商標無効審判
2021-890014
イッショウパン、イッショーパン、イッショー、イチショー
- 審判番号
- 2021-890014
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 商願2015-112206
- 登録番号
- 5839434
- 請求日
- 2021年04月05日
- 審決日
- 2021年11月02日
- 公報発行日
- 2023年02月24日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社 C・B・H
- 【請求人代理人】▲高▼橋 幸夫
- 【被請求人】株式会社 ポンパドウル
- 【被請求人代理人】松田 省躬
- 【被請求人代理人】松田 次郎
- 審判長/審判官
- 審判長 平澤 芳行
- 審判官 半田 正人
- 審判官 鈴木 雅也
- 分類
- T111 .13 -Y (W30) / T111 .272-Y (W30)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 商標法3条1項3号商標法4条1項16号商標法46条1項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第3条第1項第3号、商標法第4条第1項第16号、商標法第4条第1項第11号、商標法第46条第2項、商標法第3条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の登録第5839434号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は,成り立たない。
審判費用は,請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 本件商標
本件登録第5839434号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲のとおり,「一升パン」の文字及び「いっしょうぱん」の文字を上下二段に書してなり,平成27年11月16日に登録出願,第30類「菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ」を指定商品として,同28年3月9日に登録査定され,同年4月8日に設定登録されたものである。
第2 請求人の主張
請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第15号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,査定時において,指定商品中「パン」に使用するときは「1.8リットルのパン」及び「子供の1歳の誕生日のお祝いに用いるパン」ほどの意味合いを容易に理解させ,単にその商品の品質を普通に用いられる方法で表示するため,商標法第3条第1項第3号に該当し,また,指定商品中「菓子,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ」に使用するときは,商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるため,同法第4条第1項第16号に該当するから,同法第46条第1項第1号により,無効にすべきものである。
2 請求の利害関係
被請求人は,請求人が商標権者である商標登録第6113801号について,本件商標を先願先登録商標として,商標法第4条第1項第11号を理由とする,商標登録の無効審判を請求している(無効2021-890009)から,請求人は商標法第46条第2項にいう「利害関係人」に該当する。
3 具体的な理由
(1)商標法第3条第1項第3号について
ア 本件商標は,その構成中「一升」及び「いっしょう」の文字が「単位『升』で量った一つ分の容積。」という意味を有し,また,「升」及び「しょう」の文字が「尺貫法における容積の単位。古来用いられてきたが,現代の一升は1.80391リットル。斗の10分の一で,合の10倍。」という意味(いずれも岩波書店「広辞苑第六版」)を有するから,全体として「1.8リットル(約1.8kg)のパン」ほどの意味合いを容易に理解させる。
イ 日本の伝統的なお祝いとして,子供の1歳の誕生日に,一升分の餅(一升餅)を背負わせて歩かせる,「一升餅のお祝い」がある。「一升餅のお祝い」は,一升と一生をかけて,「一生幸せでいられるように」,「一生食べ物に困らないように」,「一生健康でいられるように」という願いが込められているとされる。
ウ インターネット情報(甲2~甲14)から,本件商標の査定時(2016年(平成28年)3月9日)以前において,子供の1歳の誕生日の「一升餅のお祝い」を,「一升餅」の代わりに「パン(一升パン)」を用いて行っているという実情が認められる。
