商標異議申立
2020-900312
エティソコ、オコシテ
- 審判番号
- 2020-900312
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 商願2020-035282
- 登録番号
- 6289888
- 請求日
- 2020年11月27日
- 審決日
- 2022年02月18日
- 公報発行日
- 2022年08月26日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】黒川 暢朗
- 【異議申立人】ラコスト
- 【異議申立人代理人】長谷川 芳樹
- 【異議申立人代理人】黒川 朋也
- 【異議申立人代理人】魚路 将央
- 【異議申立人代理人】加藤 あい
- 審判長/審判官
- 審判長 豊田 純一
- 審判官 杉本 克治
- 審判官 小田 昌子
- 分類
- T1651.271-Z (W25)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 商標法4条1項7号商標法4条1項15号商標法4条1項19号商標法43条の3第2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第4条第1項第15号、商標法第4条第1項第19号、商標法第4条第1項第7号、商標法第1条
- データ出所
- 審決公報(XML)
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登録第6289888号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。
結論
結 論
登録第6289888号商標の商標登録を取り消す。
理由
理 由
第1 本件商標
本件登録第6289888号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1に示すとおりの構成からなり、令和2年3月17日に登録出願、第25類「被服,ガーター,靴下留め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴,帽子」を指定商品として、同年8月4日に登録査定され、同年9月9日に設定登録されたものである。
第2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、登録異議の申立ての理由において、本件商標が商標法第4条第1項第15号、同項第19号及び同項第7号に該当するとして引用する商標は、別掲2(以下「引用商標1」という。)及び別掲3(以下「引用商標2」という。)のとおりの構成からなるものであって、申立人が、平成14年から、我が国を含む世界中で使用を開始したと主張するものであり、また、登録第4868551号商標(以下「引用商標3」という。)は、別掲4のとおりの構成からなり、平成13年10月24日に登録出願、第24類、第25類及び第26類に属する商標登録原簿に記載の商品を指定商品として、同17年6月3日に設定登録され、その商標権は、現に有効に存続しているものである。
なお、引用商標1ないし引用商標3をまとめていうときは、「引用商標」という。
以下、証拠の表記に当たっては、「甲第○号証」を「甲○」のように省略して記載する。
第3 登録異議の申立ての理由
1 商標法第4条第1項第15号に該当することについて
(1)ラコステブランドについて
申立人は、テニスプレーヤーのルネ・ラコステ氏によって1933年に設立されたフランスのファッションデザイン会社である(甲3)。申立人は、同社を象徴するブランドとして、ルネ・ラコステ氏のニックネーム「ワニのラコステ」に由来する「ワニ」のロゴマークを採択し、世界で初めてポロシャツのワンポイントマークとして使用して、爆発的な人気と支持を得た。以後、申立人は「LACOSTE」の名称とともに、「ワニ」のマークを全面に出した宣伝広告及び販促活動を積極的に行っており、今日では、ポロシャツその他の被服に統一的に使用されているほか、かばん、靴、時計、香水、アイウェアなどにも使用され、世界114か国に1,230の直営店を展開している(甲4~甲6)。
申立人は、我が国において、1964年から事業を開始し、2014年に50周年を迎えた(甲4、甲6)。2002年以降は、国内での販売権を取得した「株式会社ファブリカ」(以下「ファブリカ社」という。)によって、引用商標を付した「被服」や「靴」等の商品(以下、これら商品を「申立人商品」という。)が販売され、ライセンス事業が展開されている。
なお、ファブリカ社は、2015年に「株式会社ラコステジャパン」(以下「ラコステジャパン社」という。)へ改称し、現在に至っている(甲7)。ラコステジャパン社が運営する国内の販売店は、東京、名古屋など主要都市の直営店及び全国各地の百貨店内の販売店等を合わせると、130店舗にのぼる(甲6、甲9)。また、ラコステジャパン社の公式オンラインショップのほか(甲5)、各種通販サイトを通じた販売も活発に行われている(甲10~甲12)。
