2022-007377
熱可塑性複合構造体の作製方法及びこれに用いられるプリプレグテープ
- 審判番号
- 2022-007377
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-227708外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年05月17日
- 審決日
- 2023年06月27日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ザ・ボーイング・カンパニー
- 【請求人代理人】村山 靖彦
- 【請求人代理人】阿部 達彦
- 【請求人代理人】黒田 晋平
- 【請求人代理人】崔 允辰
- 分類
- P18 .113-WZ (B29C) / P18 .121-WZ (B29C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 12項目
第1 事案の概要
1 手続の経緯
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特願2017-227708号(以下「本件出願」という。)は、平成29年11月28日(パリ条約による優先権主張2017年2月13日、米国)の出願であって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
同年11月 9日提出:手続補正書、意見書
同年 5月17日提出:審判請求書
同年 5月17日提出:手続補正書
同年 5月24日提出:手続補正書(方式)
(上記審判請求書の請求の理由を補充する手続補正である。)
同年 9月 1日提出:上申書
同年 4月28日提出:手続補正書、意見書
(この手続補正書による手続補正を、以下「本件補正」という。)
第2 本件発明
本件出願の請求項1~8に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、次のものである。
「 【請求項1】熱可塑性複合材プリフォームを作製する方法であって、高融点熱可塑性複合材プライのスタックを組み立てるステップと、前記高融点熱可塑性複合材プライ間に低融点熱可塑性樹脂を導入するステップと、前記低融点熱可塑性樹脂を溶融させることによって、前記高融点熱可塑性複合材プライを互いに粘着させるステップとを含み、前記低融点熱可塑性樹脂を導入するステップが、前記熱可塑性複合材プリフォーム内で前記高融点熱可塑性複合材プライの位置合わせを維持するように、前記高融点熱可塑性複合材プライを粘着させるパターンで前記高融点熱可塑性複合材プライのそれぞれの表面に前記低融点熱可塑性樹脂の粒子を塗布するステップを含む、方法。」
第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、本件出願の請求項1に係る発明における「低融点熱可塑性樹脂を導入するステップが、熱可塑性複合材プリフォーム内で前記高融点熱可塑性複合材プライの位置合わせを維持するように、前記高融点熱可塑性複合材プライ間の粘着を容易にするために必要な前記低融点熱可塑性樹脂の量を最小化するパターン」という発明特定事項における「最小化するパターン」が具体的にどのようなパターンであるのかが不明であるため、本件出願の請求項1及び上記発明特定事項を含む請求項2~8に係る発明が明確でないことから、本件出願の特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない、というものである。
上記に加えて、当審拒絶理由では、後記「第4」に示す原査定の拒絶の理由(新規性及び進歩性)を留保するものである。
第4 原査定の概要(新規性及び進歩性)
原査定の概要は、本件出願の請求項1~10に係る発明は、[A]本件優先日前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない、又は、[B]本件優先日前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
第5 当合議体の判断
1 当審拒絶理由について
当審拒絶理由において「どのようなパターンであるのかが不明である」とされた、補正前の請求項1における「熱可塑性複合材プリフォーム内で前記高融点熱可塑性複合材プライの位置合わせを維持するように、前記高融点熱可塑性複合材プライ間の粘着を容易にするために必要な前記低融点熱可塑性樹脂の量を最小化するパターン」との記載が、本件補正によって「熱可塑性複合材プリフォーム内で前記高融点熱可塑性複合材プライの位置合わせを維持するように、前記高融点熱可塑性複合材プライを粘着させるパターン」へと変更された。
