商標拒絶査定不服審判
2022-018479
シャラク
- 審判番号
- 2022-018479
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 商願2022-012747
- 請求日
- 2022年11月17日
- 審決日
- 2023年10月12日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】清水建設株式会社
- 【請求人代理人】松沼 泰史
- 【請求人代理人】眞島 竜一郎
- 【請求人代理人】安部 聡
- 審判長/審判官
- 審判長 豊瀬 京太郎
- 審判官 板谷 玲子
- 審判官 田中 瑠美
- 分類
- T18 .22 -Z (W070942)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 商標法4条1項7号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第4条第1項第7号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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商願2022- 12747拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
1 手続の経緯
本願は、令和4年2月4日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和4年 7月14日付け:拒絶理由通知書
令和4年 8月29日 :意見書の提出
令和4年 9月15日付け:拒絶査定
令和4年11月17日 :審判請求書の提出
2 本願商標
本願商標は、「写らく」の文字を標準文字で表してなり、第7類「土木機械器具,荷役機械器具」、第9類「写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,測定機械器具,電気通信機械器具,携帯情報端末,電子応用機械器具及びその部品」及び第42類「建築物の設計,測量,地質の調査,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,機械器具に関する試験又は研究,計測器の貸与,電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供」を指定商品及び指定役務として登録出願されたものである。
3 原査定の拒絶の理由(要旨)
本願商標は、「写らく」の文字を標準文字で表してなるところ、当該文字に通ずる「写楽」の文字は、株式会社岩波書店「広辞苑第七版」によれば、「江戸後期の浮世絵師。徳島藩主蜂須賀侯のお抱え能役者、斎藤十郎兵衛と伝える説が有力。1794~95年(寛政6~7)の10カ月間に140種ほどの役者絵と相撲絵を残すが、大衆の人気が離反、浮世絵界から去ったと考えられる。似顔表現を利かした強烈な個性描写が特色。近代ヨーロッパで人気となり見直された。」と説明されており、日本国内だけでなく、海外でも日本の代表的な浮世絵師として一般に広く知られているものと認められる。
そして、写楽を題材とした書籍や映画等が少なからず存在し、また、同人の描いた作品が各地の博物館や美術館において展示され、同人に関する企画展も多数開かれている実情が見受けられる上、同人にちなんだ記念品や土産物等も販売されている。
こうした実情に照らすと、写楽は、各地で敬愛の念を持って親しまれているものと認められる。
上記の事情を総合考慮すると、一私人である出願人が、本願商標を自己の商標として登録し、その指定商品・指定役務について独占的に使用することは、同人に関する事業を行う者の営業活動や同人を活用した公益的な取組を阻害するおそれがあり、さらに、各地の住民の感情を害するおそれもあるというべきである。
したがって、本願商標は、公正な取引秩序を害し、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念にも反するものであるから、商標法第4条第1項第7号に該当する。
4 当審の判断
(1)商標法第4条第1項第7号について
商標法第4条第1項第7号は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は、商標登録を受けることができないと規定する。ここでいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、<1>その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、<2>当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、<3>他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、<4>特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、<5>当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきである(知財高裁平成17年(行ケ)第10349号)。
