商標無効審判
2021-890051
ジーウン、ジュイウン
- 審判番号
- 2021-890051
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 商願2018-120610
- 登録番号
- 6256358
- 請求日
- 2021年09月16日
- 審決日
- 2022年06月14日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 請求成立(無効)
- 当事者
- 【請求人】桂林智神信息技術股▲ふん▼有限公司
- 【請求人代理人】岡村 太一
- 【被請求人】WES 株式会社
- 審判長/審判官
- 審判長 齋藤 貴博
- 審判官 森山 啓
- 審判官 板谷 玲子
- 分類
- T111 .18 -Z (W09) / T111 .22 -Z (W09)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第3条第1項、商標法第4条第1項第7号、商標法第4条第1項第15号、商標法第4条第1項第19号、商標法第4条第1項第11号、商標法第4条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の登録第6256358号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
登録第6256358号の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。
理由
理 由
1 本件商標
本件登録第6256358号商標(以下「本件商標」という。)は、「zhiyun」の文字を標準文字で表してなり、平成30年9月24日に登録出願、第9類「スマートフォン用スタビライザー,コンピュータ用スタビライザー,携帯電話用スタビライザー,カメラ用スタビライザー,液晶ディスプレイ用スタビライザー,ビデオカメラ用スタビライザー」を指定商品として、令和2年3月30日に登録審決され、同年6月3日に設定登録されたものである。
2 引用商標
請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する商標は、請求人がスマートフォン用又はカメラ用スタビライザーの名称として使用していると主張する別掲1ないし別掲3のとおりの構成よりなる標章(以下、それぞれ「引用商標1」「引用商標2」「引用商標3」という。)及び別掲4のとおりの構成よりなる国際登録第1444758号商標(以下「引用商標4」という。)であり、日本国を指定する国際登録において指定された第9類「Close-up lenses; cinematographic cameras; cases especially made for photographic apparatus and instruments; photographic racks; drying racks [photography]; selfie sticks [hand-held monopods]; tripods for cameras; cameras [photography]; stands for photographic apparatus.」及び第35類「On-line advertising on a computer network; sales promotion for others; marketing; advertising; search engine optimization for sales promotion; updating and maintenance of data in computer databases; import-export agency services; provision of an on-line marketplace for buyers and sellers of goods and services; presentation of goods on communication media, for retail purposes; systemization of information into computer databases.」を指定商品及び指定役務として、2018年(平成30年)11月23日に国際商標登録出願を行ったが、本件商標を引用として商標法第4条第1項第11号の暫定拒絶通報がされているものである。
なお、上記引用商標1ないし引用商標4を合わせて「引用商標」という。
3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第37号証を提出した。
