審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許拒絶査定不服審判

2020-016967

有機エレクトロルミネッセンス素子

審判番号
2020-016967
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2016-244686
請求日
2020年12月09日
審決日
2021年09月15日
公報発行日
2022年03月25日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】メルク、パテント、ゲゼルシャフト、ミット、ベシュレンクテル、ハフツング
  • 【請求人代理人】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
審判長/審判官
  • 審判長 榎本 吉孝
  • 審判官 井口 猶二
  • 審判官 関根 洋之
分類
P18 .121-Z (H05B)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2016-244686「有機エレクトロルミネッセンス素子」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月21日出願公開、特開2018- 98139〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続等の経緯 特願2016-244686号(以下「本件出願」という。)は、平成28年12月16日の出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 令和 2年 6月10日付け:拒絶理由通知書 令和 2年 7月30日提出:意見書 令和 2年 7月30日提出:手続補正書 令和 2年 9月17日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和 2年12月 9日提出:審判請求書 令和 2年12月 9日提出:手続補正書 第2 本願発明 本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和2年7月30日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「 基材と、前記基材上に設けられた第1電極と、前記第1電極上に設けられた発光ユニットと、前記発光ユニット上に設けられた第2電極と、前記第2電極上に設けられた固体封止層と、を備える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、 前記第1電極は、金属グリッドと透明導電層とを備え、 前記金属グリッドの最大厚さをAnmとし、前記金属グリッドが存在する部分における前記固体封止層から上層部を除いた前記有機エレクトロルミネッセンス素子の最大厚さをBnmとし、前記金属グリッドが存在しない部分における前記固体封止層から上層部を除いた前記有機エレクトロルミネッセンス素子の最小厚さをCnmとした場合に、A/(B-C)≧5.0を満たすことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」 なお、令和2年12月9日提出の手続補正書による補正は、本件明細書の【0002】についてなされたものである。 第3 原査定の概要 原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1~5に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて利用可能となった発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:特開2016-139620号公報 引用文献2:特開2008-47355号公報 引用文献3:特開2014-197537号公報 (当合議体注:引用文献1は主引用例であり、引用文献2及び引用文献3は周知技術を示す文献である。) 第4 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明 1 引用文献の記載事項 原査定の拒絶理由に引用され、本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて利用可能となった特開2016-139620号公報(以下、同じく「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。なお、当合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。 (1)「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELという)材料を発光層に含む有機ELパネル及びその製造方法に関する。 ・・・省略・・・ 【発明を実施するための形態】 【0012】 以下、本発明の実施形態の有機ELパネルについて、図面を参照しつつ説明する。 【0013】 図1は、実施形態の有機ELパネルの一部分を陰極側上面から眺めた透視部分切欠平面図であり、図2は図1のA-A線における有機ELパネルの断面を示す部分的断面図である。 【0014】 有機ELパネルは、図2に示すように、光取り出し側のガラスや樹脂などからなる平板状の透明な基板1上に形成された透明な陽極2(所謂、透明導電性膜)と、この上に積層された機能積層体FLBと、この上に積層された陰極9(所謂、対向電極膜)とから構成される。白色発光可能な機能積層体FLBの機能層としては、例えば、正孔注入層3/正孔輸送層4/赤緑混合発光層5/青発光層6/電子輸送層7/電子注入層8の積層が挙げられる。 