特許拒絶査定不服審判
2021-001581
光応答の色スペクトル分解を用いた自動インビトロ検体検出のための装置及び方法
- 審判番号
- 2021-001581
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-556847外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年02月04日
- 審決日
- 2022年06月28日
- 公報発行日
- 2022年07月29日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 分類
- P18 .121-WY (G01N) / P18 .537-WY (G01N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017-556847「光応答の色スペクトル分解を用いた自動インビトロ検体検出のための装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年11月3日国際公開、WO2016/174356、平成30年8月9日国内公表、特表2018-522209、請求項の数(14)〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
理 由
第1.手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)4月28日(パリ条約による優先権主張 2015年4月30日 フランス)を国際出願日とする出願であって、令和元年12月27日付けで拒絶理由が通知され、令和2年4月9日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月25日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)されたところ、令和3年2月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後当審において同年9月27日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。」)が通知され、令和4年3月29日に意見書及び手続補正書(以下「当審拒理補正書」という。)が提出されたものである。
第2.原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
1 拒絶の理由
理由4.(進歩性)この出願の請求項1~13に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(引用文献1-1に記載された発明、並びに引用文献1-2に記載された技術事項、及び周知技術)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2 引用文献等
原査定の理由4で引用した文献は次のとおり。いずれも本願優先日前に公知となったものである。
引用文献1-1.特開2012-247188号公報
引用文献1-2.特開2008-286562号公報
第3.当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。
1 拒絶の理由
理由1.(進歩性)本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
理由2.(明確性)本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2 引用文献等
当審拒絶理由の理由1で引用した文献は次のとおり。いずれも本願優先日前に公知となったものである。
引用文献1:米国特許出願公開第2009/0159510号明細書
引用文献2:特開2003-240638号公報
引用文献3:特開平10-142153号公報
引用文献4:特開2010-85115号公報
第4.本願発明
本願請求項1~14に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」~「本願発明14」という。)は、令和4年3月29日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。各請求項の各構成単位冒頭に付した「A」などは分説番号であり、以下、該各構成単位について前記分説番号により「構成A」などと呼ぶ。
「 【請求項1】
A 試料に含まれる検体を自動でインビトロ検出及び/又は定量する方法であって、
B 試料を1種以上の試薬と反応できる状態に置いて、上記試料中に所定の検体が存在するならば、所定の光学的性質を少なくとも1つ有する光学剤を含む反応溶液を直接的又は間接的に調製する工程と;
C 上記反応溶液に電磁放射線を照射する工程と;
D 上記反応溶液の光応答を検出する工程と;
E 上記光応答から上記検体の存在確認及び/又は定量を行う工程とを有するものであり、
F 上記方法は、
1種以上の試薬を用いて、それぞれ所定の光学的性質を少なくとも1つ有する少なくとも2種の異なる光学剤を含む反応溶液を直接的又は間接的に調製し、前記少なくとも2種の異なる光学剤の上記所定の光学的性質は異なるものであること、及び、
G 上記光応答の色スペクトル分解を得る工程と、該スペクトル分解において前記少なくとも2種の異なる光学剤の上記異なる所定の光学的性質を別々に検出する工程とを有することを特徴とし、
H 前記電磁放射線は、紫外領域の放射線であり、
I 前記方法は、少なくとも、
前記電磁放射線の一部を分析領域を通過させることなく誘導する工程と、
J 前記電磁放射線の一部の色スペクトル分解を得る工程
を更に有し、
K’前記反応溶液は、希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物を含まない、
L 方法。
【請求項2】
2A 上記光応答の色スペクトル分解を得る工程は、上記光応答からの光線を波長分散させる工程と、
2B このように分散させた光線の各種波長の成分の強度を検出する工程とを有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
3A 上記電磁放射線の色スペクトル分解を得る工程の前に、上記電磁放射線の一部と、上記反応溶液の光応答とを混合する工程を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
4A 光応答の経路にフィルタが存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
5A 請求項1~4のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成された、試料に含まれる検体を自動でインビトロ検出及び/又は定量する装置であって、
5B 試料との反応で得られた反応溶液を収容する複数の光学的分析領域(26’)と;
5C 電磁刺激に対する上記反応溶液の光応答を検出及び/又は定量できる光学読取り装置(30)とを備えるものであり、
5D 上記光学読取り装置は、分析領域(26’)に照射できる少なくとも1つの電磁放射線源(58)と、
5E 上記分析領域に含まれる上記反応溶液からの放射光を受光するよう構成され且つ上記反応溶液の光応答を検出できる光電受信器(70)の両方を備えており、
5F 上記光電受信器(70)は、上記装置の移動台(32)に保持され、上記移動台は、モータ駆動であり、且つ、自動制御下で移動して上記光電受信器を各分析領域(26’)に対応する複数の位置に運ぶものであり、
5G 上記装置は、上記光電受信器(70)が、上記光応答の色スペクトル分解を供給できる分光計(64)の一部を構成することを特徴とする
5H 装置。
【請求項6】
6A 上記分光計(64)は、λmax≧2×λminを満たす2つの波長λmin及びλmax間の少なくとも1つの作用波長域にわたって上記光応答の色スペクトル分解を供給できることを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
7A 上記分光計(64)は、波長分散素子(68)を含み、
7B 前記光電受信器(70)は、線形又は二次元の主要光電センサ(70)であることを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項8】
8A 上記分光計(64)は、上記光電受信器(70)と接続された電子回路であって、
8B 上記光応答の色スペクトル分解の画像である画像電気信号を供給する電子回路を有すること特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項9】
9A 上記画像電気信号はアナログ信号であることを特徴とする請求項8に記載の装置。
【請求項10】
10A 上記電磁放射線源は単色源であることを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項11】
11A 上記電磁放射線源は多色源であることを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項12】
12A 上記光学読取り装置は、上記電磁放射線源から放出された電磁放射線の強度を検出する手段を有することを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項13】
13A 上記電磁放射線源から放出された電磁放射線の強度を検出する手段は、上記分光計(64)と、
13B 前記電磁放射線の一部を上記分析領域(26’)を通過させることなく上記分光計へ誘導する誘導システムとを有することを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
14A 前記分光計(64)は、回折格子を有する凹面反射面を有する、請求項5~13のいずれか一項に記載の装置。」
第5.引用文献、引用発明等
1 引用文献等
当審拒絶理由通知において引用された引用文献は上記第3.2に記載したとおりである。また、原査定における引用文献は上記第2.2で挙げたとおりである。いずれも、本件出願の優先日前に公知となったものである。
2 引用文献に記載された事項
2-1 引用文献1に記載された事項
(1)引用文献1の記載事項
「[0004]One method to identify objects is to optically encode them, i.e., combine an object with an optically active material which is capable of emitting an identifiable, unique spectral or optical signal or signature when suitably excited. Previously known systems for optically encoding objects or samples have a fundamental problem: they cannot support a very large number of unique codes, which means only small numbers of samples can be measured or identified. A unique identifying code is related to a unique optical emission signature. In many cases, the optical code is generated by observing ratios of two or more emitting components in a mixture. However, if the emitters are organic dyes or quantum dots instead of lanthanide emitters, their short, excited state lifetimes lead to broad emission peaks, each of which can occupy a large swath of the visible spectrum. Therefore, when two or more components are mixed to create a desired ratio that emits a code of interest, it is difficult to deconvolute the broad overlapping peaks. This is starkly reflected in the most extensive, commercially available codes, which currently consist of (a) only two dyes resolvable at 1% compositional intervals giving a maximum of 100 samples that can be labeled uniquely and (b) mixtures of quantum dots (QD) where up to only 180 individuals codes are reported to be available.」
(当審訳:「[0004]対象を識別する一つの方法は、光学的にエンコード(符号化)すること、つまり、適切に励起されたときに識別可能な固有のスペクトル信号または光信号を発することができる光学活性物質を物体に結合することである。対象や試料を光学的にエンコードする従来型のシステムには、非常に多くの固有のコードをサポートできない、つまり少数の試料しか測定または識別できない、という根本的な問題がある。一意の識別コードは、一意の光学的発光シグネチャに関連している。多くの場合、光学コードは、混合物中の2つ以上の発光成分の比率を観察することによって生成される。しかし、発光体がランタノイドではなく有機色素や量子ドットである場合、その励起状態の寿命が短いため、発光ピークが広くなり、それぞれが可視スペクトルの広い範囲を占めることになる。そのため、2つ以上の成分を混合して、目的のコードを発するような比率にする場合、重なり合う幅広いピークをデコンボリューション(分離)することが困難であった。このことは、現在市販されている最も広範なコードに顕著に反映されており、(a)1%組成間隔で分離可能な2つの色素のみからなり、一意に標識できるサンプルは最大100個、(b)量子ドット(QD)の混合物からは、最大180個までのコードしか利用できないことが報告されている。」
「[0036] Biological samples may be encoded, in one exemplary embodiment, by incorporating particles containing one or more desired RE downconverting phosphor compositions into the sample. For example, a nanoparticle (about 10 nm in size) of a desired RE downconverting phosphor composition may have an antibody attached to its surface. When the antibody is exposed to its appropriate receptor or target within in a cell, it binds to it and optically encodes that receptor or target. Many cell parts, chemicals and structures may be visualized and optically encoded simultaneously to determine their identities because of the large number of codes available using the present invention. ・・・.
