商標異議申立
2021-900170
シンムソーハヤシザキリュー、シンムソーハヤシザキ、シンムソー、ハヤシザキリュー、ハヤシザキ
- 審判番号
- 2021-900170
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 商願2018-153282
- 登録番号
- 6352962
- 請求日
- 2021年05月06日
- 審決日
- 2022年03月15日
- 公報発行日
- 2022年04月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】石崎 徹
- 【異議申立人】一般社団法人 笹森順造直伝兵法白嶺北天会
- 【異議申立人代理人】神保 欣正
- 【異議申立人代理人】大口 昭彦
- 【異議申立人代理人】勝又 祐一
- 審判長/審判官
- 審判長 岩崎 安子
- 審判官 森山 啓
- 審判官 板谷 玲子
- 分類
- T1651.13 -Y (W41) / T1651.22 -Y (W41)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 商標法3条1項3号商標法4条1項7号商標法43条の2商標法43条の3第4項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第3条第1項第3号、商標法第4条第1項第7号、商標法第3条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
登録第6352962号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。
結論
結 論
登録第6352962号商標の商標登録を維持する。
理由
理 由
1 本件商標
本件登録第6352962号商標(以下「本件商標」という。)は、「神夢想林崎流」の文字を縦書きで表してなり、平成30年12月1日に登録出願、第41類「居合を主とする古武道の教授,武道大会の企画・運営,演武の上演」を指定役務として、令和2年12月23日に登録査定、同3年2月17日に設定登録されたものである。
2 登録異議の申立ての理由
登録異議申立人(以下「申立人」という。)は、本件商標は商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第7号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第47号証を提出し、また、令和4年1月6日付の上申書を提出した。
(1)商標法第3条第1項第3号について
本件商標は「神夢想林崎流」の文字よりなるが、武道の世界において、居合術(抜刀術)の一つとして「神夢想林崎流」の語が使用されていることは武道関係者においては周知のところである。
上記に関し、甲第2号証の小学館1988年9月20日発行の日本大百科全書12の「神夢想林崎流」の項4には「近世抜刀術(居合)の源流の一つ。流祖は林崎甚助重信。通説では奥州の住人。出羽国楯岡(山形県村山市)の林之明神に参籠すること100カ日、夢中に万字剣を感得して、根元居合剣法を工夫発明し、文禄~元和(1592~1624)にかけて、各地を歴遊、この術を広めたという。門人に高松勘兵衛信勝(一宮流)、田宮平兵衛成正(田宮流)、片山伯耆守久安(伯耆流)、東下野守元治(神明夢想東流)らがある。」との記載がある。
また、甲第3号証の岩波書店2019年5月10日発行の広辞苑第七版の「居合」の項には「(略)元亀・天正(1570/1592)の頃、林崎重信にはじまるという(略)」の記載がある。
また、甲第4号証の同朋舎出版1982年6月10日発行の日本武道体系第三巻剣術(三)の「神夢想林崎流」の項には「流祖は林崎甚助重信(重明、光重、氏賢)、正名は右の如くであるが、林崎夢想流、林崎流、林崎新夢想流、林崎神夢想流などともいう。門第の中では甥の高松勘兵衛信勝(一宮流祖)、東下野守元治(神明夢想東流)、田宮平兵衛重正(田宮流祖)、長野無楽齋槿露(無楽流)、片山伯耆守久安(片山伯耆流)、本間善左衛門高勝が有名。とくに田宮流は、紀州徳川家をはじめ諸藩に栄え、関口流、林崎田宮流、無楽流(長野無楽は田宮にも学んだ)、一宮流、上泉派、神流、一宮流谷派、一宮当流として発展した。林崎田宮流、一宮流、上泉流(派)神流はいずれも無楽流から発展する。」との記載がある。
その他、「神夢想林崎流」に関する甲第5号証ないし甲第11号証のインターネット記事がある。
よって、本件商標をその指定役務に使用しても、これに接する需要者、取引者は、当該役務が居合術(抜刀術)の一つである神夢想林崎流に関連する役務であることを認識するにとどまり、自他役務を識別できないので本件商標は商標法第3条第1項第3号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第7号について
