特許拒絶査定不服審判
2022-016586
光学素子および光学装置
- 審判番号
- 2022-016586
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-553298
- 請求日
- 2022年10月18日
- 審決日
- 2023年10月04日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】シャープ株式会社
- 【請求人代理人】井上 知哉
- 【請求人代理人】加藤 浩二
- 審判長/審判官
- 審判長 岡田 吉美
- 審判官 中塚 直樹
- 審判官 田邉 英治
- 分類
- P18 .113-Z (G03B) / P18 .121-Z (G03B) / P18 .537-Z (G03B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第5項、特許法第29条、特許法第36条、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-553298「光学素子および光学装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 4月30日国際公開、WO2020/085204〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(令和元年)10月17日を国際出願日とする日本語特許出願であって(優先権主張 2018年10月22日)、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和 3年 4月21日 :補正書、上申書の提出
令和 4年 2月21日付け:拒絶理由通知書
同年 4月25日 :意見書、手続補正書の提出
同年 5月11日付け:拒絶理由通知書(最後)
同年 7月21日 :意見書、手続補正書の提出
同年 8月15日付け:補正の却下の決定
同日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月23日 :原査定の謄本の送達)
同年10月18日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和4年10月18日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年10月18日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容
令和4年10月18日にされた特許請求の範囲についての補正(以下「本件補正」という。)は、次の(1)に示す本件補正前の特許請求の範囲の請求項5(令和4年4月25日にされた手続補正により補正された請求項5)の記載を、後記の(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正するものである。下線は補正箇所を示す。
(1) 本件補正前の請求項5
「【請求項5】
下位層に面して配置された蛍光体層と、前記蛍光体層を前記下位層に密着させる密着層と、を備え、
前記蛍光体層は、無機バインダと、前記無機バインダ内に分散した蛍光体粒子とを含み、
前記密着層は、有機バインダを含み、
前記蛍光体層は、前記下位層に面する第1の面と、前記第1の面と対向する第2の面と、前記第1の面と前記第2の面とを接続する側面と、を有し、
前記密着層は、前記第2の面と、前記側面と、前記下位層の表面とを接続して前記蛍光体層を前記下位層に密着させ、
前記密着層が、前記第2の面の一部の領域及び前記蛍光体層の側面のみを被覆しており、かつ前記第2の面の一部が前記密着層から露出していることを特徴とする光学素子。」
(2) 本件補正後の請求項1
「【請求項1】
アルミニウム基板に面して配置された蛍光体層と、前記蛍光体層を前記アルミニウム基板に密着させる密着層と、を備え、
前記蛍光体層は、無機バインダと、前記無機バインダ内に分散した蛍光体粒子とを含み、
前記密着層は、有機バインダを含み、
前記蛍光体層は、前記アルミニウム基板に面する第1の面と、前記第1の面と対向する第2の面と、前記第1の面と前記第2の面とを接続する側面と、を有し、
前記密着層は、前記第2の面と、前記側面と、前記アルミニウム基板の表面とを接続して前記蛍光体層を前記アルミニウム基板に密着させ、
前記密着層が、前記第2の面の一部の領域及び前記蛍光体層の側面のみを被覆しており、かつ前記第2の面の一部が前記密着層から露出しており、
前記蛍光体層と前記アルミニウム基板は、密着していることを特徴とする光学素子。」
2 本件補正の目的
(1) 本件補正前の請求項5についての補正事項
本件補正による、本件補正前の請求項5についてする補正は、次のア及びイに示す二つの補正事項よりなる。
ア 本件補正前の請求項5の発明特定事項である「下位層」を「アルミニウム基板」に限定すること。
イ 次の(ア)に示す補正前の記載を後記(イ)に示す補正後の記載に補正すること。
(ア) 補正前の記載
「前記第2の面の一部が前記密着層から露出している」
(イ) 補正後の記載
「前記第2の面の一部が前記密着層から露出しており、
前記蛍光体層と前記アルミニウム基板は、密着している」
(2) 補正の目的要件の充足性についての検討
ア(ア) 前記(1)アの補正事項は、特許法36条5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものである。
(イ) 前記(1)イの補正事項について検討すると、本件補正前の請求項5には「前記蛍光体層を前記下位層に密着させる密着層と、を備え、」との記載があるから、当該補正事項は、本件補正前の請求項5で特定する技術思想の概念範囲について何ら変更するものではない。
(ウ) 前記(1)イの補正事項は、厳密には、特許法17条の2第5項に列挙する各号のいずれにも該当しないが、本件補正前の請求項5の概念範囲を変更するものではないから、本件補正前の請求項5についてする補正事項は、全体としては、実質的に「特許法36条5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するもの」であるといえる。
イ そして、本件補正前の請求項5に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
