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特許拒絶査定不服審判

2020-017866

密封装置

審判番号
2020-017866
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2016-204827外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2020年12月28日
審決日
2021年12月13日
公報発行日
2022年01月28日
結論
原査定取消(特許/登録すべき)
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WY (F16J) / P18 .537-WY (F16J)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2016-204827「密封装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 4月26日出願公開、特開2018- 66428、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。

理由

目次 ▾ 12項目
理 由

第1 手続の経緯

本願は、平成28年10月19日の出願であって、令和2年7月30日付けで拒絶理由通知がされ、令和2年9月16日に意見書及び手続補正書が提出され、令和2年10月6日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、令和2年12月28日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、令和3年9月29日付けで拒絶理由通知がされ、令和3年10月19日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、令和3年10月19日提出の手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
スプラインを有する回転軸と、前記回転軸の中心軸周りに相対回転可能に対向される静止部材との間に設けられ、外部環境に対して内部環境を密封するための密封装置であって、
前記静止部材に対して固定される固定部と、
前記固定部から一体に設けられ、前記回転軸に押圧されて摺接するシール部とを有し、
続きを表示(全14行)
前記シール部には、
前記内部環境寄りに設けられ、少なくとも前記回転軸のスプラインの凸部外径よりも小径のリップ先端を有する第一シールリップと、
前記外部環境寄りに設けられた第二シールリップと、
前記第一シールリップの先端と前記第二シールリップの先端とを結ぶ仮想線及び前記第一シールリップの先端と前記第二シールリップの先端とにわたって凹状に窪ませた第一傾斜面で囲まれた第一凹領域とを有し、
さらに、前記第一シールリップの先端よりも内部環境寄りに、前記第一シールリップの先端から連続して設けられた第二傾斜面と、
前記第二シールリップの先端よりも外部環境寄りに、第二シールリップの先端から連続して設けられた第三傾斜面と、を含み、
前記第二傾斜面には第一シールリップの先端近傍に凹状に窪ませた第二凹領域を有し、
前記第一凹領域及び前記第二凹領域には潤滑剤が充填され、
前記第二傾斜面及び前記第三傾斜面に潤滑剤が被着され、
前記第二傾斜面及び前記第三傾斜面に被着される潤滑剤の厚みは、前記第一凹領域に充填される潤滑剤の厚みよりも薄いことを特徴とする密封装置。」

