの蔵元で製造されたのかについて関心を有しており、商品名のみならず蔵元(製造者)も確認して商品の出所を判断するのが通常。」について
日本酒のラベル部分に接する取引者、需要者が、ラベル中の正面部分に大々的に表示された商品名(銘柄)を認識、理解することはあっても、必ずしも製造者に当たる蔵元を併せて認識、理解することなど、簡易迅速を尊ぶ現実の取引においては、ほぼない。
(2)商標法第4条第1項第10号該当性についての再反論
ア 「登録査定時以降の書証については本件では考慮し得ないものである。」旨について
これらの書証については、引用商標の周知・著名性が現在に至るまで維持、継続していることを示す書証に他ならない。
イ 「第43類「ラーメンの提供」についての引用商標に関する周知・著名性」について
(ア)請求人が製造、販売(主に米国向けに輸出)する日本酒のラベル中にも使用されており(甲28)、この商品は現在も継続して製造、販売(主に米国向けに輸出)されている(甲29)。
(イ)商品の製造時に、引用商標が表示されたラベルを日本酒の瓶に貼付し、当該日本酒を輸出する行為は、商標法上の使用(商標法第2条第3項第1号、同項第2号)に該当する。
(ウ)以上より、主に「ラーメンの提供」について請求人が獲得した周知・著名性は、請求人が展開する「日本酒の製造販売」事業においても拡大し、その周知・著名性は維持されているものといわなければならない。
ウ 「「需要者の間に広く認識されている」か否かは、日本国内の需要者を基準に判断すべき要件である」旨について
周知・著名性の判断においては、我が国のみならず外国における使用実績も十分に考慮されることが明らかとなっており、我が国の市場のみならず海外市場においても複数店舗を展開する請求人の主張及びこれに関連する書証は、その周知・著名性の判断において十分に考慮されるべきものである(特許庁商標課編商標審査基準15版)。
エ 「引用商標が周知となっていた地理的範囲は東京都23区内が限度といえる。」旨について
(ア)我が国の労働の中心となる東京23区は、東京都下、埼玉県、神奈川県からも通勤・通学者が多く流入していることは自明。東京都が発表する「東京都の昼間人口」(従業地・通学地による人口)の概要では「東京都への流入人口は336万人、神奈川・埼玉・千葉で95.2%を占める」との記述があり、東京都近郊である神奈川・埼玉・千葉からは実に300万人近くの人口が流入していることが理解できる(甲31)。
(イ)そのため、昼間に東京都に流入する336万人もの人口が請求人及び請求人店舗を認識、把握し、その結果あまねく知られていたとしても不自然ではない。
(ウ)そうすると、被請求人の仮定どおり、引用商標は東京23区内では周知・著名性を獲得するものであるが、その周知・著名性は、23区内にとどまらず、その近郊である東京都下・神奈川・埼玉・千葉、すなわち、「少なくとも隣接数県の相当範囲の地域」にゆうに及んでいるものといわなければならない。
(エ)他ラーメンチェーンの例は、提供されるラーメン自体はもとより、店舗立地、価格帯、ターゲット層等のマーケティング要素や店舗におけるオペレーション運営などの全てが請求人店舗とは異なるため、請求人店舗の競合とは到底なり得ず、これらのラーメンチェーンの存在は、引用商標の周知・著名性に影響を及ぼすものとは到底いい難い。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性についての再反論
ア 「カップラーメンの共同開発は「ラーメン」の需要者への提供方法が一つ増えたことを意味するにとどまり、「事業多角化」などというべきものではない。」旨について
(ア)「ラーメン店の運営」と「カップラーメン共同開発」とは、考慮、検討すべき種々の要素が大きく異なる。そもそも両者には「商品の製造販売」と「役務の提供」といった決定的な違いが存在し、各々が全く異なるビジネスモデルであることが容易に認識、理解できる。
(イ)請求人はラーメン事業のみならず、カップラーメンの共同開発事業、オンライン販売事業、日本酒の製造販売事業など積極的に他業種、他事業へ多角的に業務展開を行っており、継続して事業の多角化を行っている。
イ 「請求人が日本酒の製造・販売等の事業に進出する可能性が主張されて然るべきであるが、かかる主張は一切されていない。」旨について
(ア)日本酒事業については、現在は日本国内で製造し、主に海外で販売するものである。
(イ)出所についての誤認混同は、その「おそれ」があれば足り、必ずしも誤認混同の事実、すなわち、請求人が現に日本酒事業に進出している事実までも主張、立証することを必ずしも要しない。
ウ 取引者、需要者が誤認混同を惹起したツイート(甲10~甲15)について
