特許拒絶査定不服審判
2021-014724
サイトカイン産生の調節
- 審判番号
- 2021-014724
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-529102外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年10月29日
- 審決日
- 2023年09月25日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 分類
- P18 .536-WZ (A61K) / P18 .537-WZ (A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-529102「サイトカイン産生の調節」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月 8日国際公開、WO2017/091866、平成31年 2月14日国内公表、特表2019-503998〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)12月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年12月4日 オーストラリア(AU))を国際出願日とする特許出願であって、その主な手続の経緯は次のとおりである。
令和 元年12月 2日 :手続補正書の提出
令和 2年10月19日付け:拒絶理由通知
令和 3年 3月26日 :意見書及び手続補正書の提出
同年 6月22日付け:拒絶査定
同年10月29日 :審判請求書及び手続補正書の提出
令和 5年 1月 6日付け:拒絶理由通知(当審による)
同年 7月10日 :意見書及び手続補正書の提出
第2 本願発明
令和5年7月10日提出の手続補正書によって補正された本願の特許請求の範囲の請求項1~19のうち、請求項7の記載は次のとおりであり、同請求項7に係る発明は、同請求項7に記載された事項によって特定されるとおりのものである(以下「本願発明」という。)。
「【請求項7】
対象における免疫応答を低下させるための組成物であって、対象においてC6orf106タンパク質のレベルおよび/またはC6orf106タンパク質活性のレベルを増加させる化合物を含み、ここで前記C6orf106タンパク質活性が、IRF3転写因子依存性のインターフェロン-α/β(IFN-α/β)および/またはTNF-αの発現であり、そして免疫応答が、インターフェロン-α/β(IFN-α/β)応答およびTNF-α応答のうちの1つ以上である、前記組成物。」
第3 当審において通知した拒絶理由
令和5年1月6日付けで当審において通知した拒絶理由(理由1~3)のうち、「理由1」及び「理由3」の概要は、次のとおりである。
理由1(明確性)
「C6orf106タンパク質活性を改変する化合物」が明確でないから、本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
理由3(実施可能要件)
「C6orf106タンパク質活性を改変する化合物」が具体的にどのようなものであるかを理解できないため、本願発明の実施にあたり、無数の化合物を製造、スクリーニングして確認するという当業者に期待をし得る程度を超える試行錯誤を行う必要があるから、本願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
第4 当審の判断
1 本願明細書の記載
発明の詳細な説明には、以下の記載がある。なお、下線は当審合議体が付したものである。
ア 発明の概要
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、C6orf106タンパク質活性を調節することで、免疫応答及び/又はサイトカイン産生が調節されることを特定した。
【0007】
したがって、一態様において、本発明は、対象における免疫応答及び/又はサイトカイン産生を調節する方法であって、C6orf106タンパク質活性を改変する化合物を前記対象に投与することを含む方法を提供する。
【0008】
本発明者らは、C6orf106タンパク質がIRFと結合することも見出した。したがって、一実施形態において、化合物は、C6orf106とIRF3とを含む複合体の形成を改変する。
【0009】
