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特許無効審判

2022-800002

オーディオコントローラ、超音波スピーカ、オーディオシステム、及びプログラム

審判番号
2022-800002
法域
特許
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
特願2017-193330
登録番号
6329679
請求日
2022年01月20日
審決日
2023年06月13日
公報発行日
2025年06月27日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】株式会社 CSイノベーション
  • 【請求人代理人】杉村 憲司
  • 【請求人代理人】杉村 光嗣
  • 【請求人代理人】岡本 岳
  • 【請求人代理人】深津 拓寛
  • 【請求人代理人】駒木 寛隆
  • 【請求人代理人】時井 真
  • 【請求人代理人】高橋 恵美
  • 【被請求人】ピクシーダストテクノロジーズ 株式会社
  • 【被請求人代理人】関口 智弘
  • 【被請求人代理人】長谷部 陽平
  • 【被請求人代理人】蓑田 由香
審判長/審判官
  • 審判長 五十嵐 努
  • 審判官 樫本 剛
  • 審判官 千葉 輝久
分類
P1113.151-Y (H04R) / P1113.152-Y (H04R)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法169条2項民事訴訟法61条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第38条、特許法第123条第1項第6号、特許法第123条第1項第2号、特許法第2条第1項、特許法第169条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

上記当事者間の特許第6329679号発明「オーディオコントローラ、超音波スピーカ、オーディオシステム、及びプログラム」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。

理由

理 由 第1 請求の趣旨及び答弁の趣旨 1 請求の趣旨 「特許第6329679号発明の特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求める。 2 答弁の趣旨 「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決を求める。 第2 手続の経緯 1 本件特許の手続の経緯の概略 (1)本件特許の出願から設定登録までの経緯 本件無効審判の請求に係る特許第6329679号(以下「本件特許」という。)についての、出願から本件無効審判請求の前までの手続の経緯の概略は、次のとおりである。 平成29年10月 3日 :出願(特願2017-193330号) 同年11月 8日付け:拒絶理由通知 平成30年 3月 7日 :意見書、手続補正書の提出 同年 3月22日付け:特許査定 同年 4月27日 :設定登録 (2)本件無効審判の手続の経緯 本件無効審判における手続の経緯の概略は、次のとおりである。 令和 4年 1月20日 :審判請求書の提出 同年 4月25日 :答弁書の提出 同年 7月29日 :弁駁書の提出 同年11月15日付け:審理事項通知 令和 5年 1月13日 :口頭審理陳述要領書の提出(請求人) 同年 1月13日 :口頭審理陳述要領書の提出(被請求人) 同年 1月27日 :口頭審理 同年 2月 1日 :上申書の提出(被請求人) 同年 2月 3日 :上申書の提出(請求人) 同年 2月17日 :上申書の提出(請求人) 同年 3月 3日 :上申書の提出(被請求人) 同年 3月17日 :上申書の提出(請求人) 第3 本件特許発明 本件特許の請求項1~17に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本件特許発明1」などという。また、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ本件特許の特許請求の範囲の請求項1~17に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1~17の記載は、次のとおりである。 「【請求項1】 少なくとも1つの超音波スピーカであって、且つ、複数の超音波トランスデューサを備える超音波スピーカ、及び、音源と接続可能なオーディオコントローラであって、 前記音源からオーディオ信号を入力する手段を備え、 前記オーディオ信号に基づいて、各超音波トランスデューサを個別に制御するための制御信号を生成し、且つ、少なくとも1つの焦点位置で集束する位相差を有する超音波を各超音波トランスデューサが放射するように、前記制御信号を、各超音波トランスデューサに出力する制御手段を備える、 オーディオコントローラ。 【請求項2】 前記オーディオ信号は、音圧レベルの周波数特性と、第1サラウンドパンパラメータと、を含み、 前記制御手段は、 前記音圧レベルの周波数特性と、前記第1サラウンドパンパラメータと、に基づいて、前記超音波スピーカのパンニングを含む第2サラウンドパンパラメータを生成し、 前記第2サラウンドパンパラメータに基づいて、前記焦点位置及び前記音圧レベルを制御する、 請求項1に記載のオーディオコントローラ。 【請求項3】 前記制御手段は、前記位相差を用いて、少なくとも1つの焦点位置を制御する、 請求項1又は2に記載のオーディオコントローラ。 【請求項4】 前記制御手段は、 各超音波トランスデューサが放射する超音波が前記位相差を有するように、各超音波トランスデューサの駆動タイミングを決定し、 前記駆動タイミングに応じて、前記制御信号を各超音波トランスデューサに出力する、 請求項1~3の何れかに記載のオーディオコントローラ。 【請求項5】 前記制御手段は、前記焦点位置の焦点座標と、各超音波トランスデューサの位置を示す座標と、に基づいて、各超音波トランスデューサの駆動時間差を決定する、 請求項4に記載のオーディオコントローラ。 【請求項6】 前記オーディオ信号と、前記焦点位置と、に基づいて、前記超音波をAM(AmplitudeModulation)変調又はPM(Phase Modu1ation)変調させるための変調パラメータを決定する手段を備える、 請求項1~5の何れかに記載のオーディオコントローラ。 【請求項7】 前記制御手段は、前記超音波スピーカに対するリスナの相対位置に基づいて、前記焦点位置を制御する、 請求項1~6の何れかに記載のオーディオコントローラ。 【請求項8】 前記超音波スピーカの使用環境に関する使用環境情報を取得する手段を備え、 前記制御手段は、前記使用環境情報を更に参照して、前記焦点位置を制御する、 請求項1~7の何れかに記載のオーディオコントローラ。 【請求項9】 前記使用環境情報は、前記超音波スピーカの使用環境のレイアウトを示すレイアウ卜情報、及び、前記使用環境の画像情報の少なくとも1つを含む、 請求項8に記載のオーディオコントローラ。 【請求項10】 前記超音波スピーカが放射した超音波の反射波に基づいて、前記超音波スビーカの使用環境に存在する反射部材の反射率を推定する手段を備え、 前記制御手段は、前記反射率を更に参照して、前記焦点位置を制御する、 請求項1~9の何れかに記載のオーディオコントローラ。 【請求項11】 前記オーディオコントローラは、更に、少なくとも1つのスピーカと接続可能であり、 前記オーディオ信号に基づいて、前記超音波スピーカの第1音圧レベルと、前記スピーカの第2音圧レベルと、を決定する手段を備え、 前記制御手段は、 前記第1音圧レベルに基づく第1スピーカ制御信号を前記超音波スピーカに出力し、 前記第2音圧レベルに基づく第2スピーカ制御信号を前記スピーカに出力する、 請求項1~10の何れかに記載のオーディオコントローラ。 【請求項12】 前記決定する手段は、周波数特性において高い周波数帯域ほど前記第1音圧レベルが高くなるように、前記第2音圧レベルを決定する、 請求項11に記載のオーディオコントローラ。 【請求項13】 前記制御手段は、少なくとも1つの焦点位置に点音源を形成する第1動作モード、及び、前記超音波の放射方向に向かってビーム状音源を形成する第2動作モードの何れかで動作する、 請求項1~12の何れかに記載のオーディオコントローラ。 【請求項14】 前記制御手段は、 前記第1動作モードでは、前記超音波トランスデューサから第1距離に位置する第1焦点に前記超音波を集束させ、 前記第2動作モ-ドでは、前記超音波トランスデューサから、前記第1距離より長い第2距離に位置する第2焦点に前記超音波を集束させる、 請求項13に記載のオーディオコントローラ。 【請求項15】 請求項1~13の何れかに記載のオーディオコントローラと接続可能な超音波スピーカであって、 複数の超音波トランスデューサを備え、 前記制御信号に従って、前記複数の超音波トランスデューサを個別に駆動する駆動部を備える、 超音波スピーカ。 【請求項16】 請求項1~13の何れかに記載のオーディオコントローラを備え、 複数の超音波トランスデューサを備える超音波スビーカを備え、 前記超音波スピーカは、前記制御信号に従って、前記複数の超音波トランスデューサを個別に駆動する駆動部を備える、 オーディオシステム。 【請求項17】 コンピュータを、請求項1~13の何れかに記載の各手段として機能させるためのプログラム。」 第4 請求人の主張及び証拠方法 1 請求人の主張の概要 (1)無効理由1(冒認) 本件特許発明1~17に係る発明は、発明者である筒井雅夫(以下「筒井」という。)及び澁谷信男(以下「澁谷」という。)から特許を受ける権利を承継せずになされた特許出願に係る発明であり、発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利を承継しない被請求人の特許出願に対して設定登録がなされた発明である。したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第6号所定の無効理由を有するものである。 (2)無効理由2(共同出願違反) 予備的に、本件特許が特許法第123条第1項第6号所定の無効理由を有しないものであったとしても、本件特許発明は特許法第38条に違反してされた特許出願に対して設定登録がされた発明であるから、本件特許は、特許法第38条、特許法123条第1項第2号所定の無効理由を有するものである。 (3)具体的主張 ア 無効理由1について、請求人は真の発明者である筒井及び澁谷から本件特許発明に係る特許を受ける権利を承継した者であるから、請求人には請求人適格が認められる。(審判請求書「(4-2)無効理由1:特許法第123条第1項第6号 (4-2-1)請求人適格」) イ 法人たる被請求人に対する本審判請求が認められるためには、被請求人が本件特許発明の真の発明者、すなわち、本件特許発明の「技術的思想を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成する創作活動に関与した者」から特許を受ける権利を承継していないことが必要となる。(審判請求書「(4-2-2)無効審判請求が認められるための要件」) ウ 被請求人が発明者から特許を受ける権利を承継しているとの事実については、特許権者たる被請求人が主張立証責任を負い、被請求人において、自らが発明者から特許を受ける権利を承継したことを主張立証しなければならない。(審判請求書「(4-2-3)主張立証責任の所在」) エ 本件特許発明の真の発明者は筒井及び澁谷であって、落合陽一(以下「落合」という。)及び村上泰一郎(以下「村上」という。)は本件特許発明の発明者ではないから、落合及び村上から本件特許発明に係る特許を受ける権利を承継したと主張する被請求人は、本件特許発明に係る特許を受ける権利を有しない。(審判請求書「(4-2-4)被請求人は本件特許発明に係る特許を受ける権利を有しない」) オ 以下に述べるとおり、本件特許発明の真の発明者は筒井及び澁谷であり、被請求人が発明者であるとする落合及び村上は本件特許発明の発明者ではない。(審判請求書「(4-2-4-1)筒井及び澁谷が本件特許発明の真の発明者である」) (ア)被請求人の前身であるPixie Dust Technologies,Inc.(代表者:落合。以下「米国PDT社」という。)は、音源を任意の位置に発生させるフェーズドアレイスピーカの開発を目指したものの、音声に基づき搬送波となる超音波を変調させて音声を運び、可聴音を再生する技術を有していなかったため、平成27年5月頃、請求人に対して、入力した音響信号を集束させるスピーカの試作を依頼した(甲5号証の1)。請求人の代表取締役である筒井及びその委託を受けた澁谷は、音源を任意の位置に発生させるフェーズドアレイスピーカを実現する技術的な解決手段を着想し、試験を重ねた上で、同年11月13日頃までに、本件特許発明を完成し、本件特許発明を実施する試作機を製作して、同13日に被請求人に納品した(甲5号証の2、甲6号証)。(審判請求書「(4-2-4-1-1)本件特許発明の背景」) (イ)本件特許発明の課題は、「複数のスピーカから構成されるオーディオシステムでは、各スピーカがリスナの周囲に配置される。このようなオーディオシステムは、音源から入力されるオーディオ信号に対応する複数のチャネルを各スピーカに割り当てることにより、臨場感のあるサウンドを再生することができる。例えば、特許文献1には、リスナの位置及び方向に応じて、各スピーカのミキシング係数を設定する技術が開示されている。」(本件特許公報に係る明細書(以下「本件明細書」という。)【0002】)が、「特許文献1では、リスナの周囲に複数のスピーカを配置する必要がある。そのため、オーディオシステムの使用環境に制約がある。特に、リスナの背後にスピーカを設置することが難しい使用環境では、特許文献1のオーディオシステムは使用することができない。」(本件明細書【0004】)ことである。そこで、本件特許発明の目的は、「オーディオシステムの使用環境の制約を取り除くこと」(本件明細書【0005】)である。 前記課題の解決手段は、「少なくとも1つの超音波スピーカであって、且つ、複数の超音波トランスデューサを備える超音波スピーカ、及び、音源と接続可能なオーディオコントローラであって、前記音源からオーディオ信号を入力する手段を備え、前記オーディオ信号に基づいて、各超音波トランスデューサを個別に制御するための制御信号を生成し、且つ、少なくとも1つの焦点位置で集束する位相差を有する超音波を各超音波トランスデューサが放射するように、前記制御信号を、各超音波トランスデューサに出力する制御手段を備える、オーディオコントローラ。」(本件特許請求項1)である。 そして、本件特許発明によれば、「オーディオシステムの使用環境の制約を取り除くこと」(本件明細書【0007】)ができる。 課題解決手段における「前記オーディオ信号に基づいて、各超音波トランスデューサを個別に制御するための制御信号を生成し、且つ、少なくとも1つの焦点位置で集束する位相差を有する超音波を各超音波トランスデューサが放射するように、前記制御信号を、各超音波トランスデューサに出力する制御手段」とは、音圧レベルの周波数特性並びに音源の位置及びその音圧レベルを含む「オーディオ信号」に基づき、音源を形成する超音波の焦点位置と各超音波トランスデューサとの距離を算出し、当該距離に応じて、各超音波卜ランスデューサの駆動タイミング(位相差)を制御する信号を生成した上で、焦点位置で集束する位相差を有する超音波を放射するように、その信号を各超音波トランスデューサに出力することである(本件明細書【0030】、【0034】~【0040】)。そして、かかる超音波は、オーディオシステムに入力されたオーディオ信号に基づき、所定の変調方式で変調した超音波でなければならない(本件明細書【0033】)。なぜなら、本件特許発明の目的は、「オーディオシステムの使用環境の制約を取り除くこと」(本件明細書【0005】)であるところ、オーディオシステムに入力されたオーディオ信号に基づき超音波を変調しない限り、オーディオ信号に応じた可聴音は発生せず、本件特許発明の目的を充足することができないからである。そうすると、本件特許発明の技術的特徴は、「オーディオ信号に基づき、音源を形成する超音波の焦点位置と各超音波トランスデューサとの距離を算出し、当該距離に応じて、各超音波トランスデューサの駆動タイミング(位相差)を制御する信号を生成した上で、焦点位置で集束する位相差を有する所定の変調方式で変調した超音波を放射すること」である。 筒井及び澁谷は、後述のように、269個の超音波トランスデューサを有し、音声データを入力可能であって、入力された指示に基づき各超音波トランスデューサの発振する超音波の位相、振幅及び周波数を個別に制御するための制御信号を生成することが可能であって、入力された音声データに応じた所定の変調手段によって変調された超音波を発生し、空中の任意の位置で集束して可聴音を再生する超音波スピーカを開発し、完成させた。よって、筒井及び澁谷は前記技術的思想を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成する創作活動に関与した。 したがって、筒井及び澁谷が本件特許発明の真の発明者である。(審判請求書「(4-2-4-1-2)本件特許発明の技術的特徴」) (ウ)筒井及び渋谷は、本件開発が請求人に委託された当時、本件特許発明の創作に必要な技術的知識や経験を十分に有していた。(審判請求書「(4-2-4-1-3-1)筒井及び澁谷の経歴等」、口頭審理陳述要領書「(2-2-1-1)筒井及び澁谷の経歴等について」) (エ)平成27年5月21日、米国PDT社の落合、田子學(以下「田子」という。)、被請求人のCRO(最高研究責任者)である星貴之(以下「星」という。)と請求人の筒井は、青山にて会議を行った。筒井は、この会議において米国PDT社が開発を目指す製品につき意向を聴取し、後日、要求を仕様書として整理し、見積書を提出することとなった。前記会議後に、筒井は、請求人の顧問である山下雅道(以下「山下」という。)と開発方針について協議し、音声の変調を制御する方法としてPWM方式を採用することを星に提案した。米国PDT社は、同月26日頃、請求人に対し、(1)被請求人装置の「発火及び共鳴音発生要因解明と解決」を含む「耐久性、安全性の検証と課題解決」、並びに(2)左記検証による得られたデータに基づき被請求人装置の設計変更を実施し、「空中超音波集束装置 駆動部1式」及び「フェーズドアレイAM変調スピーカ1式」の試作品を各2台ずつ完成させることを依頼し、請求人はこれを受託した(以下かかる依頼に係る開発を「本件開発」という。)(甲5号証の1)。 その後、筒井及び澁谷が検討を行った結果、「フェーズドアレイAM変調スピーカ」について、PWM制御を採用すること等により、概念設計用のプロトタイプよりも段階の進んだ量産検討のためのエンジニアリングサンブルまで開発できる見込みとなった。また、請求人では、そのようにすることで、1つの駆動装置で「空中超音波集束装置」の機能改善及び「フェーズドアレイAM変調スピーカ」の試作を同時に実現できる見通しが立った。そこで、請求人が、被請求人に提案した結果、1台で「空中超音波集束装置」及び「フェーズドアレイAM変調スピーカ」と同等の機能を実現することができるコントローラ4台を試作品として納入することとなった。(審判請求書「(4-2-4-1-3-2)本件特許発明に係る開発の受託」) (オ)本件開発の受託時点での被請求人装置は、269個の超音波トランスデューサを平面に配列したフェーズドアレースピーカをFPGA(field-programmable gate array)と呼ばれるプログラミング可能な制御用基板で操作する構成であった。被請求人装置とパソコンを接続し、パソコンを通して、座標データなどの制御データをFPGAに入力することによって、被請求人装置は超音波を空中で集束させることが可能であった。しかしながら、被請求人装置は、連続稼働による発熱や共鳴音の発生などの問題を解決できずにいた(甲5号証の1)。(審判請求書「(4-2-4-1-3-3)本件開発の受託時点の被請求人装置」) (カ)本件開発について、被請求人が作成した発注仕様書その他の開発内容を示すものは存在せず、PWM制御によって音声を変調して超音波に乗せるという課題解決の方法も筒井及び澁谷の着想と開発に基づくものであった。また、本件開発では、被請求人の有する既存のフェーズドアレイスピーカを改良して試作品を作成することとなっていたが、試作品の設計図その他の具体的な構成は被請求人からは一切提供されず、請求人が回路採用部品を含めた基盤を新設計するなど(甲5号証の1)、本件開発の具体的な計画及び実行については、全て請求人に委ねられていた。