商標無効審判
2021-890006
ミタマヤノクロミツダンゴ、ミタマヤノクロミツ、ミタマヤ、ミタマ、クロミツダンゴ
- 審判番号
- 2021-890006
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 商願2018-145915
- 登録番号
- 6332195
- 請求日
- 2021年02月17日
- 審決日
- 2021年10月27日
- 公報発行日
- 2023年04月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】佐嵜 史郎
- 【請求人代理人】田甫 佐雅博
- 【請求人】佐嵜 寿生
- 【請求人代理人】田甫 佐雅博
- 【被請求人】寺井 俊正
- 【被請求人代理人】本田 史樹
- 【被請求人】寺井 さち子
- 【被請求人代理人】本田 史樹
- 審判長/審判官
- 審判長 半田 正人
- 審判官 平澤 芳行
- 審判官 大森 友子
- 分類
- T111 .255-Y (W30)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 商標法4条1項10号商標法46条1項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第4条第1項第10号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の登録第6332195号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は,成り立たない。
審判費用は,請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 本件商標
本件登録第6332195号商標(以下「本件商標」という。)は,「みたまやの黒みつだんご」の文字を標準文字で表してなり,平成30年11月27日に登録出願,第30類「団子」を指定商品として,令和2年12月11日に登録査定,同月21日に設定登録されたものである。
第2 引用商標
請求人が,無効の理由において引用する商標は,別掲1のとおりの構成からなる商標(以下「引用商標1」という。)及び別掲2のとおりの構成からなる商標(以下「引用商標2」という。また,これらをまとめて「引用商標」ということがある。)であり,いずれも請求人佐嵜史郎(以下「請求人A」ということがある。)が長年にわたって商品「だんご」に使用することにより需要者の間に広く認識されているとするものである。
第3 請求人の主張
請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は,被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を審判請求書及び答弁に対する弁駁において要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第114号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当するものであるから,同法第46条第1項の規定により,その登録を無効とすべきである。
(1)引用商標と本件商標について
ア 商標の類似について
本件商標は,上記第1のとおり,標準文字「みたまやの黒みつだんご」からなる商標である。
これに対して,引用商標は,別掲1及び別掲2のとおりの平仮名「みたまやの」の部分と「黒みつだんご」の部分は2列に表記され,ラベルでは右列部分の助詞「の」が「みたまや」の文字より小さな文字で表記されている商標(甲4,甲5)である。
本件商標と引用商標とを比較すると,本件商標は,「ミタマヤノクロミツダンゴ」の称呼が生じる。これに対して,引用商標は,「ミタマヤノクロミツダンゴ」の称呼が生じる。
本件商標と引用商標とは,外観が一列で表記するか二列で表記するかの表示態様の相違にすぎず,加えて引用商標は長年にわたって「ミタマヤノクロミツダンゴ」と需要者に親しまれ広く称呼されている。
その結果,両商標は,称呼が同一であって,外観が表示態様の相違にすぎず,全体として一連に「ミタマヤノクロミツダンゴ」と称呼される類似の商標である。
イ 商品の類似について
