審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
商標無効審判

2021-890012

フーチェ、フーセス、フセス

審判番号
2021-890012
法域
商標
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
商願2019-039677
登録番号
6147904
請求日
2021年03月29日
審決日
2021年11月29日
公報発行日
2022年10月28日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】株式会社 T-brace west
  • 【請求人代理人】特許業務法人ベリーベスト国際特許事務所
  • 【被請求人】鳥井 政直
  • 【被請求人代理人】特許業務法人ドライト国際特許事務所
審判長/審判官
  • 審判長 半田 正人
  • 審判官 平澤 芳行
  • 審判官 鈴木 雅也
分類
T111 .22 -Y (W03) / T111 .25 -Y (W03) / T111 .222-Y (W03)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
商標法4条1項7号商標法4条1項10号商標法4条1項19号商標法46条1項
条文(本文から自動抽出・参考)
商標法第4条第1項第7号、商標法第4条第1項第10号、商標法第4条第1項第19号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

上記当事者間の登録第6147904号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。

理由

理 由 1 本件商標 本件登録第6147904号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲のとおりの構成からなり,平成31年3月6日に登録出願,第3類「化粧品,せっけん類」を指定商品として,同年4月26日に登録査定,令和元年5月31日に設定登録されたものである。 2 請求人が引用する商標 請求人が,本件商標は商標法第4条第1項第7号,同項第10号及び同項第19号に該当するとして引用する商標は,「FUCES」の文字を表してなり,自身が取り扱うヘアケア商品の出所を表す表示として使用し,請求人の業務に係る商品を表示するものとして,需要者の間で広く認識されていたとするものである。 3 請求人の主張 請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第43号証(枝番号を含む。)を提出した。 (1)無効事由 本件商標は,商標法第4条第1項第7号,同項第10号及び同項第第19号に該当するものであるから,同法第46条第1項第1号により,その登録は無効とされるべきものである。 (2)無効原因 ア 商標法第4条第1項第7号について 被請求人である鳥井政直氏(以下「鳥井氏」という。)は,請求人に損害を与えるとともに,自己の利益を不当に得る等の目的(不正の目的)をもって,本件商標を出願し登録を受けたものであるから,本件商標は,その出願の目的及び経緯に照らし,商標法第4条第1項第7号所定の「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当する。 (ア)請求人について a 請求人等が行う事業 請求人は,シャンプーやヘアースタイリング剤等のヘアケア商品(美容室等の専売品のこと。以下「ヘアケア商品」という。)を製造販売する株式会社である(甲2,甲3)。請求人は,平成27年9月から,このヘアケア商品を,OEM生産によって製造し,これらの商品を多くの卸業者(美容ディーラー等の代理店)を通じて,広く理美容室に提供している(甲2,甲3,甲5-1~6,甲6)。 なお,この請求人の事業は,請求人の代表者である木村仁氏(以下「木村氏」という。)が,平成22年6月に個人事業として始めた事業であり,請求人は,この事業を引き継ぐかたちで,平成27年9月1日に設立された法人である(甲2,甲7)。 b 請求人が使用する商標 請求人は,自身が取り扱うヘアケア商品の出所を表す表示として,「FUCES」(読み方は「フーチェ」)との商標(以下「請求人商標」という。)を使用している(甲2,甲3,甲5-1~6,甲6)。 なお,この請求人商標は,木村氏が,上記個人事業時代から,ヘアケア商品の出所を表すものとして使用してきたものであり(平成22年10月頃から使用,甲2),請求人は,これを引き継ぐかたちで,今もなお,これらのヘアケア商品に請求人商標を使用している(甲2,このことから,請求人商標は,木村氏の上記個人事業の時代も含め,10年以上の使用実績がある。以下,請求人商標が使用されたヘアケア商品のことを「請求人商品」という。)。 (イ)本件商標権の権利者等について a 本件商標権の権利者が経営する法人の事業 本件商標権の権利者である鳥井氏は,ヘアケア商品を製造販売する株式会社T-ブレイス(以下「T-ブレイス」という。)の代表者である(甲8,甲9)。この鳥井氏が代表を務めるT-ブレイスは,令和2年3月から,ヘアケア商品をOEM生産によって製造し,これらの商品を卸業者(美容ディーラー等の代理店)を通じて,理美容室に提供している(甲8)。 なお,このT-ブレイスの事業は,鳥井氏が,平成22年6月に個人事業として始めた事業であり,T-ブレイスは,この事業を引き継ぐかたちで,令和2年3月4日に設立された法人である(甲2,甲8-1,甲9)。 b T-ブレイスが使用する商標 T-ブレイスは,自身が取り扱うヘアケア商品の出所を表す表示として,「FUCES」(読み方は「フーチェ」)との商標(以下「被請求人商標」という。)を使用している(甲8,被請求人商標は,請求人商標と同一の商標であり,T-ブレイスは,請求人と同様に,この商標をヘアケア商品に使用している)。 なお,この被請求人商標は,鳥井氏が,上記個人事業時代から,ヘアケア商品の出所を表すものとして使用してきたものであり(平成22年10月頃から使用,甲2),T-ブレイスは,これを引き継ぐかたちで,現在も,これらのヘアケア商品に被請求人商標を使用している(甲8,以下,被請求人商標が使用されたヘアケア商品のことを「被請求人商品」という。)。 (ウ)木村氏と鳥井氏との関係等 木村氏と鳥井氏は,以前勤務していた会社(「有限会社エスジィ」以下「エスジィ社」という。)の先輩と後輩である(鳥井氏が木村氏の先輩に当たる。甲2)。 木村氏と鳥井氏は,エスジィ社に在職中に(平成22年の年明け頃),互いに独立してヘアケア商品の製造販売事業を行うことを相談の上,平成22年2月にエスジィ社を退職している(甲2)。そして,木村氏と鳥井氏は,その後,この相談での内容を踏まえ,平成22年6月頃から,それぞれ本格的に当該事業を開始している(甲2)。なお,その際,木村氏と鳥井氏は,当該事業を行うに当たり, a 製造コストについてスケールメリットを得るべく,互いに共通のブランドを使用し,商品の製造についても共通の工場に委託をすること, b ただし,販売については,それぞれが別々に行い,そこから得られる利益もそれぞれが収受すること(つまり,それぞれが独立した事業体として事業を行うこと), 等を口頭で約束しており(甲2,以下,この約束を「本件合意」という。),両氏(請求人が設立された後は,請求人及び鳥井氏)は,これまでの間,この本件合意内容に従って,互いに独立したかたちで当該事業を行ってきたものである。つまり,木村氏と鳥井氏(請求人が設立された後は,請求人及び鳥井氏)は,これまで,本件合意の内容に従って,共通の「FUCES」との商標(請求人商標,被請求人商標)を使用しながら,それぞれの商品(請求人商品,被請求人商品)について,その製造を共通の株式会社デリシアスエーシー(以下「デリシアスエーシー社」という。)の工場(以下「本件工場」という。)に委託するとともに(本件合意内容a),当該事業から得られるそれぞれの販売利益については,それぞれが,自身の利益として収受してきた(本件合意内容b)のである(甲2,甲3,甲8,甲10,甲11,甲12)。 (エ)事業統合の話 上記のとおり,木村氏と鳥井氏は,平成22年6月から,それぞれ,本件合意の内容に従って(事実上の業務提携ともいうべき関係を維持しつつも,互いに独立したかたちで),当該事業を行っていたところ,平成29年の春頃に,両氏の間で,「新たに法人を設立した上で,それぞれの事業を完全に統合しないか」との話がなされるようになったことから,両氏は,この点についての詳細をつめるべく,平成29年6月23日,同年7月8日,同年8月2日及び同月30日の4回にかけて,両氏及び木村氏の顧問税理士(羽山氏)を含めた3名で,互いの事業を統合することについての話合い(協議)を行うことになった(甲2,甲14)。 この協議の場では,両事業の統合に向けて,「お互いの経営状況はどうか,本店をどこに置くか,従業員の扱いはどうするか,新たに設立する法人の代表者には誰が就任するか等の,統合に向けた様々な話合いが行われた(甲2,甲14)。しかし,この協議では,「誰が新たに設立する法人の代表者に就任するか」との点について,鳥井氏よりも高い売上を有する木村氏(木村氏が代表を務める請求人の売上のこと。)が,新たに設立する法人の代表者に就任すべきとの意見が出たのに対し,鳥井氏がこれに反対したため,この統合の話は,最終的に不調に終わることとなった(甲2)。 そのため,木村氏(請求人)と鳥井氏は,結局,両事業を統合することなく,その後も,これまでどおり,事実上の業務提携ともいうべき関係を維持しつつ,互いに独立したかたちで(本件合意内容a及びbのようなかたちで)当該事業を継続することになった(甲2)。 (オ)鳥井氏の商標出願及びこれに対する木村氏の対応 平成31年3月6日,鳥井氏は,第3類の「化粧品,せっけん類」を指定して,商標「FUCES」(本件商標)について商標登録出願を行っている(甲1,以下「本件商標出願」という。)。なお,この本件商標出願は,木村氏に事前の連絡をすることなく,鳥井氏の独断で行われたものであり,木村氏にとっては寝耳に水のことであった(甲2)。 木村氏が,本件商標出願の事実を知ったのは,平成31年3月頃,木村氏が請求人商品のパッケージデザインの変更の件について鳥井氏に電話連絡をしたときのことである。そのとき,木村氏は,鳥井氏より,「平成31年3月6日付けで『FUCES』の商標を出願したから,木村氏(請求人)は,今後,『FUCES』の商標(請求人商標)を使用したヘアケア商品(請求人商品)を製造販売することができない。」旨を告げられている(甲2)。 このことを知った木村氏は,ヘアケア商品に「FUCES」の商標(請求人商標)が使えなくなるのは困ると思い,自身も防衛的に商標を出願すべきと考え,平成31年3月27日付けで,「FUCES\フーチェ」の商標について商標登録出願を行っている(甲2,甲17)。 (カ)本件商標権取得後の鳥井氏の行動 鳥井氏は,本件商標出願に基づいて,令和元年5月31日付けで本件商標権を取得しているところ(甲1),その後の同2年10月か11月頃に,木村氏(請求人が設立された後は請求人)及び鳥井氏が,それぞれの商品(請求人商品,被請求人商品)の製造を委託している本件工場の北田氏に対して,電話で,「『FUCES』の商標を登録し,私が権利を持っている。T-brace westからの『FUCES』の商品(請求人商品)の製造委託を今後は受けないでもらいたい。」旨を伝えている(甲2)。 また,鳥井氏は,令和2年10月14日頃に,請求人の取引先(卸業者(美容ディーラー等の代理店)のこと。以下,同じ。)の一つである有限会社ヤマオカ(甲6-1)の久保氏に対して,「『FUCES』の商品について,T-brace westから仕入れることができなくなったのをご存じですか。今までのように『FUCES』の商品を仕入れたかったら,うちからじゃないと買えないですよ」と電話で伝えている(甲2,甲20)。 さらに,鳥井氏は,令和2年の夏から秋頃に,同じく請求人の取引先の一つである株式会社ビューフリート(甲6-1)の船中氏に対しても,「『FUCES』の代理店募集をしているのだが,『FUCES』の取引をしませんか。向こうが取扱いできなくなるので,うちから買いませんか」と電話で連絡をしている(甲2,甲21)。 加えて,鳥井氏は,令和3年1月5日に,請求人の別の取引先である「株式会社みのや」,「株式会社オークボ」,「株式会社かすが」及び「株式会社ワールド美容」の4社(甲6-1)に対し,「a これら4社が,『FUCES』の商標が付された商品(請求人商品のこと)を販売する行為は,本件商標権の侵害に当たること。b 当該商品の販売を本書面到達後1週間以内に中止すること。