特許拒絶査定不服審判
2021-012911
無カプシドAAVベクター、組成物ならびにベクター製造および遺伝子運搬のための方法
- 審判番号
- 2021-012911
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-137797
- 請求日
- 2021年09月27日
- 審決日
- 2023年04月10日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】アソシアシオン・アンスティテュ・ドゥ・ミオロジー
- 【請求人代理人】弁理士法人川口國際特許事務所
- 【請求人】ソルボンヌ ウニベルシテ
- 【請求人代理人】弁理士法人川口國際特許事務所
- 【請求人】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
- 【請求人代理人】弁理士法人川口國際特許事務所
- 【請求人】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
- 【請求人代理人】弁理士法人川口國際特許事務所
- 【請求人】ユー・エス・デパートメント・オブ・ヘルス・アンド・ヒユーマン・サービシズ・ナシヨナル・インステイテユート・オブ・ヘルス
- 【請求人代理人】弁理士法人川口國際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 岡崎 美穂
- 審判官 冨永 みどり
- 審判官 馬場 亮人
- 分類
- P18 .113-Z (A61K) / P18 .121-Z (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第44条第1項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-137797「無カプシドAAVベクター、組成物ならびにベクター製造および遺伝子運搬のための方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 1月16日出願公開、特開2020- 7312〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成24年3月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年3月11日 米国(US)、2011年3月12日 欧州特許庁(EP))を国際出願日とする特願2013-557138号の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成29年5月10日に新たな特許出願とした特願2017-93751号の一部を、さらに特許法第44条第1項の規定により令和1年7月26日に新たな特許出願としたものである。
以降の主な手続の経緯は次のとおりである。
令和1年 8月26日受付 手続補正書
令和2年 6月16日付け 拒絶理由通知
令和2年12月22日受付 意見書
令和3年 5月19日付け 拒絶査定
令和3年 9月27日受付 審判請求書
令和3年12月 1日受付 手続補正書(方式)
第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、令和1年8月26日受付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリペプチドの発現の低減もしくは停止によるまたはポリペプチドの非機能的もしくは機能不良類似体の発現による症状を現す遺伝的欠損に関わる疾患の治療のための医薬組成物であって、
該医薬組成物は、単離された線状核酸分子を含み、
該線状核酸分子は、第1アデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向反復(ITR)、関心のあるヌクレオチド配列および第2 AAV ITRからなり、
第1アデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向反復(ITR)、関心のあるヌクレオチド配列および第2 AAV ITRをこの順序で含み、AAVカプシドタンパク質コード配列を欠く、線状核酸分子であり、
関心のあるヌクレオチド配列は、外因性DNAを含む発現カセットであり、外因性DNAは、タンパク質、ポリペプチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、RNA又は鋳型ヌクレオチド配列をコードし、外因性DNAが、遺伝的欠損をスキップ、矯正、サイレンシングまたは遮蔽することで疾患に付随する症状の改善をもたらす、
医薬組成物。」