一実施形態では、化合物はC6orf106タンパク質活性を増大させ、免疫応答及び/又はサイトカイン産生は減少する。一実施形態では、増加したC6orf106タンパク質活性はIRF3依存性サイトカイン転写を減少させる。一実施形態において、C6orf106タンパク質活性を増加させることで、NF-κB活性は低下する。そのような化合物の例としては、ポリヌクレオチド、ポリペプチド又は小分子が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
イ C6orf106タンパク質活性を増加又は低下させる化合物について
【0015】
C6orf106タンパク質活性を増加又は低下させる化合物の例としては、ポリヌクレオチド、ポリペプチド又は小分子が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0088】
C6orf106タンパク質活性を改変する化合物
本明細書中で使用する場合、「C6orf106タンパク質活性を改変する」という語は、C6orf106が免疫応答及び/又はサイトカイン産生を調節する能力を改変することを指す。一実施形態において、C6orf106mRNA又はC6orf106タンパク質のレベルを低下させることで、活性を低下させることによりC6orf106タンパク質活性を改変する。一実施形態において、C6orf106に結合し、C6orf106の活性を調節する化合物、例えばC6orf106タンパク質活性を低下又は阻害する化合物は、C6orf106タンパク質活性を改変すると考えられる。一実施形態において、C6orf106の活性を調節する化合物は、IRF3と結合するその能力を調節する。一実施形態において、C6orf106の活性を調節する化合物は、C6orf106とIRF3とを含む複合体の形成を調節する。一実施形態において、C6orf106の活性を調節する化合物はIRF3と複合体を形成するその能力を調節する。一実施形態において、C6orf106mRNA又はC6orf106タンパク質又はその生物学的に活性なフラグメントのレベルを増加させることで、活性を増加させることによってC6orf106タンパク質活性を改変する。一実施形態において、C6orf106の細胞性輸送に関与するアゴニスト、阻害剤、受容体、又はタンパク質を調節することで、C6orf106タンパク質活性を改変することができる。一実施形態において、C6orf106タンパク質活性を改変する化合物は処理する細胞の代謝活性を有意に変更しない。一実施形態において、細胞の代謝活性をアラマーブルーアッセイで評価する。
ウ 化合物の同定方法
【0215】
化合物の同定方法
一実施形態において、C6orf106タンパク質活性を改変する本発明の化合物は、スクリーニングによって同定することができる。そのような化合物は当業者に公知の任意の方法によって同定することができ、i)化合物のC6orf106遺伝子又はC6orf106mRNAと結合する能力を評価すること、ii)化合物のC6orf106遺伝子発現を改変する能力を評価すること、iii)化合物のC6orf106タンパク質に結合する能力を評価すること、iv)化合物の細胞におけるC6orf106活性を改変する能力を評価すること、のうちの1つもしくはそれ以上、又は全部を含み得る。化合物のC6orf106活性を改変する能力を評価することは、ウイルス感染などの感染に対する化合物の免疫応答を調節する能力を評価することを含み得る。あるいは、化合物のC6orf106活性を改変する能力は、化合物の免疫応答を誘導する能力を評価することを含み得る。免疫応答を評価することは、化合物による治療に応答するサイトカインのレベルを測定することを含み得るが、これに限定されるものではない。一実施形態において、免疫応答を測定することは、IFN-α、IFN-β及びTNF-αのうちの1つ又はそれ以上の遺伝子及び/又はタンパク質のレベルを測定することを含む。
【0216】
C6orf106遺伝子発現
一実施形態において、化合物は、C6orf106遺伝子の発現を減少させることによってC6orf106タンパク質活性を減少させ得る。一実施形態において、化合物は、C6orf106遺伝子又はそのフラグメントの発現を増加させることによってC6orf106タンパク質活性を増加し得る。そのような化合物をインビトロ、インオボ又はインビボでスクリーニングすることができる。インビトロ実験は、本発明の方法において使用するための候補化合物を細胞に投与し、そして化合物の投与前及び投与後のC6orf106mRNA発現レベルを評価することを含み得る。インビトロ研究は、任意の好適な細胞株を用いて実施することができる。一実施形態において、細胞株は哺乳類細胞株である。一実施形態において、細胞株はヒト細胞株、例えばHeLa細胞株である。インオボ研究はトリ卵において実施することができ、インビボ研究は、哺乳類モデル、例えばマウスモデルを用いて実施することができる。遺伝子発現はリアルタイムPCRを用いて測定することができる。
