商標無効審判
2022-890033
リョーマ、リューマ
- 審判番号
- 2022-890033
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 商願1985-102274
- 登録番号
- 2051689
- 請求日
- 2022年05月12日
- 審決日
- 2023年03月29日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 請求成立(無効)
- 当事者
- 【請求人】有限会社 吉永鰹節店
- 【請求人代理人】橋本 京子
- 【請求人代理人】橋本 克彦
- 【請求人代理人】橋本 大輔
- 【被請求人】旭ブロック建設 株式会社
- 【被請求人代理人】中越 貴宣
- 審判長/審判官
- 審判長 佐藤 淳
- 審判官 豊瀬 京太郎
- 審判官 大森 友子
- 分類
- T111 .22 -Z (X29)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 商標法4条1項7号商標法46条1項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第4条第1項第7号、商標法第4条第1項第11号、商標法第4条第1号、商標法第46条第1項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の登録第2051689号の2商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
登録第2051689号の2商標の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 本件商標
本件登録第2051689号の2商標(以下「本件商標」という。)は、「龍馬」の文字を横書きしてなり、昭和60年10月8日に登録出願、同63年2月26日に登録査定、同年6月24日に設定登録され、平成20年8月6日に指定商品の書換登録がされた登録第2051689号商標について、第29類「卵,食用魚介類(生きているものを除く。),冷凍野菜,冷凍果実,肉製品,加工水産物,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,加工卵,カレー・シチュー又はスープのもと,お茶漬けのり,ふりかけ,なめ物」を指定商品として、同月11日に商標権の分割移転の登録がされ、現に有効に存続しているものである。
第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第29号証を提出した。
1 請求の理由
本願商標は商標法第4条第1項第7号に該当し、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効にすべきものである。
(1)請求人
請求人は、カツオ漁の盛んな高知県土佐市において、90年以上にわたって伝統の鰹節を作り続けている事業者であり、平成3年に鰹節を中心とする鰹製品やその他の水産加工品を製造販売する有限会社として設立された。
そして請求人は、近時、従来の鰹節とは全く異なる商品として、生鰹を軽く塩水にくぐらせてから焼き上げて包装した新商品を開発し(甲1)、パッケージに「かつお焼節龍馬節」の標章を表示して(甲2)、自社が運営する通販サイト(甲3)や県内各所の店舗などで販売していた。
ところが、被請求人の代理人弁理士より、令和3年8月31日付にて、「請求人が使用している上記標章が、被請求人が保有している本件登録商標「龍馬」と類似しており商標権侵害行為に該当するから、販売の即時中止を要求する、継続使用を希望する場合は使用許諾の用意がある、誠意ある回答がない場合は法的手段に移行する」などを内容とする通知書(甲4)を受け取った。
これに対し請求人は、上記標章と本件商標とは類似していないと考え、令和3年(2021年)9月24日に、第29類「鰹の塩焼き」を指定商品として上記標章を商標登録出願(商願2021-125042)したところ、令和4年1月7日付の拒絶理由通知書において、請求人の出願商標(=上記標章)は本件商標に類似するから商標法第4条第1項第11号に該当するという拒絶理由が示された。
そのため請求人は、被請求人の通知書に従い、一旦上記標章を使用した商品の販売を中止することとした。このことにより請求人は業務に甚大な打撃を受けている。
(2)被請求人
被請求人は、昭和32年(1957年)10月7日設立、高知県高知市に所在する建設業・製造業(コンクリート2次製品)、外構資材卸売業を主たる業務とする事業者である。
平成29年(2017年)12月8日に、一般承継により、本件登録商標の商標権者となった。
(3)商標法第4条第1項第7号について
商標法第4条第1号第7号の解釈については、本件商標の登録後の審決・判決・審査基準・審査便覧などによって数多く示され明確化されてきている。