したがって、本件補正によって当審拒絶理由は解消した。
しかしながら、以下に示すように、当審査拒絶理由において留保していた原査定の拒絶の理由(新規性及び進歩性)は解消していない。
2 引用文献の記載事項及び引用発明
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(1)引用文献1の記載
原査定において、引用文献1として引用された、国際公開第2013/008720号公報は、本件優先日前の2013年(平成25年)1月17日に、日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。
なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「技術分野[0001] 本発明は、例えば、熱可塑性樹脂プリプレグ同士を積層する、または、熱可塑性プリプレグを用いてインサート(またはアウトサート)成形する際に、優れた接着性を発現する熱可塑性樹脂プリプレグ、それを用いた予備成形体および複合成形体、ならびにそれらの製造方法に関する。背景技術[0002] 強化繊維と熱可塑性マトリックス樹脂からなる従来の熱可塑性樹脂プリプレグは、プリプレグ同士を重ね合わせたプレス成形や、プリプレグをインサート(またはアウトサート)した射出成形、射出プレス成形等において、プリプレグ間の接着性が低かった。そのため、成形された複合成形体そのものの機械特性を十分に発揮する前に熱可塑性樹脂プリプレグが剥離してしまうという問題があった。続きを表示(全29行)[0003] この問題に対し、接着性改善のため、熱可塑性樹脂プリプレグのマトリックス樹脂そのものに、融点が低く、流動性の高い樹脂を使用する手法があるが(例えば、特許文献1)、融点の低い低分子量の樹脂では機械強度に劣るという問題がある。[0004] さらに、熱可塑性樹脂プリプレグの接着性を高めるために、例えば温度や圧力を上げてプレス成形を行うと、プレス成形時に流動性の高い樹脂と共に強化繊維が流れて配向が乱れてしまう傾向にあり、複合成形体の機械強度や反り、外観の制御が難しく、成形条件が限られ、また複合成形体の薄肉化が困難であった。・・・中略・・・発明が解決しようとする課題[0006] そこで本発明の課題は、上記のような現状に鑑み、例えば、熱可塑性樹脂プリプレグ同士を積層する、または、熱可塑性プリプレグを用いてインサート(またはアウトサート)成形する際に、熱可塑性樹脂プリプレグのマトリックス樹脂そのものの種類による機械特性の低下を発生させることなくプリプレグ表面の接着性を効率よく向上し、それを用いた予備成形体および/または複合成形体の成形時の望ましい接着性を確保することを可能とした熱可塑性樹脂プリプレグ、それを用いた予備成形体および複合成形体、ならびにそれらの製造方法を提供することにある。課題を解決するための手段・・・中略・・・[0022] 本発明は、上記のような熱可塑性樹脂プリプレグが、複数積層されて、加熱・加圧されて、熱可塑性樹脂プリプレグ同士の間に介在する熱可塑性樹脂(B)を介して一体化している予備成形体も提供する。このような予備成形体においては、プリプレグ同士が優れた接着性を有する熱可塑性樹脂(B)を介して一体化されているので、過酷な成形条件下でも、プリプレグが容易に剥離することが抑えられる。また、熱可塑性樹脂プリプレグを用いて前記予備成形体や後述の複合成形体を成形する際、例えば、成形する前にプリプレグ同士を仮接着(仮固定、仮どめ)する場合がある。この場合にも、前記熱可塑性樹脂(B)を介して仮接着することができる。かかる仮接着により、成形する前に、例えばプリプレグ同士の積層体を安定して搬送できる適度なコシを付与できるだけでなく、プリプレグの目ズレを防止して、正確な配向角度を維持できる等の形態安定効果をも発現し、優れた取扱性を付与することができる。更に、仮接着(仮固定、仮どめ)であるため、不都合が生じた場合は、例えば熱可塑性樹脂(B)の融点を超え、熱可塑性樹脂(A)の融点未満に加熱して、仮接着を剥がし、改めて接着することもできるのである。・・・中略・・・[0032] さらに、本発明は、前述のような熱可塑性樹脂プリプレグが複数積層された熱可塑性樹脂プリプレグ同士、または、上記のような予備成形体が、プレス成形されている複合成形体についても提供する。このような複合成形体においては、プレス成形において熱可塑性樹脂プリプレグの表面部位に偏在している熱可塑性樹脂(B)が優れた接着性を発揮し、容易に良好なプレス成形が可能となる。