申立人の「LACOSTE」及び「ワニ」のマークは、80年以上の歴史があり、アパレル業界を代表する老舗ブランドとなっている。近年はブランド刷新にも意欲的に取り組んでおり、その事業領域と客層を広げている。その結果、申立人の「ワニ」のマークを使用した商品の世界総売上高は、2011年に約1,700億円(16億ユーロ)、2012年に約1,900億円(18億ユーロ)を記録した(甲13、甲14)。我が国における売上高は世界総売上高の約5%であり(甲13)、2011年は約85億円、2012年は約95億円と推定される。その後も、我が国での売上高は順調に伸び、2016年には120億円超(甲16)、2017年は132億円超、2018年は140億円、2019年は149億円となっている(甲17)。なお、これら売上高の約80%がポロシャツ等の衣類であり、約11~13%がスニーカー等の靴類である。
申立人の我が国における宣伝広告活動は、従来から展開している屋外広告や雑誌広告のほか、近年はブランド刷新の取組と相まって、若年層への訴求を強めている。例えば、雑誌については、従来の顧客層であった男性向けの雑誌のみでなく、女性向けの各種ファッション誌やカルチャー誌等にも積極的に広告を掲載している(甲15)。また、渋谷駅構内やスクランブル交差点、原宿駅周辺など、ファッションに敏感な若者が多く集う地域や、品川駅や羽田空港等の旅行者が多く利用する拠点での屋外広告にも力を入れている(甲18)。さらに、著名なプロテニスプレーヤーを起用した大々的な広告キャンペーンを全世界で一斉展開するなど、広告の規模も年々拡大している(甲19~甲22)。その他、近年は雑誌等の電子書籍化に合わせてインターネット広告にも裾野を広げ、LINEやインスタグラムのほか、国内最大級のインフルエンサーネットワークを持つ「Droptokyo」等のデジタルメディアを活用した広告も積極的に行っている(甲23)。その結果、「ワニ」のマークを使用した申立人商品の我が国での宣伝広告費は、2011年時点で約1億8,500万円(175万ユーロ)、2017年には約3億1,400万円、2018年は約3億4,400万円、2019年は約4億2,500万円と年々増加しており(甲17)、日本市場における申立人の「ワニ」のマークの露出はますます拡大している。
(2)引用商標の周知性・著名性
申立人は、創業以来、一貫して「ワニ」のロゴマークを使用し、いまや「ラコステ」といえば「ワニ」を、「ワニ」といえば「ラコステ」を想起するほど、そのつながりは強い。
引用商標1及び引用商標2は、申立人が2002年春から我が国を含む全世界で統一的に使用しているロゴである(甲24)。また、引用商標3は、申立人が1970年代から使用しているロゴであり、1977年にフランスで登録出願されたのち、世界各国で登録出願・商標登録がされている。例えば、アメリカでは1981年に、イギリスでは1984年に商標出願され商標登録されている(甲25、甲26)。
申立人は、創業当時からあらゆる機会を利用して引用商標、すなわち「ワニ」のロゴマークの訴求・浸透に努めている。例えば、申立人商品には、常に「ワニ」のロゴマークがワンポイントや織ネームの形で表示されているほか、商品に取り付ける紙ラベルや包装箱、ショッピングバッグなどにも必ず表示されており(甲27~甲31)、全世界で流通する全ての申立人商品に引用商標が表示されている。また、店頭でも、店舗看板はもちろんのこと、ハンガー、什器、その他の様々なディスプレイに引用商標が表示されている(甲32~甲35)。このように、申立人による引用商標の「ワニ」及び「LACOSTE」のロゴを使用したマーケティング手法は、全世界的に統一され、徹底しており、我が国でも被服に輿味を持つ者であれば、誰でも一度は引用商標の「ワニ」や「LACOSTE」のロゴを目にし、記憶している。
このような引用商標の使用状況に加え、上述の売上高、店舗数、広告費及び使用期間等を総合すると、引用商標は、遅くとも、本件商標の登録出願時において、申立人の取扱いに係る商品を表示する商標として、我が国を含む全世界で周知著名になっており、その著名性は現在に至るまで継続している。
(3)引用商標及び本件商標の類似性
本件商標は、ワニの図形の描写方法において引用商標と基本的特徴のみならず、微細な点まで一致する点を多々含み、引用商標のデッドコピーに近いものであることから、両商標の類似性の程度は極めて高い。
ア 引用商標の構成
引用商標1は、「口を大きく開けた横向きのワニ」をモチーフにした図形からなり、ボディ全体を緑色で、大きく開けた口の中を赤色で、頭部の2つの目を白抜きで、背中から尻尾にかけて施されたウロコ模様は小さな白抜きの三角形を連続的に配置して描かれている。
