商標無効審判
2022-890010
セーフー
- 審判番号
- 2022-890010
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 商願2020-025016
- 登録番号
- 6341862
- 請求日
- 2022年02月14日
- 審決日
- 2024年05月22日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 請求成立(無効)
- 当事者
- 【請求人】金紅葉紙業集団有限公司
- 【請求人代理人】恩田 俊郎
- 【被請求人】尹芳斌
- 審判長/審判官
- 審判長 鈴木 雅也
- 審判官 山田 啓之
- 審判官 杉本 克治
- 分類
- T111 .18 -Z (W16) / T111 .22 -Z (W16) / T111 .222-Z (W16)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 商標法3条1項商標法4条1項7号商標法4条1項19号商標法46条1項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第3条第1項、商標法第4条第1項第19号、商標法第4条第1項第7号、商標法第4条第1項第15号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の登録第6341862号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
登録第6341862号の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 本件商標
本件登録第6341862号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、令和2年3月6日に登録出願、第16類「トイレットペーパー,紙製タオル,紙製顔ふきタオル,顔用ティッシュペーパー,使い捨ておむつ用のプラスチック製のごみ袋,紙製ハンカチ,化粧落とし用ティッシュペーパー(化粧落とし剤を浸み込ませたものを除く。),ナプキン紙,紙,紙製ナプキン,キッチンペーパー,プラスチック製包装材及びフィルム,包装材料(文房具)」を指定商品として、同年12月23日に登録査定、同3年1月18日に設定登録されたものである。
第2 請求人が引用する標章
請求人が、本件商標の登録の無効の理由として引用する商標は、別掲2のとおりの構成からなる標章(以下「引用標章1」という。)及び別掲3のとおりの構成からなる標章(以下「引用標章2」といい、以下、これらをまとめていうときには「引用標章」という。)であり、請求人が、本件商標の登録出願前において、同人の業務に係る商品「ティッシュペーパー,トイレットペーパー」(以下「請求人商品」という。)を表示するものと使用して、中国の需要者の間で広く認識されていると主張するものである。
第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第101号証を提出した。
以下、証拠の表記に当たっては、「甲第○号証」を「甲○」のように省略して記載する場合がり、枝番号の全てを表示するときには枝番号の記載を省略する。
1 無効事由
本件商標の登録は、以下の理由により、商標法第3条第1項柱書、同法第4条第1項第7号及び同項第19号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。
2 無効原因
(1)利害関係
請求人は、本件商標と同一又は類似の引用標章を使用している中国法人であり、また、引用標章は、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、中国の需要者の間で広く認識されている標章である。
したがって、請求人は本件審判の結果に影響を受ける者であり、利害関係人に該当する。
(2)請求人について
請求人である金紅葉紙業集団有限公司は、1996年に設立された中国法人であって、主として「ティッシュペーパー,トイレットペーパー,ペーパータオル,キッチンペーパー,ウェットティッシュ,衛生マスク,生理用ナプキン」等の紙製品の製造・販売を行っており、中国国内に14か所の製造工場、23か所の支社を有し、12万人以上の従業員が在籍している(甲4、甲5)。
請求人は、引用標章「清風」(決定注:構成中の「風」の文字は、中国の簡体字である。以下同じ。)の他、「EMPORIA」、「VIRJOY」、「真真」、「恰鳳」といった複数のブランドの下で紙製品を展開しており(甲4、甲5)、近年の中国及び各国における売上高は、2018年が約107億人民元、2019年が約114億人民元、2020年が約98億人民元に達している(甲6、甲7)。
また、請求人は、自社ブランドの宣伝広告に多額の費用を投じており、近年の中国及び各国における宣伝広告費は、2019年が約7,700万人民元、2020年が約2億8,100万人民元、2021年が約4,600万人民元に及んでいる。