また、プリプレグ同士のプレス成形では、プリプレグに使用しているマトリックス樹脂(構成要素(I))が溶融しない低温で熱可塑性樹脂(B)を介しての接着が可能となる。したがって、マトリックス樹脂中の強化繊維の配列を乱すことなく、容易に所望の積層体が得られる。[0033] 本発明に係る熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法は、上述したような熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法であって、少なくとも次の工程を経ることを特徴とする方法からなる。工程(1):少なくとも構成要素(III)の基材を引き出す引出工程工程(2):引出工程(1)で引き出された構成要素(III)の基材に溶融した構成要素(I)を含浸させる樹脂含浸工程工程(3):樹脂含浸工程(2)で得られた樹脂含浸物の表面のみに構成要素(II)を接着する樹脂接着工程工程(4):樹脂接着工程(3)で得られた熱可塑性樹脂プリプレグを冷却して引き取る引取工程・・・中略・・・発明を実施するための形態[0050] 以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。・・・中略・・・[0055] 図3に示す方法においては、ダイ13の出口までは図1に示した方法と同等であり、実質的に樹脂含浸物19がダイ13から出た直後に、樹脂接着工程において、樹脂含浸物19の表面部位に粒子状の熱可塑性樹脂(B)31(例えば、前述の一般式(1)で表される環状ポリフェニレンスルフィド)が散布されて、樹脂含浸物19の表面に接着される。散布された熱可塑性樹脂(B)31は、融点が低いので、高温状態の樹脂含浸物19によって多かれ少なかれ溶融し、樹脂含浸物19の表面上で全面にわたって、あるいは、まばらに、層状に広がり、熱可塑性樹脂(B)層32を形成する。上記樹脂接着工程で得られた熱可塑性樹脂プリプレグ33もまた、例えば図1に示したのと同様の断面形態を有しており(熱可塑性樹脂(B)層32が連続的に広がっている場合と、断続的に広がっている場合があり得る)、これが冷却されて引き取られる。この引取工程については、図示を省略するが、巻取手段や、シート状のまま適当な寸法に切断しつつ積み重ねていく手段等、適宜周知の手段を採用できる。・・・中略・・・[0057] このように製造された熱可塑性樹脂プリプレグ26、33、35は、前述したように、表面部位に偏在する熱可塑性樹脂(B)により、優れた接着性を有する。この優れた接着性は表面部位のみに付与されたものであるから、内層部の強化繊維とマトリックス樹脂(熱可塑性樹脂(A))との望ましいプリプレグ形態はそのまま維持されており、インサート成形やプレス成形における接着性が向上されつつ、成形体としての所望の機械特性が確保される。したがって、この熱可塑性樹脂プリプレグ26、33、35を用いた予備成形体や複合成形体についても、所望の成形特性、機械特性が確保される。・・・中略・・・産業上の利用可能性[0060] 本発明に係る熱可塑性樹脂プリプレグは、例えば、熱可塑性樹脂プリプレグ同士を積層する、または、熱可塑性プリプレグを用いてインサート(アウトサート)成形する際に、機械特性を損なうことなく優れた接着性が要求されるあらゆる成形に適用でき、とくにインサート成形やプレス成形に好適なものである。」
イ 「請求の範囲[請求項1]少なくとも次の構成要素(I)~(III)により構成されていることを特徴とする熱可塑性樹脂プリプレグ。構成要素(I):直鎖状または分岐状の高分子構造を有する熱可塑性樹脂(A)20~60重量部続きを表示(全36行)構成要素(II):表面部位に偏在し、該熱可塑性樹脂(A)よりも低い融点を有する熱可塑性樹脂(B)2~10重量部構成要素(III):強化繊維30~78重量部・・・中略・・・[請求項4]前記熱可塑性樹脂(A)がポリアミド6樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド46樹脂、または、ポリアミド9T樹脂からなり、前記熱可塑性樹脂(B)が共重合ポリアミド樹脂、ポリアミド11樹脂、ポリアミド12樹脂、または、ポリアミド610樹脂からなる、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂プリプレグ・・・中略・・・[請求項10]前記熱可塑性樹脂(B)が、前記熱可塑性樹脂(A)の全表面に層状に存在している、請求項1~9のいずれかに記載の熱可塑性樹脂プリプレグ。