特許拒絶査定不服審判
2021-003552
液晶組成物および液晶表示素子
- 審判番号
- 2021-003552
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-528367
- 請求日
- 2021年03月18日
- 審決日
- 2022年07月13日
- 公報発行日
- 2022年11月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】JNC株式会社
- 【請求人】JNC石油化学株式会社
- 審判長/審判官
- 審判長 門前 浩一
- 審判官 瀬下 浩一
- 審判官 亀ヶ谷 明久
- 分類
- P18 .121-WZ (C09K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017-528367「液晶組成物および液晶表示素子」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月19日国際公開、WO2017/010281〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)6月29日(優先権主張 平成27年7月15日 (JP)日本)を国際出願日とする出願であって、平成30年1月9日に上申書が提出され、令和2年3月3日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年5月8日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月3日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年10月14日に意見書及び手続補正書が提出され、同年12月23日付けで拒絶査定がなされ(謄本送達は令和3年1月5日)、これに対して、令和3年3月18日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、令和4年3月10日付けで当審から拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年5月12日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1ないし17に係る発明は、令和4年5月12日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、単に「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「 【請求項1】
第一成分として式(1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物
を含有し、そしてネマチック相および負の誘電率異方性を有する液晶組成物。
[図:0001390100000001.jpg]
式(1)において、R1およびR2は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、炭素数2から12のアルケニルオキシ、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルキルであり;環Aおよび環Cは独立して、1,4-シクロへキセニレン、テトラヒドロピラン-2,5-ジイル、1,4-フェニレン、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた1,4-フェニレン、ナフタレン-2,6-ジイル、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたナフタレン-2,6-ジイル、クロマン-2,6-ジイル、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたクロマン-2,6-ジイルであり;環Bは以下の構造であり、
[図:0001390100000002.jpg]
Xは、硫黄であり;Y1およびY2は独立して、水素、フッ素、またはトリフルオロメチルであり;Z1およびZ2は独立して、単結合、エチレン、カルボニルオキシ、またはメチレンオキシであり;aは、0であり;bは、0である。」
第3 令和4年3月10日付けの当審拒絶理由の内容
当審において通知した拒絶理由は次の理由を含むものである。
(進歩性)本願請求項1~18に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の引用文献1~3に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:国際公開2015/090506号
引用文献2:特表2013-545129号公報(引用文献1の第48ページ第7行で引用された文献の日本語ファミリー)
引用文献3:ドイツ特許出願公開第102013021683号明細書
第4 当審の判断
1 引用文献及びその記載事項
(1)引用文献
引用文献1:国際公開2015/090506号
引用文献4:特表2007-535506号公報(周知技術を示す文献)
(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1の記載事項
本願優先日前に頒布された引用文献1には、次の記載がある。なお、便宜上、当該引用文献1の記載の摘示にあたっては、パテントファミリーである特表2017-501450号公報を訳文として使用し、当該公報の対応箇所を示すこととした。
(1a)「【請求項1】
光の通過を制御するためのデバイスであって、
色素化合物を含む液晶材料を含む層を含むことを特徴とし、
液晶材料は少なくとも95℃の透明点を有し、式(E-1)、(E-2)および(E-3)の単位から選択される少なくとも1種類の単位を含有する少なくとも1種類の化合物Vを含むデバイス。
【化1】
[図:0001390100000003.jpg]
」
(1b)「【0046】