本件商標の指定商品「団子」については,請求人Aが引用商標を付して販売する商品と同一である。
ウ したがって,被請求人が指定商品「団子」に本件商標を使用すると,請求人Aが商品「だんご」に長年にわたって使用してきた引用商標と相紛らわしく,需要者の間で,被請求人の指定商品「団子」と請求人の販売に係る商品「だんご(又は団子)」との出所の混同を生じる。
(2)請求人Aが美玉屋の二代目を承継した経緯
和菓子店美玉屋(以下「美玉屋」ということがある。)は,被請求人寺井俊正(以下「被請求人C」ということがある。)の父である先代が京都府京都市の店舗において,昭和15年に創業し,同53年12月まで営業していた。
請求人Aは,昭和38年頃より,美玉屋で従業員として働いていたところ,先代が営業を辞める同53年に,先代より承継者がいない旨の相談を受けたので,2代目として美玉屋を承継し,同54年1月より現在に至るまでの約40年間,和菓子の製造・販売の業務を継続し,事業を大きく発展させてきたものである(甲107)。
(3)請求人Aが商品「だんご」に引用商標を使用するに至るまでの変遷・経緯について
ア 商標「黒光だんご」の使用
先代及び請求人Aは,発売当初から請求人Aが2代目を承継した後の昭和56年頃まで,商品「だんご」に商標「黒光だんご」(称呼は「クロミツダンゴ」だが,「コッコウダンゴ」と呼ぶ人もいた。)を使用していた(甲6)。
イ 商標「黒みつだんご」の使用
請求人Aは漢字「光」の部分を平仮名に変更した商標「黒みつだんご」を少なくとも昭和62年には使用していた(甲7)。
ウ 商標「みたまやの黒みつだんご」の使用
その後,請求人Aは,商標「黒みつだんご」を商標「みたまやの黒みつだんご」に変更して昭和63年(1988年)から商品「だんご」に継続的に使用している(甲8)。
(4)請求人Aが本件商標の出願前に,引用商標を継続的に使用してきた状況について
ア 商品「みたまやの黒みつだんご」(以下「使用商品」ということがある。)は,透明のプラスチック容器に入れられて,その上蓋に下記イのラベルをゴムバンドで止めた後,下記ウの包装紙で包装されて販売されている(甲3)。
イ 使用商品のラベルは,印刷会社からの1回の納品時に約1万5000枚納品されている(甲10)ところ,当該ラベルは平仮名で「みたまやの」(但し,助詞「の」は他の文字「みたまや」より小さな文字。)と表記した左横に,文字「黒みつだんご」を表記するとともに,その左横に漢字で商標「美玉屋」を表記(甲4)した商標的に同じデザインのものであって,平成5年(1993年)頃より27ないし28年間継続的に使用している(甲8)。
ウ 使用商品の包装紙は,印刷会社からの1回の納品時に2000枚納品されている(甲11)ところ,当該包装紙は,商品を包装したときの表面となる位置(包装紙の中央)に商品名を表す商標「みたまやの/黒みつだんご」を表記するとともに,商品を包装したときの裏面となる位置(包装紙の左上角と右下角)に商号でもある商標「美玉屋」を表記し,商品を包装したときの裏面の左側に品名「黒みつだんご」と製造者「美玉屋佐嵜史郎」を記載している(甲5)。すなわち,美玉屋の店主が佐嵜史郎(請求人A)であることを包装紙に明記し,同じデザインの包装紙を平成5年(1993年)頃より27ないし28年間,継続して使用している(甲8,甲50,甲80ほか)。
エ したがって,使用商品には,商標「みたまやの/黒みつだんご」を一連に表記したラベル(甲4)が付され,包装紙(甲5)で包装されて,本件商標の出願前に継続的かつ多量に販売されたことが明らかである。
(5) 請求人Aが引用商標を長期間にわたって継続的に使用した結果,引用商標が本件商標の出願日前に需要者に広く知られるに至った状況について
ア 使用商品は,昭和54年に和菓子店「美玉屋」を承継して暫くの期間,販売数量が1日に300本(10本入パックで30パック)にすぎず(甲6,甲7の1),店全体の売上額でみても売上げの1割にも満たなかった(甲71)。
イ しかしながら,使用商品は,新聞記事(甲7の1)をきっかけとして問合せが殺到するようになり,午前中に売り切れることもあった(甲71)。
その後,美玉屋及び使用商品が,雑誌・新聞等(甲8,甲9,甲15~甲20)で取り上げられたことから,請求人Aは平成9年(1997年)より今日に至るまで,京都府を含む関西及び中部にある多数の大手デパートから販売要請を受け,これらのデパートにおいて使用商品を定期的かつ継続的に販売している(甲12,甲13の8)。
