特許拒絶査定不服審判
2021-004025
油中水型乳化油脂組成物とその製造方法
- 審判番号
- 2021-004025
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-166849
- 請求日
- 2021年03月30日
- 審決日
- 2022年12月20日
- 公報発行日
- 2023年03月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ミヨシ油脂株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人牛木国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 大島 祥吾
- 審判官 平塚 政宏
- 審判官 ▲吉▼澤 英一
- 分類
- P18 .113-Z (A23D) / P18 .121-Z (A23D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第44条第1項、特許法第44条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-166849「油中水型乳化油脂組成物とその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年12月 5日出願公開、特開2019-205477〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成27年12月28日に出願された特願2015-257415号の一部を、令和1年 9月13日に新たな特許出願としたものであって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
令和2年 6月 3日付け 拒絶理由通知
令和2年 8月 7日 意見書及び手続補正書の提出
令和2年12月24日付け 拒絶査定
令和3年 3月30日 審判請求書及び手続補正書の提出
令和3年 5月20日付け 前置報告書
第2 本願発明について
本願の請求項1ないし6に係る発明は、令和2年8月7日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された以下のとおりのものである。(このうち請求項1に係る発明を、以下では、「本願発明」ともいう。)
「【請求項1】
3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量が10.9~21質量%である油脂と、
濃縮生クリームおよび濃縮ホエイの混合物であるホエイチーズとを含有する油中水型乳化油脂組成物。
【請求項2】
前記ホエイチーズは、濃縮生クリームと濃縮ホエイとの混合比が、質量比で4:6~6:4である請求項1に記載の油中水型乳化油脂組成物。
【請求項3】
前記ホエイチーズは、濃縮生クリームの脂肪分含有量が65質量%以上である請求項1または2に記載の油中水型乳化油脂組成物。
【請求項4】
前記ホエイチーズは、水分量が20~25質量%である請求項1から3のいずれかに記載の油中水型乳化油脂組成物。
【請求項5】
前記ホエイチーズを水相に含有する請求項1から4のいずれかに記載の油中水型乳化油脂組成物。
【請求項6】
濃縮生クリームおよび濃縮ホエイの混合物であるホエイチーズを水相に添加し、3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量が10.9~21質量%である油脂を含有する油相と乳化する油中水型乳化油脂組成物の製造方法。」
第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、令和2年6月3日付け拒絶理由通知書に記載した理由1及び2であり、そのうち理由1は、概略、次のとおりである。
(1)本願は、分割出願の元の出願の当初明細書又は特許請求の範囲に記載された事項を超える内容を含むものであって、分割の実体的要件を満たさないことから、出願日は遡及しない。
(2)請求項1ないし6に係る発明は、その出願前に頒布された刊行物である特開2017-118849号公報に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
第4 当審の判断
1 分割要件(特許法第44条第1項)の判断
上記「第1」に示したとおり、本願は、平成27年12月28日に出願された特願2015-257415号の一部を、令和1年 9月13日に新たな特許出願(いわゆる分割出願)としたものであるから、まず、本願が適法に分割されたものであるか否かを検討する。
(1)特許出願の分割は、二以上の発明を包含する特許出願の一部を新たな特許出願とするものである(特許法第44条第1項柱書き)から、適法に分割されたものというためには、以下の(要件1)及び(要件3)が満たされる必要がある。また、分割出願が分割の元の出願(以下、「原出願」という。)の時にしたものとみなされる(特許法第44条第2項本文)という特許出願の分割の効果を考慮すると、更に以下の(要件2)も満たされる必要がある。
(要件1)原出願の分割直前の明細書等に記載された発明の全部が分割出願の請求項に係る発明とされたものでないこと。
(要件2)分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であること。
(要件3)分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内であること。
(2)そこで、まず、上記(1)に示した(要件2)が満たされているか否かを検討する。
ア 原出願(特願2015-257415号)の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、「原出願当初明細書等」という。)の記載
原出願当初明細書等には、以下の事項が記載されている。
・「【請求項1】
飽和脂肪酸量が35~60質量%、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が1.0~12.5質量%である油脂と、
濃縮生クリームおよび濃縮ホエイの混合物であるホエイチーズとを含有する油中水型乳化油脂組成物。
【請求項2】
前記ホエイチーズは、濃縮生クリームと濃縮ホエイとの混合比が、質量比で4:6~6:4である請求項1に記載の油中水型乳化油脂組成物。
【請求項3】
前記ホエイチーズは、濃縮生クリームの脂肪分含有量が65質量%以上である請求項1または2に記載の油中水型乳化油脂組成物。
【請求項4】
前記ホエイチーズは、水分量が20~25質量%である請求項1から3のいずれかに記載の油中水型乳化油脂組成物。
【請求項5】
前記ホエイチーズを水相に含有する請求項1から4のいずれかに記載の油中水型乳化油脂組成物。
【請求項6】