【0015】 図1及び図2に示すように、基板1上には、パネル平面におけるXY方向に拡がる透明な陽極2と陰極9が機能積層体FLBを挟むように形成されている。ITOなどの透明導電性膜の陽極2と対向電極膜の陰極9に挟まれ且つこれらに重なる機能積層体FLBの部分が発光部となり、基板1側から光が取り出される。 【0016】 透明な陽極2下で基板1上には、複数の長手の補助電極BLがX方向に伸長して平行にストライプ状に形成されている。すなわち、基板1上の補助電極BLは、陽極2に直接覆われ電気的に接続される形態で形成されている。補助電極BLは、陽極2に電源電力を供給する為に形成されている。陽極2の下から発光部外部へ露出する複数の補助電極BL及びその連結配線上には陰極9の端部の間に、すなわち、発光部下以外の補助電極BL上に短絡防止膜(図示せず)を設けても良い。面光源用の有機ELパネルにおいては、透明電極の抵抗率が高く広い透明電極面積を必要とする場合でも、抵抗率の低い金属材料からなる補助電極を透明電極下にストライプ状に並置することにより、補助電極BL及び透明陽極2を全体として低抵抗化を達成している。 【0017】 複数の補助電極BLを透明陽極2の下部に設けて透明陽極2の膜厚を1μmを超えるμmオーダと厚くすることにより、実施形態の有機ELパネルでは、低抵抗化と共に補助電極BLのカバレッジ効果を大きくし陽極自体の平滑化を達成している。かかる陽極の厚膜化による平滑主面は、後工程で成膜される機能積層体FLBの機能層の平滑化、膜厚ムラの軽減に貢献する。平滑化の他に陽極の厚膜化は光取り出し側の干渉低減効果にも期待できる。例えば、陽極の膜厚設定において、それぞれの取り出し発光色のピーク波長の1/4の非整数倍にできる膜厚幅の自由度が拡大できる。陽極の厚膜化のために、図2に示すように、陽極2は、補助電極BLの膜厚t1を超える膜厚t2を有する。透明陽極2の膜厚は透明陽極2の透過率を維持しかつパネル特性を確保するために1μm~5μmであることが好ましい。 【0018】 陽極2は、図2に示すように、機能積層体FLBとの界面に平滑主面2Aと基板1の主面上の陽極2の縁部2B(最縁端)に向けて膜厚が漸次減少するテーパ側面2Cとを有するように成膜される。ここで、陽極のパタニングは通常フォトリソグラフィプロセスにて行われ、上記プロセスで作製したITO陽極のエッジは不安定であるため絶縁膜でカバーする必要がある。この絶縁膜工程がパネルのコストアップ、歩留まり低下の要因の一つになっている。この問題を解決するため陽極はスクリーン印刷や無版印刷若しくは有版印刷などの湿式塗布法又は非密着若しくは密着のマスクを用いたスパッタリング法にてパタニングすることが好ましい。また、機能積層体FLBの機能層は塗布にて形成することが好ましい。陽極2のテーパ側面2C上に機能積層体FLBがされると、機能積層体FLBにもテーパ側面が形成され、後工程で形成される陰極の断線を防止することができる。よって、以上の構成により、絶縁膜を必要とすることなく照明などに適した有機ELパネルを作製することが可能になる。 【0019】 陽極2の及び縁部2Bのカバレッジを良化するため機能積層体FLBの機能層は塗布にて形成する。特に機能積層体FLBの1層目(正孔注入層3又は正孔輸送層4)は補助電極BLの膜厚より厚く塗布されることが好ましい。機能積層体FLBにもテーパ側面を厚膜にするほど陽極2の及び縁部2Bのカバレッジ性が上昇するのでリーク抑制効果が上がる。具体的には、陽極2から機能積層体FLBの発光層5までの積層膜の膜厚の合計は陽極上の異物に対する埋包性を確保するため少なくとも100nmであることが好ましい。 【0020】 本実施形態の有機ELパネルの一例は、図2に示すように、ガラスなどの透明基板1上にて、順に、積層された陽極2/正孔注入層3/正孔輸送層4/赤緑混合発光層5/青発光層6/電子輸送層7/電子注入層8/陰極9/の構成である。この積層構成の他に、図示しないが、陽極2/正孔注入層3/赤緑混合発光層5/青発光層6/電子輸送層7/電子注入層8/陰極9/の正孔輸送層4を省いた構成や、図示しないが、陽極2/正孔輸送層4/赤緑混合発光層5/青発光層6/電子輸送層7/電子注入層8/陰極9/の正孔注入層3を省いた構成や、図示しないが、陽極2/正孔輸送層4/赤緑混合発光層5/青発光層6/電子注入層8/陰極9/の正孔注入層3、電子輸送層7を省いた構成も本発明に含まれる。上記いずれの積層構造において赤緑混合発光層5と青発光層6上記の間に拡散防止層を設ける構成も本発明に含まれる。 【0021】 有機ELパネルの機能層を成膜する手法として、スパッタリング法や真空蒸着法などの乾式塗布法や、スクリーン印刷、スプレイ法、インクジェット法、スピンコータ法、グラビア印刷、ロールコータ法などの湿式塗布法が知られている。例えば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層を湿式塗布法でベタ膜として一様に成膜して、電子輸送層及び電子注入層を、それぞれ乾式塗布法でベタ膜として一様に順次成膜してもよい。また、すべての機能層を湿式塗布法でベタ膜として一様に順次成膜してもよい。 【0022】 [基板] 基板1としては、石英やガラスの板、金属板や金属箔、曲げられる樹脂基板、プラスチックフィルムやシートなどが用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホンなどの合成樹脂の透明板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機ELパネルが劣化することがあるので好ましくない。よって、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜などを設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。 