(1)利害関係
請求人は、本件商標と同一又は類似の引用商標を使用及び出願している者であり(甲2~甲7)、当該出願は本件商標と同一又は類似するとして暫定拒絶通報を受けており現在審査が保留中である(甲8、甲9)。
したがって、請求人は本件審判の結果により影響を受ける者であり、利害関係人に該当する。
(2)商標法第3条第1項柱書
ア 出願日と商標類似
本件において、請求人が引用商標を使用開始したのは2015年であり、現在に至るまで中国、日本、米国、欧州、韓国を含む世界各国で引用商標を付したスマートフォン用又はカメラ用スタビライザー(以下「引用商品」という。)を広告及び販売してきている。なお、現在収集できている証拠上日本で販売された日として確認できる最先の日は2016年7月13日である(甲2)。その後、2018年9月24日、本件商標に係る商標権者(以下「商標権者」という。)が本件商標の出願をしている。
本件商標と引用商標とは「zhiyun」等の綴りが同一であるため同一の称呼が生じることとなり、外観も大文字か小文字かの違いであるため類似する。また、特定の観念は認識されないため比較できない。したがって、両商標は類似の商標である。
イ 引用商標が造語で特徴的なこと
本件商標と引用商標に共通する「zhiyun」等は辞書に掲載されておらず(甲10)、その他請求人を示す語以外に使用されている事実もない。また、「zhi」が語頭に位置する英単語又は「yun」が語尾に位置する英単語のいずれも日本人にとって馴染みがない(甲11、甲12)。したがって、「zhiyun」は造語でかつ極めて特徴的であるといえる。
ウ 短期間の大量出願
商標権者は、2017年9月25日から2021年5月11日までの間(2021年9月9日に公開商標公報の検索)に114件もの商標登録出願(以下「本件大量出願」という場合がある。)をしている(甲13)。これを特に件数の多い2018年及び2019年に絞ると、2年間という短い期間で109件もある。このうち、譲渡したケースは22件存在する(甲13~甲15)。
エ 商標権者の認識
以上からすると、商標権者が引用商標を認識した上で本件出願をしたと優に考え得る。
オ 商標権者の使用実績
本件で、商標権者は早期審査の申請時に本件商標を使用しているように見えるものの(甲16)、当該ウェブサイトにて、本件商標の異議申立時及び本件無効審判請求時のいずれにおいても、使用されていない(甲17、甲18)。他のウェブサイトにおいても、本件商標の異議申立中に2商品が販売されているにすぎず(甲19)、その後、本件商標に係る商品が追加された(甲20)。この商品が請求人の商品であるか否かは現在確認中であるものの、3頁目の「メーカー」の欄には請求人のハウスマークかつ引用商標「zhiyu」の記載がある。仮にこの商品が請求人の商品であるとしても、これが商標権者による「ZHIYUN」の使用ということはできない。
他の本件大量出願に係る商標についても同様である。例えば「AUOPLUS」、「POSTTA」、「Nulaxy」、「kmise」、「LXTEK」及び「GEEMO」の商標は早期審査事情説明書に記載のウェブサイトには掲載されている(甲21)。しかし、これらの商標は当該ウェブサイトにおいて2021年9月15日現在使用されていない(甲17、甲18、甲22)。
以上を考慮すると、本件商標を含む本件大量出願におけるこのような商標権者の使用は、早期審査のための使用実績又は異議申立や無効審判に対抗するための使用実績というべきである。
カ 指定商品の範囲・一貫性
本件大量出願の指定商品(甲13)は広範囲に及んでおり、一貫性もない。また、当該指定商品同士は全く関連性のないものが少なくなく、商標権者の事業内容(甲24)とも合致しないものを多く含んでいる。さらに、商標権者は平成28(2016)年5月16日に設立した資本金300万円の会社であるところ(甲24)、設立して間もなく資本金も多いとはいえない一会社がここまで幅広い事業を行うのは不自然である(のみならず、現在まで大々的に事業を行ってきたことが客観的に伺えない点も不自然な理由の一つである。)。
キ 大量出願商標と第三者の商標
上記で述べたとおり、本件大量出願のうち22件の商標出願に基づく商標権は、譲渡されている(甲14、甲15)。この譲渡された商標だけを見ても、全件が商標権者とは無関係に類似の商標を使用している第三者(店舗ないし会社)が存在している。
上記出願はこれらの第三者の販売する商品が権利範囲に属するように、商標及び指定商品が記載されているのみならず、当該第三者の使用商標に係る商品と詳細な表現まで完全に一致しているものも相当数ある。また、確認できているだけでも、そのうち21件については、商標権者の商標登録出願が類似する他者の商標の使用に後れるものである(甲25)。そして、これらのほとんどが特徴的な造語であり、偶然採択されたとは到底いえないものである。