かかる宣伝広告活動と商品の優れた品質から、請求人の有する各ブランドは高い人気を博し、いずれも中国の需要者・取引者の間で広く認識されている。
例えば、請求人の本社がある中国の江蘇省において、江蘇省質量技術監督局(中国地方政府機関局)が、2014年時点の江蘇省各地方の有名ブランドの価値につき調査・評価を行った結果、請求人のブランド強度は727点(1000点満点)、ブランド価値は47.12億人民元であると評価された(甲8、甲9)。
2018年には、紙製品の業界団体である中国造紙協会生活用紙専業委員会が、製品の売上高、市場シェア、ブランドの知名度等に基づき作成したランキングにより、「2018年生活用紙top10企業」に選出されている(甲10)。
(3)引用標章について
ア 歴史
請求人が、本件商標の無効の理由として引用する標章は、簡体字で表された「清風」を図案化した構成の商標「引用標章1」(別掲2)と、「清風」の簡体字を横書きしてなる標章「引用標章2」(別掲3)の2件である。
引用標章を構成する漢字「清風」は、「清々しい風、清らかな風」ほどの意味を表す中国語であるが、請求人が、主に商品「ティッシュペーパー、トイレットペーパー」に使用するブランドとして、1998年に採用した(甲4,甲5)。
請求人は、引用標章1に見られるように、独自に創作した「清風」のロゴを使用しているが、当該ロゴは「清風」の文字を右上方向に傾斜させ、毛筆風の書体にて爽やかな風の流れを感じさせるような独特な態様で表されており、極めて創作性の高い標章といえるものである。
請求人は、1998年の引用標章の使用開始以来、現在に至るまで、引用標章1と同一態様のロゴを継続して使用している。
イ 市場占有率
引用標章に係る請求人の商品「ティッシュペーパー」は、中国国内において高い市場占有率を有している。
マーケティングリサーチと分析において世界有数の企業であるThe Nielsen Companyが作成した小売データ確認書によれば、商品「生活用ティッシュペーパー」について、引用標章に係る商品の2014年の中国での市場占有率は15.6%であり(甲11、甲12)、マーケティングリサーチの分野で周知の企業であるkantar worldpanel(以下「kantar社」という。)の売上げデータ調査結果によると、同商品「生活用ティッシュペーパー」の2014年の市場占有率は11.1%で、トップ3に入る高い占有率であり(甲13、甲14)、また、kantar社の売上げデータ調査結果によれば、中国における引用標章に係る商品「ティッシュペーパー」の2019年及び2020年の市場占有率は10%であった(甲15)。
ウ 認定・賞
引用標章は、中国において、その商品「ティッシュペーパー,トイレットペーパー」の優れた品質が高く評価され、また、請求人の継続した宣伝・広告活動を通じて、中国の需要者・取引者の間で広く知られた商標となった。
この点について、引用標章は、公私の様々な機関により各種認定を受け、また、賞を受賞している。
その一部を挙げると、日本の地方法務局に相当する江蘇省工商行政管理局が、2016年12月30日付けで、中国の請求人の登録商標「清風」(登録第6342127号、指定商品「ティッシュペーパー」等)(甲16)を江蘇省著名商標として認定し(甲17、甲18)、かかる著名商標認定の有効期限は3年とされており、また、江蘇省知名ブランド戦略推薦委員会が、2010年12月から2019年12月まで、引用標章を江蘇省知名ブランドとして認定し(甲19~甲24)、さらに、江蘇省商務庁が、2014年から2016年及び2017年から2019年に、引用標章を国際知名ブランドとして認定している(甲25~甲28)。
その他、引用標章に係る商品「ティッシュペーパー」は、政府機関に属する団体である中国質量検験協会により、2004年に「中国生活用紙品質保証製品」に認定されているところ、当該認定を受けるためには、製品の売上高及び市場シェアが業界内において上位であることと、ブランド自体に相当程度の知名度があることが必要とされる(甲29、甲30)。
さらに、引用標章及びその商品「ティッシュペーパー」は、2014年には、kantar社が収集した中国全国の消費者の製品購入記録に基づき作成したランキングにより「中国top50消耗品ブランド」の第13位に選出された(甲29~甲32)。
また、2018年10月10日付けのインターネット記事において、ビジネスデータの分析を行うCNPPブランドデータ研究機構が、ユーザーのアンケートデータに基づき作成したブランドランキングに関して、「2017-2018年ティッシュブランドランキング「清風」ブランドが第3位である」と記載されている(甲33、甲34)。
2019年には、ビジネスデータ分析の専門機構であるiiMedia Rankingが各種通販ウェブサイトの製品購入記録に基づき作成したランキングにより、引用標章が「通販日用品ランキング」の第2位に選ばれている(甲35、甲36)。
また、政府機関の支援を受けるビジネスデータ分析の専門機構であるChnbrand(以下「Chnbrand社」という。)が、中国全国の消費者による製品の評価に基づき作成したランキングである「C-BPI中国ブランドランキング」の「ティッシュ/ロールペーパー類」部門において、引用標章は、2011年以降、何度もランキング上位に選出されている(甲37~甲40)。
