商標取消審判
2020-300919
サティーヌピエールエルメパリ、サティーヌピエールエルメパリス、サティーヌ、ピエールエルメ、サチネ
- 審判番号
- 2020-300919
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 取消審判(商標取消の審決)
- 出願番号
- 商願2013-030938
- 登録番号
- 5641301
- 請求日
- 2020年12月18日
- 審決日
- 2023年04月10日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【請求人】インナー モンゴリア イリ インダストリアル グループ カンパニー リミテッド
- 【請求人代理人】達野 大輔
- 【請求人代理人】竹中 陽輔
- 【請求人代理人】中山 真理子
- 【請求人代理人】松澤 由香
- 【被請求人】ペアシュ
- 【被請求人代理人】田中 克郎
- 【被請求人代理人】稲葉 良幸
- 【被請求人代理人】佐藤 俊司
- 【被請求人代理人】関川 淳子
- 【被請求人代理人】池田 万美
- 審判長/審判官
- 審判長 大森 友子
- 審判官 小俣 克巳
- 審判官 石塚 利恵
- 分類
- T132 .1 -Z (W29)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第2条第3項第1号、商標法第50条第1項、商標法第2条第3項第8号、商標法第50条第2項、商標法第2条第3項、商標法第50条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の登録第5641301号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
登録第5641301号商標の指定商品中、第29類「ヨーグルト,乳製品」についての商標登録を取り消す。
審判費用は、被請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 本件商標
本件登録第5641301号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成よりなり、平成25年4月24日に登録出願、第29類「ヨーグルト,乳製品,冷凍野菜,冷凍果実,加工野菜及び加工果実,食用油脂」及び第28類に属する商標登録原簿に記載の商品を指定商品として、同26年1月10日に設定登録され、現に有効に存続するものである。
そして、本件審判の請求の登録日は、令和3年1月6日にされたものであり、この登録前3年以内の期間である平成30年(2018年)1月6日から令和3年(2021年)1月5日までを以下「要証期間」という場合がある。
第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、審判請求書及び令和3年4月28日付け審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)に対する同年7月19日付け審判事件弁駁書(以下「弁駁書」という。)において要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第13号証を提出した。
1 請求の趣旨
本件商標は、その指定商品中、第29類「ヨーグルト,乳製品」(以下「請求に係る指定商品」という場合がある。)について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 答弁書に対する弁駁
(1)使用商標1(乙1~乙12)について
ア 使用者の証明
乙第1号証及び乙第2号証は、本件商標権者又は本件商標の専用使用権者であるPH Paris Japon株式会社(以下「PHジャポン社」という。)が、ライセンス事業を展開していることがウェブサイトに記載されているにとどまる。
乙第3号証は、本件商標が、本件商標権者の「チーズケーキ」に係るブランドであることを示すにとどまる。
乙第4号証は、過去に、第三者のメーカーの商標が付されたヨーグルトの包装容器に、本件商標が付されていたこと、そして係るヨーグルトは「2015年11月に生産終了」したことを示すにとどまる。
乙第5号証及び乙第6号証は、要証期間を含む期間の本件商標の専用使用権者が、PHジャポン社であることを示すにとどまる。