【0023】 なお、湿式塗布法にて透明陽極を厚膜で形成する場合、基板表面の凹凸を緩和できるので、高価なディスプレイ用研磨ガラス基板でない廉価なガラス基板も有機ELパネル基板に用いることができる。 【0024】 [陽極及び陰極] 発光層までの機能層に正孔を供給する陽極2は、通常、インジウム酸化物とスズ酸化物の複合酸化物(所謂、ITO)などにより構成される。ITOの他に、陽極2はZnO、ZnO-Al2O3(所謂、AZO)、In2O3-ZnO(所謂、IZO)、SnO2-Sb2O3(所謂、ATO)、RuO2などにより構成され得る。さらに、陽極2の透明導電性膜は、有機EL材料から得られる発光波長において少なくとも10%以上の透過率を持つ材料を選択することが好ましい。 【0025】 陽極は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすることも可能である。 【0026】 陽極に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的に、陽極表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりすることが好ましい。 【0027】 発光層までの機能層に電子を供給する陰極9の材料としては、効率良く電子注入を行う為に仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀などの適当な金属又はそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム-銀合金、マグネシウム-インジウム合金、アルミニウム-リチウム合金などの低仕事関数合金電極が挙げられる。 【0028】 なお、陰極9の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。 【0029】 さらに、低仕事関数金属から成る陰極を保護する目的で、陰極の上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、有機ELパネルの安定性が増すので好ましい。この目的のために、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金などの金属が使われる。なお、これらの材料は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。 【0030】 [機能積層体の機能層] [正孔注入層] 正孔注入層3は、電子受容性化合物を含有する層とすることが好ましい。 ・・・省略・・・ 【0042】 正孔注入層の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。 【0043】 [正孔輸送層] 正孔輸送層4の材料としては、従来、正孔輸送層の構成材料として用いられている材料であればよく、例えば、前述の正孔注入層に使用される正孔輸送性化合物として例示したものが挙げられる。 ・・・省略・・・ 【0047】 正孔輸送層の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。 【0048】 上記したように少なくとも正孔注入層3又は正孔輸送層4は厚く塗布されることが好ましいので、陽極2から発光層5までの正孔注入層3及び/又は正孔輸送層4の膜厚の合計は少なくとも100nmであることが好ましい。 【0049】 [発光層] 赤緑混合発光層と青発光層の発光層は有機EL材料を含み、好ましくは、正孔輸送の性質を有する化合物(正孔輸送性化合物)、或いは、電子輸送の性質を有する化合物(電子輸送性化合物)を含有させることもできる。有機EL材料をドーパント材料として使用し、正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物などをホスト材料として適宜使用してもよい。有機EL材料については特に限定はなく、所望の発光波長で発光し、発光効率が良好である物質を用いればよい。 ・・・省略・・・ 【0066】 発光層の膜厚は通常3nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。発光層の膜厚が、薄すぎると膜に欠陥が生じる可能性があり、厚すぎると駆動電圧が上昇する可能性がある。 【0067】 [電子輸送層] 電子輸送層7は、有機ELパネルの発光効率を更に向上させることを目的として設けられるもので、電界を与えられた電極間において陰極から注入された電子を効率よく発光層の方向に輸送することができる化合物より形成される。 ・・・省略・・・ 【0071】 電子輸送層の膜厚は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。 【0072】 [電子注入層] 電子注入層8は、陰極から注入された電子を効率良く発光層へ注入する役割を果たす。電子注入を効率よく行うには、電子注入層を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウムなどのアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属、それらの化合物(CsF、Cs2CO3、Li2O、LiF)など用いられ、その膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。 【0073】 更に、バソフェナントロリンなどの含窒素複素環化合物や8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送化合物に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウムなどのアルカリ金属をドープすることにより、電子注入輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となる。