商標無効審判
2021-890038
テックスコムズ、テックスコムス
- 審判番号
- 2021-890038
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 商願2019-155906
- 登録番号
- 6343926
- 請求日
- 2021年08月12日
- 審決日
- 2023年01月10日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】テクスコム リミテッド
- 【請求人代理人】西浦 ▲嗣▼晴
- 【請求人代理人】▲高▼見 良貴
- 【請求人代理人】出山 匡
- 【請求人代理人】山田 朋彦
- 【請求人代理人】土橋 編
- 【被請求人】日鉄テックスエンジ 株式会社
- 【被請求人代理人】水野 勝文
- 【被請求人代理人】和田 光子
- 【被請求人代理人】保崎 明弘
- 審判長/審判官
- 審判長 森山 啓
- 審判官 小松 里美
- 審判官 小林 裕子
- 分類
- T111 .261-Y (W0942) / T111 .262-Y (W0942) / T111 .263-Y (W0942) / T111 .23 -Y (W0942)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 商標法4条1項8号商標法4条1項11号商標法46条1項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第4条第1項第8号、商標法第4条第1項第11号、商標法第46条第1項第1号、商標法第46条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の登録第6343926号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 本件商標
本件登録第6343926号商標(以下「本件商標」という。)は、「TEX-CoMS」の欧文字を書してなり、令和元年12月12日に登録出願、第9類及び第42類に属する商標登録原簿に記載の商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同2年12月14日に登録査定され、同3年1月22日に設定登録されたものである。
第2 引用商標
請求人が引用する登録第5669577号商標(以下「引用商標」という。)は、「TEXECOM」の欧文字を標準文字で表してなり、平成25年12月10日に登録出願、第9類に属する商標登録原簿に記載の商品を指定商品として、同26年5月9日に設定登録されたものであり、その商標権は現に有効に存続しているものである。
第3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第17号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同項第8号に違反して登録されたものであるから、商標法第46条第1項第1号により、その登録は無効とされるべきものである。
2 具体的な理由
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標について
本件商標は、欧文字の「TEX-CoMS」を一連に書してなる商標である。
本件商標は、商標公報(甲1の2)の【称呼(参考情報)】によれば、「テックスコムズ」又は「テックスコムス」の称呼が付与されている。
しかしながら、この称呼は、あくまでも「参考情報」であって、当該欄の表示に称呼が拘束されるものではない(甲3)。
また、商標の審査基準において「称呼とは、商標に接する需要者が、取引上自然に認識する音をいう。」とされており、商標から生ずる称呼は出願人の意図とは関係なく、その文字から自然に認識できる称呼が商標から生ずる称呼として認定されるということになる。例えば、「TEX-MEX」を「テクスメクス」と音訳しているように、「TEX○○」の構成からなる商標や名称を「テクス○○」と称呼している実例が存在し(甲4)、また、「TEX MURPHY」のような「TEX」が語頭に配置された構成からなる商標に付与されている称呼によれば、「テクス○○」の称呼の記載もあり、語頭の「TEX」が「テクス」と称呼される場合があることを示している(甲5)。
よって、甲第4号証及び甲第5号証より、語頭の「TEX」の語が「テクス」と称呼する場合があるといえる。
以上より、本件商標からは「テクスコムス」の称呼も自然と生ずる称呼といえる。
また、外観においては、商標公報に記載されたとおりであるが、欧文字で記載された商標において、語末の「S」は複数形を表示するものとしても認識されるものである。