第3 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1~5に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下、「本願優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、また、この出願の請求項1~5に係る発明は、本願優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないない、というものである。
引用文献1 特表2008-503590号公報
第4 引用文献の記載事項及び引用発明
1.引用文献1
(1)原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された、本願優先日前に頒布された特表2008-503590号公報には、次の事項が記載されている(なお、下線部は当審で付した。以下同様。)。
ア「【請求項51】
蛋白質不在下で引き起こされる神経疾患を治療する方法であって、当該方法は、
患者の脳に供給する血管内に配置された遠位エンドを有する神経血管カテーテルを用意し;そして
生物学上活性な因子をコードするDNAを含む人工アデノ随伴ウイウス(AAV)ベクター;及び
血液-脳バリヤーを通して少なくともDNAをデリバリーするための成分
を含む組成物をカテーテルにデリバリーすること
を含む方法。」
「【請求項76】
人工アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、5-プライムから3-プライムの方向に向かって:
5プライムAAV-ITR;
生物学上活性な因子をコードする単鎖DNA;
内部AAV-ITR;
生物学上活性な因子をコードする単鎖DNAの逆相補体;及び
3プライムAAV-ITR
を含むベクター。」
「【請求項86】
人工アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを作成するための方法であって、
5-プライムから3-プライム方向に向かって、5-プライムAAVインバーテッドターミナルリピート(AAV-ITR)、生物学上活性な因子をコードするDNA、及び3-プライムAAV-ITRをDNAプラスミド中にDNAクローニング方法により集合させ;
インビトロ転写方法を用いてDNAプラスミドから単鎖DNAの単鎖RNA転写物を生成させ;
逆転写反応方法を用いて逆転写によりRNA転写物から単鎖DNAを生成させ;
RNase酵素を用いたRNAの消化により反応産物からRNA転写物を取り出すこと
を含む方法。」
「【請求項87】
ゲル精製、カラム親和法、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるDNA精製方法により反応産物から単鎖DNA産物を精製することをさらに含む、請求項86記載の方法。」
イ「【0022】
遺伝子又は遺伝子抑圧因子を患者の脳へデリバリーするための人工AAVベクターの使用は、プラスミドDNAをデリバリーすること、又は実際のAAVウイルス粒子をデリバリーすることを超えた多数の利点を有し得る。プラスミドDNAよりも、AAVベクターのDNAを脳へデリバリーする一つの可能な利点は、霊長類の脳内でのAAVによりデリバリーされた遺伝子構築物の発現が少なくとも3から4年は継続することが知られていることであり、一方、プラスミドからの遺伝子構築物の発現は一時的である。AAVウイルス粒子のデリバリーを超えた合成AAVベクターのDNAをデリバリーする利点は、いくつかあり得る。第1に、まさにDNAのデリバリーはAAVウイルスキャプシッドの患者脳へのデリバリーを回避できる。AAVウイルスキャプシッド蛋白質が免疫応答をおそらくは誘導するから、ウイルス粒子をデリバリーする必要が無しで済むということが、治療に対する逆免疫反応の危険のほとんどを回避することができる。さらに、DNAのデリバリーは、AAVキャプシッドを作成してDNAをウイルスキャプシッドにパッケージするための操作されて且つ培養された細胞の使用を必要とする難しい製造工程である、完全なAAV粒子を生産する必要性を回避できる。最後に、AAV粒子よりもDNAをデリバリーすることは、約4,700塩基のDNAという、AAVキャプシッド内にパッケージできるDNAの長さに対する自然の制限を回避できる。このサイズの制限は遺伝子抑圧のための構築物のデリバリーに関する問題ではないが(例えば、小干渉RNAをコードするDNA)、欠落した遺伝子の配列が4,700塩基を超えるなら、それは欠落した遺伝子のデリバリーの制限になり得て、AAVの遺伝子治療のためのベクターとしての使用に関する制限として注目された。」
ウ「【0049】
