2022-017798
直流回路の故障を予測するための方法および装置
- 審判番号
- 2022-017798
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-524884外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年11月07日
- 審決日
- 2024年09月19日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】スマートケーブル、エルエルシー
- 【請求人代理人】弁理士法人浅村特許事務所
- 分類
- P18 .536-WZ (G01R) / P18 .537-WZ (G01R)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 12項目
第1 手続の経緯
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本願は、2017年(平成29年)11月16日を国際出願日とする外国語特許出願(優先日 2016年(平成28年)11月16日)であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。なお、以下、2016年11月16日を「優先日」という。
同年 6月30日付け :拒絶査定
(同年 7月 5日 :拒絶査定の謄本の送達)
同年11月 7日 :審判請求書及び手続補正書の提出
第2 本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明は、令和6年5月9日にされた手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次の事項により特定されるとおりである(下線は補正箇所)。
「【請求項1】電流を通すことができる直流(DC)回路の経路の故障を予測する方法であって、a)予測される故障までの推定時間を有すると特定されるDC回路の経路に対して印加するためのパルス列であって、正のDCパルス列と負のDCパルス列を合成することで正と負が交番するパルス列を生成するステップと、b)生成された前記交番するパルス列を印加することによって特定のDC回路の経路を介して得られるパルス信号の振幅、周期、および立上がりと立下りのデータセットに基づくパルス特性に関してのベースラインを前記DC回路の経路に対して確立するステップと、c)使用されているDC回路の経路に前記生成された前記交番するパルス列を印加して当該使用されているDC回路の経路を監視して、ステップ(b)で使用された前記特定のDC回路の経路を介して得られた前記パルス特性に対応するパルス特性であって、前記使用され監視される前記DC回路の経路を介して得られるパルス信号の振幅、周期、および立上がりと立下りのデータセットに基づくパルス特性を求めるステップと、d)前記使用され監視される前記DC回路の経路の故障までの推定時間を予測するために使用される減衰率分析曲線を確立するためにステップ(b)およびステップ(c)で得られた両パルス特性を比較するステップとを含む方法。」
第3 当審において通知した拒絶の理由の概要
当審において令和5年11月8日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)は、次の理由を含むものである。
1 理由1(実施可能要件違反)について
本願の発明の詳細な説明の記載は、「直流(DC)回路」(以下「DC回路」という。)と称することができる回路であればいかなる回路であっても、請求項1の「a)」-「d)」で示されるステップを用いてその「ライフサイクルを予測する」ことが可能であることまでは記載されていないという不備があるから、請求項1に係る発明について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない点。
2 理由2(サポート要件違反)について
請求項1に係る発明の「直流(DC)回路」に含まれる、ありとあらゆる回路(直流電流が関係する回路)を対象とし、前記「a)」-「d)」で示されるステップを用いてその「ライフサイクルを予測する」ことは、発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていない点。
第4 本願の発明の詳細な説明に記載された事項
本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体によるものである。