確かに、本件商標を構成する「TEX-CoM」の部分は、「APPLE」のような一般的な英単語ではなく、造語であるといえる。
しかしながら、甲第6号証に示すとおり、「造語+S」についても当該造語を指し示すものが複数存在するという意味で認識されることがある。
以上のとおり、一般名詞以外の欧文字から構成される語についても語末の「S」は複数形を直感させることがあることから、本件商標を目にしたときに「TEX-CoMS」のうち「TEX-CoM」という会社・事業名又はブランド名の商品が複数存在するという認識が需要者に生ずることも相まって「TEX-CoM」の部分が外観として需要者の目を惹きつけるものといえる。
なお、観念においては、特定の観念が生ずるものはない。
イ 引用商標について
引用商標からは「テクセコム」の称呼が生ずる。また商標公報に記載された欧文字のとおりの外観が認識される。
なお、引用商標からは特定の観念は生じない。
ウ 本件商標の指定商品・役務と引用商標の指定商品の類否
本件商標の指定商品のうち、「電気通信機械器具,電子計算機用プログラム,電子応用機械器具及びその部品」については、引用商標の指定商品「遠隔監視システム用電気通信機械器具,電子計算機用プログラム」と同一又は類似する商品である。
また、本件商標の指定役務のうち、「サーバの記憶領域の貸与,電子計算機用プログラムの提供,クラウドコンピューティング」については、引用商標の指定商品「電子計算機用プログラム」とは、ダウンロードする商品かインターネット上等の通信回線上で提供されるものかの相違だけであって、その用途・機能は「電子計算機用プログラム」であることには相違ないことから、両者は用途・機能及び需要者層などが一致しているから、互いに類似する商品・役務である。なお、第9類「電子計算機用プログラム」と第42類「電子計算機用プログラムの提供」とはいわゆる備考類似の関係にある。
エ 両商標の対比
(ア)対比
本件商標と引用商標とを対比すると、外観においては、中間の「E」と「-(ハイフン)」が相違することと、語末の「S」の有無が相違する。
上述したとおり、本件商標の語末の「S」は、複数形を示す「S」とも認識されるため、需要者の印象に残りにくい。したがって、本件商標の外観において特徴的な部分は「TEX-CoM」である。
そうとすると、外観においては7、8文字の商標にあって「T」「E」「X」「C」「O」「M」と6文字が文字の並びも共通にしていること、及び相違する箇所が埋没しやすい中間の一文字と、重要度が高くない語末の「S」のみであるから、両者は外観において見間違える可能性があることは疑いようもない。
次に本件商標から生ずる称呼のうち「テクスコムス」と引用商標から生ずる称呼「テクセコム」とを比較すると、中間音の「ス」と「セ」及び語末の「ス」の有無が相違する。
「ス」と「セ」は子音を共通し、また称呼の識別において埋没しやすい中間音に位置する。加えて、語末の「ス」は弱音であり明瞭に聴取しがたいことに加え、上述したように複数形を示すものという意味合いも相まって、称呼の識別においては需要者の印象に残らないものである。
そうすると「テクスコムス」と「テクセコム」とは、一連に称呼した場合、ともに語頭の「テク」が強く称呼されることから、中間音及び語末の差異音が、強く称呼される前半部分を凌ぐほどの大きい影響を両称呼の全体に及ぼすものとはいえず、これらをそれぞれ一連に称呼するときは、その語調、語感が似たものとなり、本件商標と引用商標は、いずれも特定の観念を想起させない造語商標であることとも相まって、互いに聞き誤るおそれのある商標である。
(イ)過去の審決例
上記請求人の主張は、過去の審決(甲7)からも裏付けられている。
(ウ)小括
以上より、両商標は観念において比較できないものであるとしても、外観及び称呼の類似の程度を総合的に勘案すれば、互いに類似する商標であることは明白である。
そして、両商標が使用される商品は、一般的に取引に資される商品であって、特殊な商品ではない。
よって、商品に使用された商標がその外観、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は互いに出所の混同が生ずるおそれのある類似する商標であるといえる。
オ まとめ
以上より、本件商標は、引用商標と同一又は類似する商標であって、本件商標の指定商品・役務のうち、少なくとも第9類「電気通信機械器具,電子計算機用プログラム,電子応用機械器具及びその部品」及び第42類「サーバの記憶領域の貸与,電子計算機用プログラムの提供,クラウドコンピューティング」については、引用商標に係る指定商品と同一又は類似する。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。
(2)商標法第4条第1項第8号について