(ア)上記インターネット情報には,ジャンボサイズの「一升パン」の写真や「一升パン」を背負った子供の写真が目立つように掲載されており,これらのインパクト大の写真を見た者は「一升餅」のお祝いを「一升パン」を用いて行っていることが強烈に印象付けられるため,自分や自分と関係ある子供の1歳の誕生日に「一升パン」を用いてお祝いをしたいと考える人が出てくることは容易に推測され,これらの写真は「一升パン」を世の中に知らしめるためのツールとして十分に機能している。
(イ)インターネット情報(甲2~甲12)は,タイトル等の比較的目立つ位置に,「一升餅ならぬ一升パン」という,統一されたキーワードが用いられ,時代劇などで見たり聞いたりする「ならぬ」という言葉を使用しているため,とても印象深く,かつ頭に残りやすい。この風変わりな「一升餅ならぬ一升パン」というキーワードが,本件商標の査定時以前において,全く関係がない不特定多数の人々に使用されているため,本件商標の査定時以前において,既に「一升餅」の代わりに「一升パン」を用いて子供の1歳のお祝いを行う行事が世の中に広まっていたといって差し支えない。
(ウ)上記インターネット情報の中には,「一升パン」に関し,以下の記載がある。
a 「最近は,意外に一升パンをやられているお家もあるようですね~」(甲4)
b 「2年ほど前からひっそりと始めた一升パンですが徐々に広まって来ました」(甲6)
c 「子供が1歳になる記念のパーティーで,一升餅ならぬ一升パンを担がせたい♪」(甲7)
d 「一升餅ならぬ一升パンが一部のパン好きのママの間で話題になっている」(甲9)
e 「最近話題だからネットで頼もうと思ったけど送料も高いし保存料等も気になっちゃって(中略)で,頼まれたのが一升パンなのです!!」(甲11)
f 「大人気♪一升パン」「今回の一升パンのお客様は」(甲14)
これらの記載からしても,本件商標の査定時以前においても,特に,パン好きな人や幼い子供のいる親の仲間内で,「一升パン」という言葉が一般的に使用されていたことが十分うかがい知れる。
(エ)上記2に係る無効審判の審判請求書には,「『一升パン』は『一升餅』の発想をパンに適用して作られた商品であり,請求人(審決注:本件の被請求人)によって発案されたものである。」旨の記載があるが,被請求人が「一升パン」を付した「パン」の販売を開始したとする2014年7月1日以前に公開されたインターネット情報(甲2~甲6)からすれば,「一升パン」が被請求人によって発案されたという主張は勘違いである。
エ インターネット情報(甲2~甲14)を考慮すれば,「一升パン」の入手方法として,(ア)パン作りが趣味の人又は得意な人が自分で「一升パン」を作る(甲10),(イ)パン作りが得意な人か又はパン教室の先生が作った「一升パン」を入手する(甲7,甲9),(ウ)行きつけのパン屋に個人的にお願いして作ってもらった「一升パン」を入手する(甲3~甲5,甲9,甲14),(エ)特注商品としてオーダーを取っているパン屋から「一升パン」を入手する(甲2,甲6,甲11~甲13),(オ)定番商品として用意されている「一升パン」を予約して店頭で入手する(ポンパドウル(被請求人が運営するパン屋))等があるが,被請求人はこれらの全ての入手方法において関与していないため,本件商標の査定時において,「一升パン」といえば「ポンパドウル」といえる程度の周知性があるとはいえない。
また,「一升パン」は,これらの全ての入手方法において必然的に用いられる非常に重要な言葉であるため,本件商標の査定時において,「一升パン」という言葉は,本件の被請求人のみならず,何人も使用する必要がある。
オ 被請求人が販売する「一升パン」のちらし(甲15)には,「フランスパン生地を約2kg使い焼きあげました。」という記載があり,「一升パン」が「1.8リットル(約1.8kg)のパン」であることを明示している。また,「一升餅のかわりにどうぞ。」という記載もあり,「一升パン」が「子供の1歳の誕生日のお祝いに用いるパン」であることを明示しているから,被請求人のちらしは「一升パン」が「1.8リットル(約1.8kg)のパン」であり,かつ「子供の1歳の誕生日のお祝いに用いるパン」であること,すなわち,「一升パン」が商品の特性そのものを表していることは明確である。
カ 以上のことから,本件商標をその指定商品中「パン」に使用しても,これに接する取引者,需要者は,「1.8リットル(約1.8kg)のパン」及び「子供の1歳の誕生日のお祝いに用いるパン」ほどの意味合いを容易に理解させるにすぎず,商品の品質を表したものと認識するにとどまるから,本件商標は,単に商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章からなるものと認められるため,商標法第3条第1項第3号に該当する。