濃縮生クリームおよび濃縮ホエイの混合物であるホエイチーズを水相に添加し、飽和脂肪酸量が35~60質量%、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が1.0~12.5質量%である油脂を含有する油相と乳化する油中水型乳化油脂組成物の製造方法。」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、油中水型乳化油脂組成物とその製造方法に関する。」
・「【背景技術】
【0002】
マーガリン等の油中水型乳化油脂組成物は、バターの代替品として、スプレッド、バタークリーム、製菓製パンの練り込みや折り込み用、調理用等として広く使用されている。
【0003】
マーガリンは、バターに比べて可塑性、乳化安定性に優れ、取り扱い易い反面、風味の点で劣るため、香料や呈味剤等の呈味成分を添加したり、乳脂肪を添加したりすることにより、風味を向上させることが行われている。
【0004】
しかし、バター特有の風味をマーガリンで再現することは難しく、口中に含んだときの甘味やうま味に優れ、かつ口中に広がってこれらが長く持続するものが消費者の嗜好として強く望まれているが、満足するものは得られていなかった。
【0005】
さらに、油中水型乳化油脂組成物に香味や呈味などの呈味成分を添加しても、これを生地に添加して焼成したベーカリー製品は、焼成工程における加熱等により、呈味成分に由来する風味は低減してしまう場合が多く、また口中で直ぐに感じる風味は出ても、風味の持続性が弱くなるという問題があった。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、油中水型乳化油脂組成物およびそれを添加した焼成品の甘味とうま味およびこれらの口中での持続性に優れた油中水型乳化油脂組成物とその製造方法を提供することを課題としている。」
・「【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のホエイチーズを添加し、かつ油脂組成を特定のものとすることによって、甘味とうま味およびこれらの口中での持続性に優れたものが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明の油中水型乳化油脂組成物は、飽和脂肪酸量が35~60質量%、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が1.0~12.5質量%である油脂と、濃縮生クリームおよび濃縮ホエイの混合物であるホエイチーズとを含有することを特徴としている。
【0014】
本発明の油中水型乳化油脂組成物の製造方法は、濃縮生クリームおよび濃縮ホエイの混合物であるホエイチーズを水相に添加し、飽和脂肪酸量が35~60質量%、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が1.0~12.5質量%である油脂を含有する油相と乳化することを特徴としている。」
・「【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、油中水型乳化油脂組成物およびそれを添加した焼成品の甘味とうま味およびこれらの口中での持続性に優れている。」
・「【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を詳細に説明する。
1.ホエイチーズ
本発明の油中水型乳化油脂組成物は、濃縮生クリームおよび濃縮ホエイの混合物であるホエイチーズ(以下、単にホエイチーズとも言う。)を含有する。このホエイチーズを使用することで、油中水型乳化油脂組成物およびそれを添加した焼成品の甘味とうま味に優れたものとすることができ、かつ飽和脂肪酸量およびトリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が上記特定範囲である油脂と併用することによって、甘味とうま味の口中での持続性に優れたものとすることができる。」
・「【0024】
2.油脂
本発明において、飽和脂肪酸Sは、油脂中に含まれるすべての飽和脂肪酸である。飽和脂肪酸Sとしては、特に限定されないが、例えば、酪酸(4)、カプロン酸(6)、カプリル酸(8)、カプリン酸(10)、ラウリン酸(12)、ミリスチン酸(14)、パルミチン酸(16)、ステアリン酸(18)、アラキジン酸(20)、ベヘン酸(22)、リグノセリン酸(24)などが挙げられる。なお、上記の数値表記は、脂肪酸の炭素数である。
【0025】
不飽和脂肪酸Uは、油脂中に含まれるすべての不飽和脂肪酸である。また、各トリグリセリド分子に結合している2つまたは3つの不飽和脂肪酸Uは、同一の不飽和脂肪酸であってもよいし、異なる不飽和脂肪酸であってもよい。
【0026】
不飽和脂肪酸Uとしては、特に限定されないが、例えば、ミリストレイン酸(14:1)、パルミトレイン酸(16:1)、ヒラゴン酸(16:3)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、リノレン酸(18:3)、エイコセン酸(20:1)、エルカ酸(22:1)、セラコレイン酸(24:1)等が挙げられる。なお、上記不飽和脂肪酸についての括弧内の数値表記は、左側が脂肪酸の炭素数であり、右側が二重結合数を意味する。
【0027】
油脂中のトリグリセリドとは、1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合した構造を有するものである。トリグリセリドの1位、2位、3位とは、脂肪酸が結合した位置を表す。なお、トリグリセリドの構成脂肪酸の略称として、S:飽和脂肪酸、U:不飽和脂肪酸、を用いる。
【0028】
本発明の油中水型乳化油脂組成物に使用される油脂は、飽和脂肪酸を含む。
【0029】
本発明の油中水型乳化油脂組成物に使用される油脂は、2位にラウリン酸が結合されたトリグリセリドを含み、2位にラウリン酸が結合されたトリグリセリドの1、3位の構成脂肪酸は、飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。2位がラウリン酸であるトリグリセリドとしては、例えば、SLS型トリグリセリド、SLU型トリグリセリド(位置異性体も含む)、ULU型トリグリセリド等が挙げられるが、特に限定されない。なお、「L」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸であるラウリン酸を意味する。本発明の効果を得る点から、2位にラウリン酸が結合されたトリグリセリドの1位または3位の構成脂肪酸が飽和脂肪酸である場合、炭素数4~24の飽和脂肪酸であることが好ましい。2位にラウリン酸が結合されたトリグリセリドの1位または3位の構成脂肪酸が不飽和脂肪酸である場合、炭素数14~18の不飽和脂肪酸(ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等)であることが好ましい。2位にラウリン酸が結合されたトリグリセリドの1位または3位の構成脂肪酸が飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸である場合、上述の飽和脂肪酸(炭素数4~24の飽和脂肪酸)と不飽和脂肪酸(炭素数14~18の不飽和脂肪酸)であることが好ましい。