前記の「神夢想林崎流」の語は武道の世界において、居合術(抜刀術)の一つとして各人が使用している共通財産であり、本件商標を一私人である商標権者がその指定役務について独占することは、社会の一般的道徳観念に反し、取引社会の秩序を乱すおそれがあり、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(3)問題の所在
ア 前記(1)で述べたことは特許庁においても顕著な事実の筈である。甲第8号証は本件商標の審査時に発せられた拒絶理由通知書であるが、「この商標登録出願に係る商標(以下「本願商標」といいます。)は、『神夢想林崎流』の文字を縦書きで表してなるものです。ところで、【別掲】を参照しますと、武道の業界において、居合の流派の一つとして『神夢想林崎流』の語が使用されている実情がうかがえます。そうしますと、本願商標をこの商標登録出願に係る指定役務に使用しても、これに接する需要者は、当該役務が『居合の流派の一つである神夢想林崎流』に関連する役務であることを認識するにとどまりますから、本願商標は、単に役務の質を普通に用いられる方法で表示するものといえます。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当します。」と認定している。
イ これに対し出願人は甲第9号証の意見書を提出しているが、要するに、(ア)本件商標の出願人の石崎徹氏は唯授一人をもって就任した第16代神夢想林崎流宗家である、(イ)宗家制度を採る古武道各流派は、本件商標も含め、いずれも「当該古武道の一流派にすぎないもの」ではなく、同流傍系・支流や他流派と明確に区別し得る自他役務識別力を確立している、(ウ)本件商標は使用の結果、商標法第3条第2項に基づく識別力を獲得している、ことを主張している。なお、意見書においては「唯受一人」をあたかも「その流儀でただ一人」という意味に使用しているが、武道において「唯受一人」とは師範家が極意に達した者数名に「唯受一人」として免許を授けることを指すものであり、宗家が次の宗家を指名、当該流派の正統を一人に限定して承継させるという意味ではない。一般的に「唯受一人(ゆいじゅいちにん)」とは「秘伝などを、ただ一人だけに授けること。また、ただ一人だけが授かったもの。」の意味であり(小学館2006年2月発行「精選版 日本国語大辞典」)、「秘伝」ではない「神夢想林崎流」に関し、出願人がそのように解釈することは間違っている。
ウ 前記意見書とともに、出願人は大量の証拠(第1号証ないし第31号証)を提出しているが立証の趣旨が不明であり、せいぜい疎明程度の心証を審査官に与えるに止まる。
エ 前記意見書の内容は、第3条第1項第3号該当性、第4条第1項第7号該当性に対する阻却事由、すなわち神夢想林崎流は代々宗家制度のもとその出所は単一であり、出願人はその唯一の承継者であるという点に位置付けられる。
これに対し、審査官は出された証拠には疎明程度の価値しか見出せないが、さりとて神夢想林崎流を源流として掲げて、その流れを汲む武術は全国各地に伝えられ、いまもなお稽古が続けられている事実を立証することができず、やむなく登録査定に至ったというのが真相であると申立人は考える。
オ 申立人は異議申立制度とは原査定における法判断に対し異議を述べるといった性質のものではなく、原査定においては特許庁が知り得なかった事実を新たに明らかにし再度の審理を要求するものと考える。
また、職権主義が支配する異議申立においては、本質と無関係な主張や、立証趣旨が不明な大量の証拠の提出はいたずらに審理を攪乱し、審判経済に好ましくないので慎むべきであるとも考える。
よって、本件異議申立ては原拒絶理由に対する阻却事由である「神夢想林崎流は代々宗家制度のもとその出所は単一であり、出願人はその唯一の承継者であるという」ことを否定するに足りる証拠の提出と主張を最小限のボリュウムで行なうこととする。
(4)神夢想林崎流は代々宗家制度のもとその出所は単一であり、出願人はその唯一の承継者ではないことの主張
ア これに関してはまず鈴木ゆき子氏の陳述書を甲第12号証として提出する。同氏は異議申立人の代表者であるが、同時に神夢想林崎流には宗家制度は存しなかったにもかかわらず、出願人が神夢想林崎流の第14代宗家であると強弁する故笹森順造氏の血縁関係にある孫であり、3歳の頃より笹森順造氏から神夢想林崎流の居合術の教授を受け、以来今日まで52年間その修行を続け、甲第○号証(決定注:「甲第12号証」の誤記と考えられる。)に示すように過去30年以上に渡り公の場で神夢想林崎流居合術の演武の実演を行なっている人物である。
この陳述書は神夢想林崎流の本質に関し分かりやすく記されており、しかも主観を排し、添付した文献による裏打ちを行なっている証拠力を有するものであり本件に関しての理解の一助になるものと考える。
イ 次に、宮内一氏の陳述書を甲第11号証として提出する。
