商標無効審判
2020-890024
ヒルドマイルド、ヒルド
- 審判番号
- 2020-890024
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 商願2018-101122
- 登録番号
- 6178214
- 請求日
- 2020年02月28日
- 審決日
- 2023年08月22日
- 公報発行日
- 2023年11月24日
- 結論
- 請求成立(無効)
- 当事者
- 【請求人】マルホ 株式会社
- 【請求人代理人】小林 浩
- 【請求人代理人】鈴木 康仁
- 【請求人代理人】瀧澤 文
- 【被請求人】健栄製薬 株式会社
- 【被請求人代理人】弁理士法人森本国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 大森 友子
- 審判官 豊瀬 京太郎
- 審判官 小俣 克巳
- 分類
- T111 .261-Z (W05) / T111 .262-Z (W05) / T111 .263-Z (W05) / T111 .271-Z (W05)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 商標法4条1項11号商標法46条1項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第4条第1項第11号、商標法第4条第1項第15号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の登録第6178214号商標の商標登録無効審判事件についてされた令和2年12月25日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(令和3年(行ケ)第10029号、令和3年9月21日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。
結論
結 論
登録第6178214号の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 本件商標
本件登録第6178214号商標(以下「本件商標」という。)は、「HIRUDOMILD」の文字を標準文字で表してなり、平成30年8月8日に登録出願、第5類「薬剤」を指定商品として、令和元年7月30日に登録査定、同年9月6日に設定登録されたものである。
第2 引用商標
請求人が、本件商標の登録の無効の理由において引用する登録商標は、以下のとおりであり、いずれの商標権も現に有効に存続しているものである。
1 登録第459931号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の構成:「Hirudoid」
登録出願日:昭和29年5月12日
設定登録日:昭和30年2月10日
書換登録日:平成17年10月19日
指定商品:第5類「薬剤(蚊取線香その他の蚊駆除用の薫料・日本薬局方の薬用せっけん・薬用酒を除く。),キナ塩,モルヒネ,チンキ剤,シロップ剤,煎剤,水剤,浸剤,丸薬,膏薬,散薬,錠薬,煉薬,生薬,薬油,石灰,硫黄(薬剤),鉱水,打粉,もぐさ,黒焼き,防腐剤,防臭剤(身体用のものを除く。),駆虫剤,ばんそうこう,包帯,綿紗,綿撒糸,脱脂綿,医療用海綿,オブラート」
2 登録第1647949号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の構成:「ヒルドイド」
登録出願日:昭和56年1月30日
設定登録日:昭和59年1月26日
書換登録日:平成16年11月4日
指定商品:第5類「薬剤,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液,胸当てパッド」並びに第1類及び第10類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
以下、これらをまとめて「引用商標」という。
第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、審判請求書、意見書及び回答書において、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第95号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効にすべきものである。
2 具体的理由
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標は、「HIRUDO」と「MILD」の欧文字を結合してなる標準文字商標であって、「HIRUDO」の文字は、辞書に載録がなく、特定の意味合いを有する語として知られているものではないが、「MILD」の文字は、「穏やかな」、「軽い、刺激の少ない」などを意味する語として知られているものである(甲4)。
本件商標の指定商品である「薬剤」を取り扱う業界においては、「MILD」及びこれに相当する外来語「マイルド」の語は、薬の強さの程度が穏やかであることや、薬を服用・使用した際に受ける刺激が穏やかで少ないことを表す語、すなわち、「薬剤」の品質や内容を表示するものとして使用されているという実情がある(甲5)。
以上より、「MILD」の文字は、本件商標の指定商品との関係においては、自他商品識別力を発揮しない部分であるといえる。
そして、本件商標を構成する「HIRUDO」と「MILD」の文字を結合しても特定の観念が生じないため、観念上のつながりはないといえる。また、「MILD」の文字部分は、上記のとおり、識別力を有しないのに対し、特定の観念の生じない造語と理解される「HIRUDO」は、指定商品「薬剤」について識別力が強いといえる。
したがって、本件商標は、「HIRUDOMILD」全体のみならず、識別力を有しない「MILD」を除く「HIRUDO」の文字部分のみが、独立して出所識別標識と機能する場合があるといえる。そのため、本件商標からは、その構成文字全体に相応した「ヒルドマイルド」の一連の称呼の他に「ヒルド」の称呼も生じ、いずれもが特定の観念が生じない造語と認められるものである。
イ 引用商標は、「Hirudoid」の欧文字又は「ヒルドイド」の片仮名を横一連に表してなり、辞書に載録がなく、特定の意味合いを有する語として知られているものでないから、特定の観念を有しない造語と理解され、「ヒルドイド」と称呼される。
ウ 本件商標の要部「HIRUDO」と引用商標1の「Hirudoid」は、大文字・小文字の差はあるものの、語頭の「HIRUDO」の欧文字6字が共通するため、外観において相紛らわしいといえる。