引用商標2は、上記の特徴を持つ引用商標1のワニの図形の下に、申立人が自社ブランドを表す標識として長年統一的に使用しているロゴ文字の「LACOSTE」を配したものである。
引用商標3は、引用商標1のワニの図形とほぼ同じ特徴を持つワニの図形からなるもので、申立人の元祖「ワニ」のロゴマークとして、引用商標1及び引用商標2とともに現在も申立人によって使用されている。
そして、上記のとおり、引用商標は、被服等の取引者及び需要者に広く認識されており、その著名性に相応して「ラコステのワニ」との観念及び称呼が生じるものである。
イ 本件商標の構成
本件商標は、口を大きく開けた横向きのワニの図形(以下「本件図形」という。)を大きく表し、その下に、「OCOSITE」の文字を反転させたとおぼしき文字(以下「本件文字」という。)を配したものである。そして、本件図形と本件文字とは、互いに重なり合うことなく外観上明らかに分離され表されていることから、本件商標は、本件図形及び本件文字がそれぞれ要部として認識され得るものである。
しかるに、本件図形は、引用商標、特に引用商標1及び引用商標2に含まれるワニの図形と、上下の向きや足の本数は異なるものの、「口を大きく開けた横向きのワニ」という基本的特徴のほか、「ボディ全体を緑色で、大きく開けた口の中を赤色で、頭部の2つの目を白抜きで、背中から尻尾にかけて施されたウロコ模様は小さな白抜きの三角形を連続的に配置」されているという主要な特徴、更には、ワニの各部位の形状等に至るまで、ほぼ同一である。よって、本件図形は、引用商標のワニの図形を直感させるものであり、「ラコステのワニ」との観念及び称呼が生じる。
また、本件文字は、「OCOSITE」の文字を反転させたものと推測され、「OCOSITE」の文字から生じる「オコシテ」の称呼から「起こして」程の意味合いが想起される。
そうすると、本件商標は、引用商標のワニの図形をひっくり返したような図形と、その下の本件文字から、全体として「『起こして』と、もがくラコステのワニ」程の観念をも想起させる。
ウ 類似性の程度
本件図形は、引用商標の「口を大きく開けた横向きのワニ」という基本的特徴がそのまま再現されており、しかも、尻尾の曲がり具合や角度、口の開き具合まで酷似している。また、「ワニ」の各部位を比較した場合も、頭部・胴体・尻尾のそれぞれの形状や比率(バランス)、目の位置及び形状、前足・後ろ足の位置及び形状、鱗の位置及び描出方法等、細部に至るまで共通している。さらに、両者は歯部分を緑色で彩色することや、歯・鱗の数といった偶然に一致するはずのない微細な点まで共通しているため、本件図形は引用商標と単に類似しているという程度ではなく、酷似、あるいはデッドコピーといえる。
また、本件文字は、申立人が長年使用している引用商標2の「LACOSTE」に近いフォント、デザインであえて表されており、かつ、その構成文字も、「OCOSITE」と「LACOSTE」は7文字中5文字が共通している。
以上のとおり、本件図形は、引用商標のワニの図形と外観上酷似するものであり、デッドコピーに近いものであって、「ラコステのワニ」という観念及び称呼が生じる点でも共通する。また、引用商標2の「LACOSTE」のフォントに似せた本件文字から、「起こして」の意味合いが想起されることとあいまって、本件商標からは「『起こして』と、もがくラコステのワニ」程の観念をも生じる。
したがって、本件商標と引用商標の類似性の程度は極めて高い。
(4)引用商標がハウスマークであり、かつ独創的であること
引用商標は、申立人のハウスマークとして独自に採択され、長年使用されている。
また、引用商標1及び引用商標2のデザインは、「ワニ」の持つ力強さを感じさせつつも、歯や爪、胴体、尻尾の曲がり具合など、全体が丸みを帯びるように描写されているため、決してどう猛ではなく、むしろユーモラスなイメージを想起させるものであり、その独創性は極めて高い。これは、1933年以来、申立人が改良を重ねてきたデザインであって、一朝一夕にして完成するものではない。ありふれた単純な図形であればともかく、このような独創性の高いワニの図形と、各部分の形状及び色彩から鱗の数などの微細な点に至るまで多くの共通点を含む図形が偶然に創作されることはあり得ない。
(5)需要者の共通性
本件商標の指定商品と引用商標の使用商品は被服等であることから、その需要者も共通する。
そして、被服等の需要者は一般消費者であり、商標やブランドについて詳細な知識を持たないまま、雑誌記事や口コミ等による情報と記憶を頼りに商品を選択及び購入する傾向がある。このような需要者が時と所を異にして、類似性の程度が極めて高い両商標に接する場合、相紛れるおそれがあることは明らかである。
(6)その他取引の実情について
申立人は、これまで数多くのキャンペーンや他社とのコラボレーションを通じて、引用商標の「ワニ」をアレンジしたものや、様々な角度を向いた「ワニ」のロゴ等を使用しており、需要者の間で「ラコステの限定ロゴ」として人気を集めている(甲36~甲41)。かかる事情から、本件商標も同様に、申立人から何らかの許諾を受けてアレンジされた「限定ロゴ」と誤認される可能性が高い。