同氏は17歳になってすぐの1964(昭和39)年10月1日、故笹森順造氏に入門を許され、小野派一刀流兵法、神夢想林崎流抜刀術、直元流大長刀術、渋川流十手術を伝受され、1971(昭和46)年4月4日前記四流を傳承するため、一刀流兵法十二カ条目録、仮字目録、本目録の三巻を頂き、免許皆伝を許されており、過去30年以上に渡り公の場で神夢想林崎流居合術の演武の実演を行なっている人物である。
この陳述書も神夢想林崎流の本質に関し分かりやすく記されており、しかも主観を排し、添付した文献による裏打ちを行なっている証拠力を有するものであり本件に関しての理解の一助になるものと考える。
ウ 次に、鈴木伸昌氏の陳述書を甲第37号証として提出する。
同氏は河野稔天剣百錬・伝承会師範、無雙直伝英信流居合道範士八段の他流派の人物であるが、神夢想林崎流の本質に関し第三者の視点からわかりやすく客観的に記しており、添付した文献による裏打ちを行なっている証拠力を有するものと考える。
エ 次に、前述宮内一氏作成の神夢想林崎流の系統図を甲第10号証として提出する。
この系統図は添付した文献による裏打ちを行なっている証拠力を有するものであり本件に関しての理解の一助になるものと考える。
(5)立証
添付の証拠をもって次の事実を立証する。
ア 林崎甚助が開祖の神夢想林崎流の名は近世抜刀術(居合)の源流であり、上記源流は神夢想林崎流、林崎夢想流、林崎新夢想流、林崎神夢想流などともいわれていること。
イ 神夢想林崎流は一子相伝として血脈者のみに継承させたものでも、唯授一人として師が最も優れた弟子にのみ承継させたものでもないこと。
ウ 各地を遍歴した林崎甚助は神夢想林崎流を各地において縁のあった複数の弟子に伝授したこと。
エ 前記の結果、令和3年1月14日現在、神夢想林崎流を源流として掲げて、その流れを汲む武術は全国各地に伝えられ、いまもなお稽古が続けられていること。
オ 以上の事情より、単に神夢想林崎流といったところで、それは普遍的な源流名を指すのみで、特定の実践者、団体を指すものではないこと。
3 当審の判断
(1)本件商標の商標法第3条第1項第3号該当性について
ア 商標法第3条第1項第3号が、「その役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」について商標登録の要件を欠くと規定しているのは、このような商標は、指定役務との関係で、その役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途その他の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他役務の識別力を欠くものであることによるものと解される。
イ 本件商標は、「神夢想林崎流」の文字を縦書きで表してなるところ、申立人提出の証拠によれば、以下の事実が認められる。
(ア)小学館1988年9月20日発行の「日本大百科全書12」の「神夢想林崎流」の項4には「近世抜刀術(居合)の源流の一つ。流祖は林崎甚助重信。」の記載(甲2、甲5)、また同朋舎出版1982年6月10日発行の「日本武道体系 第三巻 剣術(三)」の「神夢想林崎流」の項には「流祖は林崎甚助重信(重明、光重、氏賢)、正名は右の如くであるが、林崎夢想流、林崎流、林崎新夢想流、林崎神夢想流などともいう。」の記載(甲4)があるが、岩波書店2019年5月10日発行の「広辞苑第七版」には「神夢想林崎流」の記載はなく、「居合」の項において「(略)元亀・天正(1570/1592)の頃、林崎重信にはじまるという(略)」の記載がある(甲3)。
(イ)各種のウェブサイト、ユーチューブ、ブログ等においては、以下のとおり、様々な名称が使用されている。
a 「林崎夢想流居合術」(甲23、甲24、甲26、甲28、甲43)
(a)日本古武道協会のホームページにおいて、「居合術・抜刀術」の加盟流派の一つとして「林崎夢想流居合術(山形)」がある(甲23、甲24)。
(b)Web秘伝のホームページにおいて、平成30年10月28日(日)に開催された第11回埼玉県伝統武術演武大会の参加予定流派の一つとして「林崎夢想流居合術」がある(甲26)。
(c)YouTubeの埼玉県伝統武術演武大会(第何回かは、テロップに隠れてしまい確認できない。)の画像には、左上に「林崎夢想流居合術」、右上に「Web秘伝」のテロップが表示されている(甲28)。
(d)amazonのサイトで販売されているDVDのタイトルとして、「林崎夢想流居合術」「日本の古武道ビデオシリーズ/48」が表示されている(甲43)。
b 「林崎新夢想流居合」(甲25、甲31ないし甲36、甲41、甲42、甲45、甲46)
(a)YouTubeの画像の下に、「林崎新夢想流居合/2016.01.24金王八幡演武09」と表示されている(甲25)。
(b)ハイブリッド型総合書店hontoのサイト上で販売されている書籍のタイトルとして、「弘前藩の武芸文書を読む 林崎新夢想流居合 宝蔵院流十文字鑓(水星舎新書)」が表示されている(甲31)。
