特許拒絶査定不服審判
2021-007932
音声伝達機能を備えた呼吸用マスク
- 審判番号
- 2021-007932
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-520473
- 請求日
- 2021年06月16日
- 審決日
- 2022年06月28日
- 公報発行日
- 2022年12月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】スコット テクノロジーズ インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】池田 成人
- 【請求人代理人】酒巻 順一郎
- 【請求人代理人】野田 雅一
- 【請求人代理人】鈴木 英彦
- 【請求人代理人】阿部 寛
- 審判長/審判官
- 審判長 佐々木 正章
- 審判官 水野 治彦
- 審判官 鈴木 充
- 分類
- P18 .121-WZ (A62B) / P18 .537-WZ (A62B) / P18 .113-WZ (A62B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-520473「音声伝達機能を備えた呼吸用マスク」拒絶査定不服審判事件〔平成29年4月27日国際公開、WO2017/070352、平成30年10月25日国内公表、特表2018-531104〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)10月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年(平成27年)10月22日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その手続は以下のとおりである。
令和2年8月5日(発送日:同年8月11日) :拒絶理由通知書
令和2年11月11日 :意見書、手続補正書の提出
令和3年2月5日(発送日:同年2月16日) :拒絶査定
令和3年6月16日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和3年7月14日 :手続補正書の提出
令和4年1月20日(発送日:同年1月25日):拒絶理由通知書(以下、「当審拒絶理由」という。)
令和4年4月25日 :意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は、令和4年4月25日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1及び請求項7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明7」という。)は、それぞれ以下のとおりのものである。
1 本願発明1
「呼吸用マスク(10)(110)であって、
前記マスク(10)(110)の内部空間(30)(130)を画定し、かつ第1の表面(16)(116)及び前記第1の表面(16)(116)とは反対側を向いた第2の表面(18)(118)を含み、前記第1の表面(16)(116)が前記内部空間(30)(130)を画定する、本体(12)(112)と、
前記本体(12)(112)に隣接する受動音声伝達機構(32)(132)と、を備え、
前記受動音声伝達機構(32)(132)は、メンブレン(34)(134)及びフレーム(133)を含み、前記メンブレン(34)(134)は、第1の表面(36)(136)及び第2の表面(38)(138)を有し、前記メンブレン(34)(134)及び前記フレーム(133)は、一体的に単一のユニットを形成しており、前記単一のユニットとしての前記メンブレン(34)(134)及び前記フレーム(133)が、前記本体(12)(112)に取り外し可能に結合されていると共に前記本体(12)(112)と直接接しており、前記メンブレン(34)(134)の前記第1の表面(36)(136)及び前記第2の表面(38)(138)のそれぞれの全体が覆われていない、呼吸用マスク(10)(110)。」
2 本願発明7
「呼吸用マスク(110)であって、
本体(112)であって、前記マスク(110)の内部空間(130)を画定し、かつ内面(116)、前記内面(116)とは反対側を向いた外面(118)、及び前記本体の内面(116)から前記本体の外面(118)に延びる第2の厚さ(T1)を含み、前記内面(116)が前記内部空間(130)を画定する、本体(112)と、
前記本体(112)に隣接する、前記本体(112)内の受動音声伝達機構(132)と、を備え、前記受動音声伝達機構(132)は、ユーザが前記マスク(110)を装着しているときに前記ユーザの口の近傍に配置され、前記受動音声伝達機構(132)は、