ところで、周知・著名な歴史上の人物名は、その人物の名声により強い顧客吸引力を有する。その人物の郷土やゆかりの地においては、住民に郷土の偉人として敬愛の情をもって親しまれ、例えば、地方公共団体、商工会議所等の公益的な機関が、その業績を称え記念館を運営していたり、地元のシンボルとして地域興しや観光振興のために人物名を商標として使用したりするような実情が多くみられるところであり、当該人物が商品又は役務と密接な関係にある場合はもちろん、商品又は役務との関係が希薄な場合であっても、強い顧客吸引力を発揮すると考えられる。このため、周知・著名な歴史上の人物名を商標として使用したいとする者も、少なくないものと考えられる。一方、敬愛の情をもって親しまれているからこそ、その商標登録に対しては、国民又は地域住民全体の反発も否定できない。
そして、前記判決では、商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものとして、<1>ないし<5>の場合を例示として挙げており、その例示の一つとして、「<2>当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合」が挙げられている。
そうとすれば、周知・著名な歴史上の人物名からなる商標は、(ア)当該歴史上の人物の周知・著名性、(イ)当該歴史上の人物名に対する国民又は地域住民の認識、(ウ)当該歴史上の人物名の利用状況、(エ)当該歴史上の人物名の利用状況と指定商品・役務との関係、(オ)出願の経緯・目的・理由、(カ)当該歴史上の人物と請求人(出願人)との関係に係る事情を総合的に勘案して、当該商標を特定の者の商標としてその登録を認めることが、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものと認められる場合には、商標法第4条第1項第7号に該当するというべきである。
(2)本願商標の商標法第4条第1項第7号該当性について
本願商標は、「写らく」の文字を標準文字で表してなるところ、当該文字は、歴史上の人物である「写楽」及び「東洲斎写楽」(以下、単に、「写楽」という。)に通じるものであり、「写楽」について、職権による調査によれば、別掲の事実がある。
かかる事実及び原審提示の情報から、次のことを認めることができる。
ア 「写楽」の周知・著名性
「写楽」は、歴史上の人物として、広辞苑、人名事典といった辞典や小・中学校の社会の教科書をはじめ、書籍やテレビ、映画等において数多く取り上げられており、全国的に周知・著名な歴史上の人物名といえる(拒絶理由通知書の参考情報(1)ないし(4)及び別掲(1)ないし(3))。
また、「写楽」作品は、日本が誇る重要な文化的遺産というべきものであり、国民に広く親しまれているものである(別掲(7)ないし(16))。
さらに、「写楽」作品は、明治以降海外で大ブームとなり、現在では、ボストン美術館、ニューヨークのメトロポリタン美術館、ロンドンの大英博物館等の世界的な美術館に多数所蔵されていることから、「写楽」は、世界的にも周知・著名な存在であるといえる(別掲(8))。
イ 「写楽」に対する国民又は地域住民の認識
「写楽」は、別掲(1)及び(2)にあるとおり、徳島藩主蜂須賀侯のお抱え能役者、斎藤十郎兵衛と伝える説が有力とされており、現在、斎藤十郎兵衛のゆかりの地である徳島県徳島市において、「写楽」を顕彰し、その魅力を国内外に発信する取組を行う研究グループの存在が認められる。当該地においては、徳島城内の能舞台や能役者の宿泊施設である役者屋敷跡などゆかりの地とされる場所を通る市道に写楽の名を冠した愛称を付けて観光誘客につなげる動きがあるほか、顕彰イベントの開催をはじめ、「写楽」に関する研究書の出版、研究成果の報告会といった研究活動を主軸とした地域興しや観光振興が行われている(別掲(4)ないし(6))。
そもそも、「写楽」については、浮世絵研究の第一人者として知られるドイツの美術研究家ユリウス・クルトが1910年(明治43年)に刊行した「写楽」に関する本格的な研究書を契機に、ヨーロッパでは「写楽」の浮世絵が芸術品として高い評価を受けるようになり、その名が世界的に有名になったことで、多くの「写楽」作品が海外へと流出、一連の「写楽」ブームに牽引されるように、日本国内でも「写楽」の評価が高まり、研究の本格化が巻き起こったとされる(別掲(7))。
そして、前記のクルトによってレンブラントやベラスケスと並ぶ三大肖像画家と位置付けられた「写楽」は、海外で最も有名な日本の画家の一人となり、今や日本を代表する浮世絵師として知られるようになったことは誰もが認める事実であるから、ゆかりの地における地域住民はもとより、我が国の国民に広く敬愛されているといえる(別掲(10))。
