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特許拒絶査定不服審判

2021-008328

被覆切削工具

審判番号
2021-008328
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-006932
請求日
2021年06月24日
審決日
2022年03月24日
公報発行日
2022年04月28日
結論
原査定取消(特許/登録すべき)
当事者
  • 【請求人】株式会社タンガロイ
  • 【請求人代理人】稲葉 良幸
  • 【請求人代理人】大貫 敏史
  • 【請求人代理人】江口 昭彦
  • 【請求人代理人】内藤 和彦
審判長/審判官
  • 審判長 河端 賢
  • 審判官 貞光 大樹
  • 審判官 田々井 正吾
分類
P18 .121-WY (B23B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

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特願2019- 6932「被覆切削工具」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 8月 6日出願公開、特開2020-116645、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、平成31年1月18日を出願日とする出願であって、令和2年10月27日付けで拒絶理由通知がされ、令和2年12月15日に意見書が提出され、令和3年4月1日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、令和3年6月24日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(令和3年4月1日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 本願の請求項1ないし7に係る発明は、以下の引用文献1ないし4に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2012-196726号公報 2.特開平8-158052号公報 3.特表2017-530019号公報 4.特開2009-56538号公報 第3 本願発明 本願請求項1ないし7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明7」という。)は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 基材と、該基材の表面に形成された被覆層とを備える被覆切削工具であって、 前記被覆層が、下部層と、中間層と、上部層とを、前記基材側からこの順序で含み、 前記下部層が、Tiと、C、N、O及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とのTi化合物からなるTi化合物層を1層以上有し、前記中間層が、α型Al2O3からなるα型Al2O3層を有し、前記上部層が、TiCNからなるTiCN層を有し、 前記被覆層の平均厚さが、5.0μm以上30.0μm以下であり、前記上部層の平均厚さが、1.0μm以上6.0μm以下であり、 前記基材の表面と垂直な断面において、前記上部層を構成するTiCN層の粒子のうち、アスペクト比が2以上10以下である粒子の占める割合が60面積%以上95面積%以下であり、 前記上部層を構成するTiCN層の粒子のうち、アスペクト比が2以上10以下である粒子において、方位差Aが下記式(1)で表される条件を満たす、被覆切削工具。 40≦RSA1≦90 (1) (式中、RSA1は、方位差Aが0度以上45度以下である粒子の断面積に対する、方位差Aが0度以上10度未満である粒子の断面積の割合(単位:面積%)であり、方位差Aは、前記基材の表面の法線と前記上部層におけるTiCN層の粒子の(111)面の法線とがなす角度(単位:度)である。) 【請求項2】 前記RSA1が、60面積%以上90面積%以下である、請求項1に記載の被覆切削工具。 【請求項3】 前記方位差Aが0度以上45度以下である粒子の断面積に対して、方位差Aが0度以上10度未満である粒子の断面積の割合をRSA1、方位差Aが10度以上20度未満である粒子の断面積の割合をRSA2、方位差Aが20度以上30度未満である粒子の断面積の割合をRSA3、及び方位差Aが30度以上45度以下である粒子の断面積の割合をRSA4とした場合、前記RSA1が最も大きく、前記RSA4が2番目に大きい、請求項1又は2に記載の被覆切削工具。 