ア 引用する「他人の氏名」について
フランスのプロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール地域にある商品の宣伝・販売を行う「TEXCOM」という法人が現在も存在している。
フランスの「アンティーブ商業裁判所」が発行する会社登記簿に相当する書面(甲8の1)の「法人の情報」の欄によれば、同社は2007年12月10日に設立され、資本金は200,000ユーロであり、また、これは、2021年4月7日の更新の情報であることから、現在もなお存続していることがわかる。
なお、インターネット上にも同社の会社情報が英語で紹介されている(甲8の2)。
イ 商標法第4条第1項第8号該当性について
(ア)商標法第4条第1項第8号の「他人の名称」について
上記「TEXCOM」には、日本でいう「株式会社」等の法人格を示す表示がない。しかしながら、フランスの法律においては法人格を示す表記がなくとも法人の正式名称とされる。
この点について、東京地判平成13年7月18日(甲9の1)の裁判例及び審決例(甲9の2)がある。
したがって、フランス法に基づいて設立された「TEXCOM」もまた、「他人の名称」に該当する。
(イ)商標法第4条第1項第8号の「含む」について
商標法第4条第1項第8号の「含む」については、「他人の氏名や略称等を「含む」商標に該当するかどうかを判断するに当たっては,単に物理的に「含む」状態をもって足りるとするのではなく,その部分が他人の略称等として客観的に把握され,当該他人を想起・連想させるものであることを要すると解すべきである。」(知財高判平成21年10月20日 甲10)と判示されている。
そして、どの程度で客観的に他人の略称等として客観的に把握され、当該他人を想起・連想させるものであるかについては、「本件商標「SONYAN」は、本件審決の認定するとおり、これを構成する各文字が同一の書体、大きさで、一連に表示されており、各文字の書体に格別の特異性はないものであるところ、六文字のうち、語頭からの四文字は、さきに認定した原告の著名な略称である顕著な造語表示「SONY」と一致しているのに対し、これに付随する語尾の二文字「AN」は、英語においては、「・・・の」「・・・の性質の」「・・・人」の意の語を形成する場合にしばしば用いられる形容詞及び名詞の接尾辞であつて、わが国における英語の知識の普及度に徴すると「AN」について右の語意を直感するにとどまる者の多いことも明らかである。」(東京高判昭和53年4月26日 甲11の1)、すなわち、一連一体に書された「SONYAN」から「AN」の語義を直感するため「SONY」が客観的に把握されると判示されたものと解される。
また、審決においても、一連一体に書された「シェルドゥー/shelldo」について「本件商標は、英語の「shell」と「do」を結合し、それに表音の「シェルドゥー」を付記した構成よりなるところ、それが成語として一般に知られているものと解すべき特別な事情は見いだせず、両文字の結合度も弱いことから、本件商標に接する取引者、需要者は、上述(1)ないし(2)の実情よりして、本件商標の構成中、「シェル」及び「shell」の文字部分に強く印象付けられると見るのが相当である。」と判断している(甲11の2)。
上述したように、本件商標は「TEX-CoMS」であって「TEX-CoM」ではない。
しかしながら、甲第6号証に示したとおり、語末の「S」は「TEX-CoM」という会社、事業名又はブランド名の商品が複数存在するという複数形を示す文字であると認識されるため、「TEX-CoM」が客観的に含まれていると把握される場合も大いにあるといえる。少なくとも甲第11号証の1の事例の語末の「AN」や甲第11号証の2の事例の語末の「do」と比較すれば、明らかに本件の語末の「S」の方が印象に残りにくいものであることは明白である。
また、本件商標は、「TEX」と「CoM」の間にハイフンを有しているが、それが名称を認識する上で重要視されるものではないといえる(仮にハイフンの有無で商標法第4条第1項第8号が回避できるのであれば、例えば「MiCro-soft Corporation」や「大谷-翔平」と記載すれば、その適用を回避できることになってしまい、同号の趣旨を没却することになる。)。
加えて、特段の外観上やスペル上の大きな相違がなく、フランス法人の「TEXCOM」から生ずる「テクスコム」という他人の名称と同一の称呼を含む称呼が本件商標から生じる以上、本件商標は他人の名称が含まれていると解釈すべきである。
この点、「INTELL」から「インテル」の称呼が生じ、それが他人の著名な略称「INTEL」を想起させることから商標法第4条第1項第8号に該当すると判断した事例があることを付言する(知財高判平成19年12月20日 甲12)。
