2022-009504
圧縮機における冷媒としての使用、圧縮機、および、冷凍サイクル装置
- 審判番号
- 2022-009504
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-111377外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年06月21日
- 審決日
- 2024年06月19日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ダイキン工業株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
- 分類
- P18 .121-Z (F04B) / P18 .537-Z (F04B) / P18 .57 -Z (F04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 11項目
第1 手続の経緯
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本願は、令和3年7月5日(優先権主張 令和2年7月3日(以下「優先日」という。))の出願であって、令和3年9月3日付けの拒絶理由通知に対し、同年11月1日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和4年3月16日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して同年6月21日に審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、さらに、令和4年10月11日に上申書が提出されたものである。
第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年6月21日にされた手続補正を却下する。
[理由]
1 手続補正の内容
(1) 本件補正後の特許請求の範囲の記載
令和4年6月21日の手続補正(以下「本件補正」ともいう。)により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。下線は、補正箇所を示す。
「【請求項1】1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)、および/または、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)を含む組成物の圧縮機(21)における冷媒としての使用であって、前記圧縮機の吐出管を流れる冷媒の圧力が1MPa以上である場合の前記吐出管(95)を流れる冷媒の流速が5m/s以上となる、使用。」
(2) 本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、令和3年11月1日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~6のうち、請求項1及び2の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】エチレン系のフルオロオレフィン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、および、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)からなる群より選択される1種または2種以上を含む組成物の圧縮機(21)における冷媒としての使用であって、前記圧縮機の吐出管を流れる冷媒の圧力が1MPa以上である場合の前記吐出管(95)を流れる冷媒の流速が5m/s以上となる、使用。【請求項2】前記組成物は、前記エチレン系のフルオロオレフィンとして、1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)、1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a)、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)、モノフルオロエチレン(HFO-1141)、および、パーハロオレフィンからなる群より選択される1種または2種以上を含む、請求項1に記載の使用。」
2 本件補正の目的
本件補正は補正前の請求項1を引用する請求項2の「組成物」の選択肢から、「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)」および「1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)」を削除するとともに、「エチレン系のフルオロオレフィン」が、「1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)」および/または「1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)」であることを特定する補正である。
そうすると、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
3 独立特許要件についての判断
(1) 本件補正発明
本件補正発明は、前記1(1)に記載した本件補正後の請求項1に係る発明である。
(2) 独立特許要件1(特許法第29条第2項(進歩性))について
ア 原査定で引用された引用文献