[0037] In another exemplary embodiment, the biological molecules (e.g., DNA, RNA proteins and polypeptides) may be attached to a desired RE downconverting phosphor composition of the present invention through a series of chemical reactions which attach the biological molecules to the composition through covalent bonds. For example, a protein may be attached to a particle containing a desired RE downconverting phosphor composition, by coating the particle with silica, mixing the particle with a solution of tetraethoxysilane (TEOS), Si(OCH2CH3)4, and subjecting this mixture to hydrolysis to hydrolyze the TEOS to SiO2. Next, the silica surface of the particle is aminated as above and crosslinked to the protein with, for example, glutaraldehyde. For example, a protein may be attached to a particle containing a desired RE downconverting phosphor composition, by coating the particle with silica, mixing the particle with a solution of tetraethoxysilane (TEOS), Si(OCH2CH3)4, and subjecting this mixture to hydrolysis to hydrolyze the TEOS to SiO2.・・・.
[0038] A further aspect of the invention comprises the use of one or more RE downconverting phosphor compositions in a method for sample detection and identification by excitation of the RE downconverter phosphor compositions. As described earlier, the two or more downconverting emitters in the composition, either in the form of two or more different emitters in at least one host, or a mixture of two or more individual phases containing one or more emitters in each phase, absorb photons at a particular wavelength and subsequently emit electromagnetic energy at an emissi on wave length higher, or lower energy, than the excitation wave length. In accordance with this aspect of the invention, the intensity of the each excited downconverter emitter's emission is measured, and the ratios of the intensities are calculated. The emission intensity is proportional to the amount of encoding material present assuming that there is weak or no interactions among any emitters or particles. One or more of these ratios constitute a code that distinctly and uniquely identifies the sample.」
(当審訳:「[0036]1つの例示的な実施形態では、生物学的試料は1以上の所望の希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物を含む粒子を試料中に組み込むことによって符号化されうる。例えば、所望のダウンコンバージョン希土類蛍光体組成物のナノ粒子(サイズ約10nm)はその表面に取り付けられた抗体を備える。その抗体が細胞中のその好適な受容体や標的に晒されたとき、抗体はそれらに結合し、光学的に符号化する。この発明を用いることで、膨大な数の符号が使用可能となるため、多くの細胞の部分、化学物質及び構造が同時に可視化され光学的に符号化され、それらの同一性を判断することができる。・・・。
[0037] 別の例示的な実施形態では、生体分子(例えば、DNA、RNA、タンパク質およびポリペプチド)は、共有結合を介して組成物に生体分子を結合する一連の化学反応を介して、本発明の所望の希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物に結合させることができる。例えば、タンパク質は、所望の希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物を含む粒子に結合して、粒子をシリカで被覆し、粒子を、テトラエトキシシラン(TEOS)、Si(OCH2CH3)4の溶液と混合し、この混合物を加水分解し、TEOSをSiO2に加水分解することによって得ることができる。・・・。
[0038] 本発明のさらなる態様は、希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物の励起によって試料検出および同定を行うための方法において、1以上の希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物を使用することからなる。前述のとおり、組成物中の2以上のダウンコンバージョン発光体は、少なくとも1つのホストの中に2以上の異なる発光体がある形、または、個々の相に1以上の発光体を含有する2以上の独立した相の混合物の形をとり、特定の波長の光子を吸収し、そして励起波長よりも、低いまたは高いエネルギーの発光波長で電磁エネルギーを放出する。本発明のこの態様によれば、各励起されたダウンコンバージョン発光体の発光強度が測定され、その強度の比が計算される。発光強度は、発光体または粒子間の相互作用が弱いか、または全くないと仮定して符号化物質の存在量に比例する。これら1以上の比は、サンプルを明確かつユニークに識別するコードを構成している。」)
「[0044] Sample or object detection and code-reading using the RE downconverter phosphor compositions may be generally performed in a series of steps. In one exemplary embodiment, a sample or object combined with a RE down converting phosphor composition is illuminated with electromagnetic radiation at a wavelength suitable to induce excitation. If the composition contains at least two downconverting emitters, the sample or object is typically excited using radiation of about 200 nm to about 450 nm, and preferably 230 nm to 375 nm. For a sample possessing a YVO4 host, the 325 nm output of a He-Cd laser is a preferred illumination/excitation source. Second, radiation at two or more emission wave length bands is detected by a detector from the at least two emitters. The excited downconverting composition, in one embodiment, may emit radiation in the 350 nm to 850 nm range, most of which is within the visible range. The intensities of the emitted radiation is then used to calculate at least one ratio of emission intensities. The obtained ratio provides a unique code if the intensities are known.」