c 本書面到達後1週間以内に当該商品の販売を中止しない場合には,民事及び刑事の法的手続に移行する意向を有していること。」との内容からなる警告書を,弁護士を通じて送付している(甲2,甲22)。 このように,鳥井氏は,本件商標権を取得した後,請求人商品の製造に欠かせない委託先工場(本件工場)や,請求人の売上の源泉となる販売先(取引先)に対して,商標権侵害を主張し(又はその旨をちらつかせ),請求人の事業の継続を実質的に困難な状況に陥れる行動をしている。 (キ)請求人が被る損失 上記のとおり,請求人は,上記(カ)で示した鳥井氏の行動によって,現在,請求人商品を製造販売できない状況に陥っているところ,これにより,請求人が被る損失は,おおむね以下のとおりである。 a 金銭的損失 これまでの請求人の売上(請求人商品の売上のことであり,前身の木村氏の個人事業時代の売上を含む約10年分の売上)は,事業開始から本件商標の出願時点(平成31年3月6日時点)までで,合計約5億8979万円となっているところ,この売上の各年分の内訳をみると,その売上は,平成23年度(2011年度)は約1500万円,その次の年度である平成24年度(2012年度)は約2500万円,・・・平成30年度(2018年度)は約1億9306万円というように,年々増加の傾向にあることがわかる(甲2,甲5-1~5,甲5-7)。 したがって,このように請求人の売上が,年々増加傾向にあることを踏まえると,請求人は,上記(カ)で示した鳥井氏の行動がなければ,少なくとも,請求人商品を取引先である卸業者に販売することで,年間で,直近の平成30年度(2018年度)分の売上に相当する額(約1億9306万円),又は,それ以上の額を売り上げることができたといえることから,上記(カ)で示した鳥井氏の行動によって,請求人が請求人商品を製造販売することができない状況が続けば,請求人には,少なくみても,機会損失として,年間で,直近の平成30年度(2018年度)分の売上に相当する額(約1億9306万円),又は,それ以上の金銭的な損失が生じるものとみるのが自然である。また,これ以上,請求人が請求人商品を製造販売できない状況が続くとなれば,請求人の売上実績からしても,請求人には,さらなる莫大な金銭的損失が生じることは明らかである(甲2)。 b 非金銭的損失(取引実績及び信用の喪失) 本件商標の出願時点(平成31年3月6日時点)までにおける,請求人が,請求人商品について取引をした卸業者(美容ディーラー等の代理店)の数は,合計で66社となっているところ(甲2,甲6),この数は,現在のヘアケア商品(美容室等の専売品)を取り扱う業界における卸業者の数が,合計で300社程度となっていることからすると(甲23),業界全体の卸業者の数の22%もの割合を占めるものということができる(つまり,請求人は,請求人商品について,当該業界に存在する卸業者の約22%の者との取引実績があるということ)。 そして,この請求人の取引実績の程度を測るべく,当該業界において第1位のシェアを占める株式会社ミルボン(以下「ミルボン社」という。)の卸業者(美容ディーラー等の代理店)との取引実績をみると,ミルボン社と取引をする卸業者の数は約100社となっているところ(甲23),この数は,当該業界に存在する卸業者(約300社の卸業者)の約33%に相当するものといえることから(つまり,ミルボン社は,当該業界に存在する卸業者の約33%の者との取引実績がある),このミルボン社の取引実績と請求人の上記取引実績とを比較すれば,この請求人の取引実績が,当該業界第1位のシェアを占めるミルボン社の取引実績に引けを取らないことは容易に理解の至るところである。 そのため,このことに照らせば,請求人の当該取引の実績は,業界内において相当程度高いものと考えるのが自然であり,また,この実績の高さは,これまで長きにわたり,請求人が獲得してきた,数多くの卸業者からの信用の高さを裏付けるものといわざるを得ない。 したがって,このような請求人の取引実績等に鑑みると,上記(カ)で示した鳥井氏の行動によって,請求人が請求人商品を製造販売することができない状況が続くとなれば,請求人は,これまで築き上げてきた当該取引の実績を失うばかりか,当該卸業者は,請求人からの当該商品の仕入れが継続困難であることを理由に,請求人との当該取引を打ち切る可能性も考えられることから,請求人は,このような事態が続くことで,長きにわたり獲得してきた,数多くの卸業者からの信用を失うという危険にもさらされかねない。 よって,請求人には,上記(カ)で示した鳥井氏の行動によって,上記の金銭的損失のみならず,これまで築き上げてきた取引実績や長きにわたり獲得してきた,数多くの卸業者からの信用の喪失という非金銭的な損失が生じることになる(甲2)。 (ク)木村氏及び請求人が販売代理店ではないこと a 請求人の具体的主張 被請求人は,木村氏及び請求人が,被請求人及びT-ブレイスの販売代理店であったと主張するが,木村氏及び請求人は,これまで,被請求人及びT-ブレイスの販売代理店であったという認識はないし,また,被請求人及びT-ブレイスとの間でそのような契約を締結したこともなければ,被請求人及びT-ブレイスに対して,販売手数料(ライセンス料)を支払ったこともない(甲26)。 さらにいえば,木村氏と被請求人は,本件工場の製造委託費を折半していたのであるから(請求人が設立されるまでは,被請求人が本件工場から請求された製造費等の半分を木村氏が負担し,木村氏は,その負担分を被請求人に送金していた。甲26),このような両者の関係性からすれば,木村氏が被請求人の販売代理店ではなく,両者が,互いに独立した事業体として製造資金を負担し合うことで,製造コストについてのスケールメリットを得ていたとみるのが自然であろう。 また,「北田氏の陳述書」(乙10)に,請求人と本件工場が契約を締結するきっかけとして,「木村氏との取引量が増えていたこともあったので」とあることから,この北田氏の陳述によれば,木村氏が,そもそも,被請求人の販売代理店としてではなく,被請求人と同等の立場で(独立した事業体として)本件工場との取引に当たっていたことは容易に理解の至るところである。 b 被請求人が示す根拠 被請求人は, (a)木村氏の美容商材メーカーでの勤務年数が短いこと, (b)木村氏は,コラーゲン商品の商品知識等が少ないこと, (c)被請求人は,木村氏の営業に同行して,木村氏の売上に協力したこと, (d)FUCESのブランドは,コプラボの鍔皓樹氏(以下「鍔氏」という。)から提案された案の中から被請求人が決めたこと, (e)FUCESのパッケージ等のデザインは,被請求人が鍔氏と相談の上決めたこと, (f)個人事業を開始した頃,木村氏は事務所や倉庫がなく,前受金を支払う余力がなかったことから,本件工場との契約は被請求人が行ったこと, (g)商品の処方は,被請求人が本件工場と打ち合わせて決めたこと, 等を主張し,これらの点を理由に「木村氏及び請求人が,被請求人及びT-ブレイスの販売代理店であった」ことを印象付けようと試みているが,これらの点は,いずれも事実に反する。 [1]上記(a)ないし(c)の点について 木村氏は,エスジィ社に入社する前の8年間,エスジィ社と取引のある有限会社ワイズネットワーク(以下「ワイズ社」という。)という美容商材を取り扱う会社に勤務していた。その頃の木村氏の業務内容は,主に,コラーゲンに関する商材を含むヘアケア商品等の美容商材を理美容室に営業するというものであったが,木村氏は,これにとどまらず,理美容室のニーズに合わせた新商品の企画を美容商材のメーカーに対して積極的に提案する等,美容商材に関する幅広い業務にも従事しており,ここでの経験を通じて,コラーゲン商材を含むヘアケア商品等に関する知識や営業ノウハウ等を数多く養ってきたのである(甲26)。 このことから,当時より,木村氏には,多くの美容商材メーカーや理美容室からの厚い信頼が寄せられていたが,中でも,当時の取引先であったエスジィ社の伊東氏からは,特にその実績を買われ,「即戦力として入社しないか」との誘いを受けたこともあって,木村氏は,検討の末,平成20年頃,エスジィ社への入社を決意するに至ったのである(甲26,乙1)。 したがって,木村氏は,ワイズ社での業務経験を通じて,長年,美容商材メーカーとの業務を経験していることから,上記(a)の「木村氏の美容商材メーカーでの勤務年数が短い」という点は,形式論にすぎず,実質的にみれば,木村氏の美容商材業界での経験は豊富であるというべきである。 また,上記のとおり,木村氏は,ワイズ社での業務経験を通じて,コラーゲン商材を含むヘアケア商品等に関する知識を数多く養ってきたのであるから,上記(b)の「木村氏は,コラーゲン商品の商品知識等が少ない」という点も明らかに事実に反するものである。 さらに,被請求人が,コラーゲン商品の取扱いや営業経験を積んだのは,平成17年にエスジィ社に入社してからのことであるから,被請求人のコラーゲン商材を含むヘアケア商品等に関する知識や営業経験が木村氏の知識や営業経験に比べて少ないものであることは歴然である。したがって,これらの知識や営業経験の違いに鑑みれば,上記(c)でいう「被請求人は,木村氏の営業に同行して,木村氏の売上に協力した」との点は極めて不自然であるという他なく,仮に,被請求人が木村氏の営業に同行していたとしても,それは,単なる付添いか,又は,被請求人が木村氏の営業手法を学ぶために同行していたとみるのが自然であることから,上記(c)の点が事実に反することは明らかである。 以上より,上記(a)ないし(c)の点は,いずれも事実に反するものであることから,これらの点が,被請求人の「木村氏及び請求人が,被請求人及びT-ブレイスの販売代理店であった」という主張を根拠付けるものでないことは明らかである。 [2]上記(d)及び(e)の点について 鍔氏から提出された陳述書(甲27)の内容をみると,「FUCESのブランドやパッケージ等のデザイン」について,鍔氏がこれに携わった経緯や,被請求人単独ではなく,木村氏の希望(意向)等をも踏まえて作成された事実等が,詳細かつ具体的に記載されている。 また,鍔氏から提供されたメールの写し(甲28-1,甲29-1,甲30-1,甲31-1)の内容をみると,そこには,「FUCESのブランドやパッケージ等のデザイン」についての鍔氏と木村氏及び被請求人とのやり取りが示されるとともに(特に,甲28-1には,「ブランド作りやストーリーはすごく大事なので,しっかり打合せしながら良い商品リリースしましょう!!」というように,木村氏が,当該ブランドの作成において主体的に関与していた内容が示されている),これらのメールには,被請求人が,鍔氏に支払った「FUCES」のネーミング代(ずばっとネーミング「3000円」,乙8)等の見積書(木村氏宛てのもの。甲28-2)や「FUCES」のパンフレット及びパッケージのデザイン案(甲29-2,甲30-2,甲31-2)等が添付されているばかりか,鍔氏が作成した「FUCES」のブランドに関する企画案(甲32,乙8の「ネーミング案」は,この内の一部である。)の内容をみると,そこには,宛名として,木村氏の個人事業時代の屋号である「Sei-Jin」及び被請求人の屋号である「T-ブレイス」の名前が記載されているのであるから,これらの点を総合してみれば,「FUCESのブランドやパッケージ等のデザイン」については,被請求人が自分一人で決めたということはなく,木村氏の実質的な関与の下,木村氏及び被請求人双方の意向を踏まえて作成されたものとみるべきである。 したがって,「FUCESのブランドやパッケージ等のデザインについては自身(一人)で決めた」等という被請求人の主張は事実に反するものであり,本件では,上記(d)及び(e)の点のような事実は存在しないのであるから,これらの点が,被請求人の「木村氏及び請求人が,被請求人及びT-ブレイスの販売代理店であった」という主張を根拠付けるものでないことは明らかである。 [3]上記(f)の点について 本件工場との契約主体を被請求人としたのは,本件工場との事務的な窓口や製造委託費等の支払を一本化にした方が,業務効率が上がる上,製造コストについてのスケールメリットを得られるという理由からであり(甲26),「木村氏は事務所や倉庫がなく,前受金を支払う余力がなかった」ことを主な理由とするものではない。事実,このことは,木村氏が,当初から,製造コストについてのスケールメリットを得るために,被請求人と本件工場の製造委託費を折半していたことからも裏付けられる(甲26)。 なお,被請求人は,本件工場との契約書(乙9)において,「第2条 3 本商品の商品名は甲(T-ブレイス)が定め,これに係る商標登録は甲が行う。」,「第17条 2 商標及び意匠については,乙(デリシアスエーシー社)は甲(T-ブレイス)の指示に従い本商品の製造のみに使用し,その権利が甲(T-ブレイス)に帰属することを確認する。」