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特許拒絶査定不服審判

2021-003031

ポリエステル樹脂組成物

審判番号
2021-003031
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2016-249606外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2021年03月05日
審決日
2023年01月10日
公報発行日
2023年03月31日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (C08L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2016-249606「ポリエステル樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 7月 5日出願公開、特開2018-104496〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 18項目
理 由

第1 手続の経緯

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本願は、平成28年12月22日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年 4月13日提出:手続補正書
令和 2年 6月30日付け:拒絶理由通知
令和 2年 9月 4日提出:意見書、手続補正書
令和 2年11月27日付け:拒絶査定
令和 3年 3月 5日 :拒絶査定不服審判の請求
令和 4年 8月22日付け:拒絶理由通知
令和 4年10月21日提出:意見書、手続補正書

第2 本願発明

令和4年10月21日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「ジカルボン酸成分(a-1)としてテレフタル酸単位を100モル%、ジオール成分(a-2)として1,4-シクロヘキサンジメタノール単位を90モル%以上含むポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、前記ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)よりも、JIS K7198Aに準じて測定されるガラス転移温度が高いポリアリレート樹脂(B)を1質量部以上50質量部以下の割合で含むポリエステル樹脂組成物からなるポリエステル系二軸延伸フィルム。」

第3 拒絶の理由

令和4年8月22日付けで当審が通知した拒絶理由の概要は、以下のとおりのものである。

請求項1~5に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、以下の引用文献1,3~7に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2002-302596号公報
引用文献3:特開平11-161756号公報
引用文献4:特開2004-318605号公報
引用文献5:特開昭60-70792号公報
引用文献6:Uパウダー,ユニチカ株式会社,URL,

