特許拒絶査定不服審判
2021-012098
核酸サンプル調製
- 審判番号
- 2021-012098
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-113182
- 請求日
- 2021年09月10日
- 審決日
- 2022年11月02日
- 公報発行日
- 2023年04月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】バイオロジカル ダイナミクス,インク.
- 【請求人代理人】山本 修
- 【請求人代理人】宮前 徹
- 【請求人代理人】松尾 淳一
- 【請求人代理人】寺地 拓己
- 【請求人代理人】宮脇 薫
- 審判長/審判官
- 審判長 上條 肇
- 審判官 福井 悟
- 審判官 宮岡 真衣
- 分類
- P18 .121-Z (C12M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第44条第1項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-113182「核酸サンプル調製」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年11月 7日出願公開、特開2019-193644〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成25年4月16日(優先権主張 平成24年4月16日 米国)を国際出願日とする特願2015-507127号の一部を特許法第44条第1項の規定に基づき令和1年6月18日に新たな特許出願としたものであって、令和2年6月4日付けの拒絶理由通知に対して、令和2年11月30日に意見書及び手続補正書が提出され、令和3年4月30日付けで拒絶査定がなされ、令和3年9月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。
第2 令和3年9月10日付け手続補正についての補正却下の決定
[結論]
令和3年9月10日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正
本件補正は、令和2年11月30日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1について、
(補正前)「【請求項1】
サンプルからナノ粒子を単離する方法であって、該方法は、
a.AC動電学的電場領域を確立することができる電極のアレイを含むデバイスにサンプルを適用する工程、
b.第一AC動電学的電場領域においてサンプル中の細胞又は他の粒子物質を濃縮する工程であって、サンプルの伝導度が100mS/m以上である工程、
c.第二AC動電学的電場領域においてナノ粒子を単離する工程であって、前記第二AC動電学的電場領域が第二誘電泳動高電場領域である工程、及び
d.第一AC動電学的電場領域から、濃縮された細胞及び/又は他の粒子物質を洗い流す工程、
を含むことを特徴とする方法。」とあったものを、
(補正後)「【請求項1】
サンプルからナノ粒子を単離する方法であって、該方法は、
a.AC動電学的電場領域を確立することができる電極のアレイを含むデバイスにサンプルを適用する工程であって、前記AC動電学的電場領域は、1ボルトから40ボルトのピーク-ピーク電圧、及び/又は5Hzから5,000,000Hzの周波数、及び5%から50%までのデューティーサイクルを有する交流電流を用いて発生させられる工程、
b.第一AC動電学的電場領域においてサンプル中の細胞又は他の粒子物質を濃縮する工程であって、サンプルの伝導度が100mS/m以上である工程、
c.第二AC動電学的電場領域においてナノ粒子を単離する工程であって、前記第二AC動電学的電場領域が第二誘電泳動高電場領域であり、ナノ粒子が、高分子量核酸、高分子量DNA、より小さなDNA、凝集タンパク質、細胞残屑、RNA、ウィルス、又はその組み合わせを含む工程、及び
d.第一AC動電学的電場領域から、濃縮された細胞及び/又は他の粒子物質を洗い流す工程、
を含むことを特徴とする方法。」
とする補正事項を含むものである。なお、下線は補正箇所である。
2.本件補正の目的について
上記補正事項によって、補正前の請求項1の記載におけるa.の「AC動電学的電場領域」が、補正前の請求項8に記載されていた「1ボルトから40ボルトのピーク-ピーク電圧、及び/又は5Hzから5,000,000Hzの周波数、及び5%から50%までのデューティーサイクルを有する交流電流を用いて発生させられる」ものに限定され、同c.における「ナノ粒子」が、補正前の請求項2に記載されていた「高分子量核酸、高分子量DNA、より小さなDNA、凝集タンパク質、細胞残屑、RNA、ウィルス、又はその組み合わせ」に限定された。
そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の限定的減縮を目的としたものといえる。
そこで、補正後の請求項1に記載された発明が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定を満たすものであるか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか。以下、「独立特許要件」という。)について、以下で検討する。
3.独立特許要件について
(1)引用文献の記載事項
拒絶査定において引用文献1として引用された、本願の優先日(平成24年4月16日)より前に頒布されたことが明らかな特表2011-516867号公報には次の記載がある(下線は当審で付与した。)。
引1a
「【請求項10】
生物材料を分離する方法であって、
前記生物材料を、電極の少なくとも1つの小区画部が、電極の残りの小区画部と異なるように帯電できることにより、異なるように帯電した前記電極によって、前記電極において異なるように帯電した誘電泳動(DEP)力領域を構成できるように形成された、複数の前記電極を有する電極アレイを備えたサンプル処理装置に供給すること、
前記電極を選択的に電圧を加え、前記異なるように帯電した電極によって、前記電極において異なるように帯電したDEP力領域を構成すること、
前記異なるように帯電したDEP力領域によって、前記生物材料を、前記サンプル処理装置の分析物の出口に供給される少なくとも1種の分離された分析物成分と前記生物材料の残りの成分とに分離すること
を含む、方法。」
引1b
「【0005】
AC電場を使用して細胞およびナノ粒子の操作を行う交流動電技術は、細胞[参考文献2~5を参照]、バイオマーカー(DNA[参考文献5~8]、タンパク質[参考文献9]など)、さらには薬物送達ナノベシクル[参考文献10]の分離の際に特に注目されるいくつかの仕組みを提供する。こうした技術は、3つの現象:(1)電極上の界面の電荷により界面の液体が流動するAC電気浸透;(2)電界により発生する熱勾配により溶液が全体的に流れる電熱による流動(electrothermal flow);および(3)AC電界中の粒子と媒体との間の誘電率の差により粒子の運動が誘起される誘電泳動(DEP)[参考文献10]に明確に分類される。残念ながら、従来のDEPおよび関連する動電効果の形態には、臨床的意義があるサンプル調製および診断のためのこうした科学技術の有用性を損なう問題がある。
【0006】
第1に、選択性の速度および制御の点からDEPによる分離を効率的に行うには通常、<10~100mS/m程度の比較的低い導電率で行う必要がある[参考文献11]。加えて、溶液のイオン強度が増加し、導電率が10mS/mを超えると、正またはDEPの高電場領域(通常電極の周囲または電極上)ではナノ粒子またはDNAバイオマーカーなどの所望の物質/分析物が単離できにくくなる。このため、イオン強度が100~200mM(導電率は約500~1000mS/m)の範囲にある血液または血漿などの生物学的サンプルを大幅に希釈する、および/または処理した後でないと、DEPによる分離を行うことができない[参考文献13、14]。このことだけで、希少な細胞または少数のバイオマーカーの検出を必要とする臨床診断におけるDEPの有用性が損なわれる場合が多い。・・・」
引1c
「【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施形態は、血液もしくは他の生物学的サンプルまたは緩衝液中の希少な細胞、細菌、ウイルス、薬物送達ナノベシクルおよびナノ粒子、細胞オルガネラおよび構造体(核、ミトコンドリア、液胞、葉緑体、カイロミクロン(cylomicron)など)、循環血中の無細胞DNA/RNAバイオマーカーおよび他の疾患関連の細胞ナノ微粒子(たとえば癌細胞、疾患細胞または損傷細胞が血液、リンパ液または器官に放出する部分的に分解された細胞成分)、抗体、抗体複合体、タンパク質、酵素ならびに薬剤および治療剤を直接分離および同定するため、AC動電および誘電泳動(DEP)、DC電気泳動、装置上の微小電気泳動、および流体技術を独自に多次元的に組み合わせることを含む新規のサンプル調製、サンプルの応答およびポイントオブケアのシステム、装置、方法および技法に関する。・・・