各デパートでは,週に1ないし4回販売しており,1回の販売数量は,5本入りのセットを20ないし60セットである(甲12,甲13の1~7)。
また,平成29年前より,上記の定期販売のほかにも首都圏等の店舗で催事販売を行っている(甲12,甲14,甲89,甲104,甲106)。
現在において,使用商品は約15の都府県で販売している。
ウ 請求人Aが使用商品をデパートにおいて販売した結果,美玉屋の1店舗だけで販売していたときに比べて,使用商品の販売数量が飛躍的に増加し,それに伴って美玉屋及び使用商品が旅案内の雑誌を含む非常に多くの雑誌・新聞等で紹介される機会も増加した(甲21~甲74)。
なお,新聞・雑誌・単行本で取り上げられた回数は,1993年ないし2011年の18年間で,少なくとも66回である(甲8,甲9,甲12~甲74ほか)。
これらの記事には,請求人Aを紹介した記事も多数に上る(甲9の1,2,4,甲19~甲21,甲24,甲27,甲28,甲30,甲32,甲58,甲71,甲74ほか)。
これらの記事を見た需要者の認識としては,「美玉屋」といえば,「みたまやの黒みつだんご」を手作りする請求人Aが経営する和菓子店であり,先代も相続人である被請求人Cも全く関係がない。
また,「美玉屋の黒みつだんご」又は「みたまやの黒みつだんご」に係る検索エンジンを使用した検索結果は,検索日が2019年6月6日の時点で約9万5400件ヒットし,「美玉屋×京都」では44万9000件ヒットしている(甲75~甲77)。
そして使用商品は,2006年以降,ネット記事において多数紹介された(甲78~甲106)。
エ 以上のとおり,引用商標は,昭和63年(1988年)から使用商品に使用され,美玉屋及び使用商品が極めて多数の媒体によって需要者に広く紹介されたこと。しかも,使用商品が全国的規模の百貨店で販売されていた事実を勘案すれば,商標「みたまやの/黒みつだんご」は請求人Aが製造・販売する商品「だんご」を表すものとして,本件商標の出願前に需要者に広く認識され,周知商標になっていることが明らかである。
(6)小括
以上より,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当する。
2 商標「美玉屋」等をめぐる被請求人との紛争の経緯
(1)被請求人Cは,美玉屋の先代の子息であり,美玉屋の店舗の土地及び建物の現所有者であり,請求人Aに店舗を貸しているので,家主に当たる。
しかし,両者の間には,雇用(主従)関係も,資本的繋がりも一切ない。
(2)被請求人Cは,先代の妻から不動産を相続した後(本件商標の出願前)に,請求人Aに対して美玉屋店舗の土地・建物の賃貸料及び暖簾代につき新たに賃貸契約を締結することを提案したが,請求人Aは,その金額に納得できなかったため,土地・建物の賃貸料と暖簾代に分けて提示してもらう旨要望したが,交渉は打ち切られた。
その後,本件商標及び他の商標の登録出願がなされ,請求人Aが登録権者である商標登録第3226022号に対して,被請求人から不使用取消審判を請求された(甲108,甲109)。
(3)本件商標は,先代が一度も使用したこともなく,請求人Aが製造・販売している使用商品のラベル及び包装紙(甲4,甲5)に使用している引用商標と実質的に同一又は類似の商標であって,同一商品を指定商品とすることである。
また,被請求人Cは,別の住所に居住しているにも関わらず,本件商標と2件の商標登録出願の出願人住所を,請求人Aに貸している不動産の所在地と記載している。
(4)このような一連の経緯を考慮すると,被請求人は,所有する美玉屋店舗の土地・建物の賃貸料の値上げ及び暖簾代を請求人Aに同意させる目的及び請求人Aの商標「美玉屋」及び「みたまやの/黒みつだんご」の使用を妨げる目的で,商標登録出願をし,商標権の取得を図ったものと解される。
3 答弁に対する弁駁
(1)「みたまやの黒みつだんご」の周知性について
被請求人は,「みたまやの黒みつだんご」の周知性について否定していない。
(2)被請求人が商標法第4条第1項第10号の「他人」に該当するかについて