【0030】
本発明の油中水型乳化油脂組成物に使用される油脂は、2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドを含んでいてもよく、2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドの1、3位の構成脂肪酸は、飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。2位がオレイン酸であるトリグリセリドとしては、例えば、SOS型トリグリセリド、SOU型トリグリセリド(位置異性体も含む)、UOU型トリグリセリド等が挙げられるが、特に限定されない。なお、「O」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸であるオレイン酸を意味する。本発明の効果を得る点から、2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドの1位または3位の構成脂肪酸が飽和脂肪酸である場合、炭素数4~24の飽和脂肪酸であることが好ましい。2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドの1位または3位の構成脂肪酸が不飽和脂肪酸である場合、炭素数14~18の不飽和脂肪酸(ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等)であることが好ましい。2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドの1位または3位の構成脂肪酸が飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸である場合、上述の飽和脂肪酸(炭素数4~24の飽和脂肪酸)と不飽和脂肪酸(炭素数14~18の不飽和脂肪酸)であることが好ましい。
【0031】
本発明の油中水型乳化油脂組成物に使用される油脂は、1位、2位、3位のすべてに飽和脂肪酸Sが結合した3飽和トリグリセリド(SSS)を含んでいてもよく、1分子のグリセロールに2分子の飽和脂肪酸Sと1分子の不飽和脂肪酸Uが結合した2飽和トリグリセリドとして、1位および3位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ2位に不飽和脂肪酸Uが結合した対称型トリグリセリド(SUS)と、1位と2位、または2位と3位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ3位または1位に不飽和脂肪酸Uが結合した非対称型トリグリセリド(SSU)とを含む。また、1分子のグリセロールに2分子の不飽和脂肪酸Uと1分子の飽和脂肪酸Sが結合した2不飽和トリグリセリド(SSU、USS、USU))を含んでよく、1位、2位、3位のすべてに不飽和脂肪酸Uが結合した3不飽和トリグリセリド(UUU)を含んでよい。
【0032】
本発明の油中水型乳化油脂組成物において、飽和脂肪酸の含有量は、油脂全量に対して35~60質量%である。飽和脂肪酸の含有量をこの範囲内とすることで、口溶けや製パン等の焼成品の製造適性が良好となり、油中水型乳化油脂組成物およびそれを添加した焼成品の甘味とうま味の口中での持続性が向上する。飽和脂肪酸の含有量が35質量%以上であると、主に焼成品の製造適性が良好となり、飽和脂肪酸の含有量が60質量%以下であると、主に口溶けが良好となる。特に、本発明の油中水型乳化油脂組成物がスプレッド用である場合は、飽和脂肪酸の含有量が35~56質量%、ロールイン用である場合は、40~60質量%であることが好ましい。
【0033】
本発明の油中水型乳化油脂組成物において、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量は、油脂全量に対して1.0~12.5質量%である。トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量をこの範囲内とすることで、口溶けが良好となり、油中水型乳化油脂組成物およびそれを添加した焼成品の甘味とうま味の口中での持続性が向上する。トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が1.0質量%以上であると、口溶けが向上し、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が12.5質量%以下であると、口溶けが良すぎることに起因する甘味とうま味の口中での持続性の低下を抑制できる。
【0034】
本発明の油中水型乳化油脂組成物において、3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量は、油脂全量に対して好ましくは10~21質量%である。
【0035】
本発明の油中水型乳化油脂組成物において、トリグリセリドの2位に結合されたオレイン酸量は、油脂全量に対して好ましくは35~52質量%である。
【0036】
本発明の油中水型乳化油脂組成物は、油脂の構成脂肪酸としてトランス酸を含んでもよく、含まなくてもよいが、トランス酸の摂取量が多くなると、人体に摂取された際のLDLコレステロールが増加しうる。よって、これを抑制しやすい点から、本発明においては、油脂の構成脂肪酸中のトランス酸の含有量は、油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して10質量%未満であることが好ましく、5質量%未満であることがより好ましく、3質量%未満であることが最も好ましい。
【0037】
本発明の油中水型乳化油脂組成物の製造に用いられる油脂としては、特に限定されないが、パーム油、パーム核油、ヤシ油、菜種油、大豆油、綿実油、ヒマワリ油、米油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、シア脂、サル脂、マンゴー油、イリッペ脂、カカオ脂、豚脂(ラード)、牛脂、乳脂、それらの分別油またはそれらの加工油(硬化およびエステル交換反応のうち1つ以上の処理がなされたもの)等が挙げられる。油脂中の飽和脂肪酸量およびトリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量を適宜調整するために、これらの油脂としては、1種あるいは2種以上を選択して含有させることが好ましい。
【0038】
本発明の油中水型乳化油脂組成物は、急冷捏和し、可塑化して使用する場合、油脂としてエステル交換油脂を含有することが好ましい。エステル交換油脂の中でも、パーム系油脂単独のエステル交換油脂や、ラウリン系油脂とパーム系油脂とのエステル交換油脂が好ましい。なお、上記エステル交換油脂の原料であるラウリン系油脂は、全構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が30質量%以上の油脂であり、例えば、パーム核油、ヤシ油、これらの分別油、硬化油等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。上記エステル交換油脂の原料であるパーム系油脂は、全構成脂肪酸中の炭素数16以上の脂肪酸含有量が35質量%以上の油脂であり、例えば、パーム油、パーム分別油、これらの硬化油等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。パーム分別油としては、硬質部、軟質部、中融点部等を用いることができる。」