(当審訳:「[0044]希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物を使用して、サンプルまたは対象物の検出およびコードの読み取りは、一般に、一連の工程で行うことができる。1つの例示的な実施形態では、希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物と組み合わせて、サンプルまたは対象は、励起を誘導するために適切な波長の電磁放射線で照射される。組成物は少なくとも2つのダウンコンバージョン発光体を含有する場合には、試料又は対象物は、典型的には約200nm~約450nm、好ましくは230nm~375nmの放射線を用いて励起される。YVO4ホストを有するサンプルには、He-Cdレーザの325nm出力が好ましい照明/励起源である。次いで、2またはそれ以上の発光波長帯での放射は、少なくとも2個の発光源から検出器によって検出される。励起されたダウンコンバージョン組成物は、一実施形態において、350nm~850nmの範囲で発光し、その大部分が可視光の範囲にある放射線を放出することができる。放出された放射線の強度は、少なくとも1つの放射強度の比を計算するために使用される。強度が知られていれば、得られる比は、固有のコードを与える。」)
「[0046] The excitation source used in the sample or object detection and code-reading method described above may include laser diodes, arcs, and discharges of any type of incandescent filament. Deuterium and mercury discharge lamps are also good excitation sources. It is also possible to use wavelengths emanating from the Sun. As stated above, the 325 nm output of a He-Cd laser is particularly convenient excitation source for suitably absorbing hosts such as YVO4. Undesirable wavelengths from the source illumination may be filtered from the detector using optical filters that have low transmissibility for the excitation wavelength. The excitation illumination may also be multiplexed and/or collimated, for example through the use of a dichroic mirror array. This would allow the simultaneous excitation of multiple down converter species having different excitation wavelength bands. The illumination may be continuous or pulsed or a combination of the two. Such a combination would allow signal discrimination between continuous wave induced and pulsed phosphorescence. One may then discriminate between multiple phosphor species having similar emission spectra but different excitation spectra.」
(当審訳:「[0046] 上述したサンプル又は物体の検出及びコード読取方法に用いられる励起源はレーザーダイオード、アーク、および任意の種類の白熱フィラメントの放電を含むことができる。重水素と水銀放電ランプもまた良好な励起源である。太陽から放射される波長を使用することも可能である。上述したように、He-Cdレーザの325nm出力は、YVO4のような適切に吸収するホストに対し特に便利な励起ソースである。ソース照明の望ましくない波長は、励起光の波長に対して低い透過率を有する光学フィルタを使用して検出器から遮蔽することができる。励起光は、例えばダイクロイックミラーアレイを用いて多重化及び/又は平行光化される。それは、異なる励起波長バンドを有する複数のダウンコンバージョン種の同時励起を可能にするであろう。照明は連続的またはパルス状であってもよく、またはそれらの組合せでもよい。このような組み合わせは、連続波およびパルス化された蛍光の間の信号識別を可能にするであろう。次いで、同様の発光スペクトルを有するが異なる励起スペクトルを有する複数の蛍光種を識別することができる。」)
「[0047] Pulsed radiation of sufficiently short duration, where the pulse is much shorter than the lifetime of the species to be excited and read, can be used to time resolve organic dye emitters (excited state lifetimes of about nanoseconds) from any organic dyes or quantum dots used in conjunction with the RE downconverting phosphorcompositions (lifetimes generally in the 0.1 millisecond time range).」
(当審訳:「[0047]パルスが励起され、読み出される種の寿命よりもはるかに短い、十分に短い持続時間のパルス放射は、REダウンコンバート蛍光体組成物と併用される、任意の有機色素からなる有機色素エミッター(ナノ秒程度の励起状態寿命)または量子ドット(一般に0.1ミリ秒程度の寿命)の時間分解に用いることが可能である。」)
「[0055] It should be understood that other detection schemes are possible in addition to those making use of a flowcytometer. In another embodiment the multicolor emission from the encoded particles is detected, measured and analyzed using a hyperspectral imaging system. The operation of an exemplary embodiment of a hyperspectral imaging system to image the encoded particles is illustrated in FIG. 3A-3C. The hyperspectral imaging system measures the emission spectrum for each pixel in an image. As shown in FIGS. 3A-3C, a “data cube' is generated with the slit orientation, and the direction of slide scanning and emission spectra make up the three axes of the data cube. Hyperspectral imaging has been used previously to measure spots on a microarray slides and other objects.」
(当審訳:「[0055]なお、フローサイトメトリーを利用するものに加えて他の検出手法も可能であることを理解すべきである。別の実施形態では、コード化された粒子から多色発光を検出し、測定し、ハイパースペクトル・イメージングシステムを使用して分析される。コード化された粒子を撮像するためにハイパースペクトル・イメージングシステムの例示的な実施形態の動作が図3A~3Cに示されている。ハイパースペクトル・イメージングシステムは、画像における各画素について、発光スペクトルを測定する。図3A~3Cに示すように、スリットの方向で『データキューブ』が生成され、スライド走査と発光スペクトルの方向は、データキューブの3軸を構成している。ハイパースペクトル・イメージングは、マイクロアレイスライドの上にスポットを測定するために以前から使用されている。」)
(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)の各記載事項によれば、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。ここで、各構成単位冒頭の「a」等は分説番号であり、以下該各構成単位を「構成a」などという。また、各構成単位末尾の括弧内には主たる引用元の段落番号等を記載した。
「a 生物学的試料中の細胞の部分、化学物質、構造を可視化し光学的に符号化し同一性を判断する方法であって、([0036])
b ダウンコンバージョン希土類蛍光体組成物のナノ粒子(サイズ約10nm)はその表面に取り付けられた抗体を備え、その抗体が細胞中のその好適な受容体や標的に晒されたとき、抗体はそれらに結合し、光学的に符号化され、([0036])
c 試料は、典型的には約200nm~約450nm、好ましくは230nm~375nmの放射線を用いて励起され、([0044])
励起源はレーザーダイオード、アーク、および任意の種類の白熱フィラメントの放電を含むことができ、([0046])
d 次いで、2またはそれ以上の発光波長帯での放射は、検出器によって検出され、([0044])
ソース照明の望ましくない波長は、励起光の波長に対して低い透過率を有する光学フィルタを使用して検出器から遮蔽することができ、([0046])
e 希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物を使用して、サンプルまたは対象物の検出およびコードの読み取りは、一般に、一連の工程で行うことができ、励起されたダウンコンバージョン組成物は、一実施形態において、350nm~850nmの範囲で発光し、その大部分が可視光の範囲にある放射線を放出することができ、放出された放射線の強度は、少なくとも1つの放射強度の比を計算するために使用され、強度が知られていれば、得られる比は、固有のコードを与え、([0044])