イ 引用文献に記載された事項
(ア) 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1には、次の記載がある。なお、下線は理解の一助となるよう当審が付与した。以下同様である。
「[0004]上述したように、ハイドロフルオロオレフィン、あるいは炭化水素は、従来の冷媒であるR410又はR32と比較してGWPが小さく、地球温暖化への対策に用いる冷媒として有望な冷媒である。しかし、ハイドロフルオロオレフィン、あるいは炭化水素は、R32のような従来の冷媒と比較して体積当たりの冷凍能力が小さい。そのため、ハイドロフルオロオレフィン、あるいは炭化水素を動作冷媒とした場合に、従来の冷媒と同等の冷凍能力を達成するためには動作冷媒の流量を増加させる必要があり、動作冷媒を圧縮機に吸入する際に生じる圧力損失が増大する。・・・[0035][数1][図:0001413687000001.jpg]続きを表示(全19行)[0036] また、式(1)の冷媒流速U[m/s]は、下記の式(2)で表すことができる。式(2)において、rは圧縮機の回転数[rps]、Vstはストロークボリューム[m3]、dは第1の吸入ポート42aの直径[m]を表す。[0037][数2][図:0001413687000002.jpg]・・・[0042] 式(4)により算出した管摩擦係数λを用いて、現行品の寸法に基づいた圧縮機の吸入圧損ΔPを求める。その計算結果と計算条件とを下記の表2に示す。[0043][表2][図:0001413687000003.jpg][0044] ここで、運転条件が定まれば、冷媒密度ρ[kg/m3]、圧縮機の回転数r[rps]、冷媒粘度μ[Pa・s]も決定する。以下の説明において、一般的な冷房の設定条件として表2の条件を用いる。・・・[0068] 図8は、R32冷媒、R1234yf冷媒、R1123冷媒の混合割合を示す図である。さらに、本発明者は、表3に示すR32とR1234yfとR1123とを含む3種の混合冷媒を動作冷媒とした場合についても、実施の形態1の圧縮機100と同じく、Vst>9・(d-4・10-3)・10-3+1・10-5で、吸入圧損ΔPが急峻に上昇していることを見出した。したがって、圧縮機100は、第1の吸入ポート42aの直径d[m]と、圧縮機構部3のストロークボリュームVst[m3]との関係が、吸入圧損ΔPが急峻に上昇しない、5・10-6<Vst<9・(d-4・10-3)・10-3+1・10-5の関係を満足するように構成されていることが望ましい。ただし、R32と、R1234yfと、R1123を含む3種の混合冷媒を動作冷媒とした場合に、圧縮機に必要となる冷媒流量が変化する。そのため、動作冷媒全体の質量に対する各冷媒の割合に対して、各混合冷媒の体積比冷凍能力比から、図8の頂点A~Fについて表5に記載のように圧縮機構部3のストロークボリュームVst[m3]の下限値と上限値とを求める。[0069][表5][図:0001413687000004.jpg][0070] その結果、表5より、R32冷媒と、R1234yfと、冷媒とR1123冷媒とが、R32:R1234yf:R1123=50~70:20~40:1~20の範囲の割合で混合されている場合には、頂点EのVstの下限値と、頂点BのVstの上限値とから、ストロークボリュームVst[m3]は、6.2×10-6[m3]<Vst<60.6×10-6[m3]の範囲に設定される。[図:0001413687000005.jpg]」
(イ) 引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2には、次の記載がある。
「[0004] 上述したように、ハイドロフルオロオレフィン、あるいは炭化水素は、従来の冷媒であるR410又はR32と比較してGWPが小さく、地球温暖化への対策に用いる冷媒として有望な冷媒である。しかし、ハイドロフルオロオレフィン、あるいは炭化水素は、R32のような従来の冷媒と比較して体積当たりの冷凍能力が小さい。そのため、ハイドロフルオロオレフィン、あるいは炭化水素を動作冷媒とした場合に、従来の冷媒と同等の冷凍能力を達成するためには動作冷媒の流量を増加させる必要があり、動作冷媒を圧縮機の密閉容器から吐出する際に生じる圧力損失が増大する。・・・[0034][数1][図:0001413687000006.jpg]続きを表示(全21行)[0035] また、式(1)の冷媒流速U[m/s]は、下記の式(2)で表すことができる。式(2)において、rは圧縮機の回転数[rps]、Vstはストロークボリューム[m3]、dは第1の吐出管の直径[m]を表す。[0036][数2][図:0001413687000007.jpg]・・・[0041] 式(4)により算出した管摩擦係数λを用いて、現行品の寸法に基づいた圧縮機の吐出圧損ΔPを求める。その計算結果と計算条件とを下記の表2に示す。[0042][表2][図:0001413687000008.jpg][0043] ここで、運転条件が定まれば、冷媒密度ρ[kg/m3]、圧縮機の回転数r[rps]、冷媒粘度μ[Pa・s]も決定する。以下の説明において、一般的な冷房の設定条件として表2の条件を用いる。・・・[0060] さらに、圧縮機の吐出管4の内径d[m]の寸法は、20・10-3[m]より大きいと圧縮機から冷凍サイクルへの油の循環率が大きくなる。そのため、圧縮機の吐出管4の内径d[m]の寸法は、0<d<20・10-3の範囲で設定される。・・・[0065] 図8は、R32冷媒、R1234yf冷媒、R1123冷媒の混合割合を示す図である。