乙第7号証では、「ピエール・エルメ・パリ」がPHジャポン社の取引先である全日本空輸株式会社(以下「ANA」という。)と「コラボレーション」した旨が記載されているが、乙第5号証によれば、日本で本件商標を独占的に使用できるのは、専用使用権者であるPHジャポン社のみであるところ、乙第7号証には、PHジャポン社とANAとの関係は何ら立証されていないし、また、ヨーグルトについて使用許諾をした事実に関する記述もない。
乙第8号証には、本件商標権者、ライセンス(使用権)又は「ヨーグルト」に関連する記載は見当たらない。
乙第9号証ないし乙第12号証には、「ピエール・エルメ・パリ」の「ヨーグルト・サティーヌ」とメニューに記載されたデザートが、ANAの国際線の機内食として提供された事実が記載されているにとどまる。
したがって、乙第1号証ないし乙第12号証は、PHジャポン社が、ANAに対し、本件商標の使用を許諾したことを立証するものではなく、また、ANAがヨーグルトについて使用を許諾されたことを立証するものでもない。
また、被請求人は、本件商標と社会通念上同一の商標「ヨーグルト・サティーヌ」(以下「使用商標1」という。)の使用者であるANAが、本件商標の専用使用権者であるPHジャポン社により、「ヨーグルト」について「本件商標」の使用を許諾されたことを立証していない。
イ 「商品」についての使用の証明
乙第7号証及び乙第8号証には、使用商標1は見当たらず、また「ヨーグルト」の記述もなく、商標の使用証拠たり得ない。
乙第12号証には、使用商標1が小さく記載されているのみで、実際に乙第12号証で示すものが、どのように使用されたものか明らかにされていないから、商標の使用証拠たり得ない。
乙第9号証ないし乙第11号証のオンライン記事又はブログに掲載された写真の中には、白い陶器にオレンジ色の物体とソースが添えられた白色のゼリー状のデザートらしきもの(以下「使用商品1」という。)が写っているが、乙各号証には、使用商品1の原材料が全く示されておらず、ヨーグルト、すなわち第29類の請求に係る指定商品の範疇に属するものであるか全く不明である。
さらに、使用商品1は、ANAの飛行機の有料機内食(以下「本件機内食」という。)であって、その提供方法に鑑みれば、取引市場で流通する物、すなわち商標法上の商品ではなく、飛行機内のその場で消費されることを目的として提供されるもの、すなわち飲食物の提供という役務で供される物にすぎないものというべきである。
乙第9号証ないし乙第11号証の写真には、本件機内食のメニュー表(以下「本件機内食メニュー表」という。)が写っており、「デザート」の欄に使用商標1が記載されている。
しかし、本件機内食メニュー表は、飛行機内でのみ乗客に配布されるものであるから「広告」には当たらず、価格が記載されていないため「価格表」にも当たらず、又「取引書類」にも明らかに当たらない。
したがって、本件機内食メニュー表に使用商標1を付して乗客に配布する行為は、「商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、または頒布する行為」(商標法第2条第3項第8号)には該当しない。
むしろ、本件機内食メニュー表は、機内食の提供(飲食物の提供)を行う飛行機の中において、本件機内食を注文した乗客の利用に供するものである。
したがって、使用商標1を本件機内食メニュー表に付す行為は、機内食の提供という「役務」における商標の使用行為であり、「商品」についての商標の使用行為ではないから、本件商標が、ヨーグルトについて使用したことは立証されていない。
よって、被請求人は、本件商標が、ヨーグルトについて使用されたことを立証していない。
ウ 要証期間中の使用の証明
被請求人が提出した証拠の多くは、日付が特定されていないか、又は要証期間外のものであり、これらは本件審判の証拠たり得ない。
乙第1号証ないし乙第3号証のウェブページは、作成された日付が特定されておらず、これらの印刷日付は要証期間外である。
乙第4号証で示す本件商標を付したヨーグルトは、「2015年11月にて生産終了」しているので、要証期間外の使用である。
乙第7号証の記事作成日「2012年5月24日」は、要証期間外である。
乙第12号証が作成された日付は特定できない。
したがって、乙第1号証ないし乙第4号証、乙第7号証及び乙第12号証は、使用商標1の使用を示す証拠となりえない。
(2)使用商標2(乙14、乙15)について
ア 使用者の証明
被請求人は、株式会社ニュー・オータニ(以下「ニュー・オータニ社」という。)が、ヨーグルトについて、本件商標の使用を許諾されたものであると述べるだけで、その事実を裏付ける証拠を一切提出していない。