(3)小括
以上より、本件商標はフランス法に基づいて2007年に設立され現存する法人名「TEXCOM」を含むものである。そして、本件商標は同社の承諾を得ているものとは認められない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に違反して登録されたものである。
3 弁駁の理由
(1)商標法第4条第1項第11号について
被請求人は、本件商標の「S」の認識について、「本件商標は、被請求人の英語表記「NIPPON STEEL TEXENG.CO.,LTD.」の一部に照応した「TEX」と「Construction Management System」の略語「CoMS」を組み合わせた造語商標であり、語尾の「S」は「TEX-CoM」の複数形を表すものではない。また、本件商標のような造語において、その語尾の「S」が複数形を表す場合は、請求人が提出した甲第6号証からも明らかなように、小文字の「s」を使用するなど、前に位置する造語部分との違いを明確にすることで、初めてそれが複数形を示すものであると認識されるものである。例えば、甲第6号証の2の「BMWs」を「BMWS」と表現した場合、欧文字4文字からなる造語「BMWS」なのか、周知の自動車名である「BMW」が複数台あることを意味するのか判然としないことは明らかである。」などと主張する。
しかしながら、「Construction Management System」は「CMS」と略す方が一般的であって(甲13、甲14)、「CoMS」と略しているのは被請求人の事情であるから、一般需要者がそのことを認識できる道理はない。
このような個別具体的な事情は、いわゆる「保土谷化学工業事件」(昭和44年(行ツ)33号)の最高裁判決に示されたように、商標法第4条第1項第11号において考慮されるものではない(なお、付言すれば、本件商標から被請求人を連想するという主張についても同様に失当である。)。
また、被請求人は、「BMWs」のように「s」が小文字ではないことを理由として、複数形と認識される可能性を否定する。
確かに、本件商標が「Tex-comS」といった表記であれば、わざわざ「S」のみを大文字にしてあることから、「S」が複数形と認識されない場合もあるかもしれない。
しかしながら、本件商標は中間の「o」を除き、すべて大文字で構成されており、大文字に「M」に続く複数形を同じ大文字で記載しても何ら不自然ではない(甲15)。
被請求人の論を借りれば、英語の記事の見出しなどで、すべて大文字で記載している場合の語末の「S」は複数形たり得ないということになってしまい、英語の文法的に見ても妥当ではない。
よって、本件商標の外観や称呼の特定にあたって複数形を認識させる「S」の文字及びその称呼の「ス」の音は、需要者の印象に残らないものであるから、すでに述べたとおり、本件商標と引用商標は外観、称呼において類似する商標である。
(2)商標法第4条第1項第8号について
まず、請求人が、フランス法人の法人名を上げていることについて「同社が請求人との関連性のある法人であるかが不明である。したがって、このことを理由として無効審判を請求することについて、請求人が利害関係人足り得るのかどうかも不明であるといわざるを得ない。」などと主張するが、これは利害関係人についての解釈について誤りがある。
本件商標は、引用商標と類似する商標であって、これが存在することによって、直接不利益を被る関係にある以上、それだけで同条にいう利害関係人としてのその商標の登録の無効審判を請求する利害関係を有するといえる(東京高裁昭和35年(行ナ)第106号)。
そして、利害関係人が無効理由を主張するときに、無効審判請求人及びその関係者以外の他人の氏名を理由としてはいけないとか、そういった法律上の要件はない。ましてや、請求理由ごとに利害関係の有無を判断するといった解釈もない。
被請求人の主張に基づけば、無効審判において審判請求人及びその関係者以外の他人の商標や氏名を理由として無効理由は主張できないことになるが、実際に過去の無効審判では、他人の商標を引用することや、他人の氏名を上げたとしても、それ以外に審判請求人が不利益を被る関係がある以上は、いずれも利害関係が認められている(甲16、甲17)。
したがって、被請求人の上記主張は失当である。
また、その他、被請求人は、フランス法人「TEXCOM」がフランスの法人名として認識されない等、縷々述べるが、需要者が「他人の氏名」と認識できるかどうかまでは商標法第4条第1項第8号は要件としていないし、甲第9号証の1等に示す過去に同号が争点になった裁判例、審決例でも同様である。
したがって、「TEXCOM」がフランス国で正式に設立された法人名である以上、「他人の氏名」に該当するものである。