(ア)ツイートは、いずれも被請求人商品を請求人の製造販売に係る商品と現実に誤認混同が引き起こされたことから、その注意喚起のために各人が発信したものに他ならない。
(イ)商標法第4条第1項第15号は「・・・商品又は役務と混同を生ずるおそれ・・・」があれば足りるものであり、必ずしも現実に誤認混同が生じた事実までも要するものではない。
(ウ)これらのツイートは、前述のとおり、誤認混同が引き起こされないよう注意喚起をするために各人が発信した性質をもつものであり、これらはいずれも取引者、需要者が誤認混同した事実、あるいは、少なくとも誤認混同のおそれがあることを如実に示したものである。
(4)商標法第4条第1項第19号該当性についての再反論
ア 被請求人は、請求人側に対して、令和3年2月頃に連絡を取ろうとした経緯を述べているが、被請求人は、同年1月27日に本件商標の権利化を図るべく登録出願の手続に及んでいる。
イ 被請求人は、引用商標の存在を認識しつつも、出し抜けに本件商標に係る登録出願を行っており、その後に形ばかりの連絡を試みているものであり、このような被請求人の行為には、社会的、営利的活動を営む上で当然尊重すべき遵法精神の欠片も見出すことはできない。
ウ 被請求人の請求人取締役への架電及び大山阿夫利神社の権禰宜に宛てたメールについて
被請求人は、「請求人の取締役が「雨降」(あふり)との名称の日本酒を販売することを了承した」及び「請求人の取締役から、「大山を一緒に盛り上げて行きましょう」」旨の言葉をいただきその旨を大山阿夫利神社の権禰宜宛にメールした(乙4)旨主張しているが、請求人は、本件商標に係る登録出願を許諾した覚えはない。また、当該メールからは本件商標の使用や「登録出願の手続をおこなってもよい」との趣旨を読み取ることはできない。
第4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第5号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第11号該当性は認められないこと
(1)本件商標と引用商標は類似していないこと
ア 外観は類似しないこと
本件商標及び引用商標の外観は別掲及び前記第2のとおりである。両者が全く類似していないことは多言を要しない。
イ 称呼は類似しないこと
本件商標に接した需要者が取引上自然に認識する音は「ウコー」であり、引用商標に接した需要者が取引上自然に認識する音は「アフリ」である。
両者を比較すると、一文字も重なりが無く、一文字目から三文字目の母音もそれぞれ対応していない。よって、両者の称呼が非類似であることは極めて明らかである。
請求人は、本件商標にかかる登録商標から「あふり」との称呼が生じると主張するが、「降」という漢字は送り仮名が付されない限り「ふり」とは読めない(乙1の1)。加えて、「雨」の訓読みは「あめ」ないし「あま」、音読みは「う」であり(乙1の2)、需要者が「雨」という漢字から「あ」という一音のみを認識することはない。
よって、本件商標に接する需要者が本件商標から取引上自然に「あふり」との音を認識することはない。
ウ 観念は類似しないこと
引用商標に接する需要者は、何の意味又は意味合いも想起しないものと解される。他方、本件商標に接した需要者は、「雨」「降」という漢字の一般的な意味を踏まえて、「雨が降る」「雨が降っている」といった意味又は意味合いを想起するものといえる。
以上の点に鑑みれば、本件商標と引用商標の観念が類似しないことは明らかである(そもそも引用商標からは何の観念も生じない以上、類似しているか否か比較することができない。)。
この点について、請求人は、引用商標及び本件商標の由来をるる述べ、観念が類似していると主張しているが、理由がない。商品名・サービス名に接した需要者のうち、その名称の由来について調査・確認する者は当該商品(名)ないしサービス(名)に相当程度の興味を持ったものに限られるものと解されるためである。換言すれば、上記請求人の主張は、「需要者が、取引上自然に想起する意味又は意味合い」を述べるものではなく、採用の余地がない。
エ 取引の実情に鑑み類似性が認められる余地はないこと
本件商標にかかる指定商品「日本酒」などにかかる取引の実情に鑑みても、本件商標と引用商標の類似性が認められることはあり得ない。
日本酒の需要者は、その日本酒がどの蔵元で製造されたのかについて関心を有しており、商品名のみならず蔵元(製造者)も確認して商品の出所を判断するのが通常だからである。
当然のことながら、被請求人が販売する日本酒等のラベルにも「製造者」として「吉川醸造株式会社」との被請求人の商号が記載されている。