・「【実施例】
【0051】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、表2および表3に示す配合量は質量部を示す。
(1)測定方法
飽和酸脂肪酸量、トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸量、トリグリセリドの2位に結合されたオレイン酸量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2-2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2-2013 2位脂肪酸組成」)で測定した。3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2-2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2-2013 2位脂肪酸組成」)で測定し、それぞれ脂肪酸量を用いて計算にて求めた。なお、油脂全量を基準としている。
【0052】
(2)油中水型乳化油脂組成物の作製
(エステル交換油脂1)
パーム核油15質量%、パーム核極度硬化油7.5質量%、パーム油70質量%、パーム極度硬化油7.5質量%を混合して110℃に加熱し、十分に脱水させた後、化学触媒としてナトリウムメチラートを油脂量の0.08質量%添加し、減圧下、100℃で0.5時間攪拌しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗して触媒を除去し、活性白土を用いて脱色し、さらに脱臭を行ってエステル交換油脂1を得た。
【0053】
(エステル交換油脂2)
パーム分別軟質部(ヨウ素価56)について、エステル交換油脂1の製法に準じてエステル交換反応等を行い、エステル交換油脂2を得た。
【0054】
(エステル交換油脂3)
パーム油(ヨウ素価53)について、エステル交換油脂1の製法に準じてエステル交換反応等を行い、エステル交換油脂3を得た。
【0055】
(乳製品1)
濃縮生クリームおよび濃縮ホエイの混合物であるホエイチーズを用いた。その詳細は表1に示すとおりである。低温殺菌した生クリームを脂肪分75質量%に濃縮したものと、乾物含量76質量%の濃縮ホエイを47.5:52.5になるように計量し、均一に混合した後、孔径3mmのフィルタを通過させ濾過することによって得られたホエイチーズを-18℃で保管し、使用に供した。なお、乾物含量とは、水分量を除いたものである。
【0056】
【表1】
[図:0001394366000001.jpg]
【0057】
(乳製品2)
生クリーム 脂肪分含有量 47.3質量%、水分量 47.7質量%、炭水化物量 3質量%、タンパク質量 1.6質量%、灰分量 0.4質量%
【0058】
(乳製品3)
ホエイパウダー 脂肪分含有量 1.1質量%、水分量 2.3質量%、炭水化物量 78.4質量%、タンパク質量 12.1質量%、灰分量 6.1質量%
【0059】
(乳製品4)
ハイファットクリームチーズ 脂肪分含有量 55質量%、水分量 33質量%、炭水化物量 6質量%、タンパク質量 5質量%、灰分量 1質量%
【0060】
(乳製品5)
生クリームと乳清の乳酸発酵物 脂肪分含有量 36.1質量%、水分57.5質量%、無脂乳固形分6.4質量%
【0061】
<練り込み用、スプレッド用マーガリンの作製>
表2~表5の油脂を75℃で溶解、混合し、油脂80質量部に乳化剤としてモノグリセリン脂肪酸エステルを0.2質量部添加し、75℃に調温して油相とした。一方、表2~5の水に対し乳製品および食塩を適宜添加し、85℃で加熱殺菌して水相を得た。次に、該油相に該水相を添加し、プロペラ攪拌機で撹拌して、油中水型に乳化した後、パーフェクターによって急冷捏和して、下記の配合割合のマーガリンを練り込み用、スプレッド用油中水型乳化油脂組成物として得た。得られたマーガリンは、5℃で保管した。
【0062】
<ロールイン用マーガリンの作製>
表6および表7の油脂を75℃で溶解、混合し、油脂80質量部に乳化剤としてモノグリセリン脂肪酸エステルを0.2質量部添加し、75℃に調温して油相とした。一方、表6および表7の水に対し乳製品および食塩を添加し、85℃で加熱殺菌して水相を得た。次に、該油相に該水相を添加し、プロペラ攪拌機で撹拌して、油中水型に乳化した後、パーフェクターによって急冷捏和し、25cm×21cm×1cmのシート状に成型し、下記配合割合のマーガリンをロールイン用油中水型乳化油脂組成物として得た。得られたマーガリンは、5℃で保管した。
【0063】
<練り込み用マーガリンを使用した焼成品の作製>
上記練り込み用マーガリンを用いて、下記の配合と工程により食パンを製造した。
<食パンの配合および工程>
・中種配合
強力粉 70質量部
イースト 2.5質量部
イーストフード 0.1質量部
水 40質量部
・中種工程
ミキシング 低速3分 中低速1分(フック使用)
捏上温度 24℃
発 酵 発酵室温27℃ 湿度75% 4時間
・本捏配合
強力粉 30質量部
上白糖 6質量部
食塩 1.8質量部
脱脂粉乳 2質量部
練り込み用マーガリン 5質量部
水 25質量部
・本捏工程(本捏配合の全素材および中種生地全量を添加)
ミキシング 低速3分 中低速3分
(マーガリンを投入)、低速3分 中低速4分
捏上温度 28℃
フロアータイム 28℃ 20分
生地分割 230g
ベンチタイム 28℃ 20分
成 型 モルダーで延ばしロール型に成型
U型にしてプルマン型に6本詰め
ホイロ 室温38℃ 湿度80% 40分
焼 成 200℃ 40分
【0064】
<ロールイン用マーガリンを使用した焼成品の作製>
下記の配合および製造条件でデニッシュを作製した。具体的には実施例および比較例のロールイン用マーガリンおよびショートニングZ(ミヨシ油脂株式会社製)以外の材料をミキサーに投入し、低速3分、中低速5分ミキシングを行った後、ショートニングZを入れ低速2分、中低速4分ミキシングを行い、生地を得た。この生地を、フロアータイムをとった後、0℃で一晩リタードさせた。この生地にロールイン用マーガリンを折り込み、3つ折り2回を加え-10℃にて30分リタードし、3つ折り1回を加え-10℃にて60分リタードさせた。その後シーターゲージ厚3mmまで延ばし、10cm角(10cm×10cm)にカットし、ホイロ後、焼成してデニッシュを得た。
〈デニッシュの配合〉
強力粉 90質量部
薄力粉 10質量部
上白糖 10質量部
食塩 1.8質量部
脱脂粉乳 3質量部
全卵 6質量部
ショートニングZ 8質量部
