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商標無効審判

2020-890082

ボンドガールスパイゲームズ、ボンドガール、スパイゲームズ、スパイ、エスピイワイ

審判番号
2020-890082
法域
商標
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
商願2017-065901
登録番号
6091904
請求日
2020年11月26日
審決日
2021年12月06日
公報発行日
2022年11月25日
結論
請求成立(無効)
当事者
  • 【請求人】ダンジャック・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
  • 【請求人代理人】山崎 行造
  • 【請求人代理人】熊谷 美和子
  • 【被請求人】トランスメディア 株式会社
審判長/審判官
  • 審判長 半田 正人
  • 審判官 大森 友子
  • 審判官 水落 洋
分類
T111 .22 -Z (W09) / T111 .222-Z (W09) / T111 .271-Z (W09)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
商標法4条1項7号商標法4条1項15号商標法4条1項19号商標法46条1項
条文(本文から自動抽出・参考)
商標法第4条第1項第7号、商標法第4条第1項第15号、商標法第4条第1項第19号、商標法第46条第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

上記当事者間の登録第6091904号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

結 論 登録第6091904号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。

理由

理 由 第1 本件商標 本件登録第6091904号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成よりなり、平成29年4月28日に登録出願、第9類「映写フィルム,録画ずみビデオディスク及びビデオテープ」を指定商品として、同30年7月31日に登録査定され、同年10月26日に設定登録されたものである。 第2 引用標章 請求人が、本件商標の登録の無効の理由として引用する標章は、「BOND GIRL」の欧文字を横書きしてなる標章(以下「引用標章1」という。)及び「ボンドガール」の片仮名を横書きしてなる標章(以下「引用標章2」という。)であり、請求人が使用・管理する映画に登場する女性キャラクターの名称・標章として、世界中で著名であると主張するものである。 なお、上記の引用標章1及び引用標章2をまとめていうときは、以下、「引用標章」という。 第3 請求人の主張 請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第79号証を提出した。 1 請求の理由 本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第15号及び同項第19号に違反し登録されたものであるから、その登録は同法第46条第1項第1号の規定により無効とされるべきものである。 2 本件商標を無効とすべき理由 (1)請求人 請求人は、米国のメトロ・ゴールドウィン・メイヤー社(以下「MGM社」という。)とともに映画作品007シリーズ(以下「007シリーズ」という)の著作権を共同所有しており、この映画に関する世界的な商品化権を管理している企業である。 したがって、引用標章との間で出所の混同を生ずるおそれのある他人の商標、引用標章に化体した名声、信用、顧客吸引力にただ乗りし、不正の目的をもって出願された他人の商標及び請求人が使用・管理する著名な名称・標章に化体した名声や信用に故なく便乗する他人の使用等を排除することにつき利害関係を有する者である。 (2)007シリーズ 「007」は、スパイ小説家のイアン・フレミングによる長編「カジノ-ロワイヤル」の中で生み出された主人公であるイギリス秘密情報部員ジェームズ・ボンド(以下単に「ボンド」という場合がある。)のコード名である。このジェームズ・ボンドを主人公とした小説はシリーズ化され多数の作品が出版されている。 また、当該小説シリーズが1962年に映画化されたのを契機として、ジェームズ・ボンドを主人公とした映画がこの58年の間に25作品制作されている。これらの映画シリーズは世界中で公開され人気を博し、それらすべての作品が極めて高い興行成績を残しており、これらの一連の映画作品は、もっとも成功した映画シリーズであるということができる(甲2~甲4)。 さらに、007シリーズ第25作目である最新作「007/No Time To Die」が2021年公開予定であることから、今後、007シリーズ、ジェームズ・ボンド、ボンドガールに対する関心はますます高まるものと考えられる(甲5)。 (3)BOND GIRL(ボンドガール) 「BOND GIRL(ボンドガール)」は、007シリーズに登場するボンドの相手役となる女性キャラクター(以下単に「女性キャラクター」という。)、あるいはその女性キャラクターを演じる女優たちを呼称するために創作された造語であり、女性キャラクターたちはボンドの敵となり得るし、また、ボンドと行動を共にすることもある。ボンドガールはボンドと共に、あるいは単独で、雑誌をはじめとする様々なメディア、映画の試写会、関連イベントなどに登場することが多く、その容姿、キャラクターなどの圧倒的な魅力から、ボンドと同等あるいはそれ以上に注目を浴びている。 (4)ボンドガールの紹介記事等 007シリーズの新作が公開されるたびに、多くの雑誌で007特集が組まれ、ボンドガールについても様々な雑誌で取り上げられている。なお、ボンドガール関連記事は非常に多いため、証拠として提出したのは2003年「007/ダイ・アナザー・デイ」以降の記事の一部である(甲7~甲29)。 以上によれば、ボンドガールは007シリーズの象徴として同シリーズに鮮やかな彩りを与え、時代の空気を反映し、時代と共に進化し続けてきたことから、007ファンには常に新鮮であり、007シリーズという、稀にみる成功を収めた映画シリーズにおいて欠くべからざる存在であり、シリーズ成功の功労者であったといっても過言ではない。 (5)ボンドガールの各種イベントヘの参加、関連イベントの開催 新作映画の宣伝のため、ボンドガール(を演じた女優)はプレミア試写会をはじめとする各種イベントに参加している。また、新作映画公開時には、様々なボンドガール関連イベントも開催されている。なお、提出した証拠はその一部である(甲15、甲21、甲28、甲30~甲41)。 (6)最新作 007/ノー・タイム・トゥ・ダイの公開時にも、雑誌において007シリーズの特集記事や紹介記誌が掲載されている。なお、提出した証拠はその一部である(甲43~甲45)。 (7)007シリーズの二次利用 流通メディアの発達に伴い、映画・映像作品については、映画館で上映されるだけでなく、DVDやテレビ等の様々なメディアを通して二次利用されるのが通例になっているが、007シリーズもその例外ではなく、映画館で上映後、DVDの制作(甲46)や、テレビ放送(甲47~甲51)がされるなど、作品の二次利用が行われている。