【請求項4】 前記中間層の平均厚さが、3.0μm以上15.0μm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の被覆切削工具。 【請求項5】 前記下部層の平均厚さが、3.0μm以上15.0μm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の被覆切削工具。 【請求項6】 前記下部層が、TiNからなるTiN層、TiCからなるTiC層、TiCNからなるTiCN層、TiCNOからなるTiCNO層、TiONからなるTiON層、及びTiB2からなるTiB2層からなる群より選ばれる少なくとも1種の層を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の被覆切削工具。 【請求項7】 前記基材は、超硬合金、サーメット、セラミックス又は立方晶窒化硼素焼結体のいずれかである、請求項1~6のいずれか1項に記載の被覆切削工具。」 第4 引用発明 1 引用文献1の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに以下の記載がある(下線は当審で付与した。以下同様。)。 (1)「【0012】 本発明の切削工具は、下層TiCN層-Al2O3層-上層TiCN層の順に積層した被覆層の構成であるとともに、上層TiCN層を構成する結晶の平均結晶幅は下層TiCN層を構成する結晶の平均結晶幅よりも大きい柱状結晶とすることによって、上層TiCN層は初期欠損の抑制およびAl2O3層との密着性を維持することができ、かつ下層TiCN層は被覆層全体の耐摩耗性の向上および基体との密着性を向上させることができる。」 (2)「【0015】 図1に示す切削工具1は、基体2と、基体2の表面に形成された被覆層3と、を備えている。そして、この被覆層3は、基体2側から、平均結晶幅が0.1~1μmの柱状結晶にて構成される膜厚が2.5~12μmの下層TiCN層4と、平均結晶幅が0.2~1.5μmの柱状結晶からなる膜厚が1~8μmのAl2O3層5と、平均結晶幅が下層TiCN層4の平均結晶幅よりも大きい柱状結晶にて構成される膜厚が1~10μmの上層TiCN層6とを積層している。」 (3)「【0021】 なお、被覆層3には、基体2と下層TiCN層4との間にTiNからなる下地層8を形成しており、他にも中間層9として、粒状結晶からなるHT-TiCN層とTiAlCNO層とを形成し、さらに、上層TiCN層6の表面に粒状のTiN、TiCN、TiCNOからなる表層(図示せず)を形成してもよい。」 (4)「【0032】 さらに、所望により、上層TiCN層6の上層に表層として、TiN(窒化チタン)層を形成する。表層10の成膜条件としては、混合ガス組成として四塩化チタン(TiCl4)ガスを0.1~10体積%、窒素(N2)ガスを0~60体積%の割合で含み、残りが水素(H2)ガスからなる混合ガスを用い、反応チャンバ内の温度を855~1010℃、圧力を10~85kPaとすることが望ましい。」 (5)「【0035】 次に、上記超硬合金に対して、CVD法により、下地層、下層TiCN層、HT-TiCN層、TiAlCNO層、Al2O3層、上層TiCN層、表層の順に被覆層を成膜した。下層TiCN層、Al2O3層、上層TiCN層については表1に示す成膜条件で表2に示す層構成とした。他の被覆層の構成は以下の条件で成膜した。下地層は、成膜温度880℃、圧力16kPaの条件で、TiCl4ガスを2.0体積%、N2ガスを33体積%、残りをH2ガスからなる混合ガスを導入して0.5μm厚みで成膜した。下層TiCN層の次に成膜したHT-TiCN層は、成膜温度950℃、圧力16kPaの条件で、TiCl4ガスを2.5体積%,N2ガスを10体積%,CH4ガスを3.0体積%、残りをH2ガスからなる混合ガスを導入して厚み0.5μmで成膜した。TiAlCNO層は、成膜温度950℃、圧力16kPaの条件で、TiCl4ガスを2.0体積%,N2ガスを10体積%、AlCl3ガスを1.0体積%、COガスを2.0体積%、CH4ガスを3.0体積%、残りをH2ガスからなる混合ガスを導入して厚み0.1μmで成膜した。上層TiCN層の次に成膜した表層は、成膜温度870℃、圧力16kPaの条件で、TiCl4ガスを2.0体積%、N2ガスを33体積%、残りをH2ガスからなる混合ガスを導入して厚み0.5~2.0μmで成膜した。