この場合の膜厚は、通常、5nm以上、中でも10nm以上が好ましく、また、通常200nm以下、中でも100nm以下が好ましい。 ・・・省略・・・ 【実施例】 【0076】 以下、本発明の実施例の一例を図面を参照しつつ詳細に説明する。 【0077】 図3~図10は本発明が適用された有機ELパネルの製造方法の製造過程における基板とその上に形成された構造物を示す断面図である。かかる製造過程を下記の(a)補助電極形成工程、(b)陽極形成工程、(c)正孔輸送層形成工程、(d)塗布発光層形成工程、及び(e)蒸着発光層形成工程の順に説明する。 【0078】 (a)補助電極形成工程 先ず、例えば、図3に示すように、洗浄された厚さ0.7mmのガラス板からなる透明な基板1を用意する。基板1の主面上に、該主面から離れて配置された非密着若しくは密着のマスク(図示せず)を用いたスパッタリング法によってAlNd(アルミニウム-ネオジウム合金)の補助電極BLが形成される。マスクのパターン開口を介してAlNdターゲットの飛沫材料を基板の所定部分に付着させて、エッジにテーパが付いた所定パターンの補助電極が得られる。基板1のXY表面上においてX方向に平行に伸長する複数の帯状の補助電極BLが一定ピッチで形成される。なお、補助電極BLは次工程で成膜される陽極2への給電ラインであり、その幅がその並置されるピッチよりも小さくなるように形成される。 【0079】 補助電極BLは同一断面形状で形成されており、互いに平行に配置されており、補助電極BL同士の間に基板1の表面が露出される。例えば、各補助電極BLの厚さは150nmであり、その幅は50μmであり、隣接の補助電極BLの離間距離は300μmである。 【0080】 また、図3においては、補助電極BLの伸張方向Xに直交する並置方向Yに沿った断面を示しており、このことは以下の図においても同様である。 【0081】 (b)陽極形成工程 図4に示すように、基板1の主面から離れて配置されたマスクを用いたスパッタリング法によって、基板1の主面及び補助電極BL上にIZO(In2O3-ZnO)の透明陽極2が形成される。補助電極BLを含む基板1上にマスクのパターン開口を介してIZOターゲットの飛沫材料を付着させて、エッジにテーパが付いた所定パターンのIZO膜が陽極2(透明導電性膜)として得られる。該飛沫材料がマスク開口からマスク基板間に回り込むために、透明陽極2の主面の平滑主面2Aからその縁部2Bに向けて膜厚が漸次減少するテーパ側面2Cが形成される。 【0082】 陽極2は補助電極BLと隣接の補助電極間の基板領域(凹部)に亘ってこれらを覆うように形成され、補助電極BL間の領域では基板1上に直接接触する。陽極2の厚さは例えば、1000nmである。 【0083】 (c)正孔注入・輸送層形成工程 先ず、エキシマ光照射装置(図示せず)を用いて前処理として、陽極2上にUV/O3(紫外線/オゾン)が照射され、IZO表面を洗浄する。 【0084】 正孔注入層材料として、ホストとしてPEDOT(ポリ3,4-エチレンジオキシチオフェン)とドーパントとしてPSS(ポリスチレンスルホン酸)を用いた固定分濃度1wt%の水分散溶液を調製しておく。 【0085】 前処理後、図5に示すようにインクジェット装置にて正孔注入層材料用の液滴Lqがインクジェットヘッド12により陽極2の全面上へ塗布される。例えば、インクジェットヘッド12を陽極2上のXY平面においてラスタスキャン移動させることにより、塗布された液滴Lqの膜の縁部同士が繋がって陽極2の縁部と近傍の基板をも覆う液滴膜が成膜される。 【0086】 次に、真空乾燥装置を用いてかかる液滴膜は気体圧力0.1~50Paにて2分間に亘り真空乾燥され、230℃での1時間に亘る加熱処理により焼成される。図6に示すように液滴の溶媒が蒸発して陽極2の縁部をも覆う硬化した正孔注入層3が得られる。機能積層体の正孔注入層3の端部の少なくとも一部は補助電極BLに接することなく基板1に達している。 【0087】 かかる正孔注入層と同様に、インクジェット法により、1,1-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)シクロヘキサンの所定濃度の有機溶媒液滴を用いて、正孔輸送層4が図7に示すように正孔注入層3の全面と近傍の基板上に塗布、乾燥される。これら正孔注入層3及び正孔輸送層4の厚さは例えば、それぞれ50nmである。 【0088】 (d)塗布発光層形成工程 赤緑混合発光層材料として、ホストとしてBalq(Bis-(2-methyl-8- quinolinolato)(p-phenylphenolato)aluminum)を、ドーパントとしてHex-Ir(phq)3(Tris[2-(4-n-hexylphenyl)quinoline)]iridium(III))を用いた固定分濃度6wt%の有機溶液を調製しておく。 【0089】 上述のインクジェット法と同様にインクジェットヘッド12により、図8に示すように、かかる赤緑混合発光層材料液滴Lqが正孔輸送層4の全面上へ塗布される。 【0090】 次に、真空乾燥装置を用いて液滴膜は気体圧力0.1~50Paにて2分間に亘って真空乾燥され、そして、10分間に亘る130℃での加熱処理により焼成される。この結果、図9に示すように、正孔輸送層4を覆う硬化した赤緑混合発光層5が得られる。赤緑混合発光層5の厚さは例えば、40nmである。 