また、本件大量出願のうち、7件に対して刊行物等提出書による情報提供がなされており(甲26)、12件(本件商標に係る登録を含む)に対して異議の申立又は無効審判が請求されている(甲27)。これらによると、本件における商標権者の出願が提出者、申立人又は請求人の使用に後れるものである。したがって、上記の21件に19件を加えて合計40件が本件における商標権者の出願が類似する他者の商標の使用に後れるものということになる。
ク その他
上記で述べたとおり本件大量出願のうち12件に対して異議の申立又は無効審判が請求されている。現在、商標権者が保有する商標権は44件であり(甲28)、これに当該異議申立により取消となった1件を加えると45件である。つまり、全体の約26.6%にも上る割合で商標登録の有効性が争われている。これに対し、商標登録件数の多い企業の保有商標権(2018年及び2019年に出願されたもの)のうち異議申立又は無効審判を受けた件数の合計を調査した結果、各社の商標登録に対して異議申立又は無効審判を受けているのは0~0.2%程度にすぎない(甲29~甲36)。これと比較すると、本件における商標権者の保有商標登録に対する異議等が約26.6%という割合がいかに大きいかが理解できる。
したがって、同一の商標権者に対して、短期間に、多数の情報提供、異議申立又は無効審判の請求がなされており、極めて異常な事態が起きているといえる。
さらに、このうち、無効2020-890015では、「当審の判断」において、「請求人は、出品していた日本アマゾンより、商標登録6173665号の商標権を侵害している可能性があるという申立てを権利者から受け、請求人の出品を一部削除させられる通知を受けているものである。そして、この商標登録は、本件商標と同じ登録番号であるから、本件商標の商標権者であるWES株式会社によるものであると認められる。」と事実認定されており、商標権者が当該無効審判請求人に対して実際に権利行使したということができる。
加えて、本件大量出願又はこれにより生じた登録を引用して拒絶理由通知を受けた出願が確認できるだけでも24件存在する(甲37)。
ケ 法的主張
商標法第3条第1項柱書きの趣旨について、判決(東京地方裁判所平成23年10月28日判決 平成22年(ワ)1232号)で述べているとおり、本件において、上記のとおり、商標権者は、広範にわたり関連性のない商品について他人の特徴的な造語商標を短期間に大量に出願してきている事実がある。
そして、商標権者は早期審査の申請時に本件商標を使用しているように見えるものの、商標権者の使用は、早期審査のための使用実績又は異議申立や無効審判に対抗するための使用実績というべきである。したがって、この使用は形式的に使用といえると認められることがあっても、「自己の業務」に該当するかどうかについて形式的に判断することは相当ではない。そこで、実質的に見ると、商標権者による使用は商品についての商標の使用とみることができない上に、商標権者は本件大量出願に係る商標権のうち22件を譲渡している。また、本件大量出願のうち他人の造語商標の使用に後れるものが40件もあり、商標権者が当該他人に権利行使をしている事実もある。このため、本件大量出願に係る商標登録は他者からの許諾料や譲渡対価の取得のみを目的として行われる、いわゆる商標ブローカーなどによる濫用的な商標登録であるといわざるをえない。
さらに、以上の全ての事実からすると、商標権者は、多岐にわたる指定商品について商標登録出願をし、登録された商標を収集しているにすぎないというべきであり、登録査定時における商標権者の使用意思を認めがたいというべきである。
したがって、本件商標は「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」に該当しない。
よって、本件商標は商標法第3条第1項柱書に違反する。
(3)商標法第4条第1項第7号
本件において、商標権者は、広範にわたり関連性のない商品について他人の特徴的な造語商標を短期間に大量に出願してきている事実がある。この出願の中には、早期審査申請を行い形式的な使用事実を示している一方で現在も使用が維持されているものはほとんどない。また、本件大量出願のうち、商標権者の出願が類似する他者の商標の使用に後れるものが確認できるだけでも40件あり、22件の商標権は他社に譲渡されている事実がある。本件大量出願のうち、7件に対して刊行物等提出書による情報提供がなされており、12件に対して異議の申立又は無効審判が請求されている。