メンブレン(134)であって、周辺部、内面(136)、外面(138)、及び前記メンブレンの内面(136)から前記メンブレンの外面(138)に延びる第1の厚さ(T)を有し、前記第2の厚さ(T1)が前記第1の厚さ(T)より大きく、前記メンブレン(134)の前記外面(138)の全体が前記本体(112)の前記外面(118)に直接露出しており、前記メンブレン(134)の前記内面(136)の全体が前記本体(112)の前記内面(116)に直接露出している、メンブレン(143)と、
前記メンブレン(134)の周辺部と境界を成して結合し、前記本体(112)に結合されているフレーム(133)と、を含む、呼吸用マスク(110)。」
第3 当審における拒絶の理由
当審拒絶理由のうちの理由2は、次のとおりのものである。
(進歩性)本願の請求項1ないし8に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
1 特開2000-189529号公報
2 英国特許出願公開第02264648号明細書
3 特開昭59-156356号公報
4 実願昭59-41430号(実開昭60-153145号)のマイクロフィルム
5 実願昭59-134452号(実開昭61-48747号)のマイクロフィルム
第4 引用文献の記載事項
1 引用文献1
当審拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された引用文献1(特開2000-189529号公報)には、「面体取り付け用伝声器」に関して、図面(特に図1ないし図5を参照。)とともに以下の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、防じんマスクや防毒マスク等のマスクに取り付けて使用するのに好適な伝声器に関する。」
イ 「【0010】図1は、伝声器5が使用されている防じんマスク1の斜視図である。マスク1は着用者の口許と鼻孔とを覆う面体2と、着用者頭部に掛け回すヘッドバンド3と、面体2にバンド3を取り付けるためのバンド支持部材4とを有する。
【0011】面体2は、シリコンゴム等の柔軟弾性材料からなるもので、中央部に伝声器5が取り付けられている他に、左右一対のフィルタユニット6と、ユニット6と面体2との連結部に位置する吸気用逆止弁12(図2参照)と、キャップ7によって通気可能に被覆された排気用逆止弁8(図2参照)とを有する。
【0012】図2は、図1のII-II線矢視図である。面体2は着用者の前方(図の左方)に伝声器5を有し、後方(図の右方)に比較的厚みの薄い顔面当接部13を有する。面体2の側面部には吸気用逆止弁12が取り付けられ、面体2の下部には排気用逆止弁8が取り付けられている。伝声器5は円盤状のもので、その周縁部分を形成しているフレーム部11が、面体2の中央部透孔16の縁部に形成された溝17に圧入されている。
【0013】図3は、伝声器5の部分破断斜視図である。図2,3から明らかなように、伝声器5は前面フレーム部材21と、後面フレーム部材22と、これら両部材21,22間に位置する薄い伝声膜23とを有する。前面フレーム部材21は、その周縁に沿って延びるフレーム部24と、フレーム部24の内側に位置し、伝声器5の外側へ向って凸となる曲面を画く伝声膜被覆部26と、被覆部26の内面から伝声膜23へ向かって延びる突出部27とを有する。後面フレーム部材22は、周縁に沿って延びるフレーム部28と、フレーム部28の内側に位置し、伝声器5の外側へ向かって凸となる曲面を画く伝声膜被覆部29とを有し、フレーム部28の外径が前面フレーム部材21のそれよりも僅かに小さく作られている。前後面フレーム部材21,22は、互いのフレーム部24,28で伝声膜23の周縁部を挟持し、径の大きい前面のフレーム部24の周縁部30が後面のフレーム部28に折り重ねられることによって一体化し、伝声器5としてのフレーム部11を形成している。前面フレーム部材21の突出部27は、伝声膜23を前方から押圧して膜23を緊張させている。伝声膜被覆部26,29は、伝声膜23に物が触れるのを防ぐためのもので、適宜の形状の開孔31,32が多数形成されている。」
ウ 「【0017】この発明に係る伝声器5では、伝声膜23として非伸長性の金属箔やプラスチックフィルム、伸長性のゴムシートやプラスチックフィルムを使用することができる。前後面フレーム部材21,22では、伝声膜被覆部26,29を省くことができる。被覆部26,29を省いたときには、前後面のフレーム部24,28のいずれかに、伝声膜23を押圧する突出部27や36、ボルト38を支持するための機構を設ける。前後面フレーム部材21,22は、互いのフレーム部24,28をボルトや接着剤によって一体化したり、それらが熱可塑性プラスチック製のものであれば、超音波による溶着によって一体化することもできる。伝声膜23は、図示例とは逆に、後方から前方へ向かって押圧することもできる。」
エ 【図1】
[図:0001391429000001.jpg]
オ 【図2】