最後に、被請求人はいわゆる「マツモトキヨシ事件」の裁判例を上げて反論するが、この判決の評価は未定である上、マツモトキヨシが音商標であって戸籍名をそのまま表示するものではないこと、著名なドラッグストアであること等の事情が勘案されたものである。
少なくとも本件商標が、全体として被請求人の「商標」としてどの程度認識されているのか、そして、それがフランス法人の氏名の人格的利益を優先させることが不要であるといえる事情があるのか、といった点が一切立証されていない以上、この裁判例は本件とは事案が異なるものであって、参酌されるべきものではないといえる。
(3)まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同項第8号に該当するものであるから、本件商標は無効とされるべきである。
第4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第11号証を提出した。
1 本件商標の認定について
請求人は、本件商標からは「テクスコムス」の称呼も自然と生ずる称呼である旨主張する。
この点、本件商標から「テクスコムス」の称呼が生ずる可能性がある点については否定しないが、本件商標の「TEX」は、被請求人の名称に照応して、「テックス」の称呼が生ずると考えるのが最も自然であるため、本件商標から自然と生ずる称呼は「テックスコムス」又は「テックスコムズ」である。
また、請求人は、本件商標を目にしたときに「TEX-CoMS」のうち語尾の「S」は複数形を表すものであって、そのため「TEX-CoM」という会社、事業名又はブランド名の商品が複数存在するという認識が需要者に生ずることも相まって「TEX-CoM」の部分が外観として需要者の目を惹きつけるものといえる旨主張する。
しかしながら、本件商標は、被請求人の英語表記「NIPPON STEEL TEXENG.CO.,LTD.」の一部に照応した「TEX」と「Construction Management System」の略語「CoMS」を組み合わせた造語商標であり、語尾の「S」は「TEX-CoM」の複数形を表すものではない。
また、本件商標のような造語において、その語尾の「S」が複数形を表す場合は、請求人が提出した甲第6号証からも明らかなように、小文字の「s」を使用するなど、前に位置する造語部分との違いを明確にすることで、初めてそれが複数形を示すものであると認識されるものである。例えば、甲第6号証の2の「BMWs」を「BMWS」と表現した場合、欧文字4文字からなる造語「BMWS」なのか、周知の自動車名である「BMW」が複数台あることを意味するのか判然としないことは明らかである。
したがって、本件商標を目にしたときに「TEX-CoMS」のうち「TEX-CoM」という会社、事業名またはブランド名の商品が複数存在するという認識が需要者に生ずるとは到底いえない。
してみれば、請求人の係る主張は明らかに失当であるといわざるを得ない。
2 本件商標は引用商標に類似しない
請求人は、本件商標の語尾の「S」は、複数形を示す「S」とも認識されるため、需要者の印象に残りにくく、そのため本件商標の外観において特徴的な部分は「TEX-CoM」である旨主張し、本件商標は引用商標と外観において見間違える可能性があることは疑いようもないと主張する。
しかしながら、外観上、本件商標は、同書体、同大の文字にて「TEX」と「CoMS」とを「-(ハイフン)」でつないで構成されているのに対して、引用商標は欧文字「TEXECOM」からなるところ、本件商標はハイフンにより前半と後半に分離して認識されるため、外観上の相違は極めて明確になる。さらに、本件商標と引用商標とは、中間の「E」が相違すること、また、「o」の文字が小文字と大文字で異なること、さらに語尾の「S」の有無に違いがあるため、両商標は容易に区別される。
次に、称呼について、請求人は、本件商標から「テクスコムス」が生ずるとして引用商標の「テクセコム」の称呼と対比しているが、そもそも、前述のとおり、本件商標からは「テックスコムス」又は「テックスコムズ」の称呼が生ずると考えるのが最も自然である。
「テックスコムス」又は「テックスコムズ」の称呼と、引用商標から生ずる「テクセコム」の称呼とは、本件商標が7音に対して引用商標は5音となり、かかる音数の相違、しかも2音以上も異なる点は称呼の識別上大きな影響を与えるものであるため、この差異により聴取者は両商標を明確に聴別するものである。さらに、促音の有無、中間における「ス」と「セ」の差異、及び語尾の「ス(ズ)」の有無から聴別は容易である。
加えて、本件商標は、「TEX」と「CoMS」とを「-(ハイフン)」でつなげた構成であることから、ハイフンを挟んだ前半部分と後半部分の語頭音である「テ」と「コ」にアクセントを置いて2音節で称呼されるのが最も自然である。一方、引用商標は構成文字に照応して「テクセコム」とー音節で称呼される。