さらに、本件大量出願又はこれにより生じた登録を引用して拒絶理由通知を受けた出願が確認できるだけでも24件存在する。加えて、本件大量出願の中には、先行して使用されている他人の商標と類似するとして商標法4条1項10号や19号等の拒絶理由を受けているケースが相当数ある。
本件において、上記で述べたとおりの商標権者の本件大量出願及び譲渡等の一連の行為は、他者からの譲渡対価等の取得のみを目的として行われる、いわゆる商標ブローカーなどによる濫用的な商標登録をする行為又は他社が商標登録出願していないことを奇貨として次々と商標登録をした上で当該他社の営業を妨害する行為であると評価せざるを得ない。このような大量出願の一環としてなされた本件商標の出願は出願の経緯に社会的相当性を欠くというべきであるし、このような行為を商標法が予定しているとは到底考えられない。したがって、本件商標は、当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に該当するというべきである。
また、本件大量出願に基づく商標権の譲渡及びこれに対する拒絶理由通知、情報提供、異議申立又は無効審判請求が相当数あるところ、これには譲受人、特許庁審査官、情報提供提出者、異議申立人、無効審判請求人、特許庁審判官等の多くの者にとっての人的及び金銭的な負担となっている。これは公益を損なっているというべきである。このような観点からも、本件商標は公序良俗を害するおそれがあるといえる。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第15号
本件商標は、特徴的な造語である引用商標と類似しておりその類似度合いは高い。引用商品と本件商標の指定商品は同一のもの又は密接に関連するものである。引用商品の宣伝広告費や売上高、販売数量等は多いものである。したがって、引用商標は請求人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標に該当する。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(5)商標法第4条第1項第19号
引用商標は、世界各国で使用されてきており、引用商品は各国の世界的な展示会に出品されている。また、引用商品の宣伝広告費や売上高、販売数量等も多いものである。したがって、引用商標は他人の業務に係る商品を示すものとして日本又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標である。
また、上記の事実は、商標権者の不正の目的を裏付けるものであるといわざるをえない。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
4 被請求人の答弁
被請求人は、請求人の主張に対して何ら答弁していない。
5 当審の判断
(1)本件審判の請求の利益
請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについて、被請求人は何ら答弁をしていないが、当審は請求人が本件審判を請求する利害関係を有するものと認める。
(2)商標法第3条第1項柱書きの該当性について
ア 事実認定
請求人の提出した証拠及び主張によれば、以下の事実が認められる。
(ア)請求人による業務
請求人は、中華人民共和国の桂林市に所在する企業であり、スマートフォン用又はカメラ用スタビライザーの販売を業としている。
(イ)請求人の引用商標等
請求人の引用商標の構成は、別掲1ないし別掲4のとおり、「Zhiyun」、「ZHIYUN」の欧文字、赤色四角形内に白抜き「ZHIYUN」の欧文字、及びやや図案化した太字で表された「ZHIYUN」の欧文字であるところ、これらの文字列に対応した語は、辞書に載録がなく、一般には存在しない造語であるから、本件商標からは特定の観念は生じない。
また、引用商標のように特定の意味合いを想起させない欧文字からなる商標を称呼するときは、我が国で広く親しまれている英語風又はローマ字風の発音をもって称呼されるのが一般的といえるところ、引用商標1、引用商標2及び引用商標4からは、全体としてローマ字風に発音した「ジユン」の称呼が生ずる。引用商標3は、赤色の四角形は背景図形と把握され、特定の称呼及び観念は生じないから、「ZHIYUN」の文字部分に相応して、「ジユン」の称呼が生ずる。この点について、請求人の提出した証拠においては、引用商標は「ジーワン」と称呼されているが、前記のとおり、引用商標に接する需要者は、これより、「ジユン」と称呼するものとみるのが相当である。
(ウ)請求人の引用商標の使用状況等