【0014】
本明細書はまず、電極が別々のチャンバーに配置され、内側のチャンバー内に孔または穴構造体を介してAC DEP電界を通過させることにより正(positive)のDEP領域および負(negative)のDEP領域が形成される新規の動電学的DEP装置およびシステムを開示する。細胞、ナノ粒子およびバイオマーカーを移動させるため、様々な幾何形状を用いて所望の正のDEP(高電界)領域および負のDEP(低電界)領域を形成してもよい。こうした孔または穴構造体は、多孔性材料(ヒドロゲル)を含んでいても(すなわち充填されていても)よいし、または多孔性の膜状構造で被覆されていてもよい。電極を別々のチャンバーに分離することで、こうした孔/穴構造を持つDEP装置では、DEP工程において内部の分離チャンバー内でどのような電気化学作用、加熱または無秩序な流体の移動も基本的に起こらない(図1および図2を参照)。」
引1d
「【0017】
本発明を利用する本開示のシステム、装置、方法および技法は今回、従来のDEPによる分離の大部分が使用していたよりも高導電率(>100mS/m)のイオン強度条件下、低AC(DEP)周波数(<20kHz)および高電界強度(>20電圧 最大振幅(pk-pk))で細胞、ナノ粒子およびバイオマーカー物質の分離を可能にする。さらに具体的に言えば、より高イオン強度条件下だけでなく、血液、血漿、血清および無希釈の緩衝液などの複雑な生物学的サンプル中で直接DEPによる分離を行うこともでき、今やDEPの高電場領域でナノスケール(500nm~5nm)の分析物および物質の単離が可能であると同時に、電極間のDEPの低電場領域でより大きな物質(細胞、ミクロン粒子など)を単離することもできる。」
引1e
「【0038】
図27は、血液サンプルを装置に直接導入し、この場合は、非常に低濃度の高分子量(hmw)DNAおよび/またはRNAを、DEPを用いて無希釈の全血サンプルから分離するシームレスなサンプルの応答診断の第1のステップを示す。ただし、以下に限定されるものではないが、希少な細胞、ナノ粒子、細胞ナノ微粒子、抗体、免疫複合体、タンパク質およびRNAなど、ほとんどどのような分析物でも分離、濃縮および検出することができ、サンプルとしては、以下に限定されるものではないが、血漿、血清、尿および唾液を挙げることができる点に留意されたい。
【0039】
次に図28は、血液細胞(赤および白)を負の(DEP)低電場領域に移動させ、高分子量DNA(RNA)を正の(DEP)高電場領域に濃縮させる適切なAC周波数および電圧でDEP電界を印加するサンプルの応答診断工程の第2のステップを示す(図では、ドーム構造がDEPの高電界強度領域を表す)。
【0040】
図29は、単純な流体の洗浄により血液細胞をDEPアレイ装置から除去し、一方、高分子量DNA(RNA)はDEPの高電場領域に高度に濃縮された状態のままである第3のステップを示す。より大きなサンプル量を処理するため、さらに高導電率溶液中の比較的低いAC低周波数(<20kHz)、高電圧(>20ボルト pt-pt)で顕著になる加熱を抑える機構として、DEP装置全体に連続的、パルスまたは間欠的な流体の流れを使用することは本開示の範囲内である。
・・・
【0042】
以下に限定されるものではないが、(1)PCR、分子ビーコンを用いたリアルタイムPCR、RCAおよびSDAなど、他の分子解析検出方法および技術を使用すること;(2)後で蛍光レポータープローブを用いて解析/検出を行うため、DEPによる分離工程において、サンプルDNA/RNAをハイブリダイズして、DEP装置の特定の場所に固定化したプローブ(DNA、RNA、pNAなど)を捕捉すること;(3)後で蛍光レポータープローブを用いて解析/検出を行うため、DEP濃縮場所からDNA/RNAを遊離し、これをPCR、RT-PCR、RCAまたはSDAを用いて増幅し、変性させてから、部位選択的DC電気泳動を用いてその単位複製配列を再びハイブリダイズしてDEP装置に固定化したプローブを捕捉すること;(4)配列特異的DNA/RNA/pNAプローブを用いて蛍光in-situハイブリダイゼーションを使用すること;(5)DNA/RNAを遊離し、DEPあるいは電気泳動(DC電場)的に装置上の別の特定の位置に移動させること;および(6)より詳しい解析または保管を目的としてDNA/RNAを遊離し、(流体により)装置の別のチャンバーまたはサンプル収集チューブに移動させることは、本開示の範囲内である。」
引1f
図1、2には、【0014】(引1c)で説明された、内側のチャンバー内に孔または穴構造体を介してAC DEP電界を通過させることで形成した正のDEP領域(高電場領域)、負のDEP領域(低電場領域)を有する動電学的DEP装置が示されている。
