特許拒絶査定不服審判
2022-003288
大気腐食のその場観察装置および観察方法
- 審判番号
- 2022-003288
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-069776
- 請求日
- 2022年03月03日
- 審決日
- 2023年04月18日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日鉄ステンレス株式会社
- 【請求人代理人】松沼 泰史
- 【請求人代理人】大浪 一徳
- 【請求人代理人】勝俣 智夫
- 【請求人代理人】山口 洋
- 【請求人代理人】堀田 耕一郎
- 【請求人代理人】山口 健吾
- 【請求人代理人】飯田 恭宏
- 【請求人代理人】井口 翔太
- 審判長/審判官
- 審判長 石井 哲
- 審判官 長井 真一
- 審判官 ▲高▼見 重雄
- 分類
- P18 .121-WZ (G01N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018- 69776「大気腐食のその場観察装置および観察方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月17日出願公開、特開2019-178997〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年3月30日の出願であって、令和3年10月29日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、同年12月17日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和4年1月5日付けで拒絶査定がなされ、同年3月3日に審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。
その後、同年9月5日付けで当審より拒絶理由を通知したところ、同年11月4日に意見書が提出された。
第2 本願発明
令和4年3月3日付け手続補正書による補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「金属材料からなる試料が内部に設置される密閉可能な試験槽と、
前記試験槽の上面または側面の少なくとも一方に設けられた加熱機能付きガラスからなる観察用窓と、
前記試験槽に接続され、前記試験槽内の空気の温度および湿度を制御することで、温度が35℃~60℃±1℃で相対湿度が95%RH~25%RH±10%である乾燥状態と、温度が50℃±1℃で相対湿度が95%RH以上である湿潤状態とを切り替える空気制御装置と、
前記試験槽の外側から前記観察用窓を介して、ハロゲン化物溶液の1つまたは複数の液滴が滴下された状態の前記試料の表面に生じている前記液滴における腐食を観察する光学系測定手段と、
を具備してなり、
前記試験槽の下側には、前記試験槽内の空気の対流による振動を減衰させる除振台が配設され、
前記空気制御装置の制御可能範囲が、温度:15~60℃、湿度:20~90%であり、
前記空気制御装置の循環流量が、0.01~3.00m3であることを特徴とする大気腐食のその場観察装置。」
第3 拒絶の理由
令和4年9月5日付けで当審より通知した拒絶理由は、以下のとおりである。
(進歩性)本件出願の請求項1、2に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:片山 英樹,他2名,「大気腐食マルチモニタリングシステム
による液薄膜下での炭素鋼の初期腐食挙動」,表面技術,2003
年,第54巻,第12号,p.1022-1027,
インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/
article/sfj/54/12/54_12_1022/_article/-char/ja/>
引用文献2:特開平4-138337号公報
引用文献3:須賀 茂雄,「解説 表面処理鋼板の腐食促進試験の国際規格
化」,表面技術,2011年,第62巻,第1号,p.30-34,
インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/
article/sfj/62/1/62_1_30/_pdf/-char/ja>
引用文献4:国際公開第2010/125748号
引用文献5:特開2017-213966号公報
引用文献6:特開平11-193939号公報
第4 引用文献の記載等
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