と規定されていることを理由に,「木村氏及び請求人が,被請求人及びT-ブレイスの販売代理店であった」ことを印象付けようと試みているようであるが,この契約は,あくまで,当該契約の当事者である被請求人と本件工場との債権債務関係を規律するものであって,木村氏と被請求人との債権債務関係を規律するものでないから,これを根拠に「木村氏及び請求人が,被請求人及びT-ブレイスの販売代理店であった」と解することはできない。 [4]上記(g)の点について 商品の内容や処方は,実質的に木村氏が本件工場の担当者と打合せの上決めたものであり,被請求人は,おおむねその決定に従うかたちで,本件工場に正式な発注等を行っていただけである(甲26)。 [5]小括 以上より,上記(a)ないし(g)の点はいずれも事実に反することから,これらの点が,被請求人の「木村氏及び請求人が,被請求人及びT-ブレイスの販売代理店であった」という主張を根拠付けるものでないことは明らかである。 c まとめ 以上のことを総合すれば,木村氏及び請求人は,被請求人及びT-ブレイスとは事実上の業務提携ともいうべき関係にはあったものの,当初から,これらの者とは独立した事業体として請求人商品に関する事業を行ってきたというべきであることから,「木村氏及び請求人が,被請求人及びT-ブレイスの販売代理店であった」との被請求人の主張は誤りである。 (ケ)被請求人の法的措置の不当性 被請求人は,「木村氏及び請求人が,被請求人の企業理念等に違反したことから,『FUCES』ブランドの価値を維持するために,やむを得ず必要な法的措置(商標権侵害による権利行使)を取った」等と述べているが,そもそも,木村氏が,初めに,被請求人の企業理念を納得したとされるのは,「FUCES」のブランドが決定される前のことであり,また,木村氏が,次に合意したとされる被請求人の条件(大阪より西側が商圏等)は,被請求人もいうとおり,あくまで,「株式会社T-brace west」(以下,単に「T-brace west社」という場合がある。)と名乗るための条件なのであるから,これらの企業理念等を,「FUCES」商品の使用条件として持ち出すこと自体,失当といわざるを得ない。よって,被請求人が行った法的措置は不当である。 なお,仮に,これらの企業理念等が,「FUCES」商品の使用条件であったとしても,被請求人の企業理念等は,何ら法的拘束力のない単なる努力規定(目標)の一種にすぎないのであるから,これに反する行為があったからといって,請求人が,これを理由に,被請求人によって,請求人商品に関する事業活動を制限されるいわれはない。よって,被請求人の主張は失当である。そこで,以下では,これらの企業理念等が,「FUCES」商品の使用条件であると仮定した場合の請求人の主張について,順に説明する。 a 木村氏(請求人)の認識等 被請求人は,木村氏に,販売代理店としての事業を行う上で, ・小売り店舗やインターネットで販売されることによる値崩れを防止し,商品のブランド価値を高めていくこと, ・インターネットでの販売は行わず,理美容向けの販売にこだわり,お客様や理美容室の方々に長く使っていただくこと, との企業理念(以下「本件企業理念」という。)を納得して貰ったと主張するとともに,販売代理店として「T-brace west社」と名乗る条件として, ・木村氏の主たる取引エリアが関西圏だったの,で大阪より西側は木村氏の商圏とすること, ・引続きインターネット業者への転売禁止や取締りを行ってブランド価値を維持すこと, との2つの条件(以下「本件条件」という。)を木村氏に合意して貰ったと主張するが(以下「本件企業理念」及び「本件条件」をまとめて「本件企業理念等」という。),まず前提として,木村氏は,上記のとおり,被請求人の販売代理店ではないのであるから,木村氏が,これらの本件企業理念等を,販売代理店の立場で納得合意した事実はない。 また,木村氏は,これらの本件企業理念等を,被請求人との事業を行う上での方向性を示す,いわば努力目標(これに反してもペナルティーを負うことはない)と理解していたにすぎず,木村氏が,これを法的拘束力のあるものと認識していた事実はない(甲26)。 なお,被請求人は,請求人商品がインターネットの販売サイトにおいて流通している事実や,請求人が大阪よりも東側のディーラーに請求人商品を販売している事実を挙げ,請求人の行為を違反であると指摘しているが,実際のところ,被請求人商品もインターネットの販売サイトにおいて流通しているし(甲35~甲38),また,本件条件には,請求人の商圏のみならず,被請求人の商圏も「大阪より東側」とされていたところ(甲26),被請求人は,大阪よりも西側のディーラーに被請求人商品を販売しているのであるから(甲26,甲39,甲40),これらの事実に鑑みれば,被請求人自身においても,本件企業理念等を,「必ず履行しなければならない法的拘束力のあるもの」とは認識しておらず,これを単なる努力目標程度と理解していたにすぎないことは明らかである。 b 本件企業理念等の法的性質について (a)契約内容の具体性の欠如 本件企業理念の内容をみると,そこには,単に,「小売り店舗やインターネットで販売されることによる値崩れを防止し,商品のブランド価値を高めていくこと。」,「インターネットでの販売は行わず,理美容室向けの販売にこだわり,お客様や理美容室の方々に長く使っていただくこと。」とあるだけで,値崩れの定義(例えば,価格の下落率は何%か,一時的な価格の下落を含むのか等)やこれを防止するための具体的な手段等は示されておらず,また,「商品のブランド価値を高めていく」,「お客様や理美容室の方々に長く使っていただく」というように,単なる願望だけが示されているにすぎないのであるから,本件企業理念の内容が,法的拘束力を有する義務としての具体性を欠くことは明らかである。 また,本件条件には,「大阪より西側は木村氏の商圏とする」とあるが,この判断は何をもって判断すればよいのか,その判断基準は全くもって不明である(例えば,ディーラーの本店ベースで判断するのか,営業所ベースで判断するのか,さらには,関西より西側という意味か,また,大阪よりも西側に位置する京都及び奈良の一部はどうするのか等,その判断基準は不明である。)。 さらに,本件条件には,「インターネット業者への転売禁止や取締りを行ってブランド価値を維持する」とあるが,被請求人が木村氏に対して本件条件を提示した時期には,被請求人には商標権もなければ,不正競争防止法上の保護を受けられるほどの実績もないのであるから,インターネット業者への転売禁止や取締りといっても,何を根拠にこれを実行すればよいのか,その具体的手段は定かでない。加えて,「ブランド価値を維持する」といっても,それは単なる「ブランド価値を維持したい」という願望にすぎないのであるから,以上の点を総合すれば,本件条件は,本件企業理念と同様に,法的拘束力を有する義務としての具体性を欠くものといわざるを得ない。 したがって,以上のことからすれば,本件企業理念等は,法的拘束力を有する上での具体性を欠くものであり,木村氏及び請求人としては,これを履行する上で,どのような内容の義務を果たせばよいのか不明といわざるを得ないことから,本件企業理念等が,法的拘束力を有することのない,単なる事業の方向性を示す努力目標(規定)にすぎないことは明らかである。 (b)当事者の通常の合理的な意思を踏まえた解釈 また,本件企業理念等を,当事者の通常の合理的な意思に則して解釈すれば,本件企業理念等が,法的拘束力を有することのない,単なる事業の方向性を示す努力目標(規定)にすぎないことは明らかである。 木村氏や被請求人が商品の値崩れ防止を実現するためには,取引先の商品の販売価格の意思決定に関与すべく(又は影響を及ぼすべく),あらかじめ(取引に入る前に),取引先に対して,商品を「一定の価格で販売するよう」又は「下限を下回る価格では販売しないよう」申し入れ,このような価格条件を受け入れる者とのみ,その取引を行い,この条件に違反した者には取引の停止等の措置を講じる等,何らかの取引先に対する強制的な対応が必要になると考えられるが,このような強制的な対応(行為)は,そもそも,流通業者間の価格競争を減少・消滅させるものであって,独占禁止法第2条第9項第4号に規定する「再販売価格の拘束」に当たるおそれがあることから(甲42),コンプライアンス遵守の精神に鑑みれば,木村氏及び被請求人が,同法上の責任追及というリスクを冒してまで,このような商品の値崩れ防止を実現するための行為を積極的に行うこと等は,事業者(当事者)の通常の合理的な意思からして考えられない。 よって,このような観点からみても,本件企業理念等が,法的拘束力を有することのない,単なる事業の方向性を示す努力目標(規定)にすぎないことは明らかである。 c まとめ 以上より,本件企業理念等が,「FUCES」商品の使用条件であると仮定した場合でも,本件企業理念等は,何ら法的拘束力を有することのない単なる努力規定(目標)の一種にすぎないのであるから,これに反する行為があったからといって,請求人が,これを理由に,被請求人によって,請求人商品に関する事業活動を制限されるいわれはない。よって,被請求人の主張は失当である。 (コ)公序良俗違反について a 請求人の反論 被請求人は,木村氏及び請求人を排除し,私利私欲を満たすための手段として,不正に本件商標を出願し登録を受けたものというべきであって,被請求人による本件商標出願は,木村氏と鳥井氏が,事業開始の際に交わした私的な約束(本件合意)違反にとどまらず(つまり,私的な問題を超え),自らの不正な目的を実現するために,公共的な制度である商標制度を悪用したものであり,適正な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠く行為というべきであることから,これに基づいて被請求人を権利者とする商標登録を認めることは,公正な取引秩序の維持の観点からみて不相当であり,「商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もって産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護する」という商標法の目的(同法第1条)にも反するものというべきである。 よって,本件商標は,その出願の目的及び経緯に照らし,商標法第4条第1項第7号所定の「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当するものである。 b 法的措置の正当性に関する主張に対するその他の反論 (a)株式会社yubi宇都宮等からのクレーム等 被請求人の取引先からのクレーム等は,単に「他の業者から安い商品が売られて困っている」というものであって,詰まるところ,それは,被請求人商品が請求人商品に価格競争で負けたということを意味するのであるから,被請求人は,結局のところ,自分の商品(被請求人商品が)が売れなくなったから当該出願を行った,とみるのが自然である。 また,被請求人は,本件商標出願を行った理由を「本件工場とのブランド価値の管理責任を果たす」点に求めているが,本件商標出願が,被請求人と本件工場の契約(平成24年3月6日締結,乙9)から7年も経ってなされていることからすると(出願日は「平成31年3月6日」),被請求人には,そもそもこの管理責任を果たすつもりはなかったとみるのが自然であって,この被請求人の主張は,当該法的措置の正当性を根拠付けようと試みるための,後から取って付けたものにしかすぎないというべきである(もし被請求人がこの管理責任を果たすのであれば,被請求人は,工場との契約後,速やかに本件商標出願を行うべきであったが,このように長きにわたりこれを放置し,安い請求人商品が流通した段階で本件商標出願を行っていることからすると,この被請求人の主張は不自然である)。 さらにいえば,被請求人は,この点について,当該取引先からのクレーム等から,「ブランド価値の維持に積極的に関与しなければならない」,「早急に模倣品対策を講じる必要性を痛感した」とも主張するが,本件商標出願は,「株式会社yubi宇都宮」からクレームがあった時(平成28年8月頃,乙1,乙7)から数えれば,2年半以上もの期間が経過した後に行われていることから,このような点に鑑みれば,被請求人が,ブランド価値の維持の必要性に迫られているようにはみられない。 したがって,以上のことを総合すれば,被請求人は,本件工場とのブランド価値の管理責任を果たすためではなく,結局のところ,自分の商品(被請求人商品)が売れなくなったから当該出願を行った,というべきであることから,この点に関する被請求人の主張が,当該法的措置の正当性を根拠付けるものでないことは明らかである。 (b)株式会社Revive(以下「リバイブ社」という。)