また、我が国では、ヤマトインターナショナル株式会社(以下「ヤマトインターナショナル社」という。)及びオカモト株式会社が「尻尾と顔が同じ方向を向き、口を大きく開けた、横向きのワニ」をモチーフにした図形商標を被服等のロゴマークとして採択している(甲42、甲43)。しかし、両社とはそれぞれ2001年、2000年にいわゆる併存協定を締結しており、特にヤマトインターナショナル社とは、第三者が類似商標を採択・使用した場合は協力して排除に努めている。かかる努力により、被服等の分野において、引用商標と構成の軌を一にする「ワニ」の商標は、これら三社以外に存在していない。このような状況において、引用商標と酷似する本件商標が引用商標と同じファッション関連の商品に登録・使用された場合、申立人と経済的、組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品と誤認される可能性は極めて高い。
(7)裁判例及び審決例
上記主張は、過去の裁判例及び審決例によっても裏付けられる。例えば、平成24年(行ケ)第10454号では、文字部分の構成や称呼、図形部分の動物の種類などに差異があったとしても「共通する構成から生じる共通の印象から・・・全体として離隔的に観察した場合には、看者に外観上酷似した印象を与える」と認定し、需要者は顕著に表された著名商標の特徴を想起させる部分に注目し、著名商標を連想、想起するから出所混同が生じるとして商標法第4条第1項第15号違反を認定している(甲44第29頁及び第30頁)
また、特許庁の審決(無効2007-890003)においても、「図形の左側の部分は、ネズミと思しき動物を擬人化し、大きな円形の耳、プラム型の丸い鼻先、顔の白黒部分の模様、二つの丸い模様の入った半ズボン、細い手足、大きな靴を履いたような足部から構成されており・・・」と特徴を認定した上で、ディズニー社の「ミッキーマウス」等のキャラクターと「特徴的部分において共通する点を多々含む」ことから同キャラクターをそう表現したものとの印象を与え、同社の商品と出所混同を生じるおそれがあると判断している(甲45)。
(8)小括
以上のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る被服等を表示するものとして我が国及び外国における取引者、需要者の間に広く認識されていた。また、本件商標と引用商標とは、デッドコピーといえるほどに類似性の程度が極めて高いものである。そして、引用商標は、申立人のハウスマークであり、独創性も非常に高い。さらに、申立人が他者とのコラボレーションによる限定品などの形で、引用商標にアレンジを加えて使用しているという取引の実情がある。
そうすると、本件商標に接した需要者は、申立人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し、その商品の需要者が商品の出所について混同するおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
2 本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当することについて
(1)引用商標の周知・著名性
上記1の(1)及び(2)のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る被服を表示するものとして我が国及び外国における取引者、需要者の間に広く認識されていたものである。
(2)引用商標と本件商標の類似性
上記1の(3)のとおり、本件図形と引用商標とは、基本的特徴のみならず、ワニの各部位における微細な点まで共通しており、本件商標に接した需要者は、本件商標から申立人の周知・著名な「ラコステのワニ」を容易に想起する。よって、両商標は類似する。
(3)不正の目的について
本件商標は、申立人の業務に係る被服等を表示するものとして我が国及び外国における取引者、需要者の間に広く認識されている引用商標と酷似するものであり、本件商標の権利者(以下「本件商標権者」という。)が引用商標及び申立人の存在を知らなかったものとは考え難い。
また、本件文字は、「LACOSTE」と7文字中5文字が共通しており、フォントも引用商標に近い色・太さで表されている。
そうすると、本件商標は、周知・著名な引用商標の特徴を一見してわかる程度に残したまま外観にアレンジを加えたものであって、本件商標に接する取引者、需要者に引用商標を想起させるとともに引用商標について滑稽で風刺的な印象を与えることにより、顧客の購買意欲を刺激することを意図したものといわざるを得ないものであるから、本件商標は、著名な引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)する不正な目的で採択され、登録出願され、登録を受けたものである。