【0217】
組織及び/又は細胞におけるC6orf106遺伝子の発現レベルの定量的評価を可能にするものを含む、核酸の検出を可能にする任意の好適な技術を使用することができる。例えば、転写された遺伝子のレベルは、ノザンブロッティング、及び/又はRT-PCRによって決定することができる。定量的(リアルタイム)PCRの出現とともに、任意のRNA集団中に存在する転写物のコピー数は、関心対象の遺伝子に適切なプライマーを用いて正確に決定することができる。核酸は、標識することができ、遺伝子アレイ上にハイブリダイズすることができ、その場合、遺伝子濃度は、アレイ中に生成した放射性又は蛍光シグナル遺伝子の強度に正比例する。
【0218】
「ポリメラーゼ連鎖反応」(「PCR」)は、複製コピーが、「上流」及び「下流」プライマーからなる「プライマー対」又は「プライマーセット」、ならびに重合の触媒、例えばDNAポリメラーゼ、及び典型的には熱安定性ポリメラーゼ酵素を使用する標的ポリヌクレオチドで構成される反応である。PCRのための方法は当該技術分野で公知であり、例えば、「PCR」(Ed.M.J.McPhersonandS.GMoller(2000)BIOSScientificPublishersLtd,Oxford)で教示されている。PCRは、生物学的サンプルから単離されたmRNAを逆転写することから得られるcDNAに関して実施することができる。
【0219】
別の核酸増幅技術は、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)である。まず、相補的なDNA(cDNA)を、逆転写酵素を用いてRNAテンプレートから作製し、次いで結果として得られたcDNAに関してPCRを実施する。
【0220】
増幅の別の方法は、欧州特許出願公開第0320308号明細書で開示されているリガーゼ連鎖反応(「LCR」)である。
【0221】
Qβレプリカーゼも、本発明におけるさらに別の増幅方法として使用することができる。この方法では、標的に対して相補的な領域を有するRNAの複製配列をRNAポリメラーゼの存在下でサンプルに添加する。ポリメラーゼはその後検出することができる複製配列をコピーする。
【0222】
制限エンドヌクレアーゼ及びリガーゼを使用して、制限部位の1本の鎖中にヌクレオチド5’α-チオ-トリホスフェートを含む標的分子の増幅を達成する等温増幅方法も、本発明における核酸の増幅において有用であり得る。
【0223】
鎖置換増幅(SDA)は、複数ラウンドの鎖置換及び合成、すなわちニック翻訳を伴う核酸の等温増幅を実施する別の方法である。
【0224】
標 的特異的配列は、サイクリックプローブ反応(CPR)を用いて検出することもできる。CPRでは、非特異的DNAの3’及び5’配列ならびに特異的RNAの中間配列を有するプローブをサンプル中に存在するDNAにハイブリダイズさせる。ハイブリダイゼーションしたら、反応をRNaseHで処理し、プローブの産物は、消化後に放出される独特の産物として同定される。もとのテンプレートを別のサイクリングプローブにアニーリングし、反応を繰り返す。
【0225】
等温増幅技術の別の例はLAMP(DNAのループ媒介等温増幅)である。
【0226】
さらなる増幅方法は英国特許出願公開第2202328号明細書、及び国際出願PCT/US89/01025号明細書に記載され、本発明に従って使用することができる。
【0227】
他の核酸増幅手順は、核酸配列に基づく増幅(NASBA)及び3SR(国際公開第88/10315号パンフレット)をはじめとする転写に基づく増幅システム(TAS)を含む。
【0228】
ヌクレオチド配列の直接配列決定のための方法は当業者に周知であり、例えばAusubel et al, eds., Short Protocols in Molecular Biology, 3rd ed., Wiley, (1995)及びSambrook et al, Molecular Cloning, 2nd ed., Chap. 13, Cold Spring Harbor Laboratory Press, (1989)で見出すことができる。配列決定は、任意の好適な方法、例えば、ジデオキシ配列決定、化学的配列決定、次世代配列決定技術又はそれらの変形によって実施することができる。直接配列決定は、特定の配列の任意の塩基対における変化を決定するという利点を有する。