ウ よって、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
3 独立特許要件についての当審の判断
本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討を行う。
(1) 本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)に摘記した本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
(2) 引用文献に記載された事項及び引用発明等の認定
ア 引用文献4に記載された事項及び引用発明の認定
(ア) 引用文献4に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された特開2017-83581号公報(以下「引用文献4」という。)には、次の事項が記載されている。下線は合議体が付した。以下同様である。
a 段落【0001】~【0014】
「【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換装置、照明装置およびプロジェクターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プロジェクター用の照明装置として、回転蛍光板を用いた照明装置が提案されている。回転蛍光板は、蛍光体層が設けられた基板を回転させつつ、基板上の蛍光体層に励起光を照射して蛍光を発生させ、蛍光を含む照明光を生成するものである。下記の特許文献1には、回転蛍光板を備えた光源装置が開示されている。この回転蛍光板では、円形の透明基材上に円環状の蛍光体層が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-277516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の光源装置において、蛍光体層の固定力が低下すると、回転蛍光板の回転時に蛍光体層が剥離し、透明基材から脱落するおそれがある。
【0005】
本発明の一つの態様は、上記の課題を解決するためになされたものであり、蛍光体層を含む波長変換素子が基材から脱落しにくい波長変換装置を提供することを目的の一つとする。本発明の一つの態様は、上記の波長変換装置を備え、信頼性の高い照明装置を提供することを目的の一つとする。本発明の一つの態様は、上記の照明装置を備え、信頼性の高いプロジェクターを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の一つの態様の波長変換装置は、回転軸の周りに回転可能な基材と、前記基材の一面側において、前記回転軸の周りに設けられた波長変換素子と、前記波長変換素子を前記基材に固定する固定部材と、を備え、前記波長変換素子は、前記基材の前記一面と対向する第1面と、前記第1面とは反対側の第2面と、前記第1面を前記第2面と接続する第1側面部と、を有し、前記固定部材は、前記回転軸と平行な方向から見たときの前記第1側面部のうち少なくとも一部において、前記第1側面部と接している。
【0007】
本発明の一つの態様の波長変換装置においては、波長変換素子が固定部材によって第1側面部の側方から固定されているので、波長変換素子が基材から脱落しにくい。
…(中略)…
【0010】
本発明の一つの態様の波長変換装置において、前記固定部材のうち前記第1側面部と接している部分は、前記第2面側まで延びており、前記回転軸と平行な方向から見たとき、前記第2面と重なっていてもよい。
この構成によれば、固定部材のうち第1側面部と接している部分が波長変換素子の第2面の側に回り込んだ形態となる。そのため、固定部材のうち第1側面部と接している部分が波長変換素子の第2 面の側に回り込んでいない場合と比べて、波長変換素子がより脱落しにくい。
【0011】
本発明の一つの態様の波長変換装置において、前記波長変換素子は円環状であり、かつ、前記第1側面部と対向する第2側面部をさらに有し、前記固定部材は、前記回転軸と平行な方向から見たときの前記第2側面部のうち少なくとも一部において、前記第2側面部と接していてもよい。
この構成によれば、波長変換素子が第1側面部の側と第2側面部の側との双方から固定部材で挟まれる形態となるため、固定部材が第2側面部と接していない場合と比べて、波長変換素子がより脱落しにくい。
【0012】
本発明の一つの態様の照明装置は、本発明の一つの態様の波長変換装置と、前記波長変換素子を励起させる励起光を射出する光源と、を備える。
この構成によれば、照明装置が本発明の一つの態様の波長変換装置を備えるため、信頼性が高い照明装置を実現することができる。
【0013】
本発明の一つの態様の照明装置において、前記固定部材は、前記第2面と接し、前記第2面において前記励起光のスポットの外側に設けられていてもよい。
この構成によれば、励起光が固定部材に照射されないため、励起光によって固定部材が損傷を受けることが抑制される。
【0014】
本発明の一つの態様のプロジェクターは、本発明の一つの態様の照明装置と、前記照明装置から射出された光を画像情報に応じて変調する光変調装置と、前記光変調装置により変調された光を投射する投射光学系と、を備える。
この構成によれば、プロジェクターが本発明の一つの態様の照明装置を備えるため、信頼性が高いプロジェクターを実現することができる。」
b 段落【0016】~【0020】、【0029】~【0036】、【図1】~【図4】
「【0016】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について、図1~図4を用いて説明する。
なお、以下の各図面においては各構成要素を見やすくするため、構成要素によって寸法の縮尺を異ならせて示すことがある。
【0017】
[プロジェクター]
本実施形態に係るプロジェクターの一例について説明する。
本実施形態のプロジェクターは、スクリーン(被投射面)上にカラー映像を表示する投射型画像表示装置である。プロジェクターは、赤色光、緑色光、青色光の各色光に対応した3つの液晶光変調装置を備える。プロジェクターは、照明装置の光源として、高輝度・高出力な光が得られる半導体レーザーを備える。