[請求項11]前記熱可塑性樹脂(B)が、前記熱可塑性樹脂(A)の表面に粒子状または繊維状に存在している、請求項1~9のいずれかに記載の熱可塑性樹脂プリプレグ。[請求項12]シート状に構成されている、請求項1~11のいずれかに記載の熱可塑性樹脂プリプレグ。・・・中略・・・[請求項16]請求項1~15のいずれかに記載の熱可塑性樹脂プリプレグが、複数積層されて、加熱・加圧されて、熱可塑性樹脂プリプレグ同士の間に介在する熱可塑性樹脂(B)を介して一体化している予備成形体。・・・中略・・・[請求項24]請求項1~15のいずれかに記載の熱可塑性樹脂プリプレグが複数積層された熱可塑性樹脂プリプレグ同士、または、請求項16~18に記載の予備成形体が、プレス成形されている複合成形体。[請求項25]請求項1~15のいずれかに記載の熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法であって、少なくとも次の工程を経ることを特徴とする、熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法。工程(1):少なくとも構成要素(III)の基材を引き出す引出工程工程(2):引出工程(1)で引き出された構成要素(III)の基材に溶融した構成要素(I)を含浸させる樹脂含浸工程工程(3):樹脂含浸工程(2)で得られた樹脂含浸物の表面のみに構成要素(II)を接着する樹脂接着工程工程(4):樹脂接着工程(3)で得られた熱可塑性樹脂プリプレグを冷却して引き取る引取工程・・・中略・・・[請求項32]前記樹脂接着工程(3)において、前記樹脂含浸工程(2)を経た樹脂含浸物の表面に粒子状または繊維状の構成要素(II)を接着する、請求項25~31のいずれかに記載の熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法。[請求項33]請求項1~15のいずれかに記載の熱可塑性樹脂プリプレグを複数積層し、加熱・加圧して、熱可塑性樹脂プリプレグ同士の間に介在する熱可塑性樹脂(B)を介して一体化する、予備成形体の製造方法。・・・中略・・・[請求項39]請求項1~15のいずれかに記載の熱可塑性樹脂プリプレグを複数積層したもの、または、請求項16~18のいずれかに記載の予備成形体をプレス成形する、複合成形体の製造方法。」
ウ 「[図3][図:0001404134000001.jpg]」
(2)引用発明
上記(1)によれば、引用文献1(特に、請求の範囲の[請求項33]及び[請求項39])には、「プレス成形」によって「複合成形体」とされ、「プリプレグ同士が優れた接着性を有する熱可塑性樹脂(B)を介して一体化されているので、過酷な成形条件下でも、プリプレグが容易に剥離することが抑えられる」([0022])「予備成形体」であって、「請求項1~15のいずれかに記載の熱可塑性樹脂プリプレグを複数積層し、加熱・加圧して、熱可塑性樹脂プリプレグ同士の間に介在する熱可塑性樹脂(B)を介して一体化する、予備成形体の製造方法」が記載されている。
ここで、上記「熱可塑性樹脂プリプレグ」は、[請求項1]を引用する[請求項11]の記載によれば、「構成要素(I):直鎖状または分岐状の高分子構造を有する熱可塑性樹脂(A)」「構成要素(II):表面部位に偏在し、該熱可塑性樹脂(A)よりも低い融点を有する熱可塑性樹脂(B)」及び「構成要素(III):強化繊維」により構成され、「前記熱可塑性樹脂(B)が、前記熱可塑性樹脂(A)の表面に粒子状または繊維状に存在している」構造を有することが理解される。加えて、[請求項25]を引用する[請求項32]には、「工程(1)」、「工程(2)」及び「工程(3)」を有する「熱可塑性樹脂プリプレグ」の製造方法が記載されている。
さらに、引用文献1の[0055]及び図3には、上記「工程(3)」について、「樹脂含浸物19の表面部位に粒子状の熱可塑性樹脂(B)31が散布されて、樹脂含浸物19の表面に接着される。」と記載されている。