なお、試料No.8については、下層TiCN層、HT-TiCN層、TiAlCNO層、Al2O3層を1セットとして5回繰り返し成膜した。そして、被覆層3の表面をすくい面側から30秒間ブラシ加工して試料No.1~8の切削工具を作製した。」 (6)「【0039】 【表1】 [図:0001383122000001.jpg] 【0040】 【表2】 [図:0001383122000002.jpg] 」 2 引用文献1に記載された技術的事項 引用文献1には次の技術的事項が記載されているものと認められる。 (1) 上記1(1)ないし(2)の記載によれば、切削工具1は、基体2と、基体2の表面に形成された被覆層3と、を備えており、当該被覆層3を、基体2側から、柱状結晶にて構成される下層TiCN層4と、Al2O3層5と、平均結晶幅が下層TiCN層4の平均結晶幅よりも大きい柱状結晶にて構成される上層TiCN層6と、を積層した構成とすることによって、上層TiCN層6は初期欠損の抑制及びAl2O3層5との密着性を維持することができ、且つ、下層TiCN層4は被覆層全体の耐摩耗性の向上及び基体2との密着性を向上させることができること。 (2) 上記1(4)ないし(6)の記載によれば、試料No.1の切削工具1では、被覆層3が、TiNからなる下地層8、下層TiCN層4、HT-TiCN層及びTiAlCNO層からなる中間層9、α型Al2O3層5、上層TiCN層6、TiNからなる表層10を、基体2側からこの順序で含むこと。 (3) 上記1(5)ないし(6)の記載によれば、試料No.1の切削工具1において、被覆層3を構成する各層の厚さは、TiNからなる下地層8は0.5μmであり、下層TiCN層4は7.0μmであり、HT-TiCN層は0.5μmであり、TiAlCNO層は0.1μmであり、α型Al2O3層5は4.0μmであり、上層TiCN層6は3.5μmであり、TiNからなる表層10は0.5~2.0μmであること。 したがって、試料No.1の切削工具1において、被覆層3の厚さは、上記各層の厚さを合計した、16.1~17.6μmであること。 また、試料No.1の切削工具1において、上層TiCN層6とTiNからなる表層10との合計の厚さは、4.0~5.5μmであること。 さらに、試料No.1の切削工具1において、TiNからなる下地層8、下層TiCN層4、HT-TiCN層及びTiAlCNO層からなる中間層9の合計の厚さは、8.1μmであること。 (4) 上記1(6)の記載によれば、試料No.1の切削工具1において、上層TiCN層6は、平均結晶幅が1.2μmの柱状結晶にて構成され、下層TiCN層4は、平均結晶幅が0.3μmの柱状結晶にて構成されること。 3 引用文献1に記載された発明 上記2(1)ないし(4)の技術的事項から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 <引用発明1> 「基体2と、該基体2の表面に形成された被覆層3とを備える切削工具1であって、 前記被覆層3が、TiNからなる下地層8、下層TiCN層4、HT-TiCN層及びTiAlCNO層からなる中間層9、α型Al2O3層5、上層TiCN層6、TiNからなる表層10を、前記基体2側からこの順序で含み、 前記被覆層3の厚さが、16.1μm~17.6μmであり、前記上層TiCN層6とTiNからなる表層10との合計の厚さが4.0μm~5.5μmであり、 前記上層TiCN層6は、平均結晶幅が1.2μmの柱状結晶にて構成され、厚さが3.5μmであり、前記下層TiCN層4は、平均結晶幅が0.3μmの柱状結晶にて構成され、厚さが7.0μmである、 切削工具1。」 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明1とを対比する。 ア 引用発明1における「基体2」は、本願発明1における「基材」に相当し、同様に、「被覆層3」は、「被覆層」に、「被覆層3」を備える「切削工具1」は、「被覆切削工具」に、それぞれ相当する。 イ 引用発明1における「α型Al2O3層5」は、本願発明1における「α型Al2O3からなるα型Al2O3層」を有する「中間層」に相当し、 引用発明1における「TiNからなる下地層8」、「下層TiCN層4」及び「HT-TiCN層及びTiAlCNO層からなる中間層9」は、「基体2」と「α型Al2O3層」との間に備えられるTi化合物層であることから、本願発明1における「Tiと、C、N、O及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とのTi化合物からなるTi化合物層を1層以上」有する「下部層」に相当し、 そして、引用発明1における「上層TiCN層6」及び「TiNからなる表層10」は、「α型Al2O3層」よりも外層の層であることから、本願発明1における「TiCNからなるTiCN層」を有する「上部層」に相当する。 