よって、需要者は、被請求人が販売する日本酒等の出所は被請求人であると正確に認識するのであり、需要者が商品の出所を請求人であると誤認・混同するおそれはない。この点からも本件商標と引用商標の類似性が認められる余地はない。
オ 小括
以上のとおり、本件商標と引用商標とでは外観、称呼、観念の全てが非類似である。加えて、取引の実情に鑑み得ても、需要者に誤認混同が生じる余地はない。これらの点に鑑みれば、本件商標と引用商標が同一でも類似でもないことは極めて明らかである。
2 商標法第4条第1項第10号該当性は認められないこと
(1)請求人は本件無効審判では考慮し得ない事情に基づき引用商標の周知・著名性を主張していること
ア 判断基準時前の事情
本件商標について、商標法第4条第1項第10号該当性が認められるか否かの判断基準時は、登録査定が行われた2021年6月25日(以下「本件査定日」という。)であるところ(最高裁判所第三小法廷平成16年6月8日裁判集民事214号373頁参照)、請求人は、以下のとおり、同日より後の事情を多々主張している。
(ア)2022年オープンにかかる5件分の店舗情報
(イ)令和3年の売上・宣伝広告費(のうち本件査定日より後に生じた売上・宣伝広告費。)
(ウ)テレビ番組にかかる主張のうち2021年6月25日以降のもの
かかる事情は本件では考慮し得ないものであり、失当な主張と言わざるを得ない。
イ 国外における店舗展開
請求人は、商標法第4条第1項第10号該当性を根拠づける事情として、海外における店舗展開を主張している。
しかしながら、同号所定の「需要者の間に広く認識されている」か否か(以下「周知性要件」という。)は、日本国内の需要者を基準に判断すべき要件であるから、請求人の海外店舗展開にかかる事情は考慮し得ない。この点においても請求人の主張は失当といわざるを得ない。
なお、被請求人は請求人の店舗展開については「不知」であるところ、請求人はこの点について何の証拠も提出しておらず、そもそも請求人の主張にかかる店舗展開の事実を認定することはできない。
ウ 国外における売上・宣伝広告費
請求人は、商標法第4条第1項第10号該当性を根拠づける事情として、国内外における直近5年の売上・宣伝広告費を前記第3の3(1)ウのように主張している。
しかし、既述のとおり、同号所定の周知性要件は日本国内の需要者を基準に判断すべきものであるから、国外における売上・宣伝広告費は判断の基礎とすることはできない。
上記請求人の主張は、国内外の売上・宣伝広告費を合算して主張するものであるため、日本国内の売上・宣伝広告費の金額は不明である。結局のところ、請求人は、本件で考慮し得る日本国内における売上高や宣伝広告費を何ら主張していないに等しい。
なお、被請求人は請求人の売上や宣伝広告費については「不知」であるところ、請求人はこの点について何の証拠も提出しておらず、そもそも請求人の主張にかかる売上・宣伝広告費を認定することはできない。
(2)請求人の主張は到底商標法第4条第1項第10号該当性を基礎づけるものではありえないこと
ア 請求人は、本件商標の指定商品とは類似し得ない「ラーメン」ないし「ラーメンの提供」に関する商標の周知性を主張するのみであること
商標法第4条第1項第10号は、「他人(本件では請求人)の業務にかかる商品若しくは役務」との関係で周知性要件が認められる商標又はこれに類似する商標が存在することを前提に、当該商標に係る商品・役務と同一又は類似する商品について使用する商標については商標登録を認めないとする規定である。
しかるところ、請求人が主張する事情は、請求人の業務にかかる「ラーメン」ないし「ラーメンの提供」にかかる周知性に関するものにとどまる。
当該「ラーメン」ないし「ラーメンの提供」と、本件商標にかかる指定商品「清酒・日本酒」等が類似しないことは極めて明らかであり、この点からも請求人の主張に理由がないといえる。
なお、この点について請求人は、特段の説明なく単に本件商標と引用商標の「指定商品」を比較し、両者は「類似している」と主張する。しかしながら、同号において類似性を検討すべきは引用商標に関して登録された「指定商品」ではなく、実体として上記周知性要件が認められる(引用)商標にかかる「商品若しくは役務」である。本件では「ラーメン」ないし「ラーメンの提供」がこれにあたり得る。
以上より、この点に関する請求人の主張も採用の余地がない(上記請求人のような主張が成り立つのは、引用商標がその指定商品「清酒」等との関係で周知となっている場合に限られるが、請求人はこの点については何の主張もしていない。)。
イ 引用商標と本件商標は類似していないこと
前記1のとおりである。