【0018】
図1は、本実施形態に係るプロジェクターの光学系を示す概略図である。
図1に示すように、プロジェクター1は、第1照明装置100と、第2照明装置102と、色分離導光光学系200と、液晶光変調装置400Rと、液晶光変調装置400Gと、液晶光変調装置400Bと、クロスダイクロイックプリズム500と、投射光学系600と、を備える。
本実施形態の第1照明装置100は、特許請求の範囲の照明装置に対応する。
【0019】
第1照明装置100は、第1光源10と、コリメート光学系70と、ダイクロイックミラー80と、コリメート集光光学系90と、回転蛍光板30と、モーター50と、第1レンズアレイ120と、第2レンズアレイ130と、偏光変換素子140と、重畳レンズ150と、を備える。
本実施形態の回転蛍光板30は、特許請求の範囲の波長変換装置に対応する。
【0020】
第1光源10は、励起光として第1の波長帯の青色のレーザー光(発光強度のピーク:約445nm)Eを射出する半導体レーザーから構成されている。第1光源10は、1つの半導体レーザーで構成されていてもよいし、複数の半導体レーザーで構成されていてもよい。
なお、第1光源10は、445nm以外の波長、例えば460nmの青色レーザー光を射出する半導体レーザーを用いることもできる。本実施形態の第1光源10は、特許請求の範囲の光源に対応する。
」
「【図1】
[図:0001404376000001.jpg]
」
「【0029】
図2は、回転蛍光板30を示す斜視図である。図3は、図2のA-A’断面図である。図4は、図3の符号Pで示す部分の拡大図である。
回転蛍光板30は、図1、図2および図4に示すように、モーター50と、基材40と、反射膜41と、波長変換素子42と、を備える。回転蛍光板30は、青色光Eが入射する側と同じ側に向けて蛍光Yを射出する。すなわち、回転蛍光板30は、反射型の回転蛍光板である。
【0030】
基材40は、例えばアルミニウム、銅等の放熱性に優れた金属製の基材から構成される。基材40は、モーター50により回転軸35の周りに回転可能とされている。基材40は、平面形状が円形の板体であり、例えば直径が50mm~60mm程度に設定され、厚さが1mm~2mm程度に設定される。
【0031】
波長変換素子42は、平面形状が円環状の無機蛍光体材料から構成されている。波長変換素子42は、基材40の一面40a側において、回転軸35の周りに設けられている。図4に示すように、波長変換素子42は、基材40の一面40aと対向する第1面42a(図4における下面)と、第1面42aとは反対側の第2面42b(図4における上面)と、第1面42aを第2面42bと接続する第1側面42c(図4における右側側面)と、第1側面42cと対向する第2側面42d(図4における左側側面)と、を有する。第1側面42cは、波長変換素子42の外周を構成する側面である。第2側面42dは、波長変換素子42の内周を構成する側面である。第1側面42cは、特許請求の範囲における第1側面部に相当する。第2側面42dは、特許請求の範囲における第2側面部に相当する。
【0032】
波長変換素子42の外径は、基材40の外径よりも小さく設定されている。波長変換素子42は、第1光源10から射出される青色光Eにより励起され、第2の波長帯の蛍光Yを射出する。蛍光Yは、赤色光および緑色光を含む黄色光である。
【0033】
波長変換素子42は、例えばイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)系蛍光体を含む。YAG:Ceを例にとると、波長変換素子42として、Y2O3、Al2O3、CeO3等の構成元素を含む原料粉末を混合して固相反応させた材料、共沈法やソルゲル法等の湿式法により得られるY-Al-Oアモルファス粒子、噴霧乾燥法や火炎熱分解法、熱プラズマ法等の気相法により得られるYAG粒子等を用いることができる。
【0034】
反射膜41は、波長変換素子42と基材40との間に設けられている。反射膜41は、蛍光Yを高い効率で反射するように設計されている。そのため、基材40の反射膜41を成膜する一面40aは、高い精度の平面粗さを有している。これにより、反射膜41は、基材40側に向かう蛍光Yの大部分を図1の上方向(基材40とは反対側)に向けて反射する。
【0035】
波長変換素子42にはレーザー光からなる青色光Eが入射するため、波長変換素子42において熱が発生する。本実施形態では、基材40を回転させることで、波長変換素子42における青色光Eの入射位置を時間的に変化させている。これにより、波長変換素子42の同じ部分に青色光Bが常時照射され、波長変換素子42が局所的に加熱されて劣化することを防止している。
【0036】
図4に示すように、波長変換素子42は、固定部材37により基材40に固定されている。本実施形態の場合、固定部材37として、接着剤が用いられる。反射膜41が基材40の一面40aに設けられており、励起光および蛍光が反射膜41に入射するためには、固定部材37は透明である必要がある。固定部材37としては、例えばシリコーン樹脂が用いられる。」
「【図2】
[図:0001404376000002.jpg]
」
「【図3】
[図:0001404376000003.jpg]
」
「【図4】
[図:0001404376000004.jpg]
」
c 段落【0066】~【0067】
「【0066】
[第5実施形態]
以下、本発明の第5実施形態について、図9を用いて説明する。
第5実施形態のプロジェクターの基本構成は第1実施形態と同様であり、回転蛍光板の構成が第1実施形態と異なる。そのため、プロジェクター全体の説明は省略し、回転蛍光板についてのみ説明する。
図9は、第5実施形態の波長変換装置の断面図である。図9は、第1実施形態における図4に対応している。
図9において、第1実施形態で用いた図面と共通の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0067】