(審判請求書「(4-2-4-1-3-4)本件開発の依頼内容」) (キ)平成27年8月19日までに、澁谷は、ゲートドライパーを制御するFPGAのプログラムを作成し、素子の共振を解消するために電流をためるタイミングをずらした。これに加えて、ゲートドライバーを構成するコンデンサの容量を大きくしたことで被請求人装置における発熱の問題が解消した(甲20号証)。(審判請求書「(4-2-4-1-3-5)筒井及び澁谷による試行錯誤 (4-2-4-1-3-5-1)発熱問題の解決」) (ク)音声の変調方式を検討するに当たり、筒井、澁谷及び山下は、平成27年7月後半から8月上旬にかけて本件試作品を構成する基板の構成その他の仕様について検討を進めていった。同年8月7日頃までに、筒井と澁谷は、本件試作品の音質向上と電力削減を実現するために、本件試作品で採用する変調の方式を検討し、PWM方式に基づく変調方式を採用することとした(甲34号証、甲35号証)。澁谷は、被請求人装置における異音の発生を解決するために、回路中のコンデンサの容量を0.1μFから1μF以上に変更するとともに、基板中にラバーを挿入することで、異音問題が解決できることを確認した(甲20号証)。(審判請求書「(4-2-4-1-3-5-2)音声の変調方式の検討」、口頭審理陳述要領書「(2-2-1-3)本件審理事項通知書第3の1(2)ウ(カ)、(キ)について」) (ケ)平成27年11月13日頃までに、筒井及び澁谷は、本件開発の試作品(第1次試作品)を完成し、米国PDT社の検収を受けてこれを納品した。請求人の開発した第1次試作品は、筒井と渋谷の協議の結果、入力された音声をデジタル処理するための演算のためにマイコンボードとして、GR-SAKURAを採用し、音声や集束位置の指定などの処理をGR-SAKURAで、入力信号に基づく超音波の変調や各超音波トランスデューサの発振及び停止のタイミングや位相の制御等をFPGAで行う構成とした(甲39号証)。また、筒井と渋谷は、FPGAとして、有限会社ヒューマンデータの「CycloneIIIブレッドボード/ACM-202」(以下「CycloneIII」という。)を採用した。澁谷は、GR-SAKURA及びCycloneIIIのプログラム作成時に、米国PDT社から提供されたプログラムを使用しなかった。(審判請求書「(4-2-4-1-3-6)第1次試作品の完成」) (コ)平成27年8月24日頃、米国PDT社は、第1次試作品について、音声データの切替などの操作を無線で制御できる機能の追加を請求人に発注し、請求人はこれを受託した(甲40号証の1~甲40号証の3)。(審判請求書「(4-2-4-1-3-7)第2次試作品の開発の納品」) (サ)澁谷は、第1次試作品のために、GR-SAKURAのプログラムとして後に「pdt focus」「pdt player」と呼ばれる2つのプログラムを作成して、GR-SAKURAにインストールした。「pdt focus」は、超音波集束を行う場合に動作させるブログラムであり、「pdt player」は音声を乗せる超音波スピーカとして使用する場合に動作させるプログラムである。第1次試作品では、音源として複数の音声を保存しており、任意の音声を選択して再生することができた。また、澁谷は、第1次試作機のために、CycloneIIIについてもGR-SAKURAから入力される信号の処理、超音波の変調、各超音波トランスデューサの制御を行うプログラムを作成した。(審判請求書「(4-2-4-1-3-6)第1次試作品の完成」) (シ)第1次試作品は、各超音波トランスデューサを同じ位相で発振するように制御していたが、それぞれの超音波トランスデューサごとに位相を設定して、異なる位相で超音波を発振する機能を備えていた。したがって、第1次試作品において、それぞれの超音波トランスデューサごとの位相を指定すれば、各超音波トランスデューサは、任意の位相で超音波を発振する。より具体的には、各超音波トランスデューサと焦点位置との距離に応じて位相差を計算する数式を第1次試作品のCycloneIIIに追加すればよい。(審判請求書「(4-2-4-1-3-9)本件特許発明の完成」、口頭審理陳述要領書「(2-2-1-5)本件審理事項通知書第3の1(2)ウ(サ)について」) (ス)米国PDT社は、平成27年8月24日頃、請求人の納品した第1次試作品について、音声データの切替などの操作を無線で制御できる機能の追加を請求人に発注し、請求人はこれを受託した(甲40号証の1~甲40号証の3)。筒井及び澁谷は、前記注文を実現するための方策を検討するとともに、第1次試作品の音質が十分ではないとの被請求人の指摘を受けて、その改善に取り組んだ。その結果、筒井及び澁谷は、音質が不十分である原因は、第1次試作品に採用したGR-SAKURAの処理速度が十分ではないこと及びPWM制御のDuty比が適正化されていないため、息継ぎ現象が発生していることであることを突き止めた。また、GR-SAKURAは無線機能を追加することもできないため、筒井は、GR-SAKURAをより高性能なRaspberry Pi Version 2B(以下「Raspberry Pi」という。)に置き換えることを決定し、澁谷は、Raspberry Pi制御用のプログラムを作成した(甲41号証)。(審判請求書(4-2-4-1-3-7)第2次試作品の開発の納品」) (セ)平成27年12月1日、筒井は、平成27年11月29日の星からの要求に対して、星に、FPGAのプログラムのソースコード(以下「請求人ソースコード」という。)を電子メールに添付して送付する方法で提供した(甲42号証)。(審判請求書「(4-2-4-1-3-8)FPGAのソースプログラムのサンプル提供」) (ソ)遅くとも平成28年初頭までに、筒井及び澁谷は、第1次試作品の改良品を被請求人に追加納品した。第1次試作品の追加納品版(以下「第2次試作品」という。)は、第1次試作品に無線機能が追加されると同時に、息つぎ問題対策として、PWM制御のDuty比を50%未満に調整し、また、マイコンボードについても、GR-SAKURAから、より高速で処理できるRaspberry Piに変更することにより課題を解決し、マイコンボードであるRaspberry Piには平成27年12月に完成したソフトウェアPdt-PlayerとPdt-Focusが搭載されていた。(審判請求書「(4-2-4-1-3-7)第2次試作品の開発の納品」) (タ)筒井及び澁谷は、遅くとも被請求人による検収を受けて最初の第1次試作品を被請求人に納品した平成27年11月13日頃までに、本件特許発明を完成していた(甲5号証の2)。 第1次試作品は、米国PDT社が作成して公開していた超音波集束装置である被請求人装置の欠陥の原因を解明・解決すると同時に、超音波スピーカ機能を追加したものである。上記のとおり、被請求人装置は、発熱や共鳴音などの欠陥を備えていたため、筒井及び澁谷は、ハード構成を一から再検討して採用する基板を選定して、制御部分をGR-SAKURA(第2次試作品以降は、Raspberry Pi)とCycloneIIIを組み合わせる構成とした。また、澁谷は、GR-SAKURAを超音波集束装置として機能する際に使用するpdt focus及び超音波スピーカとして機能する際に使用するpdt playerの2件のプログラムを作成した。さらに、澁谷は、GR-SAKURAからの入力信号を受けて、変調及び超音波トランスデューサの制御を行って音声を乗せた超音波を発振するCycloneIII(FPGA)のプログラムを作成した。第1次試作品のうち、被請求人装置から変更がなかったのは、外部筐体と超音波トランスデューサのパラメトリックアレイのみであった。 請求人が、被請求人に納品した時点では、第1次試作品は、各超音波トランスデューサから同じ位相で音声を乗せた超音波(変調した超音波)を発振する仕様であった。そのため、第1次試作品から発振された超音波による音源はパラメトリックアレイの面から直進し、柱状の音源を形成する。しかしながら、次に説明するとおり、第1次試作品は、本件発明の技術的特徴である、個々の超音波トランスデューサを制御して、入力された音声信号を任意の位置で集束させて音源を形成させること(本件特許請求項1以下)を実質的に完成していた。 第1次試作品は、各超音波トランスデューサを同じ位相で発振するように制御していたが、それぞれの超音波トランスデューサごとに位相を設定して、異なる位相で超音波を発振する機能を備えていた。したがって、第1次試作品において、それぞれの超音波トランスデューサごとの位相を指定すれば、各超音波トランスデューサは、任意の位相で超音波を発振する。超音波を特定の位置で集束させるには、集束位置と各超音波トランスデューサとの距離に応じて、各超音波トランスデューサから発振する超音波の位相をずらせばよい(本件明細書段落【0040】~【0045】参照)。より具体的には、焦点位置に応じて各超音波トランスデューサの位相差を計算するプログラムを第1次試作品のCycloneIIIに追加すればよく、このようなプログラムは本件明細書段落【0040】~【0045】のとおり、非常に単純かつ明快な内容であって、ブログラムの知識を有する者であれば誰でも容易に作成が可能である(甲43号証~甲47号証)。 そのため、請求人及び被請求人が合意の上で、第1次試作品は、超音波スピーカの機能を満たすものとして納品された。 以上のとおり、第1次試作品は、当業者であれば技術常識を適用するだけで容易に実現可能な点を残して、本件発明の技術的特徴である、個々の超音波トランスデューサを制御して、入力された音声信号を任意の位置で集束させて音源を形成させること(本件特許請求項1以下)を実質的に備えていた。したがって、筒井及び澁谷は、遅くとも最初の第1次試作品を被請求人に納品した平成27年11月13日頃までに、本件特許発明を完成していた。(審判請求書「(4-2-4-1-3-9)本件特許発明の完成」) カ 落合及び村上は、その経歴から本件特許発明をなすのに必要となる知識と技能を有しておらず、また、本件開発にまったく関与していない。また、本件明細書の記載は、落合及び村上が真の発明者であるならば当然に記載されるべき、超音波の「変調」を始めとする事項について具体的な構成を欠いている。したがって、落合及び村上が本件特許発明の発明者であることはあり得ない。(審判請求書「(4-2-4-2)落合氏及び村上氏は本件特許発明の発明者ではないこと」) キ よって、本件特許発明は、特許を受ける権利を有しない被請求人の特許出願に対してなされたものであり、無効である。(審判請求書「(4-2-5)結論」) ク 無効理由2について、本件特許は被請求人が単独で出願したものであるところ、無効審判請求が認められるためには、対象となる特許が「特許を受ける権利が共有に係る」(特許法38条)ことが必要となる。