の行為 被請求人は,インターネットの不正流通等に対処するリバイブ社を通じて,インターネット上で流通する請求人商品の販売を停止したそうであるが,先にも述べたとおり,本件企業理念等は,そもそも,「FUCES」商品の使用条件ではないし,仮に,これが「FUCES」商品の使用条件であったとしても,本件企業理念等は何ら法的拘束力のない単なる努力規定(目標)の一種にすぎず,これに反する行為があったからといって,請求人が,これを理由に,被請求人によって,請求人商品に関する事業活動を制限されるいわれはないのであるから,当該リバイブ社の行為が正当な理由に基づくものでないことは明らかである。 (c)請求人の商品「Putelo(プテロ)」について 木村氏及び請求人は,被請求人及びT-ブレイスの販売代理店ではなく,それぞれが独立した事業体として,約10年間,互いの事業を行ってきたのであるから,これまでに,木村氏及び請求人が築き上げた「FUCES」ブランドの価値(信用)は,木村氏及び請求人に帰属するものである。 したがって,請求人が,「Putelo」を変更告知しているとしても,それは,被請求人が築き上げた「FUCES」のブランド価値に乗ずるものではなく,木村氏及び請求人の信用を基礎に行われているのであるから,「請求人が,無断で,被請求人が築き上げた『FUCES』のブランド価値に乗ずる形で」という被請求人の主張は失当である。 (d)請求人の損失について 請求人が,これまでの被請求人の一連の行動によって,今までどおりに「FUCES」商品を販売することができないことは明らかであるし,また,請求人は,少なくとも,被請求人が,請求人の取引先に当該法的措置を行ったことで,これまでの取引実績や当該取引先からの信用を喪失(非金銭的損失)しているのであるから,本件商標の登録日から本審判請求日までの売上を開示しなくとも,請求人にこのような損失が発生していることは明らかである。 (e)被請求人の売上 被請求人は,本件商標の取得後も,多くの利益を得ていないから,不当な利益は得ていないとでもいいたいのであろうが,本件で問題なのは,被請求人が,「不当に利益を得ようとする不正の目的をもって,本件商標を出願し登録を受けた」という点であって,「現実に,被請求人が,これまでの一連の行動によって利益を得たか否か」という点は関係ないのであるから,ここでの被請求人の主張に理由がないことは明らかである。 (f)小括 このように,被請求人が行った法的措置の正当性に関する主張は,いずれも理由がないことから,これらの主張が,その法的措置の正当性を根拠付けるものでないことは明らかである。 c まとめ 本件では,被請求人が突如として,木村氏に何の断りもなく,本件商標を出願し登録を受けたのであるから,木村氏(請求人)が,「自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず,出願を怠っていた」ということはできない。また,木村氏(請求人)は,これまでの被請求人(T-ブレイス)との関係性(それぞれが独立した事業体として,約10年間,互いの事業を行ってきたという関係)から,これからも,互いに使用してきた共通のブランドである「FUCES」の商標を継続してヘアケア商品に使用できると考えていたところ,本件では,被請求人が,この木村氏の信頼を裏切るかたちで,突如として,本件商標を出願し登録を受けたのであるから,このような場合にまで,木村氏(請求人)に,「出願を怠っていた」との責任を負わせるのは不合理である。 さらに,被請求人は,「令和2年10月14日に本件工場の北田氏を介して,話合いの場を持とうとしたが,話合いの場に参加しなかったのは木村氏(請求人)である」等と主張するが(乙10),仮にこの主張が正しいとしても,被請求人は,当時既に,リバイブ社を通じて,インターネット上で流通する請求人商品の販売を停止する措置を取るとともに(乙16の「H.I.D 佐川」からのメールの日付は2019年10月25日になっている),請求人の取引先である有限会社ヤマオカに対しては,商標権侵害をちらつかせて,「FUCES」商品の自身との取引を打診する等(令和2年10月14日頃),請求人の事業を妨害するかのような行動をしていたのであるから,このような被請求人の行動(客観的な状況)に鑑みれば,もはや,被請求人には,木村氏との話合いには応じない,又は,応じたとしても自己に有利な条件を木村氏(請求人)に押し付けようとしていた意図があったとみるのが自然である。だとすれば,このような状況の中,木村氏(請求人)が,このような意図を有する被請求人と,話合いを通じて本件商標についての適切な措置を採ること等はできないというべきであることから,本件では,木村氏(請求人)が,「適切な措置を怠っていた」等ということはできない。 したがって,本件には,商標法第4条第1項第7号該当性に関する裁判例が示す「特段の事情がある例外的な場合と解することができない事情(例)」は存在しないのであるから,被請求人のいうとおり,本件が私的な問題であったとしても,本件において,当該裁判例が示す規範が妥当しないことは明らかである。よって,このような被請求人の主張を前提としたとしても,本件商標は,その出願の目的及び経緯に照らし,同法第4条第1項第7号所定の「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当するというべきである。 (サ)独占禁止法の観点を踏まえた請求人の反論 仮に,被請求人がいうとおり,木村氏及び請求人が被請求人及びT-ブレイスの販売代理店であり,また,本件企業理念等が,「FUCES」商品の使用条件として,(被請求人との関係において)木村氏及び請求人を法的に拘束するものであったとしても,被請求人による本件商標出願は,自らの不正な目的を実現するために,公共的な制度である商標制度を悪用したものであり,適正な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠く行為というべきであることから,本件商標は,その出願の目的及び経緯に照らし,商標法第4条第1項第7号所定の「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当するものである。 木村氏及び請求人が,被請求人及びT-ブレイスの販売代理店であると仮定した場合,法的に両者の関係性をみれば,木村氏及び請求人は,被請求人及びT-ブレイスのライセンシーに位置付けられる(被請求人及びT-ブレイスはライセンサーとなる)。 したがって,本件では,ライセンサー(事業者)である被請求人(T-ブレイス)が,商品の販売価格を維持させる目的の下,本件企業理念等を木村氏及び請求人に課すことで,ライセンシー(流通業者)である木村氏及び請求人に対し,その販売先や地域外顧客への受動的販売を制限しているといえることから,これまでの被請求人の一連の態様(行動)は,独占禁止法が禁止する拘束条件付取引(一般指定12項)等に該当する。 イ 商標法第4条第1項第10号について (ア)請求人商標の周知性 上記ア(キ)で示したとおり,請求人が当該事業を開始してから本件商標の出願時点(平成31年3月6日時点)までにおける,請求人の売上(請求人商品の売上のことであり,前身の木村氏の個人事業時代の売上を含む約10年分の売上)は,合計で約5億8979万円となっているところ,その売上は,年々増加の傾向にあるものである。 また,本件商標の出願時点までにおける,請求人が取引をした(請求人商品の取引)卸業者(美容ディーラー等の代理店)の数は,合計で66社となっているところ,この数は,業界全体の卸業者の数の約22%もの割合を占めるものとなっている(上述のとおり,この請求人の取引実績は,当該業界第1位のシェアを占めるミルボン社の取引実績に引けを取るものではない。)。 したがって,このような請求人の取引状況に鑑みれば,請求人の当該取引の実績は,業界内において相当程度高いものと考えるのが自然であり,また,この実績の高さは,これまで長きにわたり,請求人が獲得してきた,数多くの卸業者からの信用(請求人商標に化体した業務上の信用)の高さを裏付けるものというべきであることから,請求人商品の出所を表す請求人商標が,本件商標の出願時点において,請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標であることは明らかである。 また,本件商標の査定日は,平成31年4月26日となっており,本件商標の出願時点から,わずか2か月弱程度の期間しか経過していないことからすると,上記本件商標の出願時点における請求人の取引実績は,なお維持されているとみるのが自然である(甲5-6)。したがって,請求人商標が,本件商標の査定時点においても,請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標であることは明らかである。 以上より,請求人商標は,本件商標の出願時及び査定時の両時点において,周知性を獲得していたというべきである。 (イ)他人性 上記ア(ウ)で示したとおり,木村氏と鳥井氏は,これまで,事実上の業務提携ともいうべき関係にあったものの,当初から,それぞれが独立した事業体として事業を行ってきたのであり(つまり,木村氏及び請求人は販売代理店ではない),また,このことから,木村氏及び請求人が築き上げた「FUCES」ブランドの価値(信用)は,木村氏及び請求人に帰属するものであることから,被請求人が,請求人との関係において「他人」に当たることは明らかである。 (ウ)商標及び商品の類否判断 上記ア(ア)b及び(イ)bで示したとおり,請求人商標及び本件商標は,いずれも,「FUCES」との文字から構成されるものである。よって,これらの商標は,少なくとも,外観及び称呼(フーチェ)の点において一致することから,本件商標は,請求人商標と同一又は類似する。 また,請求人商品は,シャンプー(せっけん類)やヘアースタイリング剤(化粧品)等のヘアケア商品であることから(甲2,甲3等),これらの商品は,本件商標に係る指定裔品(化粧品,せっけん類)と類似するものである。 (エ)商標法第4条第1項第10号の該当性 以上のことから,本件商標は,請求人(他人)の業務に係る請求人商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている請求人商標と同一又は類似するものであって,請求人商品と類似する「化粧品,せっけん類」について使用をするものであることから,商標法第4条第1項第10号に該当するものである。 ウ 商標法第4条第1項第19号について 上記イ(ア)及び(ウ)で示したとおり,請求人商標は,本件商標の出願時及び査定時の両時点において,請求人の業務に係る請求人商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標であり,また,請求人商標と本件商標は,互いに同一又は類似の関係にある。 また,鳥井氏は,請求人に損害を与えるとともに,自己の利益を不当に得る等の目的(不正の目的)をもって,本件商標を出願し登録を受けたものであることから,本件商標は,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的)をもって使用をするものに当たる。 したがって,本件商標は,請求人(他人)の業務に係る請求人商品を表示するものとして日本国内における需要者の間に広く認識されている請求人商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的)をもって使用をするものであることから,商標法第4条第1項第19号に該当する。 4 被請求人の答弁 被請求人は,結論同旨の審決を求めると答弁し,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第24号証(枝番号を含む。)を提出した。 (1)事実関係について ア 被請求人について (ア)鳥井氏が行っている事業 a 本件商標権者である鳥井氏は,本件商標を付したヘアケア商品を販売しているT-ブレイスの代表取締役である。鳥井氏は,平成22年3月31日にエスジィ社を退職した後すぐに,「T-ブレイス」の屋号でコラーゲンを配合した美容商材を販売する事業を一人で立ち上げ,現在に至っている(乙1,乙2,乙3-1,乙4)。 鳥井氏は,創業当初の平成22年から既に発売元を「T-ブレイス」として美容商材の販売を行っており,さらに,平成24年春頃から発売し始めた,本件商標を付したヘアケア商品(乙5)についても発売元を「T-ブレイス」とし,長年の間,「T-ブレイス」の名称で事業を継続している。 「T-ブレイス」の名称の由来に関し,「T」は鳥井氏の名字のローマ字表記である「TORII」の頭文字から,そして「ブレイス(brace)」は「支える」という意味があり,「お客様の生活を支え,お客様の喜びの声に支えられて成長する会社」というコンセプトから由来している。すなわち,「T-ブレイス」の名称自体は,鳥井氏が名付けたものであり,後述する木村氏とは一切関係がない(乙1)。 