第1実施形態の回転蛍光板30では、固定部材37の一部が、波長変換素子42と基材40との間に設けられていた。これに対して、図9に示すように、第5実施形態の回転蛍光板53においては、波長変換素子42と基材40との間に、固定部材37の代わりに、熱伝導グリス54が設けられている。熱伝導グリス54は、例えば変性シリコーン等からなるグリスに熱伝導率の高い銅、銀、アルミニウム等の金属、もしくはアルミナ、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム等の金属酸化物の粒子を分散させたものである。波長変換素子42と基材40との間に熱伝導グリス54が介在することにより、接着剤が介在する場合に比べて波長変換素子42-基材40間の熱抵抗が下がり、波長変換素子42の放熱効果を高めることができる。」
d 段落【0070】~【0072】、【図10】
「【0070】
[第6実施形態]
以下、本発明の第6実施形態について、図10を用いて説明する。
第6実施形態のプロジェクターの基本構成は第1実施形態と同様であり、回転蛍光板の構成が第1実施形態と異なる。そのため、プロジェクター全体の説明は省略し、回転蛍光板についてのみ説明する。
図10は、第6実施形態の波長変換装置の断面図である。図10は、第1実施形態における図4に対応している。
図10において、第1実施形態で用いた図面と共通の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0071】
図10に示すように、第6実施形態の回転蛍光板61においては、第5実施形態と同様、波長変換素子42と基材40との間に、熱伝導グリス54が設けられている。固定部材62は、波長変換素子42の外周側で第1面42aよりも上方に盛り上がり、波長変換素子42の第1側面42cに接している。さらに、固定部材62は、波長変換素子42の第1側面42cから第2面42bの側まで延びた突出部62aを有している。回転軸35と平行な方向から見たとき、突出部62aは第2面42bと重なっており、かつ、第2面42bに接している。反射膜41の上面を基準面として、固定部材62の最も高い位置の基準面からの高さH9は、波長変換素子42の第1面42aの基準面からの高さH2よりも高く、波長変換素子の第2面42bの基準面からの高さH8よりも高い。
それ以外の構成は、第5実施形態と同様である。
【0072】
本実施形態においても、波長変換素子42が基材から脱落しにくいだけでなく、波長変換素子42の放熱効果が高められている。」
「【図10】
[図:0001404376000005.jpg]
」
(イ) 引用文献4から読み取れる事項
a 認定事項A
(a) 【0070】の「図10において、第1実施形態で用いた図面と共通の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。」なる記載を踏まえると、【図10】及び【0071】に記載されている「回転蛍光板61」の「基材40」は、第1実施形態についての説明である【0029】及び【0030】に記載されている「基材40」と同様に、アルミニウム基材から構成され、表面に「反射膜41」を備えているものを含むことは、明らかである。
(b) また、【図10】から、「波長変換素子42」が「基材40」に対向して配置されていることが、読み取れる。
(c) さらに、【図10】から、「固定部材62」が「波長変換素子42」を「熱伝導グリス54」及び「反射膜41」を介して「基材40」に固定していることが、読み取れる。
(d) 上記(a)から(c)をまとめると、引用文献4の記載事項から、次の事項(以下「認定事項A」という。)が読み取れる。
「回転蛍光板61は、アルミニウムから構成される基材40に対向して配置された波長変換素子42と、前記波長変換素子42を、熱伝導グリス54及び反射膜41を介して基材40に固定する固定部材62を有すること。」
b 認定事項B
【0070】の前記記載を踏まえると、【0036】の「固定部材37としては、例えばシリコーン樹脂が用いられる。」との記載から、同じ「固定部材」である【0071】の「固定部材62」としては、例えばシリコーン樹脂が用いられることは、明らかである。
したがって、引用文献4の記載事項から、次の事項(以下「認定事項B」という。)が読み取れる。
「固定部材62としては、シリコーン樹脂が用いられること。」
c 認定事項C
(a) 第1実施形態について説明する【0031】には、次の記載がある。
「図4に示すように、波長変換素子42は、基材40の一面40aと対向する第1面42a(図4における下面)と、第1面42aとは反対側の第2面42b(図4における上面)と、第1面42aを第2面42bと接続する第1側面42c(図4における右側側面)と、第1側面42cと対向する第2側面42d(図4における左側側面)と、を有する。」
(b) 【0070】の前記記載を踏まえて【図4】と【図10】を対照させつつ前記(a)の【0031】の記載を参酌すると、【図10】から、次の事項(以下「認定事項C」という。)が読み取れる。
「波長変換素子42は、基材40の一面と対向する第1面42aと、第1面42aとは反対側の第2面42bと、第1面42aを第2面42bと接続する第1側面42cと、第1側面42cと対向する第2側面42dと、を有していること。」
d 認定事項D
【0071】の前記記載及び前記認定事項Cを踏まえると、【図10】から、次の事項(以下「認定事項D」という。)が読み取れる。
「固定部材62は、波長変換素子42の第2面42b及び第1側面42cと、基材40の表面に設けられた反射膜41を接続し、波長変換素子42を熱伝導グリス54及び反射膜41を介して基材40に固定していること。」
e 認定事項E
【0071】の記載及び前記認定事項Cを踏まえると、【図10】から、次の事項(以下「認定事項E」という。)が読み取れる。
「固定部材62は、波長変換素子42のうち第2面42bの一部の領域及び第1側面42cのみを被覆しており、かつ第2面42bの一部が固定部材62から露出していること。」
(ウ) 引用発明の認定
前記(ア)において摘記した事項、及び前記(イ)の引用文献4から読み取れる事項を総合すると、引用文献4には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「回転蛍光板61であって、(【0071】)
アルミニウムから構成される基材40に対向して配置された波長変換素子42と、前記波長変換素子42を、熱伝導グリス54及び反射膜41を介して基材40に固定する固定部材62を有し、(前記(イ)aの「認定事項A」)