ウ 引用発明1において、「被覆層3の厚さ」が「16.1μm~17.6μm」であることは、本願発明1における「被覆層の平均厚さが、5.0μm以上30.0μm以下」であることに相当する。 また、引用発明1において、「上層TiCN層6とTiNからなる表層10との合計の厚さ」が、「4.0μm~5.5μm」であることは、本願発明1における「上部層の平均厚さが、1.0μm以上6.0μm以下」であることに相当する。 したがって、本願発明1と引用発明1の一致点、相違点は以下のとおりである。 <一致点> 「基材と、該基材の表面に形成された被覆層とを備える被覆切削工具であって、 前記被覆層が、下部層と、中間層と、上部層とを、前記基材側からこの順序で含み、 前記下部層が、Tiと、C、N、O及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とのTi化合物からなるTi化合物層を1層以上有し、前記中間層が、α型Al2O3からなるα型Al2O3層を有し、前記上部層が、TiCNからなるTiCN層を有し、 前記被覆層の平均厚さが、5.0μm以上30.0μm以下であり、前記上部層の平均厚さが、1.0μm以上6.0μm以下である、 被覆切削工具。」 <相違点1> 本願発明1は、「前記基材の表面と垂直な断面において、前記上部層を構成するTiCN層の粒子のうち、アスペクト比が2以上10以下である粒子の占める割合が60面積%以上95面積%以下」であることが特定されているのに対し、 引用発明1は、「前記上層TiCN層6は、平均結晶幅が1.2μmの柱状結晶にて構成され、厚さが3.5μmであり、前記下層TiCN層4は、平均結晶幅が0.3μmの柱状結晶にて構成され、厚さが7.0μmである」ものの、「前記上層TiCN層6」の粒子について、アスペクト比が2以上10以下である粒子の占める割合を60面積%以上95面積%以下とする点については特定がなされていない点。 <相違点2> 本願発明1は、「前記上部層を構成するTiCN層の粒子のうち、アスペクト比が2以上10以下である粒子において、方位差Aが下記式(1)で表される条件を満たす。 40≦RSA1≦90 (1) (式中、RSA1は、方位差Aが0度以上45度以下である粒子の断面積に対する、方位差Aが0度以上10度未満である粒子の断面積の割合(単位:面積%)であり、方位差Aは、前記基材の表面の法線と前記上部層におけるTiCN層の粒子の(111)面の法線とがなす角度(単位:度)である。)」と特定されているのに対し、 引用発明1はそのような点について何ら特定がなされていない点。 (2)相違点1についての判断 相違点1について検討する。 ア 引用発明1について 引用発明1では、上層TiCN層6を構成する結晶を柱状結晶とする点については特定されているものの、当該柱状結晶のアスペクト比については特定されていない。 そして、引用文献1全体を見ても、相違点1に係る本願発明1の構成のように、アスペクト比が2以上10以下である粒子の占める割合が60面積%以上95面積%以下とすることを想起させるような示唆がないものである。 イ 引用発明1と引用文献2に記載された技術との組合せについて (ア)引用文献2に記載された技術について 引用文献2には、切削工具用の被覆硬質合金を構成する硬質被覆層を、母材上に形成したTi系化合物の内側層と、該内側層上に形成したAl2O3又はZrO2を主体とする中間層と、該中間層上に形成したTi系化合物の外側層により構成し、外側層の膜厚を内側層の膜厚よりも厚く構成することによって、逃げ面での耐摩耗性を向上させることができるという技術について記載されている(請求項1、段落【0001】、【0015】参照。)。 また、引用文献2には、上記技術を前提とした上で、外側層4における柱状結晶5のアスペクト比(柱状結晶5の長さlと結晶粒径dの比l/d)が5~80となるように構成することによって、耐摩耗性及び耐欠損性が著しく向上するという技術についても記載されている(請求項11、段落【0032】、【0034】参照。)。 そして、引用文献2には、上記両技術に関する具体的な実施例として、硬質被覆層の構成が、母材1側から順に、内側層2がTiN(1μm)、TiBN(0.5μm)であり、中間層3がAl2O3(10μm)であり、外側層4がTiC(0.5μm)、TiCN(10μm)の構成であって(段落【0046】【表1】の記号R参照。)