また,「一升パン」といえば「ポンパドウル」といえる程度の周知性の事実もないため,商標法第3条第2項の適用もない。
なお,本件商標の査定時以前に一般的に使用がされ,何人も使用する必要があり,かつ識別力もない「一升パン」という標章を,一私人(株式会社ポンパドウル)に独占させるのは公益に反し,競業秩序の維持だけでなく,商標法の精神からしても不適切である。
(2)被請求人の答弁に対する反論
ア インターネット情報(甲2~甲14)の証拠能力について
(ア)インターネット情報中のブログ記事(甲2~甲8,甲10~甲14)は,子供の1歳の誕生日を「一升パン」を用いて祝った記録を残したい(甲3,甲4,甲10,甲12)とか,お客さんの依頼によって焼き上げた「一升パン」を提供した記録を残したい(甲2,甲5~甲8,甲11,甲13,甲14)という意図が読み取れるが,記録を残す目的で記載されているブログ記事の作成者が「ブログ記事の投稿日」の変更を行ったと考えることは,不自然である。また,雑多で種々様々である上記ブログ記事の作成者にとって,「一升パン」の「ブログ記事の投稿日」の変更を行うことは,実益がなく,わざわざ時間を使って「ブログ記事の投稿日」の変更を行ったと考えるのは,現実離れしている。
(イ)インターネット情報(甲2~甲14)に係る日付について,商標法第3条第1項第3号に該当したという証拠の時期に関しては,ウェブページへの掲載時点が本件商標に係る登録査定日である2016年3月9日よりも前でなければならないが,被請求人の主張する「本件商標の出願日である2015年11月6日よりも前」とか,「本件商標に係る出願の査定日である2016年3月9日よりも3か月以上前」であるかは問題とならない。
(ウ)被請求人は,「ブログ記事の投稿日」が変更されたものである旨の主張をするのであれば,当該日付が変更されたことが明確となる証拠を提出する義務がある。
(エ)以上のことから,インターネット情報(甲2~甲14)は,いずれも,本件商標に係る登録査定の時点において,本件商標が商標法第3条第1項第3号に該当していたという証拠としての機能を発揮する。
イ 文字「一升」を含む,「一升餅」と「一升パン」の解釈について
(ア)「一升餅」における「一升」は,原料の「餅米」は升で量ることができるため,原料の「餅米」が「一升」であると考えられるが,できあがった後の「餅」が「一升」であると考えることも可能である。つまり,「一升餅」は,1.8リットル(約1.8kg)の「餅米」を使用して作った「餅」であると考えられるが,できあがった後の「餅」が「一升」(1.8リットル(約1.8kg))の「餅」であると考えることも可能である。
(イ)「一升パン」における「一升」についても「一升餅」と同様である。「一升パン」における「一升」も,原料の「小麦粉(パン生地)」は升で量ることができるため,原料の「小麦粉(パン生地)」が「一升」であると考えられるが,できあがった後の「パン」が「一升」であると考えることも可能である。つまり,「一升パン」は,1.8リットル(約1.8kg)の「小麦粉(パン生地)」を使用して焼き上げた「パン」であると考えられるが,焼き上がった後の「パン」が「一升」(1.8リットル(約1.8kg)の「パン」)と考えることも可能である。
(ウ)「一升餅ならぬ一升パン」は,「一升餅でなくて一升パン(一升餅の代わりに一升パン)」,「子供の1歳の誕生日を祝う際に,子供の背中に背負わす餅の代わりに用いるパン」という意味を有するものであって,「と呼ぶ」という意味は発生しない。また,「一升餅」と「一升パン」が同等同格に扱われ,「一升餅」と「一升パン」に主従関係がない。本件商標の査定時以前において,既に「一升パン」を用いて子供の1歳のお祝いを行う行事が世の中に広まっていたことを考慮すれば,指定商品「パン」の需要者・取引者(特に,パン好きの人々)であれば,「一升パン」という言葉が,単独で,「子供の1歳の誕生日のお祝いに用いるパン」を意味していると理解するはずである。
ウ インターネット情報(甲2~甲14)の内容について
(ア)「Boulangerie Shima シマパンブログ」の2012年1月15日付けの記事(甲2)は,「ブーランジュリ シマ」が作る「一升パン」の重量は1810gであること等が記載され,商品の特定の品質を具体的に表示している。
(イ)「FC2ブログ ゆっきぃLIFE」(甲3)は,令和3年8月11日現在であっても,その最下部に記載されている,「http://yukkiilife2011. blog89.fc2.com/blog-entry-732.html」において,該当ページの表示は可能である。