引用商標2の「ヒルドイド」とは、構成文字種の差から、外観は相違する。
そして、本件商標の要部から生じる「ヒルド」の称呼と引用商標から生じる「ヒルドイド」の称呼は、語頭から続く「ヒルド」の3音が共通し、語尾部分における「イド」の音の有無の差異にすぎない。しかも、差異音「イド」のうち、「イ」音は、その前音(第3音目の「ド」の母音)との二重母音となって、「ド」の母音に吸収されやすく、聞き取り難いものである。
また、差異音「イド」のうち、「ド」の音は、称呼の識別上聴取され難い末尾に位置するものであるから、この差異音「イド」が、両商標の称呼全体に与える影響は決して大きいものとはいえない。
一方、文字で構成される商標については、自他商品の識別標識としての機能を果たす場合において、語頭部分の音が最も重要な要素となるので、語頭部分の「ヒルド」の3音が共通する両商標をそれぞれ一連に称呼するときは、その語調、語感が近似し、互いに相紛れるおそれがあるといえる。
したがって、本件商標と引用商標1とは、外観及び称呼において類似し、引用商標2とは、称呼において類似する商標とされるべきである。
また、被請求人は、被請求人が引用する同一権利者による「○○」と「○○マイルド(MILD)」の併存登録例は、「各社が両商標を非類似であると認識し、必要に応じて権利化している事実を示すもの。」であると主張しているが、同一権利者によるこのような併存登録は、「両商標を非類似であると認識」しているのではなく、「両商標が類似するものと認識」していても両商標の独占的使用のためになされたものと理解するのが適当である。
エ 指定商品の類否について
本件商標の指定商品は、第5類「薬剤」であって、引用商標の指定商品と同一又は類似するものである。
オ 以上のとおり、本件商標は、引用商標と商標が類似し、本件商標の指定商品は、引用商標の指定商品と、同一又は類似するものである。
カ 第5類の「薬剤」の範ちゅうに含まれる「医療用医薬品」については、名称が類似する別の医薬品との取り違えミスが問題となっている。本件商標と引用商標とは、称呼や外観において相紛らわしいばかりでなく、医薬品の取引の実情に鑑みれば、医療現場においては取り違えられる可能性が高いといえる。また、被請求人は、「本件商標は、ブランド名となるため、医療用後発医薬品の販売名には該当しない。」と述べ、「本件商標は必然的に一般用医薬品又は医薬部外品に使用される。」と主張しているが、「先発医薬品」については、現在もなお従来どおりのブランド名による製造販売承認申請が可能であり(甲33、甲34)、本件商標は、医療用医薬品についても使用される可能性があることから、医薬品の取引の実情をも考慮のうえ、本件商標と引用商標の類否判断は極めて慎重に判断する必要がある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録を受けたものである。
(2)商標法第4条第1項第15号について
ア 請求人商品
請求人は、請求人の業務に係る高い保湿効果を有する「ヘパリン類似物質」を有効成分とする血行促進・皮膚保湿剤(医療用医薬品)に、引用商標に相当する「ヒルドイド」及び「Hirudoid」の商標(以下、これらをまとめて「請求人使用商標」といい、また、請求人使用商標を付した、血行促進剤・皮膚保湿剤を「請求人商品」という。)を継続的に付して販売等をしてきた。
「ヘパリン類似物質」は、ドイツのルイトポルド・ウエイク製薬会社(以下「ルイトポルド社」という。)で創製されたものであり、1949年にドイツ国内において、「ヘパリン類似物質」を有効成分とする「ヒルドイドクリーム0.3%」を発売した。
請求人は、1952年に、ルイトポルド社製品の輸入・販売契約を締結し、1954年10月に、我が国で「ヒルドイドクリーム0.3%」を発売した。
当初、「ヒルドイドクリーム0.3%」は、凝血阻止血行促進剤として販売されていたが、その後、皮膚科等において幅広く使用されることとなり、剤形追加品目として、1996年に「ヒルドイドソフト軟膏0.3%」が承認され(甲11、甲12)、現在では、クリーム、軟膏、ローション、フォームの4つの剤型で販売されている。
イ 本件商標と請求人使用商標の類似性の程度
本件商標と請求人使用商標とは、文字商標が自他商品を識別するための標識としての機能を果たす際に、最も重要な要素となる語頭部分における「ヒルド」の3音が共通しているため、両商標をそれぞれ全体として称呼するときは、互いに聞き誤るおそれがある。
本件商標と請求人商品に使用する「Hirudoid」とは、外観において、語頭部分における「HIRUDO(Hirudo)」6文字が共通している。
したがって、本件商標と請求人商品に使用する「Hirudoido」を時と処を異にして離隔的に観察したときは、外観において近似した印象を与え、また、本件商標と請求人使用商標をそれぞれ全体として称呼するときは、互いに聞き誤るおそれがある。
以上のように、本件商標と請求人使用商標との類似性の程度は高いといえる。
ウ 請求人使用商標の独創性の程度
請求人商品の販売名「ヒルドイド」とその欧文字表記「Hirudoid」の由来は、「ドイツ語のHirudo(蛭属)とoid(~の様なもの)を組み合わせたもの」であるとされている(甲11)。当該語は、我が国において親しまれた外国語とはいい難いから、これらの語は、商標を構成する文字として誰もが容易に採択するものではない。
上記の「oid」の文字については、「ヘパリン類似物質」の洋名が「Heparinoid」であることから(甲11)、例えば、「ヘパリン類似物質」を有効成分とする商品の商標に選択されることはあるかもしれないが、1954年の請求人商品の発売時において、「ヒルド」又は「Hirudo」の文字を語頭に掲げて販売されていた薬剤は、市場に存在していない。
1976年以降、扶桑薬品工業株式会社(以下「扶桑薬品社」という。)が、「ヒルドシン」の名称で販売していたようだが、その他に、「ヒルド」又は「Hirudo」の文字を語頭に掲げて販売された薬剤は確認できない。
また、本件商標の登録出願日以前に、「ヒルド」又は「Hirudo」を語頭に有する商標は、引用商標と扶桑薬品社の登録商標「ヒルドシン\HIRDSYN」のみである(甲14)。
したがって、「ヒルド」又は「Hirudo」の文字を語頭に有する独特な構成からなる請求人使用商標の独創性の程度は、極めて高いといえる。
エ 請求人使用商標の著名性の程度
(ア)請求人商品の広告宣伝の状況
請求人は、請求人商品の広告を、2013年以降、専門雑誌や日本全国各地で開催される学会の学会要旨集等に掲載し、また、医療機関向けパンフレット等を配布するなどの広告宣伝活動を、請求人商品の発売以来、現在に至るまで全国的に行ってきた(甲15~甲18)。