イースト 5質量部
イーストフード 0.1質量部
水 53質量部
ロールイン用マーガリン 生地100質量部に対して21質量部
〈デニッシュ生地の作製条件〉
ミキシング: 低速3分、中低速5分、(ショートニングを投入)、低速2分、
中低速4分
捏上温度: 25℃
フロアータイム:27℃ 75% 30分
リタード: 0℃ 一晩
ロールイン: 3つ折り×2回 -10℃にてリタード30分
3つ折り×1回 -10℃にてリタード60分
成型: シーターゲージ厚3mm 10cm角(10cm×10cm)にカット
ホイロ: 35℃ 75% 60分
焼成: 200℃ 14分
【0065】
(3)評価
以下の評価において、パネルは、五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準臭覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判定された20~40代の男性5名、女性7名を選抜した。
【0066】
[マーガリンを口に含んだときの初期の甘味]
得られた練り込み用マーガリンまたはスプレッド用マーガリンをパネル12名で試食し、マーガリンの初期の甘味を以下の基準で評価した。
評価基準
◎◎:パネル12名中11~12名が、初期の甘味があると評価した。
◎:パネル12名中8~10名が、初期の甘味があると評価した。
○:パネル12名中5~7名が、初期の甘味があると評価した。
△:パネル12名中3~4名が、初期の甘味があると評価した。
×:パネル12名中初期の甘味があると評価したのは2名以下であった。
【0067】
[マーガリンを口に含んだときの甘味の持続性]
得られた練り込み用マーガリンまたはスプレッド用マーガリンをパネル12名で試食し、マーガリンの甘味の持続性を以下の基準で評価した。
評価基準
◎◎:パネル12名中11~12名が、甘味の持続性があると評価した。
◎:パネル12名中8~10名が、甘味の持続性があると評価した。
○:パネル12名中5~7名が、甘味の持続性があると評価した。
△:パネル12名中3~4名が、甘味の持続性があると評価した。
×:パネル12名中甘味の持続性があると評価したのは2名以下であった。
【0068】
[マーガリンを口に含んだときのうま味によるボディー感の持続性]
得られた練り込み用マーガリンまたはスプレッド用マーガリンをパネル12名で試食し、マーガリンのうま味によるボディー感の持続性を以下の基準で評価した。
評価基準
◎◎:パネル12名中11~12名が、うま味によるボディー感の持続性があると
評価した。
◎:パネル12名中8~10名が、うま味によるボディー感の持続性があると
評価した。
○:パネル12名中5~7名が、うま味によるボディー感の持続性があると
評価した。
△:パネル12名中3~4名が、うま味によるボディー感の持続性があると
評価した。
×:パネル12名中うま味によるボディー感の持続性があると評価したのは
2名以下であった。
【0069】
[焼成品を口に含んだときの初期の甘味]
得られた食パンまたはデニッシュをパネル12名で試食し、焼成品の初期の甘味を以下の基準で評価した。
評価基準
◎◎:パネル12名中11~12名が、初期の甘味があると評価した。
◎:パネル12名中8~10名が、初期の甘味があると評価した。
○:パネル12名中5~7名が、初期の甘味があると評価した。
△:パネル12名中3~4名が、初期の甘味があると評価した。
×:パネル12名中初期の甘味があると評価したのは2名以下であった。
【0070】
[焼成品を口に含んだときの甘味の持続性]
得られた食パンまたはデニッシュをパネル12名で試食し、焼成品の甘味の持続性を以下の基準で評価した。
評価基準
◎◎:パネル12名中11~12名が、甘味の持続性があると評価した。
◎:パネル12名中8~10名が、甘味の持続性があると評価した。
○:パネル12名中5~7名が、甘味の持続性があると評価した。
△:パネル12名中3~4名が、甘味の持続性があると評価した。
×:パネル12名中甘味の持続性があると評価したのは2名以下であった。
【0071】
[焼成品を口に含んだときのうま味によるボディー感の持続性]
得られた食パンまたはデニッシュをパネル12名で試食し、焼成品のうま味によるボディー感の持続性を以下の基準で評価した。
評価基準
◎◎:パネル12名中11~12名が、うま味によるボディー感の持続性があると
評価した。
◎:パネル12名中8~10名が、うま味によるボディー感の持続性があると
評価した。
○:パネル12名中5~7名が、うま味によるボディー感の持続性があると
評価した。
△:パネル12名中3~4名が、うま味によるボディー感の持続性があると
評価した。
【0072】
×:パネル12名中うま味によるボディー感の持続性があると評価したのは
2名以下であった。
【0073】
評価結果を表2~表7に示す。
【0074】
【表2】
[図:0001394366000002.jpg]
【0075】
【表3】
[図:0001394366000003.jpg]
【0076】
【表4】
[図:0001394366000004.jpg]
【0077】
【表5】
[図:0001394366000005.jpg]
【0078】
【表6】
[図:0001394366000006.jpg]
【0079】
【表7】
[図:0001394366000007.jpg]
」
イ 判断(以下、下線は当審による。)
(ア)本願請求項1及び請求項1を直接又は間接に引用する請求項2ないし5に係る油中水型乳化油脂組成物に含有される油脂、並びに本願請求項6に係る油中水型乳化油脂組成物の製造方法において油相に含有される油脂は、「3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量が10.9~21質量%である油脂」とされている。
この「3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量が10.9~21質量%である油脂」は、「飽和脂肪酸量が35~60質量%、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が1.0~12.5質量%である」との特定がないため、「飽和脂肪酸量が35~60質量%、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が1.0~12.5質量%である油脂」には限定されない「3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量が10.9~21質量%である油脂」であると認める。
(イ)そこで、本願請求項1及び請求項1を直接又は間接に引用する請求項2ないし5に係る油中水型乳化油脂組成物に含有される油脂、並びに本願請求項6に係る油中水型乳化油脂組成物の製造方法において油相に含有される油脂を、「飽和脂肪酸量が35~60質量%、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が1.0~12.5質量%である油脂」には限定されない「3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量が10.9~21質量%である油脂」とすることが、原出願当初明細書等に記載された事項の範囲内のものであるか否かについて検討する。