固定部材62としては、シリコーン樹脂が用いられ、(前記(イ)bの「認定事項B」)
波長変換素子42は、基材40の一面40aと対向する第1面42aと、第1面42aとは反対側の第2面42bと、第1面42aを第2面42bと接続する第1側面42cと、第1側面42cと対向する第2側面42dと、を有し、(前記(イ)cの「認定事項C」)
固定部材62は、波長変換素子42の第2面42b及び第1側面42cと、基材40の表面に設けられた反射膜41を接続し、波長変換素子42を熱伝導グリス54及び反射膜41を介して基材40に固定し、(前記(イ)dの「認定事項D」)
固定部材62は、波長変換素子42のうち第2面42bの一部の領域及び第1側面42cのみを被覆しており、かつ第2面42bの一部が固定部材62から露出しており、(前記(イ)eの「認定事項E」)
波長変換素子42が基材から脱落しにくい、(【0072】)
回転蛍光板61。」
イ 引用文献2に記載された事項と技術常識1の認定
(ア) 引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された文献である特開2016-186850号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、波長変換素子、光源装置及びプロジェクターに関する。」
「【0042】
[波長変換層の構成]
波長変換層42は、上記蛍光光YLを発生させる蛍光体を含む。このような蛍光体は、例えば、波長440nmの励起光BL1sにより励起されて、例えば500~700nmの波長域にピーク波長を有する蛍光光YLを生成する。
この他、波長変換層42を形成する材料としては、例えば酸化アルミニウム等の無機バインダーを例示できる。このような構成によれば、耐熱性及び表面加工性に優れた波長変換層42を構成できる。しかしながら、バインダーを用いずに蛍光体粒子を焼結して波長変換層42を形成してもよい。」
(イ) 技術常識1の認定
前記(ア)に摘記した事項に例示されるように、次の事項は本願の優先日前に当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識1」という)。
[技術常識1]
「無機バインダと蛍光体を含む波長変換層」
ウ 引用文献1に記載された事項と技術常識2の認定
(ア) 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された文献である特開2015-97256号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0005】
本発明の目的は、高い信頼性を有する波長変換板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による波長変換板は、
基材、
前記基材の上に配置され、励起光を蛍光に変換する蛍光材料を含有する蛍光部材、および
前記蛍光部材の周囲に配置された柔軟性ゲル
を具備する。」
「【0016】
図3Aに示されるように、蛍光部材1は、蛍光材料1a、および蛍光材料1aから形成される蛍光粒子が分散しているマトリックス1bから構成されている。マトリックス1bは、封止材として機能し得る。マトリックス1bの材料の例は、無機材料又は有機材料である。有機材料の例は、エポキシ樹脂又はシリコーン樹脂である。無機材料の例は、水ガラスである。マトリックス1bの材料の他の例は、エポキシ樹脂またはシリコーン樹脂にシルセスキオキサンが添加された有機-無機ハイブリッド材料である。」
「【図3A】
[図:0001404376000006.jpg]
」
「【0037】
(基材3)
基材3の材料の例は、アルミニウムのような金属、ガラス又はサファイアのような透光性無機化合物である。基材3が金属から形成される場合、波長変換板10は光反射板として機能する。基材3が透光性無機化合物から形成される場合、光は波長変換板10を貫通する。」
(イ) 技術常識2の認定
前記(ア)に摘記した事項に例示されるように、次の事項は本願の優先日前に当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識2」という)。
[技術常識2]
「アルミニウムの金属基材に光反射板としての機能を兼用させること。」
(3) 対比・判断
ア 本件補正発明における用語「面する」の解釈について
(ア) 関連する明細書の発明の詳細な説明の記載
本件補正発明における用語「面する」の意味を明らかにするために、関連する明細書の発明の詳細な説明の記載を抜粋すると、次の記載がある。
「 【0022】
(基板(下位層))
基板11はアルミニウム基板を用いることができる。蛍光発光強度を高める為に、アルミニウム基板上には銀などの高反射膜がコーティングされているのが好ましい。他の実施形態では、高反射のアルミナ基板、白色散乱反射基板などを用いてもよい。基板11の材質は金属など蛍光体層31aおよび密着層32aよりも熱伝導率の高いものが好ましく、特に上述した材料に限定されない。
【0023】
下位層は、基板を含む1以上の層から構成されることが好ましい。下位層の基板以外の層としては、例えば、散乱層等が挙げられる。散乱層は、酸化チタンを主成分とするのが好ましい。また、下位層は、板状のものに限られず、その上に蛍光体層31aを配置することが可能な形状の基材であればよい。
【0024】
(蛍光体層)
蛍光体層31aは、無機化合物を含む第1のバインダ(無機バインダ)と、前記第1のバインダ内に分散した蛍光体粒子とを含む。蛍光体層31aは、基板11に面する第1の面と、第1の面と対向する第2の面と、第1の面と第2の面とを接続する側面と、を有している。」
(イ) 本件補正発明における用語「面する」の解釈
前記(ア)に摘記した本願の明細書の発明の詳細な説明には、a)基板上には銀などの高反射膜がコーティングされていることが好ましく、b)下位層は、基板を含む1以上の層から構成されることが好ましく、下位層の基板以外の層としては、例えば、散乱層が挙げられることを前提に、c)「蛍光体層31aは、基板11に面する第1の面(中略)を有している。」としている。
そうすると、「基板11に面する(蛍光体層31aの)第1の面」という場合、基板11と蛍光体層31aの間に他の部材が介在するものも含まれていると解釈すべきこととなるから、請求項の記載における「面する」という用語の解釈としては、「他の層を介して対向する」場合も含まれると解釈するのが相当である。