https://www.unitika.co.jp/plastics/products/par/upolymer/u-powder/

引用文献7:特開2015-117376号公報

第4 本願明細書等に記載された事項及び本願発明の技術的意義

1 本願明細書に記載された事項

本願明細書には、以下の事項が記載されている。

「【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、耐熱性、機械的強度、透明性、耐薬品性、ガスバリアー性などの性質に優れており、かつ価格的にも入手し易い事から、汎用性が高く、現在、飲料・食品用容器や包装材、成形品、フィルムなどに広く利用されている樹脂である。中でも、酸成分としてテレフタル酸、ジオール成分として1,4-シクロヘキサンジメタノールをそれぞれ主成分とするポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)は、融点が290℃と高く、また、結晶化速度が速い事から、耐熱性が必要とされる射出成形用途として広く使用されており、二軸延伸フィルム用途としても各種検討がなされている。ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートを用いた二軸延伸フィルムは、その耐熱性を生かして、フレキシブル基板、ITOの保護フィルム、スマートフォンやタブレット用のプリズムシート、液晶の保護フィルム等の用途での使用が期待されている。これらの用途においては、使用時の温度が高温になるため、80~200℃×数分~数日間という過酷な耐熱試験にも耐える必要がある。
【0003】
続きを表示(全17行)
例えば特許文献1には、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートからなる二軸延伸配向ポリエステルフィルムであって、特定の延伸比及び延伸温度で延伸又は配向され、且つ続いて延伸されたフィルムが、260℃以上の実際のフィルム温度において、延伸フィルムの寸法を保持しながらヒートセットされた、耐熱性に優れたフィルムが開示されている。
【0004】
一方、特許文献2には、(a)テレフタル酸残基、(b)1,4-シクロヘキサンジメタノール残基、及び、(c)別のジカルボン酸又はジオール残基、を含んでなるポリエステルから製造された、耐熱性に優れた二軸延伸ポリエステルフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005-530908号公報
【特許文献2】特表2008-524396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に開示されているフィルムは、フレキシブル回路基板のような、高温で長期間の環境下で使用される用途によってはフィルム収縮といった不具合が生じる。
本発明で解決しようとする課題は、上記の問題点を解決し、透明性、耐熱性、及び、延伸加工性に優れたポリエステル樹脂組成物を提供することにある。また透明性、加熱時の耐収縮性に優れたポリエステル系二軸延伸フィルムを提供することにある。」
「【発明の効果】
【0009】
本発明が提案するポリエステル樹脂組成物は、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂の透明性を損なわずに耐熱性、延伸加工性が改善されており、この樹脂組成物から得られるポリエステル系二軸延伸フィルムは透明性、加熱時の耐収縮性に優れるので、耐熱性や光学特性が必要な用途にも好適に使用できる。」
「【0014】
本発明の樹脂組成物は、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、ポリアリレート樹脂(B)を1質量部以上50質量%以下の割合で含むことが重要である。
【0015】
本発明の樹脂組成物において、ポリアリレート樹脂(B)の含有割合はポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、1質量部以上50質量部以下であることが重要であり、3質量部以上或いは45質量部以下であることが好ましく、5質量部以上或いは40質量部以下であることがより好ましく、10質量部以上或いは35質量部以下であることが更に好ましい。ポリアリレート樹脂(B)の割合が1質量部以上であれば、本発明の樹脂組成物の耐熱性が十分なものとなり、ひいては結晶化温度を遅くすることができるため樹脂組成物の延伸加工性が向上する。一方、ポリアリレート樹脂(B)の割合が50質量部以下であれば、樹脂組成物の結晶性を維持され、ひいては得られる二軸延伸フィルムの加熱時の耐収縮性が十分なものとなる。」
「【0020】
本樹脂組成物のガラス転移温度が単一である場合、その温度は110℃以上、300℃以下である事が好ましく、115℃以上或いは290℃以下である事がより好ましく、120℃以上或いは280℃以下である事が更に好ましく、125℃以上或いは270℃以下である事が特に好ましく、130℃以上或いは260℃以下である事がとりわけ好ましい。本樹脂組成物のガラス転移温度がかかる範囲にあれば、本樹脂組成物は耐熱性と延伸成型性のバランスに優れる。
ガラス転移温度は、JIS K7198Aに準じて、動的粘弾性の温度分散測定を用いて歪み0.1%、周波数10Hz、昇温速度3℃/分にて測定される損失正接(tanδ)の主分散のピークで評価される。」
「【0027】
前記ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)を構成するジカルボン酸成分(a-1)は、テレフタル酸を90モル%以上とすることが重要である。ジカルボン酸成分(a-1)のうち、テレフタル酸が92モル%以上であることが好ましく、94モル%以上である事がより好ましく、96モル%以上であることが更に好ましく、98モル%以上であることが特に好ましく、ジカルボン酸成分(a-1)の全て(100モル%)がテレフタル酸であることがとりわけ好ましい。ジカルボン酸成分(a-1)としてテレフタル酸を90モル%以上とすることにより、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)のガラス転移温度、融点、及び、結晶性が向上し、ひいては本発樹脂組成物の耐熱性が向上する。
【0028】
・・・
【0029】
前記ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)を構成するジオール成分(a-2)は、1,4-シクロヘキサンジメタノールを90モル%以上含む事が重要である。ジオール成分(a-2)のうち、1,4-シクロヘキサンジメタノールが92モル%以上である事が好ましく、94モル%以上である事がより好ましく、96モル%以上である事が更に好ましく、98モル%以上である事が特に好ましく、ジオール成分(a-2)の全て(100モル%)が1,4-シクロヘキサンジメタノールである事がとりわけ好ましい。ジオール成分(a-2)が1,4-シクロヘキサンジメタノールを90モル%以上とすることにより、ポリアリレート樹脂(B)との相溶性が向上し、さらにはポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)の融点、及び、結晶性が向上し、ひいては本樹脂組成物の耐熱性が向上する。」
「【0040】
本発明に用いるポリアリレート樹脂(B)は、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)よりもガラス転移温度が高い事が重要である。そのガラス転移温度の差は60℃以上であるのが好ましく、70℃以上であるのがより好ましく、80℃以上であるのが更に好ましく、90℃以上であるのが特に好ましく、100℃以上であるのがとりわけ好ましい。
ポリアリレート樹脂(B)のガラス転移温度は150℃以上350℃以下であるのが好ましく、160℃以上或いは340℃以下であるのがより好ましく、170℃以上或いは330℃以下であるのが更に好ましく、180℃以上或いは320℃以下であるのが特に好ましく、190℃以上或いは300℃以下であるのがとりわけ好ましい。ポリアリレート樹脂(B)のガラス転移温度が上記を満たすことで、ガラス転移温度を向上し溶融成形性にも優れた本樹脂組成物が得られる。」
「【0062】
[ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)]
(A)-1:SKYPURA0502
(SKケミカル社製、ジカルボン酸成分:テレフタル酸=100モル%、ジオール成分:1,4-シクロヘキサンジメタノール=100モル%、Tm(A)=286℃、ΔHm(A)=42J/g、Tg(A)=104℃)
続きを表示(全54行)
【0063】
[ポリアリレート樹脂(B)]
(B)-1:Uポリマー U-100
(ユニチカ社製、ジカルボン酸成分:テレフタル酸/イソフタル酸=50/50モル%、ビスフェノール成分:ビスフェノールA=100モル%、Tg(B)=210℃)
【0064】
(B)-2:Uポリマー T-240AF
(ユニチカ社製、ジカルボン酸成分:テレフタル酸/イソフタル酸=50/50モル%、ビスフェノール成分:ビスフェノールA/ビスフェノールTMC=60/40モル%、Tg(B)=244℃)
【0065】
(B)-3:Uポリマー T-200
(ユニチカ社製、ジカルボン酸成分:テレフタル酸/イソフタル酸=50/50モル%、ビスフェノール成分:ビスフェノールTMC=100モル%、Tg(B)=286℃)
【0066】
(B)-4:Uポリマー T-1000
(ユニチカ社製、Uポリマー T-200/ポリカーボネート樹脂=90/10質量%の混合物、Tg(B)=272℃)
【0067】
(実施例1)
ペレット状の(A)-1を100質量部に対して、ペレット状の(B)-1を25質量部の割合で添加し、ドライブレンドした後、300℃に設定したΦ25mm二軸押出機にて溶融混練し、Tダイ内からフィルムとして押出し、20℃のキャストロールに密着急冷し、厚み450μmのキャストフィルムを得た。このキャストフィルムについて、結晶融解温度、結晶融解熱量、降温結晶化温度、ガラス転移温度の評価を行った。
続いて、得られたキャストフィルムを縦延伸機に通し、125℃で縦方向(MD)に3倍延伸を行った。続いて、得られた縦延伸フィルムを横延伸機(テンター)に通し、予熱温度125℃、延伸温度130℃、熱固定温度260℃で横方向(TD)に3倍延伸を行った。得られた二軸延伸フィルムについて、加熱収縮率及びヘーズの測定を行った。結果を表1に示す。
【0068】
(実施例2)
(B)-1の代わりに(B)-2を使用し、成形温度を320℃、縦延伸温度を132℃、予熱温度を132℃、横延伸温度を142℃とした以外は実施例1と同様の方法でサンプルの作製及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0069】
(実施例3)
(B)-1の代わりに(B)-3を使用し、成形温度を330℃、縦延伸温度を140℃、予熱温度を140℃、横延伸温度を150℃とした以外は実施例1と同様の方法でサンプルの作製及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0070】
(実施例4)
(B)-1の代わりに(B)-4を使用し、成形温度を330℃、縦延伸温度を138℃、予熱温度を138℃、横延伸温度を148℃とした以外は実施例1と同様の方法でサンプルの作製及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0071】
(実施例5)
(A)-1を100質量部に対して、(B)-1を10質量部の割合で添加し、縦延伸温度を114℃、予熱温度を114℃、横延伸温度を124℃とした以外は実施例1と同様の方法でサンプルの作製及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0072】
(実施例6)
(A)-1を100質量部に対して(B)-1を40質量部の割合で添加し、縦延伸温度を134℃、予熱温度を134℃、横延伸温度を144℃とした以外は実施例1と同様の方法でサンプルの作製及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
(比較例1)
(A)-1を単体で使用し、縦延伸温度を104℃、予熱温度を104℃、横延伸温度を114℃とした以外は実施例1と同様にサンプルの作製を行ったところ、横延伸過程において破断が起こった。評価結果を表1に示す。
【0074】
(比較例2)
縦方向(MD)に2.5倍、横方向(TD)に2.5倍で延伸を行った以外は比較例1と同様にサンプルの作成を行ったところ、問題なく二軸延伸フィルムが得られた。評価結果を表1に示す。
【0075】
(比較例3)
(A)-1を100質量部に対して(B)-1を100質量部の割合で添加し、縦延伸温度を157℃、予熱温度を157℃、横延伸温度を167℃とした以外は実施例1と同様の方法でサンプルの作製及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
[図:0001394357000001.jpg]
【0077】
実施例1~4では、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、ビスフェノール成分が異なるポリアリレート樹脂又はポリカーボネートを含むポリアリレート樹脂を、それぞれ25質量部添加している。得られる樹脂組成物は、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)単体と比較してガラス転移温度が向上しており、より耐熱性に優れることがわかる。また、この樹脂組成物は特に問題なく二軸延伸フィルムを製造することができ、得られた二軸延伸フィルムは透明性と加熱時の耐熱性に優れることが分かる。
実施例5では、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するポリアリレート樹脂(B)の配合割合を10質量部としている。実施例1と比較してポリアリレート樹脂(B)の配合割合が少ないためガラス転移温度の向上効果が小さく耐熱性が若干低下しているものの、優れた透明性、延伸加工性を示す樹脂組成物が得られている。
実施例6では、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するポリアリレート樹脂(B)の配合割合を40質量部としている。実施例1と比較してポリアリレート樹脂(B)の配合割合が多いため樹脂組成物の結晶性が低下しており、耐熱性が若干低下しているものの、優れた透明性、延伸加工性を示す樹脂組成物が得られている。
比較例1、2では、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)を単体で使用している。この樹脂組成物は、結晶融解温度と降温結晶化温度の差が小さいことより、結晶性が高く、結晶化速度が大きい樹脂組成物であることがわかる。比較例1においては、キャスティングロールでの急冷過程において結晶性が高いシートが得られるため、実施例と等倍率での延伸をした時、破断を起こしてしまったと考えられる。一方、比較例2においては、実施例や比較例1よりも延伸倍率を下げているため延伸は可能であるものの、ポリアリレート樹脂を含まないため樹脂組成物のガラス転移温度が低く、得られる二軸延伸フィルムの加熱収縮率は大きくなっている。すなわち、耐熱性が低下している。
比較例3では、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するポリアリレート樹脂(B)の配合割合を100質量部としている。この樹脂組成物は、結晶融解温度と降温結晶化温度の差が大きいこと、及び、結晶融解熱量が小さいことより、結晶化速度が小さく、結晶化度が低い樹脂組成物であることがわかる。当該樹脂組成物を用いた二軸延伸フィルムは、製造時の熱固定の際に十分な結晶化が起こらず、また、起こったとしても絶対的な結晶化度が低いため、加熱収縮率が大きい、すなわち耐熱性が低くなったと考えられる。」