ウ 「写楽」の名称の利用状況
「写楽」は、東京国立博物館をはじめとする全国各地の美術館・記念館でその作品が所蔵されており、「写楽」作品に焦点を当てた展覧会等が多数開催されるとともに、当該美術館・記念館及び展覧会に関連した各種の商品やイベント等にその名称が使用されている(別掲(8)及び別掲(11)ないし(15))。
加えて、前記イのとおり、「写楽」であるとする説が有力な斎藤十郎兵衛のゆかりの地である徳島県徳島市において、「写楽」に関する活動を主軸とした地域興しや観光振興が行われるなど、「写楽」の名称は、極めて広く利用されている。
エ 「写楽」の名称の利用状況と指定商品・役務との関係
「写楽」の名称は、前記ア及びイのとおり、日本国内のみならず、海外においても周知・著名な歴史上の人物名であり、かつ、その作品は日本が誇る重要な文化的遺産というべきものであるから、それゆえに強い顧客吸引力を発揮するといえる。そして、前記ウのとおり、該名称は、ゆかりの地はもとより、全国各地で極めて広く利用されているものであることからすると、我が国において、「写楽」の名称は、一個人という私的な立場を超えて、公共的な財産的価値を有するに至っているというのが相当であり、本願の指定商品・役務の分野においても、これをゆかりの地のみならず、「写楽」の文字の顧客吸引力に注目してこれを商標として使用したいと考える事業者は、少なくないものと考えられる。
オ 出願の経緯・目的・理由
職権により調査するも、本願商標の出願の経緯・目的及び理由についての具体的事情は確認できない。
カ 「写楽」と請求人(出願人)との関係
職権により調査するも、「写楽」と請求人とを関連づけるような事実は発見できない。
キ 小括
上記アないしカで認定した事実によれば、本願商標を請求人の商標として登録することは、我が国のみならず、世界的に周知・著名な「写楽」の名声に便乗し、一私人にその指定商品・役務についての使用の独占をもたらすことになり、同人の名声、名誉を傷つけるおそれがあるばかりでなく、同人の名声、功績をたたえ顕彰し、「写楽」の文字(名称)及び作品を活用した公共性を有する各種施策や地域興し、観光振興等の遂行を阻害するおそれがあり、「写楽」に関連する各種商品・役務等を取り扱う多数の事業者等の円滑な商取引を阻害し、ひいては社会公共の利益の妨げになるおそれがあるものといわざるを得ない。
したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(3)請求人の主張について
ア 請求人は、「楽」を敢えて平仮名で「らく」と表記した本願商標「写らく」を、必ずしも「写楽」と同列に論じることはできず、本願の指定商品に関連する業界において、当該語が浮世絵師の「写楽」を意味するものとして広く使用されているというような特段の事情や商慣習等を確認することもできないと述べるとともに、例えば、「写す」のが「らく」であること等をも間接的にイメージさせる造語であると主張する。
しかしながら、本願商標は、その構成文字に相応して「シャラク」の称呼を生じるというのが自然であり、また、「写楽」とは「写」の文字を共通にすること、本願商標から想起され得る既成語もないことから、「写楽」を容易に認識させるものといわざるを得ない。
イ 請求人は、「写楽」の文字が使用されているのは、書籍、映画、美術館等であり、仮に、害される可能性がある事業があるとすれば、文学、美術、芸術等の分野に限定されると述べ、本願の指定商品・役務には、これらの商品等は含まれていないため、本願商標が登録され、その指定商品・役務について独占的に使用しても、公正な取引秩序を害し、社会公共の利益に反するような事態を招くことはないと主張する。
しかしながら、上記(2)のとおり、我が国のみならず、世界的に周知・著名な「写楽」の名称は、一個人という私的な立場を超えて、公共的な財産的価値を有するに至っていることよりすれば、公正な取引秩序が害される可能性があるのは、必ずしも、文学、美術、芸術等の分野に限定されるとはいえず、よって、本願商標を一私人が自己の商標として登録し、独占的に使用することは、「写楽」の文字(名称)及び作品を活用した公共性を有する各種施策や地域興し、観光振興等の遂行を阻害するおそれがあり、「写楽」に関連する各種商品・役務等を取り扱う多数の事業者等の円滑な商取引を阻害し、ひいては社会公共の利益の妨げになるおそれがあるものというのが相当である。
ウ したがって、請求人の上記ア及びイの主張は、いずれも採用することができない。
(4)まとめ
以上のとおり、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものであるから、登録することができない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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