また、発明の詳細な説明において参照される図面も示す。
1 段落【0001】~【0011】
「【技術分野】【0001】本発明は、DC回路の未来の故障時期を予測するためにそのような技術を使用し、劣化の属性を監視して検証され分析される、電流を流すことができるDC回路に関する。【背景技術】続きを表示(全30行)【0002】典型的な電気回路は、正常に動作するか、または故障する(オンまたはオフである)。これらのシステム内の配線が、典型的には故障の最大の可能性であり、これらのシステムの欠陥のトラブルシューティングには時間も費用もかかる。断続的なタイプの故障は、構成要素の損傷およびオペレータの極度のフラストレーションにつながる可能性がある。このタイプの故障モードは、自動車、航空機、および他の産業用または輸送用システムにおいて最も一般的である。私たちは、電池または他の電源で動作する直流(DC)システムを用いて、この新しい技術の焦点をこれらに合わせる。【0003】この技術は、故障状態になる前または断続的な欠陥モード中に故障を予測するために既存の電源を使用するように設計されている。これらのシステムは機器の動作には利用されないが、システムの完全性を判断するために一連のDCパルス(図1)が生成される。これらのシステムテストは短期間実行され、その結果は、「正常な」動作を参照するために記憶される。各連続データストリームは、標準的な警告のために中央処理装置(CPU)に提供され得る予測アルゴリズムを生成するために正常なデータに対して分析される。このアルゴリズムが重大な故障モードに至ると、安全性関連の巧妙なシャットダウンを開始することができる。【0004】酸化、湿気、接続不良、内部損傷、および外部破壊の典型的な故障モードは、システムが故障する前、人間の視覚によって発見される前、または既存の診断によってフィードバックが提供され得るようになる前に判断され得る。【発明の概要】【0005】本発明は、劣化について回路経路および副分岐を監視することによってDC回路の予測寿命を予測する方法を提供する。【0006】過去の従来技術は、良好な回路または不良な(故障した)回路を判断する手段のみを提供していた。これらのノー/ノーゴーテスト方法は、壊滅的な故障を防止するまたは予測寿命の時期を予測する手段を提供しない。【0007】回路の状態を監視する本発明の方法は、特定タイプの回路(各々は多少異なる)について既知のベースライン信号を確立するステップと、波形の前縁(リーディング・エッジ)角度成分および後縁(トレーリング・エッジ)角度成分(ゼロ交差点における)、電圧(振幅)、および周期(時間長)に関してこれらの特性を決定するステップとを含む。理想的には、方形波の角度成分は、垂直、またはX軸に対して90度であるべきである(図2)。電流、電圧、これらの任意の高調波、またはこれらの信号の組み合わせで構成されたベースラインの非正規の方形波は、監視されている特定タイプの回路に起因する予測測定を最もよく示す。未来の波形は、ベースライン信号および/または観測中の特定のスプライスの前の波形と比較されたときの、ゼロ交差点の角度成分、振幅成分、および周期成分(図3および図4)の総計に基づいて減衰率を示す。減衰率は、特定の回路の予測寿命を求めるために予想される。【0008】生成されるDCパルスは、特別にテスト中の回路に合わせて調整される。DCパルスは、正(V+)電圧および負(V-)電圧の両方であり、これらは互いに等しくなる。これらのパルスの持続時間は、時間の変数(Tv)であるが、回路の構成要素に合わせて調整される。これらのパルス特性が確立されると、これらはマッピングされて「正常な」状態として記憶される。【0009】連続テストは、「正常な」状態中に確立された同一のパルス特性(V+、V-、およびTv)を利用した。これらのテストは、システムの動作に影響を及ぼさないように、製造業者の推奨に基づいて所定の間隔で、システムが動作していない間に実行される。連続テストパルス特性は、回路配線の減衰率を求めるアルゴリズムによって「正常な」状態および前のテストと比較される。このアルゴリズムは、任意の回路の故障の可能性およびワイヤハーネス内の故障箇所のおおよその位置を予測するように設計される。【0010】本発明は、費用対効果の高い予防保全を実施するためのリアルタイム予測手段をユーザに提供する方法および装置を提供する。この装置および包括的通信ネットワークは、これらの重要な決定が集中決定ポイントに転送されることを可能にする。【図面の簡単な説明】【0011】【図1】DCパルス信号の生成ならびに電位、電流出力、およびアルゴリズムに入力するために計算された比率の処理を示すフローチャートである。【図2】様々な振幅、周期、および持続時間を有する生成されたDCパルス信号を示す。【図3】システムへの最初の回路の組み込み後のある短い減衰時間(P1)における劣化した振幅、周期、および持続時間を有する生成されたDCパルス信号を示す。【図4】システムへの最初の回路の組み込み後のある減衰時間長(Px)における劣化した振幅、周期、および持続時間を有する生成されたDCパルス信号を示す。【図5】回路の減衰曲線を示す。」