2 参考文献Aに記載された事項

参考文献A:湯木和男編、日刊工業新聞社、「飽和ポリエステル樹脂ハンドブック」、初版、878~886頁、1989年

参考文献Aには、以下の事項が記載されている。

[図:0001394357000002.jpg]

[図:0001394357000003.jpg]

[図:0001394357000004.jpg]

[図:0001394357000005.jpg]

[図:0001394357000006.jpg]

[図:0001394357000007.jpg]

[図:0001394357000008.jpg]

[図:0001394357000009.jpg]

[図:0001394357000010.jpg]

3 本願発明の技術的意義

本願明細書には、酸成分としてテレフタル酸、ジオール成分として1,4-シクロヘキサンジメタノールをそれぞれ主成分とするポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)を用いた二軸延伸フィルムは、その耐熱性を生かして、フレキシブル基板等の用途での使用が期待されているが、加熱時の耐収縮性に問題があったことが記載され(本願明細書の【0006】)、本願発明の課題は、透明性、耐熱性、及び、延伸加工性に優れたポリエステル樹脂組成物を提供し、当該樹脂組成物を用いて、透明性、加熱時の耐収縮性に優れたポリエステル系二軸延伸フィルムを提供すること(同)であると解される。

また、本願明細書には、ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)よりもガラス転移温度が高い非晶性樹脂であるポリアリレート樹脂(B)がポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)と相溶性を示すこと、及び、これらを含む樹脂組成物が、優れた透明性、耐熱性、延伸加工性を示すことを見出したことが記載されている(同【0013】)。

そうすると、本願発明の技術的意義は、ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)、及び、当該ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)よりもガラス転移温度が高いポリアリレート樹脂(B)を含む樹脂組成物を用いて上記課題を解決することにあると解される。

そして、上述のように、本願発明の「ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)」の代表例である上記PCTは、耐熱性に優れたポリエステルであり、その二軸延伸フィルムは、PETに比べて、透明性、熱変形温度、柔軟性に優れるものであることは、本願出願前に周知の事項である(参考文献Aの878~883頁)。

また、本願発明の「ポリアリレート樹脂」は、全芳香族ポリエステルの総称であり、その商品である「Uポリマー」のフィルム及びシートは、厚さ50~5000μmのものが知られており、PETに比べて、耐熱性や熱収縮率に優れるものが知られている(参考文献Aの884~886頁)。

このように、本願発明の構成成分である「ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂」及び「ポリアリレート樹脂」は、ともに耐熱性に優れたポリエステルであって、フィルムにも加工される樹脂であること、並びに、上記「ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂」を二軸延伸フィルムとしたものは、本願出願前の周知の事項であるといえる。