(イ)請求人商品の売上及び市場占有率
上記のような広告宣伝活動のもと、請求人商品は、2014年度から2017年度までの4年間において、年間約420億円ないし520億円を売り上げている。また、ヘパリン類似物質含有製剤における市場占有率(金額ベース)は、80%前後で推移している(甲19、甲20、甲36)。
また、請求人商品は、2014年度ないし2017年度までの4年間において、「血液凝固阻止剤(外用)について、すべての都道府県において流通しており、各都道府県の市場占有率は30%ないし90%程度(数量ベース)である(甲36)。
(ウ)請求人商品の優れた有効性
上記の広告宣伝活動などの請求人の営業努力によって、請求人商品が広く全国に流通するにつれ、請求人商品の使用者も次第に増加し、請求人商品の優れた効果が評判となり、皮膚科の専門医師等が著した文献において紹介されている(甲21)。
このような、請求人商品の評判や事業が評価され、請求人は、2017年にポーター賞を受賞している(甲22、甲23)。
(エ)まとめ
(ア)ないし(ウ)のように、請求人使用商標を付して継続的に販売されてきた請求人商品への信頼は、請求人商品を取り扱う業者、皮膚科を専門とする医師、薬剤師や看護師等の医療関係者や、請求人商品を使用する患者の間において広く認識されるものとなっている。
以上のとおり、請求人使用商標は、本件商標の登録出願時において、請求人の業務に係る「ヘパリン類似物質」を有効成分とする「血行促進・皮膚保湿剤」を表示するものとして広く認識されていたものといえる。
オ 本件商標の指定商品と請求人商品との関連性
本件商標の指定商品は「薬剤」であり、請求人商品も「薬剤」に該当する商品である。
したがって、いずれも、疾病の治療や予防等に使用されるという点で用途や目的等が共通する関連性の高い商品であるといえる。
カ 請求人商品の取引の実情
請求人商品は、医師による診断・処方なしに入手することのできない「医療用医薬品」であり、一方、「一般用医薬品」や「医薬部外品」は、医師による診断・処方なしに、気軽にドラッグストア等で入手することができるため、入手経路が異なることもあり、通常は、「医療用医薬品」(請求人商品)が「一般用医薬品」や「医薬部外品」と取り違えるようなことは少ないと考えられる。
しかし、請求人使用商標の著名性や高い独創性、本件商標と請求人使用商標が類似すること、後述する請求人商品の需要者層の拡大と、請求人商品の取引の実情をも踏まえれば、本件商標が、「医療用医薬品」に使用される場合のみならず、「一般用医薬品」や「医薬部外品」に使用される場合であっても、請求人の業務に係る商品と混同を生じるおそれがあるといえる。
また、被請求人は、「医療用医薬品」と「一般医薬品」の流通経路が異なると述べているが、医薬品の流通を担う卸会社には、「医療用医薬品」と「一般医薬品」の両方を扱う会社もある(甲37)。
(ア)請求人商品の高い評判に起因する需要者層の拡大
2014年頃から、請求人商品の高い保湿力が、皮膚の乾燥による肌荒れに悩む者や美容に関心のある者からも注目を集めることとなった(甲24)。
請求人の意に反して、請求人商品が、肌の潤いを保つ保湿クリームとして極めて有効であるという旨が、無断で女性誌等に取り上げられることもあり、請求人使用商標は、請求人商品を示すものとして、請求人商品を取り扱う業者、皮膚科専門医、薬剤師や看護師等の医療関係者や、請求人商品を必要とするアトピー性皮膚炎等に悩む患者のみならず、肌の状態に不満がある、美容に関心のある一般需要者にも広く認識されるようになった。
(イ)第三者による「ヘパリン類似物質」含有商品の販売
このような、請求人商品の需要の高まりを商機ととらえ、請求人商品に含まれる「ヘパリン類似物質」を含有する保湿クリームやローション剤等を、「一般用医薬品」や「医薬部外品」として発売する者も現れた(甲26)。 このような保湿クリーム等が複数販売されるようになると、その広告や紹介記事等において、無断で請求人商品の写真を掲載する、無断で「ヒルドイド」の文字を使用するといったケースが見られるようになった(甲27)。
(ウ)請求人商品の写真の無断掲載等に対する対応
請求人商品は、医師の診断・処方に基づいた使用が義務付けられている医療用医薬品である。医療用医薬品には、医療関係者以外の一般人を対象とする広告を行ってはならないとする広告基準が存在する(甲28)。上記の女性誌や他人の広告に掲載される請求人商品の写真は、請求人に無断とはいえ、請求人商品の広告と認められ上記基準に抵触する可能性がある。また、請求人商品について本来の用途と異なる使用法等を紹介する雑誌記事によって、請求人商品が適切かつ安全に使用されないというおそれもある。
そのため、請求人は、請求人商品の写真の無断掲載や、請求人使用商標の無断使用、請求人商品の不適切な取扱いに対しては、意見書の送付など、断固とした態度をとってきた(甲29)。
(エ)「ヘパリン類似物質」を含有する一般用医薬品等の取引の実情
「Yahoo!ショッピング」や「楽天市場」等のショッピングサイトにおいて、「ヒルドイド」をキーワードに商品検索を行うと、他人の一般用医薬品等が多数検索でき、請求人とは関係のない第三者の商品が販売されている(甲30、甲31)。
被請求人は、請求人使用商標が請求人商品を取り扱う医療関係者及び患者を超えて一般需要者の間においても周知著名性を獲得している事実はないと述べているが、「ヘパリン類似物質」を含む「一般用医薬品」や「医薬部外品」の広告に、請求人使用商標に係る業務上の信用にフリーライドするような広告が多数実施されるほど、請求人使用商標が、一般需要者の間においても周知著名性を獲得しているといえる。
(オ)取引者・需要者による誤認・混同
請求人と取引のある医療関係者の一部から、「(「ヘパリン類似物質」を含有する一般用医薬品(OTC医薬品)「ヒルメナイド」について)マルホ(請求人、以下この項において同じ。)がやっと出したのかと思った」、「(同じく「ヒルメナイド」について)名前が似ているからマルホが出したのかと思った」、「ネットでヒルドプレミアムというのを見た。ネットで見るとヒルドイドのすごいやつという感じだよ」、というコメントを得ている(甲32)。このように、日常的に請求人とコミュニケーションをとり、医薬品やその関連商品に詳しい専門家であっても、商品名の語頭の文字「ヒル」や「ヒルド」から、請求人の著名商標「ヒルドイド」を連想し、これらの商品が、あたかも請求人の販売する商品であるかのように誤認している実情がある。