2 段落【0012】~【0023】、【図1】~【図5】
「【発明を実施するための形態】【0012】本発明は、DC回路の重要な構成要素の各々を測定し、組み合わせ属性調査を提供し、故障までの時間TTFの予測分析を遂行し、決定プロセスのために遠隔集中ロジスティックシステムに報告する装置および方法を提供する。【0013】続きを表示(全31行)図1を参照すると、典型的なDC回路303は、電源101と、システム内の様々な負荷に電力を分配するためのワイヤハーネスとを必要とする。負荷がより高度になると、負荷の多くは「内蔵」メモリ105の機能を有するようになる。本発明は、パルス発生器102によってDCパルス列201を生成し、インバータ103によって逆DCパルス列202を生成する。中央処理装置(CPU)104は、減衰率曲線(図5)を生成し、意思決定者が必要とする予測動作を行うために、特別にDC回路303に対して交番DCパルス信号203を生成するために、これらのDCパルス列201、202を合成する。【0014】負荷に共通であるかまたはアップグレードの一部として実装されるメモリ記憶デバイス105は、正常なシステム動作に使用される同一のワイヤハーネスに沿って回路が停止されたときに送信用の最後のDCパルス信号204を記憶する能力を有する。【0015】好ましい実施形態では、正(V+)の前縁(L1@N+、L2@N+、…、L1+y@N+)、負(V-)の前縁(L1@Nー、L2@Nー、…、L1+y@Nー)、正(V+)の後縁(T1@N+、T2@N+、…、T1+y@N+)、負(V-)の後縁(T1@Nー、T2@Nー、…、T1+y@Nー)、正(V+)の電圧(dV1@N+、dV2@N+、dV1+y@N+)、負(V-)の電圧(dV1@Nー、dV2@Nー、dV1+y@Nー)の同期収集データ、ならびにパルス数(1+y)およびDCパルス長(Tv1、Tv2、…、Tv(1+y))が、検査中の特定の各回路に関して保持される。CPU104は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、またはこれらの方法のハイブリッドの組み合わせによって、本明細書に記載されているように情報を処理する。最初の交番DCパルス信号203は、上記のデータ点と検査中の回路用にカスタマイズされたアルゴリズムとを利用することによって最新のDCパルス信号203と比較される。上記の分析方法は、純粋にアナログ的な方法、または同じもしくは同様の結果を達成するアナログ的方法とデジタル的方法の組み合わせによって遂行されてもよい。【0016】DCパルス信号203は、外部電源で生成することができる。DCパルス信号203、204は、正常な動作に影響を及ぼさないようにテスト中の回路303がアイドル状態にある間に送信される。生成DCパルス列203は、特別に分析中の回路に合わせて調整され、この個別の回路の特定の構成要素、材料、長さ、および構成が考慮される。【0017】ある期間(P1)に、これらの同じデータ点が、収集され(図2)、パルス数(1+y)ごとにこれらのDCパルスの線形減衰および角度減衰を求めるのに適したアルゴリズムに通される。別の期間P(x)に、これらのデータ点は、再び記録され(図3)、減衰率を求めるために正常なデータおよび前のデータP(x-1)と共にアルゴリズムに入れられる。瞬時測定およびその後の分析は、検査中の回路の減衰率に応じて様々な間隔で実行することができる。回路の減衰は、図5の非線形イベントであり、つまり、減衰率は時間の経過と共に変化する。【0018】減衰率アルゴリズムは、正(V+)の前縁(L1@N+、L2@N+、…、L1+y@N+)、負(V-)の前縁(L1@N-、L2@N-、…、L1+y@N-)、正(V+)の後縁(T1@N+、T2@N+、…、T1+y@N+)、負(V-)の後縁(T1@N-、T2@N-、…、T1+y@N-)の角度成分、および正(V+)の電圧(dV1@N+、dV2@N+、dV1+y@N+)、負(V-)の電圧(dV1@N-、dV2@N-、dV1+y@N-)、ならびにパルス数(1+y)およびDCパルス長(Tv1、Tv2、…、Tv(1+y))に基づいて、元の状態および前の測定サイクルと比較されるときに計算される各測定サイクルの比率を決定する。