引用文献1には、次の記載がある。
ア 1023頁
「2.1 恒温恒湿室
恒温恒湿室の試験室内サイズはW3020×H2100×D4070mmであり、試験室内の環境を制御した状態で室内での作業が可能である。試験室内の温度は
-30℃から80℃、湿度は10%R.H.から95%R.H.まで制御可能で、50パターン(最大1000ステップ)まで制御プログラムを作成できる。著者らは4)は屋外における10日間の温度および相対湿度の変化をこの恒温恒湿室内で再現し、屋外での炭素鋼の初期大気腐食挙動についてシミュレーションの可能性を検討している。
2.2 表面のその場観察
表面のその場観察には、キーエンス製デジタルHFマイクロスコープ(VH-8000)を用い、レンズには長距離ズームレンズを用いた。本レンズによる観察距離は54mm、倍率は35倍から245倍までの観察が可能であり、また、レンズ部は被観察物に対して角度を変えることができる。さらに、デジタルHFマイクロスコープは録画機能を有しており、最小1分間隔での表面変化の追跡が可能であり、恒温恒湿室内でのレンズの結露を防止しながら表面のその場観察ができる。」
イ 1024頁
「3.実験方法
3.1 試料電極
試料電極には、図4に示す炭素鋼(SS400)製の2電極式同心リング型電極(以下、同心電極)を用いた。この同心電極は、ピン型電極とリング型電極を平板から切り出し、リード線をはんだ付けした後、100μmの厚さのテフロン製ギャップを介して、エポキシ樹脂に同心円状に埋め込むことにより作成した。両電極の面積は同じである。
3.2 薄膜下での表面電位と大気腐食速度のモニタリング
表面電位および大気腐食速度のモニタリングは、マルチモニタリングシステムを用い、温度および相対湿度を制御した環境下で行った。同心電極はチャンバー内で地面に対して水平になるように設置した。同心電極表面にはあらかじめ人工海水・・・および10分の1に希釈した人工海水を1600μL滴下し、滴下後すぐに、チャンバー内で温度25℃、相対湿度30%の一定環境で24時間以上乾燥させた。乾燥後、温度を25℃一定に保ちながら相対湿度を30%から95%まで12時間間隔で変化させ、表面電位および大気腐食速度を連続的に測定した。
表面電位の測定は、ピン型電極表面について定点測定で連続的に行い、測定間隔は1分とした。一方、大気腐食速度の測定では、ピン型およびリング型電極間の印加電圧を10mVとし、10kHzおよび10mHzの2周波数でのインピーダンスを電位測定と同時に約5分間隔でモニターした。測定の際の同心電極および電位測定用プローブの配置図を図5に示す。」
ウ Fig.1(1023頁)
「
[図:0001398842000001.jpg]
」
(2)引用発明
上記(1)によれば、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
(引用発明)
恒温恒湿室の試験室内の温度は-30℃から80℃、湿度は10%R.H.から95%R.H.まで制御可能で、50パターンまで制御プログラムを作成でき、
表面のその場観察にはマイクロスコープを用い、レンズには長距離ズームレンズを用い、倍率は35倍から245倍までの観察が可能であり、録画機能を有しており、最小1分間隔での表面変化の追跡が可能であり、恒温恒湿室内でのレンズの結露を防止しながら表面のその場観察ができ、
炭素鋼(SS400)を試料として用い、チャンバー内で地面に対して水平になるように設置し、人工海水を滴下し、滴下後すぐに、温度25℃、相対湿度30%で乾燥させ、乾燥後、温度を25℃一定に保ちながら相対湿度を30%から95%まで12時間間隔で変化させる、
大気腐食マルチモニタリングシステム。
2 引用文献2
引用文献2には、次の記載がある。
(2頁左下欄6行~同頁右下欄13行)
「2は透視窓であり、試験槽上蓋部3に設けられている。ここで試験槽上蓋部3は山形の傾斜面を形成するよう屋根型に形成されている。このように傾斜した試験槽上蓋部3に透視窓2を設けるのは、所定の間隔をあけて配列された複数の試験片の傾斜面に相対して観察、撮影を行なえるようにするためである。透視窓2は、ガラス、透明プラスチック等の透明材料で形成されている。・・・
4は曇り防止手段であり、ヒーター5および水分除去ワイパー6で構成されている。
ヒーター5は透視窓を加熱し、透視窓を試験槽内の温度と同等の温度に保持することで透視窓の曇りや水滴付着を防止するために設けられている。ヒーター5としては、透視窓の視界を遮らず、かつ、透視窓全体を均一に加熱できる透明電動ヒーターを用いることが好ましい。・・・透明電動ヒーターは、透視窓2の内側面または外側面に貼付して配設するか、あるいは一枚の透明窓材の間に配設してもよい・・・・」
3 引用文献3