被請求人は、請求人による医療用医薬品の適正使用に関する啓発活動の徹底により、請求人商品と本件商標を付した被請求人商品との出所の混同が生じないと主張しているが、啓発活動の徹底に努めてはいても、請求人使用商標に係る業務上の信用にフリーライドするような取引の実情は、今もなおなくならない。
キ まとめ
本件商標は、その登録出願時において、請求人商品を示すものとして、請求人商品を取り扱う医療関係者や、請求人商品を必要とするアトピー性皮膚炎等の患者の他、肌の調子を整えたい一般需要者の間においても周知著名な請求人使用商標と、称呼又は外観について類似するものである。
そして、請求人商品に長きにわたって使用されてきた請求人使用商標の独創性の高さや、上述の請求人商品の需要者層の拡大及びその取引の実情をも踏まえれば、本件商標が、「医療用医薬品」に使用される場合のみならず、「一般用医薬品」や「医薬部外品」に使用される場合であっても、請求人の業務に係る商品と混同を生じるおそれがあるといえる。つまり、本件商標が、第5類「薬剤」に該当する「医療用医薬品」、「一般用医薬品」及び「医薬部外品」に使用されると、語頭の「ヒルド」の3文字(審決注:「HIRUDO」の5文字の誤りと思われる。)及びこれから生じる「ヒルド」の称呼が共通することも相まって、あたかも請求人商品、又は請求人商品の関連商品であるか、若しくは、請求人と経済的又は組織的に関係のある者の業務に係る商品であるかのように、取引者・需要者をして、商品の出所の混同を生じさせるおそれがある。
また、かかる商品の出所混同に起因して、製薬に携わる者として患者の健康を預かる請求人の業務上の信用を阻害し、また、需要者の利益を害するおそれもある。
以上のように、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録を受けたものである。
第4 被請求人の答弁
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第15号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 商標法第4条第1項第11号について
(1)本件商標は、標準文字で「HIRUDOMILD」と一連に書してなり、我が国において親しまれたローマ字読み又は英語風に「ヒルドマイルド」と称呼するのが自然である。かかる称呼は7音という比較的短い構成音数であることから無理なく一連の「ヒルドマイルド」の称呼が生じる。
また、「HIRUDOMILD」の語は辞書類に記載がなく、特定の観念を有しない造語である。
請求人は、本件商標の指定商品である「薬剤」の分野において「マイルド(MILD)」の文字は自他商品識別力を発揮しないため、本件商標から「ヒルド」の称呼も生じると主張している。しかしながら、「薬剤」の分野においては、本件商標と同様に「○○マイルド(MILD)」と一連に書した態様の商標が、全体で一連一体の造語として認定されている。また、同一権利者が「○○」と「○○マイルド(MILD)」の両方の商標を所有している事例が多数あり、これは、両商標を非類似であると認識し、必要に応じて権利化している事実を示すものである。
以上より、本件商標は、一連一体の造語であり、「ヒルド」の称呼のみが抽出されることはない。
(2)本件商標と引用商標との類否
引用商標は、「Hirudoid」又は「ヒルドイド」と書してなり、辞書類に記載がないことから特定の観念を有しない造語であり、「ヒルドイド」の一連の称呼が生じる。
外観においては、本件商標が、標準文字にて構成文字がすべて大文字で表示されているのに対し、引用商標1は、太文字のゴシック体で頭文字のみを大文字とし、文字の間隔を詰めてまとまりよく表示していることから、文字数の差異も相まって外観上の印象は全く異なるものであり、類似することはない。
観念については、両者ともに辞書等に記載がなく特定の観念を有しない造語として看取、把握されることから、比較することができないため類似することはない。
称呼については、本件商標から生じる「ヒルドマイルド」と引用商標から生じる「ヒルドイド」を比較すると、「ヒルド」を共通にするものの、これに続く「マイルド」及び「イド」における決定的な差異を有していることから、商標全体の語調・語感が著しく異なり、聞き誤ることはない。
よって、本件商標と引用商標とは、外観、称呼、観念のいずれにおいても類似することはない。
また、請求人は、本件商標の構成中「MILD」に関して、「物事の程度や人の性質・態度などが穏やかなさま」、「刺激の少ないさま」等の意味を表す語として知られており、本件商標の指定商品である「薬剤」の分野においては、薬の強さの程度が穏やかであることや、薬を服用・使用した際に受ける刺激が穏やかで少ないことを表す語であることから、自他商品識別力を発揮しないため、本件商標から「ヒルド」の称呼も生じると主張している。
そして、本件商標の要部を「HIRUDO」とし、引用商標と類似する旨主張している。
しかしながら、上記(1)のとおり、本件商標は一連一体であり、分断されることはない。
仮に、「HIRUDO」と引用商標を比較しても、外観及び観念が類似しないことは明らかである。称呼においても、請求人は、引用商標の称呼「ヒルドイド」の末尾の2音「イド」について、「イ」は前音の「ド」に吸収され、「ド」は末尾に位置するため聴取され難いとして、本件商標を分断した前半部の「ヒルド」と相紛れるおそれがあると主張しているが、「ド」はそれ自体が有声破裂音であって響きの強い音であることから、その位置するところが末尾であるとしても5音という短い音構成全体に及ぼす影響は大きいものであり、「ヒルドイド」と「ヒルド」が相紛れる可能性はない。
(3)本件商標と引用商標の指定商品について
本件商標と引用商標の指定商品が互いに同一又は類似であることに疑義はない。
(4)医薬品の取引の実情について
請求人は、「医療用医薬品」の名称の類似に起因する取り違えミスについて言及しているが、「医療用後発医薬品」の販売名は、ブランド名を用いることなく「含有する有効成分に係る一般的名称に剤型、含量及び会社名(屋号等)を付す」というルールの下で製造販売承認申請が行われてきたところ、本件商標は、ブランド名となるため医療用後発医薬品の販売名には該当しない。
したがって、医療現場において本件商標を付した一般用医薬品又は医薬部外品と請求人の商品(医療用医薬品)との取り違えミスが発生する可能性は皆無であるといえる。
(5)まとめ
以上のとおり、本件商標は引用商標と、指定商品において同一又は類似のものを含んでいるとしても、商標において類似することはない。また、医薬品業界の実情に照らしても、本件商標と引用商標とを類似と判断すべき特別な事情はない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第15号について