このことは、本件商標権者が代表を務める企業が(甲46)、本件商標に近似する図形を付したTシャツを販売し、パロディ商品と明示していることからも明らかである(甲47)。この他にも、我が国では、本件商標と同様の商標を使用したパロディTシャツが出回っており、申立人が永年築き上げてきた引用商標への信用と顧客吸引力がいたずらに利用され、ないがしろにされて、毀損・散逸しつつある状況となっており、引用商標がこれまで担ってきた申立人商品の品質保証機能をも損なう事態になっている。申立人は、各販売者に対し定期的に警告を行い、使用を中止させているものの、新たな販売者が次々に出現し、依然として被害は収まっていない(甲48)。
さらに、本件商標権者は、本件商標の登録出願と同時期に、他の著名ブランドのパロディとおぼしき商標を複数登録出願しており(甲49~甲58)、本件商標についても同様の意図で登録出願したことを推認させる。
以上より、本件商標は、需要者に著名な引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力にただ乗りする不正な目的で採択し、登録出願したものであるといわざるを得ない。
(4)裁判例及び審決例
過去の裁判例及び審決例も上記主張を裏付ける。例えば、上述した平成24年(行ケ)第10454号では、著名な「プーマ」商標を連想、想起させるとして、不正の目的を認定している(甲44)。
また、審決(不服2008-10900)においても、商標について、風刺的な印象を与えることで顧客の購買意欲を刺激することを意図していると推認し、商標法第4条第1項第7号違反を認定している(甲59)。
(5)小括
以上により、本件商標は、我が国及び外国における取引者、需要者の間で周知・著名な引用商標と酷似し、両商標の類似性の程度は極めて高いため、本件商標が引用商標の顧客吸引力にただ乗りする不正な目的でされるものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
3 本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当することについて
(1)商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、「(a)その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、(b)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、(c)他の法律によって、当該商標の使用が禁止されている場合、(d)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、(e)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれる」とされる(甲60。知的財産高等裁判所平成18年9月20日判決(平成17年(行ケ)第10349号))。
(2)本件商標は、上記(e)に該当するから、商標法第4条第1項第7号に違反してなされたものであり、取り消されるべきである。
ア 引用商標の周知・著名性
上記1の(1)及び(2)のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る被服を表示するものとして我が国及び外国における取引者、需要者の間に広く認識されていた。
イ 引用商標と本件商標の類似性
上記1の(3)のとおり、引用商標が独創性の極めて高い構成であるにもかかわらず、本件図形と引用商標とは、基本的特徴のみならず、微細な点まで共通しており、デッドコピーといえるほどに類似性の程度が極めて高い。
ウ 不正の目的
上記2の(3)のとおり、本件商標は、周知・著名な引用商標の特徴を一見してわかる程度に残したまま外観にアレンジを加えたものであって、本件商標に接する取引者、需要者に引用商標を想起させるとともに、引用商標について滑稽で風刺的な印象を与えることにより、顧客の購買意欲を刺激することを意図したものである。つまり、本件商標は著名な引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)する不正な目的で採択され、登録出願され、登録を受けたものである。
エ 本件商標の登録出願の経緯