【0229】
ハイブリダイゼーションに基づく検出システムとしては、TaqManアッセイ及び分子ビーコンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。TaqManアッセイ(米国特許第5962233号明細書)は、一方の末端上にドナー色素を有し、他方の末端にアクセプター色素を有するので、色素対が蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)によって相互作用をする対立遺伝子特異的(ASO)プローブを使用する。
【0230】
C6orf106タンパク質活性
一実施形態において、本発明の化合物は、タンパク質の発現を減少もしくは増加させることによるか、又はタンパク質の活性を改変することによって、C6orf106タンパク質活性を調節することができる。そのような化合物は、当業者に公知の任意の方法によって、タンパク質に対して結合する能力についてスクリーニングすることができ、タンパク質の活性のレベルを調節することができる。そのような方法には、イムノアッセイが含まれ得る。
【0231】
化合物は、過剰量の他のポリペプチドの存在下でC6orf106と結合することができる。そのような特異性を達成するために必要なパラメータは、当該技術分野における慣習的方法を用いてルーチン的に決定することができる。好ましくは、結合剤は、バックグラウンドの少なくとも1倍、又は少なくとも2倍、又は少なくとも3倍、又は少なくとも4倍、又は少なくとも5倍、そしてさらに典型的にはバックグラウンドの10~100倍C6orf106と結合する。
【0232】
本明細書中で想定されるスクリーニングアッセイとしては、対象から単離された生物学的サンプル中のタンパク質を検出するための任意の公知アッセイ、例えば、SDS/PAGE、分画電気泳動、SDS/PAGE及び分画電気泳動を含む二次元ゲル電気泳動、イムノアッセイ、例えば、小分子(例えば、タンパク質の化合物、アゴニスト、アンタゴニスト、アロステリックモジュレータ、競合的阻害剤、又は非競合的阻害剤)などのタンパク質の抗体又は非抗体リガンドを用いた検出に基づくシステムが挙げられる。これらの実施形態によると、抗体又は小分子をタンパク質の検出に適した任意の標準的固相又は液相アッセイフォーマットで使用することができる。質量分析、MALDI-TOF、バイオセンサーテクノロジー、一過性ファイバー光学、又は蛍光共鳴エネルギー移動を使用する、例えば蛍光標識細胞分取(FACS)などの光学的又は蛍光検出は、明らかに本発明に含まれる。質量分析サンプルのハイスループットスクリーニング、特にハイスループット共鳴スペクトロスコピー法(例えば、MALDI-TOF、エレクトロスプレーMS又は非エレクトロスプレーMS)における使用に適したアッセイシステムも想定される。
【0233】
好適なイムノアッセイフォーマットとしては、イムノブロット、ウェスタンブロット、ドットブロット、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)及び酵素イムノアッセイが挙げられる。蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、アイソトープでコードされたアフィニティタグ(ICAT)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間(MALDI-TOF)、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、バイオセンサーテクノロジー、一過性ファイバー光学テクノロジー又はタンパク質チップテクノロジーを利用した改変イムノアッセイも有用である。
【0234】
一つの実施形態において、アッセイは半定量的アッセイ又は定量的アッセイである。
【0235】
標準的固相ELISAフォーマットは、様々なサンプル由来のタンパク質又は抗体の濃度を決定するのに特に有用である。
【0236】
そのようなELISAに基づくシステムは、例えば、既知量の標準に対して検出システムを校正することによるなど、サンプル中のタンパク質又は抗体の量の定量に特に好適である。
【0237】
別の形態では、ELISAは、固体マトリックス、例えば、膜、ポリスチレンもしくはポリカーボネートマイクロウェル、ポリスチレンもしくはポリカーボネートディップスティック又はガラス支持体上のC6orf106と特異的に結合する抗体を固定化することからなる。サンプルを次いで前記抗体と物理的に関係させ、サンプル中の抗原を結合又は「補足」させる。結合したタンパク質を次いで標識された抗体を用いて検出することができる。別法として、第2の(検出)抗体と結合する第3の標識された抗体を使用できる。