請求人は、2015年から使用していたと主張するところ、当該事実を裏付ける証拠は見当たらないが、Amazonのウェブサイト上において引用商品の情報掲載として、「Zhiyun Crane V2 3軸手持ちジンバル」(甲2、掲載日2016年7月13日)、「ZHIYUN」及び「ZHIYUN SMOOTH 4」(甲5、掲載日2018年5月20日)、「Zhiyun Crane Plus Pro 3軸ハンドヘルドジンバルスタビライザー」(甲6、掲載日2018年2月6日)が販売され、引用商標1ないし引用商標4が表示されている。
なお、「ZHIYUN Crane Plus 3-Axis Handheld」(甲3、掲載日2017年12月29日)が、英語のAmazonウェブサイト上で販売されており、引用商標2等が表示されている。さらに、「ZHIYUN WEEBILL 2」「ZHIYUN SMOOTH-Q3」「ZHIYUN WEEBILL S」等が新商品として英語で広告宣伝されている(甲4)が、その広告宣伝日は不明である。
そうすると、引用商品は、少なくとも我が国において、2016年(平成26年)7月13日には販売され、当該引用商品に引用商標が使用されていたことが認められる。
(エ)本件商標等
本件商標権者(以下「被請求人」という場合がある。)は、平成30年(2018年)9月24日に本件商標の登録出願をし、令和2年(2020年)3月30日に登録審決され、同年6月3日にその登録(設定登録)を受けた。本件商標の構成は、「zhiyun」の文字を標準文字で表してなるものであり、本件商標からは、「ジユン」との称呼が生じる。また、本件商標の文字列に対応した語は、辞書に載録がなく、一般には存在しない造語であるから、本件商標からは特定の観念は生じない。被請求人は、審査における早期審査の事情説明書(平成30年(2018年)9月24日受付)において、自社のウェブサイト上での本件商標の使用の事実を証拠として提出しているが、本件商標の登録異議の申立て時(令和2年(2020年)11月21日付の証拠)及び本件無効審判の請求時(令和3年(2021年)9月7日付の証拠)において、当該ウェブサイト上で、本件商標を指定商品である「スタビライザー」に使用したことはうかがわれない(甲16~甲18)。
(オ)本件商標と引用商標の類否について
上記1及び2のとおり、本件商標は、引用商標(引用商標3は要部である文字部分)と、その一部に大文字と小文字の差異を有するが、文字のつづりを共通にするものであるから、外観上似通った印象を与えるというべきである。
また、本件商標及び引用商標は、ともに「ジユン」の称呼を生じ、特定の観念を生じない。
したがって、以上を総合的に判断すると、本件商標と引用商標は、観念において比較することができないとしても、外観において似通った印象を与え、称呼を共通にする類似の商標といえる。
(カ)被請求人によるその他の商標登録等
a 被請求人は、2017年(平成29年)9月25日から2021年(令和3年)5月11日までの間に114件もの商標登録出願をしている(甲13)。これを2018年及び2019年に絞ると、2年間という短い期間で109件の商標登録出願をしており、このうち、登録後に譲渡したケースは22件であることが認められる(甲13~甲15)。
b 上記114件の商標登録出願の指定商品は、例えば、「LED電球,おもちゃ,リュックサック,フィットネス用機械器具,猫(愛玩動物)用自動給餌器,遊園地用機械器具,椅子,腕時計,カラビナ,旅行用枕,ヨガマット,楽器,釣り具,オートバイの部品及び付属品,化粧用具」等、広範囲に及んでおり、一貫性もなく、被請求人の主たる事業内容(甲24)と合致しない商品を多く含んでいることがうかがわれる(甲13)。
c 上記114件の商標登録出願のうち、7件に対して、第三者から刊行物提出書による情報提供(商標法第3条第1項柱書き、同法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第15号又は同項第19号等)がなされており(甲26)、12件(本件商標を含む。)に対して、登録異議の申立て又は無効審判の請求(商標法第3条第1項柱書き、同法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第15号又は同項第19号等)がなされている(甲27)。
d 上記22件の譲渡された商標のうち、大半は、登録後短期間のうちに譲渡されており(甲15)、また、少なくとも18件については、商標権者の商標登録出願が、類似する他人の商標の使用に遅れるものである(甲14、甲25)。そして、これらの商標は、ほとんどが造語と認められる。
イ 判断
