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商標無効審判

2022-890042

ホワットイットイズント

審判番号
2022-890042
法域
商標
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
商願2020-162699
登録番号
6447374
請求日
2022年06月06日
審決日
2023年09月25日
公報発行日
2025年08月29日
結論
請求成立(無効)
当事者
  • 【請求人】マーク・ゴンザレス
  • 【請求人代理人】成川 弘樹
  • 【請求人代理人】金子 禄昌
  • 【請求人代理人】葛谷 滋基
  • 【被請求人】サクラインターナショナル 株式会社
審判長/審判官
  • 審判長 矢澤 一幸
  • 審判官 小田 昌子
  • 審判官 阿曾 裕樹
分類
T111 .22 -Z (W1825) / T111 .222-Z (W1825)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
商標法4条1項商標法46条1項
条文(本文から自動抽出・参考)
商標法第4条第1項第7号、商標法第4条第1項第19号、商標法第4条第1項、特許法第74条、商標法第29条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

上記当事者間の登録第6447374号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

結 論 登録第6447374号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。

理由

理 由 第1 本件商標 本件登録第6447374号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、令和2年12月26日に登録出願、第18類「愛玩動物用被服類,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,傘,ステッキ,つえ,皮革」及び第25類「被服,エプロン,靴下,手袋,ネクタイ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,帽子,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として、同3年8月23日に登録査定、同年9月27日に設定登録されたものである。 第2 請求人標章 請求人が、本件商標の登録の無効の理由において、本件商標が商標法第4条第1項第7号、同項第19号に該当するとして引用する、別掲2のとおりの標章(以下「請求人標章」という。)は、請求人が、自らの作品やデザインに使用し、請求人又は請求人が選んだライセンシーの製品を表示するものとして需要者の間に広く知られていると主張するものである。 第3 請求人の主張 1 請求の趣旨 請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第111号証(枝番号を含む。以下、枝番号の全てを示すときは、枝番号を省略する。)を提出した。 以下、証拠の記載にあたっては、「甲第○号証」を「甲○」のように記載する。 2 請求の理由 (1)はじめに 被請求人は、サクラグループ有限会社(以下、「サクラグループ」といい、被請求人と総称して「被請求人ら」という。)と一体となって、請求人が創作し権利を有する画像、デッサン、詩、ストーリー及びデザイン、並びに「Mark Gonzalez」という請求人の氏名及び「Gonzo Cuntry」という名称(以下、総称して「請求人知的財産」という。)に係る商標(本件商標(甲1)を含む。)を用いて請求人(又は請求人が選んだマスターライセンシー)が行う日本国内でのライセンスビジネスを妨げてはならない信義則上の義務を負っている。 かかる事情にもかかわらず、被請求人は、請求人がサクラグループに一定の条件付きで請求人知的財産に係る商標を権利保護の目的で出願することを許諾したことや請求人自身が本件商標の出願をしていないこと等を奇貨として、請求人が本件商標を始めとする請求人知的財産に係る商標を用いて日本国内でライセンスビジネスを行うことを妨げ、他方で請求人の名声や顧客誘引力に便乗して不当な利益を得る目的で本件商標の出願を行っている。 かかる商標出願の経緯と目的を踏まえると、被請求人による本件商標の出願行為は、請求人との間の信義則上の義務違反になるだけでなく、健全な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠く行為といえるため、このような出願行為にかかる本件商標は、公正な取引秩序を害し公序良俗に反することから、本件商標は無効である(商標法第4条第1項第7号)。 また、本件商標は、その登録出願時から現在に至るまで、請求人又は請求人が選んだライセンシーの製品を表示するものとして日本国内及び米国で需要者の間に広く認識されている請求人標章 (甲5) と類似する。前記出願の経緯と目的を踏まえると、被請求人が不正の目的でかかる本件商標を出願したことは明らかであるから、本件商標は無効である(商標法第4条第1項第19号)。 (2)商標法第4条第1項第7号に該当すること ア 被請求人による信義則上の義務違反 (ア)請求人について 請求人は、現在、世界で最も著名なスケートボーダーの一人であり、そのことは、最も著名なスケートボード専門誌である「THRASHER MAGAZINE」の表紙に取り上げられ(甲6) 、上記専門誌と並んで著名な専門誌である「Transworld Skateboarding」において、2006年に「2006 Legend Award」を授与され、2011年に「The 30 Most Infulential Skaters Of All Time」の1位に選出されたこと(甲7、甲8) 等からも明らかである。 