引用文献3には、次の記載がある。
「4.2 複合サイクル試験
表5に、現在ISO/TC/156及びTC35(塗料)で規格化されている規格の一覧とサイクル条件を示す。基本的に乾燥、湿潤、塩水噴霧(シャワー)の基本条件の組み合わせにより構成されている。
・・・
ISO14993およびISO11997-1のA法は日本より提案した試験方法で、当初、主に融雪塩による環境の対応とされ近似した結果が得られている。現在、サイクル試験の一般的な試験方法として、自動車関連のみならず、建材などでも幅広く用いられている。」(32頁右欄5行~下から6行)
「5.1 腐食促進試験規格の新たな動き
腐食再現に重点を置いた海塩雰囲気下における腐食サイクル試験が日本からISO規格に提案されている。日本側提案は、ステンレス鋼など高耐食性材料用のA法と、表面処理鋼板用のB法の2種類があり、それぞれの材料に合わせて乾湿サイクルの条件が若干異なるが、どちらの試験方法も、試験材料(試験片)に微細な人工海水を均一に腐食させ、屋外環境を再現した絶対湿度一定の温湿度条件下で暴露する方法である。・・・」(33頁左欄4行~右欄4行)
・表5(当審にて抜粋)
[図:0001398842000002.jpg]
4 引用文献4
引用文献4には、次の記載がある。
「[0006] 特開2007-271551号公報特許第3113823号公報特開平5-164684号公報
[0007] 特許文献1及び2の試験装置では、試験室と空調室(又は調整槽)との間で空気が循環する。しかしながら、これらの試験装置では、試験室内において空気の流れを正確にコントロールすることは困難なため、供試体上の結露をほぼ均一な状態に維持することは困難である。
[0008] 一方、特許文献3の試験装置では、温度及び湿度が調整された空気がダクト内を流れて試験室内の試料台上に導かれるので、ダクトを流れてきた空気を直接、供試体に当てることができる。このため、供試体の温度を試験室全体の温度よりも低温にすることができて、供試体に結露を発生させることができる。しかしながら、ダクトの出口が供試体のすぐ上に位置しているので、ダクト内で生じた結露水が供試体上に落ちる虞がある。このため、供試体上の結露をほぼ均一な状態に維持することは困難である。
[0009] また、特許文献1から3の何れの試験装置も試験室と空調室とが一体的に形成される構成なので、空調室の振動が試験室内に伝わってしまい、これにより、結露粒が融合したり、流れたりして供試体の結露状態に影響を及ぼす虞がある。このため、供試体が振動を受けることによっても、供試体上の結露をほぼ均一な状態に維持することは困難となる。」
5 引用文献5
引用文献5には、次の記載がある。
「【0014】
そして、宇宙環境試験装置100において光学系試験等が行われる際には、該真空ポンプの運転に伴って発生する振動や、冷却に用いる冷媒の流れによる振動が光学系試験等に影響に及ぼさないように、防振対策が施される。」
6 引用文献6
引用文献6には、次の記載がある。
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来の恒温室の空調においては、冷却装置bで発生する振動、搬送装置cの振動、低温空気gの流れの振動等が原因となって、振動、音が発生し、ダクトe等を伝わって恒温室aに伝播して、恒温室aに振動、騒音を発生するという問題があった。特に、例えば電子顕微鏡室等のような振動を遮断する必要のある恒温室の場合に、ダクトe等を伝わって恒温室aに伝播して、恒温室aに振動が発生するという問題があった。
【0004】本発明の目的は、電子顕微鏡室、半導体実験室等に用いられ、室内に振動や騒音を発生させる恐れのない輻射式空調システムを提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明の輻射式空調システムは、恒温恒湿とする恒温室と、その外側に設けられて恒温室との間に空気流路を形成する箱状の外壁と、上記空気流路内に配設された冷却器とを備え、上記空気流路内に上記冷却器で冷却された冷気を自然対流で循環させて、恒温室の壁を冷却し、該壁からの輻射により恒温室内を冷房することにより、冷却器で冷気を作る際に、強制ファン等を用いておらず、自然循環で熱交換して恒温室の壁を冷却しており、また、恒温室内の冷却も輻射で行なうことにより、送風機等の搬送機器の振動や騒音が伝播する恐れがなく、恒温室内に振動や騒音を発生させることがないものである。また、放熱側が空気流路内に突出され、吸熱側が恒温室の壁に埋設されたヒートパイプを備えたことにより、恒温室の壁を冷却する冷却効率を高めるとともに、恒温室内の冷却効果を高めることができ、空気流路の自然対流を促進することができる。また、恒温室と外壁とが免震装置を介して絶縁されていることにより、恒温室内に振動や騒音を発生させることがないものである。さらに、恒温室を電子顕微鏡室、半導体実験室または除震台とすることにより、高度に振動を嫌う施設の冷房を容易に行なうことができる。