(1)請求人商品は、「「ヘパリン類似物質」を有効成分とする医療用医薬品の「血行促進・皮膚保湿剤」」である。上記1(4)のとおり、現在の医療用後発医薬品の販売名の命名のルールに従うと、本件商標は、医療用後発医薬品に使用することはできないため、本件商標を使用する商品は必然的に一般用医薬品又は医薬部外品となる。医療用医薬品は原則として医師の処方箋がなければ入手できず、一般用医薬品・医薬部外品は医師の処方なしに一般の人が直接ドラッグストア等で入手できるものであることから(乙10)、取引者・需要者が全く異なり、流通経路も異なることは、医薬品業界において周知の事実となっている。
(2)本件商標と請求人使用商標との類似性の程度
上記1のとおり、本件商標と請求人使用商標とは、外観、称呼、観念のいずれにおいても類似することのない非類似の商標である。医薬品の取り違え問題に関しても、命名のルールが変更され15年にわたって実施されていることを考慮すると、本件商標と請求人使用商標を類似とすべき特別な事情は存在しない。
(3)請求人使用商標の独創性の程度について
請求人使用商標は、いずれも造語であり独創性を有することに疑義はない。
他方、本件商標も別異の一連の造語であり、独創性を有するものである。
(4)請求人使用商標の周知著名性の程度について
ア 請求人商品の広告宣伝の状況について
提出された証拠方法によると、請求人が請求人使用商標を付した商品に関する広告を専門雑誌や学会要旨集等へ掲載し、また、病院等の医療機関に向けて宣伝広告物を配布していることがうかがえる。
しかしながら、広告を掲載している雑誌に関しては、特定の週刊誌1誌及び月刊誌3誌については年間5回ないし6回の掲載であり、他の雑誌については年間1回ないし2回の掲載となっており、掲載頻度が高いとはいえない。また、掲載誌も医療関係者向けの雑誌に限定されているし、限られた専門分野を対象とするものであり、医薬品業界全体において周知性を獲得できる規模ではない。
また、広告掲載費用に関しては、周知性が認められた事案の広告掲載費用の1年あたりの平均額と比較して3倍以上の差があることから、請求人使用商標が周知性獲得に至っているとは考え難い。
イ 請求人商品の売上及び市場占有率について
請求人は、ここ4年間の売上高と、NDBオープンデータに基づいた市場占有率を算出しているが、医療用医薬品市場全体から見た「医療用医薬品のヘパリン類似物質製剤」及び「医療用医薬品の血液凝固阻止剤(外用)」の市場規模を考慮すると、請求人商品が医療用医薬品業界において「請求人商品を取り扱う医療関係者及び患者」を超えて一般需要者の間においても周知著名であるとの請求人の主張には無理があると考える。
ウ 請求人は、皮膚科の専門医師等が請求人商品の優れた有効性について著した文献が多数あることから、「請求人商品を取り扱う業者、皮膚科を専門とする医師、薬剤師や看護師等の医療関係者や請求人商品を使用する患者の間において広く認識されている」と述べているが、「請求人商品の取引者・需要者」が請求人商品を認識していることは当然であり、請求人使用商標の周知著名性の根拠にはならない。
(5)本件商標の指定商品と請求人商品との関連性について
本件商標の指定商品「薬剤」に、請求人商品である医療用医薬品が含まれていることに疑義はない。しかしながら、上記1(4)のとおり、医療用後発医薬品に関しては製造販売承認申請にあたって商標法とは異なる独自の命名ルールが存在すること、また、「医療用医薬品」と「一般用医薬品」及び「医薬部外品」では取引者・需要者も流通ルートも異なること、という医薬品業界特有の実情があることから、商標法上の類似商品に該当することのみをもって高い関連性がある商品とは判断できない。
(6)請求人商品の取引の実情について
請求人による医療用医薬品の適正使用に関する啓発活動の徹底に加え、上記医療用後発医薬品の命名のルール、医療用医薬品と一般用医薬品との取引者・需要者・流通経路の相違によって、医療用医薬品である請求人商品と一般用医薬品である本件商標を付した商品が誤認混同を起こす可能性はないといえる。
(7)まとめ
以上より、本件商標は、請求人使用商標とは、外観、称呼、観念のいずれの点においても類似することのない別異の商標である。
また、請求人使用商標が請求人商品を取り扱う医療関係者及び患者を超えて一般需要者の間においても周知著名性を獲得している事実はない。
そうすると、本件商標をその指定商品に含まれる一般用医薬品に使用しても、請求人の業務に係る医療用医薬品と混同を生じるおそれはない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
第5 当審の判断
1 商標法第4条第1項第11号該当性
(1)請求人の提出した証拠及び同人の主張によると、以下の事実が認められる。
ア 請求人商品及び請求人使用商標
(ア)請求人は、昭和29年、凝血阻止血行促進剤「ヒルドイド」を発売し、平成2年、「ヒルドイド」の薬効分類を血行促進・皮膚保湿剤に変更した。その後、請求人は、平成8年に血行促進・皮膚保湿剤「ヒルドイドソフト」を、平成13年に血行促進・皮膚保湿剤「ヒルドイドローション」を、同30年に血行促進・皮膚保湿剤「ヒルドイドフォーム」を発売した。請求人商品は、ヘパリン類似物質製剤であり、クリーム、ソフト軟膏、ローション又はフォームの剤形の商品である。請求人商品はチューブ又は瓶に包装されており、チューブ又は瓶には「ヒルドイド」の標章の下に「Hirudoid」の標章がいずれも横書きで表示されており、これらの請求人使用商標は引用商標と実質的に同一であるものと認められる。なお、請求人は、引用商標2の登録出願頃までは請求人商品に「Hirudoid」の標章のみを表示していたものと推認される(甲12、甲15、甲16、甲93)。
(イ)昭和29年当時、「ヒルド」を語頭に付した名称の医薬品は市場に存在しておらず、「ヒルド」又は「ヒルド○○」との名称が付された医薬品としては、請求人製品の他には扶桑薬品社のシンナリジン製剤である「ヒルドシン」が昭和51年から平成11年まで販売されていたものの、それ以降現在に至るまで、「ヒルド」を語頭に付した名称の医薬品は請求人商品のみである(甲13、甲46、甲47)。