簡単に言えば、本発明において開示されて使用された組成物は、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター(単鎖また二重鎖ベクター;好ましくは単鎖ベクター)であって、生物学上活性な因子をコードするDNA;及び血液-脳バリヤーを通して少なくともDNAをデリバリーする成分(例えば、本明細書にて記載された受容体-特異的リポソーム)を含む。いくつかの態様において、人工AAVベクターは、5プライムから3プライム方向に、5プライムAAVインバーテッドターミナルリピート(AAV-ITR);生物学上活性な因子をコードするDNA;及び3プライムAAV-ITRを含む。別の態様において、人工AAVベクターは、5プライムから3プライム方向に、5プライムAAV-ITR;内部AAV-ITR;生物学上活性な因子をコードする単鎖DNAの逆相補鎖;及び3プライムAAV-ITRを含む。また別の態様において、人工AAVベクターは、各鎖の5プライム及び3プライムエンドにAAV-ITRを有する直鎖状二重鎖DNAを含む。好ましくは、人工AAVベクターは、キャプシッドをコードするためのコーディング配列を含まず、即ち、好ましいベクターはウイルスキャプシッド構造内に封入されない。人工AAVベクターを作成する方法も開示される。
【0050】
DNAが小干渉RNAをコードする態様に関して、上記組成物は、とりわけ、病原性蛋白質により誘導される様々な神経変性障害を治療するのに有用であり得る。DNAが蛋白質をコードする態様に関して、上記組成物は、とりわけ、蛋白質の不在により誘導される様々な神経変性障害を治療するのに有用であり得る。」
エ「【0078】
・・・
蛋白質の不在下で誘導される神経性疾患
代謝の先天的エラーとして知られる稀な遺伝的障害は、からだが食物をエネルギーに変換する(即ち、食物を代謝する)ことが不可能になる。当該障害は、通常、食物の成分を分解する生化学経路に関与する酵素の欠陥により引き起こされる。さらに、リソソーム蓄積症(LSD)は、リソソームの酵素の何れかの機能発現の欠陥により特徴付けされる遺伝的疾患を意味する。
【0079】
そのような疾患は、遺伝子治療により治療されるかもしれない。特に、欠陥のある遺伝子又は失われた遺伝子は当業者には知られている方法により同定されるかもしれず、のちに、置換遺伝子を用意して失われた部位へ供給されるかもしれない。
【0080】
欠陥のある酵素をコードする例示のポリヌクレオチド、及び欠陥酵素に付随する疾患を表2に掲載する。
・・・
【0091】
表2に掲載された欠陥酵素をコードするポリヌクレオチドは、本発明の人工AAVベクターに含まれ得るポリヌクレオチドの例である。しかしながら、表2に掲載されたポリヌクレオチドに限定されることを意図しないものであり、当業者は、蛋白質の不在により誘導される追加の疾患を同定し、そして欠陥酵素をコードする追加のポリヌクレオチドを同定することができる。」
オ「【0092】
・・・
人工AAVベクター
人工AAVベクターは、生物学上活性な因子をコードするDNAを含み、そして遺伝子又は遺伝子抑圧剤を患者のニューロンにデリバリーするのに使用することができる。即ち、人工AAVベクターは遺伝子をデリバリーするためのカセット、又は遺伝子抑圧剤をデリバリーするためのカセットを含むのが好ましい。例えば、失われた遺伝子を患者の脳に供給するために意図された遺伝子治療の場合、発現カセットは、プロモーター要素、失われた遺伝子をコードする配列、及びポリアデニル化シグナル配列を含むことができる。別の例において、患者の脳内で内生遺伝子の発現を抑圧することを意図された遺伝子抑圧する治療の場合、発現カセットは、プロモーター要素、小干渉RNA(siRNA)をコードする配列、及び終結配列を含むことができる。
・・・
【0094】
別の態様において、人工AAVベクターは、何れかの種類の発現カセットを含んでよく、単鎖ベクターである。単鎖ベクターは、アデノ随伴ウイルスゲノムからのインバーテッドターミナルリピート(AAV-ITR)の5プライムコピー、続く遺伝子又は遺伝子抑圧剤に関する発現カセット(その同一性は治療される神経障害しだいである)、続くAAV-ITRの3プライムコピーによる3プライムエンドを含む単鎖DNAセグメントを含む。任意に及び好ましくは、何れかの種類の発現カセットを含む全DNA配列は逆相補の順序で繰り返され、それにより、DNA配列が5プライムAAV-I、発現カセット、内部AAV-ITR、発現カセットの逆相補体、及び3プライムAAV-ITRを含む。3プライムAAV-ITRは5プライムAAV-ITRの逆相補体であり(例えば、本明細書中の実施例1に例示されるとおり)、そして3プライム又は5プライムの何れかのAAV-Iを内部AAV-ITRとして用いることができる。結果の「自己相補性」人工AAVベクターが好ましいが、なぜならば、それがDNAによりニューロンのより有効なトランスフェクションを生じさせるかもしれないからである。例えば、Fuetal.,MolecularTherapy8:911-917(2003)を参照。