【0006】
【発明の実施の形態】図1及び図2を参照して本発明の1実施例を説明する。本発明を適用した恒温設備は、恒温恒湿とする恒温室1と、その外側に設けられて恒温室1との間に空気流路3を形成する箱状の外壁2と、空気流路3内に配設された冷却器4と、恒温室1の側壁1Aに吸熱側の一端が埋設され、放熱側の他端が空気流路3内に突設されたヒートパイプ5と、恒温室1内に開口した外気導入管6と、外気導入管6に設けられた流量調整弁7と、恒温室1内に開口した排気管8と、排気管8に設けられた流量調整弁9と、空気流路3内に設けられて恒温室1を支持し、恒温室1と外壁2とを絶縁させる免震装置10とを備えている。」
・図1、図2
「
[図:0001398842000003.jpg]
」
第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「炭素鋼(SS400)」は、本願発明における「金属材料からなる試料」に相当するから、引用発明における「チャンバー」及び「恒温恒湿室の試験室」は、本願発明における「金属材料からなる試料が内部に設置される密閉可能な試験槽」に相当する。
引用発明は「恒温恒湿室の試験室内の温度は-30℃から80℃、湿度は10%R.H.から95%R.H.まで制御可能」であるから、本願発明における「前記試験槽に接続され、前記試験槽内の空気の温度および湿度を制御する」「空気制御装置」に相当する構成を備えており、引用発明における温度と湿度の制御範囲からみて、「温度:15~60℃、湿度:20~90%」の「制御可能範囲」を有しているといえる。
引用発明における「人工海水」は、本願発明における「ハロゲン化物溶液」に相当することを踏まえると、引用発明における「人工海水を滴下」した「試料」としての「炭素鋼(SS400)」は、本願発明における「ハロゲン化物溶液の1つまたは複数の液滴が滴下された状態の前記試料」に相当する。そうすると、引用発明における「マイクロスコープ」は、長距離ズームレンズを用い、倍率は35倍から245倍までの観察が可能であり、録画機能を有しており、最小1分間隔での表面変化の追跡が可能であるから、本願発明における「ハロゲン化物溶液の1つまたは複数の液滴が滴下された状態の前記試料の表面に生じている前記液滴における腐食を観察する光学系測定手段」に相当する。
引用発明は「温度25℃、相対湿度30%で乾燥させ、乾燥後、温度を25℃一定に保ちながら相対湿度を30%から95%まで12時間間隔で変化させる」ものであるところ、本願発明における「温度が35℃~60℃±1℃で相対湿度が95%RH~25%RH±10%である乾燥状態と、温度が50℃±1℃で相対湿度が95%RH以上である湿潤状態とを切り替える」こととは、「相対湿度が95%RH~25%RH±10%である乾燥状態と、相対湿度が95%RH以上である湿潤状態とを切り替える」ものである点で共通する。
引用発明である「大気腐食マルチモニタリングシステム」は、本願発明の「大気腐食のその場観察装置」に相当する。
以上によれば、本願発明と引用発明は、以下の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
金属材料からなる試料が内部に設置される密閉可能な試験槽と、
前記試験槽に接続され、前記試験槽内の空気の温度および湿度を制御することで、相対湿度が95%RH~25%RH±10%である乾燥状態と、相対湿度が95%RH以上である湿潤状態とを切り替える空気制御装置と、
ハロゲン化物溶液の1つまたは複数の液滴が滴下された状態の前記試料の表面に生じている前記液滴における腐食を観察する光学系測定手段と、
を具備してなり、
前記空気制御装置の制御可能範囲が、温度:15~60℃、湿度:20~90%である、
大気腐食のその場観察装置。
【相違点1】
光学系測定手段が、本願発明では、「前記試験槽の上面または側面の少なくとも一方に設けられた加熱機能付きガラスからなる観察用窓を介して、」観察するのに対し、
引用発明は、かかるものではない点。
【相違点2】
本願発明では、「温度が35℃~60℃±1℃で相対湿度が95%RH~25%RH±10%である乾燥状態と、温度が50℃±1℃で相対湿度が95%RH以上である湿潤状態」とを切り替えるのに対し、
引用発明では、乾燥状態と湿潤状態とを温度25℃で切り替える点。
【相違点3】
本願発明では、前記空気制御装置の「循環流量が、0.01~3.00m3であ」り、「前記試験槽の下側には、前記試験槽内の空気の対流による振動を減衰させる除振台が配設され」ているのに対し、