第5 引用文献等の記載及び引用発明

1 引用文献1に記載された事項及び引用文献1に記載された発明

(1)引用文献1に記載された事項

引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は当審による。以下同様。)。

「【請求項1】 (A)ポリアリレート樹脂10~90質量部、および(B)少なくともテレフタル酸および1,4-シクロヘキサンジメタノールからなるポリエステルであって、テレフタル酸の使用量が該ポリエステルの全ジカルボン酸成分に対して50~100モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノールの使用量が該ポリエステルの全ジオール成分に対して50~100モル%であるポリエステル90~10質量部を含んでなることを特徴とするポリアリレート樹脂組成物。
【請求項2】
・・・
【請求項8】 請求項1~7いずれかに記載のポリアリレート樹脂組成物からなる射出成形品または押出し成形品。」
「【0003】係るポリアリレート(PAR)は耐熱性が高く、機械的強度や寸法安定性に優れ、加えて透明であるので、様々な分野で使用されているが、成形加工性の向上、耐薬品性の向上の観点からPARをポリエチレンテレフタレート(PET)等の他のポリエステルとの樹脂組成物として使用すると、該樹脂組成物はPAR単独と比較して耐熱性等の各種特性が顕著に低下することが問題となっていた。
【0004】例えば、PARとPETとの樹脂組成物は、成形加工性、耐薬品性は向上するものの、PAR単独と比較して耐熱性、耐衝撃性が顕著に低下するため、その応用は大きく制限されていた。耐熱性が顕著に低下すると、該組成物の製造時における予備乾燥の条件設定が難しく、取り扱いが著しく困難になる。耐衝撃性が顕著に低下すると、得られる成形品が粘度低下によりクラックを顕著に発生し易くなる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、成形性、耐熱性、耐衝撃性および透明性に優れたポリアリレート樹脂組成物および該組成物からなる成形品を提供することを目的とする。
【0006】本発明はまた、成形性、耐熱性、耐衝撃性および透明性に優れ、成形加工時に変色をほとんど起こさないポリアリレート樹脂組成物および該組成物からなる成形品を提供することを目的とする。」
「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、(A)ポリアリレート樹脂10~90質量部、および(B)少なくともテレフタル酸および1,4-シクロヘキサンジメタノールからなるポリエステルであって、テレフタル酸の使用量が該ポリエステルの全ジカルボン酸成分に対して50~100モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノールの使用量が該ポリエステルの全ジオール成分に対して50~100モル%であるポリエステル90~10質量部を含んでなることを特徴とするポリアリレート樹脂組成物に関する。
【0008】
【発明の実施の形態】本発明に用いられるポリアリレート樹脂(A)とは芳香族ジカルボン酸残基単位とビスフェノール類残基単位とが繰り返されてなる芳香族ポリエステル重合体である。
【0009】ビスフェノール類残基単位を導入するためのポリアリレート原料はビスフェノール類であり、その具体例として、例えば2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパン、4,4'-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4'-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4'-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4'-ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4'-ジヒドロキシジフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等が挙げられる。これらの化合物は単独で使用してもよいし、あるいは2種類以上混合して使用してもよい。これらの化合物の中でも少なくとも2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを使用することが好ましく、より好ましくは当該化合物を単独で使用する。
【0010】芳香族ジカルボン酸残基単位を導入するためのポリアリレート原料の好ましい例としては、テレフタル酸およびイソフタル酸が挙げられる。本発明においては両者が混合して用いられると得られるポリアリレート樹脂組成物の溶融加工性及び機械的特性の面で特に好ましい結果が得られる。その混合比率(テレフタル酸/イソフタル酸)は任意に選択することができるが、モル分率で90/10~10/90の範囲であることが好ましく、より好ましくは70/30~30/70、特に好ましくは50/50である。テレフタル酸の混合モル分率が10モル%未満であっても90モル%を超えていても十分な重合度を得にくくなる。
【0011】上記のような原料からなるポリアリレート樹脂(A)は、機械的特性と流動性の観点から、極限粘度が0.4~1.0、好ましくは0.4~0.8、より好ましくは0.5~0.7であることが望ましい。本明細書中、極限粘度はフェノールと四塩化エタンとの等量混合物を溶媒として調製された温度20℃の溶液を用いて測定された値を用いている。
【0012】本発明においてはポリアリレート樹脂(A)として、例えば、市販のユニチカ社製U-100、DパウダーおよびLパウダーを好ましく使用することができる。
【0013】本発明において使用されるポリエステル(B)はジカルボン酸成分とジオール成分とを重合させてなり、ジカルボン酸成分として少なくともテレフタル酸(TPA)を用い、ジオール成分として少なくとも1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)を用いたポリエステルである。
【0014】ポリエステル(B)においてテレフタル酸の使用量は該ポリエステル(B)を構成する全ジカルボン酸成分に対して50~100モル%、好ましくは70~100モル%、より好ましくは85~100モル%である。テレフタル酸の使用量が少なすぎると、樹脂の重合度が上がりにくく、ペレット化することが困難である。テレフタル酸はC1~C3アルキルのエステル化物であってもよい。」
「【0034】本発明のポリアリレート樹脂組成物は、上記ポリエステル(B)および所望によりPCを含むため、流動性に優れ、より容易に成形加工を行うことができる。すなわち、本発明の樹脂組成物は任意の方法、例えば、射出成形法、押し出し成形法、圧縮成形法または溶液キャスティング法で各種成型品に成形することができる。本発明の樹脂組成物は射出成形法または押出し成形法によって射出成形品または押出し成形品に成形されることが好ましく、特に押出し成形法による場合には押出しシートに成形されることが好ましい。樹脂組成物の流動性が劣ると、射出成形法または押出し成形法による成形、特に射出成形法による大型成形品、薄肉成形品の成形が著しく困難になるためである。
【0035】本発明の樹脂組成物は耐熱性にも優れているため、該組成物の製造時における予備乾燥を容易に行うことができ、取り扱いが容易である。また、本発明の樹脂組成物は耐衝撃性にも優れているため、射出成形時の金型からの離形時の突き出しによるクラック、離形抵抗により生じる歪によるクラックが発生しにくく、また、押出成形時のシートの割れ発生も発生し難い。また、本発明の樹脂組成物は透明性にも優れているため、比較的厚みの大きい成形品に成形しても、該成形品は所望の透明性を有している。また、本発明の樹脂組成物は耐薬品性にも優れているため、得られる成形品は有機溶媒に溶解し難い。
【0036】さらに本発明の樹脂組成物は、上記有機リン化合物(C)を含有させることによって耐変色性が向上するため、得られる成形品は良好な無色透明性を有している。
【0037】したがって本発明のポリアリレート樹脂組成物は、高い耐熱性、耐衝撃性、透明性および耐薬品性、さらには優れた無色透明性が要求される用途、例えば、医薬品や食飲料の容器本体や、車載用芳香剤容器等の各種容器、クレジットカードやICカード等のカード本体あるいはオーバレイフィルム等へ好適に用いることができる。以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳しく説明するが、下記実施例に制限されるものではない。
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【0038】
【実施例】実施例および比較例中、以下の原料を用いた。
樹脂
Dパウダー:商品名Dパウダー、ユニチカ社製ポリアリレート樹脂(極限粘度0.7)
Lパウダー:商品名Lパウダー、ユニチカ社製ポリアリレート樹脂(極限粘度0.5)
PCT:TPA100%、CHDM100%、極限粘度0.9(以下、モノマーの使用割合を示す「%」は「モル%」を意味するものとする。)
サーミックス6761:TPA95%、IPA5%、CHDM100%、極限粘度0.9(イーストマンケミカル社製)
デュラスターDS2000:TPA75%、IPA25%、CHDM100%、極限粘度0.7(イーストマンケミカル社製)
イースターDN003:TPA100%、CHDM65%、EG35%、極限粘度0.7(イーストマンケミカル社製)
PETG6763:TPA100%、CHDM30%、EG70%、極限粘度0.7(イーストマンケミカル社製)
PCTA:TPA40%、IPA60%、CHDM100%、極限粘度0.5
PC:カリバー200-13(住友ダウ社製ポリカーボネート樹脂)
PBT:NOVADUR5008(三菱エンプラ社製ポリブチレンテレフタレート樹脂)
PET:NEH2070(ユニチカ社製ポリエチレンテレフタレート樹脂)
有機リン化合物
JP504:フォスフェート化合物(城北化学社製)アルキルアシッドフォスフェート
AX71:フォスフェート化合物(旭電化社製)アルキルアシッドフォスフェート
PEP36、PEP4C:フォスファイト化合物(旭電化社製)
【0039】評価方法
(1)極限粘度:フェノールと四塩化エタンとの等量混合物を溶媒として得られた温度20℃の溶液を用いて測定し、dl/g単位で表した。
(2)アイゾッド衝撃値:ASTM D256に準じて測定した。
(3)荷重たわみ温度:ASTM D648に準じ、荷重0.46MPaにて測定した。
(4)全光透過率(T%):色調測定装置(日本電色製SZ-Σ80型測色器)により、JIS K7103に基づいてT%を測定した。
(5)イエローインデックス(YI):色調測定装置(日本電色製SZ-Σ80型測色器)により、JIS K7103に基づいてイエローインデックスを測定した。
【0040】実施例1
Dパウダー40質量部とPCT60質量部、0.05質量部のJP504、及び0.05質量部のPEP36をクボタ社製連続定流供給装置を用いて、同方向2軸押出機(東芝機械社製TEM‐37BS)の主供給口に供給した。樹脂温度300℃、吐出量14kg/時で溶融混練を行い、ノズルからストランド状に引取った樹脂組成物を水浴にくぐらせて冷却固化し、ペレタイザーでカッティングした後、100℃で12時間熱風乾燥することによって樹脂組成物のペレットを得た。次いで、得られた樹脂組成物ペレットを、射出成形機(東芝機械社製IS100E-3S)を用いて樹脂温度280℃で成形し、物性測定用試験片および見本板を作製した。物性測定用試験片は1日以上室温にて放置した後に、該試験片のアイゾット衝撃値および荷重たわみ温度を測定した。また、厚さ2mmの見本板を用いて、T%およびYIの測定を行った。」
「【0046】実施例7
実施例1において、Dパウダー20質量部、サーミックス6761を80質量部、0.05質量部のJP504、0.1質量部のPEP4Cを用いた他は、実施例1と同様の溶融混練を行って、樹脂組成物のペレットを得た。該ペレットを用いたこと以外、実施例1と同様にして物性測定用試験片および見本板を作製し、評価を行った。」