b 鳥井氏の会社は,美容商材の発売元であり,創業当初から次のような企業理念をもって事業を行っている。 (a)ドラッグストアなどの大手販売業者により,全国の小売り店舗やインターネットで一般消費者に商品を直接販売する販売手法は起用せず,地域密着型のサロン(理美容室)で実際に商品を使用してもらうなどし,口コミにより商品を販売する手法を起用し,小売り店舗やインターネットで販売されることによる商品の値崩れを防止して,商品のブランド価値を高める。 (b)特に,消費者へ商品を直接販売するインターネットでの販売は行わず,理美容室向けの販売にこだわり,エンドユーザーである,理美容室のお客様だけでなく,理美容室の店員の方々(美容師さん,理容師さん)にもご満足いただく商品を提供し続け,お客様や理美容室の方々に長く使っていただくようにするなど。 c 鳥井氏は,創業当初から上記のような企業理念をディーラーにも説明しており(乙6,乙7),当該企業理念に共感してもらえるディーラーを選定して,このような企業理念に賛同している地元密着型のディーラーとだけ取引を行い,現在も引き続きこのような企業理念を守って事業を継続している。 (イ)被請求人等が使用する本件商標 a 本件商標は,「FUCES」の欧文字を,セリフ体で一連に横書きしてなり,これを構成する「F」,「U」,「C」,「S」を黒色に配し,4文字目の「E」を緑色に配してなるものである(甲1)。 b 本件商標は,平成23年9月に,鍔氏から被請求人に対して提示され,いくつかのネーミング案の中から決定されたものである(乙8)。 鍔氏から提案されたネーミング案の中に,「The future can be changed,elegantly and spectacularly,it’s up to you and FUCES(未来はこれから変えることができる。優雅に,そして華々しく。貴方とFUCESによって)」というものがあり,このコンセプトは,育毛効果の高いヘアケア商品を通じてお客様がさらに美しくなれるような印象を与えること,鳥井氏が考えていた商品コンセプトにも合致していたこと,から,鳥井氏は,ヘアケア商品に使用する商標を「FUCES(フーチェ)」に決定し,費用も鳥井氏が支払っている。 c 鳥井氏は,平成24年1月頃にはデリシアスエーシー社との間で,本件商標を使用するヘアトニック,その後シャンプー,トリートメントの処方を決め,平成24年3月にデリシアスエーシー社とヘアケア商品に関する製造委託取引契約書を締結した(乙1,乙9,乙10)。この製造委託取引契約書では,「第2条 3 本商品の商品名は甲(T-ブレイス)が定め,これに係る商標登録は甲が行う。」「第17条 2 商標及び意匠については,乙(デリシアスエーシー社)は甲(T-ブレイス)の指示に従い本商品の製造のみに使用し,その権利が甲(T-ブレイス)に帰属することを確認する。」と規定されている。 その後,鳥井氏は,平成24年3月に「フーチェ ARエッセンス」,平成24年8月に「フーチェ ARシャンプー」及び平成26年3月に「フーチェ ARヘア&スカルプパック」の化粧品製造販売届書を,それぞれデリシアスエーシー社を介して大阪府知事宛に提出している(乙11)。 d 鳥井氏は,平成24年5月と10月にヘアケア商品に使用する本件商標のラベルデザイン,本件商標が付された商品パッケージ等を,上述の鍔氏と相談の上決定し,費用も鳥井氏が支払っている(乙12)。 e そして,鳥井氏は,デリシアスエーシー社で製造されたヘアケア商品に本件商標を使用し,本件商標を使用したヘアケア商品の発売元を「T-ブレイス」として,現在も継続して販売を行っている。 イ 請求人等について (ア)請求人等が行っている事業 a 請求人は,木村氏を代表取締役とし,本件商標を使用したヘアケア商品を販売している。 b なお,木村氏は,平成22年6月頃から「Sei-jin(セイジン)」の屋号で,被請求人の事業である「T-ブレイス」の販売代理店として事業を開始しており,この事業を引き継ぐかたちで,平成27年9月1日に「T-brace west社」を設立している(乙1,乙3-2,乙10)。 (イ)請求人が使用する商標 a 請求人商標は,「FUCES」の欧文字を,セリフ体で一連に横書きしてなり,これを構成する「F」,「U」,「C」,「S」を黒色に配し,4文字目の「E」を緑色に配してなるものである(甲3,乙13)。 すなわち,請求人商標は,本件商標であり,被請求人が,上記個人事業時代から,ヘアケア商品の出所を表すものとして長年使用してきたものである(乙1,乙5,乙11,乙12)。 b 請求人は,請求の理由の「(2)無効原因ア(ア)b請求人が使用する商標」において,「請求人は,自身が取り扱うヘアケア商品の出所を表す表示として,『FUCES』(読み方は「フーチェ」)との商標を使用している」と主張している。 しかしながら,この点について正確には,請求人はいわゆる「T-ブレイス」の販売代理店であり,請求人は,「『T-ブレイス』が取り扱うヘアケア商品の出所を表す表示として『FUCES』の商標を使用したヘアケア商品を単に販売している」というべきものであり,請求人の主張は失当である。 c また,請求人は,請求の理由の「(2)無効原因ア(ア)b請求人が使用する商標」において,「請求人商標は,木村氏が,上記個人事業時代から,ヘアケア商品の出所を表すものとして使用してきたものであり・・・(甲2 このことから,請求人商標は,木村氏の上記個人事業の時代を含め,10年以上の使用実績がある)」と主張している。 しかしながら,この点について正確には,請求人商標は,請求人ではなく被請求人が,上記個人事業時代から,ヘアケア商品の出所を表すものとして使用してきたものであり,請求人は,「T-ブレイス」又は「株式会社T-ブレイス」のヘアケア商品について,10年以上の販売実績があるというべきものであり,請求人の主張は失当である(乙2,乙5,乙11,乙12)。 ウ 鳥井氏と木村氏との関係等(乙1,乙10) 鳥井氏と木村氏は,以前同じ会社(エスジィ社)に勤務しており,先輩と後輩の関係であった(鳥井氏が木村氏の先輩に当たる)。 上述のとおり,鳥井氏は,平成22年3月31日にエスジィ社を退職した後平成22年6月頃に,「T-ブレイス」の屋号でコラーゲンを配合した美容商材を販売する事業を一人で立ち上げている。同時期に木村氏からの相談を踏まえ,平成22年6月頃に木村氏が立ち上げた「Sei-jin(セイジン)」を,T-ブレイスの販売代理人店としての事業を了承している。 販売代理店としての事業を了承するに当たり,上述のような2つの企業理念を木村氏に説明し,納得して貰った。2つの企業理念は,端的には以下のとおりである。 (ア)小売り店舗やインターネットで販売されることによる値崩れを防止し,商品のブランド価値を高めていくこと, (イ)インターネットでの販売は行わず,理美容向けの販売にこだわり,お客様や理美容室の方々に長く使っていただくこと, 発売元としてのT-ブレイスの鳥井氏や,販売代理店としての「Sei-jin(セイジン)」の木村氏の努力により,平成27年7月頃には,「FUCES(フーチェ)」=「T-ブレイス」ということがディーラーや理美容室の間で定着してきた。木村氏から「T-brace west社」と名乗らせて欲しい旨の申出があったため,以下の2つの条件を前提に上記申出を了承した。 ・木村氏の主たる取引エリアが関西圏だったので,大阪より西側は木村氏の商圏とすること, ・引続きインターネット業者への転売禁止や取締りを行ってブランド価値を維持すること, 当然ではあるが,「T-brace west社」の「west」は大阪より西エリアを商圏とする意味である。 エ 事業統合の話(乙1) 平成29年6月頃,木村氏の顧問税理士である羽山氏を通じて,事業統合を具体的に打診され,鳥井氏,木村氏及び羽山氏の3名で4回の話合いを行った。 鳥井氏としては,事業統合後の法人の代表者を誰にするのか,という問題以上に,創業当初からの企業理念の継続を重要と考え,話合いに応じていた。 結果的に事業統合の話は不調に終わるが,最終意思の連絡は木村氏本人からではなく,羽山氏からの連絡によるものであった。 オ 本件商標について鳥井氏が本件商標登録出願を行った経緯 (ア)株式会社yubi宇都宮からのクレーム(乙1,乙7) 平成28年8月頃,鳥井氏の「T-ブレイス」の企業理念を良く理解して頂いている株式会社yubi宇都宮の坂元氏から,「栃木県内の取引先に大規模な美容総合商社である『株式会社かすが』からFUCESシリーズのヘアケア商品が安く納品されたり,株式会社yubi宇都宮が正規の代理店ではないといわれたりして,非常に困惑している」という趣旨のクレームを鳥井氏が受けた。結果的に木村氏の「T-brace west社」から販売されたものが流通している事実を鳥井氏は把握し,発売元の「T-ブレイス」としてブランド価値の維持に積極的に関与しなければならないと考える出来事であった。 (イ)有限会社クリエイト村松からのクレーム(乙1,乙6) 平成30年3月頃,鳥井氏の企業理念を平成22年の「T-ブレイス」の設立直後から良く理解して頂いている有限会社クリエイト村松の村松氏から,「愛知県三河地域等の取引先に大規模な美容総合商社である『ミツイコーポレイション株式会社』からFUCESシリーズのヘアケア商品が安く納品され,非常に困惑している」という趣旨のクレームを鳥井氏が受けた。結果的に木村氏の「T-brace west社」から販売されたものが流通している事実を鳥井氏は把握し,上記(ア)と同様に発売元の「T-ブレイス」としてブランド価値の維持に積極的に関与しなければならないと考える出来事であった。 (ウ)インターネット上の不正流通,及び不正転売(乙1) 平成29年頃から,Amazonや楽天の大手インターネット販売サイトにおいて,FUCESシリーズのヘアケア商品が安く販売されているケースが増えてきた。 真正商品のインターネット業者への横流しではなく,第三者による模倣品の可能性もあると考え,早急に模倣品対策を講じる必要性を鳥井氏は痛感した。 (エ)発売元としてのブランド価値の管理責任 理美容業界において,発売元がブランド価値の管理をするため,商標出願することは一般的な商習慣である(乙14)。また,製造元であるデリシアスエーシー社との製造委託取引契約書では,上述のとおり「T-ブレイス」が商標登録することになっている(乙9)。商習慣,製造元との契約や上記(ア)ないし(ウ)の事情を踏まえ,中でも第三者による模倣品対策として,発売元としてのブランド価値の管理責任を果たすため,鳥井氏は本件商標「FUCES(フーチェ)」の出願を平成31年3月6日に行い,同出願は令和元年5月31日に登録に至っている。 カ 「木村氏」及び「T-brace west社」による信頼を裏切る行為について (ア)企業理念等に関する鳥井氏と木村氏との合意事項 上述のとおり,鳥井氏と木村氏の間では,お互いの事業の開始の際,以下の企業理念を合意事項としていた。 a ドラッグストアなどの大手販売業者により,全国の小売り店舗やインターネットで一般消費者に商品を直接販売する販売手法は起用せず,地域密着型のサロン(理美容室)で実際に商品を使用してもらうなどし,口コミにより商品を販売する手法を起用し,小売り店舗やインターネットで販売されることによる商品の値崩れを防止して,商品のブランド価値を高める。 b 特に,消費者へ商品を直接販売するインターネットでの販売は行わず,理美容室向けの販売にこだわり,エンドユーザーである,理美容室のお客様だけでなく,理美容室の店員の方々(美容師さん,理容師さん)にもご満足いただく商品を提供し続け,お客様や理美容室の方々に長く使っていただくようにするなど。 また,上述のとおり,平成27年夏頃に木村氏が「T-brace west社」と名乗る条件として,以下の2つを鳥井氏が木村氏に提示し,両者で同条件を口頭で合意していた。 ・木村氏の主たる取引エリアが関西圏だったので,大阪より西側は木村氏の商圏とすること, ・引続きインターネット業者への転売禁止や取締りを行ってブランド価値を維持すること, (イ)鳥井氏との合意に反する,大阪よりも東エリアヘの「T-brace west社」の商圏拡大 上記オ(ア),(イ)に記載のとおり,「T-brace west社」は大阪より東側のディーラーと取引を開始しており,これは上記合意事項に違反する。この2件以外にも,合意事項に違反する販売が認められる(乙2)。 鳥井氏は,これらの「T-brace west社」の違反行為により,直接・間接的な被害を受けており,結果として商品のブランド価値を傷つけることになっている。 (ウ)企業理念に反する,「T-brace west社」によるインターネット販売(乙1,乙15) インターネット上の不正流通,及び不正転売の問題を解決するため,鳥井氏は令和元年8月頃に,インターネットの不正流通等に対処するリバイブ社と契約した。