そして、世界的に著名なスポーツ用品ブランドであるアディダスと20年以上にわたり、パートナーシップを結んでいる事実(甲10、甲11) や日本国内で非常に知名度の高い鞄ブランドである吉田カバンが請求人を「史上最も影響力のあるスケートボーダー」と紹介し(甲12) 、プロサッカーチームであるFC東京が請求人を「スケートボード界で伝説な地位を確立し歴史上最も有名なプロのスケートボーダーの一人」と紹介している事実(甲13) もこれを裏付けている。 また、請求人は、スケートボーダーとしてだけでなく、アーティストとしても著名であり、これまでアメリカ、イギリス、ブラジル、フランス、オランダ、ドイツ、スイス、オーストリア、メキシコ、スペイン、スウェーデン、イタリア、ノルウェー等多くの国で請求人の詩やアート作品のグループ展や個展が開かれている(甲14) 。 日本国内においても、グループ展として2001年「Untitled2001」等、個展として2010年「INVITATION」、2014年「BABY DON’T MIND」、2016年「MARK GONZALES-TOKYO SILK SCREEN」、2021年「No Rain Today」が開催されており、請求人及びその作品は日本国内外で名声を得ている(甲15~甲17) 。 (イ)本件商標について 本件商標は、請求人標章と同一の図形部分(以下「図形部分」という。)と、「What it isNt」という欧文字を横書きした文字部分(以下「文字部分」という。)から構成される商標である(甲1、甲5) 。 a 図形部分について 本件商標の図形部分は、請求人が創作した「エンジェル」又は「シュムー」(shmoo)等と称されるキャラクター(以下「エンジェル」という。)を表したものである。請求人は、遅くとも1998年頃から、エンジェルを自らの作品やデザインに用いている(甲18)。図形部分の著作権も請求人が有しており、大韓民国では請求人の氏名のロゴと併せて請求人の創作物として著作権登録を受けている(甲19) 。 また、エンジェルは、請求人が適法にライセンスを付与しているアディダスブランドの製品においてデザインに使用されており(甲20) 、請求人を象徴するキャラクターという位置づけにあるから、図形部分は、請求人を強く連想、想起させるものである。 b 文字部分について 文字部分は、著名なスケートボーダーかつミュージシャンであるトミー・ゲレロ氏と請求人が2000年頃共同制作したCDアルバムのタイトルであり(甲21)、文字部分は、請求人があえて大文字の「N」を使用した「What it isNt」という独特の綴りや、請求人がデザインした特徴的な字形から、本件商標は請求人を強く連想、想起させる。 (ウ)被請求人らによるライセンスビジネスについて 被請求人らは、2011年1月1日から2020年12月31日まで、請求人とサクラグループとの間で締結した「LICENSING AGREEMENT」(以下「本件契約」という。)契約に基づき、日本を含むアジア地域において、請求人知的財産を使用した衣料品、アクセサリー等の製造販売のライセンスビジネスを行っていた(甲22)。 請求人自身の名声や請求人知的財産の顧客誘引力に依拠して被請求人らが本件ライセンスビジネスを行い、サブライセンシーが製品を製造販売することにより、請求人の氏名に由来した「Mark Gonzales」というブランドの製品が、日本国内で広く流通するに至っている (以下、ブランドとしての「Mark Gonzales」を「本件ブランド」、本件ブランドを冠する製品を「本件ブランド製品」という。)。 なお、本件契約の当事者は、請求人とサクラグループであって、被請求人は形式的には本件契約の当事者ではなかったが、被請求人は、サクラグループと一体となって本件ライセンスビジネスを行っていた。 (エ)被請求人らが、請求人知的財産に係る商標を用いて請求人が行うライセンスビジネスを妨げてはならない信義則上の義務を負うこと a サクラグループが請求人知的財産に係る商標を用いて請求人が行うライセンスビジネスを妨げてはならない信義則上の義務を負うこと 被請求人らによる本件ライセンスビジネスは、本件契約を根拠に行われており、かかる本件契約では、本件契約11条において、請求人知的財産に関して、サクラグループは、請求人の請求があれば請求人へ返還することを条件として、請求人の権利を保護する目的である場合に限り、商標登録等を行うことができる旨定められていた(甲22) 。 同条の趣旨は、請求人が米国に居住していることもあり、アジア地域における請求人知的財産に係る商標権等の権利を保護する必要が生じた際は、一次的にサクラグループを通じた権利保護を図ることにより、請求人の権利を迅速かつ確実に保護する点にあるから、かかる趣旨からして、請求人知的財産に係る商標の権利については、最終的に請求人が返還を受けて権利者となることが予定されていたといえる。 また、本件契約は最長10年間(2020年12月31日まで)有効であるが、その後の契約期間の延長の規定が存在していないから(甲22)、請求人と被請求人との間では、被請求人らによる本件ライセンスビジネスや請求人知的財産に係る商標の使用が許諾されるのは最長10年間であること、本件契約の有効期間満了後は、請求人によりサクラグループが新たなマスターライセンシーに選ばれない限り、サクラグループが行っていた本件ライセンスビジネスを請求人(又は請求人が選んだ新たなマスターライセンシー)が引き継ぐことが予定されており、その結果として、サクラグループは、請求人知的財産に係る商標を用いて請求人(又は請求人が選んだマスターライセンシー)が行うライセンスビジネスを妨げてはならない信義則上の義務を負っていた。 b 被請求人とサクラグループが実質的に一体であること 本件契約締結以前に、被請求人や被請求人の代表取締役であるB氏は、請求人と書籍「SOCIAL PROBLEM」の出版やCDアルバム「What it isNt」の制作等を行っていた。かかる取引関係の存在を契機に、請求人はサクラグループと本件契約を締結するに至ったが、かかる契約締結の交渉は実際にはサクラグループではなく、B氏が行っていた。 