これら映画以外の媒体を通じて、007シリーズ及びその華たる「ボンドガール」がお茶の間にも広くかつ深く浸透していったことはいうまでもない。 (8)小括 以上のとおり、「BOND GIRL(ボンドガール)」は、1962年の映画公開時より50年余りの間、007シリーズの華としてスクリーンに登場し、ボンドとともに活躍してきた。ボンドガールについては雑誌等のメディアで多数取り上げられており、新作映画公開時の各種イベントヘの登場により、「BOND GIRL」及び「ボンドガール」の名称・標章は、遅くとも本件商標の出願時(令和1年(2019年)9月4日)(審決注:「平成28年(2018年)4月28日」の誤記と認める。)において、これらの名称・標章に接する者が、007シリーズの登場人物である女性キャラクターたちを直ちに想起させる程に著名なものとなっていたこと、さらに、その著名性は2015年の「007/スペクター」の公開及び2021年公開予定の最新作「007/No Time To Die」に関するプロモーション活動などを通じて、今日に至るまで引き続き維持されていることは疑う余地がない。 (9)ボンドガールについてのライセンス許諾 一般に周知・著名な映画やテレビやその登場人物については、正当権利者の許諾の下に各種商品化が行われることは珍しくない。人気のあるキャラクターを自己の商品に利用することで、その購買力を著しく高められるからである。ボンドガールは有名な映画シリーズの人気キャラクターであることから、その名称・標章及び肖像の使用についてのライセンスが多くの会社に許諾されている(甲7、甲52~甲66)。 (10)プロダクト・プレイスメント ア 007シリーズとプロダクト・プレイスメント 近年の映画制作においては映画に商品を提供してその付加価値を高める、いわゆる「プロダクト・プレイスメント」といわれる広告手法が採用されることが多い。007シリーズは、その広告効果の高さから、多くのスポンサーにとって商品を提供したい「夢の作品」と言われている(甲28、甲67)。 イ ボンドガールとプロダクト・プレイスメント 007シリーズにおいて、ボンドガールにもタイアップが行われている(甲24、甲38、甲68~甲72など)。 ウ 007シリーズは、58年間に24作品が公開されている。その間新作が公開されるたびに様々な企業とのタイアップキャンペーンが長期間にわたり実施され、幅広い範囲の商品化が行われてきた。ボンドガールとのタイアップは単なる単発の映画のタイアップと比較し、各段に大きな宣伝効果・経済効果がある。 上述した名称・標章及び肖像のライセンスや映画作品におけるタイアップを通じて、「BOND GIRL」及び「ボンドガール」の名称・標章は、強い顧客吸引力を獲得した商業的価値の高いものとなっていることは疑う余地がない。 (11)商標の登録 請求人は莫大な費用と時間を投じて「BOND GIRL」を含む商標「BOND GIRL 007」を日本を含む39カ国で、「BOND GIRL」と女性のシルエットの結合商標を欧州で、「BOND GIRL」及び「ボンドガール」を二段に併記した商標を日本で、それぞれ登録し、「BOND GIRL(ボンドガール)」に表象された業務上の信用の維持に努めている(甲73)。 3 本件商標と引用標章 (1)本件商標と引用標章の類否 本件商標は「BOND GIRL」の欧文字及び「SPY GAMES」の欧文字を二段に書してなる。本件商標を構成する上段の「BOND GIRL」は丸みを帯びた太文字の特徴的な書体をやや斜めに書してなる、下段の「SPY GAMES」は上段の文字よりやや細く、さらにデザインが加えられた文字からなる。上下の文字はその外観を著しく異にし、視覚上、分離して認識されるものというのが相当である。したがって、本件商標の「BOND GIRL」の部分より、「ボンドガール」という一連の称呼、007シリーズの女性キャラクターたちの名称である「ボンドガール」の観念が生ずる。 引用標章1は「BOND GIRL」、引用標章2は「ボンドガール」の文字からなり、引用標章からは「ボンドガール」という一連の称呼と007シリーズの女性キャラクターの名称である「ボンドガール」の観念が生ずる。 本件商標と引用標章1は、ともに「BOND GIRL」の同一の文字より構成され、外観において近似する。両商標からは「ボンドガール」という一連の称呼と007シリーズの女性キャラクターたちの名称である「ボンドガール」の観念が生ずるので、両商標は称呼及び観念が同ーである。 したがって、本件商標と引用標章1は、外観、称呼及び観念のいずれの点においても同一又は近似する商標といえる。 本件商標と引用標章2は、外観は相違するものの、両商標からは「ボンドガール」という一連の称呼と007シリーズの女性キャラクターたちの名称である「ボンドガール」の観念が生ずるので、両商標は称呼及び観念が同一である。 したがって、本件商標と引用標章2は、称呼及び蜆念が同一であるから、類似する商標である。 (2)本件商標の指定商品と請求人との関係 本件商標の指定商品は、第9類「映写フィルム,録画ずみビデオディスク及びビデオテープ」である。 ボンドガールは、映画作品「007シリーズ」の女性キャラクターたちの名称であり、007シリーズのDVD等が販売されていることは前述したとおりである(甲46)。本件商標の指定商品は、請求人等と深い関わり合いを有する商品であるといえる。 4 商標法第4条第1項第7号について 上述したとおり、本件商標は007シリーズの女性キャラクターたちの名称として著名である「BOND GIRL」を容易に認識させるものである。被請求人のグループ会社であるサイバーダウン株式会社(以下「サイバーダウン社」という。甲74)は、2019年11月25日付プレスリリースで、同社が、ボンドガール「BOND GIRL」の登録商標を使って、ポケット工具アクセサリー・アパレル・婦人靴などの商品リリースを開始することを発表している(甲75)。また、サイバーダウン社の通販サイトでは「ボンドガールシリーズ第一弾」と称して、「16機能を搭載したコンパクトマルチツール『BGスパイスギア』」を販売している。同サイトでは、ジェームズ・ボンドとボンドガールのストーリーを語っている(甲76)。このように、本件商標はボンドガール及び007シリーズを強く意識した上で、採択されたものである。 また、請求人は、ネイル製品、化粧品をはじめ、人形、カード、カレンダー等を取り扱うメーカーに、引用標章に係るライセンスを許諾していたことからすれば、「BOND GIRL」の語が一定の顧客吸引力を獲得しており、高い商業価値を有していたことは明らかである。 そして、請求人は、我が国を含む世界各国において引用標章に係る商標を登録し、メーカーに対してはライセンス契約によりその使用を許諾するなど、その商業的な価値の維持管理にも努めてきた。 このような状況の中で、請求人と関わりのない第三者が、最先の商標出願を行った結果、特定の指定商品との関係で当該商標を独占的に使用できるようになり、請求人による使用を排除できる結果となることは、商標登録の更新が容易に認められており、その権利を半永久的に継続することも可能であることなどを考慮すると、公正な取引秩序の維持の観点からみても相当とはいい難い。 