上記アないしウのとおり、本件商標の登録出願日には引用商標は既に著名であったこと、本件商標と独創性の高い引用商標とが外観上デッドコピーといえる程に酷似していること、及び本件商標の指定商品に引用商標の使用商品が含まれていることを併せ考慮すれば、本件商標は、本件商標権者が偶然に引用商標と酷似したものを登録出願したものとは考え難い。むしろ、本件商標の登録出願と同時期に他の著名ブランドのパロディとおぼしき商標の登録出願を繰り返してきていることから、本件商標についても引用商標の存在を知りながら、著名な引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力にただ乗りする不正な目的で採択し、登録出願したものと推認できる。
よって、本件商標は、登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に該当する。
オ 小括
本件商標は、その登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものであり、そのような商標を保護することは、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護するという商標法の目的(商標法第1条)に反するものであり、公正な取引秩序を乱し、商道徳に反するものというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
4 結論
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号、同項第19号及び同項第7号に違反して登録されたものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきである。
第4 当審における取消理由の要旨
当審において、本件商標権者に対し、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものであるから、同法第43条の3第2項の規定により、その登録を取り消すべきものである旨の取消理由を令和3年8月30日付けで通知し、相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えた。
第5 本件商標権者の意見
本件商標権者は、前記第4の取消理由に対し、指定した期間内に何ら意見を述べていない。
第6 当審の判断
1 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)引用商標の周知性・著名性について
申立人の提出に係る証拠及び同人の主張によれば、申立人は、1933年にフランスにおいて創業したアパレルブランドであり(甲3)、創業当時からワニをモチーフとした図形を使用している。我が国においては、1964年から事業を開始し(甲4、甲6)、2002年以降、引用商標1及び引用商標1と同じ図形下部に「LACOSTE」の文字を配してなる引用商標2を使用した「被服」や「靴」等の商品を販売していること、国内の店舗は2018年3月時点で約130店舗、2016年の国内売上高は約120億円である(甲6、甲9、甲16、甲24 ほか)こと、引用商標を使用した申立人商品及びその広告が、本件商標の登録出願前の各種雑誌に多数掲載されていること(甲15)、駅や空港などにおける屋外広告やプロテニスプレーヤーを起用したキャンペーンを実施したこと(甲18~甲22)などを総合勘案すれば、引用商標は、本件商標の登録出願時には、既に、申立人の業務に係る商品を表示する商標として、我が国の取引者、需要者の間において、広く認識され、その状態は本件商標の登録査定時においても継続していたものと認められる。
(2)本件商標と引用商標との類似性の程度について
ア 本件商標は、別掲1のとおり、尻尾が上体に向けて湾曲し、体全体を青緑色、口の中を赤色、頭部の二つの目を白抜きとし、背中から尻尾にかけて白抜きのウロコ模様が連続的に配置して描かれている口を大きく開けた横向きの「ワニ」が仰向けに描かれた図形(以下「本件図形部分」という。)と、その下に、「OCOSITE」の文字を反転させたとおぼしき文字(以下「本件文字部分」という。)を配した構成からなるものである。
そして、本件図形部分と本件文字部分は、それぞれに重なり合うことなく、各部分が独立した態様で配置されていることから、視覚上分離して認識されるものであり、また、これらが一体となって特定の観念や称呼を生ずるものでもなく、さらに、本件図形部分と本件文字部分とを常に一体不可分のものとしてのみ把握しなければならない特段の事由はないから、両者は分離して把握されるものであり、本件図形部分及び本件文字部分が、本件商標の指定商品との関係において、商品の品質等を表示するものである等、本件図形部分及び本件文字部分が殊更に、自他商品の識別標識としての機能を有さないと判断するべき特段の事由はないから、本件図形部分及び本件文字部分は、これらが独立して自他商品の識別標識としての機能を有するものである。
他方、引用商標1は、別掲2のとおり、口を大きく開けた横向きの「ワニ」をモチーフとした図形からなり、尻尾が上体に向けて湾曲し、体全体を緑色、大きく開けた口の中を赤色、頭部の二つの目を白抜きとし、背中から尻尾にかけて白抜きのウロコ模様を連続的に配置して描かれているものである。