(審判請求書「(4-3)無効理由2:特許法第38条、特許法第123条第1項第2号 (4-3-2)無効審判請求が認められるための要件」) ケ 裁判例によると、特許を受ける権利が共有に係るとの事実については、冒認出願を理由とする無効審判請求の場合と同様、特許権者たる被請求人が主張立証責任を負い、被請求人において、特許を受ける権利が被請求人のみに帰属することを主張立証しなければならない。(審判請求書「(4-3-3)主張立証責任の所在」) コ 筒井及び澁谷が発明者であることは上記オの事情から明らかである。請求人は、筒井及び澁谷から本件特許に係る特許を受ける権利を承継している(甲2号証、甲3号証)。(審判請求書「(4-3-4)共同出願違反を疑わせる具体的な事情」) サ よって、本件特許は、特許を受ける権利が請求人との共有に係るため、請求人と共同でなければ、特許出願をすることができないにもかかわらず、共同せずに特許出願されたものであり、無効である。(審判請求書「(4-3-5)結論」) 2 証拠方法 甲1号証:特許公報 特許第6329679号 甲2号証:知的財産権の帰属に係る確認書 甲3号証:法人登記簿 甲4号証の1:論文「遅延駆動パラメトリックアレイスピーカによる広域能動騒音制御」(日本機械学会論文集(C編)、79巻、799号(2013年)に収録) 甲4号証の2:「日本機械学会論文集C編」と題するウェブページ 甲5号証の1:見積書(NO.20150525A1) 甲5号証の2:請求書(NO.20150525A1Z) 甲6号証:デジタルビデオカメラの映像データ 録画対象:音源を任意の位置に発生させるフェーズドアレイスピーカ 録画日時:平成27年11月21日 録画場所:ジャパニアス株式会社神奈川事業所 録画者:筒井雅夫 甲7号証の1:論文「2DIRによる混合液晶の動的解析」(液晶討論会講演予稿集に収録) 甲7号証の2:「液晶討論会講演予稿集」と題するウェブページ 甲8号証:「検索結果一覧(国内文献)」と題するウェブページ(渋谷信男を発明者とする特許出願の検索結果(J-PlatPat)) 甲9号証:「「Pixie Dust」落合陽一さんインタビュー:IoTはもう古い。ポスト「モノ」時代の魔法とは?」と題するウェブページ 甲10号証:「Re:質問です0523 RE:質問です0522 RE:追加資料RE:超音波装置の資料」と題する電子メール 甲11号証:「空中ハプティクス・空中超音波触覚ディスプレイ|篠田・牧野研究室」と題するウェブページ 甲12号証:「星 貴之(Takayuki Hoshi)」と題するウェブページ 甲13号証:「shinolab/autd3-library-software」と題するウェブページ 甲14号証:「Re:【RSオンライン】ご注文内容確認-181206054」と題する電子メール 甲15号証:「超音波 改善案」と題する電子メール 甲16号証:「発熱しないチップがみつかった」と題する電子メール 甲17号証:「Re:発熱しないチップがみつかった」と題する電子メール(「筒井さま 1)先ほどの2つの」から始まるもの) 甲18号証:「Re:発熱しないチップがみつかった」と題する電子メール(「筒井さま IR4427への換装のメリットのまとめ」から始まるもの) 甲19号証:「Re:発熱しないチップがみつかった」と題する電子メール(「筒井さま L293の基板は」から始まるもの) 甲20号証:「超音波帯域用トランスデューサーT4010B4の駆動部の共振防止について」と題する電子メール 甲21号証:「パラメトリック・スピーカーの情報 再送」と題する電子メール 甲22号証:「パラメトリック・スピーカーの予備試験」と題する電子メール 甲23号証:「超音波スピーカーの特許調査」と題する電子メール 甲24号証:「超音波スピーカー 進捗 再送」と題する電子メール 甲25号証:「RE:超音波スピーカー」と題する電子メール 甲26号証:「RE:指向性スピーカー ピエゾ」と題する電子メール(「山下先生」から始まるもの) 甲27号証:「RE:指向性スピーカー ピエゾ」と題する電子メール(「筒井さま」から始まるもの) 甲28号証:「Re:状況いかがでしょうか」と題する電子メール 甲29号証の1:「超指向性フェーズドアレイスピーカーの基板構造案」と題する電子メール 甲29号証の2:「Re:超指向性フェーズドアレイスピーカーの基板構造案」と題する電子メール 甲30号証:「RE:その4 RE:その3 RE:0723 その2RE:超指向性フェーズドアレイスピーカーの基板構造案」と題する電子メール 甲31号証の1:「RE:Arduinoの商用ライセンスについて」と題する電子メール(「株式会社CSイノベーション 筒井様」から始まるもの) 甲31号証の2:「RE:Arduinoの商用ライセンスについて」と題する電子メール(「渋谷様」から始まるもの) 甲31号証の3:「RE:Arduinoの商用ライセンスについて」と題する電子メール(「筒井様」から始まるもの) 甲32号証:「Re:スピーカー チップ」と題する電子メール 甲33号証:「Re:渋谷さん住所です。Re:Re:Re:スピーカー チップ」と題する電子メール 甲34号証:「SSB変調の例」と題する電子メール 甲35号証:「次期駆動方式にいかがでしょうか」と題する電子メール 甲36号証:「パラメトリックスピーカー用隘路部品の手配について」と題する電子メール 甲37号証:「Re:次期駆動方式にいかがでしょうか」と題する電子メール(「筒井さま 確実にしないといけないのは」から始まるもの) 甲38号証:「Re:次期駆動方式にいかがでしょうか」と題する電子メール(「筒井さま いくつかの話が混ざってしまったようです。」から始まるもの) 甲39号証:「フェーズドアレイスピーカーの電子回路系資料」と題する電子メール 甲40号証の1:「pixi」と題する電子メール 甲40号証の2:見積書(No.20150823A) 甲40号証の3:請求書(NO.20150823A) 甲41号証:「CC3000は厳しいのでラズベリーパイというボードへ」と題する電子メール 甲42号証:「RE:スピーカーのソースコード」と題する電子メール 甲43号証の1:立命館大学審査博士論文「多面体パラメトリックスピーカを用いた高音質な3次元音場再生の研究」 甲43号証の2:「立命館学術成果リポジトリ」と題するウェブページ 甲44号証の1:論文「個別駆動型パラメトリックスピーカへの素子間出力補正の導入~零点制御を用いた受聴点での非可聴音の抑圧~」(抜粋)(日本音響学会講演論文集に収録) 甲44号証の2:「1ビット個別駆動パラメトリックスピーカを用いたアコースティックプロジェクタ」と題するウェブページ 甲45号証の1:論文「アレイ制御を用いた指向性可変なパラメトリックスピーカ」(電子情報通信学会技術研究報告、Vol.112、No.76に収録) 甲45号証の2:「電子情報通信学会 研究会発表申込システム 講演論文 詳細」と題するウェブページ 甲46号証の1:論文「超音波で物体を動かす~非接触型圧力提示システムの開発~」 甲46号証の2:「テクノアイデアコンテスト「テクノ愛」の開催」と題するウェブページ 甲47号証:「特徴的な指向性を持つ小型アレースピーカ」と題する書面 甲48号証:見積書(NO.20170804A) 甲49号証:見積書(NO.20171204S1) 甲50号証:見積書(NO.20171215A1) 甲51号証の1:見積書(NO.20180219A) 甲51号証の2:請求書(NO.20180219A) 甲51号証の3:納品書(NO.20180219A) 甲52号証の1:「回路図送信いたします。 RE:プログラム拝見しました。RE:修正いたしました。RE: プログラムについて」と題する電子メール 甲52号証の2:「File:Drv_C.sch」と記載のある書面 甲52号証の3:「File:UST_C.sch」と記載のある書面 甲53号証の1:「RE:回路図送信いたします。 RE:プログラム拝見しました。 RE:修正いたしました。 RE:プログラムについて」と題する電子メール 甲53号証の2:「File:Drv_C.kicad_pcb」と記載のある書面 甲53号証の3:図の上部中央部分に「J17-064-UST_C」と記載のある書面 甲54号証:米国特許第9936324号明細書 甲55号証:米国特許出願公開第2018/0139557号明細書 甲56号証:特許公報 特許第6330098号 甲57号証:秘密保持契約書 甲58号証:「Re:業務委託契約のご相談」と題する電子メール 甲59号証:「RE:業務委託契約のご相談」と題する電子メール 甲60号証:「Re:0522 RE:0521 ご連絡 RE:業務委託契約のご相談」と題する電子メール 甲61号証:「広辞苑 第7版(普通版)」(抜粋) 甲62号証:「バイオマテリアルは今、テクノロジー新時代に突入しています。」と題するウェブページ 甲63号証の1:写真 撮影対象:被請求人装置に内蔵されていたチップ 甲63号証の2:写真 撮影対象:被請求人装置に内蔵されていたチップ(甲63号証の1の拡大写真) 甲64号証:「特許法における発明の「本質的部分」という発想の意義」(「発明の本質的部分の保護の適否」日本工業所有権法学会年報第32号(2008)、p.45~90に収録) 甲65号証:論文「超音波と情報処理」(計測と制御、Vol.28、No.5に収録) 甲66号証の1:「RE:スピーカーのソースコード」と題する電子メール(「FPGA.ZIP」が添付されているもの) 甲66号証の2:FPGA.ZIPの内容(FPGAのプログラム) 甲67号証の1:「RE:スピーカーのソースコード」と題する電子メール(「soft.zip」が添付されているもの) 甲67号証の2:soft.zipの内容(GR-SAKURAのソースコード) 甲68号証:「Re:RE:RE:追伸 RE:帰国予定ご確認」と題する電子メール 甲69号証:「有難うございました!RE:RE:追伸 RE:帰国予定ご確認」と題する電子メール 甲70号証:回答書 甲71号証:被請求人装置と本件実験装置の対照図 甲72号証:写真 撮影対象:被請求人装置 撮影日:2023年3月13日 撮影場所:請求人会社 撮影者:筒井雅夫 甲73号証:写真 撮影対象:被請求人装置 撮影日:2023年3月13日 撮影場所:請求人会社 撮影者:筒井雅夫 甲74号証:動画 撮影対象:被請求人装置 撮影日:2023年3月15日 撮影場所:請求人会社 撮影者:筒井雅夫・石田亨宏 甲75号証:動画 撮影対象:被請求人装置 撮影日:2023年3月15日 撮影場所:請求人会社 撮影者:筒井雅夫・石田亨宏 甲76号証:動画 撮影対象:被請求人装置 撮影日:2023年3月15日 撮影場所:請求人会社 撮影者:筒井雅夫・石田亨宏 甲77号証:動画 撮影対象:被請求人装置 撮影日:2023年3月15日 撮影場所:請求人会社 撮影者:筒井雅夫・石田亨宏 甲78号証:動画 撮影対象:被請求人装置 撮影日:2023年3月15日 撮影場所:請求人会社 撮影者:筒井雅夫・石田亨宏 なお、当事者間に甲1号証~甲64号証の成立に争いはない。 