なお、本願発明2の概要は本願発明1を減縮した発明である。

第3 引用文献、引用発明等

1 引用文献1について

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2010-48284号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0003】
図1に示すように転がり軸受11を介してケーシング10に支持された回転軸15を、上述したような従来技術のオイルシール1によりシールする場合には、回転軸15をその先端側からシール部5内に挿入して、オイルシール1の外周部3をケーシング10の取付孔10cに装着する。シール部5のリップエッジ5aには回転軸15の外周面との間でシールするために締め代hが与えられているので、図1に示すように回転軸15の先端側にスプライン16が形成されている場合には、リップエッジ5aはこの挿入の際に締め代hの分だけスプライン16の外周に弾性的に押し付けられて摺動されるので、スプライン16の山部の角により傷つけられるおそれが大きい。シールのためにリップエッジ5aが接触する部分は、スプライン16から根本側に外れた回転軸15の円筒状の外周面15aであるが、リップエッジ5aが一旦傷つけられるとリップエッジ5aと外周面15aの間の接触部分から油漏れが生じるという問題が生じる。本発明はこのような問題を解決することを目的とする。」
「【発明の効果】
【0009】
本発明によるオイルシールは、先端側にスプラインなどが形成されこのスプラインなどの根本部から軸線方向に滑らかな円筒状の外周面をおいて外周に逃げ部が形成された回転軸と組み合わせて使用するものである。請求項1の発明によれば、シール本体にはシール部のリップエッジよりも先となる先端部から同軸的にフランジ部と反対側に延びる筒状の保護リップを一体的に形成し、保護リップは、シール部の先端部に連結されてシール部から離れるにつれて次第に径が減少する縮径部と、この縮径部に続いてシール部から離れるにつれて次第に径が増大する円錐状の内面を有する先端部よりなり、保護リップの内面の縮径部と先端部の境界部となる最小径部の径はリップエッジの径よりも小としたので、オイルシールを装着するために回転軸をシール部内に挿入すると、柔軟弾性材料よりなる保護リップの先端部の円錐状の内面が先ず回転軸のスプラインなどの先端部に当接して、保護リップの内面の縮径部と先端部の境界部となる最小径部の径がスプラインの山径となるまで拡開されて、スプラインが最小径部内に挿入される。縮径部のこの拡開により保護リップと一体形成されたシール部のリップエッジも拡開されて、回転軸の外周との間の締め代が減少し、あるいは回転軸の外周との間に隙間が生じるので、回転軸を挿入する際に、リップエッジがスプラインの山部などの回転軸の外周の突出部との摺動により傷つけられるおそれは減少し、あるいは全くなくなる。従って回転軸の外周とリップエッジの接触部分から油漏れが生じるおそれは減少し、あるいは全くなくなる。外周部が取付孔内に嵌合されてオイルシールがケーシングに装着された状態では、最小径部は逃げ部内に入って回転軸と接触しなくなり、リップエッジはスプラインの根本部と逃げ部の間となる回転軸の滑らかな外周面に締め代が与えられて当接されて、オイルシールの両側の空間の間はシールされる。」
「【0014】
以下に、図1及び図2により、本発明によるオイルシールの最良の形態の説明をする。この実施形態のオイルシールは、柔軟弾性材料により外周部22とフランジ部23とシール部24とダストリップ25と保護リップ26を一体的に形成したシール本体21と、補強のために外周部22とフランジ部23の内部に埋設固着された金属環27と、シール部24の外周に装着されたガータスプリング28により構成されている。
【0015】
図1及び図2に示すように、シール本体21は外径に比して短い円筒状の外周部22と、この外周部22の一側縁から内方に延びるフランジ部23と、このフランジ部23の内縁から外周部22と同軸的に軸線方向に延びる筒状のシール部24と、シール部24に続く保護リップ26を、略コ字形となるようにニトリルゴムなどの弾性ゴム(柔軟弾性材料)により一体的に形成したものである。シール部24はフランジ部23の内縁に一端が連結されて軸線方向に延びる筒状で、その内周にはフランジ部23から軸線方向に離れた位置に、リップエッジ24aが内方に突出して一体的に形成されている。シール部24には軸線方向においてリップエッジ24a付近となる外周に環状溝24bが形成され、この環状溝24bにはリップエッジ24aによる後述する回転軸15の外周に対する締め付け力を安定させるためのガータスプリング28が装着されている。フランジ部23とシール部24の境界部付近からは半径方向内方に斜め外向きに突出するダストリップ25が一体形成され、外周部22とフランジ部23内には補強のためのL形断面形状の金属環27が一体的に埋設固着されている。
続きを表示(全16行)
【0016】