以上によれば、引用文献1には、次の「予備成形体の製造方法」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「工程(1):下記構成要素(III)の基材を引き出す引出工程工程(2):引出工程(1)で引き出された下記構成要素(III)の基材に溶融した下記構成要素(I)を含浸させる樹脂含浸工程工程(3):樹脂含浸工程(2)で得られた樹脂含浸物の表面部位に粒子状の下記構成要素(II)が散布されて、樹脂含浸物の表面に接着される樹脂接着工程工程(4):樹脂接着工程(3)で得られた熱可塑性樹脂プリプレグを冷却して引き取る引取工程を経て、熱可塑性樹脂プリプレグを製造し、続きを表示(全13行)上記熱可塑性樹脂プリプレグを複数積層し、加熱・加圧して、熱可塑性樹脂プリプレグ同士の間に介在する熱可塑性樹脂(B)を介して一体化する、予備成形体の製造方法において、上記熱可塑性樹脂プリプレグは、下記構成要素(I)~(III)により構成されており、構成要素(I):直鎖状または分岐状の高分子構造を有する熱可塑性樹脂(A)20~60重量部構成要素(II):表面部位に偏在し、該熱可塑性樹脂(A)よりも低い融点を有する熱可塑性樹脂(B)2~10重量部構成要素(III):強化繊維30~78重量部前記熱可塑性樹脂(B)が、前記熱可塑性樹脂(A)の表面に粒子状または繊維状に存在しており、上記予備成形体は、プレス成形されて複合成形体とされるものであり、また、上記予備成形体においては、プリプレグ同士が優れた接着性を有する熱可塑性樹脂(B)を介して一体化されているので、過酷な成形条件下でも、プリプレグが容易に剥離することが抑えられる、予備成形体の製造方法。」
2 対比・判断
本件発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
(1)高融点熱可塑性複合材プライ、低融点熱可塑性樹脂及び熱可塑性複合材プリフォーム
引用発明の「予備成形体」は、「構成要素(I):直鎖状または分岐状の高分子構造を有する熱可塑性樹脂(A)」、「構成要素(II):表面部位に偏在し、該熱可塑性樹脂(A)よりも低い融点を有する熱可塑性樹脂(B)」及び「構成要素(III):強化繊維」「により構成されており、」「工程(1)」~「工程(4)」を経て、製造された「熱可塑性樹脂プリプレグを複数積層し、加熱・加圧して、熱可塑性樹脂プリプレグ同士の間に介在する熱可塑性樹脂(B)を介して一体化」して製造され、「プレス成形されて複合成形体とされる」。
上記各工程によれば、「構成要素(II)」は、「引出工程(1)で引き出された下記構成要素(III)の基材に溶融した下記構成要素(I)を含浸させる樹脂含浸工程」「で得られた樹脂含浸物の表面」に接着される。
また、上記構造・材質、製法及び(成形されて複合成形体とされる)用途からみて、引用発明の「予備成形体」は、本件発明の「熱可塑性複合材プリフォーム」に相当する。
さらに、引用発明の「予備成形体」を構成する、「構成要素(III):強化繊維」「の基材に溶融した構成要素(I):直鎖状または分岐状の高分子構造を有する熱可塑性樹脂(A)を含浸させた樹脂含浸物」が、本件発明の「高融点熱可塑性複合材プライ」に、「構成要素(II):表面部位に偏在し、該熱可塑性樹脂(A)よりも低い融点を有する熱可塑性樹脂(B)」が、本件発明の「低融点熱可塑性樹脂」にそれぞれ相当する。
(2)高融点熱可塑性複合材プライのスタックを組み立てるステップ、高融点熱可塑性複合材プライを互いに粘着させるステップ
上記(1)の対比結果からみて、引用発明の「可塑性樹脂プリプレグを複数積層し、加熱・加圧して、熱可塑性樹脂プリプレグ同士の間に介在する熱可塑性樹脂(B)を介して一体化する」工程における、「可塑性樹脂プリプレグを複数積層」までの工程が、本件発明の「高融点熱可塑性複合材プライのスタックを組み立てるステップ」に相当する。
また、上記「一体化する」工程における「一体化」が、相対的に低い融点を有する「熱可塑性樹脂(B)」の溶融による粘着で実現されていることは明らかである。そうすると、引用発明の「可塑性樹脂プリプレグを複数積層し、加熱・加圧して、熱可塑性樹脂プリプレグ同士の間に介在する熱可塑性樹脂(B)を介して一体化する」工程において、「積層し」た後、「加熱・加圧して、熱可塑性樹脂プリプレグ同士の間に介在する熱可塑性樹脂(B)を介して一体化する」工程が、本件発明の「前記低融点熱可塑性樹脂を溶融させることによって、前記高融点熱可塑性複合材プライを互いに粘着させるステップ」に相当する。
(3)高融点熱可塑性複合材プライ間に低融点熱可塑性樹脂を導入するステップ
引用発明の製造方法は、「樹脂接着工程(3)」、すなわち、「工程(3):樹脂含浸工程(2)で得られた樹脂含浸物の表面部位に粒子状の下記構成要素(II)が散布されて、樹脂含浸物の表面に接着される樹脂接着工程」を経て得た、「熱可塑性樹脂プリプレグを複数積層し、加熱・加圧して、熱可塑性樹脂プリプレグ同士の間に介在する熱可塑性樹脂(B)を介して一体化する」工程を有する。