発光強度は、発光体または粒子間の相互作用が弱いか、または全くないと仮定して符号化物質の存在量に比例するものであり、([0038])
f 例えば、生体分子(例えば、DNA、RNA、タンパク質およびポリペプチド)は、共有結合を介して組成物に生体分子を結合する一連の化学反応を介して、所望の希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物に結合させることができ、例えば、タンパク質は、粒子をシリカで被覆し、粒子をテトラエトキシシラン(TEOS)、Si(OCH2CH3)4の溶液と混合し、この混合物を加水分解し、TEOSをSiO2に加水分解することによって、所望の希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物を含む粒子に結合することができるものであり、([0037])
試料検出および同定を行うため、1以上の希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物を使用し、組成物中の2以上のダウンコンバージョン発光体は、少なくとも1つのホストの中に2以上の異なる発光体がある形、または、個々の相に1以上の発光体を含有する2以上の独立した相の混合物の形をとり、特定の波長の光子を吸収し、そして励起波長よりも、低いまたは高いエネルギーの発光波長で電磁エネルギーを放出する態様を含み、([0038])
希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物と併用して有機色素エミッターまたは量子ドットが用いられ得るものであり、([0047])
g コード化された粒子からの多色発光はハイパースペクトル・イメージングシステムを使用して分析され、ハイパースペクトル・イメージングは、マイクロアレイスライドの上にスポットを測定するために以前から使用されているものであり、ハイパースペクトル・イメージングシステムは、画像における各画素について、発光スペクトルを測定するもので、スリットの方向で『データキューブ』が生成され、スライド走査と発光スペクトルの方向は、データキューブの3軸を構成しており、([0055])
h 組成物は少なくとも2つのダウンコンバージョン発光体を含有する場合には、試料又は対象物は、典型的には約200nm~約450nm、好ましくは230nm~375nmの放射線を用いて励起される、方法。([0044])」
2-2 引用文献2に記載された事項
引用文献2には次の記載がある。
(1)発明の詳細な説明の記載事項
「【0015】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態について詳細を説明する。ただし、以下では、本発明の検査装置の機能を備えた透過型顕微鏡や蛍光顕微鏡を用いて説明を行う。
・・・
【0048】
図7は、第5の実施形態に対応する蛍光顕微鏡5の動作フローチャートである。以下、図7を参照し、蛍光顕微鏡5の動作について説明する。蛍光顕微鏡5に設けられた不図示の照明スイッチがオンすると、光源81は発光を開始する(図7S1)。
【0049】
光源81により出射される光は、集光レンズ82を介して励起フィルタ83に導かれる。励起フィルタ83は、このようにして導かれた光から、上述した2種類の蛍光色素A,Bにより染色された被検体91内の物質を励起させるための2種類の波長領域を抽出し、2波長の励起光を出射する。
【0050】
ハーフミラー84は、このような2波長の励起光の一部を反射し、他の一部を透過する。ハーフミラー84によって透過された2波長の励起光は、ダイクロイックミラー85に導かれる。ダイクロイックミラー85は、このようにして導かれた2波長の励起光を、波長領域毎に2つに分離する。このような分離により得られる一方の波長領域の励起光は、光センサ86に導かれ、他方の波長領域の励起光は、光センサ87に導かれる。
【0051】
第5の実施形態では、説明を簡単にするため、蛍光色素Aによって染色された物質を励起するための波長領域Laの励起光が光センサ86に導かれ、蛍光色素Bによって染色された物質を励起するための波長領域Lbの励起光が光センサ87に導かれると仮定する。
一方、ハーフミラー84によって透過された2波長の励起光は、集光レンズ88,ダイクロイックミラー89,対物レンズ90を介して被検体91に照射される。被検体91からは、2波長の蛍光が発せられ、このような2波長の蛍光は、対物レンズ90,ダイクロイックミラー89を介してダイクロイックミラー92に導かれる。
・・・
【0059】
規格化が完了した画像信号は、表示装置40に供給され表示される(図7S8)。以上説明したように、第5の実施形態によれば、光源81の光量が変動する場合であっても、2種類の蛍光色素によって染色された被検体91に対する2つの蛍光画像を、所望の明るさでバランス良く表示することができる。
【0060】
そのため、ユーザは、このようにして表示された2つの蛍光画像を比較することによって、被検体91における2つの物質の因果関係を精度良く解析することができる。なお、第5の実施形態では、2波長の励起光をダイクロイックミラー85によって波長領域毎に分離し、各々の波長領域の励起光量を光センサ86,87によって検出しているが、例えば、図8に示すように、ダイクロイックミラー85および光センサ86,87に代えて、プリズムなどの分光部材101および分光検出器102を設け、励起光を分光して各波長毎の光量を検出するようにしても良い。
【0061】
ただし、図8に示すような蛍光顕微鏡6において、画像処理装置30では、分光検出器102によって検出された光量のうち、上述した波長領域La,Lbの励起光量に相当する光量を選択的に用いて規格化が行われる必要がある。また、第5の実施形態では、2つの蛍光画像を左右に並べて表示する蛍光顕微鏡5を用いて説明を行っているため、蛍光画像における各々の画素値が規格化されているが、例えば、顕微鏡本体80と同様にして波長領域La,Lbの励起光量を検出する機構(ハーフミラー84、ダイクロイックミラー85、光センサ86,87に相当する)を蛍光測光装置に設ければ、蛍光測光装置によって検出される蛍光量を規格化することが可能である。
【0062】
このような規格化により、蛍光測光装置では、光源の光量の変動に影響されることなく、蛍光量の定量的な検出が実現されることになる。」
(2)図面
ア 図6
[図:0001385700000001.jpg]
イ 図8
[図:0001385700000002.jpg]
2-3 引用文献3に記載された事項
引用文献3には次の記載がある。
(1)発明の詳細な説明の記載事項
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は臨床検査の分野において、ラマン光を利用して呼気中成分、例えばアセトン、アセトアルデヒド、イソプレン、アンモニア、酪酸、吉草酸、酸素、窒素、二酸化炭素などの濃度(存在量や存在比)を比較的安価な装置で、しかも短時間に測定する方法と装置に関するものである。
・・・
【0054】
【実施例】
ここで、本発明の測定法を実施するための測定装置の実施例を図1と図2に示す。図1は装置構成のブロック図であり、光源部1、試料部2、測定対象光学調整部3、補正光学調整部4、分光検出部5及びデータ処理部6からなる。図2に図1のブロック図を詳細に表した具体的な例を示す。光源部1は、単一波長光を発生する励起光源7と、励起光源7からの励起波長のみを透過させ、その他の光は反射するバンドパスフィルター27と、励起光源7からの光束を試料用光束24sと補正用光束24rとに分割するために、光路上に斜めに置かれたスライドガラス9と、スライドガラス9を挟んで試料部2の試料11に試料用光束24sを収束させるための光源集光レンズ8及び集光レンズ10を備えている。
・・・
【0058】
再び、図2に戻って説明する。測定対象光学調整部3は、試料セル26中に収められた試料11に試料用光束24sが照射されて発生した散乱光から励起光と同じ波長成分を除去して蛍光とラマン散乱光を含んだ測定対象光を取り出すフィルタ手段14と、散乱光を分光器の入口スリット25に収束させるようにビームを調整する光学系13,15とを備えている。測定対象光学調整部3の出口位置には、測定対象光学調整部3からの試料用光束24sと補正光学調整部4から出射した補正用光束24rとを同一の光路上に置く合波手段として、光路上に斜めに置かれたスライドガラス16が設けられている。
・・・
【0061】
補正光学調整部4は、励起光源部1でスライドガラス9により分割された補正用光束24rの光量を減衰させる減衰フィルタ17と、光路を折り曲げるミラー18を備えている。補正用光束24rは光源からの励起光強度の変動によるスペクトル光強度の変動を補正するものであり、そのような補正を必要としない場合は、光源部1でのスライドガラス9、補正光学調整部4及び合波手段であるスライドガラス16は不要になる。
補正用光束24rは光源7からの励起光のみを含み、試料を経ていないため、試料には依存せず、光源からの強度変動を忠実に表したものとなる。
【0062】
分光検出部5は、測定対象光学調整部3からの試料用光束24sと補正光学調整部4から出射した補正用光束24rとをスライドガラス16から入口スリット25を経て取込み分光する分光器21と、その分光器21により分光されたスペクトル光を検出する検出器20とを備えている。
【0063】
分光検出部5は検出器20としてマルチチャンネル光検出器を備え、測定しようとする波長領域を同時に検出するポリクロメータであることが望ましい。
分光検出部5がポリクロメータであるときは、測定しようとする波長領域を同時に検出することができ、所定領域の測定対象光スペクトルと励起光とを同時に検出することが出来る。その結果、測定対象光の各波長の検出時間と励起光との検出時間に差が生じない。しかし、測定対象光の各波長の検出時間と励起光との検出時間に差が生じてもよい場合は、分光検出部5は分光器21として波長走査型の分光器を備え、検出器20としてシングルチャンネル光検出器を備え、測定しようとする波長領域を順次検出するものであってもよい。
【0064】