シール部24には、リップエッジ24aよりも先となる先端部から同軸的にフランジ部23と反対側に延びる筒状の保護リップ26が一体的に形成されている。この保護リップ26は、シール部24の先端部に一体的に連結されてシール部24から離れるにつれて次第に径が減少する縮径部26aと、この縮径部26aに続いてシール部24から離れるにつれて次第に径が増大する円錐状の内面26dを有する先端部26bよりなり、保護リップ26の内面の縮径部26aと先端部26bの境界部には最小径部26cが形成される。この保護リップ26が本発明によるオイルシールの特徴部分を構成している。
【0017】
上述した構造のオイルシール20のシール部24のリップエッジ24aの径は、外力が加わっていない自由状態では、後述する回転軸15の外周(図2に符号15Aで示す)よりも半径において距離eだけ小さくなっている。またこの自由状態では、保護リップ26の内周面の縮径部26aと先端部26bの境界部となる最小径部26cの径は、半径において距離eよりも相当大きい距離fだけ、回転軸15の外周よりも小さくなっている。保護リップ26とシール部24は柔軟弾性材料により一体形成されているので、保護リップ26の最小径部26cの径を弾性的に拡開すればそれにつれてシール部24及び保護リップ26の各部も変形し、ガータスプリング28もともに変形する。この実施形態では、自由状態における保護リップ26の最小径部26cの径は、その径を回転軸15の外周の径となるまで拡開した場合に、シール部24のリップエッジ24aの径が回転軸15の外周の径よりも半径でわずかな距離gだけ大となるように設定する。
【0018】
上述したオイルシール20が装着されるケーシング10には、図1に示すように、壁部10aに形成したボス部10b内に嵌合した軸受11を介して回転軸15が支持され、この回転軸15はボス部10bに同軸的に形成した取付孔10cを貫通して外部に延び、その先端部には部品を取り付けるためのスプライン16とその谷径よりも細い締付ねじ18が形成されている。オイルシール20は、ボス部10bに形成した取付孔10cに外周部22が嵌合されて取り付けられる。回転軸15の外周には、スプライン16の根本部から、軸線方向にスプライン16の山径とほゞ同径で滑らかな円筒状の外周面15aをおいて、オイルシール20の保護リップ26の最小径部26cよりも小径となる逃げ溝(逃げ部)17が形成されている。
【0019】
次に上述したような回転軸15が支持されたケーシング10に、前述したオイルシール20を装着する手順を、図1により説明をする。先ず回転軸15と同軸的にオイルシール20を保持してスプライン16の先端側から回転軸15に接近させる。二点鎖線20Aに示すように、回転軸15の最先端の締付ねじ18だけが保護リップ26の最小径部26cに挿入された状態では、オイルシール20の何れの部分も回転軸15と接触されず、保護リップ26の最小径部26cの径は自由状態のままで、半径において距離fだけ回転軸15の外周よりも小さくなっている。矢印aに示すようにオイルシール20をケーシング10に向けて押し進めれば、保護リップ26の先端部26bの円錐状の内面26dがスプライン16の先端の面取り部15bに当接して保護リップ26の最小径部26cの径は押し広げられ、回転軸15のスプライン16の山径(スプライン16の根本部から逃げ溝17の間の滑らかな円筒状の外周面15aの径とほゞ同じ)まで弾性的に拡開され、最小径部26c内にスプライン16が押し込まれて二点鎖線20Bに示す状態となる。この状態ではシール部24も保護リップ26とともに弾性変形され、そのリップエッジ24aの径は拡開されてスプライン16の山径よりも大となり、スプライン16の山部との間に隙間gが生じるので、シール部24内に回転軸15を挿入する際にリップエッジ24aがスプライン16の山部により傷つけられるおそれはない。
【0020】
この状態から矢印bに示すようにオイルシール20をケーシング10に向けてさらに押し進めれば、外周部22がケーシング10の取付孔10cに嵌合されるとともに、リップエッジ24aはスプライン16の根本部を通り過ぎて滑らかな円筒状の外周面15aの範囲に入り、さらに進んで外周部22が取付孔10cの最奥部まで嵌合されて停止される。この状態では図1の実線で示すように、保護リップ26の最小径部26cは逃げ溝17内に入って回転軸15と接触しなくなって、シール部24は図1の二点鎖線20Aで示す状態に戻るので、リップエッジ24aは回転軸15の滑らかな円筒状の外周面15aに締め代eが与えられて当接されて、オイルシール20の両側の空間の間はシールされる。
【0021】
このように上述した実施形態によれば、回転軸15をシール部24に挿入してオイルシール20をケーシング10に装着する際にリップエッジ24aがスプライン16の山部により傷つけられるおそれはなく、また装着が完了した状態ではリップエッジ24aは回転軸15の滑らかな円筒状の外周面15aに締め代eが与えられて当接されるので、回転軸15の外周とリップエッジ24aの接触部分から油漏れが生じるおそれはなくなる。」
「【図1】
[図:0001380661000001.jpg]
」