「C-BPI」は中国ブランド力指数(China Brand Power Index)を意味し、Chnbrand社が実施した中国初のブランド価値評価制度であり、消費者と企業が最も信頼できるブランド価値評価の指針とされている。
当該ブランドランキングで、請求人の標章「清風」は、2011年ないし2015年までは2位、2016年及び2018年は3位、2019年ないし2021年は1位に選ばれている。
2020年8月には、中国行業影響力品牌峰会より、「中国業界影響力ブランドランキング」の生活用紙業部門にて、引用標章が「リーダーブランド賞」を受賞しており、これは製品の品質とブランド理念が優れており、ブランドの影響力が業界内で上位であることが評価されたものである(甲41、甲42)。
エ 商標出願・登録
請求人は、中国において、「清風」の文字を構成中に有する多数の商標を登録出願・登録している。
中国商標局のデータベースにて、請求人名義で構成中に「清風」の文字を有する商標を検索すると106件の商標が検索結果に表示される(甲43)。
最も古い登録商標は1997年12月8日に出願されており、また、106件中90件の商標は、本件商標の出願日である2020年3月6日以前に出願されている。
このように、請求人は「清風」に関する多数の商標を出願・登録することで、「清風」ブランドの保護に努めてきた(甲16、甲44~甲51)。
また、これらの登録商標中の少なくない件数が、引用商標1と同一態様か、同一態様の図案化された文字「(文字ロゴ)」を含む構成である(甲52)。
オ 模倣品及び模倣品に関連する判決
引用標章は、請求人の商品表示として中国の取引者・需要者の間で著名であることから、模倣品の被害に苦しめられている。その一例としてのインターネット記事がある(甲53~甲56)。
このような模倣品への対応として、請求人は、侵害行為の差止等を求めて複数の訴訟を行っている(甲57~甲70)。
カ 宣伝広告
請求人は、引用標章に関連して、中国で多額の費用を投資して宣伝広告を行っている。
その広告の一部を紹介すると、例えば、動画CMを複数のウェブサイトにて放映している(甲71~甲73)。
また、請求人は、中国最大のSNSサービス「WEIBO」にも広告を出稿している(甲74~甲78)。
このような宣伝広告を通じて、引用標章は、請求人の商品「ティッシュペーパー,トイレットペーパー等」の商品表示として、中国の需要者・取引者の間で広く認識されている。
キ 販売
請求人は、引用標章に係る商品を多様なチャネルを通じて販売しており、中国のECサイト「tiktok」、「京東集団」及び「天猫」等において商品を販売している(甲79~甲81)が、これらのサイトを通じた売上げの一部を記載すると、「京東集団」では2019年11月1日から2019年11月30日の期間における売上額は約1億916万人民元、2020年2月1日から2020年2月29日における売上額は約6,865万人民元、2021年10月31日から2021年11月11日における売上額は約9,783万人民元であり(甲82)、「tiktok」では、2021年10月26日から2021年11月24日の期間における売上額は約4,715万人民元である(甲83)。
また、kantar社の売上げデータ調査結果によれば、引用商標に係る商品「ティッシュペーパー」の中国国内における総売上高は、2019年が約52億5,000万人民元、2020年が約52億4,000万人民元である(甲84)。
ク 小括
以上によれば、「清風」の文字よりなる引用標章は、中国において、1998年から請求人の商品「ティッシュペーパー,トイレットペーパー」等について使用が開始され、商品の優れた品質と請求人の宣伝広告活動を通じて、中国の需要者に広く受け入れられた結果、高い市場占有率を有するに至った。
2019年及び2020年の商品「ティッシュペーパー」の市場占有率は、10%に達している。
また、2010年以降は、江蘇省知名ブランド、江蘇省著名商標、国際知名ブランド、中国生活用紙品質保証製品といった数々の認定を受け、さらに、中国国内における各ランキングで上位にランクされている。
加えて、「清風」に係る商品「ティッシュペーパー」の模倣品に関する訴訟において、「清風」ブランドの著名性が認められている。
これらの点を踏まえれば、引用標章は、本件商標の登録出願前において、請求人の業務に係る商品「ティッシュペーパー,トイレットペーパー」を表示するものとして、中国の需要者・取引者の間で広く認識されていたと判断するのが相当であり、当該認識は本件商標の登録出願時及び登録査定時においても継続していたものと考えられる。
(4)被請求人について
被請求人は、中国の湖南省に住所を有する自然人であって、請求人とは何ら関係を有することはない。