したがって、両商標の称呼はその語調、語感において大きく異なるものである。
ちなみに、称呼上、中間音の「ス」と「セ」のみが異なる商標であっても併存している例は多数ある(乙1~乙10)。
上記のような、中間における「ス」と「セ」の一音相違により非類似と判断されて併存している商標登録例があるところ、本件商標と引用商標はさらに促音の有無及び語尾における「ス(ズ)」の有無の差異も有しているのである。それにもかかわらず、本件商標と引用商標とが、上記併存例と異なった判断をなされるべき合理的な理由は一切見あたらない。
なお、本件商標から仮に「テクスコムス」又は「テクスコムズ」の称呼が生ずるとしても、引用商標の称呼「テクセコム」とは、音数の差、中間音の「ス」と「セ」が異なり、かつ、語調、語感が大きく異なることから、容易に聴別可能である点に変わりはない。本件商標は「テクス」「コムス(ズ)」と2音節で称呼されるため、後半部分「コムス(コムズ)」の3音も明瞭に聴取されるものである。
したがって、例え、語尾音であっても「ス(ズ)」の音が称呼の識別においては重要な役割を果たすものといえ、需要者の印象に残りにくいとの請求人の主張は妥当ではない。本件商標の語末の「S」は複数形を示す「S」と認識されるものではないことからも、語末の「S」に照応した「ス(ズ)」の音の有無を両称呼の類否判断において過小評価すべきではないことは明らかである。
そのため、請求人が挙げる甲第7号証の審決も本件とは事案が異なるので、本件商標の類否判断に影響を及ぼすものではない。
さらに、本件商標及び引用商標はいずれも造語商標であるため、基本的には観念において比較はできないが、本件商標には被請求人の英語表記「NIPPON STEEL TEXENG.CO.,LTD.」の一部「TEX」が含まれていることから、本件商標に接する需要者は、この部分から被請求人を自然と連想するものといえる。そのため、両商標から受ける印象は相違する。
してみれば、本件商標と引用商標とは外蜆、称呼及び観念上明確に識別され、彼此相紛れるおそれは皆無であり、本件商標は商標法第4条第1項第11号には該当しない。
したがって、請求人の、本件商標と引用商標の「外観及び称呼の類似の程度を総合的に勘案すれば互いに類似する商標である」、「両者は互いに出所の混同が生ずるおそれのある類似する商標である」との主張は失当である。
3 本件商標は商標法第4条第1項第8号には該当しない
請求人はフランスの法律に基づいて設立された法人の商号「TEXCOM」の存在を理由に、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に違反して登録されたものと主張する。
上記「TEXCOM」が法人の正式名称であるか否かについては、被請求人は不知であるが、同社が請求人との関連性のある法人であるかが不明である。したがって、このことを理由として無効審判を請求することについて、請求人が利害関係人たり得るのかどうかも不明であるといわざるを得ない。
また、仮に請求人による上記法人の存在を理由とする無効審判の請求が認められ得るとしても、同社は資本金2000ユーロで、自社のホームページさえないような小規模な企業であり、日本で商品やサービスを提供している事実も示されていない。また、請求人によれば、同社は商品の宣伝、販売を行う企業であるため、そもそも本件商標の指定商品との関連性も薄い。かかる状況に鑑みて、我が国において「TEXCOM」がフランスの法人名称として認識されている状況とは到底いえない。
したがって、上記法人は商標法第4条第1項第8号の「他人の名称」に該当するとはいえない。
この点について、請求人が挙げた甲第10号証には「他人の氏名や略称等を「含む」商標に該当するかどうかを判断するに当たっては、単に物理的に「含む」状態をもって足りるとするのではなく、その部分が他人の略称等として客観的に把握され、当該他人を想起、連想させるものであることを要すると解すべきである。」(知財高判平成21年10月20日)と判示されている。
そうすると、上記のとおり、そもそも我が国において上記「TEXCOM」がフランスの法人名称としては認識されていないので、本件商標「TEX-CoMS」がここから「-(ハイフン)」や「S」が取り除かれて「TEXCOM」の文字のみが認識された上で、上記フランス法人を想起、連想させることは到底考えられない。
さらには、知財高判令和3年8月30日(乙11)の裁判例において、「同号は、出願人の商標登録を受ける利益と他人の氏名、名称等に係る人格的利益の調整を図る趣旨の規定であり、音商標を構成する音と同一の称呼の氏名の者が存在するとしても、当該音が一般に人の氏名を指し示すものとして認識されない場合にまで、他人の氏名に係る人格的利益を常に優先させることを規定したものと解することはできない。」と判示されている。