すなわち、乙第2号証は、1998年に本件商標権者がホテルニューオータニに店舗を構えたことを示すにすぎず、本件商標の専用使用権者であるPHジャポン社が、ニュー・オータニ社に対し、本件商標の使用を許諾したことを立証するものではなく、また、ニュー・オータニ社が、ヨーグルトについて本件商標の使用を許諾されたことを立証するものでもない。
したがって、被請求人は、本件商標と社会通念上同一の商標「ヨーグルト サティーヌ」(以下「使用商標2」という。)の使用者ニュー・オータニ社が、本件商標をヨーグルトについて使用することを許諾された「通常使用権者」であることを立証していない。
イ 「商品」についての使用の証明
乙第14号証で示すホテルニューオータニのウェブサイトには、本件商標又は使用商標2は見当たらない。
乙第15号証は、要証期間外の資料であり、本件審判の証拠たり得ない。
なお、被請求人は、乙第14号証の内容と乙第15号証の内容を照らして、2016年5月頃から2019年1月までの期間、使用商標2がヨーグルトについて使用されていたと主張する。
しかし、要証期間中に、本件商標又は使用商標2が、ヨーグルトについて使用されていたことを示す資料が1つもないため、係る主張には無理がある。
加えて、乙第15号証の個人ブログの12枚目に「「ピエール・エルメ・パリ」のヨーグルト サティーヌ」の記載があるが、それが指す物が明らかにされていない。
乙第15号証に示された、ガラス製と思しき厚い透明の器に入ったオレンジ色と白色の二層からなるデザートらしきもの(以下「使用商品2」という。)が、「ヨーグルト,乳製品」(第29類)に属するものなのか、ヨーグルトを一部に使用したデザート(第30類)に属するものか明らかにされていない。
さらに、レストランのビュッフェ形式で提供される飲食物は、一般的に、そのレストランの中でのみ提供され、その場で、しかも通常は一定時間内に食されて消費されることを目的として提供される飲食物であり、持ち帰りが許されるものではないから、市場において独立して商取引の対象として流通される「商品」には該当しない。
そして、使用商品2が持ち帰り可能な態様で販売されているとの事情もうかがえないから、使用商品2は商標法上の「商品」ではない。
また、当該ブログに掲載された写真に写りこんだディスプレイ(以下「本件ディスプレイ」という。)に表示された文字は、極めて不鮮明で、使用商標2であると判別することができない。
仮に、本件ディスプレイに、使用商標2が表示されていたとしても、本件ディスプレイは、飲食物の提供を行うにあたって、顧客の便宜に供するための飲食物のメニューにすぎないものである。
したがって、本件ディスプレイに使用商標2を付する行為は、飲食物の提供という「役務」に関する商標の使用行為であって、「商品」に関する商標の使用行為(商標法第2条第3項第1号、同項第2号及び同項第8号)には当たらない。
よって、被請求人は、本件商標が、ヨーグルトについて使用されたことを立証していない。
ウ 要証期間中の使用の証明
被請求人が提出する乙第14号証は、ウェブページが作成された日付が特定されていない。
URLというものは、単にウェブページのプログラムの格納場所等を示すものであり、「20190102」の数字が、ウェブページの作成日付を示すとは限らないし、仮にウェブページの作成日付を示すとしても、URLはそのままにしてページの記載内容を更新・変更することは常である。
したがって、乙第14号証で示す記載内容が、2019年1月に作成されたことを示す証拠はない。
また、乙第15号証はタイトルに「2016年5月」と記載されており、要証期間外に作成されたものである。
よって、乙第14号証及び乙第15号証は、使用商標2の使用を示す証拠となりえない。
(3)社会通念上同一の商標の証明
被請求人は、本件商標と使用商標1及び使用商標2(以下「使用商標1」と「使用商標2」をまとめていうときは「使用商標」という。)が互いに社会通念上同一の商標であると主張するにとどまり、本件商標の2段目の検討、商標の称呼、外観、観念の類否、要部抽出の可否等について一切検討をしていない。
したがって、被請求人の主張は立証が不十分であり、下記に詳述するとおり、使用商標は、本件商標とは社会通念上同一の商標とは認められないというのが相当である。
本件商標は、欧文字「Satine」と「PIERRE HERME PARIS」の二段書きで構成されている結合商標であるところ、欧文字「Satine」は、辞書に掲載されていない造語であり、「サチネ」、「サティネ」、「サティーン」、「サティーヌ」の複数の称呼が生じる。