【0238】
インシリコスクリーニング
一実施形態において、そのような化合物は、当業者に公知の任意の方法によるコンピュータスクリーニングによって同定することができる。この種類の公知技術としては、SheridanandVenkataraghavan,(1987)、Goodford,(1984)、Beddell,(1985)、Hol,(1986)、VerlindeandHol,(1984)、Waltersetal.,(1998)、LangerandHoffmann,(2001)、Good,(2001)、GaneandDean,(2000)、Zhangetal.,(2015)、Cerqueiraetal.,(2015)、Kuenemannetal.,(2015)、Westermaieretal.,(2015)で提供されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0239】
化合物がC6orf106タンパク質と結合するためには、典型的には、好適なレベルの立体化学的相補性が必要である。一般に、立体化学的相補性を有する分子の設計は、分子と標的受容体との間の「適合」を化学的及び/又は幾何学的に最適化する技術によって達成することができる。本発明によりC6orf106タンパク質の立体化学を補完する分子を設計するために少なくとも2つのアプローチがある。
【0240】
第1のアプローチは、これに限定されないが、主に幾何学的基準を使用して、三次元構造データベースから分子をコンピュータにより受容体部位へ直接ドッキングさせて、特定の分子の前記部位に対する適合度を評価することである。このアプローチでは、内部自由度数(及び分子立体構造空間中の対応する極小値)は、2つの剛体の幾何的(剛体球)相互作用のみを考慮することによって減少し、この場合、一方の実体(活性部位)は、第2の実体(リガンドとして、補体分子)の結合部位を形成する「ポケット」又は「溝」を含む。
【0241】
このアプローチは、Kuntz et al.(1982)及びEwing et al.(2001)によって示され、彼らのリガンド設計のアルゴリズムは、カリフォルニア大学理事によって配布された商業的ソフトウェアパッケージ、DOCKバージョン4.0に実装され、販売業者によって提供される表題「OverviewoftheDOCKprogramsuite」の文書でさらに記載され、その内容を参照により本明細書中に援用される。Kuntzアルゴリズムによると、関心対象の領域の形状は、異なる半径を有する一連の重なり合う球として定義される。例えばケンブリッジ大学(UniversityChemicalLaboratory,LensfieldRoad,CambridgeCB21EW,U.K.)によって管理されているケンブリッジ構造データベースシステム、ResearchCollaboratoryforStructuralBioinformatics(ラトガース大学、米国ニュージャージー州)によって管理されているタンパク質データバンク、LeadQuest(TriposAssociates,Inc.、ミズーリ州セントルイス)、AvailableChemicalsDirectory(MolecularDesignLtd.,カリフォルニア州サンリアンドロ)、及びNCIデータベース(国立がん研究所、米国)などの結晶学データの1つ又はそれ以上の現存のデータベースを次いでこのように定義された形状を近似する分子について検索する。
【0242】
幾何的パラメータに基づいてこのようにして同定された分子を、次いで、化学的相補性、例えば水素結合、イオン相互作用ファンデルワールス相互作用に関連する基準を満たすように改変することができる。異なるスコアリング機能を用いて、データベースから最良の分子をランク付けし選択することができる(例えば、Bohm and Stahl, 1999を参照)。Tripos Associates, Inc.(ミズーリ州セントルイス)によって販売されているソフトウェアパッケージFlexXは、この直接ドッキングアプローチで使用できるもう1つのプログラムである(Rarey et al., 1996)。
【0243】