【0091】 (e)蒸着発光層形成工程 真空蒸着装置を用いて、赤緑混合発光層5上に、ホストの9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン(所謂、ADN)と、濃度6wt%となるようにドーパントの4,4’-ビス(2、2’-ジフェニルビニル)ビフェニル(所謂、DPVBi)とが共に真空蒸着され、これにより青発光層6が例えば、15nmの厚さで形成される。 【0092】 次に、青発光層6上に真空蒸着法にてAlq3が真空蒸着され、これによりAlq3の電子輸送層7が例えば、30nmの厚さで形成される。 【0093】 次いで、電子輸送層7上に真空蒸着法にてLiF(フッ化リチウム)が真空蒸着され、これにより電子注入層8が例えば、1nmの厚さで形成される。 【0094】 最後に、電子注入層8上に真空蒸着法にて所定パターン開口のマスクを用いてAl(アルミニウム)が真空蒸着され、これにより陰極9が例えば、80nmの厚さで形成される。図10に示すように、ここで正孔注入層3から電子注入層8まで機能積層体FLBが形成される。陰極9は、補助電極BLの伸張方向Xに直交する並置方向Yに沿って透明陽極2(補助電極BL)と交差するように帯状に成膜される。対向電極膜の陰極9の端部の少なくとも一部は補助電極BL及び透明陽極2に接することなく基板1に達している。機能積層体FLBを挟む陽極2と陰極9が重なる部分は有機ELパネルの発光エリアを画定する。その後、封止工程を経て、封止された有機ELパネルを得ることができる。 【0095】 このように実施例によれば、(a)補助電極形成工程、(b)陽極形成工程、(c)正孔輸送層形成工程、(d)塗布発光層形成工程及び(e)蒸着発光層形成工程によって有機ELパネルが製造されている。上記実施例では、青発光層6を真空蒸着法により成膜したが、発光層すべてをインクジェット塗布工程と乾燥工程の組で成膜して、それぞれの機能を果たす機能層ごとに塗布と乾燥を順次繰り返して、図10に示すように、多層の機能積層体FLB(正孔注入層3/正孔輸送層4/赤緑混合発光層5/青発光層6/電子輸送層7)が形成されてもよい。 【0096】 上記した実施例においては、補助電極BLとしてAlNdなどの金属材料が用いられ、その補助電極BLの上に透明導電性膜の陽極12が積層されて、発光層で発光した光が補助電極BLで拡散されるので、有機ELパネルの開口率を向上させることができる。 【0097】 例えば、従来の有機LEDでは絶縁性のバンク材が用いられており、そのバンク材は一般的にポリイミド材質など可視域に吸収がある材料の使用が多いため、陰極の金属色である色合いに対して外観を損ねる場合がある。また、可視域に吸収材料があるため、発光した光がバンクで損失する可能性がある。これに対し、上記した実施例においては補助電極BLとしてAlNdなどの金属が用いられているので、陰極9のAlの金属色と同等で外観を損ねることがない。また、発光した光が補助電極BLで拡散しても損失することなく、有機ELパネルから放出されるので従来よりも高開口率を得ることができる。更に、補助電極BLの材料の電気抵抗率は陽極2の材料のそれより小さく、また補助電極BLに陽極2が直接接触するので、有機ELパネルに効率よく給電することができる。更に、上記したように開口率の増加のために発光した光を効率より放出させることができるので、所望の光量を得るために従来の素子より消費電力を低減させることができる。 【0098】 上記した実施例においては、陽極2(透明導電性膜)上に正孔注入層3及び正孔輸送層4の2層が形成されているが、2層が形成されることに限定されず、正孔注入層又は正孔輸送層の1層だけ、或いは正孔注入層と正孔輸送層に電子阻止層(図示せず)を加えた3層以上が発光層までに形成されても良い。 【0099】 なお、上記した実施例における基板1、補助電極BL、陽極2、正孔注入層3及び正孔輸送層4、赤緑混合発光層5、青発光層6、電子輸送層7、電子注入層8及び陰極9の各材料は上記したものに限定されない。例えば、補助電極BLの材料としてはAl、Ag、Mo、Ti、Pt、Auなどの金属又はそれらの合金を用いることができる。 【0100】 また、上記した実施例において示した各工程での各膜の形成方法、各膜の幅及び厚さ、加熱温度、加熱時間などの条件は一例に過ぎず、本発明はこれに限定されない。 【0101】 更に、補助電極は必ずしも同一断面形状に限定されず、またライン伸張方向において同一の長さである必要はない。」 (2)図1 [図:0001382112000001.jpg] (3)図2 [図:0001382112000002.jpg] (4)図3 [図:0001382112000003.jpg] (5)図4 [図:0001382112000004.jpg] (6)図5 [図:0001382112000005.jpg] (7)図6 [図:0001382112000006.jpg] (8)図7 [図:0001382112000007.jpg] (9)図8 [図:0001382112000008.jpg] (10)図9 [図:0001382112000009.jpg] (11)図10 [図:0001382112000010.jpg] 2 引用発明 引用文献1の上記1の記載に基づけば、引用文献1には、有機ELパネルとして、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、陽極2を透明導電性膜の陽極2に統一した。 「 基板1上に形成された透明導電性膜の陽極2と、この上に積層された機能積層体FLBと、この上に積層された陰極9とから構成される有機ELパネルであって、 透明導電性膜の陽極2と陰極9に挟まれ且つこれらに重なる機能積層体FLBの部分が発光部となり、基板1側から光が取り出され 基板1上には、複数の長手の補助電極BLがX方向に伸長して平行にストライプ状に形成され、補助電極BLは、透明導電性膜の陽極2に直接覆われ電気的に接続される形態で形成されて透明導電性膜の陽極2に電源電力を供給し、 複数の補助電極BLを透明導電性膜の陽極2の下部に設けて透明導電性膜の陽極2の膜厚を1μmを超えるμmオーダと厚くすることにより、低抵抗化と共に補助電極BLのカバレッジ効果を大きくし透明導電性膜の陽極2自体の平滑化を達成し、かかる透明導電性膜の陽極2の厚膜化による平滑主面は、機能積層体FLBの機能層の平滑化、膜厚ムラの軽減に貢献し、透明導電性膜の陽極2は、補助電極BLの膜厚を超える膜厚を有し、透明導電性膜の陽極2の膜厚は1μm~5μmである、有機ELパネル。」 