商標拒絶査定不服審判
2022-020144
カマクラデン、カマクラドノ、デン、トノ
- 審判番号
- 2022-020144
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 商願2021-075935
- 請求日
- 2022年12月12日
- 審決日
- 2023年10月24日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】有限会社三日月堂花仙
- 【請求人代理人】渡部 仁
- 審判長/審判官
- 審判長 高野 和行
- 審判官 小俣 克巳
- 審判官 石塚 利恵
- 分類
- T18 .22 -Z (W30)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 商標法4条1項7号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第4条第1項第7号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
商願2021-75935拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和3年6月18日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和4年 3月 7日付け:拒絶理由通知書
令和4年 4月19日 :意見書の提出
令和4年 4月20日 :手続補足書の提出
令和4年 9月 8日付け:拒絶査定
令和4年12月12日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和4年12月13日 :手続補足書の提出
第2 本願商標
本願商標は、「鎌倉殿」の文字を標準文字で表してなり、第29類ないし第33類、第35類及び第43類に属する願書記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として登録出願され、その後、本願の指定商品については、前記1の手続補正により、第30類「あんまんじゅう,あんころ,小豆入りのかき氷,汁粉,せんべい,もち菓子,もなか,ようかん,らくがん,和菓子,洋菓子,菓子(果物・野菜・豆類又はナッツを主原料とするものを除く。),パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ,茶,コーヒー,ココア,氷,調味料,香辛料,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,コーヒー豆,穀物の加工品,ぎょうざ,しゅうまい,すし,たこ焼き,弁当,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のもと,パスタソース,食用酒かす,米,脱穀済みの大麦,脱穀済みのえん麦,食用グルテン,食用粉類」に補正されたものである。
第3 原査定の拒絶の理由(要点)
本願商標は、「鎌倉殿」の文字を標準文字で現してなるところ、当該文字は「源頼朝以後、鎌倉幕府の首長の敬称」を表す語である。
ところで、歴史的・文化的・伝統的価値を有し、豊かな文化の象徴となっている有形・無形の文化的所産、遺跡、自然等(以下「文化的所産等」という。)が各地に存在するところ、これらは一般に、関係する地域にとって、一つの地域資源、観光資源となり得るものであり、その名称等を利用した地域興し等も盛んに行われており、かつ、このような名称は、その知名度により強い顧客吸引力を有しているため、それを商標として使用したいとする者も少なくない。
そして、鎌倉市をはじめとした「鎌倉殿」ゆかりの地において、「鎌倉殿」に関する展示会が開催され、「鎌倉殿」に関連する史跡が観光地として紹介され、「鎌倉殿」と関連づけて観光施策が計画されている実情がある。
そうすると、「鎌倉殿」は、歴史的な価値を有する文化的所産等といえるから、このような本願商標を、一私人である出願人に、自己の商標として、その指定商品及び指定役務について独占使用を認めることは、これを利用した地域における観光振興や地域おこしなどの公益的な施策の遂行を阻害するおそれがあり、公正な競業秩序を害するおそれがあるから、社会公共の利益に反するおそれがある。
したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
第4 当審の判断
1 本願商標の商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)本願商標
本願商標は、前記第2のとおり「鎌倉殿」の文字を標準文字で表してなるものであるところ、当該文字は、「源頼朝以後、鎌倉幕府の首長の敬称」の意味を有する語として一般の辞書(「広辞苑 第七版」岩波書店)に掲載されているものである。