データ処理部6は、処理演算コントロール部22と出力装置23を備え、分光検出部5の検出器20により検出された分光スペクトル中の励起光成分の検出強度を基準にして測定対象光強度を補正する機能を有する。」
(2)図面の記載事項
ア 図2
[図:0001385700000003.jpg]
2-4 引用文献4に記載された事項
引用文献4には次の記載がある。
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体撮像デバイスを用いた生体高分子分析支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な生物種の遺伝子の発現解析を行っている。遺伝子の発現解析とは、細胞で発現している遺伝子を同定することであり、具体的には、遺伝子をコードするDNAから転写されているmRNAを同定することである。
【0003】
遺伝子の発現解析のためにDNAマイクロアレイ及びその読取装置が開発されている。
DNAマイクロアレイは、プローブとなる既知の塩基配列のcDNAをスライドガラス等の固体担体上にマトリックス状に整列固定させたものである(例えば特許文献1参照)。
ここで、既知の塩基配列のcDNAとしては、検体において既知のmRNAと同一、またはその一部と同一の塩基配列のcDNAが用いられる。DNAマイクロアレイ及びその読取装置を用いた遺伝子の発現解析は次のようにして行う。
【0004】
まず、複数種類の配列既知のcDNA(以下、プローブDNAという)をスライドガラス等の固体担体に整列固定させたDNAマイクロアレイを準備する。次に、検体からmRNAを抽出し、逆転写酵素を用いて蛍光物質で標識したcDNA(以下、サンプルDNAという)を合成する。次に、サンプルDNAを蛍光物質で標識化してからDNAマイクロ(3)JP2010-85115A2010.4.151020304050アレイ上に添加すると、サンプルDNAが相補的なプローブDNAとハイブリダイズすることによりDNAマイクロアレイ上に固定される。サンプルDNAを標識する蛍光物質は励起されるとサンプルDNAが結合したプローブDNAの位置から蛍光を発することになる。
【0005】
次いで、DNAマイクロアレイを読取装置にセッティングし、読取装置にて分析する。
読取装置は、励起光の照射点をDNAマイクロアレイに対して二次元的に移動し、それと共に集光レンズ及びフォトマルチプライヤーによってDNAマイクロアレイを二次元走査する。励起光により励起された蛍光物質から発した蛍光を集光レンズで集光させ、蛍光強度をフォトマルチプライヤーで計測することで、DNAマイクロアレイの面内の蛍光強度分布を計測し、これにより、DNAマイクロアレイ上の蛍光強度分布が二次元の画像として出力される。出力された画像内で蛍光強度が大きい部分には、プローブDNAの塩基配列と相補的な塩基配列を有したサンプルDNAが含まれていることを表している。従って、二次元画像中のどの部分の蛍光強度が大きいかによって、配列既知のmRNAのうち、どれが検体で発現しているかを同定することができる。
【特許文献1】
特開2002-286643号公報」
2-5 引用文献1-1に記載された事項
引用文献1-1には次の記載がある。
(1)発明の詳細な説明の記載事項
「【0007】
近赤外光は生体透過性が高いため、invivoイメージングや腋窩リンパ節検査などの体内診断の高感度化をゴールに、技術開発が試みられている。血液や体腔液を対象として検索する臨床検査においても、近赤外光が利用可能となれば、高感度化と多種類の疾病マーカーの同時検出が可能となるが、実現していない。実現のためには、近赤外波長領域で効率良く発光するプローブが必要である。
SWCNTは、450-1350nmの光励起により700-2300nmで発光する(図2にその一部の波長範囲の発光マップを示す)。この波長範囲は、生体物質によって吸収されにくいあるいは自家発光の少ない波長範囲(波長600-1300nm)をふくむ。SWCNTは、近赤外色素分子や近赤外量子ドットに比べて、10倍以上の光学的耐久性があり、化学修飾も可能である。つまり、SWCNTは近赤外発光プローブとしての優位性は比類なく、近赤外光を利用した次世代臨床検査の実現を可能にする強力な新規材料である。SWCNTの発光は2002年に発見され、これまで、生体内のSWCNTイメージングなども試みられた(非特許文献3)ものの、そのもっとも有力な応用である臨床検査への検討はこれまで全くなされていない。
・・・
【0010】
本出願は、具体的には、以下の発明を提供する。
〈1〉ナノカーボン(単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、ナノグラフェン、その他のナノカーボン)の特異な光学的性質(光吸収、発光、ラマン散乱光)を利用することを特徴とする、免疫測定方法あるいは臨床検査方法。
〈2〉波長450-1350nmの光励起により波長700-2300nmで発光する単層カーボンナノチューブ(SWCNT)あるいはナノグラフェンを発光標識として用いることを特徴とする、〈1〉に記載の免疫測定方法あるいは臨床検査方法。
〈3〉ナノカーボン(単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、ナノグラフェン、その他のナノカーボン)を含有する発光標識物質。
〈4〉ナノカーボンが、波長450-1350nmの光励起により波長70-2300nmで発光する単層カーボンナノチューブ(SWCNT)あるいはナノグラフェンであることを特徴とする、〈3〉に記載の発光標識物質。
〈5〉特定の抗原を認識する抗体にナノカーボンを結合させて成り、抗原抗体反応をナノカーボンの蛍光、ラマン光、光吸収の計測により検出することを特徴とする、〈3〉または〈4〉に記載の発光標識物質。
・・・
〈11〉単一検体において〈1〉~〈10〉に記載の発光臨床検査法、あるいはこれと他の発光臨床検査法とを組み合わせて、異なった発光波長帯にて複数の抗原を検出することを特徴とする、免疫測定方法あるいは臨床検査方法。
〈12〉単一検体において、異なった発光波長帯における複数の抗原からの発光強度比を用いることを特徴とする、〈11〉に記載の免疫測定方法あるいは臨床検査方法。
〈13〉〈11〉または〈12〉の紫外、可視、近赤外、赤外発光計測において、単一あるいは複数の励起光を変調して、それに同期して近赤外発光を検出する臨床検査装置。
・・・
【発明の効果】
【0011】
本発明により、近赤外光を発光するナノカーボンで検出対象を標識することによって、血液などの生体由来物をサンプルとする臨床検査において、検出対象以外の血球成分などの生体物質を予め取り除くことなく、そのままで、検出対象成分のみを高感度で検出することができる。
・・・
【0016】
また、標識プローブからの発光の検出は、以下のように行う。
磁気ビーズ-抗原-SWCNT-DSPE-PEG-抗体の検出波長660nmの光照射により、SWCNTから波長1200nm前後の発光が観測できる。その近赤外発光スペクトルをInGaAs検出器を搭載した分光システムによって測定する。
更に、蛍光測定の場合、励起光を変調することが可能であることから、変調周期に対応して同期検波を行うロックインアンプ検出法を用いて微弱光の検出レベルを、暗電流相当レベル(数pW)からショットノイズ限界(~数十fW)まで向上することが可能である。図6に、内部増幅作用を有するInGaAs近赤外フォトトランジスタアレイの各セルにロックインアンプおよびAD変換器を接続した高感度赤外光検出アレイモジュールを磁気ビーズ-抗原-SWCNT-DSPE-PEG-抗体の検出に用いた例を示す。この実施例の場合、暗電流の影響を抑制できるため、寒剤を使用せずにフェムトワットレベルの微弱光が検出可能である。
【0017】
・・・このような方法では、サンプルに特段の前処理をする必要がないので、1つの生体サンプルについて、複数のレクチンの反応性を検出することが可能である。
例えば、α-1acidglycoproteinにみられる異なる3種類の糖鎖修飾異性体を同時に検出するためにはまず、抗ヒトα-1acidglycoprotein抗体を結合させたDynabeadsで血液等の検体から回収し、あらかじめそれぞれに反応させておいた励起波長の異なるSWCNT-付加ストレプトアビジンとビオチン化AOL,ビオチン化MAL-II、ビオチン化RCA-Iを後に、同時に反応させることで、一度に3つの修飾異性体を定量評価することができる。
また、SWCNTを発光波長の異なる3種類に分離して用い、各々に検出すべき3種類の抗原に特異的な抗体を付加することにより得られた3種類のSWCNT-抗体を用いることで、3種類のタンパクに付いて検体中の存在量を決定することができる。抗ヒトα-1acidglycoprotein抗体、抗M2BP抗体、抗MUC1抗体を結合させたDynabeadsでこれらに対する抗原を回収し、回収された抗原を検出するための検出抗体をそれぞれ、励起波長のことなるSWCNTによりラベルしておいて使用することで、同時に、3つの抗原量を定量評価することができる。
・・・
【0018】
現在のバイオマーカーの検出は、シグナル検出に利用する光波長の制限があるため、臨床検査では通常、i)採血した全血から血球成分(赤血球や白血球、血小板)を除いた血漿、または、ii)血液を凝固させて血球成分と線維素を除いた血清をサンプルとして測定する。フィルター濾過により除去する方法も取り入れられているが、いずれの操作でもこれらの成分が除ききれない他、操作で生じる赤血球溶血によるヘモグロビンの混入がおこる。
これらの生体由来物質混入は、疾患バイオマーカー検出評価で利用する発光(蛍光)を妨害吸収してしまい疾病検出感度を下げてしまう。同時に、血球成分が非特異的に発光し、プローブ発光検出の際にノイズの原因ともなる。こうした血球成分によるプローブ発光の妨害吸収や自家発光ノイズは、早期診断を目的とした疾患バイオマーカーの高感度検出を邪魔し、その実用化において非常に大きな障害となっている。
図8は、図7で示した装置により測定されたスペクトラムを、従来方法におけるスペクトラムと比較したものである。従来技術では、蛍光標識の発光波長は、高々800nmであるため、そのままではヘモグロビンの自家発光スペクトラムがバックグラウンド光として標識による蛍光を覆ってしまうので、まず、遠心分離器など大型の前処理装置により、赤血球を取り除く必要がある。また、蛍光標識の発光波長域が狭いので、通常1回の検出には1波長のみを使用するため、複数の抗原を検出するためには、それと同数の検体を用意する必要がある。