第5 被請求人の主張及び証拠方法 1 被請求人の主張 (1)概要 筒井及び澁谷は、本件特許発明の発明者ではない。 落合及び村上は、本件特許発明の発明者であり、被請求人は、落合及び村上から特許を受ける権利を承継して本件特許出願を行った。 請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件特許について、冒認出願・共同出願違反の無効理由は存在しない。 したがって、本件特許は有効である。 (2)具体的主張 ア ある人物が特許発明の発明者であることを主張するためには、特許請求の範囲の記載によって具体化された特許発明の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)、発明の特徴的部分を明らかにした上で、当該人物がかかる発明の特徴的部分を着想し、また、その着想を具体化することに創作的に関与したことを明らかにする必要がある。(答弁書「(2-1)総論」) イ 本件特許発明1の特徴的部分は、本件特許発明1の発明特定事項である「前記オーディオ信号に基づいて、各超音波トランスデューサを個別に制御するための制御信号を生成し、且つ、少なくとも1つの焦点位置で集束する位相差を有する超音波を各超音波トランスデューサが放射するように、前記制御信号を、各超音波トランスデューサに出力する制御手段を備える、」点である。(答弁書「(2-2-2-1-6)小括(本件特許発明の特徴的部分)」) ウ (i)超音波スピーカにおいて「変調」は公知の技術常識であり、また、(ii)本件特許発明1の発明特定事項に「変調」は含まれていない。この点は、(iii)本件特許の審査過程において、審査官が「変調」を本件特許発明の特徴的部分と認定していないことからも明らかである。したがって、「変調」を本件特許発明1の特徴的部分であるとする請求人主張は、明らかに誤っている。(答弁書「(2-2-2-1-7-1)請求人が主張する本件特許発明1の特徴的部分」) エ 冒認又は共同出願違反を理由として請求された特許無効審判において、「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」の主張立証責任は、形式的には特許権者が負担するものと解されるものの、「出願人が発明者であること又は発明者から特許を受ける権利を承継した者であること」は、先に特許出願されたという事実により、他に反証がない限り推認されるものである。(答弁書「(1-4-2-3)「(4-2-3)主張立証責任の所在」) オ 本件特許発明について落合及び村上が行ったことについては、概略、次のとおりである。 (ア)遅くとも平成22年9月までに、星は、超音波トランスデューサの各振動子を個別に制御して振動のタイミングを遅延させることによって、位相制御を実現し、位相制御によって集束超音波を放出する技術(以下「本件位相制御技術」という。)を利用した非接触触覚ディスプレイ(以下「本件非接触触覚ディスプレイ」という。)を生み出して、論文を執筆した(乙4号証)。(答弁書「(2-2-2-2-1-1)本件非接触触覚ディスプレイの研究」) (イ)星は、平成24年9月12日~14日に開催された、第17回バーチャルリアリティ学会において、「非接触インタラクションのための小型超音波集束装置」という論文(乙5号証)を発表し、小型超音波集束装置(以下「本件超音波集束装置」という。)のデモ展示を行っていた。星の当該論文には、星により発明された本件位相制御技術の内容が公表されていた。 当時、東京大学大学院で学際情報学を専攻していた落合は、上記学会に出席して星の研究成果に触れ、本件位相制御技術に関心を持った。(答弁書「(2-2-2-2-2)本件特許発明1の着想・完成」) (ウ)落合は、同学会開催月の翌月である平成24年10月2日、星に対し本件超音波装置の貸出しを依頼し、さらにメール等でも連絡を取り合った上で、同月15日に最初の共同実験を行って、以後、星と本件位相制御技術に関する共同研究を行うようになった。(答弁書「(2-2-2-2-2)本件特許発明1の着想・完成」) (エ)落合は、星が執筆した本件論文を読んで、本件位相制御技術の応用可能性を検討・研究し、星が本件位相制御技術を利用して発明した本件非接触触覚ディスプレイが雑音を発生させることを知り、平成24年10月頃(答弁書では「平成26年9月頃」と記載されていたが、口頭審理陳述要領書において誤記として訂正された。)、本件超音波集束装置が雑音を生じさせるのであれば、本件超音波集束装置により超音波を集束させた任意の場所から意図的に音を発生させてスピーカとして用いることも可能であるという着想(以下「本件着想」という。)を得た。(答弁書「(2-2-2-2-2)本件特許発明1の着想・完成」、口頭審理陳述要領書「(3-1)合議体による被請求人の主張の理解に対する意見(審理事項通知書・第5の1アに対する意見)」) (オ)落合は、星の協力を得ながら、本件着想に基づく研究開発(以下「本件研究開発」という。)を進め、平成26年9月7日頃ごろ(乙6号証)、当該研究開発の成果を「コンピュテーショナルフィールド」という新たな概念の発表に含めて、星との共同論文(「Computational Fields: Beyond Symbolic Machines, Toward Pervasive Interfaces for Calm Technologies」(邦訳:「コンピュテーショナルフィールド~シンボリックマシンを超えて、カームテクノロジーのためのパーベイシブインタフェースを目指して~」)(乙7号証、以下「本件未公開論文」という。)にまとめ上げた。 本件未公開論文には、本件位相制御技術の超音波スピーカへの応用について、以下のとおり記載されている。 「遠隔触覚(A-3,A-4) 従来の研究で示されているように、コンピュテーショナルな音場は遠隔触覚刺激に利用することができる。また、コンピュテーショナルな音場は可聴音や物体の浮遊を実現する。これらは同じ発生機により提供される複数のアプリケーションの例である(図12(A-3,A-4))。」(乙7号証・7頁右欄44行目~)(答弁書「(2-2-2-2-2)本件特許発明1の着想・完成」) (カ)落合は、星の協力を得て、上記共同研究の過程において、本件着想に基づき、本件位相制御技術を利用した超音波スピーカ(及びオーディオコントローラ)に係る実験機及びその動画を製作した(乙12、13号証)。動画のファイル情報(プロパティ情報)から、落合が製作した動画は平成25年1月30日に製作され、星が製作した動画は平成25年12月10日に製作されたことがわかる(乙14、15号証)。(口頭審理陳述要領書「(3-2-3-2-1)実験機及び実験動画の製作」) (キ)以上のとおり、本件特許発明1は、本件位相制御技術のスピーカへの応用である。すなわち、本件特許発明1の発明特定事項に照らすと、「超音波トランスデューサを個別に制御する」構成及び「少なくとも1つの焦点位置で集束する位相差を有する超音波を各超音波トランスデューサが放射するように・・・各超音波トランスデューサに出力する制御手段」の構成については、本件位相制御技術に含まれ、星が製作した本件超音波集束装置はかかる構成を備えていた。落合はかかる本件位相制御技術を利用した超音波スピーカ及びオーディオコントローラに係る発明を着想し、その後、落合及び村上は、星の協力を得ながら試行錯誤し、本件特許発明1を完成した。(答弁書「(2-2-2-2-2)本件特許発明1の着想・完成」) (ク)落合は、出資・支援者等とも協議の上、本件特許発明1を実施するオーディオコントローラを備えた超音波スピーカ(以下「本件製品」という。)の製品化を進めた。落合は、本件製品のプロダクトデザインを、親交のあった著名なプロダクトデザイナーである田子に依頼した。田子は、落合の依頼を受け、本件製品のデザインを完成させた。(答弁書「(2-2-2-2-3-1)本件製品のプロダクトデザイン」) (ケ)落合らは請求人に対し、本件製品の試作品の製作を依頼した。したがって、請求人への発注に際し、共同研究開発契約等は一切締結されていない。また、見積書(甲5号証の1)に記載のとおり、請求人への発注時点において、既に発注内容は「フェーズドアレイ」スピーカの試作品製作であり、同見積書・2頁以下には、落合が請求人に対し指定・指示した発注仕様が特定されている。(答弁書「(2-2-2-2-3-2)試作品の発注」) (コ)落合らが発明した「超音波トランスデューサを個別に制御し、少なくとも1つの焦点位置で集束する位相差を有する超音波を各超音波トランスデューサが放射するように各超音波トランスデューサに出力する制御手段を有する」スピーカないしオーディオコントローラは、ハードウェア及びソフトウェアで構成される。請求人への試作品の発注に当たり、落合らは、試作品のハードウェア及びソフトウェアを全て請求人において製作することを依頼した。そして、星は、落合らの指示により、請求人に対し、本件超音波集束装置を見せるとともに、平成27年5月21日、本件超音波集束装置に関するデータを、Dropboxを通じて提供した(乙8号証)。このとき星が請求人に提供したデータは、例えば、回路構成に関する解説記事である「超音波を集束させる装置とその応用例」、回路図及び振動子の図並びにポータブル空中超音波集束装置USBインタフェース仕様書、ポータブル空中超音波集束装置取扱説明書、ポータブル空中超音波集束装置駆動回路仕様書等である。(答弁書「(2-2-2-2-3-3)本件超音波集束装置及びそのデータの提供」) (サ)平成27年10月初め、請求人は、ハードウェアの製作のみが試作品製作委託の内容であると主張した。そのため、落合らは請求人と協議の上、ソフトウェアのうち本件特許発明1の特徴的部分である本件位相制御技術に関するソフトウェアは落合らが製作することとし、変調の制御に関するソフトウェアの製作のみを請求人に依頼することとした(乙9号証)。上記の経緯により、試作品は、本件位相制御技術に関するソフトウェアを実装することなく、変調の制御に関するソフトウェアのみを実装して納品された。