商標法第3条第1項柱書は、商標登録要件として、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」であることを規定するところ、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」とは、少なくとも登録査定時又は登録審決時において、現に自己の業務に係る商品又は役務に使用をしている商標、あるいは将来自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思のある商標と解される。
これを本件についてみるに、上記認定事実によれば、(ア)請求人は、遅くとも2016年7月13日から、我が国のウェブサイトにおいて引用商品の情報掲載等を行い、引用商標を使用して引用商品を販売していたこと、(イ)被請求人は、平成30年(2018年)9月24日に商標登録出願を行い、同日付の早期審査の事情説明書で自社のウェブサイト上での本件商標の使用の事実を証拠として提出し、令和2年(2020年)3月30日に登録審決され、同年6月3日にその設定登録を受けたが、本件異議申立時及び本件無効審判時において、当該ウェブサイト上で、本件商標を指定商品である「スタビライザー」に使用したことはうかがわれず、前記証拠も早期審査の認定を受けるための名目的な使用と推認されること、(ウ)本件商標と引用商標は、類似する商標であること、(エ)引用商標は、請求人が販売するスマートフォン用又はカメラ用スタビライザーに使用する造語商標で、特徴的なものである上、確認できる引用商標の我が国での販売期間(2016年7月13日ないし2018年5月20日)と本件商標の登録出願日(2018年9月24日)が近接していることからすれば、被請求人は、引用商標を認識した上で、引用商標と類似する本件商標を引用商標の使用商品と同一又は類似の商品について商標登録出願したものと考え得ること、(オ)被請求人は、2017年9月25日から2021年5月11日までの期間に114件、特に2018年から2019年の短期間に109件もの商標登録出願をしているところ、その指定商品は広範囲に及び、一貫性もなく、そのうち22件は、登録後ほぼ短期間のうちに譲渡され、さらにそのうち18件は、被請求人の商標登録出願が、類似する他人の商標の使用に後れるものであること、(カ)上記114件の商標登録出願のうち、7件に対して刊行物提出書による情報提供が、12件に対して登録異議の申立て又は無効審判の請求がなされており、いずれも商標法第3条第1項柱書き、同法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第15号又は同項第19号等を根拠とするものであることが認められる。
上記事情を総合すると、被請求人は、他者の使用する商標について、多岐にわたる指定商品に関し商標登録出願をし、登録商標を収集(他者からの譲渡対価の取得等を目的としておこなわれているものと推認される。)しているものというべきであって、本件商標は、登録査定時又は登録審決時において、被請求人が現に自己の業務に係る商品に使用をしている商標に当たらない上、被請求人に将来自己の業務に係る商品に使用する意思があったとも認め難いものである。
したがって、本件商標は、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」に関して行われたものとは認められず、商標法第3条第1項柱書に違反するというべきである。
(3)商標法第4条第1項第7号該当性について
ア 商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、(a)商標の構成自体がきょう激、卑わい、差別的又は他人に不快な印象を与えるような文字、図形、又は、当該商標を指定商品あるいは指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、あるいは、社会の一般道徳観念に反するような商標、(b)特定の国若しくはその国民を侮辱する商標又は一般に国際信義に反する商標、(c)法律によって、その使用等が禁止されている商標等が含まれる(必ずしも、これらのものに限定するとの趣旨ではない。)、と解すべきであり、そして、上記「社会の一般道徳観念に反するような」場合には、ある商標をその指定商品又は指定役務について登録し、これを排他的に使用することが、当該商標をなす用語等につき当該商標出願人よりもより密接な関係を有する者等の利益を害し、剽窃的行為であると評することのできる場合も含まれ、このような商標を出願し登録する行為は、商標法第4条第1項第7号に該当するというべきである(東京高裁平成14年(行ケ)第94号、同年7月16日判決参照)。