本件商標は音商標ではないが、文字商標の場合であっても上記判決の趣旨は踏襲されるべきであることは論をまたない。
そうすると、そもそも本件商標「TEX-CoMS」と上記「TEXCOM」は同一とはいえないし、少なくとも「TEX-CoMS」が我が国において上記「TEXCOM」の法人名を指し示すものとして認識されることはないため、当該法人に係る人格的利益を優先する必要性がないことは明らかである。
なお、請求人は、本件商標「TEX-CoMS」の語尾の「S」は「複数形を示す文字であると認識がされるため、「TEX-CoM」が客観的に含まれていると把握される場合も大いにあるといえる」、「「ハイフン」を有しているが、それが名称を認識する上で重要視されるものではないといえる」と主張し、当該部分を除いた上で本件商標は上記「TEXCOM」が含まれていると主張する。
しかしながら、前述のとおり、本件商標の語尾の「S」は複数形を表すものではないし、また、「-(ハイフン)」についてもこれにより本件商標の外観はもちろんのこと、称呼の語調、語感も変化するのであるから、単に、本件商標に「TEX」及び「CoM」の文字が含まれる状態のみをもって、「他人の氏名や略称等を「含む」商標」に該当するとの主張は明らかに客観性を欠いた、的外れな主張であるといわざるを得ない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当するものではない。
したがって、請求人の「本件商標はフランス法に基づいて2007年に設立され現存する法人名「TEXCOM」を含むものである。そして、同社の承諾を得ているものとは認められない」から、本件商標は商標法第4条第1項第8号に違反して登録されたものである旨の主張は失当である。
4 以上のとおり、本件商標は商標法第4条第1項第11号及び同項第8号の規定に違反して登録されたものではない。
第5 当審の判断
本件審判の請求に関し、当事者間において、利害関係の有無につき争いがあることから、まず、この点について判断する。
商標法第46条に規定する商標登録の無効審判を請求できる者は、当該商標登録を無効とすることに関して利害関係を有する者であるところ、ある商標の登録の存在することによって、直接不利益を被る関係にある者は、それだけで同条にいう利害関係人としてのその商標の登録の無効審判を請求する利害関係を有すると解されている(東京高裁昭和35年(行ナ)第106号)。
そして、請求人は、本件商標は、請求人の登録商標と類似し、取引者、需要者間に商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれがあると主張していることから、請求人は、本件商標の存在により、不利益を被るものであって、本件審判の請求をすることについて法律上の利益を有するものというべきである。
以下、本案に入って審理する。
1 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標
ア 本件商標は、上記第1のとおり、「TEX-CoMS」の欧文字を横書きしてなるところ、これらの構成文字全体としては、辞書等に載録されている語ではなく、また、特定の意味合いを有するものとして認識されているというような事情も見いだせないものであるから、一種の造語として認識されるものである。
そうすると、本件商標は、その構成文字に相応し「テックスコムズ」又は「テックスコムス」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものと判断するのが相当である。
イ なお、請求人は、欧文字で記載された商標において、語末の「S」は複数形を表示するものとしても認識されるから、本件商標は「TEX-CoM」の部分が外観として需要者の目を惹きつける旨主張している。
しかしながら、本件商標は、「TEX」と「CoMS」の文字を「-」(ハイフン)を介して結合してなるものであるところ、請求人の主張のとおり、英語の名詞において語尾に「S」を付して複数形を表すことがあるとしても、上記のとおりの構成からなる本件商標においては、語尾の「S」が必ずしも複数形の「S」であることを、看者をして認識させるというべき特段の事情は見いだせないこと、本件商標の構成文字は、同じ書体、同じ大きさ、等しい間隔で、まとまりよく一体的に表されていること、及びこれから生じる「テックスコムズ」又は「テックスコムス」の称呼は無理なく一連に称呼し得るものであることを合わせ考慮すれば、本件商標は、これに接する取引者、需要者をして、その構成文字全体をもって一体不可分のものとして認識、把握されるものとみるのが相当である。