引用発明では、空気を循環させるものであるのか明記がなく、除振台を配設することについても明記がない点。
第6 判断
1 相違点1について
引用文献2(2頁左下欄6行~同頁右下欄13行の記載を参照)には、曇りや水滴の付着を防止するために透明電導ヒーターを貼付した透視窓を試験槽の上蓋部に設け、これを介して試験片を観察、撮影することが記載されている。
引用発明における「マイクロスコープ」も、恒温恒湿室内でのレンズの結露を防止しながら表面のその場観察を行うものであるところ、同様の作用効果を発揮する引用文献2に記載の上記構成を採用することで相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
2 相違点2について
引用文献3(33頁「5.1 腐食促進試験規格の新たな動き」、表5を参照)には、試験片に人工海水を付着させて屋外環境を再現する腐食促進試験方法において、「Dry(60±2℃,20-30%rh,4h)」(「温度が35℃~60℃±1℃で相対湿度が95%RH~25%RH±10%である乾燥状態」に相当)から「Wet(50±2℃,>95%rh,2h)」(温度が50℃±1℃で相対湿度が95%RH以上である湿潤状態」に相当)とすることを含むサイクル条件が記載されている(表5.ISO11997-1のA法等)。
引用発明においても種々のサイクル条件を用いて試験してよいことは明らかであるから、引用文献3に記載の上記サイクル条件を採用することで相違点2に係る構成とすることは、当業者が適宜になし得ることである。
3 相違点3について
引用文献4(段落[0006]~[0009]を参照)に記載されるように、環境試験装置において、試験室と空調室との間で空気を循環させるようにすること、その場合、空調室の振動が試験室に伝わってしまう問題があることは周知である。
他方、引用文献5(段落【0014】参照)や引用文献6(段落【0003】~【0006】)に記載されるように、環境試験装置において振動が試験に影響に及ぼさないように防振対策を施すことは周知技術である。
そうすると、引用発明において上記周知の技術的事項、周知技術に照らし、試験室と空調室との間で空気を循環させるようにすること、その際、除振台を設置して、空調室の振動が試験室に伝わらないようにするとともに空気の対流による振動を減衰するようにすることで相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
4 請求人の主張について
(1)請求人は、令和4年11月4日提出の意見書において、上記相違点2に関し、引用文献1に記載の腐食試験は、屋外での大気環境下での模擬試験であり、乾燥状態と湿潤状態を速やかに切り替えながら腐食のその場観察を行う本願発明の試験方法とは異なるところ、引用文献3には、「ステンレス鋼などの高耐食性材料」(33頁左欄7行目)の試験片に人工海水を付着させて屋外環境を再現する腐食促進試験方法において、「Dry(60±2℃,20-30%rh,4h)」から「Wet(50±2℃,>95%rh,2h)」とするサイクル条件とすることが記載されているが(表5.ISO11997-1のA法)、引用文献1は炭素鋼に関するもので、引用文献3のステンレス鋼とは耐食性レベルが異なり、引用文献1には温度を一定に保ちながら相対湿度を12時間間隔で変化させることの記載があるものの乾燥状態と湿潤状態を速やかに切り替えることに関する記載はなく、引用文献1に引用文献3に記載のサイクル条件を採用する動機付けがなく又組み合わせる合理性がないという旨主張している。
しかし、引用発明は、「炭素鋼(SS400)」を試料とし、「人工海水を滴下し、滴下後すぐに、温度25℃、相対湿度30%で乾燥させ、乾燥後、温度を25℃一定に保ちながら相対湿度を30%から95%まで12時間間隔で変化させる」ものであるが、引用発明は「大気腐食マルチモニタリングシステム」として、「温度は-30℃から80℃、湿度は10%R.H.から95%R.H.まで制御可能で」あり、「50パターンまで制御プログラムを作成でき」るという機能を有するものであることを踏まえれば、「炭素鋼(SS400)」を含む種々の鋼材について、引用発明で特定される乾燥状態と湿潤状態の条件に限らず、他の乾燥状態と湿潤状態の条件下での表面のその場観察を行ってもよいことは明らかであり、その際、サイクル試験の一般的な試験方法として、自動車関連のみならず、建材などでも幅広く用いられ、引用発明において制御可能な範囲にあるISO14993やISO11997-1のA法で知られる乾燥状態と湿潤状態の条件に基づく制御プログラムを作成し、表面のその場観察を行うようにすることは当業者が容易に想到し得ることである。