被請求人は、引用標章の世界的な知名度、顧客吸引力及び商業的価値の維持に何ら関わってきたものではないから、本件商標の指定商品との関係においてではあっても「BOND GIRL」の語を含む商標の使用の独占を許すことは相当ではなく、公正な取引秩序を乱し、ひいては国際信義にも反するものといわざるを得ず、本件商標は公序良俗を害するおそれがある商標に該当すると判断すべきものである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。 5 商標法第4条第1項第15号について 先に述べたとおり、本件商標は、007シリーズの女性キャラクターとして著名である「BOND GIRL」あるいは「ボンドガール」を想起させるものである。 本件商標が「ボンドガールシリーズ第一弾」などと称されて、ジェームズ・ボンドとボンドガールのストーリーと共にその指定商品に使用されれば、これに接する取引者・需要者は、当該商品が請求人の業務に係る商品、又は請求人と経済的・組織的に何らかの関係がある者(ライセンシー、映画制作のスポンサーなど)の業務に係る商品であると誤認し、商品の出所について混同する蓋然性が極めて高い。 「BOND GIRL」あるいは「ボンドガール」の名称・標章は、現在のみならず、本件商標が出願された時点においても広く知られていたことはいうまでもない。 したがって、本件商標は出願時より商標法第4条第1項第15号に該当する。 6 商標法第4条第1項第19号について 本件商標は、007シリーズの主人公であるボンドの相手役である女性キャラクターたちの名称として我が国をはじめ世界中で著名である引用標章と近似あるいは類似する商標である「BOND GIRL」を含むものである。前述したとおり、被請求人が引用標章の存在を強く意識した上で本件商標を採択しており、本件商標は、引用標章に化体した名声、信用、顧客吸引力にただ乗りして、不正の利益を得る目的、すなわち、不正の目的をもって出願されたとみるのが相当である。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。 第4 被請求人の答弁 被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第21号証を提出している。 1 答弁の理由 (1)被請求人による本件商標の登録は商標法に違反したものではない 本件商標の登録は、他の誰の商標権及び知的財産権を侵害するものではない。 被請求人は、本件商標に先行して別の「ボンドガール/BOND GIRL」を、第25類「被服類」で登録し、Tシャツ等のアパレル商品を企画開発している。 本件商標はその延長線上でより広く商品展開を行うため、さらに娯楽映画やゲームの世界で人気となっている物語のモチーフ「スパイアクション」を使ったコンテンツの企画開発を行うため、「SPY GAMES」の文字を加えて本件商標を登録出願し、登録を受けた。 請求人は、被請求人による本件商標の登録に対して、請求人が保有するコンテンツから派生したネーミングや知名度にフリーライド(ただ乗り)しようという被請求人の意思を訴えているが、そもそも請求人が本件商標を登録する権利を有する立場にあるかどうかが疑わしい。 (2)本件商標の称呼の成立について請求人が主張するプロセスに錯誤又は瑕疵がある ア 該当称呼について請求人が積極的に映画公表当時から関与してきた証拠が存在しない 請求人は、「ボンドガール/BOND GIRL」が日本において多くの記事で使われている証拠として雑誌記事、Web記事を多く示している(甲7~甲51)。 だがそれらは主に近年、21世紀になってから雑誌やWebの制作者(出版社・サイト運営会社)が各自、それぞれの記事制作でつけたキャッチコピーであり、請求人が本件商標のために長年にわたって意図的に拡散流布したものかどうかの証明にはならない。 ボンドガールの称呼が映画紹介において使われていること及び日本では007シリーズに登場する女性キャラクターの代名詞として映画ファンに知られた存在であることの証左にはなるが、それが、請求人が深く関与し、保有する知財商品化物だと認識されているわけではない。 請求人は偶発的に日本で一部の映画ファン、スパイ小説ファンに広まった称呼を、あたかも自らの努力で広めたがごとく主張している。 イ 2021年時点での007シリーズの映画の公開における配給宣伝のプロセスについて 請求人は、007シリーズの映画を企画立案したイーオン・プロダクションと強い資本関係又は支配力をもつ知財管理の会社と認識されているが、その実態と功績は非公開である。 007シリーズの映画の宣伝用に配布される資料(以下「宣材」という。)の制作は、日本配給を担当するソニー・ピクチャーズ社宣伝部及び委託を受けた外部宣伝チームが行っている。 日本において「ボンドガール」という称呼の広報普及に際しては映画配給会社の宣伝によるものが大きく関与しており、その知的生産活動においてすべての活動成果が請求人に帰属しているのかどうかについて証拠が提示されていない。 作家イアン・フレミング氏の小説からの映像化権をイーオン・プロダクションが取得し、その後、それらの権利保有が請求人に移動したと類推されるが、その時点で結ばれた契約又は現在有効な契約において007シリーズの映画から発生するすべてのスピンオフ作品やネーミングを所有する権利が請求人に帰属するのかどうかは不明である。 ウ そもそも「ボンドガール」は、日本で創作された宣伝文案のキャッチフレーズである。 請求人とイーオン・プロダクションとの関係性が被請求人には不明ではあるが、請求人の傘下にあると思われるイーオン・プロダクションが、原作者イアン・フレミング氏から映像化権を取得し、多くの007シリーズの映画が作られたことは事実である。 1962年の第1作から2021年の最近作まで、その期間は60年にもなろうとしている。 そして、「ボンドガール/BOND GIRL」なる呼称は、<a>いつ頃から誰の手によって創作されたものか、<b>本当に世界各国で一般的に認識されているのか、<c>米英において「BOND GIRL」という呼称が007シリーズの映画の宣伝に使われていたのか、ということについて、被請求人はアメリカの映画や娯楽雑誌のバックナンバーを1960年代に絞って調査したが、その使用は、現時点では見つけられていない(乙1)。 米国を代表する国民的雑誌LIFE誌は、話題の映画・演劇・流行についても積極的に紹介していることから、被請求人は、1960年代の10年間において紹介された007シリーズの映画の紹介記事をすべて検索したが、「BOND GIRL」の称呼を見つけることはできなかった。 請求人が深く関わった007シリーズの映画は娯楽映画として1960年代から広く世界で公開され人気を獲得していったが、少なくとも1960年代に公開された映画全作品において、「BOND GIRL」という造語は、本篇・予告篇並びに宣伝文案などで米英では使われていないと類推する。 この造語は、映画評論家の故M氏が日本ユナイテッド・アーチスツ映画会社(以下「ユナイト映画社」という。)宣伝部の時代に映画宣伝用に作った言葉だと被請求人は映画ライターとして生前、同氏を取材した折に確認した。 1960年代中頃には宣伝部から雑誌社への提案として「ボンドのガールフレンドたち」といった記事を推奨していたが、それを短くして「ボンドガール」として宣伝パンフレットなどに使ったとM氏から取材した。 もちろん、この時点でユナイト映画社宣伝部は「ボンドガール」の商標登録は行っていない。 