また、2020年3月頃、請求人はサクラグループに対し、2014年分以降のロイヤリティーの支払いと本件契約11条に基づく日本国内外の登録商標の返還等を求めており(甲33、甲34)。このとき、サクラグループ側で実際に交渉やロイヤリティーの支払を行ったのはB氏であった(甲34、甲35)。 さらに、サブライセンシーが新たな本件ブランド製品の製造販売を企画する際、本件契約3条により、サブライセンシーはデザイン等について請求人の承認を得る必要があるが、その窓口になっていたのはB氏であった。 以上のように、サクラグループやサクラグループ代表者であるA氏ではなく、被請求人の代表者であるB氏が、請求人やサブライセンシーと交渉を行う窓口になっていたから、被請求人とサクラグループが、実質的に一体になって本件ライセンスビジネスを行っていた。 また、ファッションビジネスの業界紙である繊研新聞の本件契約期間中(2011年頃から2020年)の記事では、被請求人が請求人の知的財産に係るライセンスを有しているとの記述や被請求人がマスターライセンシーであるとの記述、さらには被請求人自身が請求人とライセンス契約を締結しているとの記述が存在する一方、請求人との関係でサクラグループを取り上げた記事が見当たらない(甲36~甲42) から、本件契約締結後、被請求人は、マスターライセンシーとして本件ライセンスビジネスを行っていたのであって、サクラグループと一体であった。 さらに、本件契約に係る契約書(甲22)や本件ライセンスビジネスに係る商標の登録原簿(甲43、甲44) に記載されたサクラグループの所在地は、被請求人の本店所在地(甲45)となっている。 また、サクラグループの代表者はA氏であるところ(甲46)、同氏はB氏と配偶者の関係にあり、これらの所在地の同一性や代表者の婚姻姻関係は、被請求人とサクラグループは本件ライセンスビジネスに係る商標や契約の管理を一体となって行っていたことの証左である。 以上から、被請求人はサクラグループと一体的に本件ライセンスビジネスを行うとともに、本件契約を含むライセンスの管理を行っていることは明らかであるから、被請求人とサクラグループは実質的に一体である。 (オ)被請求人らによる義務違反 a 請求人知的財産に係る商標を返還しないこと 本件契約6条により、サクラグループは請求人に対し、毎年一定額のロイヤリティーの支払義務を負っており、本件契約3条により、サクラグループは、請求人知的財産を使用した製品の製造販売の際、事前に、サクラグループが請求人に承認対象となる製品のデザイン又はサンプルを送付して承認を得る義務を負っていた(甲22) 。 しかし、サクラグループは、2014年分以降、請求人へのロイヤリティーの支払いを怠るようになり、サブライセンシーが企画する本件ブランド製品の製造販売に関して、被請求人らは、請求人の承認を都度得ることなく、サブライセンシーに本件ブランド製品の製造販売を承認するようになった(甲37~甲42) 。 そのため、2020年3月頃、請求人はサクラグループに対し、2014年分以降のロイヤリティーの支払いと本件契約11条に基づく日本国内外の登録商標の返還を求めた。また、併せて、請求人に更新の意思はないこと、本件契約10条による契約期間の更新の上限(10年間)を迎える2020年12月31日に本件契約が終了すること、本件契約の終了に伴う混乱を避ける措置として、請求人がサブライセンシーに直接ライセンスを許諾する用意があり、円滑な権利関係の移行に協力するよう求める旨をサクラグループに伝えた(甲33) 。 その後、請求人とサクラグループとの間で交渉が行われたが、サクラグループ側で実際に交渉を行ったのは被請求人の代表者であるB氏であった。交渉の結果、請求人とB氏は、2020年12月31日に本件契約が終了することを前提に、請求人が契約終了までに製造された本件ブランド製品の販売に限り、2021年1月1日から同年12月31日まではセルオフ期間として許諾すること、サクラグループが2014年分から2020年分のロイヤリティーとセルオフ期間設定の対価を支払うことで合意し、2020年7月頃、被請求人から請求人に上記金員が支払われた(甲34、甲35) 。 しかし、被請求人らは、本件契約が終了し、セルオフ期間に入ったにもかかわらず、マスターライセンシーの立場からサブライセンシーに対して請求人知的財産を使用した新製品の製造販売を許諾し続ける一方、請求人からの請求人知的財産に係る商標の返還請求に何ら対応しなかったので、2021年4月12日頃、請求人はサクラグループに対し、本件契約の終了を確認するとともに、あらためて請求人知的財産に係る商標の返還を請求する書面を送付した(甲48) 。 これに対し、2021年4月27日頃、被請求人らは、代理人を介して、請求人に対し、本件契約は2021年12月31日まで延長されており、そのため商標を返還する理由がない旨の回答を行った(甲49) 。 この点、請求人は2021年12月31日までをセルオフ期間と定めたにすぎず、本件契約が2021年12月31日まで延長されたとの事実はない。また、本件契約11条は、請求人の要求に応じて登録した商標を返還するとのみ定められているから、仮に契約期間中であっても、請求人が請求すれば商標を返還する義務を負っていた。そのため、被請求人らの主張は明らかに合理的な根拠を欠くものであった。 そのため、請求人は、2021年8月6日頃及び同年9月6日頃にも商標の返還を求める書面の送付を行った(甲50、甲51)。しかし、いずれの書面に対しても、被請求人らからの回答はなく、現在まで、請求人に本件登録商標を始めとした請求人知的財産の一切が返還されていない。 b 被請求人らが本件商標を用いたライセンスビジネスを開始していること 2021年12月頃、ハワード株式会社(以下「ハワード社」という。)が、新ブランドを展開し、本件商標及び登録第6447375号商標をブランドロゴに使用した製品の取扱いを開始し(甲1、甲52、甲53) 、有限会社シアーズ(以下「シアーズ社」という。)も遅くとも2022年2月頃から、同様に新ブランドの取扱いを開始した(甲54) 。 本件商標の現在の権利者は被請求人であるから、ハワード社及びシアーズ社に対しては、被請求人が本件商標のライセンスを付与しているものと推察される(甲1、甲52)。 