イ 本件商標は、上記1のとおり、「スマートフォン用スタビライザー,コンピュータ用スタビライザー,携帯電話用スタビライザー,カメラ用スタビライザー,液晶ディスプレイ用スタビライザー,ビデオカメラ用スタビライザー」をその指定商品とし、平成30年(2018年)9月24日に「zhiyun」の文字からなる商標を、標準文字で表して登録出願したものであり、また、請求人の使用に係る引用商標は、別掲1ないし別掲4のとおりの構成からなるものであるところ、両商標は、一部に大文字小文字の差異はあるものの、共に「zhiyun(Zhiyun、ZHIYUN)」の欧文字から構成される造語であり、文字の態様、全体の配列に至るまで実質的に同一といい得るほど酷似している商標といえるものである。
そして、引用商標は、商品「スマートフォン用又はカメラ用スタビライザー」について、請求人によって遅くとも2016年(平成28年)7月13日から商標として使用されていたことが認められるものであって、被請求人の上記商品は、請求人と競業関係にあることは明らかである。
してみると、被請求人は、本件商標の登録出願前から、引用商標が請求人によって「スマートフォン用又はカメラ用スタビライザー」に使用されていたことを十分知っていながら、引用商標が商標登録されていないことを奇貨として、これと実質的に同一といい得るほど酷似している本件商標を請求人に承諾を得ずに先取り的に商標登録出願をし、登録を得たものであって、被請求人の行為は、請求人の我が国における事業の遂行を阻止し、引用商標による利益の独占を図る意図でしたものであって、剽窃的なものといわなければならない。
したがって、本件商標の登録出願の経緯には、著しく社会的妥当性を欠くものがあり、その商標登録を認めることは、公正な競業秩序を害するものであって、公序良俗を害するおそれがある商標というべきである。
ウ 以上のとおり、本件商標は、公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標というべきであるから、その登録は、商標法第4条第1項第7号に違反してされたものである。
(4)商標法第4条第1項第15号及び第19号該当性について
ア 引用商標の周知性について
請求人の提出した証拠からすると、請求人が、商品「スマートフォン用又はカメラ用スタビライザー」に引用商標を表示して、遅くとも2016年7月13日には、我が国において販売していることはうかがえるところである。
しかしながら、我が国又は外国においてその周知性の度合いを客観的に判断するための資料、すなわち、請求人の業務に係る商品を広告宣伝した期間、回数及びその方法、あるいは、販売時期、販売地域及び販売数等、その取引状況を具体的に示す証拠の提出はないから、請求人の提出に係る甲各号証によっては、引用商標の使用状況を把握することができず、引用商標の周知性の程度を推し量ることができない。
その他、提出に係る甲各号証を総合してみても、引用商標が、本件商標の登録出願時又は登録査定時において我が国又は外国の需要者の間で請求人の業務に係る商品を表示するものとして広く認識されていたと認めるに足りる事実は見いだせない。
したがって、提出された証拠によっては、引用商標が、我が国又は外国の需要者の間で請求人の業務に係る商品を表示するものとして広く認識され、本件商標の登録出願時及び登録査定時に周知性を獲得していたとは認められないものである。
イ 商標法第4条第1項第15号該当性について
本件商標と引用商標とは、同一又は類似の商標であるとしても、引用商標は、前記アのとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品を表示する商標として我が国又は外国の需要者の間で広く認識されるに至っていたと認めることができない。
そうすると、本件商標は、被請求人がこれをその指定商品について使用しても、これに接する取引者、需要者をして引用商標を連想、想起することはなく、該商品が請求人又は同人と組織的若しくは経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。
ウ 商標法第4条第1項第19号該当性について
上記アのとおり,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の業務に係る商品を表すものとして,我が国及び外国における需要者の間に広く認識されていたと認められないものであるから,商標法第4条第1項第19号の要件を充足しないものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しない。
(5)むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項柱書き及び同法第4条第1項第7号に該当し、その登録は同項の規定に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-890051