(ウ)「パンラボブログ」(甲4)は,「さすがにパンで1.8キロは巨大すぎるので,重さにはそんなにこだわらず1キロぐらいの丸いカンパーニュを背負わせる,それが我が家の一升パン」と記載され,「一升パン」は「1.8kgのパン」であることが読み取れるため,商品の特定の品質を具体的に表示しているといえる。
(エ)「『薪の石窯パン工房Chevre』(シェーブル)元祖ヤギのパンやさんと,やぎの新聞屋さん『古橋新聞店』の情報です。のブログ」(甲5)の下方のコメント欄に,「一升パン,面白いですね。オーダーされたお客様のすごくパンLOVEなのが分かります!一升の重さのパン・・・想像しただけで,かなり大きそうです。1歳のお子さん背負えたら,一生パンに困らないですね。」と記載され,「一升パン」が「一升(約1.8kg)の重さのパン」であることを容易に把握することができる。
(オ)被請求人が「一升パン」を付した「パン」の販売を開始したとする,2014年7月1日以前の2014年6月6日に投稿された「シマパンぶろぐぅ」(甲6)には,「2年ほど前からひっそり始めた「一升パン」ですが,徐々に広まって来ました。」と記載され,「一升パン」の語の意味が一般的に認識されていない造語であることを証明していない。また,当該ブログには,「一升餅の場合,米を一升(1.8キロ)を使用して作りますが,シマパンの一升パンは仕上がり重量が一升1.8キロとなっております。」と記載され,「一升パン」は,商品の特定の品質等を表示するものであることが明確である。
(カ)「一升パン」を特注商品としてオーダーを取っているパン屋は,2015年7月21日現在で,「ブーランジュリ シマ」(甲2),請求人が運営する「三橋の森カフェボスケ」(甲13)があるから,「『一升パン』を特注商品としてオーダーを取っているパン屋さんも見つけました。」との記載があるが,(中略)真偽は不明である。」旨の被請求人の主張は不適切である。なお,甲第9号証は,株式会社リクルートが運営する「ゼクシィBaByみんなの体験記」であって,「ブログの記事」ではない。
(3)商標法第4条第1項第16号について
本件商標は,上述のとおり,指定商品「パン」との関係で自他商品識別力がなく商品の品質を表すものであり,また,「パン」という商品名(普通名称)が含まれているから,これを指定商品中「菓子,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ」に使用するときは,商品の品質の誤認を生じさせるおそれがある。
そうすると,本件商標は,指定商品中「パン」以外の商品については,商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるため,商標法第4条第1項第16号に該当する。
第3 被請求人の主張
被請求人は,結論同旨の審決を求めると答弁し,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第7号証を提出した。
1 商標法第3条第1項第3号該当性について
(1)パンの一般的な数え方
パンの単位は,食パンの場合,スライスしてある状態であれば「1枚」,店頭で売っている袋に入ったひとかたまりの状態であれば「1斤」,焼き上げたときの型に入っているひとかたまりの状態は「1本」とするのが通常である(乙1~乙4)。また,重さを表す単位は,「1g(グラム),1kg(キログラム)」と考えるのが通常である。
(2)「本件商標が,『一升パン』及び『いっしょうパン』の文字を,普通に用いられる方法で書してなるものである。」との請求人の主張について
請求人は,「本件商標は,商標全体として,『1.8リットル(約1.8kg)のパン』の意味合いを容易に理解させる」と述べているが,「1.8リットルのパン」とは具体的に一体どのようなものを指すかについて説明がなく,これが商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標に該当するかの論拠に乏しい。
本件商標の構成部分のうち,「一升」は,「単位『升』で量った一つ分の容積。」,「升」は「尺貫法における容量の単位。古来用いられてきたが,現代の一升は1.80391リットル。斗の10分の1で,合の10倍。」を意味する(いずれも岩波書店「広辞苑第七版」)。「升」は,米の他,日本酒や醤油の体積を量るときに使用する単位で,パンの数を数える際に使用されているという実情は見受けられない。したがって,パンの数量,重量又は大きさを表す単位として使用されていない「一升」の語と「パン」を結合させて「一升パン」とすることにより,直ちに特定の意味合いを認識させることのない一種の造語が形成され,商標としての自他商品の識別力が発揮される。
(3)子供の1歳の誕生日の「一升餅のお祝い」を,「一升餅」の代わりに「パン」(一升パン)を用いて行っているという実情に係る請求人の示す資料について