このアルゴリズムは、検査中のDC回路の構成要素に関連する異常を排除するために各特性データセットの比率を決定する。なぜなら、これらは、減衰曲線分析において誤検出を生じる可能性があるからである。【0019】典型的なDC回路の比率には、以下が反映されてもよい。縁部比=正弦(Sine)(T1@N+-T1@P1+)-正弦(L1@N+-L1@P1+)+正弦(T1@N--T1@P1-)-正弦(L1@N--L1@P1-)+正弦(T2@N+-T2@P1+)-正弦(L2@N+-L2@P1+)+正弦(T2@N--T2@P1-)-正弦(L2@N--L2@P1ー)+…+正弦(T1+y@N+-T1+y@P1+)-正弦(L1+y@N+-L1+y@P1+)+正弦(T1+y@N--T1+y@P1-)-正弦(L1+y@N--L1+y@P1-)周期比=(Tv1@N1-Tv1@P(x-1))/2+(Tv2P(x-1)-Tv2@P(x))/2+(Tv2@N1-Tv2@P(x-1))/2+(Tv2P(x-1)-Tv2@P(x))/2+…+(Tv(1+y)@N1-Tv(1+y)@P(x-1))/2+(Tv(1+y)P(x-1)-Tv(1+y)@P(x))/2振幅比=(dV1@N+[L1@N+]-dV1@N+[T1@N+]+dV1@N-[L1@N-]-dV1@N-[T1@N-])/2+(dV2@N+[L2@N+]-dV2@N+[T2@N+]+dV2@N-[L2@N-]-dV2@N-[T2@N-])/2+…+(dV(1+y)@N+[L(1+y)@N+]-dV(1+y)@N+[T(1+y)@N+]+dV(1+y)@N-[L(1+y)@N-]-dV(1+y)@N-[T(1+y)@N-])/2これらのデータ比に基づいて、アルゴリズムは、回路の推定故障点を予測することができる。典型的なアルゴリズムでは、検査中の回路に合わせて波形を調整した後、以下のように指定の比率を重み付けする。出力(アルゴリズム)=縁部比+周期比×1.3+振幅比×0.7これにより、検査中のDC回路に特有の、図5に示すような分析用の予測減衰曲線を作成するためにデータを正規化することができる。各回路には個別の共通しない構成要素があるため、各回路は別々に指定しなければならない。【0020】複数のアルゴリズム点は、履歴目的で記憶することができ、システムの完全性に関する技術的なトラブルシューティングに役立ち得る。【0021】特定のDC回路について適切なベースラインが確立されると、検査中の回路の予測寿命を計算するために定量的閾値が確立され得る。この予測寿命は、未来の分析に基づいて再確立されてもよく、予想寿命の最後に基づいて予防保全措置を予定することができる。【0022】このように、発明は、上述したような本発明の目的の各々を実現するその好ましい実施形態に関して開示されており、DC回路のライフサイクルを予測するための新しい改善された方法および装置を提供する。【0023】当然のことながら、本発明の教示からの様々な変更、修正、および改変は、その意図する精神および範囲から逸脱することなく当業者によって企図され得る。本発明は添付の特許請求の範囲の観点によってのみ限定されることが意図されている。」
「【図1】[図:0001419571000001.jpg]」
「【図2】[図:0001419571000002.jpg]」
「【図3】[図:0001419571000003.jpg]」
「【図4】[図:0001419571000004.jpg]」
「【図5】[図:0001419571000005.jpg]」
第5 当合議体の判断
<実施可能要件違反の判断の概要>
当合議体は、以下の1において詳述するとおり、本願発明の「電流を通すことができる直流(DC)回路」という構成は、直流の電流を通すことができる回路という極めて一般的な回路を特定しているにすぎず、「直流(DC)回路」と称することができる回路は、多種多様なものが考えられるところ、いかなる直流(DC)回路であっても、本願発明の「a)」-「d)」で示されるステップを用いてその「経路の故障を予測する」ことが可能であるとはいえないから、本願の発明の詳細な説明の記載は、本願発明について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないと判断した。
<サポート要件違反の判断の概要>