ア 被請求人は,本件商標の周知性を獲得したのは美玉屋であり,「美玉屋」の商号及び営業権を請求人に貸与しているものであるから,商標法第4条第1項第10号の「他人」に該当しない旨主張する。
イ しかしながら,請求人Aは,先代の「美玉屋を継いで暖簾を守ってくれないか。」の言葉を,商号権も含めて承継させる意味と理解していた。
さらに,請求人Aは,先代が美玉屋を経営・営業していたときに取得していた2件の商標権の譲渡を受けて,名義変更し,商標権者となっている(甲11~甲114)。
これらの事情を勘案すれば,美玉屋の暖簾を承継させる際に営業権を「貸与」と解する被請求人の主張の方が不自然である。
ウ 仮に「美玉屋」が貸与であったとしても,本件商標の査定時における出願人は,被請求人個人であって,美玉屋ではなく,出願前に「みたまやの黒みつだんご」を使用している者でもない。
請求人Aのみが「みたまやの黒みつだんご」を使用し,周知としたのは,上記1(請求書)のとおりである。
また,請求人Aが商品「みたまやの黒みつだんご」をデパートで販売するようになった1997年(平成9年)9月以降は,当該商品の需要者は,一般消費者のみならず,デパートの販売担当者である取引者も対象となっている。
これらの取引者は,取引先が請求人Aであって,先代や被請求人とは全く面識がない。
エ 本件商標により,請求人による引用商標の使用が妨げられることになり,商標の使用者(請求人)の業務上の信用の維持が図れない。さらに,商標権者又は使用権者によって本件商標が使用されると,請求人Aが製造・販売する「みたまやの黒みつだんご」と同じ商標を付した商品が他人によって販売されることになり,需要者の出所の混同を招き,需要者の利益も害される。
オ したがって,本件における,商標法第4条第1項第10号でいう「他人」とは,本件商標の出願時において,「みたまやの黒みつだんご」を実際に使用している者である請求人Aである。
なお,請求人佐嵜寿生は,従業員として父親の経営する美玉屋を支え,家業を継ぐために三代目を目指して和菓子職人の修行をしている者であるので,周知性を獲得した主体としての地位は請求人Aと同一視できるものである。
(3)「家賃,顧問料,暖簾代」について
請求人Aが記憶している限りでは,二代目を承継する際に先代から提案された条件は,「家賃に暖簾代を加算する」というものではなく,美玉屋を請求人Aに譲った後も先代と先代の妻が時々店の手伝いに行くので,家賃に,手伝いの対価として先代と先代の妻に顧問料を支払うというものだった。
そのため,先代の生存中は,家賃と先代及び先代の妻の2人分の顧問料の合計を毎月払っていた。先代が亡くなった後は,家賃と先代の妻の顧問料の合計を毎月払っていた。また,先代の妻が手伝いに来なくなった後でも,生存中の間,先代の妻の顧問料の支払を続けた。
(4)交渉経緯の議事録(乙4,乙6)について
請求人Aは,かかる主張を聞いただけで,その主張に同意した訳ではない。
(5)「みたまやの黒みつだんご」について
被請求人は,「美玉屋で販売されている商品である『みたまやの黒みつだんご』の名称は,先代のときから継続的に販売している商品の名称と実質的に同一である(乙7)。」旨を主張する。
しかしながら,先代が美玉屋を営業していたころの商品名は,「黒光だんご」であり,本件商標「みたまやの黒みつだんご」とは非類似の商標である。
したがって,被請求人の当該主張は,事実に反する主張である。
また,商品の基本的なコンセプトは,同じであるが,請求人Aは,対面販売の際の消費者の反応や消費者の好み(時代による志向の変化)に合わせて,材料・味・食感・製法等の細部を微妙に変更・改良・エ夫を重ねてきた(甲19,甲20,甲33,甲39,甲74ほか)。それによって,今日販売している人気商品「みたまやの黒みつだんご」に至っている。
このように,美味しさを追求し,味・品質にこだわって改良・変更・工夫することによって,消費者が請求人Aの製造する「みたまやの黒みつだんご」を高く評価するに至り,人気商品になったのである。
第4 被請求人の主張
被請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を審判事件答弁書において要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第7号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第10号の主体について