[図:0001391429000002.jpg]
カ 上記イの段落【0010】ないし【0012】の記載事項並びに図1及び図2に図示される事項からみて、マスク1の着用者の口許と鼻孔と覆う面体2は、マスク1の顔面との間の空間を画定しているものといえる。また、面体2は、顔面との間の空間を画定する後方の面と後方の面とは反対の側を向いた前方の面を備えているものといえる。
キ 上記イの段落【0012】の記載事項からみて、面体2の縁部に形成された溝7に圧入された伝声器5は、取り外し可能に結合されているとともにと共に面体2に直接接しているといえる。
以上から、上記引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「マスク1であって、
前記マスク1の顔面との間の空間を画定し、かつ後方の面及び前記後方の面とは反対側を向いた前方の面を含み、前記後方の面が前記顔面との間の空間を画定する面体2と、
前記面体2は伝声器5を有し、
前記伝声器5は、薄い伝声膜23及び前面フレーム部材21と後面フレーム部材22で形成されるフレーム部11を含み、薄い伝声膜23及び前面フレーム部材21と後面フレーム部材22で形成されるフレーム部11は、前面フレーム部材21と後面フレーム部材22とで薄い伝声膜23を挟持して一体化し、前記伝声器5が、前記面体2に取り外し可能に結合されていると共に前記面体2と直接接し、伝声膜被覆部26及び伝声膜被覆部29を有する、マスク1。」
また、上記引用文献1には、次の事項(以下、「引用文献1記載の事項」という。)が記載されていると認められる。
「前面フレーム部材21及び後面フレーム部材22では、伝声膜被覆部26,29を省くことができ、被覆部26,29を省いたときには、前面フレーム部材の前面フレーム部24及び後面フレーム部材22の後面フレーム部28のいずれかに、薄い伝声膜23を押圧する突出部27等を支持するための機構を設けること。」
2 引用文献2
当審拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された引用文献2(英国特許出願公開第02264648号明細書)には、図面(特に、Fig.1ないしFig.5を参照。)とともに次の事項が記載されている。なお、()内は当審で作成した仮訳である。
ク 「The purpose of this invention is to provide a new and simpler solution which avoid said problems of assembly and sealing of the known masks. The invention is characterized in that the membrane is formed by a thinner part of rubber or similar elastic material of the jacket of the mask and that the mask comprises rigid supporting member which supports the thinner part at the edge thereof.
When the thinner part which forms the membrane, according to the invention, is made of the same piece as the other parts of the jacket of the mask, the problems of sealing the edges of the membrane can be completely overcome. The supporting member surrounding the thinner part can provide the construction with necessary rigidity so that it is not prone to ruptures resulting from bending the mask, for instance. The supporting member is preferably comprised of a separate part which requires no sealing and is therefore easy to fit in place. Preliminary tests have indicated that the mask construction according to the invention can work well in practice and transmit sounds as well as the known masks in available the market do, if not better.