[図:0001395706000001.jpg]
引1g
図27~29には、【0038】~【0040】(引1e)で説明された、血液サンプルから高分子量DNA(RNA)を分離するステップ1~3について示されており、高分子量DNA(RNA)は高電場領域に濃縮され、血液細胞は、単純な流体の洗浄によりDEPアレイ装置から除去される。
[図:0001395706000002.jpg]
[図:0001395706000003.jpg]
[図:0001395706000004.jpg]
(2)引用発明
引用文献1の特許請求の範囲(引1a)には、
「生物材料を分離する方法であって、
前記生物材料を、電極の少なくとも1つの小区画部が、電極の残りの小区画部と異なるように帯電できることにより、異なるように帯電した前記電極によって、前記電極において異なるように帯電した誘電泳動(DEP)力領域を構成できるように形成された、複数の前記電極を有する電極アレイを備えたサンプル処理装置に供給すること、
前記電極を選択的に電圧を加え、前記異なるように帯電した電極によって、前記電極において異なるように帯電したDEP力領域を構成すること、
前記異なるように帯電したDEP力領域によって、前記生物材料を、前記サンプル処理装置の分析物の出口に供給される少なくとも1種の分離された分析物成分と前記生物材料の残りの成分とに分離することを含む、方法。」が記載され、同【0014】(引1c)及び図1(引1f)には、上記サンプル処理装置においては、AC(交流)により正のDEP(高電界)領域および負のDEP(低電界)領域を形成すること、同【0038】~【0041】(引1e)及び図27~29(引1g)には、生物材料として、「血液サンプル」、分析物成分として「高分子量DNA(RNA)」を用いることが記載されている。
以上の引用文献1の記載からすると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「生物材料を分離する方法であって、
前記生物材料を、電極の少なくとも1つの小区画部が、電極の残りの小区画部と異なるように帯電できることにより、異なるように帯電した前記電極によって、前記電極において異なるように帯電した誘電泳動(DEP)力領域を構成できるように形成された、複数の前記電極を有する電極アレイを備えたサンプル処理装置に供給すること、
前記電極を選択的に電圧を加え、前記異なるように帯電した電極によって、前記電極において異なるように帯電したDEP力領域を構成すること、
前記異なるように帯電したDEP力領域によって、前記生物材料を、前記サンプル処理装置の分析物の出口に供給される少なくとも1種の分離された分析物成分と前記生物材料の残りの成分とに分離すること
を含む、方法であり、
前記DEP力領域はAC(交流)により形成され、
前記生物材料は血液、前記分析物は高分子量DNA(RNA)である、上記方法。」
(3)対比
本件補正により補正された請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)と、引用発明を対比する。
引用発明の「生物材料」(「血液」)、「分析物」(「高分子量DNA(RNA)」)、「生物材料の残りの成分」は、補正発明の「サンプル」、「高分子量核酸、高分子量DNA、より小さなDNA、凝集タンパク質、細胞残屑、RNA、ウィルス、又はその組み合わせ」である「ナノ粒子」、「サンプル中の細胞又は他の粒子物質」にそれぞれ相当する。
また、本願明細書の【0077】に「いくつかの実施形態において、AC動電学的電場は誘電泳動電場である。従って、いくつかの実施形態において、誘電泳動(DEP)は本明細書中に記載されている方法の様々な工程で利用される。」、同【0078】に「特定の実施形態において、DEPは細胞及び/又は核酸を(例えば同時に又は異なる時に)濃縮するために使用される。」と記載されていることからみて、引用発明の「AC(交流)により形成」された「帯電した誘電泳動(DEP)力領域」であって、異なるように帯電した「電極の少なくとも1つの小区画部」、「電極の残りの小区画部」は、補正発明の「第一AC動電学的電場領域」、「第二AC動電学的電場領域」又は「第二誘電泳動高電場領域」に相当する。
そして、引用発明の「帯電した誘電泳動(DEP)力領域」は、引用文献1の図1、2(引1e)より、補正発明ど同様に「AC動電学的電場領域を確立することができる電極のアレイを含む」ものと認められる。
そうすると、両者は、