さらに、本発明者は、表3に示すR32とR1234yfとR1123とを含む3種の混合冷媒を動作冷媒とした場合についても、実施の形態1の圧縮機100と同じく、Vst>9・(d-4・10-3)・10-3+1・10-5で、吐出圧損ΔPが急峻に上昇していることを見出した。したがって、圧縮機100は、吐出管の内径d[m]と、圧縮機構部3のストロークボリュームVst[m3]との関係が、吐出圧損ΔPが急峻に上昇しない、5・10-6<Vst<9・(d-4・10-3)・10-3+1・10-5の関係を満足するように構成されていることが望ましい。ただし、R32と、R1234yfと、R1123を含む3種の混合冷媒を動作冷媒とした場合に、圧縮機に必要となる冷媒流量が変化する。そのため、動作冷媒全体の質量に対する各冷媒の割合に対して、各混合冷媒の体積比冷凍能力比から、図8の頂点A~Fについて表5に記載のように圧縮機構部3のストロークボリュームVst[m3]の下限値と上限値とを求める。[0066][表5][図:0001413687000009.jpg][0067] その結果、表5より、R32冷媒と、R1234yfと、冷媒とR1123冷媒とが、R32:R1234yf:R1123=50~70:20~40:1~20の範囲の割合で混合されている場合には、頂点EのVstの下限値と、頂点BのVstの上限値とから、ストロークボリュームVst[m3]は、6.2×10-6[m3]<Vst<60.6×10-6[m3]の範囲に設定される。[図:0001413687000010.jpg]」
ウ 引用文献に記載された発明
(ア) 引用文献1に記載された発明
前記(2)イ(ア)の[0068]~[0070]及び[図8]の記載に基づいて、「R32冷媒と、R1234yfと、冷媒とR1123冷媒とが、R32:R1234yf:R1123=50~70:20~40:1~20の範囲の割合で混合されている場合」の「ストロークボリュームVst[m3]」が「6.2×10-6[m3]<Vst<60.6×10-6[m3]の範囲に設定される」点に着目し、[0036]及び[0037]の「冷媒流速U=4rVst/πd2」の式に基づいて「冷媒流速U[m/s]」の範囲を求めれば、4.7<圧縮機の吸入ポートの冷媒流速U(m/s)<46.3と算出される。そうすると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
<引用発明1>
「R32冷媒と、R1234yf冷媒と、R1123冷媒とが、R32:R1234yf:R1123=50~70:20~40:1~20の範囲の割合で含む組成物の圧縮機における冷媒としての使用であって、4.7<圧縮機の吸入ポートの冷媒流速U(m/s)<46.3である、使用。」
(イ) 引用文献2に記載された発明
前記(2)イ(イ)の[0065]~[0067]及び[図8]の記載に基づいて、「R32冷媒と、R1234yfと、冷媒とR1123冷媒とが、R32:R1234yf:R1123=50~70:20~40:1~20の範囲の割合で混合されている場合」の「ストロークボリュームVst[m3]」が「6.2×10-6[m3]<Vst<60.6×10-6[m3]の範囲に設定される」点に着目し、[0035]及び[0036]の「冷媒流速U=4rVst/πd2」の式に基づいて「冷媒流速U[m/s]」の範囲を求めれば、圧縮機の吐出管の冷媒流速U>1.2(m/s)と算出される。そうすると、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
<引用発明2>
「R32冷媒と、R1234yf冷媒と、R1123冷媒とが、R32:R1234yf:R1123=50~70:20~40:1~20の範囲の割合で含む組成物の圧縮機における冷媒としての使用であって、圧縮機の吐出管における冷媒流速U(m/s)>1.2である、使用。」
エ 本願発明と引用発明1との対比・判断
(ア) 対比
本願発明と引用発明1を対比すると、引用発明1の「R32冷媒と、R1234yf冷媒と、R1123冷媒とが、R32:R1234yf:R1123=50~70:20~40:1~20の範囲の割合で含む組成物」は本願発明の「1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)、および/または、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)を含む組成物」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)、および/または、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)を含む組成物の圧縮機(21)における冷媒としての使用。」
<相違点1-1>
本願発明は、「圧縮機の吐出管を流れる冷媒の圧力が1MPa以上である」のに対し、引用発明1は冷媒の圧力が不明である点。
<相違点1-2>
本願発明は、「吐出管(95)を流れる冷媒の流速が5m/s以上となる」のに対し、引用発明1は「4.7<圧縮機の吸入ポートの冷媒流速U(m/s)<46.3である」点。
(イ) 判断
a 構成の容易想到性
(a) 前記相違点1-1について検討する。
引用発明1を認定した引用文献1に記載されるような圧縮機と冷媒を使用した際に、吐出圧力を1MPa以上とすることは一般的な条件である(必要であれば、特開2004-211920号公報の【0047】、特開2009-270444号公報の【0035】、国際公開第2019/130432号の【0018】等を参照)から、引用発明1においても1MPa以上として運転しているか、1MPa以上として運転することは当業者が容易に想到し得たことである。