(この発明の目的は、既知のマスクの組立と密閉の前記問題を回避するための新しく簡易な解決策を提供することである。本発明は、メンブレンがマスクのジャケットのゴムまたは同様の弾性材料の薄肉部分によって形成され、マスクは、その縁部で薄肉部を支持する剛性支持部からなることを特徴とする。
本発明によれば、メンブレンを構成する薄肉部はマスクのジャケットの他の部分と同じ部品で作られるとき、メンブレンの端部の密閉の問題は完全に克服されることができる。薄い部分を取り囲む支持部材は、例えばマスクを曲げることによって生じる破裂が生じないように、必要な剛性を構造体に与えることができる。支持部材は、好ましくは、シールを必要としない別個の部品で構成され、したがって、所定の位置に容易に適合させることができる。予備テストの結果、本発明のマスク構造は、実際に市場で入手可能なマスクと同様に、またはそれ以上に機能し、音を伝達することが出来ることが示された。)」(第1ページ第25行-第2ページ第5行)
ケ 「Fig.1 shows protective mask 1 where the main parts are jacket 2 of the mask covering the user’s face and membrane 3 with shield 4 placed in the jacket near the user’s mouth. The purpose of the membrane is to transmit sound in such a way that the mask interferes with the audibility and intelligibility of its user’s speech as little as possible.
A membrane construction according to the invention is presented in Fig. 2. in more detail. The membrane is formed by circular thinner part 3 which is integral to the jacket and provided in jacket 2 of the mask and surrounded by annular rib 5. Rib 5 forms an annular groove inside of jacket 2, having rigid abutment ring 6 fitted in it. If the dimension of abutment ring 6 is slightly wider than said groove, it serves as a tightener which slightly stresses thinner part 3. In addition, abutment ring 6 strengthens annular rib 5 surrounding the thinner part in such a way that the parts together form an abutment where shield 4 covering the thinner part is attached by a snap-fastener. Shield 4 is made sound-transmitting by providing it with holes 7. The sound-transmission of thinner part 3 is based on its vibration and can be effected on by the stress provided by abutment ring 6.
Jacket 2 of the mask can be made of rubber, for instance, whereby the wall thickness of thinner part 3 is suitably between about 0.5-1.5 mm, for instance, about 1.0 mm, and the wall thickness of the parts of jacket 2 outside the thinner part about 2-3 mm, for instance, about 2mm. Abutment ring 6 and shield 4 can be made of rigid plastics or metal, for instance.