そして、この新ブランドに係るウェブページには、「『(What it isNt)』のプロモーションのため、マーク・ゴンザレスのアートワークを中心にデザインされた商品です。」、「その名もアルバム名から取られた『(What it isNt) 』CD制作過程でゴンズ自身が描き下ろしたポエムやグラフィックを中心にウェアやグッズに反映させた販売促進プロジェクトです。」等といった請求人との関連性を強調する記述がなされている(甲53、甲54)。 このような本件商標を使用した新ブランドの製品やウェブページを見た一般消費者は、新ブランドが請求人の許諾の下で展開されていると誤認して製品を購入することは明らかであり、一般消費者がかかる誤認をすることにより、請求人が本件商標を用いたブランドビジネスを展開することが困難となっていくことは明らかである。 c 小括 以上より、被請求人は、本件商標を含め請求人知的財産に係る商標を請求人に返還せず、自ら保有し続けており、この状態が継続し、さらには本件商標の登録が認められると、請求人は、本件商標を用いたライセンスビジネスを展開していくことが困難となり、重大な営業上の不利益を受けるおそれが生じる。 そのため、被請求人は、請求人知的財産に係る商標を用いて請求人が行う日本国内でのライセンスビジネスを妨げてはならない信義則上の義務に明らかに違反している。 なお、被請求人らは、本件商標以外にも請求人知的財産に係る商標を保有し、関連商標の出願を行っている(以下、総称して「関連商標」という。)から、被請求人らによる義務違反の程度は極めて大きいといえる(甲43、甲44、甲52、甲55~甲67)。 イ 本件商標の出願の経緯及び目的について (ア)本件商標の出願の経緯 被請求人は、本件契約の当事者であるサクラグループと一体であることから、請求人知的財産に関して、請求人の請求があれば請求人へ返還することが条件とはなっているものの商標出願を行うことが可能であること、他方で、請求人知的財産に係る商標について請求人が出願していないことを、当然認識しており、被請求人による本件商標の出願は、このような状況を利用してなされた。 また、被請求人らは、本件商標を出願する前の2020年3月頃に請求人から請求人知的財産に係る商標の返還請求を受けていることから(甲33、甲34)、本件商標に係る権利を請求人に返還する必要があることを十分認識しておきながら、返還する意図もなく、本件商標の出願を行った。 (イ)被請求人らによる関連商標の譲渡 サクラグループは、本件商標の出願に先立つ2020年10月19日、関連商標のうち登録第4721594号商標及び登録第4721595号商標を被請求人へ譲渡している(甲43、甲44、甲57、甲58) 。 さらに、本件商標の出願後、2021年11月24日にも、サクラグループは、登録第4765359号商標及び登録第4769801号商標を被請求人へ譲渡している(甲59~甲62)。 被請求人らがこのような関連商標の譲渡を行ったのは、本来、サクラグループは、請求人から本件契約11条に基づく返還請求を受けた場合、これに応じなければならないことから、被請求人に商標を譲渡することで、請求人からの請求を回避することを意図したためと推測され、このような意図を有している以上、被請求人らは請求人のライセンスビジネスを妨げる意図を有していたことは明らかである。 (ウ)被請求人による新ブランドのライセンス付与 ハワード社やシアーズ社が被請求人からライセンスの付与を受け、新ブランドを展開し、被請求人が、本件契約終了後に請求人知的財産からなる本件商標を使用して、新ブランドに係るライセンスビジネスを開始していること、本件商標の使用が新ブランドと請求人の関連性を強調していること等からすれば、本件商標の出願が、請求人の名声やこれに基づく顧客誘引力に便乗する目的でライセンスビジネスを行う目的でなされたことは明らかである。 (エ)小括 以上より、被請求人は、請求人の権利保護のための出願が許諾されていたことや請求人自身が本件商標の出願をしていないこと等を奇貨として、請求人のライセンスビジネスを行うことを妨げ、他方で請求人の名声やこれに基づく顧客誘引力に便乗する目的の下、本件商標の出願を行っていることは明らかである(甲53、甲54)。 ウ 結論 以上より、本件商標の出願は、その経緯と目的において健全な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠く行為といえ、このような出願行為に係る本件商標は公正な取引秩序を害し公序良俗に反するものであるから、商標法第4条第1項第7号に該当する。 (3)商標法第4条第1項第19号に該当すること ア 請求人標章の周知性 請求人標章は、本件商標の登録出願時、日本国内及び請求人の出身地でありプロスケートボーダーやアーティストとしての活動の多くを行っていた米国において、請求人(又は請求人が選んだマスターライセンシー) の製品を示す商標として広く知られていた。 (ア)国内における周知性があること a 本件ブランド製品が全国の需要者に供給されていたこと 請求人標章は、遅くとも2010年頃から、請求人(又は請求人が選んだマスターライセンシー)の製品を示す商標として、本件ブランド製品に使用されている(甲22) 。 本件ブランド製品を販売したことがあり又は現在販売している企業には、株式会社ライトオン(2021年8月31日時点で全国の店舗数412)、株式会社マックハウス(2021年8月31日時点で全国の店舗数323) 、株式会社ヴィレッジヴァンガードコーポレーション(2021年11月30日時点で全国の店舗数286) 等の全国に実店舗を展開する大手小売企業が含まれ、本件ブランド製品が実店舗において全国の需要者に供給されていたことを示している(甲25~甲30) 。 また、居住地を問わず購入可能である通信販売サイト大手であるAmazon、ZOZOTOWNのいずれにおいても、2000点以上という相当な種類及び数の本件ブランド製品が販売され(甲31、甲32) 、さらに、株式会社ライトオン、株式会社マックハウス、及び株式会社ヴィレッジヴァンガードコーポレーションの通信販売サイトにおいても本件ブランド製品が販売されていた。 