(b) 前記相違点1-2について検討する。
引用発明1を認定した引用文献1では、吸入圧損ΔPを急峻に上昇させないために「R32冷媒と、R1234yf冷媒と、R1123冷媒とが、R32:R1234yf:R1123=50~70:20~40:1~20の範囲の割合で含む組成物」を使用した際には「ストロークボリュームVst[m3]は、6.2×10-6[m3]<Vst<60.6×10-6[m3]の範囲に設定」していることから、ストロークボリュームをこの範囲で設定した結果、吐出管において冷媒流速が5m/s以上となる態様を含んでいると認められるから、相違点1-2は当業者が容易に想到し得るものである。
b 発明の効果についての検討
本願明細書の【0004】における、「本開示の目的は、冷媒の不均化反応の伝播を抑制することにある」との記載、【0075】における「この冷媒の不均化反応は、所定の高温条件、高圧条件、および、着火エネルギ条件を満たす環境下において、一定の確率で発生する。そして、発生した不均化反応は、その発生箇所から周囲に伝播してしまう場合がある。」、【0076】における「冷媒の流速が1m/sよりも遅い場合と比べて冷媒の流速が1m/s以上である場合の方が不均化反応の伝播が抑制されることを確認し、さらに冷媒の流速が速いほど不均化反応の伝播の抑制効果に優れることを確認した。」、【0081】に記載される「当該流速としては1m/sに限られず、例えば、圧縮機21の吐出管95を流れる冷媒の流速が3m/s以上となるように構成してもよいし、5m/s以上となるように構成してもよいし、さらには、10m/s以上となるように構成してもよい。このように、圧縮機21の吐出管95を流れる冷媒の流速を上げるほど、不均化反応の伝播をより効果的に抑制することが可能となる。」との記載から、発明の効果は、「冷媒の不均化反応の伝播を抑制すること」と考えられるが、このような効果は、本願明細書の【0003】に記載されるようにHFO冷媒の不均化反応が発生し伝播することは出願時に公知であるから、当然に予測し得るものである。
また、流速を5m/s以上とすることについても、本願明細書においては1m/sにおいて不均化反応の伝播が抑制されたことが記載される他は、【0081】において具体的な試験条件や試験結果を示すこと無く「当該流速としては1m/sに限られず、例えば、圧縮機21の吐出管95を流れる冷媒の流速が3m/s以上となるように構成してもよいし、5m/s以上となるように構成してもよいし、さらには、10m/s以上となるように構成してもよい。」と記載されるのみであり、5m/s以上とすることによる格別顕著な効果があるとは認められない。
c 小括
してみれば、本願発明は、引用発明1及び引用文献1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
オ 本願発明と引用発明2との対比・判断
(ア) 対比
本願発明と引用発明2を対比すると、引用発明2の「R32冷媒と、R1234yf冷媒と、R1123冷媒とが、R32:R1234yf:R1123=50~70:20~40:1~20の範囲の割合で含む組成物」は本願発明の「1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)、および/または、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)を含む組成物」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明2との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)、および/または、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)を含む組成物の圧縮機(21)における冷媒としての使用。」
<相違点2-1>
本願発明は、「圧縮機の吐出管を流れる冷媒の圧力が1MPa以上である」のに対し、引用発明2は冷媒の圧力が不明である点。
<相違点2-2>
本願発明は、「吐出管(95)を流れる冷媒の流速が5m/s以上となる」のに対し、引用発明2は「圧縮機の吐出管における冷媒流速U(m/s)>1.2である」点。
(イ) 判断
a 構成の容易想到性
(a) 前記相違点2-1について検討する。
引用発明2を認定した引用文献2に記載されるような圧縮機と冷媒を使用した際に、吐出圧力を1MPa以上とすることは一般的な条件である(必要であれば、特開2004-211920号公報の【0047】、特開2009-270444号公報の【0035】、国際公開第2019/130432号の【0018】等を参照)から、引用発明2においても1MPa以上として運転しているか、1MPa以上として運転することは当業者が容易に想到し得たことである。
(b) 前記相違点2-2について検討する。
引用発明2を認定した引用文献2では、吐出圧損ΔPを急峻に上昇させないために「R32冷媒と、R1234yf冷媒と、R1123冷媒とが、R32:R1234yf:R1123=50~70:20~40:1~20の範囲の割合で含む組成物」を使用した際には「ストロークボリュームVst[m3]は、6.2×10-6[m3]<Vst<60.6×10-6[m3]の範囲に設定」していることから、ストロークボリュームをこの範囲で設定した結果、吐出管において冷媒流速が5m/s以上となる態様を含んでいると認められる。したがって、相違点2-2は、当業者が容易に想到し得ることである。