請求人は、引用文献3に「ステンレス鋼など高耐食性材料用のA法」(33頁左欄7行目)との記載があることをもって、A法を引用発明における乾燥状態と湿潤状態の条件として採用する動機付けがない旨主張するが、ISO14993やISO11997-1のA法は、サイクル試験の一般的な試験方法として、自動車関連のみならず、建材などでも幅広く用いられているものであるから(32頁右欄5行~下から6行)、引用発明において乾燥状態と湿潤状態の条件として採用する動機付けがあるといえるし、合理的であるとえる。
そして、本願発明において、所定の乾燥状態と湿潤状態の条件を採用したことについて、本願の明細書の段落【0031】に「なお、乾燥状態と湿潤状態の具体的な条件は、用いる試料4の鋼種や、ハロゲン化物溶液の濃度等によって適宜決定してよい。例えば、乾燥状態は、温度:35℃~60℃±1℃、相対湿度:95%RH~25%RH±10%としてよく、湿潤状態は、温度:50℃±1℃、相対湿度:95%RH以上としてよい。」と記載されるのみで他の条件を採用した場合と比べて特に有利な効果を奏するものとも認めることができない。
よって、上記意見書における上記相違点2に係る主張は採用することができない。
(2)請求人は、上記意見書において、上記相違点3に関し、一般的な試験装置において、試験室と空調室との間で空気を循環させるようにすること、その場合、空調室の振動が試験室に伝わってしまう問題があることは周知であるとしても、
ア 空気制御装置の循環流量を制御して、試験槽内の環境を乾燥状態と湿潤状態を繰り返すために、試験槽内の温度および湿度を速やかに切り替える(本願明細書の段落【0026】)こと、
イ 当該切り替えによって強い対流が生じ、その結果、試験台および試験槽自体の振動が発生するため、観察対象である液滴も揺れてしまい正確な腐食観察が困難となること、
ウ 正確な腐食観察を目的として試験槽下側に除振台を設けること、
は、いずれの文献にも記載がなく、引用文献5、6は金属分野、腐食観察分野とは分野が異なり、引用文献5、6に記載された防振対策の内容は金属分野、腐食観察分野における周知技術とはいえず、引用発明に引用文献5、6に記載の防振対策手段を適用する動機付けがないという旨主張している。
しかし、上記アについて、引用文献3の表5に記載のISO14993及びISO11997-1におけるA法もDry(乾燥状態)からWet(湿潤状態)に15分以内、WetからDryに30分以内で切り替えるものであり、温度及び湿度を速やかに切り替えるものにほかならない。
そして、上記イについて、引用文献4(上記第4の4を参照)には、試験室と空調室との間で空気を循環させる試験装置では、空調室の振動が試験室内に伝わることで供試体の結露状態に影響を及ぼすことが記載されているから([0009])、引用発明において、引用文献4に記載されるように試験室と空調室との間で空気を循環させるようにした際、空気を循環させる際に生じる振動が試料表面に滴下した人工海水の状態に影響を及ぼさないように考慮すべきことが理解でき、引用文献5(上記第4の5を参照)に、冷却に用いる冷媒の流れによる振動が光学系試験等に影響に及ぼさないように防振対策が施されること(【0014】)、引用文献6(上記第4の6を参照)に、恒温室の空調において、低温空気の流れの振動が原因となって発生した振動がダクト等を伝わって恒温室に伝播し振動を発生させる問題があること(【0003】)が記載されていることを踏まえれば、引用発明において、引用文献4に記載されるように試験室と空調室との間で空気を循環させるようにした際、当業者であれば、対流を含む空気の流れも考慮して、試料表面に滴下した人工海水の状態に影響を及ぼさないように検討すべきことが理解できる。
そうすると、上記ウの「正確な腐食観察を目的として試験槽下側に除振台を設けること」こと自体がいずれの引用文献にも記載されていないとしても、引用文献6の【0005】の恒温室と外壁とが免震装置を介して絶縁することで恒温室内に振動を発生させないようすることが記載されていることに照らせば、引用発明において、引用文献4に記載されるように試験室と空調室との間で空気を循環させるようにした際、試験室への主要な振動の伝搬経路と認められる試験室の下側に除振台を設けることは、当業者が容易に想到し得ることである。
よって、上記意見書における上記相違点3に係る主張は採用することができない。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2~6に記載の技術的事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-003288