納品後、落合らは、星の協力を得て、本件位相制御技術に関するソフトウェアを制作し、試作品に実装した。(答弁書「(2-2-2-2-3-4)ソフトウェア製作に関する認識相違、落合らによる本件位相制御技術に関するソフトウェア製作」) (シ)被請求人は、平成29年に設立された後、本件特許発明1について、発明者である落合及び村上から特許を受ける権利を承継し、本件特許を出願、取得した(甲1号証)。(答弁書「(2-2-2-2-4)本件特許の出願・取得」) カ 本件特許発明1は、請求人が「第1次試作品」の製作を始める前の時点(平成27年5月)で、既に完成していた。請求人は、落合らから指示を受けて試作品を製作したのみである。したがって、筒井及び澁谷が本件特許発明1の発明者になる余地はない。(答弁書「(2-2-2-3-2)筒井及び澁谷が発明者でないこと」) キ 本件特許発明2~14の発明者は落合及び村上であり、筒井及び澁谷は発明者ではない。また、本件特許発明15~17について、筒井及び澁谷が発明者であるとする請求人の主張には、根拠がない。(答弁書「(2-2-3)本件特許発明2」~「(2-2-18)本件特許発明17」) ク 上記のとおり、筒井及び澁谷は、本件特許発明1~17全てについて発明の特徴的部分への創作的関与が認められないことから発明者ではない。したがって、請求人が主張する無効理由2は、全く理由がない。(答弁書「(2-3)無効理由2(共同出願違反)」) ケ 以上に述べたとおり、請求人の主張にはいずれも理由がない。本件特許について、冒認出願・共同出願違反の無効理由は存在しない。したがって、本件特許は有効である。(答弁書「(2-4)結論」) 2 証拠方法 乙1号証:本件特許の審査過程において提出された意見書 乙2号証:公開特許公報 特開2012-29096号 乙3号証:「PWM機能を使ってスピーカを鳴らす」と題するウェブページ 乙4号証:論文「Noncontact Tactile Display Based on Radiation Pressure of Airborne Ultrasound」 乙5号証:論文「非接触インタラクションのための小型超音波集束装置」 乙6号証:Dropboxに保存されたファイルのバージョン履歴のスクリーンショット 乙7号証:「Computational Fields:Beyond Symbolic Machines,Toward Pervasive Interfaces for Calm Technologies」 乙8号証:「超音波装置の資料」と題するメール 乙9号証:「Re:音響装置 試作機承認確認依頼」と題するメール 乙10号証:「あーなるほど、、・・・」で始まるFacebookメッセンジャーの記録 乙11号証:「星貴之 お久しぶりです。・・・」で始まるFacebookメッセンジャーの記録 乙12号証:「Clip #650-1547.mov」と題する動画(本件実験動画(落合)) 乙13号証:「20131210_railgun.wmv」と題する動画(本件実験動画(星)) 乙14号証:本件実験動画(落合)のプロパティ情報のスクリーンショット 乙15号証:本件実験動画(星)のプロパティ情報のスクリーンショット 乙16号証:Cyclone III ブレッドボード(高密度カードサイズ)ACM-202シリーズ Rev2 ユーザーズマニュアル ver2.1 乙17号証:PUSH-PULL FOUR CHANNEL DRIVER WITH DIODES 乙18号証:285ch空中超音波集束装置 乙19号証:超音波帯域用トランスデューサー T4010B4 仕様書 乙20号証:USB-011-FIFO USB-011-SER ユーザーズマニュアル(第5版) 乙21号証:回路図 乙22号証:ポータブル空中超音波集束装置 USBインタフェース仕様書 Ver.1.3 乙23号証:ポータブル空中超音波集束装置 取扱説明書 Ver.1.5 乙24号証:ポータブル空中超音波集束装置 駆動回路 仕様書 Ver.1.5 乙25号証:超音波を集束させる装置とその応用例 乙26号証:「Re:ソフトについて」と題するメール 乙27号証:「Re:ArduinoプログラムをGR-SAKURA用に」と題するメール 乙28号証:陳述書(落合陽一氏) 乙29号証:陳述書(星貴之氏) 乙30号証:口頭審理意見陳述資料 なお、当事者間に乙1号証~乙29号証の成立に争いはない。 第6 当審の判断 1 発明者について 特許法第2条第1項は、「発明」とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいうと規定し、同法第70条第1項は、「特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」と規定している。これらの規定によれば、特許発明の「発明者」といえるためには、特許請求の範囲の記載によって具体化された特許発明の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)を着想し、又は、その着想を具体化することに創作的に関与したことを要するものと解するのが相当である。 そうすると、筒井及び澁谷が本件特許発明の発明者といえるためには、本件特許発明の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)を着想し、又は、その着想を具体化することに創作的に関与した者でなければならない。 2 本件特許発明1について (1)技術的思想(技術的課題及びその解決手段)について そこで、まず、本件特許発明の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)について検討する。 ア 本件明細書の記載 本件特許出願の願書に添付された明細書(甲1号証。以下「本件明細書」という。)には、技術的課題及びその解決手段に関連するものとして、次の記載がある。 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、オーディオコントローラ、超音波スピーカ、及び、オーディオシステムに関する。 【背景技術】 【0002】 複数のスピーカから構成されるオーディオシステムでは、各スピーカがリスナの周囲に配置される。このようなオーディオシステムは、音源から入力されるオーディオ信号に対応する複数のチャネルを各スピーカに割り当てることにより、臨場感のあるサウンドを再生することができる。 例えば、特許文献1には、リスナの位置及び方向に応じて、各スピーカのミキシング係数を設定する技術が開示されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0003】 【特許文献1】特開2006-270522号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかし、特許文献1では、リスナの周囲に複数のスピーカを配置する必要がある。そのため、オーディオシステムの使用環境に制約がある。特に、リスナの背後にスピーカを設置することが難しい使用環境では、特許文献1のオーディオシステムは使用することができない。 【0005】 本発明の目的は、オーディオシステムの使用環境の制約を取り除くことである。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明の一態様は、 少なくとも1つの超音波スピーカ、及び、音源と接続可能なオーディオコントローラであって、 前記音源からオーディオ信号を入力する手段を備え、 前記オーディオ信号に基づいて、前記超音波スピーカが放射する超音波の焦点位置を制御する手段を備える、 オーディオコントローラである。 【発明の効果】 【0007】 本発明によれば、オーディオシステムの使用環境の制約を取り除くことができる。 : 【発明を実施するための形態】 【0009】 以下、本発明の一実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための図面において、同一の構成要素には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。 【0010】 (1)オーディオシステムの構成 オーディオシステムの構成について説明する。図1は、本実施形態のオーディオシステムのシステム構成図である。図2は、図1のオーディオシステムの構成を示すブロック図である。 【0011】 図1に示すように、使用環境SPにオーディオシステム1が設置される。オーディオシステム1は、リスナLの前方に位置する。 図2に示すように、オーディオシステム1は、オーディオコントローラ10と、超音波スピーカ21と、ラウドスピーカ22と、音源23と、カメラ24と、リスナ位置検出部25と、ウーファ26と、を備える。 【0012】 オーディオコントローラ10は、スピーカセット(超音波スピーカ21、ラウドスピーカ22、及び、ウーファ26)を制御する情報処理装置の一例である。 オーディオコントローラ10は、記憶装置11と、プロセッサ12と、入出力インタフェース13と、通信インタフェース14と、を備える。 : 【0028】 (2)本実施形態の概要 本実施形態の概要について説明する。図4は、本実施形態の概要の説明図である。 【0029】 図4に示すように、音源23は、オーディオ信号をオーディオコントローラ10に与える。 【0030】 オーディオコントローラ10は、音源23からオーディオ信号を入力する。オーディオ信号は、音圧レベルの周波数特性及び第1サラウンドパンパラメータと、を含む。 オーディオコントローラ10は、オーディオ信号の周波数特性及び第1サラウンドパンパラメータに基づいて、超音波スピーカ21の第1音圧レベルと、ラウドスピーカ22の第2音圧レベルと、ウーファ26の第3音圧レベルと、を決定する。 オーディオコントローラ10は、第1音圧レベルに基づく第1スピーカ制御信号を生成し、超音波スピーカ21に出力する。 オーディオコントローラ10は、第2音圧レベルに基づく第2スピーカ制御信号を生成し、ラウドスピーカ22に出力する。 オーディオコントローラ10は、第3音圧レベルに基づく第3スピーカ制御信号を生成し、ウーファ26に出力する。 【0031】 超音波スピーカ21は、第1スピーカ制御信号に基づいて超音波を放射する。 ラウドスピーカ22は、第2スピーカ制御信号に基づいて音波を放射する。 ウーファ26は、第3スピーカ制御信号に基づいて音波を放射する。 