(3)請求人の主張から周知性要件を充足しないことが明らかになっていること
請求人の主張からは、むしろ引用商標について周知性が認められないことが明らかになっているものといえる。
ア 店舗所在地が示す周知性要件の非充足
請求人の主張によれば、本件商標の登録査定時に存した請求人の日本国内の店舗は17店舗であるところ、その多く(11店舗)が東京都の23区内に存在しており、その他には23区外に2店舗、1道2県に1店舗、1店舗、2店舗とごく少数ずつ存在するにとどまる。かかる店舗の分布を踏まえると、引用商標が周知になっていたものと仮定しても、その地理的範囲は東京都23区内が限度といえる。
しかるところ、商標法第4条第1項第10号の周知性要件を充足するためには、少なくとも隣接数県の相当範囲の地域にわたって周知になっていることが必要であるから(東京高判昭和58年6月16日判時1090号164頁[DCC])、東京都23区内程度の範囲で周知性が認められたとしても同号該当性は認められない。
なお、ここでは東京都23区内では引用商標が周知になっていると仮定して主張したが、そもそもかかる仮定は成立し得ないので、念のため補足しておく。国民食ともいえる「ラーメン」には多くの人気店がある。このうち、たとえば、「日高屋」は東京都内だけでも191もの店舗が存在しているし(乙2)、「幸楽苑」は全国に433店舗、東京都内には29店舗もの店舗が存在する(乙3)。
このように、ラーメン業界における競争は非常に激しいのであり、このような中で引用商標の周知性を認定するためには、それ相応の事情が示されるべきであるが、請求人はかかる事情を主張・立証できていない。
イ 売上額・宣伝広告費の少なさや地理的限定な限定
請求人が主張する請求人店舗の売上・宣伝広告費のうち、本件において考慮し得るのは日本国内のもののみであるが、請求人は直近5年の間に積極的に海外出店を行っており、海外で10件もの店舗を新規オープンしている。
このような新規店舗のオープンにあたっては、既存店舗に要するものとは比較にならない宣伝広告費が必要になると思われるが、そうだとすると、請求人が主張する宣伝広告費の決して少なくない部分は海外において支出されたものと推測される。本件で考慮し得る宣伝広告費はかかる海外展開の際の費用を除いた残りの部分に限られるのであるが、上記アのような請求人の店舗の分布状況からすると、その多くは東京都23区内の需要者に向けた宣伝広告のための費用であったものと考えざるを得ない。
また、売上の額についてもほぼ同様のことがいえる。本件で考慮し得るのは海外店舗での売上分を除いた国内売上分であるところ、上記アのような請求人の店舗の分布状況に鑑みると、その多くは東京23区内の店舗にかかるものであると推測される。
(4)小括
以上のように、本件で考慮し得る請求人の日本国内での売上・宣伝広告費の額はそれほど高額ではなく、また、これらは東京都23区内での活動により生じたものが大半を占めるのではないかと推測される。かかる推測が正しいとすると、前掲東京高判[DCC]に照らし、本件において商標法第4条第1項第10号該当性が認められる余地はない。
3 商標法第4条第1項第15号該当性は認められないこと
(1)引用商標は周知・著名性を獲得していないことは、前記2のとおりである。
(2)本件商標と引用商標は類似していないことは、前記1のとおりである。
(3)請求人の事業多角化にかかる主張は一般論の域を出ないこと
請求人は、請求人による事業の多角化を商標法第4条第1項第15号該当性の根拠として主張するが、一般的な可能性を述べるにとどまっている。請求人が主張する唯一の「多角化」はカップラーメンの共同開発であるが、これは請求人が取り扱う「ラーメン」の需要者への提供方法が一つ増えたことを意味するにとどまり、「事業多角化」などというべきものではない。
そもそも、同号は「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」の登録を禁止するものであり、本件で同号該当性を主張するのであれ、請求人が日本酒の製造・販売等の事業に進出する可能性が主張されて然るべきであるが、かかる主張は一切なされていない。
(4)誤認混同が生じているとの請求人の主張には理由がないこと
請求人は、甲第10号証ないし甲第14号証に基づき、被請求人商品に接した取引者・需要者が請求人の業務に係る商品であると誤認混同する事態が生じていると主張するが、そのような事態は生じていない。
(5)取引者・需要者は共通しないこと
請求人は、第三者が経営するラーメン店において日本酒が提供されている例があるとし、請求人の業務である「ラーメンの提供」に関する取引者・需要者は、被請求人が販売する日本酒の取引者・需要者と共通すると主張する。