当合議体は、サポート要件についても検討したところ、以下の2において示すとおり、本願発明の「電流を通すことができる直流(DC)回路」に含まれる、ありとあらゆる直流(DC)回路(直流の電流を通すことができる回路一般)にまで拡張して、請求項1の「a)」-「d)」で示されるステップを用いてその「経路の故障を予測する」ことは、当業者は認識できないというべきであり、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された範囲にまで拡張ないし一般化できないから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないと判断した。
1 実施可能要件違反について
(1) 本願発明の技術的特徴
本願発明は、少なくとも次の技術事項A及びBを技術的特徴として備えるものである。
<技術事項A>
「電流を通すことができる直流(DC)回路の経路の故障を予測すること。」
<技術事項B(ステップ「a)~d)」に係る事項)>
「特定のDC回路及び使用され監視されるDC回路の経路に対して、正と負が交番するパルス列を印加することによって得られるパルス信号の振幅、周期、および立上がりと立下りのデータセットに基づくパルス特性を比較して、使用され監視されるDC回路の経路の故障までの推定時間を予測するために使用される減衰率分析曲線を確立すること。」
なお、本願発明の「電流を通すことができる直流(DC)回路」を以下では「DC回路」ということもある。
また、本願発明の「特定のDC回路」を以下では「特定DC回路」ということもある。
また、本願発明の「使用されているDC回路」及び「使用され監視されるDC回路」を以下では「監視DC回路」ということもある。
さらに、本願発明の「正と負が交番するパルス列」を以下では「交番パルス列」ということもある。
(2) 技術事項Aの検討
ア 「DC回路」について
技術事項Aは、DC回路の経路の故障を予測することであるところ、「電流を通すことができる直流(DC)回路」という語句は、直流の電流を通すことができる回路という極めて一般的な回路を特定しているにすぎないから、「DC回路」と称することができる回路としては、多種多様なものが考えられる。
そして、回路には、通常、抵抗等の電気素子以外に電流の通り道である導線が経路として含まれていることは自明である。
そうすると、技術事項Aは、直流の電流を通すことができる多種多様な回路の経路の故障を予測することを特定したものである。
イ 「DC回路」についての明細書の記載
(ア) 本願発明の「DC回路」として、具体的にどのようなものが想定されているかを明細書及び図面の記載を参照して検討すると、DC回路に関連して、本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
a 「本発明は、DC回路の未来の故障時期を予測するためにそのような技術を使用し、劣化の属性を監視して検証され分析される、電流を流すことができるDC回路に関する。」(【0001】)
b 「このタイプの故障モードは、自動車、航空機、および他の産業用または輸送用システムにおいて最も一般的である。私たちは、電池または他の電源で動作する直流(DC)システムを用いて、この新しい技術の焦点をこれらに合わせる。」(【0002】)
c 「酸化、湿気、接続不良、内部損傷、および外部破壊の典型的な故障モードは、システムが故障する前、人間の視覚によって発見される前、または既存の診断によってフィードバックが提供され得るようになる前に判断され得る。」(【0004】)
d 「典型的なDC回路303は、電源101と、システム内の様々な負荷に電力を分配するためのワイヤハーネスとを必要とする。負荷がより高度になると、負荷の多くは「内蔵」メモリ105の機能を有するようになる。」(【0013】)
(イ) 前記(ア)aに摘記した段落【0001】の記載から、DC回路は「劣化」するものであることを前提としており、前記(ア)cに摘記した段落【0004】の記載から、「劣化」は「酸化、湿気、接続不良、内部損傷、および外部破壊」を原因とするものであると認められる。
しかしながら、「酸化、湿気、接続不良、内部損傷、および外部破壊」を原因とする「劣化」が生じるのは、回路一般にいえることであるから、段落【0001】及び【0004】の記載により、DC回路の特徴が限定されたことにはならない。
(ウ) 前記(ア)bに摘記した【0002】の記載から、DC回路は、「自動車、航空機、および他の産業用または輸送用システム」において用いられるものであり、「電池または他の電源で動作する」ものであることを想定していると認められる。