更に、液晶材料は、好ましくは、少なくとも-20℃~100℃の温度範囲において、特に好ましくは少なくとも-30℃~100℃の温度範囲において、非常に特に好ましくは少なくとも-40℃~105℃の温度範囲において、最も好ましくは少なくとも-50℃~105℃の温度範囲においてネマチック液晶である。」
(1c)「【0053】
液晶材料は、好ましくは、以下の式(F)の1種類以上の化合物を含む。
【0054】
【化14】
[図:0001390100000004.jpg]
式中、
R1、R2は、それぞれの出現で同一または異なって、F、Cl、-CN、-NCS、-SCN、R3-O-CO-、R3-CO-O-、1~10個のC原子を有するアルキルもしくはアルコキシ基または2~10個のC原子を有するアルケニルもしくはアルケニルオキシ基を表し、ただし、上述の基中の1個以上の水素原子はFまたはClで置き換えられていてもよく、1個以上のCH2基はOまたはSで置き換えられていてもよく、
R3は、それぞれの出現で同一または異なって、1~10個のC原子を有するアルキル基を表し、ただし、1個以上の水素原子はFまたはClで置き換えられていてもよく、1個以上のCH2基はOまたはSで置き換えられていてもよく、
A1は、それぞれの出現で同一または異なって、以下の基の1つから選択され、
【0055】
【化15】
[図:0001390100000005.jpg]
【0056】
【化16】
[図:0001390100000006.jpg]
式中、
Yは、それぞれの出現で同一または異なって、F、Cl、CNおよび1~10個のC原子を有するアルキル、アルコキシまたはアルキルチオ基から選択され、ただし、アルキル、アルコキシまたはアルキルチオ基中の1個以上の水素原子はFまたはClで置き換えられていてもよく、アルキル、アルコキシまたはアルキルチオ基中の1個以上のCH2基はOまたはSで置き換えられていてもよく・・・」
(1d)「【0140】
A)液晶混合物の調製
2種類の比較混合物V1およびV2を調製する。更に、本願による混合物である液晶混合物E1~E10を調製する。
【0141】
混合物V1、V2およびE1~E10の組成を下に示す。本明細書において、混合物の個々の構成成分の化学構造は略号(頭文字)で再現される。これらの略号は国際特許出願公開第2012/052100号公報(第63~89頁)で明示的に提示され説明されており、本願の略号を説明するために当該出願公開を参照する。
【0142】
以下の略号は前記分子に対応しておらず、そのため、対応する化学構造を明示的に示す。
【0143】
【表19】
[図:0001390100000007.jpg]
【0144】
【表20】
[図:0001390100000008.jpg]
・・・
【0151】
【表25】
[図:0001390100000009.jpg]
【0152】
【表26】
[図:0001390100000010.jpg]
」
イ 引用文献4
技術常識を示す文献として引用する、本願優先日前に頒布された引用文献4には、次の記載がある。
4a「【請求項1】
一般式I:
【化1】
[図:0001390100000011.jpg]
式中、
mおよびnそれぞれは、互いに独立して0、1、2または3であり、
Yは、O、S、S(O)、SO2、CH2、CF2、CCl2、CHF、CHCl、CFCl、C(CF3)2、CHCF3、C(CN)2またはCHCNを示し、
X1、X2およびX3それぞれは、互いに独立してH、ハロゲン、CN、SCN、NCSまたはSF5を示し、
A1およびA2それぞれは、互いに独立して、=CH-が一度か二度=N-に置換されてもよく、また非置換であるか、互いに独立して、-CN、-F、-Cl、-Br、-Iにより一から四置換されてもよい1,4-フェニレン、非置換であるか、フッ素および/または塩素、または非置換であるか、フッ素および/または塩素により一または多置換されたC1-C6-アルコキシにより一または多置換されたC1-C6-アルカニル、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、または、CH2-が一度か二度、互いに独立して、ヘテロ原子が直接結合されていないように-O-または-S-に置換されてもよく、非置換であるか、-F、-Cl、-Brおよび/または-Iにより一または多置換されてもよい1,4-シクロヘキサジエニレンを示し、
Z1およびZ2それぞれは、互いに独立して、単結合、二重結合、-CF2O-、-OCF2-、-CH2CH2-、-CF2CF2-、-CF2CH2-、-CH2CF2-、-CHF-CHF-、-C(O)O-、-OC(O)-、-CH2O-、-OCH2-、-CF=CH-、-CH=CF-、-CF=CF-、-CH=CH-または-C≡C-を示し、
R1およびR2は、水素、または1~15個あるいは2~15個のC原子を有する、それぞれ非置換であるか、-CNまたは-CF3により一置換された、またはF、Cl、Brおよび/またはIにより一置換または多置換され、さらにこれらの基中のCH2基が、1つまたは2つ以上それぞれ互いに独立して、-O-、-S-、-SO2-、-CO-、-COO-、-OCO-または-OCO-O-により、ヘテロ原子が-F、-Cl、-Br、-I、-CN、-SCN、-NCSまたは-SF5に直接結合されないように置換さてもよいアルカニル、アルコキシ、アルケニル、またはアルキニル基を示す、
mまたはnが1より大きい場合、A1、A2、Z1、Z2、R1およびR2はそれぞれ同一または異なる意味を有してもよく、
そして同時にnが0であり、X1がFを示し、X2がHまたはFを示し、およびX3がHを示す場合、R2はHを示さない、
で表される化合物。
・・・
【請求項13】
少なくとも2つの液晶化合物を含み、請求項1~11のいずれかに記載の化合物を少なくとも1つ含むことを特徴とする液晶媒体。」
4b「【0001】
本発明はジベンゾフラン、ジベンゾチオフェンおよびフルオレン誘導体、これらの誘導体を含む液晶媒体、およびこれらの液晶媒体を含む電気光学表示素子に関する。とくに、本発明は、負の誘電異方性のジベンゾフラン、ジベンゾチオフェンおよびフルオレン誘導体に関する。
・・・
【0019】