このように本件ブランド製品は実店舗や通信販売サイトを通じて相当の数及び種類が全国に供給されており、請求人標章は、請求人(又は請求人が選んだマスターライセンシー)の製品を示すものとして全国の需要者から認識される十分な機会があった。 b 各種媒体で継続的に情報が発信されていたこと 本件ブランド製品や請求人は、2010年頃から繰り返し各種媒体で取り上げられている(甲68) 。雑誌では2010年から2013年にかけて「WOOFIN’」(月刊、発行部数約12万部)に6回、2014年には「Ollie」に2回掲載されている(甲69~甲77)。 インターネット上では、2013年頃から現在まで、ファッション情報サイト「FASHIONSNAP.COM」や「FASHION PRESS」の記事で請求人や本件ブランドが度々取り上げられている(甲78~甲81) 。両サイトはいずれもSNSサービス「twitter」の公式アカウントを運営しているところ、「FASHIONSNAP.COM」が191万、「FASHION PRESS」が369万のフォロワーを有している。フォロワーの数は両サイトが発信した情報の受け手が多いことを意味するから、両サイトが取引者及び需要者の認識に対し大きな影響力を有している(甲82、甲83) 。 このように、本件ブランド製品や請求人が、雑誌や影響力の大きいファッション情報サイトで継続的に取り上げられたことにより、請求人標章は、請求人(又は請求人が選んだマスターライセンシー)の製品を示す商標として全国の取引者及び需要者から広く認識されていた。 (イ)米国における周知性があること a 著名なアディダスブランドから、請求人標章と同一又は類似の商標を使用したスケートボード関連製品が継続的に販売されてきたこと (a)請求人標章と同一又は類似するエンジェルの標章を使用した製品の販売 アディダスブランドは、遅くとも2008年頃から、請求人とのコラボレーション製品として、エンジェルの標章を使用したスケートボード関連製品を販売している(甲84、甲85) 。その後、2009年(甲86) 、2013年(甲87) 、2015年(甲88、甲89) 、2017年(甲90) 、2019年(甲91) 、2020年(甲92~甲94)にもエンジェルの標章を使用した製品が発売されている。 上記各製品のエンジェルの標章は、請求人とのコラボレーションを表現する目的で用いられているところ、いずれも請求人標章と外観的特徴が共通し、「シュムー」と称されることがあるなど(甲92) 、請求人標章と同一又は類似である。 (b)米国のスケートボード関連製品市場 スケートボード関連製品の主な需要者はスケートボード参加者であるところ、2010年から2017年の米国のスケートボード人口は、2012年頃から2017年にかけて630万人前後で安定しており、2020年頃も同等の水準と推測できるから、2012年頃から2020年頃までの間、米国内には少なくとも約630万人という相当な数のスケートボード関連製品の需要者が存在したといえる(甲95) 。 (c)アディダスブランドが米国のスケートボード関連製品市場における宣伝広告に注力してきたこと アディダスブランドは、2020年には全世界で約180億ユーロ、北米では約43億ユーロの売上高を記録するなど、スケートボード関連製品を含むスポーツ用品に関して巨額の売上高を誇るブランドである(甲96、甲97) 。 同ブランドのスケートボード関連製品は、主にアディダススケートボーディングというサブブランドから発売されている。アディダススケートボーディングのブランドサイトでは、パートナーシップを結んでいるスケートボーダーのうち、コラボレーション製品が販売されている等知名度の高い者が大きく紹介されているが、その約7割が米国を中心に活動している(甲98)。 一般に、ブランドと競技者がパートナーシップを結ぶ目的の一つは商品の宣伝広告であるから、アディダスブランドがパートナーシップを結んだプロスケートボーダーの多くが米国を中心に活動している事実は、米国市場が同ブランドにとって重要な市場であり、宣伝広告に注力してきたことを示している。 このように、従前からのスポーツ用品ブランドとしての著名性に加え、スケートボード関連製品市場に向けた宣伝広告によって、アディダスブランド製品は米国のスケートボード関連製品市場の取引者及び需要者の多くに知られていた。 b 本件商標の登録出願までにエンジェルが請求人の象徴として広く知られていたこと 請求人は1998年頃から自らの作品やデザインの中で繰り返しエンジェルを用いている(甲18、甲21) 。米国内の展示会では、アディダスブランドと請求人のパートナーシップ15周年を記念して2013年に開催された「15 YEARS OF MARK GONZALES」や2017年に行われた展示会「FOWER PLOWER」等において多数のエンジェルが象徴的に用いられた例がある(甲99、甲100) 。その後、2020年発売のスケートボード関連製品に用いられたエンジェル(シュムー)の標章が「象徴的」と評されるなど、遅くとも同年頃までに、エンジェルは請求人の象徴として取引者及び需要者に認識されるに至っている(甲101) 。 また、請求人は活動の多くを米国で行ってきたことから、米国において取り分け高い知名度を有している。一流の出版社とも評されるRizzoli New Yorkからモノグラフが出版されていることはこれを裏付けている(甲102、甲103)。特に、スケートボード業界における請求人の評価は2011年の時点で米国の専門誌上「最も影響力のあるスケーター」と称されるまでに至っており(甲8)、請求人自身も、本件商標の登録出願時、米国のスケートボード関係者の間で著名な存在であった。 このように、請求人自身の著名性とも相まって、エンジェルは請求人の象徴として、遅くとも本件商標の登録出願時までに米国のスケートボード関連製品の取引者及び需要者に広く知られていた。 イ 本件商標と請求人標章が類似すること 請求人標章は図形部分と同一の図形のみからなる商標であり、本件商標は請求人標章に文字部分が結合した商標である(甲1、甲5) 。 