図1の記載内容から、シール本体21は、少なくとも回転軸15のスプライン16の山径よりも小径のリップエッジ24aを有するシール部24が軸受11側に設けられ、ダストリップ25が軸受11と反対側に設けられ、保護リップ26がシール部24よりも軸受11側に設けられていることが看てとれる。また、同様にシール本体21は、シール部24のリップエッジ24aとダストリップ25の先端とを結ぶ仮想線及び前記シール部24のリップエッジ24aと前記ダストリップ25の先端とにわたって凹状に窪ませた第1の傾斜面で囲まれた凹領域を有すること、さらに、前記シール部24のリップエッジ24aよりも軸受11側に、前記シール部24のリップエッジ24aから連続して設けられた第2の傾斜面と、前記ダストリップ25の先端よりも軸受11と反対側に、ダストリップ25の先端から連続して設けられた第3の傾斜面と、を含むことが看てとれる。

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「スプライン16が形成された回転軸15と、前記回転軸15を軸受11を介して支持するケーシング10とに装着され、その両側の空間の間をシールするためのオイルシール20であって、
前記ケーシング10の取付孔10cに嵌合される外周部22と、
前記外周部22と一体的に形成され、前記回転軸15に締め代eが与えられて当接するシール本体21とを有し、
前記シール本体21には、
続きを表示(全13行)
軸受11側に設けられ、少なくとも前記回転軸15のスプライン16の山径よりも小径のリップエッジ24aを有するシール部24と、
軸受11と反対側に設けられたダストリップ25と、
シール部24よりも軸受11側に設けられ、自由状態における保護リップ26の最小径部26cの径を回転軸15の外周の径となるまで拡開した場合に、シール部24のリップエッジ24aの径が回転軸15の外周の径よりも半径でわずかな距離gだけ大となるように設定した、保護リップ26と、
前記シール部24のリップエッジ24aと前記ダストリップ25の先端とを結ぶ仮想線及び前記シール部24のリップエッジ24aと前記ダストリップ25の先端とにわたって凹状に窪ませた第1の傾斜面で囲まれた凹領域とを有し、
さらに、前記シール部24のリップエッジ24aよりも軸受11側に、前記シール部24のリップエッジ24aから連続して設けられた第2の傾斜面と、
前記ダストリップ25の先端よりも軸受11と反対側に、ダストリップ25の先端から連続して設けられた第3の傾斜面と、を含み、
回転軸15の外周には、スプライン16の根本部から、軸線方向にスプライン16の山径とほゞ同径で滑らかな円筒状の外周面15aをおいて、保護リップ26の最小径部26cよりも小径となる逃げ溝(逃げ部)17が形成され、
回転軸15が支持されたケーシング10にオイルシール20を装着する手順が、保護リップ26の最小径部26c内にスプライン16が押し込まれ、シール部24も保護リップ26とともに弾性変形され、そのリップエッジ24aの径は拡開されてスプライン16の山径よりも大となり、スプライン16の山部との間に隙間gが生じ、シール部24内に回転軸15を挿入する際にリップエッジ24aがスプライン16の山部により傷つけられるおそれがない状態から、外周部22が取付孔10cの最奥部まで嵌合されて停止され、保護リップ26の最小径部26cが逃げ溝17内に入って回転軸15と接触しなくなって、リップエッジ24aが回転軸15の滑らかな円筒状の外周面15aに締め代eが与えられて当接されて、オイルシール20の両側の空間の間がシールされる状態となる、
オイルシール20。」

2 引用文献2について

また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2001-99326号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0008】したがって、本発明が解決しようとする共通の課題は、径方向内外に配設されている2つの部材が対向する空間に配備されてその空間を2つの空間に仕切るシールにおいて、一方の空間が密封対象空間となって真空空間という特殊な環境下でのさらなる密封性向上を図ることである。」

「【0017】回転軸1とハウジング2とが対向する環状空間Aに実施の形態のシール3が配備されて当該環状空間Aを低圧空間例えば真空空間Bとこれより圧力が高い高圧空間例えば大気圧空間Cとに仕切るようになっている。」

「【0022】第2シール部5においてその弾性体9の回転軸1側端部つまり内周部分は、主リップ10から離隔しかつこれよりも密封対象空間B側に位置して設けられ密封対象空間B側に向けて上半分断面形状が漸次縮径するテーパ形状を有した補助リップ11とされる。」