特許情報プラットフォームにて、被請求人の名前で権利者検索を行うと、本件商標を含み9件の出願・登録商標を有している(甲85)が、本件商標を除外すると、被請求人名義の商標の中で、8件中6件の登録出願・登録商標が、外国において他人が使用する商標と、その文字のみならず、フォント、図形、文字の傾斜角・太さ等が、完全に一致するか又は酷似している。
一般的な社会通念に照らして考えると、異なる他人が使用する図案化された商標と完全に一致するか又は酷似する商標を、複数回にわたって採択することが偶然に起こり得るとは考え難いことから、被請求人は、これらの他人が使用する商標について、我が国でいまだ出願されていないことを奇貨として、不正の目的をもって先取り的に商標登録出願したと考えるのが自然といえる。
この点と、本件商標が「清風」の文字を右上方向に傾斜させ、非常に特徴的な毛筆風の書体にて表されており、文字、書体、文字の傾斜角等を含め、引用標章1と完全に一致した態様である点、及び、引用標章は本件商標の登録出願前において、請求人の業務に係る商品「ティッシュペーパー,トイレットペーパー」の商品表示として、中国における需要者・取引者の間に広く知られていたと考えられる点とを併せ考えると、被請求人による本件商標の登録出願は、請求人が引用標章を使用することを選択し、やがて我が国においても登録出願されることを予想した上で、高額で買い取らせたり、請求人の国内参入を阻止したりするなどの不正の目的をもって行われたと判断せざるを得ない。
(5)無効理由の根拠条文の該当性について
ア 商標法第3条第1項柱書について
本件商標は、令和2年(2020年)3月6日付けで登録出願されているが、請求人が確認した限りでは、現在までに被請求人によって本件商標が使用された事実は確認できなかった。
そして、被請求人は、中国に住所を有する自然人であるが、他人が外国で使用する複数の商標を剽窃的に登録出願しており、本件商標についても、中国において広く知られた引用標章を冒認して出願したものと推察され、請求人に譲渡等をすることで利益を得るなどの不正の目的が推定される。
そうすると、被請求人は、請求人に対して本件商標を高額で買い取らせたり、請求人の国内参入を阻止するなどの不正の目的のもとで出願したにすぎず、本件商標を自己の業務に係る商品等との関係で使用する意思を有していないと認められる。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項柱書に違反する。
イ 商標法第4条第1項第7号について
本件商標は、「清風」の文字を、右上方向に傾斜させ、非常に特徴的な毛筆風の書体にて表されており、文字、書体、文字の傾斜角等を含め、引用標章1と完全に一致した態様である。
また、引用標章は、本件商標の登録出願前から、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、中国の需要者・取引者の間で広く認識されていた。
そして、被請求人は、本件商標以外にも、他人が外国で使用する商標と完全に一致するか、少なくとも社会通念上同一と認識し得る商標について、我が国において複数の商標登録出願を行っているところ、このような複数の商標を、被請求人が偶然に採択したとは考え難いことから、他人が外国で使用する商標を剽窃するという不正な目的のもとで登録出願を行った蓋然性が極めて高い。
そうすると、本件商標の登録出願は、請求人の引用標章の存在を認識し、引用標章が我が国において登録されていないことを把握した上で、不正の目的の下に剽窃して登録出願したものと推認できる。
してみれば、本件商標の登録出願の経緯には、請求人の引用標章を剽窃するという不正な目的をもって登録出願されたものとして、社会的妥当性を欠くものがあり、その登録を認めることは、健全な商取引の遂行を阻害し、公正な競業秩序を害するものであるから、公序良俗に反するものである。
したがって、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認められるから、商標法第4条第1項第7号に該当する。
ウ 商標法第4条第1項第19号について
商標法第4条第1項第19号は、日本国内又は外国における他人の周知商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的をもって使用するものは、商標登録を受けることができない旨を規定する。
引用標章は、本件商標の登録出願前において、請求人の業務に係る商品「ティッシュペーパー,トイレットペーパー」の商品表示として、中国における需要者・取引者の間に広く知られていた。
また、本件商標は、「清風」の文字を右上方向に傾斜させ、非常に特徴的な毛筆風の書体にて表されており、文字、書体、文字の傾斜角等を含め、引用標章1と完全に一致した態様である。
本件商標と引用標章1を比較すると、外観において共通し、称呼においては「セイフウ」の称呼を共通にするものであって、また、両商標は、構成中の漢字の意味より「清らかな風」ほどの観念が生じ、観念においても共通する。
よって、両者は、同一の商標か少なくとも社会通念上同一の商標であるといえる。
さらに、本件商標の指定商品「トイレットペーパー,顔用ティッシュペーパー,ナプキン紙,紙」は、引用標章の使用商品「ティッシュペーパー,トイレットペーパー」と同一又は類似するものである。