これにより、オーディオ信号に対応するサラウンド環境が構築される。 【0032】 (3)超音波スピーカの動作例 本実施形態の超音波スピーカの動作例について説明する。 【0033】 超音波スピーカ21は、所定の変調方式で変調した超音波を放射する。 変調方式は、例えば、以下の何れかである。 ・AM(Amplitude Modulation)変調 ・FM(Frequency Modulation)変調 ・PM(Phase Modulation)変調 【0034】 超音波スピーカ21は、複数の超音波トランスデューサ21cの駆動タイミングを個別に制御することにより、各超音波トランスデューサ21cから放射される超音波に位相差を与える。焦点位置及び焦点数は、この位相差に依存する。つまり、超音波スピーカ21は、位相差を制御することにより、焦点位置及び焦点数を変化させることができる。 【0035】 本実施形態の超音波スピーカの位相差の形成方法について説明する。図5は、図1の超音波スピーカの駆動タイミングの決定方法の説明図である。 【0036】 記憶装置11には、フェーズドアレイFAの基準点(例えば、中心)に対する超音波トランスデューサ21c(n)のフェーズドアレイFA上の相対位置を示す超音波トランスデューサ21c(n)の座標(x(n),y(n),z(n))が記憶されている。nは、超音波トランスデューサ21cの識別子(正の整数)である。 【0037】 例えば、リスナ位置検出部25がリスナLの位置を検出すると、プロセッサ12は、図5に示すように、基準点に対する焦点FPの相対位置を示す焦点座標(xfp,yfp,zfp)を決定する。 プロセッサ12は、記憶装置11に記憶された超音波トランスデューサ21c(n)の座標(x(n),y(n),z(n))と、焦点座標(xfp,yfp,zfp)と、に基づいて、超音波トランスデューサ21c(n)と焦点FPとの距離r(n)を計算する。 【0038】 プロセッサ12は、n+1番目に駆動する超音波トランスデューサ21c(n+1)の駆動タイミングと、n番目に駆動する超音波トランスデューサ21c(n)との駆動タイミングとの時間差(以下「駆動時間差」という)ΔT(n+1)を、式1を用いて、計算する。 ΔT(n+1)=-r(n+1)/c …(式1) ・c:音速 【0039】 上記のとおり、プロセッサ12は、焦点座標(xfp,yfp,zfp)と、記憶装置11に記憶された座標(x(n+1),y(n+1),z(n+1))と、を用いて、各超音波トランスデューサ21c(n+1)の駆動時間差ΔT(n+1)を計算する。プロセッサ12は、この駆動時間差ΔT(n+1)に従い、各超音波トランスデューサ21c(n+1)に駆動信号を供給する。 各超音波トランスデューサ21cは、この駆動信号に応じて駆動する。各超音波トランスデューサ21cから放射された超音波は、駆動時間差ΔT(n+1)に応じた位相差を有するので、焦点FPで集束する。 【0040】 焦点FPで集束した超音波は、音源を形成する。この音源から、可聴音が発生する。つまり、超音波スピーカ21は、任意の位置に可聴音を発生させることができる。 : 【0111】 (6)本実施形態の小括 本実施形態について小括する。 【0112】 本実施形態の第1態様は、 少なくとも1つの超音波スピーカ21、及び、音源23と接続可能なオーディオコントローラ10であって、 音源23からオーディオ信号を入力する手段(例えば、ステップS101を実行するプロセッサ12)を備え、 オーディオ信号に基づいて、超音波スピーカ21が放射する超音波の焦点位置を制御する手段(例えば、ステップS104を実行するプロセッサ12)を備える、 オーディオコントローラ10である。 【0113】 第1態様によれば、オーディオシステム1の使用環境の制約を取り除くことができる。 一例として、焦点位置を任意に決められるので、リスナLの位置に関わらず、超音波スピーカ21による音をリスナLに聴かせることができる。 別の例として、少なくとも1つの点に形成される点音源SS1(図7)と、ビーム状の音源SS3及びSSb(図11)と、を1つの超音波スピーカ21を用いて選択的に切り替えることができる。」 イ 技術的課題 本件明細書の上記記載によれば、本件特許発明の技術的課題は、複数のスピーカから構成されるオーディオシステムでは、各スピーカがリスナの周囲に配置されるため、オーディオシステムの使用環境に制約があり、特に、リスナの背後にスピーカを設置することが難しい使用環境では、各スピーカがリスナの周囲に配置されるオーディオシステムは使用することができないこと(以下「オーディオシステムの使用環境の制約」という。)である。 ウ 課題解決手段 本件明細書の上記記載によれば、焦点で集束した超音波は音源を形成し、この音源から可聴音が発生し、つまり、超音波スピーカは任意の位置に可聴音を発生させることができ(【0040】)、焦点位置を任意に決められるので、リスナの位置に関わらず、超音波スピーカによる音をリスナに聴かせることができ、オーディオシステムの使用環境の制約を取り除くことができる(【0113】)ことで、上記技術的課題を解決することができるから、本件特許発明1は、オーディオコントローラにおける、超音波を焦点で集束させるために必要とされる「オーディオ信号に基づいて、各超音波トランスデューサを個別に制御するための制御信号を生成し、且つ、少なくとも1つの焦点位置で集束する位相差を有する超音波を各超音波トランスデューサが放射するように、前記制御信号を、各超音波トランスデューサに出力する制御手段を備える」構成が、上記技術的課題を解決する手段を基礎付ける部分(以下「本件特許発明の特徴的部分」という。)といえる。 そして、本件特許発明1は、 「 少なくとも1つの超音波スピーカであって、且つ、複数の超音波トランスデューサを備える超音波スピーカ、及び、音源と接続可能なオーディオコントローラであって、 前記音源からオーディオ信号を入力する手段を備え、 前記オーディオ信号に基づいて、各超音波トランスデューサを個別に制御するための制御信号を生成し、且つ、少なくとも1つの焦点位置で集束する位相差を有する超音波を各超音波トランスデューサが放射するように、前記制御信号を、各超音波トランスデューサに出力する制御手段を備える、 オーディオコントローラ。」 として、上記本件特許発明の特徴的部分を含むオーディオコントローラの構成を特定したものを課題解決手段としている。 エ 請求人の主張について 請求人は、上記第4の1(3)オ(イ)のとおり、「本件特許発明の技術的特徴は、「オーディオ信号に基づき、音源を形成する超音波の焦点位置と各超音波トランスデューサとの距離を算出し、当該距離に応じて、各超音波トランスデューサの駆動タイミング(位相差)を制御する信号を生成した上で、焦点位置で集束する位相差を有する所定の変調方式で変調した超音波を放射すること」である。」と主張する。 しかしながら、請求人の上記主張のうち、オーディオ信号に基づき生成される各超音波トランスデューサの駆動タイミング(位相差)を制御する信号が「音源を形成する超音波の焦点位置と各超音波トランスデューサとの距離を算出し、当該距離に応じ」たものであることについては、上記ウのとおり、各超音波トランスデューサから放射される超音波が任意の焦点位置で集束できれば、上記オーディオシステムの使用環境の制約という技術的課題は解決するから、本件特許発明1のオーディオコントローラは、任意の焦点位置に対応する位相差が設定されていれば上記技術的課題を解決できるのであって、当該位相差を特定するための「音源を形成する超音波の焦点位置と各超音波トランスデューサとの距離」を「算出」すること自体は、上記位相差を取得するために採られうる手法とはいえるものの、上記技術的課題を解決するのに必須のものとはいえない。したがって、オーディオ信号に基づき生成される各超音波トランスデューサの駆動タイミング(位相差)を制御する信号が「音源を形成する超音波の焦点位置と各超音波トランスデューサとの距離を算出し、当該距離に応じ」たものであること、を上記課題解決手段(発明者を特定する際に考慮すべき発明の構成)として特定しなければならないとする理由はない。 また、請求人の上記主張のうち、放射される超音波が「所定の変調方式で変調した超音波」であることについて検討する。本件特許発明1は、複数の超音波トランスデューサを備える少なくとも1つの超音波スピーカを備えることを前提としているところ、複数の超音波トランスデューサを備える超音波スピーカ(パラメトリックスピーカ)から放射される超音波が「所定の変調方式で変調した超音波」であることは、乙2号証(【0002】、【0003】)や甲24号証に記載されているように、複数の超音波トランスデューサを備えて音を発生させる超音波スピーカ(パラメトリックスピーカ)にそもそも備わる構成といえる。そして、当該構成を前提として、各超音波トランスデューサから放射される超音波を焦点位置で集束する位相差を有するものとすることで、上記オーディオシステムの使用環境の制約という課題が解決されるから、上記放射される超音波が「所定の変調方式で変調した超音波」であること自体は、本件特許発明の特徴的部分ではなく、課題解決手段として特定しなければならないものではない。 以上から、請求人が上記「本件特許発明の技術的特徴」と主張するものは、課題解決手段ではない。 オ 技術的思想(技術的課題及びその解決手段)のまとめ 以上をふまえれば、本件特許発明1の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)は、「リスナの背後にスピーカを設置することが難しい使用環境では各スピーカがリスナの周囲に配置されるオーディオシステムは使用することができない」(オーディオシステムの使用環境の制約)ということを技術的課題とし、当該技術的課題を解決する手段は、本件特許発明の特徴的部分である「オーディオ信号に基づいて、各超音波トランスデューサを個別に制御するための制御信号を生成し、且つ、少なくとも1つの焦点位置で集束する位相差を有する超音波を各超音波トランスデューサが放射するように、前記制御信号を、各超音波トランスデューサに出力する制御手段を備える」構成を含む本件特許発明1である。 (2)技術的思想の着想、着想の具体化への創作的な関与について ア 見積書(甲5号証の1)について 甲5号証の1は、請求人によって作成された被請求人に対する平成27年5月26日付けの見積書であり、当該見積書2頁目の見積詳細には次のとおり記載されている。 