「【0024】主リップ10と補助リップ11と回転軸1とで囲まれる空間にオイルまたはグリース等の潤滑剤13が充填されている。」

「【0029】(1)、上記実施の形態の潤滑剤13は、オイルとかグリース等のように基本的に流動状または液状の潤滑剤のようにそれ自体は基本的にほとんど保形性の無い潤滑剤であったが、このような潤滑剤に限定されるものではなく、高密度ポリエチレンポリプロピレン等の樹脂に、鉱油、ポリ-α-オレフィン油等の潤滑油あるいはこれら潤滑油に増ちょう剤を添加したグリースを混合し、所要箇所に充填後樹脂の融点以上に加熱し、ついで冷却して固形化した、いわゆるポリマー潤滑剤であってもよい。
【0030】固形潤滑剤は、所期の形状の保持がある程度可能であるために、液状のオイルとかグリースのような潤滑剤と比較してシール3の主リップ10と補助リップ11との間の空間の形状に合わせてその空間内に密に充填することが容易であるとともに、これに加えて、主リップ10と補助リップ11とが回転軸1との摺接で形状を変えてもその形状の変化に比較的容易に追随できるので、図1で示されるシール3に対しては特に効果があるが、従来のシールに対しても主リップ10と補助リップ11との間に優れた保持強度で保持できる。」
「【0041】
【発明の効果】本発明のシールは、回転部材に対して接触させられる主リップと補助リップとの間に潤滑剤が保持される構造であるので、環状空間を密封対象空間と大気圧空間という圧力差が大きく異なる2つの空間を仕切る仕切り壁が、両リップに加えてその潤滑剤も加わって分厚い構造となるので、密封対象空間が真空空間であっても十分なる密封性の確保が可能となる。」

したがって、引用文献2には、シール3すなわち密封装置において、主リップ10と補助リップ11の両リップの間の空間に潤滑剤を充填することという技術的事項が記載されていると認められる。