(c)弘前大学教養部「文化紀要」第30号、1989年において、太田尚充著の「津軽弘前藩の武芸(11)-資料紹介- 寺山家所蔵・武芸関係古文書等(6)」が掲載されており、その目次中に「四、林崎新夢想流居合(承前)」が表示されている(甲31の1)。
(d)インターネット上の「Honu-Tortuga/おいしい講習会 お届けします」の講師紹介で、修武堂主宰「小山隆秀」について、「関連リンク先」の中に「弘前藩伝 林崎新夢想流居合演武」があり、「流派名:林崎新夢想流居合」の「由来」として「天亀・天正年間(1570~1591)の頃、奥州の林崎甚助が、出羽国楯岡林崎村の林崎明神に参籠し、霊夢を受けて開いた流儀だと伝えられる。」との説明がされている(甲32)。
(e)Web秘伝のホームページの「達人・名人・秘伝の師範たち」で、「小山隆秀」(2018.10.3)について、「旧弘前藩で代々、卜傳流剣術および林崎新夢想流居合の師範家を務めてきた家に生まれる。」との紹介があり(甲33)、また同ホームページの「秘伝トピックス」で、「新連載 修武堂主宰・小山隆秀師範『津軽(ツガル)の険』開始!」の中で、「・・・毎回、『卜傳流剣術』『林崎新夢想流居合』、それぞれの『形』一本をテーマに、・・・紹介していきたい。」とある(甲33の1)。
(f)「武術研究稽古会 修武堂/古剣稽古日誌」のブログにおいて、2017年11月18日に、「林崎新夢想流居合の再生にむけて」のタイトルで記事が掲載されている(甲34)。
(g)インターネット上の「修武堂とは」において、「稽古できる主な流派」の一つとして「林崎新夢想流居合」が表示されている(甲35)。
(h)インターネット上の「高岡の森弘前藩歴史館企画展『日本刀の美』関連イベントのご案内」において、令和元年(2019年)9月14日(土)の実演・講演会の中に、実演解説「弘前藩伝・林崎新夢想流居合」があり、同月15日(日)の解説・演武・ワークショップの「公開演武」の全国各地から集結した古流武術各流派の一つとして「林崎新夢想流居合」がある(甲36)。
(i)Web秘伝のホームページの「行事ガイド」で、2017年2月11日及び12日に開催される「弘前藩伝・林崎新夢想流居合稽古会in東京」の案内が表示されている(甲36の1)。
(j)インターネット上の「北文研」の「古流居合、復興の取り組み」において「弘前藩伝・林崎新夢想流居合 稽古会」が表示されている(甲41)。
(k)YouTubeの動画のタイトルとして、「林崎新夢想流居合/演武 修武堂」と表示されている(甲42)。
(l)インターネット上で、4月24日(年は不明)の稽古会の案内の冒頭写真に、「弘前藩伝 林崎新夢想流居合」と表示されている(甲45)。
(m)YouTubeの動画のタイトルとして、「弘前藩伝 林崎新夢想流居合稽古会in東京 開催のお知らせ」の案内が表示されている(甲46)。
c 「神明夢想林崎流」(甲27、甲29)
(a)居合抜刀道道場 尚士館/神明無想林崎流 尚士会のホームページにおいて、「神明無想林崎流抜刀道」が「戦国時代後期・・・に出羽国盾岡林崎村・・・の林崎甚助重信・・・が編み出した抜刀道の流派です。」などと紹介されている(甲27)。
(b)YouTubeの動画には、「2021年5月 神明無想林崎流の昇段審査を行いました。」とのテロップが表示されている(甲29)。
d 「夢想神伝林崎流」(甲30、甲44)
(a)YouTubeの画像には、「夢想神伝林崎流」の文字が白抜きで記載された緑色の旗が表示されている(甲30)。
(b)YouTubeの画像には、「夢想神伝林崎流」の文字が白抜きで記載された旗が裏向きで表示されている(甲44)。
e 「神夢想林崎流」(甲47)
「神夢想林崎流演武記録」とのタイトルの一覧表には、宮内一氏と鈴木ゆき子氏による平成6年から令和元年までの演武の記録が記されている。
ウ 以上によれば、「神夢想林崎流」は、16世紀後半頃に林崎甚助重信を流祖としてはじまった近世抜刀術(居合)の源流の一つであるが、現在では、「神夢想林崎流」のほか、「林崎夢想流居合術」、「林崎新夢想流居合」、「神明夢想林崎流」、「夢想神伝林崎流」等、様々な名称で活動が行われていることが認められる。
そうすると、提出された証拠によっては、「神夢想林崎流」の文字が、指定役務の分野において、多数の者によって一般的に使用されている状態にあるものとみることはできず、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものとまではいえない。
また、当審における職権調査においても、「神夢想林崎流」の語が、具体的な役務の質等を表示するものとして一般に使用されている客観的な事実を見いだせず、さらに、需要者等に役務の質等を表示するものとして認識させるといった事情も見いだせない。
してみれば、本件商標は、その指定役務について使用しても、役務の質、用途等を表示するものでなく、自他役務の識別標識としての機能を果たすものといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当しない。