まず、原出願当初明細書等において、発明の技術分野を記載した段落【0001】には、油中水型乳化油脂組成物とその製造方法に関する技術分野に関する発明であることが記載され、発明の背景技術を記載した段落【0002】ないし【0005】には、マーガリン等の油中水型乳化油脂組成物がバターの代替品として広く使用されているが、バター特有の風味をマーガリンで再現することは難しく、口中に含んだときの甘味やうま味に優れ、かつ口中に広がってこれらが長く持続するものが消費者の嗜好として強く望まれているが、満足するものは得られていなかったこと、油中水型乳化油脂組成物に呈味成分を添加しても、これを生地に添加して焼成したベーカリー製品は、焼成工程における加熱等により、呈味成分に由来する風味は低減してしまう場合が多く、また口中に直ぐに感じる風味は出ても、風味の持続性が弱くなるという問題があったことが記載されている。
原出願当初明細書等において、発明が解決しようとする課題を記載した段落【0011】には、発明が解決しようとする課題が、上記の段落【0001】及び段落【0002】ないし【0005】に示された事項の下、「油中水型乳化油脂組成物およびそれを添加した焼成品の甘味とうま味およびこれらの口中での持続性に優れた油中水型乳化油脂組成物とその製造方法を提供すること」である旨が記載されている。
そして、原出願当初明細書等において、課題を解決するための手段を記載した段落【0012】ないし【0014】には、課題を解決するための手段として、油中水型乳化油脂組成物については、飽和脂肪酸量が35~60質量%、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が1.0~12.5質量%である油脂と、濃縮生クリームおよび濃縮ホエイの混合物であるホエイチーズとを含有することにより、甘味とうま味およびこれらの口中での持続性に優れたものが得られることが記載され、油中水型乳化油脂組成物の製造方法については、濃縮生クリームおよび濃縮ホエイの混合物であるホエイチーズを水相に添加し、飽和脂肪酸量が35~60質量%、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が1.0~12.5質量%である油脂を含有する油相と乳化することにより、甘味とうま味およびこれらの口中での持続性に優れたものが得られることが記載されるとともに、それらの記載に続いて、発明の効果を記載した段落【0015】には、発明の効果として、「油中水型乳化油脂組成物およびそれを添加した焼成品の甘味とうま味およびこれらの口中での持続性に優れている」ものが得られることが記載されている。
さらに、原出願当初明細書等において、発明を実施するための形態を記載した段落【0016】ないし【0038】には、原出願当初明細書等に記載された発明の油中水型乳化油脂組成物において、飽和脂肪酸の含有量は油脂全量に対して35~60質量%であり、飽和脂肪酸の含有量をこの範囲内とすることで、口溶けや製パン等の焼成品の製造適性が良好となり、油中水型乳化油脂組成物およびそれを添加した焼成品の甘味とうま味の口中での持続性が向上することが、「好ましくは、」、「ことが好ましい。」、又は「であってもよい。」などの修飾句等を伴わない確定的な表現で、記載されるとともに、飽和脂肪酸の含有量が35質量%以上であると、主に焼成品の製造適性が良好となり、飽和脂肪酸の含有量が60質量%以下であると、主に口溶けが良好となることも記載されている(段落【0032】)。
続いて、原出願当初明細書等に記載された発明の油中水型乳化油脂組成物において、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量は油脂全量に対して1.0~12.5質量%であり、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量をこの範囲内とすることで、口溶けが良好となり、油中水型乳化油脂組成物およびそれを添加した焼成品の甘味とうま味の口中での持続性が向上することが、「好ましくは、」、「ことが好ましい。」、又は「であってもよい。」などの修飾句等を伴わない確定的な表現で、記載されるとともに、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が1.0質量%以上であると、口溶けが向上し、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が12.5質量%以下であると、口溶けが良すぎることに起因する甘味とうま味の口中での持続性の低下を抑制できることも記載されている(段落【0033】)。
これら段落【0032】及び【0033】の記載により、原出願当初明細書等に記載された発明の油中水型乳化油脂組成物において、油脂を「飽和脂肪酸量が35~60質量%、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が1.0~12.5質量%である油脂」にすることが必要であることが示されている。
一方、原出願当初明細書等において、「3飽和トリグリセリド(SSS)」については、発明の技術分野を記載した段落【0001】、発明の背景技術を記載した段落【0002】ないし【0010】、発明が解決しようとする課題を記載した段落【0011】、課題を解決するための手段を記載した段落【0012】ないし【0014】、及び、発明の効果を記載した段落【0015】のいずれにも記載されておらず、発明を実施するための形態を記載した段落【0016】ないし【0038】には、「本発明の油中水型乳化油脂組成物に使用される油脂は、1位、2位、3位のすべてに飽和脂肪酸Sが結合した3飽和トリグリセリド(SSS)を含んでいてもよく、」(段落【0031】)との記載があって、原出願当初明細書等に記載された発明の油中水型乳化油脂組成物に含有される油脂において、「3飽和トリグリセリド(SSS)」が、含まれていても含まれていなくてもよい任意成分であることが記載されている。
そうすると、上記段落【0031】の後、上記段落【0032】及び段落【0033】の記載に続く段落【0034】の「本発明の油中水型乳化油脂組成物において、3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量は、油脂全量に対して好ましくは10~21質量%である。」との記載は、原出願当初明細書等に記載された発明の油中水型乳化油脂組成物において、油脂が「飽和脂肪酸量が35~60質量%、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が1.0~12.5質量%である油脂」であることを前提にした上での記載であり、油脂の任意成分である「3飽和トリグリセリド(SSS)」の好ましい含有量の範囲を示すにとどまるものであって、その含有量の範囲がどのような点で好ましいかについては記載されていない。