また、本件商標のその他指定商品「紙製タオル,紙製顔ふきタオル,使い捨ておむつ用のプラスチック製のごみ袋,紙製ハンカチ,化粧落とし用ティッシュペーパー(化粧落とし剤を浸み込ませたものを除く。),紙製ナプキン,キッチンペーパー,プラスチック製包装材及びフィルム,包装材料(文房具)」は、引用標章の使用商品「ティッシュペーパー,トイレットペーパー」と、需要者、原材料、販売部門、用途等が一定程度共通することが想定される。
そして、被請求人は、中国に住所を有する自然人であり、引用標章は中国で請求人の業務に係る商品の出所表示として広く認識されていたものであるから、被請求人は、少なくとも、本件商標の登録出願時点において、請求人及び引用標章の存在を認識していたといえる。
さらに、被請求人は、本件商標以外にも、他人が外国で使用する商標について複数の商標登録出願を行っているところ、図案化された複数の商標と完全に一致するか、少なくとも社会通念上同一といえる商標を被請求人が偶然に採択したとはいい難く、他人が外国で使用する商標を剽窃するという不正な目的のもとで登録出願された蓋然性が極めて高い。
そうすると、本件商標についても、引用標章の存在を認識した上で、引用標章が我が国において商標登録されていないことを奇貨として、それに化体した業務上の信用と顧客吸引力にただ乗りし、その著名性を利用して不正の利益を得る目的の下で本件商標を登録出願し、設定登録を受けたものと推認せざるを得ない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
第4 被請求人の答弁
被請求人は、請求人の主張に対して何ら答弁していない。
第5 当審の判断
請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについては、当事者間に争いがなく、また、当審は請求人が本件審判を請求する利害関係を有するものと認める。
以下、本案に入って審理する。
1 引用商標の周知性について
(1)請求人の主張及び同人の提出に係る証拠によれば、以下のとおりである。
ア 請求人は、1996年に設立された中国法人であって、主として「ティッシュペーパー,トイレットペーパー,ペーパータオル,キッチンペーパー,ウェットティッシュ,衛生マスク,生理用ナプキン」等の紙製品の製造・販売を行っており、中国国内に14か所の製造工場、23か所の支社を有し、12万人以上の従業員が在籍しており、引用標章の他、「EMPORIA」、「VIRJOY」、「真真」、「恰鳳」といった複数のブランドの下で紙製品を展開しており、近年の中国及び各国における売上高は、2018年が約107億人民元、2019年が約114億人民元、2020年が約98億人民元に達していることがうかがえる(甲4~甲7)。
また、請求人は、自社ブランドの宣伝広告に多額の費用を投じており、近年の中国及び各国における宣伝広告費は、2019年が約7,700万人民元、2020年が約2億8,100万人民元、2021年が約4,600万人民元に及んでいる旨主張するが、上記金額を裏付ける客観的な証拠は提出されておらず、引用標章に係る商品の売上高や宣伝広告費等について、客観的に評価することができない。
請求人の自社ブランドは、同人の本社がある中国の江蘇省において、江蘇省質量技術監督局(中国地方政府機関局)が、2014年時点の江蘇省各地方の有名ブランドの価値につき調査・評価を行った結果、ブランド強度は727点(1000点満点)、ブランド価値は47.12億人民元であると評価され(甲8、甲9)、また、請求人は、2018年には、紙製品の業界団体である中国造紙協会生活用紙専業委員会が製品の売上高、市場シェア、ブランドの知名度等に基づき作成したランキングにより、「2018年生活用紙top10企業」に選出されていることがうかがえる(甲10)。
イ 請求人は、簡体字で表された「清風」の文字を図案化した構成の商標(引用標章1及び引用標章2)を、主に商品「ティッシュペーパー、トイレットペーパー」に使用するブランドとして、1998年に採用し、引用標章の使用開始以来、現在に至るまで、引用標章1と同一態様のロゴを継続して使用しているとされる(甲4、甲5、請求人の主張)。
ウ 引用標章に係る請求人の商品「ティッシュペーパー」は、中国国内において高い市場占有率を有しており、マーケティングリサーチと分析を行う企業であるThe Nielsen Companyが作成した小売データ確認書によれば、商品「生活用ティッシュペーパー」について、引用商標に係る商品の2014年の中国での市場占有率は15.6%であり(甲11、甲12)、マーケティングリサーチの分野で周知の企業であるkantar社の売上げデータ調査結果によると、同商品「生活用ティッシュペーパー」の2014年の市場占有率は11.1%で、トップ3に入る高い占有率であり(甲13、甲14)、また、kantar社の売上げデータ調査結果によれば、中国における引用商標に係る商品「ティッシュペーパー」の2019年及び2020年の市場占有率は10%であったことがうかがえる(甲15)。