(図1は主要部品が使用者の顔を覆うマスクのジャケット2とユーザの口元のジャケットに配置されたシールド4付きメンブレン3であるマスク1を示す。メンブレンの目的は、マスクがマスク使用者の音声の可聴性と明瞭性を妨げることを最小限とするよう音声を伝達することである。
本発明のメンブレンのより詳細な構成は図2に示される。メンブレンはジャケットと一体でジャケット2に組み込まれる環状のリブ5により囲まれる円形の薄肉部3で形成される。リブ5はジャケット2の内側に環状の溝を形成し、その中に剛性を持つアバッドメントリング6を備える。アバッドメントリング6も寸法が前記溝よりわずかに広い場合、薄肉部材3にわずかに応力を与える締め付けの役割を果たす。加えてアバッドメントリング6は薄肉部材を取り囲む環状リブ5を強化し、薄肉部材を覆うシールド4を締め付け部材により取り付けられるアバッドメントを形成するよう、一体の部品となっている。シールド4は穴7を設けることにより音が伝達されるよう構成される。薄肉部3の音の伝達は振動に基づきアバッドメントリング6によって与えられる応力による影響を受けることができる。
マスクのジャケット2は、例えばゴムで作られ、薄肉部3の肉厚は好適には約0.5-1.00mm、例えば約1.0mmである。そして、薄肉部3の外側のジャケット2の部分の肉厚は約2-3mm、例えば約2mmである。アバッドメントリング6とシールド44は例えば剛性のあるプラスチックまたは金属で作られる。)」(第3ページ第21行-第4ページ第10行)
コ Fig.1
[図:0001391429000003.jpg]
サ Fig.2
[図:0001391429000004.jpg]
シ 上記ケの記載事項及びFig.1並びにFig.2におけるジャケット2の図示事項から、保護マスク1のジャケット2は、顔を覆う面である内面及び内面の反対側を向いた外面を備え、該内面は内部を画定しているといえる。
ス 上記ケの「ユーザの口元のジャケットに配置されたシールド4付きメンブレン3」との記載事項から、メンブレンはユーザの口元に配置されるものといえる。
セ 上記ケの記載事項並びにFig.1及びFig.2におけるジャケット2とメンブレンの図示事項からみて、メンブレンはジャケット2に隣接しているといえる。
ソ 上記ケの記載事項から、薄肉部3の外側のジャケット2の部分の厚さは薄肉部の厚さより大きいといえる。
タ Fig.1及びFig.2における薄肉部材3及びシールド4の図示事項から、薄肉部材3の顔を覆う面は、全体が直接露出しているといえる。
チ 上記ケの「シールド4は穴7を設けることにより音が伝達されるよう構成される。」との記載及びFig.2の穴7とメンブレンの薄肉部に係る図示事項からみて、「メンブレンの薄肉部の外面がジャケット2の外面に穴7を介して露出している」といえる。
ツ 上記ケの「メンブレンはジャケットと一体でジャケット2に組み込まれる環状のリブ5により囲まれる円形の薄肉部3で形成される。」との記載及びFig.2の図示事項からみて、「環状のリブ5」は、「メンブレンの薄肉部3の外縁と境界を成して結合し、ジャケット2に組み込まれている」といえる。
以上から、上記引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「保護マスク1であって、
ジャケット2であって、前記保護マスク1の内部を画定し、かつ内面、前記内面とは反対側を向いた外面、及び前記ジャケット2の内面から前記ジャケット2の外面に延びる厚さを含み、前記内面が前記内部を画定する、ジャケット2と、
前記ジャケット2に隣接する、前記ジャケット2内のメンブレンと、を備え、前記メンブレンは、ユーザが前記保護マスク1を装着しているときに前記ユーザの口元に配置され、前記メンブレンは、
メンブレンの薄肉部3であって、周辺部、内面、外面、及び前記メンブレンの薄肉部3の内面から前記メンブレンの薄肉部3の外面に延びる厚さを有し、前記ジャケット2の内面から前記ジャケット2の外面に延びる厚さが前記薄肉部3の内面から前記メンブレンの薄肉部3の外面に延びる厚さより大きく、前記メンブレンの薄肉部3の前記外面が前記ジャケット2の前記外面にシールド4の穴7を介して露出しており、前記メンブレンの薄肉部3の前記内面の全体が前記ジャケット2の前記内面に直接露出している、メンブレンの薄肉部3と、
前記メンブレンの薄肉部3の外縁と境界を成して結合し、前記ジャケット2に組み込まれている環状のリブ5と、を含む、保護マスク1。」
3 引用文献3
当審拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された引用文献3(特開昭59-156356号公報)には、図面(特に、第1図ないし第3図を参照。)とともに次の事項が記載されている。
サ 「本発明においては、マスク1b,11に孔1c,11aを設け、該孔1c,11aに薄膜状伝声体5,14を張設することによって、マスク1b,11をつけたまま確実に言葉を伝えることが出来、作業者間の連絡を向上せしめる効果がある。」(2ページ左下欄12行~右下欄1行。)