また、ユナイト映画社に法人著作権(社員による職務著作)があると仮定した場合、1967年までに公表された職務著作物や無名の著作物は公表後50年を迎えて著作権の保護期間は終わっている。 もし宣伝キャッチコピーとしての著作権がその後の連続した使用によって存続していたとしても、それを法人著作物として所有したであろうユナイト映画社は、1985年に、その法人格を任意整理により解散している。 これ以前から日本における配給宣伝の業務は、ユナイテッド・インターナショナル・ピクチャーズ日本支社(以下「UIP映画社」という。)に移管されているが、UIP映画社も2007年末に解散している。 このような流れの中で職務著作による法人著作物の所有帰属は特段の譲渡契約などがない限り、保有者が存在しない状態、すなわちパブリックドメイン化すると解釈される。 ユナイト映画社又はUIP映画社と、請求人との間で特段の契約がない限り、これらを自動的に請求人が保有するとは考えられない。 よって、日本において「ボンドガール/BOND GIRL」を著作権として誰かが保有しているとは考えられないし、米国においても著作権登録の方式主義(登録制度)で登録されていることは確認できない。 エ 「ボンドガール/BOND GIRL」の称呼はどこまで世の中に広まっているのか 日本では、「ボンドガール/BOND GIRL」という単語は、007シリーズの原作小説や映画のファンの間では知られてきたが、老若男女すべての国民に向けて広く知られてきたかというと必ずしも断定はできない。 あくまでも映画ファンのうちの知る人ぞ知る女スパイの代名詞であった。 まして米国、海外において認識されてきたのは今世紀に入ってからであり、1960年代から2000年までの英米の映画雑誌、一般誌、新聞における使用は認められない。 被請求人は、パブリックドメインとなった過去の著作物の二次創作者としての活動を予定しており、そこから生まれる新しい創作物の翻案タイトルを知財として保護するために、本件商標を取得した。 オ 商標の称呼が有名であるとしても取得を怠った無名の法人の後発の異議は有効なのか 請求人は、商標名「ボンドガール」が有名であるから、それと関連する007シリーズの映画の制作者である請求人がそれを保有するべきと主張するが、「ダンジャックLLC」(請求人)というコーポレートブランドが日本では無名である。 007シリーズの映画は誰が制作しているかを世に問うた時、それを答えられる一般人は稀少である。007シリーズの映画のファンや映画業界人は「イーオン・プロダクション」をあげ、あるいは最近作における配給会社である「ソニー・ピクチャーズ」を答えるだろうが、これらはハリウッド映画に精通する極めて一部の映画業界人しか知らない関係性だと思われる。 請求人の主張は、請求人の社名「ダンジャックLLC」が日本のみならず世界規模で知名度のある企業名ではなく、また「ボンドガール」も、日本のみならず世界規模の知名度はないにも関わらず、すでに取得されている「ジェームズ・ボンド」と「ボンドガール」との物語上のつきあいだけを頼りにセットであるから潜在的な商標権の所有権も存在するという主張である。 請求人は、「無名の会社」であり、さらに「知名度の少ない称呼」について商標使用実績もなく、これからの使用予定もない状況下で「正当な所有権」を主張するのは、いささか強弁と感じざるを得ない。 関与している007シリーズの映画は、世界中に知られた作品だが、その作品の日本における宣伝キャッチコピーから50年前に生まれた「ボンドガール/BOND GIRL」は、必ずしも請求人が保有する称呼として日本では認識されていない。 カ 被請求人による商標権の利用意図について 本件商標の指定商品である第9類(映画その他)について、請求人は、当該称呼をタイトルにした作品の制作実績もなく、請求人の名義で新作としての制作発表もなされていない。 対して被請求人は、保有する「ボンドガール スパイゲームス」をタイトルとした「映画」「ゲーム」「出版」などの娯楽コンテンツを準備している。登録出願時に「スパイゲームス」を加えたのはゲームの独自性の主張であり、また後続の商標登録出願に登録の余地を残すためである。 請求人は、現時点で「ボンドガール/BOND GIRL」と題する作品を作ったことも作る予定も発表しておらず、また彼らが生前のイアン・フレミング氏から取得され現在も使われている007シリーズの映画作品に必要な映像化権、すなわち二次創作のための翻案権については、原著作権がパブリックドメインとなり、イアン・フレミング氏が生存している時のみ一身専属において有効とされる著作者人格権も消滅している。 請求人が保有するとされる007シリーズの映画についての排他的独占状態での映画化権は、今後の世界各国における著作権法の運用において必ずしも恒久的に独占権は維持できない。 (3)本件商標の称呼の元となった原作小説は2016年時点でパブリックドメインとなった 小説「007 ジェームズ・ボンド」は著作権保護期間の終期を迎えて公有知財である。 同作シリーズは、イギリスの作家イアン・フレミング(生年1908年~没年1965年)による1953年発表の第1作「カジノ・ロワイヤル」から1965年発表の最終作「007/黄金の銃をもつ男」までのスパイ小説の連作である。 ところで、日本では著作権法(旧法)で、その保護期間は著作者の死後50年と定められていた。 没年1965年のイアン・フレミング氏の著作物は旧法下において50年後の2015年まで保護されたが、翌年2016年より著作権保護期間の終期を迎えてパブリックドメインとなった。 原著作物(クラシックタイトル)から生まれる翻訳権、翻案権、複製権、出版権などの権利は全て日本国内においては誰もが自由に二次著作物(モダンタイトル)として創案を加えて発表や商用化が行えるものとなったと考えられる(乙4)。 請求人は、イアン・フレミング氏が原作者であることは申述しているが、その著作権が日本においては保護期間終期を迎えたことは一切、述べていない。 請求人は、請求人が正統な映像化権、商品化権の保有者だと主張しているが、元となった原作著作物の権利が消滅したことについて認識していなかったのか、意図的に説明していないのかは不明である。 いずれにしても、日本において原作小説からの映像化は誰もが自由に行える状態である。 そこで被請求人は、新しい時代の「ジェームズ・ボンド」を、小説、映画、マンガ、ゲームなどで二次創作するプロジェクトを起案し、2015年から現在まで開発を進めている。 そのために本件商標権の取得を行ったものである。 請求人は、生前のイアン・フレミング氏との映像化権許諾(翻案権取得)を確保して世界的に有名なスパイ映画007シリーズを作っていることは当然、被請求人も認知するが、それらは全て英米でのことで、前述のように日本では法的に効果をもちえない。 請求人が制作する007シリーズの映画とは異なる別のコンテンツとして、原作小説からのスピンオフ小説やマンガ、ゲーム、映画を日本と中国で合作することも法的に何ら問題はないと確信する。実際、パブリックドメインとなった文芸作品を原作として複数の映像化作品が作られた例は枚挙にいとまがない。 「ボンドガール/BOND GIRL」の場合、この称呼が小説中又は映画劇中には一切登場しないこと、宣伝文案として日本で作られた配役の代名詞肩書きであること、キャラクターの類型、いわゆるタイプには著作権は発生しないことなどの理由により、翻案二次創作で発生する著作権は存在しないと解釈できる。 (4)過去に本件商標と別の区分で登録された商標への異議申立て2件(異議平11-091680、異議2015-900114)は、いずれも維持するとされている 今回の請求人の主張は、上記2例の異議決定を大きく覆すだけの新しい解釈や理論が見当たらず、その請求行為そのものに何ら納得できる理由は感じられない(乙6)。 (5)請求人は米国で保有していた商標「BOND GIRL」すべての延長を放棄した そもそも請求人は、米国での商標「BOND GIRL」を破棄している。 請求人から提出された証拠(甲73)のリスト一葉を見ると、世界各国における商標登録の状況が並ぶが、注意深く眺めると「アメリカ合衆国」における登録実績はリストから除外されている。 被請求人は、甲第73号証のリストに、なぜ「アメリカ合衆国」が入っていないのか疑問に思い、それを調べたところ、請求人自らが登録を抹消している事実を知った。 さらに、請求人がかつて取得していた本件称呼に係わる商標権は米国における化粧品と香水のみであり、請求人が主張するような「人形」「カード」「カレンダー」類での米国での商標を取得していた痕跡も商標権の使用許諾を基底とした正規ライセンスによる商品も見つけられなかった。 また、日本においても本件商標を含む複数の商標権の取得を行わずに長年放置しておきながら、第三者が原作著作権のパブリックドメイン化を論拠として立ち上げたコンテンツ事業のための商標登録に対して後からキャンセルクレームを行うことは、請求人が主張する「我が国を含む世界各国において引用標章に係わる商標を登録してきた」という主張とは合理せず、明らかに矛盾している。 日本における商標権の判断と米国でのそれとは司法が独立しており、必ずしも連動、同調するものではないが、請求人が「国際的キャラクター」と称して日本での商標権所有の正当性を唱える以上、米国でのそれはどのようになっているのかを米国特許商標庁(USPTO)のデータベースを検索してみたところ、確かに過去には請求人が商標を登録していた事実を確認した。 しかしながら、2021年2月現在、請求人は米国において「BOND GIRL」の商標を所有してしない(乙8)。 そもそも「ボンドガール/BOND GIRL」の代名詞肩書きは、小説でも映画でも台詞として発せられたことは一度もなく、映画宣伝のために作られたキャッチフレーズだと被請求人は認識するが、もしそれがコンテンツに帰属するとすれば、帰属先は原著作権となった小説から映像化権(翻案権)を取得して作られた映画ではなく、その原点となった原著作権としてのイアン・フレミング氏による小説であると判断する。 英語版ウィキペディアの記述をみても「小説におけるボンドガールの存在」から解説が始まっており、この称呼がファンにとっては小説を原点として認識され、映画だけが占有を主張できる対象ではないことが分かる(乙10)。 (6)実際の商品化についての現状 ア ジェームズ・ボンド ライフスタイル(総合情報サイト) 被請求人は、実際の商品化についての現状を知るため007シリーズの映画に登場した衣裳、自動車、インテリア、飲食物などすべてを網羅し、ファンが同じものを購買できるように販売サイトヘとリンクをガイドするポータルサイト「ジェームズ・ボンド ライフスタイル」を参照した。 同サイトは非公式のファンサイトだが、英米を中心にボンド商品のカタログとしても信頼できる充実した内容で権利元各社も準公認の扱いで画像の使用などを承認している。 同サイトの「ボンドガールズ/BOND GIRLS」のカテゴリーの中に女性向けの香水(フレグランス)を見つけることができた。 P&G社が「007」のロゴを利用したライセンシー商品として香水を発売していたが、ここでは「ボンドガール/BOND GIRL」のロゴは使われていない(乙12)。 また、同カテゴリーでは、請求人が主張する商品化例と合致する(乙13)、エイボン化粧品へのライセンシー商品としての香水が紹介されていたところ、この商品のリリースは2008年であり、サイトの説明によれば、現在、エイボン化粧品では取り扱いしていない。 イ エイボン化粧品へのライセンシー商品について 上記商品は、請求人のライセンスによる唯一の商標権が利用された商品であるため、米国及び日本でのリリースについて詳細を記す(乙14)。 (ア)日本国内では「ボンドガール/BOND GIRL」香水の取り扱いは2020年現在、行っていない(乙15、乙16)。 (イ)米国内ではあらゆる商品において同商標を使った商品、ノベリティは2021年時点では取り扱いがない。過去の商品としてのアーカイブすら登録されていない。映画の公開と合わせたコラボレーション、タイアップキャンペーン的商品だったと類推される。 (ウ)販売サイト Amazonジャパンにおいて、エイボン社の香水商品は、かつて販売されていた痕跡があったが、現在は在庫切れ(絶版)により商品販売はされていない(乙17)。 (エ)上記の商品が現在は絶版となっていることを認知したことで、エイボン社とのコラボレーションが終わり、商品の販売が不調に終わったため商標を維持する必要性がないと判断され、請求人が米国において商標登録の継続を行わず破棄したものと類推できる。 そうであれば、この事実は本件審判請求において請求人が主張する、「請求人は、我が国を含む世界各国において引用標章に係わる商標を登録し、メーカーに対してはライセンス契約によりその使用を許諾するなど、その商業的な価値の維持管理にも努めてきた」という説明とは大きな乖離があると指摘せざるをえない。 おそらくは前掲した各国での請求人が保有する商標権リスト(甲73)は、その実際を調べればどの国でも「香水」類だけの商標権の取得だと推する。 請求人は、エイボン化粧品と結んだ世界的な香水ブランドの展開のためにのみ、各国で商標権取得を行ったものであり、他の分野については取得も展開予定もライセンス計画も持ち得ていないのではないかと判断する。これが前述した請求人による主張である世界各国で様々な商品群において商標権ビジネスを展開している、というブランドマネジメント企業のイメージとは大きく乖離している。 ウ そもそも請求人は商品化権の窓口業務を日本で行っているのか 請求人が、イーオン・プロダクションズ社とともに007シリーズの座組の中心にいることは十分に理解しているが(乙18)、その商品化権窓口が常に請求人であることは証明できない。この2社は日本国内で商業活動の代理人又は代理店を設けず、ライセンス許諾の実態は認められない。 過去のライセンス活動は映画会社の商品化権窓口部門が担当したり、専門のエージェントであったりしていると思われる。確かに請求人は「007」「ジェームズ・ボンド」を使った商業活動については長年の実績は認められるが、こと「ボンドガール/BOND GIRL」については全く何も行ってきていないし、それらは上掲に並ぶ他の映画会社の活動であるといえる。 そうすると、請求人が全ての事業パートナーから一任されて「ボンドガール/BOND GIRL」のライセンス事業の展開を行う旨を表明しなければ、その商標の取得において排他的独占権をパートナーから任されたことへの説明にはなり得ない。 先のエイボン化粧品とのタイアップで米国において発売された「BOND GIRL」を商標に使った、おそらく請求人の唯一の「商標権を利用した商品化の例である香水」は、請求人が日本で登録している「ボンドガール」の商標:第5147963号(第3類)とも分野が合致して理解できる(乙19)。 (7)請求人は米国において「BOND GIRL」と題された出版物の刊行を看過している 「BOND」は英語の意味が「債権」であり、「証券の女」という小説が大手版元から刊行中である。 