エ 引用標章は、公私の様々な機関により各種認定を受け、また、賞を受賞しており、日本の地方法務局に相当する江蘇省工商行政管理局が、2016年12月30日付けで、請求人の登録商標を江蘇省著名商標として認定し(甲17、甲18)、江蘇省知名ブランド戦略推薦委員会が2010年12月から2019年12月まで、引用標章を江蘇省知名ブランドとして認定し(甲19~甲24)、江蘇省商務庁が、「2014-2016年度」及び「2017-2019年度」に、引用標章を国際知名ブランドとして認定(甲25~甲28)したほか、引用標章に係る商品「ティッシュペーパー」は、政府機関に属する団体である中国質量検験協会により、2004年に「中国生活用紙品質保証製品」に認定されていることがうかがえる。
さらに、引用標章及びその商品「ティッシュペーパー」は、2014年には、kantar社が収集した中国全国の消費者の製品購入記録に基づき作成したランキングにより「中国top50消耗品ブランド」の第13位に選出され(甲29~甲32)、2018年10月10日付けのインターネット記事において、「2017-2018年ティッシュブランドランキング「清風」ブランドが第3位である」と記載されており(甲33、甲34)、2019年にはビジネスデータ分析の専門機構であるiiMedia Rankingが各種通販ウェブサイトの製品購入記録に基づき作成したランキングにより、引用標章が「通販日用品ランキング」の第2位に選ばれていることがうかがえる(甲35、甲36)。
また、ビジネスデータ分析の専門機構であるChnbrand社が、中国全国の消費者による製品の評価に基づき作成したランキングである「C-BPI中国ブランドランキング」の「ティッシュ/ロールペーパー類」部門において、引用標章は、2011年ないし2015年までは2位、2016年及び2018年は3位、2019年ないし2021年は1位に選ばれていることがうかがえる(甲37~甲40)。
オ 請求人は、中国において、「清風」の文字を構成中に有する商標の登録出願・登録を、106件行っており(甲43~甲51)、最も古い登録商標は1997年12月8日に出願されており、また、106件中90件の商標は、本件商標の登録出願日以前に出願されていることがうかがえる。
カ 引用標章に係る模倣品への対応として、請求人は、侵害行為の差止等を求めて複数の訴訟を行い(甲57、甲58)、請求人の登録商標「清風」の商標権侵害に関連して、複数の刑事訴訟が行われており、これらの訴訟では、いずれも請求人の登録商標「清風」と同一の商標を同一の商品に使用した行為に基づき、被告に対して刑法上の商標権侵害が認定されていることがうかがえる(甲59~甲70)。
キ 請求人は、引用標章に関連して、中国で宣伝広告を行っており、例えば、動画CMを複数のウェブサイトにて放映しており、また、中国最大のSNSサービス「WEIBO」にも広告を出稿していることがうかがえる(甲71~甲78)。
ク 請求人は、引用標章に係る商品を多様なチャネルを通じて販売しており、例えば、中国のECサイト「tiktok」、「京東集団」及び「天猫」等において商品を販売していることがうかがえる(甲79~甲81)。
これらのサイトを通じた売上げとして、「京東集団」では2019年11月1日から2019年11月30日の期間における売上額は約1億916万人民元、2020年2月1日から2020年2月29日における売上額は約6,865万人民元、2021年10月31日から2021年11月11日における売上額は約9,783万人民元であり(甲82)、「tiktok」では、2021年10月26日から2021年11月24日の期間における売上額は約4,715万人民元であることがうかがえる(甲83)。
また、kantar社の売上げデータ調査結果によれば、引用商標に係る商品「ティッシュペーパー」の中国国内における総売上高は、2019年が約52億5,000万人民元、2020年が約52億4,000万人民元であることがうかがえる(甲84)。
(2)判断
以上によれば、引用標章は、中国において、1998年から請求人の商品「ティッシュペーパー,トイレットペーパー」等について使用が開始され、商品の品質と請求人の宣伝広告活動を通じて、中国の需要者に広く受け入れられた結果、2019年及び2020年の商品「ティッシュペーパー」の市場占有率は約10%に達し、また、2010年以降は、江蘇省知名ブランド、江蘇省著名商標、国際知名ブランド、中国生活用紙品質保証製品といった数々の認定を受け、さらに、ブランドの各ランキングで上位にランクされ、加えて、「清風」に係る商品「ティッシュペーパー」の模倣品に関する訴訟において、「清風」ブランドの著名性が認められている。
これらの点を踏まえれば、引用標章は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品「ティッシュペーパー,トイレットペーパー」を表示するものとして、中国における需要者・取引者の間で広く認識されていたと判断するのが相当である。
2 本件商標と引用標章との比較について
(1)本件商標について