第5 対比・判断 1 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (1)基材 引用発明の「有機ELパネル」は、「基板1上に形成された透明導電性膜の陽極2と、この上に積層された機能積層体FLBと、この上に積層された陰極9とから構成され」、「透明導電性膜の陽極2と陰極9に挟まれ且つこれらに重なる機能積層体FLBの部分が発光部となり、基板1側から光が取り出され」るものである。 上記構成からみて、引用発明の「基板1」は、本願発明の「基材」に相当する。 (2)第1電極、金属グリッド、透明導電層 引用発明の「透明導電性膜の陽極2」及び「補助電極BL」は、「基板1上には、複数の長手の補助電極BLがX方向に伸長して平行にストライプ状に形成され、補助電極BLは、透明導電性膜の陽極2に直接覆われ電気的に接続される形態で形成されて透明導電性膜の陽極2に電源電力を供給」するものである。 ここで、引用発明の「透明導電性膜の陽極2」が層をなすことは明らかである。 そうしてみると、上記(1)の構成及び上記構成からみて、引用発明の「補助電極BL」及び「透明導電性膜の陽極2」は、それぞれ、本願発明の「金属グリッド」及び「透明導電層」に相当する。 また、引用発明の「補助電極BL」及び「透明導電性膜の陽極2」は、本願発明の「第1電極」に相当する。また、引用発明の「補助電極BL」及び「透明導電性膜の陽極2」は、本願発明の「第1電極」の「金属グリッドと透明導電層とを備え」との要件を満たす。 (3)第2電極 上記(1)の構成からみて、引用発明の「陰極9」は、本願発明の「第2電極」に相当する。 (4)発光ユニット 上記(1)の構成からみて、引用発明の「機能積層体FLB」は、本願発明の「発光ユニット」に相当する。 (5)有機エレクトロルミネッセンス素子 上記(1)~(4)を総合すると、引用発明の「有機ELパネル」は、本願発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」に相当する。 また、引用発明の「有機ELパネル」は、本願発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」と、「基材と、前記基材上に設けられた第1電極と、前記第1電極上に設けられた発光ユニットと、前記発光ユニット上に設けられた第2電極と」、「を備える」点で共通する。 2 一致点及び相違点 以上より、本願発明と引用発明とは、 「 基材と、前記基材上に設けられた第1電極と、前記第1電極上に設けられた発光ユニットと、前記発光ユニット上に設けられた第2電極と、を備える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、 前記第1電極は、金属グリッドと透明導電層とを備える有機エレクトロルミネッセンス素子。」の点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 本願発明は、「前記第2電極上に設けられた固体封止層」「を備える」のに対して、引用発明は、固体封止層を備えるかどうかが明らかでない点。 (相違点2) 本願発明は、「前記金属グリッドの最大厚さをAnmとし、前記金属グリッドが存在する部分における前記固体封止層から上層部を除いた前記有機エレクトロルミネッセンス素子の最大厚さをBnmとし、前記金属グリッドが存在しない部分における前記固体封止層から上層部を除いた前記有機エレクトロルミネッセンス素子の最小厚さをCnmとした場合に、A/(B-C)≧5.0を満たす」のに対して、引用発明の有機ELパネルの厚さは、このような特定がなされていない点。 3 判断 上記相違点について検討する。 (1)相違点1について 引用文献1の【0077】~【0094】には、「本発明が適用された有機ELパネルの製造方法」が記載されているところ、【0094】には、「封止工程を経て、封止された有機ELパネルを得ることができる」と記載されている。そして、有機ELパネルにおいて固体封止層を用いることは、原査定の拒絶理由に引用され、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2008-47355号公報(以下、同じく「引用文献2」という。)の【0030】、図2、及び原査定の拒絶理由に引用され、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2014-197537号公報(以下、同じく「引用文献3」という。)の【0031】、図1に記載されているように、周知技術である。 そうしてみると、引用発明において、固体封止層を備えるようにして上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 (2)相違点2について ア 上記相違点2に係るA/(B-C)は、ある程度の厚みを有する金属グリッドの最大厚さAに対して、金属グリッドが存在する部分における固体封止層から上層部を除いた有機エレクトロルミネッセンス素子の最大厚さBと、金属グリッドが存在しない部分における固体封止層から上層部を除いた有機エレクトロルミネッセンス素子の最小厚さCとの差であるB-Cを十分に小さくするという技術思想を数式化したものといえる。 