「サンプルからナノ粒子を単離する方法であって、該方法は、
a.AC動電学的電場領域を確立することができる電極のアレイを含むデバイスにサンプルを適用する工程であって、前記AC動電学的電場領域は、交流電流を用いて発生させられる工程、
b.第一AC動電学的電場領域においてサンプル中の細胞又は他の粒子物質を濃縮する工程、
c.第二AC動電学的電場領域においてナノ粒子を単離する工程であって、前記第二AC動電学的電場領域が第二誘電泳動高電場領域であり、ナノ粒子が、高分子量核酸、高分子量DNA、より小さなDNA、凝集タンパク質、細胞残屑、RNA、ウィルス、又はその組み合わせを含む工程
を含むことを特徴とする方法。」で一致し、以下の点で相違している。
(相違点1)
補正発明では、AC動電学的電場領域が、「1ボルトから40ボルトのピーク-ピーク電圧、及び/又は5Hzから5,000,000Hzの周波数、及び5%から50%までのデューティーサイクルを有する交流電流を用いて発生させられるのに対して、
引用発明では、DEP力領域が、AC(交流)により形成されるものの、電圧、周波数、デューティーサイクルが特定されていない点。
(相違点2)
補正発明では、サンプルの伝導度が100mS/m以上であるのに対して、
引用発明では、血液サンプルの伝導度が特定されていない点。
(相違点3)
補正発明では、第一AC動電学的電場領域から、濃縮された細胞及び/又は他の粒子物質を洗い流す工程を含んでいるのに対して、
引用発明では、濃縮された細胞を洗い流す工程を含むことが特定されていない点
(4)判断
(相違点1)について
引用文献1の【0017】には、「本発明を利用する本開示のシステム、装置、方法および技法は今回、従来のDEPによる分離の大部分が使用していたよりも高導電率(>100mS/m)のイオン強度条件下、低AC(DEP)周波数(<20kHz)および高電界強度(>20電圧 最大振幅(pk-pk))で細胞、ナノ粒子およびバイオマーカー物質の分離を可能にする。」(引1d)と記載されており、20ボルトのピーク-ピーク電圧を超え、20kHz、すなわち20,000Hz未満のAC(交流)を用いることが記載されている。
そして、AC(交流)のデューティーサイクル(デューティ比)として、「50%」や「50%」未満のものは、特開2008-20640号公報の【0018】【0019】、特開2003-168369号公報の【0013】、図3、特表2005-531117号公報の【0021】、特表2009-538694号公報の請求項7、【0013】~【0014】、特表2006-524339号公報の請求項14、【0048】、特表2010-524563号公報の【0071】、【0074】、特開2009-262042号公報の【0038】、【0054】、【0110】を見ても理解できるように技術分野を問わず電場を発生させる際にごく一般的に採用されているものである。
そうすると、引用発明におけるAC(交流)は、「1ボルトから40ボルトのピーク-ピーク電圧、及び/又は5Hzから5,000,000Hzの周波数、及び5%から50%までのデューティーサイクルを有する」ものであるといえるか、又は、引用発明において、「1ボルトから40ボルトのピーク-ピーク電圧、及び/又は5Hzから5,000,000Hzの周波数、及び5%から50%までのデューティーサイクルを有する」AC(交流)を採用することに格別の創意を要するとは認められない。
したがって、相違点1として挙げた補正発明の発明特定事項は、実質的な相違点といえないものか、又は、当業者が容易に想到し得るものである。
(相違点2)について
引用文献1の【0017】には、「本発明を利用する本開示のシステム、装置、方法および技法は今回、従来のDEPによる分離の大部分が使用していたよりも高導電率(>100mS/m)のイオン強度条件下・・・で細胞、ナノ粒子およびバイオマーカー物質の分離を可能にする。」(引1d)と記載され、同【0006】には、「イオン強度が100~200mM(導電率は約500~1000mS/m)の範囲にある血液」(引1b)と記載されている。
そうすると、引用発明の「血液サンプル」は、100mS/mを超えるイオン強度を有するものと認められるので、相違点2は実質的な相違点であるとはいえない。
(相違点3)について
引用文献1の【0040】には、「図29は、単純な流体の洗浄により血液細胞をDEPアレイ装置から除去し、一方、高分子量DNA(RNA)はDEPの高電場領域に高度に濃縮された状態のままである第3のステップを示す。」(引1e)と記載され、図29には、その内容が図示されているので(引1g)、引用発明の「分離された分析物成分」と「生物材料の残りの成分とに分離する」具体的手段として、血液サンプルより、高分子量DNA(RNA)が除かれて濃縮した血液細胞を洗浄する方法を採用することは当業者が容易に想到し得るものである。