本件商標は、別掲1のとおり、「清風」の文字を、右上方に向かって傾斜させて筆文字調の書体で横書きした構成からなるところ、我が国の漢字で表された「清風」の漢字が「清らかな風。さわやかな風。」(「広辞苑 第7版」株式会社岩波書店)を意味することから、本件商標からは、「セイフー」の称呼及び「清らかな風」の観念を生じるものである。
(2)引用標章について
引用標章は、別掲2及び別掲3のとおりの構成からなり、「清風」の文字からなるところ、我が国の漢字で表された「清風」が、「清らかな風。さわやかな風。」(前掲書)を意味することから、引用標章からは、「セイフー」の称呼及び「清らかな風」の観念を生じるものである。
(3)本件商標と引用標章との類否について
本件商標と引用標章の類否を検討すると、外観について、両商標は、いずれも「清風」の文字からなるものであって、当該構成文字から生ずる「セイフー」の称呼及び「清らかな風」の観念を共通にするものであるから、本件商標と引用商標とは、相紛れるおそれのある類似の商標であるといわなければならない。
(4)本件商標の指定商品と引用標章の使用に係る商品との類否について
本件商標の指定商品である第16類「トイレットペーパー,紙製タオル,紙製顔ふきタオル,顔用ティッシュペーパー,使い捨ておむつ用のプラスチック製のごみ袋,紙製ハンカチ,化粧落とし用ティッシュペーパー(化粧落とし剤を浸み込ませたものを除く。),ナプキン紙,紙,紙製ナプキン,キッチンペーパー,プラスチック製包装材及びフィルム,包装材料(文房具)」は、引用標章の使用に係る商品「ティッシュペーパー,トイレットペーパー,ペーパータオル,キッチンペーパー,ウェットティッシュ,衛生マスク,生理用ナプキン」と、生産部門、販売部門、流通経路、用途及び需要者の範囲等が一致する。
したがって、本件商標の指定商品は、引用標章の使用に係る商品と同一又は類似する。
(5)以上より、本件商標は、引用標章とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのある同一又は類似の商標であって、本件商標の指定商品は、引用標章の使用に係る商品と同一又は類似するものである。
3 商標法第3条第1項柱書の要件充足性について
(1)事実認定
請求人の提出した証拠及び同人の主張によれば、以下の事実が認められる。
ア 被請求人は、中国の湖南省に住所を有する自然人であって、請求人との関係はない。
イ 被請求人は、2016年(平成28年)8月9日から2020年(令和2年)9月10日までの間に、本件商標を含み9件もの商標登録出願をしており(甲85)、本件商標を除外すると、8件中2件は商標法第4条第1項第15号又は同項第19号の拒絶査定又は拒絶理由通知が発せられており、他の6件は、被請求人との関係が明らかではない外国の他人(法人)の商標の使用に後れるものである(甲86~甲101)。
(2)判断
商標法第3条第1項柱書は、商標登録要件として、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」であることを規定するところ、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」とは、少なくとも登録査定時において、現に自己の業務に係る商品又は役務に使用をしている商標、あるいは将来自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思のある商標と解される(知財高裁平成24(行ケ)第10019号、同年5月31日判決)。
これを本件についてみるに、上記1及び2並びに(1)によれば、引用標章は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品「ティッシュペーパー,トイレットペーパー」を表示するものとして、中国における需要者・取引者の間で広く認識されていたこと、本件商標は、引用標章とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのある同一又は類似の商標であること、及び被請求人は2016年8月9日から2020年9月10日までの期間に本件商標を含む9件の商標登録出願をしているところ、その中の商標登録出願中の2件は商標法第4条第1項第15号又は同項第19号の拒絶査定又は拒絶理由通知が発せられており、さらにそのうち6件は、被請求人との関係が明らかではない外国の他人(法人)の商標の使用に後れるものであることが認められる。
上記事情を総合すると、被請求人は、他者の使用する商標について商標登録出願をし、登録商標を収集(他者からの譲渡対価の取得等を目的として行われているものと推認される。)しているものというべきであって、本件商標は、登録査定時において、被請求人が現に自己の業務に係る商品に使用をしている商標に当たらない上、被請求人に将来自己の業務に係る商品に使用する意思があったとも認め難いものである。
したがって、本件商標は、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」に関して行われたものとは認められず、商標法第3条第1項柱書に違反して登録されたというべきである。