(ウ)令和2年2月12日時点において、語頭に「ヒルド」又は「HIRUDO」を付する第5類「薬剤」を指定商品とする商標としては、請求人を権利者とする引用商標、「ヒルドイドソフト」及び「HIRUDOIDSOFT」、扶桑薬品社を権利者とする「ヒルドシン\HIRDSYN」が登録されているほかは、被請求人を権利者とする本件商標、「HIRUDOMILD」、「ヒルドソフト」及び「HIRUDOSOFT」が登録されているのみである(被請求人の商標はいずれも平成30年8月8日出願、令和元年9月6日登録)。その他、株式会社Stay Freeが、平成30年10月12日に「ヒルドプレミアム」という商標の登録を得ているが、その指定商品は第3類「化粧品」である(甲14、甲69)。
(エ)エンサイススナップショットデータ(薬価基準ベース)2017年度(平成29年度)版によると、請求人商品は、平成29年度には医療用医薬品の年間売上げで19位であった。NDBオープンデータによると、請求人商品の平成26年度から平成30年度までの売上げは、それぞれ417億円、464億円、472億円、521億円、482億円で、ヘパリン類似物質含有製剤又は血液凝固阻止剤の中での市場占有率は、それぞれ、数量で69%、65%、61%、57%、53%(いずれも小数点以下四捨五入。以下同じ。)、金額で83%、81%、79%、76%、73%であった。なお、請求人商品は日本全国で流通している(甲20、甲36、甲53、甲54)。
(オ)請求人は、請求人商品ついて、医学専門雑誌等に請求人使用商標を付した請求人商品の広告を掲載したり、請求人商品のパンフレットなどを病院等の医療機関に配布するなどの広告活動をしており、平成19年10月から令和元年9月までの間、毎年、相当程度の広告費用を支出した。また、請求人は、自社のホームページのうち医療関係者のみが参照することを予定するページにおいて、請求人商品の説明を掲載している。なお、ヒルドイド(請求人商品)の効能については医師が執筆した多数の医学文献が存在し、請求人は、ヒルドイド(請求人商品)に「皮脂欠乏症」の効能を追加することに成功したことなどが評価されて「2007年度(平成19年度)第7回ポーター賞」を受賞した(甲15~甲18、甲21、甲23、甲49、甲51、甲52、甲91、甲92)。
(カ)請求人商品は、アンチエイジングの効果がある又は肌荒れ・乾燥に効果のある保湿クリームとして評判となり、平成26年から平成29年にかけて、請求人商品を化粧下地に用いること、夜のスキンケアとして肌に塗り込むこと、美容液・乳液の代わりに使用することなどが複数の女性誌やブログで取り上げられた(甲24、甲25)。
(キ)請求人は、平成29年10月18日、「ヒルドイドの適正使用に関するお知らせ」と題する文書を公表し、今後とも、請求人商品の美容目的での使用を推奨していると受け取られかねない記事に対して、厳しい姿勢で臨むことなどを明らかにした(甲29)。
(ク)NERAエコノミックコンサルティングが、令和3年2月から同年3月までに、乾燥、シミ・シワ、湿疹・かぶれのいずれかの肌の悩みを抱えており、処方された又は市販の皮膚薬(塗り薬)を使用中又は1年以内に使用したことがある人を対象として実施したアンケート調査によると、対象者全体の44%が「ヒルドイド」という言葉から保湿剤を想起し、女性の60%が保湿剤を想起した。また、「ヒルドイド」から保湿剤を想起した者の92%が請求人商品のパッケージをみて、ヒルドイドのパッケージであると回答した(甲57)。
イ その他のヘパリン類似物質含有製剤について
(ア)日経ウーマンのウェブサイトに掲載された平成30年12月6日付の記事には、「「ヒルドイド」で知られる医療用保湿剤の成分、ヘパリン類似物質を配合した市販品とコスメが、18年秋に相次いで登場した。」として、「ヒルメナイド油性クリーム」(マツモトキヨシ)、「ヒルセリンローション」(株式会社コジット)等の商品が紹介されている(甲26の1)。また、平成30年10月頃、上記ヒルメナイド油性クリームは、店頭において、「ヒルドイドソフト軟膏と同処方」との文字及び請求人商品の写真が掲載されたPOPを伴って販売されていたことがある(甲27の1)。株式会社コジットは、平成30年9月から早くとも令和元年12月まで、同社のホームページにおいて、医薬部外品である「ヒルセリンクリーム」及び「ヒルセリンローション」の説明として、「「ヒルドイド」と同様の“ヘパリン類似物質”を配合」と記載していた(甲27の3)。株式会社NALCは、平成30年9月から早くとも令和元年12月まで、同社のホームページにおいて、「あのヒルドイドと同じ有効成分配分の最強保湿乳液‘NALC薬用ヘパリンミルクローション’がこの秋、NALCより誕生!」などと記載した(甲27の4)。その他、令和元年9月、同年12月及び同2年2月において、オンラインショップが、ヘパリン類似物質が配合された医薬部外品や市販薬(いずれも請求人商品ではないもの)について「ヒルドイド」「ヒルドイドと同じ有効成分」「ヒルドイドのジェネリック」「ヒルドイドで有名な「ヘパリン類似物質」を配合」などと記載して販売している例が多数みられる(甲27の5、甲30、甲31)。
(イ)「ヒルドプレミアム」について
株式会社Stay Freeが、「ヒルドプレミアム」というヘパリン類似物質配合の医薬部外品の化粧品として、クリーム及びローションを販売しているが、令和3年3月から同年6月にかけて確認された、同商品が販売されているオンラインショップの購入者のレビューやSNSの書き込みの中には、「ヒルドイドにプレミアムってあるんですね」、「ヒルドイドの市販品」、「ヒルドイドが効くという事で・・こちらの商品を注文」というように請求人商品そのもの又はその市販品であるものと解しているものが複数あり、請求人商品と混同して「ヒルドイドプレミアム」と呼んでいるものや、「ヒルドイドかと思ったら・・」「ちがってました。」と請求人商品と誤解して購入した旨の記載、商品名とパッケージが請求人商品に似ている旨の記載などがみられる(甲72~甲84)。
(ウ)請求人は、平成31年1月から令和3年2月にかけて、取引先の病院・クリニック等から、ヒルドプレミアムについて、「ネット見るとヒルドイドのすごいいいやつという感じだよ」、「あまりにもそっくりなためマルホがOTC出したのかと思って患者さんと驚いていた」、処方薬(請求人商品)がなくなったので「ヒルドイドプレミアムというヒルドイドソフト軟膏とそっくりな物を購入してみた」という患者に「OTCで多くの類似商品が販売されている」と伝えた、ヒルメナイドについて、「マルホがやっと出したかと思った」、「名前もヒルドイドと似ているのでマルホとして対策はできないのか」などと言われた(甲32、甲38、甲44)。
(エ)「ヒルマイルド」について
a 被請求人は、令和2年6月29日、ヘパリン類似物質を0.3%配合する一般用医薬品である乾燥肌治療薬「ヒルマイルド」(ヒルマイルドクリーム及びヒルマイルドローション。以下併せて「ヒルマイルド」という。)の販売を開始し、同年9月12日、テレビCMの放映を開始した(甲39の1・2)。