しかしながら、ここで問題とすべきは、被請求人が販売した日本酒が請求人の兼業に係る商品であると誤認され、商品の出所について混同を生ずるか否かであるから、需要者・取引者の共通性は、抽象的・一般的な「ラーメン店」ではなく、具体的に特定された請求人店舗との間で検討されなければならない。
しかるところ、請求人はこれまで店舗において日本酒等の提供は行っていないようであるから、需要者・取引者の共通性が認められる余地はない。
(6)小括
以上のとおり、請求人が主張する事情は、いずれも商標法第4条第1項第15号該当性の根拠にはなり得ない。
4 商標法第4条第1項第19号該当性は認められないこと
(1)引用商標は周知・著名性を獲得していないことは、前記2のとおりである。
(2)本件商標と引用商標は同一でも類似してもいないことは、前記1のとおりである。
(3)不正の目的など有していないこと
請求人は、被請求人には不正の目的があったと主張するが、全くの誤りである。
被請求人は、日本酒「雨降」の販売や本件商標権にかかる商標出願に先立ち、請求人が既に「AFURI」に関する商標権を取得し、「AFURI」との名称を使用していたことを認識していた。
そこで、被請求人の代表取締役は、請求人に対して事前に挨拶をしておくべきと考え、令和3年2月25日に、請求人の常務取締役に架電した。その際、本件商標にかかる商標権を取得したり、「雨降」(あふり)」との名称の日本酒を販売したい旨を伝えたところ、同取締役はこれを快諾している(乙4)。
このような行動は、被請求人に「不正の目的」があったとすればあり得ないものであり、被請求人には何ら「不正の目的」がなかったことを如実に示している。
5 商標法第4条第1項第7号該当性は認められないこと
請求人は、被請求人による本願商標選択の必然的・合理的な理由が見いだせないとし、被請求人による本件商標にかかる商標出願は「剽窃的」なものであるから商標法第4条第1項第7号該当性が認められると主張する。
しかし、請求人も一部主張しているとおり、被請求人が本件商標を商品名として採用したのは、(1)被請求人が製造・販売する日本酒の原料が丹沢山系大山(通称「雨降山」)の水であること、(2)同山近傍に酒造の神を祀る「大山阿夫利神社(おおやまあふりじんじゃ)」が存在することの2点であり、これは十分すぎるほどの合理的理由といえる。
さらに、請求人店舗では「AFURI」との商標の他に「阿夫利」との商標も使用されているところ(乙5)、被請求人が本件商標を採用した根拠の一つは「大山阿夫利神社」なのであるから、被請求人が真に剽窃的な商標出願を企図していたのであれば、本件商標ではなく「阿夫利」に関する商標出願を行うはずである。それにも関わらず、被請求人は本件商標の出願を行ったのであり、かかる経緯自体が、被請求人に剽窃的な商標出願の意図等なかったことを如実に示している。また、何より、被請求人が「剽窃的」な商標出願を行おうと考えていたのであれば、前記4(3)に記載したような行動(請求人への本件商標にかかる出願の報告等)に出るはずがない。
以上の諸点に鑑みれば、本件において商標法第4条第1項第7号該当性が認められる余地がないことは極めて明らかである。
6 小括
以上のとおり、請求人が主張する無効理由はいずれも理由がない。
第5 当審の判断
請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係を有する者であることについては、当事者間に争いがないので、本案に入って審理する。
1 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標
本件商標は、別掲のとおり、「雨降」の文字を筆文字風で、右上方から左斜め下へ書してなるところ、当該文字は「[あめふり]雨の降ること。雨が降っている間。」(精選版 日本国語大辞典(株式会社小学館))、「[うこう]雨降り。」(字通[普及版](株式会社平凡社))の意味を有する語であるから、その構成文字に相応して、「アメフリ」または「ウコー」の称呼を生じ、「雨の降ること。雨が降っている間。雨降り。」の観念を生ずるものである。
(2)引用商標
引用商標は、前記第2のとおり、「AFURI」の欧文字を書してなるところ、該文字は、辞書類に載録された成語ではなく、特定の意味合いを想起させる語として知られているともいい難いことから、特定の観念を生じない造語として看取、把握されるものである。
したがって、引用商標は、その構成文字に相応して、「アフリ」の称呼を生じ、特定の観念は生じない。
(3)本件商標と引用商標との類否