下段の「PIERRE HERME PARIS」も、辞書に掲載されていない造語であり、出所識別標識として機能する語であるから、この部分が単に付記的なものということはできず、「ピエアー ハーメ パリス」、「ピエアー ヘルメ パリス」、「ピエール エルメ パリ」等の複数の称呼が生じ、特定の観念は生じない。
そうすると、本件商標からは、その構成に相応して、複数の異なる称呼(最低でも6つの称呼)が生じるものである。
一方、使用商標は、片仮名で構成される「ヨーグルト・サティーヌ」及び「ヨーグルト サティーヌ」であり、「ヨーグルトサティーヌ」との称呼が生じ、特定の観念は生じない。
なお、被請求人は、使用商標中の「ヨーグルト」は、「商品の内容を表示するものにすぎ」ないと述べているが、被請求人が提出した証拠からは、使用商品1及び使用商品2の原材料が明らかにされておらず、第29類「ヨーグルト」の範疇に属する商品であるか否か不明である。
したがって、使用商標中の「ヨーグルト」が使用商品1又は使用商品2の「内容」を表示するとはいい切れない。
さらに、乙第9号証ないし乙第13号証及び乙第15号証の記事の文中で、「ヨーグルト・サティーヌ」又は「ヨーグルト サティーヌ」と記載されていることから、係る構成全体として一連一体の称呼「ヨーグルトサティーヌ」のみが生じており、商標全体としてのみ認識されていることが明らかである。
そうすると、使用商標の外観及び称呼は、本件商標の外観及び称呼と著しく異なり、観念は比較できないものであるから、使用商標は、本件商標と社会通念上同一の商標とはいい得ない。
(4)個人インターネットブログと証拠力について
被請求人の提出する個人ブログ(乙9~乙11、乙15)は、証拠として本来有するべき重要情報が欠如している。また、個人ブログは、その性質上、第三者の視点から原稿の正確性・真実性などが担保されていない。さらに、個人ブログは、報道倫理などが厳しく求められる「新聞・雑誌」などとは異なり、記事執筆者に正確性・真実性などが強く求められる媒体ではないから、一般論として「誤った情報・不正確な情報」が非常に多いことは広く知られている。
個人ブログも、他の信頼性のある証拠と組み合わされることにより、十分に証拠として機能する場合もあるかもしれない。
しかしながら、本件のように個人ブログのみに依拠して登録商標の使用の立証を行うというのは、「権利の存否」という重要な判断を行う取消審判においては適切とはいえない。これらの証拠は証拠力の欠如したものとして扱うべきである。
3 結語
以上述べたように、被請求人によって提出された証拠によっては、本件商標の使用の事実は何ら証明されていないから、本件商標は取り消されるべきである。
第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、答弁書において、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第22号証を提出した。
1 本件商標権者及び本件商標について
本件商標権者(被請求人)は、世界的に著名なフランスのパティシェ(菓子職人)であるPIERRE HERME(ピエール エルメ)氏(「HERME」の末尾「E」にはアクサンテギュ記号が付されている。以下「エルメ氏」という。)が設立した会社であり、同氏の創作するスイーツ(菓子類)等の商品の取り扱い及び本件商標を含む商標権等のライセンス事業を含めた知的財産権の管理をしている。エルメ氏は、1998年に自らのブランドを「PIERRE HERME PARIS」(ピエール・エルメ・パリ)(「HERME」の末尾「E」にはアクサンテギュ記号が付されている。以下同じ。)としてそのパティスリーショップ第1号店をホテルニューオータニ東京にオープンし、以降、国内において複数のブティックを有している(乙1)。PHジャポン社は、2004年に日本で設立された本件商標権者の子会社であり、日本の企業等との間でPIERRE HERME PARISブランドのライセンス事業等を展開するなどしている(乙2)。
エルメ氏は、これまで「FETISH」(フェティッシュ)と呼ばれる数々のフレーバーを生み出し、様々な形にアレンジして商品化事業を行ってきた(乙3)。これらのFETISHは、固有のブランド性を持ち、2011年からそのライセンスビジネスも展開されている(乙1)。例えば、2015年には、オハヨー乳業株式会社とのコラボレーション商品として上記FETISHを用いたヨーグルトシリーズが販売され、そのうち「Satine」を用いたものは「PIERRE HERME ヨーグルト Satine」(ピエール・エルメ ヨーグルト サティーヌ)(「HERME」の末尾「E」にはアクサンテギュ記号が付されている。)との商品名で販売されていた(乙4)。