3 引用文献3について

また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2016-156418号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされており、その目的は、摺接部における回転軸に押圧されて摺接する領域以外の領域に、潤滑剤を溜める窪み領域を設け、摺接部と回転軸との間の良好な潤滑が維持されることにより、低トルク(摩擦力の低減)で耐久性に優れた密封装置を提供することにある。」
「【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、摺接部における回転軸に押圧されて摺接する領域以外の領域に、潤滑剤を溜める窪み領域を設け、摺接部と回転軸との間の良好な潤滑が維持されることにより、低トルク(摩擦力の低減)で耐久性に優れた密封装置を実現することができる。」
「【0018】
ところで、本実施形態の密封装置1は、図1(a)、(b)に示すように、摺接部(オイルシール)2には、回転軸3に押圧されて摺接する領域以外の領域に潤滑剤を溜める窪み領域9が設けられている。そして、その窪み領域9は、摺接部(オイルシール)2の回転軸3に押圧された領域の近傍から潤滑剤封入環境寄りに向かって、回転軸3に摺接する近傍で断面が半円形状に窪ませて環状に構成されている。
【0019】
図面では一例として、オイルシールリップ7の斜面には、リップ先端7tから潤滑剤封入環境寄りに向かって、回転軸3に摺接する近傍で他の斜面部位7a、7bよりも断面が半円形状に窪ませた窪み領域(オイル溜り部)9が構成されている。当該窪み領域(オイル溜り部)9は、オイルシールリップ7の斜面7bが回転軸3に対向して延在する円環状の周面3sと摺接する位置の近傍にあって、環状に設けられている。なお、窪み領域(オイル溜り部)9は、全周に亘って連続していても良いし、複数に分割されていても、本発明の実施範囲内である。
続きを表示(全17行)
【0020】
このように窪み領域(オイル溜り部)9を、摺接部(オイルシール)2の回転軸3に押圧されて摺接する領域以外の領域に環状にわたって設けることにより、回転軸3の回転時、遠心力によって、摺接部(オイルシール)2から潤滑剤が逃げようとしても、窪み領域(オイル溜り部)9に溜まった潤滑剤が壁となって、ブロックするように作用する。その結果、摺接部(オイルシール)2と回転軸3との間の良好な潤滑が維持されることにより、低トルク(摩擦力の低減)で耐久性に優れた密封装置を実現することができる。
【0021】
仮に、窪み領域(オイル溜り部)9が従来技術のように凹部の穴状で点在して、本願発明のように環状に窪み領域(オイル溜り部)9がない場合には、穴状間に隙間があるため凹部の穴領域に溜まった潤滑剤がブロックするように作用することはなく、回転軸3の回転時、遠心力によって、摺接部(オイルシール)2から潤滑剤が逃げてしまう虞がある。
また、潤滑剤が逃げてしまわないように、ガータースプリング5の緊迫力を強めにすると、摩擦抵抗が増えて低トルク化に反することになってしまう。
【0022】
また、図1(c)に示すように、他の実施形態としての窪み領域(オイル溜り部)10は、回転軸3に押圧されて接触する領域7bには、第一の窪み領域(オイル溜り部)10aから連通する第二の窪み領域10bが形成され、第二の窪み領域10bは、第一の窪み領域(オイル溜り部)10aから離れるにしたがって浅くなるように形成されている。
具体的には、窪み領域(オイル溜り部)10は、摺接部(オイルシール)2の斜面に、オイルシールリップ7のリップ先端7tから潤滑剤封入環境寄りに向かって、回転軸3に摺接する近傍で他の斜面部位よりも窪ませる第一の窪み領域(オイル溜り部)10aに、さらに、オイルシールリップ7の先端部7tの方向に第二の窪み領域(オイル溜り部)10bを複数構成し、第一の窪み領域(オイル溜り部)10aと第二の窪み領域(オイル溜り部)10bと連通させ窪み領域(オイル溜り部)10aから離れるにしたがって浅くなるように形成されている。
【0023】
第二の窪み領域(オイル溜り部)10bは、オイルシールリップ7の斜面7bが回転軸3に対向して延在する円環状の周面3sと摺接する位置にあって、オイルシールリップ7の斜面7bの中間部分まで溝状が次第に浅くなるように円錐形状断面で複数独立して設けられている。この場合、第二の窪み領域(オイル溜り部)10bは、上記したオイルシールリップ7の斜面7bの周面3sにさらに潤滑剤を介在させることができ、その結果、オイルシールリップ7と回転軸3との間の良好な潤滑が維持されることになり、低トルク(摩擦力の低減)で耐久性に優れた密封装置1を実現することができる。
【0024】
ここで、窪み領域(オイル溜り部)9及び10の形状は、半円形状としているが、四角形、台形、半楕円形等であっても良く、いずれの形状であっても本発明の範囲内である。
以上、本実施形態によれば、密封装置の本来の効果として、密封装置の摺接部(オイルシール)2に窪み領域(オイル溜り部)9及び10を設けたことで、回転軸3との潤滑性を維持させ、回転軸3との摩擦力を低減(低トルク化)させることができる。」

したがって、引用文献3には、密封装置1すなわち密封装置において、斜面部位7a、7bに窪み領域9、10(本願発明1の「第二凹領域」に相当するといえる。)を形成して潤滑剤を充填することという技術的事項が記載されていると認められる。

第4 対比・判断

1 本願発明1について

(1) 対比

本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明の「スプライン16」及び「回転軸15」は、それぞれ本願発明1の「スプライン」及び「回転軸」に相当する。そして、引用発明の「スプライン16が形成された回転軸15」は本願発明1の「スプラインを有する回転軸」に相当する。

引用発明の「ケーシング10」、「シールする」及び「オイルシール20」は、それぞれ本願発明1の「静止部材」、「密封する」及び「密封装置」に相当する。そして、引用発明の「回転軸15と、前記回転軸15を軸受11を介して支持するケーシング10とに装着され、その両側の空間の間をシールするためのオイルシール20」は本願発明1の「回転軸と、前記回転軸の中心軸周りに相対回転可能に対向される静止部材の間に設けられ、外部環境に対して内部環境を密封するための密封装置」に相当する。