リバイブ社の調査の結果,インターネットにおける不正流通商品は「T-brace west社」が取引するディーラーから販売されていること(乙16)が判明し,これは明らかに鳥井氏と木村氏との間で合意した企業理念に反する行為である。 インターネット販売に関し,鳥井氏は木村氏との話合いを試みたが,結局話合いができずに終わる。一方,各ディーラーの上記違反行為に対して,鳥井氏はリバイブ社を通じ,鳥井氏の商標権を理由に不正流通等を止めようとしたが,完全には止めることはできなかった。 加えて,リバイブ社の措置に対して,「T-brace west社」による虚偽の主張「指定商品が非類似の『FUCES(フーチェ)』商標登録第6235799号(乙17)に基づく侵害申告」による度重なる妨害行為があった。 鳥井氏は,これらの「T-brace west社」の違反行為により,費用と労力を掛けた対応を強いられるだけでなく,「FUCES(フーチェ)」自体のブランド価値を傷つけられることにもなっていた。 最終的に,令和2年11月頃にリバイブ社が「T-brace west社」に対して,損害賠償請求を視野に入れている旨のメール(乙18)を送付し,ようやく「T-brace west社」による侵害申告はストップした。 (エ)「T-ブレイス」から「T-brace west社」への発売元変更の試み(乙1,乙10) 令和元年10月に木村氏が「FUCES(フーチェ)」の商品の発売元を,鳥井氏に無断で,「T-ブレイス」から「T-brace west社」へ変更しようとしたことが分かり,商標権者として当然の行為として変更を止めさせた。 同様の発売元変更の試みは,1年後の令和2年10月にも発覚した。商標権者として当然の行為として変更を止めさせ,デリシアスエーシー社の北田氏を仲介役として木村氏と話合いの場を持とうとしたが,結局話合いの場を持つことはできなかった。 (オ)「FUCES(フーチェ)」から「Putelo(プテロ)」への突然の商品名の変更(乙1,乙10) 「T-brace west社」は,令和2年4月6日に独自に「Putelo(プテロ),指定商品:第3類「シャンプー,ヘアコンディショナー,ヘアローション等」の商標出願を行い,同出願は令和2年10月5日に登録に至っている(乙19)。 並行して,「T-brace west社」は,令和2年4月ないし5月以降,鳥井氏に無断で,築き上げた「FUCES(フーチェ)」のブランド価値に乗ずる形で「商品名がFUCESからPuteloへ変わった」旨をインスタグラム等のインターネット媒体で積極的に告知している(乙20)。直近では,令和3年(2021年)7月に発売予定の「Putelo(プテロ)」の商品を,「FUCES→Putelo(プテロ)ヘブランド移行しました」との見出しの中で紹介している(乙21)。 上記の突然の商品名の変更は,「T-brace west社」の木村氏自身が,「FUCES(フーチェ)」の商標権者である資格がないことを自認している行為といわざるを得ない。 また,北田氏の陳述書(乙10)にあるとおり,「当社にとってはFUCESの鳥井氏,Puteloの木村氏はいずれも大切なお客様です。」というのが第三者の認識である。すなわち,「FUCES(フーチェ)」の商標権者は,鳥井氏ということを意味している。 キ 「T-ブレイス」(個人事業時代を含む。)の売上推移(乙22) 木村氏が「Sei-jin(セイジン)」に代わり「T-brace west社」を設立した平成27年の前年である平成26年以降の「T-ブレイス」の売上は以下のとおりである。 平成26年 約1140万円 平成27年 約1820万円 平成28年 約1850万円 平成29年 約3310万円 平成30年 約5820万円 平成31年(令和元年) 約9330万円 令和2年(3月3日までの個人分) 約3970万円 令和3年度(令和2年3月4日から令和3年2月28日までの法人分) 約1億1310万円 ク 請求人の金銭的損失 請求人は専門の会計ソフトを利用して詳細な売上を把握しているにもかかわらず,本件商標登録の登録日の令和元年5月31日から審判請求日の令和3年3月29日までの1年10か月弱の期間の売上を開示していない。 一方,令和3年5月時点の「T-brace west社」の従業員数は30名となっている(乙23)。「T-brace west社」は,「FUCES(フーチェ)」商品のインターネット販売業者や大規模商社への在庫品等の販売,加えて,築き上げた「FUCES(フーチェ)」のブランド価値に乗ずる形での「Putelo(プテロ)」商品の販売により,大きな金銭的利得を享受していることが推認できる。 ケ 審判請求書における請求人記載の事実に対する鳥井氏の主張(乙1) (ア)請求の理由の無効原因(2)ア(ウ)において,合意事項が記載されているが,不正確な内容のため,事業をお互い開始した際の事実に基づき,以下のとおり正確な内容を記載する。 「a 製造コストについてはスケールメリットを得るべく,互いに共通のブランドを使用し,商品の製造についても共通の工場に委託をすること。工場との契約当事者は鳥井氏であり,発売元も鳥井氏の「T-ブレイス」である。木村氏の「Sei-jin(セイジン)」はあくまでも販売代理店である。」 「b ただし,販売については,それぞれが別々に行い,そこから得られる利益もそれぞれが収受すること(つまり,それぞれが独立した事業体として事業を行うこと)。木村氏の「Sei-jin(セイジン)」は,前金の支払や在庫管理が不可能だったため,鳥井氏の「T-ブレイス」が工場への発注・支払・商品製造の指示・商品発送の指示を行い,木村氏の「Sei-jin(セイジン)」は販売代理店として販売に注力する。」 (イ)北田氏の陳述書(乙10)の項目4にも記載されているとおり,木村氏と工場であるデリシアスエーシー社との関係は平成27年夏頃以降のことであり,「FUCES(フーチェ)」に一定のブランド価値が生じた後である。この後も「T-brace west社」が仕入れた商品は発売元を「T-ブレイス」とする商品である。 (ウ)請求人は請求の理由の無効原因(2)ア(オ)において,「木村氏が,本件商標出願の事実を知ったのは,平成31年3月頃,・・・鳥井氏に電話連絡をしたときのことである。」と主張しているが事実ではない。鳥井氏は本件商標登録がされるまで,商標出願の話を木村氏には伝えておらず,その後しばらくの期間,鳥井氏から本件商標登録の事実を木村氏には伝えていない。 (2)本件商標に商標法第4条第1項第7号に基づく無効理由はない ア 被請求人による本件商標の商標登録出願について 上記(1)オ(エ)に記載のとおり,鳥井氏は理美容業界の商習慣,製造元であるデリシアスエーシー社との製造委託取引契約書,第三者による模倣品対策を踏まえ,発売元としてのブランド価値の管理責任を果たすため,本件商標出願を行っている。不正の目的は一切なく,鳥井氏は商標の正当な帰属主体と認められることは明らかである。 イ 鳥井氏による取引先への商標権侵害の警告等について 請求人は,被請求人が商標登録を受けた意図(目的)を,被請求人が本件商標を独占して,請求人を排除することにある,と決め付けている。 しかしながら,鳥井氏は,上記(1)カ(ア)に記載の合意内容に沿った本件商標を指定商品について使用することを阻止したり,本件商標の使用を独占したりする意図の表明は一切行っておらず,話合いの場を持とうとしても,話合いの場に参加しなかったのは請求人の木村氏である。 鳥井氏は,木村氏と合意した自身の企業理念に従って,インターネット上での不正流通や,第三者による模倣品のインターネット販売の取締りの強化を図り,インターネットや大規模商社の販売による商品の値崩れを防止し,商品のブランド価値を維持するために,「株式会社みのや」,「株式会社オークボ」及び「株式会社かすが」にそれぞれ警告を行ったものである(甲22)。 また,上記(1)カ(オ)に記載のように,請求人は「FUCES(フーチェ)」から「Putelo(プテロ)」への突然の商品名の変更を行っており,「FUCES(フーチェ)」商品を不要と考える請求人向けの「FUCES(フーチェ)」商品の製造委託中止を製造元のデリシアスエーシー社に依頼することは,「FUCES(フーチェ)」のブランド価値を維持するためのやむを得ない行為といえる。 ウ 小括 (ア)以上のとおり,本件商標に係る紛争は,上記(1)カに記載のとおり,木村氏が合意したはずの鳥井氏の企業理念を木村氏が守らないことに端を発するものであり,ヘアケア商品の発売元である「T-ブレイス」と,その販売代理店である「T-brace west社」とによる私的な問題であるといえ,かつ,鳥井氏による本件商標の登録出願の手続は適正に行われたものであって,本件商標の出願から登録に至るまでの手続の経緯について,何らの違法性も認められない。 (イ)また,鳥井氏は,本件商標を独占して請求人に対し,本件商標の使用の禁止を求める等して本件商標の使用を独占しようとしたものでなく,「FUCES(フーチェ)」ブランド価値を維持するために,やむを得ず必要な法的措置を取ったにすぎない。 (ウ)なお,本件商標は,その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激又は他人に不快な印象を与えるような文字からなるものではなく,それを指定商品について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するものともいえないものであり,かつ,他の法律によって,その商標の使用等が禁止されているものではないし,特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反するものでもない。 (エ)以上,請求人が主張する,本件商標に係る事情については,あくまで当事者同士の問題として解決すべきものであって,特段の事情のある例外的な場合には該当しないため,本件商標は,商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」がある商標に,出願時及び査定時において該当しない。 (3)本件商標に商標法第4条第1項第10号に基づく無効理由はない ア 本件商標の周知性 美容室向けのヘアケア商品の市場規模は1600億円程度であり,業界第1位のシェアを占めるミルボン社は300億円以上の売上を計上しており,ミルボン社の売上シェアは約19%となる(甲23)。これに対し,請求人の売上は,最高売上である平成30年度の売上をみても約1億9300万円であり,請求人の市場における売上シェアは約0.12%である。請求人が取引している卸売者の数は一定数あるが,上記売上シェアを鑑みれば,卸売者にとって請求人の商品は多数取り扱うヘアケア商品の1つであり,周知性を獲得しているレベルではないことは明らかである。周知性に関し,請求人は他に具体的な立証を行っておらず,請求人商標は周知とはいえない。 イ 他人性 本件商標は,請求人ではなく鳥井氏が,上記個人事業時代から,ヘアケア商品の出所を表すものとして使用してきたものである。 すなわち,「需要者の間に広く認識されている商標」とは,請求人の商標としてではなく,鳥井氏の商標としてであり,販売代理店に相当する請求人は,鳥井氏との関係で「他人」に該当しないことは明らかである。 ウ 商標及び商品の類似判断 請求人商標は本件商標であることから,いずれも「FUCES」との文字から構成されるものであり,請求人商標は本件商標と同一又は類似するものである。 また,請求人商標が付された請求人商品(シャンプーやヘアースタイリング剤等のヘアケア商品)は,被請求人の「T-ブレイス」が発売元となっており,本件商標が付されたヘアケア商品であり,請求人商品は,本件商標に係る指定商品と同一又は類似するものである。 エ 小括 以上より,請求人商標は「需要者の間で広く認識されている商標」には当たらないものであり,仮に請求人商標が「需要者の間で広く認識されている商標」に当たる場合でも他人の商標には該当しないことから,本件商標は,出願時及び査定時において商標法第4条第1項第10号に該当しない。 (4)本件商標に商標法第4条第1項第19号に基づく無効理由はない 上記(3)アないしウに記載のとおり,請求人商標は「需要者の間で広く認識されている商標」には当たらないものであり,仮に請求人商標が「需要者の間で広く認識されている商標」に当たる場合でも他人の商標には該当しない。 また,上記(2)アに記載のとおり,鳥井氏は,請求人に損害を与えるとともに,自己の利益を不当に得る等の目的(不正の目的)をもって,本件商標を出願し登録を受けたものではないことは明らかであるから,本件商標は,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的)をもって使用をするものには当たらない。 