第2の好ましいアプローチは、各化学基(「プローブ」)と部位内及び周囲のサンプル位置での活性部位との相互作用の評価を伴い、その結果、エネルギー値のアレイが得られ、それから選択されたエネルギーレベルでの三次元カウンダー表面を生成させることができる。リガンド設計に対する化学プローブアプローチは、例えば、Goodford(1985)によって記載されいくつかの商業的ソフトウェアパッケージ、例えばGRID(Molecular Discovery Ltd., West Way House, Elms Parade, Oxford OX2 9LL, U.K.の製品)に実装されている。このアプローチにしたがって、異なる化学プローブ、例えば水、メチル基、アミン窒素、カルボキシル酸素、及びヒドロキシルで活性部位をプローブすることによって、部位補体分子にとっての化学的必須条件を最初に特定する。活性部位と各プローブとの間の相互作用について好ましい部位をこのように決定し、結果として得られたそのような部位の三次元パターンから、推定補体分子を生成させることができる。これは、三次元データベースを検索して所望のファルマコフォアパターンを組み入れる分子を特定することができるプログラムによるか、又は入力として好ましい部位及びプローブを用いて新しい設計を実施するプログラムによるかのいずれかで実施することができる。
【0244】
所望のファルマコフォアを有する分子を特定するために三次元データベースを検索するのに適したプログラムとしては:MACCS3DandISIS/3D(MolecularDesignLtd.,カリフォルニア州サンリアンドロ)、ChemDBS3D(ChemicalDesignLtd.,Oxford,U.K.)、及びSybyl/3DBUnity(TriposAssociates,Inc.、ミズーリ州セントルイス)が挙げられる。
【0245】
化学構造のデータベースは、ケンブリッジ結晶学データセンター(Cambridge, U.K.)、Molecular Design, Ltd.,(カリフォルニア州サンリアンドロ)、Tripos Associates, Inc. (ミズーリ州セントルイス)、及びChemical Abstracts Service (Columbus, OH)をはじめとする多くのソースから入手可能である。
【0246】
デノボデザインプログラムとしては、Ludi(Biosym Technologies Inc.,カリフォルニア州サンディエゴ)、Leapfrog(Tripos Associates, Inc.)、Aladdin(Daylight Chemical Information Systems,カリフォルニア州アーバイン)、及びLigBuilder(北京大学、中国)が挙げられる。
【0247】
模倣物、例えばペプチド模倣物及び有機模倣物を、例えば現行のコンピュータモデル化ソフトウェア(コンピュータ支援の薬物設計又はCADDを使用する)(Walters, 1993; Munson, 1995)を用いてペプチド結合部位をフィットさせるために設計することができる。また、そのような技術を用いて調製した模倣物も本開示の範囲内に含まれる。一例では、SOCS-3のペプチド又は領域を模倣する。
【0248】
模倣物は、いくつかのペプチド構造から仮想のペプチドモデルを誘導できるソフトウェアを用いて生成することができる。これは、SLATEアルゴリズム(Perkin et al.(1995)、Mills et al. (2001)、De Esch et al.(2001)、Mills et al.(1997))からのソフトウェアを用いて実施できる。
【0249】
ペプチドアナログ、誘導体及び模倣物を設計する他のアプローチも当該技術分野で周知であり、例えば、Farmer(1980)、Ball and Alewood(1990)、Morgan and Gainor(1989)、Freidinger(1989)、Sawyer(1995)、Smith et al.(1995)、Smith et al. (1994)及びHirschman et al.(1993)を参照。
【0250】
必要ならば、有望な薬物(アゴニスト又はアンタゴニスト)を合成することができるか、又は商業的供給業者などの好適なソースから入手することができる。それを次いで任意の標準的結合アッセイに配置してC6orf106タンパク質に結合する能力に対するその効果を試験する、及び/又は標準的アッセイに配置して、C6orf106タンパク質の生物学的活性を調節する能力もしくはウイルス感染を調節する能力を判定することができる。
【0251】
本明細書中で記載する薬物スクリーニングアッセイのすべてについて、薬物の構造に対するさらなる精製が概して必要であり、特定の薬物スクリーニングアッセイによって提供されるステップのいずれか及び/又はすべての連続的反復によって行うことができる。