一方、本発明による蛍光検出装置では、ヘモグロビンによる発光帯よりも長波長における蛍光を高感度にて検出することができるため、サンプルは全血のままで解析装置に導入することができ、煩雑な前処理が不要であること、これにより遠心分離やフィルタリングの際の溶血などの影響が無いこと、その結果感度が数十倍向上すること、などの特徴がある。」
(2)図面の記載事項
ア 図6
[図:0001385700000004.jpg]
イ 図8
[図:0001385700000005.jpg]
(3)引用文献1-1に記載された発明
上記(1)・(2)に挙げた記載から、引用文献1-1には次の発明(以下「引用発明1-1」という。)が記載されているといえる。分説番号及び根拠記載の表示については上記第5.2-1(2)と同様である。
「1a 血液などの生体由来物をサンプルとし、疾病マーカーを検出する臨床検査方法であって、(【0007】・【0011】)
1b 疾病マーカである抗原を認識する抗体に単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を結合させて、抗原抗体反応を単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の蛍光、ラマン光、光吸収の計測により検出する工程と、(【0007】・【0010】)
1c 波長450-1350nmの光により光励起を行う工程と、(【0010】・【0016】)
1d 波長700-2300nmでの単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の発光を近赤外発光スペクトルをInGaAs検出器を搭載した分光システムによって測定する工程と、(【0010】・【0016】)
1e 疾病マーカを検出する工程を有し、(【0016】)
1f 単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を発光波長の異なる3種類に分離して用い、各々に検出すべき3種類の抗原に特異的な抗体を付加することにより得られた3種類の単層カーボンナノチューブ(SWCNT)-抗体を用いることで、3種類のタンパクに付いて検体中の存在量を決定するものであり、(【0017】)
1h 単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を蛍光標識とし、(【0007】・【0010】)
発光励起を波長450-1350nmの光で行うことで、(【0010】・【0016】)
ヘモグロビンの自家発光帯である600~1000nmよりも長波長における蛍光を高感度で検出できるものであり、(【0018】・【図8】)
1k’ 血液サンプルには、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を標識として含むものである、(【0007】・【0010】・【0016】)
1l 方法。」
2-6 引用文献1-2に記載された事項
(1)発明の詳細な説明の記載事項
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に特定の波長の光を励起光として照射し、試料が発する蛍光を測定する蛍光分光光度計に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光分光光度計は、物質に光(励起光)を吸収させて励起状態とし、励起状態から再び基底状態に戻る際に発する光(蛍光)を測定し、試料に関する定性・定量分析を行なう装置である。蛍光分光光度計は、定量の感度・精度に優れ、液体クロマトグラフの検出器としても利用される。
【0003】
一般的な蛍光分光光度計について図5に沿って説明する。光源31から発した光が第1分光部すなわち励起側分光部(回折格子32、スリット33)で分光され、所望の波長の光(励起光)が試料セル35中の試料に照射される。試料に照射された光は、そのエネルギーに対応した試料分子中の電子の一部を励起し、試料分子を励起状態にする。励起状態から再度基底状態に戻るときに発する光が、第2分光部すなわち蛍光側分光部(回折格子36、スリット37)で分光され、試料の蛍光として所望の波長の光λEmが検出部38に到達する。蛍光の強度は励起光の強度に依存するので、励起光強度の変動が蛍光強度の測定に大きな影響を与える。励起光強度の変動を補償するために、励起光側分光部からの励起光λExは、試料セル35に入射する前にビームスプリッタ34によって分岐され、その一部の光が参照光λRとして参照光検出部39に導かれる。蛍光検出部38及び参照光検出部39からの信号は、演算部40に伝達され、蛍光検出器としての出力が演算される。
蛍光検出器の出力として蛍光強度と励起光強度の比とすることで、励起光の変動の影響は抑制される。特許文献1~3などに記載されるように、試料セル35に入射する光を分岐させる構成が、一般的である。」
(2)図面の記載事項
[図:0001385700000006.jpg]
2-7 参考文献1に記載された事項
本件出願の優先日前に公知となった特表2009-524060号公報(以下「参考文献1」という。)には次の記載がある。
(1)特許請求の範囲~発明の詳細な説明の記載
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の表現型を決定する方法であって、以下の工程を含む方法:
a)i)複数の連結されたビーズであって、
A)発光電磁コード、
B)被験体の表現型と相関する核酸にハイブリダイズする複数の核酸マーカーであって、独特な配列を有する核酸が独特な発光電磁コードを有するビーズに連結されるように構成されている、複数の核酸マーカーを含む、ビーズ、および
ii)該被験体からの核酸を含むか、またはそれを含むことが疑われている試料を供給する工程;
b)該複数のビーズ上の該発光電磁コードを検出し、および該ビーズ上の該核酸マーカーの該独特な配列に対応する該コードを記録する工程;
c)該試料中の核酸へのハイブリダイゼーションが起こり得るような条件下で、該試料と該連結されたビーズを混合する工程;
d)ハイブリダイゼーションが起こっているビーズを検出する工程;
e)該ハイブリダイズしたビーズ上の該発光電磁コードを決定する工程;
f)該ハイブリダイズしたビーズ上の該発光電磁コードを、該記録コードと比較する工程;ならびに
g)該被験体における該表現型に対して、該記録コードを相関させる工程。
【請求項2】
発光電磁コードが3つより多くの識別可能な電磁波長を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
発光電磁コードが10個より多くの識別可能な電磁波長を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
電磁波長が個別の視覚色である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
ビーズの数が1,000,000個を超える、請求項1記載の方法。
【請求項6】
複数の核酸マーカーが1000種の異なるマーカーを含む、請求項1記載の方法。
・・・
【請求項8】
表現型が疾患である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
被験体がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項10】
a)第1の発光標識および第2の発光標識を含む第1のビーズと;
b)第3の発光標識および第4の発光標識を含む第2のビーズと;
c)該第1のビーズを受容可能な第1の透明チャネルおよび該第2のビーズを受容可能な第2の透明チャネルと;
d)発光標識からの電磁放射を検出するための機器とを含む、検出システム。
【請求項11】
第1の発光標識および第2の発光標識が蛍光量子ドットである、請求項10記載のシステム。」
・・・
【請求項16】
電磁放射の供給源をさらに含む、請求項10記載のシステム。
【請求項17】
電磁放射の供給源がレーザーである、請求項16記載のシステム。
・・・
【0046】
ある態様において、本発明は、単一チューブ形式のハイブリダイゼーションアッセイにおいて特定の分子プローブでコーティングされたコード化ビーズのセットを使用する方法に関する。コード化ビーズを用いるハイブリダイゼーションはスペクトルコード法によって行われる。N通りの色が使用されるならば、2Nの別個の色の組み合わせを同定することができる。N通りの色が使用され、M通りの強度周波数分解能が使用されるならば、2NM通りの別個の色の組み合わせが同定できる。例えば、65,000個の独特なビーズは、16色または4色のいずれかを使用し、4通りの異なる強度分解能を用いてコード化することができる。ハイブリダイゼーション後、試料は、三次元マルチチャネル分析装置にポンピングすることができる。レーザーまたは他の光発光源、例えば、発光ダイオードを使用して、リアルタイムで個々のビーズを検出してもよい。ビーズ流の検出は、マルチチャネル分析装置の上端または側面のいずれかから、デジタルカメラを用いてなされてもよい。次いで、デジタルまたはアナログである、検出されたシグナルは、保存および分析のためにコンピュータに伝達される。」
(2)図面の記載
ア 図3
[図:0001385700000007.jpg]
イ 図15
[図:0001385700000008.jpg]
第6.対比・判断(当審拒絶理由通知の理由1について)
1 本願発明1と引用発明との対比
(1)本願発明1と引用発明との対比
ア 構成aの「生物学的試料」、構成fの「試料」は、いずれも構成Aの「試料」に相当する。
構成aの「細胞の部分、化学物質、構造」、構成bの「細胞中の好適な受容体や標的」、構成fの「生体分子(例えば、DNA、RNA、タンパク質およびポリペプチド)」及び「タンパク質」はいずれも、構成Aの「検体」に相当する。
構成aの「構造を可視化し光学的に符号化し同一性を判断する」ことは、構成Aの「検出及び/又は定量する」ことに相当する。