、外側層4のTiCN層のアスペクト比が1.5~100となるチップ(試料63~68)(段落【0061】-【0063】参照。)について記載されている。 (イ)引用発明1と引用文献2に記載された技術との組合せについて 一方で、引用発明1は、上記第4の2(1)によれば、下層TiCN層4と上層TiCN層6を備える構成を必須の構成とするものであり、さらに、上層TiCN層6を構成する柱状結晶の平均結晶幅が、下層TiCN層4を構成する柱状結晶の平均結晶幅よりも大きいという関係性を備える構成も必須の構成とするものである。 引用文献2には、上記(ア)に記載のとおり、外側層4のTiCN層のアスペクト比を1.5~100となるように構成する点については記載されている。 しかしながら、引用文献2には、内側層2と外側層4がいずれもTiCN層を有した上で、外側層4のTiCN層のアスペクト比を1.5~100となるように構成する点については記載されておらず、ましてや、外側層4のTiCN層を構成する柱状結晶の平均結晶幅が、内側層2のTiCN層を構成する柱状結晶の平均結晶幅よりも大きいという関係性を有した上で、外側層4のTiCN層のアスペクト比を1.5~100となるように構成する点については記載されていない。 してみると、引用文献2に記載された外側層4のTiCN層のアスペクト比を1.5~100となるように構成するという技術は、引用発明1のような、下層TiCN層4と上層TiCN層6を備える構成を必須の構成とし、さらに、上層TiCN層6を構成する柱状結晶の平均結晶幅が、下層TiCN層4を構成する柱状結晶の平均結晶幅よりも大きいという関係性を備える構成も必須の構成とする、という点を考慮した技術とはいえないものであり、上記引用文献2に記載された外側層4のTiCN層のアスペクト比に関する技術を、引用発明1に対して組み合わせる動機を見いだすことはできない。 また、引用文献2に記載された技術は、上記(ア)によれば、外側層4の膜厚を内側層2の膜厚よりも厚く構成することを必須の構成とする技術であると認められる。 しかしながら、引用発明1は、下部層に含まれる「下層TiCN層4」の厚さが7.0μmであり、上部層(「上層TiCN層6」及び「TiNからなる表層10」)の厚さである4.0~5.5μmよりも厚く構成されるものであり、すなわち、引用発明1の構成(下部層の厚さが上部層の厚さよりも厚い構成)は、引用文献2に記載された技術が必須としている構成(外側層の膜厚を内側層の膜厚よりも厚くするという構成)とは異なるものであるから、上記引用文献2に記載された外側層4のTiCN層のアスペクト比に関する技術を、引用発明1に対して組み合わせる動機を見いだすことはできない。 以上のとおり、引用発明1と引用文献2に記載された技術は、必須としている構成が相互に異なっており、引用発明1の上層TiCN層6に対して、引用文献2に記載された技術である、外側層4のTiCN層のアスペクト比に関する技術を組み合わせることについては、その動機を見いだせないものであって、当業者が容易に想到し得ないものである。 ウ 引用発明1と引用文献3ないし引用文献4に記載された技術との組合せについて 引用文献3には、コーティング切削工具の多層耐摩耗性コーティングにおいて、第1のコーティング層の上に蒸着される第2のコーティング層が、TiCN層を有する、という技術について記載され(段落【0001】、【0024】-【0025】参照。)、引用文献4には、表面被覆切削工具の硬質被覆層を、Tiの炭窒化物層により形成する、という技術について記載されている(【請求項1】参照。)。 しかしながら、引用文献3及び引用文献4には、いずれも、引用発明1において必須の構成とされる、下層TiCN層4と上層TiCN層6とを有する点について記載されておらず、ましてや、上層TiCN層6を構成する柱状結晶の平均結晶幅が、下層TiCN層4を構成する柱状結晶の平均結晶幅よりも大きいという関係性を備える点について記載されておらず、引用発明1に対して、引用文献3に記載されたTiCN層を有する第2のコーティング層に関する技術や、引用文献4に記載されたTiの炭窒化物層に関する技術を組み合わせる動機を見いだすことはできない。 さらにいえば、引用文献3及び引用文献4には、いずれも、上部層を構成するTiCN層の粒子のアスペクト比について記載されておらず、ましてや、相違点1に係る本願発明1の構成のように、アスペクト比が2以上10以下である粒子の占める割合が60面積%以上95面積%以下とする事項について記載されていない。 