イ 次に、有機ELパネルにおいて、陰極上にさらに保護膜や接着層を形成することは慣用手段であり、引用発明においても、陰極9上に保護膜や接着層を形成することは想定される構成である。ここで、有機ELパネルにおいて陰極上に形成された保護膜や接着層は、平滑化する機能を有するものであって、有機ELパネルの厚さの違いを小さくする方向に機能するものであり、少なくとも、有機ELパネルの厚さの違いを大きくするものではない。 そこで、引用発明において、基板1から陰極9までの有機ELパネルの厚さ(以下「有機ELパネルの厚さ」という。)について、以下に検討する。 ウ 引用発明の「補助電極BL」及び「透明導電性膜の陽極2」は、「複数の補助電極BLを透明導電性膜の陽極2の下部に設けて透明導電性膜の陽極2の膜厚を1μmを超えるμmオーダと厚くすることにより、低抵抗化と共に補助電極BLのカバレッジ効果を大きくし透明導電性膜の陽極自体の平滑化を達成し、かかる透明導電性膜の陽極の厚膜化による平滑主面は、機能積層体FLBの機能層の平滑化、膜厚ムラの軽減に貢献し、透明導電性膜の陽極2は、補助電極BLの膜厚を超える膜厚を有し、透明導電性膜の陽極2の膜厚は1μm~5μmである」。 このように、引用発明は、補助電極BLに対するカバレッジ効果を利用して、透明導電性膜の陽極2自体に平滑主面を形成し、さらに機能積層体FLBの機能層も平滑化することを目的として、透明導電性膜の陽極2の膜厚を設定することを示している。ここで、陰極9は平滑化された機能積層体FLB上に形成されることから、陰極9の表面も平滑化されることは、当業者にとって明らかである。すると、引用発明は結局、補助電極BLが存在する部分と存在しない部分で、有機ELパネルの厚さの差(B-C)が小さくなるように、必要なカバレッジ効果を設定していることになる。 ここで、カバレッジ効果は、補助電極BLの膜厚に応じた程度で必要になることは明らかなことである。つまり、引用文献1の【0017】に「陽極2は、補助電極BLの膜厚t1を超える膜厚t2」との記載もあるように、平滑化のためには、凹凸の程度に応じてカバレッジ効果を大きくする必要がある。一方で、同じ【0017】に、透明導電性膜の膜厚と透過率との相反関係について示唆されているように、常に完全な平滑化(B-C=0)を達成する程度に、カバレッジ効果を大きく(透明導電性膜や機能積層体FLBの機能層の膜厚を厚く)することはできないこともまた、当業者に明らかなことである。そうした技術的背景のもとで引用発明における平滑化を検討するにあたり、その平滑化の程度を、補助電極BLの膜厚に応じた程度(凹凸に応じた程度)として定めることは、当業者が容易に想到し得たことであって、具体的にその程度を、引用文献1にも示された「陽極及び陰極間の短絡防止や陰極断線の抑制」(【0005】)などの技術課題を確認しながら、補助電極BLの膜厚の5分の1以下(凹凸を5分の1以下とする)に定めることは、当業者が設計的になし得たことである。 そうしてみると、引用発明において、補助電極BLが存在する部分における有機ELパネルの厚さと補助電極BLが存在しない部分における有機ELパネルの厚さの差(B-C)を小さくする程度について、補助電極BLの膜厚(A)の5分の1以下とすること、すなわち、上記相違点2に係る本願発明のように「A/(B-C)≧5.0を満たす」とすることは、当業者にとって何ら格別の困難性はない。 エ さらに進んで検討する。 引用文献1の実施例として記載された、【0079】及び【0082】には、それぞれ、「各補助電極BLの厚さは150nmであり」及び「陽極の厚さは、例えば、1000nmである。」と記載されていて、陽極が補助電極BLの厚さよりも十分厚く、補助電極の有無による厚さの違いを埋めることができる程度の厚さである。さらに、引用文献1の実施例として記載された【0087】には、陽極2上に形成される「正孔注入層3及び正孔輸送層4の厚さは例えば、それぞれ50nmである。」と記載されている。仮に、陽極2に30nm(150nm/5)以上の凹凸があると、陽極2の表面の凹凸は、陽極2上に形成される正孔注入層3及び正孔輸送層4の厚さに対して60%(30nm/50nm)以上もの大きさとなり、不自然なものとなる。さらに、機能積層体FLBや陰極9の製法からみても、有機ELパネルの厚さのバラツキを大きくする要因はない。 そうしてみると、引用文献1の実施例の記載された有機ELパネルにおいても、補助電極BLの最大厚さに対して、補助電極BLが存在する部分における有機ELパネルの厚さと補助電極BLが存在しない部分における有機ELパネルの厚さの差は、十分に小さいものといえる。 オ 以上のとおりであるから、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 4 効果 本件明細書の【0015】には、本願発明の効果として「本発明によれば、輝度均一性に優れるとともに、リーク率の低い有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。」と記載されている。金属グリッドの存在によって輝度均一性の効果を奏するところ(同【0002】~【0003】)、輝度均一性を確実にするための金属グリッドの厚さAは、150nm以上が好ましい(同【0039】)と記載されている。また、A/(B-C)の値を大きくすることでリーク率の低減の効果を奏するところ、A/(B-C)の値を大きくする手段として、金属グリッドの断面形状を角のない形状や、出来る限り段差の少ない形状にすること(同【0038】)、金属グリッドの厚さを2000nm以下が好ましい(同【0039】)と記載されている。さらに、固体封止層から上層部と基材とを除いた有機EL素子の厚さDを厚くすることでリーク率の低減と折り曲げ前後の電流の整流性の低下の抑制の効果を奏するところ、厚さDは0.5μm~5.0μmである(同【0053】)。 