本件商標と引用商標との類否について検討するに、両者は、それぞれ前記(1)及び(2)の構成よりなるところ、漢字と欧文字と文字種が異なるものであるから、外観において明確に区別できる。
また、称呼については、本件商標から生ずる「アメフリ」の称呼と、引用商標から生ずる「アフリ」の称呼とは、2音目において「メ」の音の有無に差異を有するものであるが、4音と3音という比較的短いこれらの称呼を一連に称呼するときは、互いの語調語感が異なり聞き誤るおそれはない。そして、本件商標から生ずる「ウコー」の称呼と、引用商標から生ずる「アフリ」の称呼とは、音構成が相違することから、両者は、称呼上、明瞭に聴別し得るものである。
さらに、観念については、本件商標は「雨の降ること。雨が降っている間。雨降り。」の観念を生ずるものであるのに対し、引用商標は観念が生じないものであるから、両者は、観念上、相紛れるおそれはない。
そうすると、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。
(4)本件指定商品と引用指定商品との類否
本件指定商品、第33類「清酒,日本酒,焼酎,合成清酒,白酒,直し,みりん,洋酒,果実酒,酎ハイ,中国酒,薬味酒」と、引用商標の指定商品中、第33類「清酒,焼酎,合成清酒,白酒,直し,みりん,洋酒,果実酒,酎ハイ,中国酒,薬味酒」(引用指定商品)とは、同一又は類似するものである。
(5)小括
以上のとおり、本件指定商品と引用指定商品が同一又は類似するとしても、本件商標と引用商標とは、非類似の商標であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
2 使用商標の周知性について
請求人の主張及び同人の提出に係る証拠によれば、以下のとおりである。
(1)請求人は、請求人店舗において使用商標を使用している(甲8の2)。
(2)店舗数
請求人は、1995年11月に設立され、請求人店舗は、2003年に1号店をオープンし、その後、本件商標の登録査定時まで、国内16店舗(東京都13店舗(内23区内11店舗)、北海道1店舗、埼玉県1店舗、神奈川県2店舗)、海外11店舗(米国6店舗、カナダ1店舗、シンガポール2店舗、香港1店舗、ポルトガル1店舗、)がオープンしていると主張する(ただし、全ての店舗が、本件商標の登録出願時及び登録査定時に運営されていたかは不明である)。
(3)売上高及び広告宣伝費
国内外の請求人店舗における近年の売上高及び広告宣伝費について、平成29年は「売上高:16億円、宣伝広告費:850万円」、平成30年は「売上高:18億円、宣伝広告費:1000万円」、令和1年は「売上高:11億円、宣伝広告費:940万円」、令和2年は「売上高:11億円、宣伝広告費:680万円」であると主張しているが、これらの数字を裏付ける具体的な証拠の提出はない。
また、宣伝広告については、具体的な内容、媒体、回数等は不明である。
(4)テレビ番組における紹介
請求人店舗は、2021年6月24日のフジテレビ「ノンストップ!」、同月22日の日本テレビ「バゲット」のテレビ番組に取り上げられている(甲8の1、2)。
(5)他業種とのコラボレーション等事業の多角化
請求人は、2015年3月より日清食品株式会社との間でカップラーメンの共同開発を行い、現在に至るまで定期的に販売されている(甲9)。
(6)以上からすると、使用商標を使用している請求人店舗は、東京都、特に23区内において11店舗が存在し、本件商標の登録査定時までに、請求人店舗が2回テレビ番組に取り上げられていることから、使用商標は、請求人の業務に係る「ラ―メンの提供」(請求人役務)について東京23区内を中心に一定程度の周知性があるものと推認されるとしても、請求人役務の我が国及び外国における周知性の度合いを客観的に判断するための資料、すなわち、請求人役務の売上高及び広告宣伝費の数値を裏付ける具体的な証拠、これらの数字の多寡について、比較すべき客観的な証拠、市場シェア、さらに、広告宣伝の方法、内容及び回数などの状況を具体的に示す証拠は見いだすことはできない。
してみれば、請求人の提出に係る証拠からは、使用商標が、請求人役務について使用する商標として、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国及び外国の取引者、需要者の間に広く認識されていたと認めることはできない。
3 商標法第4条第1項第10号及び同項第15号該当性について
使用商標は、前記2のとおり、本件商標の登録出願時において既に、請求人役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたとは認められず、また、使用商標は引用商標と同じつづりからなるものであるから、本件商標と使用商標とは、前記1と同様の理由により、非類似の商標である。