(1)美玉屋は,被請求人が請求人にいわゆる営業権を「貸与」しているものである(乙2)。
しかしながら,被請求人Cの父である先代は,請求人Aに美玉屋の営業権の譲渡はしていない。
先代が請求人Aに対して,店舗(土地及び建物)のみ「貸与」で,営業権のみ「譲渡」するということは不自然である。
また,約40年貸与が続いたからといって,それが譲渡にかわるものでもない。
そして,先代の相続人である先代の妻並びに被請求人Cを含む子も,請求人Aに美玉屋の営業権を譲渡しておらず,そのことを請求人Aに伝えている(乙4)。
(2)請求人は,「みたまやの黒みつだんご」について請求人が周知性を獲得していることを主張しているが,請求人が挙げている証拠において,請求人Aの名前が出てくるのはごくわずかであり,ほとんどが「美玉屋」の名で掲載されている。
そして,請求人Aの名前が表示されていてもそれは「美玉屋」として名前が出ているだけである。
そうすると,「みたまやの黒みつだんご」が周知性を獲得している場合であっても,周知性を獲得しているのは「美玉屋」であって請求人ではない。
これは,「みたまや(美玉屋)の黒みつだんご(黒光だんご)」という商品が,先代のときから継続的に販売されていることからも明らかである。
(3)したがって,「美玉屋」を請求人に貸与している被請求人は,商標法第4条第1項第10号の「他人」には該当せず,また,出所混同も生じないため,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当しない。
2 請求人の主張について
(1)美玉屋の歴史と商標権取得の経緯について
請求人は,先代より,美玉屋を承継してくれる者がいない旨相談されたので,美玉屋を承継することにしたと主張している。
しかしながら,被請求人寺井さち子は,先代に対して,将来家業を継ぐかもしれない又は経営したい旨を伝えており,先代も家族に承継させるつもりであったと思われる。
したがって,先代が,仮に請求人Aに「暖簾を守ってくれないか」のようなことを言っていたとしても,その意味は「営業権(暖簾)の譲渡又は承継」という意味ではなく,「営業権(暖簾)の貸与」という意味である。
事実,被請求人Cが先代から受けた申し送りでは,「美玉屋の店舗と暖簾(営業権)をすべてひっくるめて請求人Aに貸渡す。そして,その対価としての賃貸料は家賃と暖簾代のトータルで設定する」というものであった。
そのため,先代が,請求人Aに対して,店舗のみ「貸与」で,暖簾は「譲渡(又は承継)」するということなどはあり得ない。
さらに,上記1(1)のとおり,先代の死後も,相続人である先代の妻並びに子は,請求人Aに美玉屋の営業権を譲渡していない。
(2)商標「美玉屋」等をめぐる被請求人との紛争の経緯について
ア 請求人は,請求人Aが「みたまやの黒みつだんご」を世に広め,被請求人Cがさも剽窃的行為を行っているかのように主張しているが,そもそも被請求人らが美玉屋の商標(屋号や商品名)を請求人Aに貸与しているものである。
請求人Aと先代とは,いわゆる暖簾代(営業権)も含めた契約をしていたところ,先代の没後,当該暖簾代を含む金額から値下げされ,その後約40年間その金額が変更されることはなかった。そして,請求人Aと先代及び先代の妻との契約においては,口約束だけで契約書が交わされることがなかった。
それに対して,被請求人Cは,口約束ではなく,きちっとした契約書を請求人Aと結び,賃貸料も相場に合わせたいと思っていたが,その旨を以前請求人Aに話したところ,請求人Aは,理由を述べることなく,契約書を交わすことを拒否していた。
このような経緯の中,請求人Aによる賃貸料の更なる値下げの主張があったため,被請求人Cは,美玉屋の店舗のあるところの賃貸料の相場を確認し,これにいわゆる暖簾代を加えた金額を要求したところ,請求人は,さも被請求人Cが請求人Aに対して不当な要求をしているかのように主張しているものである。
また,賃料に関する,話し合い自体も打ち切られたわけではない(乙4)。
イ 被請求人は,本件商標は,先代が一度も使用したこともなく,請求人Aが製造・販売している商品名「みたまやの黒みつだんご」のラベル及び包装紙(甲4,甲5)に使用している引用商標と実質的に同一又は類似の商標であって,同一商品を指定商品とすることである旨主張している。