米国Amazonで「BOND GIRL」を引くといくつかの写真集の刊行が確認された。 これらは映画に出演した女優の肖像写真や宣材スチールをまとめた写真集だと思われるが、決してベストセラーヒットとしてランキングされている訳ではなく、刊行の痕跡が認められる程度である。その程度のAmazonでの露出をもって世界的に知られた代名詞と主張するのであれば、Amazonに登録された数百万点もの商品すべては世界的に知られたと喧伝してよいことになる。 もちろん請求人は書名タイトルの商標権を保有していないため、これらの刊行は無許諾又は写真画像の使用許諾契約において刊行されたものと思われる。 そうすると請求人が主張するところの「全世界で広く商標権を行使してライセンスしている」という表現とは合致しない。 そもそも請求人は、米国特許商標庁に「出版」の区分での商標登録出願を行った形跡がなく、今回、日本での本件商標の無効審判請求のために、米国を始め全世界で商標権を取得して広汎にライセンスビジネスを行っていると虚偽の説明を行ったものと思われる(乙20)。 さらに米国Amazonを調べたところ、2012年に「BOND GIRL」と題した小説がアメリカの巨大出版社ハーパーコリンズグループから刊行されていた事実があった。 その表紙・裏表紙そして巻頭発行クレジットを見ても、請求人のライセンス表記はない。 請求人の主張では「BOND GIRL」は世界的に知られた女スパイの代名詞だとされるが、世界的に知られたハーパーコリンズグループから発行された同書において、タイトル名の剽窃、無断使用が行われたとは到底考えられない。 そもそも「ボンドガール/BOND GIRL」という称呼はすべからく007シリーズの映画に直結するイメージではないと考えられる。 請求人の主張する世界における称呼への認識、すなわち請求人が利用する権利をもつ独自のネーミングという主張は通用しないものと思われる。 もちろん、請求人は米国における出版の区分の商標を保有していない(乙21)。 以上の理由をもって、被請求人は現在、保有している商標権の維持を主張する。 (7)請求人の無効審判請求への反論 ア 本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について (ア)引用標章は、請求人が使用・管理する名称・標章として世界で著名である、との主張については、請求人は、名称・標章を管理もしていないし商標権も保有していないから、否定する。 (イ)何らの関係を有しないものが、当該商標を独占的に使用できるようになり、との主張については、パブリックドメイン化した小説コンテンツからの二次化は自由であるから、否定する。 当該商標には「SPY GAMES」の文字が付加され、その固有タイトルでの使用である。 (ウ)かかる商標を登録することは国際信義に反し公序良俗を害するおそれがある、との主張については、米国において請求人自らが登録した商標権の継続を破棄しその行使を停止したことから、否定する。 母国で廃した商標権登録をして「標章を管理」と言い換えることは国際信義に劣る。 イ 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について 無関係の商標が行使されれば請求人と経済的組織的に何らかの関係があるものの業務に関わる商品と誤認し商品の出所について混同する蓋然性が極めて高い、との主張については、否定する。 請求人の社名は日本においてほとんど無名であり、関係性の誤認はありえない。 さらに混同を招くような商品を請求人は一切発表、発売しておらず、被許諾者に対してライセンスもしていないため混同はあり得ない。その実行においては、当該商品の成立過程が「パブリックドメイン」作品からの二次創作として「ジャパンオリジナル」であることを宣伝するため、双方の顧客は英米のそれと混同することは排除できる。 ウ 本件商標の商標法第4条第1項第19号該当性について 本件商標は、請求人が使用・管理する著名な名称・標章である引用標章と近似又は類似する、との主張については、否定する。 請求人は著名な名称・標章を使用・管理していない。確認できる例はただの一例、すなわち香水類だけであり、それも10年近く前にライセンスしたが現在は米国、日本ともに発売されていない。また、請求人は米国における商標登録も廃して使用していない。 さらに、請求人は書籍類については日米ともに商標権の取得を行っておらず、商標権許諾なく自由に刊行されている現状がある。 エ 以下のとおり、請求人代理人が例を挙げた多数の訴因と証拠は全て否定する 請求人は、原著作者であるイアン・フレミング氏が1964年に死去し、その著作権、著作隣接権が死後50年を経て2014年には保護期間の終期を迎えて、翌2016年から誰もが使える公有知財、すなわちパブリックドメインとなったことを認知していないか、または意図的に隠して請求人が恒久的な権利を有するように印象を操作している。 当該行為は後に続くものが公有知財となったコンテンツから二次著作物としての再創作を行って文化芸術を進化させたり、あるいは特許権保護期間を終えたことでジェネリック化した薬剤や工業製品の構造・製法を利用して公共へ利益還元を行える、という行為を阻害するものである。著作権や特許に有限期間を設けている著作権法、特許法の真なる目的を曲げた行為と感じる。 また請求人は、自らの怠慢とミスにより、自らの貴重な知財になり得る商標権をないがしろにして取得を怠ったり、既に米国において放棄された商標権をあたかも保持しているように虚偽の説明を繰り返している。 第5 当審の判断 請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係について争いがないから、本案について判断する。 1 請求人の主張及び提出に係る証拠によれば、以下の事実を認めることができる。 (1)請求人について 請求人は、米国のMGM社とともに007シリーズの著作権を共同所有しており、この映画に関する世界的な商品化権を管理している企業であるとしている。 また、請求人は、「BOND GIRL」を含む商標「BOND GIRL 007」を日本を含む39か国で、「BOND GIRL」と女性のシルエットの図形との結合商標を欧州で、「BOND GIRL」及び「ボンドガール」を二段に併記した商標を日本で、それぞれ登録を受けているとしている(甲73)。 (2)引用標章について ア 映画「007シリーズ」 スパイ小説家のイアン・フレミングによる長編「カジノ・ロワイヤル」の中で生み出されたイギリス秘密情報部員ジェームズ・ボンドを主人公とした小説はシリーズ化され、多数の作品が出版されている。また、当該小説シリーズが1962年に映画化されたのを契機として、ジェームズ・ボンドを主人公とした映画である007シリーズが、2018年までに24作品が制作されている。これらの映画シリーズは世界中で公開され人気を博し、それらすべての作品が極めて高い興行成績を残している(甲2~甲4)。 イ BOND GIRL(ボンドガール) 「BOND GIRL(ボンドガール)」は、007シリーズに登場するボンドの相手役となる女性キャラクター、あるいはその女性キャラクターを演じる女優たちを呼称するために創作された造語であり、女性キャラクターたちはボンドの敵となり得るし、また、ボンドと行動を共にすることもある。 