また、請求人は、請求人役務に使用商標を使用して、我が国及び外国において周知であると主張しているところ、当該請求人役務は、本件指定商品とは非類似の役務であって、関連性の程度も低いものである。
なお、請求人は、使用商標は、請求人が製造、販売(主に米国向けに輸出)する日本酒のラベル中にも使用されており(甲28)、主に請求人役務について請求人が獲得した使用商標の周知・著名性は、「日本酒の製造販売」事業においても拡大し、維持されている旨主張するが、前記2のとおり、使用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたとは認められないから、請求人の製造販売に係る「日本酒」を表示するものとしても需要者の間に広く認識されているものではない。
そうすると、被請求人が、請求人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標を、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするものではなく、また、被請求人が本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は、該商品が請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように連想、想起することはなく、その出所について混同を生ずるおそれはないというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同項第15号に該当するものではない。
4 商標法第4条第1項第19号及び同項第7号について
使用商標は、前記2のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人役務を表示するものとして我が国及び外国の需要者の間に広く認識されていたとは認められない。また、本件商標と使用商標とは、前記3のとおり、非類似の商標であり、本件商標が、引用商標を連想又は想起させるものではない。
そして、請求人は、「被請求人は、請求人が既に引用商標の商標権を取得し、「AFURI」との名称を使用していたことを認識していた。」と主張するが、このことのみをもって、不正の目的があったとはいえない。
そうすると、本件商標は、使用商標の名声にフリーライドするなど不正の目的をもって使用をするものと認めることはできない。
さらに、本件商標が、その出願及び登録の経緯に社会的相当性を欠くなど、公序良俗に反するものというべき事情も見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号及び同項第7号に該当するものとはいえない。
5 請求人の主張について
請求人は、被請求人は、令和3年5月頃より、「雨」の文字の直下に「AFURI」の欧文字が表記されているラベルを貼付した日本酒(被請求人商品)を製造販売しており(甲7)、本件ラベルとほぼ同一構成のラベルを貼付した被請求人商品を新たに展開している(甲19~甲26)ことから、被請求人商品に接する取引者、需要者は本件ラベル中の「雨降」の文字部分については、当該「AFURI」の文字部分に相応する「アフリ」の称呼が生ずることを認識、理解するのが取引上自然である旨主張する。
しかしながら、別個独立の商標についての称呼等の判断はそれぞれ個別に行われるべきものであり、商標法は、商標のみの移転を可能とし、同一の範囲のみならず類似の範囲まで商標権に排他的効力を付すなど、当該商標の商標権者の本来的使用範囲よりも広い範囲の効力を付しているから、その認定は需要者又は取引者を基準として客観的にされるべきものであり、被請求人が使用する他の商標(ラベル)を参酌して、当該被請求人の意図にのみ従ってその認定をすることは相当ではない。
したがって、欧文字が併記されているラベルの商標が「アフリ」と称呼される場合もあるが、そうであるからといって、別個独立の商標である本件商標の称呼を「アフリ」と認定できるものではないし、本件商標については前記1(1)のとおり判断するものであるから、請求人の主張は採用することができない。
6 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号、同項第10号、同項第15号、同項第19号及び同項第7号のいずれにも違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-890068