そして、同号が、社会公共の利益、社会の一般的道徳観念、公正な取引秩序などの観点から解釈すべきであることは、同号が一般の拒絶及び無効の事由と異なり、公益的理由に基づくものとして除斥期間がなく、後発的無効事由としても当初より規定されている趣旨からも、本件商標の登録後と登録査定時とにおいて実質的に変化があるものと考える合理的理由はないから、本件商標の登録査定時においても同様に解釈されるべきである。
(4)商標法第4条第1項第7号該当性(登録査定時の無効事由)について
ア 周知性・著名性
坂本龍馬は、高知県においては古くから地元の英雄として深く敬愛され、昭和3(1928)年には、県内の青年有志が募金活動を行って、高知市桂浜の地に「龍馬像」が建立され、同県を代表する観光地となっている。
また、高知県において、坂本龍馬の偉業を学び自己研鑽に励む龍馬ファンの集まりである「龍馬会」が発足し、昭和61(1986)年には東京都世田谷区に事務局を置く「東京龍馬会」が発足するなど(甲5)全国に広まった。
さらに、昭和43(1968)年1月7日には、坂本龍馬の生涯を描いたNHK大河ドラマ「竜馬がゆく」の放映が開始され(甲6)、その後のNHK大河ドラマにも坂本龍馬は重要な人物として度々登場し、その知名度や人気は全国的に高まった。
そのため本件商標の登録出願及び登録時においても、坂本龍馬は、高知県内のみならず全国において、土佐藩郷士の家に生まれ、長崎で亀山社中を結成し、薩長同盟の成立に協力して、大政奉還に尽力した個性的な幕末の志士として広く知られており、その生き方に感銘を受け敬愛する人々も多かった。
さらに、「龍馬」が坂本龍馬の通称であることも広く知られていたため、本件商標「龍馬」が「坂本龍馬」を直ちに認識させるものであったことも明白である。
イ 人物名の利用状況及び住民等の認識
(ア)高知市では、本件商標の登録出願前から、毎年11月15日の龍馬の誕生日に上町の坂本龍馬誕生地碑前で「龍馬誕生祭」が行われており、平成30(2018)年には第40回が開催されていることから(甲7)、本件商標の登録時にはすでに10回近く開催されていることになる。
(イ)このように、高知県では古くから坂本龍馬に関連する祭りなどのイベントも行われていたことから、本件商標の登録時には、坂本龍馬は郷土高知県が生んだ英雄として広く県民に敬愛され、高知県のシンボルとして全国的にも認知されており、「龍馬」の文字は当時においても強い顧客吸引力を発揮し、祭り関連の商品や土産物や県産品などに表示することを望む事業者も多く、県民の共有の財産として地域の振興になくてはならない人名であったといえる。
(ウ)また京都市においては、京都霊山蔑国神社(京都市東山区)にある龍馬の墓前で、龍馬や盟友中岡慎太郎らを慰霊する「龍馬祭」が、明治39年(1906年)に始まっており、一時中断したが、昭和22年(1947年)に復活し、その後毎年行われており(甲8)、京都の人々が坂本龍馬の早世を惜しみ敬愛し続けていることが伺える。
(エ)そして、坂本龍馬は全国を巡って活躍した人物であることから、ゆかりの地は高知県や京都市や長崎市などに限らず全国各地に存在しており、本件商標登録前から上述のような事情がそれぞれの地域であったことが容易に想像される。
ウ 指定商品・役務との関係
(ア)本件商標の指定商品は、各地の特産品や土産物として一般的によく見られるものであって、これらの商品に「龍馬」の文字を使用したいとする者も少なくないものと考えられる。
(イ)現に、高知県はかつおに関する商品の産地として知られているところ、上述のとおり、請求人がかつおを原料とする商品(加工水産物)のパッケージに使用していた標章について、本件商標「龍馬」に類似するとして、被請求人から警告を受け使用が制限されている。
エ 出願人との関係
本件商標の出願人は、坂本龍馬とは何ら関係のない一民間企業である。
オ 商標「龍馬」の審査の状況
過去の審査において、著名な歴史上の人物名が一私人の出願について多数登録されたという実情があり、本件商標と同様の「龍馬」の文字からなる商標の登録例が他にも複数あるが、そのことは本件商標が無効とされるべきであることに何ら影響しない。
すなわち、商標法第46条第1項第1号に基づく商標登録無効審判は、本来商標登録されるべきでなかった商標が存在し得ることを前提としており、第三者の請求によりこれを無効とすることを認めた制度であるから、他に同様の登録があるからといって、本件商標に無効理由が存在しないことにはならない。単に、商標登録無効審判が請求されない限り、他の瑕疵ある登録は存続するに過ぎない。
むしろ、「龍馬」の文字の顧客吸引力に注目してこれを商標として使用したいと考えた者が多くいたことが推察され、一私人のみにその顧客吸引力を独占させることの社会的弊害が確認できる。
カ 結論