(2)引用文献1に記載された発明

引用文献1の特許請求の範囲の請求項1には、「(A)ポリアリレート樹脂10~90質量部、および(B)少なくともテレフタル酸および1,4-シクロヘキサンジメタノールからなるポリエステルであって、テレフタル酸の使用量が該ポリエステルの全ジカルボン酸成分に対して50~100モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノールの使用量が該ポリエステルの全ジオール成分に対して50~100モル%であるポリエステル90~10質量部を含んでなることを特徴とするポリアリレート樹脂組成物。」が記載されている。

そして、引用文献1には、ポリアリレート(PAR)は耐熱性が高く、機械的強度や寸法安定性に優れ、透明であるが、成形加工性等の向上のため、他のポリエステルとの樹脂組成物にすると、耐熱性や耐衝撃性などが低下するので、成形性、耐熱性、耐衝撃性及び透明性に優れるポリアリレート樹脂組成物及びその成形品の提供を目的とすることが記載されている(引用文献1の【0003】~【0005】)。また、引用文献1には、上記ポリアリレート樹脂が押出しシートに成形されること(【0034】)、及び、クレジットカードやICカード等のオーバレイフィルムへの適用(【0037】)についても記載されている。

このように、引用文献1の請求項1に係る発明は、ポリアリレート樹脂と、少なくともテレフタル酸および1,4-シクロヘキサンジメタノールからなるポリエステルを含むことにより、成形性、耐熱性、耐衝撃性及び透明性に優れるポリアリレート樹脂組成物を提供するものであり、第4で述べた本願発明の技術的意義、すなわち、ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)、及び当該ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)よりもガラス転移温度が高いポリアリレート樹脂(B)を含むことにより、透明性、耐熱性及び延伸加工性に優れる樹脂組成物を提供することと凡そ同様のことが示されているといえる。

引用文献1の段落【0046】には、実施例7の樹脂組成物として、「Dパウダー20質量部、サーミックス6761を80質量部、0.05質量部のJP504、0.1質量部のPEP4Cを用い」る旨の記載があり、ここで、段落【0038】の記載から、「Dパウダー」はポリアリレート樹脂であり、「サーミックス6761」は、モノマーの使用割合を示す「%」が「モル%」を意味するものとして、TPA95%、IPA5%、CHDM100%、極限粘度0.9であり、「JP504」はフォスフェート化合物の「アルキルアシッドフォスフェート」であり、「PEP4C」はフォスファイト化合物であることが理解できる。

そして、実施例7の樹脂組成物は、請求項1に記載された事項を満たすものであり、請求項1に記載された上記ポリアリレート樹脂組成物の具体例であるといえる。

また、引用文献1の段落【0046】には、「物性測定用試験片」等を得る工程が「実施例1と同様」であることが記載されているが、その具体的な内容は、段落【0040】に記載されているように、連続定流供給装置を用いて、同方向2軸押出機の主供給口に供給し、樹脂温度300℃、吐出量14kg/時で溶融混練を行い、ノズルからストランド状に引取った樹脂組成物を水浴にくぐらせて冷却固化し、ペレタイザーでカッティングした後、100℃で12時間熱風乾燥することによって樹脂組成物のペレットを得て、当該ペレットを、射出成形機を用いて樹脂温度280℃で成形する、というものである。そして、上記工程によって、成形品としての「物性測定用試験片」が得られるといえる。

(3)よって、引用文献1には、実施例7に着目すると、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ポリアリレート樹脂である「Dパウダー」20質量部、モノマーの使用割合を示す「%」が「モル%」を意味するものとして、TPA95%、IPA5%、CHDM100%、極限粘度0.9の「サーミックス6761」80質量部、フォスフェート化合物(「JP504」、アルキルアシッドフォスフェート)0.05質量部、フォスファイト化合物(「PEP4C」)0.1質量部を、連続定流供給装置を用いて、同方向2軸押出機の主供給口に供給し、樹脂温度300℃、吐出量14kg/時で溶融混練を行い、ノズルからストランド状に引取った樹脂組成物を水浴にくぐらせて冷却固化し、ペレタイザーでカッティングした後、100℃で12時間熱風乾燥することによって樹脂組成物のペレットを得て、当該ペレットを、射出成形機を用いて樹脂温度280℃で成形する、成形品。」

2 引用文献3~5、周知技術

(1)引用文献3

引用文献3には、以下の事項が記載されている。

「【0028】次に本発明フイルムの代表的な製法について説明するが、これに限定されるものではない。前述の如き所定の白色顔料粒子、および各種添加剤を添加したポリエステル系樹脂を各々260~350℃で溶融し、所定条件で積層して口金より吐出して、表面温度が5~90℃にコントロールされた冷却ドラム上でフイルム状に冷却、成形する。一軸、二軸に延伸する場合には、縦延伸の条件として、延伸温度70~140℃、延伸倍率2.5~8倍が好ましく、二軸に延伸する場合の横延伸の条件として、延伸温度70~140℃、延伸倍率2.5~8倍が好ましく、熱固定は110~240℃で行ない、弛緩率を0~10%の範囲とすることが好ましい。
【0029】白色顔料粒子の添加は、重合時に添加してもよく、フイルムへの成形時に、溶融混合、分散させてもよく、高濃度のマスターペレットを作成しそれを希釈する方法でもよい。
【0030】上記のように成形された白色ポリエステルフイルムは、ICをマウントあるいははさみ込んでICカードとして供される。」
「【0033】【実施例】実施例1~7、比較例1~3表1に示す積層構成(比較例1は単層、各実施例および比較例2、3は2層積層)のフイルムに、表1に示す白色顔料粒子を表1に示す量添加し、押出機に供給して280℃で溶融押出し、口金からシート状に吐出して40℃でキャストした。この未延伸シートを延伸温度92℃、延伸倍率3倍で縦延伸した後、テンターにて、延伸温度140℃、延伸倍率3.3倍で横延伸し、熱処理温度220℃で1.8%弛緩処理を施し、二軸延伸フイルムを得た。但し、すべて一軸延伸フイルムの片面上にアクリルエマルジョンを塗布、乾燥後横延伸した。アクリル層の厚みは0.15μmであった。
【0034】得られた二軸延伸フイルム上の非コート面に、融解ピーク温度160℃のポリエステル系共重合体を熱融着層として塗布した。このようにして得られたトータル厚さ50μmのフイルム2枚の間に、厚さ100μmのフイルム中に埋め込んだ厚さ80μmのICをはさみ込み、140℃で熱融着してICカードとした。」