上記(1)及び上記一連の工程からみて、引用発明の製造方法は、「構成要素(III):強化繊維」「の基材に溶融した構成要素(I):直鎖状または分岐状の高分子構造を有する熱可塑性樹脂(A)を含浸させた樹脂含浸物」の間に「構成要素(II):表面部位に偏在し、該熱可塑性樹脂(A)よりも低い融点を有する熱可塑性樹脂(B)」を導入するステップを有し、「構成要素(II)」は「樹脂含浸物」それぞれの表面に散布されて、「樹脂含浸物」を粘着させるパターンで偏在していることが理解される。
また、引用発明の「予備成形体においては、プリプレグ同士が優れた接着性を有する熱可塑性樹脂(B)を介して一体化されているので、過酷な成形条件下でも、プリプレグが容易に剥離することが抑えられる」。このことは、引用発明の「予備成形体」内で、各「構成要素(III):強化繊維」「の基材に溶融した構成要素(I):直鎖状または分岐状の高分子構造を有する熱可塑性樹脂(A)を含浸させた樹脂含浸物」(「高融点熱可塑性複合材プライ」)の位置合わせが維持されていることを意味する。
以上によれば、引用発明の製造方法は、本件発明において、「熱可塑性複合材プリフォーム内で前記高融点熱可塑性複合材プライの位置合わせを維持するように、前記高融点熱可塑性複合材プライを粘着させるパターンで前記高融点熱可塑性複合材プライのそれぞれの表面に前記低融点熱可塑性樹脂の粒子を塗布するステップを含む」とされる、「高融点熱可塑性複合材プライ間に低融点熱可塑性樹脂を導入するステップ」を有する。
(4)熱可塑性複合材プリフォームを作成する方法
上記(1)~(3)によれば、引用発明の「予備成形体の製造方法」は、本件発明の「熱可塑性複合材プリフォームを作製する方法」に相当する。
以上総合すると、本件発明と引用発明との間には相違点はない。
よって、本件発明は引用文献1に記載された発明である。
また、仮に本件発明と引用文献1に記載された発明が相違したとしても、本件発明は、少なくとも引用文献1に記載された発明に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 請求人の主張について
(1)令和4年5月24日に提出された手続補正書によって補正された審判請求書及び同年9月1日に提出された上申書における請求人の主張は、本件補正によって削除された「最小化するパターン」という構成を前提とした主張であるから、当該構成が削除された以上、上記主張は採用すべき理由がない。
(2)令和3年11月9日に提出された意見書において、請求人は、「引用文献1には、本願請求項1発明の「高融点熱可塑性複合材プライのスタック」が開示されておりません。」及び「引用文献1には「高融点熱可塑性複合材プライのスタック」が開示されていないので、引用文献1には、本願請求項1発明の「前記高融点熱可塑性複合材プライ間に低融点熱可塑性樹脂を導入するステップ」及び「前記低融点熱可塑性樹脂を溶融させることによって、前記高融点熱可塑性複合材プライを互いに粘着させるステップ」が開示されておりません。」と主張する。
しかしながら、上記「2 対比・判断」に示したとおり、引用文献1には、「高融点熱可塑性複合材プライのスタック」、「前記高融点熱可塑性複合材プライ間に低融点熱可塑性樹脂を導入するステップ」及び「前記低融点熱可塑性樹脂を溶融させることによって、前記高融点熱可塑性複合材プライを互いに粘着させるステップ」は記載されている。
したがって、上記主張は採用すべき理由がない。
(3)令和5年4月28日に提出された意見書において、請求人は、「拒絶査定において引用された国際公開第2013/008720号(以下、引用文献1という)には、本願請求項1発明の「前記低融点熱可塑性樹脂を導入するステップが、前記熱可塑性複合材プリフォーム内で前記高融点熱可塑性複合材プライの位置合わせを維持するように、前記高融点熱可塑性複合材プライを粘着させるパターンで前記高融点熱可塑性複合材プライのそれぞれの表面に前記低融点熱可塑性樹脂の粒子を塗布するステップを含む」との構成が開示されておりません。」と主張する。
しかしながら、上記「2 対比・判断」に示したとおり、引用文献1には、上記構成は記載されている。
したがって、上記主張は採用すべき理由がない。
4 小括
本件発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本件発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
第5 むすび
以上のとおり、本件出願の請求項1に係る発明は、特許法29条1項3号及び特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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