引用発明の「ケーシング10の取付孔10cに嵌合される」及び「外周部22」は、本願発明1の「静止部材に対して固定される」及び「固定部」にそれぞれ相当する。

引用発明の「外周部22と一体的に形成され」、「回転軸15に締め代eが与えられて当接する」及び「シール本体21」は、それぞれ本願発明1の「固定部から一体に設けられ」、「回転軸に押圧されて摺接する」及び「シール部」に相当する。

引用発明の「軸受11側」、「スプライン16の山径よりも小径のリップエッジ24a」及び「シール部24」は、それぞれ本願発明1の「前記内部環境寄り」、「スプラインの凸部外径よりも小径のリップ先端」及び「第一シールリップ」に相当する。

引用発明の「軸受11と反対側」及び「ダストリップ25」は、それぞれ本願発明1の「前記外部環境寄り」及び「第二シールリップ」に相当する。

引用発明の「第1の傾斜面」及び「凹領域」は、それぞれ本願発明1の「第一傾斜面」及び「第一凹領域」に相当する。

引用発明の「第2の傾斜面」は本願発明1の「第二傾斜面」に相当する。

引用発明の「第3の傾斜面」は本願発明1の「第三傾斜面」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点及び相違点があるといえる。

(一致点)

「スプラインを有する回転軸と、前記回転軸の中心軸周りに相対回転可能に対向される静止部材の間に設けられ、外部環境に対して内部環境を密封するための密封装置であって、
前記静止部材に対して固定される固定部と、
前記固定部から一体に設けられ、前記回転軸に押圧されて摺接するシール部とを有し、
前記シール部には、
前記内部環境寄りに設けられ、少なくとも前記回転軸のスプラインの凸部外径よりも小径のリップ先端を有する第一シールリップと、
前記外部環境寄りに設けられた第二シールリップと、
前記第一シールリップの先端と前記第二シールリップの先端とを結ぶ仮想線及び前記第一シールリップの先端と前記二シールリップの先端とにわたって凹状に窪ませた第一傾斜面で囲まれた第一凹領域とを有し、
さらに、前記第一シールリップの先端よりも内部環境寄りに、前記第一シールリップの先端から連続して設けられた第二傾斜面と、
前記第二シールリップの先端よりも外部環境寄りに、第二シールリップの先端から連続して設けられた第三傾斜面と、を含む、
密封装置。」

(相違点)

本願発明1は「前記第二傾斜面には第一シールリップの先端近傍に凹状に窪ませた第二凹領域を有し、前記第一凹領域及び前記第二凹領域には潤滑剤が充填され、前記第二傾斜面及び前記第三傾斜面に潤滑剤が被着され、前記第二傾斜面及び前記第三傾斜面に被着される潤滑剤の厚みは、前記第一凹領域に充填される潤滑剤の厚みよりも薄い」という構成を備えるのに対し、引用発明はそのような構成を備えているか否か不明であり、「シール部24よりも軸受11側に設けられ、自由状態における保護リップ26の最小径部26cの径を回転軸15の外周の径となるまで拡開した場合に、シール部24のリップエッジ24aの径が回転軸15の外周の径よりも半径でわずかな距離gだけ大となるように設定した、保護リップ26」を有し、「回転軸15の外周には、スプライン16の根本部から、軸線方向にスプライン16の山径とほゞ同径で滑らかな円筒状の外周面15aをおいて、保護リップ26の最小径部26cよりも小径となる逃げ溝(逃げ部)17が形成され」ていることで、「回転軸15が支持されたケーシング10にオイルシール20を装着する手順が、保護リップ26の最小径部26c内にスプライン16が押し込まれ、シール部24も保護リップ26とともに弾性変形され、そのリップエッジ24aの径は拡開されてスプライン16の山径よりも大となり、スプライン16の山部との間に隙間gが生じ、シール部24内に回転軸15を挿入する際にリップエッジ24aがスプライン16の山部により傷つけられるおそれがない状態から、外周部22が取付孔10cの最奥部まで嵌合されて停止され、保護リップ26の最小径部26cが逃げ溝17内に入って回転軸15と接触しなくなって、リップエッジ24aが回転軸15の滑らかな円筒状の外周面15aに締め代eが与えられて当接されて、オイルシール20の両側の空間の間がシールされる状態となる」点。