イ 対比
(ア) 対比分析
本件補正発明と引用発明を対比する。
a 「光学素子」の発明である本件補正発明と「回転蛍光板61」の発明である引用発明は、「光学素子」の発明である点において一致する。
b(a) 次の引用発明の欄に記載した引用発明の各構成は、それぞれ、対応する本件補正発明の欄に記載した次の本件補正発明の構成に相当する。
<引用発明> <本件補正発明>
アルミニウムから構成される基材40 アルミニウム基板
波長変換素子42 蛍光体層
(b) 引用発明においては、「アルミニウムから構成される基材40に対向して配置された波長変換素子42」を備え、「固定部材62」は、「波長変換素子42を熱伝導グリス54及び反射膜41を介して基材40に固定し[ている]」。
このことは、請求項における「面する」という用語の解釈についての前記ア(イ)における検討結果を踏まえると、本件補正発明において「アルミニウム基板に面して配置された蛍光体層」を備えることに相当する。
(c) 引用発明における、「波長変換素子42が基材から脱落しにくい」状態とするための「前記波長変換素子42を、熱伝導グリス54及び反射膜41を介して基材40に固定する固定部材62」と、本件補正発明の「前記蛍光体層を前記アルミニウム基板に密着させる密着層」は、「前記蛍光体層を前記アルミニウム基板に脱落しにくい状態となるように固定させる固定層」である点において共通する。
(d) 以上を踏まえると、本件補正発明と引用発明は、次の点において共通する。
「アルミニウム基板に面して配置された蛍光体層と、前記蛍光体層を前記アルミニウム基板に脱落しにくい状態となるように固定させる固定層」を備える点。
c 前記b(c)を踏まえると、引用発明において「固定部材62としては、シリコーン樹脂が用いられ[る]」ことと、本件補正発明において「前記密着層」は、有機バインダを含[む]」ことは、「前記固定層は、有機バインダを含[む]」点において共通する。
したがって、本件補正発明と引用発明は、次の点において共通する。
「前記固定層は、有機バインダを含む」点。
d(a) 次の(a1)から(a3)の欄に記載した引用発明の「波長変換素子42」の各技術事項は、それぞれ、(b1)から(b3)の欄に記載した本件補正発明の「蛍光体」の各技術事項に相当する。
(a1) 波長変換素子42の基材40の一面40aと対向する第1面42a
(b1) 蛍光体の前記アルミニウム基板に面する第1の面
(a2) 波長変換素子42の第1面42aとは反対側の第2面42b
(b2) 蛍光体の前記第1の面と対向する第2の面
(a3) 波長変換素子42の第1面42aを第2面42bと接続する第1側面42c
(b3) 蛍光体の前記第1の面と前記第2の面とを接続する側面
(b) したがって、前記ア(イ)における請求項における「面する」という用語の解釈についての検討結果を踏まえると、本件補正発明と引用発明は、次の点において一致する。
「前記蛍光体層は、前記アルミニウム基板に面する第1の面と、前記第1の面と対向する第2の面と、前記第1の面と前記第2の面とを接続する側面と、を有する」点。
e 前記b(c)及び前記dを踏まえると、「固定部材62は、波長変換素子42の第2面42b及び第1側面42cと、基材40の表面に設けられた反射膜41を接続し、波長変換素子42を熱伝導グリス54及び反射膜41を介して基材40に固定し」「波長変換素子42が基材から脱落しにくい」ものである引用発明と、「前記密着層は、前記第2の面と、前記側面と、前記アルミニウム基板の表面とを接続して前記蛍光体層を前記アルミニウム基板に密着させ[る]」本件補正発明は、次の点において共通する。
「前記固定層は、前記第2の面と、前記側面と、前記アルミニウム基板を接続して前記蛍光体層を前記アルミニウム基板に前記蛍光体層が前記アルミニウム基板から脱落しにくいように固定」させている点。
f 前記eを踏まえると、「固定部材62が、波長変換素子42のうち第2面42bの一部の領域及び第1側面42cのみを被覆しており、かつ第2面42bの一部が固定部材62から露出している」引用発明と、「前記密着層が、前記第2の面の一部の領域及び前記蛍光体層の側面のみを被覆しており、かつ前記第2の面の一部が前記密着層から露出している」本件補正発明は、次の点において共通する。
「前記固定層が、前記第2の面の一部の領域及び前記蛍光体層の側面のみを被覆しており、かつ前記第2の面の一部が前記固定層から露出しており、
前記蛍光体層と前記アルミニウム基板は、前者が後者から脱落しにくい状態で固定されている」点。
(イ) 一致点及び相違点の認定
前記(ア)の対比分析の検討結果をまとめると、本件補正発明と引用発明は、次のaに示す一致点において一致し、後記bに示す相違点において相違する。
a 一致点
「アルミニウム基板に面して配置された蛍光体層と、前記蛍光体層を前記アルミニウム基板に脱落しにくい状態となるように固定させる固定層と、を備え、
前記固定層は、有機バインダを含み、
前記蛍光体層は、前記アルミニウム基板に面する第1の面と、前記第1の面と対向する第2の面と、前記第1の面と前記第2の面とを接続する側面と、を有し、
前記固定層は、前記第2の面と、前記側面と、前記アルミニウム基板を接続して前記蛍光体層を前記アルミニウム基板に前記蛍光体層が前記アルミニウム基板から脱落しにくいように固定させ、
前記固定層が、前記第2の面の一部の領域及び前記蛍光体層の側面のみを被覆しており、かつ前記第2の面の一部が前記固定層から露出しており、
前記蛍光体層と前記アルミニウム基板は、前者が後者から脱落しにくい状態で固定されている光学素子」である点。
b 相違点
(a) 相違点1
蛍光体層が、
本件補正発明においては、「無機バインダと、前記無機バインダ内に分散した蛍光体粒子とを含[む]」ものであるのに対して、
引用発明においては、「波長変換素子42」が「無機バインダ」を含むものであるか否か不明である点。
(b) 相違点2
「蛍光体層」と「アルミニウム基板」との配置の関係が、
本件補正発明においては、「蛍光体層」と「アルミニウム基板」が密着するものであり、「固定層」は、「密着層」と称されるのに対して、