上述のとおり、本件商標の登録査定時において、すでに坂本龍馬の名は全国的に周知・著名であって、公益性、人気とも高く、強い顧客吸引力を有していたから、一民間企業である出願人が「龍馬」の文字を商標登録して独占権を得ることは、龍馬を敬愛する県民はじめ多くの国民の感情を棄損して反発を招くのみならず、「龍馬」の文字に化体した国民の共有財産ともいえる顧客吸引力の不当な独り占めとなり、さらに各地域の祭りなどのイベントの実施を妨げ、各地の地域振興をも阻害するおそれがあり、公正な競業秩序を害し、社会公共の利益に反するものであったことは明白である。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(5)商標法第4条第1項第7号該当性(後発的無効事由)について
商標法第4条第1項第7号は、商標登録がされた後において、その登録商標が同号に該当するものとなっているときにも、無効にすることができると規定されており(第46条第1項第6号)、本件商標は、たとえ登録査定時において同号に該当していないとしても、その後の以下の状況に鑑みれば、該当するものとなっていることは明白であるから、無効とされるべきである。
ア 周知・著名性、公益性の拡大
本件商標の登録後、坂本龍馬及び龍馬の名はますます周知・著名となっている。
高知県においては、坂本龍馬に関する資料を収集・展示し、近代日本の黎明に生涯を捧げた坂本龍馬の業績を顕彰するための「高知県立坂本龍馬記念館」が1991年11月に設立され(甲9)、全国の龍馬ファンが訪れる場所として、また高知県の人気観光スポットとして広く親しまれている。
また、1999年8月9日には、高知市、郵政局(当時)、地域住民などの協力により、高知県高知市の高知上町郵便局が「龍馬郵便局」と改称され(甲10)、日本初の、実在した人物の名前がついた郵便局となっており、当該郵便局前には坂本龍馬の銅像が置かれ、郵便局の窓口からハガキを出すと、坂本龍馬の消印を押してもらえるなど、坂本龍馬ゆかりの地の一つとなっている。
さらに2003年11月15日には、高知空港を「高知龍馬空港」という愛称に呼び替えることが決定され(甲11)、今や全国的に親しまれている。
本件商標の登録前から開催されている上述の「龍馬誕生祭」が催された(甲12)。
また2013年から毎年、高知県、高知市、南国市、土佐市、それらの教育委員会、各新聞社などが主催して「高知龍馬マラソン」が開催され(甲13)、全国から参加者が集い、2020年には出走者が11,000人を超える規模の大会となっている。
NHK大河ドラマでは、2010年に坂本龍馬の生涯を描いた「龍馬伝」が放映され(甲14)、坂本龍馬の偉業が再認識されるとともにその人気も一層高まり、現在では、人気のある歴史上の人物として常に上位に位置しているといえる(甲15)。
また上述のとおり、京都霊山護国神社(京都市東山区)にある龍馬の墓前で、龍馬や盟友中岡慎太郎らを慰霊する「龍馬祭」は、昭和22年(1947年)に復活して以降、現在まで毎年行われている(甲8)。
さらに、ゆかりの地のひとつである長崎においても、坂本龍馬に因んだ観光地が知られ、全国から多くの観光客が訪れている(甲16)。
イ 本件商標権者(被請求人)との関係
被請求人は、坂本龍馬とは何ら関係のない一民間企業である。
ウ 登録による弊害
本件商標の登録後、各地の自治体や地域の人々の活動や努力によって、坂本龍馬及び龍馬の名は、ますます全国的に広まって人気も高まり、「龍馬」の文字を各地の自治体の施策や地域の商品・役務に表示したいという要望は高まっている。
にもかかわらず、本件商標の登録が存在することによって商標権侵害の可能性をおそれ、自治体や地域の事業者などの活動は委縮し阻害されてきた可能性がある。
その一方で、本件商標権者は、自治体や地域の人々などの様々な活動によってますます大きくなったこの商標の顧客吸引力を独り占めし、自己の事業に使用することができるのである。
以上のことを勘案すれば、本件商標の登録は、公正な競業秩序を著しく害し、社会公共の利益に反するとともに、国民の社会的感情を棄損するものであることは明白である。
エ 該当した時期-1(平成21年10月)
本件商標は、そもそも登録査定時において商標法第4条第1項第7号に該当していたと考えるが、現行商標法に歴史上の人物名に関する明文規定が存在しないという事情に照らすと、遅くとも、商標審査便覧42.107.04「歴史上の人物名(周知・著名な故人の人物名)からなる商標登録出願の取扱いについて」が新設された時期(平成21年(2009年)10月)をもって同号に該当したといえる。
オ 該当した時期-2(令和3年8月31日)
(ア)被請求人は、上記1(1)のとおり、令和3年(2021年)8月31日付にて、請求人に対し、通知書(甲4)による通知を、弁理士を代理人として行った。