【0095】
当業者には、二重鎖の人工AAVベクターの態様と単鎖自己相補性人工AAVベクターの態様が、単鎖自己相補ベクターが発現カセットの相補鎖をつなぐ単一の単鎖AAV-ITRを有する(一方の鎖の3プライムエンドを相補鎖の5プライムエンドに共有結合させる-図2に模式的に示される)ために完全な人工AAVベクターが、発現カセットの相補鎖間で水素結合によりそれ自身の上に「フォールドバック」した一つの単DNA鎖である、ということのみにおいて相違することを認識する。二重鎖人工AAVベクターの場合には、各エンドにおいて鎖をつなぐ非共有結合により発現カセットの5プライムエンドと3プライムエンドにおいて二重鎖のAAV-ITRsが存在する(図3に模式的に例示されるとおり)。
・・・
【0097】
上で本明細書に記載された単鎖DNAを製造する例示の方法も開示される。一つの方法は、5-プライムAAV-ITR、発現カセット、及び3-プライムAAV-ITRをあらゆる適当なDNAプラスミド中に標準DNAクローニング方法を用いて集合させ;標準インビトロ転写方法を用いてDNAプラスミドから所望の単鎖DNAの単鎖RNA転写物を生成させ;標準逆転写反応方法を用いて逆転写によりRNA転写物から単鎖DNAを生成させ;RNase酵素を用いたRNA消化により反応産物からRNA転写物を取り出し;そして標準DNA精製方法、例えばゲル精製又はカラム親和法により反応産物から結果の単鎖DNA産物を精製する工程を含む。」
カ「【0173】
・・・
実施例7
以下の実施例は本発明の一つの態様により二重鎖人工AAVベクターを製造するための例示の方法である。この実施例においては、本明細書に開示された実施例5の工程1から工程5の方法に従い、プラスミドpAAV-抗BACE1-GFPを構築した。結果のプラスミドは、2つのPvuII制限部位の間に所望のDNAセグメント含む。特に、プラスミドは、5-プライムから3-プライムに向かって、PvuII部位、AAVヘアピン配列、U6転写終結配列、ポリアデニル化シグナル配列の逆相補体、GFP蛋白質コードの逆相補体、CMVプロモーターの逆相補体、AAVインバーテッドターミナルリピート配列及びPvuII部位をコードするDNA配列を含む。即ち、それは、5-プライムから3-プライムの方向に、抗-BACE1 siRNAの発現カセット、及びリポーター遺伝子GFPの発現カセットを逆の方向に含む(図5参照)。
【0174】
プラスミドpAAV-抗BACE1-GFP中のAAVITRsを周囲に有する発現カセットを単離するために、75μgのプラスミドを制限酵素PvuIIとScaIにより、当業者によく知られた方法を用いて消化した。ScaIは当該プラスミドバックボーンを2つの類似の断片に消化して、プラスミドバックボーンと所望の挿入物の間にさらなる識別を可能にさせた。直鎖状断片をキアゲンのキアゲンIIゲル精製キットを用いてゲル精製した。直鎖状断片のパーセント回収及び質を260nmと280nmの吸収を測定することにより分光測光法により測定した。この定量を通して、出発製品(product)の60%が回収されて精製された直鎖状断片が十分な質であった(A260/A280=1.9)ことが確定された。
【0175】
AAV ITRsが二次構造をとることを許容するため、4.5μgの直鎖状断片(90ng/μl)を65℃に10分間加熱することにより温度処理し、そして最短で10分かけて室温にゆっくりと冷却した。次のインビトロ実験における使用のための対照として、未処理の直鎖状断片を室温に10分間そのままにして加熱された断片を冷却した。未処理の直鎖状断片及び処理された(加熱されて冷却された)断片の予測されるコンフォメーションをそれぞれ図3と図4に示す。室温におけるインキュベーションの直後に、これらの人工AAVベクターを一時的にHEK293にトランスフェクトした。
【0176】
トランスフェクション実験の目的は、人工AAVベクターをトランスフェクトされた細胞内でのEGFP発現の長命性(longevity)を、EGFP発現カセット(pTRACER-CMA2,インビトロジェンコーポレーション、カールスバッド、CA、により入手可能)を含む環状プラスミドをトランスフェクトされた細胞内のEGFP発現の長命性と比較することであった。この実験は、本発明の人工AAVベクターで処理された細胞内でのEGFP発現が環状プラスミドpTRACER-CMV2で処理された細胞内でのEGFP発現よりも長く続いき得たか否かを観察するためにデザインされた。
方法:HEK293細胞のトランスフェクション:
HEK293T(ATCC#CRL11268)を、4.5g/Lのグルコースを含み、そして10%FBS及びペニシリンとストレプトマイシンを追加されたDMEM中で培養した。HEK293T細胞のトランスフェクションの前日に6ウエル組織培養プレートに5x105細胞/ウエルの密度にて接種した。この接種密度は、トランスフェクションの日に約80%コンフルエントのウエルを生じた。
【0177】
HEK293T細胞にTransit TKO(ミルス)をトランスフェクトし、製造者の推奨に従った。簡単に言えば、6μLのTransit-TKOを200μLのOpti-Mem還元血清培地に5mLポリスチレンチューブ中で加えた、ボルテックス混合した。希釈されたトランスフェクション試薬を室温において15分間インキュベーションした。1マイクログラムの適切なDNAを各チューブに加え、DNAを穏やかに混合して室温において20分間インキュベーションした。サンプルは:(1)偽トランスフェクトされた(H2O);(2)pTRACERプラスミド(1μg);(3)人工AAVベクター(1μg);及び(4)温度処理された(例えば、加熱されて冷却された)人工AAVベクター(1μg)を含んだ。インキュベーション後に、細胞上の培地を除去し、そして2mLの正常な生育培地(DMEM,高グルコース、10%FBS,ペニシリン/ストレプトマイシン)に置き換えた。DNA複合体をゆっくりと細胞に滴下により加え、穏やかな振動により混合した。トランスフェクトされた細胞を37℃において5%CO2を含む湿潤加湿器中でインキュベートした。EGFP発現後に、トランスフェクトされた細胞の写真を2-4日ごとにトランスフェクションの30日後まで撮った。全ウエルを表すエリアを写真に撮った。写真を撮った日に、全てのトランスフェクト細胞上の培地を新鮮な正常生育培地に置き換えた。
【0178】
トランスフェクトされた細胞中のEGFP発現の比較を可能にするため、デジタル写真の全てを同じパラメーターで撮った。イメージの分析は、人工AAVベクターからのEGFP発現の持続を明らかにした。さらに、加熱して冷却した人工AAVベクターは、細胞をトランスフェクトしてEGFP発現を持続することに関して、実質上はいっそう有効であった。これは、図6に示すとおりトランスフェクションの6日及び23日後に回収されたイメージにて明らかである。
【0179】
図6において観察され得るとおり、95%を超えるプラスミド由来のEGFP発現がトランスフェクションの12日後に消失した。最後の温度処理工程(例えば、加熱及び冷却)なしに生産された人工AAVベクターはほんの僅かな細胞においてのみEGFP発現を生じた;しかしながら、EGFP発現はそれらの細胞中で持続した。観察された持続は、トランスフェクトされた細胞の少数においてAAV-ITRsの二次構造の形成、続いて二次構造が上記細胞中でITRsを達成したためにEGFPの発現が持続する指標として解釈され得る。温度処理工程(例えば、加熱及び冷却)を含む開示方法に従い製造された人工AAVベクターは、トランスフェクションの27日後に連続するEGFP発現をもたらした。連続する発現は温度処理工程(例えば、加熱及び冷却)によるAAV-ITRsの二次構造の形成の指標として解釈でき、EGFPの持続する発現に資するこれらの構造が人工AAVベクターによりトランスフェクトされた実質上全ての細胞に存在した。
【0180】
実験はトランスフェクションの27日後に終了したが、顕著な細胞の損失がこの時間点の後に起こり始めたからであった。温度処理された人工AAVベクターからの発現を上記プラスミドからの発現と比較すると、発現の持続における100%を超える増加(日数)が人工AAVベクターから得られた。
【0181】
この実施例は、顕著で安定な発現が主題の発明の態様である人工AAVベクターから得られて、開示された方法に従い生産できることを例示する。この人工AAVベクターからの発現は、環状プラスミドからの発現よりも長く持続すると観察された。」
(2)上記1.アの【請求項51】の「人工アデノ随伴ウイウス(AAV)ベクター」は「人工アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター」の誤記と認められる。
また、上記1.アには、蛋白質不在下で引き起こされる神経疾患を治療する方法に使用される、生物学上活性な因子をコードするDNAを含む人工アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含む組成物が記載されており、換言すれば、蛋白質不在下で引き起こされる神経疾患の治療のための医薬組成物であって、生物学上活性な因子をコードするDNAを含む人工アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含む医薬組成物が記載されているといえる。