(2) 相違点についての判断

相違点について検討すると、相違点に係る本願発明1の構成は、「密封装置内周のシール部分にワックス状潤滑剤を厚く充填することにより、回転軸が組み付け時のシールリップの傷付きを防止でき」るもの(本願明細書の段落【0005】及び【0007】の記載参照。)と解されるものであり、引用文献2及び3には記載されていない。

また、引用文献2には、密封装置において、両リップの間の空間に潤滑剤を充填することという技術的事項が記載され、また、引用文献3には、密封装置において、本願発明1の「第二凹領域」に相当するといえる斜面部位7a、7bに窪み領域9、10を形成して潤滑剤を充填することという技術的事項が記載されているているものの、引用文献2に記載された技術的事項は「環状空間を密封対象空間と大気圧空間という圧力差が大きく異なる2つの空間を仕切る仕切り壁が、両リップに加えてその潤滑剤も加わって分厚い構造となるので、密封対象空間が真空空間であっても十分なる密封性の確保が可能となる」(引用文献2の段落【0041】)ためのものであり、また、引用文献3に記載された技術的事項は「摺接部における回転軸に押圧されて摺接する領域以外の領域に、潤滑剤を溜める窪み領域を設け、摺接部と回転軸との間の良好な潤滑が維持されることにより、低トルク(摩擦力の低減)で耐久性に優れた密封装置を実現する」(引用文献3の段落【0009】)ためのものであって、どちらも回転軸が組み付け時のシールリップの傷付きを防止するためのものではない。さらに、引用文献2及び3には、それぞれの密封装置をスプラインを有する回転軸に組み付けることの記載も示唆もない。そして、引用発明は、「リップエッジがスプラインの山部などの回転軸の外周の突出部との摺動により傷つけられるおそれは減少し、あるいは全くなくなる」(引用文献1の段落【0009】)ように、「シール部24」及び「保護リップ26」と「逃げ溝(逃げ部)17」との組み合わせを採用したものということができる。そうすると、当業者であっても、引用発明の「保護リップ26」と「逃げ溝(逃げ部)17」との組み合わせに替えて、回転軸が組み付け時のシールリップの傷付きを防止するためのものとはいえない、上記引用文献2及び3に記載された両技術的事項を採用する動機づけがあるとはいえない。仮に、引用発明においても、一般的な密封装置においてリップの先端の潤滑を行うことで摩耗や摺動抵抗の低減を図るという自明な課題があるとして、引用発明に引用文献2及び3に記載された技術的事項を追加できたとしても、当該追加したことによる引用発明の効果として「密封装置内周のシール部分にワックス状潤滑剤を厚く充填することにより、回転軸が組み付け時のシールリップの傷付きを防止でき」るという本願発明1の奏する効果を予測し得たとはいえない。

したがって、本願発明1は、当業者であっても引用発明並びに引用文献2及び3に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2について

本願発明2も、相違点に係る本願発明1の構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明並びに引用文献2及び3に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断

原査定は、請求項1ないし3に係る発明について引用文献1ないし3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。しかしながら、令和3年年10月19日提出の手続補正書により補正された請求項1及び2に係る発明、すなわち本願発明1及び2は、上記第4の1及び2のとおり、引用発明並びに引用文献2及び3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について

1 当審では、請求項1の「前記第一シールリップの先端と前記第二シールリップの先端とわたって凹状に窪ませた第一傾斜面」という記載の意味が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが、令和3年年10月19日提出の手続補正書による補正において、「前記第一シールリップの先端と前記第二シールリップの先端とにわたって凹状に窪ませた第一傾斜面」とされた結果、この拒絶の理由は解消した。

2 当審では、請求項2の「外部環境寄り」の意味に関し、請求項2に係る発明が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが、令和3年年10月19日提出の手続補正書による補正において、請求項2が削除された結果、この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび

以上のとおり、本願発明1及び2は、当業者が引用発明並びに引用文献2及び3に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。

したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。

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2020-017866

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