引用発明においては、「波長変換素子42」と「基材40」は、「熱伝導グリス54」及び「基材40の表面に設けられた反射膜41」を介して接続固定するものである点。
イ 判断
前記相違点について検討する。
(ア) 相違点1について
前記(2)イ(イ)において技術常識1として認定したように、「無機バインダと蛍光体を含む波長変換層」は、波長変換層として、引用文献2の例を示すまでもなく当業者によく知られた技術常識であって、当業者には自明の選択肢にすぎないから、これを引用発明の波長変換素子として採用することは、当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎない。
したがって、引用発明において相違点1に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
(イ) 相違点2について
a 前記(2)ウ(イ)において技術常識2として認定したように、「アルミニウムの金属基材に光反射板としての機能を兼用させること」は技術常識であり、当業者には自明の選択肢にすぎないから、これを引用発明の「アルミニウムから構成される基材40」に適用し、その結果として「反射膜41」を省くことは、当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎない。
b また、引用発明の「熱伝導グリス54」は、波長変換素子42と基材40との間に接着剤が介在する場合に比べて波長変換素子42-基材40間の熱抵抗を下げて、波長変換素子42の放熱効果を高めるために設けられたものであるところ(引用文献4【0067】)、熱伝導グリス54を省き波長変換素子42と基材40との間の熱抵抗を熱伝導グリス54を用いる前の値で許容するか否かは、当業者が適宜選択できる設計上の事項にすぎない。
なお、本件補正発明は、熱伝導グリス54を省きつつ蛍光体層と基材間の熱抵抗を下げるための技術上の工夫に相当する構成を備えるものではない。
c 以上のとおりであるから、引用発明において相違点2に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
(ウ) 総合評価
前記(ア)及び(イ)に検討したとおり、引用発明において、前記相違点1及び相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
なお、前記(ア)及び(イ)の検討においては、「面する」という用語の意味は、前記アで検討した解釈に従い、「接する」という意味までは含まないものとして検討したが、「面する」という用語の意味に「接する」という意味が含まれているとしても、前記(イ)の相違点2において検討したとおり、介在する層を省くことは自明であるから、本件補正発明の構成に想到することが容易であるとの結論に変わりはない。
そして、本件補正発明の奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本件補正発明は、引用発明、技術常識1及び技術常識2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 請求人の主張について
(ア) 審判請求書の主張内容
請求人は、審判請求書において次のように主張している。
<請求人の主張>
本願の発明は、蛍光体層とアルミニウム基板は、密着していることを特徴としている。
引用文献4における反射膜41は、波長変換素子42と基材40との間に設けられており、蛍光Yを高い効率で反射するように設計されており、基材40の反射膜41を成膜する一面40aは、高い精度の平面粗さを有している。これにより、反射膜41は、基材40側に向かう蛍光Yの大部分を図1の上方向(基材40とは反対側)に向けて反射する。つまり、引用文献4における反射膜は、波長変換装置を構成する上で好ましい構成要件である。
さらに言えば、引用文献4の実施例5、6の熱伝導グリス54は反射膜41の反射を阻害するため、蛍光Yの取り出しが低下し、一方で、熱伝導グリス54が無い場合では、波長変換素子が無機蛍光体材料から構成されるとあるので熱伝導率が低く、排熱に問題が生じる。よって、引用文献4の波長変換装置から反射膜41及び熱伝導グリス54を除外することに阻害要因が存在する。
したがって、引用文献4から又は引用文献を組み合わせて、当業者は容易に本願の発明を想到することができない。
(イ) 請求人の主張についての検討
a 請求人は、引用文献4の波長変換装置から、好ましい効果を奏する構成である反射膜41及び熱伝導グリス54を除外することに阻害要因が存在するから、蛍光体層とアルミニウム基板が密着することには容易に想到し得るものではない旨の主張をしているので、この点について検討する。
b まず、反射膜41の点について検討すると、前記イ(イ)aにおいて検討したとおり、「アルミニウムの金属基材に光反射板としての機能を兼用させること」は技術常識であり、当業者には自明の選択肢にすぎないから、これを引用発明の「アルミニウムから構成される基材40」に適用し、その結果として「反射膜41」を省くことは、当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎない。
c(a) 次に、熱伝導グリス54の点について検討すると、前記イ(イ)bにおいて検討したとおり、熱伝導グリス54を省き波長変換素子42と基材40との間の熱抵抗を、熱伝導グリス54を用いる前の値で許容するか否かは、当業者が適宜選択できる設計上の事項にすぎないものである。
(b) なお、本件補正発明は、熱伝導グリス54を省きつつ蛍光体層と基材間の熱抵抗を下げるための技術上の工夫に相当する構成を備えるものではないから、蛍光体層と基材間の熱伝導の点において退歩的な発明又は不完全利用発明を包摂するものである。
(c) 一般に、このような退歩的発明又は不完全利用発明、すなわち、引用発明のある構成を省く等の構成の変更をすることにより、当業者に予測困難で望ましい効果を奏するのではなく、予測可能な望ましくない効果を奏する場合、予測可能な望ましくない効果を奏するという意味において積極的な動機付けはないとしても、ある構成の省略等の構成の変更は自明であるとして、本願発明の進歩性は否定される(参考裁判例として、東京高等裁判所平成15年3月27日判決(平成13年(行ケ)第364号)参照)のであって、阻害要因があるとは認められるべきものではない。