本件商標は、そのような商品化事業の一環として2013年4月に登録出願されたものであり、2017年11月には、本件商標権者からPHジャポン社に対し、本件商標の専用使用権が設定された(乙5、乙6)。
2 通常使用権による本件商標の使用
PHジャポン社の取引先である日本の企業は、本件商標の通常使用権者として、日本国内において「ヨーグルト」について要証期間内に使用している。
(1)ANAの有料機内食のメニュー表での使用
2012年に、PIERRE HERME PARISとANAとのコラボレーションが成立し(乙7)、以降、現在に至るまでPIERRE HERME PARISが手掛けるデザート等がANAの機内食として継続的に提供されている。
2019年4月以降、ANAの日本発便のプレミアムエコノミー/エコノミークラスでの有料機内食(本件機内食)メニューが新設され(乙8)、少なくとも2019年10月から同年11月までの期間、PIERRE HERME PARISが監修したヨーグルト(使用商品1)が本件機内食のデザートとして提供され、本件機内食に付随して提供される本件機内食メニュー表の下部には、「PIERRE HERME/PARIS」と欧文字で二段書きした文字とともに、その右下に「ヨーグルト・サティーヌ」との文字(使用商標1)が記載されていた(乙9)。係る使用商標1の本件機内食メニュー表における使用の事実は、本件機内食の提供を受けた個人が投稿するブログ記事(乙10、乙11)からも明らかであるし、また、本件機内食メニュー表とは別に2019年にANAが提供していたメニュー表(乙12)とも整合する。
使用商品1は、「ヨーグルト」であることは本件機内食メニュー表からも明らかである。また、使用商品1は、本件機内食として提供される商品としてPIERRE HERME PARISが監修した商品であるから、ANAは、使用商品1を機内で提供することに伴い、そのメニュー表に本件商標を付すことをPHジャポン社から許諾された者であり、本件商標の通常使用権者にあたる者である。
以上より、本件商標の通常使用権者であるANAは、少なくとも2019年10月から同年11月までの期間、本件機内食として継続して本件使用商品1を提供し、本件機内食メニュー表に使用商標1を表示することにより、少なくとも「商品・・・に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布」(商標法第2条第3項第8号)していた。
なお、本件機内食メニュー表は、日本発便の有料機内食を注文した乗客に対して配布されるものであるため、本件機内食メニュー表での使用商標1の使用は日本の需要者に向けた使用であり、「日本国内」(商標法第50条第1項)における使用であることは明らかである。また、本件において、乗客が機内で有料にて提供を受ける使用商品1は当然に「商品」に該当するものであり、使用商標1は「商品」について使用されたものである。
(2)ホテルニューオータニのビュッフェでの商品説明表での使用
前述のとおり、PIERRE HERME PARISは、1998年以降、現在に至るまでホテルニューオータニ東京内にブティックを構えており、ホテルニューオータニ東京を運営するニュー・オータニ社と取引関係がある(乙2)。そして、同ホテル館内で運営されるレストラン「SATSUKI」(以下「本件レストラン」という。)において、2016年4月末にリニューアルして提供を開始した朝食ビュッフェ(乙14、乙15)でも、PIERRE HERME PARISのヨーグルトが提供されている。同朝食ビュッフェに、そのリニューアルオープン直後に訪問した者が投稿するブログ記事(乙15)から明らかなとおり、2016年5月頃以降、本件レストランでPIERRE HERME PARISのヨーグルト(使用商品2)が提供されており、使用商品2が陳列されるすぐ後ろには、「PIERRE HERME/PARIS」と欧文字で二段書きした文字とともに、その下に「ヨーグルト サティーヌ」との文字(使用商標2)と、さらに下に商品説明が表示されたアクリル製のディスプレイ(本件ディスプレイ)が置かれている。
なお、使用商品2は、本件レストランの朝食ビュッフェにおいて少なくとも2016年5月頃から2019年1月までの期間(乙14)、継続して提供されていた。
使用商品2は、「ヨーグルト」であることは本件ディスプレイからも明らかである。