(2)我が国における「鎌倉殿」の文字の周知性及び使用の実情
別掲1ないし別掲3によれば、2020年1月に、NHKの2022年大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(以下「ドラマ」という。)の制作発表が行われて以降、当該ドラマの登場人物の出身地や、関連する名所旧跡を有する地域など、静岡県や神奈川県を中心とした様々なゆかりの地域において、地域活性化を目指した観光誘客の促進事業が開始されたこと、ドラマ放映中の2022年には、これらの地域を多くの観光客が訪れ大きな経済的効果があったこと、また、ドラマ終了後の現在(審決時)においても、ゆかりの地域ではドラマによる波及効果を街づくりに生かそうとする企画が行われていること等が認められる。
そして、これらの誘客事業においては、リーフレットやイベント、各種企画等の名称に、「鎌倉殿」の文字が使用されていることが認められる。
そうすると、「鎌倉殿」の文字は、NHKの2022年大河ドラマのタイトルに使用されたことを契機として、鎌倉幕府の首長の敬称を指すものとして広く一般に認識されるようになり、ドラマ放映翌年である審決時においても、その周知性は継続しているといえるものである。また、当該ドラマの様々なゆかりの地域では、「鎌倉殿」の文字を使用して、各地の観光資源を利用した地域おこしが行われてきたところ、審決時においても、地方公共団体等によって「鎌倉殿」に関連した展示会が企画される等、当該語が使用され続けている実情が認められる。
(3)「鎌倉殿」の文字と本願の指定商品との関係
上記ドラマのゆかりの地域では、地方公共団体等が「鎌倉殿」に関連する新たな土産物や商品の開発、販売を後押ししていた実情がうかがえるところ、一般的に、観光振興や地域おこしにおいては、各地方の特産物、土産物等などの商品や、イベント等の役務に、地域にゆかりのある観光資源等の名称を使用することが多く行われている。
そして、本願の指定商品は、上記第2のとおり、菓子を中心としたものであるところ、これらの商品は、各地の特産物、土産物等として販売される蓋然性の高い商品であるといえる。
(4)請求人による本願商標の出願の目的
請求人の意見書における主張及び職権調査によれば、請求人は、「鎌倉殿」の文字及び「かまくらどの」の文字を上下二段に表してなる態様の商標登録(登録第2619609号商標、指定商品:第30類「菓子及びパン」、出願日:1991年12月2日)を保有しており、当該商標は、現に有効に存続している(満了日:2034年1月31日)ものである。
そして、請求人の意見書における主張及び提出された証拠によれば、請求人は、1994年頃から、自己の製造販売に係るどらやきに、当該商標登録を使用しているところ、上記ドラマにより、「商標の便乗使用が多発し、出願人が蓄積してきた信用が毀損されるおそれがあ」ったため、本願において、請求人が「販売し、又は販売する予定のある商品並びに現に行っている役務について出願した」とされるものである。なお、本願の登録出願時には、前記第2のとおり、第29類ないし第33類、第35類及び第43類に属する願書記載のとおりの商品及び役務が指定商品及び指定役務とされていた。
(5)判断
上記(1)ないし(4)によれば、「鎌倉殿」の文字は、「鎌倉幕府の首長の敬称」の意味を有する語として一般の辞書に掲載されているところ、当該文字は、NHKの2022年大河ドラマのタイトルに使用されたことを契機として、我が国において広く一般に認識されるようになり、その周知度により強い顧客吸引力を有していたことから、ドラマの様々なゆかりの地域では、「鎌倉殿」の文字を使用して、各地の観光資源を利用した地域おこしが行われてきた実情が認められる。そして、「鎌倉殿」の文字の周知性や、ゆかりの地域における当該文字の利用状況は、審決時である2023年にも継続しているというべきである。
また、地方公共団体等が「鎌倉殿」に関連する新たな土産物や商品の開発、販売を後押しするなどの実情を踏まえれば、本願の指定商品の分野においても、地方公共団体等が、地域活性化のための誘客事業等において、今後も継続して「鎌倉殿」の文字の使用を欲する可能性が極めて高いというのが相当である。
そうすると、たとえ、請求人が「鎌倉殿」の文字を有する商標登録を保有しているとしても、上記事情を総合的に勘案すれば、現時点において、本願商標を、一私人が自己の商標として新たに登録し、独占的に使用することは、「鎌倉殿」を活用した観光振興等の公益的遂行を阻害するおそれがあると判断するのが相当である。
してみれば、このような事情を招くおそれがある本願商標を、請求人の商標として登録を認めることは、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものというべきである。
したがって、本願商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標であるから、商標法第4条第1項第7号に該当する。