図形部分は、本件商標の中心に大きく配置されていることに加え、請求人(又は請求人が選んだライセンシー) の製品の表示として周知性を有しており、かかる表示として取引者及び需要者に対し強く支配的な印象を与える。 他方、文字部分は、図形部分の下部に小さくやや間隔を空けて配置され、外観上明瞭に区別できる上視覚的に与える印象は弱い。また、文字部分が本件ブランドや図形部分と切り離して単体で用いられることはほとんどないこともあり、図形部分と組み合わせた場合需要者に与える印象は相対的に弱いものとなる(甲53~甲54) 。 このように、図形部分と文字部分は分離観察が取引上不自然なほど不可分的に結合しているものではなく、本件商標から図形部分のみを抽出して請求人標章との類否を判断することは許される。 そして、請求人標章と図形部分を比較すると、これらは図形として同一で外観上与える印象は共通である。また、いずれもエンジェルを表した図形が請求人を強く連想、想起させるから、生じる観念も共通である。 したがって、固形部分を要部とする本件商標と請求人標章は外観上の印象及び観念を共通にする商標であり、両者は類似する。 ウ 不正の目的について 商標法第4条第1項第19号の「不正の目的」とは図利・加害目的をはじめとして取引上の信義則に反するような目的をいう。 被請求人が請求人に本件商標を返還せず、保有し続けること自体、信義則上の義務に違反することに加え、被請求人は、請求人の権利保護のための出願が許諾されていたことや請求人自身が本件商標の出願をしていないこと等を奇貨として、請求人のライセンスビジネスを行うことを妨げ、他方で請求人の名声やこれに基づく顧客誘引力に便乗して不当な利益を得る目的で本件商標の出願を行っている。 かかる目的が取引上の信義則に反することは明らかであり、被請求人は不正の目的をもって本件商標を出願し、登録を受けたといえる。 エ 結論 以上より、本件商標は請求人の業務に係る商品を表示するものとして我が国又は外国において周知の請求人標章と同一又は類似の商標であって、不正の目的をもって使用する商標であるから、商標法第4条第1項第19号に該当する。 3 答弁に対する弁駁 (1)被請求人が本件契約に基づく本件商標の返還義務に違反している事実が商標法第4条第1項第7号該当性を基礎づけること ア 被請求人が本件契約の当事者に含まれること 本件契約の契約書の形式上、被請求人は当事者とされていないが(甲22) 、被請求人はサクラグループと一体的な存在として、実質的な契約当事者である。 この点、被請求人ら自身も、現在東京地方裁判所に係属中の被請求人及びサクラグループを原告、請求人を被告とする訴訟(令和3年(ワ)第32244号損害賠償等請求事件)において、被請求人が本件契約の当事者に含まれることを認めている(甲104) 。 イ 被請求人が本件契約上の商標返還義務に違反していること 本件契約11条が、請求人知的財産に関して、請求人の請求があれば請求人へ返還することを条件として、請求人の権利を保護する目的である場合に限り、商標登録等を行うことができる旨を定めている(甲22)から、被請求人は、請求人の請求があれば、本件商標を請求人へ返還する義務を負うが、被請求人は、請求人からの返還請求に一切応ぜず、現在に至るまで本件商標の商標権者として使用を続けている。 ウ 被請求人が本件契約上の商標返還義務へ違反している事実が商標法第4条第1項第7号該当性を基礎づけること 本件契約11条は、被請求人らに対し、最終的に請求人へ返還することを条件として、請求人知的財産に関する商標を出願登録することを認めるものであるから、被請求人が契約上の義務に違反して本件商標を返還しない場合、請求人は、被請求人に対し、本件契約に基づいて移転登録手続を請求することが可能である。 もっとも、移転登録の申請手続は、確定判決によらない限り、譲渡人と譲受人が共同で手続を行うことが必要であり、被請求人の協力が必須となる(商標登録令10条、特許登録令18条)。また、確定判決を得て移転登録を受ける場合も含め、移転登録の時までは、被請求人らが本件商標の商標権者であったことは否定されない。加えて、請求人のようなライセンサーにとって、ライセンスビジネス上、一時的にでも、自己の統制下にない者が商標権者であるとの法律的地位が生じることは、事業上の信用を損なう重大事である。 本件において、被請求人は、本件契約上の返還義務に違反しているだけでなく、本件商標が本来被請求人に帰属するものであるとまで主張している。そのため、請求人としては、無効事由が生じて以降の被請求人らによる商標の使用が商標権に基づくものではなかったという実体法上の関係を、第三者との間でも明確にする必要がある。そのため、実質的には本件商標を無効とした上で、信用の回復を図るほかない状況にある。 以上より、被請求人が本件契約上の商標返還義務に違反している事実が、請求人が請求人知的財産を用いてライセンスビジネスを行うことを妨げてはならない信義則上の義務に違反していることを基礎づけることは明らかである。 なお、裁判例には、商標権の帰属と関連して商標法第4条第1項第7号該当性が問題となった事案において、外国法人が「ライセンシーが商標登録出願して登録を得た場合にその登録された商標の商標権の譲渡を受けることを約するなどの措置を採ることができたにもかかわらず、そのような措置を怠っていた」といった事情を「公の秩序又は善良の風俗を害する」商標への該当性を否定する事情として挙げるものがある(甲110) 。 このような指摘からは、裁判例上、ライセンサーとライセンシーの間でライセンス対象の商標が最終的にライセンサーに譲渡されるべきことを契約上定めたが、ライセンシーが契約に違反したために当該商標の商標権者となっているとの事情が、当該商標が公正な取引秩序に反し、著しく社会的妥当性を欠くことを基礎づける事情と解されていることがうかがわれる。 また、特許法に関する議論であるが、移転請求制度(特許法第74条)の創設に併せて、冒認又は共同出願違反の出願であることを無効事由から除くべきか議論された際も、真の権利者が特許権の消滅を望む場合がある等の意見が重視され、冒認等による出願であることは無効事由として維持されたという経緯があり(甲111)、この考え方は、特許権と同じく登録制度を基盤とする商標権においても当てはまる。 