また、使用商品2は、本件レストランの朝食ビュッフェで提供される商品としてPIERRE HERME PARISが提供する商品であるから、ニュー・オータニ社は、使用商品2を本件レストランの朝食ビュッフェで提供することに伴い、利用客が料理を選択する際に参考にする商品説明表に本件商標を付すことをPHジャポン社から許諾された者であり、本件商標の通常使用権にあたる者である。
以上より、本件商標の通常使用権者であるニュー・オータニ社は、少なくとも2016年5月頃から2019年1月までの期間、本件レストランにおいて継続して使用商品2を提供し、その商品説明表である本件ディスプレイに使用商標2を表示することにより、「商品の包装に標章を付」し、「商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示」し、あるいは「商品・・・に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示」(商標法第2条第3項第1号、同項第2号及び同項第8号)していた。
(3)使用商標が本件商標と社会通念上同一の商標であること
使用商標1は「ヨーグルト・サティーヌ」の片仮名を横書きにしてなるものであり、使用商標2は「ヨーグルト サティーヌ」の片仮名を横書きにしてなるものであるところ、このうち使用商標1は、「ヨーグルト」と「サティーヌ」とが「・」により明確に区切られており、また、使用商標2も「ヨーグルト」と「サティーヌ」との間にスペースが設けられている。
そして、前半の「ヨーグルト」部分は商品の内容を表示するものにすぎず、後半の「サティーヌ」部分こそが出所表示機能を有するものである。
そうすると、当該「サティーヌ」部分は、本件商標の構成中、その大部分を占め、看者に強く支配的な印象を与える上段の「Satine」との欧文字を片仮名表記にしたものであり、「Satine」と「サティーヌ」とは、同一の称呼を生じるものであるから、使用商標が本件商標と社会通念上同一の商標であり、そのことは、審決例及び裁判例に鑑みても明らかである(乙16~乙22)。
(4)小括
以上より、本件商標の通常使用権者であるANAは、要証期間にあたる少なくとも2019年10月から同年11月までの期間、日本発便の有料機内食(本件機内食)として継続して使用商品1を提供し、本件機内食メニュー表に本件商標と社会通念上同一の商標である使用商標1を使用していたことは明らかである。
また、同様に、通常使用権者であるニュー・オータニ社は、要証期間にあたる少なくとも2016年5月頃から2019年1月までの期間、本件レストランにおいて継続して使用商品2を提供し、その商品説明表である本件ディスプレイに本件商標と社会通念上同一の商標である使用商標2を使用していたことは明らかである。
3 結語
以上より、本件商標は、要証期間内に、本件商標の通常使用権者によって、請求に係る指定商品中の「ヨーグルト」について使用されているから、本件審判の請求は成り立たない。
第4 被請求人に対する審尋及び被請求人による審尋の回答
1 審尋の要旨
審判長は、被請求人に対し、令和4年2月1日付けで、被請求人による主張及び提出された証拠によっては、被請求人が商標法第50条第2項に規定する本件商標の使用をしている事実を証明をしたものと認めることはできない旨の合議体による暫定的見解を示したうえで、請求人提出の弁駁書の主張及び合議体による暫定的見解に対し、意見があれば証拠とともに提出するよう、相当の期間を指定して回答を求めた。
2 被請求人の回答
上記1の審尋に対して、被請求人は、何ら応答していない。
第5 当審の判断
1 被請求人の主張及び同人の提出に係る証拠によれば、以下のとおり判断できる。
(1)使用者
被請求人は、本件機内食として提供されるデザート(ヨーグルト)は、「PIERRE HERME PARIS」が監修したものであるから、ANAは、ヨーグルトを機内で提供することに伴い、本件機内食メニュー表(乙9~乙11)に本件商標を付すことを、本件商標の専用使用権者であるPHジャポン社から許諾された者であり、本件商標の通常使用権者である旨主張している。
また、被請求人は、ニューオータニ社が運営する本件レストランにおいて提供する朝食ビュッフェで提供されるヨーグルトは、「PIERRE HERME PARIS」が提供する商品であるから、ニュー・オータニ社は、ヨーグルトを朝食ビュッフェで提供することに伴い、その商品説明書(乙15)に本件商標を付すことをPHジャポン社から許諾された者であり、本件商標の通常使用権者である旨主張している。