また、構成fによれば引用発明では生物学的試料である「生体分子」を試料とする場合、「生体分子(例えば、DNA、RNA、タンパク質およびポリペプチド)は、共有結合を介して組成物に生体分子を結合する一連の化学反応を介して、所望の希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物に結合させることができ、例えば、タンパク質は、粒子をシリカで被覆し、粒子をテトラエトキシシラン(TEOS)、Si(OCH2CH3)4の溶液と混合し、この混合物を加水分解し、TEOSをSiO2に加水分解することによって、所望の希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物を含む粒子に結合する」のであり、この工程は生体内ではなく生体外で行われることが明らかであり、よって構成aの「生物学的試料中の細胞の部分、化学物質、構造を可視化し光学的に符号化し同一性を判断する方法」は「インビトロ」で行われる方法である。このことは、構成Aで「検出及び/又は定量する方法」を「インビトロ」としていることに相当する。
イ(ア)構成bの「ダウンコンバージョン希土類蛍光体組成物のナノ粒子(サイズ約10nm)はその表面に取り付けられた抗体」、「ダウンコンバージョン希土類蛍光体組成物のナノ粒子」はそれぞれ、構成Bの「1種以上の試薬」、「所定の光学的性質を少なくとも1つ有する光学剤」に相当する。
(イ)構成bにおける「抗体はそれらに結合し、光学的に符号化され」ることは、構成Bの光学剤が「上記試料中に所定の検体が存在するならば、所定の光学的性質を少なくとも1つ有する」ことに相当するといえる。
(ウ)構成fにおいて、例えば検体がタンパク質である場合、「粒子をシリカで被覆し、粒子をテトラエトキシシラン(TEOS)、Si(OCH2CH3)4の溶液と混合し、この混合物を加水分解し、TEOSをSiO2に加水分解することによって、所望の希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物を含む粒子に結合する」ことは、検体を含む試料が、「所望の希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物を含む粒子に結合する」という反応を起こすことであるから、これは構成Bの「試料を1種以上の試薬と反応できる状態に置いて・・・光学剤を含む反応溶液を直接的又は間接的に調製する」ことに相当するといえる。
(エ)構成fにおいては、検体を含む試料が、「所望の希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物を含む粒子に結合する」状態となるにあたり溶液との混合や加水分解といった反応が行われるのであるから、試料は溶液の形態をとるといえ、よって、構成fの、前記状態にある検体を含む試料は、構成Cほかの「反応溶液」に相当する。
ウ 構成cの「試料は、典型的には約200nm~約450nm、好ましくは230nm~375nmの放射線を用いて励起され」ることは、構成Cの「上記反応溶液に電磁放射線を照射する」ことに相当する。
エ 構成dの「2またはそれ以上の発光波長帯での放射は、検出器によって検出」することは、構成Dの「上記反応溶液の光応答を検出する」ことに相当する。
オ 構成eの「励起されたダウンコンバージョン組成物」から「放出された放射線の強度は、少なくとも1つの放射強度の比を計算するために使用され、強度が知られていれば、得られる比は、固有のコードを与え」ること、及び「発光強度は、発光体または粒子間の相互作用が弱いか、または全くないと仮定して符号化物質の存在量に比例するものであ」ることは、合わせて構成Eの「上記光応答から上記検体の存在確認及び/又は定量を行う」ことに相当する。
カ 構成Fの「1種以上の試薬を用いて、それぞれ所定の光学的性質を少なくとも1つ有する少なくとも2種の異なる光学剤を含む反応溶液を直接的又は間接的に調製し」には、上記イで説示したとおり、構成fにおいて、例えば検体が検体のタンパク質である場合、「粒子をシリカで被覆し、粒子をテトラエトキシシラン(TEOS)、Si(OCH2CH3)4の溶液と混合し、この混合物を加水分解し、TEOSをSiO2に加水分解することによって、所望の希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物を含む粒子に結合する」ことが相当する。
また、構成fの「試料検出および同定を行うため、1以上の希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物を使用し、組成物中の2以上のダウンコンバージョン発光体は、少なくとも1つのホストの中に2以上の異なる発光体がある形、または、個々の相に1以上の発光体を含有する2以上の独立した相の混合物の形をと」ることは、構成Fの「少なくとも2種の異なる光学剤の上記所定の光学的性質は異なるものであること」に相当する。
キ 構成gの「ハイパースペクトル・イメージングシステム」は、例えば線状領域に対応する一次元の画素列のイメージを、グレーティングにより各画素ごとにスペクトル(多色)に展開し、2次元のイメージとして2次元アレイセンサなどにより一度に取得するシステムを指す用語であるから、構成Gの「光応答の色スペクトル分解を得る工程」及び「該スペクトル分解」に相当するものである。
よって、構成gの「コード化された粒子からの多色発光」は上記「ハイパースペクトル・イメージングシステム」により多色展開して、発光色ごとに検出されることになるのであるから、構成gの「コード化された粒子からの多色発光はハイパースペクトル・イメージングシステムを使用して分析され」ることは、構成Gの「上記光応答の色スペクトル分解を得る工程と、該スペクトル分解において前記少なくとも2種の異なる光学剤の上記異なる所定の光学的性質を別々に検出する工程とを有する」ことに相当するといえる。
ク 構成hの「約200nm~約450nm、好ましくは230nm~375nmの放射線」は少なくとも380~400nm以下の波長領域において紫外線領域に属するから、構成hは構成Hに相当する。
(2)一致点・相違点
ア 本願発明1と引用発明との一致点
本願発明1と引用発明とは次の点で一致する。
「A’ 試料に含まれる検体をインビトロ検出及び/又は定量する方法であって、
B 試料を1種以上の試薬と反応できる状態に置いて、上記試料中に所定の検体が存在するならば、所定の光学的性質を少なくとも1つ有する光学剤を含む反応溶液を直接的又は間接的に調製する工程と;
C 上記反応溶液に電磁放射線を照射する工程と;
D 上記反応溶液の光応答を検出する工程と;
E 上記光応答から上記検体の存在確認及び/又は定量を行う工程とを有するものであり、
F 上記方法は、1種以上の試薬を用いて、それぞれ所定の光学的性質を少なくとも1つ有する少なくとも2種の異なる光学剤を含む反応溶液を直接的又は間接的に調製し、前記少なくとも2種の異なる光学剤の上記所定の光学的性質は異なるものであること、及び、
G 上記光応答の色スペクトル分解を得る工程と、該スペクトル分解において前記少なくとも2種の異なる光学剤の上記異なる所定の光学的性質を別々に検出する工程とを有し、
H 前記電磁放射線は、紫外領域の放射線である、
L 方法。」
イ 本願発明1と引用発明との相違点
本願発明1と引用発明とは次の各点で相違する。
(ア)相違点1(構成A)
本願発明1では、「インビトロ検出及び/又は定量」は自動で行われるのに対し、引用発明では相当する工程が「自動」であるとは特定されていない点。
(イ)相違点2(構成I・J)
本願発明1が備える、「少なくとも、前記電磁放射線の一部を分析領域を通過させることなく誘導する工程」、「前記電磁放射線の一部の色スペクトル分解を得る工程」なる一連の工程を引用発明が備えない点。
(ウ)相違点3(構成K’)
本願発明1では、「反応溶液は、希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物を含まない」のに対し、引用発明の反応溶液は、構成eで特定されるように、「希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物」のみが用いられるか、たかだか、構成fで特定されるように、「希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物と併用して有機色素エミッターまたは量子ドットが用いられ」るものであり、「希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物」を用いない態様が含まれない点。
2 本願発明1と引用発明との相違点の検討
(1)相違点1について
インビトロにて試料と試薬との混合・反応、次いで光学測定まで自動で行うシステムは自動分析装置として周知慣用であり、その引用発明への適用は当業者にとって容易になし得ることである。
(2)相違点2について
蛍光分析をはじめとする、試料に励起光を照射し、それによる試料からの励起光とは異なる波長での放射光を測定する分析において、試料に向かう励起光の一部をハーフミラー等により、放射光測定用と共通の、または独自の分光器へ分離・誘導して励起光の強度を分光測定し、試料からの放射光の測定結果を補償することは、上記摘記した引用文献2、引用文献3の記載からも裏付けられるとおりの周知技術にすぎず、引用発明に当該周知技術を適用して相違点2の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。
(3)相違点3について
生体試料の蛍光標識分析において、量子ドットや有機蛍光色素など、希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物以外の蛍光標識を用いること自体は、上記摘記した参考文献1の記載によっても裏付けられるとおり、周知である。
しかし、光学剤(蛍光標識)として希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物を採用する引用発明1において、希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物以外の蛍光標識である「有機色素や量子ドット」を用いる場合については、[0004]において
「発光体がランタノイドではなく有機色素や量子ドットである場合、その励起状態の寿命が短いため、発光ピークが広くなり、それぞれが可視スペクトルの広い範囲を占めることになる。そのため、2つ以上の成分を混合して、目的のコードを発するような比率にする場合、重なり合う幅広いピークをデコンボリューション(分離)することが困難であった。このことは、現在市販されている最も広範なコードに顕著に反映されており、(a)1%組成間隔で分離可能な2つの色素のみからなり、一意に標識できるサンプルは最大100個、(b)量子ドット(QD)の混合物からは、最大180個までのコードしか利用できないことが報告されている。」