しかしながら、「自動車、航空機、および他の産業用または輸送用システム」において用いられる回路であって、「電池または他の電源で動作する」回路といっても、様々なものがあるから、段落【0002】の記載により、DC回路の特徴が限定されたことにはならない。
(エ) 前記(ア)dに摘記した【0013】の記載から、DC回路は、「電源」と「システム内の様々な負荷に電力を分配するためのワイヤハーネス」を備えるものであると認められる。
ここで、回路に「電源」が必要なことは自明であり、「ワイヤハーネス」とは、電気を伝える電線と、その電気を周辺外部に接続して伝達する端子やコネクタを一体に組み上げた配線部品のことであるから、「ワイヤハーネス」は、電気配線を必要とする装置において通常使用される部品である。
そうすると、段落【0013】の記載により、DC回路の特徴が限定されたことにはならない。
(オ) 前記(ア)~(エ)を踏まえると、本願の発明の詳細な説明を参酌しても、本願発明の「DC回路」の意味内容としては、直流の電流を通すことができる回路という極めて一般的な意味を超えて、回路構成が具体的に限定されているとはいえないから、前記アに示したように、技術事項Aが、直流の電流を通すことができる多種多様な回路の経路の故障を予測することを特定したものであるとの解釈は、本願の発明の詳細な説明を参酌しても、変わるところはない。
ウ 請求人の主張について
(ア) 請求人の主張の概要
このことについて、請求人は、令和6年5月9日に提出された意見書(以下、単に「意見書」という。)において、概略、以下の主張をしている。
a 本願発明は必ずしも回路の詳細に関連しているわけではない。
b DC回路は当技術分野でよく知られており、DC回路には電源、抵抗源及び負荷が閉回路内にある。
(イ) 請求人の主張に対する当合議体の判断
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請求人の前記(ア)の主張は、結局、DC回路とは直流の電流を通すことができる閉回路であるという程度以上のことを述べていない。
むしろ、当該主張は、本願発明における「DC回路」について、直流の電流を通すことができる閉回路一般を対象とすることに何のためらいもなく、このような直流の電流を通すことができる閉回路一般に拡張可能であることを積極的に支持しているように思われる。
(なお、当該主張における「閉回路」という表現は、電気回路のうち、スイッチなどが閉じていて電流が流れる経路が確立されている回路のことであり、通常の電気回路であることを意味するから、「閉」という語句を用いても、DC回路の特徴を何ら限定したことにならない。また、「抵抗源」と「負荷」の違いについて、負荷には抵抗が通常含まれていることを踏まえると、必ずしも判然としない。)
したがって、請求人の主張は、本願発明の「DC回路」が直流の電流を通すことができる回路という極めて一般的な回路のことであって多種多様な回路を含むものであるとの解釈をむしろ裏付けるものである。
(3) 技術事項Bの検討
ア 「特定DC回路」について
前記(2)において検討したとおり、本願発明の「DC回路」は、直流の電流を通すことができる回路という極めて一般的な回路のことであって、多種多様な回路を含むものであり、技術事項Aは、このような多種多様な回路の経路の故障を予測することを特定したものであるところ、技術事項Bは、直流の電流を通すことができる回路として、「特定DC回路」と「監視DC回路」の二つのDC回路を想定し、これらのDC回路に交番パルス列を印加して得られるパルス信号の振幅、周期、および立上がりと立下りのデータセットに基づくパルス特性を比較している。
ここで、「特定DC回路」については、「パルス特性に関してのベースライン」を確立するためのものであり、段落【0007】に「特定タイプの回路(各々は多少異なる)について既知のベースライン信号を確立する」との記載があることから、DC回路の劣化に係るパラメータ(「パルス信号の振幅、周期、および立上がりと立下りのデータセットに基づくパルス特性」)の変化の程度を判定するための基準値(ベースライン)を与えることのできるDC回路を「特定DC回路」としたものと認められる。
イ 「交番パルス列」について
(ア) 前記第4において摘記した本願の発明の詳細な説明の記載(特に、【0003】、【0008】、【0013】、【0016】、【0019】)を踏まえると、「DCパルス列201」及び「逆DCパルス列202」を合成して「交番DCパルス信号203」を生成するにあたり、関心のあるDC回路に合わせて、当該DC回路の「特定の構成要素、材料、長さ、および構成[を]考慮[して]」、「交番DCパルス信号203」は「調整される」ものである。