この化合物は負のΔεを有していて、したがって、とくにVA-TFTディスプレイでの使用に適当である。本発明に記載のこの化合物は、好ましくは<-2のΔεを有して、とくに<-4のΔεが好ましい。それらはディスプレイのための液晶混合物に使われる通常の物質ととても良い相性を示す。
【0020】
さらに、本発明に記載の式Iの化合物は、VA-TFTディスプレイでの使用にとくに適している光学異方性Δnのための価値を有している。本発明に記載のこの化合物は、好ましくは0.05より大きく、0.40より小さいΔnを有する。
【0021】
その他の、本発明に記載のこの化合物の物理的、物理化学的または電気光学的要素はまた、液晶媒体内の同化合物の利用に有利である。該化合物、またはこれらの化合物を含む液晶媒体は、とくに、ネマチック相の十分な幅、および良い低温度安定性、および長期の安定性、そして十分に高い透明点を有している。」
2 引用文献1に記載された発明
上記引用文献1には、引用文献1に記載の液晶混合物はネマチック相を有することが記載され(摘記1b参照)、【表25】の混合物E10(摘記1d参照)は、液晶混合物であって、ネマチック相を有するものと解することができる。
そうすると、引用文献1には、混合物E10として「CY-3-O2を12.5%、CCY-3-O1を9%、CCY-3-O2を11%、CCY-4-O2を7%、CPY-3-O2を3%、CC-3-Vを31%、B-2O-O5を4%、PY-V2-O2を5.5%、CPY-V-O2を6%、CPY-V-O4を5%、CCY-V-O2を6%からなり、透明点が87℃、Δεが-4.8、Δnが0.103であり、ネマチック相を有する液晶混合物。」の発明(以下、「引用発明」という。)が、記載されている。
3 対比・判断
(1)本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「Δεが-3.5」は「Δε」は誘電異方性のことであるから、本願発明の「負の誘電率異方性を有する」に相当し、引用発明の「液晶混合物」は、本願発明の「液晶組成物」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明は「ネマチック相および負の誘電率異方性を有する液晶組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点>
本願発明は、第一成分として式(1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物(
[図:0001390100000012.jpg]
式(1)において、R1およびR2は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、炭素数2から12のアルケニルオキシ、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルキルであり;環Aおよび環Cは独立して、1,4-シクロへキセニレン、テトラヒドロピラン-2,5-ジイル、1,4-フェニレン、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた1,4-フェニレン、ナフタレン-2,6-ジイル、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたナフタレン-2,6-ジイル、クロマン-2,6-ジイル、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたクロマン-2,6-ジイルであり;環Bは以下の構造であり、
[図:0001390100000013.jpg]
Xは、硫黄であり;Y1およびY2は独立して、水素、フッ素、またはトリフルオロメチルであり;Z1およびZ2は独立して、単結合、エチレン、カルボニルオキシ、またはメチレンオキシであり;aは、0であり;bは、0である。)を含有するのに対し、引用発明は第一成分として式(1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有しない点。
(2)相違点についての検討。
引用発明は、B-2O-O5を含み、引用文献1の【0144】の
[図:0001390100000014.jpg]
という記載からみて(摘記1c参照)、本願発明の「第一成分として式(1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」
「
[図:0001390100000015.jpg]
式(1)において、R1およびR2は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ(H5C2-O-、-O-C5H11)、炭素数2から12のアルケニル、炭素数2から12のアルケニルオキシ、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルキルであり;環Aおよび環Cは独立して、1,4-シクロへキセニレン、テトラヒドロピラン-2,5-ジイル、1,4-フェニレン、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた1,4-フェニレン、ナフタレン-2,6-ジイル、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたナフタレン-2,6-ジイル、クロマン-2,6-ジイル、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたクロマン-2,6-ジイルであり;環Bは以下の構造であり、
[図:0001390100000016.jpg]
Xは、硫黄であり;Y1およびY2は独立して、水素、フッ素、またはトリフルオロメチルであり;Z1およびZ2は独立して、単結合、エチレン、カルボニルオキシ、またはメチレンオキシであり;aは、0であり;bは、0である。」(下線参照)におけるXが、硫黄ではなく、酸素である場合に相当する。