また、上記1.エから、蛋白質不在下で引き起こされる神経疾患である遺伝的障害において欠陥のある酵素をコードするポリヌクレオチドが人工AAVベクターに含まれ得ることが理解され、当該ポリヌクレオチドは、上記1.アの【請求項86】及びウの【0049】における「生物学上活性な因子をコードするDNA」に相当するものと認められる。
(3)そうすると、上記1.ア~カより、引用文献1には、次の発明が記載されているといえる(以下「引用発明」という。)。
「蛋白質不在下で引き起こされる神経疾患である遺伝的障害の治療のための医薬組成物であって、
生物学上活性な因子をコードするDNAを含む人工アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含み、
前記人工アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、5-プライムから3-プライム方向に、5-プライムAAVインバーテッドターミナルリピート(AAV-ITR);生物学上活性な因子をコードするDNA;及び3-プライムAAV-ITRを含み、
前記人工アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、5-プライムから3-プライム方向に向かって、5-プライムAAVインバーテッドターミナルリピート(AAV-ITR)、生物学上活性な因子をコードするDNA、及び3-プライムAAV-ITRをDNAプラスミド中にDNAクローニング方法により集合させ;
インビトロ転写方法を用いてDNAプラスミドから単鎖DNAの単鎖RNA転写物を生成させ;
逆転写反応方法を用いて逆転写によりRNA転写物から単鎖DNAを生成させ;
RNase酵素を用いたRNAの消化により反応産物からRNA転写物を取り出し、単鎖DNAを精製することによって得られ、
前記人工アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、キャプシッドをコードするためのコーディング配列を含まず、ウイルスキャプシッド構造内に封入されず、
前記生物学上活性な因子をコードするDNAは、前記遺伝的障害において欠陥のある酵素をコードするポリヌクレオチドに対応したものである、医薬組成物。」
第5 対比
1.本願発明と引用発明とを対比する。
本願発明と引用発明を対比すると、次のことがいえる。
・引用発明の「蛋白質不在下で引き起こされる神経疾患である遺伝的障害の治療のための医薬組成物」は、本願発明の「ポリペプチドの発現の低減もしくは停止によるまたはポリペプチドの非機能的もしくは機能不良類似体の発現による症状を現す遺伝的欠損に関わる疾患の治療のための医薬組成物」に相当する。
・引用発明の「人工アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター」は、DNAプラスミドからインビトロ転写方法及び逆転写反応方法を経て精製された単鎖DNAの形で得られたものであるから、本願発明の「単離された線状核酸分子」に相当する。
・引用発明の「生物学上活性な因子をコードするDNA」は、患者に外因的にデリバリーされるものであるから、本願発明の「外因性DNA」に相当する。
・引用発明の「人工アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター」は、「5プライムから3プライム方向に、5プライムAAVインバーテッドターミナルリピート(AAV-ITR);生物学上活性な因子をコードするDNA;及び3プライムAAV-ITRを含」むものであり、これは本願発明の「該線状核酸分子は、第1アデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向反復(ITR)、関心のあるヌクレオチド配列および第2 AAV ITRからなり、
第1アデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向反復(ITR)、関心のあるヌクレオチド配列および第2 AAV ITRをこの順序で含」むことに相当する。
・引用発明の「人工アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター」は、「キャプシッドをコードするためのコーディング配列を含まず、ウイルスキャプシッド構造内に封入されない」ものであり、これは本願発明の「線状核酸分子は」、「AAVカプシドタンパク質コード配列を欠く」に相当する。
・引用発明の「生物学上活性な因子をコードするDNAは、前記遺伝的障害において欠陥のある酵素をコードするポリヌクレオチドである」は、本願発明の「外因性DNAは、タンパク質、ポリペプチド・・・をコードし」に相当する。
2.以上のことから、本願発明と引用発明とは、