しかしながら、弁理士の職責からすれば、当該弁理士は、本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標として商標法第4条第1項第7号に該当する可能性が極めて高いことを認識していること、さらにそのことを依頼人に伝えることは職務上当然であるから、弁理士を代理人とする被請求人においても、十分に認識していたといえる。
(イ)すなわち被請求人は、本件商標は、公益性や公正な取引秩序などの見地から、一私人が独占することは公序良俗を害するおそれがあるとされていることや、今や登録可能性のない商標であることなどを認識しながら、本件商標が過去に登録された登録商標であることを奇貨として権利行使を行い、坂本龍馬のゆかりの地である高知県にて事業を行う請求人の商品の販売の即時中止を迫り、使用許諾による経済的利用をも図っている。
このことは、被請求人が上記通知を行った令和3年8月31日において、このような登録は公正な競業秩序を害するものであって、社会公共の利益に反し容認することができないことが顕在化したと考えるべきであり、同日において商標法第4条第1項第7号に該当することは明らかである。
(ウ)本件商標の状況
上記通知書において、被請求人が請求人に対し「使用許諾」の可能性を提示していることから推察されるように、本件商標には現在保護すべき被請求人の使用による信用の化体があるとは考えられない。
(エ)「龍馬」等の使用に関する実情
請求人が商品のパッケージに使用している標章は、「かつお焼節」「龍馬節」「土佐名産」「大卜口鰹」の文字、坂本龍馬を想起させる図形と「RYOMASAKAMOTO」の文字、及び桂浜を想起させる図形の組み合わせである。
そして、上記坂本龍馬を想起させる図形と「RYOMASAKAMOTO」の文字の部分は、坂本龍馬が高知県のシンボルであることから表示したものであるが、このような坂本龍馬に因んだ表示は高知県の産品や土産物であることを示すための表示として県内の多くの事業者等が使用を望み、現に使用されており、その他のゆかりの地においても同様に使用されている(甲17~甲29(一部登録商標含む))。
このように、ゆかりの地において坂本龍馬をあらわす表示や標章が商品に使用されることは極めて自然であって、地域振興にも資するものであるから、本件商標の登録に基づく一民間企業による権利行使によって、そのような使用が制限され、あるいは委縮させられるべきではない。
(オ)以上のとおりであるから、本件商標の登録は、おそくとも令和3年8月31日には商標法第4条第1項第7号違反の登録となったことは明白である。
第3 被請求人の答弁
被請求人は、何ら答弁していない。
第4 当審の判断
1 請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについて
請求人は、被請求人より商標権侵害行為に係る通知書(甲4)を受け取っており、被請求人は何ら答弁していないから、請求人は本件審判の請求人適格を有するものと判断し、以下、本案に入って審理する。
2 商標法第4条第1項第7号該当性について
商標法第4条第1項第7号は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は、商標登録を受けることができないと規定する。ここでいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきである(知的財産高等裁判所 平成17年(行ケ)第10349号 同18年9月20日判決言渡)。
以下、これを本件について、判断する。
(1)「龍馬」について
請求人の提出に係る証拠及び職権調査によれば、以下の事実が認められる。
ア 坂本龍馬について
「高知市」のウェブサイトには、「土佐が生んだ幕末の英雄,坂本龍馬は・・・近代国家誕生を目指して奔走し,「亀山社中」の設立や「薩長同盟」の斡旋,「大政奉還」の推進,「船中八策」の提唱など,歴史的偉業を成し遂げました。」との記載がある(職権調査)。
イ 「龍馬」の文字が「坂本龍馬」を示す語として利用されている事実
「龍馬像」、「龍馬まつり」、「龍馬誕生祭」、「龍馬祭」のように、施設の名称、イベントや祭事の名称等に、「龍馬」の文字が「坂本龍馬」を示す語として利用されている(甲5、甲7、甲8、甲12、職権調査)。
ウ 龍馬ゆかりの地が観光名所となっている事実
高知県には「桂浜」、長崎県には「亀山社中の跡地」、広島県には「対潮楼」、京都府には「寺田屋」など、龍馬ゆかりの地が各地にあり、それぞれ観光名所となっている(甲16、職権調査)。
エ テレビ番組、書籍等のメディアにおいて、龍馬を題材とする作品が制作、発表されている事実
NHKテレビの大河ドラマで、龍馬を題材にした「竜馬がゆく」が、1968年に放映された(甲6)。また、その他テレビ番組、書籍、映画等の各種メディアにおいて、古くから近年まで、龍馬を題材とする作品が制作、発表されている(職権調査)。
オ 「坂本龍馬(龍馬)」に対する国民又は地域住民の認識