ウ 「BOND GIRL(ボンドガール)」に関する記事(平成15年以降) ボンドガールについては、「フラウ 平成15年1月14日号」、「SCREEN2003年(平成15年)4月号」、「キネマ旬報 2006年(平成18年)12月上旬特別号」、「日経エンタテインメント 2006年(平成18年)12月号」、「映画『CASINO ROYALE』パンフレット(発行日:2006年(平成18年)12月1日)」、「SCREEN 2009年(平成21年)1月号」、「キネマ旬報 2009年(平成21年)1月下旬号」、「SCREEN 2009年(平成21年)3月号」の付録である「007/慰めの報酬&ジェームズ・ボンド大百科」、「Pen 2009年(平成21年)1月1日・15日新年合併号」、「ぴあ 2009年(平成21年)2月5日号」、「週刊文春 2012年(平成24年)11月1日号」、「SCREEN 2012年(平成24年)11月号」、「NewsWeek(ニューズウィーク日本版)2012年(平成24年)11月14日号」、「週刊エコノミスト 2012年(平成24年)11月27日号」、「SCREEN 2013年(平成25年)1月号」、「MAGAZINE HOUSE MOOK/007 COMPLETE GUIDE(発行日:2013年(平成25年)1月10日)」、「GQ JAPAN 2012年(平成24年)12月号」、「MEN’S CLUB 2013年(平成25年)2月号」、「キネマ旬報 2015年(平成27年)12月上旬号」、「Pen 2015年(平成27年)12月15日号」、「キネマ旬報 2015年(平成27年)12月下旬号」、「GQ JAPAN 2015年(平成27年)12月号」、「SCREEN 2016年(平成28年)1月号」等の専門誌や雑誌に、ボンドガールを演じた女優のインタビューや写真とともに、ボンドガール及びその変遷や存在感などについての紹介記事が掲載されている(甲7~甲29)。 エ 「BOND GIRL(ボンドガール)」に関するイベント 2008年(平成20年)10月29日に“聖地”オデオン・レスター・スクエアで「慰めの報酬」のロイヤルプレミアが開催、2008年(平成20年)11月23日に東京・オメガブティック青山で「オメガ シーマスタープラネットオーシャン007限定モデル」発売イベントが開催、「007 慰めの報酬」公開イベントとして、2009年(平成21年)1月12日から2月15日まで、「TRIAL TO 007」が開催、2012年(平成24年)10月23日に「007 スカイフォール」のロイヤルプレミア(ロンドン)、10月25日にパリプレミア、10月26日にローマプレミアが開催、2012年(平成24年)11月19日から12月7日まで、有楽町の阪急メンズ東京で、「ウインターダンディズム~007WEEK~」が開催、2015年(平成27年)11月16日に六本木ヒルズで「TOKYO BOND GIRL COLLECTION」等が開催され、各イベントには、ボンドガールを演じた女優らが登場するなどした(甲15、甲30~甲40)。 オ 映画「007シリーズ」の二次利用 「007シリーズ」は、映画館で上映後、DVDの制作や、テレビ放送(2010年(平成22年)3月からWOWOWで全22作品を一挙放送、2015年(平成27年)1月から2016年(同28年)6月まで、BSジャパンの金曜名画座で22作品を放送、BS-TBS、映画専門チャンネルで24作品及び番外品2作品を放送、テレビ東京が20作品を放送)などの、作品の二次利用が行われている(甲47~甲51)。 カ 「ボンドガール(BOND GIRL)」に関するライセンス許諾 請求人は、ネイル製品トップメーカーであるO・P・I(アメリカ合衆国カリフォルニア州)、エイボン化粧品(AVON)(アメリカ合衆国ニューヨーク州)、バービー人形で有名なマテル(Mattel)(アメリカ合衆国カリフォルニア州)、カードメーカーのカルタムンディ(Cartamundi)(ベルギー)、トレーディングカードのメーカーであるリッテンハウス(Rittenhouse)(アメリカ合衆国ペンシルバニア州)、写真集などアート系の本を出版するテヌース(Te Neues)(ドイツ)及びRevlon(レブロン)等に、ボンドガールに係るライセンスを許諾しており、各メーカーは、ボンドガールをイメージした商品の販売、ボンドガールの肖像や「BOND GIRL」の文字の使用、イメージキャラクターとしてのボンドガールを演じた女優の起用等、許諾されたライセンスを活用していることがうかがわれる(甲7、甲52~甲66)。 キ 「ボンドガール(BOND GIRL)」に関するプロダクト・プレイスメント 映画「007シリーズ」は、上記アのとおり、56年間に24作品が公開され、その間新作が公開されるたびに様々な企業とのタイアップキャンペーンが長期間にわたり実施され、幅広い範囲の商品化が行われてきた。 ボンドガールに対してもタイアップは行われており、例えば、「007/スカイフォール」(2012年公開)でボンドガールを演じたベレニス・マーロウは劇中でオメガの「デビルプレステージ」を着用した(甲38)。 また、「007/慰めの報酬」(2008年公開)でボンドガールを演じたオルガ・キュリレンコは、来日イベントで、オメガと007シリーズの6本目のコラボ作品を記念して誕生した限定モデルの発表を行った(甲30)。 ジュエリーメーカーのスワロフスキーも、007シリーズとタイアップを行っており、ボンドガールを演ずる女優にスワロフスキーのジュエリーを提供してきた。同社は、スカイフォール公開時、007シリーズ50周年を記念したコレクションを、世界1,000店のショップで販売した(甲68、甲69)。 「O.P.I.」、「エイボン」、「レブロン」も007シリーズとタイアップし、限定商品を販売した。 (3)引用標章の著名性について 上記認定事実からすれば、映画「007シリーズ」は、1962年(昭和37年)以降、24作品が制作され、我が国を含め世界各国において公開され、いずれも高い興行成績を残していることから、世界中に広く知られた映画作品であるということができる。 そして、作品中の主人公ジェームズ・ボンドの相手役となる女性キャラクターは、「ボンドガール(BOND GIRL)」として、各種雑誌に紹介され、各作品の公開時期に合わせた宣伝を兼ねたイベントにおいても注目されていることが認められる。 また、請求人は、ネイル製品、化粧品を始め、人形、カード、カレンダー等を取り扱うメーカーに、引用標章に係るライセンスを許諾しており、各メーカーは、「ボンドガール(BOND GIRL)」の顧客吸引力を商品の販売促進に活用していることがうかがわれる。 そうすると、引用標章は、映画「007シリーズ」に登場する女性キャラクターの名称として、世界的な知名度を有するに至っているものであり、当該「007シリーズ」は、1962年(昭和37年)より永年にわたり、途切れることなく制作されていることからすれば、その知名度は、本件商標の登録査定時はもとより、現在も継続しているといえる。 2 商標法第4条第1項第7号の該当性 上記1のとおり、引用標章は、映画「007シリーズ」に登場する女性キャラクターの名称として、本件商標の登録査定時には、広く認識されていたことを認めることができる。 また、前記認定のとおり、請求人は、ネイル製品、化粧品を始め、人形、カード、カレンダー等を取り扱うメーカーに、引用標章に係るライセンスを許諾していたことからすれば、「BOND GIRL(ボンドガール)」の語が一定の顧客吸引力を有していたことも認めることができる。 