しかしながら、上記主張及び提出された証拠によれば、PHジャポン社とANA及びニュー・オータニ社との間に取引があるとしても、これらの者の間における本件商標の使用許諾契約の存在を確認することができないから、ANA及びニュー・オータニ社は、PHジャポン社の取引先の一つにすぎないとするのが相当であり、本件商標についての通常使用権者であると認められない。
(2)本件商標と使用商標1との社会通念上同一について
ア 本件商標
本件商標は、別掲1のとおり、上段に大きく表された「Satine」の欧文字と上段に比して小さく表された「PIERRE HERME PARIS」(「HERME」の末尾「E」にはアクサンテギュ記号が付されている。)の欧文字を上下2段に書してなるものである。
イ 使用商標1
ANA国際線の有料機内食に関するウェブサイト記事に掲載されている本件機内食メニュー表(乙9:別掲2)及びブログ記事に掲載されている本件機内食メニュー表(乙10、乙11:別掲3)には、「PIERRE HERME」の文字と「PARIS」の文字が2段に表示され、その右下に「デザート」の文字と「ヨーグルト・サティーヌ」の文字(使用商標1)が2段に表示されている。
しかしながら、「PIERRE HERME」の文字及び「PARIS」の文字と使用商標1は、「デザート」の文字を介して左上と右下に表示されていることから、視覚上分離して看取されるものであって、使用商標1の構成中に「PIERRE HERME PARIS」の欧文字を含んでいるものとは認められない。
ウ 本件商標と使用商標1との社会通念上同一について
本件商標は、上記アのとおりの構成よりなり、使用商標1は、上記イのとおりの構成よりなるところ、本件商標の構成中の「Satine」の片仮名表記が「サティーヌ」であるとしても、両者は、「PIERRE HERME PARIS」及び「ヨーグルト」の文字の有無の差異を有しており、その構成態様は異にするものである。
そうすると、本件商標と使用商標1は、社会通念上同一の商標とは認められない。
(3)使用商品、使用時期及び使用行為について
ANAの提供に係る機内食メニュー表(乙12)には、飲食物の提供時期とおぼしき「9月 September」、「10月 October」及び「11月 November」の表示はあるが、提供した年を特定することができない。
そして、当該本件機内食メニュー表に記載された「ヨーグルト」は、飛行機内の座席で食される料理の一つとして乗客に提供されるものであることからすれば、商品として販売されるものではなく、飲食物の提供において供される物といえるものであり、請求に係る指定商品ということはできない。
そうすると、本件機内食メニュー表に使用商標1を付す行為は商品の使用(商標法第2条第3項第1号、同項第2号及び同項第8号)には該当しない。
(4)その他(乙第15号証)
乙第15号証は、作成者不明の2016年(平成28年)5月18日付けブログ記事に掲載されている本件レストランの朝食ビュッフェにおける商品説明表(以下「商品説明表」という。:別掲4)であるところ、商品説明表には、「ヨーグルト サティーヌ」の文字(使用商標2)が表示されていることはうかがえるが、「PIERRE HERME PARIS」の文字は確認できないから、上記(2)と同様に、本件商標と使用商標2とは、社会通念上同一の商標とは認められない。
また、上記ブログ記事は、その日付より要証期間内に公開されたものとも認められない。
さらに、商品説明表にあるデザートは、ビュッフェ料理としてビュッフェ会場において食されるデザートであるといえることからすれば、商品として販売されるものではなく、飲食物の提供において供される物であり、請求に係る指定商品ということはできない。
そうすると、商品説明表に使用商標2を付する行為は、商品の使用行為(商標法第2条第3項第1号、同項第2号及び同項第8号)には該当しない。
2 まとめ
以上のとおり、被請求人は、本件取消審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが、その請求に係る指定商品について、本件商標(社会通念上同一の商標を含む。)を商標法第2条第3項各号に掲げる使用をしていた事実を証明したものとは認められない。
また、被請求人は、本件審判の請求に係る指定商品について、本件商標の使用をしていないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により指定商品中、第29類「ヨーグルト,乳製品」についての登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2020-300919