まして、原出願当初明細書等に記載された発明の油中水型乳化油脂組成物に含有される油脂として、「飽和脂肪酸量が35~60質量%、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が1.0~12.5質量%である油脂」には該当しない「3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量が10.9~21質量%である油脂」とすることも記載されていない。
加えて、原出願当初明細書等における実施例及び比較例(段落【0051】ないし【0079】)の油中水型乳化油脂組成物に使用される油脂として、「飽和脂肪酸量が35~60質量%、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が1.0~12.5質量%である油脂」に該当しない「3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量が10.9~21質量%である油脂」は記載されておらず、いずれも「飽和脂肪酸量が35~60質量%、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が1.0~12.5質量%である油脂」に該当する「3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量が10.9~21質量%である油脂」である(実施例2ないし10及び13ないし27、並びに比較例1ないし4、9ないし12及び17ないし20)。
しかも、「3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量が10.9~21質量%である油脂」が、「飽和脂肪酸量が35~60質量%、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が1.0~12.5質量%である油脂」と、技術的に一致するものではないことは、「3飽和トリグリセリド(SSS)」が「飽和脂肪酸」及び「トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸」とは異なるものであることからみても、明らかである。
したがって、本願請求項1及び請求項1を直接又は間接に引用する請求項2ないし5に係る油中水型乳化油脂組成物に含有される油脂、並びに本願請求項6に係る油中水型乳化油脂組成物の製造方法において油相に含有される油脂を、「飽和脂肪酸量が35~60質量%、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が1.0~12.5質量%である油脂」には限定されない「3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量が10.9~21質量%である油脂」とすることは、原出願当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、原出願当初明細書等に記載された事項の範囲内のものではない。
(ウ)請求人の主張について
請求人は、令和3年3月30日提出の審判請求書において、概略、以下のとおり主張する。
「審査官が指摘されたように、原出願明細書の段落[0034]に記載された事項は、直接に文章として意味することは「飽和脂肪酸量が35~60質量%、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が1.0~12.5質量%である油脂を含有する油中水型乳化油脂組成物」であるという前提があった上での、好ましい3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量を記載したものである。ただ、実施例及び比較例における、脂肪酸から見た油脂組成、トリグリセリドから見た油脂組成が同一実施例及び比較例から導かれることを考慮したとき、そこから導いて記載した実質的な事項は何かという点に関して、段落[0034]の「本発明の油中水型乳化油脂組成物において、3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量は、油脂全量に対して好ましくは10~21質量%である。」という記載は、その前段である段落[0032]の「飽和脂肪酸の含有量は、油脂全量に対して35~60質量%である」という記載及び段落[0033]の「トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量は、油脂全量に対して1.0~12.5質量%である」という記載と、その臨界的意義において同義である。……。すなわち、実施例及び比較例における、脂肪酸から見た油脂組成、トリグリセリドから見た油脂組成が同一実施例及び比較例から導かれることを元に、段落[0034]ではトリグリセリドから見た油脂組成の方を記載したという、直接の意味に加えて実質的に記載しようとした内容も含まれている。
……。臨界的意義の記載は、原出願の規定(飽和脂肪酸量及び2位ラウリン酸量)が関与していることも、分割出願の規定(3飽和トリグリセリドの含有量)が関与していることも、上記実験結果に基づく同一観点より導くことができる。
発明をどのように捉えたかを着想とそれに続く具体化の同一性の観点から考慮すると、「脂肪酸」ではなく「トリグリセリド」としての指標である3飽和トリグリセリドの含有量に言い換えた発明は、本願明細書に記載した事項の全体から自明な程度に記載されていると思料する。」(11ページ23行~13ページ7行)及び
「本願発明における特定のホエイチーズ(段落[0055]、[0056]に記載した「乳製品1」である、濃縮生クリームおよび濃縮ホエイの混合物であるホエイチーズ)を添加したすべての比較例5~8、13~16、21~24では、3飽和トリグリセリドの含有量も同様に本願発明の範囲から外れている。この点において3飽和トリグリセリドの含有量における臨界的意義は検証されている。また、油脂として3飽和トリグリセリドの含有量を規定した本願発明において、原出願で規定した飽和脂肪酸量及び2位ラウリン酸量の範囲に入らない場合を含むことは有り得る。しかしながら、入らない場合を包含するから原出願から自明ではないというのではなく、油脂から得ようとする効果において着眼点が共通しており、3飽和トリグリセリドの含有量に着目して口溶けを適度にしようとする発明として把握すれば、飽和脂肪酸量及び2位ラウリン酸量は、食用油脂においては、油脂の種類は限られているという技術常識も勘案し、設計変更の範囲での調整となることが考慮される。……。実施例は、「3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量が特定範囲」のものにおいて、「飽和脂肪酸量及び2位ラウリン酸量が特定範囲」である油脂を含有する油中水型乳化油脂組成物の結果を示し、比較例は、「3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量が特定範囲」ではないものにおいて、「飽和脂肪酸量又は2位ラウリン酸量が特定範囲」ではない油脂を含有する油中水型乳化油脂組成物の結果を示しているが、「3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量が特定範囲」であれば、実施例及び比較例等の開示内容と当業者の出願時における通常の知識に基づいて、どのようにすれば所望の効果が得られるかは過度な試行錯誤も要することなく実施できると思料する。」(13ページ12行~14ページ6行)