ア インターネット情報における「一升パン」の語の使用例(甲2~甲10)は,個人のブログに掲載された記事であり,記事の掲載日が記載されているものの,ブログの投稿日は容易に変更することができるため(乙5~乙7),その信ぴょう性は低く,本件商標の査定時における商標法第3条第1項第3号該当性判断のための証拠とならない。
仮に,ブログの投稿日について立証されたとしても,甲第2号証ないし甲第10号証は,本件商標の出願日(2015年11月16日)より前の記事であり,甲第11号証及び甲第12号証は,本件商標に係る出願の登録査定日(2016年3月9日)よりも3か月以上前である。また,甲第13号証及び甲第14号証の記事は掲載日が不明である。よって,これらは,本件商標の査定時において,本件商標が商標法第3条第1項第3号に該当していたという証拠として採用することはできない。
イ タイトルで「一升餅ならぬ一升パン」が使用されているのは,甲第2号証,甲第4号証及び甲第9号証のみであり,甲第3号証,甲第5号証,甲第7号証及び甲第10号証は文中に説明的に記述されており,甲第6号証及び甲第8号証には記載がない。
また,「一升餅ならぬ一升パン」という記載について,「ならぬ」の語は「(「なら」は指定の助動詞「なり」の未然形)・・・でない。」といった意味を有し(岩波書店「広辞苑第七版」),「一升餅ならぬ一升パン」は「一升餅ではなくて一升パンと呼ぶ」ことをいっており,通常は子供の1歳の誕生日を祝う際に,子供の背中に背負わす一升分のお餅のことを一升餅というが,そうではなくて一升餅のように大きめに焼いたパンである「一升パン」ということを記述しているものであり,単に「一升パン」と書いただけでは意味をなさず,何を指しているのか不明なため,「一升パン」を説明するために,「一升餅ならぬ」という語を付加しているのであるから,「一升パン」は造語であって,商品の品質等を普通に用いられるように表示した標章ではない。
(4)請求人が挙げる使用例について
請求人は,各甲号証において,インターネット情報に「一升パン」の語が表示されていることを示しているだけであり,「一升パン」の表示が具体的に商品のどのような品質等を表示しているかについて述べていない。
ア ブログ記事(甲2)は,「一升パン」のタイトルの下,「一升パンは一升餅をヒントにパンドカンパーニュで作りました。」との記載があるが,この記載からは,「一升パン」が特定の商品の品質等を具体的に表示しているとみることはできず,単に個人的にそのような名称のものとして命名しているにすぎない。
イ ブログ記事(甲3)は,URLにより検索を行ったが,該当ページに至らなかった。
ウ ブログ記事(甲4)は,「1キロぐらいの丸いカンパーニュを背負わせる・・・それが我が家の一升パン!」との記載があるが,パン屋で大きめに焼いてもらった丸いカンパーニュを購入し,一升餅にあやかって,個人的,家庭的な範囲内で「一升パン」と呼んでいるのであり,商品の特定の品質を具体的に表示しているものではない。
エ ブログ記事(甲5)は,ブログのタイトルに「一升パン」と表示されているが,それのみで特定の商品との結びつきもなく,商品の品質等を表示するものではない。
オ ブログ記事(甲6)は,見出しに「一升パンって知ってる?」,また文中に「一升パンってなんだよ??」との記載があり,「一升パン」の語の意味は一般的に認識されていない造語であり,商品の特定の品質等を表示するものではない。
カ ブログ記事(甲9)中に「ネットで調べてみると,一升パンを実践していた人たちは行きつけのパン屋さんに個人的にお願いをしている模様。」との記載があり,店舗等で日常的にパンに「一升パン」と付して販売がされているのではない。また,「一升パンを特注商品としてオーダーを取っているパン屋さんも見つけました。」との記載があるが,いずれのパン屋で販売しているものか記載がなく,真偽は不明である。
キ ブログ記事(甲13)に「・・・お子様の成長を祝う一升餅に変わり一升パンなど他とは違った・・・」との記載があり,ここでも「一升パン」がパンの品質等を表す表示として一般的ではないために「一升餅に代わり」という説明的記載があり,「一升パン」の語が造語であって識別力を有することが分かる。
ク ブログ記事(甲14)の文章中に「一升パン」の記載がいくつかあるが,具体的にどのような品質の商品か記載がない。
(5)まとめ
上述のとおり,本件商標の登録査定時に,「一升パン」の語が指定商品「パン」との関係でその品質等を表示するものとして普通に用いられる方法で表示するものではなく,自他商品等の識別力を有するものであることから,本件商標は,商標法第3条第1項第3号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第16号該当性について