(d) 上記の考え方は、進歩性の判断の結果の国際調和の観点からも肯定されるものであり、例えば欧州の審査ガイドライン(Guidelines for Examination in the EPO Part G - Chapter VII-10.1参照)には、次のように規定されている。括弧書きで付した翻訳は、JETROによるものである。(URL: https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/europe/ip/pdf/guidelines_part_g.pdf)
「10.1 Predictable disadvantage; non-functional modification; arbitrary choice If an invention is the result of a foreseeable disadvantageous modification of the closest prior art, which the skilled person could clearly predict and correctly assess, and if this predictable disadvantage is not accompanied by an unexpected technical advantage, then the claimed invention does not involve an inventive step (see T 119/82 and T 155/85). In other words, a mere foreseeable worsening of the prior art does not involve an inventive step. However, if this worsening is accompanied by an unexpected technical advantage, an inventive step might be present. Similar considerations apply to the case where an invention is merely the result of an arbitrary non-functional modification of a prior-art device or of a mere arbitrary choice from a host of possible solutions (see T 72/95 and T 939/92).」
(「10.1 予見可能な不利;非機能的な変更;恣意的な選択発明が,最も近接する先行技術を予見可能な不利となるように変更した結果であって,当該技術の熟練者であれば明らかに予測して正確に評価することができ,この予見可能な不利が予想外の技術的利点を伴っていなければ,クレームされた発明には進歩性が含まれていないことに留意すべきである(T 119/82及びT 155/85参照)。換言すれば,先行技術を単に予見可能に悪化させることは進歩性を含んでいない。ただし,この悪化が予想外の技術的利点を伴っていれば,進歩性が存在しているかもしれない。ある発明が先行技術装置の単なる恣意的かつ非機能的な変更の結果である場合,又は多数の可能な解決からの単なる恣意的な選択である場合にも,これと同様の考え方が適用される(T 72/95及びT 939/92参照)。」)
(e) 本件補正発明は、「熱伝導グリス54」を省くことにより、当業者に予測困難かつ格別顕著な望ましい効果を奏するものでない以上、阻害要因があるとの請求人の主張は採用できない。
エ 小括
以上検討のとおり、本件補正発明は、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって、本件補正は、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
したがって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明について
本件補正は、前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1~17に係る発明は、令和4年4月25日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~17に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち、請求項5に係る発明(以下「本願発明」という。)は前記第2の1(1)に摘記した事項により特定されるとおりである。
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についての進歩性欠如の理由(理由3)は、次のとおりである。
本願発明は、下記の引用文献4、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献4:特開2017-83581号公報
引用文献2:特開2016-186850号公報
3 引用文献に記載された事項
上記引用文献4には、第2の3(2)ア(ウ)において認定したとおりの引用発明が記載されていると認められる。
また、技術常識1及び技術常識2は、前記第2の3(2)イ(イ)及びウ(イ)において認定したとおりである。
4 対比・判断
(1) 本願発明は、本件補正発明における「下位層」を「アルミニウム基板」に限定することを省いたものである(前記第2の2参照)。
(2) そうすると、本願発明の構成を全て含み、当該構成の一部を限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2の3において説示したとおり、引用発明、技術常識1及び技術常識2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明、技術常識1及び技術常識2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上検討のとおりであるから、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-016586