b ヒルマイルドの販売開始時、「あのヒルドイドが店頭で新発売!」と記載したPOPを使用したドラッグストアがある。また、請求人は、数十件の取引先の病院・クリニック等から、ヒルマイルドが請求人の商品であることを前提とした質問を受けたり、ヒルマイルドに請求人が関与しているのかと質問を受けるなどした(甲41、甲44)。
c 請求人が被請求人を相手方とした、商標権の侵害及び不正競争防止法に基づきヒルマイルドの販売等の差止めを求める仮処分の申立てに関するウェブニュースに対する読者コメント(全1845件)をみると、ヒルマイルドについて、請求人商品と同じ又は請求人商品が薬局で買えるようになったものと認識していた旨の記載が複数あり、その他にも請求人商品と商品名やパッケージが似ている旨の記載を加えると、全体の56%が請求人商品とヒルマイルドが似ているという趣旨のものであり、似ていないという趣旨のコメントは全体の2%であった(甲84、甲85)。
ウ 一般に、医薬品メーカーが、医療用医薬品のうち一定の要件を満たしたものについて販売許可を得て、医療用医薬品と有効成分や用法・容量が同じまま市販薬として販売することがあり、これらの医薬品をスイッチOTC薬といい、例えば、ロキソニンS、アレグラFXなどがある(甲65、甲66)。
エ 医療分野では、医薬品の名称が似ていることによる取り違え事故が後を絶たないとされており、複数の医薬品メーカーが医療関係者に対する注意喚起をしている。薬剤(処方薬)のオーダリングシステムにおいて、頭3文字を入力して検索することで、別の商品名の薬と間違える割合が有意に減少した(甲7~甲10、甲61、甲63)。
オ 「mild」は「(飲食物・味などが)軽い、刺激が少ない」「(薬が)穏やかに作用するといった意味の英単語であるが、「マイルド」との表記で「物事の程度や人の性質・態度などが穏やかなさま。」「刺激の少ないさま。」などを意味する単語として一般的な国語辞典に掲載されており、会話中などにおいても日常的に使用される単語である。特に、薬剤の分野においては、ステロイド外用薬の強さを5段階で表した場合には「ウィーク(WEAK)に次いで弱いことを意味するものとして使用されたり、「効き目がマイルド」「マイルドな作用」などと薬効や作用が弱いことを表したり、目薬の差し心地が優しいこと、洗眼薬が瞳にしみないこと、飲み口が良いことなど薬を用いる際の刺激が弱いことを表す単語として認識されている。例えば、「ロート アルガード クリアマイルド」、「スマイル40EXゴールドマイルド」、「アイボンマイルド」など、薬効や刺激の弱い薬剤を表すものとして、ブランド名とともに商品名に用いられている(甲4~甲6、甲59、甲60)。
(2)商標の類否について
商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
また、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合等、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合には、その構成部分の一部を抽出し、当該部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁)。
(3)本件商標及び引用商標
ア 本件商標について
(ア)本件商標は、「HIRUDOMILD」の10文字の標準文字で表してなるものであり、「ヒルドマイルド」の称呼が生じるものである。
ところで、本件商標が10文字からなるものでその一部のみを観察することも想定可能な程度の長さを有していること、その構成中の「MILD」の文字部分は、上記(1)オのとおり、「物事の程度や人の性質・態度などが穏やかなさま。」「刺激の少ないさま。」などを意味する英単語として広く知られ、また、会話中においても日常的に使用されており、ひとまとまりの語句として強く認識され得るものであることからすると、本件商標は、「HIRUDO」の構成部分と「MILD」の構成部分からなる結合商標であるとみることができる。
そして、「HIRUDO」の構成部分は、我が国において周知されているものではいから一種の造語と理解され、同構成部分に対応する和名の「ヒルド」は、上記(1)アのとおり、長期間にわたって請求人商品の外には薬剤の名称には使用されておらず、薬剤の名称としてありふれたものではないことからしても、需要者に対し、商品の出所識別標識として強い印象を与えるといえる。これに対し、「MILD」の構成部分は、上記(1)オのとおり、薬剤の分野においては、薬の効果や刺激が弱いことを意味するものとして薬のブランド名等とともに商品名に用いられることが相当程度にある語句であるから、指定商品である薬剤との関係において、自他識別機能は極めて弱いというべきであり、「MILD」の構成部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じるとはいえない。
そうすると、本件商標については、「HIRUDO」の文字のみを抽出し、この部分だけを引用商標と比較して類否を判断することも許されるというべきである。
(イ)したがって、本件商標については、「HIRUDOMILD」の外観及び「ヒルドマイルド」の称呼のほか、「HIRUDO」の外観及び「ヒルド」の称呼が生じるものとして引用商標と比較することが相当である。なお、「HIRUDO」は特定の意味合いを有しない一種の造語と理解され、本件商標からは特定の観念を生じないというべきである。もっとも、上記(1)オからすれば、「HIRUDOMILD」が薬剤に使用された場合には、「薬効又は刺激が弱い「HIRUDO」」という観念が生じ得ると認めるのが相当である。
イ 引用商標について
(ア)引用商標1は、「Hirudoid」の8文字のアルファベットからなるものであり、「ヒルドイド」の称呼を生じる。辞書等に採録された既成語ではなく、特定の意味合いを有しない一種の造語と理解され、特定の観念を生じない。
(イ)引用商標2は、「ヒルドイド」の5文字の片仮名からなるもので、「ヒルドイド」の称呼を生じる。辞書等に採録された既成語ではなく、特定の意味合いを有しない一種の造語と理解され、特定の観念を生じない。
(4)本件商標と引用商標1の類否
本件商標と引用商標1の類否について検討する。
ア 本件商標の指定商品は「薬剤」であり、引用商標1の指定商品は「薬剤(蚊取線香その他の蚊駆除用の薫料・日本薬局方の薬用せっけん・薬用酒を除く。)」を含むものであって、その指定商品は同一又は類似である。
イ(ア)本件商標は、その10文字中、7文字目の「M」、9文字目の「L」を除く「HIRUDO(Hirudo)」「I(i)」「D(d)」の8文字が、引用商標1と大文字と小文字の差はあるものの共通し、その並び順も同じである。