よって,請求人商標は「需要者の間で広く認識されている商標」には当たらないものであり,仮に請求人商標が「需要者の間で広く認識されている商標」に当たる場合でも他人の商標には該当せず,本件商標は,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的)をもって使用するものでもないため,出願時及び査定時において商標法第4条第1項第19号に該当しない。 (5)結論 以上のように,本件商標は,商標法第4条第1項第7号,同項第10号及び同項第19号に違反して登録されたものではなく,同法第46条第1項第1号の規定により登録を無効とされるべきものではない。 5 当審の判断 請求人が本件審判を請求するにつき,利害関係を有する者であることについては,当事者間に争いがないので,本案に入って審理する。 (1)証拠及び当事者の主張によれば,以下のとおりである。 ア 請求人と被請求人との関係等 (ア)請求人代表取締役の木村氏と被請求人の鳥井氏とは,平成22年2月ないし3月に両氏がエスジィ社を退職するまで同会社に在籍していた後輩,先輩の関係であった(請求人及び被請求人の主張)。 (イ)被請求人は,平成22年から発売元を個人事業として始めた「T-ブレイス」として美容商材の販売を行い,同24年頃から本件商標を付したヘアケア商品の事業を開始した(乙1,乙5)。 (ウ)請求人は,平成22年6月頃から「Sei-jin(セイジン)」の屋号で,ヘアケア商品の製造販売事業を開始した(甲4,甲27~甲32,請求人の主張)。 なお,木村氏と鳥井氏は,当該事業を行うに当たり,a 製造コストについてスケールメリットを得るべく,互いに共通のブランドを使用し,商品の製造についても共通の工場に委託をすること,b 販売については,それぞれが独立した事業体として事業を行うこと等を口頭で約束した。 (エ)平成24年3月6日,「T-ブレイス」とデリシアスエーシー社(化粧品の受託製造会社:製造工場)との間で製造委託取引契約を締結した(乙9)。 (オ)平成24年3月23日及び同月24日に鍔氏が木村氏と鳥井氏に宛てたメールに添付した「FUCES」のパンフレット(甲29)には,本件商標と本件商標が付されたヘアケア商品が掲載され,発売元として「T-ブレイス」が表示されている。 (カ)平成27年7月頃,請求人の代表取締役から「T-brace west社」と名乗らせて欲しい旨の申出があり,被請求人は,a「大阪より西側は請求人の代表取締役の商圏とすること」,b「引続きインターネット業者への転売禁止や取締りを行ってブランド価値を維持すること」を前提に上記申出を了承した(被請求人の主張)。 (キ)請求人は,「Sei-jin(セイジン)」に代わり,平成27年9月1日,化粧品及び医薬部外品の販売,理容,美容機器等の製造販売を行う会社を設立した(甲3,甲7,請求人の主張)。 (ク)平成27年9月1日,「T-brace west社」とデリシアスエーシー社(化粧品の受託製造会社:製造工場)との間で製造委託取引契約を締結した(甲33)。 (ケ)木村氏と鳥井氏は,平成29年6月23日,同年7月8日,同年8月2日及び同年8月30日に,お互いの事業について統合に向けた話合いが行われたが,事業統合の話は不調に終わった(甲2,甲14,乙1,乙2)。 (コ)被請求人は,本件商標を平成31年3月6日に登録出願し,令和元年5月31日に設定登録受けた。 (サ)被請求人は,令和2年3月4日に設立された株式会社T-ブレイスの代表取締役であって,当該会社は,理美容用品,化粧品の企画,販売及び輸出入を行う会社である(甲8,甲9,乙4)。 イ デリシアスエーシー社について (ア)デリシアスエーシー社は,育毛・発毛効果の高いヘアケア商品を製造する会社である(乙10)。 (イ)被請求人との製造委託取引契約書について 被請求人が個人事業主であったT-ブレイスとヘアケア商品の製造元であるデリシアスエーシー社との間で平成24年3月6日に締結された製造委託取引契約書(乙9)には,第2条(目的物)第3項に「本商品の商品名は甲(審決注:T-ブレイス)が定め,これに係る商標登録は甲が行う。」。第17条(産業財産権の取扱)第2項に「商標及び意匠については,乙(審決注:デリシアスエーシー社)は甲の指示に従い本商品の製造のみに使用し,その権利が甲に帰属することを確認する。」との記載がある。 (ウ)化粧品製造販売届書について デリシアスエーシー社が平成24年3月30日付け,同年8月21日付け及び同26年3月14日付けで大阪府知事に届出,受付された「化粧品製造販売届書」(乙11)には,販売名の欄に「フーチェ ARエッセンス」,「フーチェ ARシャンプー」,「フーチェ ARヘア&スカルプパック」との記載がある。 (エ)請求人との製造委託取引契約書について 請求人とヘアケア商品の製造元であるデリシアスエーシー社との間で平成27年9月1日に締結された製造委託取引契約書(甲33)には,第2条(目的物)第3項に「本商品の商品名は甲(審決注:請求人)が定め,これに係る商標登録は甲が行う。」。第17条(産業財産権の取扱)第2項に「商標及び意匠については,乙(審決注:デリシアスエーシー社)は甲の指示に従い本商品の製造のみに使用し,その権利が甲に帰属することを確認する。」との記載がある。 (オ)デリシアスエーシー社常務取締役による平成3年5月14日付け陳述書について a 平成30年冬頃,木村氏より育毛・発毛効果の高いシャンプー等を「FUCES」とは別ブランドで作りたいと申出があった旨記載されている(乙10)。 b 令和元年9月頃,木村氏より「FUCES」の商品パッケージの発売元を「株式会社T-brace west」に変更したいと相談があり,鳥井氏はパッケージの発売元をT-brace west社に変更することは承諾していない旨記載されている(乙10)。 ウ 被請求人商標又は請求人商標を付したヘアケア商品について (ア)「フーチェ AR エッセンス<ヘアトニック>」の包装箱(包装箱の正面には,本件商標と同一の被請求人商標が表示されている。以下,同じ。),「フーチェ AR シャンプー」,「フーチェ AR ヘア&スカルプパック」の包装用容器(それぞれの包装用容器には,被請求人商標が表示されている。)には,発売元として,「T-ブレイス」が表示されている(乙5)。 (イ)請求人のウェブサイト(甲3の1)において,「ARシャンプー/ARヘアー&スカルプパック」の包装用容器には,請求人商標が表示されているが,当該包装用容器に表示された請求人商標と上記(ア)の包装箱,包装容器に表示された被請求人商標とは同一と認められる。 エ 「FUCES」のパンフレットについて 平成24年3月頃作成された「FUCES」のパンフレットには,本件商標(被請求人商標と請求人商標は同一。)と本件商標が付されたヘアケア商品が掲載され,発売元として,「T-ブレイス」が表示されている(甲29,甲30)。 オ 陳述書について (ア)愛知県豊橋市の美容商材を扱う商社(ディーラー)である有限会社クリエイト村松の代表取締役は,「平成30年(2018年)3月頃,静岡県静岡市のミツイコーポレーション株式会社(以下「ミツイ社」という。)がFUCESシリーズの商品を取り扱い始め,当社よりも安く美容室へ卸していることが分かり,被請求人に確認すると,ミツイ社と取引をしているのは請求人であった。また,同年6月頃,愛知県岡崎市のシバタビューティーネッツ株式会社(以下「シバタ社」という。)がFUCESシリーズの商品を取り扱い始め,同様に,シバタ社と取引をしているのは請求人であった。」旨陳述した(乙6)。 (イ)栃木県宇都宮市の美容商材を扱う商社(ディーラー)である株式会社yubi宇都宮の代表取締役は,「平成28年(2016年)夏頃,茨城県結城市の株式会社かすが(以下「かすが社」という。)がFUCESシリーズのヘアケア商品を取り扱い始め,当社が取引しているお客様から『他ではもっと安く買える』等と言われ,被請求人に確認すると,かすが社と取引をしているのは請求人であった。」旨陳述した(乙7)。 (ウ)インターネット販売における流通経路を調査する会社であるリバイブ社の代表取締役は,「ECサイト上のヘアケア商品を令和元年10月ないし同2年10月にかけて調査し,T-brace west社が取引するディーラー納品分のロット番号を付されたパッケージを見つけ,出品者に問い合わせたところ,『T-ブレイスウェスト様から仕入れた商品』,『弊社は以前から木村社長から許可を得ている』,『株式会社T-brace west様から仕入れている』」等の回答があった旨陳述した(乙15,乙16)。 カ 警告書について 本件商標権者が株式会社みのや,株式会社オークボ,株式会社かすがに宛てた令和3年1月5日付け警告書(甲22)には,「現在,貴社において上記登録商標が付されている商品(以下「本件商品」という。)を販売する行為は,本件商標権を侵害するものであるから,本件商品の販売を中止するように請求する。」旨記載されている。 (2)上記(1)の認定事実によれば,<1>請求人代表取締役の木村氏と被請求人の鳥井氏は,平成22年6月頃からヘアケア商品の事業(木村氏は,「Sei-jin(セイジン)」,鳥井氏は,「T-ブレイス」)をそれぞれ開始し,両者は,互いに共通のブランドを使用し,商品の製造についても共通の工場に委託をし,販売については,それぞれが独立した事業体として事業を行うこと等を口頭で約束したこと,<2>デリシアスエーシー社は,平成24年3月6日に被請求人の個人事業であった「T-ブレイス」と,同27年9月1日に請求人との間でそれぞれ製造委託取引契約を締結したこと,<3>「T-ブレイス」と製造委託取引契約を締結したデリシアスエーシー社は,平成24年3月ないし同26年3月頃大阪府知事に対し,「フーチェ AR エッセンス<ヘアトニック>」,「フーチェ AR シャンプー」,「フーチェ AR ヘア&スカルプパック」を販売名とする届出をしたこと,<4>平成24年3月頃作成した「FUCES」のパンフレットには,本件商標と本件商標が付されたヘアケア商品が掲載され,発売元として「T-ブレイス」が表示されているが,当事者間で共通のブランドに関して商標登録出願を行っておらず,また,それができなかった特段の事情があったと認めるに足りる事実もないこと,<5>平成27年7月頃,木村氏は鳥井氏に対し,「T-brace west社」と名乗らせて欲しい旨申出を行い,被請求人は,a「大阪より西側は請求人の代表取締役の商圏とすること」,b「引続きインターネット業者への転売禁止や取締りを行ってブランド価値を維持すること」を前提に上記申出を了承したこと,<6>平成27年9月1日,木村氏は,「Sei-jin(セイジン)」に代わり「T-brace west社」を設立したこと,<7>ECサイト上のヘアケア商品について,平成28年夏頃,茨城県結城市のかすが社は,請求人からFUCESシリーズを仕入れたこと,この住所は関東地方であること,<8>木村氏と鳥井氏は,平成29年6月23日,同年7月8日,同年8月2日及び同年8月30日に事業統合の話合いが行われたが不調に終わったものの,これに先だって,当事者間で「FUCES」に関しての取扱いをあらかじめ契約等によって定めていたと認めるに足りる事実はなく,また,それができなかった特段の事情があったと認めるに足りる事実もないこと,<9>ECサイト上のヘアケア商品について,平成30年3月頃,静岡県静岡市のミツイ社は,同じく請求人からFUCESシリーズを仕入れ,同年6月頃,愛知県岡崎市のシバタ社は,同じく請求人からFUCESシリーズを仕入れたこと,これらの住所はいずれも東海地方であること,<10>請求人と関西以外の社との取引が行われていた中,平成31年3月6日,被請求人は,本件商標について登録出願し,令和元年5月31日に設定登録受けたこと,<11>令和元年10月ないし同2年10月にかけてリバイブ社がECサイト上のヘアケア商品を調査したところ,T-brace west社が不正流通を行っていることが判明したと被請求人に報告したこと,以上のとおり認めることができる。 そうすると,ヘアケア商品の事業について,平成22年6月頃から鳥井氏は,「T-ブレイス」を,木村氏は,「Sei-jin(セイジン)」をそれぞれ立ち上げ,同24年頃から両者はヘアケア商品について共通のブランド「FUCES」を使用していた。その後,平成27年7月頃,木村氏から鳥井氏に対し「T-brace west社」と名乗らせて欲しい旨の申出について,a「大阪より西側は請求人の代表取締役の商圏とすること」,b「引続きインターネット業者への転売禁止や取締りを行ってブランド価値を維持すること」を前提として,両者は各事項について納得し口頭合意したものと認められ(当事者の片方が納得しなかったという事情は見いだせない。),この合意後,木村氏は,同年9月「Sei-jin(セイジン)」に代わり「T-brace west社」を設立したものである。 