と記載され、そのうち特に前記下線部において、特に2つ以上の成分(発光体)を混合して用いる場合に、両者の蛍光のピークの分離が困難になるとの課題が存在することが述べられている。
そうすると、「組成物中の2以上のダウンコンバージョン発光体」が「少なくとも1つのホストの中に2以上の異なる発光体がある形、または、個々の相に1以上の発光体を含有する2以上の独立した相の混合物の形」(構成f)をとり、「2またはそれ以上の発光波長帯での放射は、検出器によって検出され」(構成d)る引用発明は、前記「2つ以上の成分を混合して、目的のコードを発するような比率にする場合、重なり合う幅広いピークをデコンボリューション(分離)することが困難」との課題を解決するために、光学剤(蛍光標識)として希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物を採用したものということができる。
よって、生体試料の分析において有機色素や量子ドットからなる蛍光標識(発光剤)の使用が公知または周知技術であるとしても、当業者にとって引用発明に対し該周知技術を適用する動機付けを欠くということができる。
また、上記2-2~2-7に示すいずれの公知文献にも、当該動機付けの欠如を補いうる技術事項の開示は認められない。
したがって、引用発明において相違点3の構成とすることは、当業者であっても、公知技術または周知技術に基づき容易になし得たこととはいえない。
(4)小括
上記(1)~(3)のとおりであるから、本願発明1は、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
3 本願発明2~14について
本願請求項2~14は本願請求項1を直接的または間接的に引用するものであるから、本願発明2~14は上記相違点3に係る本願発明1の構成K’と同一の構成を備えるものである。
よって、上記2の特に(3)で説示したものと同様の理由により、当業者であっても、引用発明、公知技術及び周知技術に基づいて、本願発明2~14を容易に発明することができたものとはいえない。
第7.当審拒絶理由の理由2(明確性)について
1 当審拒理補正書により、特許請求の範囲(請求項1・3・12・13)における「入射放射線」はいずれも「電磁放射線」へと補正され、また、「放射線源」なる用語は削除または「電磁放射線源」へと補正されたため、特許請求の範囲の特に前記各請求項における「電磁放射線」と「入射放射線」や「放射線」との混用による不明確性は解消した。(理由2の1・4)
2 当審拒理補正書により、該補正書による補正前の請求項1における「放射線源から放出された上記放射線の強度を検出する工程と、を更に有する、」なる特定事項は削除され、それに「放射線の強度」なる用語が該請求項1を含む特許請求の範囲から削除されたため、当審拒絶理由の理由2で指摘した《「放射線の強度」と「入射放射線の一部の色スペクトル分解を得る」こととの関係が、特に「強度」とスペクトルとの関係につき明確でない》旨の不明確性は解消した。(理由2の2)
3 当審拒理補正書により、請求項7は「上記分光計(64)は、波長分散素子(68)を含み、前記光電受信機(70)は、線形又は二次元の主要光電センサ(70)であることを特徴とする請求項5に記載の装置。」と補正された。
これに伴い、請求項5における「上記光電受信器(70)が、上記光応答の色スペクトル分解を供給できる分光計(64)の一部を構成する」、請求項8における「上記分光計(64)は、上記光電受信器(70)と接続され」なる各特定事項との関係についての、《光電受信器は分光計の一部でありながら、分光計は光電受信器と接続されており、分光計はさらに線形又は二次元の主要光電センサを有することになり、光電受信器、分光計、主要光電センサ相互の関係性が不明確である。》なる不明確性は解消した。(理由2の3)
4 以上1~3のとおりであるから、当審拒絶理由の理由2は解消した。
第8.原査定について
1 本願発明1と引用発明1-1との対比
本願発明1と引用発明1-1とを対比すると、概ね下記(1)の点で一致し、少なくとも下記(2)の各点で相違する。
(1)一致点
「A 試料に含まれる検体を自動でインビトロ検出及び/又は定量する方法であって、
B 試料を1種以上の試薬と反応できる状態に置いて、上記試料中に所定の検体が存在するならば、所定の光学的性質を少なくとも1つ有する光学剤を含む反応溶液を直接的又は間接的に調製する工程と;
C 上記反応溶液に電磁放射線を照射する工程と;
D 上記反応溶液の光応答を検出する工程と;
E 上記光応答から上記検体の存在確認及び/又は定量を行う工程とを有するものであり、
F 上記方法は、
1種以上の試薬を用いて、それぞれ所定の光学的性質を少なくとも1つ有する少なくとも2種の異なる光学剤を含む反応溶液を直接的又は間接的に調製し、前記少なくとも2種の異なる光学剤の上記所定の光学的性質は異なるものであること、及び、
G 上記光応答の色スペクトル分解を得る工程と、該スペクトル分解において前記少なくとも2種の異なる光学剤の上記異なる所定の光学的性質を別々に検出する工程とを有する、
L 方法。」
(2)相違点
ア 相違点1-1(構成H)
電磁放射線(励起光)が、本願発明1では「紫外領域の放射線」であるのに対し、引用発明1-1では「波長450-1350nmの光」である点。
イ 相違点1-2(構成I・J)
本願発明1が、「電磁放射線の一部を分析領域を通過させることなく誘導する工程」と「前記電磁放射線の一部の色スペクトル分解を得る工程」とを備えるのに対し、引用発明1-1では、相当する励起光の分光測定に関する構成を備えない点。
ウ 相違点1-3(構成K’)
反応溶液が、本願発明1では「希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物を含まない」のに対し、引用発明1-1において「単層カーボンナノチューブ(SWCNT)」に加え、他にいかなる(蛍光)標識を含みうるのか不明である点。
2 相違点の検討
(1)相違点1-1について
ア 引用発明1-1では、蛍光標識として、可視~赤外域の「波長450-1350nmの光により光励起」する「単層カーボンナノチューブ(SWCNT)」のみが特定されている。
そうすると、励起光として紫外光を用いると、該蛍光標識は蛍光を発せず、目的とする疾病マーカの検出が行えないこととなるから、励起光を相違点1-1のように「紫外領域の放射線」とする動機付けを欠く。
イ また、構成1h及び【0018】・【図8】の記載から、引用発明1-1は、従来の蛍光標識が800nm以下の波長帯を発光波長とすることで、血液試料を対象とする場合、ヘモグロビンの自家発光波長帯である可視域を含む600~1000nm程度の波長帯と発光波長帯が重複し、前記自家発光がバックグラウンド光として標識による蛍光を覆ってしまうという課題の認識のもとで、赤外領域に蛍光波長を有する単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を蛍光標識として用いることで前記課題を解決したものと理解される。
生体試料中の検体を蛍光標識により検出する際に、紫外線励起により蛍光を発する希土類蛍光標識等の蛍光標識を選択すること自体は周知であるが、引用発明1-1において、蛍光発光波長が可視を含む赤外線よりも短波長の波長帯である蛍光標識に置き換えることには、前記理解に照らし、阻害要因が存するといえ、当業者にとって、引用発明1-1において該選択をする動機付けを欠くものであり、この点、上記引用文献1-2の記載事項を参照しても、動機があるものとはいえない。
ウ 以上、ア・イのとおりであるから、引用発明1-1において、相違点1-1の構成とすることは、引用文献1-2を参照しても、当業者であっても容易に想到し得たことではない。
(2)相違点1-2について
上記第6.2(2)で相違点2について説示したものと同様の理由により、引用発明1-1において、相違点1-2の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
(3)相違点1-3について
引用発明1-1では、蛍光標識として、可視~赤外域の「波長450-1350nmの光により光励起」する「単層カーボンナノチューブ(SWCNT)」のみが特定されており、他の蛍光標識の使用について言及がない。
また、引用発明1-1において、ヘモグロビンの自家発光の影響を受けないとする赤外領域に蛍光波長を有する蛍光標識剤以外の、可視またはそれ以下波長の波長帯に蛍光波長を有する標識剤を用いることには阻害要因が存する。
さらに、希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物の多くが、紫外~可視域に励起・蛍光波長を有するし、該組成物の中に、赤外領域に蛍光波長を有するものが存在するとしても、蛍光強度や蛍光の波長域が引用発明1-1の用途として用いうるか否か直ちに明らかとはいえない。
以上に照らせば、引用発明1-1は、「単層カーボンナノチューブ(SWCNT)」のみを蛍光標識として用いるものであり、仮にこれと同等の蛍光標識が採用しうるとしても、希土類ダウンコンバージョン蛍光体組成物が含まれることが自明であるとまではいえないから、相違点1-3は実質的な相違点とはいえない。
3 まとめ
(1)上記2のとおりであるから、本願発明1は、原査定の拒絶の理由である、引用発明1-1及び引用文献1-2の記載事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものである、とはいえない。
(2)また、本願請求項2~14は本願請求項1を直接的または間接的に引用するものであるから、本願発明2~14と引用発明1-1との間には、少なくとも上記相違点1-1~1-3の点で相違がある。
よって、上記2の特に(1)で説示したものと同様の理由により、当業者であっても、引用発明1-1、引用文献1-2の記載事項、公知技術及び周知技術に基づいて、本願発明2~14を容易に発明することができたものとはいえない。
第8.むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審で通知した拒絶の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-001581