b 発明の効果についての検討
前記第3(2)エ(イ)に記載したとおりである。
c 小括
してみれば、本願発明は、引用発明2及び引用文献2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
カ 進歩性についての審判請求人の主張
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審判請求人は、審判請求書及び上申書において、「圧縮機の吐出管を流れる冷媒の流速を5m/s以上とすることによって不均化反応の伝播が抑制されるという本願発明1の効果は、いずれの引用文献においても記載も示唆も無いことから、これらの引用文献の開示内容からも予測することは不可能である。しかも、本願発明1は、圧縮機の吐出管を流れる冷媒の流速の調整により不均化反応の伝播が抑制されることが公知である場合に、当該冷媒の流速を具体的に5m/s以上とすることでその抑制程度を最適化させた、という流速の具体的数値に特徴を有する発明ではなく、既知の効果の量的な顕著性が求められるような数値限定発明ではない。本願発明1は、圧縮機の吐出管を流れる冷媒の流速により不均化反応の伝播が抑制されることが全く知られておらず予測もできない状況において、圧縮機の吐出管を流れる冷媒の流速と不均化反応の伝播の抑制との関係を初めて見出してなされた発明である点で、単に「流速は使用する圧縮機等に応じて適宜調整される」という使用する圧縮機等に対応できるという従来の効果とは、全く異質の効果を奏しているものである。そうすると、進歩性判断において、予測できない異質の効果を奏する本願発明1の効果を参酌する際に、5m/s以上であることによる効果の量的な顕著性はなんら必要とされるものではない」との趣旨の主張をするとともに、引用文献1,2は、本発明の「圧縮機の吐出管を流れる冷媒の流速を5m/s以上とする」ことを記載又は示唆していないため、本発明は、引用文献1,2に記載された発明に基いて容易に発明をできたものではない旨を主張している。しかしながら、前記エ(イ)、オ(イ)で検討したとおり、引用発明において、「吐出管において冷媒流速が5m/s以上」とすることは、当業者が容易になし得たことといえる。よって、審判請求人の主張は採用できない。
キ 進歩性についての結論
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び引用文献1に記載された技術的事項、又は引用発明2及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
(3)独立特許要件2(特許法第36条第6項第1号(サポート要件))について
ア 判断手法
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号の要件(以下「サポート要件」という。)に適合するか否かについては、特許請求の範囲と本願明細書の発明の詳細な説明を対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、上記判断基準に基づいて、本件補正後発明が、サポート要件に適合するか、以下、検討する。
イ 本願発明が解決しようとする課題について
本願の請求項1、及び、本願明細書の【0004】における、「本開示の目的は、冷媒の不均化反応の伝播を抑制することにある」との記載を含む発明の詳細な説明の全ての記載からみて、本願発明の解決しようとする課題は、「冷媒の不均化反応の伝播を抑制すること」を含むものであると認められる。
ウ 本願発明の課題の解決手段について
本願発明は、「1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)、および/または、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)を含む組成物の圧縮機(21)における冷媒としての使用であって、 前記圧縮機の吐出管を流れる冷媒の圧力が1MPa以上である場合の前記吐出管(95)を流れる冷媒の流速が5m/s以上」となる圧縮機(21)又はそれらの使用に関する発明である。
本願明細書の発明の詳細な説明を参酌すると、本願発明が解決しようとする課題は、1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)等のHFO冷媒の不均化反応の伝播を抑制することである(段落[0021]参照)。
これに対して、本願明細書段落[0076]の実施形態には、「1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)を冷媒として用い、着火源に繋がった所定の流路を用意し、冷媒の流速を変えて、着火源で発生した不均化反応が伝播する様子を、スーパースローカメラで観察する試験を行った。この試験結果によれば、冷媒の流速が1m/sよりも遅い場合と比べて冷媒の流速が1m/s以上である場合の方が不均化反応の伝播が抑制されることを確認し、さらに冷媒の流速が速いほど不均化反応の伝播の抑制効果に優れることを確認した」と記載されているのみであり、使用した具体的な圧縮機及びそれらの評価条件に関する記載や、その他のあらゆる物質を含む多種多様な組成物を流速が5m/s以上となるように使用した具体例及び評価結果は一切示されておらず、本願発明に包含される全てのものが、本願の課題である所望する不均化反応の伝播を抑制しうるのかどうかも不明のままである。