また,平成28年夏頃ないし同30年6月頃,ECサイト上のヘアケア商品について,かすが社(茨城県結城市),ミツイ社(静岡県静岡市),シバタ社(愛知県岡崎市)は,請求人からFUCESシリーズを仕入れたものであり,それらの会社はいずれも関東地方及び東海地方に住所があるから,木村氏の行為は上記木村氏と鳥井氏が口頭合意した二つの条件に反するものというべきである。 そして,被請求人の方から請求人に対し,本件商標の買取りを迫った事実もなく,被請求人は我が国におけるFUCESシリーズのヘアケア商品の発売元として宣伝広告し販売し続けてきたにすぎないから,本件商標が我が国で登録されていないことに乗じて,先回りして同商標と同一又は類似する本件商標につき出願,登録を受けた上で,請求人との間で,販売店契約に関する交渉を有利にさせる意図といった,請求人に損害を与え,被請求人において不正の利益を得る意図があったものとは認められない。 また,通常,自己の所有する商標権に基づき他人に対して警告する行為は,それ自体何ら違法なものとはいえないことから,被請求人が本件商標の登録を受け,これに基づいて請求人の取引先に対して警告をしたことをもって,被請求人のかかる行為が一般社会の道徳観念に反し,公正な競争秩序を乱すとまではいえない。 他に,被請求人が不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用するために本件商標の登録を受けたと認めるに足る証拠はない。 (3)商標法第4条第1項第10号該当性について ア 請求人商標の周知性について 請求人は,請求人商標を平成27年7月から同31年4月まで請求人商品について使用した商品別売上分析表(甲5)を提出し,前身の木村氏の個人事業時代の売上を含む約10年分の売上は,合計で約5億8979万円であると主張するが,その金額を客観的に裏付ける証拠の提出はなく,当該商品の販売数量,市場シェアなどの販売実績,使用地域,並びに広告宣伝の方法,期間,地域及び規模を示す具体的な証拠は見いだせない。また,請求人商品について,請求人を出所とする表示の記載は見いだせない。 したがって,請求人が提出した上記証拠からは,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人商標が,請求人の業務に係るヘアケア商品を表示するものとして,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。 そして,請求人商標と被請求人商標とは同一である。 イ したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当しない。 (4)商標法第4条第1項第19号該当性について 上記(3)アのとおり,請求人商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の業務に係る商品を表すものとして,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されていたと認めることはできない。また,請求人商標と被請求人商標とは同一である。 そして,請求人が提出した甲各号証を総合してみても,本件商標権者が,請求人商標の信用にただ乗りし,請求商標の出所表示機能を希釈化し又は名声を毀損させるものというべき事実は見いだせないし,他に不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって本件商標を出願し,登録を受けたと認めるに足りる具体的事実も見いだせない。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しない。 (5)商標法第4条第1項第7号該当性について ア 商標法第4条第1項第7号の解釈 商標法第4条第1項第7号でいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には,(ア)その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合,(イ)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも,指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反する場合,(ウ)他の法律によって,当該商標の使用等が禁止されている場合,(エ)特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反する場合,(オ)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合,などが含まれるというべきである(知財高裁平成17年(行ケ)第10349号同18年9月20日判決参照)。 しかしながら,先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨などからすれば,商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは,商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので,特段の事情のある例外的な場合を除くほか,許されないというべきである。そして,特段の事情があるか否かの判断に当たっても,出願人と,本来商標登録を受けるべきと主張する者との関係を検討して,例えば,本来商標登録を受けるべきであると主張する者が,自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず,出願を怠っていたような場合や,契約等によって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず,適切な措置を怠っていたような場合は,出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は,あくまでも,当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから,そのような場合にまで「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない(知財高裁平成19年(行ケ)第10391号同20年6月26日判決参照)。 イ 商標法第4条第1項第7号該当性 木村氏と鳥井氏は,平成24年頃からヘアケア商品について共通のブランド「FUCES」の使用を開始したところ,この「FUCES」シリーズの商品には発売元として鳥井氏が個人事業として始めた「T-ブレイス」が表示されていた。 木村氏は,平成27年7月頃,鳥井氏に対し「T-brace west社」と名乗らせて欲しい旨の申出を行い,両者は,a「大阪より西側は請求人の代表取締役の商圏とすること」,b「引続きインターネット業者への転売禁止や取締りを行ってブランド価値を維持すること」を口頭合意した後,木村氏は,個人事業時代の屋号である「Sei-Jin(セイジン)」に代わり,同年9月に,被請求人の個人事業であった「T-ブレイス(brace)に「西。西方。」を意味する「west」を結合した「T-brace west社」を設立したことから,本件口頭合意は,申出と承諾の意思表示が合致していると考えられ,口約束をした場合でも,一方当事者が合意を破棄していない限りにおいて,口頭合意は有効に成立しているといえる。 そして,平成28年夏頃ないし同30年6月頃,ECサイト上のヘアケア商品について,かすが社(茨城県結城市),ミツイ社(静岡県静岡市),シバタ社(愛知県岡崎市)は,請求人からFUCESシリーズを仕入れたものであり,それらの会社はいずれも関東地方及び東海地方に住所があるから,木村氏の行為は上記木村氏と鳥井氏が口頭合意した二つの条件に反するものというべきである そして,上記(3)アのとおり,請求人商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の業務に係る商品を表すものとして,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されていたと認めることはできないものである。また,上記(4)のとおり,本件商標権者が,請求人商標の信用にただ乗りし,請求商標の出所表示機能を希釈化し又は名声を毀損させるものというべき事実は見いだせないし,他に不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって本件商標を出願し,登録を受けたと認めるに足りる具体的事実も見いだせない。 また,本件商標は,その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるようなものでないこと明らかであり,さらに,その登録出願の経緯に社会的相当性を欠くなど,公序良俗に反するものというべき証左も見いだせない。 そうすると,木村氏と鳥井氏は,平成22年6月頃からヘアケア商品の事業をそれぞれ開始し,両者は,互いに共通のブランドを使用すること,被請求人は請求人に対し,本件合意を履行することを前提に被請求人が「T-brace west社」を名乗ることを承諾していること,請求人は上記口頭合意に反する行為をしたこと,これに対し,被請求人は,発売元としてのブランド価値の管理責任を果たすため,本件商標を出願し,登録を受けたものであることから,本件商標については,請求人と被請求人の間における商標権の帰属等をめぐる問題であり,あくまでも当事者同士の私的な問題として解決すべきであって,「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合には該当しないものと判断するのが相当である。 以上を総合すると,本件商標の出願行為,商標の使用行為,商標権に基づく警告通知の行為などにおいて,被請求人による不正目的,又は,不正な行為があったと認めることはできないものである。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。 (6)請求人の主張について ア 請求人は,「木村氏は,これらの本件企業理念等を,被請求人との事業を行う上での方向性を示す,いわば努力目標(これに反してもペナルティーを負うことはない)と理解していたにすぎず,木村氏が,これを法的拘束力のあるものと認識していた事実はない。」旨主張している。 しかしながら,上記(5)イのとおり,木村氏から「T-brace west社」と名乗らせて欲しい旨の申出があった後,鳥井氏は,a「大阪より西側は請求人の代表取締役の商圏とすること」,b「引続きインターネット業者への転売禁止や取締りを行ってブランド価値を維持すること」を前提に承諾し,口頭合意した後に,木村氏は「T-brace west社」を設立した経緯からすると,本件口頭合意は,申出と承諾の意思表示が合致しており,口約束の場合でも,一方当事者が合意を破棄していない限りにおいて,口頭合意は有効に成立しているといえるから,これがお互いの事業を行う上での方向性を示す,単なる努力目標であったということはできない。 イ 請求人は,「請求人が取引をした(請求人商品の取引)卸業者(美容ディーラー等の代理店)の数は,合計で66社となっているところ,この数は,業界全体の卸業者の数の約22%もの割合を占めるものとなっていることから,請求人商標が,本件商標の出願時点において,請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標であることは明らかである。」旨主張している。 しかしながら,請求人が取引をした卸業者の数が,業界全体の卸業者の数の約22%を占めているとしても,上記(3)アのとおり,請求人商標と被請求人商標とは同一であり,請求人商品には請求人を出所とする表示の記載は見いだせず,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人商標が,請求人の業務に係る商品を表示するものとして,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。 よって,請求人の主張は,いずれも採用することができない。 (7)むすび 以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第7号,同項第10号及び同項第19号のいずれにも違反して登録されたものとはいえないから,同法第46条第1項の規定に基づき,その登録を無効とすべきでない。 よって,結論のとおり審決する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2021-890012

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存