したがって、引用発明1の上層TiCN層6に対して、引用文献3ないし引用文献4に記載されたTiCN層に関する技術を組み合わせることは、当業者が容易に想到し得ないものである。 仮に、引用発明1に、引用文献3ないし引用文献4に記載されたTiCN層に関する技術を組み合わせる動機が存在するとしても、引用文献3及び引用文献4には、相違点1に係る本願発明1の構成が記載されているとは認められないため、引用発明1において引用文献3ないし引用文献4に記載された技術を採用することにより、相違点1に係る本願発明1の構成を得ることは、当業者であっても容易に想到し得ないものである。 エ 相違点1についての結論 したがって、上記ア-ウより、引用発明1及び引用文献2ないし引用文献4に記載された技術に基いて、相違点1に係る本願発明1の構成を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 (3)相違点2についての判断 相違点2について検討する。 ア 引用発明1について 引用発明1では、上層TiCN層6を構成する結晶を柱状結晶とする点については特定されているものの、当該柱状結晶のうち、特定のアスペクト比の条件を満たす結晶粒子の方位差Aの条件については特定されていない。 そして、引用文献1全体を見ても、相違点2に係る本願発明1の構成のように、上層TiCN層6を構成するTiCN層6の粒子のうち、アスペクト比が2以上10以下である粒子の方位差Aの条件に着目し、方位差Aが 40≦RSA1≦90 という式で表される条件となるように構成することを想起させるような示唆がないものである。 (なお、上記式中、RSA1は、請求項1で規定されたものであって、方位差Aが0度以上45度以下である粒子の断面積に対する、方位差Aが0度以上10度未満である粒子の断面積の割合(単位:面積%)であり、方位差Aは、基材の表面の法線と上部層におけるTiCN層の粒子の(111)面の法線とがなす角度(単位:度)である。) イ 引用発明1と引用文献2に記載された技術との組合せについて 引用文献2には、TiCNの外側層を被覆する際に、コーディング温度及びガス組成を変化させて、配向性の異なるTiCN外側層を形成した試料において、X線解析の最高ピーク強度が(111)、(422)、(311)のいずれかにある場合、優れた切削性能を示すという技術について記載されている(段落【0089】-【0091】参照。)。 しかしながら、引用文献2には、相違点2に係る本願発明1の構成のように、上部層を構成するTiCN層の粒子のアスペクト比と方位差Aとの関連性に着目する点については記載されておらず、 また、上記方位差Aが0度以上10度未満である粒子の割合(RSA1)に着目する点についても記載されていない。 したがって、引用文献2には、相違点2に係る本願発明1の構成が記載されているとは認められないため、引用発明1において引用文献2に記載された技術を採用することにより、相違点2に係る本願発明1の構成を得ることは、当業者であっても容易に想到し得ないものである。 ウ 引用発明1と引用文献3に記載された技術との組合せについて 引用文献3には、コーティング切削工具において、柱状の粒形態を有する炭窒化チタンのコーティング層(第2のコーティング層)の成長配向が(111)面となるようにすること(TC(111)>2となるようにすること)で、断続切削時の摩耗に対する耐性及び熱亀裂性に対する高い耐性の点で優れた特性を有し得る、という技術について記載されている(段落【0001】、【0022】、【0026】参照。)。 しかしながら、上記引用文献3に記載された技術は、段落【0026】において、「窒化チタンアルミニウム又は炭窒化チタンアルミニウムのCVDコーティング層と、続く炭窒化チタンのMT-CVDコーティング層を有する、本発明による逆のコーティングの順は、先行技術では開示されていない。」と記載されるように、窒化チタンアルミニウム又は炭窒化チタンアルミニウムのコーティング層(第1のコーティング層)に続いて、炭窒化チタンのコーティング層(第2のコーティング層)が形成されてなる、コーティング切削工具であることを必須の構成とする技術であるところ、引用発明1は、Al2O3層5に続いて上層TiCN層6が形成される構成の切削工具1であり、すなわち、引用発明1の構成(Al2O3層5に続いて上層TiCN層6が形成される構成)は、引用文献3に記載された技術が必須としている構成(窒化チタンアルミニウム又は炭窒化チタンアルミニウムのコーティング層に続いて、炭窒化チタンのコーティング層が形成される構成)とは異なるものであるから、上記引用文献3に記載された炭窒化チタンのコーティング層(第2のコーティング層)の成長配向に関する技術を、引用発明1に対して組み合わせる動機を見いだすことはできない。 