さらに、「BOND GIRL(ボンドガール)」は、1962年(昭和37年)公開の作品「007 ドクター・ノオ(原題:Dr.No)」以降、一貫して「007シリーズ」に登場する女性キャラクターとして描写されており、「BOND GIRL(ボンドガール)」の語からは、他の観念を想起するものとは認められない。 そして、請求人は、米国のMGM社とともに映画作品007シリーズの著作権を共同所有しており、この映画に関する世界的な商品化権を管理し、我が国を含む世界各国において引用標章に係る商標を登録したり、メーカーに対してはライセンス契約によりその使用を許諾するなど、その商業的な価値の維持管理にも努めてきたものとみることができる。 このような状況の中で、被請求人は、新しい時代の「ジェームズ・ボンド」を、小説、映画、漫画、ゲームなどで二次創作するプロジェクトを起案し、開発を進めている旨主張していることからすれば、本件商標の採択にあたり、引用標章の周知性や顧客吸引力に便乗して、不正の利益を得ようとする目的をもって、本件商標を登録出願したことは明らかといわざるを得ないから、請求人と関わりのない第三者である被請求人が、最先の商標出願を行った結果、特定の指定商品との関係で当該商標を独占的に使用できるようになり、請求人による使用を排除できる結果となることは、商標登録の更新が容易に認められており、その権利を半永久的に継続することも可能であることなども考慮すると、公正な取引秩序の維持の観点からみても相当とはいい難い。 また、被請求人は、引用標章の世界的な知名度、顧客吸引力及び商業的価値の維持に何ら関わってきたものではないから、本件商標の指定商品との関係においてではあっても「BOND GIRL(ボンドガール)」の語の使用の独占を認めることは相当ではなく、本件商標の登録は、公正な取引秩序を乱し、公序良俗を害するものというのが相当である。 したがって、構成中に「BOND GIRL」の文字を有する本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。 3 被請求人の主張について (1)被請求人は、本件商標は、商標法の違反なく同人が登録出願し、登録を受けたものであり、他者の商標及び知的財産権を侵害するものではない旨主張する。 しかしながら、商標法第46条第1項は、商標登録が、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」(商標法第4条第1項第7号)に該当するときは、その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができる旨を規定しているのであるから、本件商標が登録されたことをもって、上記規定の該当性を否定することはできない。 (2)被請求人は、請求人が007シリーズの公表当時から「BOND GIRL(ボンドガール)」を使用していることを裏付ける証拠が提出されていない旨主張する。 しかしながら、請求人が007シリーズを制作したことは、被請求人も認めているところ(審判事件答弁書10頁)、当該映画は、1962年以降本件商標の登録査定時までに24作品が制作されており、遅くとも平成15年には、1960年代から当該映画の女性キャラクターを指称する語として「BOND GIRL(ボンドガール)」の語が、我が国において、雑誌における紹介記事のみならず、映画の宣伝用のイベントにおいても使用されているところ、「BOND GIRL(ボンドガール)」は、請求人に係る映画のキャラクターの名称として、広く認識されているものであり、また、映画の宣伝用イベントは、007シリーズの映画に関連して開催されたものであって、請求人の了承に基づき行われていたものとみるのが相当であるから、当該使用は、請求人が同人の映画の宣伝広告において、「BOND GIRL(ボンドガール)」の文字を使用していたといい得るものである。 (3)請求人は、本件商標とは別の区分で登録された商標への異議申立2件は、その申立てが認められず、登録が維持された旨及び今回の請求人の主張は、当該異議決定の判断を覆すだけの新しい解釈や理論が見当たらない旨主張する。 しかしながら、審判事件は、事件ごとに、申立人(請求人)の主張及び提出された証拠に基づき判断すべきものであり、また、上記異議事件と本件審判に係る主張及び証拠は同一とはいえないものであるから、当該異議事件の存在により、本件の判断が左右されるべきものではない。 (4)被請求人は、請求人は米国で保有していた商標「BOND GIRL」すべての登録を放棄しており、米国では商標を保有していない旨及び米国において「BOND GIRL」と題された出版物の刊行を看過している旨主張する。 しかしながら、他国における商標の登録状況及び第三者による出版物が刊行されたことによって、上記判断が左右されるものではない。 (5)小括 したがって、被請求人の上記主張は、いずれも認めることができない。 4 商標法第4条第1項第15号及び同項第19号の該当性 (1)商標法第4条第1項第15号について 本件商標は、007シリーズの女性キャラクターとして著名な引用標章と同一又は類似するものであるとしても、引用標章は、請求人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして使用する商標ではなく、請求人が本件商標の指定商品を自己の業務として提供している事情もない。 してみれば、被請求人が本件商標をその指定商品について使用をしても、需要者をして、その商品が他人(請求人)又は同人と経済的、組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し、商品の出所について混同するおそれはないものとみるのが相当である。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。 (2)商標法第4条第1項第19号について 本件商標は、007シリーズの女性キャラクターとして著名な引用標章と同一又は類似するものであるとしても、引用標章は、請求人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして使用する商標ではなく、請求人が本件商標の指定商品を自己の業務として提供している事情もない。 してみれば、本件商標は、他人(請求人)の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標ということはできないから、本号が適用される要件を欠くものである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。 5 むすび 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号及び同項第19号に該当しないものの、同項第7号に該当するものであり、その登録は、同条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録は無効とするべきである。 よって、結論のとおり審決する。

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2020-890082

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