「ポリペプチドの発現の低減もしくは停止によるまたはポリペプチドの非機能的もしくは機能不良類似体の発現による症状を現す遺伝的欠損に関わる疾患の治療のための医薬組成物であって、
該医薬組成物は、単離された線状核酸分子を含み、
該線状核酸分子は、第1アデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向反復(ITR)、関心のあるヌクレオチド配列および第2 AAV ITRからなり、
第1アデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向反復(ITR)、関心のあるヌクレオチド配列および第2 AAV ITRをこの順序で含み、AAVカプシドタンパク質コード配列を欠く、線状核酸分子であり、
外因性DNAは、タンパク質、ポリペプチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、RNA又は鋳型ヌクレオチド配列をコードする、医薬組成物。」
の点で一致し、次の点で一応相違する。
(相違点1)
本願発明は、「外因性DNAが、遺伝的欠損をスキップ、矯正、サイレンシングまたは遮蔽することで疾患に付随する症状の改善をもたらす」ものであるのに対して、引用発明は、「遺伝的障害において欠陥のある酵素をコードするポリヌクレオチドに対応したもの」である点
(相違点2)
本願発明は、「関心のあるヌクレオチド配列は、外因性DNAを含む発現カセット」であるのに対して、引用発明はそのような特定がない点
第6 判断
1.上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
本願明細書【0002】には、「遺伝子治療は、疾患の発生の根底にある欠損遺伝子を矯正することを目的とする。この問題に対処する一般的アプローチは核への正常遺伝子の運搬を含む。ついで、この遺伝子は標的化細胞のゲノム内に挿入されることが可能であり、あるいはエピソームのままでありうる。」(下線は強調のために当審で付加した。)と記載されている。したがって、本願発明における「矯正」とは、正常遺伝子の核への運搬を含むものと認められる。
一方、引用発明において「遺伝的障害において欠陥のある酵素をコードするポリヌクレオチド」である「生物学上活性な因子をコードするDNA」を含むAAVベクターは、「遺伝的障害の治療」に用いられるものである。
ここで、上記1.エの【0078】の
「蛋白質の不在下で誘導される神経性疾患
代謝の先天的エラーとして知られる稀な遺伝的障害は、からだが食物をエネルギーに変換する(即ち、食物を代謝する)ことが不可能になる。当該障害は、通常、食物の成分を分解する生化学経路に関与する酵素の欠陥により引き起こされる。さらに、リソソーム蓄積症(LSD)は、リソソームの酵素の何れかの機能発現の欠陥により特徴付けされる遺伝的疾患を意味する。」
の記載からみて、上記「遺伝的障害において欠陥のある酵素をコードするポリヌクレオチドに対応するものである」の記載は、患者において欠陥のある酵素に対応する生物学上活性な欠陥のない酵素をコードする、正常型のポリヌクレオチドを意味すると認められる。
そして、引用発明の「遺伝的障害の治療」とは、AAVベクターが患者の細胞の核内に送達することで欠陥のない酵素を発現させ、欠陥のある酵素を補うことで治療すること、すなわち、酵素の欠陥を「矯正」することであると認められるから、引用発明の「遺伝的障害において欠陥のある酵素をコードするポリヌクレオチド」である「生物学上活性な因子をコードするDNA」は、本願発明にいう「遺伝的欠損を・・・矯正・・・することで疾患または障害に付随する症状の改善をもたらす」「外因性DNA」に該当する。
そうすると、上記相違点1は実質的な相違点とはいえない。
また、仮に、本願発明における「矯正」が、正常遺伝子が標的化細胞の核へ運搬されるだけでなく、ゲノム内に挿入されることを意味するとしても、引用文献1には、「欠陥のある遺伝子又は失われた遺伝子は当業者には知られている方法により同定されるかもしれず、のちに、置換遺伝子を用意して失われた部位へ供給されるかもしれない。」(上記1.エ参照。下線は強調のために当審で付加した。)と記載されていることを考慮すれば、引用発明のポリヌクレオチドを、ジンクフィンガーヌクレアーゼ等による本願優先日時に周知の遺伝子置換法に使用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(2)相違点2について
引用発明において、生物学上活性な因子をコードするDNAは、遺伝的障害において欠陥のある酵素をコードするポリヌクレオチドであるところ、当該酵素をコードするポリヌクレオチドは発現して生体内で酵素として機能するものであるから、当該酵素をコードするDNAは、5’側に酵素を発現するためのプロモーターを含み、3’側にmRNAを細胞質での分解から保護し、転写終結、核外輸送、翻訳を補助するポリアデニル化シグナルを含む「外因性DNAを含む発現カセット」内に含まれるものである。そうすると、引用発明におけるITR間のヌクレオチド配列は、「外因性DNAを含む発現カセット」であるといえ、上記相違点2は実質的な相違点ではない。