したがって、引用発明1の上層TiCN層6に対して、引用文献3に記載された炭窒化チタンのコーティング層(第2のコーティング層)の成長配向に関する技術を組み合わせることは、当業者が容易に想到し得ないものである。 エ 引用発明1と引用文献4に記載された技術との組合せについて 引用文献4には、Tiの炭窒化物層からなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、(a)表面研磨面の法線方向に対する前記Tiの炭窒化物層の結晶粒の結晶方位<111>がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、法線方向に対して0~55度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計したとき、0~15度の範囲内の傾斜角区分に結晶方位<111>が存在する結晶粒の面積割合が結晶粒全面積の50%以上である結晶配向を示し、且つ、(b)結晶粒界を構成する隣り合う結晶粒同士のなす角を測定した場合、前記なす角が0度を超え15度以下である小角粒界の割合が全粒界の50%以上を示すように構成することで、重切削加工において長期に亘ってすぐれた耐欠損性、耐摩耗性を発揮するようになるという技術について記載されている(【請求項1】、段落【0005】-【0007】等参照。)。 しかしながら、上記引用文献4に記載された技術は、工具基体の表面に直接形成されるTiの炭窒化物層に関する技術であり(【請求項1】、段落【0013】-【0015】等参照。)、当該Tiの炭窒化物層の製造装置として、物理蒸着装置の1種である圧力勾配型Arプラズマガンを利用したイオンプレーティング装置を用いることが記載されている(段落【0005】、【0015】、【図2】等参照。)ことからして、引用発明1の、基体2の表面にCVD法(化学気相蒸着法)によって下層TiCN層4とAl2O3層5と上層TiCN層6とを積層する構成は、引用文献4に記載された技術が前提としている構成(工具基体の表面に、物理蒸着装置の1種である圧力勾配型Arプラズマガンを利用したイオンプレーティング装置を用いて、Tiの炭窒化物層を直接形成する構成)とは異なるものであるから、上記引用文献4に記載されたTiの炭窒化物層の結晶配列に関する技術を、引用発明1に対して組み合わせる動機を見いだすことはできない。 したがって、引用発明1の上層TiCN層6に対して、引用文献4に記載されたTiの炭窒化物層の結晶配列に関する技術を組み合わせることは、当業者が容易に想到し得ないものである。 オ 相違点2についての結論 したがって、上記ア-エより、引用発明1及び引用文献2ないし引用文献4に記載された技術に基いて、相違点2に係る本願発明1の構成を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 (4)結論 したがって、引用発明1及び引用文献2ないし引用文献4に記載された技術に基いて、相違点1及び相違点2に係る本願発明1の構成を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、本願発明1は、引用文献1ないし引用文献4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、原査定の理由を維持することはできない。 2 本願発明2ないし本願発明7について 本願発明1を直接的又は間接的に引用する本願発明2ないし本願発明7も、上記相違点1及び相違点2に係る構成を備えるものである。 したがって、本願発明1と同じ理由により、本願発明2ないし本願発明7は、引用文献1ないし引用文献4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、原査定の理由を維持することはできない。 第6 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。

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2021-008328

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