以上から、上記引用文献3には次の事項(以下、「引用文献3の記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「マスク1b,11の孔1c,11aに張設した薄膜状伝声体5の外面は、その全体がマスク1b,11の外面に直接露出していること。」
4 引用文献4
当審拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された引用文献4(実願昭59-41430号(実開昭60-153145号)のマイクロフィルム)には、図面(特に、第1図及び第2図を参照。)とともに次の事項が記載されている。
シ 「マスク本体1の下方寄りには孔1bを形成しこの孔1bには薄い金属板又はセロフアンシート等の薄膜状伝声体4を張設している。」(5ページ13~16行)
以上から、上記引用文献4には次の事項(以下、「引用文献4の記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「マスク本体1の孔1bに張設した薄膜状伝声体4の外面は、その全体がマスク本体1の外面に直接露出していること。」
5 引用文献5
当審拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された引用文献5(実願昭59-134452号(実開昭61-48747号)のマイクロフィルム)には、図面とともに次の事項が記載されている。
ス 「マスク本体1の上方寄りには孔1bを形成しこの孔1bには薄い金属板又はセロフアンシート等の薄膜状伝声体4を張設している。」(6ページ3~5行)
以上から、上記引用文献5には次の事項(以下、「引用文献5の記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「マスク本体1の孔1bに張設した薄膜状伝声体4の外面は、その全体がマスク本体1の外面に直接露出していること。」
第5 本願発明1の判断
1 対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、後者の「マスク1」は、その機能、構成及び技術的意義からみて前者の「呼吸用マスク」に相当し、以下同様に、「顔面との間の空間」は「内部空間」に、「後方の面」は「第1の表面」に、「前方の面」は「第2の表面」に、「面体2」は「本体」に、「薄い伝声膜23」は「メンブレン」に、「前面フレーム部材21と後面フレーム部材22で形成されるフレーム部11」は「フレーム」にそれぞれ相当する。
次に、後者の「薄い伝声膜23」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、第1の表面及び第2の表面を有することは明らかである。同様に、後者の「前面フレーム部材21と後面フレーム部材22とで薄い伝声膜23を挟持して一体化」することは、前者の「一体的に単一のユニットを形成」することに相当する。そして、このような前者の「薄い伝声膜23を挟持して一体化」した「前面フレーム部材21と後面フレーム部材22」は、後者の「単一のユニットとしてのメンブレン及びフレーム」に相当する。そうすると、後者の「伝声器5」は前者の「受動音声伝達機構」に相当し、後者の「面体2は伝声器5を有し」は、前者の「本体に隣接する受動音声伝達機構と、を備え」に相当する。
したがって、両者は、
「呼吸用マスクであって、
前記マスクの内部空間を画定し、かつ第1の表面及び前記第1の表面とは反対側を向いた第2の表面を含み、前記第1の表面が前記内部空間を画定する、本体と、
前記本体に隣接する受動音声伝達機構と、を備え、
前記受動音声伝達機構は、メンブレン及びフレームを含み、前記メンブレンは、第1の表面及び第2の表面を有し、前記メンブレン及び前記フレームは、一体的に単一のユニットを形成しており、前記単一のユニットとしての前記メンブレン及び前記フレームが、前記本体に取り外し可能に結合されていると共に前記本体と直接接している、呼吸用マスク。」である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
前者は「メンブレン(34)(134)の第1の表面(36)(136)及び第2の表面(38)(138)のそれぞれの全体が覆われていない」のに対し、後者は「薄い伝声膜23」が伝声膜被覆部26及び29で覆われている点。
2 判断
上記相違点について検討する。