また、仮に、実質的な相違点であるとしても、引用文献1には、「失われた遺伝子を患者の脳に供給するために意図された遺伝子治療の場合、発現カセットは、プロモーター要素、失われた遺伝子をコードする配列、及びポリアデニル化シグナル配列を含むことができる。」(上記1.オの【0092】参照。下線は強調のために当審で付加した。)と記載されていることを考慮すれば、引用発明において、「外因性DNA」の5’側にプロモーターを配置して、3’側にポリアデニル化シグナル配列を配置することにより、「関心のあるヌクレオチド配列は、外因性DNAを含む発現カセット」とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
したがって、仮に上記の相違点1及び2が実質的な相違点であったとしても、本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
2.審判請求人の主張について
(1)審判請求人は、令和3年12月1日提出の手続補正書により補正された審判請求書の請求の理由において、次の(ア)及び(イ)の事項を主張する。
(ア)引用文献1は、プラスミドの5’-ITRの上流及び3’-ITRの下流の切断によって得られた1本鎖又は2本鎖のDNA分子を開示するものであって、本願発明の医薬組成物に含まれる線状核酸分子を開示するものではない。すなわち引用文献1の核酸分子はプラスミドから切り出されることにより、ITRの上流及び下流のプラスミドヌクレオチドを必然的に含むことになるのであるから、本願の請求項1は、引用文献1に対して新規性を有するものである。
(イ)本願明細書の実施例2に記載されるように、核酸分子は、スポドプテ ラ・フルジペルダ(Spodoptera frugiperda)(Sf-9)細胞系を使用して製造され、単離されたものであり、Sf-9細胞系は、代表的な昆虫細胞系である。一方、引用文献1に開示された分子は、細菌細胞から製造され、プラスミドの切断により得られた分子であるから、細菌性のメチル化されたDNAを有するのである。引用文献1に記載された分子及び本願発明は全く異なる製法で製造されたものであるから、これらの分子の構造は、必然的に異なるのである。引用文献1に記載された分子は、細菌を使用して製造されたプラスミドに由来する一方、本願発明においては遺伝子導入した昆虫細胞、すなわち真核細胞を使用して製造され、単離されたものであるから、細菌を使用して製造されたプラスミドを開示する引用文献1に基づいては、本願発明における分子には想到し得ない。
(2)上記主張について検討する。
(ア)について
引用文献1には、DNAプラスミドからインビトロ転写方法及び逆転写反応方法を経て単鎖DNAの形で得られた人工アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが記載されている。そして、かかる方法で得られた人工アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、引用文献1の実施例7に記載された方法、すなわち、プラスミドから制限酵素を用いて線状断片として単離する方法で得られるものとは異なり、5’-ITRの上流及び3’-ITRの下流に追加のヌクレオチドを有さないものと認められる。
したがって、引用文献1は、「第1アデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向反復(ITR)、関心のあるヌクレオチド配列および第2 AAV ITRからなる」線状核酸分子を開示するといえるから、上記(ア)の主張は採用できない。
(イ)について
上記1.アの【請求項86】、【請求項87】及びオの【0097】の記載から、直線状DNAは細菌内で行われる方法ではなく、インビトロで行われる合成方法で製造されるので、細菌性のメチル化されたDNAを有しないものであるし、そもそも本願発明において、昆虫細胞系を使用して製造されたことは特定されていないので、上記(イ)の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかない主張でもある。
よって、上記(イ)の主張は採用できない。
3.小括
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明である。
また、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-012911