「見積番号:20150525A1 見積詳細 『空中超音波集束装置 駆動回路 設計・検証』 [1]内容 ES(エンジニアリングサンプル)を製造するために、耐久性、安全性の検証と課題解決。(発火及び共鳴音発生要因解明と解決も含む) また、得られたデータを基に設計変更を実施し、2015年9月末(時期詳細別途)までに空中超音波集束装置 駆動部1式(2つ)とフェーズドアレイAM変調スピーカ1式(2つ)の試作品を完成させる。 (以降略)」 上記第4の1(3)オ(エ)、及び、第5の1(2)オ(ク)によれば、上記見積書の記載事項は、少なくとも米国PDT社(当時)の落合が請求人の筒井に依頼した内容と認められる。 イ 技術的思想の着想、着想の具体化への創作的な関与について 上記「フェーズドアレイAM変調スピーカ」とは、スピーカをフェーズドアレイとして機能させるものである。上記見積書では、標題のとおり超音波を集束させる技術が対象とされていることを考慮すれば、上記「フェーズドアレイAM変調スピーカ」とは、アレイ配列の個々のスピーカから放射される「音声をAM変調した超音波」が集束点で集束するような位相差を有するように、個々のスピーカを制御するものであり、従来技術に見られない新しい着想を示すものである。 そして、スピーカを制御する具体的構成として、オーディオコントローラの制御手段が通常想定されるから、上記「フェーズドアレイAM変調スピーカ」は、本件特許発明1における上記課題の解決に係る部分である、オーディオコントローラが、 (a)オーディオ信号に基づいて生成される「超音波トランスデューサを制御するための制御信号」を、各超音波トランスデューサについて個別に生成すること、及び、 (b)少なくとも1つの焦点位置で集束する位相差を有する超音波を各超音波トランスデューサが放射するように、前記制御信号を、各超音波トランスデューサに出力すること を行う制御手段を備えることを、具体的に把握することができる。 したがって、上記依頼より前に、落合は、既に本件特許発明1の技術的思想を着想済みであり、また、当該着想を具体化した結果を予測することも可能であったといえる。 一方で、上記第4の1(3)オ(エ)によれば、請求人の筒井は、上記依頼の段階で「フェーズドアレイAM変調スピーカ」について知得した者であるし、澁谷は上記依頼の段階では関与していないから、筒井及び澁谷は、本件特許発明1の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)を着想していないし、その着想を具体化することに創作的に関与していない。 また、甲1号証~甲78号証には、筒井及び澁谷が上記依頼より前に本件特許発明1の技術的思想を着想し、又は、その着想を具体化することに創作的に関与したという事実は示されていない。 なお、請求人は、上記第4の1(3)オ(ア)~(セ)のとおり、筒井及び澁谷は本件特許発明を完成し、本件特許発明を実施する試作機を製作して、被請求人に納品した旨主張している。 しかしながら、本件特許発明の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)は上記(1)オのとおり判断されるものであり、本件特許発明の技術的課題は、上記のとおり上記依頼時には既に解決手段が着想され、その着想が具体化されていたから、筒井及び澁谷は、当該技術的課題が解決された手段についてのES(エンジニアリングサンプル)を製造することに貢献したとはいえるものの、本件特許発明1の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)を着想し、又は、その着想を具体化することに創作的に関与した者ということはできない。 また、請求人は、上記第4の1(3)オ(オ)、(キ)、(ク)のとおり、上記依頼時には被請求人装置が解決できずにいた連続稼働による発熱や共鳴音の発生などの問題を解決したと主張するが、これらの問題は本件特許発明の技術的思想における技術的課題(オーディオシステムの使用環境の制約)とは異なるものであるから、これらの問題を解決したことは、本件特許発明1の発明者となる根拠になり得ない。 さらに、請求人は、上記第4の1(3)オ(カ)のとおり、PWM制御によって音声を変調して超音波に乗せるという課題解決の方法も筒井及び澁谷の着想と開発に基づくものであったと主張するが、当該音声を変調して超音波に乗せるという方法は、上記(1)エのとおり複数の超音波トランスデューサを備えて音を発生させる超音波スピーカ(パラメトリックスピーカ)にそもそも備わるものであるし、当該変調をPWM制御により行うことも、甲24号証に記載されているようによく知られていることにすぎないから、上記着想済みの本件特許発明1の課題解決手段として特定しなければならないものとはいえず、本件特許発明1の発明者となる根拠になり得ない。 加えて、請求人は、令和5年2月17日及び同年3月17日に提出した上申書において、被請求人が製作した実験機(上記第5の1(2)オ(カ))は、オーディオ信号に基づいて焦点位置で可聴音を発生させることはできなかったと主張するが、上記1のとおり本件特許発明の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)を着想し、又は、その着想を具体化することに創作的に関与した者が本件特許発明の発明者といえるのであって、本件特許発明のように技術的思想の着想を具体化した結果の予測が可能な技術分野においては、実際に物を製作していなくても、発明を完成していたということができる。また、当該実験機と請求人の試作品との間に機能、性能の差異が存在していたとしても、本件特許発明の技術的思想自体が変更されることはなく、請求人の筒井及び澁谷が本件特許発明1の発明者となる根拠にはなり得ない。 ウ 発明者について 請求人の筒井及び澁谷は、上記イのとおり、本件特許発明の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)を着想し、又は、その着想を具体化することに創作的に関与した者ではないから、本件特許発明1の発明者ということはできない。 (3)冒認について 上記(2)のとおり、請求人の筒井及び澁谷は、本件特許発明1の発明者ということはできないから、「発明者である筒井及び澁谷から特許を受ける権利を承継せずになされた特許出願に係る発明」であることを根拠に、発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利を承継しない被請求人の特許出願に対して設定登録がなされた発明である、とする請求人の無効理由1(冒認)は、その根拠の前提を欠くものである。 なお、請求人は、上記第4の1(3)エのとおり、落合及び村上は本件特許発明の発明者ではないから、落合及び村上から本件特許発明に係る特許を受ける権利を承継したと主張する被請求人は、本件特許発明に係る特許を受ける権利を有しないとも主張している。 しかしながら、落合は、上記(2)のとおり上記依頼の段階で当該機能を備えた試作品の完成を依頼した者であり、他方、請求人からは、被請求人内において落合が本件特許発明1の上記技術的思想(技術的課題及びその解決手段)を着想していないこと、及び、その着想を具体化することに創作的に関与していないことや、被請求人が落合から特許を受ける権利を承継していないことを立証するに足る具体的証拠は提出されていないから、被請求人が出願の際に自身に所属する発明者の落合から権利を承継していることは、被請求人が出願したという事実から推認されうることである。 したがって、本件特許発明1に係る特許は、特許法第123条第1項第6号に規定された無効理由を有するものではない。 (4)共同出願違反について 上記(2)のとおり、請求人の筒井及び澁谷は、本件特許発明1の発明者ということはできないから、「特許法第38条に違反してされた特許出願に対して設定登録がされた発明」であるとする、請求人による無効理由2(共同出願違反)は、その根拠を欠くものである。 したがって、本件特許発明1に係る特許は、特許法第38条及び第123条第1項第2号に規定された無効理由を有するものではない。 3 本件特許発明2~17について (1)技術的思想(技術的課題及びその解決手段)について 本件特許発明の技術的課題は、上記2(1)イのとおりである。そして、当該技術的課題の解決手段は上記2(1)ウのとおり、オーディオコントローラを「オーディオ信号に基づいて、各超音波トランスデューサを個別に制御するための制御信号を生成し、且つ、少なくとも1つの焦点位置で集束する位相差を有する超音波を各超音波トランスデューサが放射するように、前記制御信号を、各超音波トランスデューサに出力する制御手段を備える」ものとしたことであり、当該手段は本件特許発明1において特定されるものである。 そして、本件特許発明1の上記課題解決手段を備えることを前提とし、さらに当該課題解決手段を実施するための事項を特定した本件特許発明2~17について、請求人の筒井及び澁谷が当該各発明の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)を着想し、又は、その着想を具体化することに創作的に関与したことを立証するに足る証拠の提出や具体的な主張はなされておらず、請求人の筒井及び澁谷は、本件特許発明2~17についても同様に発明者ということはできない。 (2)冒認、共同出願違反について したがって、本件特許発明2~17についても、本件特許発明1の発明者ではない筒井及び澁谷が発明者ということはできないから、上記2(3)、(4)と同様の理由により、本件特許発明2~17に係る特許は、特許法第123条第1項第6号に規定された無効理由(冒認)、及び、同法第38条及び第123条第1項第2号に規定された無効理由(共同出願違反)を有するものではない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、無効理由1、2はいずれも理由がないものであり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明1~17についての特許は、無効理由1、2により無効とすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。 よって、結論のとおり審決する。

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2022-800002

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