エ 「対象においてC6orf106タンパク質のレベルおよび/またはC6orf106タンパク質活性のレベルを増加させる化合物」に関する実施例
【0274】
実施例5 C6orf106過剰発現はポリ(I:C)に応答してインターフェロンα/β転写及び分泌を阻害する。
ポリ(I:C)誘導IFNシグナル伝達の負の制御因子としてのC6orf106の潜在的な役割を確認するために、HeLa細胞をC6orf106発現ベクター(pCAGGs-C6-フラグ;配列番号40)、ならびに非特異的GFP過剰発現対照でトランスフェクトした。トランスフェクションの18時間後に、細胞をポリ(I:C)で6時間刺激し、そして抽出されたRNAを前述のようにインターフェロン及び炎症性サイトカインについて分析した。GFP又はベクター単独(pCAGG)はポリ(I:C)に応答してサイトカイン転写を損なわなかった(図4Aに示すとおり)が、C6orf106過剰発現の結果、IFN-α、IFN-β及びTNF-α転写が有意に減少した。IL-6転写物の誘導は、C6orf106による影響を受けなかった。さらに、組織培養上清をELISAによりIFN-βの分泌について評価すると、C6orf106を過剰発現する細胞においてIFN-β濃度の有意な減少が観察された。IFN-βmRNA及びタンパク質レベルの相対的減少が類似しているとすると、これは分泌経路におけるブロックとは対照的に、減少したmRNA/タンパク質発現に対するC6による減少に起因する。興味深いことに、下流IFN及び/又はTNF-αシグナル伝達は、それぞれIFN-α又はTNF-α処理に応答して未変化のISG15又はIκBαによって示されるように、C6orf106の発現によって重大な影響を受けなかった(図9B)。
【0275】
C6orf106発現の個々の転写因子の活性に対する影響を、IRF3及び/又はNF-κB結合部位を含むルシフェラーゼベクターを用いて評価した。細胞内ポリ(I:C)に応答して、C6orf106過剰発現の結果、GFPでトランスフェクトされた細胞と比較してISRE-ルシフェラーゼ活性が約75%減少した(図5C)。NF-κB-ルシフェラーゼの中程度の減少も観察された。
2 明確性要件について
(1)本願発明は、その有効成分である「対象においてC6orf106タンパク質のレベルおよび/またはC6orf106タンパク質活性のレベルを増加させる化合物」を、単にその機能・特性のみにより特定しようとするものである。
本願明細書をみると、【0015】に、「C6orf106タンパク質活性を増加又は低下させる化合物の例としては、ポリヌクレオチド、ポリペプチド又は小分子が挙げられるが、これらに限定されるものではない。」と記載されるとおり、多種多様の化学構造の化合物が包含されるにもかかわらず、実際に、「対象においてC6orf106タンパク質のレベルおよび/またはC6orf106タンパク質活性のレベルを増加させる化合物」として記載されているのは、C6orf106を過剰発現させるC6orf106発現ベクター(上記記載事項エの実施例5)のみであり、それ以外の具体的な化合物は何ら記載されていない。
そして、物の有する機能・特性等からその物の構造の予測が困難な技術分野においては、一般に、所望の機能・特性を規定することのみで、その機能・特性を有するために必要な化学構造等を有する具体的な化合物自体を把握することが困難であることは本願出願時の技術常識である。
かかる技術常識を考慮すると、「対象においてC6orf106タンパク質のレベルおよび/またはC6orf106タンパク質活性のレベルを増加させる」ために必要な化学構造等が何ら規定されていない本願発明の記載は、技術的に十分に特定されていないことが明らかであるから、発明の詳細な説明の記載を考慮しても、本願発明の記載から、特許を受けようとする発明を明確に把握することはできない。
したがって、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。
(2)審判請求人は、令和5年7月10日提出の意見書において、本願明細書には、C6orf106活性を増加させる化合物が、対象において免疫応答を調節できることについて明らかにされており、そしてかかる化合物について具体的な特定はないものの、C6orf106タンパク質活性レベルを増加させる化合物自体は、本願明細書に記載のスクリーニング方法を用いれば、容易に特定が可能であるから、どのような化合物であれば、C6orf106活性を増加可能であるか明細書中に十分に説明されており、本願発明は明確である旨主張する。