次に、称呼についてみると、本件商標と引用商標1は、「ヒルド」「イ」「ド」の5つの構成音が共通し、その並び順も同じであり、本件商標の方が引用商標1よりも「マ」と「ル」の2音多いものの、印象の強い語頭の3音と語尾の1音が同じである。そして、上記(3)アのとおり、本件商標は、薬剤に使用された場合、「薬効又は刺激が弱いHIRUDO」を連想させるものである。
(イ)本件商標の「HIRUDO」の構成部分と引用商標1を比較すると、大文字と小文字の差はあるものの、その6文字全てが引用商標1の冒頭6文字と共通し、その3つの構成音全てと引用商標1の語頭の3つの構成音が共通する。「HIRUDO」及び引用商標1はいずれも特定の意味を有しない造語であり、それ自体から特定の観念は生じない。
ウ 請求人商品は医療用医薬品であるものの、その需要者は医療関係者に限られるものではなく、その最終需要者は患者である上に、上記(1)イのように、記事やオンラインショップ等で、市販品であるヘパリン類似物質含有製剤について「「ヒルドイド」で知られる医療用保湿剤の成分」を配合している旨の説明がされるほどに「ヒルドイド」が市販品である保湿剤の購入者に知られていたと推認されることからしても、請求人使用商標が表示された請求人商品の需要者には、医師等医療関係者のみならず患者も含まれるというべきである。本件商標の付された商品は存在しないものの、仮に被請求人が主張するように医療用医薬品のみに使用されるものであったとしても上記需要者の認定を左右しない。
その上で、取引の実情について検討するに、上記1(1)ア及びイのとおり、引用商標1を表示した請求人商品が60年以上にわたり販売されていること、請求人が請求人商品について一定の宣伝活動を継続していること、平成29年度には請求人商品が医療用医薬品の年間売上げで19位となるなど非常に高い売上げを有していること、平成26年度から平成30年度までの間のヘパリン類似物質含有製剤又は血液凝固阻止剤の分野における請求人商品の売上占有率は、徐々に減少しているものの全期間を通じて金額にして7割、数量にしても5割を超えていたこと、平成29年頃には、アンチエイジングの効果がある又は肌荒れ・乾燥に効果のある保湿クリームとして女性誌等でも取り上げられ、美容目的で処方を受ける例があることが疑われるなどとして問題視されるまでになっていたこと、請求人が適正な処方をするよう注意喚起した後に、請求人商品と同じヘパリン類似物質を配合した市販品(医薬品又は医薬部外品)が複数販売されるようになり、製造者や販売店が、「ヒルドイドで有名な「ヘパリン類似物質」を配合」などと説明するなどしていたこと及び令和3年2月から同年3月に実施されたアンケートによると乾燥肌等に対する皮膚薬を使用又は1年以内に使用した者の44%が「ヒルドイド」を保湿剤であると認識していたことからすると、平成29年頃までには、需要者の相当割合の者が、「ヒルドイド」という造語及びこれに対応する欧文字の「HIRUDO」から、「ヘパリン類似物質を配合した保湿剤」である請求人商品を想起するものと認められ、長期間をかけて形成されたこの状況は、本件商標の出願日及び本件査定日においても継続していたものと認めるのが相当である。
また、昭和51年から平成11年まで販売されていた「ヒルドシン」を除けば、語頭に「ヒルド」や「HIRUDO(Hirudo)」が付された薬剤は請求人商品のみであったこと、請求人が請求人商品について適正な処方をするよう注意喚起した後に、請求人商品と同じヘパリン類似物質を配合した市販品(医薬品又は医薬部外品)が複数販売されるようになり、そのうち医薬部外品の一つは語頭に「ヒルド」を用いており、一部の購入者が請求人商品の市販品であると誤解して購入するなどしていたこと等に照らすと、本件商標の出願日及び本件査定日時点において、需要者の間では、「ヒルド」やこれに対応する欧文字の「HIRUDO」は、「ヒルドイド」及び「HIRUDOIDO」意味する単語として認識されており、「ヒルド」に対応する欧文字の「Hirudo」は「Hirudoido」を意味するものと認識されていたと認めるのが相当であるから、「HIRUDO」と引用商標1は、いずれも「ヘパリン類似物質を配合した保湿剤であるヒルドイド」を想起させるということができ、観念を共通とするものと認められる。
エ 上記を総合すると、本件商標と引用商標1は、指定商品が同一又は類似で、外観、観念、称呼に共通している部分があり、同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるというほかないから、両商標は類似すると認めるのが相当である。
オ 被請求人の主張について
被請求人は、「薬剤」の分野において、本件商標と同様に、「○○」と「○○マイルド(MILD)」の両方が商標登録されている例が複数ある旨主張し本件商標と引用商標とは類似するものではない旨主張する。
しかしながら、商標の類否判断、外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、かつ、具体的な取引状況に基づいて行うものであり、事案ごとの具体的な事実に基づく判断となるものであって、商標登録例とは商標の具体的構成において異なるものであるから、それらの例をもって、本件商標と引用商標の類否判断が左右されるものではない。
カ 以上のとおり、本件商標は、その商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標である引用商標1と類似するもので、引用商標1の指定商品と同一又は類似する商品を指定商品とするものであるから、引用商標2との類否について判断するまでもなく、商標法第4条第1項第11号に該当する。
2 商標法第4条第1項第15号該当性
商標法第4条第1項第15号は、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第10号から前号までに掲げるものを除く。)」と規定されている。
そして、上記1(3)カのとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものであるから、同項第15号の括弧書きの規定により、同項第15号に該当しない。
3 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであるから、その登録は、同法第46条第1項の規定により、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2020-890024