以上より、被請求人が、本件契約上の商標返還義務に違反し、商標権者として振舞っている事実は、請求人が請求人知的財産を用いてライセンスビジネスを行うことを妨げてはならない信義則上の義務に違反していることを基礎づけるだけでなく、かかる事実自体、本件商標の出願が、経緯と目的において健全な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠くものであり、本件商標が公正な取引秩序を害し公序良俗に反することを基礎づける事情といえる。 (2)被請求人の主張について 被請求人は、本件商標を構成する図形等について、自らが著作権を有するから、商標法第4条第1項第7号及び同項第19号に該当しないと主張するが、本件商標の図形は請求人が単独で創作したものであり、その著作権は請求人に原始的に帰属し、請求人が被請求人に本件商標を構成する図形等の著作権を譲渡したことはなく、被請求人が著作権を有するという前提からして誤りがある。 なお、請求人知的財産である図形等を用いた本件商標の出願は、本件契約11条に基づいて行われたものであること(甲22) 、また商標法上、著作権の帰属は主として商標の使用に関する問題であることからすれば(商標法第29条)、仮に被請求人が著作権を有していたとしても、かかる事情によって商標法第4条第1項第7号及び同項19号の該当性が否定されないことは明らかである。 第4 被請求人の答弁 1 答弁の趣旨 被請求人は、本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べた。 2 答弁の理由 (1)既登録商標の組み合わせであること ア 被請求人は、登録第4721594号商標、登録第4721595商標、登録第6447375商標、登録第4765359号商標、登録第4769801号商標、登録第6527914号商標及び登録第6527915号商標を正当に有している。 イ 本件商標は、被請求人所有の上記アの登録商標の組み合わせにすぎず、また、その組み合わせにより他人の商標を害するという特段の事情も存在しないから、誰の権利も害していない。 請求人の提出証拠は、被請求人が自ら有する権利を正当に使用した証拠であり、本件商標に関して、請求人の使用や所有を証するものではない。 (2)請求人は著作権を有していないこと 本件商標の図形部分に関しても、文字部分に関しても、請求人が描いたことが事実であるとしても、原始的にも譲渡によっても本件商標の著作権が請求人に帰属した事実は一切ない。請求人の主張は、現著作権者の主張としては正しいかもしれないが、過去に一度も本件商標の一部も著作権を保持したことがない主張としては全く当を得ておらず、理論上欠陥がある。 請求人は、著作権の帰属に関して、最近になって韓国で得た著作権登録を根拠として主張しているようであるが、韓国での著作権登録自体がいずれ取り消される不法登録であるから、根拠たり得ない。 (3)本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同項第19号のいずれにも該当しないこと 請求人主張は、「請求人は有名である。そして、本件商標は、請求人と切っても切れない著名デザインである。故に、第三者の商標登録は、商標法第4条第1項7号及び同項19号に該当する」というものであるが、この請求人主張が成立するのは、同デザインの知的財産権が請求人に帰属する場合のみであるが、同デザインは、請求人がデザインしたものであるとしても、既に被請求人が著作権者であるから、請求人主張が成り立たず、同デザインの原作者として請求人を有名にしたのは被請求人である。 その証拠として、請求人の提出証拠は、ほぼ被請求人の多大な投資による広告・宣伝ばかりであり、請求人がデザインをしたが、その知的財産権は請求人に帰属しておらず、被請求人が権利保持者より同デザインの知的財産権を譲受し、有名にしたところ、請求人は同デザインの原作者という地位を濫用し、権利・登録商標等を騙取すべく、本審判請求を提起した。 (4)係争中であること 被請求人(原告)は、請求人(被告)を相手どり、[請求人等の共同不法行為に対する損害賠償請求の正当性の根拠として]本審判請求の諾否の基礎となる商標権(登録第4721594号商標・登録第4721595商標も含む)及び著作権(「What it isNt」も含む)を被請求人が正当に有していることの地位確認訴訟を、2021年12月13日付けで東京地裁に提訴している[令和3年(ワ)第32244号]から、同確定判決と矛盾がなきよう本件審理を進めるのが妥当である。 第5 当審の判断 請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係を有する者であることについて、当事者間に争いがないので、本案に入って審理し、判断する。 1 商標法第4条第1項第7号該当性について (1)請求人の主張及び同人の提出した証拠によれば、以下の事実が認められる。 ア 請求人は、アメリカ合衆国出身のプロスケートボーダー及びアーティストであって(甲6~甲8)、遅くとも2008年以降に、他社とコラボレーションした自身モデルの靴に請求人標章又はそれと同様の図形(「シュムー」と称されている。)を表示している(甲84、甲85、甲90、甲92~甲94)。 イ 請求人とサクラグループ(A氏が署名)との間において2010年12月8日付けで締結されたライセンス契約書(甲22。以下「本件契約」という。)には、以下のような条項がある。 (ア)請求人は、サクラグループに対し、2011年1月1日から1年間、請求人知的財産権を使用した衣料品、アクセサリー、プロモーション等に独占的に使用する権利を許諾する。 (イ)サクラグループは、その選択により、最大10年間、同一の条件で契約を更新できる。 (ウ)サクラグループは、請求人の要求があれば返還することを条件として、請求人のデザインを保護するために商標登録することができる(第11条)。 