しかしながら、本願明細書についてみると、化合物の同定方法について一般的な記載がなされるにとどまり(上記記載事項ウ)、C6orf106発現ベクター以外の「対象においてC6orf106タンパク質のレベルおよび/またはC6orf106タンパク質活性のレベルを増加させる化合物」の具体例も、また、そのような化合物を得るための化学構造等の手がかりも記載されておらず、かつ、それが出願時に当業者に推認できたものとも認められない。
したがって、本願発明の「対象においてC6orf106タンパク質のレベルおよび/またはC6orf106タンパク質活性のレベルを増加させる化合物」には、C6orf106発現ベクター以外に具体的にどのような化合物が含まれるのかが明確に把握できないから、第三者に不測の不利益をもたらしうる程度に本願発明は不明確である。
よって、審判請求人の主張は採用できない。
3 実施可能要件について
(1)本願発明に記載された「対象においてC6orf106タンパク質のレベルおよび/またはC6orf106タンパク質活性のレベルを増加させる化合物」について、本願明細書には、「C6orf106タンパク質活性を増加又は低下させる化合物の例としては、ポリヌクレオチド、ポリペプチド又は小分子が挙げられるが、これらに限定されるものではない。」(上記記載事項イの【0015】)と記載されることからみて、化学構造が異なる様々な化合物が含まれるものと認められる。
本願明細書において、実際に、「対象においてC6orf106タンパク質のレベルおよび/またはC6orf106タンパク質活性のレベルを増加させる」ことを確認した化合物は、C6orf106を過剰発現させるC6orf106発現ベクターのみであることから(上記記載事項エの実施例5)、C6orf106発現ベクターについては、「対象においてC6orf106タンパク質のレベルおよび/またはC6orf106タンパク質活性のレベルを増加させる化合物」であると認められる。
しかしながら、それ以外の化合物については化学構造も製造法も記載されておらず、かつ、化学構造等を推認する手がかりもない。
このような発明の詳細な説明の記載及び上記2(1)で説示した出願時の技術常識を考慮すると、C6orf106発現ベクター以外の「対象においてC6orf106タンパク質のレベルおよび/またはC6orf106タンパク質活性のレベルを増加させる化合物」が具体的にどのようなものであるかを理解することができないから、本願発明の実施にあたり、無数の化合物を製造、スクリーニングして確認するという当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を行う必要があると認められる。
したがって、発明の詳細な説明は、本願発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
よって、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。
(2)審判請求人は、令和5年7月10日提出の意見書において、C6orf106タンパク質活性のレベルを増加させる化合物自体は、本明細書に記載のスクリーニング方法を参照すれば同定できるものであるから、本願発明において使用できる様々なタイプの化合物がC6orf106タンパク質のレベル又はタンパク質活性のレベルを調節する上で選択することができることは理解できる旨主張する。
しかしながら、本願明細書についてみると、化合物の同定方法について一般的な記載がなされるにとどまり(上記記載事項ウ)、C6orf106発現ベクター以外の「対象においてC6orf106タンパク質のレベルおよび/またはC6orf106タンパク質活性のレベルを増加させる化合物」の具体例も、また、そのような化合物を得るための化学構造等の手がかりも記載されておらず、かつ、それが出願時に当業者に推認できたものとも認められない。
よって、上記(1)で説示したように、本願発明に含まれる「対象においてC6orf106タンパク質のレベルおよび/またはC6orf106タンパク質活性のレベルを増加させる化合物」を当業者が理解できず、発明の実施にあたり、無数の化合物を製造、スクリーニングして確認するという当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を求めるものである。
よって、審判請求人の主張は採用できない。
第5 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載が同条4項1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-014724