ここで、酸素と硫黄は同族元素であって、類似の性質を有することが技術常識であり、さらに、例えば引用文献4には、ネマチック相及び負の誘電異方性を有する液晶媒体おいて、ジベンゾフラン誘導体とジベンゾフラン誘導体の酸素が硫黄となっているジベンゾチオフェン誘導体は、同様に用いられるものであるとの事項が記載されており(摘記4a、4b参照)、引用文献4が公知となったのは2007年12月6日であって、本願優先日の2015年7月15日より7年以上前であるし、引用文献4は日本で2011年に特許登録されて特許掲載公報が発行されるとともに、国際出願である引用文献4のファミリー出願も、欧州、米国、韓国及び中国において公開・登録されていることからみて、当該事項は、周知の技術事項であると認められる。
そうすると、ネマチック相及び負の誘電異方性を有する液晶混合物である引用発明において、ジベンゾフラン誘導体であるB-2O-O5に代えて、ネマチック相及び負の誘電異方性を有する液晶媒体において同様に用いられることが周知である、そのジベンゾフラン誘導体の酸素が硫黄となっているジベンゾチオフェン誘導体を採用し、第一成分として式(1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物(
[図:0001390100000017.jpg]
式(1)において、R1およびR2は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、炭素数2から12のアルケニルオキシ、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルキルであり;環Aおよび環Cは独立して、1,4-シクロへキセニレン、テトラヒドロピラン-2,5-ジイル、1,4-フェニレン、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた1,4-フェニレン、ナフタレン-2,6-ジイル、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたナフタレン-2,6-ジイル、クロマン-2,6-ジイル、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたクロマン-2,6-ジイルであり;環Bは以下の構造であり、
[図:0001390100000018.jpg]
Xは、硫黄であり;Y1およびY2は独立して、水素、フッ素、またはトリフルオロメチルであり;Z1およびZ2は独立して、単結合、エチレン、カルボニルオキシ、またはメチレンオキシであり;aは、0であり;bは、0である。)を含有するものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
(3)本願発明の効果について
本願明細書には、式(1)で表される化合物のXが硫黄であるジベンゾチオフェン誘導体を含む液晶組成物が具体的な実施例として記載されておらず、その効果の検証はされていないし、Xが硫黄である場合に、酸素である場合よりも優れることについて何らの記載がなく、そのことが理解できるような作用機序の記載もないから、本願発明により奏される効果に当業者の予測を超える顕著なものがあるとはいえない。
(4)請求人の主張について
請求人は、令和4年5月12日付けの意見書において、「環構造に硫黄原子を導入した化合物を液晶組成物の成分として使用することは、出願当時の当業者常識とは言えず、また酸素原子と硫黄原子では電子的な環境が異なることから、それに伴う作用効果を予測することは困難であります。
引用文献1に開示された組成物と比較して、本願発明が顕著な効果を有することを以下に説明致します。
引用文献1のE10には、補正前の本願発明に相当する組成物が開示されております。
この組成物を用いて、
[図:0001390100000019.jpg]
に置き換え、本願発明の組成物を調製し、物性値を比較致しました(表1)。
[図:0001390100000020.jpg]
表1に示しますように、本願発明の組成物は高い上限温度、負に大きな誘電率異方性、および低い下限温度を有することから、より広範囲の温度で動作可能かつより小さな電圧で駆動可能な素子を提供可能となります。これら効果は、引用文献1には記載も示唆もない顕著な効果であります。
以上の通り、本願発明の組成物は、引用文献1に記載されておりません。また、そのような構成とする動機付けとなり得るものも引用文献には全くなく、それは当業者であっても容易に想到し得ないことです。
また引用文献3も本願式(1)におけるXが酸素である化合物に相当するBF-1およびBF-2が開示されているものの、Xが硫黄である態様の開示や示唆はございません。
よって、引用文献1および引用文献3を組み合わせたとしても、本願発明に容易に想到することはできません。」と主張する。
しかし、上記(2)のとおり、酸素と硫黄は類似の性質を有することが技術常識であり、環構造に硫黄原子を導入した化合物を液晶組成物の成分として使用することは知られているし、上記意見書に記載された
[図:0001390100000021.jpg]
の効果については、上記(3)のとおり、本願明細書には、式(1)で表される化合物のXが硫黄であるジベンゾチオフェン誘導体を含む液晶組成物は具体的に記載されておらず本願発明の効果を認識、又は推論できる記載が本願明細書中にあるとはいえないから、出願後に補充した実験結果を参酌することはできない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。
(5)まとめ
上記のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に想到し得るものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
第5 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができないものである。
したがって、本願は、その他の請求項について検討するまでもなく、同法第49条の規定により、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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