ウ 2020年3月2日付けの書面で、請求人代理人は、サクラグループに対し、本件契約が2020年12月31日に終了する旨、本件契約11条に基づき登録商標の返還を求める旨、請求人に契約更新の意思はない旨、2014年から2019年までのロイヤリティーの支払いを求める旨を通知した(甲33) エ 2020年3月6日付けの書面で、請求人代理人は、サクラグループに対し、被請求人の代表者であるB氏から2014年から2019年までのロイヤリティーを支払う意思がある旨の電話があったことを受けて、当該ロイヤリティーの支払いを改めて求める旨、本件契約11条に基づく登録商標の返還を求める旨を通知した(甲34) オ 2020年4月6日付けで、請求人に対して、B氏によって、米ドル建ての送金が行われている(甲35)。 カ 被請求人は、上記第1のとおり、令和2年(2020年)12月26日に、本件商標を登録出願し、本件商標は、同3年(2021年)8月23日に登録査定された(甲1)。 キ 2021年4月12日付けの書面及びEメールで、請求人は、サクラグループのA氏及びB氏に対し、本件契約は、2020年12月31日をもって終了している旨、登録商標の返還を求める旨を通知した(甲48)。 ク 2021年4月27日付けの電子メールで、請求人に宛てて、上記書面及びEメールの返信として、本件契約は2021年12月31日まで存続することを説明した旨、登録商標の返還や放棄を行う理由はない旨が返信された(甲49)。 ケ 2021年8月6日付けで請求人からサクラグループのA氏及び被請求人の代表者であるB氏に対し、本件契約終了に関する最後通告及び本件契約11条に基づく登録商標の返還を求める旨を内容とするEメール及び書面を通知した(甲50) コ 2021年9月6日付けの書面及びEメールで、請求人は、サクラグループのA氏及びB氏に対し、本件契約11条に基づく登録商標の返還を求める旨を通知した(甲51)。 (2)検討 上記(1)の各事実によれば、請求人とサクラグループは、本件契約に基づき、2011年1月1日から2020年12月31日までの10年間、請求人知的財産権の使用に関する独占使用権に係る契約関係があったところ、請求人標章は、遅くとも2008年の時点で請求人が創作した図形(シュムー)として請求人モデルの商品に使用されていたから、当該契約が適用される範囲内にあったと理解できる。 そして、2020年3月以降、請求人からサクラグループに対し、本件契約は同年12月31日に終了する旨の意思表示(本件契約は元々最大10年の更新が明記されていた。)が数度にわたりなされていたところ、その契約終了直前である令和2年(2020年)12月26日に、サクラグループの関係者でもある本件商標権者が、請求人標章を構成中に含む本件商標を登録出願し、同3年(2021年)8月23日に登録査定されるに至ったものである。 そうすると、本件商標の登録出願は、請求人知的財産権に係るライセンシーとして請求人の我が国におけるライセンス事業活動を補助すべき取引関係や契約関係にあるサクラグループの関係者(B氏)が、当該契約や取引関係が終了することを十分認識しながら、その契約満了の直前に駆け込み的になされたものであるから、その登録出願の経緯は、適正な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠くというべきで、また、その登録出願は、請求人の事業を阻害する若しくは損害を与える目的又は不正の利益を得る目的などの不正の目的でなされたものと推認せざるを得ない。 なお、本件契約には、サクラグループは請求人の要求があれば返還することを条件として請求人標章を含む商標について商標登録することができる旨の条項があったとしても、本件商標の登録出願は当該契約の終了直前に駆け込み的になされていること、本件商標権者は請求人による本件商標の返還請求を重ねて拒否していることなどを鑑みれば、本件商標の登録出願は、請求人に返還する意図なく、当該条項を悪用して、不正の目的でなされたものと理解できる。 そうすると、本件商標は、その登録出願の経緯及び目的に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合に当たるものとして、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するというべきである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。 2 被請求人の主張について 被請求人は、請求人は著作権を有しておらず、本件審判請求の諾否の基礎となる商標権及び著作権を被請求人が正当に有していることの地位確認訴訟を、2021年12月13日付で東京地裁に提訴しているから、同確定判決と矛盾がないように本件審理を進めるのが妥当である旨主張する。 しかしながら、本件商標は、上記1(2)のとおり、取引関係や契約関係、登録出願の時期などを鑑みれば、その登録出願の経緯は、適正な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠くというべきで、また、その登録出願は、請求人の事業を阻害する若しくは損害を与える目的又は不正の利益を得る目的などの不正の目的でなされたものといえる。 そして、上記認定判断の内容は、著作権の帰属と直接関連するものではないから、被請求人が主張する別件訴訟の結論は、本件審判における審理判断の内容に何ら影響しない。 3 まとめ 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第第7号に該当するものであり、その登録は、同条第1項の規定に違反してされたものであるから、その余の無効理由について判断するまでもなく、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効とすべきである。 よって、結論のとおり審決する。

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2022-890042

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