また、本願明細書を参照しても、上記の相違点1~3により当業者の予測、期待を超える効果を奏するとは評価できない。
したがって、補正発明は、引用発明、すなわち、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5)小括
以上からすると、補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
4.審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において、以下の点を主張している。
引用文献1には交流電流が「5%から50%までのデューティーサイクルを有する」ことは記載も示唆もされていません。
また、引用文献1には、「第二AC動電学的電場領域においてナノ粒子を単離する工程」が開示されていません。特に、「ナノ粒子が、高分子量核酸、高分子量DNA、より小さなDNA、凝集タンパク質、細胞残屑、RNA、ウィルス、又はその組み合わせを含む」ことが開示されていません。実際、引用文献1には段落[0044]において「より低分子量のDNAおよびRNA(<10kb)については、DEPによる単離が難しくなる」と記載されています。さらに、抗体を用いて「より低分子量のDNAおよびRNAを標識し、より大きなナノ構造体(>5nm)を作製」し、それによって「DEPによってより効率的に単離および濃縮できる」ことが記載されています。
しかし、上述のとおり、AC(交流)のデューティーサイクル(デューティ比)として、「50%」や「50%」未満のものは、電場を発生させる際にごく一般的に採用されているものであるから、引用発明のAC(交流)でも、こうしたごく一般的なデューティーサイクルが使用されていると解するのが自然であり、そうでなくても、「50%」や「50%」未満のAC(交流)を用いることが当業者に格別の創意を要するとは認められない。
また、引用文献1には、高分子量DNA(RNA)(補正発明の「高分子量核酸」、「高分子量DNA」、又は「RNA」に該当する。)が高電場領域で濃縮され、高分子量DNA(RNA)が除かれ、濃縮した血液細胞が、単純な流体の洗浄により除去できることが具体的に記載されているので(引1e、引1g)、「第二AC動電学的電場領域においてナノ粒子を単離する工程」、「ナノ粒子が、高分子量核酸、高分子量DNA、より小さなDNA、凝集タンパク質、細胞残屑、RNA、ウィルス、又はその組み合わせを含む」ことが引用文献1に開示されていない旨の指摘は失当である。
したがって、審判請求人の主張は採用できない。
5.まとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記の第2のとおり却下されたので、本願の請求項1~22に係る発明は、令和2年11月30日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~22に記載の事項により特定される発明であると認める。
2.原査定の理由
令和3年4月30日付け拒絶査定は、この出願の請求項1~22に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
(引用文献)
1.特表2011-516867号公報
3.当審の判断
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2の1で(補正前)として記載したものである。
本願発明は、補正発明が備えている、「AC動電学的電場領域」が「1ボルトから40ボルトのピーク-ピーク電圧、及び/又は5Hzから5,000,000Hzの周波数、及び5%から50%までのデューティーサイクルを有する交流電流を用いて発生させられる」という限定(3(3)で相違点1として挙げた補正発明の発明特定事項)、「ナノ粒子」が「高分子量核酸、高分子量DNA、より小さなDNA、凝集タンパク質、細胞残屑、RNA、ウィルス、又はその組み合わせ」という限定(3(3)で引用発明の「分析物」(「高分子量DNA(RNA)」)に相当すると認定した補正発明の発明特定事項)を有さないものであり、これらの限定以外の発明特定事項は、補正発明と実質的に同じある。
そうすると、本願発明は、補正発明と同様の理由により、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-012098