(2)商標法第4条第1項第7号該当性について
ア 商標法第4条第1項第7号でいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、(ア)その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、(イ)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会的公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、(ウ)他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、(エ)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、(オ)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきである(平成17年(行ケ)第10349号判決)。
イ 本件商標は、「神夢想林崎流」の文字を縦書きで表してなるところ、申立人は、「神夢想林崎流」の語は武道の世界において、居合術(抜刀術)の一つとして各人が使用している共通財産であり、本件商標を一私人である商標権者がその指定役務について独占することは、社会の一般的道徳観念に反し、取引社会の秩序を乱すおそれがあり、商標法第4条第1項第7号に該当する旨主張している。
しかしながら、上記(1)のとおり、「神夢想林崎流」の文字は、指定役務の分野において、多数の者によって一般に使用されている状態にあるものとみることはできず、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものとまではいえない以上、本件商標を一私人である商標権者がその指定役務について独占することが、直ちに社会の一般的道徳観念に反し、取引社会の秩序を乱すおそれがあるものということもできない。
そして、本件商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるようなものでないことは明らかであり、さらに指定役務について使用することが社会的公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものというべき証左も見当たらない。
また、本件商標は、他の法律によって、その商標の使用等が禁止されているものでもないし、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反するものでもない。
さらに、本件商標は、出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないようなものに当たるというべき証左も見当たらない。
してみると、本件商標は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標」に該当するとまではいえないものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
(3)申立人の主張について
ア 申立人は、原審が、当初通知した商標法第3条第1項第3号の拒絶理由を覆した理由を「神夢想林崎流は代々宗家制度のもとその出所は単一であり、出願人(本件商標権者)はその唯一の承継者である」という点に位置付け、これを否定するためとして、4通の陳述書(甲11、甲12、甲37、甲38)を提出している。
しかしながら、本件商標が商標法第3条第1項第3号に該当しないことは、上記(1)のとおりであって、申立人が主張する点に基づいて判断しているわけではないから、当該主張を採用することはできない。
イ また、申立人は、「神夢想林崎流を源流として掲げて、その流れを汲む武術は全国各地に伝えられ、いまもなお稽古が続けられていること。」、「単に神夢想林崎流といったところで、それは普遍的な源流名を指すのみで、特定の実践者、団体を指すものではないこと。」などを立証するためとして、9通の証明書(甲15~甲22、甲39)を提出している。
しかしながら、当該証明書は、予め申立人が文言を記載した証明書用紙に署名捺印等を求めることによって作成されたものであって、その手法は、誘導的であるといわざるを得ず、この点において、信用性が低いものといわざるを得ない。したがって、申立人の主張を採用することはできない。
(4)むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第7号のいずれにも該当するものとはいえず、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録を維持すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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