2 請求人の主張について
(1)請求人は、「太閤」「黄門」「天神」の文字からなる商標登録例を挙げ、これらの登録例と本願商標との違いは、2022年の時点で大河ドラマの対象となっていたか否かの違いにしか見出すことができないとし、歴史的な用語を、地方公共団体等が使用した、ということのみを理由に登録を認めず、請求人の蓄積された業務上の信用の保護を図らないとすれば、流通秩序は混乱し、法目的に反することになりかねず、「2022年の時点で大河ドラマの対象となっている」ことを理由に、この判断がされたとしたならば、あまりに法の趣旨を軽んじたものである旨主張する。
しかしながら、商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、(a)その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合のほか、(b)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合も含まれる(参考:知財高裁判決 平成17年(行ケ)第10349号)ところ、ある商標が同号に該当するか否かの判断は、たとえ同一の文字列からなる商標に対してであっても、当該商標の査定時又は審決時における社会的状況等により変化し得る可能性があるものである。
そして、これを本件についてみれば、本願商標である「鎌倉殿」の文字は、そもそも一般の辞書に掲載されている成語であるところ、査定時又は審決時には、上記ドラマを契機として、すでに我が国において広く一般に認識されるようになっており、かつ、「鎌倉殿」ゆかりの様々な地域では、「鎌倉殿」の文字を使用して、各地の観光資源を利用した地域おこしが行われてきた実情が認められる。そして、本願商標は、審決時において、強い顧客吸引力を有する「鎌倉殿」の文字からなるものであるから、これを、特定の者に、商標権として新たに商標登録を認めることは、「鎌倉殿」を活用した観光振興に注力する静岡県や神奈川県を中心とした様々なゆかりの地域や、今後、当該語の使用を欲するであろう者に係る商品について、「鎌倉殿」の語の使用を制限することとなる。
そうすると、本願商標をその指定商品について登録することは、指定商品についての使用の独占をもたらすことになり、観光振興等の公益的遂行を阻害するおそれがあるばかりでなく、社会公共の利益に反するものとして、公の秩序又は善良の風俗を害するものといわざるを得ない。
(2)請求人は、上記ドラマは審決時には終了しており、原審で示された各イベント(別掲1(2)、(4)、(5))も本件審判請求時において終了していることから、仮に、「2022年の時点で大河ドラマの対象となっている」ことを理由に原査定がされたものであったとしても、すでにそのことによる懸念も消滅している旨主張する。
しかしながら、ドラマ放映翌年の審決時においても、ゆかりの地域ではドラマによる波及効果を街づくりに生かそうと、地方公共団体によって「鎌倉殿」に関連した展示会が企画されたり、「「鎌倉殿」ゆかりの地巡り」などのリーフレットがダウンロードできるようになっている等、当該語が観光振興や地域おこしに使用され続けている実情が認められる。
そうすると、本願商標を、一私人が自己の商標として新たに登録し、独占的に使用することは、「鎌倉殿」を活用した観光振興等の公益的遂行を阻害するおそれがあると判断するのが相当である。
(3)請求人は、先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨や、地方公共団体や公益団体等の保護に基づく商標登録出願を排除する目的で設けられた第4条第1項第6号の趣旨に照らすならば、それらの趣旨から離れて、第4条第1項第7号を拡大解釈することによって本願を排除することは、商標登録の適格性に関する予測可能及び法的安定性を著しく損なうことになるので、特段の事情のある例外的な場合を除くほか、許されないとの原則に立脚して、本願商標の登録の適否を判断するのが相当である旨主張する。
しかしながら、審決時における社会的状況等に鑑みれば、本願商標の登録を認めることは、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものというべきであること、上記1のとおりである。
(4)したがって、請求人の上記主張は、いずれも採用することができない。
3 まとめ
以上のとおり、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当し、登録することができない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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