(2)引用文献4

引用文献4には、以下の事項が記載されている。

「【0027】
【実施例】
図1、図2を参照して本発明の実施例を説明する。交通機関の改札用途に用いられる、リライト記録層付き非接触ICカードを製造した。
(実施例)
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<アンテナシートの準備>
厚み40μmのPETフィルムに、厚み20μmのアルミ箔を接着剤を介して貼り合わせ、このアルミ箔をフォトレジストを使ってエッチングすることで、コイルアンテナ3を形成した。さらに、厚み300μmのICチップ4をコイルアンテナ3の両端31t,32tと電気的に接続して実装し、カードに内包するアンテナシート(インレイ)11を完成した。
なお、ICチップ4は、厚み175μmのICチップに、補強板100μm、異方導電性シート50μmを重ねて付加し、プレスラミの圧力を受けた後、総厚300μmとなったものである。
【0028】
<カード基体の製造>
カード基体の層構成は、アンテナシート11の表裏に、スペーサシート15,16を介して表裏の印刷シート20,30を配置する構成とした。
スペーサシート15,16は、PET-G樹脂シートのアンテナシート11側面にポリエステル系接着剤を共押出しした二層構成のシートであり、それぞれ厚み150μmのPET-G樹脂シート15c,16cと、その片面に厚み30μmのスペーサ・接着剤層15a,16aを有する全体の総厚が、180μmからなるものである。
スペーサ・コア層15c,16cは、ポリカーボネート樹脂をブレンドして、Tg(ガラス転移温度)=100°CにしたPET-G樹脂とし、スペーサ・接着剤層15a,16aには、熱硬化剤を含有させたポリエステル系接着剤(溶融粘度2000Poise;190°C)を採用した。
【0029】
スペーサシート15,16の外側には、印刷シート20,30を配置した。
印刷シート20は、厚み170μmの二軸延伸PETシートを印刷シート・コア層20cとし、その両面にヒートシール層を共押出しした三層構成のものとした。印刷シート・ヒートシール層20a,20bは、それぞれ厚み10μmにした。
印刷シート30も同一材料からなる同一厚みの三層構成のものである。」

(3)引用文献5

引用文献5には、以下の事項が記載されている。

「第1図~第4図は、本発明に係るカード電卓用基板の製造工程を示す断面図である。まず、第1図に示すように、厚さ70μの透明二軸延伸ポリエステルフィルム1にオフセット印刷により任意のカード模様2を裏刷方式で印刷し、次いでその印刷面にポリオレフィン系接着剤であるポリタックM-320/EVA (商品名、出光石油化学社製)をエキストルーダーにより10μの厚さにコートし、接着剤層3を形成した。」(2頁左下欄5行~右上欄1行)

「このようにして得られたカード電卓用基板上の所定の位置に所定の配線で、LSI、太陽電池、液晶表示板等を第6図に示すようにセットし、次いで第1図に示すものと同様の、所定の図柄が裏刷り印刷されている印刷面にポリタックM-320/EVAが塗布されている厚さ70μの二軸延伸ポリエステルフィルムからなるオーバーレイフィルムを熱圧着により貼り合わせた。」(3頁左下欄10~17行)

(4)周知技術

例えば上記(1)~(3)の記載が示すように、ICカードに積層されるフィルム等の製造において樹脂組成物を二軸延伸してフィルム状に加工することは、周知技術である。

3 引用文献6

引用文献6には、以下の事項が記載されている。

「
[図:0001394357000011.jpg]
」

4 引用文献7

引用文献7には、以下の事項が記載されている。

「【0048】
非晶性ポリエステル樹脂は、上記結晶性ポリエステル樹脂以外のポリエステル樹脂である。つまり、通常は融点を有さず、比較的高いガラス転移点温度(Tg)を有するものである。より具体的には、ガラス転移温度(Tg)は、40~90℃であることが好ましく、特に45~85℃であることが好ましい。なお、ガラス転移温度(Tg)は、実施例の非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)の測定方法に記載の方法で測定する。
【0049】
非晶性ポリエステル樹脂としては、少なくともテレフタル酸、エチレングリコールおよび1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)を単量体成分とする共重合体が好ましく、具体的には、PETG樹脂、PCTG樹脂(ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート、PETのエチレングリコールの一部をCHDMに置換)、PCTA樹脂(テレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコールおよびCHDMからなる共重合体、PCTG樹脂の酸成分の一部をイソフタル酸で置き換えた樹脂)、などが挙げられる。
【0050】
なお、本発明において、ポリエチレンテレフタレート(PET)のジオール成分(エチレングリコール)を1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)に置き換えた時に、CHDMへの置換割合が、0.0001mol%以上50mol%未満である樹脂をPETG樹脂、50mol%以上100mol%以下である樹脂をPCTG樹脂(シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)と呼ぶ。
【0051】
PETG樹脂としては、米国イーストマン・ケミカル社やスカイグリーン社などから製造販売されているものが好ましく用いられる。PETG樹脂としては、米国イーストマン・ケミカル社の商品名イースターGN-071、イースター6763などが挙げられる。PCTG樹脂としては、米国イーストマン・ケミカル社の商品名イースターDN-001などが挙げられる。
【0052】
PCTA樹脂は、1,4-シクロヘキサンジメタノールと、テレフタル酸及びイソフタル酸との重縮合により得られる熱可塑性飽和コポリエステルである。PCTA樹脂としては、米国イーストマン・ケミカル社の商品名コダール・サーメックス6761(KODAR THERM X6761)、イースターAN-004などが挙げられる。」

5 参考文献B

参考文献B:高橋正夫ら、「ポリエチレンイソフタレートテレフタレート共重合体の転移点」、高分子化学、第14巻、第152号、649~653頁、1957年

参考文献Bには、以下の事項が記載されている。

[図:0001394357000012.jpg]

[図:0001394357000013.jpg]

[図:0001394357000014.jpg]

[図:0001394357000015.jpg]

[図:0001394357000016.jpg]

第6 当審の判断

1 対比

(1)本願発明と引用発明とを対比すると、以下のとおりとなる。

ア 引用発明における「サーミックス6761」の「モノマーの使用割合」が「TPA95%」であることと、本願発明における「ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)」が「ジカルボン酸成分(a-1)としてテレフタル酸単位を100モル%」「含む」こととは、「ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)」が「ジカルボン酸成分(a-1)としてテレフタル酸単位を含む」という点で共通する。