そこで、本件商標の構成中の本件図形部分と引用商標1とを対比すると、本件図形部分と引用商標1とは、いずれも、口を大きく開けた横向きのワニの図形であること、尻尾が湾曲していること、頭部の2つの目を白抜きで表し、背中に施されたウロコ模様は小さな白抜きの三角形を連続的に配置していることなど、引用商標1と主要な特徴を同一にするものであり、また、本件図形部分と引用商標1とは、体の色を青緑と緑色との同色系とし、さらに、口の中の赤色を同じくするものである。
そうすると、本件図形部分と引用商標1とは、子細に見れば、描かれている図形の向き、足の数、色彩等に違いはあるとしても、上記共通点が強く印象付けられるから、両者の類似性の程度は相当程度高いものというべきである。
イ 引用商標2は、引用商標1と同じ図形の下部に「LACOSTE」の文字を配した別掲3のとおりの構成からなるところ、当該図形部分と文字部分とは、それぞれに重なり合うことなく、各部分が独立した態様で配置されていることから、両者は視覚上分離して認識されるものであり、また、これらが一体となって特定の観念や称呼を生ずるものでもなく、さらに、当該図形部分と文字部分とを常に一体不可分のものとしてのみ把握しなければならない特段の事由もないから、両者は分離して把握されるものであり、当該図形部分及び「LACOSTE」の文字が、申立人商品との関係において、商品の品質等を表示するものである等、当該図形部分及び「LACOSTE」の文字が殊更に、自他商品の識別標識としての機能を有さないと判断するべき特段の事由はないから、当該図形部分及び「LACOSTE」の文字は、これらが独立して自他商品の識別標識としての機能を有するものである。
そこで、本件図形部分と引用商標2の図形部分とを比較してみれば、上記アと同様に、両者の類似性の程度は相当程度高いものというべきである。
ウ 引用商標3は、引用商標1と同じ特徴を有する、口の中や目、背中に施されたウロコ模様を白抜きとする黒色のワニをモチーフとした図形からなるものであるから、本件図形部分と引用商標3とは、色彩において異なるものの、引用商標1と同様に、両者の類似性の程度は相当程度高いものというべきである。
(3)引用商標の独創性について
引用商標1及び引用商標3、並びに引用商標2の図形部分は、「ワニ」を写実的に表したものではなく、イラストとしてユーモラスなイメージを想起させるものであり、その独創性は高いといえる。
(4)本件商標の指定商品と申立人商品との関連性及並びに取引者及び需要者の共通性について
本件商標の指定商品と申立人商品は、いずれも被服、履物等であって、その取引者及び需要者を共通にするといえる。
(5)出所の混同のおそれについて
上記(1)ないし(4)のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時に、申立人の業務に係る商品を表示する商標として、我が国の取引者、需要者の間において、広く認識され、独創性が高いこと、本件商標と引用商標との類似性の程度は相当程度高いこと、本件商標の指定商品と申立人商品は同一のものであり、取引者、需要者を共通にすることからすると、本件商標は、これをその指定商品に使用する場合には、これに接する需要者が、引用商標を連想、想起し、当該商品が申立人又は同人と経済的、組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく、その出所について混同を生じるおそれがあるものというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
2 商標法第4条第1項第19号及び同項第7号該当性について
本件商標権者が、不正の目的をもって、本件商標をその指定商品に使用するものであると認めることはできず、かつ、それらの事実を明らかにするような証拠は何ら提出されていない。
また、本件商標が、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標というべき事情は見いだせず、その登録出願の経緯に社会的相当性を欠くなど、公序良俗に反するものというべき事情は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号及び同項第7号のいずれにも該当するものではない。
3 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第19号及び同項第7号に該当しないが、同項第15号に違反して登録されたものであるから、その他の登録異議の申立ての理由について判断するまでもなく、同法第43条の3第2項の規定により、その登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2020-900312