引用文献1には「前面フレーム部材21及び後面フレーム部材22で、伝声膜被覆部26,29を省くことができ、被覆部26,29を省いたときには、前面フレーム部材の前面フレーム部24及び後面フレーム部材22の後面フレーム部28のいずれかに、薄い伝声膜23を押圧する突出部27等を支持するための機構を設けること。」(引用文献1記載の事項)と記載されている。そして、引用文献1記載の事項は相違点に係る本願発明1の発明特定事項を示唆するものといえる。
そうすると、引用発明1において、引用文献1記載の事項を踏まえ、当業者の通常の創作の能力の範囲内で上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、容易に想到し得たことである。
また、本願発明1は、全体としてみても、引用発明1及び引用文献1の記載事項から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。
したがって、本願発明1は、引用発明1及び引用文献1の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 請求人の主張について
審判請求書において、請求人は、「審査官殿は上記拒絶査定におきまして、発明特定事項1に関連して、引用文献5(審決注:当審拒絶理由に引用された引用文献1)に記載の発明において図2~3の「伝声膜被覆部26,29」を省き、「後方から前方へ向かって押圧」すると、「伝声膜23」が、本体の外面に直接露出することになることが認められる、と指摘されております。
しかしながら、引用文献5の伝声器5、より具体的には伝声膜23は、前面フレーム部材21及び後面フレーム部材22によって覆われています。引用文献5には、前面フレーム部材21が伝声膜被覆部26を含むこと、及び、後面フレーム部材22が伝声膜被覆部29を含むことが記載されています。そのため、仮に伝声膜被覆部26、29が前後面フレーム部材21、22に含まれない場合であっても、前後面フレーム部材21、22は、伝声膜23の一部を覆うものと思料致します。さらに、引用文献5の伝声膜23は、突出部27、フレーム部28、ボルト38の少なくとも一つによっても覆われているものと思料致します。そのため、引用文献5には、発明特定事項1については記載も示唆もされていないものと思料致します。」と主張する。
しかしながら、引用発明1の「前面フレーム部材21及び後面フレーム部材22からなるフレーム11と薄い伝声膜23が一体化した伝声器5」は、本願発明1の「メンブレン及びフレームが一体的に単一のユニットを形成」した、「受動音声伝達機構」に相当するところ、本願発明1は、このような「フレーム」と「メンブレン」が一体化した「受動音声伝達機構」の「メンブレン」が「フレーム」を有するとしても「メンブレンの第1の表面および第2の表面のそれぞれの全体が覆われていない」ものである。そうすると、引用発明1において、引用文献1記載の事項を踏まえて伝声膜被覆部26,29を省いた伝声器5の「薄い伝声膜23」は、「前面フレーム部材21及び後面フレーム部材22からなるフレーム11」が存在するとしても、当該「薄い伝声膜23」の「第1の表面と第2の表面のそれぞれの全体が覆われていない」構成となることは、当業者の通常の創作能力の範囲で想起し得たことである。
また、上記第4 1 ウの段落【0017】の「前後面のフレーム部24,28のいずれかに、伝声膜23を押圧する突出部27や36、ボルト38を支持するための機構を設ける。」との記載から、「突出部27や36、ボルト38」は薄い伝声膜23を押圧するための構成であり、該薄い伝声膜23を覆うためのものではないから、伝声膜被覆部26,29を省き、「前後面のフレーム部24,28のいずれかに、伝声膜23を押圧する突出部27や36、ボルト38を支持するための機構を設けた」伝声器5の薄い伝声膜23は、「第1の表面と第2の表面のそれぞれの全体が覆われていない」ものといえる。
そうすると、審判請求書における請求人の上記主張は当を得ない。
第6 本願発明7の判断
1 対比
本願発明7と引用発明2とを対比すると、後者の「保護マスク1」は、その機能、構成及び技術的意義からみて前者の「呼吸用マスク」に相当し、以下同様に、「ジャケット2」は「本体」に、「内部」は「内部空間」に、「メンブレン」は「受動音声伝達機構」に、「メンブレンの薄肉部3」は「メンブレン」に、「口元」は「口の近傍」に、「メンブレン薄肉部3の外縁」は「メンブレンの周辺部」に、「環状のリブ5」は「フレーム」にそれぞれ相当する。
また、後者の「ジャケット2の内面からジャケット2の外面に延びる厚さ」は、その機能、構成及び技術的意義からみて前者の「本体の内面から前記本体の外面に延びる第2の厚さ(T1)」に相当する。同様に、後者の「前記メンブレンの薄肉部3の内面から前記メンブレンの薄肉部3の外面に延びる厚さ」は前者の「前記メンブレンの内面から前記メンブレンの外面に延びる第1の厚さ(T)」に相当する。