4 商標法第4条第1項第19号該当性について
(1)商標法第4条第1項第19号は、「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)」と規定されている。
(2)引用商標の周知性について
上記1のとおり、引用標章は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品「ティッシュペーパー,トイレットペーパー」を表示するものとして、中国における需要者・取引者の間で広く認識されていたものである。
(3)本件商標と引用標章との類似性について
上記2のとおり、本件商標は、引用標章とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのある同一又は類似の商標である。
(4)不正の目的について
被請求人は、中国に住所を有する自然人であり、引用標章は中国で請求人の業務に係る商品の出所表示として広く認識されていたものであるから、被請求人は、少なくとも、本件商標の登録出願時点において、請求人及び引用標章の存在を認識していたものといい得る。
そして、被請求人は、我が国において、本件商標以外にも、他人が外国で使用する商標について複数の商標登録出願を行っているところ、図案化された複数の商標と完全に一致するか、少なくとも社会通念上同一といえる商標を被請求人が偶然に採択したとはいい難く、他人が外国で使用する商標を剽窃するという不正な目的のもとで登録出願された蓋然性が極めて高いというべきである。
そうすると、被請求人は、本件商標についても、引用標章の存在を認識した上で、引用標章が我が国において商標登録されていないことを奇貨として、それに化体した業務上の信用と顧客吸引力にただ乗りし、その著名性を利用して不正の利益を得る目的の下で、本件商標を登録出願し、設定登録を受けたものといわざるを得ない。
(5)小括
以上のとおり、引用標章は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る請求人商品を表示するものとして、中国国内における需要者の間に広く認識されていたものであって、かつ、本件商標と引用標章とは、同一又は類似の商標(標章)であり、本件商標は、商標権者が不正の目的をもって本件商標を登録出願し、設定登録を受けたものといわざるを得ないものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
5 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)商標法第4条第1項第7号は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は商標登録を受けることができない旨規定するところ、ここでいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、(a)その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、(b)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、(c)他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、(d)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、(e)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきである(知財高裁平成17年(行ケ)第10349号、同18年9月20日判決)。
(2)これまでに認定した事実及び判断によれば、被請求人は、本件商標の登録出願前から、引用商標が請求人によって請求人商品に使用されていたことを十分知っていながら、引用商標が商標登録されていないことを奇貨として、これと実質的に同一といい得るほど酷似している本件商標を請求人に承諾を得ずに先取り的に商標登録出願をし、登録を得たものであって、被請求人の行為は、請求人の我が国における事業の遂行を阻止し、引用商標による利益の独占を図る意図でしたものであって、剽窃的なものといわなければならない。
したがって、本件商標の登録出願の経緯には、著しく社会的妥当性を欠くものがあり、その商標登録を認めることは、公正な競業秩序を害するものであって、公序良俗を害するおそれがある商標というべきである。
以上のとおり、本件商標は、公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標というべきであるから、その登録は、商標法第4条第1項第7号に違反してされたものである。
6 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項柱書、同法第4条第1項第7号及び同項第19号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-890010