イ 引用発明の「サーミックス6761」の「モノマーの使用割合」が「CHDM100%」であることは、本願発明の「ジオール成分(a-2)として」の「1,4-シクロヘキサンジメタノール単位」が「90モル%以上」であることに含まれる。

ウ 上記ア、イから、引用発明の「サーミックス6761」と、本願発明の「ジカルボン酸成分(a-1)としてテレフタル酸単位を100モル%、ジオール成分(a-2)として1,4-シクロヘキサンジメタノール単位を90モル%以上含むポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)」とは、「ジカルボン酸成分(a-1)としてテレフタル酸単位を、ジオール成分(a-2)として1,4-シクロヘキサンジメタノール単位を90モル%以上含むポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)」である点で共通する。

エ 引用発明の「Dパウダー」は、「ポリアリレート樹脂」であるから、「前記ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)よりも、JIS K7198Aに準じて測定されるガラス転移温度が高い」か否かは別として、本願発明の「ポリアリレート樹脂(B)」に相当する。

オ 引用発明の「成形品」は、「「Dパウダー」20質量部」、「「サーミックス6761」80質量部」等を加工して得たものであるから、それらの成分中では「サーミックス6761」を「80質量部」、「Dパウダー」を「20質量部」の割合で含むものであり、このことは、上記ウ、エを踏まえると、本願発明1の「ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して」、「ポリアリレート樹脂(B)を1質量部以上50質量部以下の割合で含む」ことに含まれる。

カ 引用発明の「サーミックス6761」は、引用文献1の「ポリエステル(B)として、例えば、市販のサーミックス6761・・・を好ましく使用することができる。」(段落【0019】)との記載から、ポリエステルである。

よって、引用発明の「樹脂組成物」は本願の「ポリエステル系樹脂組成物」に相当し、引用発明の「樹脂組成物」からなる「成形品」と、本願発明1の「ポリエステル樹脂組成物からなるポリエステル系二軸延伸フィルム」とは、「ポリエステル系樹脂組成物からなるポリエステル系成形品」である限りにおいて共通する。

(2)上記(1)から、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致する。

(一致点)

「ジカルボン酸成分(a-1)としてテレフタル酸単位を、ジオール成分(a-2)として1,4-シクロヘキサンジメタノール単位を90モル%以上含むポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、ポリアリレート樹脂(B)を1質量部以上50質量部以下の割合で含むポリエステル樹脂組成物からなるポリエステル系成形品。」

(3)また、本願発明と引用発明とは、以下の点で相違する。

(相違点1)

本願発明の「ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)」は、「ジカルボン酸成分(a-1)としてテレフタル酸単位を100モル%」含むのに対して、引用発明の「サーミックス6761」の「モノマーの使用割合」は「TPA95%」である点。

(相違点2)

本願発明の「ポリアリレート樹脂(B)」は、「前記ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)よりも、JIS K7198Aに準じて測定されるガラス転移温度が高い」のに対して、引用発明の「Dパウダー」は、「サーミックス6761」よりも「JIS K7198Aに準じて測定されるガラス転移温度が高い」か否か不明である点。

(相違点3)

「ポリエステル樹脂組成物からなるポリエステル系成形品」が、本願発明では、「ポリエステル樹脂組成物からなるポリエステル系二軸延伸フィルム」であるのに対して、引用発明では、そのように特定されるものではない点。

2 判断

(1)まず相違点1について検討する。

引用発明は、第5の1(2)で述べたとおり、引用文献1の請求項1に係るポリアリレート樹脂組成物の具体例である。

引用文献1の請求項1は、「(B)少なくともテレフタル酸および1,4-シクロヘキサンジメタノールからなるポリエステルであって、テレフタル酸の使用量が該ポリエステルの全ジカルボン酸成分に対して50~100モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノールの使用量が該ポリエステルの全ジオール成分に対して50~100モル%であるポリエステル」を用いるものであり、「ポリエステル(B)」における「テレフタル酸の使用量が該ポリエステルの全ジカルボン酸成分に対して50~100モル%」であり、テレフタル酸を全ジカルボン酸の100モル%とすることを包含するものである。

また、引用文献1には、「ポリエステル(B)」の「テレフタル酸の使用量」について、「該ポリエステル(B)を構成する全ジカルボン酸成分に対して50~100モル%、好ましくは70~100モル%、より好ましくは85~100モル%である。」(段落【0014】)と記載されているから、引用発明における「サーミックス6761」の「モノマーの使用割合」が「TPA95%」であることは、引用文献1の記載上「テレフタル酸の使用量」が「好ましい」とされる範囲内のものであり、「テレフタル酸の使用量」が「100%」(TPA100%)であるものとすること、すなわち、「ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)」が「ジカルボン酸成分(a-1)としてテレフタル酸単位を100モル%」「含む」ものも、引用文献1の上記記載の「好ましい」とされる範囲内である。

そうすると、引用発明において、TPA95%及びIPA5%である「サーミックス6761」に代えて、「ジカルボン酸成分(a-1)としてテレフタル酸単位を100モル%」を含む「ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)」とすることが動機付けられ、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)次に、相違点2について検討する。

ア 引用文献6には、「Uポリマー」(ユニチカ社製ポリアリレート樹脂)のパウダータイプである「Uパウダー」のグレードとして「Dタイプ」及び「Lタイプ」が記載されており、引用文献1には、ユニチカ社製ポリアリレート樹脂である「Dパウダー」(極限粘度0.7)及び「Lパウダー」(極限粘度0.5)が記載されている。このことから、引用発明の「Dパウダー」は、その製造元、商品名、樹脂の種類からみて、引用文献6に記載の「Dタイプ」と同じものであると解される。さらに、引用文献6には、「Uポリマーの特徴」として「高Tg(193℃)」と記載されているから(上記第5の3)、引用発明の「Dパウダー」のガラス転移温度(Tg)も193℃であると解される。

イ 一方、引用文献7には、PCTA樹脂として「米国イーストマン・ケミカル社の商品名コダール・サーメックス6761(KODAR THERM X6761)」が例示されること、及び上記PCTA樹脂は、1,4-シクロヘキサンジメタノールと、テレフタル酸及びイソフタル酸との重縮合により得られる熱可塑性飽和コポリエステルであることが記載されており(【0052】)、引用文献1には、「サーミックス6761」(イーストマンケミカル社製)は「TPA95%、IPA5%、CHDM100%」であることが記載されている。このことから、引用発明の「サーミックス6761」は、その製造元、商品名、樹脂の構成からみて、引用文献7の上記「コダール・サーメックス6761(KODAR THERM X6761)」と同じものであると解される。そして、引用文献7には、非晶性ポリエステル樹脂はガラス転移温度が40~90℃であることが好ましいこと、及び、上記非晶性ポリエステル樹脂として、上記「コダール・サーメックス6761(KODAR THERM X6761)」を具体例とするPCTA樹脂が例示されており(【0048】、【0049】及び【0052】)、引用発明の「サーメックス6761」のガラス転移温度は40~90℃の範囲内及びその近傍にあると推察される。また、同じく、引用文献7には、上記非晶性ポリエステル樹脂として、ポリエチレンテレフタレート(PET)のジオール成分であるエチレングリコール(EG)を50mol%以上100mol%以下でCHDMに置換したPCTG樹脂が例示されており(【0049】、【0050】)、このPCTG樹脂のガラス転移温度も40~90℃の範囲内及びその近傍にあると推察される。