(イ) ここで、「特定DC回路」がDC回路の劣化に係るパラメータ(「パルス信号の振幅、周期、および立上がりと立下りのデータセットに基づくパルス特性」)の変化の程度を判定するための基準値(ベースライン)を与えることのできるものであるとしても、DC回路であることに変わりはないから、DC回路に係る解釈を踏まえると、特定DC回路としては多種多様な回路構成を有するものが想定されていることは明らかであり、多種多様な回路構成を有する特定DC回路に合わせて、当該特定DC回路の構成要素等を考慮して、交番パルス列が調整されることになる。
(ウ) しかしながら、発明の詳細な説明には、特定DC回路の構成要素等をどのように考慮して、交番パルス列をどのように調整するのかについて、何ら具体的な説明がない。
(エ) そうすると、本願の発明の詳細な説明は、特定DC回路の構成要素等をどのように考慮して、交番パルス列をどのように調整すればよいのかについて、当業者が理解できる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない。
ウ 「減衰率」について
(ア) 前記第4において摘記したとおり、本願の発明の詳細な説明には、減衰率分析曲線の確立及びDC回路の経路の故障までの推定時間の予測に関連して、以下のことが記載されている。
a 本願発明は、DC回路の劣化を監視することで、DC回路の予測寿命を予測するものであること(【0001】、【0005】)
b 減衰率は、所定のアルゴリズムによって、監視DC回路に交番パルス列を印加して得られる波形を、特定DC回路に交番パルス列を印加して得られるベースライン信号の波形及び前回監視DC回路に交番パルス列を印加して得られた波形と比較することで得られること(【0007】、【0009】、【0018】)
c アルゴリズムは、任意の回路の故障の可能性及びワイヤハーネス内の故障箇所のおおよその位置を予測するように設計されており、監視DC回路用にカスタマイズされており、DCパルスの線形減衰及び角度減衰を求めるのに適していること(【0009】、【0015】、【0017】)
d 回路の減衰率は時間の経過とともに変化すること(【0017】)
e 減衰率アルゴリズムの具体例として、【0019】に記載された数式に基づいて縁部比・周期比・振幅比を算出し、これらを出力(アルゴリズム)=縁部比+周期比×1.3+振幅比×0.7の比率で重み付けしたものであること(【0019】)
(イ) しかしながら、発明の詳細な説明を参酌しても、本願発明における「減衰率」とは監視DC回路のどのような属性が「減衰」していることを表す数値であるのかが開示されておらず、「減衰率」について、当業者が理解できる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない。
仮に、段落【0017】の記載を踏まえて、「減衰率」とは、DCパルスの「線形減衰」(すなわち、交番パルス列を監視DC回路に印加して得られるパルス信号の前縁における振幅dVi@j±[Li@j±]と後縁における振幅dVi@j±[Ti@j±]との差)及び「角度減衰」(すなわち、交番パルス列を監視DC回路に印加して得られるパルス信号の前縁Li@j±及び後縁Ti@j±におけるX軸との角度成分)を指すと解釈しても、それが監視DC回路のいかなる属性に対応した数値なのか明らかではなく、「減衰率」について、当業者が理解できる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえないことに変わりはない。
(ウ) さらに、当業者といえども、どのように「減衰率」を算出するアルゴリズムを「任意の回路の故障の可能性及びワイヤハーネス内の故障箇所のおおよその位置を予測するように設計」したり、「監視DC回路用にカスタマイズ」したりすればよいのか、理解することは困難である。
(エ) また、前記(ア)eで指摘したとおり、本願の発明な詳細な説明には、「減衰率」を算出するアルゴリズムの具体的な数式の例が開示されているものの、当該数式であらゆる監視DC回路(すなわち、直流の電流を通すことができる回路一般)の劣化度合いを示す数値が算出可能であると認めるに足る十分な説明はない。
エ 請求人の主張について
(ア) 請求人の主張の概要
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請求人は意見書において、以下のとおり主張している。