(ア)高知県高知市の「高知県立坂本龍馬記念館」のウェブサイトにおいて、「昭和59年9月 龍馬生誕150年記念事業実行委員会発足(翌年1月募金活動開始)。」の記載、及び、「土佐に生まれた幕末の志士・坂本龍馬に関する資料を収集・展示し、近代日本の黎明に生涯を捧げた坂本龍馬の業績を顕彰するために、平成3年(1991)11月に開館しました。」(甲9)の記載があるように、坂本龍馬ゆかりの地においては、龍馬の功績を顕彰する施設の設立について事業計画がされ、設立されるなど、各自治体等が積極的に龍馬の遺産を維持し、促進することに携わっている。
(イ)龍馬の偉業を学び自己研鑽に励む龍馬ファンの集まりである「○○龍馬会」(「○○」は地域名等)等と称する団体が、全国各地に存在する。(甲5、職権調査)
カ 龍馬と本件指定商品との関係
本件指定商品の分野において、坂本龍馬にちなんだものと推察し得る「龍馬」の文字が利用されている(職権調査)。
また、本件指定商品に関連する飲食料品を含む様々な分野における商品について、「龍馬」の文字や坂本龍馬の肖像が利用されている(甲17~甲28)。
(2)本件商標の出願の経緯・目的・理由、及び龍馬と被請求人との関係
被請求人は、何ら答弁しておらず、職権により調査するも、龍馬と被請求人とを関連づけるような事実は発見できない。
(3)上記(1)及び(2)で認定した事実から、次のことを認めることができる。
ア 本件商標である「龍馬」の文字は、龍馬ゆかりの地における各地方自治体等において、施設の名称、イベントや祭事の名称等に、「坂本龍馬」の略称として広く利用されていることなどから、歴史上の人物名である「坂本龍馬」と同視し認識し得るものである。
イ 坂本龍馬は、我が国において幕末に活躍した著名な人物であるが、その功績等ゆえに、高知県をはじめ、各地において、一般の人々の間で親しみと敬愛の念をもって広く知られる歴史上の人物であると認め得るものである。
そして、高知県に限らず、坂本龍馬ゆかりの地にある多数の史跡等が、観光の施設、建造物、観光場所などとなっており、それらが県や市の観光振興及び地域おこしのための施策の基盤となっていること、地方自治体及び文化団体などがこれらを保存・公開し、観光振興や地域興しに役立てようとする取組がなされていること、坂本龍馬ファンの集まりである団体が、全国各地に存在し現在においても活動を継続していることなどから、各地において、敬愛の念をもって親しまれていることが認められる。
また、坂本龍馬は、歴史上の人物として、辞典、辞書、小説、映画及びテレビドラマやアニメなどの主人公として多数取り上げられていることからも、全国的に周知・著名な歴史上の人物といえる。
さらに、一般に歴史上の人物の生誕地やゆかりの地においては、その地の特産品や観光振興のための土産物として、その者の名称や肖像が表示されて、観光客を対象に販売されているところ、坂本龍馬についても、例えば、「卵」、「レトルトカレー」、「加工水産物(カツオのたたき)」、「肉製品(ステーキ肉)」、「ふりかけ」など本件の指定商品を含む様々な商品に「龍馬」の文字や坂本龍馬の肖像が用いられ、製造、販売されており、観光振興や地域興しに広く活用されている。
ウ 上記ア及びイのとおり、坂本龍馬は、周知・著名な歴史上の人物であって、本件商標の登録査定前より、高知県民のみならず、広く国民に敬愛されており、各地に点在するゆかりの地においては、「坂本龍馬」及び「龍馬」の名称が、観光振興や地域興し等に広く活用され、土産物なども多数製造、販売されている。
エ 一方、被請求人は、何ら答弁しておらず、他に被請求人と坂本龍馬との関係性は発見できないから、坂本龍馬の名声、評価を維持、管理するなどの公益に資するために本件商標の登録を取得したとは認められない。
オ 小括
上記アないしエで認定した事実によれば、本件商標を特定の者に商標権として登録を認め、これをその指定商品に使用することは、我が国において周知・著名な坂本龍馬の名声に便乗し、一私人にその指定商品についての使用の独占をもたらすことになり、同人の名声、名誉を傷つけるおそれがあるばかりでなく、同人の名声、功績をたたえ顕彰し、これを維持、管理する地方公共団体等の各種施策を阻害するおそれがあるから、社会公共の利益に反するものといわざるを得ない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号で定める「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものである。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標は商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号に基づき、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-890033