また、他に、本件商標は、その構成中「TEX-CoM」の文字部分を分離抽出し他の商標と比較検討すべきとする事情は見いだせない。
したがって、請求人のかかる主張は採用できない。
(2)引用商標
引用商標は、上記第2のとおり「TEXECOM」の欧文字を標準文字で表してなり、該文字に相応し「テクセコム」の称呼を生じ、当該文字は一般の辞書等に掲載されていないものであるから、特定の観念を生じないものと判断するのが相当である。
(3)本件商標と引用商標の類否
本件商標と引用商標の類否を検討すると、外観においては、本件商標の構成文字「TEX-CoMS」と引用商標の構成文字「TEXECOM」とは、「-」の有無、構成文字及び文字数が明らかに異なり、相紛れるおそれのないものである。
次に、本件商標から生じる「テックスコムズ」又は「テックスコムス」の称呼と引用商標から生じる「テクセコム」の称呼を比較すると、両者は構成音、構成音数が明らかに異なり、相紛れるおそれのないものである。
さらに、観念においては、両者は共に特定の観念を生じないものであるから比較することができない。
そうすると、本件商標と引用商標は、外観、称呼において相紛れるおそれがなく、観念において比較できないものであるから、両者の外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標というべきものである。
その他、本件商標と引用商標が類似するというべき事情は見いだせない。
(4)小括
以上のとおり、本件商標は引用商標と非類似の商標であって、別異の商標というべきものであるから、両商標の指定商品が同一又は類似するとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものといえない。
2 商標法第4条第1項第8号該当性について
(1)商標法第4条第1項第8号が、他人の肖像又は他人の氏名、名称、著名な略称等を含む商標は、その他人の承諾を得ているものを除き、商標登録を受けることができないと規定した趣旨は、人(法人等の団体を含む。以下同じ。)の肖像、氏名、名称等に対する人格的利益を保護することにあると解される。すなわち、人は、自らの承諾なしにその氏名、名称等を商標に使われることがない利益を保護することにあるところ(最高裁平成17年7月22日第二小法廷判決・裁判集民事217号595頁)、問題となる商標に他人の略称等が存在すると客観的に把握できず、当該他人を想起・連想できないのであれば、他人の人格的利益が毀損されるおそれはないと考えられる。そうすると、他人の氏名や略称等を「含む」商標に該当するかどうかを判断するに当たっては、単に物理的に「含む」状態をもって足りるとするのではなく、その部分が他人の略称等として客観的に把握され、当該他人を想起・連想させるものであることを要すると解すべきである(知財高裁平成21年(行ケ)第10074号、同21年10月20日判決参照)。
(2)上記(1)について検討すると、本件商標は、上記第1のとおり、「TEX-CoMS」の文字を横書きしてなるところ、上記1(1)認定のとおり、本件商標の構成に係る各文字は、同じ書体、同じ大きさ、等しい間隔で表されており、外観上一体として把握し得るものである。また、その構成文字全体より生じる「テックスコムズ」又は「テックスコムス」の称呼は、無理なく一連に称呼し得るものである。そして、本件商標の指定商品との関係からみても、いずれかの文字部分のみに印象付けられるものではなく、本願商標は、構成全体を一体のものとしてみるのが自然である。
(3)そうすると、フランスのプロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール地域に「TEXCOM」という名称の法人が存在するとしても、本件商標は、その構成中の「-」及び語尾の「S」部分を除いた「TEXCoM」の文字部分のみが独立して把握、認識されるものではないから、これに接する需要者をして、上記法人を想起、連想させることはないというべきである。
(4)したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する商標ということはできない。
3 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号及び同項第8号のいずれにも違反してされたものとはいえないから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすべきでない。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-890038