a 「さらに補足しますと、b)のステップで標準となるDC回路の経路に対して印加されるパルス列と、次で説明するc)のステップでの実際に稼働して使用されて監視する対象であるDC回路の経路に対して印加されるパルス列は同じであり、その使用されて監視されるDC回路の稼働時間の経過による劣化によって、そのDC回路の経路から得られるパルス信号は、その振幅、周期、および立上がりと立下りに変化が生じますので、本願発明は、それらのデータセットに基づくパルス特性の変化をベースラインとなるパルス特性と比較し、本願発明の目的の故障までの推定時間の予測を図るものです。」
b 「本願発明の核心は、請求項1のステップ(b)及び(c)にあります。すなわち、ベースラインが、生成された交番するDCパルス列(明細書の段落[0018])を使用して最初に確立されます。そして、これと同じ方法を使用して、稼働中の(使用している)DC回路を監視し、推定故障時間がチェックされます。本願発明の本質は、DC回路の詳細ではなく、回路のベースラインと監視の方法です。」
(イ) 請求人の主張に対する当合議体の判断
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請求人の主張について検討すると、「その使用されて監視されるDC回路の稼働時間の経過による劣化によって、そのDC回路の経路から得られるパルス信号は、その振幅、周期、および立上がりと立下りに変化が生じ[る]」ことについて、多種多様なDC回路が想定されるにも関わらず、いかなる具体的回路構成の劣化に由来してそのような変化が生じるのか何ら具体的な技術的根拠を示していないし、多種多様なDC回路に対応してどのような変化が生じるのかについても技術的根拠を示していないため、当業者といえども、監視DC回路から得られるパルス信号のどのような変化に注目することで監視DC回路のどのような劣化の程度を推定可能なのかを理解することは困難である。
また、前記ウでも説示したとおり、仮にある特定の構成要素を有する監視DC回路については、段落【0019】に記載された数式によって監視DC回路の劣化度合いを示す数値が算出可能であるとしても、当該数式であらゆる監視DC回路(すなわち、直流の電流を通すことができる回路一般)の劣化度合いを示す数値が算出可能であると認めるに足る十分な説明はない。
そうすると、請求人の主張を考慮してもなお、発明の詳細な説明は、あらゆる特定DC回路及び監視DC回路について、それぞれの回路から得られるパルス特性に基づいて、当該監視DC回路の経路の故障までの推定時間を予測するために使用される減衰率分析曲線を確立することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない。
(4) 小括
以上(2)及び(3)において検討した事項を踏まえると、本願の発明の詳細な説明は、あらゆるDC回路(すなわち、直流の電流を通すことができる回路)であっても、請求項1の「a)」-「d)」で示されるステップを用いてその「経路の故障を予測する」ことが可能であることを、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない。
2 サポート要件違反について
(1) 前記1で説示したとおり、本願の発明の詳細な説明は、あらゆるDC回路(すなわち、直流の電流を通すことができる回路一般)であっても、請求項1の「a)」-「d)」で示されるステップを用いてその「経路の故障を予測する」ことが可能であることを、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
(2) そうすると、本願発明の「電流を通すことができる直流(DC)回路」に含まれる、ありとあらゆるDC回路(直流の電流を通すことができる回路一般)にまで拡張して、請求項1の「a)」-「d)」で示されるステップを用いてその「経路の故障を予測する」ことは、当業者は認識できないというべきであり、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された範囲にまで拡張ないし一般化できない。
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本願の明細書の発明の詳細な説明は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
また、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-017798