しかしながら,本件商標の「みたまや」は「美玉屋」を表しており,「黒みつだんご」は,先代のときから製造販売されている「黒光だんご」の「光」を平仮名に変更しただけで,当時からその称呼は「クロミツダンゴ」であり,「黒光だんご」を表している(甲6,甲9の4,甲22,甲71,乙7)。
したがって,美玉屋で販売されている使用商品の「みたまやの黒みつだんご」の名称は,先代のときから継続的に販売されている商品の名称と実質的に同一である。
第5 当審の判断
請求人が本件審判を請求するにつき,利害関係について争いがないから,本案について判断する。
1 引用商標の周知性について
(1)両当事者の主張及び請求人の提出に係る証拠によれば,以下の事実を認めることができる。
ア 美玉屋は,先代(被請求人Cの父)が昭和15年に京都府京都市において創業した和菓子の製造・販売を行っている店舗であり,請求人Aは,同38年頃より美玉屋で働いていたところ,同54年からは,店主として和菓子の製造・販売の業務を引き継いでいる(両当事者の主張,甲107)。
イ 美玉屋では,昭和53年以前より商品「だんご」を製造・販売しており(以下,美玉屋の製造に係る「だんご」を「本件商品」という。),本件商品には,同56年頃には「黒光だんご」,少なくとも同62年には「黒みつだんご」,同63年からは「みたまやの黒みつだんご」として販売されている(請求人主張,甲6~甲8)。
ウ 本件商品は,透明のプラスチック容器に入れられて,その上蓋に「名物みたまやの」,「黒みつだんご」,「美玉屋」,住所及び電話番号が6列に表されたラベルが付されているところ,構成中の「みたまやの」及び「黒みつだんご」の文字は,引用商標1と同じ態様からなるものと認められる。
また,本件商品は,「みたまやの」及び「元祖黒みつだんご」の文字(「元祖」の文字は横書き)を2列に表した文字を正面とする包装紙で包装されて販売されているところ,構成中の「みたまやの」及び「黒みつだんご」の文字は,引用商標2と同じ態様からなるものと認められる。そして,当該包装の裏面と思しき箇所には,製造者として「美玉屋 佐嵜史郎」,住所及び電話番号が表示されている(甲3~甲5)。
エ 本件商品は,平成9年から令和2年において,関西・中部にある複数のデパートにおいて週に1ないし4回程度販売されている(甲13)。
また,本件商品は,関東のデパートにおいても年に数回の催事において販売されている(甲14,甲89,甲104,甲106)。
上記デパートにおける本件商品の販売量は,1日に1セット5本入りのものが20ないし60セット(100~300本)である(甲13,甲14)。
オ 本件商品は,昭和56年より令和2年7月までの間において,新聞,雑誌,書籍等で紹介されてはいるものの(甲6~甲8,甲9の1,2,4,5,甲15~甲74,甲107),その数は多い年で平成17年の11回であり,昭和57年ないし同61年,平成2年,同9年のように掲載のない年もある。またここ10年(平成23年~令和2年)においては,平成23年と令和2年にそれぞれ1回ずつ掲載されたのみである。
さらに,当該記事のほとんどが「黒みつだんご」又は「黒みつ団子」が美玉屋により製造,販売されているというものであって,本件商品の商品写真等により,引用商標又は「みたまやの黒みつだんご」の文字が明確に表示されている記事は11件程度である(甲8,甲9の1,甲16,甲26,甲40,甲50~甲53,甲60,甲67)。
さらに,これらの記事において,請求人Aの氏名が製造者として掲載されている記事の数は10件程度である(甲7の1,甲9の2,4,甲19,甲20,甲24,甲27,甲31,甲32,甲58,甲71,甲74)。
カ 美玉屋及び本件商品は平成18年ないし同28年に,ブログ又はウェブサイト記事において27回ほど紹介されている(甲13の8,甲78~甲95,甲97,甲98,甲100~甲106)ところ,そのほとんどは,上記オと同様に,「黒みつだんご」又は「黒みつ団子」が美玉屋により製造,販売されているというものであって,本件商品の商品写真等により,引用商標又は「みたまやの黒みつだんご」の文字が明確に表示されている記事は17件ほどであり(甲79,甲80,甲82~甲84,甲87~甲90,甲92,甲93,甲95,甲97,甲100~甲102,甲105),請求人Aの名前が掲載されているものは2件しかない(甲98,甲105)。