ウ そして、上記PCTG樹脂のうち、EGの90~100mol%をCHDMに置換したものは、本願発明の「ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)」に相当するものであり、上記(1)において、当審が容易想到と判断した「ジカルボン酸成分(a-1)としてテレフタル酸単位を100モル%」を含む「ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)」は、引用文献7に記載された上記PCTG樹脂のうち、EGの100mol%をCHDMに置換したものに相当するものであるから、当該樹脂(A)のガラス転移温度も40~90℃の範囲内及びその近傍にあると推察される。なお、本願明細書の実施例及び比較例で用いられた上記樹脂(A)の具体例である「SKYPURA0502」(TPA100%、CHDM100%)のTgは104℃であり、上記推察に合致するといえる。

エ また、樹脂組成物のガラス転移温度をJIS K7198Aに準じて測定することは本願出願前に周知の事項であり、樹脂組成物のガラス転移温度の測定方法である一般的な方法の違いによって、「193℃」と「40~90℃の範囲内及びその近傍」のガラス転移温度の大小関係が逆転することは考えにくい。

よって、引用発明における「Dパウダー」の、JIS K7198Aに準じて測定されるガラス転移温度は、TPA100%、CHDM100%の「ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)」の上記ガラス転移温度よりも高いと推察されるから、相違点2は実質的なものではないか、または、上記(1)で相違点1について検討した樹脂(A)のモノマー比率と同様に、当業者が容易に想到し得たことであるといえる。

(3)次に、相違点3について検討する。

引用文献1には、「本発明のポリアリレート樹脂組成物は、高い耐熱性、耐衝撃性、透明性および耐薬品性、さらには優れた無色透明性が要求される用途、例えば、医薬品や食飲料の容器本体や、車載用芳香剤容器等の各種容器、クレジットカードやICカード等のカード本体あるいはオーバレイフィルム等へ好適に用いることができる。」(段落【0037】)と記載されており、引用文献1に記載のポリアリレート樹脂組成物を、オーバレイフィルムの用途に用いることが想定されているといえる。ここで、上記クレジットカードやICカードのオーバレイフィルムとして二軸延伸フィルムを用いることは、上記第4の2(4)のとおり、本願出願前に周知の事項であるから、引用発明のポリアリレート樹脂組成物を二軸延伸フィルムに成形することは動機付けられるといえる。

また、引用発明の樹脂組成物の80質量部を占めるポリエステルである「サーミックス6761」はポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂であり、第4の3で述べたとおり、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂を二軸延伸フィルムに成形したものことは、本願出願前に周知の事項である。

そうすると、引用発明の成形品を、オーバレイフィルムとするために当該周知技術を適用して二軸延伸フィルムを得ることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)よって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 請求人の主張について

(1)請求人は、令和4年10月21日提出の意見書において、「比較実験結果」(「比較樹脂」を用いた「比較実験」の結果及び「本願実施例1」の結果をまとめた「表A」等)に基づき、本願発明における加熱収縮率の優位性が明確であるとした上で、引用文献1には、テレフタル酸が100%である場合の効果については、記載も示唆も一切なく、このように、テレフタル酸を100%としたときの耐熱性の顕著な向上については、たとえ当業者であっても想起し得ないものであるから、本願発明は、引用発明に対して優れた効果を有するものであり、進歩性を有する旨主張している(「4.比較実験」の項)。

そこで、上記主張について検討する。

引用文献1には、ポリエステル(B)において、「より好ましくは85~100モル%である」及び「テレフタル酸の使用量が少なすぎると、樹脂の重合度が上がりにくく、ペレット化することが困難である」と記載され(【0014】)、この記載によると、テレフタル酸はイソフタル酸等の他のジカルボン酸と比べて樹脂の重合度を上げることに寄与し、固体であるペレットが得やすくなることが示されているといえる。このことは、樹脂の重合度が上がって分子量が大きくなると融点等の熱的特性も向上し、耐熱性が上がるという本願出願時の技術常識と符合するものといえる。

また、参考文献Bには、ポリエチレンイソフタレートテレフタレート共重合体の融点は、エチレンイソフタレートのモル分率の増加とともに低下することが記載されており(650~651頁の「結果および考察 (1)融点」の欄)、ポリエステルにおいて、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸のモル分率が増えるにつれて融点が上昇することが示されているといえる。

これらのことから、ポリエチレンイソフタレートテレフタレート共重合体と同じくポリエステルである本願発明の「ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)」において、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸単位を100モル%とした場合に耐熱性が向上するという効果は当業者が予測し得ることであるといえる。

また、参考文献Bには、エチレンテレフタレートのモル分率が80モル%よりも多いものでは結晶化することが記載されており(650頁14~15行)、テレフタル酸はポリエチレンイソフタレートテレフタレート共重合体の結晶化に寄与することが示されていると解される。このことから、ポリエチレンイソフタレートテレフタレート共重合体と同じくポリエステルである本願発明の「ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(A)」において、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸単位を100モル%とした場合に結晶性が向上するという効果は当業者が予測し得ることであるといえる。

(2)また、請求人は、「引用発明に開示される「サーミックス6761」と類似する構成を有するポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂を用いて、比較実験を行いました。比較実験の結果、ジカルボン酸成分としてIPAを含有するポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(以下、「比較樹脂」と記載します。)を用いた場合は、本願発明1に比較して加熱収縮率が低下することがわかり、本願発明1の優位性が明確となりました。」と主張する。

そこで、本願明細書の実施例1と比較実験の条件を比べると、キャストロールの温度並びに横方向の延伸温度及び熱固定温度(本願明細書【0067】)の点において温度条件が異なっている。そして、二軸延伸フィルムの熱収縮率等の特性は、各物質をどの程度含有するかという点のみならず、延伸倍率や(熱固定)温度といった条件にも依存することが技術常識である(例えば、特開2003-211538号公報(段落【0006】~【0007】、【0033】~【0036】等)、国際公開第2005/110718号(8頁25行~9頁1行、11頁11行~12頁4行等)を参照。)。そうすると、上記「比較実験結果」は、必ずしも本願発明の「比較樹脂」に対する優位性を示すものとはいえない。

よって、請求人の上記主張は採用できない。

第7 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2021-003031

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