請求人の主張について検討する。
原出願当初明細書等には、原出願当初明細書等に記載された発明の油中水型乳化油脂組成物に含有される油脂における「3飽和トリグリセリド(SSS)」の含有量が、その油中水型乳化油脂組成物の口溶けや甘味やうま味の口中での持続性の向上に寄与することは記載されていない。
たとえ、請求人の述べるように、「3飽和トリグリセリド(SSS)」は、全てが飽和脂肪酸であり、これを含む油脂組成物が全体として結晶化し易く融点が高くなり、固い可塑性油脂となる傾向へ特に寄与する成分であること、及び、これらのことは、油脂の口溶けに主に関与する要因であることが、原出願の出願時の技術常識であるとしても、原出願当初明細書等には、そこに記載された油中水型乳化油脂組成物の口溶けや甘味やうま味の口中での持続性の向上を図るために、その油中水型乳化油脂組成物に含有される油脂の「3飽和トリグリセリド(SSS)」の含有量に着目すべきであることは記載されていない。
そして、原出願当初明細書等における実施例及び比較例の油中水型乳化油脂組成物についての記載を検討すると、比較例1ないし4、9ないし12及び17ないし21は、油脂組成にかかわらずホエイチーズを含有しない例であり、比較例5ないし8、13ないし16及び21ないし24は、油脂が「飽和脂肪酸量が35~60質量%、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が1.0~12.5質量%である油脂」ではなく、「3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量が10.9~21質量%である油脂」でもない例であり、これらの比較例では本願発明の課題を解決しないことが示されており、実施例2ないし10、13ないし18及び19ないし26は、油脂が「飽和脂肪酸量が35~60質量%、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が1.0~12.5質量%である油脂」である例であり、これらの実施例では本願発明の課題を解決することが示されるとともに、当該油脂が「3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量が10.9~21質量%である油脂」にも該当することが示されており、実施例1、11及び12は、油脂が「飽和脂肪酸量が35~60質量%、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が1.0~12.5質量%である油脂」である例であり、これらの実施例では本願発明の課題を解決することが示されるとともに、当該油脂が「3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量が10.9~21質量%である油脂」には該当しないことが示されている。
そうすると、原出願当初明細書等における実施例及び比較例の記載をみても、「3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量が10.9~21質量%である油脂」と、「飽和脂肪酸量が35~60質量%、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が1.0~12.5質量%である油脂」とが、その含まれる油中水型乳化組成物の評価に及ぼす影響の点で同質・同等なものであることが、自明な事項であるとはいえない。
さらに、油中水型乳化油脂組成物に含有される油脂として、「飽和脂肪酸量が35~60質量%、トリグリセリドの2位に結合したラウリン酸量が1.0~12.5質量%である油脂」に代えて「3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量が10.9~21質量%である油脂」を用いた場合に、原出願当初明細書等の記載に接した当業者が、当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤・複雑高度な実験を要さずに、所期の効果が得られるか否かということは、油中水型乳化油脂組成物に含有される油脂を「3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量が10.9~21質量%である油脂」とすることが原出願当初明細書等に記載された事項の範囲内であるか否かということとは全く異なることであって、上記(1)で示した(要件2)の判断に影響を与えるものではない。
したがって、請求人の主張は採用できない。
(エ)よって、上記(1)に示した(要件2)は満たしていない。
(3)小括
以上のとおり、本願は適法に分割されたものではないから、本願の出願日は現実の出願日である令和1年 9月13日である。
2 新規性(特許法第29条第1項第3号)の判断
(1)引用文献1に記載された事項及び引用発明
上記1(3)のとおり、本願の出願日は令和1年 9月13日であり、原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2017-118849号公報は、本願の分割出願に係る原出願(特願2015-257415号)の公開公報であり、上記1(2)アで摘記した事項が記載されている。
引用文献1の請求項1ないし6、段落【0034】及び実施例2の記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「飽和脂肪酸量が44.1質量%、トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸量が1.6質量%、トリグリセリドの2位に結合されたオレイン酸量が47.4質量%、3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量が10.9質量%である油脂と、
濃縮生クリームおよび濃縮ホエイの混合物であるホエイチーズとを含有する油中水型乳化油脂組成物。」
(2)対比・判断
本願発明と、引用発明とを対比すると、引用発明の「3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量が10.9質量%」は、本願発明の「3飽和トリグリセリド(SSS)の含有量が10.9~21質量%」の範囲に含まれるから、本願発明と、引用発明との間に相違点はない。
よって、本願発明は引用文献1に記載された発明である。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-004025