加えて、後者の「前記メンブレンの薄肉部3の前記外面が前記ジャケット2の前記外面にシールド4の穴7を介して露出しており」と前者の「前記メンブレン(134)の前記外面(138)の全体が前記本体(112)の前記外面(118)に直接露出しており」とは、「前記メンブレンの前記外面が前記本体の前記外面に露出しており」である点で一致する。
したがって、両者は、
「呼吸用マスクであって、
本体であって、前記マスクの内部空間を画定し、かつ内面、前記内面とは反対側を向いた外面、及び前記本体の内面から前記本体の外面に延びる第2の厚さを含み、前記内面が前記内部空間を画定する、本体と、
前記本体に隣接する、前記本体内の受動音声伝達機構と、を備え、前記受動音声伝達機構は、ユーザが前記マスクを装着しているときに前記ユーザの口の近傍に配置され、前記受動音声伝達機構は、
メンブレンであって、周辺部、内面、外面、及び前記メンブレンの内面から前記メンブレンの外面に延びる第1の厚さを有し、前記第2の厚さが前記第1の厚さより大きく、前記メンブレンの前記外面が前記本体の前記外面に露出しており、前記メンブレンの前記内面の全体が前記本体の前記内面に直接露出している、メンブレンと、
前記メンブレンの周辺部と境界を成して結合し、前記本体に結合されているフレームと、を含む、呼吸用マスク。」である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
前者は「メンブレン(134)の前記外面(138)の全体が前記本体(112)の前記外面(118)に直接露出して」いるのに対し、後者は「前記メンブレンの前記外面が前記本体の前記外面にシールド4の穴7を介して露出」している点。
2 判断
上記相違点について検討する。
引用文献3の記載事項、引用文献4の記載事項及び引用文献5の記載事項からみて、保護マスクの技術分野において、メンブレンの外面の全体が本体の外面に直接露出するようにすることは本願の優先日前の周知技術である。
そして、引用発明2において、例えばメンブレンが損傷するおそれがないとき等の用途又は必要性に応じて、当該周知技術を踏まえて当業者の創作能力の範囲内で上記相違点に係る本願発明7の発明特定事項とすることは容易に想到し得たことである。
また、本願発明7は、全体としてみても、引用発明2及び周知技術から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。
したがって、本願発明7は、引用発明2及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 請求人の主張について
令和4年4月25日付けの意見書において、請求人は「具体的には、審判官殿は、引用文献2に記載の発明において、メンブレンを損傷するおそれがないときには、シールドを省略して、周知技術のように、メンブレンの外面全体が本体の外面に直接露出するようにできることは、当業者が容易に認識できることである、と主張されています。しかし、仮に保護マスクの技術分野において、メンブレンの外面の全体が本体の外面に直接露出するようにすることが周知技術であったとしても、当業者が請求項7、8に係る発明に容易に想到することができたと言うためには、当業者が、引用文献2に記載の発明に対して、当該周知技術を組み合わせることが可能であったというだけでは不十分であり、当業者が、引用文献2に記載の発明に対して、当該周知技術を組み合わせたはずであるという示唆が必要であるものと思料致します。しかし、そのような示唆は、いずれの引用文献にも存在しないため、当業者がそのような組み合わせを行う動機付けは、存在しないものと思料致します。」と主張する。
しかしながら、「メンブレンの外面の全体が本体の外面に直接露出するようにすること。」は、保護マスクの技術分野において必要に応じて広く活用され、保護マスクを設計する際にその用途、必要性を踏まえて当業者の創作能力の範囲内で適宜採用される周知技術である。そして、上記第4 2 ケの記載から、シールド4は、穴7を設けることで音を伝えるもの、すなわち音を伝えるためにはシールド4は本来不要なものであることは引用文献2に示唆されており、さらに、引用文献2に記載された保護マスク1からシールド4を省略できないとする格別な事情を見出すこともできない。そうすると、引用発明2において、メンブレンが損傷するおそれがないとき等の事情に応じ、周知技術を踏まえてシールド4を省略し、相違点に係る本願発明7の発明特定事項とすることは、当業者の通常の創作能力の範囲で容易に想到し得たことである。
よって、請求人の主張は当を得ない。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明1及び本願発明7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-007932