これらの効果について、検討する。引用文献1の記載において、補助電極BLの厚さは150nm(引用文献1の【0079】)、補助電極BLのエッジにテーパが付いていること(同【0078】、陽極エッジの課題は同【0005】も参照)、陽極2から陰極9までの有機ELパネルの厚さは1300nm程度である(同【0076】~【0094】において、1000+50×2+40+15+30+1+80nm。補助電極BLはカバレッジされるので考慮していない。)。 そうしてみると、引用文献1には、本件明細書において例示された値の範囲内であり、また、補助電極BLの形状も、本件明細書に記載されたのと同様の技術思想が開示されているといえる。 したがって、本件明細書に記載された効果は、引用発明及び引用文献1の記載から予測できる範囲内のことである。 5 審判請求人の主張について 審判請求人は、令和2年7月30日提出の意見書において、「引用文献の記載から本願の請求項1に係る発明の「A/(B-C)」という構成要件((B-C)だけでなく金属グリッドの厚さAを利用した構成要件)に容易に想到するとの論理付けは不可能であると考えます。また、本願の請求項1に係る発明における「5.0」という値は臨界的意義を有することから、引用文献に記載された発明の単なる数値範囲の最適化や好適化といった範疇にも該当しないと考えます。加えて、本願の請求項1に係る発明が奏する各効果は、有利な効果として進歩性を肯定的に推認させるものと考えます。」、また、令和2年12月9日提出の審判請求書において、「(i)その効果が限定された数値範囲内において奏され、引用発明の示された証拠に開示されていない有利なものであること。(ii)その効果が引用発明が有する効果とは異質なもの、又は同質であるが際だって優れたものであること(すなわち、有利な効果が顕著性を有していること。(iii )そお効果が出願時の技術水準から当業者が予測できたものでないこと。のいない有利なものであること。」について、「本願発明1の効果は要件(i)、(ii)、(iii )の全てを満たすことから、本願発明1は進歩性を有すると考えます。」と主張している。 しかしながら、上記3及び4で述べたとおりであるが、念のため補足する。 本願発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子という「物の発明」であり、平滑化の評価方法などの発明ではない。物という視点で考えるとき、すでに引用発明の物は、上記3(2)エで述べたとおり「5.0」という値を満たす蓋然性が十分に高い。そして、電子デバイス一般において層の平滑化という技術課題はきわめて周知であり、すなわち(B-C)の値を0にする努力が当業者において広くなされているところ、「5.0」という値を満たす物が格別のものであるとは認められず、あるいは「5.0」という値を満たした物を構成することに格別の困難性は何ら認められない。 また、「5.0」という値を満たした場合の効果(本件明細書の【0015】)も、上記4で述べたとおり、「5.0」という値を満たす引用発明等の物も奏している副次的なものにすぎず、その主張は採用することができない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用文献1~3に記載された発明に基づいて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2020-016967

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決3件(メルク、パテント、ゲゼルシャフト、ミット、ベシュレンクテル、ハフツング)
  • 2020-012198拒絶査定不服審判 / 2021-06-29 / 請求不成立光学部材、導電部材、電子デバイス、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び、光学部…
    同じ当事者: メルク、パテント、ゲゼルシャフト、ミット、ベシュレンクテル、ハフツング
  • 2019-013457拒絶査定不服審判 / 2021-03-12 / 原査定取消(特許/登録すべき)金属錯体
    同じ当事者: メルク、パテント、ゲゼルシャフト、ミット、ベシュレンクテル、ハフツング
  • 2021-701083異議申立 / 2022-02-21 / 維持有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置及び照明装置
    同じ当事者: メルク、パテント、ゲゼルシャフト、ミット、ベシュレンクテル、ハフツング
同じ論点・分野の審決(審決分類)409件(121・H05B)
  • 2025-009951拒絶査定不服審判 / 2026-08-24 / 原査定取消(特許/登録すべき)点灯装置および照明装置
    共通の審決分類: 121・H05B
  • 2025-011184拒絶査定不服審判 / 2026-08-18 / 原査定取消(特許/登録すべき)電子デバイス
    共通の審決分類: 121・H05B
  • 2025-002450拒絶査定不服審判 / 2026-08-17 / 原査定取消(特許/登録すべき)表示装置
    共通の審決分類: 121・H05B
  • 2025-005658拒絶査定不服審判 / 2026-08-04 / 原査定取消(特許/登録すべき)発光装置、及び、照明装置
    共通の審決分類: 121・H05B
  • 2024-020816拒絶査定不服審判 / 2026-07-21 / 原査定取消(特許/登録すべき)セラミックスヒータおよび保持部材
    共通の審決分類: 121・H05B

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存