キ 「みたまやの黒みつだんご」に係る検索エンジンを使用した検索結果は,検索日が令和元年6月6日の時点で約8万件ヒットするとされる(甲76)。
ク 美玉屋に係る広告は,雑誌「月刊京都」(1992年(平成4年)11月1日発行)に掲載されているが,「みたまやの黒みつだんご」の文字は表示されていない(甲9の3)。
(2)判断
上記(1)の事実によれば,以下のとおりである。
ア 請求人Aは,少なくとも昭和63年頃より,本件商品を「みたまやの黒みつだんご」とし,本件商品の包装に引用商標及び製造者として請求人Aの氏名を付して販売している。
そして,本件商品は,美玉屋店舗にとどまらず関東・関西・中部のデパート等でも販売されていることは認め得る。
しかしながら,本件商品全体の販売数量,売上金額,販売シェアは不明であり,デパートにおける販売数量も殊更多いものとはいえない。
イ 本件商品が,昭和56年より雑誌,新聞,書籍,ウェブサイト等で紹介されていることは認め得るが,雑誌,新聞,書籍においては多い年でも年11回ほどであるところ,掲載のない年もあり,ここ10年(平成23年~令和2年)においては,僅か2回ほどであるから,その数は多いものとはいえない。
そして,ブログ又はウェブサイト記事においても,平成18年ないし同28年の11年間で27回ほどであって,多いものとはいえない。
さらに,これらの記事の全てに,引用商標又は「みたまやの黒みつだんご」の表示や本件商品に係る製造販売者として請求人Aが記載されているものではない。
また,雑誌,新聞及び書籍の発行部数並びにブログ及びウェブサイト記事の閲覧回数は不明である。
ウ 検索エンジンにおけるヒット数は,その全てが本件商標の査定前のものとはいえず,文字種の相違,表記揺れ及び記事の重複も併せて検索されるものであるから,当該ヒット数をもって,引用商標の周知性を量ることはできない。
エ 美玉屋に係る広告は1件認められるものの,本件商品に係る広告は見いだせない。
オ その他,引用商標が,取引者及び需要者において,どの程度認識されているかを客観的に把握できる証拠は提出されていない。
カ 上記アないしオより,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,和菓子店「美玉屋」で「黒みつだんご」が,製造,販売されていることを,だんごの愛好家を中心とした一部の需要者は認識するとしても,引用商標の使用に係る商品(だんご)の需要者は,広く一般需要者であり,引用商標が,請求人の業務に係る商品(本件商品)を表示するものとして,全国若しくは少なくとも請求人の居所である京都府及びその周辺地域における一般需要者に広く知られているものとまで認めることはできない。
2 商標法第4条第1項第10号該当性について
商標法第4条第1項第10号における周知性の程度は全国的に広く認識されているとまではいえないものの,一地方すなわち一県の全域及び隣接の数県を含む程度で知られている必要があると解される。
上記1より,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,引用商標は,全国のみらならず,少なくとも請求人の居所である京都府及びその周辺地域においても,請求人の業務に係る商品を表示するものとして,当該商品の需要者である一般需要者に広く知られていると認めることはできない。
してみれば,本件商標が引用商標と類似し,本件商標の指定商品が引用商標の使用商品と同一又は類似するものであるとしても,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当しない。
3 まとめ
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当するものではなく,その登録は,同条第1項の規定に違反されたものではないから,同法第46条第1項の規定に基づき,その登録を無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
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2021-890006