したがって、上記実施形態の記載のみで、本願発明に包含される冷媒組成物を流速が5m/s以上となるように使用した全てのものであっても、上記課題を解決できる程度の前記効果を発現するものであるとは認められず、発明の詳細な説明に記載された事項を本願発明の範囲に及ぶまで、拡張乃至一般化できる根拠は見いだせない。
そうすると、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に照らして、上記した課題を解決できると認識できる範囲のものということはできない。
エ サポート要件についての審判請求人の主張
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審判請求人は審判請求書及び上申書において、圧縮機の内部の具体的な構造が異なっていたとしても、吐出管を流れる冷媒の流速が確保されていればよく、不均化反応が不飽和結合を有するHFO冷媒一般の性質であることからすれば、段落[0076]に記載の1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)についての明示のみで十分であり、他の冷媒について実際に試験されていなくても、当該記載に接した当業者であれば、本願発明の課題が解決されることを認識できるものであり、過度の試行錯誤を強いるものでもないとの趣旨の主張をしている。
しかしながら、不均化反応が不飽和結合を有するHFO冷媒一般の性質であっても、組成物の配合割合の違いや配合する化合物の骨格構造、官能基等が異なれば、不均化反応の伝播を抑制するのに最適な流速は、必ずしもHFO-1132のみを冷媒として使用した場合と同じとなるとまではいえないし、上記段落[0076]に記載の何ら具体的な圧縮機や評価条件も一切明らかにされていないHFO-1132の流速1m/s以上のスーパースローカメラの観察結果や、通常、組成物の性状が配合する化合物の骨格構造や官能基等の違いによって変化するという当該技術分野の技術常識等を参酌しても、何ら検証もされていない本願発明に包含される全ての組成物及び圧縮機を用いて冷媒の流速を5m/s以上で使用したものが、直ちに所望する不均化反応の伝播を抑制しうるものとはいえず、上記審判請求人の主張を容れることはできない。
オ サポート要件についての結論
よって、本願発明は、明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。
4 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和4年6月21日にされた手続補正は、前記のとおり却下されたので、本願の請求項1~6に係る発明は、令和3年11月1日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2の1の(2)に記載したとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1~6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願発明は発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、という理由を含むものである。
3 当審の判断
(1) 特許法第29条第2項について
ア 引用文献及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1,2の記載事項は、前記第2の3(2)イに記載したとおりであり、引用発明1及び2は、前記第2の3(2)ウに記載したとおりである。
イ 対比・判断
本願発明は、本件補正発明の「1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)、および/または、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)を含む組成物」について、「エチレン系のフルオロオレフィン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、および、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)からなる群より選択される1種または2種以上を含む組成物」とし、本件補正発明の「組成物」について、「1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)、および/または、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)を含む」と特定しないものである。
そうすると、本願発明と引用発明1又は2とを対比した場合、前記第2の3(2)エ(ア)の相違点1-1、1-2または第2の3(2)オ(ア)の相違点2-1,2-2の点でのみ相違するが、記第2の3(2)エ(イ)、第2の3(2)オ(イ)に記載した理由と同じ理由により、本願発明も、引用発明1又は2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2) 特許法第36条第6項第1号について
前記第2の3(3)と同様に、本願発明は、明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、本願発明の記載は同法36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-009504