上記(1)で述べたとおり,本件商標は,指定商品「パン」との関係において,自他商品等の識別力を有するため,商品の品質等を表示するものではなく,「パン」以外の商品との関係において,その品質の誤認を生ずるおそれがないものであり,商標法第4条第1項第16号に該当しない。
第4 当審の判断
1 請求人適格について
請求人が本件審判を請求するにつき,利害関係を有する者であることについては,当事者間に争いがないので,本案に入って審理する。
2 商標法第3条第1項第3号該当性について
(1)本件商標は,別掲のとおり,「一升パン」の文字と「いっしょうぱん」の文字を上下二段に書してなるところ,「一升パン」の文字は,同書,同大,等間隔でまとまりよく表示されているものであり,下段に小さく表示された「いっしょうぱん」の平仮名は,上段の文字の読みを表したものと認められる。
(2)そして,本件商標の構成中,「一升パン」の文字は,全体として辞書等に採録された成語ではないものであり,また,「升」の文字が「尺貫法における容量の単位。古来用いられてきたが,現代の一升は1.80391リットル。」の意味を,「一升」の文字が「単位『升』で量った一つ分の容積。」の意味を有し,「パン」の文字が「小麦粉を主材料としこれに水とイーストなどを加えてこね,発酵させてから焼き上げた食品。」の意味を有する語である(いずれも岩波書店「広辞苑第七版」)としても,「升」ないし「一升」は「パン」についての単位として一般に使用されているものではなく,かつ,「パン」の単位については,尺貫法における「升」ではなく,重量の単位として「斤」(約600g)が一般に使用されていること(乙1~乙4)からすれば,上記各語をまとまりよく一体的に結合し,「一升パン」の下段に平仮名の読みを表した本件商標は,その構成全体をもって,特定の意味を理解,認識させることのない一種の造語とみるのが相当であり,その指定商品について,直ちにその具体的な容積や重量を普通に用いられる方法で表示するものということはできない。
(3)また,本件商標の登録査定時前に,子供の1歳の誕生日を祝う「一升餅」の代わりに用いる約1.8kgの重量の大型の丸型パンを指して「一升パン」の文字又は「一升パン」を写した写真が記載又は掲載されているインターネット情報(甲2~甲14)が存在するものの,これらは,主に主観的なブログ記事であって一部の限られた情報といわざるを得ず,当該文字が「パン」を取り扱う業界全体,あるいは「パン」の需要者である一般消費者に,「1.8リットル(約1.8kg)のパン」及び「子供の1歳の誕生日のお祝いに用いるパン」といった具体的な容積(重量)及び用途を理解,認識させるといえるほど多用され,一般的な表示であることを客観的に示すものとはいい難い。
(4)その他,請求人の提出した各号証等を検討しても,「一升パン」ないし「いっしょうぱん」の文字が,「パン」を含む本件商標の指定商品について,商品の品質や用途等を表示するものとして,取引上普通に使用されている事実は見いだせない。
(5)してみれば,本件商標は,その指定商品中「パン」に使用しても,特定の商品の品質,用途等を表示するものとはいえない一体の造語と認識されるものであり,自他商品の識別標識として機能を果たし得るものといわなければならないから,単に商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものとはいえないものである。
したがって,本件商標は,商標法第3条第1項第3号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第16号該当性について
上記2のとおり,本件商標の構成が直接的に特定の商品の品質を表示するものと認めることはできないから,本件商標は,取引者,需要者において,特定の商品の品質,用途等を認識させるものとはいえないものである。
したがって,本件商標をその指定商品中「菓子,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ」に使用しても,商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標とはいえないものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第16号に該当しない。
4 まとめ
以上のとおり,本件商標は,商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号のいずれにも該当するものでなく,その登録は,同法第3条及び同法第4条第1項の規定に違反してされたものではないから,同法第46条第1項の規定に基づき,その登録を無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
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2021-890014